説明

薄膜素子群の転写方法

【課題】本発明の目的の一つは、薄膜素子群110を製造元基板100から転写先基板200に転写する際に、製造元基板100が割れて仕舞う事を防止する事が出来る、薄膜素子群の転写方法を提供する事にある。
【解決手段】本発明の一態様としての薄膜素子群の転写方法は、薄膜素子群110が形成された製造元基板100の周辺部130、及び転写先基板200の周辺部230の少なくとも一方に撥水処理を行う表面処理工程と、製造元基板100の製造元基板表面及び転写先基板200の製造元基板表面の少なくとも一方に水溶性接着剤150を塗布する接着剤塗布工程と、製造元基板100の製造元基板表面と転写先基板200の転写先基板とを対向させて貼り合わせる基板配置工程と、接着剤硬化工程と、製造元基板100を転写先基板200から剥離させる事に依って、薄膜素子群110を転写先基板200に転写する基板剥離工程と、を有する事を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜素子群の転写方法に関し、取り分け薄膜素子群をそれらが製造された製造元基板から別の転写先基板へと転写する事に依り、薄膜素子群から成る回路基板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気泳動表示装置(EPD)や液晶表示装置(LCD)、電子発光(エレクトロルミネッセンス:EL)表示装置の様な薄膜半導体装置が用いられる半導体回路は、電子装置の落下等の衝撃に依る破損防止や柔軟性の向上、或いは軽量化の目的で、プラスチック基板等に形成される場合がある。プラスチック等を基板として使用する薄膜回路基板は、ガラス基板から成る製造元基板上に薄膜素子群である薄膜半導体回路(TFT回路)を形成し、この薄膜素子群を転写先基板であるプラスチック基板等へ転写する方法が用いられる。
【0003】
従来は斯うした回路基板を製造する際に、薄膜素子群が形成された製造元基板と転写先基板との間に接着剤を充填して硬化接着させ、その後、製造元基板から転写先基板へと薄膜素子群を転写して居た。当該方法は特許文献1(特開2001−51296号公報)や特許文献2(特開2004−327836号公報)等に記載されて居る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−51296号公報
【特許文献2】特開2004−327836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来の方法では、製造元基板から転写先基板を剥離して薄膜素子群を転写先基板に転写する際に、製造元基板乃至は転写先基板が割れて、薄膜素子群を転写先基板に転写出来ない不良が頻発していた。
【0006】
其処で本発明は上述の課題を鑑み、その目的の一つは、薄膜素子群を製造元基板から転写先基板に転写する際に、製造元基板乃至は転写先基板が割れる不良を低減する薄膜素子群の転写方法を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯かる課題を解決する為に、本発明の一態様としての薄膜素子群の転写方法は、製造元基板表面に形成された薄膜素子群を転写先基板表面に転写する薄膜素子群の転写方法に於いて、製造元基板の周辺部及び転写先基板の周辺部の少なくとも一方に撥水処理を行って撥水領域を作成する表面処理工程と、前記製造元基板表面及び前記転写先基板表面の少なくとも一方に水溶性接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、前記製造元基板表面と前記転写先基板表面とを前記水溶性接着剤を介して対向させて配置する基板配置工程と、前記水溶性接着剤を硬化させる接着剤硬化工程と、前記製造元基板を前記転写先基板から剥離させる事に依って前記薄膜素子群を前記転写先基板に転写する基板剥離工程と、を有する事を特徴とする。
【0008】
従来の薄膜素子群の転写方法では、製造元基板から転写先基板へと薄膜素子群を転写する際に、接着剤を製造元基板のほぼ全面に塗布した後に接着剤を硬化させて製造元基板と転写先基板とを接着させ、次いで製造元基板と転写先基板とを剥離する方法が用いられて居た。しかしながら本願発明者らが調査した所、上記従来の方法では、製造元基板と転写先基板との間に充填された接着剤が製造元基板の剥離可能領域外をも転写先基板と接着し、更には余分な接着剤が製造元基板の端面(エッジ部)と転写先基板の端面(エッジ部)を覆って硬化して居た。製造元基板の端面と転写先基板の端面とを覆った状態や剥離可能領域外で接着剤が硬化すると、製造元基板が転写先基板から剥離しにくくなる。その結果、剥離時に製造元基板乃至は転写先基板に意図せぬ余分な力が加わって、基板が割れる不良を誘発する事が判明した。
【0009】
これに対し、上記本発明の一形態の方法に依れば、製造元基板の端面周辺部及び転写先基板の端面周辺部の少なくとも一方に撥水領域を設ける事で、当該部分に水溶性接着剤が付着しづらくなる。これに依って、仮令水溶性接着剤が余ったり、漏れたりしても、製造元基板の端面及びその周辺部と転写先基板の端面及びその周辺部とは接着しなくなる。或いは接着力がその部位では著しく弱くなる。その為に製造元基板を転写先基板から剥離する際に、製造元基板乃至は転写先基板が割れる不良を著しく低減させることが出来る。
【0010】
接着剤塗布工程では、前記製造元基板と前記転写先基板とで面積の小さい方の基板表面に水溶性接着剤を塗布し、前記基板配置工程では、平面視に於いて、前記面積の小さい方の基板全面を覆い重ねる様に面積の大きい方の基板を配置する事を特徴とする。
【0011】
水溶性接着剤を塗布する際には小さい方の基板に接着剤を塗布し、上から大きい方の基板を覆い重ねるので、製造元基板と転写先基板とを貼り合わせる際に、万が一此等の間から水溶性接着剤が漏れ出ても、漏れ出た水溶性接着剤が上方に位置する大きい方の基板端部や裏面に回り込んで接着する不良を防止することが出来る。
【0012】
又、接着剤塗布工程前に前記面積の小さい方の基板表面に囲い込み手段を形成する囲み手段形成工程を有し、前記囲い込み手段は前記基板配置工程時に前記撥水領域の内側で、且つ前記薄膜素子群を囲む様に形成され、前記接着剤塗布工程では前記囲い込み手段の内側に前記水溶性接着剤を塗布する事を特徴とする。
