説明

薄膜型一次電池

【課題】曲げ特性を改善し、電池特性の劣化を回避できる薄膜型一次電池を提供すること。
【解決手段】リチウム一次電池10は、正極集電体23に支持された正極21と負極集電体33に支持された負極31とがセパレータ41を介して積層されてなる電極積層体11を有する。電極積層体11は電解液とともにラミネートフィルム53からなる容器51内に収容されて密封封止されている。正極集電体23がステンレス箔を用いて形成され、電極積層体11の最外層に位置するステンレス箔が、ラミネートフィルム53の内面に熱可塑性樹脂55を介して溶着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極と負極とがセパレータを介して積層されてなる電極積層体を有し、電極積層体が電解液とともに金属ラミネートフィルム材からなる容器内に収容されている薄膜型一次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報の多様化に伴い、電子ペーパ、ICタグ、多機能カード、電子キーなどのさまざまな超薄型電子機器が実用化されており、それら電子機器には電源としてラミネートタイプの電池が組み込まれている。このラミネートタイプの電池に求められる特徴としては、軽薄長寿命に加えて、曲げに対する強度特性も求められている。
【0003】
ここでラミネートタイプの電池としては、扁平な形状の巻回電極体を金属ラミネートフィルム材の容器内に収納した薄型電池が従来提案されている(例えば、特許文献1参照)。巻回電極体は、正極と負極とをセパレータを介して積層して巻回した構造を有している。また、巻回電極体の表面には保護テープが接着されており、その表面が接着層を介して外装容器の内面に接着固定されている。このように、巻回電極体と容器とが接着されることにより、ガス発生時における電池の膨れが防止されるようになっている。
【0004】
特許文献1の薄型電池では、巻回電極体が保護テープ及び接着層を介して容器の内面に接着固定されているため、部品点数が多くなる。また、扁平な形状の巻回電極体を容器内に収容しているため、電池を薄く形成するのには限界があるといった問題がある。
【0005】
また、正極集電体及び負極集電体を外装容器の一部として兼用するタイプの薄型電池が従来提案されている(例えば、特許文献2参照)。この薄型電池では、負極端子板上にリチウム負極、セパレータ、正極合剤、正極端子板を順次積み重ね、正極集電体及び負極集電体として機能する正極端子板及び負極端子板の周縁部が封口材によって熱溶着されている。このように、電極集電体を容器の外装材として兼用することで、薄型電池を形成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−151512号公報
【特許文献2】特許第2935427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2の薄型電池における外装容器は、金属材のみからなる端子板にて形成されているため、金属ラミネートフィルム製の容器を使用した特許文献1の薄型電池と比較すると、曲げ強度が弱くなる。このため、薄型電池に曲げ応力が頻繁に加わることで、外装容器(電極集電体)の破断や皺が発生してしまう。
【0008】
また、負極活物質としてリチウム金属を用い、正極活物質としてマンガン化合物を用いた薄膜電池の場合、電池電圧の問題から電極集電体としてアルミニウムが一般的に用いられている。しかしながら、アルミニウムは曲げ強度が弱い。このため、電池製造後の曲げ試験において、電極集電体の破断や、ラミネート容器の皺の発生などが発生し、電池特性の低下を引き起こしていた。特に、負極においてリチウム金属がアルミニウムと反応すると、負極全体が膨張し、電池の膨れを引き起こすといった問題も生じてしまう。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、曲げ特性を改善し、電池特性の劣化を回避することができる薄膜型一次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段[1]〜[5]を以下に列挙する。
【0011】
[1]正極集電体に支持された正極と負極集電体に支持された負極とがセパレータを介して積層されてなる電極積層体を有し、前記電極積層体が電解液とともに金属ラミネートフィルム材からなる容器内に収容されて密封封止されている薄膜型一次電池であって、前記正極集電体及び前記負極集電体のうちの少なくとも一方が、ステンレス箔を用いて形成され、前記電極積層体の最外層に位置する前記ステンレス箔が、前記金属ラミネートフィルム材の内面に熱可塑性樹脂を介して溶着されていることを特徴とする薄膜型一次電池。
