説明

薄膜太陽電池モジュールの検査方法及び薄膜太陽電池モジュールの製造方法

【課題】薄膜太陽電池モジュールの欠陥位置を高精度で特定できる検査方法、及び、この検査方法を用いて特定した欠陥を除去する薄膜太陽電池モジュールの製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に透明電極層12と、光電変換層13と、裏面電極層14とを備える薄膜太陽電池モジュールの検査方法であって、検査対象の薄膜太陽電池モジュールに、順方向のバイアス電流を流す電流印加工程と、前記薄膜太陽電池モジュールの発電光入射面側から、該電流印加工程後の前記薄膜太陽電池モジュールから生じる発光を検出し、前記薄膜太陽電池モジュールの発光状態を表す発光画像を取得する発光画像取得工程と、該画像取得工程により取得した発光画像に基づいて、欠陥の前記基板面内位置及び欠陥の種類を特定する欠陥特定工程とを含む薄膜太陽電池モジュールの検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池モジュールの検査方法及び該検査方法を適用した薄膜太陽電池モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、製造された薄膜太陽電池モジュールが所望の発電能力を有しているか否かを確認するために、例えば出力特性の評価が行われている。薄膜太陽電池モジュールの出力特性の評価としては、ソーラシミュレータを用いた評価が知られている。具体的には、キセノンランプなどの光源から薄膜太陽電池モジュールに対して太陽光を模擬した照明光を照射し、このときの薄膜太陽電池モジュールの電流電圧特性を測定することにより行われている。
【0003】
その一方で、外光を遮光した暗室内で行う薄膜太陽電池モジュールの種々の検査も知られている。例えば、所定波長の照明光を薄膜太陽電池モジュールに照射して、薄膜太陽電池モジュールの表面の傷や色むらなどの性状を測定する検査や、薄膜太陽電池モジュールに電流または電圧を印加し、薄膜太陽電池モジュールの発熱分布により欠陥の有無を判定する検査が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【0004】
特許文献1及び特許文献2に記載された欠陥検出方法では、薄膜太陽電池モジュールに順方向の電流を流す。このとき、電気的短絡部分(欠陥)には電流が多く流れるために、短絡部分で熱が発生し、赤外線が放射される。この赤外線を熱画像分析装置により検出して熱画像を取得することで、欠陥の発生箇所が特定される。
【0005】
特定された欠陥は、例えば特許文献2に開示されるように、レーザ光を照射して、蒸発または絶縁化させることによって修復される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−37317号公報(請求項3、段落[0020]、[0022]、[0025])
【特許文献2】特開2002−203978号公報(請求項1、段落[0028]、[0063]、[0097])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の熱画像分析では、欠陥で発生した熱が欠陥周辺に熱伝導するために、得られる熱画像では発熱部分がぼやけてしまう。このため、欠陥位置の正確な特定は容易ではないという問題が生じていた。
また、黒体からの輻射のピーク波長λmaxは温度T(K)に反比例するという法則(ヴィーンの変位則:λmax=0.002898/T)によると、長波長であるほど温度が低くなることから、特許文献1及び特許文献2に記載されるように、波長8μm以上の赤外線を検出するのが現実的である。しかし、波長8μm以上の光の検出に用いられる検出器(サーモパイルセンサアレイ)は画素数が少ないために、得られる画像の解像度が低い。この点でも、欠陥位置を正確に特定することは困難であった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、薄膜太陽電池モジュールの欠陥位置を高精度で特定できる検査方法、及び、この検査方法を用いて特定した欠陥を除去する薄膜太陽電池モジュールの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、基板上に透明電極層と、光電変換層と、裏面電極層とを備える薄膜太陽電池モジュールの検査方法であって、検査対象の薄膜太陽電池モジュールに、順方向のバイアス電流を流す電流印加工程と、前記薄膜太陽電池モジュールの発電光入射面側から、該電流印加工程後の前記薄膜太陽電池モジュールから生じる発光を検出し、前記薄膜太陽電池モジュールの発光状態を表す発光画像を取得する発光画像取得工程と、該画像取得工程により取得した発光画像に基づいて、欠陥の前記基板面内位置及び欠陥の種類を特定する欠陥特定工程とを含む薄膜太陽電池モジュールの検査方法を提供する。
【0010】
本発明では、薄膜太陽電池モジュールに順方向のバイアス電流を流すことによって生じる光電変換層からの発光は、薄膜太陽電池モジュールの電流の分布を擬似的に示している。この発光分布を、欠陥の基板面内位置及び欠陥発生場所の特定に利用する。本発明の方法では、従前の赤外線を検知する方法のように、欠陥周辺への伝熱が影響して欠陥部分の温度が上昇し、画像が不鮮明となることが無い。むしろ、欠陥周辺で温度上昇することにより欠陥周辺領域の発光強度が高くなるため、欠陥位置の特定精度が向上するという利点を有する。
【0011】
上記発明において、前記発光画像取得工程において、波長600nmから1000nmの光を検出することが好ましい。
【0012】
例えば本発明の光電変換層に適用される半導体材料のバンドギャップは、非晶質シリコンで約1.8eV、CIGS(Cu(In,Ga)Se)で約1.3eV、CdTeで約1.5eVである。上記材料の光電変換層を有する薄膜太陽電池モジュールにバイアス電流を流すと、光電変換層に電荷が注入されることで、光電変換層から波長600nm〜1000nmのエレクロトルミネセンス(EL)光が発せられる。従って、波長600nmから1000nmの光を検出することで、欠陥位置を高精度で特定できる。
【0013】
上記発明において、前記薄膜太陽電池モジュールの直列接続方向の発電セル幅に相当する幅を有する帯状であり、正常な発電セルより発光強度が低い低輝度発光領域がある場合に、前記低輝度発光領域に隣接する分離溝に欠陥が発生していると判定するとともに、前記分離溝の欠陥の前記薄膜太陽電池モジュールにおける位置情報を取得する。さらに、前記欠陥特定工程において、前記発光画像中に、前記低輝度発光領域の近傍に正常な発電セルよりも相対的に高い高輝度発光領域が検出された場合に、前記高輝度発光領域のうち最大発光強度を示す領域近傍に前記分離溝に欠陥が発生していると判定するとともに、前記分離溝の欠陥の前記薄膜太陽電池モジュールにおける位置情報を取得する。
【0014】
また、上記発明において、前記欠陥特定工程において、前記発光画像中に、島状の無発光領域と、該無発光領域を囲繞し周囲より相対的に低輝度の発光領域とが検出された場合に、または、周囲より相対的に高輝度の島状の発光領域と、該高輝度の島状の発光領域を囲繞し周囲より相対的に低輝度の発光領域とが検出された場合に、前記無発光領域内または前記高輝度の島状の発光領域内にある前記光電変換層に欠陥が発生していると判定するとともに、前記光電変換層の欠陥の前記薄膜太陽電池モジュールにおける位置情報を取得する。
【0015】
本発明では、正常な発電セルの発光領域と比較して低輝度の発光領域の形状や、低輝度発光領域と高輝度発光領域との位置関係、発光強度の変化に基づいて、欠陥の種類及び欠陥が発生している場所を特定することが可能である。
【0016】
上記発明において、前記欠陥特定工程において、前記裏面電極層のカメラ画像を取得し、該カメラ画像と前記発光画像とを照合させて、前記分離溝の欠陥の前記薄膜太陽電池モジュールにおける位置情報を取得すると、欠陥位置の特定精度が向上するので好ましい。
【0017】
本発明の薄膜太陽電池モジュールの製造方法は、上記の薄膜太陽電池モジュールの検査方法を用いて前記欠陥が検出された場合、該検出された欠陥を含む発電セルに順方向または逆方向の電圧を印加して、前記欠陥を除去する。
また、本発明の薄膜太陽電池モジュールの製造方法は、上記の薄膜太陽電池モジュールの検査方法を用いて前記欠陥が検出された場合、該検出された欠陥の周辺領域、または、前記欠陥を含む領域にレーザ光を照射して、前記欠陥を除去する。
また、本発明の薄膜太陽電池モジュールの製造方法は、上記の薄膜太陽電池モジュールの検査方法を用いて前記欠陥が検出された場合、該検出された欠陥の周辺領域、または前記欠陥を含む領域に針を接触させ、前記針を走査することにより前記欠陥を除去する。
