説明

薄膜太陽電池の絶縁溝加工ツール

【課題】薄膜太陽電池のパネルに絶縁溝を形成するに際して、比較的安価に、かつ簡単な構成でガラス基板の損傷を抑えることができるツールを提供する。
【解決手段】この絶縁溝加工ツールは、集積型薄膜太陽電池の基板上に形成された薄膜を除去して絶縁溝を形成するためのツールであって、ツール本体22と、刃先部24と、を備えている。刃先部24は、ツール本体22の先端部に設けられ、母材28と、母材28の表面の少なくとも一部にバインダ29を介して電着されたダイヤモンド砥粒30を含む刃先と、を有する。そして、ダイヤモンド砥粒30はバインダ表面から3μm以上12μm以下の範囲で突出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁溝加工ツール、特に、集積型薄膜太陽電池の基板上に形成された薄膜を除去して絶縁溝を形成するための絶縁溝加工ツールに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜太陽電池を製造する方法として、例えば特許文献1に示されるような方法が提供されている。この特許文献1に記載された製造方法では、ガラス等の基板上にMo膜からなる下部電極膜が形成され、その後、下部電極膜が短冊状に分割される。次に、下部電極膜上にCIGS膜等のカルコパイライト構造化合物半導体膜を含む化合物半導体膜が形成される。そしてさらに、これらの半導体膜の一部がストライプ状に除去されて短冊状に分割され、これらを覆うように上部電極膜が形成される。そして最後に、上部電極膜の一部がストライプ状に除去されて短冊状に分割される。
【0003】
また、薄膜太陽電池のパネルの両端縁に絶縁溝を形成し、短絡等による不良品の発生を抑えるための装置が特許文献2に示されている。この特許文献2に示された装置は、パネルが載置されるテーブルと、テーブルを挟んでレーザヘッド及びニードルが対向して配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−33498号公報
【特許文献2】特開2009−187982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薄膜太陽電池パネルに絶縁溝を形成するためには、ガラス基板の表面に形成されたMo膜を剥離する必要がある。Mo膜は比較的硬度の高い材質であるために、Mo膜を確実に絶縁するためには加工工具を膜表面に対して強く押し付けて溝加工しなければならない。しかし、押し付け力を強くすると、ガラス基板が損傷するという問題がある。一方で、ガラス基板の損傷を抑えるために押し付け力を弱くすると、Mo膜の絶縁が確実に行えない。
【0006】
そこで、特許文献2に示される装置では、レーザによって絶縁溝を形成している。また、ダイヤモンド砥石を回転させて、絶縁溝を形成することも行われている。
【0007】
しかし、レーザによって絶縁溝を形成する場合は、装置が複雑で高価になってしまう。また、ダイヤモンド砥石によって絶縁溝を形成する場合は、粉塵が発生し、その処理を行う必要がある。また、ガラス基板の損傷を避けるためには、絶縁溝の深さを高精度に管理する必要があるが、ダイヤモンド砥石を用いたメカニカル方式では、溝深さを高精度に管理することは困難である。
【0008】
本発明の課題は、薄膜太陽電池のパネルに絶縁溝を形成するに際して、比較的安価に、かつ簡単な構成でガラス基板の損傷を抑えることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る絶縁溝加工ツールは、集積型薄膜太陽電池の基板上に形成された薄膜を除去して絶縁溝を形成するためのツールであって、ツール本体と、刃先部と、を備えている。刃先部は、ツール本体の先端部に設けられ、母材と、母材の表面の少なくとも一部にバインダを介して電着された砥粒を含む刃先と、を有する。そして、砥粒はバインダ表面から3μm以上12μm以下の範囲で突出している。
【0010】
ここでは、砥粒を含む刃先を薄膜太陽電池表面に押し当てて、金属薄膜を含む基板上の薄膜を良好に剥離することができる。また、この刃先部は、砥粒のバインダからの突出量が3〜12μmに規制されている。このため、刃先部を薄膜太陽電池表面に強く押し当てても、バインダがストッパになり、砥粒によって基板が損傷されるのを抑えることができる。したがって、溝深さを管理するためにツールの高さ調整等をする必要がない。
【0011】