【0013】
斯かる方法に依れば、製造元基板表面及び転写先基板表面の少なくとも一方に水溶性接着剤を塗布する接着剤塗布工程に於いて、水溶性接着剤が製造元基板と転写先基板との間から漏れ出る不良を低減出来る。
【0014】
又、囲い込み手段は粘度が5000cps以上且つ50000cps以下の囲み用接着剤で形成される事を特徴とする。
【0015】
水溶性接着剤が漏れにくい囲い込み手段の高さは10μmから100μmで有るが、粘度が5000cps以上の接着剤を用いると、簡単にこの高さの囲い込み手段を作成できる。一方で粘度が50000cps以下の接着剤を用いると、市販のディスペンス装置(ディスペンサー)を用いて容易に囲み手段が形成される。囲い込み手段に用いられる囲み用接着剤は、水溶性接着剤と相溶しない物とするのが好ましい。水溶性接着剤が囲い込み手段を為す囲み用接着剤と相溶しなければ、基板配置工程時に囲み手段が破壊されて水溶性接着剤が漏れ出る事故の発生確率が低くなるからである。
【0016】
更に囲み手段と撥水領域とは1mm以上且つ5mm以下の距離を以て離れ、撥水領域よりも内側に囲い込み手段を形成する事が好ましい。通常囲い込み手段は幅0.5mm程度から1.0mm程度にディスペンス装置等の印刷機にて描かれる。囲い込み手段が幅xmmで撥水領域からymm離れた位置に形成されるとは、撥水領域から囲い込み手段迄の最短距離がymmで、撥水領域から囲い込み手段の中心線迄の平均距離が(x/2+y)mmと云う意味である。通常、基板配置工程時に囲い込み手段は圧迫されてその幅を2mmから3mmへ広げる。この際に当初最も太い幅1.0mmの囲い込み手段が最も広がって3mmの幅を有する様になった場合でも、囲い込み手段が撥水領域から1mm以上離されて形成されて居れば、それが撥水領域にまでは広がらない。即ち、接着剤で形成された囲い込み手段が撥水処理された周辺部まで広がって溢れ出る不良を低減する。反対に、圧迫されて広がった後の囲い込み手段外側領域は全く接着されないので、転写されない領域となる。この領域は薄膜電子回路に使用出来ないので出来る限り狭い事が生産性を高める観点から望まれる。囲い込み手段が圧迫されて広がった後にその線幅の変動や中心線位置の変動を考慮に入れると、当初撥水領域から5mm以下に離して囲い込み手段を形成しておけば、転写されない未使用領域を1mmから2mmとの僅かに出来て、生産性が向上する。
【0017】
又、囲み用接着剤が粘着剤、シール剤、又は水溶性接着剤である事を特徴とする。
【0018】
又、基板配置工程の前に、前記面積の小さい方の基板よりも更に小さい面積の設置面を有するステージ上に前記面積の小さい方の基板を設置する基板設置工程を有する事を特徴とする。
【0019】
本願では製造元基板と転写先基板とを比較して小さい方の基板を下にし、これに水溶性接着剤を塗布する。次いで大きい方の基板を上から覆い被せる。この作業を行うステージが面積の小さい方の基板よりも更に小さければ、仮令製造元基板と転写先基板との間から水溶性接着剤が漏れ出ても、漏れ出た水溶性接着剤はステージの設置面に留まる事なく、それ故に製造元基板と転写先基板とが両基板端面部で接着する不良を防ぐ。
【0020】
又、前記水溶性接着剤は、粘度が1cps以上且つ50cps以下である事が好ましい。
【0021】
斯かる方法に依れば、製造元基板上の囲み手段の内側領域にて水溶性接着剤が十分に広がるので、水溶性接着剤が存在しない箇所(水溶性接着剤がない気泡など)を最少と出来、転写不良を最少とする。言う迄も無く、水溶性接着剤が存在しない箇所は接着されないので転写不良となる。
【0022】
又、前記基板剥離工程の後に、前記薄膜素子群が転写された前記転写先基板表面と第二転写先基板表面とを対向させて、第二の接着剤を介在させて貼り合わせる第二接着工程と、前記転写先基板を前記第二転写先基板から剥離させる事に依って、前記薄膜素子群を前記第二転写先基板に転写する第二転写工程と、前記水溶性接着剤を除去する接着剤除去工程と、を有する事を特徴とする。
【0023】
斯かる方法に依れば、二度の転写を行う事で薄膜素子群を製造元基板から第二転写先基板に転写する事が可能となる。
【0024】
又、前記表面処理工程に於いて、前記薄膜素子群が形成された前記製造元基板の周辺部と前記転写先基板の周辺部の双方に撥水処理を行う事が好ましい。
【0025】
斯かる方法に依れば、両基板の周辺部に撥水領域が形成されるので、仮令水溶性接着剤が撥水領域に漏れ溢れても撥水処理領域同士が接着される不良が著しく減少し、その結果、製造元基板を転写先基板から剥離する際に製造元基板乃至は転写先基板が割れる不具合をより効果的に防止する。
【0026】
又、前記表面処理工程が、前記製造元基板表面乃至は前記転写先基板表面に形成された前記撥水領域の外側に親水処理を施して親水領域を作成する工程を含む事を特徴とする。
【0027】
斯かる方法に依れば、撥水処理領域以外を親水領域とするので水溶性接着剤は製造元基板と転写先基板とで、周辺部を除き、良く濡れ広がり強固な接着を為すと共に水溶性接着剤の無い箇所を最少とするので、転写不良は著しく削減される。転写不良は水溶性接着剤が無かったり、或いは水溶性接着剤の接着力が弱い場合に発生するので、水溶性接着剤が濡れ広がる程、転写不良は減少する。
【0028】
又、前記撥水領域は前記製造元基板乃至は前記転写先基板の端面から1mm以上且つ10mm以下の範囲である事を特徴とする。
【0029】
斯かる方法に依れば、製造元基板上の薄膜素子群を形成可能な面積を大きくしながら、撥水処理の効果を得る事が可能となる。
【0030】
又、前記表面処理工程で行われる撥水処理として、フッ素プラズマ処理を行う事を特徴とする。
【0031】
又、前記表面処理工程で行われる撥水処理として、油脂の塗布を行う事を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】撥水処理を施す前の製造元基板を示す図。
【図2】撥水処理を施す前の転写先基板を示す図。
【図3】撥水処理を施した製造元基板を示す図。
【図4】撥水処理を施した転写先基板を示す図。
【図5】囲み手段を形成された製造元基板を示す図。
