説明

薄膜塗布手段

【課題】安価な構成により、所望の厚みの均一な薄膜を形成することができる薄膜塗布手段およびそれを備えた湿式画像形成装置を提供する。
【解決手段】シャフト21と、シャフトに対して巻かれた第一のワイヤ221と、前記第一のワイヤよりも径が小さく、第一のワイヤと第一のワイヤの間に生じた溝に沿って巻かれた第二のワイヤ222と、を有し、前記第一のワイヤにより形成されるコイル形状体の外径よりも、前記第二のワイヤにより形成されるコイル形状体の外径のほうが大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工液等の薄膜を形成するための薄膜塗布手段に関するものであり、またその薄膜塗布手段を備えた湿式画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、塗工液等の薄膜塗布手段としては、ミーリングにより溝を形成しその上に硬質クロムメッキを施したもの、セラミックスを金属シャフトの上に溶射しその表面をレーザ加工により溝を形成したもの、金属シャフトにワイヤを巻いたワイヤバー、等が用いられている。上述のような薄膜塗布手段のうち、ワイヤバーは安価な構成として知られている。
【0003】
ワイヤバーは、金属シャフトの表面に巻かれたワイヤにより形成された溝を利用して、被塗工基材上に塗工液の薄膜を形成する。すなわち、当該溝に塗工液を保持させる工程と、その塗工液を被塗工基材上に転移させる工程とにより、被塗工基材上に薄膜を形成させることができる。
【0004】
例えば、特許文献1には、ワイヤバーを用いて薄膜塗工する装置であって、母材ロッドに対して第一のワイヤが巻かれ、ワイヤとワイヤの間に生じた溝に、当該ワイヤよりも細い第二のワイヤを巻き、かつ第一のワイヤバーの外径よりも、第二のワイヤバーの外径が小さいワイヤバーを有する薄膜塗工装置が記載されている。
【0005】
特許文献1に記載のワイヤバーでは、ワイヤバーの溝に保持される塗工液の量は、第一のワイヤの径及び第二のワイヤの径により調整することができる。第一のワイヤの径を大きくすれば形成される溝も大きくなり、保持される塗工液の量を多くなる。第二のワイヤの径を大きくすれば溝の断面積が減少し、塗工液の量も減少する。
【特許文献1】特開平9−94512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
薄膜塗布手段により質の高い薄膜を得るためには、(1)薄膜の均一性と、(2)膜厚とを制御することが必要となる。(1)薄膜の均一性は、薄膜塗布手段の表面に形成される溝の間隔(ピッチ)に依存し、ピッチが小さいほど均一性がよい(すなわち、被塗工基材に形成される薄膜は、厳密には、ワイヤバーの溝に対応する部分では厚く、ワイヤに対応する部分では薄くなるため、ピッチが小さいほど単位面積当たりの均一性が向上する)。(2)膜厚は、溝により保持される塗工液の量に依存する。用途によっては、ある程度の厚みを必要とする場合もある。
【0007】
ワイヤバーにおいては、ワイヤの径を小さくすることにより、ピッチが小さくなり、薄膜の均一性が向上する。しかし、ワイヤの径を小さくすると、溝に保持される塗工液の量が少なくなり、均一性は向上しても所望の膜圧を得られなくなる場合が生じる。
【0008】
特許文献1に記載のワイヤバーでは、第一のワイヤによりピッチが決定され、第二のワイヤにより溝に保持される塗工液の量が決定される。しかし、塗工液の量を減らすことしかできないため、十分に小さいピッチにおいて必要な塗工液の量を得ることが困難である。
【0009】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、安価な構成により、所望の厚みの均一な薄膜を形成することができる薄膜塗布手段およびそれを備えた湿式画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明では、シャフトと、シャフトに対して巻かれた第一のワイヤと、前記第一のワイヤよりも径が小さく、第一のワイヤと第一のワイヤの間に生じた溝に沿って巻かれた第二のワイヤと、を有し、前記第一のワイヤにより形成されるコイル形状体の外径よりも、前記第二のワイヤにより形成されるコイル形状体の外径のほうが大きいことを特徴とする薄膜塗布手段を提供する。
【0011】