【0018】
本発明の検査方法を用いれば、薄膜太陽電池モジュールの電流分布の不整合な領域として欠陥を検出し、薄膜太陽電池モジュールの欠陥原因と位置とを特定できる。そのため、欠陥の種類や欠陥が発生している層に応じて、欠陥の除去方法を適宜選択できる。また、本発明の検査方法では、薄膜太陽電池モジュールにおける欠陥位置が高精度で特定されるため、確実に欠陥を除去することが可能となる。この結果、薄膜太陽電池モジュール生産工程における歩留まりを向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の検査方法によれば、発電膜層に電荷が注入されるときに生じる発光を利用して薄膜太陽電池モジュールの電流分布の不整合な領域として欠陥(電気的短絡)を検出するため、正確に薄膜太陽電池モジュールでの欠陥位置を把握できるとともに、欠陥が発生している原因を特定することができる。このため、欠陥を確実に除去することが可能となり、薄膜太陽電池モジュールの生産工程において歩留まりが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る薄膜太陽電池パネルの構成を説明する概略図である。
【図2】第1実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの構成を説明する模式図である。
【図3】第1実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの製造工程を説明する模式図である。
【図4】第1実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの製造工程における透明電極層を形成する工程を説明する模式図である。
【図5】第1実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの製造工程における透明電極層溝を形成する工程を説明する模式図である。
【図6】第1実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの製造工程における光電変換層を積層する工程を説明する模式図である。
【図7】第1実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの製造工程における接続溝を形成する工程を説明する模式図である。
【図8】第1実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの製造工程における裏面電極層を積層する工程を説明する模式図である。
【図9】第1実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの製造工程における裏面電極層を積層する工程を説明する模式図である。
【図10】第1実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの製造工程における分離溝を加工する工程を説明する模式図である。
【図11】第1実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの製造工程における絶縁溝を加工する工程を説明する模式図である。
【図12】第1実施形態に係る太陽電池モジュールを裏面電極層側から見た図である。
【図13】第1実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの検査方法に使用される検査装置の概略を説明する模式図である。
【図14】分離溝に欠陥が発生している場合のEL光の発光分布を表した模式図である。
【図15】+側端部の発電セルに隣接する分離溝に欠陥が発生している場合のEL光の発光分布を表した模式図である。
【図16】−側端部の発電セルに隣接する分離溝に欠陥が発生している場合のEL光の発光分布を表した模式図である。
【図17】発光分布画像から求められた濃度値ヒストグラムの例である。
【図18】2値化法による分離溝の欠陥の画像処理例である。
【図19】エッジ検出法による分離溝の欠陥の画像処理例である。
【図20】電圧印加により分離溝の欠陥を除去する方法を説明する概略図である。
【図21】裏面電極層側からのレーザ照射により分離溝の欠陥を除去する方法を説明する概略図である。
【図22】光電変換層に欠陥が発生している場合のEL光の発光分布を表した模式図である。
【図23】光電変換層に欠陥が発生している場合のEL光の発光分布を表した模式図である。
【図24】発光分布画像から求められた濃度値ヒストグラムの例である。
【図25】エッジ検出法による光電変換層の欠陥の画像処理例である。
【図26】レーザ照射により光電変換層の欠陥を除去する方法の一例を説明する概略図である。
【図27】レーザ照射により光電変換層の欠陥を除去する方法の別の例を説明する概略図である。
【図28】第1実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの製造工程における端子箱を取り付ける工程を説明する模式図である。
【図29】第1実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの製造工程における密封工程を説明する模式図である。
【図30】第2実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの構成を説明する模式図である。
【図31】メカニカルスクライブにより分離溝の欠陥を除去する方法を説明する概略図である。
【図32】メカニカルスクライブにより光電変換層の欠陥を除去する方法の一例を説明する概略図である。
【図33】メカニカルスクライブにより光電変換層の欠陥を除去する方法の別の例を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態に係る薄膜太陽電池パネルついて図1から図12を参照して説明する。
図1は、本実施形態の薄膜太陽電池パネルの構成を説明する模式図である。
本実施形態で説明する薄膜太陽電池パネル1は、光電変換層を形成した薄膜太陽電池モジュール2に、図示しない接着充填シート(EVA)とバックシート(PET/AL/PET構造)で密閉処理を施し、薄膜太陽電池パネル1周囲に図示しないガスケットを介して、アルミフレーム枠3L,3Sが取付けられたものである。
【0022】
図2は、図1の薄膜太陽電池モジュールの構成を説明する模式図である。
薄膜太陽電池モジュール2には、透光性基板11上に、透明電極層12、光電変換層13、裏面電極層14がこの順で設けられる。
【0023】
上述の構成を有する薄膜太陽電池パネル1の製造工程を、図3乃至図12を用いて説明する。
図3は、図2の薄膜太陽電池モジュールの製造工程を説明する模式図である。
透光性基板11として、光電変換層13の主な光吸収波長である350nmから800nmにおける透過性に優れたガラス基板(例えば1.4m×1.1m×板厚:3.5mm〜4.5mm)が使用される。具体的に、透光性基板11は、ソーダフロートガラスや型押しガラスなどとされる。基板端面は熱応力や衝撃などによる破損防止にコーナー面取りやR面取り加工されていることが望ましい。
【0024】
図4は、図2の薄膜太陽電池モジュールの製造工程における透明電極層を形成する工程を説明する模式図である。
透光性基板11に、透明電極層12として酸化錫膜(SnO)を主成分とする透明電極膜が、熱CVD装置を用いて製膜される。この製膜処理の際、酸化錫膜の表面には、適当な凹凸のあるテクスチャーが形成される。
あるいは、透明電極層12は熱CVD装置を用いずに、酸化亜鉛膜(ZnO)を主成分とする透明電極膜をスパッタなどで形成してもよい。
【0025】
なお、透光性基板11と透明電極層12との間にアルカリバリア膜(図示されず)を形成してもよい。アルカリバリア膜は、例えば、熱CVD装置にて酸化シリコン膜(SiO)を製膜することにより形成される。
【0026】
図5は、図2の薄膜太陽電池モジュールの製造工程における透明電極層溝を形成する工程を説明する模式図である。
透明電極層12が製膜されると、図5に示すように、透明電極層溝15が形成される。
具体的には、透光性基板11がX−Yテーブルに設置され、YAGレーザの第1高調波(1064nm)が、図の矢印に示すように、透明電極層12の膜面側から照射される。透明電極層12はレーザ光によりレーザエッチングされ、約6mmから15mmまでの範囲の間隔をあけて透明電極層溝15が形成される。この透明電極層溝15により、透明電極層12は短冊状に区切られる。
入射されるYAGレーザのレーザパワーは、透明電極層溝15の加工速度が適切な速度になるように調節される。透明電極層12に対して照射されるレーザ光は、透光性基板11に対して、発電セル2S(図12など参照)の直列接続方向と略直交する方向に相対移動される。
