説明

薄肉メタルジョイント

【課題】ソケット部の軸線に沿って2つに分割した半割り状部材にパイプを抱え込ませボルト・ナット締付けにより2本のパイプを直角に交差した状態で連結するタイプのメタルジョイントの薄肉軽量品の提供。
【解決手段】メタルジョイント1を構成する各半割状部材3、5は立体成形後の焼入れにより硬化されたで構成し、各半割状部材の2つのソケット部7、9のそれぞれの分割縁に軸線方向に平行に嵌入可能な溝を有する凹凸契合部11を形成し、2つのソケット部の間にある連結部17の分割縁には面状に折込まれてなる当たり部23を形成し、締付けの際には対向する半割状部材のそれぞれの当たり部23、23の当たり縁25、25どうしが当たると共に、凹凸契合部11が契合する。このメタルジョイントによれば、製品強度を低下させたり生産設備の寿命も縮めたりすることなく、薄肉軽量化を達成できる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2本のパイプを直角に交差した状態で連結するメタルジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のメタルジョイントの従来品は、冷間圧延鋼板(例えば、SPCC)を用いて立体成形したものであり、特許文献1に示すように、ソケット部の軸線に沿って分割した2つの半割り状部材からなり、両部材の間に2本のパイプを抱え込ませ、両部材に形成した連結孔にボルトを挿通し、ナットに螺合させて締付けることで該2本のパイプを連結するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】意匠登録第646222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近ではこの種のメタルジョイントについても、材料コストや輸送コストを軽減するために、薄肉軽量化を図ることが要求されており、強度が590MPa程度のハイテン材を素材として用いて肉厚を従来の2.6mmからより薄肉化しようと試みられたが、肉厚の低減は精々20〜30%に留まり、しかも生産設備の一つであるプレス金型の消耗も激しく持ちが悪くなるため、設備コスト高を招くこともあって、量産化に至らなかった。
【0005】
また、この種のメタルジョイントは半割り状部材として同一の形状のものを使用できるため、部品の方向性が無い利点はあるが、組立作業時にナットを落とす等の問題があり、近年強く要求されている組立て工数の低減には対応できていない。それに対して、ナットを一方の半割り状部材に溶接したりカシメ取付けしたりして一体化することが最初に試みられたが、一体化するのにかなりの手間が掛かる。そのため、最近では、一方の半割り状部材に直接ナットとしての機能を担わせてナットレス化を図ろうと、連通孔にシボリをつけてタップを切ることが提案されている。而して、薄肉軽量化すると強度がどうしても低くなるのでネジが破損し易くなる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、2本のパイプを直角に交差した状態で連結するメタルジョイントで、従来品より肉厚を50%以上低減しても製品強度の低下やコスト高を招いたりすることが無いものを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、思考錯誤の結果、素材の選択及び処理や半割り状部材の形状に工夫を凝らすことで、製品強度を低下させたりコスト高を招いたりすることなく、薄肉軽量化を達成できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
請求項1の発明は、ソケット部の軸線に沿って2つに分割した半割り状部材に2本のパイプを抱え込ませボルト・ナット締付けにより該2本のパイプを直角に交差した状態で連結する薄肉メタルジョイントにおいて、各半割状部材は立体成形後の焼入れにより硬化されたものであり、各半割状部材の2つのソケット部のそれぞれの分割縁には軸線方向に平行に嵌入可能な溝を有する凹凸契合部が形成されており、前記2つのソケット部の間にある連結部の分割縁には面状に折込まれてなる当たり部が形成され、締付けると対向する半割り状部材のそれぞれの当たり部の当たり縁どうしが当たると共に、凹凸契合部が契合することを特徴とする薄肉メタルジョイントである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載した薄肉メタルジョイントにおいて、凹凸契合部の溝の両側縁はソケット部の軸線とほぼ平行する方向に延びていることを特徴とする薄肉メタルジョイントである