【0012】
手段1に記載の発明によると、電極積層体が正極と負極とがセパレータを介して積層されてなるため、電池を薄く形成することができる。また、正極集電体及び負極集電体のうちの少なくとも一方が、比較的曲げ強度が強いステンレス箔を用いて形成され、そのステンレス箔が金属ラミネートフィルム材の内面に熱可塑性樹脂を介して溶着される。このようにすると、薄膜型一次電池の曲げに対する特性が強くなり、容器表面における皺の発生を確実に防止することができる。この結果、薄膜型一次電池の保存特性等を大幅に向上させることができる。
【0013】
[2]手段1において、前記ステンレス箔は少なくとも片側に粗化面を有するとともに、前記粗化面が溶着されていることを特徴とする薄膜型一次電池。
【0014】
手段2に記載の発明によると、ステンレス箔の表面が粗化面であるので、熱可塑性樹脂との接触面積が増し、ステンレス箔と金属ラミネートフィルム材との溶着強度を十分に確保することができる。ここで、ステンレス箔の厚さは10μm〜30μmであることが好ましく、粗化面のRaは0.20μm以上0.90μm以下であることが好ましい。このようにすると、ステンレス箔の粗化面と熱可塑性樹脂との接着性を十分に確保することができる。
【0015】
[3]手段1において、前記ステンレス箔は両側に粗化面を有するとともに、一方の側の前記粗化面が溶着され、他方の側の前記粗化面にはニッケルめっきが施されるとともに、前記ニッケルめっき上を除いた部分には前記正極が形成されていることを特徴とする薄膜型一次電池。
【0016】
手段3に記載の発明によると、ステンレス箔と熱可塑性樹脂との接触面積が増し溶着強度を十分に確保することができる。また、ステンレス箔において正極が形成される粗化面にニッケルめっきが施される。この場合、正極とステンレス箔との密着性が良好となり、正極の剥がれが防止されるのに加えて一次電池の放電特性を高めることができる。
【0017】
[4]手段1乃至3のいずれか1項において、前記熱可塑性樹脂は、前記金属ラミネートフィルム材の最内層を構成している樹脂層であることを特徴とする薄膜型一次電池。
【0018】
手段4に記載の発明によると、熱可塑性樹脂は、金属ラミネートフィルム材の最内層を構成している樹脂層であるので、熱可塑性樹脂を別途設ける必要がなく、部品点数を低減することができる。なお、樹脂層の厚さは10μm〜30μmであることが好ましい。このようにすると、ステンレス箔と金属ラミネートフィルム材との溶着強度を十分に確保することができる。
【0019】
[5]手段4において、前記樹脂層は変性ポリオレフィン樹脂からなることを特徴とする薄膜型一次電池。
【0020】
手段5に記載の発明によると、樹脂層は接着性を改善した変性ポリオレフィン樹脂からなるので、ステンレス箔と金属ラミネートフィルム材とを確実に熱溶着することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上詳述したように、手段1〜5に記載の発明によると、曲げ特性を改善し、電池特性の劣化を回避できる薄膜型一次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一実施の形態のリチウム一次電池を示す平面図。
【図2】一実施の形態のリチウム一次電池を示す断面図。
【図3】ダル加工の前後におけるステンレス箔の表面粗さを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を薄膜型一次電池としてのリチウム一次電池に具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は本実施の形態におけるリチウム一次電池10を示す平面図であり、図2はそのリチウム一次電池10の断面図である。本実施の形態のリチウム一次電池10は、0.45mm以下の厚さを有する薄型ラミネートタイプの電池である。
【0024】
図1及び図2に示されるように、リチウム一次電池10は、正極集電体23に支持された正極21と負極集電体33に支持された負極31とがセパレータ41を介して積層されてなる電極積層体11を備えている。リチウム一次電池10において、電極積層体11は、非水電解液とともに容器51内に密封封止されている。非水電解液としては、ブチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどに溶質としてトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド等を溶解させた電解液を用いている。
【0025】