【図6】囲み手段の内側に水溶性接着剤を塗布した状態の製造元基板を示す図。
【図7】製造元基板と転写先基板とを貼り合わせた状態を示す図。
【図8】製造元基板と転写先基板とに紫外線を照射し水溶性接着剤を硬化させる工程を示す図。
【図9】製造元基板と転写先基板とを剥離させる工程を示す図。
【図10】転写先基板と第二転写先基板とを貼り合わせた状態を示す図。
【図11】転写先基板と第二転写先基板とを剥離した状態を示す図。
【図12】第二転写先基板上の水溶性接着剤及び囲み手段を除去した状態を示す図。
【図13】本実施形態の一作用を示す第1の図。
【図14】本実施形態の一作用を示す第2の図。
【図15】本実施形態の一作用を示す第3の図。
【図16】本実施形態の一作用を示す第4の図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明に係る実施形態を、以下の構成に従って、図面を参照しながら具体的に説明する。但し、以下の実施形態はあくまで本発明の一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。尚、各図面に於いて、同一の部品には同一の符号を付しており、その説明を省略する場合がある。
1.定義
2.実施形態
(1)表面処理工程(撥水処理及び親水処理)
(2)囲い込み手段形成工程(囲み手段の形成)
(3)接着剤塗布工程(水溶性接着剤の塗布)
(4)基板設置工程並びに基板配置工程(製造元基板と転写先基板との貼り合わせ)
(5)接着剤硬化工程(水溶性接着剤の硬化)
(6)基板剥離工程(製造元基板と転写先基板との剥離)
(7)第二接着工程(転写先基板と第二転写先基板との貼り合わせ)
(8)第二転写工程(転写先基板と第二転写先基板との剥離)
(9)接着剤除去工程(水溶性接着剤の除去)
3.まとめ
4.補足
【0034】
<1.定義>
まず、本明細書に於ける用語を以下の通り定義する。
【0035】
「塗布」:「塗布」するとは、所定の物質に塗る事のみならず、所定の物質上の所定の領域に供給し、又は所定の物質と物質との間に介在させたり充填したりする事を含む。
「製造元基板表面」:製造元基板の面の内で、転写先基板に転写する薄膜素子群が形成された面を指す。
「転写先基板表面」:転写先基板の面の内で、製造元基板から薄膜素子群が転写される面を指す。
【0036】
<2.実施形態>
本発明の一形態である本実施形態は、薄膜素子群の転写方法に関し、取り分け製造元基板表面に形成された薄膜素子群を転写先基板へと転写する事に依り回路基板を製造する方法に関する。中でも特徴的な工程の一つは、製造元基板と転写先基板との周辺部に対して撥水処理を施す工程である。以下では、当該工程を含む薄膜素子群の転写方法について工程毎に説明する。
【0037】
<(1)表面処理工程(撥水処理及び親水処理)>
まず、図1乃至図4を参照しながら、製造元基板及び転写先基板に対して行う撥水処理及び親水処理の工程について説明する。此処では撥水処理と親水処理の両者を行う例を示すが、接着剤塗布工程時に水溶性接着剤が十分に基板表面に濡れ広がれば必ずしも親水処理を行う必要はない。要するに表面処理工程で撥水処理は必須であるが、親水処理は任意である。又、以下では親水処理を施した後に撥水処理を施す例を示すが、無論反対に撥水処理を施した後に親水処理を施しても良い。更に以下の例では製造元基板と転写先基板の双方に対して表面処理を施すが、表面処理工程はどちらか一方の基板だけに施してもその効果は認められる。
【0038】
図1は撥水処理等の表面処理を施す前の製造元基板100を示す図である。図1に於いて上図が製造元基板100を表面(上方)から見た平面図、下図が平面図のa1−a2に於ける断面図である。図1に示す様に、製造元基板100上には薄膜素子群110が形成されており、製造元基板100と薄膜素子群110との間には剥離層120が形成されて居る。製造元基板100はガラス等からなる。薄膜素子群110は複数の薄膜トランジスタ(TFT)や薄膜ダイオード、薄膜抵抗や薄膜コンデンサなどから成る半導体回路である。剥離層120は所定のエネルギー付与に依って剥離する特性を有する材料から形成されて居る。剥離する特性とは、一定の強度の光やエネルギーを提供する事に依り、剥離層120を構成する材料の原子間又は分子間の結合力が消失ししたり、或いは剥離層と薄膜素子群との界面乃至は剥離層と製造元基板との界面での密着力が低下したり、剥離層自体がアブレーション(ablation)を生じたりした結果、剥離を引き起こす性質である。剥離層120の組成としては、例えばアモルファス(非晶質)シリコン(a−Si)等が用いられる。
【0039】
図2は撥水処理等の表面処理を施す前の転写先基板200を示す図であり、上図は転写先基板表面から見た平面図、下図は平面図のb1−b2に於ける断面図である。転写先基板200と製造元基板100とは其々その面積が異なっている。どちらが大きくても構わないが、本例では転写先基板を製造元基板よりも大きくしてある。勿論反対に転写先基板が製造元基板より小さくても良い。基板が大きい小さいとは面積の大小を表すと同時に辺の長短も意味し、より具体的には大きい基板が小さい基板を包含し得る関係に有る事を意味する。製造元基板と転写先基板とを異なった大きさにすると、後の基板配置工程時に小さい方の基板を下にする事で、万が一水溶性接着剤が溢れたとしても、溢れた水溶性接着剤が上側の大きい方の基板の裏面に回り込んで両基板を接着する不良をなくせる。基板配置工程時に小さい方の基板を下にするので、本願では接着剤塗布工程時には小さい方の基板表面に水溶性接着剤を塗布し、その後に大きい方の基板を上から小さい方の基板を包含する形で配置する。先に述べた通り、製造元基板と転写先基板とでどちらを大きくしても構わない。製造元基板を転写先基板よりも小さくすると、製造元基板を下にし、これに水溶性接着剤を塗布した後により大きい転写先基板を乗せる事になる。製造元基板には剥離層が設けられて居るので紫外光は透過しない。これに対して転写先基板には紫外光透過性の基板を使用出来るので、紫外光透過性の転写先基板が上に来ると、後の接着剤硬化工程にて上側から紫外光を照射出来る。斯くして水溶性接着剤を挟持する二枚の基板を反転させる必要が無くなり、上方から紫外光を照射するので、水溶性接着剤に市販されている紫外線硬化型水溶性接着剤を使用する事が可能となる。又、基板配置工程にて両基板を重ね合わせた状態でそのまま紫外光を照射するので両基板がずれたり、或いはずれた拍子に水溶性接着剤が漏れ出るとの不具合を解消できる。反対に製造元基板を転写先基板よりも大きくすると、転写先基板を下にし、これに水溶性接着剤を塗布する事になる。製造元基板表面には薄膜素子層が設けられて居て様々な材質が表面に出ているが、転写先基板は表面が均質な基板を使用出来る。斯うすると転写先基板表面は均質なので水溶性接着剤も均質に広がり、接着不良を低減する効果が現れる。