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載した薄肉メタルジョイントにおいて、いずれか一方の半割り状部材のボルト挿通用の孔がバーリング加工により筒状体を為しており、その筒状体の内面にネジ部が形成されていることを特徴とする薄肉メタルジョイントである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載した薄肉メタルジョイントにおいて、半割り状部材はボロン鋼で構成されていることを特徴とする薄肉メタルジョイントである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の薄肉メタルジョイントによれば、製品強度を低下させたり生産設備の寿命も縮めたりすることなく、薄肉軽量化を達成できる。ナット側薄肉半割り状部材についてはナットレス化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る薄肉メタルジョイントによる2本のパイプの連結状態の斜視図である。
【図2】図1とは別の方向から見た薄肉メタルジョイントによる2本のパイプの連結状態の斜視図である。
【図3】図1のナット側薄肉半割り状部材の斜視図である。
【図4】図3のナット側薄肉半割り状部材の側面図である。
【図5】図3のナット側薄肉半割り状部材の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態に係る薄肉メタルジョイント1について、図面に従って説明する。
図1、図2に示すように、この薄肉メタルジョイント1は、ナット側薄肉半割り状部材3とボルト側薄肉半割り状部材5とが一組となって構成されており、2本のパイプを直角に交差した状態で連結するタイプのものである。
ナット側薄肉半割り状部材3とボルト側薄肉半割り状部材5は形状がほぼ同じであることから、先ず、ナット側薄肉半割り状部材3に基づいて共通する形状やその製造方法について、図3〜図5にしたがって説明し、次に、ボルト側薄肉半割り状部材5について相違点を説明する。
【0015】
ナット側薄肉半割り状部材3は、一枚の金属板を用いて金型を用いたプレス成形により立体成形されたものであり、第1ソケット部7と、第2ソケット部9と、それらの間を連結する連結部17と構成されており、第1ソケット7と第2ソケット9はそれぞれ同じ板面側で円弧状に湾曲して抱え込み面が形成されており、その抱え込み面の曲面は抱き込むパイプP1、P2の曲面に沿っている。また、第1ソケット部7と第2ソケット部9は直角に交差している。
【0016】
第1ソケット部7の分割縁には、凹凸契合部11が形成されている。分割縁は軸線方向の中間の部分に段差が設けられ、一端側が一段低くなっている。そして、その段差側面が他端側に向かって第1ソケット部7の軸線とほぼ平行する方向に側縁が延びるように矩形溝状に切り欠かれており、外方側が契合凸部13、内方側が契合凹部15になっている。溝の深さは、組立・解体が可能な程度のものになっている。
第2ソケット部9の分割縁には、第1ソケット部7とは対称的に他端側が一段低くなり一端側に溝が形成されており、同じ形状の凹凸契合部11が形成されている。このように、第1ソケット部7と第2ソケット部9に点対称配置でそれぞれ凹凸契合部11、11が形成されている。
【0017】
連結部17は、中央の本体部19がほぼ平坦に残されているが、その両側部21が抱き込み面側に同じように折り曲げられて、図3に示す外側方向から見ると、全体として台形を為している。
両側部21、21のうち上方の側部21では分割縁のうち第2ソケット部9寄りのほぼ半分側は面状に抱き込み面側に折込まれて当たり部23が形成されている。この当たり部23の先端が当たり縁25になっている。下方の側部21にも分割縁のうち第1ソケット部7寄りのほぼ半分側に当たり部23が形成されている。このように、連結部17の両側部21、21に点対称配置でそれぞれ当たり部23、23が形成されており、それぞれの当たり部23、23は互いにほぼ平行に並列している。
【0018】
また、本体部19の中央部分には、抱き込み面側に短い筒状体27が突出している。この筒状体27はバーリング加工により形成されたものである。筒状体27の内面にネジ部29が形成されている。このネジ部29のネジ山は3山以上になっている。
【0019】
このナット側薄肉半割り状部材3は、一枚の金属板を素材として用い、これをプレスにより打抜きして外側輪郭線を成形し、第1ソケット部7、第2ソケット部9、連結部17、当たり部23を形成し、バーリング加工してから筒状体の内面にネジ部29を形成する。そして、その後に、焼入れを施し硬化させて最終製品としている。
