説明

蓄電デバイス及び蓄電デバイス用負極の製造方法

【課題】アニオンをキャリアとして用いる新規の蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】本発明の蓄電デバイスは、正極と、アニオンがドープされ、含窒素有機ポリマーを難溶化した含窒素有機難溶化物を含む負極と、正極と負極との間に介在しアニオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、アニオンの移動により充放電するものである。この負極は、含窒素有機ポリマーを原料とし、含窒素有機ポリマーを含む物質を加熱する難溶化処理としての加熱処理、含窒素有機ポリマー又は含窒素有機ポリマー由来の物質にアニオンをドープするドープ処理、含窒素有機ポリマー又は含窒素有機ポリマー由来の物質と結着材とを混合し集電体上に形成する形成処理、を所定の順に行い作製されている。この難溶化処理として、100℃以上500℃以下の温度範囲で加熱処理されているものとしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスとしては、アニオンホスト材料を含む正極及び負極による収容が可能なアニオン電化キャリアを用いる二次電気化学セルであって、正極にCF、負極にLaなどの金属、アニオンとしてF-を用いるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−529222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の蓄電デバイスでは、正極にアニオン担持材料を使用し、負極には金属を用いる電池系であり、放電は負極で、充電は正極で化学反応が進行する電池系であるため、サイクル特性やレイト特性に問題が生じることがあり、新たな蓄電デバイスの開発が望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、アニオンをキャリアとして用いる新規の蓄電デバイス及び蓄電デバイス用負極の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、含窒素有機ポリマーを難溶化してアニオンをドープし負極に用いるものとすると、アニオンをキャリアとして充放電を行うことができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の蓄電デバイスは、正極と、アニオンがドープされ、含窒素有機ポリマーを難溶化した含窒素有機難溶化物を含む負極と、前記正極と前記負極との間に介在し前記アニオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、前記アニオンの移動により充放電するものである。
【0008】
本発明の蓄電デバイス用負極の製造方法は、含窒素有機ポリマーを原料とし、前記含窒素有機ポリマーを含む物質を加熱する難溶化処理としての加熱処理、前記含窒素有機ポリマー又は前記含窒素有機ポリマー由来の物質にアニオンをドープするドープ処理、前記含窒素有機ポリマー又は前記含窒素有機ポリマー由来の物質と結着材とを混合し集電体上に形成する形成処理、を所定の順に行い負極を作製する工程、を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蓄電デバイス及び蓄電デバイス用負極の製造方法は、アニオンをキャリアとして充放電することができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、正極に炭素材料、負極にポリアニリンを用いて含窒素有機難溶化物を作製した蓄電デバイスでは、負極反応は、次式(1)で表され、正極反応は、次式(2)で表すことができる。充電では、負極に担持されていたアニオンが正極へ移動し、放電では、正極に保持されたアニオンが再び負極へと移動する。このように、キャリアであるアニオンの移動が起こり、蓄電デバイスとして作用するものと推察される。そして、含窒素有機ポリマーが難溶化処理されているため、蓄電中に電解液への含窒素有機ポリマーの溶出が抑制され、蓄電性能を十分易発揮することができるものと推察される。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の蓄電デバイスの作動原理を示す模式図。
【図2】ポリアニリン及び加熱後の黒色粉末のIRスペクトル。
【図3】アニオンドープ処理前後の加熱処理後のポリアニリンのIRスペクトル。
【図4】アニオンドープ後の含窒素有機難溶化物のEDX測定結果。
【図5】実施例1の蓄電デバイスの充放電曲線。
【図6】アニオンドープ後加熱処理前後でのポリアニリンのIRスペクトル。
【図7】実施例2の蓄電デバイスの充放電曲線
【図8】上限電位4.2Vでの30サイクルでの電池容量と充放電効率の経時変化。
【図9】負極合材の加熱処理前後でのIRスペクトル。
【図10】実施例3の蓄電デバイスの充放電曲線。
【図11】実施例1〜3の各試料の作製スキーム。
