説明

蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板の製造方法

【課題】最大強度の一層高い蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板を製造する方法を提供する。
【解決手段】Sn:1.0〜1.8%、Ca:0.05〜0.07%、Al:0.002〜0.01%を含有し、残部がPbおよび不可避不純物からなる組成を有するPb−Sn−Ca−Al系鉛合金を溶解し鋳造してスラブを作製し、得られたスラブを一次圧延して鉛合金圧延板を作製し、この鉛合金圧延板を温度:10℃以下、30〜80時間保持する低温時効処理を施したのち二次圧延する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板を製造する方法に関するものであり、特に最大強度の一層高い蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛合金は自動車用蓄電池の陽極として広く使用されており、この鉛合金は、溶解し、ドラム式連続鋳造機で鋳造して厚さ:20mmのスラブを作製し、得られたスラブを8段の圧延ローラーで順次圧延し、最終的に厚さ:1mmの鉛合金圧延板を作製し、巻き取られて貯蔵される。
このようにして作製した鉛合金圧延板は、常温に保持すると強度が上昇して加工し難くなる。そこで鉛合金圧延板の強度の上昇を阻止するために、一般に、温度:10℃以下の低温環境下で運搬および貯蔵を行い、必要に応じて、取出して必要な量だけ切断し、エキスパンド法または打抜き法により格子形状に成形し、蓄電池に組込まれ組み立てられる。このようにして組み立てられた蓄電池は、使用時の充放電時に、陽極では活物質の化学変化により膨張・収縮が繰り返され、陽極板に膨張収縮の力が加わり、永久伸びが発生し、これが陽極構造の破壊につながり、そのために、蓄電池寿命が短くなると言われている。
この蓄電池の陽極などに使用される蓄電池用鉛合金の一つとしてPb−Sn−Ca−Al系鉛合金があることも広く知られており、この鉛合金は、質量%(以下、%は質量%を示す)で、Sn:0.1〜2.0%、Ca:0.04〜0.10%、Al:0.005〜0.05%を含有し、残部がPbおよび不可避不純物からなる組成を有することが知られている。この蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板は、格子状陽極に加工されたのち、常温に放置されると一般に素地中に金属間化合物が析出し、時間が経過するにしたがって強度が上昇し、最大強度に達するが、さらに長時間常温に放置されると強度が低下する特性を有することも知られている(特許文献1、2および3参照)。
【特許文献1】特開平11−54126号公報
【特許文献2】特開2002−194463号公報
【特許文献3】特開2002−246031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
蓄電池に組込まれる陽極板は、最大強度が高い鉛合金からなる陽極板であるほど永久伸びが少なくなり蓄電池寿命が延びると云われており、この最大強度の高い鉛合金圧延板ほど蓄電池の陽極板の素材として好ましいとされているところから、最大強度の一層高い蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者らは、最大強度の一層高いPb−Sn−Ca−Al系鉛合金板を製造すべく研究を行った。その結果、
成分組成をSn:1.0〜1.8%、Ca:0.05〜0.07%、Al:0.002〜0.01%を含有し、残部がPbおよび不可避不純物からなる成分組成に限定したPb−Sn−Ca−Al系鉛合金を溶解し鋳造してスラブを作製し、得られたスラブを圧延して所定の厚さのPb−Sn−Ca−Al系鉛合金圧延板を製造する方法において、圧延の途中に、圧延された鉛合金板を温度:10℃以下に保持する低温時効処理工程を挿入し、この低温時効処理された鉛合金圧延板を再圧延して所定の厚さにすることにより得られた蓄電池用鉛合金板は、従来法で作製した蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板に比べて最大強度が大きくなる、という研究結果が得られたのである。
【0005】
この発明は、かかる研究結果に基づいてなされたものであって、
(1)Sn:1.0〜1.8%、Ca:0.05〜0.07%、Al:0.002〜0.01%を含有し、残部がPbおよび不可避不純物からなる組成を有するPb−Sn−Ca−Al系鉛合金を溶解し鋳造してスラブを作製し、得られたスラブを一次圧延して鉛合金圧延板を作製し、この鉛合金圧延板を温度:10℃以下に保持する低温時効処理を施したのち二次圧延する蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板の製造方法、に特徴を有するものである。
【0006】
この発明の蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板の製造方法において、特に好ましいPb−Sn−Ca−Al系鉛合金に含まれる成分を前述のように限定した理由を説明する。