【0040】
製造元基板100上に構成された薄膜素子群110は、転写先基板200を最終製品に組み込まれる回路基板の最終的な基板として転写する場合と、転写先基板200に仮転写した後に第二転写先基板に再度転写する場合とがある。本実施形態では、薄膜素子群110を転写先基板200に仮転写した後、第二転写先基板に再度転写する方法を例に挙げて説明する。薄膜素子群110を最終的に第二転写先基板に転写する場合、転写先基板200はいわば一時的に転写されるだけの基板であるため、必ずしも可撓性や衝撃に対する耐性が高い必要はない。一方で薄膜素子群110を最終的に転写先基板200に転写する場合、転写先基板200はその用途に合わせて可撓性を有する物であったり、衝撃に対する高い耐性を有する物であったりする。可撓性を有する転写先基板200の例としてはプラスチック基板や薄い金属基板、或いは繊維、紙、布等が挙げられる。
【0041】
図3は、撥水処理が施された製造元基板100を示す図であり、上図は製造元基板表面(上方)から見た平面図、下図は平面図のa1−a2に於ける断面図である。製造元基板100に対する表面処理工程は撥水処理の他に親水処理を施しても良い。基板表面で撥水処理が施されない領域が親水処理領域となる。本実施形態では、撥水処理と親水処理との双方の処理を行う方法を説明する。まず製造元基板100に於いて薄膜素子群110が形成された製造元基板表面の全面に対して親水処理を行う。親水処理は水滴接触角が40°以下になる程度に行う事が水溶性接着剤との適度な親和性を示すのに好ましく、水滴接触角が15°未満の超親水処理を行う事は、水溶性接着剤との更に良好な親和性を示すので、より好ましい。親水処理は従来から知られる様々な方法により行う事も可能であるし、以下の様な方法を用いてもよい。製造元基板100及び転写先基板200がガラスである場合、最も簡単な親水処理方法は純水洗浄で有り、製造元基板100の表面に付着した油脂成分を洗い流す。この時に石鹸等の界面活性剤を利用すると、より効果的である。又、製造元基板に形成された薄膜素子群110の表面には金属や酸化ケイ素膜、有機樹脂等様々な物質が現れる。この様な物質に対して効果的な親水処理方法は、酸素プラズマやオゾン照射と云った酸化処理である。更には酸素プラズマ中に水素を導入したり、或いは酸素プラズマ中に水蒸気を導入したり、不活性ガスプラズマ中に水蒸気を導入するなどの水プラズマ処理も効果的である。此等の親水処理に依って、基板表面に酸化膜を介して水酸基を誘起出来き、水に対する表面エネルギーを減少させると共に水溶性接着剤の接着力を増す。尚、上記の様にガラス基板を洗浄すると水滴接触角が25°程度になり、酸化処理や水プラズマ処理を行うと水滴接触角が15°未満の超親水性となる。
【0042】
次に製造元基板100の周辺部130に撥水処理を施して撥水領域を形成する。此処で撥水処理を行う周辺部130は、図3に示す様に、製造元基板100の端面(側面部)と、製造元基板表面に於ける端面に続く所定の範囲と、製造元基板の裏面に於ける端面に続く所定の範囲を含むものとする。周辺部130を為す所定の範囲とは、製造元基板表面及び製造元基板裏面に於いて、それぞれ端面から最低1mm以上の幅を有する領域で有る事が好ましい。撥水領域となる周辺部130が余りに狭いと、水溶性接着剤150(後述)が漏れた際に接着させない効果が弱くなる為である。一方で、周辺部130の範囲が広くなり過ぎると薄膜素子群から成る回路部の面積が小さくなるので、端面からの距離を10mm未満とする事が好ましい。撥水処理が安定的に施され、撥水処理効果が確実に得られ、且つ回路部の面積を最大とするには、撥水領域範囲を基板端面から2mm以上6mm以下とする事が理想的と言える。撥水処理は、従来から知られる様々な方法により行う事も可能であるし、以下の様な方法を用いてもよい。
【0043】
第1の例は撥水処理領域にフッ素プラズマを照射する方法で有る。即ち、親水処理が為された製造元基板100の表面の内で周辺部130を除く内側の領域(以下「非周辺部」という)をフォトレジストで覆い、その後にフッ素を含んだ物質を用いたプラズマ処理を行う。フッ素プラズマ処理に用いるフッ素を含んだ物質としては、四フッ化メタン(CF)、三フッ化窒素(NF)、六フッ化硫黄(SF)、フッ化水素(HF)、フッ素ガス(F)等が挙げられる。取り分け安全上からも扱い易い四フッ化メタン(CF)の使用が好ましい。プラズマ処理後はフォトレジストを除去する。
【0044】
第2の例は撥水処理領域に撥水性物質を塗布する方法である。具体的には製造元基板100の周辺部130に油脂又はワックスを塗布する。油脂とは、高級脂肪酸と一価又は二価の高級アルコールとのエステルを指すが、これと類似した性質を示す中性脂肪や高級脂肪酸、炭化水素等をも含む。より具体的な油脂の例としては、脂肪酸(化1)とグリセリン(化2)とのエステルであるトリアシルグリセロース(化3)等が挙げられる。
【化1】


【化2】


【化3】

【0045】
又、油脂の他にも、アルキルケテンダイマー・ワックス(化4)やジアルキルケトン・ワックス(化5)等のワックスが使用される。
【化4】


【化5】

【0046】
此処で、R及びRからRは、炭素数が10から30程度の直鎖又は分岐鎖を有するアルキル基(C2n+1、n=10〜31)、又は炭素数が10から30程度の直鎖又は分岐鎖を有するアルケニル基(C2n−1、n=10〜31)を指す。良好な撥水性を示すにはR及びRからRは飽和化合物が好まし居ため、アルケニル基よりもアルキル基の方が好ましい。又、R及びRからRに含まれる水素原子の一部又は全部をフッ素原子で置換してもよい。