【図12】実施例1〜3の各試料のB,N,Fに対するXPS測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の蓄電デバイスは、正極と、アニオンがドープされ、含窒素有機ポリマーを難溶化した含窒素有機難溶化物を含む負極と、正極と負極との間に介在しアニオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、アニオンの移動により充放電するものである。図1は、本発明の蓄電デバイスの作動原理を示す模式図である。図1では、正極には炭素材料を用い、カチオンをA、アニオンをBとして表記した。この蓄電デバイスでは、放電時には負極にアニオンを吸蔵し、充電時には負極からアニオンを放出するものである。具体的には、例えば、放電時には含窒素有機難溶化物の窒素の部位にアニオンが結合して負極活物質が酸化され、充電時には含窒素有機難溶化物窒素の部位からアニオンが脱離して負極活物質が還元されると考えられる。このとき、リザーブ型の反応を生じたり、電気二重層による静電容量を生じていてもよい。この蓄電デバイスでは、放電時には正極からアニオンを放出し、充電時には正極にアニオンを吸蔵すると考えられる。
【0014】
本発明の蓄電デバイスにおいて、正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質は、アニオンを吸蔵放出可能なものであれば特に限定されず、例えば、炭素材料や金属酸化物などが挙げられる。炭素材料としては、黒鉛、カーボンブラック、活性炭などが挙げられ、黒鉛を主成分とするものであることが好ましい。ここで、「黒鉛を主成分とする」とは、黒鉛を50%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上含むものとすることができる。このようなものであれば、非晶質炭素を含んでいてもよいし、その他の活物質を含んでいてもよい。黒鉛としては、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などが挙げられるが、人造黒鉛であれば、蓄電デバイスの電位をより高めることができ、エネルギー密度を高めることができる点で好ましい。更に、アルカリ賦活した人造黒鉛を用いると、黒鉛の層間が広がりイオンの出入りが容易となり出力特性が向上するため、好ましい。具体的には、NaやKなどのアルカリを黒鉛に添加し、不活性雰囲気中、600℃〜1000℃の高温で処理することにより、アルカリ賦活することができる。正極活物質として炭素材料を用いれば、アニオンを可逆的に吸蔵放出しやすく、好ましい。
【0015】
導電材は、電極性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。正極の集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0016】
本発明の蓄電デバイスにおいて、負極は、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の電極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質は、アニオンがドープされ、含窒素有機ポリマーを難溶化した含窒素有機難溶化物を含む。含窒素有機ポリマーは、窒素を材料内に含むポリマーであれば特に限定されず、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリピリジン、ポリエチレンイミンなどが挙げられ、このうち取り扱いやすさやアニオンの吸蔵密度の観点から、ポリアニリンが好ましい。有機ポリマーの分子量は、特に限定されないが2000以上100000以下の範囲であることが好ましい。ドープされたアニオンの種類は、特に限定されず、例えば、ハロゲン、カルコゲン、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミドなどが挙げられ、このうち、充放電時の移動性の観点からテトラフルオロホウ酸(BF4-)がより好ましい。難溶化の手法は、溶媒への含窒素有機ポリマーの溶解性を低下させることができれば特に限定されず、例えば、ポリマーの加熱処理による熱分解や架橋剤による縮合などが挙げられ、このうち加熱処理がより好ましい。電極は乾燥など加熱工程を経ることがあるため、この工程と共通の処理として行うことができる。この加熱処理は、例えば、100℃以上500℃以下の温度範囲で行うものとしてもよい。
【0017】
負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0018】
