説明

薄層デバイスの作成方法

【課題】機械的強度に優れ、サブミリ波帯受信に有用な超伝導素子などの薄層デバイスの作成方法を提供する。
【解決手段】MgO仮基板上にNbN/MgO/NbN−SIS接合からなる多層構造体を形成し、該多層構造体上に基板としてSiO2を形成し、ついでエッチングにより前記MgO仮基板を除去することで薄層デバイスを作成する。本発明の方法により作成した超伝導素子(薄層デバイス)は、性能に優れ、かつ機械的強度が高いため、サブミリ波用導波管への導入も容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄層デバイスの作成方法に関し、より詳細には、SiO2基板にSIS接合を有する超伝導素子などの薄層デバイスの作成方法および超伝導素子などに関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境計測や電波天文学、次世代無線通信の分野において、サブミリ波帯での受信機や発振器の開発が望まれており、その一つとしてジョセフソン接合など超伝導デバイスの研究開発がなされている。ジョセフソン接合の一つである超伝導SIS(Superconductor−Insulator−Superconductor)接合に直流電流を流すと、ある電流値までは2つの超伝導電極間に超伝導トンネル電流が流れるが、これを超えると2つの超伝導電極間に電圧が発生するという特徴を示す。しかもこの接合の電流−電圧特性は半導体デバイスには達成できない非常に強い非線形特性を有する。
【0003】
現在300GHz帯以上のサブミリ波帯では、このSIS接合をミキサ素子として用いたSIS電磁波受信機が最も低雑音であり、たとえば、ニオブ(Nb)をベースにしたSIS接合により、既に725GHz帯までの極低雑音SIS電磁波受信機が開発されている。しかし725GHzより高い周波数では、Nb電極内の超伝導電子対の破壊に伴う電極損失増大により、SIS電磁波受信機の性能が急激に劣化してしまう。
【0004】
そこで超伝導ギャップエネルギーが大きく1.4THzまで極低損失特性を有する窒化ニオブ(NbN)等を用いたSIS電磁波受信機の開発が行われている。しかし、NbNのサブミリ波帯での極低損失特性は、NbN薄膜の結晶性に大きく依存し、NbNのサブミリ波帯デバイス開発への導入には、良好な結晶性を保ちながらデバイスを作成する技術が必要である。すなわちNbNを用いたSIS接合をエピタキシャル成長させたNbN、MgO等の多層膜のみで構成させる必要がある。
【0005】
一方、従来からサブミリ波帯受信機作成には、誘電率が低いSiO2を基板として用いられてきたが、NbNのエピタキシャル成長はSiO2基板を使用した場合の報告例はなく、現在のところMgOなど岩塩型単結晶基板が多用されている。実際、MgO基板上にNbN層/MgO層/NbN層からなるSIS接合(以下、NbN/MgO/NbN−SIS接合と称する。)を形成させる技術が公開されている(特許文献1)。該公報ではMgO基板上に、NbN層、薄いMgO層、さらにNbN層を各ヘテロエピタキシャル成長によって形成している。
【0006】
なお、サブミリ波帯導波管用ミキサは、導波管内波長より十分薄い基板上に作成する必要がある。1THz導波管用ミキサの基板厚は目安として、電磁波の基板内波長の1/4以下、すなわちSiO2基板でおよそ40μm以下、MgO基板では27μm以下にする必要がある。十分な面積を確保しつつこの厚さの基板でデバイスを作成することは困難であり、一般には数百μm厚の基板上にSIS接合を作成し、最終的に基板を機械的に研磨して目的の基板厚に調整している。
【0007】
このような方法でMgO基板上に作成されたNbN系SISミキサは、サブミリ波帯導波管用ミキサに導入され、一定の性能を示している(非特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−352109号公報
【非特許文献1】Waveguide-type all-NBN SIS mixers on MgO substrates by Masanori Takeda et al., Advanced Research Center, National Institute of Information and Communications Technology
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながらMgO単結晶基板は劈開等により開裂しやすく、また基板を薄くすることで機械的強度が低下するため、再現性良く任意の基板厚を得ることは実質的に困難である。
【0009】