請求項2に係る絶縁溝加工ツールは、請求項1のツールにおいて、刃先部の母材は、多角形に形成され、ツール本体に着脱自在である。そして、刃先は母材の各頂点部分に設けられている。
【0012】
ここでは、1つの刃先が摩耗によって使用できなくなっても、刃先部(母材)をツール本体から取り外し、この刃先部の取付角度を変えることによって、他の頂点部に形成された刃先によって溝を形成することができる。このため、ツール寿命が長くなる。
【0013】
請求項3に係る絶縁溝加工ツールは、請求項1のツールにおいて、刃先部の母材は、円形に形成され、ツール本体に着脱自在である。そして、刃先は母材の外周面に設けられている。
【0014】
ここでは、刃先が摩耗によって使用できなくなっても、刃先部(母材)をツール本体から取り外し、刃先部の取付角度を変えることにより、薄膜に接触する刃先が変わることになる。この場合は、刃先が摩耗するたびに刃先部を回転させて使用することにより、同じツールを用いて長期にわたって絶縁溝を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のような本発明では、比較的安価でかつ簡単な構成で、ガラス基板の損傷を抑えつつ薄膜太陽電池のパネルに絶縁溝を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態が採用されたスクライブ装置の外観斜視図。
【図2】図1に示された装置のホルダ組立体の正面図。
【図3】ホルダ組立体の側面図。
【図4】絶縁溝加工ツールの刃先部先端を拡大した模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態による絶縁溝加工ツールを採用した集積型薄膜太陽電池用スクライブ装置の外観斜視図を図1に示す。
【0018】
[スクライブ装置の全体構成]
この装置は、太陽電池基板Wが載置されるテーブル1と、スクライブヘッド2に設けられたホルダ組立体3と、それぞれ2つのカメラ4及びモニタ5と、を備えている。
【0019】
テーブル1は水平面内において図1のY方向に移動可能である。また、テーブル1は水平面内で任意の角度に回転可能である。
【0020】
スクライブヘッド2は、移動支持機構6によって、テーブル1の上方においてX,Y方向に移動可能である。なお、X方向は、図1に示すように、水平面内でY方向に直交する方向である。移動支持機構6は、1対の支持柱7a,7bと、1対の支持柱7a,7b間にわたって設けられたガイドバー8と、ガイドバー8に形成されたガイド9を駆動するモータ10と、を有している。スクライブヘッド2は、ガイド9に沿って、前述のようにX方向に移動可能である。そして、このスクライブヘッド2には図示しないエアシリンダが設けられており、このエアシリンダによってホルダ組立体3はリニアガイドに沿って上下動が可能である。
【0021】
2つのカメラ4はそれぞれ台座12に固定されている。各台座12は支持台13に設けられたX方向に延びるガイド14に沿って移動可能である。2つのカメラ4は上下動が可能であり、各カメラ4で撮影された画像が対応するモニタ5に表示される。ここで、太陽電池基板Wの表面には位置を特定するためのアライメントマークが設けられている。このアライメントマークを2つのカメラ4で撮影することによって、アライメントマークの位置が特定される。そして、特定されたアライメントマークの位置に基づいて、テーブル1に載置された太陽電池基板Wの方向ズレが検出される。
【0022】
[ホルダ組立体]
ホルダ組立体3は、スクライブヘッド2の一面に固定されており、スクライブヘッド2とともにX,Y方向に移動可能であり、またスクライブヘッド2に対して上下方向に移動可能である。ホルダ組立体3を取り出して図2及び図3に示す。図2はホルダ組立体3の正面図、図3はその側面図である。
【0023】
このホルダ組立体3は、スクライブヘッド2に固定されるホルダ15と、ホルダ15に保持された絶縁溝加工ツール16と、固定プレート26と、を備えている。
【0024】
<ホルダ>
ホルダ15は、プレート状の部材であって、スクライブヘッド2に取り付けられる第1主面17と、逆側の第2主面18と、を有している。また、ホルダ15には、上下に2つの貫通孔19が形成されている。これらの貫通孔19を貫通する2本のボルト20によって、ホルダ15はスクライブヘッド2に固定される。また、ホルダ15には、下方から上方に向けて所定長さの溝21が形成されている。溝21は、第2主面18に形成されており、所定の深さを有する矩形形状である。また、この溝21の上部にはストップ面21aが形成されている。このストップ面21aに絶縁溝加工ツール16の上端面が当接している。これにより、絶縁溝加工ツール16の上方への移動が規制されている。