本発明は上記の構成により、第二のワイヤ間に形成される隙間に塗工液(液体現像剤等)を保持することができるため、第一のワイヤの径でピッチを決定することができると共に、第二のワイヤの径で塗工液の量を調整することができる。ピッチを小さくしつつも膜厚を制御可能であるため、所望の厚みの均一な薄膜を形成することができる。
【0012】
また、本発明に係る薄膜塗布手段は、前記第一のワイヤの直径をD、前記第二のワイヤの直径をDとしたとき、D/2≦D≦3D/4を満たすことを特徴とする。
【0013】
また、上記Dが、30μmから200μmであることを特徴とする。
【0014】
また、前記第一のワイヤと前記第二のワイヤを前記シャフトに対して多条巻きにしたことを特徴とする。さらに、詳細には、前記第一のワイヤと前記第二のワイヤを前記シャフトに対して2〜5条巻きにしたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明では、上述の薄膜塗布手段を備えた湿式画像形成装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
したがって、本発明は、安価な構成により、所望の厚みの均一な薄膜を形成することができる薄膜塗布手段およびそれを備えた湿式画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る薄膜塗布手段の具体的な実施形態を図を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る薄膜塗布手段およびその周辺を示した図である。本発明の実施形態は、湿式画像形成装置に該薄膜塗布手段を用いた場合について説明するものである。湿式画像形成装置とは、トナーとキャリア液からなる液体現像剤を用い、画像情報に基づいて変調されたレーザで感光体ドラム上に静電潜像を形成し、該静電潜像により現像されたトナー像を用いて記録紙上に画像を形成して出力する装置であり、コンピュータ等の出力装置として用いられるものである。しかし、本発明に係る薄膜塗布手段は、湿式画像形成装置への用途に限定されるものではなく、例えば、フィルム、紙、ガラス、プラスチック等、様々な材料への塗工に用いることができる。
【0019】
図1は、湿式画像形成装置の一部を示す模式図であり、薄膜塗布手段の周辺を示したものである。湿式画像形成装置は、現像剤保持ローラ10と、薄膜塗布手段としてのワイヤバー20と、現像ローラ30と、感光体ドラム40と、ブレード25とを有する(以下、現像剤保持ローラ10、ワイヤバー20、現像ローラ30、感光体ドラム40を一括して称する場合には「各ローラ」というものとする)。各ローラは、それぞれの回転軸が互いにほぼ平行となるように配設されており、図1は、各ローラを回転軸方向からみた断面図である。また、湿式画像形成装置の現像時には、図に示すように、現像剤保持ローラ10と現像ローラ30は図中時計回りに、ワイヤバー20と感光体ドラム40は図中反時計回りに回転する。ブレード25は、例えば、ゴム材料で形成された板状部材であり、ワイヤバー20の回転軸方向に沿って伸び、その一辺がワイヤバー20の表面に沿って当接している。
【0020】
現像剤保持ローラ10は、液体現像剤50(トナーとキャリア液からなる)を保持する機能を有する。すなわち、現像剤保持ローラ10とワイヤバー20との間に形成されるくさび形状の空間は、図中上方から供給される液体現像剤50を所定量保持することができる。
【0021】
ワイヤバー20は、シャフト21とシャフト21の周囲に巻かれたワイヤ22とを有する。現像剤保持ローラ10とワイヤバー20とは近接しており、液体現像剤50は現像剤保持ローラ10とワイヤバー20との近接部を経て図中下方へと流れ落ちる。液体現像剤50は、現像剤保持ローラ10とワイヤバー20との近接部を通過する際に、ワイヤバー20のワイヤ22により形成された溝部(後述)に入り込む。
【0022】
ワイヤバー20では、現像剤保持ローラ10とワイヤバー20との近接部を経た後は、溝部および表面に液体現像剤50が十分に付着している。その後、ワイヤバー20がさらに回転すると、液体現像剤50の一部はブレード25により掻き落とされる。ブレード25は、ワイヤ22により形成された溝部に入り込んだ液体現像剤50を掻き落とすことができないため、結果として溝部に保持された液体現像剤50のみがワイヤバー20上に残る。
【0023】
