薄膜ガスセンサ
【課題】簡易な構成にて電気絶縁層と感知層との応力変化による影響を回避し、マイクロクラックの発生を抑止するようにした薄膜ガスセンサを提供する。
【解決手段】電気絶縁層14と感知層15bとの間に部分安定化ジルコニア薄膜中間層などの安定化層16を設け、この安定化層16の変形により電気絶縁層14とガス感知層15bとの応力変化を吸収するような薄膜ガスセンサ1とした。また、他にも電気絶縁層と感知層との間に設けられた安定化層を密着結合させることにより、電気絶縁層とガス感知層との応力変化を回避する薄膜ガスセンサとした。
【解決手段】電気絶縁層14と感知層15bとの間に部分安定化ジルコニア薄膜中間層などの安定化層16を設け、この安定化層16の変形により電気絶縁層14とガス感知層15bとの応力変化を吸収するような薄膜ガスセンサ1とした。また、他にも電気絶縁層と感知層との間に設けられた安定化層を密着結合させることにより、電気絶縁層とガス感知層との応力変化を回避する薄膜ガスセンサとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池駆動を念頭においた低消費電力型の薄膜ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にガスセンサは、ガス漏れ警報器などの用途に用いられており、ある特定ガス、例えば、一酸化炭素(CO)、メタンガス(CH4)、プロパンガス(C3H8)、エタノール蒸気(C2H5OH)等に選択的に感応するデバイスであり、その性格上、高感度、高選択性、高応答性、高信頼性、低消費電力が必要不可欠である。
【0003】
ところで、家庭用として普及しているガス漏れ警報器には、都市ガス用やプロパンガス用の可燃性ガス検知を目的としたもの、燃焼機器の不完全燃焼ガス検知を目的としたもの、または、両方の機能を合わせ持ったものなどがあるが、いずれもコストや設置性(ガス検知が必要であるが電源供給不能の箇所である点)の問題から普及率はそれほど高くない。そこで、普及率の向上を図るべく、設置性の改善、具体的には、電池駆動によるガス漏れ警報器としてコードレス化することが望まれている。
【0004】
ガス漏れ警報器の電池駆動を実現するためにはガスセンサの低消費電力化が最も重要である。しかしながら、接触燃焼式や半導体式のガスセンサを動作させるためには、ガスセンサのガス感知層を100℃〜450℃の高温に加熱する必要があり、この加熱が電力を消費する要因である。SnO2などの粉体を焼結して作製したガス感知層によるガスセンサでは、スクリーン印刷等の方法を用いてガス感知層の厚みを可能な限り薄くしてガス感知層の熱容量を小さくしているが、薄膜化には限界があって充分に薄くできない。このため、電池駆動するにはガス感知層の熱容量が大きすぎることとなり、これを高温に加熱するには大きい電力が必要で電池の消耗が大きくなってしまい、ガス感知層を電池駆動するガスセンサは実用化が困難であった。
【0005】
そこで、微細加工プロセスにより高断熱・低熱容量のダイヤフラム構造として、実用上許容しうる低消費電力の薄膜ガスセンサが開発実用化されて現在に至っている。続いてこのような薄膜ガスセンサについて説明する。図15は、従来技術の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
この従来技術の薄膜ガスセンサ10は、シリコン基板(以下Si基板)11、熱絶縁支持層12、ヒーター層13、電気絶縁層14、ガス感知層15を備える。熱絶縁支持層12は、詳しくは、SiO2層12a、CVD−SiN層12b、CVD−SiO2層12cの三層構造となっている。また、ガス感知層15は、詳しくは、感知電極層15a、感知層15b、ガス選択燃焼層15cを備える。この感知層15bは二酸化スズ層(以下、SnO2感知層)であり、ガス選択燃焼層15cはパラジウム(Pd)、白金(Pt)の少なくとも一つを触媒として担持したアルミナ焼結材(以下、触媒担持Al2O3焼結材)である。
【0006】
感知電極層15aの材料としては各種貴金属材料を用いるのが一般的であるが、ここで説明する従来技術ではPtであるとして説明する。感知電極層15aは、詳しくは接合層を介して形成される。接合層はSiO2絶縁層である電気絶縁層14との密着性に優れ、しかも、Ptとも密着性のよいTa、Ti、Cr等が用いられるが、ここで説明する従来技術ではTaであるとして説明する。この接合層を介してPt感知層電極を成膜し、感知電極層15aを形成する。この電気絶縁層14上に感知層15bであるSnO2感知層を形成して、薄膜ガスセンサ10としている。
【0007】
この従来技術の薄膜ガスセンサ10は、様々な気体成分と接触することにより酸化物半導体である感知層15bの電気抵抗(感知層抵抗)が変化する現象を利用している。100℃〜450℃程度に加熱された金属酸化物半導体は導電率がガス濃度により変化する特性を持ち、空気中では酸素を吸着して高抵抗化するが可燃性ガス中では可燃性ガスを吸着して低抵抗化する。
【0008】
詳しくは、SnO2層などのn型金属酸化物半導体であって100℃〜450℃程度に加熱された感知層15bは、空気中では粒子表面に酸素などを活性化吸着するが、酸素は電子受容性が強くて負電荷吸着するため、酸化物半導体粒子表面に空間電荷層が形成され導電率が低下して高抵抗化し、また、可燃性ガスなどの電子供与性の還元性気体が吸着して燃焼反応が起こると表面吸着酸素が消費され、酸素に捕獲されていた電子が半導体内にもどされ、電子密度が増加して導電率が増大して低抵抗化する、というものである。
【0009】
この感知層15bは、多様なガスの検知が可能である反面、特定のガスを選択的に検知することは困難であった。そこでガス感知層15は、電気絶縁層14、一対の感知電極層15a,15a、および、SnO2感知層である感知層15bの表面を、触媒担持Al2O3焼結材で構成されたガス選択燃焼層15cが覆う構造としている。このようにガス感知層15は、感知層15bの全体を触媒を担持した焼結材で構成されたガス選択燃焼層15cで覆うように構成したため、検知する目的ガスよりも酸化活性の強いガスを燃焼させ、検知する目的ガス(特にメタンやプロパン)のみの感度を向上させるとともに、そのセンサ部の大きさや膜厚、ダイヤフラム径との比などを工夫することで、検知したい目的ガスのガス選択性を高め、消費電力の低減化を可能とする。同様な先行技術が特許文献1(特開平5−240820号公報)にも開示されている。
【0010】
このようなダイヤフラム構造などの超低熱容量構造とした低消費電力薄膜ガスセンサを適用したガス漏れ警報器においても、電池の交換無しで5年以上の寿命を持たすためには薄膜ガスセンサのパルス駆動が必須となる。そして、パルス駆動の薄膜ガスセンサにおいても、更なる低消費電力化のためには、検出温度の低温化、検出時間の短縮、検出サイクルの長期化(通常offにする時間を長くする)が重要である。
【0011】
薄膜ガスセンサにおける検出温度はガス種に対する検出感度などからCOセンサでは〜100℃、CH4センサでは〜450℃、検出時間はセンサの応答性から〜500msec、検出サイクルはCH4センサでは30秒、COセンサでは150秒とされる。
またoff時間にセンサ表面に付着する水分その他の吸着物を脱離させSnO2感知層の表面をクリーニングすることが、電池駆動(パルス駆動)の薄膜ガスセンサの経時安定性を向上する上で重要であり、検出前に一旦センサ温度を〜450℃に加熱(時間から100msec)し、その直後に、それぞれのガスの検出温度でガス検知を行っている。
薄膜ガスセンサはこのようなものである。
【0012】
さて、このような従来技術であるダイヤフラム構造の薄膜ガスセンサ10では、熱絶縁支持層12、ヒーター層13、電気絶縁層14、感知電極層15a、感知層15b、ガス選択燃焼層15cの積層構造となっている。これら積層した各層の膨張係数は異なっているため、ヒーター層13をパルス駆動させて昇降温を繰り返すと、熱膨張/収縮により、数μmであるが、上下に振動する。この振動は微小ではあるが、仮に10秒に1回の検知周期でセンサを6年間駆動させると約2000万回に達する。しかも室温から450℃まで昇温時間50〜100msecで昇温し、また、数100msecという短時間の降温時間で降温するというものであり、SnO2感知層である感知層15bには厳しい熱衝撃が加わる。
【0013】
この熱衝撃と微小な振動とが起こるため、特に感知層15b(SnO2感知層)と電気絶縁層14(SiO2絶縁層)との間で剥離が生じ、それが感知層15b(SnO2感知層)のマイクロクラックへと発展し、センサ抵抗値が上昇するなどの変動を生じることがある。抵抗値によりガス検知を行う薄膜ガスセンサ10においては当然、抵抗値の変動はガス検知精度上大きな問題になる。
【0014】
図15で示すように感知層15b(SnO2感知層)は感知電極層15a(Pt/Ta層)と電気絶縁層14(SiO2絶縁層)の両方の上に形成されることがわかるが、マイクロクラックのほとんどが電気絶縁層14(SiO2絶縁層)上の感知層15b(SnO2感知層)に発生することが、本発明者による実験・開発の過程で知見された。
【0015】
また、僅かではあるが、感知電極層15a(Pt/Ta層)上の感知層15b(SnO2感知層)にマイクロクラックが認められるが、このようなマイクロクラックも詳細に調べるとマイクロクラックの起点は電気絶縁層14(SiO2絶縁層)上の感知層15b(SnO2感知層)にあることも判明している。
さらにまた、感知層15b(SnO2感知層)の下地である電気絶縁層14(SiO2絶縁層)からの剥離部の一部は必ずマイクロクラックで終端していることも判明している。
【0016】
このようなマイクロクラックが発生する原因としては、感知層15b(SnO2感知層)、電気絶縁層14(SiO2絶縁層)、または、感知電極層15a(Pt/Ta層)の材質の差異にあると予想される。次表にSnO2、SiO2、Ptの線膨張係数を示す。
【0017】
【表1】
【0018】
表1は材料のバルク値である。薄膜ガスセンサではPtはTaを介して下地であるSiO2と密着しており単純ではないが、SnO2との線膨張係数の差異から考えるとSnO2−Pt間の方がSnO2−SiO2間より若干大きい。線膨張係数の差異からだけでマイクロクラックが電気絶縁層14(SiO2絶縁層)上の感知層15b(SnO2感知層)に発生する原因を説明できない。
【0019】
SnO2との密着性ではSnO2−SiO2が優れており、下地が硬くかつ強度の高い電気絶縁層14(SiO2絶縁層)上では線膨張係数の差異を感知層15b(SnO2感知層)にマイクロクラックを発生させることで緩和していると推定される。
また純Ptは比較的柔らかい金属でありSnO2−Pt間の線膨張係数の差異をある程度吸収できるなどを考慮した場合、Pt⇔450℃の熱衝撃で、感知電極層15a(Pt/Ta層)上の感知層15b(SnO2感知層)は、純Ptが変形することで線膨張係数の差異を吸収しているためマイクロクラックが発生しないと推定される。
これらの点を考慮して、マイクロクラックが電気絶縁層14(SiO2絶縁層)上の感知層15b(SnO2感知層)に発生するメカニズムを以下のように推定した。
【0020】
(1)ヒーター層13のON/OFFによる昇温/降温でSnO2感知層/SiO2絶縁層が熱膨張/収縮する。
(2)両者の熱膨張率の差異による応力に伴い、SnO2感知層/SiO2絶縁層界面の最も弱い部分の結合が切れる。
(3)その部分を起点としてSnO2感知層/SiO2絶縁層界面の剥離が伝播し、剥離部分が拡大する。
(4)剥離部分の拡大により膜の上下方向のせん断力でマイクロクラックに発展する。
【0021】
このようにして発生するマイクロクラック対策が必要である。マイクロクラックに関する先行技術について説明する。先に掲げた特許文献1ではアルミナ基板上へ直接酸化錫スラリーを印刷・焼成して電極を形成した厚膜方式での一酸化炭素ガスセンサの製造技術が公開されている。
【0022】
また、特許文献2(特開平9−210944号公報)では、ヒータと感知部との間に間隙を配置する構成が開示されている。
【0023】
また、非特許文献1(電学論E,124巻12号、2004年 476,477ページ)にセンサ薄膜と密着性改善などの観点より多結晶アルミナをマイクロブリッジとして、SnO2などのセンサ層を積層した薄膜センサ製造技術が開示されている。
【0024】
また、非特許文献2(Zhenan Tang et al., Investigation and control of microcracks in tin oxide gas sensing thin-films, Sensors and Actuators B 79 (2001) 39-47)において、センサ薄膜に発生するマイクロクラックの数と、下地薄膜材料との関係を調べた結果が示されている。発生するマイクロクラックの数は、下地薄膜材料がSi3N4>SiO2>PSGの順に少なくなることを示している。理由は膜の硬度、平坦性などで説明しているが明確には分かっておらず、SnO2センサ薄膜の下地の物性との相関を示唆しており、SnO2/下地層界面に膨張係数差に伴う大きな応力が発生し、SnO2薄膜のマイクロクラックの原因になっていることは間違いない。上記先行技術のいずれにおいても、非特許文献2の筆者らが目標としているセンサ性能には達しない。
このように従来技術ではマイクロクラック対策が十分ではない状態であった。
【0025】
【特許文献1】特開平5−240820号公報
【特許文献2】特開平9−210944号公報
【非特許文献1】電気学会論文誌E,124巻12号、2004年 476,477ページ
【非特許文献2】Zhenan Tang et al., Investigation and control of microcracks in tin oxide gas sensing thin-films, Sensors and Actuators B 79 (2001) 39-47
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
先に述べたように、上記問題の端緒となる感知層15b(SnO2感知層)の剥離は、電気絶縁層14(SiO2絶縁層)上で発生しており、感知電極層15a(Pt/Ta層)上では発生していない。これは、SnO2とPtの密着性が、SnO2とSiO2の密着性よりも高く発生する応力に差が生じるためであると推察される。そこで、SiO2絶縁層とSnO2との間の応力を緩和して応力差を吸収するか、または、より密着結合させて密着性に差がないようにするかして、強度を増す必要がある。
【0027】
そこで、本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、簡易な構成にて電気絶縁層と感知層との応力変化による影響を回避し、マイクロクラックの発生を抑止するようにした薄膜ガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
このような本発明の請求項1に係る薄膜ガスセンサは、
貫通孔を有するSi基板と、
この貫通孔の開口部に張られるダイアフラム様の熱絶縁支持層と、
熱絶縁支持層上に設けられるヒーター層と、
熱絶縁支持層およびヒーター層を覆うように設けられる電気絶縁層と、
電気絶縁層上に設けられる安定化層と、
安定化層上に設けられるガス感知層と、
を備え、
安定化層の変形により電気絶縁層とガス感知層との応力変化を吸収することを特徴とする。
【0029】
また、本発明の請求項2に係る薄膜ガスセンサは、
請求項1に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ガス感知層は、
一対の感知電極層と、
一対の感知電極層を渡されるように安定化層上に設けられる感知層と、
感知層の表面に設けられ、触媒を担持した焼結材のガス選択燃焼層と、
を備え、
ガス感知層の感知層と電気絶縁層との応力変化を、安定化層の変形により吸収することを特徴とする。
このうちガス選択燃焼層は、Pd(パラジウム)および/またはPt(白金)を触媒として担持したAl2O3焼結材による層であることが好ましい。また、感知層は、二酸化スズ層であることが好ましい。一対の感知電極層は電気絶縁層上または安定化層上に配置される。
【0030】
また、本発明の請求項3に係る薄膜ガスセンサは、
請求項1または請求項2に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、部分安定化ジルコニア薄膜中間層であることを特徴とする。
【0031】
また、本発明の請求項4に係る薄膜ガスセンサは、
請求項3に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記部分安定化ジルコニア薄膜中間層は、厚みが50nm〜500nmであることを特徴とする。
【0032】
また、本発明の請求項5に係る薄膜ガスセンサは、
請求項3または請求項4に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記部分安定化ジルコニア薄膜中間層には、安定化剤としてY2O3、MgO、CaOの少なくとも一つが添加されていることを特徴とする。
【0033】
また、本発明の請求項6に係る薄膜ガスセンサは、
請求項5に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記部分安定化ジルコニア薄膜中間層は、ジルコニアに対して安定化剤の濃度を1mol%から5mol%まで添加して形成した層であることを特徴とする。
【0034】
また、本発明の請求項7に係る薄膜ガスセンサは、
請求項1または請求項2に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、ジルコニア高靭化セラミックス(Zirconia Toughened Ceramics)薄膜中間層であることを特徴とする。
【0035】
また、本発明の請求項8に係る薄膜ガスセンサは、
請求項7に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化セラミックス薄膜中間層は、アルミナマトリックス中へジルコニアを分散したジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層であることを特徴とする。
【0036】
また、本発明の請求項9に係る薄膜ガスセンサは、
請求項8に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層におけるジルコニアは、正方ジルコニア多結晶体(Tetoragonal Zirconia Polycrystals)であることを特徴とする。
【0037】
また、本発明の請求項10に係る薄膜ガスセンサは、
請求項8または請求項9に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層は、厚みが10nm〜1000nmであることを特徴とする。
【0038】
また、本発明の請求項11に係る薄膜ガスセンサは、
請求項8〜請求項10の何れか一項に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層は、アルミナに対する正方ジルコニア多結晶体の濃度を0.1mol%から5mol%として形成した層であることを特徴とする。
【0039】
また、本発明の請求項12に係る薄膜ガスセンサは、
貫通孔を有するSi基板と、
この貫通孔の開口部に張られるダイアフラム様の熱絶縁支持層と、
熱絶縁支持層上に設けられるヒーター層と、
熱絶縁支持層およびヒーター層を覆うように設けられる電気絶縁層と、
電気絶縁層上に設けられる安定化層と、
安定化層上に設けられるガス感知層と、
を備え、
安定化層を電気絶縁層とガス感知層とに密着結合させることにより、電気絶縁層とガス感知層との応力変化を回避することを特徴とする。
【0040】
また、本発明の請求項13に係る薄膜ガスセンサは、
請求項12に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ガス感知層は、
一対の感知電極層と、
一対の感知電極層を渡されるように設けられる感知層と、
感知層の表面に設けられ、触媒を担持した焼結材のガス選択燃焼層と、
を備え、
ガス感知層の感知層と電気絶縁層とに安定化層を密着結合させることにより、ガス感知層の感知層と電気絶縁層との応力変化を回避することを特徴とする。
このうちガス選択燃焼層は、Pd(パラジウム)および/またはPt(白金)を触媒として担持したAl2O3焼結材による層であることが好ましい。また、感知層は、二酸化スズ層であることが好ましい。一対の感知電極層は電気絶縁層上または安定化層上に配置される。
【0041】
また、本発明の請求項14に係る薄膜ガスセンサは、
請求項12または請求項13に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、島状PtからなるPt薄膜中間層であることを特徴とする。
【0042】
また、本発明の請求項15に係る薄膜ガスセンサは、
請求項14に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記Pt薄膜中間層である島状のPtは粒径5nm以下のPtを用いて形成された層であることを特徴とする。
【0043】
また、本発明の請求項16に係る薄膜ガスセンサは、
請求項12または請求項13に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、Ptを添加したSnO2からなるPt薄膜中間層であることを特徴とする。
【0044】
また、本発明の請求項17に係る薄膜ガスセンサは、
請求項16に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記Pt薄膜中間層は、膜厚10nm以下であることを特徴とする。
【0045】
また、本発明の請求項18に係る薄膜ガスセンサは、
請求項12または請求項13に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、SnO−SiO2ガラス薄膜層中間層であることを特徴とする。
【0046】
また、本発明の請求項19に係る薄膜ガスセンサは、
請求項18に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記SnO−SiO2ガラス薄膜中間層は、厚みが10nm〜1000nmであることを特徴とする。
【0047】
また、本発明の請求項20に係る薄膜ガスセンサは、
請求項18または請求項19に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記SnO−SiO2ガラス薄膜中間層は、SiO2 に対してSnOの濃度が20〜80wt%として形成した層であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0048】
以上のような本発明によれば、簡易な構成にて電気絶縁層と感知層との応力変化による影響を回避し、マイクロクラックの発生を抑止するようにした薄膜ガスセンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、本発明を実施するための最良の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図1は本形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。図2は薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。図3は安定化層の説明図であり、図3(a)は応力がかかる前の状態図、図3(b)は応力がかかった後の状態図である。
【0050】
本形態の薄膜ガスセンサ1は、図1で示すように、シリコン基板(以下Si基板)11、熱絶縁支持層12、ヒーター層13、電気絶縁層14、ガス感知層15、安定化層16を備える。熱絶縁支持層12は、詳しくは、SiO2層12a、CVD−SiN層12b、CVD−SiO2層12cの三層構造となっている。また、ガス感知層15は、詳しくは、感知電極層15a、感知層15b、ガス選択燃焼層15cを備える。
【0051】
この感知層15bは、二酸化スズ層(以下、SnO2感知層)であり、ガス選択燃焼層15cはパラジウム(Pd)または白金(Pt)の少なくとも一つを触媒として担持したアルミナ焼結材(以下、触媒担持Al2O3焼結材)である。
ガス感知層15は、一対の感知電極層15a,15aの一部、SnO2感知層である感知層15bの表面全体を、ガス選択燃焼層15cが覆う構造としている。
【0052】
続いて各部構成について説明する。
Si基板11は、シリコン(Si)により、貫通孔を有するように形成される。
熱絶縁支持層12は、この貫通孔の開口部に張られてダイアフラム様に形成されており、Si基板11の上に設けられる。
【0053】
熱絶縁支持層12は、詳しくは、SiO2層12a、CVD−SiN層12b、CVD−SiO2層12cの三層構造となっている。
SiO2層12aは熱絶縁層として形成され、ヒーター層13で発生する熱をSi基板11側へ熱伝導しないようにして熱容量を小さくする機能を有する。また、このSiO2層12aはプラズマエッチングに対して高い抵抗力を示し、後述するがプラズマエッチングによるSi基板11への貫通孔の形成を容易にする。
CVD−SiN層12bは、SiO2層12aの上側に形成される。
CVD−SiO2層12cは、ヒーター層13との密着性を向上させるとともに電気的絶縁を確保する。CVD(化学気相成長法)によるSiO2層は内部応力が小さい。
【0054】
ヒーター層13は、Ta/PtW/Taヒータであって、熱絶縁支持層12の上面に設けられる。また、図示しない電源供給ラインも形成される。
電気絶縁層14は、電気的に絶縁を確保するSiO2絶縁層からなり、熱絶縁支持層12およびヒーター層13を覆うように設けられる。ヒーター層13と感知電極層15aとの間に電気的な絶縁を確保する。
【0055】
安定化層16は、電気絶縁層14上に設けられ、詳しくは部分安定化ジルコニア薄膜中間層である。
なお、図1では感知電極層15aの下側にも安定化層16を設けているが、感知電極層15aの下側は安定化層16がなく直接に電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と接するようにしてもかまわない。
【0056】
感知電極層15aは、安定化層16(あるいは電気絶縁層14)の上に設けられ、例えば、Pt膜(白金膜)またはAu膜(金膜)であり、感知層15bの感知電極となるように左右一対に設けられる。この感知電極層15aは、例えば、Ta膜(タンタル膜)またはTi膜(チタン膜)という接合強度を高める機能を有する接合層を感知電極層15aと安定化層16(あるいは電気絶縁層14)との間に介在させるようにしても良い。本形態ではTa膜による接合層を介在させてPt膜を形成した感知電極層15aであるものとして以下に説明する。
【0057】
ガス感知層15bは、SnO2感知層からなり、一対の感知電極層15a,15aの間を渡されるように安定化層16の上に形成される。
【0058】
ガス選択燃焼層15cは、先に説明したように触媒担持Al2O3焼結材である。主成分であるAl2O3は多孔質体であるため、孔を通過する検知ガスが触媒(Pd,Ptの少なくとも一つ)に接触する機会を増加させて燃焼反応を促進させる。
このような薄膜ガスセンサ1はダイアフラム構造により高断熱,低熱容量の構造としている。薄膜ガスセンサ1の構成はこのようなものである。
【0059】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサの製造方法について概略説明する。