【0027】
図6は、図2の薄膜太陽電池モジュールの製造工程における光電変換層を積層する工程を説明する模式図である。
透明電極層溝15が形成されると、図6に示すように、光電変換層13が透明電極層12上に積層される。
光電変換層13は、シリコン系光電変換層、化合物半導体系光電変換層(CIGS型、CdTe型)などとされ、特に限定されない。シリコン系光電変換層の場合、アモルファスシリコン系や結晶質シリコン系を適用できる。なお、シリコン系とはシリコン(Si)やシリコンカーバイト(SiC)やシリコンゲルマニウム(SiGe)を含む総称である。
【0028】
本実施形態の薄膜太陽電池モジュールは、p層、i層、n層からなる発電層を1層備えるシングル型太陽電池としても良い。あるいは、複数の発電層を積層させたタンデム型太陽電池やトリプル型太陽電池としても良い。シリコン系タンデム型太陽電池の場合、アモルファスシリコン系の発電層上に、結晶質シリコン系の発電層を積層させる。ここで、結晶質シリコン系とはアモルファスシリコン系以外のシリコン系を意味するものであり、微結晶シリコン系や多結晶シリコン系などが含まれる。この場合、2つの発電層の間に、接触性を改善するとともに電流整合性を取るために半反射膜となる中間コンタクト層(GaやAlドープZnO膜など)を設けることができる。
【0029】
光電変換層の製膜において、光電変換層が局所的に欠落したり薄くなることによる膜欠陥が生じるとき、透明電極層と裏面電極層とが電気的に短絡することがある。局所的欠落は、例えば製膜面に粒子などの異物が存在する場合に、粒子上に形成された膜の応力により、粒子とともに膜が剥離することで生じる。また、製膜途中に粒子が付着したり、製膜中に粒子が剥離すると、光電変換層が薄く形成されることがある。さらに、太陽電池製造工程の一部で光電変換層に集中的な外部荷重が押圧印加された場合に、光電変換層が薄くなることがある。上記短絡箇所が、光電変換層13の欠陥である。
【0030】
図7は、図2の薄膜太陽電池モジュールの製造工程における接続溝を形成する工程を説明する模式図である。以下では、アモルファスシリコンからなる光電変換層を用いた場合を例に挙げて説明する。
光電変換層13が積層された後、図7に示すように、接続溝17が形成される。
具体的には、透光性基板11がX−Yテーブルに設置され、レーザダイオード励起YAGレーザの第2高調波(532nm)が、図の矢印に示すように、光電変換層13の膜面側から照射される。光電変換層13は、レーザ光によりレーザエッチングされ、接続溝17が形成される。レーザ光は、約10kHzから約20kHzまでの範囲でパルス発振され、適切な加工速度になるようにレーザパワーが調節されている。さらに、接続溝17の位置は、前工程で加工された透明電極層溝15と交差しないように位置決め公差を考慮した上で選定される。
レーザ光は光電変換層13の膜面側から照射してもよいし、反対側の透光性基板11側から照射しても良く、特に限定するものではない。透光性基板11側から照射した場合、レーザ光のエネルギーは、光電変換層13で吸収されて高い蒸気圧が発生する。この高い蒸気圧を利用して光電変換層13がエッチングされるため、更に安定したレーザエッチング加工を行うことが可能となる。
【0031】
図8及び図9は、図2の薄膜太陽電池モジュールの製造工程における裏面電極層を積層する工程を説明する模式図である。
接続溝17が形成された後、図8及び図9に示すように、裏面電極層14が光電変換層13上に積層される。このとき、接続溝17の中にも裏面電極層14が積層され、透明電極層12と裏面電極層14とを接続する接続部18が形成される。
裏面電極層14は、第1裏面電極層14Aと第2裏面電極層14Bとが積層されて構成される。このような2層構成の裏面電極層14とすることにより、光電変換層13と第2裏面電極層14Bとの間の接触抵抗が低減されるとともに、光の反射が向上される。
第1裏面電極層14Aは、GaやAlがドープされたZnO膜などの透明導電性酸化物の膜とされ、スパッタリング装置により製膜される。
第2裏面電極層14Bは、Ag膜とTi膜、または、Ag膜とAl膜からなる層をとされ、スパッタリング装置により製膜される。シリコン系タンデム型太陽電池の場合は、Ag膜の代わりにCu膜を用いても良い。
【0032】
図10は、図2の薄膜太陽電池モジュールの製造工程における分離溝を加工する工程を説明する模式図である。
裏面電極層14が積層された後、図10に示すように、裏面電極層14を絶縁し、発電セルを分離するために分離溝16が形成される。具体的には、透光性基板11がX−Yテーブルに設置され、レーザダイオード励起YAGレーザの第2高調波(532nm)が、図の矢印に示すように、透光性基板11側から照射される。入射されたレーザ光は光電変換層13で吸収され、光電変換層13内で高いガス蒸気圧が発生する。このガス蒸気圧により光電変換層13、第1裏面電極層14A及び第2裏面電極層14Bは爆裂して除去される。
レーザ光は、約1kHzから約50kHzまでの範囲でパルス発振され、適切な加工速度になるようにレーザパワーが調節されている。
【0033】
ここで、透光性基板11上に異物が存在した状態でレーザ光を照射すると、レーザ光が遮られるため、異物直下の光電変換層13及び裏面電極層14は除去されない場合がある。この結果、異物直下で分離溝が途絶えて、裏面電極層が連結した状態で残るために、隣接セルとの短絡が発生する。この場合、裏面電極は電気抵抗が小さく容易に通電するので、短絡を生じたセルの短絡発生付近の領域は発電に寄与しない状態が発生する。上記短絡箇所が、分離溝16における欠陥となる。
【0034】
図11は、図2の薄膜太陽電池モジュールの製造工程における絶縁溝を加工する工程を説明する模式図である。図12は、図11の絶縁溝の構成を説明する太陽電池モジュールを裏面電極層側から見た図である。図11(a)は図12のX方向断面図であり、図11b)は図12のY方向断面図である。
分離溝16が形成された後、図11及び図12に示すように、絶縁溝19が形成される。絶縁溝19は、発電領域を区分することにより、透光性基板11の端周辺の膜端部において直列接続部分が短絡し易い部分を切り離して、その影響を除去するものである。
【0035】
絶縁溝19を形成する際には、透光性基板11がX−Yテーブルに設置され、レーザダイオード励起YAGレーザの第2高調波(532nm)が、透光性基板11側から入射される。入射されたレーザ光は透明電極層12と光電変換層13において吸収され、高いガス蒸気圧が発生する。このガス蒸気圧により裏面電極層14が爆裂して、第1裏面電極層14A、第2裏面電極層14B、光電変換層13及び透明電極層12が除去される。
【0036】
レーザ光は、約1kHzから約50kHzまでの範囲でパルス発振され、適切な加工速度になるようにレーザパワーが調節されている。照射されるレーザ光は、透光性基板11の端部から5mmから20mmまで範囲内の位置をX方向(図12参照)に移動される。
このとき、Y方向絶縁溝は後工程で透光性基板11の周囲膜除去領域20の膜面研磨除去処理を行うので設ける必要がない。
絶縁溝19は、透光性基板11の端より5mmから15mmまでの範囲内の位置まで形成されていることが好ましい。
なお、ここまでに説明した工程においてYAGレーザをレーザ光として用いているが、YAGレーザに限られることなく、YVO4レーザや、ファイバーレーザなども同様にレーザ光として使用してもよい。
【0037】
絶縁溝19が形成された後、透光性基板11周辺(周囲膜除去領域20)の積層膜、つまり第1裏面電極層14および第2裏面電極層14B、光電変換層13および透明電極層12が除去されて周囲膜除去領域20が形成される。上述の積層膜は、透光性基板11の端から5mmから20mmまでの範囲内で、透光性基板11の全周囲にわたり除去され周囲膜除去領域20を形成する。当該積層膜を除去することにより、後工程において行われる接着充填材シートを介したバックシート(PET/AL/PET)の接着が健全に行われ、シール面を確保することができる。このようにすることで、絶縁耐圧の確保及び太陽電池パネル端部から薄膜太陽電池モジュール2内部への外部水分の侵入を抑制することができる。
【0038】
次に、本実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの検査方法について説明する。
図13は、薄膜太陽電池モジュールにおける欠陥の有無を測定する検査装置の概略を説明する模式図である。
検査装置100には、図13に示すように、検査テーブル(支持部)120と、昇降部130と、接触端子(入力部)140と、XYテーブル(移動部)150と、イメージセンサ(測定部)160と、が設けられている。