本発明の蓄電デバイスのイオン伝導媒体としては、アニオンを伝導可能なものを用いることができ、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。る。このイオン伝導媒体は、イオン液体やカーボネート系などの有機溶媒を含むものとしてもよく、負極活物質に含まれる含窒素有機難溶化物にドープされたものと同種のアニオンを含むものが好ましい。カーボネート系の有機溶媒を含むものとすれば、低温での凍結などを防止し、低温での出力特性などの低温特性をより良好にすることができる。また、カーボネート系の有機溶媒を添加すれば、粘度を低下させて出力特性を良好にすることができる。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。
【0019】
イオン液体は、常温で溶融しているカチオンとアニオンとの塩であるが、カチオンとしては、イミダゾリウム、アンモニウム、コリン、ピリジニウム、ピペリジニウムなどが挙げられる。イミダゾリウムとしては、1−(ヒドロキシエチル)−3−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム等が挙げられ、アンモニウムとしては、N,N−ジメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等が挙げられ、ピリジニウムとしては、1−ブチル−3−メチルピリジニウムや1−ブチルピリジニウム等が挙げられ、ピペリジニウムとしては、1−エチル−1−メチルピペリジニウム等が挙げられる。また、アニオンとしては、TFSI-やBETI-等のイミドアニオンのほか、BF4-、ClO4-、PF6-、Br-、Cl-、F-等の無機アニオンが挙げられる。このうち、アニオンをテトラフルオロボレートとすれば、蓄電デバイスをより軽量化することができる。また、アニオンをTFSI-とすれば充放電特性をより高めることができる。アニオンをBF4-とするものとしては、具体的には、ジエチルメチル(2メトキシエチル)アンモニウム・BF4などが挙げられる。アニオンをTFSIとするものとしては、具体的には、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(略称:PP13TFSI)、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(略称:EMITFSI)、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(略称:TMPATFSI)、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどが挙げられる。このうち、PP13TFSIが好ましい。イオン液体と有機溶媒とを混合して用いる場合、イオン液体の濃度は、0.5M以上2.0M以下が望ましい。
【0020】
本発明の蓄電デバイスに含まれている支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この電解質塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。電解質塩の濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0021】
本発明の蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ガラス繊維製のガラスフィルタや、ポリプロピレン製不織布、ポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。このうち、ガラスフィルタであれば、例えばBF4
のイオン液体などの電解液との濡れ性が良好であり、アニオンの移動を円滑にすることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0022】
本発明の蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0023】
次にこの蓄電デバイスの製造方法について説明する。この蓄電デバイスの負極は、含窒素有機ポリマーを原料とし、含窒素有機ポリマーを含む物質を加熱する難溶化処理としての加熱処理、含窒素有機ポリマー又は含窒素有機ポリマー由来の物質にアニオンをドープするドープ処理、含窒素有機ポリマー又は含窒素有機ポリマー由来の物質と結着材とを混合し集電体上に形成する形成処理、を所定の順に行い作製する負極作製工程を含む。
【0024】