まず、板状のシリコンウェハー(図示せず)に対して熱酸化法により表裏両面に熱酸化を施して厚さ0.3μmの熱酸化膜を形成する。一方の面はSiO2層12aとなる。
そして、SiO2層12aを形成した面にCVD−SiN膜をプラズマCVD法にて堆積して厚さ0.15μmのCVD−SiN層12bを形成する。そして、このCVD−SiN層12bの上面にCVD−SiO2膜をプラズマCVD法にて堆積して厚さ1μmのCVD−SiO2層12cを形成する。これらSiO2層12a、CVD−SiN層12b、CVD−SiO2層12cは、ダイアフラム構造の支持層となる。
【0060】
さらに、CVD−SiO2層12cの上面にTa/PtW/Taヒータであるヒーター層13を形成する。
ヒーター層13の形成についてであるが、まず、CVD−SiO2層12cの上に接合層としてTaを0.05μm形成する。次に、ヒーター層13となるPtW(Pt+4Wt%W)膜を0.5μm形成する。さらに、上側の面にも接合層としてTaを0.05μm形成する。このような、Ta/PtW/Ta層に対して微細加工によりヒータパターンを形成することとなる。ヒータパターンの形成では、ウェットエッチングのエッチャントとしてTaには水酸化ナトリウムと過酸化水素混合液を、また、Ptには王水を、それぞれ90℃に加熱して用いた。
【0061】
そして、このCVD−SiO2層12cとヒーター層13との上面にスパッタSiO2膜をスパッタリング法により蒸着して、厚さ1.0μmのスパッタSiO2層である電気絶縁層14を形成する。そして、導通の確保とワイヤボンディング性とを向上させるため、微細加工によりヒータの電極パッド部分(図示せず)をHFにてエッチングして窓開け後、上側の接合層であって外界へ露出されているTaを水酸化ナトリウムと過酸化水素混合液とで除去し、ヒーター層13のPtWを外部へ露出させる。
【0062】
そして、電気絶縁層14上に部分安定化ジルコニアをスパッタ蒸着して安定化層16を形成する。具体的には電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と感知層15b(SnO2感知層)の間に厚みが50nm〜500nmの部分安定化ジルコニア薄膜中間層を設けることで達成される。ジルコニアに添加される安定化剤としてはY2O3、MgO、CaOの少なくとも一つを用いることができる。
【0063】
このような部分安定化ジルコニア薄膜中間層の形成手順は以下に説明するようになる。
まず、電気絶縁層14上にレジストを塗布する。
次に、微細加工でSnO感知層である感知層15bや感知電極層15a,15a(あるいは感知層15bのみ)を形成する部分のレジストを除去/開口させる。
次に部分安定化ジルコニア薄膜をスパッタ成膜により形成する。ターゲットには安定化剤としてMgOを3mol%添加されたZrO2を用いた。なおMgOに変えてY2O3、あるいはCaOを安定化剤として用いてもよい。部分安定化ジルコニア薄膜の成膜条件はパワー200W、圧力1Pa、Ar+O2中、温度100℃であり膜厚は300nmである。スパッタされた部分の安定化ジルコニア薄膜中のMgO濃度は2.4mol%であった。
次にチャンバーからウェハーを取り出しレジスト剥離液を用いてレジストのリフトオフを行った。これによりレジストとともに不要な部分安定化ジルコニア薄膜が剥離し、電気絶縁層14に直接成膜されていた箇所の部分安定化ジルコニア薄膜のみ残り、これが部分安定化ジルコニア薄膜中間層となる。
【0064】
なお、安定化剤の濃度は3mol%、膜厚は300nmであると説明したが、これに限定されるものではない。
安定化剤の濃度は<1mol%ではマトリックスの立方晶濃度が低すぎるため、また、>5mol%では立方晶濃度が高すぎるため、いずれも十分な効果が得られない。また膜厚が<50nmでは応力緩和が薄すぎるため2000万回の昇降温回数に耐えきれない薄膜ガスセンサが発生し、また、>500nmでは安定化ジルコニア薄膜の熱伝導による放熱が無視できなくなり電池駆動するには適さなくなる。結論としてジルコニアへの混合比率は1〜5mol%、また、膜厚は50nm〜500nmがよい。
【0065】
このようにして形成した安定化層16の上(あるいは電気絶縁層14の上)に感知電極層15aを形成する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、通常のスパッタリング法によって行う。まず、厚さ0.05μm接合層(Ta)を形成し、この接合層の上に、厚さ0.2μmの感知電極層(Pt)15aを形成する。成膜条件は共に、Arガス(アルゴンガス)圧力1Pa、成膜温度100℃、100Wである。
さらに微細加工により検出線パターンを形成する。ウエットエッチングのエッチャントとしてPtには王水をTaには水酸化ナトリウムと過酸化水素混合液、それぞれ90℃に加熱して用いた。
【0066】
次に、これら一対の感知電極層15a,15aの間に渡されるように安定化層16の上にSnO2感知層がスパッタリング法により蒸着され、感知層15bが形成される。
SnO2感知層は安定化ジルコニア薄膜と同様にレジストリフトオフ法により形成する。具体的には以下のような工程で形成する。
【0067】
まず、レジストを全面に塗布する。
次に微細加工で一対の感知電極層15a,15a上およびその一対の感知電極層15a,15a間の感知層15bを形成する部分のレジストを除去/開口する。
次にスパッタ成膜で感知層15b(SnO2感知層)をスパッタ成膜により形成する。SnO2感知層の成膜条件は100W、1Pa、Ar+O2中、成膜温度100℃である。成膜後レジストのリフトオフを行う。リフトオフ後は図2で示すような状態である。
【0068】
そして一対の感知電極層15a,15aおよび感知層15bの表面には、ガス選択燃焼層15cが形成される。このガス選択燃焼層15cは、触媒(PdまたはPtの少なくとも一つ)を担持したアルミナ粉末、アルミゾルバインダおよび有機溶剤を混合調製した印刷ペーストをスクリーン印刷で印刷し、室温で乾燥後、500℃で1時間焼き付けして約30μm厚の選択燃焼層(触媒フィルター)を形成している。このガス選択燃焼層15cの大きさは、感知層15bを十分に覆えるようにする。このようにスクリーン印刷により厚みを薄くしている。このガス選択燃焼層15cにより、ガスセンサの感度、ガス種選択性、信頼性が向上する。
【0069】
最後にシリコンウェハー(図示せず)の裏面から微細加工プロセスとしてドライエッチングによりシリコンを除去して貫通孔を形成してSi基板11とし、400μm径の貫通孔および開口部が形成されたダイヤフラム構造の薄膜ガスセンサを形成する。そして、ヒーター層13および感知電極層15aは図示しない駆動・処理部と電気的に接続される。
薄膜ガスセンサ1の製造方法はこのようになる。
【0070】
このようにして形成した部分安定化ジルコニア薄膜中間層の線膨張係数は8〜9×10−6/Kであり電気絶縁層14(SiO2絶縁層)の線膨張係数0.5×10−6/Kより相当大きくPt感知層電極である感知電極層15aに近い。従って部分安定化ジルコニア薄膜中間層とSnO2感知層との線膨張係数の差異は、Pt感知層電極とSnO2感知層との線膨張係数の差異と同程度になる。RT⇔450℃の熱衝撃で、部分安定化ジルコニア薄膜と下地のSiO2絶縁層との間には膨張係数の差異に応じた大きな応力が発生する。また部分安定化ジルコニア薄膜とSnO2感知層との間には、部分安定化ジルコニア薄膜と下地のSiO2絶縁層との間に発生する応力ほどではないが、やはり線膨張係数の差異により応力が発生する。
【0071】
しかしながら、図3(a)に示すように部分安定化ジルコニアは安定化剤で安定化された立方晶マトリックス中、安定化剤不足のため正方晶が混在している。応力がかかると、図3(b)で示すように、正方晶の一部が斜方晶に転移し応力緩和がなされる。転移時に図示はしないが斜方晶/正方晶界面にマイクロクラックが発生する。再度応力が発生すると更に正方晶の一部が斜方晶に転移し応力緩和がなされる。発生したマイクロクラックのジルコニア薄膜全体への伝播は斜方晶/正方晶界面のマイクロクラックでブロックされることとなる。
【0072】
部分安定化ジルコニア薄膜中間層は上記の応力緩和機構を有するため、RT⇔450℃の熱衝撃による応力(SnO2感知層/部分安定化ジルコニア薄膜中間層、部分安定化ジルコニア薄膜中間層/SiO2絶縁層)は部分安定化ジルコニア薄膜中間層で吸収され、SnO2感知層のマイクロクラックの発生が防止される。従って長時間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。また、部分安定化ジルコニア薄膜は絶縁性が高くしかも比較的熱伝導率も低いため、センサの特性にはなんら影響を与えることがない。
【0073】
続いて本形態の薄膜ガスセンサ1の性能について検証する。本形態の薄膜ガスセンサを素子Aとする。更に比較のため部分安定化ジルコニア薄膜中間層のない従来技術の薄膜ガスセンサ(図15で示されたもの)を素子Bとする。次表は素子A(本形態)と素子B(従来技術)の諸特性を比較する表である。
【0074】
【表2】
【0075】
素子A(本形態)と素子B(従来技術)を各5個ずつ大気中でパルス通電(試験条件:3V/50mW、通電100msecON/1secOFF(通電時ヒーター温度450℃))を500、1000、2000万回繰り返した後の20℃、60%RHでの2000ppmCH4/空気中における感知層15b(SnO2感知層であり、センサ温度が450℃である)の抵抗値の変化を示したものである。
【0076】
表2から示されるように、素子A(本形態)は5個とも2000万回繰り返した後も2000ppmCH4/空気中におけるSnO2感知層(センサ温度450℃)の抵抗値がほとんど変化していないことが分かる。
一方、素子B(従来技術)の感知層電極の素子においては、センサの抵抗値の変化が大きい素子(素子B4,素子B5など)が発生した。2000万回のon−offを繰り返した後でも、部分安定化ジルコニア薄膜中間層を設けた素子Aではセンサ抵抗変化がほとんどなく高い信頼性を有することがわかる。
【0077】
本発明の素子Aと、従来素子のうち抵抗変化が大きく変化した素子Bとについてそれぞれガス選択燃焼層15cを剥離し感知層15b(SnO2感知層)を金属顕微鏡で観察した。本発明の素子AではSnO2感知層にマイクロクラックが全く観察されなかったが、抵抗値が大きく上昇した従来技術による素子Bでは電気絶縁層14(SiO2絶縁層)上に多数のマイクロクラックが認められた。
【0078】
以上説明したように、SiO2絶縁層とSnO2感知層の間に部分安定化ジルコニア薄膜中間層を設けることで、その応力緩和機構により、RT⇔450℃の熱衝撃による応力(SnO2感知層/部分安定化ジルコニア薄膜中間層、部分安定化ジルコニア薄膜中間層/SiO2絶縁層)は、全て部分安定化ジルコニア薄膜中間層で応力が吸収(正方晶→斜方晶転移による応力緩和)され、SnO2感知層にはマイクロクラックの発生が防止される。従って長期間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、長期間安定した抵抗値(センサ特性)を保持し、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。
【0079】
続いて、他の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図4は他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。図5は薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。図6は安定化層の説明図であり、図6(a)は応力がかかる前の状態図、図6(b)は応力がかかった後の状態図である。
【0080】
本形態の薄膜ガスセンサは、図4で示すように、シリコン基板(以下Si基板)11、熱絶縁支持層12、ヒーター層13、電気絶縁層14、ガス感知層15、安定化層17を備える。熱絶縁支持層12は、詳しくは、SiO2層12a、CVD−SiN層12b、CVD−SiO2層12cの三層構造となっている。また、ガス感知層15は、詳しくは、感知電極層15a、感知層15b、ガス選択燃焼層15cを備える。
【0081】
この感知層15bは、SnO2感知層であり、ガス選択燃焼層15cは触媒担持Al2O3焼結材である。
ガス感知層15は、一対の感知電極層15a,15aの一部、感知層15bの表面全体を、ガス選択燃焼層15cが覆う構造としている。
【0082】
図1〜図3を用いて説明した先の形態では、大きな応力が発生するSnO2/下地層界面に、応力吸収機能を有する安定化層として部分安定化ジルコニア薄膜中間層を採用したものである。しかしながら、実用上は問題のないことと確認されているが、部分安定化ジルコニアは線膨張係数が10〜11×10−6/Kとやや大きく、若干熱衝撃に弱い面がある。そこで、本形態では、部分安定化ジルコニア薄膜中間層に代えて、新たにジルコニア高靭化セラミックス薄膜中間層で、好ましくはジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を採用し、さらなる性能向上を図るものである。
以下、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層について重点的に説明するとともに、これ以外は図1〜図3で説明した薄膜ガスセンサ1の構成と同じであるため、他の構成は同じ符号を付すとともに重複する説明を省略する。
【0083】
図4で示すように、安定化層17は、電気絶縁層14上に設けられ、詳しくはジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層である。感知電極層15aや感知層15bは、この安定化層17の上に設けられることとなる。
なお、図4では感知電極層15aの下側にも安定化層17を設けているが、感知電極層15aの下側は安定化層17がなく直接に電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と接するようにしてもかまわない。
【0084】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサの製造方法のうち、安定化層17の形成について概略説明する。電気絶縁層14上にジルコニア高靭化セラミックス(Zirconia Toughened Ceramics)をスパッタ蒸着して安定化層17を形成する。具体的には電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と感知層15b(SnO2感知層)の間に厚みが10nm〜1000nmのジルコニア高靭化セラミックス(Zirconia Toughened Ceramics)薄膜中間層を設けることで達成される。ジルコニア高靭化セラミックス薄膜中間層で採用されるセラミクスについては各種考えられるが、好ましくはアルミナマトリックス中へジルコニアを分散したジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層であり、更に具体的には、ジルコニアが正方ジルコニア多結晶体(Tetoragonal Zirconia Polycrystals)であるようなジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を設けることで達成される。正方ジルコニア多結晶体はY2O3、MgO、CaOなどの安定化剤を含まないZrO2でありいわゆる一般のジルコニア粉末である。正方ジルコニア多結晶体のアルミナマトリックスへの混合比率は0.1〜5mol%がよい。
薄膜ガスセンサ1では下地となる電気絶縁層14(SiO2絶縁層)との線膨張係数の差異が大きい安定化層17(ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層)を介して感知層15b(SnO2感知層)が積層された構造となる。
【0085】
このようなジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層の形成手順は以下に説明するようになる。
まず、電気絶縁層14上にレジストを塗布する。
次に、微細加工でSnO感知層である感知層15bや感知電極層15a,15a(あるいは感知層15bのみ)を形成する部分のレジストを除去/開口させる。
次にジルコニア高靭化アルミナ薄膜をスパッタ成膜により形成する。ターゲットにはZrO2微粒子を3mol%含むAl2O3(ジルコニア高靭化アルミナ)を用いた。ジルコニア高靭化アルミナ薄膜の成膜条件はパワー300W、圧力1Pa、Ar+O2中、温度100℃であり膜厚は500nmである。スパッタ成膜したジルコニア高靭化アルミナ中のZrO2濃度は2.8mol%であり、微粒子としてアルミナマトリックス中へ分散していることがSEM−EDXで確認できている。
次にチャンバーからウェハーを取り出しレジスト剥離液を用いてレジストのリフトオフを行った。これによりレジストとともに不要なジルコニア高靭化アルミナ薄膜が剥離し、電気絶縁層14に直接成膜されていた箇所のジルコニア高靭化アルミナ薄膜が、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層となる。
そして、安定化層17上に一対の感知電極層15a,15a、感知層15bが形成されて図5で示すような状態となる(あるいは安定化層17上に感知層15bのみ形成される)。
【0086】
なお、正方晶ZrO2濃度は3mol%、膜厚は500nmであると説明したが、これに限定されるものではない。
ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中の正方晶ZrO2濃度は<0.1mol%では高靭化効果が低すぎるため、また、>10mol%ではアルミナマトリックスの強度が低下するため十分な効果が得られない。また膜厚が<10nmでは応力緩和層が薄すぎるため2000万回の昇降温回数に耐えられない素子が発生し、また、>1000nmではジルコニア高靭化アルミナ薄膜の熱伝導による放熱が無視できなくなり、電池駆動するには適さなくなる。結論として0.1〜5mol%、また、膜厚は10nm〜1000nmがよい。
以下、ガス感知層15は先に説明した方法と同じ方法で形成されることとなる。
【0087】
このように形成したジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層の線膨張係数は6〜7×10−6/Kであり電気絶縁層14(SiO2絶縁層)の線膨張係数0.5×10−6/Kより相当大きくSnO2感知層とPt感知層電極の中間的な値である。線膨張係数が小さいので、耐熱衝撃性は先に説明した部分安定化ジルコニア薄膜中間層より優れている。またSnO2感知層との接合強度に関しても部分安定化ジルコニア薄膜中間層より向上する。RT⇔450℃の熱衝撃で、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層と下地のSiO2絶縁層との間には、膨張係数の差異により大きな応力が発生する。また、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層とSnO2感知層の間には、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜と下地のSiO2絶縁層との間に発生する応力ほどではないが、やはり線膨張係数の差異により応力が発生する。
【0088】
しかしながら、図6(a)に示すようにジルコニア高靭化アルミナ薄膜中には、アルミナマトリックス中に正方ジルコニア多結晶体(正方晶ジルコニア)粒子が均一に存在してる。RT⇔450℃の繰り返しで、下地SiO2あるいは被覆したSnO2との線膨張係数の差異に応じた応力がジルコニア高靭化アルミナ薄膜にかかると、図6(b)に示すように正方晶ジルコニアの一部が単斜晶に転移することで応力を吸収し応力緩和が成される。
【0089】
すなわち準安定な正方晶ジルコニア粒子は外部からの応力に誘起されて、より安定な準安定な単斜晶ジルコニアにマルテンサイト変態し、それに伴って約4.6%の体積膨張とせん断歪を起こす。この体積膨張によってクラックを締め付ける「転移強化」が高靭化の主原因である。これに加えて「マイクロクラックの伝播阻止」などの効果があり、SnO2/SiO2界面に発生する大きな応力をジルコニア高靭化アルミナ薄膜中で緩和する。
繰り返し応力が発生すると更に正方晶の一部が単斜晶に転移し応力緩和がなされる。発生したマイクロクラックのジルコニア薄膜全体への伝播は単斜晶/正方晶界面のマイクロクラックでブロックされる。
【0090】
ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層は上記の応力緩和機構を有するため、RT⇔450℃の熱衝撃による応力(SnO2感知層/ジルコニア高靭化アルミナ薄膜/SiO2絶縁層)は全てジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層で吸収され、SnO2感知層のマイクロクラックの発生が防止される。従って長期間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。またジルコニア高靭化アルミナ薄膜は絶縁性が高いため、センサの特性にはなんら影響を与えることがない。
【0091】
続いて本形態の薄膜ガスセンサ1の性能について検証する。本形態の薄膜ガスセンサを素子Aとする。更に比較のためジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層のない従来技術の薄膜ガスセンサ(図15で示されたもの)を素子Bとする。次表は素子A(本形態)と素子B(従来技術)との諸特性を比較する表である。
【0092】
【表3】
【0093】
素子A(本形態)と素子B(従来技術)を各5個ずつ大気中でパルス通電(試験条件:3V/50mW、通電100msecON/1secOFF(通電時ヒーター温度450℃))を500、1000、2000万回繰り返した後の20℃、60%RHでの2000ppmCH4/空気中における感知層15b(SnO2感知層であり、センサ温度が450℃である)の抵抗値の変化を示したものである。
【0094】
表3から示されるように、素子A(本形態)は5個とも2000万回繰り返した後も2000ppmCH4/空気中におけるSnO2感知層(センサ温度450℃)の抵抗値がほとんど変化していないことが分かる。
【0095】
一方、素子B(従来技術)の感知層電極の素子においては、センサの抵抗値の変化が大きい素子(素子B4,素子B5)が発生した。2000万回のon−offを繰り返し後でも、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を設けた素子Aではセンサ抵抗変化がほとんどなく高い信頼性を有することがわかる。
【0096】
本発明の素子と従来素子で抵抗変化が大きく変化した素子についてそれぞれガス選択燃焼層15cを剥離し感知層15b(SnO2感知層)を金属顕微鏡で観察した。本発明の素子ではSnO2感知層にマイクロクラックが全く観察されなかったが、抵抗値が大きく上昇した従来素子ではSiO2絶縁層上に多数のマイクロクラックが認められた。
【0097】
以上説明したように、SiO2絶縁層とSnO2感知層との間にジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を設けることで、その応力緩和機構により、RT⇔450℃の熱衝撃による応力(SnO2感知層/ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層/SiO2絶縁層)は、全てジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層で吸収(正方晶→斜方晶/単斜晶転移による応力緩和)され、SnO2感知層にはマイクロクラックの発生が防止される。従って長期間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、長期間安定した抵抗値(センサ特性)を維持し、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。
【0098】
続いて、他の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図7は他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。図8は薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。
【0099】
本形態の薄膜ガスセンサ1は、図7で示すようにシリコン基板(以下Si基板)11、熱絶縁支持層12、ヒーター層13、電気絶縁層14、ガス感知層15、安定化層18を備える。熱絶縁支持層12は、詳しくは、SiO2層12a、CVD−SiN層12b、CVD−SiO2層12cの三層構造となっている。また、ガス感知層15は、詳しくは、感知電極層15a、感知層15b、ガス選択燃焼層15cを備える。
【0100】
この感知層15bはSnO2感知層であり、ガス選択燃焼層15cは触媒担持Al2O3焼結材である。
ガス感知層15は、一対の感知電極層15a,15aの一部、感知層15bの表面全体を、ガス選択燃焼層15cが覆う構造としている。
【0101】
図1〜図6を用いて説明した先の形態では安定化層として部分安定化ジルコニア薄膜中間層やジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を採用しているが、本形態では、新たに島状のPtあるいはPtを添加したSnO2であるPt薄膜中間層を採用して、SiO2絶縁層上でもPt電極上と同程度の密着性が得られるようにした点が相違するものである。以下、島状のPt、あるいは、Ptを添加したSnO2であるPt薄膜中間層について重点的に説明するとともに、これ以外は図1〜図3を用いて説明した薄膜ガスセンサの構成と同じであるため、他の構成は同じ符号を付すとともに重複する説明を省略する。
【0102】
安定化層18は、電気絶縁層14上に設けられ、詳しくは島状のPt、あるいは、Ptを添加したSnO2であるPt薄膜中間層である。感知層15bは、この安定化層18の上に設けられることとなる(図8参照)。
【0103】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサの製造方法のうち、安定化層の形成について概略説明する。感知電極層15a,15aが電気絶縁層14上に形成されているものとする。続いて、感知電極層15a,15aの間で電気絶縁層14上に安定化層18を形成するが、島状のPtか、または、Ptを添加したSnO2層を形成する。以下、順次説明する。
第一形態として、島状のPtによる安定化層18について説明する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、通常のスパッタリング方法によって行う。成膜条件はAr+O2ガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー0.2W/cm2、膜厚は2nmである。Ptを島状に形成するために、RFパワーを抑え、低い成膜レートでスパッタリングする。膜厚(=粒径)が5nm未満では、Pt層はそれぞれが独立した島状組織であるが、膜厚が5nm以上になると、それぞれの島がつながった連続膜となり、感知電極層15aに導通が生じてしまいセンサ感度がなくなる。したがって、島状のPtの膜厚(=粒径)は0.1nmを超えて5nm未満である必要がある。
【0104】