セパレータ41は、電解液や電極活物質等に対して耐久性があり、連通気孔を有する非導電性の多孔体等からなる。本実施の形態では、セパレータ41として、ポリプロピレンからなる不織布が用いられる。セパレータ41の厚さは、電池の内部抵抗を小さくするために薄いほうが好ましいが、電解液の保持量、流通性、強度等を勘案して適宜設定することができる。
【0026】
正極21は、二酸化マンガン(MnO)からなる正極活物質と、アセチレンブラックまたはグラファイトなどの炭素系導電剤と、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)からなる結着剤とを含んで構成されている。正極集電体23は、正極21を支持しつつ集電を行うための金属箔であり、厚みが20μmのステンレス箔からなる。正極集電体23は、表面を粗化するためのダル加工が施されるとともに部分的にニッケルめっきが施されている。本実施の形態では、正極集電体23の両面が粗化面となっており、正極集電体23の片面(図2では上側の粗化面)にニッケルめっき(図示略)が施されている。そして、正極集電体23のニッケルめっき上を除いた部分に正極21が形成されている。正極集電体23は平面視矩形状に形成され、その四辺のうちの一辺に正極用リード端子25が溶接されている。この正極用リード端子25は、容器51の密封封止部52を介して容器外部に引き出されている。
【0027】
負極31は、負極活物質としてのリチウム箔からなり、負極集電体33の片面に圧着されている。なお、負極31としては、リチウム箔の代わりにリチウム合金箔(例えば、アルミニウム−リチウム合金箔等)を用いてもよい。負極集電体33は、負極31を支持しつつ集電を行うための金属箔であって、例えば、厚みが20μmのニッケル箔からなる。負極集電体33は平面視矩形状に形成され、その四辺のうちの一辺に負極用リード端子35が溶接されている。この負極用リード端子35も、正極用リード端子25と同様に容器51の密封封止部52を介して容器外部に引き出されている。
【0028】
リチウム一次電池10の容器51は、アルミニウム箔を樹脂フィルムにラミネートしてなるアルミニウム・ラミネートフィルム(金属ラミネートフィルム材)53を2枚用いて矩形袋状に加工した金属ラミネートフィルム製の容器である。なお、アルミニウム箔以外の他の金属箔からなる金属ラミネートフィルム材を用いて、容器51を形成してもよい。
【0029】
本実施の形態では、容器51を構成するラミネートフィルム53の内側に接着剤として機能する熱可塑性樹脂55(具体的には、変性ポリオレフィン樹脂の一種である酸変性ポリプロピレン樹脂)が設けられている。容器51内において、正極集電体23が熱可塑性樹脂55を介してラミネートフィルム53に溶着されるとともに、負極集電体33が熱可塑性樹脂55を介してラミネートフィルム53に溶着されている。なお、ラミネートフィルム53は100μm程度の厚さを有し、熱可塑性樹脂55は20μm程度の厚さを有している。
【0030】
なお、負極集電体33のニッケル箔と比較すると正極集電体23のステンレス箔は、熱可塑性樹脂55の接着性が劣る。本実施の形態では、正極集電体23を粗化面としてその粗化面が熱可塑性樹脂55を介してラミネートフィルム53に溶着されることで、ラミネートフィルム53と正極集電体23との溶着強度が十分に確保されている。また、負極集電体33のニッケル箔についてもダル加工を施して粗化面を形成し、負極集電体33の粗化面を溶着するようにしてもよい。
【0031】
また、容器51では、外周縁に沿ってラミネートフィルム材53を帯状に熱溶着することで密封封止部52が形成されており、密封封止部52により容器51が密封封止されている。熱溶着による封止は、表裏のラミネートフィルム材53に正極用リード端子25及び負極用リード端子35を挟み込んだ状態で行われる。
【0032】
次に、リチウム一次電池10の製造方法について説明する。
【0033】
正極21の作製は下記の手順で行う。先ず、シート状のステンレス箔を準備し、その両面にダル加工による表面処理を施して粗化面を形成するとともに、片側の粗化面に部分ニッケルめっきを施す。さらに、ステンレス箔を所定サイズに切断することで、厚さが20μの矩形状の正極集電体23を作製する。
【0034】
図3には、ダル加工の前後におけるステンレス箔の表面粗さRaの測定結果を示している。図3に示されるように、ダル加工前のステンレス箔(未処理品)の表面粗さRaは、0.05μm〜0.20μmであり、平均の表面粗さは0.1μmである。一方、ダル加工後におけるステンレス箔(表面処理品)の表面粗さRaは、0.20μm〜0.70μmであり、平均の表面粗さは0.4μmである。
【0035】