ボルト側薄肉半割り状部材5は、バーリング加工の代わりに連結孔を形成している点だけが異なり、その他はナット側薄肉半割り状部材3と同じ素材を用いて同じように形成する。
【0020】
半割り状部材3、5の想定される肉厚は、1.3mm以下である。従来の冷間圧延鋼板を素材として用いて製造した半割り状部材の肉厚は2.6mm程度であるから半減していることになる。
素材については、折り曲げ加工、孔開け、絞り加工等の加工段階での十分な展伸性と、最終製品の段階での高い表面硬度と強度を併せ持たせるために、焼入れ効果を利用しており、焼入れ処理と、必要な場合にはその後の焼戻し処理により、表面硬度Hv:480〜540と、焼入れ処理前の硬度より約6〜7倍上げ、強度が1,600〜1,850MPaと、焼入れ処理前の強度が270MPa程度から6.5倍強程度上げるようなものを使用することが好ましい。その候補としては、S20C相当の低炭素鋼にボロンを含有したボロン鋼が有力である。
【0021】
次に、組立作業について説明する。
半割り状部材3、5のうちのいずれか一方の半割り状部材の第1ソケット部7でパイプP1を抱え込み、第2ソケット部9でパイプP2を抱え込ませる。次に他方の半割り状部材の第2ソケット部9でパイプP1を、第1ソケット部7でパイプP2をそれぞれ抱え込ませながら、ナット側薄肉半割り状部材3の第1ソケット部7の凹凸契合部11とボルト側薄肉半割り状部材5の第2ソケット部9の凹凸契合部11とを契合凹部15に契合凸部13を軸線方向に平行に嵌入させることで凹凸嵌合させ、ナット側薄肉半割り状部材3の第2ソケット部9の凹凸契合部11とボルト側薄肉半割り状部材5の第1ソケット部7の凹凸契合部11とを契合凹部15に契合凸部13を軸線方向に平行に嵌入させることで凹凸嵌合させる。図1の拡大図は、嵌合関係を説明するためのものであり、ナット側薄肉半割り状部材3の第1ソケット部7の凹凸契合部11にボルト側薄肉半割り状部材5の第2ソケット部9の凹凸契合部11が契合する直前の、ナット側の凹凸契合部11に対してボルト側凹凸契合部11が一段上がった状態を描画しており、この図に示すように、契合凹部15の縁の形状が契合凸部13の縁の形状が同じになっている。
【0022】
次に、ボルト側薄肉半割り状部材5の連通孔側からボルトを挿通させナット側薄肉半割り状部材3のネジ部29に螺合させて締付けていく。ナット側薄肉半割り状部材3の当たり部23と、ボルト側薄肉半割り状部材5の当たり部23は対向しており、ほぼ面一状態になっている。締付けの進行により、それぞれの当たり縁25が近付き、最終的には当たってそれ以上の締付けは阻止され、程好く締付けることができる。また、ネジ部29が破損することも無いので、解体・再組立が可能となっている。
もし、当たり部23が無ければ、対向する半割り状部材3、5の連結部17の側部21の分割縁どうしが当たることになるが、分割縁どうしは斜めに交差した状態で当たることになるので、締付けが止まることなく進行して半割り状部材の凹凸契合部11、11が上下で開いてしまう。
【0023】
組立作業の完了により、図1、図2に示すように、パイプP1とパイプP2が連結される。なお、図1、図2では、視認の便宜のため、ボルトは図示が省略されている。
この薄型メタルジョイント1によれば、素材が表面硬化・高強度化され、凹凸契合部11が外れ難い構成になっていることにより、捩り方向に力が加わっても、パイプは捩れ難くなっている。
また、凹凸契合部11の契合凸部13は契合凹部15に対して軸線方向に平行に嵌入可能になっているので、組立・解体が容易になっている。
【0024】
以上説明したように、ナット側薄肉半割り状部材3とボルト側薄肉半割り状部材5は、十分に表面硬化・高強度化されており、しかも、当たり部23や凹凸契合部11が形成されたことにより、程好く締付けて組立でき、使用時には捩れ難くなっている。しかも、ネジ部29が破損すること無く、解体も容易なので、再利用が可能である。
【実施例】
【0025】
素材としてボロン鋼(板厚:1.2mm)を用いて、上記した形状のナット側薄肉半割り状部材3を製造した。ナット側薄肉半割り状部材3の筒状体27の内周面の高さ寸法は3mm以上、ネジ山は3山以上にした。製造の際には、従来から慣用している生産設備を使用し、金型を薄肉に修正した。
それを、無酸化炉内で加熱温度870〜900℃、保持時間30分の条件で加熱した後、油に投入して焼入れした後、焼戻し処理した。
【0026】
その後、ナット側薄肉半割り状部材3を試験したところ、焼入れ処理により、表面硬度Hv:480〜540と、焼入れ処理前の硬度より約6〜7倍上がり、強度が1,600〜1,850MPaと、焼入れ処理前の強度より約6〜7倍上がったことが確認された。