例えば、負極作製工程では、含窒素有機ポリマーにアニオンをドープするドープ処理を行い、次にアニオンをドープした含窒素有機ポリマーと結着材とを混合し集電体上に形成する形成処理を行ったのち、集電体上に形成された含窒素有機ポリマーを含む物質を加熱する加熱処理を行うものとしてもよい。こうすれば、集電体上に電極合材を形成したのちに加熱工程を行うため、乾燥工程と兼ねた加熱工程とすることができる。用いる含窒素有機ポリマーは、例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリピリジン、ポリエチレンイミンなどが挙げられ、このうちポリアニリンを用いることが好ましい。また、ドープするアニオンとしては、ハロゲン、カルコゲン、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミドなどが挙げられ、このうちテトラフルオロホウ酸がより好ましい。ドープ処理では、例えば、含窒素有機ポリマーを有機溶媒に分散させ、アニオン成分を含む化合物を加え、攪拌することにより行うことができる。有機溶媒としては、例えば、アセトンやアルコール、ジエチルエーテルなどが挙げられる。アニオン成分を含む化合物としては、例えば、テトラフルオロホウ酸ジエチルエーテル錯体などが挙げられる。形成工程では、例えば、アニオンドープ後の含窒素有機ポリマーと導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の電極合材としたものを、集電体の表面に形成するものとしてもよい。なお、導電材、結着材、溶剤、集電体は、蓄電デバイスで説明したものを適宜用いることができる。加熱処理では、含窒素有機ポリマーが熱分解する温度で、且つ電極合材に含まれる材料の耐熱性を考慮した温度範囲で行うことが望ましい。例えば、100℃以上180℃以下の範囲で行うことが好ましく、120℃以上160℃以下の範囲がより好ましい。加熱雰囲気は、例えば、大気中としてもよいし、希ガスや窒素ガス中など不活性雰囲気中としてもよい。こうすれば、難溶化処理を施したアニオンをドープした含窒素有機難溶化物を含む負極を作製することができる。また、加熱処理の温度範囲がより低く、好ましい。更に、充放電効率や充放電容量をより高めることができる。
【0025】
あるいは、負極作製工程では、含窒素有機ポリマーにアニオンをドープするドープ処理を行い、次に、アニオンをドープした含窒素有機ポリマーを加熱する加熱処理を行ったのち、加熱処理した含窒素有機ポリマー由来の物質と結着材とを混合し集電体上に形成する形成処理を行うものとしてもよい。このとき、加熱処理では、含窒素有機ポリマーが熱分解する温度で、且つドープされたアニオンの耐熱温度を考慮した温度範囲で行うことが望ましい。例えば、100℃以上250℃以下の範囲で行うことが好ましく、150℃以上200℃以下の範囲で行うことがより好ましい。こうしても、難溶化処理を施したアニオンをドープした含窒素有機難溶化物を含む負極を作製することができる。なお、その他のドープ処理、形成処理などは、上述した方法を採用してもよい。
【0026】
あるいは、負極作製工程では、含窒素有機ポリマーを原料とし含窒素有機ポリマーを含む物質を加熱する加熱処理を行い、加熱した含窒素有機ポリマー由来の物質にアニオンをドープするドープ処理を行ったのち、アニオンをドープした含窒素有機ポリマー由来の物質と結着材とを混合し集電体上に形成する形成処理を行うものとしてもよい。このとき、加熱処理では、含窒素有機ポリマーが熱分解する温度で、且つ含窒素有機ポリマーの構造が破壊されない温度範囲で行うことが望ましい。例えば、100℃以上500℃以下の範囲で行うことが好ましく、250℃以上350℃以下の範囲で行うことがより好ましい。こうしても、難溶化処理を施したアニオンをドープした含窒素有機難溶化物を含む負極を作製することができる。なお、その他のドープ処理、形成処理などは、上述した方法を採用してもよい。
【0027】
以上詳述した本実施形態の蓄電デバイスでは、アニオンがドープされ、含窒素有機ポリマーを難溶化した含窒素有機難溶化物を負極に含んでおり、アニオンの移動により充放電することができる。また、本発明の蓄電デバイスでは、アニオンをキャリアとして用いる蓄電デバイスであるため、例えばLiイオン電池などに比して、過負荷によるショートなどの発生を著しく低くすることができる。また、蓄電系はキャパシタ的な挙動でアニオンの出し入れを行うため、高出力が期待される。容量は含窒素有機ポリマーにドープする量や用いるアニオンによって変化させることも容易に可能であり、高容量蓄電デバイスの構築も可能である。また構成される電極はいずれも大気中で安定であるため、その製造過程も非常に容易である。
【0028】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0029】
以下には、本発明の蓄電デバイスを具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0030】
[実施例1]