第二形態として、Ptを添加したSnO2層による安定化層18について説明する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリング方法によって行う。ターゲットは、Pt15wt%を有するSnO2を用いる。成膜条件はAr+O2ガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー2W/cm2、膜厚は10nmである。Ptを添加したSnO2層は抵抗率が高く、膜厚が厚いとセンサ全体の抵抗値が高くなりすぎて実使用上で要求される100kΩ以下という基準を満たさなくなる。そこで、膜厚は0.1nmを超えて10nm以下である必要がある。
【0105】
以上のように島状のPtあるいはPtを添加したSnO2層である安定化層18を形成した後、感知層15bを形成する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリング方法によって行う。ターゲットは、Sbを0.5wt%を有するSnO2を用いる。成膜条件はAr+O2ガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー2W/cm2、膜厚は500nmである。
【0106】
このように構成しても感知層15b(SnO2感知層)でのマイクロクラックの発生が防止される。従って長期間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、長期間安定した抵抗値(センサ特性)が確保され、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。なお、図7では感知電極層15aの下側は安定化層18がなく直接に電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と接するようにしているが、感知電極層15aの下側にも安定化層18を設けるようにしても良い。
このように電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と感知層15b(SnO2感知層)との間に、島状のPtあるいはptを添加したSnO2層による安定化層18を設けることで、SiO2絶縁層上でのSnO2感知層の剥離を防止し、2000万回程度のヒートサイクルでも抵抗値変化のない、安定な薄膜ガスセンサを得ることができる。
【0107】
続いて、他の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図9は他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。図10は薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。
【0108】
本形態の薄膜ガスセンサは、図9で示すようにシリコン基板(以下Si基板)11、熱絶縁支持層12、ヒーター層13、電気絶縁層14、ガス感知層15、安定化層19を備える。熱絶縁支持層12は、詳しくは、SiO2層12a、CVD−SiN層12b、CVD−SiO2層12cの三層構造となっている。また、ガス感知層15は、詳しくは、感知電極層15a、感知層15b、ガス選択燃焼層15cを備える。
【0109】
この感知層15bは、SnO2感知層であり、ガス選択燃焼層15cは触媒担持Al2O3焼結材である。
ガス感知層15は、一対の感知電極層15a,15aの一部、感知層15bの表面全体を、ガス選択燃焼層15cが覆う構造としている。
【0110】
図1〜図6で示した先の形態では安定化層として部分安定化ジルコニア薄膜中間層やジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を採用し、マイクロクラックの発生を防止する提案を行っている。これらの技術の効果は有効であるものの、下地SiO2絶縁層とSnO2感知層にとって異種カチオンの組み合わせであり更なる密着性の向上が求められる。そこで、特に部分安定化ジルコニア薄膜中間層やジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層に代えて、新たに厚みが10nm〜1000nmのSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を採用した点が相違するものである。
【0111】
SnO−SiO2ガラス薄膜中間層は下地SiO2絶縁層とSnO2感知層の両方のカチオンを主成分として有する物質であり、両者との接合性が優れ、強い接合強度を有するためSnO2感知層および下地SiO2絶縁層間での剥離/マイクロクラックを生じさせない。
【0112】
この理由について説明する。
SiO2へのSnO2の密着性は、両者が酸化物同士であるため比較的よいと推定できるが、マイクロスクラッチ試験などで調べるとSiO2−SnO2の接合強度は比較的低く、しかも面内で接合強度に大きなばらつきがあることが判明した。そこで比較のため、SiO2上へSiO2を成膜し同様の試験を行いSiO2(基板)−SiO2(成膜)の密着性を評価すると、接合強度はSiO2−SnO2よりはるかに高くなる。SiO2(基板)−SiO2(成膜)界面ではSi−O−Siの結合であり、SiO2−SnO2界面ではSi−O−Snの結合で結合している。両者の差異は、SiO2(基板)−SiO2(成膜)では同種の元素(Si)間の酸素原子を介しての接合であり、SiO2−SnO2では異種の元素(SiとSn)間の酸素原子を介しての接合である。原因は明確ではないが、異種の異種カチオンの影響が大きいと推定される。
【0113】
従ってSi−O−Siの結合やSn−O−Snの結合が安定化層19になされれば、長期間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。またSnO−SiO2ガラス薄膜は絶縁性が高いため、センサの特性になんら影響を与えることがない。なおSnO−SiO2ガラスは特殊な組成のガラスであり、J.Carbo Nover And J.Williamson, Phys. Chem. Glasses, 8 [4] 166(1967)などに詳しい。
【0114】
以下、SnO−SiO2ガラス薄膜中間層による安定化層19について重点的に説明するとともに、これ以外は図1〜図3で説明した薄膜ガスセンサの構成と同じであるため、他の構成は同じ符号を付すとともに重複する説明を省略する。
【0115】
安定化層19は、電気絶縁層14上に設けられ、詳しくはSnO−SiO2ガラス薄膜中間層である。SnO−SiO2ガラス薄膜中間層は、SiO2絶縁層とSnO2感知層の間にを設けることで達成される。感知電極層15aや感知層15bは、この安定化層19の上に設けられることとなる。
なお、図9では感知電極層15aの下側にも安定化層19を設けているが、感知電極層15aの下側は安定化層19がなくて直接電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と接するようにしてもかまわない。
【0116】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサの製造方法のうち、安定化層19の形成について概略説明する。
電気絶縁層14上にSnO−SiO2ガラス薄膜中間層をスパッタして安定化層19を形成する。具体的には電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と感知層15b(SnO2感知層)の間に厚みが10nm〜1000nmのSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を設けることで達成される。
薄膜ガスセンサ1では下地となる電気絶縁層14(SiO2絶縁層)との線膨張係数の差異が大きいSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を介して感知層15b(SnO2感知層)が積層された構造となる。
【0117】
このようなSnO−SiO2ガラス薄膜中間層の形成手順は以下に説明するようになる。
まず、電気絶縁層14上にレジストを塗布する。
次に、微細加工でSnO感知層である感知層15bや感知電極層15a,15a(あるいは感知層15bのみ)を形成する部分のレジストを除去/開口させる。
次にSnO−SiO2ガラス薄膜をスパッタ成膜により形成する。ターゲットにはSnOを50wt%含むSnO−SiO2ガラスターゲットを用いた。SnO−SiO2ガラス薄膜の成膜条件はパワー300W、圧力1Pa、Ar+O2中、温度100℃であり膜厚は500nmである。スパッタ成膜したSnO−SiO2ガラス薄膜中のSnO濃度は55wt%であった。
次にチャンバーからウェハーを取り出し、レジスト剥離液を用いてレジストのリフトオフを行った。これによりレジストとともに不要なSnO−SiO2ガラス薄膜中間層が剥離し、電気絶縁層14に直接成膜されていた箇所のSnO−SiO2ガラス薄膜のみ残り、これがSnO−SiO2ガラス薄膜中間層となる。
そして、安定化層19上に一対の感知電極層15a,15a、感知層15bが形成されて図10で示すような状態となる(あるいは安定化層19上に感知層15bのみ形成される)。
【0118】
SnO−SiO2ガラス薄膜中のSnO濃度は>80wt%では下地となるSiO2絶縁層との接着強度が低く、また、<20wt%ではSnO2感知層との接合強度が低下するため十分な効果が得られない。さらに膜厚が<10nmでは成膜条件にもよるがSnO−SiO2ガラス薄膜がアイランド状になっている場合があり十分な接着強度がない場合があり、また、>1000nmでは薄膜ヒーターからの熱伝導の障害となり省電力化を阻害し、電池駆動するには適さなくなる。結論としてガラス薄膜中のSnO濃度は20wt%〜80wt%がよく、また、膜厚は10nm〜1000nmがよい。
【0119】
続いて本形態の薄膜ガスセンサの性能について検証する。本形態の薄膜ガスセンサを素子Aとする。更に比較のためSnO−SiO2ガラス薄膜中間層のない従来技術の薄膜ガスセンサ(図15で示されたもの)を素子Bとする。次表は素子A(本形態)と素子B(従来技術)の諸特性を比較する表である。
【0120】
【表4】
【0121】
素子A(本形態)と素子B(従来技術)を各5個ずつ大気中でパルス通電(試験条件:3V/50mW、通電100msecON/1secOFF(通電時ヒーター温度450℃))を500、1000、2000万回繰り返した後の20℃、60%RHでの2000ppmCH4/空気中における感知層15b(SnO2感知層:センサ温度が450℃)の抵抗値の変化を示したものである。
【0122】
表4から示されるように、素子A(本形態)は5個とも2000万回繰り返した後も2000ppmCH4/空気中における感知層15b(SnO2感知層:センサ温度450℃)の抵抗値がほとんど変化していないことが分かる。
【0123】
一方、素子B(従来技術)の感知層15bにおいては、センサの抵抗値の変化が大きい素子(素子B4,素子B5)が発生した。2000万回のon−offを繰り返し後でも、SnO−SiO2ガラス薄膜中間層を設けた素子Aではセンサ抵抗変化がほとんどなく高い信頼性を有することがわかる。
【0124】
本発明の素子と従来素子で抵抗変化が大きく変化した素子についてそれぞれガス選択燃焼層15cを剥離し感知層15b(SnO2感知層)を金属顕微鏡で観察した。本発明の素子ではSnO2感知層にマイクロクラックが全く観察されなかったが、抵抗値が大きく上昇した従来素子ではSiO2絶縁層上に多数のマイクロクラックが認められた。
【0125】
このような薄膜ガスセンサ1では、SiO2絶縁層とSnO2感知層の間に、両者と相性が良く高い接合強度を有するSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を設けることで、ON/OFFの2000万回以上の繰り返しにおいてもSnO2感知層の下地からの剥離/マイクロクラックの発生が防止される。従って長時間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、長期間安定した抵抗値(センサ特性)が確保され、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。
【0126】
続いて、本発明の他の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図11は他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。本形態では上記の各種安定層を他の薄膜ガスセンサに適用できることを示すものである。
本形態の薄膜ガスセンサは、シリコン基板(以下Si基板)21、熱絶縁支持層22、ヒーター層23、電気絶縁層24、ガス感知層25、安定化層26を備える。熱絶縁支持層22は、詳しくは、熱酸化SiO2層22a、CVD−Si3N4層22b、CVD−SiO2層22cの三層構造となっている。また、ガス感知層25は、詳しくは、接合層25a、感知電極層25b、感知層25c、ガス選択燃焼層25dを備える。この感知層25cはアンチモンが添加された二酸化スズ層(以下、Sb−doped SnO2層)であり、ガス選択燃焼層25dはパラジウム(Pd)または白金(Pt)の少なくとも一つを触媒として担持したアルミナ焼結材(以下、触媒担持Al2O3焼結材)である。
【0127】
ガス感知層25では、接合層25a、一対の感知電極層25b,25b、感知層25cの表面全体、および安定化層26を、ガス選択燃焼層25dが覆う構造としている。
【0128】
続いて各部構成について説明する。
Si基板21はシリコン(Si)により形成され、貫通孔を有するように形成される。
熱絶縁支持層22はこの貫通孔の開口部に張られてダイアフラム様に形成されており、Si基板21の上に設けられる。
【0129】
熱絶縁支持層22は、詳しくは、熱酸化SiO2層22a、CVD−Si3N4層22b、CVD−SiO2層22cの三層構造となっている。
熱酸化SiO2層22aは熱絶縁層として形成され、ヒーター層23で発生する熱をSi基板21側へ熱伝導しないようにして熱容量を小さくする機能を有する。また、この熱酸化SiO2層22aはプラズマエッチングに対して高い抵抗力を示し、後述するがプラズマエッチングによるSi基板21への貫通孔の形成を容易にする。
CVD−Si3N4層22bは、熱酸化SiO2層22aの上側に形成される。
CVD−SiO2層22cは、ヒーター層23との密着性を向上させるとともに電気的絶縁を確保する。CVD(化学気相成長法)によるSiO2層は内部応力が小さい。
【0130】
ヒーター層23は、薄膜状のNi−Cr膜(ニッケル−クロム膜)であって、熱絶縁支持層22のほぼ中央の上面に設けられる。また、図示しない電源供給ラインも形成される。この電源ラインは、図示しない駆動・処理部に接続される。
電気絶縁層24は、電気的に絶縁を確保するスパッタSiO2層からなり、熱絶縁支持層22およびヒーター層23を覆うように設けられる。ヒーター層23と感知電極層25bとの間に電気的な絶縁を確保し、また、電気絶縁層24は感知層25cとの密着性を向上させる。
【0131】
安定化層26は、電気絶縁層24上に設けられ、詳しくは部分安定化ジルコニア薄膜中間層である。感知電極層25bや感知層25cは、この安定化層26の上に設けられることとなる。
なお、図11では接合層25a,感知電極層25bの下側にも安定化層26を設けているが、接合層25a,感知電極層25bの下側は安定化層26がなく直接電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と接するようにしてもかまわない。
【0132】
接合層25aは、例えば、Ta膜(タンタル膜)またはTi膜(チタン膜)からなり、電気絶縁層24の上に設けられる。この接合層25aは、感知電極層25bと電気絶縁層24との間に介在して接合強度を高める機能を有している。本形態ではTa膜(タンタル膜)であるものとして説明する。
感知電極層25bは、例えば、Pt膜(白金膜)またはAu膜(金膜)からなり、感知層25cの感知電極となるように左右一対に設けられる。本形態ではPt膜(白金膜)であるものとして説明する。
ガス感知層25cは、Sb−doped SnO2層からなり、一対の感知電極層25b,25bを渡されるように電気絶縁層24の上に形成される。
【0133】
ガス選択燃焼層25dは、先に説明したように触媒担持Al2O3焼結材である。主成分であるAl2O3は多孔質体であるため、孔を通過する検知ガスがPdやPtという接触する機会を増加させて燃焼反応を促進させる。
そして、ガス選択燃焼層25dは、電気絶縁層24、接合層25a、一対の感知電極層25b,25b、感知層25cおよび安定化層26の表面を覆うように設けられる。
そして駆動・処理部(図示せず)は、ヒーター層23と電気的に通電可能に接続され、また、ガス感知電極層25bを介して感知層25cと電気的に通信可能に接続される。
このような薄膜ガスセンサはダイアフラム構造により高断熱、低熱容量の構造としている。薄膜ガスセンサ2の構成はこのようなものである。
【0134】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサ2の製造方法について概略説明する。
まず、板状のシリコンウェハー(図示せず)に対して熱酸化法によりその片面(または表裏両面)に熱酸化を施して熱酸化SiO2膜たる熱酸化SiO2層22aを形成する。
そして、熱酸化SiO2層22aを形成した面にCVD−Si3N4膜をプラズマCVD法にて堆積してCVD−Si3N4層22bを形成する。そして、このCVD−Si3N4層22bの上面にCVD−SiO2膜をプラズマCVD法にて堆積してCVD−SiO2層22cを形成する。
【0135】
さらに、CVD−SiO2層22cの上面にNi−Cr膜をスパッタリング法により蒸着してヒーター層23を形成する。そして、このCVD−SiO2層22cとヒーター層23との上面にスパッタSiO2膜をスパッタリング法により蒸着して、スパッタSiO2層である電気絶縁層24を形成する。
【0136】
そして、電気絶縁層24上に部分安定化ジルコニア薄膜中間層をスパッタ蒸着して安定化層26を形成する。具体的には電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と感知層25c(SnO2感知層)の間に厚みが50nm〜500nmの部分安定化ジルコニア薄膜中間層を設けることで達成される。安定化剤としてはY2O3、MgO、CaOの少なくとも一つを用いることができる。
【0137】
このような部分安定化ジルコニア薄膜中間層の形成手順は以下に説明するようになる。
まず、電気絶縁層24上にレジストを塗布する。
次に、微細加工でSnO2感知層である感知層25cや接合層25a,25a、感知電極層25b,25b(あるいは感知層25cのみ)を形成する部分のレジストを除去/開口させる。
次に部分安定化ジルコニア薄膜をスパッタ成膜により形成する。ターゲットには安定化剤としてMgOを3mol%添加されたZrO2を用いた。なおMgOに変えてY2O3、あるいはCaOを安定化剤として用いてもよい。部分安定化ジルコニア薄膜の成膜条件はパワー200W、圧力1Pa、Ar+O2中、温度100℃であり膜厚は300nmである。スパッタされた部分の安定化ジルコニア薄膜中のMgO濃度は2.4mol%であった。
次にチャンバーからウェハーを取り出しレジスト剥離液を用いてレジストのリフトオフを行った。これによりレジストが剥離し、電気絶縁層24に直接成膜されていた箇所の部分安定化ジルコニア薄膜のみ残り、これが部分安定化ジルコニア薄膜中間層となる。
【0138】
なお、安定化剤の濃度は3mol%、膜厚は300nmであると説明したが、これに限定されるものではない。
安定化剤の濃度は<1mol%ではマトリックスの立方晶濃度が低すぎるため、また、>5mol%では立方晶濃度が高すぎるため十分な効果が得られない。さらに膜厚が<50nmでは応力緩和が薄すぎるため2000万回の昇降温回数に耐えきれない素子が発生し、また、>500nmでは安定化ジルコニア薄膜の熱伝導による放熱が無視できなくなり、電池駆動するには適さなくなる。結論としてジルコニアへの混合比率は1〜5mol%、また、膜厚は50nm〜500nmがよい。
【0139】
このようにして形成した安定化層26(あるいは安定化層26の両側の電気絶縁層24)の上に接合層25a、感知電極層25bを形成する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、通常のスパッタリング法によって行う。成膜条件は接合層(Ta)25a、感知電極層(Pt)25bとも同じで、Arガス(アルゴンガス)圧力1Pa、基板温度300℃、RFパワー2W/cm2、膜厚は接合層5a/感知電極層5b=500Å/2000Åである。
【0140】
一対の感知電極層25b,25bの間に渡されるように安定化層26の上にSb−doped SnO2膜がスパッタリング法により蒸着され、感知層25cが形成される。
成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリング法によって行う。ターゲットにはSbを0.5wt%含有するSnO2を用いる。成膜条件はAr+O2ガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー2W/cm2である。感知層25cの大きさは、50ないし200μm角程度、厚さは0.2ないし1.6μm程度が望ましい。
【0141】
そして、絶縁層24、接合層25a,25a、一対の感知電極層25b,25b、感知層25cおよび安定化層26を覆うように、ガス選択燃焼層25dが形成される。このガス選択燃焼層25dは、Pd触媒を担持したPd7.0wt%添加したγ−アルミナ(平均粒径2〜3μm)粉末にアルミナゾルを5〜20wt%添加し、有機溶剤を混合調製した印刷ペーストをスクリーン印刷で印刷し、室温で乾燥後、500℃で1時間焼き付けして形成している。ガス選択燃焼層25dの大きさは、感知層25cを十分に覆えるようにする。このようにスクリーン印刷により厚みを薄くしている。焼成後の選択燃焼層の膜厚は30〜35μmである。
【0142】
最後にシリコンウェハー(図示せず)の裏面から微細加工プロセスとしてエッチングによりシリコンを除去して貫通孔を形成してSi基板21とし、ダイヤフラム構造の薄膜ガスセンサを形成する。そして、ヒーター層23および感知電極層25bは図示しない駆動・処理部と電気的に接続される。
薄膜ガスセンサ2の製造方法はこのようになる。
【0143】
このようにして形成した部分安定化ジルコニア薄膜中間層の線膨張係数は8〜9×10−6/Kであり電気絶縁層24(SiO2絶縁層)の線膨張係数0.5×10−6/Kより相当大きくPt感知層電極である感知電極層25bに近い。従って部分安定化ジルコニア薄膜中間層とSnO2感知層との線膨張係数の差異は、Pt感知層電極とSnO2感知層との線膨張係数の差異と同程度になる。RT⇔450℃の熱衝撃で、部分安定化ジルコニア薄膜と下地のSiO2絶縁層との間には膨張係数の差異に応じた大きな応力が発生する。また部分安定化ジルコニア薄膜とSnO2感知層の間には、部分安定化ジルコニア薄膜と下地のSiO2絶縁層との間に発生する応力ほどではないが、やはり線膨張係数の差異により応力が発生する。
【0144】
しかしながら、先に図3(a),(b)を用いて説明した原理により応力緩和がなされ、マイクロクラックの発生が防止される。従って長時間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。また、部分安定化ジルコニア薄膜は絶縁性が高く、しかも比較的熱伝導率も低いため、センサの特性にはなんら影響を与えることがない。
【0145】
以上説明したように、SiO2絶縁層とSnO2感知層の間に部分安定化ジルコニア薄膜中間層を設けることで、その応力緩和機構により、RT⇔450℃の熱衝撃による応力(SnO2感知層/部分安定化ジルコニア薄膜中間層、部分安定化ジルコニア薄膜中間層/SiO2絶縁層)は、全て部分安定化ジルコニア薄膜中間層で吸収(正方晶→斜方晶転移による応力緩和)され、SnO2感知層にはマイクロクラックの発生が防止される。従って長期間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、長期間安定した抵抗値(センサ特性)が確保され、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。
【0146】
続いて、他の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図12は他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。本形態では上記の各種安定層を他の薄膜ガスセンサに適用できることを示すものである。
本形態の薄膜ガスセンサは、図12で示すように、シリコン基板(以下Si基板)21、熱絶縁支持層22、ヒーター層23、電気絶縁層24、ガス感知層25、安定化層27を備える。熱絶縁支持層22は、詳しくは、熱酸化SiO2層22a、CVD−Si3N4層22b、CVD−SiO2層22cの三層構造となっている。また、ガス感知層25は、詳しくは、接合層25a、感知電極層25b、感知層25c、ガス選択燃焼層25dを備える。この感知層25cはSb−doped SnO2層であり、ガス選択燃焼層25dは触媒担持Al2O3焼結材である。
【0147】
ガス感知層25では、接合層25a,25a、一対の感知電極層25b,25b、感知層25cの表面全体、および安定化層27を、ガス選択燃焼層25dが覆う構造としている。
【0148】
図11を用いて説明した先の形態では、安定化層として部分安定化ジルコニア薄膜中間層を採用したものである。しかしながら、本形態では、新たにジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を採用している。
以下、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層について重点的に説明するとともに、これ以外は図11で説明した薄膜ガスセンサ2の構成と同じであるため、他の構成は同じ符号を付すとともに重複する説明を省略する。
【0149】
安定化層27は、電気絶縁層24上に設けられ、詳しくはジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層である。感知電極層25bや感知層25cは、この安定化層27の上に設けられることとなる。
なお、図12では接合層25a、感知電極層25bの下側にも安定化層27を設けているが、接合層25a,感知電極層25bの下側は安定化層27がなく直接電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と接するようにしてもかまわない。
【0150】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサの製造方法のうち、安定化層27の形成について概略説明する。電気絶縁層24上にジルコニア高靭化セラミックスをスパッタ蒸着して安定化層27を形成する。具体的には電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と感知層25c(SnO2感知層)の間に厚みが10nm〜1000nmのジルコニア高靭化セラミックス薄膜中間層を設けることで達成される。ジルコニア高靭化セラミックス薄膜中間層で採用されるセラミクスについては各種考えられるが、好ましくはアルミナマトリックス中へジルコニアを分散したジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層であり、更に具体的には、ジルコニアが正方ジルコニア多結晶体である中間層を設けることで達成される。正方ジルコニア多結晶体はY2O3、MgO、CaOなどの安定化剤を含まないZrO2でありいわゆる一般のジルコニア粉末である。正方ジルコニア多結晶体のアルミナマトリックスへの混合比率は0.1〜5mol%がよい。