現像ローラ30とワイヤバー20とは多少押圧された状態で当接している。溝部に液体現像剤50を有するワイヤバー20の表面が現像ローラ30に当接すると、液体現像剤50は、現像ローラ30の表面へと移動する。すなわち、現像ローラ30の表面に液体現像剤50が塗布され、液体現像剤50の薄膜が形成される。現像ローラ30の表面に形成される薄膜の均一性や厚みは、ワイヤ22に形成された溝部の形状に依存する。
【0024】
現像ローラ30と感光体ドラム40とは近接して配置されている。現像ローラ30には所定のバイアスが印加されており、また、感光体ドラム40の表面付近は、現像ローラ30に印加されたバイアスよりも高い電位で均一に帯電させられている。
【0025】
感光体ドラム40は、帯電された後、画像形成情報に基づいて感光体ドラム40の回転軸方向に走査されるレーザにより露光される。レーザが照射された位置(点)は電位が低下し、その結果電位差によるコントラストを有する静電潜像が感光体ドラム40上に形成される。
【0026】
現像ローラ30上の液体現像剤50の薄膜と感光体ドラム40とは、現像ローラ30と感光体ドラム40との近接位置において接触する。液体現像剤50が静電潜像の形成された感光体ドラム40の表面に接触すると、トナーはキャリア液を介して感光体ドラム40上の電位が低下した位置に引き寄せられて移動する。すなわち、現像ローラ30と感光体ドラム40との間の電位差により生じる現像電界によりトナーが移動する。一方、トナーは、感光体ドラム40上の電位が低下していない位置には移動しないため、感光体ドラム40上には、静電潜像に対応したトナー像が形成される。その後、トナー像が搬送され、記録紙等に転移される(印刷される)。
【0027】
図2は、ワイヤバー20の構造を説明するための図であり、図1におけるA−A位置の断面図である(ワイヤバー20の回転軸を含む断面図)。なお、図2のワイヤバー20は、ワイヤを1条巻きとしたものである。
【0028】
ワイヤバー20は、シャフト21と内側ワイヤ221と外側ワイヤ222とを有する。シャフト21は円柱状或いは円筒状の部材であり、内側ワイヤ221はシャフト21の周面に巻かれている。内側ワイヤ221は、隙間無く敷き詰められるように巻かれる。外側ワイヤ222は、内側ワイヤ221により形成される凹部上に沿って巻かれる。なお、外側ワイヤ222は、内側ワイヤ221よりもシャフト21から見て外側へ突出するように巻かれる。すなわち、コイル形状となる内側ワイヤ221の外径と、コイル形状となる外側ワイヤ222の外径とを比較すると、必ず外側ワイヤ222の外径の方が大きくなるように構成されなければならない。コイル形状となる外側ワイヤ222の外径の方が小さくなると、十分な液体現像剤の量を保持できなくなるからである。
【0029】
ワイヤバー20では、内側ワイヤ221と外側ワイヤ222とにより溝部230が形成される。この溝部230により液体現像剤50を保持する。溝部230のピッチと液体現像剤の保持量とは、両ワイヤの径を選択することにより制御することができる。すなわち、内側ワイヤ221の径によって溝部230のピッチが決定され、さらに外側ワイヤ222の径によって液体現像剤の保持量が決まる。つまりは、内側ワイヤ221と外側ワイヤ222のそれぞれの径の組み合わせにより、現像ローラ30上に形成される液体現像剤50の膜厚とピッチの設定の自由度が増加する。
【0030】
各部材の材質は、例えば、シャフト21は金属、両ワイヤはステンレス製のバネ材であり、共にある程度の強度が要求される。内側ワイヤ221の直径は、30μmから200μmであることが好ましい。30μmよりも小さいとワイヤの強度を得ることが難しく破断のおそれがあり、200μmよりも大きいと、ピッチが大きくなり過ぎてしまう。外側ワイヤ222の直径は、内側ワイヤ221の直径の1/2から3/4程度であることが望ましい。
【0031】
本発明の実施形態では、例えば、約4μmの膜厚を得たい場合には、1重巻きの場合には約0.09mmのワイヤを巻かなければならず、そのピッチが約0.09mmとなるが、本発明の実施形態によれば、2重巻きにする事により、約0.07mmのピッチで所望の膜厚を得ることができる。すなわち、内側ワイヤ221と外側ワイヤ222の2重巻きとすることで、1重巻きの場合よりもより小さいピッチで同様の膜厚を得ることができる。また、膜厚の最大値は、内側ワイヤ221の径に依存した外側ワイヤ222の径によって決定される。膜厚を最大値以下に設定する場合には、溝部230の断面積を減少させる方向に外側ワイヤ222の径を設定すれば良い。この時、溝部230の断面積を減少させる方向に外側ワイヤ222の径を設定する方法は、ワイヤ径を太くする、又は細くする方法があるが、好ましくは、外側ワイヤの径を細くすることにより、断面積を減少させることが望ましい。