【0047】
より好ましい油脂としては、RからRが炭素数11−17の直鎖アルキルで、ラウリン酸(CH−(CH10−COOH)のグリセリド(C(OCOC1123、飽和アルキル基の炭素数n=11)、ミリスチン酸(CH−(CH12−COOH)のグリセリド(C(OCOC1327、飽和アルキル基の炭素数n=13)、パルミチン酸(CH−(CH14−COOH)のグリセリド(トリパルミチン、C(OCOC1531、飽和アルキル基の炭素数n=15)、ステアリン酸(CH−(CH16−COOH)のグリセリド(トリステアリン、C(OCOC1735、飽和アルキル基の炭素数n=17)が挙げられる。
【0048】
ワックスとしては、RからRが炭素数11−17の直鎖アルキルがより好ましい。ケテンダイマーとしては、ミリスチルケテンダイマー、パルミチルケテンダイマー、ステアリンケテンダイマー、又はベヘニルケテンダイマーが特に好ましい。ジアルキルケトンとしては、パルミトン、又はステアロンが特に好ましい。又、石油から製造され、炭素数20〜30程度の直鎖状のパラフィン系炭化水素(ノルマル・パラフィン)を主成分とするパラフィンワックス等も使用出来る。
【0049】
図4は撥水処理を施した転写先基板200を示す図であり、上図は転写先基板から見た平面図で、下図は断面図である。転写先基板200に対する表面処理も、製造元基板100に対する表面処理と同様に、撥水処理と親水処理との両者を行っても良い。此処では撥水処理と親水処理との双方を行う方法を説明する。又、転写先基板200に対する撥水処理及び親水処理は、製造元基板100に対する撥水処理及び親水処理と同様の方法で行う事が出来るが、撥水処理を行うべき部分が異なるので、その点を中心に説明する。転写先基板200に対する撥水処理は、周辺部230に対して行われる。此処で、転写先基板200に於ける周辺部230を除いた非周辺部は、製造元基板100の表面に於ける周辺部130を除いた非周辺部とほぼ等しい面積を有し、ほぼ等しい辺長と成っている。即ち水溶性接着剤で接着される領域が両基板でほぼ等しくなる様に撥水処理領域を設ける。ほぼ等しいとは製造上の誤差を除いて、製造元基板の非周辺部と転写先基板の周辺部を除いた領域とが同一辺長同一面積に成る様に撥水領域を作成している事を意味する。前述の如く本例では転写先基板を製造元基板よりも大きくしているので、転写先基板200に於ける周辺部230の幅は、製造元基板100に於ける周辺部130の幅よりも広くなり、その結果として両基板で親水性の非周辺部の面積はほぼ同一となる。尚、此処でいう「幅」とは、基板に於ける端面から非周辺部までの距離を指す。
【0050】
此処まで撥水処理領域を製造元基板と転写先基板の双方に形成して来たが、撥水処理は製造元基板100又は転写先基板200の何れか一方にのみ行ってもよい。撥水処理をどちらかの基板に施せば、後の工程で仮令水溶性接着剤150が溢れ出ても撥水処理領域で水溶性接着剤150は接着せず(或いは接着力が著しく弱まり)、製造元基板100と転写先基板200との剥離が容易となる。撥水処理を転写先基板200のみに対して行った場合、製造元基板100に形成された薄膜素子群110が撥水処理に依って汚染される事が無いとの利点が見られる。理想は製造元基板100と転写先基板200との双方に撥水処理を行う事で、此に依り、後の工程にて製造元基板100と転写先基板200との剥離をより容易に、より確実に行える様になる。
【0051】
<(2)囲い込み手段形成工程(囲み手段の形成)>
次に製造元基板100と転写先基板とを比較して、面積の小さい方の基板表面に囲み手段140を形成する。此処では先と同様に製造元基板の方が転写先基板よりも小さい例を説明する。即ち製造元基板に囲み手段140を形成する例を説明する。
【0052】
図5は囲み手段140が形成された製造元基板100を示す図であり、上図は製造元基板表面(上方)から見た平面図、下図は断面図である。図5に示す様に、囲み手段140は、平面視に於いて製造元基板100の周辺部130より内側の非周辺部であって、剥離層120の上に薄膜素子群110を囲む様に形成される。即ち、囲み手段は親水性領域に形成される。この際に囲み手段140は、囲み手段140から周辺部130迄の距離が1mm以上且つ5mm以下と成るべく、形成される。囲み手段140を周辺部130から1mm以上の距離をもって形成すれば、製造元基板100と転写先基板200とを貼り合わせる際に接着剤で形成された囲み手段140が圧迫されて広がっても、当該囲み手段140が撥水処理された周辺部130迄は広がらない。撥水処理された周辺部130では囲み手段を形成する接着剤の塗れ性が悪いので、囲み手段がとぎれ、その結果、囲み手段140として機能しなくなる不具合が発生し得る。囲み手段が周辺部から1mm以上離れて形成されれば、この不具合を防止出来る。又、囲み手段140を周辺部130から5mm以下の距離を以て形成すると、デバイス領域(薄膜素子群が形成される領域)を広く取れ、生産性向上の視点より好ましい。斯うした囲み手段140は囲み用接着剤に依って形成され、その粘度が5000cps以上且つ50000cps以下で有ることが望ましい。此処での接着剤とは粘着剤やシール剤、或いは水溶性接着剤を意味する。囲み手段140の粘度が5000cps以上であれば、囲み手段の高さは10μmから100μm程度となり、この内側に水溶性接着剤150を塗布した後にも水溶性接着剤が漏れにくくなる。又、粘度が50000cps以下ならば、市販のディスペンス装置(ディスペンサー)を用いて容易に囲み手段140を形成出来る。尚、囲み手段140を形成する接着剤と、水溶性接着剤150とは互いに異なる接着剤で、相溶しない材質同士とするのが好ましい。
【0053】
<(3)接着剤塗布工程(水溶性接着剤の塗布)>
次に、囲み手段140が形成された小さい方の基板表面で、囲み手段の内側に水溶性接着剤150を塗布する。
【0054】
