説明

薄膜弾性表面波デバイス、薄膜弾性表面波デバイスの製造方法及びハイブリッド集積回路装置

【課題】 弾性表面波素子の形成プロセスによる基板回路の損傷を防止するとともに、寄生容量のばらつきを低減することのできる薄膜弾性表面波デバイス、薄膜弾性表面波デバイスの製造方法及びハイブリッド集積回路装置を提供する。
【解決手段】 本発明の薄膜弾性表面波デバイス100は、一方の表層部に回路110が形成されてなる基板101と、前記一方の表層部とは反対側の前記基板上に形成された圧電体薄膜104と、圧電体薄膜104の表面に形成された電極105Ax、105Ay、105Bとを有する。電極105Ax、105Ay、105Bは、少なくとも基板101の側面を通る配線113を介して回路110と導電接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜弾性表面波デバイスに係り、特に、薄膜弾性表面波デバイスの配線構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、通信機器や各種信号処理には、共振子やフィルタなどを構成する弾性表面波デ
バイスが用いられている。このような弾性表面波デバイスとしては、シリコン基板などの
基板上にZnO薄膜などの圧電体薄膜を形成した薄膜弾性表面波デバイスが知られている
(例えば、以下の非特許文献1参照)。従来の薄膜弾性表面波デバイスにおいては、圧電
体薄膜上にIDT(インタディジタル変換子、例えば櫛歯状電極)や反射器が形成され、
これらのIDTや反射器を相互に結線するためのバスバーや、このバスバーをボンディン
グパッドへ結線するための配線が設けられる。通常の弾性表面波デバイスでは、デバイス
チップをケーシングの内部に密封した状態で配置し、このデバイスチップに形成されたボ
ンディングパッドと、ケーシングに設けられた外部端子とが導電ワイヤで導電接続される
ようになっている。
【0003】
特に、一般の半導体集積回路は、シリコン基板の表面領域に種々の半導体素子をモノリ
シックに形成したり、或いは、シリコン基板上に薄膜構造を形成したりすることによって
、種々の半導体素子や配線を形成することによって構成され、通常、通信回路や各種信号
処理回路においては、多くの部分が半導体集積回路として構成されるため、例えば、半導
体集積回路が構成されるシリコン基板上に上記の弾性表面波デバイスを構成することが、
通信回路や信号処理回路の小型化を進める上で重要なポイントになるものと考えられる。
このため、従来から、半導体集積回路を構成してなるシリコン基板上に形成された弾性表
面波デバイスが提案されている(例えば、以下の特許文献1及び2参照)。
【0004】
【非特許文献1】三露常男・他4名 「薄膜弾性表面波ディバイス」 松下技報(National・Technical・Report) Vol.22・No.6.Dec・1976・P.905−923
【特許文献1】特開平6−125226号公報
【特許文献2】特開2000−151451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述のように、シリコン基板上に弾性表面波素子を構成したものでは、
シリコン基板に集積回路などを構成してから、その上層に弾性表面波素子を形成する必要
があるので、弾性表面波素子の製造プロセスによって半導体回路などにダメージを与える
危険性がある。特に、圧電体薄膜を成膜する場合には、膜質や成膜速度の向上のために高
温処理が必要とされる場合が多いことから、下層の半導体回路に不純物分布の変成など致
命的な熱的損傷が生じやすい。
また、集積回路と弾性表面波素子との接続にワイヤボンディングを用いる構成としたものでは、ワイヤボンディングの形状のばらつきによりボンディングワイヤとシリコン基板などの導電性基板との間に生ずる寄生容量のばらつきが発生する。この寄生容量のばらつきにより、共振子やフィルタの特性がばらつき、特性の劣化したものが発生するという問題点がある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、回路が設けられた基板に弾性表面波素子が形成されてなる薄膜弾性波デバイスにおいて、弾性表面波素子の形成プロセスによる基板回路の損傷を防止することができる構造を提供することにある。また、集積回路と弾性表面波素子との接続による寄生容量のばらつきを低減することにより、共振子やフィルタの特性を向上させることのできる薄膜弾性表面波デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる問題を解決するために、本発明の薄膜弾性表面波デバイスは、一方の表層部に回路が形成されてなる基板と、前記一方の表層部とは反対側の前記基板上に形成された圧電体薄膜と、前記圧電体薄膜の表面に形成された電極とを有する薄膜弾性表面波デバイスであって、前記電極は、少なくとも前記基板の側面を通る配線を介して前記回路と導電接続されていることを特徴とする。