【0039】
検査装置100は、薄膜太陽電池モジュール2におけるエレクトロルミネセンスにより発せられる光(EL光)の発光分布を取得するにあたり、暗室(不図示)内に配置されて、外光が遮断された状態とされることが望ましい。暗室には、薄膜太陽電池モジュールの搬入や搬出が行われるための開閉部と、モジュールを前工程から暗室に搬送する、または、暗室から後工程に搬送するための搬送部とが設けられる。
【0040】
検査テーブル120は、暗室110の内部に搬入された薄膜太陽電池モジュール2を支持するものであり、昇降部130によって薄膜太陽電池モジュール2とともに上下方向に昇降されるものである。
検査テーブル120は、図13に示すように、角筒状に形成された枠体121と、薄膜太陽電池モジュール2を移動可能に支持する複数の搬送ローラ122と、から主に構成されている。検査テーブル120には、薄膜太陽電池モジュール2の配置位置を決定する位置決め部と、薄膜太陽電池モジュール2の配置位置を検出する位置センサと、が設けられる。
【0041】
枠体121は搬送ローラ122を介して薄膜太陽電池モジュール2を支持するものであり、かつ、昇降部130によって昇降可能に支持されるものである。枠体121は上下方向(図13のZ軸方向)に開口が位置するように配置され、内面の上端には複数の搬送ローラ122が配置されている。
搬送ローラ122は、枠体121における薄膜太陽電池モジュール2の搬送方向(図13のX軸方向)に沿って延びる内面に、当該搬送方向に等間隔に並んで配置され、枠体121に対して自転可能に取り付けられているものである。
【0042】
位置決め部は、検査テーブル120における所定位置、特にY軸方向における所定位置に薄膜太陽電池モジュール2を導き、その位置から薄膜太陽電池モジュール2が移動しないように固定するものである。位置決め部は、検査テーブル120の枠体121における外面に、薄膜太陽電池モジュール2の四隅に対応する位置に配置されている。つまり、枠体121に4つの位置決め部が配置されている。
【0043】
位置センサは、検査テーブル120における所定位置に薄膜太陽電池モジュール2が導かれたか否かを検出するセンサである。本実施形態では、光によって位置を検出するセンサが適用される。本実施形態では、検査テーブル120の枠体121における対角線上に一対の位置センサが配置されている。
【0044】
昇降部130は暗室の内部に配置されるものであって、検査テーブル120に載せられた薄膜太陽電池モジュール2を上下方向(Z方向)に移動させることにより、薄膜太陽電池モジュール2とイメージセンサ160との距離を調節するものである。
昇降部130には、図13に示すように、支柱131と、直進ガイド132と、駆動機構133と、が主に設けられている。
【0045】
支柱131は、検査テーブル120の枠体121における角部に対応する位置に、つまり枠体121の四隅に隣接して上下方向に延びて配置される4本の角柱状の部材である。支柱131は、検査テーブル120及び薄膜太陽電池モジュール2を支える柱状の部材であって、検査テーブル120及び薄膜太陽電池モジュール2を移動させる際に上下方向に導くガイドとして機能する。
直進ガイド132は検査テーブル120と支柱131との間に配置され、検査テーブル120及び薄膜太陽電池モジュール2を支柱131に沿って移動させるものである。
【0046】
駆動機構133は、検査テーブル120及び薄膜太陽電池モジュール2を上下方向に移動させるものである。駆動機構133は検査テーブル120を間に挟む一対の支柱131に配置されるものであり、例えば図13に示すように、昇降プーリ134と昇降ベルト135との組み合わせとされる。あるいは、スプロケットとチェーンとの組み合わせ等としても良い。昇降ベルト135が昇降プーリ134の間を回転駆動されると、それに伴い検査テーブル120が上下方向に移動する。
【0047】
接触端子140は、薄膜太陽電池モジュール2の裏面電極層14に傷を与えることなく、裏面電極層14と電気的に接続されるものであって、光電変換層13に対して電圧を印加して電流を流すものである。さらに接触端子140は、検査テーブル120に配置された薄膜太陽電池モジュール2に対して接近離間可能とされ、かつ、裏面電極層14と電気的に接続された状態で、検査テーブル120及び薄膜太陽電池モジュール2とともに上下方向に移動可能とされている。その一方で、接触端子140は光電変換層13に印加する電圧を供給する電源(図示せず)と電気的に接続されている。
【0048】
接触端子140は、電圧を印加するために一つの薄膜太陽電池モジュール2に対して2つ配置されている。具体的には、薄膜太陽電池モジュール2の発電セル2Sにおける一方の端部の発電セル2Sの長手方向の略全長に対して一の接触端子140が配置され、他方の端部に他の接触端子140が配置されている。
接触端子140には薄膜太陽電池モジュール2に沿って(X軸方向に)延びる棒状部分と、当該棒状部分から薄膜太陽電池モジュール2に向かって上下方向(Z軸方向)に延びる複数の接触部分と、が設けられている。複数の接触部分は、それぞれ薄膜太陽電池モジュール2における発電セル2Sと接触するように間隔をあけて配置されている。
接触端子140の複数の接触部分は、一方の端部の発電セル2Sの長手方向の略全長にわたり、電気的に略均等に接続することで、該発電セル2Sに対して均一に電圧を印加し電流を流すことが出来る。
【0049】
XYテーブル150は暗室の内部における底面に配置され、検査テーブル120及び薄膜太陽電池モジュール2に対してイメージセンサ160を水平方向(XY平面に沿う方向)に相対移動可能とするものである。
XYテーブル150には、暗室の底面をX軸方向に移動可能に配置されたXステージ151と、Xステージの上面に配置され、Y軸方向に移動可能に配置されたYステージ152とが設けられている。
【0050】
イメージセンサ160は、薄膜太陽電池モジュール2の光電変換層13から発せられる電磁波、本実施形態ではエレクトロルミネセンスにより発せられる光(EL光)の分布を測定するものである。本実施形態では、シリコンイメージセンサが用いられる。イメージセンサ160は、Yステージ152の上面に配置され、薄膜太陽電池モジュール2に対してXY平面方向に相対移動可能とされている。
【0051】
上記検査装置を用いて薄膜太陽電池モジュール中の欠陥を検査する工程を説明する。
暗室内に導入された薄膜太陽電池モジュール2は、検査テーブル120における枠体121の搬送ローラ122の上に搬入される。
【0052】
薄膜太陽電池モジュール2が検査テーブル120の上に搬入されると、位置センサによって薄膜太陽電池モジュール2が搬入され、かつ、一対の位置センサの間に薄膜太陽電池モジュール2が配置されたことが検出される。すると、薄膜太陽電池モジュール2の搬入移動が停止し、位置決め部により薄膜太陽電池モジュール2は所定位置、特にY軸方向における所定位置に導かれ、固定される。その後、暗室の開閉部が閉じられ、暗室の内部は閉空間となり外光が遮光される。
【0053】
次いで、薄膜太陽電池モジュール2に対して2つの接触端子140が押しつけられ、接触端子140と裏面電極層14とが電気的に接続される。
【0054】
接触端子140が発電セル2Sと接続されると、検査テーブル120、接触端子140及び太陽電池モジュール2は昇降部130によって上方(+Z軸方向)に移動される。具体的には、昇降プーリ134によって昇降ベルト135が回転駆動され、昇降ベルト135が固定された検査テーブル120は直進ガイド132によって支柱131に沿って上方に移動する。
【0055】
さらに、XYテーブル150が移動されることにより、薄膜太陽電池モジュール2に対するイメージセンサ160の相対位置が調節される。
【0056】
そして、接触端子140から薄膜太陽電池モジュール2に対して所定の電圧が印加される。電圧は接触端子140から裏面電極層14を介して光電変換層13(発電セル2S)に印加されて、所定値の電流が流れる。電圧が印加され所定値の電流が流れた光電変換層13では、EL光が発せられる。
【0057】
イメージセンサ160は、薄膜太陽電池モジュール2から発せられた波長600〜1000nmの光を検出し、EL光の発光分布画像を取得する。本実施形態の構成では、透光性基板11側からEL光が検出される。
イメージセンサ160は、薄膜太陽電池モジュール2における光電変換層13が設けられている全領域について一回で撮影し、発光分布画像を取得する。あるいは、薄膜太陽電池モジュール2における光電変換層13が設けられている領域を、例えば四分割して撮影しても良い。分割して撮影する場合、イメージセンサ160は、分割された領域の一つが撮影可能な位置に移動される。領域を分割して撮影する場合、一の領域におけるEL光の発光分布をイメージセンサ160で画像取得すると、イメージセンサ160はXYテーブル150によって次の領域の撮影位置に移動され、次の領域の画像取得が行われる。これを領域の数だけ繰り返し行われる。イメージセンサ160により撮影された各領域におけるEL光の発光分布は、薄膜太陽電池モジュール2の全体におけるEL光の発光分布として合成される。