そこで本発明は、NbN/MgO/NbN−SIS接合などエピタキシャル多層構造体がサブミリ波帯材料として有用なSiO2基板上に配設された、機械的強度に優れ、かつ十分な厚さを確保できる薄層デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、上記製造方法によって得られる薄層デバイス、該薄層デバイスからなるSISミキサ及びHEB(Hot-electron Bolometer)電磁波受信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、NbN/MgO/NbN−SIS接合の作成技術について詳細に検討した結果、MgOを仮基板として、該仮基板上にエピタキシャル成長によって形成したNbN層/MgO層/NbN層(以下、エピタキシャルNbN/MgO/NbNとも称する。)からなるエピタキシャルNbN/MgO/NbN−SIS接合を作成し、その後、基板として、厚さ数10μmのSiO2を前記エピタキシャル成長で作成したNbN/MgO/NbN−SIS接合上に成膜し、ついで前記MgO仮基板を酸などで除去することで、数10μmの厚さのSiO2上に該NbN/MgO/NbN−SIS接合が配設された薄層デバイスを作成できること、および、特に機械的強度に優れ、サブミリ波帯材料として有効なSiO2基板上に該NbN/MgO/NbN−SIS接合が配設された前記薄層デバイスを用いて、該薄層デバイスからなる超伝導素子、ミキサ、およびHEB電磁波受信機が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基板として厚さ数10μmのSiO2を成膜法により形成し、前記MgO仮基板をエッチングにより除去するため均一な研磨技術が不要となり、かつ比較的誘電率の低いSiO2を基板とするため、MgOを基板として用いた場合に比べ、基板厚を十分に確保することができ、機械的強度に優れる超伝導素子を製造することができる。また成膜法でSiO2などの基板を作成することから、優れた基板厚制御が可能となる。
前記薄層デバイスとしては、SISミキサやHEB電磁波受信機等の超伝導素子が挙げられる。また、薄層デバイス作成時に成膜およびリソグラフィにより接地導体(グランド)薄膜を作製することが可能であり、確実かつ良好な接地を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第一は、仮基板上に、薄膜を積層してなる多層構造体を形成し、次いで、前記多層構造体上に基板を形成するものである、薄層デバイスの作成方法である。
【0014】
本発明において、仮基板としては、多層構造体を形成し、酸等で除去できるものであれば特に制限はない。多層構造体がエピタキシャル成長させたNbN層、MgO層およびNbN層からなる場合には、NbN層のエピタキシャル成長に適する基材としてMgO単結晶基板であることが好ましい。
【0015】
また、前記多層構造体としては、エピタキシャル成長で形成した薄膜からなる多層であることが好ましく、その構成は、得られる薄層デバイスの使用目的に応じて適宜選択することができる。例えば、薄層デバイスが超伝導素子である場合には、SIS接合を形成しうる多層構造体であることが好ましく、例えば、エピタキシャル成長によって得たNbN層を超伝導層とし、絶縁層として単結晶MgO層とするNbN層/MgO層/NbN層からなる多層構造体などを使用することができる。
【0016】
また、前記基板としては、得られる薄層デバイスの使用目的に応じてSiO2、MgO、Al23などから適宜選択することができる。これらの中でもSiO2であれば、誘電率が低いためサブミリ波帯受信機などに使用するに好適であり、数十nm〜数十μmの範囲で形成することができる。また、MgOを基板とする場合に比べ厚く設定できるため、素子切り出し時の基板強度を十分に確保することもできる。また、MgOであれば、エピタキシャル成長が可能であり、高い熱伝導率、NbNとの優れた格子整合性等を有する点で有利である。
【0017】
以下に、本発明の薄層デバイスの一例として、多層構造体がエピタキシャル成長で形成したNbN/MgO/NbN−SIS接合である薄層デバイスの作製方法を示す。
【0018】