本発明の薄膜弾性表面波デバイスによれば、基板の一方の表層部(基板の表面に近い領域或いは基板の表面上)に回路が形成されているのに対して、弾性表面波素子構造を構成する圧電体薄膜はこの一方の表層部とは反対側の表面上に形成されており、当該圧電体薄膜上に電極が形成されている。この電極と回路とは、少なくとも当該基板の側面を通る配線を介して導電接続されている。従って、回路と弾性表面波素子構造とが物理的に離間して配置されることが可能となり、回路の形成に先立って圧電体薄膜を形成しておくことも可能になるため、製造工程における回路の損傷を回避することができる。さらに、少なくとも当該基板の側面を通る配線により、配線形状をほぼ一定に形成することが可能となり、配線形状のばらつきによる寄生容量のばらつきを低減することが可能となる。即ち、寄生容量のばらつきによる共振子やフィルタの特性のばらつきを低減し、良好な特性の薄膜弾性表面波デバイスが安定的に供給できることにより、安価で特性良好な薄膜弾性表面波デバイスを提供することができる。
【0008】
さらに、前記配線は、導電体からなる導電部と、少なくとも前記導電部と前記基板との間に設けられた絶縁部とを有することが望ましい。
このようにすれば、薄膜弾性表面波デバイスを構成する材料が電気的導通を有する材料であっても、当該基板と導電部との間に絶縁部が設けられているため基板を介しての電気的導通(短絡)を防止することが可能となる。
【0009】
また、前記絶縁部は、少なくとも前記基板側面上に形成されていることが望ましい。
このようにすれば、基板が半導体など電気的導通を有する材料であっても、当該基板と導電部との間に絶縁部が設けられているため基板を介しての電気的導通(短絡)を防止することが可能となる。
【0010】
また、前記絶縁部の幅方向の寸法は、前記導電部の幅方向の寸法よりも大きく形成されていることが望ましい。
このようにすれば、絶縁部と導電部の形成に位置ずれが生じても導電部を絶縁部の面内に収めることができるため確実に絶縁を図ることが可能となる。
【0011】
本発明の薄膜弾性表面波デバイスの製造方法は、基板の一方の表層部に形成される回路と、前記一方の表層部とは反対側の基板の表面上に形成される圧電体薄膜と、前記圧電体薄膜の表面に形成され前記回路によって駆動される電極とを有する薄膜弾性表面波デバイスの製造方法であって、一方の表層部に回路を形成するべき前記基板の、当該表層部とは反対側の表面上に圧電体薄膜を形成する工程と、前記圧電体薄膜の表面に電極を形成する工程と、少なくとも前記基板の側面を通り前記回路と前記電極とを接続する配線を形成する工程と、を有することを特徴とする。
このようにすれば、基板の一方の表層部(基板の表面に近い領域或いは基板の表面上)に回路を形成するのに対して、弾性表面波素子構造を構成する圧電体薄膜はこの一方の表層部とは反対側の表面上に形成し、この電極と回路とを、少なくとも当該薄膜弾性表面波デバイスの側面を通る配線を介して導電接続する。従って、回路と弾性表面波素子構造とを物理的に離間して配置することが可能となり、回路の形成と圧電体薄膜の形成を別々に行うことが可能になるため、製造工程における回路の損傷を回避することができる製造方法を提供することができる。
【0012】
さらに、前記配線を形成する工程は、少なくとも前記基板の側面に絶縁部を形成する工程と、前記絶縁部の表面を通り、前記回路と前記電極とを接続する導電部を形成する工程と、を有することが望ましい。
このようにすれば、絶縁部により基板と導電部との間の電気的導通(短絡)を防止することが可能な製造方法を提供することができる。
【0013】
また、前記絶縁部または/および前記導電部は、液滴吐出法により着弾したそれぞれの液滴により形成することが望ましい。
このようにすれば、材料を必要な箇所に必要な量だけ吐出することにより絶縁部または/および導電部を形成することが可能となる。即ち、廃棄材料を生ずることなく絶縁部または/および導電部の形成を行うことが可能となる。
【0014】
また、前記絶縁部または前記導電部を形成する工程に先立ち、少なくとも前記絶縁部または前記導電部の外縁に接する領域に撥水処理を行う工程を有することが望ましい。
このようにすれば、撥水処理された部分に着弾した液滴がはじかれるため、絶縁部または導電部を形成するために吐出された液滴の着弾位置にずれが生じても、絶縁部または導電部の形成位置は撥水処理のされていない部分に沿って形成される。即ち、一定位置に絶縁部または導電部を形成することが可能となる。
【0015】
前記絶縁部または前記導電部を形成する工程に先立ち、少なくとも前記絶縁部または前記導電部の形成される領域に親水処理を行う工程を有することが望ましい。