画像取得範囲の分割数と画像からの検査精度は、後述する目的に応じて適宜設定することができる。
【0058】
イメージセンサ160によりEL光の発光分布の画像取得が終了すると、薄膜太陽電池モジュール2への電圧の印加が終了される。
次いで、検査テーブル120、接触端子140及び薄膜太陽電池モジュール2が昇降部130により下方(−Z軸方向)に移動される。
【0059】
その後、接触端子140が上方(+Z軸方向)に薄膜太陽電池モジュール2の搬送に支障ないように移動され、薄膜太陽電池モジュール2から離脱される。さらに、暗室の開閉部が開かれ、薄膜太陽電池モジュール2が検査装置100から搬出される。
【0060】
イメージセンサ160で取得された発光分布の画像が処理され、欠陥の種類及び欠陥発生箇所の基板面内位置が特定される。イメージセンサ160で取得された発光分布の画像は、ガラス基板11に影響されることなく、高い分解精度で観察できるという特出すべき特徴がある。
【0061】
図14は、分離溝に欠陥が発生している場合のEL光の発光分布を表した模式図である。図14(a)は、薄膜太陽電池モジュールを透光性基板側から見た図であり、図14(b)は薄膜太陽電池モジュールの断面図である。
透明電極層溝15、接続溝17、分離溝16を含む直列接続部43は、光電変換層への電流注入が無いのでEL光の発光が無い無発光領域となる。
図14に示すように、分離溝16形成時に透光性基板11上に異物30が存在すると、異物30直下に分離溝16が形成されない欠陥40が発生する。分離溝16に欠陥40が発生している場合には、裏面電極層14が連結した状態で残るため、欠陥のある発電セル2Sは、透明電極層12と裏面電極層14とがほぼ同電位となり、光電変換層への電流注入がほとんど無い。そのため、正常なセルよりも発光強度が低い低輝度発光領域41となる。従って、低輝度発光領域は、EL画像において、直列接続方向の発電セル幅に相当する幅を有する帯状となる。さらに、欠陥存在位置近傍では、上記低輝度発光領域の中でも特に輝度の低い領域となる。
なお、図12のY方向に発電セルが長い場合(例えば、発電セルが200mm以上の場合)、当該セル内において欠陥箇所の近傍が最も暗く、欠陥から遠いところでは裏面電極層の抵抗成分があるために欠陥の影響が小さくなり、弱く発光する場合がある。一方、発電セルの長さが200mm以下であれば、分離溝に欠陥がある発電セル2Sと図14で当該セルの左側(印加電流の向きを示す矢印の反対方向、即ち+電位側)に隣接する発電セル2Sとの間の抵抗は数Ω以下であるので、当該発電セルは全体が低輝度発光領域になり、欠陥位置近傍で最も暗くなる。
【0062】
EL発光画像から、薄膜太陽電池モジュール2の分離溝の欠陥位置を特定するにあたり、直列接続方向の発電セル幅に相当する幅を有する帯状で、周囲の正常な発電セルより発光強度が低い低輝度発光領域がある場合、該低輝度発光領域の発電セルを分離する分離溝に欠陥が発生していると判定する。さらに、発電セルの低輝度発光領域内に最も輝度が低い領域に隣接する分離溝に欠陥があると特定する。
【0063】
欠陥40付近に電流が集中する場合には、内部抵抗損失によりジュール発熱が生じる。これにより、欠陥40部分で温度が上昇するとともに、欠陥40部分に隣接する正常な発電セル2Sにも熱が伝播して、周辺部より温度が上昇する。正常な発電セル2Sの温度が上昇すると、光電変換層13における半導体のバンドギャップが小さくなるので、その部分への電流注入が起こりやすくなり、EL光がより強く発光する。
本実施形態において、欠陥40付近をガラス基板11を通してサーモビュアで観察したところ、正常な発電セルの温度が約28℃、高輝度の発光領域42の付近は約38℃以上と観測され、高輝度の発光領域42が10℃以上の温度上昇が確認されている。
従って、分離溝に欠陥がある発電セルの直列接続方向に隣接して両側に正常な発電セルがある場合は、図14(a),(b)に示すように、両側の発電セル2Sにおいて、欠陥40付近に電流が集中することで、正常な発電セルの通常の発光強度よりも高輝度の発光領域42が発生することが多い。高輝度の発光領域42の付近では、光電変換層13が温度上昇で低抵抗化するために更に電流が集中しやすい状態になっており、正常な発電セルの発光強度よりもさらに高輝度な発光領域として、より明確に観測することができる。また、この高輝度発光領域42のうち分離溝に欠陥がある発電セルの+電位側に隣接する発電セルは欠陥箇所に近いため、より強く発光する。通常、欠陥から離れるに従い、電流集中が徐々になくなるので、輝度が徐々に低下する。
【0064】
モジュール基板の端部には、取出し電極が+側、−側にそれぞれ存在する。図15は、+側取出し電極に隣接する初段の発電セルの分離溝に欠陥がある場合、図16は、取出し電極に隣接する初段の発電セルの分離溝に欠陥がある場合のEL光の発光分布を表した模式図である。図15及び図16において、(a)は薄膜太陽電池モジュールを透光性基板側から見た図であり、(b)は薄膜太陽電池モジュールの断面図である。
それぞれ初段の分離溝16の片側に隣接する正常な発電セル2Sにおいて、高輝度発光領域42が見られることがある。なお取出し電極ではEL光は発光しない。
【0065】
発電セルの低輝度発光領域内に最も輝度が低い領域が観測されない場合などでは、上述の低輝度発光領域による分離溝の欠陥の特定に加えて、低輝度発光領域の近傍にて周囲の正常な発電セルよりも相対的に高輝度の発光領域が検出されたときに、該高輝度発光領域の最大発光強度を示す箇所付近における該低輝度発光領域の発電セルの分離溝に欠陥が発生していると判定する。
【0066】
分離溝16の欠陥40は、画像処理方法である2値化法またはエッジ検出法を用いて、以下の解析を行うことにより特定される。2値化法やエッジ検出法には種々の解析法があり、一例を挙げるが、これに限定されるものではない。また2値化法とエッジ検出法を併用しても良い。
【0067】
2値化法により分離溝16の欠陥40を特定する場合、まず、評価部分の発電セルと該発電セルの直列接続方向にある発電セルとを比較する。図17に示すように発光分布画像から濃度値ヒストグラムを求める。濃度値ヒストグラムにおいて、濃度値が高いとEL光が弱く、濃度値が低いとEL光が強いとされる。図17(a)に示すように最高濃度値からの累積分布が例えば80%における濃度値が閾値と設定され、閾値以下の領域、すなわち発光強度が最大に近い領域が白で表される。この領域をA領域とする。
次に、図17(b)に示すように最高濃度値からの累積部分が例えば20%における濃度値が閾値と設定され、閾値以上の領域、すなわち発光強度が最小に近い領域が黒で表される。この領域をB領域とする。
【0068】
図18に示すように、A領域及びB領域を重ねて表示する。図18は、2値化法による分離溝の欠陥の画像処理の例である。なお、図18のA領域及びB領域以外の周辺部は正常なセルの発光に対応し、発光輝度がA領域より暗く、B領域よりも明るい領域となる。例えば、図17の濃度値ヒストグラムにおいて、濃度値がA領域とB領域の間の領域、例えば最高濃度値からの累積分布が20〜80%における領域に相当する。
B領域が帯状で、その幅が直列接続方向の発電セル2S幅及び直列接続部43幅(直列接続部は発光しないため最高濃度値)に相当すると判定された場合、B領域にある発電セルの分離溝に欠陥があると判定される。
欠陥位置を更に正確に把握するために、低輝度発光領域内の特に輝度の低い領域の検出が実施される。この場合、図17(b)に示す閾値がさらに高い濃度値に設定される。これにより、B領域が縮小されて検出される。縮小されたB領域にある発電セルの分離溝に欠陥があると判定される。
【0069】
図18に示すように、少なくとも1つのA領域がB領域に近接して存在する箇所が検出されたときにおいても、A領域の重心位置に近いB領域、すなわち低輝度発光領域41内の発電セルを分離する分離溝位置に欠陥があると特定される。このとき濃度値の閾値を適宜変更して、輝度領域範囲を絞ることにより特定精度を高めることができる。
【0070】
エッジ検出法により分離溝16の欠陥40を特定する場合、透光性基板11の一端部からEL光の発光分布画像がX方向及びY方向にスキャンされ、画像の明るさが急激に変化するところを輪郭として微分演算で算出される。