図1に、本発明の作成方法で得られた薄層デバイスの好適な実施態様の一例としての超伝導素子を示す。30はエピタキシャルNbN層、40は絶縁層であるエピタキシャルMgO層、50はエピタキシャルNbN層、60はSiO2基板、80は配線層、85はNbN/MgO/NbN−SIS接合を示す。エピタキシャルNbN/MgO/NbN多層膜が、NbN/MgO/NbN−SIS接合を形成し、この多層構造体上にSiO2基板が積層され、超伝導素子となっている。本発明の形成方法によって、薄層デバイスとして高性能の超伝導素子を得るには、NbN層(30)の下部に設けた図示しない仮基板上に、エピタキシャル成長によってNbN層(30)、MgO層(40)、NbN層(50)を積層させて得たエピタキシャルNbN/MgO/NbN−SIS接合部を形成し、前記SIS接合部上に配線層(80)を形成してSIS接合を完成し、次いで、該SIS接合の上にSiO2を成膜して基板(60)を形成し、ついでウェットエッチングにより前記MgO仮基板を除去することで得られる。これにより、エピタキシャルNbN/MgO/NbN−SIS接合がSiO2基板に転写される。
【0019】
また、仮基板の除去のためのウェットエッチングの際に前記SIS接合がエッチング剤によって侵食されることを防止するため、前記仮基板上に予めエッチング保護層を形成し、次いで該エッチング保護層上に前記多層構造体を形成してもよい。以下、図面を用いて本発明の製造方法を説明する。
【0020】
まず、図2に示すように、MgOなどの単結晶からなる仮基板(10)上にエッチング保護層を形成する。エッチング保護層としては、エッチングの際のSIS接合への侵食を防止するものであるからエッチング耐性を有することが好ましく、かつ該エッチング保護層上に、多層構造体が形成される必要があるため、エピタキシャル成長など多層構造体の形成に適する特性を有することが好ましい。本発明では、エッチング保護層としては、上記特性を有するものであれば単層でもよく、2層以上の多層で構成してもよい。本発明では、エッチング保護層として、少なくともNbN薄膜など非酸可溶性の岩塩構造物層を使用することが望ましい。ただし、非酸可溶性の岩塩構造物層としてNbN薄膜などの導電性材料を用いた場合、回路的に問題となるため最終的には除去する必要が生じる。そこでエッチング保護層として導電性材料を使用した場合には、更に、岩塩構造物からなる誘電体層、例えばMgO薄膜などを製膜することが好ましい。MgO薄膜であれば、フッ素プラズマ耐性が高いため、仮基板(10)をエッチング除去した後に、フッ素プラズマによってNbN等の非酸可溶性の岩塩構造物層(21)を除去する際に、SIS接合を保護することができる。
【0021】
したがって本発明では、仮基板(10)上にまずNbNなどの非酸可溶性の岩塩構造物層(21)を形成させ、ついでその上に岩塩構造物からなる誘電体層(23)を形成させ、岩塩構造物層(21)と誘電体層(23)との二層をエッチング保護層として使用することが好ましい。このほか非酸可溶性の岩塩構造物(21)としては、TiN薄膜などが挙げられる。エッチング保護層を構成する各層の形成は、エピタキシャル成長であることが好ましく、たとえば高周波スパッタリングや直流反応性スパッタリングによる方法、またはこれらの組み合わせであってもよい。また、岩塩構造物層(21)の厚さは素子をエッチング剤による侵食から保護できる耐性を有すれば特に制限はなく、好ましくは10〜200nmである。また、誘電体層(23)の厚さも特に制限はないが、好ましくは10〜100nmである。
【0022】
次に、図3に示すように、エッチング保護層(21、23)上に多層構造体であるエピタキシャルNbN/MgO/NbN-SIS接合を構成するため、NbN層(30)、MgO層(40)、NbN層(50)を形成する。まずエッチング保護層(21、23)上にNbN層(30)をエピタキシャル成長により形成させ、ついでMgO層(40)を形成する。MgO層(40)は、エピタキシャル成長によって形成してもよく、たとえば高周波スパッタリングや直流反応性スパッタリングによる方法、またはこれらの組み合わせであってもよい。ついで、MgO層(40)上にNbN層(50)をエピタキシャル成長させる。本発明では、これらがエピタキシャル成長によって形成されることが好ましい。なお、NbN層(30)、MgO層(40)、NbN層(50)はそれぞれ、下部電極層、誘電層、上部電極層となる。
【0023】
また、前記多層構造体であるNbN/MgO/NbN三層膜が、NbN/MgO/NbN−SIS接合として機能するために、誘電層となるMgO層(40)は超薄膜であることが必要である。このようなNbN/MgO/NbN−SIS接合の製造方法としては、従来公知の方法を応用することができる。
【0024】