(イ)Sn
Snは鉛合金の湯流れ性や機械強度を向上させる作用を有するので含有させるが、Snを1.0%未満含有しても所望の効果が得られず、一方、1.8%を越えて含有すると、耐食性が低下するので好ましくない。したがって、Snの含有量を1.0〜1.8%に定めた。
(ロ)Ca
Caは機械的強度を向上させる作用を有するので含有させるが、その含有量が0.05%未満では所望の効果が得られず、一方、0.07%を越えて含有させると、鋳造性が低下するので好ましくない。したがって、Caの含有量を0.05〜0.07%に定めた。
(ハ)Al
Alは機械的強度を向上させる作用を有するので含有させるが、その含有量が0.002%未満では所望の効果が得られず、一方、0.01%を越えて含有させても機械的強度の一層の向上が成されない。したがって、Alの含有量を0.002〜0.01%に定めた。
【0007】
この発明の蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板の製造方法における一次圧延後の低温時効処理は、10℃以下の低温で行うことが好ましく、10℃を越える高温で低温時効処理を行うと強度が上昇して二次圧延がやりにくくなるだけでなく、二次圧延して得られたPb−Sn−Ca−Al系鉛合金板の最大強度が低下するので好ましくない。したがって、この発明の蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板の製造方法における一次圧延後の低温時効処理温度は10℃以下(一層好ましくは、5℃以下)に定めた。
この発明において、一次圧延して得られた鉛合金圧延板を10℃以下の低温に保持する低温時効処理を施すこと必要であるが、低温時効処理温度の下限は特に限定されるものではない。しかし、コストの面から見て0℃以上であることが好ましい。また低温時効処理時間は、十分な低温時効処理が成されるためには30時間以上保持することが好ましく、一方、80時間を越えて保持するとかえって最大強度が低下するので好ましくない。したがって、低温時効処理時間は30〜80時間の範囲内にあることが好ましい。この鉛合金圧延板を低温時効処理することにより最大強度が向上するのである。
【0008】
したがって、この発明は、
(2)Sn:1.0〜1.8%、Ca:0.05〜0.07%、Al:0.002〜0.01%を含有し、残部がPbおよび不可避不純物からなる組成を有する鉛合金を溶解し鋳造してスラブを作製し、得られたスラブを一次圧延して鉛合金圧延板を作製し、この鉛合金圧延板を10℃以下の低温で30〜80時間保持する低温時効処理したのち二次圧延する蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板の製造方法、に特徴を有するものである。
【0009】
また、この発明において、一次圧延および二次圧延するには、多段圧延ローラーで順次圧延することが好ましく、一段圧延では十分な効果が得られない。したがって、この発明は、
(3)前記一次圧延および二次圧延は、多段圧延ローラーで順次圧延する前記(1)または(2)記載の蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板の製造方法、に特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明の蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板の製造方法により一層高い最大強度を有する蓄電池用鉛合金板を提供することができ、寿命の一層長い蓄電池を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施例1
SnおよびCaを含むPb合金溶湯に、さらにAlを添加することによりSn:1.30%、Ca:0.065%、Al:0.005%を含有し、残部がPbおよび不可避不純物からなるPb−Sn−Ca−Al系鉛合金溶湯を作製し、この溶湯を縦型連続鋳造機に供給することにより厚さ:20mmのスラブを作製し、このスラブを8段ローラー圧延機により圧延して厚さ:1.5mmの鉛合金薄板を作製し、ロールに巻き取った。この巻き取られた厚さ:1.5mmの鉛合金薄板を表1に示される温度に60時間保持の条件の低温時効処理を施したのち、巻き戻して再び4段ローラー圧延機により圧延して厚さ:1.0mmのPb−Sn−Ca−Al系鉛合金薄板を作製し、本発明法1〜7および比較法1を実施した。
さらに、比較のために、実施例で作製した厚さ:20mmのスラブを8段ローラー圧延機により圧延して低温時効処理することなく厚さ:1.0mmの鉛合金薄板を作製することにより従来法1を実施した。
【0012】
本発明法1〜7、比較法1および従来法1により得られた厚さ:1.0mmのPb−Sn−Ca−Al系鉛合金薄板から引張試験片を作製し、この引張試験片を温度:60℃に21時間保持して最大強度を有する引張試験片を作製し、この最大強度を有する引張試験片の引張強度を測定し、その結果を表1に示した。
【0013】
【表1】