薄膜ガスセンサ2では下地となるSiO2絶縁層との線膨張係数の差異が大きいジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を介してSnO2感知層が積層された構造となる。
【0151】
このようなジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層の形成手順は以下に説明するようになる。
まず、電気絶縁層24上にレジストを塗布する。
次に、微細加工でSnO感知層である感知層25cや接合層25a,25a、感知電極層25b,25b(あるいは感知層25cのみ)を形成する部分のレジストを除去/開口させる。
次に、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜をスパッタ成膜により形成する。ターゲットにはZrO2微粒子を3mol%含むAl2O3(ジルコニア高靭化アルミナ)を用いた。ジルコニア高靭化アルミナ薄膜の成膜条件はパワー300W、圧力1Pa、Ar+O2中、温度100℃であり膜厚は500nmである。スパッタ成膜したジルコニア高靭化アルミナ中のZrO2濃度は2.8mol%であり、微粒子としてアルミナマトリックス中へ分散していることがSEM−EDXで確認できている。
次にチャンバーからウェハーを取り出しレジスト剥離液を用いてレジストのリフトオフを行った。これによりレジストが剥離し、電気絶縁層24に直接成膜されていた箇所のジルコニア高靭化アルミナ薄膜が、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層となる。
【0152】
なお、正方晶ZrO2濃度は3mol%、膜厚は500nmであると説明したが、これに限定されるものではない。
ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中の正方晶ZrO2濃度は<0.1mol%では高靭化効果が低すぎるため、また、>10mol%ではアルミナマトリックスの強度が低下するため十分な効果が得られない。さらに膜厚が<10nmでは応力緩和層が薄すぎるため2000万回の昇降温回数に耐えられない素子が発生し、また、>1000nmではジルコニア高靭化アルミナ薄膜の熱伝導による放熱が無視できなくなり、電池駆動するには適さなくなる。結論として0.1〜5mol%、また、膜厚は10nm〜1000nmがよい。
以下、ガス感知層25は先に説明した方法と同じ方法で形成されることとなる。
【0153】
このように形成したジルコニア高靭化アルミナ薄膜の線膨張係数は6〜7×10−6/Kであり電気絶縁層24(SiO2絶縁層)の線膨張係数0.5×10−6/Kより相当大きくSnO2感知層とPt感知層電極の中間的な値である。線膨張係数が小さいので、耐熱衝撃性は部分安定化ジルコニア薄膜より優れている。また、SnO2感知層との接合強度に関しても部分安定化ジルコニア薄膜より向上する。RT⇔450℃の熱衝撃で、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層と下地のSiO2絶縁層との間には、膨張係数の差異により大きな応力が発生する。またジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層とSnO2感知層の間には、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層と下地のSiO2絶縁層との間に発生する応力ほどではないが、やはり線膨張係数の差異により応力が発生する。
【0154】
しかしながら、先に図6(a),(b)を用いて説明した原理により応力緩和がなされ、マイクロクラックの発生を防止される。従って長時間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。また、部分安定化ジルコニア薄膜は絶縁性が高くしかも比較的熱伝導率も低いため、センサの特性にはなんら影響を与えることがない。
【0155】
続いて、他の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図13は他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。本形態では上記の各種安定層を他の薄膜ガスセンサに適用できることを示すものである。
本形態の薄膜ガスセンサ2は、図13で示すように、シリコン基板(以下Si基板)21、熱絶縁支持層22、ヒーター層23、電気絶縁層24、ガス感知層25、安定化層28を備える。熱絶縁支持層22は、詳しくは、熱酸化SiO2層22a、CVD−Si3N4層22b、CVD−SiO2層22cの三層構造となっている。また、ガス感知層25は、詳しくは、接合層25a、感知電極層25b、感知層25c、ガス選択燃焼層25dを備える。この感知層25cはSb−doped SnO2層であり、ガス選択燃焼層25dは触媒担持Al2O3焼結材である。
【0156】
ガス感知層25では、接合層25a、一対の感知電極層25b,25b、Sb−doped SnO2層である感知層25cの表面全体、および安定化層28を、ガス選択燃焼層25dが覆う構造としている。
【0157】
先の形態では安定化層として部分安定化ジルコニア薄膜中間層やジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を採用しているが、本形態では、特に部分安定化ジルコニア薄膜中間層に代えて、新たに島状のPtあるいはPtを添加したSnO2であるPt薄膜中間層を採用して、SiO2絶縁層上でもPt電極上と同程度の密着性が得られるようにした点が相違するものである。以下、島状のPt、あるいは、Ptを添加したSnO2であるPt薄膜中間層について重点的に説明するとともに、これ以外は図11を用いて説明した薄膜ガスセンサの構成と同じであるため、他の構成は同じ符号を付すとともに重複する説明を省略する。
【0158】
安定化層28は、電気絶縁層24上に設けられ、詳しくは島状のPt、あるいは、Ptを添加したSnO2であるPt薄膜中間層である。感知層25cは、この安定化層28の上に設けられることとなる。
【0159】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサの製造方法のうち、安定化層の形成について概略説明する。接合層25aおよび感知電極層25bが電気絶縁層24上に形成されているものとする。続いて、電気絶縁層24上に安定化層28を形成するが、島状のPtか、または、Ptを添加したSnO2層を形成する。以下、順次説明する。
第一形態として、島状のPtによる安定化層28について説明する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、通常のスパッタリング方法によって行う。成膜条件はAr+O2ガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー0.2W/cm2、膜厚は2nmである。Ptを島状に形成するために、RFパワーを抑え、低い成膜レートでスパッタリングする。膜厚(=粒径)が5nm未満では、Pt層はそれぞれが独立した島状組織であるが、これ以上になると、それぞれの島がつながった連続膜となり、感知電極層25bに導通が生じてしまいセンサ感度がなくなる。したがって、島状のPtの膜厚(=粒径)は0.1nmを超えて5nm未満である必要がある。
【0160】
第二形態として、Ptを添加したSnO2層による安定化層28について説明する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリング方法によって行う。ターゲットは、Pt15wt%を有するSnO2を用いる。成膜条件はAr+O2ガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー2W/cm2、膜厚は10nmである。Ptを添加したSnO2は抵抗率が高く、膜厚が厚いとセンサ全体の抵抗値が高くなりすぎて実使用上で要求される100kΩ以下という基準を満たさなくなる。そこで、膜厚は0.1nmを超えて10nm以下である必要がある。
【0161】
以上のように島状のPtあるいはPtを添加したSnO2層である安定化層28を形成した後、感知層25cを形成する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリング方法によって行う。ターゲットは、Sbを0.5wt%を有するSnO2を用いる。成膜条件はAr+O2ガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー2W/cm2、膜厚は500nmである。
【0162】
上記方法によりメタンセンサとして作製された薄膜ガスセンサ2の安定性を示す。
次表に、実施例および比較例の2000万回ヒートサイクル後のセンサ抵抗値変化を示す。
【0163】
【表5】
【0164】
メタン2000ppm中のセンサ抵抗値について、2000万回ヒートサイクル後の値/初期値を算出し示した。ガス警報器の実使用上、この抵抗値変化は0.5〜2.0の範囲内である必要がある。従来構造の比較例ではセンサ抵抗の上昇がみられるが、実施例では、島状のPtあるいはPtを添加したSnO2層いずれについても、センサ抵抗値は安定である。
【0165】
このように構成しても感知層25c(SnO2感知層)にはマイクロクラックの発生が防止される。従って長期間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、長期間安定した抵抗値(センサ特性)が確保され、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。なお、図13では接合層25a,25aの下側は安定化層28がなく直接に電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と接するようにしているが、接合層25a,25aの下側にも安定化層28を設けるようにしても良い。
このように電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と感知層25c(SnO2感知層)との間に、島状のPtあるいはptを添加したSnO2層よる安定化層28を密着層として設けることで、SiO2絶縁層上でのSnO2感知層の剥離を防止し、2000万回程度のヒートサイクルでも抵抗値変化のない、安定な薄膜ガスセンサを得ることができる。
【0166】
続いて、他の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図14は他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。本形態では上記の安定化層を他の薄膜ガスセンサに適用できることを示すものである。
本形態の薄膜ガスセンサは、図14で示すように、シリコン基板(以下Si基板)21、熱絶縁支持層22、ヒーター層23、電気絶縁層24、ガス感知層25、安定化層29を備える。熱絶縁支持層22は、詳しくは、熱酸化SiO2層22a、CVD−Si3N4層22b、CVD−SiO2層22cの三層構造となっている。また、ガス感知層25は、詳しくは、接合層25a、感知電極層25b、感知層25c、ガス選択燃焼層25dを備える。この感知層25cはSb−doped SnO2層であり、ガス選択燃焼層25dは触媒担持Al2O3焼結材である。
【0167】
ガス感知層25では、接合層25a,25a、一対の感知電極層25b,25b、感知層25cの表面全体、および安定化層26を、ガス選択燃焼層25dが覆う構造としている。
【0168】
先の図11,図12を用いて説明した形態では安定化層として部分安定化ジルコニア薄膜中間層やジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を採用して、マイクロクラックの発生を防止している。これら技術の効果は有効であるものの、下地となるSiO2絶縁層とSnO2感知層にとって異種カチオンの組み合わせであり更なる密着性の向上が求められる。そこで、特に部分安定化ジルコニア薄膜中間層やジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層に代えて、新たに厚みが10nm〜1000nmのSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を採用した点が相違するものである。
【0169】
SnO−SiO2ガラス薄膜中間層は下地SiO2絶縁層とSnO2感知層の両方のカチオンを主成分として有する物質であり、両者との接合性が優れ、強い接合強度を有するためSnO2感知層および下地SiO2絶縁層間での剥離/マイクロクラックを生じさせない。
【0170】
以下、SnO−SiO2ガラス薄膜中間層について重点的に説明するとともに、これ以外は図11で説明した薄膜ガスセンサ2の構成と同じであるため、他の構成は同じ符号を付すとともに重複する説明を省略する。
【0171】
安定化層29は、電気絶縁層24上に設けられ、詳しくはSnO−SiO2ガラス薄膜中間層である。感知電極層25bや感知層25cは、この安定化層29の上に設けられることとなる。
なお、図14では接合層25a、感知電極層25bの下側にも安定化層29を設けているが、接合層25a、感知電極層25bの下側は安定化層29がなく直接電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と接するようにしてもかまわない。
【0172】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサ2の製造方法のうち、安定化層29の形成について概略説明する。
電気絶縁層24上にSnO−SiO2ガラス薄膜中間層をスパッタ蒸着して安定化層29を形成する。具体的には電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と感知層25c(SnO2感知層)の間に厚みが10nm〜1000nmのSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を設けることで達成される。
薄膜ガスセンサ2では下地となる電気絶縁層24(SiO2絶縁層)との線膨張係数の差異が大きいSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を介して感知層25c(SnO2感知層)が積層された構造となる。
【0173】
このようなSnO−SiO2ガラス薄膜中間層の形成手順は以下に説明するようになる。
まず、電気絶縁層24上にレジストを塗布する。
次に、微細加工でSnO感知層である感知層25cや接合層25a,25a、感知電極層25b,25b(あるいは感知層25cのみ)を形成する部分のレジストを除去/開口させる。
次に、SnO−SiO2ガラス薄膜をスパッタ成膜により形成する。ターゲットにはSnOを50wt%含むSnO−SiO2ガラスターゲットを用いた。SnO−SiO2ガラス薄膜の成膜条件はパワー300W、圧力1Pa、Ar+O2中、温度100℃であり膜厚は500nmである。スパッタ成膜したSnO−SiO2ガラス薄膜中のSnO濃度は55wt%であった。
次にチャンバーからウェハーを取り出しレジスト剥離液を用いてレジストのリフトオフを行った。これによりレジストが剥離し、電気絶縁層24に直接成膜されていた箇所のSnO−SiO2ガラス薄膜のみ残り、これがSnO−SiO2ガラス薄膜中間層となる。
そして、安定化層29上に、接合層25a、感知電極層25b、感知層25c(あるいは感知層25cのみ)が形成されて図14で示すような状態となる。
【0174】
SnO−SiO2ガラス薄膜中のSnO濃度は>80wt%では下地となるSiO2絶縁層との接着強度が低く、また、<20wt%ではSnO2感知層との接合強度が低下するため十分な効果が得られない。さらに膜厚が<10nmでは成膜条件にもよるがSnO−SiO2ガラス薄膜がアイランド状になっている場合があり十分な接着強度がない場合があり、また、>1000nmでは薄膜ヒーターからの熱伝導の障害となり省電力化を阻害し、電池駆動するには適さなくなる。結論としてガラス薄膜中のSnO濃度は20wt%〜80wt%がよく、また、膜厚は10nm〜1000nmがよい。
【0175】
SiO2絶縁層とSnO2感知層の間に、両者と相性が良く高い接合強度を有するSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を設けることで、ON/OFFの2000万回以上の繰り返しにおいてもSnO2感知層の下地からの剥離/マイクロクラックの発生が防止される。従って長時間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、長期間安定した抵抗値(センサ特性)が得られた、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】本発明を実施するための最良の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図2】薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。
【図3】安定化層の説明図であり、図3(a)は応力がかかる前の状態図、図3(b)は応力がかかった後の状態図である。
【図4】他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図5】薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。
【図6】安定化層の説明図であり、図6(a)は応力がかかる前の状態図、図6(b)は応力がかかった後の状態図である。
【図7】他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図8】薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。
【図9】他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図10】薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。
【図11】他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図12】他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図13】他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図14】他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図15】従来技術の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0177】
1:薄膜ガスセンサ
11:Si基板
12:絶縁支持層
12a:SiO2層
12b:CVD−SiN層
12c:CVD−SiO2層
13:ヒーター層(Ta/PtW/Taヒータ)
14:電気絶縁層(SiO2絶縁層)
15:ガス感知層
15a:感知電極層(Pt/Ta層)
15b:感知層(SnO2感知層)
15c:ガス選択燃焼層(触媒担持Al2O3焼結材)
16:安定化層(部分安定化ジルコニア薄膜中間層)
17:安定化層(ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層)
18:安定化層(Pt薄膜中間層)
19:安定化層(SnO−SiO2ガラス薄膜中間層)
2:薄膜ガスセンサ
21:Si基板
22:絶縁支持層
22a:熱酸化SiO2層
22b:CVD−Si3N4層
22c:CVD−SiO2層
23:ヒーター層
24:電気絶縁層
25:ガス感知層
25a:接合層
25b:感知電極層
25c:感知層(Sb−doped SnO2層)
25d:ガス選択燃焼層(触媒担持Al2O3焼結材)
26:安定化層(部分安定化ジルコニア薄膜中間層)
27:安定化層(ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層)
28:安定化層(Pt薄膜中間層)
29:安定化層(SnO−SiO2ガラス薄膜中間層)
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池駆動を念頭においた低消費電力型の薄膜ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にガスセンサは、ガス漏れ警報器などの用途に用いられており、ある特定ガス、例えば、一酸化炭素(CO)、メタンガス(CH4)、プロパンガス(C3H8)、エタノール蒸気(C2H5OH)等に選択的に感応するデバイスであり、その性格上、高感度、高選択性、高応答性、高信頼性、低消費電力が必要不可欠である。
【0003】
ところで、家庭用として普及しているガス漏れ警報器には、都市ガス用やプロパンガス用の可燃性ガス検知を目的としたもの、燃焼機器の不完全燃焼ガス検知を目的としたもの、または、両方の機能を合わせ持ったものなどがあるが、いずれもコストや設置性(ガス検知が必要であるが電源供給不能の箇所である点)の問題から普及率はそれほど高くない。そこで、普及率の向上を図るべく、設置性の改善、具体的には、電池駆動によるガス漏れ警報器としてコードレス化することが望まれている。
【0004】
ガス漏れ警報器の電池駆動を実現するためにはガスセンサの低消費電力化が最も重要である。しかしながら、接触燃焼式や半導体式のガスセンサを動作させるためには、ガスセンサのガス感知層を100℃〜450℃の高温に加熱する必要があり、この加熱が電力を消費する要因である。SnO2などの粉体を焼結して作製したガス感知層によるガスセンサでは、スクリーン印刷等の方法を用いてガス感知層の厚みを可能な限り薄くしてガス感知層の熱容量を小さくしているが、薄膜化には限界があって充分に薄くできない。このため、電池駆動するにはガス感知層の熱容量が大きすぎることとなり、これを高温に加熱するには大きい電力が必要で電池の消耗が大きくなってしまい、ガス感知層を電池駆動するガスセンサは実用化が困難であった。
【0005】
そこで、微細加工プロセスにより高断熱・低熱容量のダイヤフラム構造として、実用上許容しうる低消費電力の薄膜ガスセンサが開発実用化されて現在に至っている。続いてこのような薄膜ガスセンサについて説明する。図15は、従来技術の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
この従来技術の薄膜ガスセンサ10は、シリコン基板(以下Si基板)11、熱絶縁支持層12、ヒーター層13、電気絶縁層14、ガス感知層15を備える。熱絶縁支持層12は、詳しくは、SiO2層12a、CVD−SiN層12b、CVD−SiO2層12cの三層構造となっている。また、ガス感知層15は、詳しくは、感知電極層15a、感知層15b、ガス選択燃焼層15cを備える。この感知層15bは二酸化スズ層(以下、SnO2感知層)であり、ガス選択燃焼層15cはパラジウム(Pd)、白金(Pt)の少なくとも一つを触媒として担持したアルミナ焼結材(以下、触媒担持Al2O3焼結材)である。
【0006】
感知電極層15aの材料としては各種貴金属材料を用いるのが一般的であるが、ここで説明する従来技術ではPtであるとして説明する。感知電極層15aは、詳しくは接合層を介して形成される。接合層はSiO2絶縁層である電気絶縁層14との密着性に優れ、しかも、Ptとも密着性のよいTa、Ti、Cr等が用いられるが、ここで説明する従来技術ではTaであるとして説明する。この接合層を介してPt感知層電極を成膜し、感知電極層15aを形成する。この電気絶縁層14上に感知層15bであるSnO2感知層を形成して、薄膜ガスセンサ10としている。
【0007】
この従来技術の薄膜ガスセンサ10は、様々な気体成分と接触することにより酸化物半導体である感知層15bの電気抵抗(感知層抵抗)が変化する現象を利用している。100℃〜450℃程度に加熱された金属酸化物半導体は導電率がガス濃度により変化する特性を持ち、空気中では酸素を吸着して高抵抗化するが可燃性ガス中では可燃性ガスを吸着して低抵抗化する。
【0008】
詳しくは、SnO2層などのn型金属酸化物半導体であって100℃〜450℃程度に加熱された感知層15bは、空気中では粒子表面に酸素などを活性化吸着するが、酸素は電子受容性が強くて負電荷吸着するため、酸化物半導体粒子表面に空間電荷層が形成され導電率が低下して高抵抗化し、また、可燃性ガスなどの電子供与性の還元性気体が吸着して燃焼反応が起こると表面吸着酸素が消費され、酸素に捕獲されていた電子が半導体内にもどされ、電子密度が増加して導電率が増大して低抵抗化する、というものである。
【0009】
この感知層15bは、多様なガスの検知が可能である反面、特定のガスを選択的に検知することは困難であった。そこでガス感知層15は、電気絶縁層14、一対の感知電極層15a,15a、および、SnO2感知層である感知層15bの表面を、触媒担持Al2O3焼結材で構成されたガス選択燃焼層15cが覆う構造としている。このようにガス感知層15は、感知層15bの全体を触媒を担持した焼結材で構成されたガス選択燃焼層15cで覆うように構成したため、検知する目的ガスよりも酸化活性の強いガスを燃焼させ、検知する目的ガス(特にメタンやプロパン)のみの感度を向上させるとともに、そのセンサ部の大きさや膜厚、ダイヤフラム径との比などを工夫することで、検知したい目的ガスのガス選択性を高め、消費電力の低減化を可能とする。同様な先行技術が特許文献1(特開平5−240820号公報)にも開示されている。
【0010】
このようなダイヤフラム構造などの超低熱容量構造とした低消費電力薄膜ガスセンサを適用したガス漏れ警報器においても、電池の交換無しで5年以上の寿命を持たすためには薄膜ガスセンサのパルス駆動が必須となる。そして、パルス駆動の薄膜ガスセンサにおいても、更なる低消費電力化のためには、検出温度の低温化、検出時間の短縮、検出サイクルの長期化(通常offにする時間を長くする)が重要である。
【0011】
薄膜ガスセンサにおける検出温度はガス種に対する検出感度などからCOセンサでは〜100℃、CH4センサでは〜450℃、検出時間はセンサの応答性から〜500msec、検出サイクルはCH4センサでは30秒、COセンサでは150秒とされる。
またoff時間にセンサ表面に付着する水分その他の吸着物を脱離させSnO2感知層の表面をクリーニングすることが、電池駆動(パルス駆動)の薄膜ガスセンサの経時安定性を向上する上で重要であり、検出前に一旦センサ温度を〜450℃に加熱(時間から100msec)し、その直後に、それぞれのガスの検出温度でガス検知を行っている。
薄膜ガスセンサはこのようなものである。
【0012】
さて、このような従来技術であるダイヤフラム構造の薄膜ガスセンサ10では、熱絶縁支持層12、ヒーター層13、電気絶縁層14、感知電極層15a、感知層15b、ガス選択燃焼層15cの積層構造となっている。これら積層した各層の膨張係数は異なっているため、ヒーター層13をパルス駆動させて昇降温を繰り返すと、熱膨張/収縮により、数μmであるが、上下に振動する。この振動は微小ではあるが、仮に10秒に1回の検知周期でセンサを6年間駆動させると約2000万回に達する。しかも室温から450℃まで昇温時間50〜100msecで昇温し、また、数100msecという短時間の降温時間で降温するというものであり、SnO2感知層である感知層15bには厳しい熱衝撃が加わる。