このようにすれば、親水処理をした部分に液滴が集まるため着弾位置にずれが生じても、絶縁部または導電部を一定位置に形成することが可能となる。
【0016】
また、保持器と、前記保持器に接続された前述の薄膜弾性表面波デバイスとを有することを特徴とするハイブリッド集積回路装置を提供することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る薄膜弾性表面波デバイスの最良の形態について、以下に図面を用いて説明する。なお、本発明は、後述の実施形態に限定されるものではない。
(第一実施形態)
【0018】
図1は、本発明に係る第一実施形態の薄膜弾性表面波デバイスの概略構造を示す斜視図である。図2は、薄膜弾性表面波デバイスの概略平面図である。図3は、薄膜弾性表面波デバイスの概略を示す図2のA−A断面図である。
【0019】
この薄膜弾性表面波デバイス100は、シリコン(Si)や化合物半導体(GaAs,GaP,InP,SiGe,ZnSなど)などで構成される半導体基板、ガラス基板、石英基板、セラミック基板などで構成される基板101の上にSiO2、PSG(リンドープガラス)、TiO2、Ta25などの金属酸化物、Si34などの窒化シリコン、アクリル樹脂などの合成樹脂などで構成される絶縁層102が形成されている。絶縁層102は、基板101が導電体基板である場合や半導体基板であるときに、基板と、その上層の導電体との間を絶縁するためのものである。
【0020】
基板101としては、シリコン基板であっても、導電体或いは半導体であって、或る程
度の導電性を有する場合と、真性半導体のような絶縁性を有する場合とがあるが、前者の
場合には特に絶縁層102が必要となる。また、後者の場合には絶縁層102は必ずしも
必要ない。さらに、基板101としてはガラス基板、石英基板、セラミック基板などの絶
縁体を用いることも可能であり、このような場合でも、絶縁層102は不要となる。なお
、絶縁性を有する基板101を用いている場合でも、その表面上に配線パターンなどの導
電膜が形成されている場合には、上層との絶縁を確保するために絶縁層102が必要とな
る場合がある。この絶縁層102として、半導体集積回路が構成されたシリコンなどの半
導体基板上の表面被覆用の絶縁層をそのまま用いることも可能である。
【0021】
絶縁層102の上にはZnO、AlN、PZT(Pb−Zr−Ti)、CdS、ZnS、Bi−Pb−O、LiNbO3、TaNbO3、KNbO3などの、弾性表面波を励振可能な各種圧電体で構成された圧電体薄膜104が形成されている。
【0022】
圧電体薄膜104は、その材質や結晶性に応じて適宜の厚さとされる。例えば、一般的
には0.1〜5μm程度の厚さであり、特に、0.5〜1.5μm程度の厚さであること
が好ましい。圧電体薄膜104が薄すぎると弾性表面波の伝播態様が下層の影響を受けや
すくなるとともに、圧電体薄膜104の表面(図示例では上面)の結晶性が不十分となる、又は、圧電特性が充分な大きさを示さない場合がある。通常、圧電体薄膜の厚さは励起される弾性表面波の1波長以上の厚さとされることが望ましい。逆に、圧電体薄膜が厚すぎると、製造工程に時間がかかり、製造コストが増大するため、薄膜弾性表面波素子としたメリットが薄くなる。
【0023】
圧電体薄膜104の表面(上面)には電極105Ax、105Ay、105Bが形成さ
れている。電極105Ax、105Ayは弾性表面波を励振するための励振電極である。
電極105Ax、105Ayはそれぞれが複数設けられて櫛歯状に構成され、電極105
Axと105Ayが交互に一定間隔で弾性表面波の伝播方向(図示左右方向)に配列され
ている。また、電極105Bは反射器を構成するための反射電極である。複数の電極10
5Bが上記伝播方向に上記一定間隔にて配列されることにより反射器(いわゆるグレーテ
ィング反射器)が構成されている。これらの反射器は、上記電極105Ax、105Ay
の配列領域の上記伝播方向両側にそれぞれ配置されている。
【0024】
図3に示すように、基板101の下面(すなわち、圧電体薄膜104が形成されている側とは反対側の表面)上には絶縁層103が形成されており、基板101の下面の内部(表面に近い部分)には、モノリシック集積回路や表面上に構成されたハイブリッド集積回路などで構成される回路110が形成されている。本明細書では、基板101の表面に近い内部と表面上を含む概念として表層部という言葉を用いる。絶縁層103上には、絶縁層103の内部に部分的に形成された配線層108によって回路110と導電接続された接続端子111が形成されている。なお、配線層108はアルミニウム、アルミニウム合金、Cu、Cu合金、Au、Au合金、Cr、Cr合金などで構成される。
【0025】