たとえば、図4に示すようにNbN/MgO/NbN三層膜上にフォトレジスト層(70)を塗布し、フォトリソグラフィにてパターニングを行う。三層膜の露出部分、すなわちNbN層(50)、MgO(40)、NbN(30)をフッ素プラズマなど用いた反応性エッチングなどにより除去し、その後溶剤にてフォトレジスト層(70)を除去する。次に、図5に示すようにレジスト(75)を塗布し、SIS接合部と成る部分以外のレジストをフォトリソグラフィにより除去し、三層膜の露出部分、すなわちNbN層(50)をフッ素プラズマなど用いた反応性エッチングにより除去する。その後絶縁層としてSIS接合部の周囲にMgO層(40)を形成する。ついで、フォトレジスト(75)を溶剤により除去することで、SIS接合部の上部に成膜されたMgO層(40)も除去する(リフトオフ法という)。次に、配線層(80)を形成するため、全面にNbN層をエピタキシャル成長によって成膜する。レジストを塗布し、配線層と成る部分以外のレジストをフォトリソグラフィにより除去、露出したNbN層をフッ素プラズマなど用いた反応性エッチングにより除去し、配線層(80)を形成する。その結果、図6に示すように、エッチング保護層であるNbN層(21)、MgO層(23)の上部に、多層構造体であるNbN/MgO/NbN−SIS接合(85)が形成される。
【0025】
ついでリン酸などをエッチング溶液として使用するウェットエッチングを行い、露出したMgO層を除去する。図7に示すように、配線層(80)の外周にあるMgO層(40)をリン酸(90)などで除去する。これによって、MgO層(40)と共にエッチング保護層であるMgO薄膜(23)の一部も除去されている。この工程により次にSIS接合の上にSiO2成膜した後は、エッチング剤にさらされるMgOは仮基板(10)のみとなる。なお、ウェットエッチングに使用するエッチング剤は、不要のMgOを除去することができれば、リン酸に限定されず他のものを使用することができる。
【0026】
次に、図8に示すように、SIS接合(85)の上にSiO2などの基板(60)を成膜する。このように、多層構造体としてNbN/MgO/NbN−SIS接合(85)を予め形成した後、該多層構造体の上にSiO2基板を形成することにより、実質的にSiO2基板上にSIS接合が配設された薄層デバイスを作成することができる。本発明において、基板(60)としてのSiO2は、高周波スパッタリングや直流反応性スパッタリングにより形成することができ、その厚さは、基板誘電率および使用目的周波数に応じて適宜選択可能である。一般に、1THzの場合、40μm以下となる。
【0027】
ついで、リン酸(90)などのエッチング剤を用いて仮基板(10)であるMgO基板をウェットエッチングにより除去する(図9参照)。次いで、ウェットエッチング保護層(21)として用いられたNbN薄膜を、反応性エッチング装置により除去する。最後にSIS接合の下部に残存するMgO薄膜(23)をリン酸により除去することにより図1に示す、目的とする薄層デバイスである超伝導素子が製造される。
【0028】
本発明の作成方法によれば、該NbN/MgO/NbN−SIS接合を包み込むようにSiO2基板が形成される。SiO2基板の厚さは、使用周波数1THzではその誘電率から、40μm以下となる。本発明によれば、MgOなどの仮基板をエッチングにより除去するため均一な研磨技術が不要となり、かつ比較的誘電率の低いSiO2層を基板とできるため基板厚を十分に確保することができ、機械的強度に優れる超伝導素子を製造することができる。また成膜法でSiO2などの基板を成膜することから、優れた基板厚制御が可能となる。
【0029】
なお、接地導体を作製する場合は、エピタキシャルNbN/MgO/NbN−SIS接合上にSiO2を成膜した後に、さらに導体薄膜を成膜し、これにパターニングすればよい。
【0030】
地球環境計測や電波天文学、通信などTHz周波数領域での受信機が必要とされている分野において、現在ニオブのギャップ周波数である725GHz以上で1.4THz以下の周波数領域では、エピタキシャルNbNは最も優れた低損失材料である。エピタキシャルNbNを用いた超伝導SIS電磁波受信機は、この周波数帯での優れた低雑音電磁波受信機となる可能性を有しており、またHEB電磁波受信機はSIS電磁波受信機が動作困難な数THzの周波数領域で優れた特性を有する低雑音電磁波受信機である。
【0031】
本発明は、このような領域での実使用に際して、機械的強度に、かつ低損失性に優れ、地球環境計測や電波天文学の分野、次世代無線通信などに用いる導波管用電磁波受信機全てに対して極めて有効な技術である。本発明によれば、薄層デバイスとして、優れたエピタキシャルNbN/MgO/NbN−SIS電磁波検出器などを、サブミリ波帯材料として有効なSiO2基板に構成することが可能となり、また従来の基板研磨技術を不要とすることができる。具体的にはサブミリ波帯におけるHEB、SISなど電磁波受信機、X線検出器、赤外線ボロメータ、テラヘルツ検出器などの各種検出器、その他半導体デバイス、超伝導体デバイスなどの薄層デバイスの作成に適用可能である。