【0013】
この熱衝撃と微小な振動とが起こるため、特に感知層15b(SnO2感知層)と電気絶縁層14(SiO2絶縁層)との間で剥離が生じ、それが感知層15b(SnO2感知層)のマイクロクラックへと発展し、センサ抵抗値が上昇するなどの変動を生じることがある。抵抗値によりガス検知を行う薄膜ガスセンサ10においては当然、抵抗値の変動はガス検知精度上大きな問題になる。
【0014】
図15で示すように感知層15b(SnO2感知層)は感知電極層15a(Pt/Ta層)と電気絶縁層14(SiO2絶縁層)の両方の上に形成されることがわかるが、マイクロクラックのほとんどが電気絶縁層14(SiO2絶縁層)上の感知層15b(SnO2感知層)に発生することが、本発明者による実験・開発の過程で知見された。
【0015】
また、僅かではあるが、感知電極層15a(Pt/Ta層)上の感知層15b(SnO2感知層)にマイクロクラックが認められるが、このようなマイクロクラックも詳細に調べるとマイクロクラックの起点は電気絶縁層14(SiO2絶縁層)上の感知層15b(SnO2感知層)にあることも判明している。
さらにまた、感知層15b(SnO2感知層)の下地である電気絶縁層14(SiO2絶縁層)からの剥離部の一部は必ずマイクロクラックで終端していることも判明している。
【0016】
このようなマイクロクラックが発生する原因としては、感知層15b(SnO2感知層)、電気絶縁層14(SiO2絶縁層)、または、感知電極層15a(Pt/Ta層)の材質の差異にあると予想される。次表にSnO2、SiO2、Ptの線膨張係数を示す。
【0017】
【表1】
【0018】
表1は材料のバルク値である。薄膜ガスセンサではPtはTaを介して下地であるSiO2と密着しており単純ではないが、SnO2との線膨張係数の差異から考えるとSnO2−Pt間の方がSnO2−SiO2間より若干大きい。線膨張係数の差異からだけでマイクロクラックが電気絶縁層14(SiO2絶縁層)上の感知層15b(SnO2感知層)に発生する原因を説明できない。
【0019】
SnO2との密着性ではSnO2−SiO2が優れており、下地が硬くかつ強度の高い電気絶縁層14(SiO2絶縁層)上では線膨張係数の差異を感知層15b(SnO2感知層)にマイクロクラックを発生させることで緩和していると推定される。
また純Ptは比較的柔らかい金属でありSnO2−Pt間の線膨張係数の差異をある程度吸収できるなどを考慮した場合、Pt⇔450℃の熱衝撃で、感知電極層15a(Pt/Ta層)上の感知層15b(SnO2感知層)は、純Ptが変形することで線膨張係数の差異を吸収しているためマイクロクラックが発生しないと推定される。
これらの点を考慮して、マイクロクラックが電気絶縁層14(SiO2絶縁層)上の感知層15b(SnO2感知層)に発生するメカニズムを以下のように推定した。
【0020】
(1)ヒーター層13のON/OFFによる昇温/降温でSnO2感知層/SiO2絶縁層が熱膨張/収縮する。
(2)両者の熱膨張率の差異による応力に伴い、SnO2感知層/SiO2絶縁層界面の最も弱い部分の結合が切れる。
(3)その部分を起点としてSnO2感知層/SiO2絶縁層界面の剥離が伝播し、剥離部分が拡大する。
(4)剥離部分の拡大により膜の上下方向のせん断力でマイクロクラックに発展する。
【0021】
このようにして発生するマイクロクラック対策が必要である。マイクロクラックに関する先行技術について説明する。先に掲げた特許文献1ではアルミナ基板上へ直接酸化錫スラリーを印刷・焼成して電極を形成した厚膜方式での一酸化炭素ガスセンサの製造技術が公開されている。
【0022】
また、特許文献2(特開平9−210944号公報)では、ヒータと感知部との間に間隙を配置する構成が開示されている。
【0023】
また、非特許文献1(電学論E,124巻12号、2004年 476,477ページ)にセンサ薄膜と密着性改善などの観点より多結晶アルミナをマイクロブリッジとして、SnO2などのセンサ層を積層した薄膜センサ製造技術が開示されている。
【0024】
また、非特許文献2(Zhenan Tang et al., Investigation and control of microcracks in tin oxide gas sensing thin-films, Sensors and Actuators B 79 (2001) 39-47)において、センサ薄膜に発生するマイクロクラックの数と、下地薄膜材料との関係を調べた結果が示されている。発生するマイクロクラックの数は、下地薄膜材料がSi3N4>SiO2>PSGの順に少なくなることを示している。理由は膜の硬度、平坦性などで説明しているが明確には分かっておらず、SnO2センサ薄膜の下地の物性との相関を示唆しており、SnO2/下地層界面に膨張係数差に伴う大きな応力が発生し、SnO2薄膜のマイクロクラックの原因になっていることは間違いない。上記先行技術のいずれにおいても、非特許文献2の筆者らが目標としているセンサ性能には達しない。
このように従来技術ではマイクロクラック対策が十分ではない状態であった。
【0025】
【特許文献1】特開平5−240820号公報
【特許文献2】特開平9−210944号公報
【非特許文献1】電気学会論文誌E,124巻12号、2004年 476,477ページ
【非特許文献2】Zhenan Tang et al., Investigation and control of microcracks in tin oxide gas sensing thin-films, Sensors and Actuators B 79 (2001) 39-47
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
先に述べたように、上記問題の端緒となる感知層15b(SnO2感知層)の剥離は、電気絶縁層14(SiO2絶縁層)上で発生しており、感知電極層15a(Pt/Ta層)上では発生していない。これは、SnO2とPtの密着性が、SnO2とSiO2の密着性よりも高く発生する応力に差が生じるためであると推察される。そこで、SiO2絶縁層とSnO2との間の応力を緩和して応力差を吸収するか、または、より密着結合させて密着性に差がないようにするかして、強度を増す必要がある。
【0027】
そこで、本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、簡易な構成にて電気絶縁層と感知層との応力変化による影響を回避し、マイクロクラックの発生を抑止するようにした薄膜ガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
このような本発明の請求項1に係る薄膜ガスセンサは、
貫通孔を有するSi基板と、
この貫通孔の開口部に張られるダイアフラム様の熱絶縁支持層と、
熱絶縁支持層上に設けられるヒーター層と、
熱絶縁支持層およびヒーター層を覆うように設けられる電気絶縁層と、
電気絶縁層上に設けられる安定化層と、
安定化層上に設けられるガス感知層と、
を備え、
安定化層の変形により電気絶縁層とガス感知層との応力変化を吸収することを特徴とする。
【0029】
また、本発明の請求項2に係る薄膜ガスセンサは、
請求項1に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ガス感知層は、
一対の感知電極層と、
一対の感知電極層を渡されるように安定化層上に設けられる感知層と、
感知層の表面に設けられ、触媒を担持した焼結材のガス選択燃焼層と、
を備え、
ガス感知層の感知層と電気絶縁層との応力変化を、安定化層の変形により吸収することを特徴とする。
このうちガス選択燃焼層は、Pd(パラジウム)および/またはPt(白金)を触媒として担持したAl2O3焼結材による層であることが好ましい。また、感知層は、二酸化スズ層であることが好ましい。一対の感知電極層は電気絶縁層上または安定化層上に配置される。
【0030】
また、本発明の請求項3に係る薄膜ガスセンサは、
請求項1または請求項2に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、部分安定化ジルコニア薄膜中間層であることを特徴とする。
【0031】
また、本発明の請求項4に係る薄膜ガスセンサは、
請求項3に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記部分安定化ジルコニア薄膜中間層は、厚みが50nm〜500nmであることを特徴とする。
【0032】
また、本発明の請求項5に係る薄膜ガスセンサは、
請求項3または請求項4に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記部分安定化ジルコニア薄膜中間層には、安定化剤としてY2O3、MgO、CaOの少なくとも一つが添加されていることを特徴とする。
【0033】
また、本発明の請求項6に係る薄膜ガスセンサは、
請求項5に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記部分安定化ジルコニア薄膜中間層は、ジルコニアに対して安定化剤の濃度を1mol%から5mol%まで添加して形成した層であることを特徴とする。
【0034】
また、本発明の請求項7に係る薄膜ガスセンサは、
請求項1または請求項2に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、ジルコニア高靭化セラミックス(Zirconia Toughened Ceramics)薄膜中間層であることを特徴とする。
【0035】
また、本発明の請求項8に係る薄膜ガスセンサは、
請求項7に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化セラミックス薄膜中間層は、アルミナマトリックス中へジルコニアを分散したジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層であることを特徴とする。
【0036】
また、本発明の請求項9に係る薄膜ガスセンサは、
請求項8に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層におけるジルコニアは、正方ジルコニア多結晶体(Tetoragonal Zirconia Polycrystals)であることを特徴とする。
【0037】
また、本発明の請求項10に係る薄膜ガスセンサは、
請求項8または請求項9に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層は、厚みが10nm〜1000nmであることを特徴とする。
【0038】
また、本発明の請求項11に係る薄膜ガスセンサは、
請求項8〜請求項10の何れか一項に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層は、アルミナに対する正方ジルコニア多結晶体の濃度を0.1mol%から5mol%として形成した層であることを特徴とする。
【0039】
また、本発明の請求項12に係る薄膜ガスセンサは、
貫通孔を有するSi基板と、
この貫通孔の開口部に張られるダイアフラム様の熱絶縁支持層と、
熱絶縁支持層上に設けられるヒーター層と、
熱絶縁支持層およびヒーター層を覆うように設けられる電気絶縁層と、
電気絶縁層上に設けられる安定化層と、
安定化層上に設けられるガス感知層と、
を備え、
安定化層を電気絶縁層とガス感知層とに密着結合させることにより、電気絶縁層とガス感知層との応力変化を回避することを特徴とする。
【0040】
また、本発明の請求項13に係る薄膜ガスセンサは、
請求項12に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ガス感知層は、
一対の感知電極層と、
一対の感知電極層を渡されるように設けられる感知層と、
感知層の表面に設けられ、触媒を担持した焼結材のガス選択燃焼層と、
を備え、
ガス感知層の感知層と電気絶縁層とに安定化層を密着結合させることにより、ガス感知層の感知層と電気絶縁層との応力変化を回避することを特徴とする。
このうちガス選択燃焼層は、Pd(パラジウム)および/またはPt(白金)を触媒として担持したAl2O3焼結材による層であることが好ましい。また、感知層は、二酸化スズ層であることが好ましい。一対の感知電極層は電気絶縁層上または安定化層上に配置される。
【0041】
また、本発明の請求項14に係る薄膜ガスセンサは、
請求項12または請求項13に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、島状PtからなるPt薄膜中間層であることを特徴とする。
【0042】
また、本発明の請求項15に係る薄膜ガスセンサは、
請求項14に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記Pt薄膜中間層である島状のPtは粒径5nm以下のPtを用いて形成された層であることを特徴とする。
【0043】
また、本発明の請求項16に係る薄膜ガスセンサは、
請求項12または請求項13に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、Ptを添加したSnO2からなるPt薄膜中間層であることを特徴とする。
【0044】
また、本発明の請求項17に係る薄膜ガスセンサは、
請求項16に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記Pt薄膜中間層は、膜厚10nm以下であることを特徴とする。
【0045】
また、本発明の請求項18に係る薄膜ガスセンサは、
請求項12または請求項13に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、SnO−SiO2ガラス薄膜層中間層であることを特徴とする。
【0046】
また、本発明の請求項19に係る薄膜ガスセンサは、
請求項18に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記SnO−SiO2ガラス薄膜中間層は、厚みが10nm〜1000nmであることを特徴とする。
【0047】
また、本発明の請求項20に係る薄膜ガスセンサは、
請求項18または請求項19に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記SnO−SiO2ガラス薄膜中間層は、SiO2 に対してSnOの濃度が20〜80wt%として形成した層であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0048】
以上のような本発明によれば、簡易な構成にて電気絶縁層と感知層との応力変化による影響を回避し、マイクロクラックの発生を抑止するようにした薄膜ガスセンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、本発明を実施するための最良の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図1は本形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。図2は薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。図3は安定化層の説明図であり、図3(a)は応力がかかる前の状態図、図3(b)は応力がかかった後の状態図である。
【0050】
本形態の薄膜ガスセンサ1は、図1で示すように、シリコン基板(以下Si基板)11、熱絶縁支持層12、ヒーター層13、電気絶縁層14、ガス感知層15、安定化層16を備える。熱絶縁支持層12は、詳しくは、SiO2層12a、CVD−SiN層12b、CVD−SiO2層12cの三層構造となっている。また、ガス感知層15は、詳しくは、感知電極層15a、感知層15b、ガス選択燃焼層15cを備える。
【0051】
この感知層15bは、二酸化スズ層(以下、SnO2感知層)であり、ガス選択燃焼層15cはパラジウム(Pd)または白金(Pt)の少なくとも一つを触媒として担持したアルミナ焼結材(以下、触媒担持Al2O3焼結材)である。
ガス感知層15は、一対の感知電極層15a,15aの一部、SnO2感知層である感知層15bの表面全体を、ガス選択燃焼層15cが覆う構造としている。
【0052】
続いて各部構成について説明する。
Si基板11は、シリコン(Si)により、貫通孔を有するように形成される。
熱絶縁支持層12は、この貫通孔の開口部に張られてダイアフラム様に形成されており、Si基板11の上に設けられる。
【0053】
熱絶縁支持層12は、詳しくは、SiO2層12a、CVD−SiN層12b、CVD−SiO2層12cの三層構造となっている。
SiO2層12aは熱絶縁層として形成され、ヒーター層13で発生する熱をSi基板11側へ熱伝導しないようにして熱容量を小さくする機能を有する。また、このSiO2層12aはプラズマエッチングに対して高い抵抗力を示し、後述するがプラズマエッチングによるSi基板11への貫通孔の形成を容易にする。
CVD−SiN層12bは、SiO2層12aの上側に形成される。
CVD−SiO2層12cは、ヒーター層13との密着性を向上させるとともに電気的絶縁を確保する。CVD(化学気相成長法)によるSiO2層は内部応力が小さい。
【0054】
ヒーター層13は、Ta/PtW/Taヒータであって、熱絶縁支持層12の上面に設けられる。また、図示しない電源供給ラインも形成される。
電気絶縁層14は、電気的に絶縁を確保するSiO2絶縁層からなり、熱絶縁支持層12およびヒーター層13を覆うように設けられる。ヒーター層13と感知電極層15aとの間に電気的な絶縁を確保する。
【0055】
安定化層16は、電気絶縁層14上に設けられ、詳しくは部分安定化ジルコニア薄膜中間層である。
なお、図1では感知電極層15aの下側にも安定化層16を設けているが、感知電極層15aの下側は安定化層16がなく直接に電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と接するようにしてもかまわない。
【0056】
感知電極層15aは、安定化層16(あるいは電気絶縁層14)の上に設けられ、例えば、Pt膜(白金膜)またはAu膜(金膜)であり、感知層15bの感知電極となるように左右一対に設けられる。この感知電極層15aは、例えば、Ta膜(タンタル膜)またはTi膜(チタン膜)という接合強度を高める機能を有する接合層を感知電極層15aと安定化層16(あるいは電気絶縁層14)との間に介在させるようにしても良い。本形態ではTa膜による接合層を介在させてPt膜を形成した感知電極層15aであるものとして以下に説明する。
【0057】
ガス感知層15bは、SnO2感知層からなり、一対の感知電極層15a,15aの間を渡されるように安定化層16の上に形成される。
【0058】
ガス選択燃焼層15cは、先に説明したように触媒担持Al2O3焼結材である。主成分であるAl2O3は多孔質体であるため、孔を通過する検知ガスが触媒(Pd,Ptの少なくとも一つ)に接触する機会を増加させて燃焼反応を促進させる。
このような薄膜ガスセンサ1はダイアフラム構造により高断熱,低熱容量の構造としている。薄膜ガスセンサ1の構成はこのようなものである。
【0059】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサの製造方法について概略説明する。
まず、板状のシリコンウェハー(図示せず)に対して熱酸化法により表裏両面に熱酸化を施して厚さ0.3μmの熱酸化膜を形成する。一方の面はSiO2層12aとなる。
そして、SiO2層12aを形成した面にCVD−SiN膜をプラズマCVD法にて堆積して厚さ0.15μmのCVD−SiN層12bを形成する。そして、このCVD−SiN層12bの上面にCVD−SiO2膜をプラズマCVD法にて堆積して厚さ1μmのCVD−SiO2層12cを形成する。これらSiO2層12a、CVD−SiN層12b、CVD−SiO2層12cは、ダイアフラム構造の支持層となる。
【0060】
さらに、CVD−SiO2層12cの上面にTa/PtW/Taヒータであるヒーター層13を形成する。
ヒーター層13の形成についてであるが、まず、CVD−SiO2層12cの上に接合層としてTaを0.05μm形成する。次に、ヒーター層13となるPtW(Pt+4Wt%W)膜を0.5μm形成する。さらに、上側の面にも接合層としてTaを0.05μm形成する。このような、Ta/PtW/Ta層に対して微細加工によりヒータパターンを形成することとなる。ヒータパターンの形成では、ウェットエッチングのエッチャントとしてTaには水酸化ナトリウムと過酸化水素混合液を、また、Ptには王水を、それぞれ90℃に加熱して用いた。
【0061】
そして、このCVD−SiO2層12cとヒーター層13との上面にスパッタSiO2膜をスパッタリング法により蒸着して、厚さ1.0μmのスパッタSiO2層である電気絶縁層14を形成する。そして、導通の確保とワイヤボンディング性とを向上させるため、微細加工によりヒータの電極パッド部分(図示せず)をHFにてエッチングして窓開け後、上側の接合層であって外界へ露出されているTaを水酸化ナトリウムと過酸化水素混合液とで除去し、ヒーター層13のPtWを外部へ露出させる。
【0062】
そして、電気絶縁層14上に部分安定化ジルコニアをスパッタ蒸着して安定化層16を形成する。具体的には電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と感知層15b(SnO2感知層)の間に厚みが50nm〜500nmの部分安定化ジルコニア薄膜中間層を設けることで達成される。ジルコニアに添加される安定化剤としてはY2O3、MgO、CaOの少なくとも一つを用いることができる。
【0063】
このような部分安定化ジルコニア薄膜中間層の形成手順は以下に説明するようになる。
まず、電気絶縁層14上にレジストを塗布する。
次に、微細加工でSnO感知層である感知層15bや感知電極層15a,15a(あるいは感知層15bのみ)を形成する部分のレジストを除去/開口させる。
次に部分安定化ジルコニア薄膜をスパッタ成膜により形成する。ターゲットには安定化剤としてMgOを3mol%添加されたZrO2を用いた。なおMgOに変えてY2O3、あるいはCaOを安定化剤として用いてもよい。部分安定化ジルコニア薄膜の成膜条件はパワー200W、圧力1Pa、Ar+O2中、温度100℃であり膜厚は300nmである。スパッタされた部分の安定化ジルコニア薄膜中のMgO濃度は2.4mol%であった。
次にチャンバーからウェハーを取り出しレジスト剥離液を用いてレジストのリフトオフを行った。これによりレジストとともに不要な部分安定化ジルコニア薄膜が剥離し、電気絶縁層14に直接成膜されていた箇所の部分安定化ジルコニア薄膜のみ残り、これが部分安定化ジルコニア薄膜中間層となる。
【0064】
なお、安定化剤の濃度は3mol%、膜厚は300nmであると説明したが、これに限定されるものではない。
安定化剤の濃度は<1mol%ではマトリックスの立方晶濃度が低すぎるため、また、>5mol%では立方晶濃度が高すぎるため、いずれも十分な効果が得られない。また膜厚が<50nmでは応力緩和が薄すぎるため2000万回の昇降温回数に耐えきれない薄膜ガスセンサが発生し、また、>500nmでは安定化ジルコニア薄膜の熱伝導による放熱が無視できなくなり電池駆動するには適さなくなる。結論としてジルコニアへの混合比率は1〜5mol%、また、膜厚は50nm〜500nmがよい。
【0065】
このようにして形成した安定化層16の上(あるいは電気絶縁層14の上)に感知電極層15aを形成する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、通常のスパッタリング法によって行う。まず、厚さ0.05μm接合層(Ta)を形成し、この接合層の上に、厚さ0.2μmの感知電極層(Pt)15aを形成する。成膜条件は共に、Arガス(アルゴンガス)圧力1Pa、成膜温度100℃、100Wである。
さらに微細加工により検出線パターンを形成する。ウエットエッチングのエッチャントとしてPtには王水をTaには水酸化ナトリウムと過酸化水素混合液、それぞれ90℃に加熱して用いた。
【0066】
次に、これら一対の感知電極層15a,15aの間に渡されるように安定化層16の上にSnO2感知層がスパッタリング法により蒸着され、感知層15bが形成される。
SnO2感知層は安定化ジルコニア薄膜と同様にレジストリフトオフ法により形成する。具体的には以下のような工程で形成する。
【0067】
まず、レジストを全面に塗布する。
次に微細加工で一対の感知電極層15a,15a上およびその一対の感知電極層15a,15a間の感知層15bを形成する部分のレジストを除去/開口する。
次にスパッタ成膜で感知層15b(SnO2感知層)をスパッタ成膜により形成する。SnO2感知層の成膜条件は100W、1Pa、Ar+O2中、成膜温度100℃である。成膜後レジストのリフトオフを行う。リフトオフ後は図2で示すような状態である。
【0068】
そして一対の感知電極層15a,15aおよび感知層15bの表面には、ガス選択燃焼層15cが形成される。このガス選択燃焼層15cは、触媒(PdまたはPtの少なくとも一つ)を担持したアルミナ粉末、アルミゾルバインダおよび有機溶剤を混合調製した印刷ペーストをスクリーン印刷で印刷し、室温で乾燥後、500℃で1時間焼き付けして約30μm厚の選択燃焼層(触媒フィルター)を形成している。このガス選択燃焼層15cの大きさは、感知層15bを十分に覆えるようにする。このようにスクリーン印刷により厚みを薄くしている。このガス選択燃焼層15cにより、ガスセンサの感度、ガス種選択性、信頼性が向上する。
【0069】
最後にシリコンウェハー(図示せず)の裏面から微細加工プロセスとしてドライエッチングによりシリコンを除去して貫通孔を形成してSi基板11とし、400μm径の貫通孔および開口部が形成されたダイヤフラム構造の薄膜ガスセンサを形成する。そして、ヒーター層13および感知電極層15aは図示しない駆動・処理部と電気的に接続される。
薄膜ガスセンサ1の製造方法はこのようになる。
【0070】
このようにして形成した部分安定化ジルコニア薄膜中間層の線膨張係数は8〜9×10−6/Kであり電気絶縁層14(SiO2絶縁層)の線膨張係数0.5×10−6/Kより相当大きくPt感知層電極である感知電極層15aに近い。従って部分安定化ジルコニア薄膜中間層とSnO2感知層との線膨張係数の差異は、Pt感知層電極とSnO2感知層との線膨張係数の差異と同程度になる。RT⇔450℃の熱衝撃で、部分安定化ジルコニア薄膜と下地のSiO2絶縁層との間には膨張係数の差異に応じた大きな応力が発生する。また部分安定化ジルコニア薄膜とSnO2感知層との間には、部分安定化ジルコニア薄膜と下地のSiO2絶縁層との間に発生する応力ほどではないが、やはり線膨張係数の差異により応力が発生する。
【0071】
しかしながら、図3(a)に示すように部分安定化ジルコニアは安定化剤で安定化された立方晶マトリックス中、安定化剤不足のため正方晶が混在している。応力がかかると、図3(b)で示すように、正方晶の一部が斜方晶に転移し応力緩和がなされる。転移時に図示はしないが斜方晶/正方晶界面にマイクロクラックが発生する。再度応力が発生すると更に正方晶の一部が斜方晶に転移し応力緩和がなされる。発生したマイクロクラックのジルコニア薄膜全体への伝播は斜方晶/正方晶界面のマイクロクラックでブロックされることとなる。