図6は、製造元基板と転写先基板で小さい方の基板(今の例では製造元基板)がステージ300上に設置され、その小さい方の基板表面の囲み手段140の内側に水溶性接着剤150を塗布(充填)した状態を示して居る。水溶性接着剤150を塗布するに際して、製造元基板100はステージ300上に設置される。そして、図6に示す様に、水溶性接着剤150が囲み手段140の内側の親水性領域に、囲み手段140から外側に漏れない様に塗布される。水溶性接着剤150は、粘度が1cps以上且つ50cps以下の低粘度水溶性接着剤である事が好ましい。粘度が50cps以下の低粘度水溶性接着剤を用いれば、親水処理された製造元基板100乃至は転写先基板の表面で水溶性接着剤150が綺麗に濡れ広がり、製造元基板100と転写先基板200とを欠陥無く均一に、且つ強力に接着する。又、接着剤で最も粘度が低い物は1cps程度なので、1cps以上で有れば、接着剤の選択肢が広がり、様々な種類の接着剤から最適な接着剤を選択する事が可能となる。接着剤塗布工程後に次工程(基板配置工程)にて製造元基板と転写先基板とを貼り合わせるが、此等二工程(接着剤塗布工程と基板配置工程)は同一ステージ300上で行うのが好ましい。同一ステージで行うと接着剤が塗布された小さい方の基板を移動させる必要がないので、低粘度水溶性接着剤が囲み手段を乗り越えて流れ出す不良をなくせるからである。
【0055】
<(4)基板設置工程並びに基板配置工程(製造元基板と転写先基板との貼り合わせ)>
次に基板配置工程に進み、製造元基板100と転写先基板200とを貼り合わせる。両基板を貼り合わせるには、水溶性接着剤が塗布された小さい方の基板を、貼り合わせが為される装置のステージ300上に設置せねばならない。これが基板設置工程である。基板配置工程が行われるステージ300は基板を設置する設置面を有して居り、その設置面の面積は製造元基板と転写先基板とで面積の小さい方の基板よりも更に小さい。此処で云う面積が小さいとは、面積値が小さいと同時に基板の各辺と対応するステージの各辺とを比較して、総ての辺に於いてステージの辺の方が短く、その結果、設置面を小さい方の基板が完全に覆う事を意味する。具体的には、通常は製造元基板も転写先基板も長方形乃至は正方形の四角形基板を用い、ステージ300も長方形乃至は正方形の四角形又は円形の設置面を有する。基板もステージも四角形の場合、ステージの短辺を小さい方の基板の短辺よりも2mm(基板を乗せた際に片側1mm)から10mm(基板を乗せた際に片側5mm)短くし、ステージの長辺を小さい方の基板の長辺よりも2mm(基板を乗せた際に片側1mm)から10mm(基板を乗せた際に片側5mm)短くする。又、ステージが円形の場合、ステージの直径を小さい方の基板の短辺よりも2mm(基板を乗せた際に片側1mm)から10mm(基板を乗せた際に片側5mm)短くする。斯うすると、後に図15と図16とを用いて詳述するが、仮令水溶性接着剤が漏れ出しても、漏れ出した水溶性接着剤はステージ上に留まらないで下方に滴るので、製造元基板と転写先基板とを端面部(エッジ部)で接着する事が無くなり、剥離工程時の基板割れ不良を低減するからで有る。
【0056】
基板設置工程は基板配置工程に先立って行われねばならず、その直前に為されても良いが、より好ましいのは囲い込み手段形成工程前に為される事である。即ち水溶性接着剤が塗布された基板を基板配置工程が行われるステージ300に設置しても良いが、より好ましいのは基板設置工程後に囲い込み手段形成工程と接着剤塗布工程及び基板配置工程とを同一のステージ300上で連続して行う事である。斯うすると、水溶性接着剤が塗布された基板を移動させる必要が無くなるので、前述の如く、低粘度水溶性接着剤が囲み手段を乗り越えて流れ出す不良をなくせる。理想は基板設置工程後に囲い込み手段形成工程と接着剤塗布工程と基板配置工程とその次の接着剤硬化工程とを同一ステージ300上で行う事である。此に依り囲み手段形成から接着剤硬化迄の間、基板は全く移動しないので、基板移動に伴う水溶性接着剤流出不良を完全になくせる様になる。
【0057】
図7は基板配置工程直後の状態を示し、製造元基板100と転写先基板200とが貼り合わされて居る。製造元基板100及び転写先基板200は、平面視に於いて、大きい方の基板(今の例では転写先基板200)が小さい方の基板(今の例では製造元基板100)の全面を覆い重ねる様に貼り合わせる。此等の基板を貼り合わせる際には、まず雰囲気を真空とし、低粘度水溶性接着剤150から気泡を除去する。気泡部分は接着不良となり、後の基板剥離工程にて転写不良となる。従って此の脱泡処理に依り、気泡に起因する転写不良を削減する。気泡を効率的に除去するには100Pa以下の真空度で1秒以上維持する。100Pa以上の低真空では気泡が残って仕舞うためである。50cps以下の低粘度水溶性接着剤を大気中で充填させた場合、100Pa以下の真空になる間に脱泡が進むので、1秒程度と云ったほんの僅かな時間だけ100Pa以下にすれば良い。大気から100Pa迄の真空引きは5秒から120秒の間に行う。5秒未満で真空引きを行うと水溶性接着剤150が飛び散って仕舞い、120秒以上掛かると水溶性接着剤の組成が目に見えて変わると共に接着材量も著しく減少する為に、接着品質を確保出来ないからで有る。接着品質を確保し、接着剤量を設計通りに保つには、100Pa以下の真空度に維持する期間を真空引き開始から120秒以下とする。具体的に最適な条件は大気から20秒から25秒掛けて50Paから60Paの真空とし、この真空度にて20秒から40秒維持する方法である。この様にして水溶性接着剤150から気泡を除去したら、真空中にて小さい方の基板(今の例では製造元基板100)上に大きい方の基板(今の例では転写先基板200)を乗せ、次いで雰囲気を大気に戻す。
【0058】
<(5)接着剤硬化工程(水溶性接着剤の硬化)>
次に、図8に示す様に、貼り合わされた製造元基板100と転写先基板200とに紫外線400を照射し、水溶性接着剤150を硬化させる。尚、水溶性接着剤150を硬化させるには、水溶性接着剤150の特性に合わせた何らかのエネルギーを供給すれば良く、供給エネルギー形態は必ずしも紫外光照射で無くても良い。例えば水溶性接着剤が熱硬化型であれば、熱エネルギーを供給する。
【0059】
<(6)基板剥離工程(製造元基板と転写先基板との剥離)>
次に、図9に示す様に、製造元基板100側からレーザー光500を照射し、剥離層120にて製造元基板100と転写先基板200とを剥離させる。この工程後に薄膜素子群110は、硬化した水溶性接着剤150を介在して、転写先基板200に転写される。