【0032】
図3は、ワイヤバー20’の構造を説明するための図である(図2の視点に準ずる)。図3のワイヤバー20’は、ワイヤを2条巻きとしたものであり、湿式画像形成装置においては図2のワイヤバー20と置換可能である。
【0033】
ワイヤバー20’の各構成部材である、シャフト21、内側ワイヤ221、外側ワイヤ222個々の材質および形状はワイヤバー20に示すものと同様であるため説明は省略する。
【0034】
ワイヤバー20’は、内側ワイヤ221及び外側ワイヤ222を2条巻きとしている。2条巻きとすることにより、各ワイヤの進行方向とシャフト21の回転軸とのなす角(以降、ねじれ角と称す)はθとなる。θは、ワイヤバー20におけるねじれ角θよりも小さい。さらに、3条巻き、4条巻きと、条数を増やすほどねじれ角は減少する。ねじれ角が小さいほど、現像ローラ30上に形成された薄膜(ピッチごとに溝部230に対応する山と、外側ワイヤ222に対応する谷が存在している)において、液体現像剤の山の頂上部がワイヤバー20の回転軸方向に沿った一方向側に傾斜するようになるので、薄膜の均一性はよくなる。本発明のワイヤバーにおいては、1条巻きから5条巻きが、より好ましくは2条巻きから3条巻きが好ましい。条数が多くなるとワイヤバーの製造工程において、ワイヤを巻く時間が早くなるという利点と、ワイヤの端部を固定する技術が複雑となるという欠点とを併せ持つこととなる。
【0035】
したがって、本発明は、上述のような構成により、安価な構成により、所望の厚みの均一な薄膜を形成することができる薄膜塗布手段およびそれを備えた湿式画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る薄膜塗布手段およびその周囲を示す図である。
【図2】ワイヤバーの断面図である。
【図3】ワイヤバーの断面図である。
【符号の説明】
【0037】
10 現像剤保持ローラ
20 ワイヤバー
21 シャフト
22 ワイヤ
221 内側ワイヤ
222 外側ワイヤ
25 ブレード
30 現像ローラ
40 感光体ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、
シャフトに対して巻かれた第一のワイヤと、
前記第一のワイヤよりも径が小さく、第一のワイヤと第一のワイヤの間に生じた溝に沿って巻かれた第二のワイヤと、を有し、
前記第一のワイヤにより形成されるコイル形状体の外径よりも、前記第二のワイヤにより形成されるコイル形状体の外径のほうが大きいことを特徴とする薄膜塗布手段。
【請求項2】
前記第一のワイヤの直径をD、前記第二のワイヤの直径をDとしたとき、
/2≦D≦3D/4
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の薄膜塗布手段。
【請求項3】
が、30μmから200μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜塗布手段。
【請求項4】
前記第一のワイヤと前記第二のワイヤを前記シャフトに対して多条巻きにしたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の薄膜塗布手段。
【請求項5】
前記第一のワイヤと前記第二のワイヤを前記シャフトに対して2〜5条巻きにしたことを特徴とする請求項4に記載の薄膜塗布手段。
【請求項6】
前記請求項1から請求項5のいずれかに記載の薄膜塗布手段と、
液体現像剤を感光体ドラムに転写するための現像ローラと、を備え、
前記薄膜塗布手段により、前記現像ローラ上に前記液体現像剤の薄膜を形成させることを特徴とする湿式画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−190508(P2007−190508A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12061(P2006−12061)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】