【0072】
部分安定化ジルコニア薄膜中間層は上記の応力緩和機構を有するため、RT⇔450℃の熱衝撃による応力(SnO2感知層/部分安定化ジルコニア薄膜中間層、部分安定化ジルコニア薄膜中間層/SiO2絶縁層)は部分安定化ジルコニア薄膜中間層で吸収され、SnO2感知層のマイクロクラックの発生が防止される。従って長時間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。また、部分安定化ジルコニア薄膜は絶縁性が高くしかも比較的熱伝導率も低いため、センサの特性にはなんら影響を与えることがない。
【0073】
続いて本形態の薄膜ガスセンサ1の性能について検証する。本形態の薄膜ガスセンサを素子Aとする。更に比較のため部分安定化ジルコニア薄膜中間層のない従来技術の薄膜ガスセンサ(図15で示されたもの)を素子Bとする。次表は素子A(本形態)と素子B(従来技術)の諸特性を比較する表である。
【0074】
【表2】
【0075】
素子A(本形態)と素子B(従来技術)を各5個ずつ大気中でパルス通電(試験条件:3V/50mW、通電100msecON/1secOFF(通電時ヒーター温度450℃))を500、1000、2000万回繰り返した後の20℃、60%RHでの2000ppmCH4/空気中における感知層15b(SnO2感知層であり、センサ温度が450℃である)の抵抗値の変化を示したものである。
【0076】
表2から示されるように、素子A(本形態)は5個とも2000万回繰り返した後も2000ppmCH4/空気中におけるSnO2感知層(センサ温度450℃)の抵抗値がほとんど変化していないことが分かる。
一方、素子B(従来技術)の感知層電極の素子においては、センサの抵抗値の変化が大きい素子(素子B4,素子B5など)が発生した。2000万回のon−offを繰り返した後でも、部分安定化ジルコニア薄膜中間層を設けた素子Aではセンサ抵抗変化がほとんどなく高い信頼性を有することがわかる。
【0077】
本発明の素子Aと、従来素子のうち抵抗変化が大きく変化した素子Bとについてそれぞれガス選択燃焼層15cを剥離し感知層15b(SnO2感知層)を金属顕微鏡で観察した。本発明の素子AではSnO2感知層にマイクロクラックが全く観察されなかったが、抵抗値が大きく上昇した従来技術による素子Bでは電気絶縁層14(SiO2絶縁層)上に多数のマイクロクラックが認められた。
【0078】
以上説明したように、SiO2絶縁層とSnO2感知層の間に部分安定化ジルコニア薄膜中間層を設けることで、その応力緩和機構により、RT⇔450℃の熱衝撃による応力(SnO2感知層/部分安定化ジルコニア薄膜中間層、部分安定化ジルコニア薄膜中間層/SiO2絶縁層)は、全て部分安定化ジルコニア薄膜中間層で応力が吸収(正方晶→斜方晶転移による応力緩和)され、SnO2感知層にはマイクロクラックの発生が防止される。従って長期間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、長期間安定した抵抗値(センサ特性)を保持し、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。
【0079】
続いて、他の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図4は他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。図5は薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。図6は安定化層の説明図であり、図6(a)は応力がかかる前の状態図、図6(b)は応力がかかった後の状態図である。
【0080】
本形態の薄膜ガスセンサは、図4で示すように、シリコン基板(以下Si基板)11、熱絶縁支持層12、ヒーター層13、電気絶縁層14、ガス感知層15、安定化層17を備える。熱絶縁支持層12は、詳しくは、SiO2層12a、CVD−SiN層12b、CVD−SiO2層12cの三層構造となっている。また、ガス感知層15は、詳しくは、感知電極層15a、感知層15b、ガス選択燃焼層15cを備える。
【0081】
この感知層15bは、SnO2感知層であり、ガス選択燃焼層15cは触媒担持Al2O3焼結材である。
ガス感知層15は、一対の感知電極層15a,15aの一部、感知層15bの表面全体を、ガス選択燃焼層15cが覆う構造としている。
【0082】
図1〜図3を用いて説明した先の形態では、大きな応力が発生するSnO2/下地層界面に、応力吸収機能を有する安定化層として部分安定化ジルコニア薄膜中間層を採用したものである。しかしながら、実用上は問題のないことと確認されているが、部分安定化ジルコニアは線膨張係数が10〜11×10−6/Kとやや大きく、若干熱衝撃に弱い面がある。そこで、本形態では、部分安定化ジルコニア薄膜中間層に代えて、新たにジルコニア高靭化セラミックス薄膜中間層で、好ましくはジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を採用し、さらなる性能向上を図るものである。
以下、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層について重点的に説明するとともに、これ以外は図1〜図3で説明した薄膜ガスセンサ1の構成と同じであるため、他の構成は同じ符号を付すとともに重複する説明を省略する。
【0083】
図4で示すように、安定化層17は、電気絶縁層14上に設けられ、詳しくはジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層である。感知電極層15aや感知層15bは、この安定化層17の上に設けられることとなる。
なお、図4では感知電極層15aの下側にも安定化層17を設けているが、感知電極層15aの下側は安定化層17がなく直接に電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と接するようにしてもかまわない。
【0084】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサの製造方法のうち、安定化層17の形成について概略説明する。電気絶縁層14上にジルコニア高靭化セラミックス(Zirconia Toughened Ceramics)をスパッタ蒸着して安定化層17を形成する。具体的には電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と感知層15b(SnO2感知層)の間に厚みが10nm〜1000nmのジルコニア高靭化セラミックス(Zirconia Toughened Ceramics)薄膜中間層を設けることで達成される。ジルコニア高靭化セラミックス薄膜中間層で採用されるセラミクスについては各種考えられるが、好ましくはアルミナマトリックス中へジルコニアを分散したジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層であり、更に具体的には、ジルコニアが正方ジルコニア多結晶体(Tetoragonal Zirconia Polycrystals)であるようなジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を設けることで達成される。正方ジルコニア多結晶体はY2O3、MgO、CaOなどの安定化剤を含まないZrO2でありいわゆる一般のジルコニア粉末である。正方ジルコニア多結晶体のアルミナマトリックスへの混合比率は0.1〜5mol%がよい。
薄膜ガスセンサ1では下地となる電気絶縁層14(SiO2絶縁層)との線膨張係数の差異が大きい安定化層17(ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層)を介して感知層15b(SnO2感知層)が積層された構造となる。
【0085】
このようなジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層の形成手順は以下に説明するようになる。
まず、電気絶縁層14上にレジストを塗布する。
次に、微細加工でSnO感知層である感知層15bや感知電極層15a,15a(あるいは感知層15bのみ)を形成する部分のレジストを除去/開口させる。
次にジルコニア高靭化アルミナ薄膜をスパッタ成膜により形成する。ターゲットにはZrO2微粒子を3mol%含むAl2O3(ジルコニア高靭化アルミナ)を用いた。ジルコニア高靭化アルミナ薄膜の成膜条件はパワー300W、圧力1Pa、Ar+O2中、温度100℃であり膜厚は500nmである。スパッタ成膜したジルコニア高靭化アルミナ中のZrO2濃度は2.8mol%であり、微粒子としてアルミナマトリックス中へ分散していることがSEM−EDXで確認できている。
次にチャンバーからウェハーを取り出しレジスト剥離液を用いてレジストのリフトオフを行った。これによりレジストとともに不要なジルコニア高靭化アルミナ薄膜が剥離し、電気絶縁層14に直接成膜されていた箇所のジルコニア高靭化アルミナ薄膜が、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層となる。
そして、安定化層17上に一対の感知電極層15a,15a、感知層15bが形成されて図5で示すような状態となる(あるいは安定化層17上に感知層15bのみ形成される)。
【0086】
なお、正方晶ZrO2濃度は3mol%、膜厚は500nmであると説明したが、これに限定されるものではない。
ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中の正方晶ZrO2濃度は<0.1mol%では高靭化効果が低すぎるため、また、>10mol%ではアルミナマトリックスの強度が低下するため十分な効果が得られない。また膜厚が<10nmでは応力緩和層が薄すぎるため2000万回の昇降温回数に耐えられない素子が発生し、また、>1000nmではジルコニア高靭化アルミナ薄膜の熱伝導による放熱が無視できなくなり、電池駆動するには適さなくなる。結論として0.1〜5mol%、また、膜厚は10nm〜1000nmがよい。
以下、ガス感知層15は先に説明した方法と同じ方法で形成されることとなる。
【0087】
このように形成したジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層の線膨張係数は6〜7×10−6/Kであり電気絶縁層14(SiO2絶縁層)の線膨張係数0.5×10−6/Kより相当大きくSnO2感知層とPt感知層電極の中間的な値である。線膨張係数が小さいので、耐熱衝撃性は先に説明した部分安定化ジルコニア薄膜中間層より優れている。またSnO2感知層との接合強度に関しても部分安定化ジルコニア薄膜中間層より向上する。RT⇔450℃の熱衝撃で、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層と下地のSiO2絶縁層との間には、膨張係数の差異により大きな応力が発生する。また、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層とSnO2感知層の間には、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜と下地のSiO2絶縁層との間に発生する応力ほどではないが、やはり線膨張係数の差異により応力が発生する。
【0088】
しかしながら、図6(a)に示すようにジルコニア高靭化アルミナ薄膜中には、アルミナマトリックス中に正方ジルコニア多結晶体(正方晶ジルコニア)粒子が均一に存在してる。RT⇔450℃の繰り返しで、下地SiO2あるいは被覆したSnO2との線膨張係数の差異に応じた応力がジルコニア高靭化アルミナ薄膜にかかると、図6(b)に示すように正方晶ジルコニアの一部が単斜晶に転移することで応力を吸収し応力緩和が成される。
【0089】
すなわち準安定な正方晶ジルコニア粒子は外部からの応力に誘起されて、より安定な準安定な単斜晶ジルコニアにマルテンサイト変態し、それに伴って約4.6%の体積膨張とせん断歪を起こす。この体積膨張によってクラックを締め付ける「転移強化」が高靭化の主原因である。これに加えて「マイクロクラックの伝播阻止」などの効果があり、SnO2/SiO2界面に発生する大きな応力をジルコニア高靭化アルミナ薄膜中で緩和する。
繰り返し応力が発生すると更に正方晶の一部が単斜晶に転移し応力緩和がなされる。発生したマイクロクラックのジルコニア薄膜全体への伝播は単斜晶/正方晶界面のマイクロクラックでブロックされる。
【0090】
ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層は上記の応力緩和機構を有するため、RT⇔450℃の熱衝撃による応力(SnO2感知層/ジルコニア高靭化アルミナ薄膜/SiO2絶縁層)は全てジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層で吸収され、SnO2感知層のマイクロクラックの発生が防止される。従って長期間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。またジルコニア高靭化アルミナ薄膜は絶縁性が高いため、センサの特性にはなんら影響を与えることがない。
【0091】
続いて本形態の薄膜ガスセンサ1の性能について検証する。本形態の薄膜ガスセンサを素子Aとする。更に比較のためジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層のない従来技術の薄膜ガスセンサ(図15で示されたもの)を素子Bとする。次表は素子A(本形態)と素子B(従来技術)との諸特性を比較する表である。
【0092】
【表3】
【0093】
素子A(本形態)と素子B(従来技術)を各5個ずつ大気中でパルス通電(試験条件:3V/50mW、通電100msecON/1secOFF(通電時ヒーター温度450℃))を500、1000、2000万回繰り返した後の20℃、60%RHでの2000ppmCH4/空気中における感知層15b(SnO2感知層であり、センサ温度が450℃である)の抵抗値の変化を示したものである。
【0094】
表3から示されるように、素子A(本形態)は5個とも2000万回繰り返した後も2000ppmCH4/空気中におけるSnO2感知層(センサ温度450℃)の抵抗値がほとんど変化していないことが分かる。
【0095】
一方、素子B(従来技術)の感知層電極の素子においては、センサの抵抗値の変化が大きい素子(素子B4,素子B5)が発生した。2000万回のon−offを繰り返し後でも、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を設けた素子Aではセンサ抵抗変化がほとんどなく高い信頼性を有することがわかる。
【0096】
本発明の素子と従来素子で抵抗変化が大きく変化した素子についてそれぞれガス選択燃焼層15cを剥離し感知層15b(SnO2感知層)を金属顕微鏡で観察した。本発明の素子ではSnO2感知層にマイクロクラックが全く観察されなかったが、抵抗値が大きく上昇した従来素子ではSiO2絶縁層上に多数のマイクロクラックが認められた。
【0097】
以上説明したように、SiO2絶縁層とSnO2感知層との間にジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を設けることで、その応力緩和機構により、RT⇔450℃の熱衝撃による応力(SnO2感知層/ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層/SiO2絶縁層)は、全てジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層で吸収(正方晶→斜方晶/単斜晶転移による応力緩和)され、SnO2感知層にはマイクロクラックの発生が防止される。従って長期間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、長期間安定した抵抗値(センサ特性)を維持し、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。
【0098】
続いて、他の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図7は他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。図8は薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。
【0099】
本形態の薄膜ガスセンサ1は、図7で示すようにシリコン基板(以下Si基板)11、熱絶縁支持層12、ヒーター層13、電気絶縁層14、ガス感知層15、安定化層18を備える。熱絶縁支持層12は、詳しくは、SiO2層12a、CVD−SiN層12b、CVD−SiO2層12cの三層構造となっている。また、ガス感知層15は、詳しくは、感知電極層15a、感知層15b、ガス選択燃焼層15cを備える。
【0100】
この感知層15bはSnO2感知層であり、ガス選択燃焼層15cは触媒担持Al2O3焼結材である。
ガス感知層15は、一対の感知電極層15a,15aの一部、感知層15bの表面全体を、ガス選択燃焼層15cが覆う構造としている。
【0101】
図1〜図6を用いて説明した先の形態では安定化層として部分安定化ジルコニア薄膜中間層やジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を採用しているが、本形態では、新たに島状のPtあるいはPtを添加したSnO2であるPt薄膜中間層を採用して、SiO2絶縁層上でもPt電極上と同程度の密着性が得られるようにした点が相違するものである。以下、島状のPt、あるいは、Ptを添加したSnO2であるPt薄膜中間層について重点的に説明するとともに、これ以外は図1〜図3を用いて説明した薄膜ガスセンサの構成と同じであるため、他の構成は同じ符号を付すとともに重複する説明を省略する。
【0102】
安定化層18は、電気絶縁層14上に設けられ、詳しくは島状のPt、あるいは、Ptを添加したSnO2であるPt薄膜中間層である。感知層15bは、この安定化層18の上に設けられることとなる(図8参照)。
【0103】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサの製造方法のうち、安定化層の形成について概略説明する。感知電極層15a,15aが電気絶縁層14上に形成されているものとする。続いて、感知電極層15a,15aの間で電気絶縁層14上に安定化層18を形成するが、島状のPtか、または、Ptを添加したSnO2層を形成する。以下、順次説明する。
第一形態として、島状のPtによる安定化層18について説明する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、通常のスパッタリング方法によって行う。成膜条件はAr+O2ガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー0.2W/cm2、膜厚は2nmである。Ptを島状に形成するために、RFパワーを抑え、低い成膜レートでスパッタリングする。膜厚(=粒径)が5nm未満では、Pt層はそれぞれが独立した島状組織であるが、膜厚が5nm以上になると、それぞれの島がつながった連続膜となり、感知電極層15aに導通が生じてしまいセンサ感度がなくなる。したがって、島状のPtの膜厚(=粒径)は0.1nmを超えて5nm未満である必要がある。
【0104】
第二形態として、Ptを添加したSnO2層による安定化層18について説明する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリング方法によって行う。ターゲットは、Pt15wt%を有するSnO2を用いる。成膜条件はAr+O2ガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー2W/cm2、膜厚は10nmである。Ptを添加したSnO2層は抵抗率が高く、膜厚が厚いとセンサ全体の抵抗値が高くなりすぎて実使用上で要求される100kΩ以下という基準を満たさなくなる。そこで、膜厚は0.1nmを超えて10nm以下である必要がある。
【0105】
以上のように島状のPtあるいはPtを添加したSnO2層である安定化層18を形成した後、感知層15bを形成する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリング方法によって行う。ターゲットは、Sbを0.5wt%を有するSnO2を用いる。成膜条件はAr+O2ガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー2W/cm2、膜厚は500nmである。
【0106】
このように構成しても感知層15b(SnO2感知層)でのマイクロクラックの発生が防止される。従って長期間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、長期間安定した抵抗値(センサ特性)が確保され、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。なお、図7では感知電極層15aの下側は安定化層18がなく直接に電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と接するようにしているが、感知電極層15aの下側にも安定化層18を設けるようにしても良い。
このように電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と感知層15b(SnO2感知層)との間に、島状のPtあるいはptを添加したSnO2層による安定化層18を設けることで、SiO2絶縁層上でのSnO2感知層の剥離を防止し、2000万回程度のヒートサイクルでも抵抗値変化のない、安定な薄膜ガスセンサを得ることができる。
【0107】
続いて、他の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図9は他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。図10は薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。
【0108】
本形態の薄膜ガスセンサは、図9で示すようにシリコン基板(以下Si基板)11、熱絶縁支持層12、ヒーター層13、電気絶縁層14、ガス感知層15、安定化層19を備える。熱絶縁支持層12は、詳しくは、SiO2層12a、CVD−SiN層12b、CVD−SiO2層12cの三層構造となっている。また、ガス感知層15は、詳しくは、感知電極層15a、感知層15b、ガス選択燃焼層15cを備える。
【0109】
この感知層15bは、SnO2感知層であり、ガス選択燃焼層15cは触媒担持Al2O3焼結材である。
ガス感知層15は、一対の感知電極層15a,15aの一部、感知層15bの表面全体を、ガス選択燃焼層15cが覆う構造としている。
【0110】
図1〜図6で示した先の形態では安定化層として部分安定化ジルコニア薄膜中間層やジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を採用し、マイクロクラックの発生を防止する提案を行っている。これらの技術の効果は有効であるものの、下地SiO2絶縁層とSnO2感知層にとって異種カチオンの組み合わせであり更なる密着性の向上が求められる。そこで、特に部分安定化ジルコニア薄膜中間層やジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層に代えて、新たに厚みが10nm〜1000nmのSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を採用した点が相違するものである。
【0111】
SnO−SiO2ガラス薄膜中間層は下地SiO2絶縁層とSnO2感知層の両方のカチオンを主成分として有する物質であり、両者との接合性が優れ、強い接合強度を有するためSnO2感知層および下地SiO2絶縁層間での剥離/マイクロクラックを生じさせない。
【0112】
この理由について説明する。
SiO2へのSnO2の密着性は、両者が酸化物同士であるため比較的よいと推定できるが、マイクロスクラッチ試験などで調べるとSiO2−SnO2の接合強度は比較的低く、しかも面内で接合強度に大きなばらつきがあることが判明した。そこで比較のため、SiO2上へSiO2を成膜し同様の試験を行いSiO2(基板)−SiO2(成膜)の密着性を評価すると、接合強度はSiO2−SnO2よりはるかに高くなる。SiO2(基板)−SiO2(成膜)界面ではSi−O−Siの結合であり、SiO2−SnO2界面ではSi−O−Snの結合で結合している。両者の差異は、SiO2(基板)−SiO2(成膜)では同種の元素(Si)間の酸素原子を介しての接合であり、SiO2−SnO2では異種の元素(SiとSn)間の酸素原子を介しての接合である。原因は明確ではないが、異種の異種カチオンの影響が大きいと推定される。
【0113】
従ってSi−O−Siの結合やSn−O−Snの結合が安定化層19になされれば、長期間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。またSnO−SiO2ガラス薄膜は絶縁性が高いため、センサの特性になんら影響を与えることがない。なおSnO−SiO2ガラスは特殊な組成のガラスであり、J.Carbo Nover And J.Williamson, Phys. Chem. Glasses, 8 [4] 166(1967)などに詳しい。
【0114】
以下、SnO−SiO2ガラス薄膜中間層による安定化層19について重点的に説明するとともに、これ以外は図1〜図3で説明した薄膜ガスセンサの構成と同じであるため、他の構成は同じ符号を付すとともに重複する説明を省略する。
【0115】
安定化層19は、電気絶縁層14上に設けられ、詳しくはSnO−SiO2ガラス薄膜中間層である。SnO−SiO2ガラス薄膜中間層は、SiO2絶縁層とSnO2感知層の間にを設けることで達成される。感知電極層15aや感知層15bは、この安定化層19の上に設けられることとなる。
なお、図9では感知電極層15aの下側にも安定化層19を設けているが、感知電極層15aの下側は安定化層19がなくて直接電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と接するようにしてもかまわない。
【0116】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサの製造方法のうち、安定化層19の形成について概略説明する。
電気絶縁層14上にSnO−SiO2ガラス薄膜中間層をスパッタして安定化層19を形成する。具体的には電気絶縁層14(SiO2絶縁層)と感知層15b(SnO2感知層)の間に厚みが10nm〜1000nmのSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を設けることで達成される。
薄膜ガスセンサ1では下地となる電気絶縁層14(SiO2絶縁層)との線膨張係数の差異が大きいSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を介して感知層15b(SnO2感知層)が積層された構造となる。
【0117】
このようなSnO−SiO2ガラス薄膜中間層の形成手順は以下に説明するようになる。