次に、二酸化マンガン(MnO)からなる正極活物質と、アセチレンブラックまたはグラファイトなどの炭素系導電剤と、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)からなる結着剤とを所定の質量比となるように混合する。その混合物に有機溶剤となるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などを加え、溶解させることで正極活物質スラリーを準備する。そして、正極集電体23のニッケルめっき上に、正極活物質スラリーを100μm程度の厚みとなるよう塗布した後、真空中にて100℃の温度で乾燥して正極21を作製する。
【0036】
負極31の作製は以下の手順で行う。先ず、シート状のニッケル箔を準備し、ニッケル箔を所定サイズに切断することで、厚さが20μの矩形状の負極集電体33を作製する。また、所定サイズに切断したリチウム箔を負極集電体33に重ね合わせ、所定の圧力で圧着することで、負極集電体33の片面に負極31を形成する。
【0037】
この後、正極集電体23に正極用リード端子25を超音波溶接し、かつ、負極集電体33に負極用リード端子35を超音波溶接する。また、ブチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどに溶質としてトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド等を溶解させて非水電解液を作製する。
【0038】
次に、5μm〜30μm(本実施の形態では20μm)の厚さを有する熱可塑性樹脂55(上記の変性ポリプロピレン樹脂)を正極集電体23の粗化面とラミネートフィルム53との間に介在させる。そして、加熱加圧用治具(図示略)により140℃の熱を加えて加圧することにより、正極21を支持する正極集電体23をラミネートフィルム53に溶着固定する。また、同様の手法により、負極31を支持する負極集電体33をラミネートフィルム53に溶着固定する。
【0039】
次いで、正極21と負極31とが対向するように内側に向けそれら正極21及び負極31間にセパレータ41を配置した状態で金属ラミネート材53を重ね合わせる。そして、加熱加圧用治具(図示略)によりラミネートフィルム53の外周縁に170℃の熱を加えて加圧することにより、ラミネートフィルム53を熱溶着により密封封止する。なおここでは、先ず、ラミネートフィルム53の外周縁において、各リード端子25,35の引き出し側となる辺以外の他の三辺について密封封止し、一辺を開口させた袋状の容器51を形成する。そして、その容器51の開口を注入口として非水電解液を容器51内に注入する。その後、容器51において、開口部分のフィルム材53により正極用リード端子25及び負極用リード端子35を挟み込んだ状態でその開口部分を熱溶着により密封封止する。以上の工程を経てリチウム一次電池10を製造する。
【0040】
本発明者らは、上記のように製造したリチウム一次電池10(実施例)について、電池曲げ試験を行った。また、厚さが20μmのアルミニウム箔を正極集電体23として用いるとともに、正極集電体23及び負極集電体33を容器51に固定しない(熱可塑性樹脂55を用いない)構成のリチウム一次電池(比較例1)を作製し、その電池曲げ試験を行った。さらに、ダル加工(表面処理)をせず粗化面を有していないステンレス箔を正極集電体23として用いてリチウム一次電池(比較例2)を作製し、その電池曲げ試験を行った。なお、比較例1のリチウム一次電池において、正極集電体23をアルミニウム箔に代えるとともに集電体23,33を容器51に固定しない点以外の構成は、上記実施例と同様の手法で作製している。また、比較例2のリチウム一次電池において、ダル加工を施していないステンレス箔を用いている点以外の構成は、上記実施例と同様の手法で作製している。
【0041】
それら実施例及び比較例1,2の各リチウム一次電池10について、電池曲げ試験実施後における電池厚みの上昇率を表1に示し、電池電圧の低下率を表2に示している。なお、曲げ試験は、JIS/IEC 10373−1の試験方法に準拠したカード曲げ試験である。具体的には、各電池について、表側長方向→表側短方向→裏側長方向→裏側短方向に各250回ずつ、つまり1セットで合計1000回の曲げを行う。また、各電池としては、放電深度が0%、つまり満充電状態の電池(フレッシュ品)と50%の放電後の電池(50%放電品)について曲げ試験をそれぞれ実施した。
【表1】

【表2】

【0042】