図19は、エッジ検出法による分離溝の欠陥の画像処理の例である。隣接する正常な発光セルと分離溝の欠陥発生位置との境界は、X方向に大きい輝度勾配のエッジとして検出される。EL画像において、高輝度発光領域が検出される場合も、隣接する正常な発光セルと分離溝の欠陥発生位置との境界は、X方向に大きい輝度勾配のエッジとして検出される。このような境界における輝度勾配のエッジは、輝度勾配の閾値を適宜変更することで検出可能である。
また、Y方向には帯状の低輝度発光領域の両端が、所定の輝度勾配の2本のエッジとして検出される。
このように、発電セルの直列接続方向の幅及び直列接続部幅に相当する間隔を有する2本の平行なエッジや、直列接続方向とほぼ垂直方向に2本のエッジが検出された場合、2本のエッジに挟まれる帯状の低輝度発光領域41内の発電セルの分離溝に欠陥があると判定される。さらに、欠陥の位置は、大きい輝度勾配のエッジの近傍で、該低輝度発光領域41内の発電セルを分離する分離溝にあると判定される。
【0071】
なお、本発明者らは、発光分布と電流分布との間に相関関係があるとの知見を得た。従って、発光分布画像に基づいて、太陽電池モジュールの基板面内での電流分布を評価することも可能である。
【0072】
分離溝16における欠陥40の薄膜太陽電池モジュール2の面内位置は、イメージセンサの画素の位置情報を基に、検査テーブル120の薄膜太陽電池モジュール基板の特定端部の位置または薄膜太陽電池モジュール基板のアライメントマークなどの基準位置から、座標として取得される。
なお、イメージセンサ160からの位置情報は、広写野での画像では精度が不十分となり得る。このような場合には、可視波長カメラを用いて裏面電極層14側から薄膜太陽電池モジュール2を撮影する。分離溝16の薄膜太陽電池モジュール基板端部からの位置は、欠陥のある発電セルが初段から数えてN段目にあるすると次式
(発電セル幅+接続部幅)× N +(定数)
で表される。EL光の分布画像から取得した位置情報に基づく座標に可視波長カメラが移動し、カメラ画像の明暗差と上記式のNを自然数とした数値から、分離溝16の欠陥40の位置が特定される。この方法は、高精度で位置を検出できるとともに、位置検出の所要時間が短いという利点がある。
別の方法としては、高倍率のレンズを用い、上述のように光電変換層13が設けられている領域を分割して、各分割領域での狭写野での画像を取得する方法もある。
【0073】
上記工程により、分離溝16における欠陥40が検出された場合、欠陥を除去する工程が実施される。
分離溝16の欠陥40を除去する方法として、発電セルに順方向または逆方向電圧を印加する方法と、短絡箇所にレーザを照射する方法とがある。
【0074】
図20は、電圧印加により分離溝の欠陥を除去する方法を説明する概略図である。図20(a)は、薄膜太陽電池モジュールを裏面電極層側から見た図であり、図20(b)は薄膜太陽電池モジュールの断面図である。図20に示すように、欠陥を含む分離溝を挟んだ2つの発電セル2Sの各裏面電極層14に電流導入端子50を押し当てる。この状態で、例えば2〜5V程度の電圧を発電セル2Sに印加する。電圧の印加方法は、図20のように逆方向でも良いし、順方向でも良い。電圧を印加すると欠陥付近に電流が集中し、発熱により欠陥部分の裏面電極層14及び光電変換層13が除去され、分離溝16が連結する。
逆方向に電圧を印加する場合、欠陥部分の裏面電極層14及び光電変換層13が除去されると絶縁により高抵抗となるため、電流が急激に減少する。この電流変化を検知することにより、裏面電極層14の連結部分の除去が終了したと判断できる。上記方法は、容易かつ迅速に欠陥を除去できるという利点がある。
【0075】
レーザ照射による分離溝16の欠陥の除去では、レーザ光は、薄膜太陽電池モジュール2の透光性基板11側または裏面電極側14から入射される。レーザには、YAGレーザまたはYVO4レーザのナノ秒レーザが使用される。
【0076】
図21は、裏面電極層側からのレーザ照射により分離溝の欠陥を除去する方法を説明する概略図である。図21(a)は、薄膜太陽電池モジュールを裏面電極層側から見た図であり、図21(b)は薄膜太陽電池モジュールの断面図である。
裏面電極層14側からレーザ照射する場合、使用波長は266〜1064nmの範囲で適宜選択される。例えば、レーザの出力安定性やコストの面からは第2高調波(波長532nm)が有利である。また、裏面電極層14に銅を用いる場合、短波長(355nm以下)の光を吸収しやすいため、第3高調波(波長355nm)や第4高調波(波長266nm)のレーザが加工に有利である。レーザ光は、分離溝16の溝幅より細く集光される。具体的に、レーザ光は10〜60μm程度に絞られる。レーザ光のエネルギー密度は、例えば2〜3J/cm、発振周波数は0.1k〜10kHzとされる。レーザ光が図21(a)で矢印で示される分離溝方向に移動して欠陥40を横切るように、レーザ光または薄膜太陽電池モジュール2が走査される。走査速度は1〜100mm/sとされる。同一場所へのパルス照射回数は、2〜6回とされる。
裏面電極層14側からレーザ照射を行うと、裏面電極層14の金属(第2裏面電極層14b)が溶けて光電変換層13(例えばシリコン)と合金化し、光電変換層13が低抵抗化しやすい。上述の条件でパルスレーザ光を照射し、透明電極層12が露出するまで合金化部分を除去することで裏面電極層14と透明電極層12との間の絶縁を確保できる。
【0077】
なお、集光ビームは、断面がガウス分布である場合が多い。ガウス分布のビームでは周縁部のエネルギー密度が低いため、裏面電極層14を除去できないうえ、裏面電極層14や光電変換層13に熱的影響を与える恐れがある。特に、分離溝方向に短絡箇所が長い場合は、影響が大きくなる。
上述のようにEL光の発光分布画像及びカメラ画像によって長い短絡箇所が検出された場合には、ビーム周縁部がマスクで遮光されるマスク整形結像光学系が適用される。あるいは、DOE(Diffractive optical element)やその他のトップフラットビームが得られる光学系を適用しても良い。
【0078】
例えばピコ秒レーザなどのパルス幅が短いレーザでは、レーザ照射周辺付近の熱影響による裏面電極層14の金属と光電変換層13(例えばシリコン)の合金化が抑制されるため、透明電極層12を露出させるまで照射する必要はなく、少ないパルス照射回数で加工が可能である。また、ガウス分布の集光ビームを用いた場合でも光電変換層13への熱的影響を抑制できる。
【0079】
透光性基板11側からレーザ照射する場合、第2高調波(波長532nm)が使用される。レーザ光は、エネルギー密度3〜15J/cmに集光される。レーザ光が欠陥を横切るように、分離溝16方向にレーザ光または薄膜太陽電池モジュール2が走査される。走査速度は1〜100mm/sとされる。同一場所へのパルス照射回数は、1〜2回とされる。
高エネルギー密度のレーザ光を用いるため、透光性基板11に付着した異物30が除去されるとともに、透明電極層12、光電変換層13及び裏面電極層14が除去される。この方法では、透明電極層12が除去される領域が短いため、セル接続部での抵抗はほとんど増加しない。
【0080】
図22及び図23は、光電変換層に欠陥が発生している場合のEL光の発光分布を表した模式図である。図22及び図23において、(a)は、薄膜太陽電池モジュールを透光性基板側から見た図であり、(b)は薄膜太陽電池モジュールの断面図である。
光電変換層13が欠落した欠陥70が発生している場合、図22に示すように、EL光発光分布において、発電セルの中に島状の無発光領域60と、無発光領域60を囲繞し周囲より相対的に低輝度の発光領域61とが観測される。
また、欠陥70において光電変換層13が薄く存在する場合には、図23に示すように、発電セルの中に周囲より相対的に高輝度の島状の発光領域62と、高輝度の発光領域62を囲繞し周囲より相対的に低輝度の発光領域63とが観測される場合がある。
この光電変換層の膜欠陥の大きさは数μmから1mm程度であり、低輝度発光領域61、63は、それより大きい円形で示されることが多い。この膜欠陥が集合群として存在する場合、低輝度発光領域は広範囲に及ぶことがあるが、膜欠陥箇所から離れるに従い輝度が明るくなる。従って、低輝度発光領域の中で最も暗い箇所に欠陥があると判定される。
【0081】
光電変換層13の欠陥70は、2値化法またはエッジ検出法を用いて、以下の解析を行うことにより特定される。なお、光電変換層13の欠陥特定では、高精度の検出を行うために、主に高倍率のレンズを取り付けたイメージセンサにより取得した狭写野のEL光の発光分布画像が用いられる。
2値化法により光電変換層13の欠陥70を特定する場合、図24に示すように発光分布画像から求めた濃度値ヒストグラムにおいて、濃度の高いところから累積分布が例えば20%における濃度値が閾値と設定され、閾値より濃度の高い領域が黒、閾値以下の領域が白で表示される。閾値は、低輝度発光領域61、63の輝度に応じて適宜設定すると良い。白で表示される領域に囲まれた島状(例えば円形状)の黒で表示される箇所、即ち低輝度発光領域が検出されたときに、光電変換層に欠陥が発生していると判定される。