まず、電気絶縁層14上にレジストを塗布する。
次に、微細加工でSnO感知層である感知層15bや感知電極層15a,15a(あるいは感知層15bのみ)を形成する部分のレジストを除去/開口させる。
次にSnO−SiO2ガラス薄膜をスパッタ成膜により形成する。ターゲットにはSnOを50wt%含むSnO−SiO2ガラスターゲットを用いた。SnO−SiO2ガラス薄膜の成膜条件はパワー300W、圧力1Pa、Ar+O2中、温度100℃であり膜厚は500nmである。スパッタ成膜したSnO−SiO2ガラス薄膜中のSnO濃度は55wt%であった。
次にチャンバーからウェハーを取り出し、レジスト剥離液を用いてレジストのリフトオフを行った。これによりレジストとともに不要なSnO−SiO2ガラス薄膜中間層が剥離し、電気絶縁層14に直接成膜されていた箇所のSnO−SiO2ガラス薄膜のみ残り、これがSnO−SiO2ガラス薄膜中間層となる。
そして、安定化層19上に一対の感知電極層15a,15a、感知層15bが形成されて図10で示すような状態となる(あるいは安定化層19上に感知層15bのみ形成される)。
【0118】
SnO−SiO2ガラス薄膜中のSnO濃度は>80wt%では下地となるSiO2絶縁層との接着強度が低く、また、<20wt%ではSnO2感知層との接合強度が低下するため十分な効果が得られない。さらに膜厚が<10nmでは成膜条件にもよるがSnO−SiO2ガラス薄膜がアイランド状になっている場合があり十分な接着強度がない場合があり、また、>1000nmでは薄膜ヒーターからの熱伝導の障害となり省電力化を阻害し、電池駆動するには適さなくなる。結論としてガラス薄膜中のSnO濃度は20wt%〜80wt%がよく、また、膜厚は10nm〜1000nmがよい。
【0119】
続いて本形態の薄膜ガスセンサの性能について検証する。本形態の薄膜ガスセンサを素子Aとする。更に比較のためSnO−SiO2ガラス薄膜中間層のない従来技術の薄膜ガスセンサ(図15で示されたもの)を素子Bとする。次表は素子A(本形態)と素子B(従来技術)の諸特性を比較する表である。
【0120】
【表4】
【0121】
素子A(本形態)と素子B(従来技術)を各5個ずつ大気中でパルス通電(試験条件:3V/50mW、通電100msecON/1secOFF(通電時ヒーター温度450℃))を500、1000、2000万回繰り返した後の20℃、60%RHでの2000ppmCH4/空気中における感知層15b(SnO2感知層:センサ温度が450℃)の抵抗値の変化を示したものである。
【0122】
表4から示されるように、素子A(本形態)は5個とも2000万回繰り返した後も2000ppmCH4/空気中における感知層15b(SnO2感知層:センサ温度450℃)の抵抗値がほとんど変化していないことが分かる。
【0123】
一方、素子B(従来技術)の感知層15bにおいては、センサの抵抗値の変化が大きい素子(素子B4,素子B5)が発生した。2000万回のon−offを繰り返し後でも、SnO−SiO2ガラス薄膜中間層を設けた素子Aではセンサ抵抗変化がほとんどなく高い信頼性を有することがわかる。
【0124】
本発明の素子と従来素子で抵抗変化が大きく変化した素子についてそれぞれガス選択燃焼層15cを剥離し感知層15b(SnO2感知層)を金属顕微鏡で観察した。本発明の素子ではSnO2感知層にマイクロクラックが全く観察されなかったが、抵抗値が大きく上昇した従来素子ではSiO2絶縁層上に多数のマイクロクラックが認められた。
【0125】
このような薄膜ガスセンサ1では、SiO2絶縁層とSnO2感知層の間に、両者と相性が良く高い接合強度を有するSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を設けることで、ON/OFFの2000万回以上の繰り返しにおいてもSnO2感知層の下地からの剥離/マイクロクラックの発生が防止される。従って長時間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、長期間安定した抵抗値(センサ特性)が確保され、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。
【0126】
続いて、本発明の他の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図11は他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。本形態では上記の各種安定層を他の薄膜ガスセンサに適用できることを示すものである。
本形態の薄膜ガスセンサは、シリコン基板(以下Si基板)21、熱絶縁支持層22、ヒーター層23、電気絶縁層24、ガス感知層25、安定化層26を備える。熱絶縁支持層22は、詳しくは、熱酸化SiO2層22a、CVD−Si3N4層22b、CVD−SiO2層22cの三層構造となっている。また、ガス感知層25は、詳しくは、接合層25a、感知電極層25b、感知層25c、ガス選択燃焼層25dを備える。この感知層25cはアンチモンが添加された二酸化スズ層(以下、Sb−doped SnO2層)であり、ガス選択燃焼層25dはパラジウム(Pd)または白金(Pt)の少なくとも一つを触媒として担持したアルミナ焼結材(以下、触媒担持Al2O3焼結材)である。
【0127】
ガス感知層25では、接合層25a、一対の感知電極層25b,25b、感知層25cの表面全体、および安定化層26を、ガス選択燃焼層25dが覆う構造としている。
【0128】
続いて各部構成について説明する。
Si基板21はシリコン(Si)により形成され、貫通孔を有するように形成される。
熱絶縁支持層22はこの貫通孔の開口部に張られてダイアフラム様に形成されており、Si基板21の上に設けられる。
【0129】
熱絶縁支持層22は、詳しくは、熱酸化SiO2層22a、CVD−Si3N4層22b、CVD−SiO2層22cの三層構造となっている。
熱酸化SiO2層22aは熱絶縁層として形成され、ヒーター層23で発生する熱をSi基板21側へ熱伝導しないようにして熱容量を小さくする機能を有する。また、この熱酸化SiO2層22aはプラズマエッチングに対して高い抵抗力を示し、後述するがプラズマエッチングによるSi基板21への貫通孔の形成を容易にする。
CVD−Si3N4層22bは、熱酸化SiO2層22aの上側に形成される。
CVD−SiO2層22cは、ヒーター層23との密着性を向上させるとともに電気的絶縁を確保する。CVD(化学気相成長法)によるSiO2層は内部応力が小さい。
【0130】
ヒーター層23は、薄膜状のNi−Cr膜(ニッケル−クロム膜)であって、熱絶縁支持層22のほぼ中央の上面に設けられる。また、図示しない電源供給ラインも形成される。この電源ラインは、図示しない駆動・処理部に接続される。
電気絶縁層24は、電気的に絶縁を確保するスパッタSiO2層からなり、熱絶縁支持層22およびヒーター層23を覆うように設けられる。ヒーター層23と感知電極層25bとの間に電気的な絶縁を確保し、また、電気絶縁層24は感知層25cとの密着性を向上させる。
【0131】
安定化層26は、電気絶縁層24上に設けられ、詳しくは部分安定化ジルコニア薄膜中間層である。感知電極層25bや感知層25cは、この安定化層26の上に設けられることとなる。
なお、図11では接合層25a,感知電極層25bの下側にも安定化層26を設けているが、接合層25a,感知電極層25bの下側は安定化層26がなく直接電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と接するようにしてもかまわない。
【0132】
接合層25aは、例えば、Ta膜(タンタル膜)またはTi膜(チタン膜)からなり、電気絶縁層24の上に設けられる。この接合層25aは、感知電極層25bと電気絶縁層24との間に介在して接合強度を高める機能を有している。本形態ではTa膜(タンタル膜)であるものとして説明する。
感知電極層25bは、例えば、Pt膜(白金膜)またはAu膜(金膜)からなり、感知層25cの感知電極となるように左右一対に設けられる。本形態ではPt膜(白金膜)であるものとして説明する。
ガス感知層25cは、Sb−doped SnO2層からなり、一対の感知電極層25b,25bを渡されるように電気絶縁層24の上に形成される。
【0133】
ガス選択燃焼層25dは、先に説明したように触媒担持Al2O3焼結材である。主成分であるAl2O3は多孔質体であるため、孔を通過する検知ガスがPdやPtという接触する機会を増加させて燃焼反応を促進させる。
そして、ガス選択燃焼層25dは、電気絶縁層24、接合層25a、一対の感知電極層25b,25b、感知層25cおよび安定化層26の表面を覆うように設けられる。
そして駆動・処理部(図示せず)は、ヒーター層23と電気的に通電可能に接続され、また、ガス感知電極層25bを介して感知層25cと電気的に通信可能に接続される。
このような薄膜ガスセンサはダイアフラム構造により高断熱、低熱容量の構造としている。薄膜ガスセンサ2の構成はこのようなものである。
【0134】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサ2の製造方法について概略説明する。
まず、板状のシリコンウェハー(図示せず)に対して熱酸化法によりその片面(または表裏両面)に熱酸化を施して熱酸化SiO2膜たる熱酸化SiO2層22aを形成する。
そして、熱酸化SiO2層22aを形成した面にCVD−Si3N4膜をプラズマCVD法にて堆積してCVD−Si3N4層22bを形成する。そして、このCVD−Si3N4層22bの上面にCVD−SiO2膜をプラズマCVD法にて堆積してCVD−SiO2層22cを形成する。
【0135】
さらに、CVD−SiO2層22cの上面にNi−Cr膜をスパッタリング法により蒸着してヒーター層23を形成する。そして、このCVD−SiO2層22cとヒーター層23との上面にスパッタSiO2膜をスパッタリング法により蒸着して、スパッタSiO2層である電気絶縁層24を形成する。
【0136】
そして、電気絶縁層24上に部分安定化ジルコニア薄膜中間層をスパッタ蒸着して安定化層26を形成する。具体的には電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と感知層25c(SnO2感知層)の間に厚みが50nm〜500nmの部分安定化ジルコニア薄膜中間層を設けることで達成される。安定化剤としてはY2O3、MgO、CaOの少なくとも一つを用いることができる。
【0137】
このような部分安定化ジルコニア薄膜中間層の形成手順は以下に説明するようになる。
まず、電気絶縁層24上にレジストを塗布する。
次に、微細加工でSnO2感知層である感知層25cや接合層25a,25a、感知電極層25b,25b(あるいは感知層25cのみ)を形成する部分のレジストを除去/開口させる。
次に部分安定化ジルコニア薄膜をスパッタ成膜により形成する。ターゲットには安定化剤としてMgOを3mol%添加されたZrO2を用いた。なおMgOに変えてY2O3、あるいはCaOを安定化剤として用いてもよい。部分安定化ジルコニア薄膜の成膜条件はパワー200W、圧力1Pa、Ar+O2中、温度100℃であり膜厚は300nmである。スパッタされた部分の安定化ジルコニア薄膜中のMgO濃度は2.4mol%であった。
次にチャンバーからウェハーを取り出しレジスト剥離液を用いてレジストのリフトオフを行った。これによりレジストが剥離し、電気絶縁層24に直接成膜されていた箇所の部分安定化ジルコニア薄膜のみ残り、これが部分安定化ジルコニア薄膜中間層となる。
【0138】
なお、安定化剤の濃度は3mol%、膜厚は300nmであると説明したが、これに限定されるものではない。
安定化剤の濃度は<1mol%ではマトリックスの立方晶濃度が低すぎるため、また、>5mol%では立方晶濃度が高すぎるため十分な効果が得られない。さらに膜厚が<50nmでは応力緩和が薄すぎるため2000万回の昇降温回数に耐えきれない素子が発生し、また、>500nmでは安定化ジルコニア薄膜の熱伝導による放熱が無視できなくなり、電池駆動するには適さなくなる。結論としてジルコニアへの混合比率は1〜5mol%、また、膜厚は50nm〜500nmがよい。
【0139】
このようにして形成した安定化層26(あるいは安定化層26の両側の電気絶縁層24)の上に接合層25a、感知電極層25bを形成する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、通常のスパッタリング法によって行う。成膜条件は接合層(Ta)25a、感知電極層(Pt)25bとも同じで、Arガス(アルゴンガス)圧力1Pa、基板温度300℃、RFパワー2W/cm2、膜厚は接合層5a/感知電極層5b=500Å/2000Åである。
【0140】
一対の感知電極層25b,25bの間に渡されるように安定化層26の上にSb−doped SnO2膜がスパッタリング法により蒸着され、感知層25cが形成される。
成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリング法によって行う。ターゲットにはSbを0.5wt%含有するSnO2を用いる。成膜条件はAr+O2ガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー2W/cm2である。感知層25cの大きさは、50ないし200μm角程度、厚さは0.2ないし1.6μm程度が望ましい。
【0141】
そして、絶縁層24、接合層25a,25a、一対の感知電極層25b,25b、感知層25cおよび安定化層26を覆うように、ガス選択燃焼層25dが形成される。このガス選択燃焼層25dは、Pd触媒を担持したPd7.0wt%添加したγ−アルミナ(平均粒径2〜3μm)粉末にアルミナゾルを5〜20wt%添加し、有機溶剤を混合調製した印刷ペーストをスクリーン印刷で印刷し、室温で乾燥後、500℃で1時間焼き付けして形成している。ガス選択燃焼層25dの大きさは、感知層25cを十分に覆えるようにする。このようにスクリーン印刷により厚みを薄くしている。焼成後の選択燃焼層の膜厚は30〜35μmである。
【0142】
最後にシリコンウェハー(図示せず)の裏面から微細加工プロセスとしてエッチングによりシリコンを除去して貫通孔を形成してSi基板21とし、ダイヤフラム構造の薄膜ガスセンサを形成する。そして、ヒーター層23および感知電極層25bは図示しない駆動・処理部と電気的に接続される。
薄膜ガスセンサ2の製造方法はこのようになる。
【0143】
このようにして形成した部分安定化ジルコニア薄膜中間層の線膨張係数は8〜9×10−6/Kであり電気絶縁層24(SiO2絶縁層)の線膨張係数0.5×10−6/Kより相当大きくPt感知層電極である感知電極層25bに近い。従って部分安定化ジルコニア薄膜中間層とSnO2感知層との線膨張係数の差異は、Pt感知層電極とSnO2感知層との線膨張係数の差異と同程度になる。RT⇔450℃の熱衝撃で、部分安定化ジルコニア薄膜と下地のSiO2絶縁層との間には膨張係数の差異に応じた大きな応力が発生する。また部分安定化ジルコニア薄膜とSnO2感知層の間には、部分安定化ジルコニア薄膜と下地のSiO2絶縁層との間に発生する応力ほどではないが、やはり線膨張係数の差異により応力が発生する。
【0144】
しかしながら、先に図3(a),(b)を用いて説明した原理により応力緩和がなされ、マイクロクラックの発生が防止される。従って長時間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。また、部分安定化ジルコニア薄膜は絶縁性が高く、しかも比較的熱伝導率も低いため、センサの特性にはなんら影響を与えることがない。
【0145】
以上説明したように、SiO2絶縁層とSnO2感知層の間に部分安定化ジルコニア薄膜中間層を設けることで、その応力緩和機構により、RT⇔450℃の熱衝撃による応力(SnO2感知層/部分安定化ジルコニア薄膜中間層、部分安定化ジルコニア薄膜中間層/SiO2絶縁層)は、全て部分安定化ジルコニア薄膜中間層で吸収(正方晶→斜方晶転移による応力緩和)され、SnO2感知層にはマイクロクラックの発生が防止される。従って長期間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、長期間安定した抵抗値(センサ特性)が確保され、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。
【0146】
続いて、他の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図12は他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。本形態では上記の各種安定層を他の薄膜ガスセンサに適用できることを示すものである。
本形態の薄膜ガスセンサは、図12で示すように、シリコン基板(以下Si基板)21、熱絶縁支持層22、ヒーター層23、電気絶縁層24、ガス感知層25、安定化層27を備える。熱絶縁支持層22は、詳しくは、熱酸化SiO2層22a、CVD−Si3N4層22b、CVD−SiO2層22cの三層構造となっている。また、ガス感知層25は、詳しくは、接合層25a、感知電極層25b、感知層25c、ガス選択燃焼層25dを備える。この感知層25cはSb−doped SnO2層であり、ガス選択燃焼層25dは触媒担持Al2O3焼結材である。
【0147】
ガス感知層25では、接合層25a,25a、一対の感知電極層25b,25b、感知層25cの表面全体、および安定化層27を、ガス選択燃焼層25dが覆う構造としている。
【0148】
図11を用いて説明した先の形態では、安定化層として部分安定化ジルコニア薄膜中間層を採用したものである。しかしながら、本形態では、新たにジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を採用している。
以下、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層について重点的に説明するとともに、これ以外は図11で説明した薄膜ガスセンサ2の構成と同じであるため、他の構成は同じ符号を付すとともに重複する説明を省略する。
【0149】
安定化層27は、電気絶縁層24上に設けられ、詳しくはジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層である。感知電極層25bや感知層25cは、この安定化層27の上に設けられることとなる。
なお、図12では接合層25a、感知電極層25bの下側にも安定化層27を設けているが、接合層25a,感知電極層25bの下側は安定化層27がなく直接電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と接するようにしてもかまわない。
【0150】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサの製造方法のうち、安定化層27の形成について概略説明する。電気絶縁層24上にジルコニア高靭化セラミックスをスパッタ蒸着して安定化層27を形成する。具体的には電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と感知層25c(SnO2感知層)の間に厚みが10nm〜1000nmのジルコニア高靭化セラミックス薄膜中間層を設けることで達成される。ジルコニア高靭化セラミックス薄膜中間層で採用されるセラミクスについては各種考えられるが、好ましくはアルミナマトリックス中へジルコニアを分散したジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層であり、更に具体的には、ジルコニアが正方ジルコニア多結晶体である中間層を設けることで達成される。正方ジルコニア多結晶体はY2O3、MgO、CaOなどの安定化剤を含まないZrO2でありいわゆる一般のジルコニア粉末である。正方ジルコニア多結晶体のアルミナマトリックスへの混合比率は0.1〜5mol%がよい。
薄膜ガスセンサ2では下地となるSiO2絶縁層との線膨張係数の差異が大きいジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を介してSnO2感知層が積層された構造となる。
【0151】
このようなジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層の形成手順は以下に説明するようになる。
まず、電気絶縁層24上にレジストを塗布する。
次に、微細加工でSnO感知層である感知層25cや接合層25a,25a、感知電極層25b,25b(あるいは感知層25cのみ)を形成する部分のレジストを除去/開口させる。
次に、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜をスパッタ成膜により形成する。ターゲットにはZrO2微粒子を3mol%含むAl2O3(ジルコニア高靭化アルミナ)を用いた。ジルコニア高靭化アルミナ薄膜の成膜条件はパワー300W、圧力1Pa、Ar+O2中、温度100℃であり膜厚は500nmである。スパッタ成膜したジルコニア高靭化アルミナ中のZrO2濃度は2.8mol%であり、微粒子としてアルミナマトリックス中へ分散していることがSEM−EDXで確認できている。
次にチャンバーからウェハーを取り出しレジスト剥離液を用いてレジストのリフトオフを行った。これによりレジストが剥離し、電気絶縁層24に直接成膜されていた箇所のジルコニア高靭化アルミナ薄膜が、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層となる。
【0152】
なお、正方晶ZrO2濃度は3mol%、膜厚は500nmであると説明したが、これに限定されるものではない。
ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中の正方晶ZrO2濃度は<0.1mol%では高靭化効果が低すぎるため、また、>10mol%ではアルミナマトリックスの強度が低下するため十分な効果が得られない。さらに膜厚が<10nmでは応力緩和層が薄すぎるため2000万回の昇降温回数に耐えられない素子が発生し、また、>1000nmではジルコニア高靭化アルミナ薄膜の熱伝導による放熱が無視できなくなり、電池駆動するには適さなくなる。結論として0.1〜5mol%、また、膜厚は10nm〜1000nmがよい。
以下、ガス感知層25は先に説明した方法と同じ方法で形成されることとなる。
【0153】
このように形成したジルコニア高靭化アルミナ薄膜の線膨張係数は6〜7×10−6/Kであり電気絶縁層24(SiO2絶縁層)の線膨張係数0.5×10−6/Kより相当大きくSnO2感知層とPt感知層電極の中間的な値である。線膨張係数が小さいので、耐熱衝撃性は部分安定化ジルコニア薄膜より優れている。また、SnO2感知層との接合強度に関しても部分安定化ジルコニア薄膜より向上する。RT⇔450℃の熱衝撃で、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層と下地のSiO2絶縁層との間には、膨張係数の差異により大きな応力が発生する。またジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層とSnO2感知層の間には、ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層と下地のSiO2絶縁層との間に発生する応力ほどではないが、やはり線膨張係数の差異により応力が発生する。
【0154】
しかしながら、先に図6(a),(b)を用いて説明した原理により応力緩和がなされ、マイクロクラックの発生を防止される。従って長時間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。また、部分安定化ジルコニア薄膜は絶縁性が高くしかも比較的熱伝導率も低いため、センサの特性にはなんら影響を与えることがない。
【0155】
続いて、他の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図13は他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。本形態では上記の各種安定層を他の薄膜ガスセンサに適用できることを示すものである。
本形態の薄膜ガスセンサ2は、図13で示すように、シリコン基板(以下Si基板)21、熱絶縁支持層22、ヒーター層23、電気絶縁層24、ガス感知層25、安定化層28を備える。熱絶縁支持層22は、詳しくは、熱酸化SiO2層22a、CVD−Si3N4層22b、CVD−SiO2層22cの三層構造となっている。また、ガス感知層25は、詳しくは、接合層25a、感知電極層25b、感知層25c、ガス選択燃焼層25dを備える。この感知層25cはSb−doped SnO2層であり、ガス選択燃焼層25dは触媒担持Al2O3焼結材である。
【0156】
ガス感知層25では、接合層25a、一対の感知電極層25b,25b、Sb−doped SnO2層である感知層25cの表面全体、および安定化層28を、ガス選択燃焼層25dが覆う構造としている。
【0157】
先の形態では安定化層として部分安定化ジルコニア薄膜中間層やジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を採用しているが、本形態では、特に部分安定化ジルコニア薄膜中間層に代えて、新たに島状のPtあるいはPtを添加したSnO2であるPt薄膜中間層を採用して、SiO2絶縁層上でもPt電極上と同程度の密着性が得られるようにした点が相違するものである。以下、島状のPt、あるいは、Ptを添加したSnO2であるPt薄膜中間層について重点的に説明するとともに、これ以外は図11を用いて説明した薄膜ガスセンサの構成と同じであるため、他の構成は同じ符号を付すとともに重複する説明を省略する。
【0158】
安定化層28は、電気絶縁層24上に設けられ、詳しくは島状のPt、あるいは、Ptを添加したSnO2であるPt薄膜中間層である。感知層25cは、この安定化層28の上に設けられることとなる。
【0159】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサの製造方法のうち、安定化層の形成について概略説明する。接合層25aおよび感知電極層25bが電気絶縁層24上に形成されているものとする。続いて、電気絶縁層24上に安定化層28を形成するが、島状のPtか、または、Ptを添加したSnO2層を形成する。以下、順次説明する。
第一形態として、島状のPtによる安定化層28について説明する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、通常のスパッタリング方法によって行う。成膜条件はAr+O2ガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー0.2W/cm2、膜厚は2nmである。Ptを島状に形成するために、RFパワーを抑え、低い成膜レートでスパッタリングする。膜厚(=粒径)が5nm未満では、Pt層はそれぞれが独立した島状組織であるが、これ以上になると、それぞれの島がつながった連続膜となり、感知電極層25bに導通が生じてしまいセンサ感度がなくなる。したがって、島状のPtの膜厚(=粒径)は0.1nmを超えて5nm未満である必要がある。
【0160】