【0060】
本実施形態では基板剥離工程後に薄膜素子群を転写先基板200から第二転写先基板に再度転写し、第二転写先基板を最終製品に組み込まれる回路基板とするが、無論、転写先基板200を最終的な基板としても良い。転写先基板200を最終的な基板とする場合、回路基板の製造工程は、当該製造元基板100と転写先基板200とを剥離する工程で終了となる。
【0061】
<(7)第二接着工程(転写先基板と第二転写先基板との貼り合わせ)>
次に、転写先基板200と第二転写先基板600とを貼り合わせる。
【0062】
図10は転写先基板200と第二転写先基板600とを貼り合わせた状態を示して居る。転写先基板200と第二転写先基板600とを貼り合わせる際、薄膜素子群110が転写された転写先基板200と第二転写先基板600とを対向させ、非水溶性接着剤を介在させて貼り合わせる。尚、本実施形態に於いて、第二転写先基板600は最終製品に組み込まれる回路基板の最終的な基板であるため、製造された回路基板としての所望の材料により形成される。例えば、可撓性を有する基板を有する回路基板を製造する場合には、可撓性を有するプラスチック等を基板として用いる。
【0063】
<(8)第二転写工程(転写先基板と第二転写先基板との剥離)>
次に、図11に示す様に、転写先基板200と第二転写先基板600とを剥離する。転写先基板200と第二転写先基板600とを剥離する当該工程は、上記の製造元基板100と転写先基板200とを剥離する工程の様に、転写先基板200に予め剥離層を設けておき、転写先基板200側からレーザー光等を照射する方法を用いてもよい。又、水溶性接着剤150を水に溶解させるなど、それ以外の従来の方法を用いてもよい。
【0064】
<(9)接着剤除去工程(水溶性接着剤の除去)>
最後に、図12に示す様に、第二転写先基板600上に残存した水溶性接着剤150及び囲み手段140を除去する。水溶性接着剤150及び囲み手段140の除去は、純水等で洗い流す方法を用いてもよいし、その他従来の方法を用いてもよい。
【0065】
以上の工程を経て、図12に示す様に、第二転写先基板600に薄膜素子群110を転写し、所望の回路基板を製造する事が可能となる。
【0066】
<3.まとめ>
以上の様に、本実施形態に於ける薄膜素子群の転写方法に依れば、製造元基板100の周辺部130、及び転写先基板200の周辺部230の少なくとも一方に撥水処理を行う事で、当該部分に水溶性接着剤150が付着しづらくなる。仮に、製造元基板100及び転写先基板200のいずれに対しても全く撥水処理を行わず、かつステージ300が製造元基板100及び転写先基板200よりも大きい場合、以下の様な状態となる。即ち、図13に示す様に、製造元基板100の端面と転写先基板200の端面とを覆う様に水溶性接着剤150が付着する。この状態のまま、紫外線500を照射して水溶性接着剤150を硬化すると、図14に示す様に、製造元基板100の端面と転写先基板200の端面とを覆ったまま水溶性接着剤150が硬化して仕舞う。この状態で製造元基板100と転写先基板200とを剥離しようとして力を加えると、製造元基板100乃至は転写先基板が割れて仕舞う。しかし、上記本実施形態に於ける薄膜素子群の転写方法を用いる事で、製造元基板100の端面と転写先基板200の端面とに水溶性接着剤150が付着する事を防ぎ、併せて端面部での接着剤硬化を防止出来る。斯くして製造元基板100を転写先基板200から剥離する際に、製造元基板100乃至は転写先基板が割れる不良を防止出来るので有る。撥水処理をどちらか一方の基板周辺部のみに対して施した場合、仮令水溶性接着剤150が溢れ出でも、撥水処理領域では接着しない(接着力が著しく弱くなる)。これに依って、製造元基板100と転写先基板200との剥離が容易となる。撥水処理を転写先基板200のみに対して行った場合、製造元基板100に形成された薄膜素子群110が撥水処理に依って汚染される事を避ける事が出来る。但し、製造元基板100と転写先基板200との双方に撥水処理を行う事が、製造元基板100と転写先基板200との剥離をより確実に行う事が出来るため、更に好ましい。
【0067】
又、本実施形態に於ける方法では、製造元基板100の面積と転写先基板200の面積とが異なっている。そして此等の基板を貼り合わせる際に、平面視に於いて、大きい方の基板が小さい方の基板の全面に覆い重なる様に貼り合わせている。これに依って基板配置工程時に仮令此等の間から漏れ出ても、水溶性接着剤150が上側の大きい方の基板裏面に回り込む不良を防げ、故に両基板が基板端部にて接着される不具合を解消している。
【0068】
又、本実施形態に於ける方法では、小さい方の基板に水溶性接着剤150を塗布する前に、平面視に於いて、小さい方の基板周辺部130より内側に、薄膜素子群110を囲む囲み手段140を形成しその内側に低粘度水溶性接着剤を充填している。これに依って、水溶性接着剤150が製造元基板100と転写先基板200との間から漏れ出る不良を削減して居る。
【0069】
又、本実施形態に於ける囲み手段140は、粘度が5000cps以上且つ50000cps以下の接着剤で形成されて居る。この様に、囲み手段140の材料として粘度が5000cps以上の接着剤を用居たので、水溶性接着剤150が漏れ出づらい、好ましい高さである10μm以上且つ100μm以下程度の囲み手段140を形成可能となる。又、粘度が50000cps以下の接着剤を用居たので、市販のディスペンス装置(ディスペンサー)に依って、容易に囲み手段140を形成する事が可能となる。
【0070】
又、接着剤は、水溶性接着剤150と相溶しないものとする事が好ましい。これに依れば、水溶性接着剤150が囲み手段140を形成する接着剤と相溶する事に依って、囲み手段140が破壊される事を防止する事が出来る。
【0071】