【0082】
エッジ検出法により光電変換層13の欠陥70を特定する場合、透光性基板11の一端部から発光分布画像がスキャンされ、画像の明るさが急激に変化するところが輪郭として微分演算で算出される。図25は、エッジ検出法により欠陥を検出する方法を説明する図である。図25(a)は光電変換層が欠落した欠陥、図25(b)は光電変換層が薄く存在する欠陥を示したものである。
それぞれ図12に対応するX方向、Y方向にスキャンした場合、低輝度発光領域において、輝度勾配のエッジが検出される。エッジは、島状の欠陥が内側にあることを示す低輝度発光領域の輪郭と判定される。輝度勾配の閾値は、低輝度発光領域の輝度に応じて適宜設定すると良い。
【0083】
光電変換層13の欠陥の基板面内位置は、イメージセンサの画素の位置情報を基に、検査テーブル120の薄膜太陽電池モジュール基板の特定端部の位置または薄膜太陽電池モジュール基板のアライメントマークなどの基準位置から、座標として取得される。
【0084】
上記工程により、光電変換層13における欠陥70の発生が検出された場合、光電変換層13の欠陥70を除去する工程が実施される。
光電変換層13の欠陥70を除去する方法として、発電セルに電圧を印加する方法と、短絡箇所にレーザを照射する方法とがある。
発電セルに電圧を印加する方法は、上述した裏面電極層14の絶縁に必要な分離溝の欠陥40を除去する方法と同様である。
【0085】
レーザ照射による光電変換層13の欠陥70の除去では、YAGレーザまたはYVO4レーザのナノ秒レーザが使用される。
透光性基板11側からレーザ照射する場合では、透明電極層12を通過したレーザ光が光電変換層13で吸収されて、高いガス蒸気圧により光電変換層13及び裏面電極層14が爆裂して除去される。これにより、電流経路が遮断される。ここでは、ビームサイズ20〜100μmに集束されたレーザ光が用いられ、除去する領域の大きさに応じて適宜ビームサイズを設定する。レーザ光のエネルギー密度は0.3〜0.4J/cm、発振周波数は0.1k〜10kHzとされる。レーザ光の波長は、光電変換層13で吸収されやすい532nmが選択される。
【0086】
裏面電極層14側からレーザ照射する場合は、透明電極層12が露出するまで裏面電極層14及び光電変換層13が除去される。
レーザ照射は、上述した裏面電極層13の欠陥40を除去する場合と同条件で実施される。集光ビームがガウス分布の場合は、マスク整形結像光学系が適用されることが好ましい。
【0087】
欠陥70が上記ビームサイズ以下の場合、レーザ光または薄膜太陽電池モジュール2が静止した状態で、欠陥70に透光性基板11側からパルスレーザ光が1回照射される。ただし、レーザ発振器の制御により単発照射が不可能な場合、1秒程度の連続照射が実施されても構わない。
【0088】
図26は、欠陥がビームサイズより大きい場合や、複数の欠陥が密集して発生している場合に、レーザ照射により光電変換層の欠陥を除去する方法の一例を説明する概略図である。図26(a)は、薄膜太陽電池モジュールを裏面電極層側から見た図であり、図26(b)は薄膜太陽電池モジュールの断面図である。
この場合、レーザ光または薄膜太陽電池モジュール2が走査されて、図26に示すように欠陥70を囲繞する分離溝80が形成される。走査速度は1〜100mm/sとされる。同一場所へのパルス照射回数は、1〜6回とされる。
図27は、欠陥がビームサイズより大きい場合や、複数の欠陥が密集して発生している場合に、レーザ照射により光電変換層の欠陥を除去する方法の別の例を説明する概略図である。図27(a)は、薄膜太陽電池モジュールを裏面電極層側から見た図であり、図27(b)は薄膜太陽電池モジュールの断面図である。
図27に示すように、欠陥70を含む領域81が除去されるように、レーザ光または薄膜太陽電池モジュール2が走査される。具体的に、図27のように矩形の除去領域81を形成するには、欠陥70よりも長い分離溝を1本形成した後、分離溝の幅分だけ分離溝の形成方向に垂直な方向にレーザ光または薄膜太陽電池モジュール2を移動させることを繰り返して、複数の分離溝が形成される。
図26では円弧状の分離溝80、図27では矩形の除去領域21を示したが、欠陥と正常領域とを分離できれば、分離溝及び除去領域の形状は限定されない。
【0089】
薄膜太陽電池モジュール2の検査及び欠陥除去が終了すると、薄膜太陽電池モジュール2を接着充填シートとバックシートで密閉する処理を施し、さらに端子箱や、アルミフレーム枠などを取付けるパネル化処理工程が行われる。
【0090】
直列に接続された複数の発電セル2Sのうち、一方端の太陽電池発電セル2Sの裏面電極層14と、他方端側で発電セル2Sの透明電極層12に接続した集電用セルの裏面電極層14とに銅箔が設けられ、当該銅箔を用いて発電された電力が集電され、太陽電池パネル裏側の端子箱91の部分から電力が取出せるように処理される。
さらに、銅箔と各部との短絡を防止するため、銅箔幅より広い絶縁シートが裏面電極層14との間に配置される。
【0091】
バックシート90における端子箱91を取付け部分には開口貫通窓が設けられ、当該開口貫通窓から集電用の銅箔が取出される。この開口貫通窓の部分には、複数層に積層させた絶縁材が設置されることにより、外部からの水分などの侵入が抑制されている。
集電用の銅箔などが所定位置に配置された後に、薄膜太陽電池モジュール2の全体を覆うとともに、透光性基板11からはみ出さないようにEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)等からなる接着充填材シートが配置される。
【0092】
接着充填材シートの上には、防水効果の高いバックシート90が設置される。本実施形態ではバックシート90は、防水防湿効果を高くすることを目的として、PETシート/AL箔/PETシートの3層構造を有するものが用いられている。
バックシート90が所定位置に配置されると、次にラミネータを用い、減圧雰囲気かつ約150℃から約160℃の温度範囲の下でプレスが行われる。これにより、接着充填材シート90の架橋が行われることにより、密着され接着される。
【0093】
図28は、図2の薄膜太陽電池モジュールの製造工程における端子箱を取り付ける工程を説明する模式図である。図29は、図2の薄膜太陽電池モジュールの製造工程における密封工程を説明する模式図である。
バックシート90の接着が行われると、図28に示すように、薄膜太陽電池モジュール2の裏側に端子箱91が接着剤を用いて取付けられる。その後、端子箱91の出力ケーブル92にバックシート90の開口貫通窓から取り出された集電用の銅箔がハンダ等を用いて電気的に接続され、端子箱91の内部が封止剤(ポッティング剤)で充填されて密封される。
【0094】
その後、薄膜太陽電池モジュール2に強度を付加するとともに、取付け座となるアルミフレーム枠3L,3Sが、図示しないガスケットを介して薄膜太陽電池モジュール2の周囲に取り付けられる。
【0095】
このようにして形成された薄膜太陽電池パネル1について、発電検査並びに所定の性能試験が行われる。発電検査は、AM1.5、全天日射基準太陽光(1000W/m)のソーラシミュレータを用いて行われる。なお、発電検査は、薄膜太陽電池パネル1が完成した後に行ってもよいし、アルミフレーム枠の取り付け前に行ってもよく、特に限定するものではない。
【0096】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態に係る太陽電池パネルついて説明する。
第2実施形態に係る薄膜太陽電池パネルには、図30に示される薄膜太陽電池モジュール200が用いられる。薄膜太陽電池モジュール200には、基板211上に、裏面電極層212、光電変換層213、透明電極層214がこの順で設けられる。第2実施形態の薄膜太陽電池モジュール200では、透明電極層214側から光が入射する。
基板211として、ガラス基板などの透光性基板の他、ステンレスなどの不透光性基板が使用できる。光電変換層213は、シリコン系光電変換層、化合物半導体系光電変換層(CIGS型、CdTe型)などされ、特に限定されない。
【0097】
図30の薄膜太陽電池モジュール200の製造工程は、裏面電極層212及び透明電極層214の形成工程の順番を変えた以外は、第1実施形態の薄膜太陽電池モジュール2の製造工程と同様とされる。なお、裏面電極層溝215、分離溝216、接続部218、及び、絶縁溝(不図示)の形成は、透明電極層214側からのレーザ光照射または細い針を押し当てて膜を除去するメカニカルスクライブ法によりなされる。
【0098】