表1に示されるように、実施例のリチウム一次電池10では、曲げ強度が強いため、放電前及び放電深度が進んだ後であっても初期の電池厚み(0.45mm以下の厚み)を維持していた。これに対して、比較例1のリチウム一次電池では、放電深度0%の電池厚みは35%増大し、放電深度50%の電池厚は50%増大し、初期の厚みを維持することができなかった。さらに、比較例2のリチウム一次電池では、放電深度0%の場合で初期の厚みを維持していたが、放電深度50%の場合には電池厚が3%増大し、放電深度が進んだ後は電池厚みが維持できないことが確認された。
【0043】
表2に示されるように、実施例のリチウム一次電池10では、放電深度にかかわらず、電池電圧の低下はなく、曲げ試験後においても所定の電池電圧を維持することができた。一方、比較例1のリチウム一次電池では、曲げ試験後においては、50%の電池電圧の低下が確認された。また、比較例2のリチウム一次電池では、実施例のリチウム一次電池10と同様に電池電圧の低下は確認されなかった。
【0044】
また、本発明者らは、曲げ試験後の各電池を解体して内部状態を確認した。その結果、実施例のリチウム一次電池10においては、曲げ試験後も内部部品の異常(破壊・変形等)は見られなかった。これに対して、比較例1,2のリチウムイオン電池では、容器51のラミネートフィルム材53及び内部部品の異常(変形、皺、正極21の合剤剥がれ)が確認された。
【0045】
さらに、本発明者らは、正極集電体23を、アルミニウム箔とは別の金属箔(具体的には、銅箔やニッケル箔)に代えて電池を作製し、電池性能等を確認した。その確認結果を表3に示している。
【表3】

【0046】
表3に示されるように、正極集電体23としてアルミニウム箔を用いた場合では、正極集電体23としての強度を保つことができず、曲げ試験においてアルミニウム箔が切れてしまう。また、アルミニウム箔はめっき加工性が悪いため、集電性を十分に確保することができない。
【0047】
正極集電体23としてステンレス箔を用いた場合、ダル加工の表面処理を施さないと、熱可塑性樹脂55の接着性及び正極21の接着性が低下する。これに対して、ダル加工の表面処理を施したステンレス箔を用いれば、熱可塑性樹脂55の接着性及び正極21の接着性を十分に確保することができ、曲げ強度を向上させることができた。さらに、ステンレス箔はめっき加工性が優れるため、めっきを施すことで集電性を高めることができ、電池性能を十分に確保することができる。
【0048】
また、正極集電体23として銅箔を用いた場合やニッケル箔を用いた場合には、正極21における電池の化学反応が起こらず、リチウム一次電池10として利用することができない。
【0049】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0050】
(1)本実施の形態のリチウム一次電池10では、比較的強度が強いステンレス箔を用いて正極集電体23が形成され、その正極集電体23のステンレス箔がラミネートフィルム53の内面に熱可塑性樹脂55を介して溶着されている。このようにリチウム一次電池10を構成すると、曲げに対する特性が強くなり、容器51の表面における皺の発生や容器51の内部における異常(変形、皺、正極21の合剤剥がれ等)を確実に防止することができる。この結果、リチウム一次電池10の保存特性や耐電解液性等を大幅に向上させることができる。
【0051】
(2)本実施の形態のリチウム一次電池10では、正極集電体23を構成するステンレス箔の表面が粗化面となっているので、熱可塑性樹脂55との接触面積が増し溶着強度を十分に確保することができる。
【0052】
(3)本実施の形態のリチウム一次電池10では、正極集電体23の粗化面にニッケルめっきが施されているので、正極21と正極集電体23との密着性が良好となり、正極21の剥がれが防止されるのに加えて電池10の放電特性を高めることができる。
【0053】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0054】
・上記実施の形態では、ラミネートフィルム53の内面に熱可塑性樹脂55を設け、ラミネートフィルム53と集電体23,33とを熱可塑性樹脂55を介して溶着するものであったがこれに限定されるものではない。例えば、アルミニウム箔と熱可塑性樹脂の接着層とが一体に形成された金属ラミネートフィルム材も実用化されている。この金属ラミネートフィルム材を用い、金属ラミネートフィルム材の最内層を構成する熱可塑性樹脂の接着層(樹脂層)を介して集電体23,33を溶着して一次電池10を製造してもよい。このようにすると、ラミネートフィルム53と熱可塑性樹脂55とを別部品として準備する必要がないため、部品点数を低減することができ、リチウム一次電池10の製造コストを低く抑えることができる。
【0055】