また、同じ素材から同じようにして製造したボルト側薄肉半割り状部材5と一対になって2本のパイプを係合保持し、M6キャップスクリューボルトで締付けたところ、100kgf・cmの締付トルクで当たり部23、23が当たってそれ以上の締付けは阻止された。また、ネジ部29も破損しなかった。
【0027】
パイプP1、P2を連結させた後、パイプを捩るトルク試験にかけたところ、凹凸契合部11が外れ難く、従来の冷間圧延鋼板を用いた肉厚品よりも3倍以上高い16kgf・mまで引き上げることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0028】
資源高の時代、資源の少ない日本にとって半割り状部材の薄肉軽量化は省資源化にとって非常に大切であるが、それだけでなく、軽量化効果は製造時(フープ材、プレス、焼入れ、表面処理、仕上、商品配送)の各工程に波及して、輸送機材を軽量化でき、燃費の向上も図れる。
従来は主に冷間圧延鋼板(SPCC)を用いて一対の半割り状部材を製造し、ナットを併用してボルト・ナット締付けをしていたが、その従来の半割り状部材に比べて、本発明の方法でボルト側を含めて一対の半割り状部材を薄肉軽量化したものに製造すれば、60%と言う驚異的な軽量化が図れる。2002年時の生産量である980トンは448トンになり、532トン軽くなるので、軽量化効果が如何に大きいかは明らかである。
【0029】
また、近年、環境問題でCO削減が求められているが、2002年時の販売数量を元に半割り状部材全ての薄肉軽量化が実施された場合には、年間
1,329トンものCO削減効果が期待できる。
さらに、本発明の方法では素材として特殊鋼を用い、焼入れ処理を追加して行うことになるが、素材は薄肉のもの、例えば、従来2.6mmの板厚であったものを1.3mm以下、即ち半分以下の板厚のものに代えることができるので、結果的には従来品と殆ど同じ価格で販売することができ、コスト面の問題は解消できる。
【0030】
また、ナットレス化すれば、現地での組立作業をかなり短縮できる。
金型の穴部を部品交換することで、ナット側薄肉半割り状部材とボルト側薄肉半割り状部材の両方の生産が可能となる。
【符号の説明】
【0031】
1‥‥薄肉メタルジョイント
3‥‥ナット側薄肉半割り状部材 5‥‥ボルト側薄肉半割り状部材
7‥‥第1ソケット部 9‥‥第2ソケット部
11‥‥凹凸契合部 13‥‥契合凸部
15‥‥契合凹部 17‥‥連結部
19‥‥本体部 21‥‥側部
23‥‥当たり部 25‥‥当たり縁
27‥‥筒状体 29‥‥ネジ部
P1、P2‥‥パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソケット部の軸線に沿って2つに分割した半割り状部材に2本のパイプを抱え込ませボルト・ナット締付けにより該2本のパイプを直角に交差した状態で連結する薄肉メタルジョイントにおいて、
各半割状部材は立体成形後の焼入れにより硬化されたものであり、
各半割状部材の2つのソケット部のそれぞれの分割縁には軸線方向に平行に嵌入可能な溝を有する凹凸契合部が形成されており、
前記2つのソケット部の間にある連結部の分割縁には面状に折込まれてなる当たり部が形成され、
締付けると対向する半割り状部材のそれぞれの当たり部の当たり縁どうしが当たると共に、凹凸契合部が契合することを特徴とする薄肉メタルジョイント。
【請求項2】
請求項1に記載した薄肉メタルジョイントにおいて、
凹凸契合部の溝の両側縁はソケット部の軸線とほぼ平行する方向に延びていることを特徴とする薄肉メタルジョイント。
【請求項3】
請求項1または2に記載した薄肉メタルジョイントにおいて、
いずれか一方の半割り状部材のボルト挿通用の孔がバーリング加工により筒状体を為しており、その筒状体の内面にネジ部が形成されていることを特徴とする薄肉メタルジョイント。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した薄肉メタルジョイントにおいて、
半割り状部材はボロン鋼で構成されていることを特徴とする薄肉メタルジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−47212(P2012−47212A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187839(P2010−187839)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(592236670)株式会社吉野工作所 (5)
【Fターム(参考)】