第2実施形態の薄膜太陽電池モジュール200においても、製膜面に異物が存在する状態で光電変換層213が形成されると、異物が存在した場所で欠陥が発生する。また、透明電極層214上に異物が存在した状態でレーザ照射またはメカニカルスクライブされると、異物直下の透明電極層214及び光電変換層213が除去されず、透明電極層の絶縁に必要な分離溝216における欠陥(短絡)が発生する。
【0099】
第2実施形態に係る薄膜太陽電池モジュール200の欠陥測定に使用される検査装置は、XYテーブル及びイメージセンサが検査テーブルの上方(+Z方向)に設けられる以外は、図13と同様とされる。すなわち、第2実施形態では、EL光の発光分布画像は透明電極層214側から取得される。
【0100】
第2実施形態における分離溝216における欠陥の検出及び基板面内位置の特定は、第1実施形態の分離溝の欠陥の検出及び位置特定と同様の工程で実施される。
また、第2実施形態における光電変換層213の欠陥の検出及び基板面内位置の特定は、第1実施形態と同様の工程で実施される。
【0101】
第2実施形態では、分離溝216または光電変換層213の欠陥を除去する方法として、発電セルに電圧を印加する方法、欠陥にレーザを照射する方法、及びメカニカルスクライブによる方法が挙げられる。発電セルに電圧を印加する方法及びレーザを照射する方法は、第1実施形態と同様の方法が適用できる。
【0102】
図31は、メカニカルスクライブにより分離溝の欠陥を除去する方法を説明する概略図である。図31(a)は、薄膜太陽電池モジュールを透明電極層側から見た図であり、図31(b)は薄膜太陽電池モジュールの断面図である。
本方法では、先端部の大きさが分離溝216の幅以下の針221が使用される。針221が透明電極層214に接触し透明電極層213を指定力値で押圧した状態で、針221が図31(a)で矢印で示される分離溝方向に移動して欠陥220を横切るように、針221または薄膜太陽電池モジュール200が走査される。こうすることで、透明電極層214及び光電変換層213が除去される。
針221が透明電極層213を押圧する針圧は、裏面電極層214が残存しながら、透明電極層214及び光電変換層213が除去されるように適宜設定される。具体的に、針圧は50〜5000N/mmの範囲内とされる。また、針飛びにより欠陥で透明電極層214及び光電変換層213が残留することを防止するために、走査速度は1〜10mm/sとされることが好ましい。
【0103】
図32は、メカニカルスクライブにより光電変換層の欠陥を除去する方法の一例を説明する概略図である。図32(a)は薄膜太陽電池モジュールを透明電極層側から見た図であり、図32(b)は薄膜太陽電池モジュールの断面図である。
欠陥230の周縁部に針231が接触させられ、針231または薄膜太陽電池モジュール200が走査される。これにより、図32に示すように欠陥230を囲繞する分離溝232が形成される。本方法の場合も、上述の針圧及び走査速度が適用できる。
【0104】
図33は、メカニカルスクライブにより光電変換層の欠陥を除去する方法の別の例を説明する概略図である。図33(a)は、薄膜太陽電池モジュールを透明電極層側から見た図であり、図33(b)は薄膜太陽電池モジュールの断面図である。
図33に示すように、欠陥230を含む領域233が除去されるように、針231または薄膜太陽電池モジュール200が走査される。具体的に、図33のように矩形の除去領域233を形成するには、欠陥230よりも長い分離溝を1本形成した後、分離溝の幅分だけ分離溝の形成方向に垂直な方向にレーザ光または薄膜太陽電池モジュール200を移動させることを繰り返して、複数の分離溝が形成される。
【0105】
なお、メカニカルスクライブによる欠陥除去では、欠陥と正常領域とを分離できれば、分離溝および除去領域の形状は特に限定されない。
【0106】
薄膜太陽電池モジュール200の検査及び欠陥除去が終了すると、第1実施形態と同様の工程にて、薄膜太陽電池モジュール200を接着充填シートと受光面側に透光性の絶縁性基板で密閉する処理を施し、さらに端子箱や、アルミフレーム枠などを取付けるパネル化処理工程が行われる。
【0107】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0108】
1 薄膜太陽電池パネル
2,200 薄膜太陽電池モジュール
2S,200S 発電セル
11 透光性基板
12,214 透明電極層
13,213 光電変換層
14,212 裏面電極層
15 透明電極層溝
16,216 分離溝
17 接続溝
18,218 接続部
19 絶縁溝
20 周囲膜除去領域
40,70,220,230 欠陥
100 検査装置
120 検査テーブル
130 昇降部
140 接触端子
150 XYテーブル
160 イメージセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に透明電極層と、光電変換層と、裏面電極層とを備える薄膜太陽電池モジュールの検査方法であって、
検査対象の薄膜太陽電池モジュールに、順方向のバイアス電流を流す電流印加工程と、
前記薄膜太陽電池モジュールの発電光入射面側から、該電流印加工程後の前記薄膜太陽電池モジュールから生じる発光を検出し、前記薄膜太陽電池モジュールの発光状態を表す発光画像を取得する発光画像取得工程と、
該画像取得工程により取得した発光画像に基づいて、欠陥の前記基板面内位置及び欠陥の種類を特定する欠陥特定工程とを含む薄膜太陽電池モジュールの検査方法。
【請求項2】
前記発光画像取得工程において、波長600nmから1000nmの光を検出する請求項1に記載の薄膜太陽電池モジュールの検査方法。
【請求項3】
前記欠陥特定工程において、前記発光画像中に、前記薄膜太陽電池モジュールの直列接続方向の発電セル幅に相当する幅を有する帯状であり、正常な発電セルより発光強度が低い低輝度発光領域がある場合に、前記低輝度発光領域に隣接する分離溝に欠陥が発生していると判定するとともに、
前記分離溝の欠陥の前記薄膜太陽電池モジュールにおける位置情報を取得する請求項1に記載の薄膜太陽電池モジュールの検査方法。
【請求項4】
前記欠陥特定工程において、前記発光画像中に、前記低輝度発光領域の近傍に正常な発電セルよりも相対的に高い高輝度発光領域が検出された場合に、前記高輝度発光領域のうち最大発光強度を示す領域近傍の前記分離溝に欠陥が発生していると判定するとともに、
前記分離溝の欠陥の前記薄膜太陽電池モジュールにおける位置情報を取得する請求項4に記載の薄膜太陽電池モジュールの検査方法。
【請求項5】
前記欠陥特定工程において、前記裏面電極層のカメラ画像を取得し、
該カメラ画像と前記発光画像とを照合させて、前記分離溝の欠陥の位置情報を取得する請求項3に記載の薄膜太陽電池モジュールの検査方法。
【請求項6】
前記欠陥特定工程において、前記発光画像中に、
島状の無発光領域と、該無発光領域を囲繞し周囲より相対的に低輝度の発光領域とが検出された場合に、または、
周囲より相対的に高輝度の島状の発光領域と、該高輝度の島状の発光領域を囲繞し周囲より相対的に低輝度の発光領域とが検出された場合に、
前記無発光領域内または前記高輝度の島状の発行領域内にある前記光電変換層に欠陥が発生していると判定するとともに、
前記光電変換層の欠陥の前記薄膜太陽電池モジュールにおける位置情報を取得する請求項1に記載の薄膜太陽電池モジュールの検査方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池モジュールの検査方法を用いて前記欠陥が検出された場合、該検出された欠陥を含む発電セルに順方向または逆方向の電圧を印加して、前記欠陥を除去する薄膜太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池モジュールの検査方法を用いて前記欠陥が検出された場合、該検出された欠陥の周辺領域、または、前記欠陥を含む領域にレーザ光を照射して、前記欠陥を除去する薄膜太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池モジュールの検査方法を用いて前記欠陥が検出された場合、該検出された欠陥の周辺領域、または前記欠陥を含む領域に針を接触させ、前記針を走査することにより前記欠陥を除去する薄膜太陽電池モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2011−138969(P2011−138969A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298953(P2009−298953)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】