ポリアニリン(平均分子量20000)を300℃、1時間、加熱処理を行うことで黒色粉末を得た。この黒色粉末はほとんどの溶媒に難分散であった(含窒素有機難溶化物)。図2は、ポリアニリン及び加熱後の黒色粉末のIRスペクトルである。図2は、加熱処理前のポリアニリン(上段)と300℃加熱処理後のポリアニリン(下段)のIRスペクトルである。IRスペクトルは、IR測定装置(ニコレー社製Magna760型フーリエ赤外分光計)を用いてKBr法で行った。図2に示すIRスペクトルから、完全な炭化は起こらず、元のポリアニリンの部分構造を保持していることが示唆された。次に、この加熱処理ポリアニリン100mgにアセトン中で、テトラフルオロホウ酸ジエチルエーテル錯体を加え、室温で18時間撹拌した。沈殿物をろ過で分取し、ジエチルエーテル、アセトンで洗浄後、真空乾燥することにより、アニオンドープ処理を行い、こげ茶色粉体を100mg得た。図3は、アニオンドープ処理前後の加熱処理後のポリアニリンのIRスペクトルである。図3に示すIRスペクトルから、部分構造を保持したまま、ドープされたBF4アニオン由来のB−F結合に対応すると考えられる伸縮振動を500cm-1付近に観測した。また、電子顕微鏡観察(SEM)でのEDX組成分析を行った。図4は、アニオンドープ後の含窒素有機難溶化物のEDX測定結果である。このEDX組成分析結果において、アニオンドープ後にフッ素のピークが観測された事から、図3の500cm-1に観測されたピークがBF4アニオン由来であることを相補的に支持している。
【0031】
この難溶化HBF4ドープポリアニリン(アニオンドープ含窒素有機難溶化物)を活物質として70質量%、導電材としてECPを25質量%、電極形成の結着材としてPTEFを5質量%の割合で混合し、負極合材とした。この負極合材10mgをメッシュに押し付けることにより、形成工程を行い、負極を作製した。この負極と、人造黒鉛(12.1mg)を正極、電解液としてLiBF4炭酸プロピレン溶液(1M)を用いて、実施例1の電池セルとした。電流値0.7mA、上限電圧を3.5V、3.75V、4.0V、4.2Vとし、3サイクル充放電測定を行い、電池評価を行った。図5は、実施例1の蓄電デバイスの充放電曲線である。また、測定結果を表1にまとめた。図5及び表1に示すように、300℃難溶化処理、HBF4ドープ後の含窒素有機難溶化物の蓄電性能(3.5V、3.75V、4.0V、4.2V)では、アニオンをキャリアとして充放電することがわかり、電位が上昇するに従い容量が増加することがわかった。また、充放電効率は3.5Vでは0.80、3.75Vでは0.68、4.0Vでは0.63、4.2Vでは0.66であった。
【0032】
【表1】

【0033】
[実施例2]
ポリアニリン(平均分子量20000)100mgをアセトンに分散させ、テトラフルオロホウ酸ジエチルエーテル錯体0.6mlを加え、室温で18時間撹拌した。溶媒を除去することでアニオンドープ処理を行い、濃緑色粉体211.3mgを得た。このアニオンドープポリアニリンを180℃、1.5時間加熱する加熱処理(難溶化処理)を行い、ほとんどの溶媒に難溶性の黒色粉体を169.9mg得た。図6は、アニオンドープ後加熱処理前後でのポリアニリンのIRスペクトルである。図6に示すIRスペクトルから、完全な炭化は起こらず、元のポリアニリンの部分構造を保持していることが示唆された。特に500cm-1付近にBF4塩に特徴的なピークを観測したため、加熱によるアニオンの完全な脱離は起こっていないと考えられた。この試料はほとんどの有機溶剤に対して難分散性であった。
【0034】
このHBF4ドープ含窒素有機難溶化物を活物質として70質量%、導電材としてECPを25質量%、電極形成の結着材としてPTEFを5質量%の割合で混合し、負極合材とし、10mgをメッシュに押し付けることにより形成処理を行い負極を得た。この負極と、人造黒鉛(12.1mg)を正極とし、電解液としてLiBF4炭酸プロピレン溶液(1M)を用いて、実施例2の電池セルとした。実施例1と同様の条件で電池評価を行った。図7は、実施例2の蓄電デバイスの充放電曲線である。また、測定結果を表2にまとめた。その結果、図7に示す充放電曲線が得られ、アニオンをキャリアとして充放電することがわかり、電位が上昇するに従い容量が増加することがわかった。また、充放電効率は3.5Vでは0.78、3.75Vでは0.85、4.0Vでは0.83、4.2Vでは0.68であった。図8は、上限電位4.2Vでの30サイクルでの電池容量と充放電効率の経時変化である。図8に示すように、30サイクルの充放電を繰り返すことで充電量は徐々に減少していくが、放電量は充電量に比べ減少度は緩やかであった。充放電効率も若干の推移はあるもの、放電/充電=0.7程度の効率を保てることを確認した。
【0035】
【表2】

【0036】
[実施例3]
ポリアニリン(平均分子量20000)210mgをアセトンに分散させ、テトラフルオロホウ酸ジエチルエーテル錯体を加え、室温で18時間撹拌した。溶媒を除去することでアニオンドープ処理を行い、濃緑色粉体を365mg得た。このHBF4ドープポリアニリンを70質量%、導電材としてECPを25質量%、電極形成の結着材としてPTEFを5%の割合で混合し、負極合材を調製した。この負極合材を150℃、1.5時間加熱処理することで難溶化し電極材料を得た。図9は、負極合材の加熱処理前後でのIRスペクトルである。図9に示すIRスペクトルから、完全な炭化は起こらず、元のポリアニリンの部分構造を保持していることが示唆された。特に500cm-1付近にBF4塩に特徴的なピークを観測したため、加熱によるアニオンの完全な脱離は起こっていないと考えられた。この負極合材は、ほとんどの有機溶剤に対して難分散性であった。