接続端子111および電極105Ax、105Ay、105Bは、薄膜弾性表面波デバイス100の少なくとも側面を通る配線113により導電接続されている。配線113は、それぞれの電極に対応して4箇所に配置されており、それぞれ絶縁部112Ax、112Ay、112Bと導電部113Ax、113Ay、113Bから構成されている。
【0026】
導電部113Ax、113Ay、113Bは、接続端子111と電極105Ax、105Ay、105Bとを導電接続するためのものである。そのため導電部113Ax、113Ay、113Bの少なくとも一部は、電極105Ax、105Ay、105Bと接続端子111と平面的に重なるように配置され、絶縁部112Ax、112Ay、112Bが形成された部分では絶縁部112Ax、112Ay、112Bの表面上に形成されている。
【0027】
絶縁部112Ax、112Ay、112Bは、導電部113Ax、113Ay、113Bと基板101との間に有り、基板101の表面上に形成されている。絶縁部112Ax、112Ay、112Bは、基板101が導電体或いは半導体であって或る程度の導電性を有する場合には、導電部113Ax、113Ay、113Bと基板101との導通を防止するために設けることが望ましい。例えば、図2に示すように、絶縁部112Ax、112Ay、112Bの基板101表面と平行方向、いわゆる幅方向の寸法W2は、導電部113Ax、113Ay、113Bの前述と同様な幅方向の寸法W1よりも大きく形成されている。また、図1及び図3に示すように、絶縁部112Ax、112Ay、112Bの基板101表面と直交方向の端は、確実に絶縁を確保するため基板101の側面より外側の絶縁層103、および圧電体薄膜104の側面内に形成されている。なお、絶縁部112Ax、112Ay、112Bは、導電部113Ax、113Ay、113Bと、電極105Ax、105Ay、105Bまたは接続端子111との導電接続部分を除く導電部113Ax、113Ay、113Bに対応して、圧電体薄膜104、絶縁層102、絶縁層103の表面または側面に設けられていてもよい。
<配線の変形例>
【0028】
配線の変形例について説明する。図4は、配線の変形例を示す概略平面図である。図4によれば、薄膜弾性表面波デバイス100を構成する圧電体薄膜104の表面(上面)に、電極155Ax、155Ay、155Bが形成されている。電極155Ax、155Ayは弾性表面波を励振するための励振電極である。電極155Axと155Ayは、交互に一定間隔で弾性表面波の伝播方向(図示左右方向)に配列されている。また、電極155Bは反射器を構成するための反射電極である。複数の電極155Bが上記伝播方向に上記一定間隔にて配列されることにより反射器(いわゆるグレーティング反射器)が構成されている。これらの反射器は、上記電極155Ax、155Ayの配列領域の上記伝播方向両側にそれぞれ配置されている。
【0029】
それぞれ一定間隔に設けられた電極155Ax、155Ay、155Bは、バスバー157B(バスバーは、図4では2点鎖線で示し、それぞれの電極155Ax、155Ayを相互に結線する部分のことをいう。なお、図4では電極155Bのバスバーの表示は省略している。)の部分も含め、導電部163Ax、163Ay、163Bが形成されており図示しない接続端子と導電接続されている。なお、第一実施形態と同様に、導電部163Ax、163Ay、163Bの絶縁性を確保するための絶縁部162Ax、162Ay、162Bも導電部163Ax、163Ay、163Bの下地として必要部分に形成されている。
【0030】
図5は、上記各実施形態の弾性表面波デバイスの等価回路図である。なお、図5におい
て、等価回路の両端部の符号109x、109yは第一実施形態に相当するものを付与し
てあり、以下の説明も第一実施形態について説明するが、その内容については後述する第二実施形態についても同様である。
【0031】
薄膜弾性表面波デバイス100の等価回路には、接続端子109xと109yとの間に
静電容量Ca、インダクタンスLa、抵抗Raの直列回路と、この直列回路と並列に接続
される並列容量(short・Capacitance)Csとが存在する。ここで、上記直列回路部分は弾性表面波を介した弾性表面波デバイスの入出力特性をもたらす部分であり、並列容量Csは電極105Axと105Ayとの間の静電容量の定常成分に相当するものである。以上の構成部分は通常の弾性表面波デバイスの等価回路と同様であるが、本実施形態の薄膜弾性表面波デバイスでは、以上の回路構成に対してさらに並列に、薄膜弾性表面波素子構造と基板101との間の静電容量である寄生容量Coが存在する。この寄生容量Coは、電極105Ax、105Ay及び配線113との間に発生する。
【0032】