【実施例】
【0032】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0033】
実施例1
本発明の薄層デバイスとして、SiO2基板上に、多層構造体としてエピタキシャルNbN/MgO/NbN−SIS接合を作成した薄層デバイスを作成した。
【0034】
まず、厚さ300μmのMgO仮基板上に、NbN薄膜を100nmエピキシャル成長させ、次いで該NbN薄膜の上にさらにrfスパッタ法およびDC反応性スパッタ法によって厚さ20nmのエピタキシャルMgO薄膜をエッチング保護層として形成した。
【0035】
さらに、エッチング保護層であるMgO薄膜上に、NbNエピタキシャル成長させた厚さ200nmの下部電極層、ついで厚さ約0.7nmのMgO層をrfスパッタ法により形成し、ついでエピタキシャル成長により、厚さ200nmのNbN層を上部電極層として形成した。これを基にエピタキシャルNbN/MgO/NbN−SIS接合を作成、ついでエッチング剤としてリン酸溶液を用いて、NbN/MgO/NbN−SIS接合周囲のMgO層を除去した。ついで、高周波スパッタにより厚さ20μmのSiO2基板を、多層構造体であるNbN/MgO/NbN−SIS接合上に形成した。ついで、リン酸をエッチング剤として使用して、MgO仮基板を除去し、ついで反応性エッチングによりエッチング保護層であるNbN薄層を除去し、最後にリン酸を用いてエッチング保護層であるMgO層を除去した。
【0036】
これにより、SiO2基板上に、多層構造体としてNbN/MgO/NbN−SIS接合からなる薄層デバイスを作成した。

実施例2
本発明の薄層デバイスとして、870GHz帯導波管用SISミキサを作成した。得られた導波管用SISミキサの顕微鏡写真を図10に示す。ここで図10(a)および図10(b)はSiO2基板上の導波管用SISミキサをダイシングソーで切断した図であり、図10(c)は約20μmのSiO2基板側からSISミキサ部を透過して観測した図である。
【0037】
得られた導波管用SISミキサのSiO2基板のそり及び基板断面を評価した。結果を図11に示す。図11(a)に示すとおり、基板のそりは長さ約1mmの領域で評価した結果、周辺部より中央部が約0.7μm盛り上がっていることを確認した。このことは基板内のストレスが少なく優れた平面性を有していることを意味する。
【0038】
図11(b)に、レーザー顕微鏡によりSiO2基板厚を測定した結果を示す。基板厚は約21μmであり、これは成膜速度から予想される基板厚20.2μmとほぼ一致(誤差+4%)し、良好な基板厚制御性が得られていた。
【0039】
また、このSIS接合の電流−電圧特性を評価した結果を図12に示す。SIS接合特有の非線形性とそれに伴うヒステリシス特性を確認できた。この接合は臨界電流密度Jc=30kA/cm2と高いため非線形性が弱くなっているが、エピタキシャルSIS接合の特有な高いギャップ電圧(5.3mV付近の電流の立ち上がり)と、1.3THzに相当する2.7mV付近まで確認できる接合構造に起因する明確な共振ステップが確認でき、エピタキシャルSIS接合がSiO2基板上に作製されていることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、本発明の作成方法で得られる薄層デバイスの一例としての超伝導素子を示す横断面図である。例えば、NbN(30)は200nm、MgO層(40)は250nm、NbN層(50)は200nm、SiO2層(60)は20μmWire NbN(80)は350nmとすることができる。
【図2】図2は、本発明の薄層デバイスの一例としての超伝導素子の製造方法の一工程を示す説明図であり、MgO仮基板上にエッチング保護層を積層した図である。例えば、MgO仮基板(10)上のNbN層(21)は100nm、MgO層(23)は20nmとすることができる。
【図3】図3は、本発明の薄層デバイスの一例としての超伝導素子の製造方法の一工程を示す説明図であり、MgO仮基板およびエッチング保護層上にNbN層、MgO層およびNbN層からなる多層構造体が積層された状態を示す図である。NbN層(30)とNbN層(50)との間のMgO層(40)は0.7nmとすることができる。
【図4】図4は、本発明の薄層デバイスの一例としての超伝導素子の製造方法の一工程を示す説明図であり、フォトレジスト層によりNbN/NgO/NbN層をパターニングした状態を示す図である。