・上記実施の形態のリチウム一次電池10では、負極集電体33をニッケル箔を用いて形成していたが、ステンレス箔を用いて負極集電体33を形成してもよい。
【0056】
・上記実施の形態のリチウム一次電池10において、一対の正極21及び負極31を積層した電極積層体11を容器51に収容するものであったが、複数対の正極21及び負極31を積層した電極積層体を容器51に収納してもよい。なおこの一次電池の場合、ラミネートフィルム53の封口前に、電極積層体において最外層に位置する正極集電体23及び負極集電体33を熱可塑性樹脂55を介してラミネートフィルム53の内面に溶着する。
【0057】
・上記実施の形態のリチウム一次電池10では、正極用リード端子25及び負極用リード端子35が同一方向から引き出されていたが、これに限定するものではなく、正極用リード端子25及び負極用リード端子35が互いに反対方向に引き出される構成としてもよい。
【0058】
・上記実施の形態では、リチウム一次電池10に具体化するものであったが、金属ラミネートフィルム製の容器51に収納される一次電池であれば、リチウム一次電池以外の一次電池に本発明を具体化してもよい。
【0059】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した各実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0060】
(1)手段2または3において、粗化面のRaが0.20μm以上0.90μm以下であることを特徴とする薄膜型一次電池。
【0061】
(2)手段1乃至4のいずれか1項において、前記ステンレス箔の厚さが10μm〜30μmであることを特徴とする薄膜型一次電池。
【0062】
(3)手段4において、前記樹脂層の厚さが10μm〜30μmであることを特徴とする薄膜型一次電池。
【0063】
(4)手段1乃至4のいずれか1項において、前記電極積層体の最外層に位置する前記ステンレス箔は、前記金属ラミネートフィルム材の封口前に溶着されていることを特徴とする薄膜型一次電池。
【0064】
(5)手段1乃至4のいずれか1項において、前記電池はリチウム一次電池であることを特徴とする薄膜型一次電池。
【符号の説明】
【0065】
10…薄膜型一次電池としてのリチウム一次電池
11…電極積層体
21…正極
23…正極集電体
31…負極
33…負極集電体
41…セパレータ
51…容器
53…金属ラミネートフィルム材としてのアルミニウム・ラミネートフィルム
55…熱可塑性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体に支持された正極と負極集電体に支持された負極とがセパレータを介して積層されてなる電極積層体を有し、前記電極積層体が電解液とともに金属ラミネートフィルム材からなる容器内に収容されて密封封止されている薄膜型一次電池であって、
前記正極集電体及び前記負極集電体のうちの少なくとも一方が、ステンレス箔を用いて形成され、前記電極積層体の最外層に位置する前記ステンレス箔が、前記金属ラミネートフィルム材の内面に熱可塑性樹脂を介して溶着されていることを特徴とする薄膜型一次電池。
【請求項2】
前記ステンレス箔は少なくとも片側に粗化面を有するとともに、前記粗化面が溶着されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜型一次電池。
【請求項3】
前記ステンレス箔は両側に粗化面を有するとともに、一方の側の前記粗化面が溶着され、他方の側の前記粗化面にはニッケルめっきが施されるとともに、前記ニッケルめっき上を除いた部分には前記正極が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜型一次電池。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、前記金属ラミネートフィルム材の最内層を構成している樹脂層であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の薄膜型一次電池。
【請求項5】
前記樹脂層は変性ポリオレフィン樹脂からなることを特徴とする請求項4に記載の薄膜型一次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−209126(P2012−209126A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73754(P2011−73754)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000177081)FDK鳥取株式会社 (28)
【Fターム(参考)】