これに対して、従来構造の弾性表面波デバイスでは、電極からワイヤボンディングなどを用いた配線を介して接続端子に接続するため、このボンディングワイヤの形状が基板との間の寄生容量に寄与する。すなわち、ボンディングワイヤと基板との対向面積またはボンディングワイヤと基板との間隔などに応じた寄生容量が基板との間に発生する。また、従来構造の場合、圧電体薄膜の表面上に電極だけでなく配線の取り回し部分が形成されるので、電極及び配線と基板との間に高い誘電率を有する圧電体薄膜が介在することも、上記の寄生容量が大きくなる原因となっている。
【0033】
本実施形態では、薄膜弾性表面波デバイス構造において、電極105Ax、105Ayが薄膜弾性表面波デバイス100の側面を通る配線113を介して接続端子111に接続されているので、配線113の形状ばらつきが殆んど発生しない。また、圧電体薄膜の表面上に形成される配線の取り回し部分も不要となる。これらから、寄生容量Coのばらつきを小さくすることが可能となることから、薄膜弾性表面波デバイス100の挿入損失のばらつきを低減することが可能となる。図6は、挿入損失のシミュレーション結果を示しており、ワイヤボンディングを用いた従来構造の弾性表面波デバイスの挿入損失を破線で示し、本実施形態の弾性表面波デバイスの挿入損失を実線で示している。図6に示すように、本実施形態の弾性表面波デバイスの方が明らかに挿入損失のばらつきが小さくなっている。
【0034】
また、本実施形態では、配線113が薄膜弾性表面波デバイス100に密着しているため、配線にワイヤボンディングを用いるための空間領域が不要となる。このことから、薄膜弾性表面波デバイス100の小型化を実現することが可能となる。
【0035】
さらに、本実施形態では、回路110の形成されている表層部とは反対側の基板101の表面上に圧電体薄膜104が形成され、この圧電体薄膜104の表面上に電極105Ax、105Ay、105Bが形成されて弾性表面波素子構造を形成する。このように、前述の弾性表面波素子構造と回路110とが物理的に離間して配置されることになるとともに、回路110を形成する前に圧電体薄膜104を形成しておくといったことも可能になるので、弾性表面波素子の製造工程において回路110が損傷を受けることを防止できる。
【0036】
なお、圧電体薄膜104は、図2に示すように基板101の表面全体にわたって形成されていてもよいが、基板101の表面の一部上に形成されていてもよい。これは、基板101が半導体集積回路などの他の回路構造などを形成するために必要な面積とされる場合があるのに対して、圧電体薄膜104は弾性表面波デバイスを構成する上で必要最小限の面積で足りるからであり、また、必要に応じて圧電体薄膜104の形成されていない表面領域に他の回路構造や接続端子(導電パッド)などを任意に形成することが可能になるからでもある。
(第二実施形態)
【0037】
次に図7を用いて本発明に係る薄膜弾性表面波デバイスの製造方法について説明する。なお、図7(a)〜(e)は、先述の第一実施形態で説明した薄膜弾性表面波デバイスの概略の製造工程を示す工程説明図であり、右列は薄膜弾性表面波デバイスの正面図、左列はA−A断面図である。
【0038】
先ず、図7(a)に示すように、基板501の一方の表層部(図示下面部分)に回路510を形成する。この回路510は、通常のモノリシック半導体回路の製造プロセス技術やハイブリッド回路の製造プロセス技術を用いて容易に形成することができる。この回路510の表面には絶縁層503を被覆し、絶縁層503上には接続端子511A、511Bを形成する。絶縁層503の内部には、アルミニウムなどの配線層508を形成し、前述の回路510と接続端子511A、511Bとを導電接続する。
【0039】
次に、回路510を形成してなる表層部とは反対側の基板501の表面(図示上面)上にも絶縁層502を形成する。絶縁層502、503の形成方法としては、CVD法などで直接成膜してもよく、或いは、液状やペースト状の基材をスピンコーティング法、ロールコーティング法、印刷法などによって塗布し、加熱処理などによって硬化させてもよい。
【0040】
さらに、絶縁層502上に圧電体薄膜504を形成する。圧電体薄膜504は、MOCVD法(有機金属原料を用いたCVD法)などのCVD法、RFスパッタリング法(RF高周波電界を印加して行うもの)などのスパッタリング法などによって成膜できる。
【0041】
次に、図7(b)に示すように、圧電体薄膜504の表面上に電極505A、505Bを形成する。電極505A、505Bは、蒸着法やスパッタリング法などを用いてアルミニウムなどの導体膜を形成し、これをフォトリソグラフィ法などによってパターニングすることにより形成する。
【0042】