【0025】
<絶縁溝加工ツール>
絶縁溝加工ツール16は、ホルダ15の矩形溝21に挿入され、また、前述のように、絶縁溝加工ツール16の上端面が矩形溝21のストップ面21aに当接している。絶縁溝加工ツール16は、ツール本体22と、刃先部24と、から構成されている。
【0026】
ツール本体22は、ホルダ15の矩形溝21に対応して矩形に形成されている。ツール本体22の下端部には、刃先部24を装着するための装着部22aが設けられている。装着部22aは、ツール本体22の下端部の一部を切削して形成されたものであり、装着部22aの上端面は装着姿勢規制面22bとなっている。
【0027】
刃先部24はツール本体22の装着部22aに固定ボルト25によって固定されている。刃先部24は所定の厚みを有し、図2に示すように、正面視で正六角形に形成されている。そして、刃先部24の1つの外周面が装着部22aの装着姿勢規制面22bに当接することによって、刃先部24の回転が規制されている。このような構成により、刃先部24は、6つの頂点部のそれぞれが下方を向くように6つの姿勢を取り得る。
【0028】
図4に、刃先部24の頂点部を拡大し、模式的に示す。6つの頂点部においては、それぞれ所定の範囲にわたってダイヤモンド砥粒が電着されている。詳細には、刃先部24は、母材28と、母材28にバインダ29を介して電着されたダイヤモンド砥粒30と、を有している。このような刃先部24では、バインダ29とダイヤモンド砥粒30とによって刃先が構成されている。
【0029】
この実施形態では、母材28として、鉄、ステンレスを用いるのが好ましい。また、バインダ29としては、ニッケル、クロム、銅等を用いるのが好ましい。また、ダイヤモンド砥粒30の粒径は、5〜20μmにするのが好ましい。そして、ダイヤモンド砥粒30の、バインダ29の表面からの突出量hは、3μm以上12μm以下が好ましい。
【0030】
以上のような絶縁溝加工ツール16を含むホルダ組立体3は、太陽電池基板Wに対してツール本体22を鉛直線に対して所定角度だけ傾斜させた状態で、スクライブヘッド2に取り付けられる。
【0031】
<固定プレート>
固定プレート26には、横方向に並ぶ2つの貫通孔27が形成されている。そして、固定プレート26は、各貫通孔27を貫通しホルダ15の対応するネジ孔28に螺合する2本のボルト29によって、ホルダ15の第2主面18に固定されている。このようにして、固定プレート26は、ホルダ15の矩形溝21に挿入された絶縁溝加工ツール16の上方のほぼ1/3を覆っている。
【0032】
また、固定プレート26には貫通するネジ孔26aが形成されている。ネジ孔26aは、固定プレート26がホルダ15に固定された状態で、絶縁溝加工ツール16に臨むような位置に設けられている。そして、このネジ孔26aにネジ部材30を螺合することで、ネジ部材30の先端が絶縁溝加工ツール16を矩形溝21の底面に対して押圧する。これにより、絶縁溝加工ツール16が矩形溝21から落下するのが防止されている。
【0033】
<絶縁溝加工ツールの取付>
基板Wに絶縁溝を形成する場合は、絶縁溝加工ツール16を、その刃先部24の厚み方向が絶縁溝を形成する方向(ツール移動方向)と直交するようにセットし、溝形成方向に沿って移動させる。このため、絶縁溝加工ツール16を精度良く所定の姿勢にセットする必要がある。
【0034】
従来、このようなツール取付角度の調整は、ツールとホルダとをツール角度調整用の別の装置に取り付け、刃先の角度を顕微鏡で確認しながら行われている。このような調整作業は非常に面倒であり、長い作業時間を要する。
【0035】
この実施形態では、ツール本体22が矩形であり、ホルダ15に矩形溝21が形成されている。このため、矩形のツール本体22を矩形溝21に嵌め込むことによって、ホルダ15に対してツール本体22の角度を容易に固定することができ、ツール本体22に装着されている刃先部24の姿勢を容易に精度良く管理することができる。
【0036】
また、絶縁溝加工ツール16は、ツール長手方向に沿う上下方向の中心線が基板表面に対して65〜75度だけ傾斜するようにセットされるのが好ましい。絶縁溝加工ツール16をこのような傾斜角度で取り付けて加工することにより、溝形成時に余分な膜が剥離されるのを抑えることができる。
【0037】
[動作]