【0037】
この加熱処理を行った負極合材を負極に、人造黒鉛(12.1mg)を正極とし、電解液としてLiBF4炭酸プロピレン溶液(1M)を用いて、実施例3の電池セルとした。実施例1と同様の条件で、電池評価を行った。図10は、実施例3の蓄電デバイスの充放電曲線である。また、測定結果を表3にまとめた。その結果、図10に示す充放電曲線が得られ、アニオンをキャリアとして充放電することがわかり、電位が上昇するに従い容量が増加することがわかった。また、充放電効率は3.5Vでは0.73、3.75Vでは0.80、4.0Vでは0.76、4.2Vでは0.73であった。
【0038】
【表3】

【0039】
[実施例4]
難溶化の手法による、組成比及び元素の電子状態をXPS(アルバック・ファイ社製PHI500)によって評価した。図11は、実施例1〜3の各試料の作製スキームである。図12は、実施例1〜3の各試料のB,N,Fに対するXPS測定結果である。また、測定結果を表4にまとめた。図11に示すように、原料であるポリアニリンをサンプル1、原料を300℃で加熱処理したものをサンプル2、サンプル2にアニオンドープしたものをサンプル3(ここまで実施例1)、原料にアニオンドープしたものをサンプル4、サンプル4を180℃で加熱処理したものをサンプル5(ここまで実施例2)、サンプル4に導電材及び結着材を混合し負極合材としたものをサンプル6、サンプル6を150℃で加熱処理したものをサンプル7とした(ここまで実施例3)。XPS測定結果によると、各試料において、結合エネルギーに関してはほとんど変化がなく、構造の構成結合に大きな変化がないことが示された。表面の組成を確認すると、ドープ直後はBやFの組成比が高くなっているが、加熱処理後は10at%程度に落ち着いた。難溶化処理(加熱処理)後には、有機溶媒に溶解しにくくなったが、基本的な構造は変化していないことが示唆された。
【0040】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
アニオンがドープされ、含窒素有機ポリマーを難溶化した含窒素有機難溶化物を含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し前記アニオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、
前記アニオンの移動により充放電する、蓄電デバイス。
【請求項2】
前記負極は、難溶化処理として、100℃以上500℃以下の温度範囲で加熱処理されている、請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記負極は、ポリアニリンを前記含窒素有機ポリマーとして用い難溶化した含窒素有機難溶化物を含む、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
含窒素有機ポリマーを原料とし、前記含窒素有機ポリマーを含む物質を加熱する難溶化処理としての加熱処理、前記含窒素有機ポリマー又は前記含窒素有機ポリマー由来の物質にアニオンをドープするドープ処理、前記含窒素有機ポリマー又は前記含窒素有機ポリマー由来の物質と結着材とを混合し集電体上に形成する形成処理、を所定の順に行い負極を作製する工程、を含む、蓄電デバイス用負極の製造方法。
【請求項5】
前記工程では、前記含窒素有機ポリマーにアニオンをドープするドープ処理を行い、前記アニオンをドープした含窒素有機ポリマーと結着材とを混合し集電体上に形成する形成処理を行ったのち、前記集電体上に形成された含窒素有機ポリマーを含む物質を加熱する加熱処理を行う、請求項4に記載の蓄電デバイス用負極の製造方法。
【請求項6】
前記工程では、前記含窒素有機ポリマーにアニオンをドープするドープ処理を行い、前記アニオンをドープした含窒素有機ポリマーを加熱する加熱処理を行ったのち、前記加熱処理した含窒素有機ポリマー由来の物質と結着材とを混合し集電体上に形成する形成処理を行う、請求項4に記載の蓄電デバイス用負極の製造方法。
【請求項7】
前記工程では、含窒素有機ポリマーを原料とし前記含窒素有機ポリマーを含む物質を加熱する加熱処理を行い、該加熱した含窒素有機ポリマー由来の物質にアニオンをドープするドープ処理を行ったのち、前記アニオンをドープした含窒素有機ポリマー由来の物質と結着材とを混合し集電体上に形成する形成処理を行う、請求項4に記載の蓄電デバイス用負極の製造方法。

【図1】
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【図11】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−221886(P2012−221886A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89337(P2011−89337)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】