次に、図7(c)に示すように、電極505A、505Bと接続端子511A、511Bとを接続する配線の絶縁部512A、512Bを、基板501、絶縁層502、503、および圧電体薄膜504の側面に形成する。絶縁部512A、512Bは、液滴吐出法(例えば、インクジェット法)を用いて形成する。吐出ノズルを液滴の着弾面である基板501などの側面に対向させて設けた吐出ヘッド515を、絶縁部512A、512Bの領域に対して図示のX軸方向、Y軸方向に随意に移動させながら絶縁材料である、例えばエポキシ系樹脂516を図示のZ軸方向に向けて隙間なく吐出する。着弾したエポキシ系樹脂516を高温処理、紫外線照射などによって硬化させ絶縁部512A、512Bを形成する。
【0043】
次に、図7(d)に示すように、電極505A、505Bと接続端子511A、511Bとを接続する第1導電部513AA、513BAを形成する。第1導電部513AA、513BAは、それぞれ対応する絶縁部512A、512Bの表面を通る、基板501、絶縁層502、503、および圧電体薄膜504の側面に形成する。第1導電部513AA、513BAの形成は、前述の絶縁部512A、512Bと同様に液滴吐出法を用いて行い、吐出ヘッド515から導電材料517を吐出して所望の形状にパターニングし、着弾した導電材料517を高温処理、紫外線照射などによって硬化を行い形成する。第1導電部513AA、513BAを形成するための材料には、例えば溶媒に粒径5nm程度の銀粒を混在させた真空冶金(株)製:商品名パーフェクトシルバー、ハリマ化成(株)製:商品名ナノペースト(インクジェット用)などを用いることができる。なお、第1導電部513AA、513BAは、電極505A、505Bと接続端子511A、511Bとの接続を確実に行うことができるように設定された幅寸法で、基板501、絶縁層502、503、および圧電体薄膜504のすべての厚み方向の領域に形成する。
【0044】
次に、図7(e)に示すように、第2導電部513AB、513BBを形成する。第2導電部は、絶縁層503表面側と圧電体薄膜504の表面側の両側に形成する。第2導電部513AB、513BBは、絶縁層503表面側で先述した第1導電部513AA、513BAと接続端子511A、511Bとを接続し、圧電体薄膜504の表面側で先述した第1導電部513AA、513BAと電極505A、505Bとを接続する。第2導電部513AB、513BBは、接続端子511A、511B、電極505A、505Bおよび第1導電部と少なくとも平面的に重なる部分を有し、それぞれの導電接続を確保する。
【0045】
第2導電部513AB、513BBは、前述の第1導電部513AA、513BAと同様に導電材料を液滴吐出法を用いて所望の形状にパターニングし、着弾した導電材料を高温処理、紫外線照射などによって硬化を行い形成する。なお、導電材料は、第1導電部513AA、513BAと同じものを用いることができる。液滴吐出は、絶縁層503表面側と圧電体薄膜504表面側の両方向から行う。液滴吐出は、例えば、一つの吐出ノズルを用い、絶縁層503表面側の液滴吐出を行った後、圧電体薄膜504表面側に吐出ノズルを対向させ、圧電体薄膜504表面側の液滴吐出を行う、片側ずつ吐出する方法、或いは、例えば、二つの吐出ノズルを用い、絶縁層503表面側と圧電体薄膜504表面側とを同時に液滴吐出を行う方法などがあり、それぞれ吐出ヘッド515から導電材料517を被吐出面に向けて吐出する。このとき、絶縁層503表面側と圧電体薄膜504表面側から吐出される導電材料は一部が基板501の側面の側に回り込みを起こす、或いは、吐出されて着弾した導電材料は一部が液だれして第1導電部513AA、513BAの表面(基板501の側面の側)に重なる。この重なった部分を図7(e)では波線で表示している。この重なりを設けることにより、双方の接続の確実性がさらに向上する。第1導電部513AA、513BAと第2導電部513AB、513BBとの接続によって導電部513Cが形成されて電極505A、505Bと接続端子511A、511Bとが導電接続される。
【0046】
なお、吐出の方向は、絶縁層503表面側と圧電体薄膜504表面側に対向する方向のみでなく、図中破線矢印で示す斜め方向P、P´から行ってもよい。
【0047】
本実施形態の薄膜弾性表面波デバイスの製造方法によれば、基板501の一方の表層部に回路510を形成し、この一方の表層部とは反対側の表面上に弾性表面波波素子を構成する圧電体薄膜504を形成し、圧電体薄膜504表面上に電極505A、505Bを形成する。この電極505A、505Bと回路510とが接続端子511A、511Bを介し、少なくとも当該薄膜弾性表面波デバイスの側面を通る配線513によって導電接続する。従って、回路510と弾性表面波素子構造とを物理的に離間して配置することが可能となり、回路510の形成、圧電体薄膜504、および電極505A、505Bの形成を別々に行うことが可能になるため、製造工程における回路510の損傷を回避することが可能な製造方法を提供することができる。
【0048】
さらに、配線513を構成する絶縁部512A、512Bと導電部513Cとを液滴吐出法を用いて形成することにより、凹凸のある部分や垂直方向に曲がる部分を有する配線も簡単に形成することができる。