第二形態として、Ptを添加したSnO2層による安定化層28について説明する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリング方法によって行う。ターゲットは、Pt15wt%を有するSnO2を用いる。成膜条件はAr+O2ガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー2W/cm2、膜厚は10nmである。Ptを添加したSnO2は抵抗率が高く、膜厚が厚いとセンサ全体の抵抗値が高くなりすぎて実使用上で要求される100kΩ以下という基準を満たさなくなる。そこで、膜厚は0.1nmを超えて10nm以下である必要がある。
【0161】
以上のように島状のPtあるいはPtを添加したSnO2層である安定化層28を形成した後、感知層25cを形成する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリング方法によって行う。ターゲットは、Sbを0.5wt%を有するSnO2を用いる。成膜条件はAr+O2ガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー2W/cm2、膜厚は500nmである。
【0162】
上記方法によりメタンセンサとして作製された薄膜ガスセンサ2の安定性を示す。
次表に、実施例および比較例の2000万回ヒートサイクル後のセンサ抵抗値変化を示す。
【0163】
【表5】
【0164】
メタン2000ppm中のセンサ抵抗値について、2000万回ヒートサイクル後の値/初期値を算出し示した。ガス警報器の実使用上、この抵抗値変化は0.5〜2.0の範囲内である必要がある。従来構造の比較例ではセンサ抵抗の上昇がみられるが、実施例では、島状のPtあるいはPtを添加したSnO2層いずれについても、センサ抵抗値は安定である。
【0165】
このように構成しても感知層25c(SnO2感知層)にはマイクロクラックの発生が防止される。従って長期間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、長期間安定した抵抗値(センサ特性)が確保され、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。なお、図13では接合層25a,25aの下側は安定化層28がなく直接に電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と接するようにしているが、接合層25a,25aの下側にも安定化層28を設けるようにしても良い。
このように電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と感知層25c(SnO2感知層)との間に、島状のPtあるいはptを添加したSnO2層よる安定化層28を密着層として設けることで、SiO2絶縁層上でのSnO2感知層の剥離を防止し、2000万回程度のヒートサイクルでも抵抗値変化のない、安定な薄膜ガスセンサを得ることができる。
【0166】
続いて、他の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図14は他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。本形態では上記の安定化層を他の薄膜ガスセンサに適用できることを示すものである。
本形態の薄膜ガスセンサは、図14で示すように、シリコン基板(以下Si基板)21、熱絶縁支持層22、ヒーター層23、電気絶縁層24、ガス感知層25、安定化層29を備える。熱絶縁支持層22は、詳しくは、熱酸化SiO2層22a、CVD−Si3N4層22b、CVD−SiO2層22cの三層構造となっている。また、ガス感知層25は、詳しくは、接合層25a、感知電極層25b、感知層25c、ガス選択燃焼層25dを備える。この感知層25cはSb−doped SnO2層であり、ガス選択燃焼層25dは触媒担持Al2O3焼結材である。
【0167】
ガス感知層25では、接合層25a,25a、一対の感知電極層25b,25b、感知層25cの表面全体、および安定化層26を、ガス選択燃焼層25dが覆う構造としている。
【0168】
先の図11,図12を用いて説明した形態では安定化層として部分安定化ジルコニア薄膜中間層やジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層を採用して、マイクロクラックの発生を防止している。これら技術の効果は有効であるものの、下地となるSiO2絶縁層とSnO2感知層にとって異種カチオンの組み合わせであり更なる密着性の向上が求められる。そこで、特に部分安定化ジルコニア薄膜中間層やジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層に代えて、新たに厚みが10nm〜1000nmのSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を採用した点が相違するものである。
【0169】
SnO−SiO2ガラス薄膜中間層は下地SiO2絶縁層とSnO2感知層の両方のカチオンを主成分として有する物質であり、両者との接合性が優れ、強い接合強度を有するためSnO2感知層および下地SiO2絶縁層間での剥離/マイクロクラックを生じさせない。
【0170】
以下、SnO−SiO2ガラス薄膜中間層について重点的に説明するとともに、これ以外は図11で説明した薄膜ガスセンサ2の構成と同じであるため、他の構成は同じ符号を付すとともに重複する説明を省略する。
【0171】
安定化層29は、電気絶縁層24上に設けられ、詳しくはSnO−SiO2ガラス薄膜中間層である。感知電極層25bや感知層25cは、この安定化層29の上に設けられることとなる。
なお、図14では接合層25a、感知電極層25bの下側にも安定化層29を設けているが、接合層25a、感知電極層25bの下側は安定化層29がなく直接電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と接するようにしてもかまわない。
【0172】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサ2の製造方法のうち、安定化層29の形成について概略説明する。
電気絶縁層24上にSnO−SiO2ガラス薄膜中間層をスパッタ蒸着して安定化層29を形成する。具体的には電気絶縁層24(SiO2絶縁層)と感知層25c(SnO2感知層)の間に厚みが10nm〜1000nmのSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を設けることで達成される。
薄膜ガスセンサ2では下地となる電気絶縁層24(SiO2絶縁層)との線膨張係数の差異が大きいSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を介して感知層25c(SnO2感知層)が積層された構造となる。
【0173】
このようなSnO−SiO2ガラス薄膜中間層の形成手順は以下に説明するようになる。
まず、電気絶縁層24上にレジストを塗布する。
次に、微細加工でSnO感知層である感知層25cや接合層25a,25a、感知電極層25b,25b(あるいは感知層25cのみ)を形成する部分のレジストを除去/開口させる。
次に、SnO−SiO2ガラス薄膜をスパッタ成膜により形成する。ターゲットにはSnOを50wt%含むSnO−SiO2ガラスターゲットを用いた。SnO−SiO2ガラス薄膜の成膜条件はパワー300W、圧力1Pa、Ar+O2中、温度100℃であり膜厚は500nmである。スパッタ成膜したSnO−SiO2ガラス薄膜中のSnO濃度は55wt%であった。
次にチャンバーからウェハーを取り出しレジスト剥離液を用いてレジストのリフトオフを行った。これによりレジストが剥離し、電気絶縁層24に直接成膜されていた箇所のSnO−SiO2ガラス薄膜のみ残り、これがSnO−SiO2ガラス薄膜中間層となる。
そして、安定化層29上に、接合層25a、感知電極層25b、感知層25c(あるいは感知層25cのみ)が形成されて図14で示すような状態となる。
【0174】
SnO−SiO2ガラス薄膜中のSnO濃度は>80wt%では下地となるSiO2絶縁層との接着強度が低く、また、<20wt%ではSnO2感知層との接合強度が低下するため十分な効果が得られない。さらに膜厚が<10nmでは成膜条件にもよるがSnO−SiO2ガラス薄膜がアイランド状になっている場合があり十分な接着強度がない場合があり、また、>1000nmでは薄膜ヒーターからの熱伝導の障害となり省電力化を阻害し、電池駆動するには適さなくなる。結論としてガラス薄膜中のSnO濃度は20wt%〜80wt%がよく、また、膜厚は10nm〜1000nmがよい。
【0175】
SiO2絶縁層とSnO2感知層の間に、両者と相性が良く高い接合強度を有するSnO−SiO2ガラス薄膜中間層を設けることで、ON/OFFの2000万回以上の繰り返しにおいてもSnO2感知層の下地からの剥離/マイクロクラックの発生が防止される。従って長時間パルス駆動しても安定したセンサ抵抗/特性が得られ、長期間安定した抵抗値(センサ特性)が得られた、信頼性の高い薄膜ガスセンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】本発明を実施するための最良の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図2】薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。
【図3】安定化層の説明図であり、図3(a)は応力がかかる前の状態図、図3(b)は応力がかかった後の状態図である。
【図4】他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図5】薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。
【図6】安定化層の説明図であり、図6(a)は応力がかかる前の状態図、図6(b)は応力がかかった後の状態図である。
【図7】他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図8】薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。
【図9】他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図10】薄膜ガスセンサの形成途中状態を説明する要部縦断面図である。
【図11】他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図12】他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図13】他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図14】他の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図15】従来技術の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0177】
1:薄膜ガスセンサ
11:Si基板
12:絶縁支持層
12a:SiO2層
12b:CVD−SiN層
12c:CVD−SiO2層
13:ヒーター層(Ta/PtW/Taヒータ)
14:電気絶縁層(SiO2絶縁層)
15:ガス感知層
15a:感知電極層(Pt/Ta層)
15b:感知層(SnO2感知層)
15c:ガス選択燃焼層(触媒担持Al2O3焼結材)
16:安定化層(部分安定化ジルコニア薄膜中間層)
17:安定化層(ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層)
18:安定化層(Pt薄膜中間層)
19:安定化層(SnO−SiO2ガラス薄膜中間層)
2:薄膜ガスセンサ
21:Si基板
22:絶縁支持層
22a:熱酸化SiO2層
22b:CVD−Si3N4層
22c:CVD−SiO2層
23:ヒーター層
24:電気絶縁層
25:ガス感知層
25a:接合層
25b:感知電極層
25c:感知層(Sb−doped SnO2層)
25d:ガス選択燃焼層(触媒担持Al2O3焼結材)
26:安定化層(部分安定化ジルコニア薄膜中間層)
27:安定化層(ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層)
28:安定化層(Pt薄膜中間層)
29:安定化層(SnO−SiO2ガラス薄膜中間層)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有するSi基板と、
この貫通孔の開口部に張られるダイアフラム様の熱絶縁支持層と、
熱絶縁支持層上に設けられるヒーター層と、
熱絶縁支持層およびヒーター層を覆うように設けられる電気絶縁層と、
電気絶縁層上に設けられる安定化層と、
安定化層上に設けられるガス感知層と、
を備え、
安定化層の変形により電気絶縁層とガス感知層との応力変化を吸収することを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ガス感知層は、
一対の感知電極層と、
一対の感知電極層を渡されるように安定化層上に設けられる感知層と、
感知層の表面に設けられ、触媒を担持した焼結材のガス選択燃焼層と、
を備え、
ガス感知層の感知層と電気絶縁層との応力変化を、安定化層の変形により吸収することを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、部分安定化ジルコニア薄膜中間層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項4】
請求項3に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記部分安定化ジルコニア薄膜中間層は、厚みが50nm〜500nmであることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記部分安定化ジルコニア薄膜中間層には、安定化剤としてY2O3、MgO、CaOの少なくとも一つが添加されていることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項6】
請求項5に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記部分安定化ジルコニア薄膜中間層は、ジルコニアに対して安定化剤の濃度を1mol%から5mol%まで添加して形成した層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、ジルコニア高靭化セラミックス(Zirconia Toughened Ceramics)薄膜中間層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項8】
請求項7に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化セラミックス薄膜中間層は、アルミナマトリックス中へジルコニアを分散したジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項9】
請求項8に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層におけるジルコニアは、正方ジルコニア多結晶体(Tetoragonal Zirconia Polycrystals)であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層は、厚みが10nm〜1000nmであることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項11】
請求項8〜請求項10の何れか一項に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層は、アルミナに対する正方ジルコニア多結晶体の濃度を0.1mol%から5mol%として形成した層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項12】
貫通孔を有するSi基板と、
この貫通孔の開口部に張られるダイアフラム様の熱絶縁支持層と、
熱絶縁支持層上に設けられるヒーター層と、
熱絶縁支持層およびヒーター層を覆うように設けられる電気絶縁層と、
電気絶縁層上に設けられる安定化層と、
安定化層上に設けられるガス感知層と、
を備え、
安定化層を電気絶縁層とガス感知層とに密着結合させることにより、電気絶縁層とガス感知層との応力変化を回避することを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項13】
請求項12に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ガス感知層は、
一対の感知電極層と、
一対の感知電極層を渡されるように設けられる感知層と、
感知層の表面に設けられ、触媒を担持した焼結材のガス選択燃焼層と、
を備え、
ガス感知層の感知層と電気絶縁層とに安定化層を密着結合させることにより、ガス感知層の感知層と電気絶縁層との応力変化を回避することを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項14】
請求項12または請求項13に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、島状PtからなるPt薄膜中間層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項15】
請求項14に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記Pt薄膜中間層である島状のPtは粒径5nm以下のPtを用いて形成された層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項16】
請求項12または請求項13に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、Ptを添加したSnO2からなるPt薄膜中間層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項17】
請求項16に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記Pt薄膜中間層は、膜厚10nm以下であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項18】
請求項12または請求項13に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、SnO−SiO2ガラス薄膜層中間層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項19】
請求項18に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記SnO−SiO2ガラス薄膜中間層は、厚みが10nm〜1000nmであることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項20】
請求項18または請求項19に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記SnO−SiO2ガラス薄膜中間層は、SiO2 に対してSnOの濃度が20〜80wt%として形成した層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項1】
貫通孔を有するSi基板と、
この貫通孔の開口部に張られるダイアフラム様の熱絶縁支持層と、
熱絶縁支持層上に設けられるヒーター層と、
熱絶縁支持層およびヒーター層を覆うように設けられる電気絶縁層と、
電気絶縁層上に設けられる安定化層と、
安定化層上に設けられるガス感知層と、
を備え、
安定化層の変形により電気絶縁層とガス感知層との応力変化を吸収することを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ガス感知層は、
一対の感知電極層と、
一対の感知電極層を渡されるように安定化層上に設けられる感知層と、
感知層の表面に設けられ、触媒を担持した焼結材のガス選択燃焼層と、
を備え、
ガス感知層の感知層と電気絶縁層との応力変化を、安定化層の変形により吸収することを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、部分安定化ジルコニア薄膜中間層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項4】
請求項3に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記部分安定化ジルコニア薄膜中間層は、厚みが50nm〜500nmであることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記部分安定化ジルコニア薄膜中間層には、安定化剤としてY2O3、MgO、CaOの少なくとも一つが添加されていることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項6】
請求項5に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記部分安定化ジルコニア薄膜中間層は、ジルコニアに対して安定化剤の濃度を1mol%から5mol%まで添加して形成した層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、ジルコニア高靭化セラミックス(Zirconia Toughened Ceramics)薄膜中間層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項8】
請求項7に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化セラミックス薄膜中間層は、アルミナマトリックス中へジルコニアを分散したジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項9】
請求項8に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層におけるジルコニアは、正方ジルコニア多結晶体(Tetoragonal Zirconia Polycrystals)であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層は、厚みが10nm〜1000nmであることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項11】
請求項8〜請求項10の何れか一項に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ジルコニア高靭化アルミナ薄膜中間層は、アルミナに対する正方ジルコニア多結晶体の濃度を0.1mol%から5mol%として形成した層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項12】
貫通孔を有するSi基板と、
この貫通孔の開口部に張られるダイアフラム様の熱絶縁支持層と、
熱絶縁支持層上に設けられるヒーター層と、
熱絶縁支持層およびヒーター層を覆うように設けられる電気絶縁層と、
電気絶縁層上に設けられる安定化層と、
安定化層上に設けられるガス感知層と、
を備え、
安定化層を電気絶縁層とガス感知層とに密着結合させることにより、電気絶縁層とガス感知層との応力変化を回避することを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項13】
請求項12に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記ガス感知層は、
一対の感知電極層と、
一対の感知電極層を渡されるように設けられる感知層と、
感知層の表面に設けられ、触媒を担持した焼結材のガス選択燃焼層と、
を備え、
ガス感知層の感知層と電気絶縁層とに安定化層を密着結合させることにより、ガス感知層の感知層と電気絶縁層との応力変化を回避することを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項14】
請求項12または請求項13に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、島状PtからなるPt薄膜中間層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項15】
請求項14に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記Pt薄膜中間層である島状のPtは粒径5nm以下のPtを用いて形成された層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項16】
請求項12または請求項13に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、Ptを添加したSnO2からなるPt薄膜中間層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項17】
請求項16に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記Pt薄膜中間層は、膜厚10nm以下であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項18】
請求項12または請求項13に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記安定化層は、SnO−SiO2ガラス薄膜層中間層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項19】
請求項18に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記SnO−SiO2ガラス薄膜中間層は、厚みが10nm〜1000nmであることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項20】
請求項18または請求項19に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記SnO−SiO2ガラス薄膜中間層は、SiO2 に対してSnOの濃度が20〜80wt%として形成した層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−101477(P2007−101477A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294651(P2005−294651)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(503361927)富士電機機器制御株式会社 (402)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(503361927)富士電機機器制御株式会社 (402)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】
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