薄膜太陽電池は、ガラス基板上に、Mo膜、CIGS膜等の化合物半導体膜、ZnO膜を順次積層することによって形成される。これらの膜を形成する際には、その一部がストライプ状に除去されて各膜は短冊状に分割される。膜の一部をストライプ状に除去する際には、従来から提案されている周知の溝加工ツール等が用いられる。ここで、一般的に、ガラス基板は大型のパネルでは2.8mmの厚みであり、その上に積層される膜はトータルで3〜4μmの厚みである。
【0038】
そして、これらの工程が終了した後に、電池パネルの両端縁を縁切りするために絶縁溝が形成される。この絶縁溝は、前述の膜を短冊状に分割するために形成された溝の形成方向とは直交する方向に形成される。そしt、この絶縁溝を形成する際に絶縁溝加工ツール16が用いられる。
【0039】
すなわち、絶縁溝加工ツール16が前述のような加工姿勢となるようにスクライブヘッド2にセットされる。そして、ホルダ組立体3を下降させ、絶縁溝加工ツール16の刃先部24の刃先を太陽電池基板Wの表面に押し付ける。そして、ホルダ組立体3を溝形成方向に移動させることにより、絶縁溝が形成される。
【0040】
このとき、刃先において、ダイヤモンド砥粒30を保持するバインダ29は膜あるいは基板への食い込みが弱い。したがって、バインダ29がストッパとして機能し、バインダ29の表面から突出しているダイヤモンド砥粒30が主に膜及び基板を削って行くことになる。ここで、ダイヤモンド砥粒30のバインダ表面からの突出量は、3μm以上12μm以下に設定されている。したがって、ダイヤモンド砥粒30によってガラス基板が深く傷つけられることはない。
【0041】
[特徴]
本実施形態では、母材28にバインダ29を介してダイヤモンド砥粒30を電着して刃先部を構成するとともに、バインダ表面からのダイヤモンド砥粒30の突出量を所定の範囲に管理している。したがって、刃先部を薄膜に押し付けてもダイヤモンド砥粒30によってガラス基板が損傷されにくい。このため、簡単な構成で、ガラス基板の損傷を抑えつつ絶縁溝を良好に形成することができる。
【0042】
また、矩形のツール本体22をホルダ15の矩形溝21に挿入し、絶縁溝加工ツール16の取付角度を規制している。このため、非常に簡単な構成で、かつ簡単な取付作業で、絶縁溝加工ツール16をホルダ15に常に一定の姿勢で取り付けることができる。したがって、このような絶縁溝加工ツール16によって形成される溝の加工品質が安定する。
【0043】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0044】
前記実施形態では、砥粒の材質としてダイヤモンドを例にとって説明したが、例えば立方昌窒化ホウ素(CBN)等を用いてもよい。
【0045】
前記実施形態では、ツール本体を矩形にしたが、断面円形にしてもよい。
【0046】
また、刃先部の形状は前記実施形態に限定されるものではない。回転を禁止する構造を付加すれば、円形にすることもできる。また、ツール本体の先端部に、ツール本体と一体で形成してもよい。
【符号の説明】
【0047】
16 絶縁溝加工ツール
22 ツール本体
24 刃先部
28 母材
29 バインダ
30 ダイヤモンド砥粒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集積型薄膜太陽電池の基板上に形成された薄膜を除去して絶縁溝を形成するための絶縁溝加工ツールであって、
ツール本体と、
前記ツール本体の先端部に設けられ、母材と、前記母材の表面の少なくとも一部にバインダを介して電着された砥粒を含む刃先と、を有する刃先部と、
を備え、
前記砥粒は前記バインダ表面から3μm以上12μm以下の範囲で突出している、
薄膜太陽電池の絶縁溝加工ツール。
【請求項2】
前記刃先部の母材は、多角形に形成され、前記ツール本体に着脱自在であり、
前記刃先は前記母材の各頂点部分に設けられている、
請求項1に記載の薄膜太陽電池の絶縁溝加工ツール。
【請求項3】
前記刃先部の母材は、円形に形成され、前記ツール本体に着脱自在であり、
前記刃先は前記母材の外周面に設けられている、
請求項1に記載の薄膜太陽電池の絶縁溝加工ツール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−146495(P2011−146495A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5580(P2010−5580)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】