さらに、液滴吐出法は、必要な部分にのみ吐出を行って配線を形成することから、配線を形成する際に廃棄処理の必要な材料、例えばフォトリソグラフィではエッチングにより溶解された金属などを発生させることなく配線を形成することができるため効率的な形成ができるとともに、廃棄処理などによる環境への影響を防止することが可能となり、環境を保全するという効果も併せて有している。
【0049】
なお、絶縁部512A、512Bと導電部513Cの形成は、液滴吐出法で説明したが、これに限らず金属マスクを用いた蒸着法、スパッタリング法、或いは、蒸着法、スパッタリング法を用いたフォトリソグラフィ法などを用いても行うことができる。
【0050】
また、前述の絶縁部512A、512Bまたは導電部513Cを形成する工程に先立ち、絶縁部512A、512Bまたは導電部513Cの外縁に接する部分に帯状の撥水処理を行う、或いは絶縁部512A、512Bまたは導電部513Cの部分を除く領域に撥水処理を行う、いずれかの工程を設けることもできる。
【0051】
このようにすれば、撥水処理された部分に着弾した液滴がはじかれるため、絶縁部512A、512Bまたは導電部513Cを形成するために吐出された液滴の着弾位置にずれが生じても、絶縁部512A、512Bまたは導電部513Cの形成位置は撥水処理のされていない部分に沿って形成される。即ち、一定位置に絶縁部512A、512Bまたは導電部513Cを形成することが可能となる。
【0052】
また、前述の絶縁部512A、512Bまたは導電部513Cを形成する工程に先立ち、絶縁部512A、512Bまたは導電部513Cを形成する領域に親水処理を行う工程を設けることもできる。
【0053】
このようにすれば、吐出された液滴が親水処理された部分に集まり易くなるため絶縁部512A、512Bまたは導電部513Cをほぼ一定の位置に形成することが可能となる。
即ち、前述の撥水処理とこの親水処理のうち少なくとも一方を採用することにより配線の位置が一定になるため、基板、誘電体薄膜などと配線との間に発生する寄生容量が一定となり挿入損失などの特性のばらつきを低減することが可能となる。
(第三実施形態)
【0054】
本発明の薄膜弾性表面波デバイスを用いたハイブリッド集積回路装置を、図を用いて説明する。図8は、本発明のハイブリッド集積回路装置の概略正断面図である。
【0055】
本発明のハイブリッド集積回路装置1000は、薄膜弾性表面波デバイス100、薄膜弾性表面波デバイス100を収納するための保持器としてのパッケージ550、及びパッケージ550の開口部を封止する蓋板554から構成される。
【0056】
セラミック等で形成されたパッケージ550の凹部底面に、接続電極層551が形成されている。接続電極層551は少なくとも表面に金層が設けられており、薄膜弾性表面波デバイス100の接続部であるバンプ552と接合されている。接続電極層551は図示しないがパッケージ550の外側に設けられた外部端子にも接続されている。薄膜弾性表面波デバイス100は、前述の実施形態で説明した構成であり電極(図示せず)と接続端子(図示せず)とを接続する配線553を薄膜弾性表面波デバイス100の側面に有している。さらに、パッケージ550の凹部の開口部は、蓋板554を例えばシーム溶接、金属加熱融着などを用いて封止されている。
【0057】
上述の第三実施形態によれば、電極が薄膜弾性表面波デバイス100の側面を通る配線553を介して接続端子に接続されているので、配線553の形状ばらつきが殆んど発生しない。これにより配線553と基板などとの間で発生する寄生容量Coのばらつきを小さくすることが可能となり、挿入損失のばらつきを低減したハイブリッド集積回路装置を提供することが可能となる。
【0058】
なお、本発明の薄膜弾性表面波デバイスは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態のIDT(インタディジタル電極)は、シングル電極構造として描いてあるが、ダブル(スプリット)電極構造を有するものなど、種々の電極構造を用いることができる。また、上記実施形態では、1端子対形共振子構造やトランスバーサル型フィルタ構造を有するものとして説明してあるが、2端子対形共振子構造などの種々の弾性表面波デバイスの概略構造を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】第一実施形態の薄膜弾性表面波デバイスの概略構造を示す斜視図。
【図2】薄膜弾性表面波デバイスの概略平面図。
【図3】薄膜弾性表面波デバイスの概略を示す断面図。
【図4】配線の変形例を示す概略平面図。
【図5】弾性表面波デバイスの等価回路図。
【図6】弾性表面波デバイスの挿入損失を示す図。