【図5】図5は、本発明の薄層デバイスの一例としての超伝導素子の製造方法の一工程を示す説明図であり、SIS接合部を形成した状態を示す図である。
【図6】図6は、本発明の薄層デバイスの一例としての超伝導素子の製造方法の一工程を示す説明図であり、SIS接合部の上部に配線層を成膜及びパターニングし、SIS接合を形成した状態を示す図である。
【図7】図7は、本発明の薄層デバイスの一例としての超伝導素子の製造方法の一工程を示す説明図であり、配線層の外周に露出していたMgO層を除去した状態を示す図である。
【図8】図8は、本発明の薄層デバイスの一例としての超伝導素子の製造方法の一工程を示す説明図であり、NbN/MgO/NbN−SIS接合上にSiO2からなる基板層を積層した状態を示す図である。
【図9】図9は、本発明の薄層デバイスの一例としての超伝導素子の製造方法の一工程を示す説明図であり、MgO仮基板をリン酸を使用してエッチング除去した状態を示す図である。
【図10】図10は、本発明の薄層デバイスの一例として、エピタキシャルNbN/MgO/NbN−SIS接合をSiO2基板上作成した導波管用SISミキサを示す図である。(a)および(b)はSiO2基板上の導波管用SISミキサをダイシングソーで切断した図であり、(c)はSISミキサ部を基板裏側からSiO2基板を透過してみた図である。
【図11】図11は、本発明の薄層デバイスの一例としての超伝導素子のSiO2基板を評価した図であり、(a)はソリを示し、(b)は基板の厚さを示す図である。
【図12】図12は、本発明の薄層デバイスの一例としての超伝導素子の電流−電圧測定を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10・・・MgO仮基板、21・・・エッチング保護層(非酸可溶性の岩塩構造物層)、23・・・エッチング保護層(誘電体層)、30・・・NbN層、40・・・MgO層、50・・・NbN層、60・・・基板、70・・・フォトレジスト層、75・・・フォトレジスト、80・・・配線層、85・・・SIS接合、90・・・リン酸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮基板上に、薄膜を積層してなる多層構造体を形成し、次いで、前記多層構造体上に基板を形成するものである、薄層デバイスの作成方法。
【請求項2】
前記仮基板上にエッチング保護層を形成し、次いで該エッチング保護層上に前記多層構造体を形成するものである、請求項1記載の薄層デバイスの作成方法。
【請求項3】
前記多層構造体上に前記基板を形成した後、前記仮基板をエッチングにより除去するものである、請求項2記載の薄層デバイスの作成方法。
【請求項4】
前記エッチング保護層が、前記仮基板上に形成された非酸可溶性の岩塩構造物層と岩塩構造物からなる誘電体層とからなり、前記多層構造体上に前記基板を形成した後、前記仮基板をウェットエッチングにより除去し、次いで、反応性エッチングにより前記非酸可溶性の岩塩構造物層を除去するものである、請求項3記載の薄層デバイスの作成方法。
【請求項5】
反応性エッチングにより前記非酸可溶性の岩塩構造物層を除去した後、ウェットエッチングにより前記岩塩構造物からなる誘電体層を除るものである、請求項4記載の薄層デバイスの作成方法。
【請求項6】
更に、多層構造体上に基板を形成した後、該基板上に導体材料を成膜およびパターニングして良好な接地導体を形成する工程を含む、請求項5記載の薄層デバイスの作成方法。
【請求項7】
前記仮基板は、単結晶基板である、請求項1記載の薄層デバイスの作成方法。
【請求項8】
前記仮基板は、MgOからなることを特徴とする、請求項1記載の薄層デバイスの作成方法。
【請求項9】
前記多層構造体は、エピタキシャル成長で形成した多層である、請求項1記載の薄層デバイスの作成方法。
【請求項10】
前記多層構造体は、NbN層/MgO層/NbN層である、請求項9記載の薄層デバイスの作成方法。
【請求項11】
前記基板は、SiO2からなる、請求項1記載の薄層デバイスの作成方法。
【請求項12】
請求項1〜11記載の薄層デバイスの作成方法により作成された、薄層デバイス。
【請求項13】
請求項12記載の薄層デバイスからなる、超伝導素子、SISミキサまたはHEB電磁波受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−180492(P2007−180492A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248935(P2006−248935)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】