【0014】
表1に示される結果から、10℃以下の低温時効処理を施す本発明法1〜7で作製したPb−Sn−Ca−Al系鉛合金薄板は、低温時効処理を施さない従来法1で作製したPb−Sn−Ca−Al系鉛合金薄板に比べて最大引張強度が優れていることが分かる。しかし、この発明から外れた条件の比較法1で作製したPb−Sn−Ca−Al系鉛合金薄板は、十分な最大強度が得られないことが分かる。
【0015】
実施例2
実施例1で作製した厚さ:1.5mmの鉛合金薄板を温度:5℃に表1に示される時間保持の条件の低温時効処理を施したのち、巻き戻して再び4段ローラー圧延機により圧延して厚さ:1.0mmのPb−Sn−Ca−Al系鉛合金薄板を作製し、本発明法8〜14および比較法2〜3を実施した。本発明法8〜14および比較法2〜3により得られた厚さ:1.0mmのPb−Sn−Ca−Al系鉛合金薄板から引張試験片を作製し、この引張試験片を温度:60℃に21時間保持して最大強度を有する引張試験片を作製し、この最大強度を有する引張試験片の引張強度を測定し、その結果を表2に示した。
【0016】
【表2】

【0017】
表2に示される結果から、5℃の一定温度に保持し、表2に示される時間保持の低温時効処理を施す本発明法8〜14で作製したPb−Sn−Ca−Al系鉛合金薄板は、表1の低温時効処理を施さない従来法1で作製したPb−Sn−Ca−Al系鉛合金薄板に比べて最大引張強度が優れていることが分かる。しかし、この発明から外れた時間保持の比較法2〜3で作製したPb−Sn−Ca−Al系鉛合金薄板は、十分な最大強度が得られないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%(以下、%は質量%を示す)で、Sn:1.0〜1.8%、Ca:0.05〜0.07%、Al:0.002〜0.01%を含有し、残部がPbおよび不可避不純物からなる組成を有するPb−Sn−Ca−Al系鉛合金を溶解し鋳造してスラブを作製し、得られたスラブを一次圧延して鉛合金圧延板を作製し、この鉛合金圧延板を温度:10℃以下に保持する低温時効処理を施したのち二次圧延することを特徴とする蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板の製造方法。
【請求項2】
質量%(以下、%は質量%を示す)で、Sn:1.0〜1.8%、Ca:0.05〜0.07%、Al:0.002〜0.01%を含有し、残部がPbおよび不可避不純物からなる組成を有するPb−Sn−Ca−Al系鉛合金を溶解し鋳造してスラブを作製し、得られたスラブを一次圧延して鉛合金圧延板を作製し、この鉛合金圧延板を温度:10℃以下、30〜80時間保持する低温時効処理を施したのち二次圧延することを特徴とする蓄電池用Pb−Sn−Ca−Al系鉛合金板の製造方法。
【請求項3】
前記一次圧延および二次圧延は、多段圧延ローラーで順次圧延することを特徴とする請求項1または2記載の蓄電池用鉛合金板の製造方法。

【公開番号】特開2006−16678(P2006−16678A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197632(P2004−197632)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(596033543)細倉製錬株式会社 (6)
【Fターム(参考)】