【図7】(a)〜(e)は、第二実施形態の薄膜弾性表面波デバイスの概略の製造工程を示す工程説明図であり、右列は薄膜弾性表面波デバイス正面図、左列はA−A断面図。
【図8】第三実施形態のハイブリッド集積回路装置の概略正断面図。
【符号の説明】
【0060】
100…薄膜弾性表面波デバイス、101…基板、102…絶縁層、103…絶縁層、104…圧電体薄膜、105Ax、105Ay…電極としての励振電極、105B…電極としての反射器、108…配線層、110…回路、111…接続電極、112Ax、112Ay、112B…絶縁部、113…配線、113Ax、113Ay、113B…導電部、515…液滴吐出法で用いる吐出ヘッド、550…保持器としてのパッケージ、1000…ハイブリッド集積回路装置、W1…基板表面と平行方向の導電部の寸法、W2…基板表面と平行方向の絶縁部の寸法。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の表層部に回路が形成されてなる基板と、
前記一方の表層部とは反対側の前記基板上に形成された圧電体薄膜と、
前記圧電体薄膜の表面に形成された電極とを有する薄膜弾性表面波デバイスであって、
前記電極は、少なくとも前記基板の側面を通る配線を介して前記回路と導電接続されていることを特徴とする薄膜弾性表面波デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜弾性表面波デバイスにおいて、
前記配線は、導電体からなる導電部と、少なくとも前記導電部と前記基板との間に設けられた絶縁部とを有することを特徴とする薄膜弾性表面波デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の薄膜弾性表面波デバイスにおいて、
前記絶縁部は、少なくとも前記基板側面上に形成されていることを特徴とする薄膜弾性表面波デバイス。
【請求項4】
請求項2又は請求項3のいずれか一項に記載の薄膜弾性表面波デバイスにおいて、
前記絶縁部の幅方向の寸法は、前記導電部の幅方向の寸法よりも大きく形成されていることを特徴とする薄膜弾性表面波デバイス。
【請求項5】
基板の一方の表層部に形成される回路と、前記一方の表層部とは反対側の基板の表面上に形成される圧電体薄膜と、前記圧電体薄膜の表面に形成され前記回路によって駆動される電極とを有する薄膜弾性表面波デバイスの製造方法であって、
一方の表層部に回路を形成するべき前記基板の、当該表層部とは反対側の表面上に圧電体薄膜を形成する工程と、
前記圧電体薄膜の表面に電極を形成する工程と、
少なくとも前記基板の側面を通り前記回路と前記電極とを接続する配線を形成する工程と、を有することを特徴とする薄膜弾性表面波デバイスの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の薄膜弾性表面波デバイスの製造方法において、
前記配線を形成する工程は、
少なくとも前記基板の側面に絶縁部を形成する工程と、
前記絶縁部の表面を通り、前記回路と前記電極とを接続する導電部を形成する工程と、を有することを特徴とする薄膜弾性表面波デバイスの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の薄膜弾性表面波デバイスの製造方法において、
前記絶縁部または/および前記導電部は、液滴吐出法により着弾したそれぞれの液滴により形成することを特徴とする薄膜弾性表面波デバイスの製造方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の薄膜弾性表面波デバイスの製造方法において、
前記絶縁部または前記導電部を形成する工程に先立ち、少なくとも前記絶縁部または前記導電部の外縁に接する領域に撥水処理を行う工程を有することを特徴とする薄膜弾性表面波デバイスの製造方法。
【請求項9】
請求項6または請求項7に記載の薄膜弾性表面波デバイスの製造方法において、
前記絶縁部または前記導電部を形成する工程に先立ち、少なくとも前記絶縁部または前記導電部の形成される領域に親水処理を行う工程を有することを特徴とする薄膜弾性表面波デバイスの製造方法。
【請求項10】
保持器と、
前記保持器に接続された請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の薄膜弾性表面波デバイスと、を有することを特長とするハイブリッド集積回路装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−42116(P2006−42116A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221381(P2004−221381)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】