又、囲み手段140は、周辺部130から1mm以上且つ5mm以下の距離をもって形成する事が好ましい。この様に囲み手段140を周辺部130から1mm以上の距離をもって形成すれば、製造元基板100と転写先基板200とを貼り合わせる際に接着剤で形成された囲み手段140が圧迫され広がった場合で有っても、当該囲み手段140が撥水処理された周辺部130にまで広がる事を防止する事が出来る。即ち、接着剤で形成された囲み手段140が撥水処理された周辺部130まで広がり、当該囲み手段140と製造元基板100との接着力が弱まり、囲み手段140として機能しなくなる事を防止する事が出来る。又、囲み手段140を周辺部130から5mm以下の距離をもって形成すると、デバイス領域を広く取る事ができ、生産性が向上するので好ましい。
【0072】
又、本実施形態に於いては、少なくとも製造元基板100と転写先基板200とを貼り合わせる際に、平面視に於いて小さい方の基板よりも更に小さい面積の設置面を有するステージ300上に、小さい方の基板を設置する。これに依って、ステージ300上に設置した小さい方の基板と大きい方の基板とを貼り合わせる際に、仮令両基板間から水溶性接着剤が漏れ出ても、ステージ300と小さい方の基板との間やその周辺に留まる不具合を解消出来る。図15と図16はこれを説明した図で、ステージ300上に設置した小さい方の基板(今の例では製造元基板100)と大きい方の基板(今の例では転写先基板200)とを貼り合わせた際に、万が一水溶性接着剤150が漏れ出た際の状態を示して居る。図15に示す様に、万が一水溶性接着剤が漏れ出しても、本願構成ではステージ300が両基板より小さい面積を有している為に、水溶性接着剤150はステージ300上に溜まる事なく漏れ落ちる。水溶性接着剤150が滴り落ちた後に紫外線400を照射して水溶性接着剤150を硬化させるので、製造元基板100と転写先基板200と漏れた接着剤により端面部で接着される事を防止する事が出来るので有る(図16)。尚、仮令水溶性接着剤が漏れても、周辺部は撥水処理されているので、この領域も接着せず、基板剥離が容易に且つ安定的に為される。更に基板設置工程後に囲い込み手段形成工程を行い、接着剤塗布工程、基板配置工程、接着剤塗布工程を同じステージ300上で行えば、基板を移動させる事に依り水溶性接着剤150が流れ出す事を防止出来るため好ましい。
【0073】
又、本実施形態に於ける水溶性接着剤150は、粘度が1cps以上且つ50cps以下である。これに依って、製造元基板100上の囲み手段140の内側で、水溶性接着剤150が十分に広がり、製造元基板100と転写先基板200とを貼り合わせやすくする事が出来る。又、粘度が1cps以上のものを使用可能であるため、様々な種類の接着剤から選択する事が可能となる。
【0074】
又、本実施形態では、薄膜素子群110が転写された転写先基板200の転写先基板と、第二転写先基板600の転写先基板とを対向させて、接着剤を介在させて貼り合わせる。そして、転写先基板200を第二転写先基板600から剥離させる事に依って、薄膜素子群110を第二転写先基板600に転写し、その後、水溶性接着剤150を除去する。これに依って、薄膜素子群110を、製造元基板100から第二転写先基板600に転写する事が可能となる。
【0075】
又、本実施形態では、撥水処理を行う際に、薄膜素子群110が形成された製造元基板100の周辺部130、及び転写先基板200の周辺部230の双方に撥水処理を行う。これに依って、より効果的に、製造元基板100を転写先基板200から剥離する際に、製造元基板100が割れて仕舞う事を防止する事が可能となる。
【0076】
又、本実施形態では更に、製造元基板100の製造元基板表面に於ける撥水領域外の非周辺部に親水処理を行い、転写先基板200の転写先基板に於ける撥水領域外の非周辺部に親水処理を行う。これに依って、水溶性接着剤150に依って、製造元基板100と転写先基板200とを容易に貼り合わせる事が可能となる。
【0077】
又、本実施形態では、製造元基板100の製造元基板表面に於ける周辺部130が、製造元基板100の端面から1mm以上且つ10mm以下の範囲としている。これに依って、製造元基板100上の薄膜素子群110を形成可能な面積を大きくしながら、撥水処理の効果を得る事が可能となる。尚、撥水処理を行う周辺部130が余りに狭いと、水溶性接着剤150が漏れた際に接着出来ない様にした効果がなくなるため、製造元基板100の製造元基板表面に於ける周辺部130は、製造元基板100の端面から1mm以上とする事が好ましい。一方で、周辺部130の範囲が広くなりすぎると製造元基板表面積が小さくなるので、10mm未満とする事が好ましい。撥水処理が安定し、撥水処理を行った効果が得られ、かつ製造元基板表面積を最大とするには、周辺部130に於ける所定の範囲を2mm以上6mm以下とする事がより好ましい。
【0078】
<4.補足>
尚、実施形態に於いては、製造元基板100の周辺部130、及び転写先基板200の周辺部230の双方に撥水処理を行っているが、此等の何れか一方に撥水処理を行ってもよい。又、親水処理も、製造元基板100の非周辺部、及び転写先基板200の非周辺部の双方に対して行っているが、何れか一方に対してのみ行ってもよい。更に、親水処理は必ずしも行わなくてもよい。
【0079】
又、親水処理と撥水処理を行う方法として、実施形態に於いては、製造元基板100及び転写先基板200の全面に親水処理を行った後、撥水処理を行うべき周辺部に対して撥水処理を行う例を挙げているが、これに限る趣旨ではない。つまり、例えば製造元基板100及び転写先基板200の全面に撥水処理を行った後に、それぞれの非周辺部に親水処理を行ってもよい。
【符号の説明】
【0080】
100……製造元基板、110……薄膜素子群、120……剥離層、130……周辺部、140……手段、150……水溶性接着剤、200……転写先基板、230……周辺部、300……ステージ、400……紫外線、500……レーザー光、600……第二転写先基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造元基板表面に形成された薄膜素子群を転写先基板表面に転写する薄膜素子群の転写方法に於いて、
前記製造元基板の周辺部及び前記転写先基板の周辺部の少なくとも一方に撥水処理を行って撥水領域を作成する表面処理工程と、
前記製造元基板表面及び前記転写先基板表面の少なくとも一方に水溶性接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
前記製造元基板表面と前記転写先基板表面とを前記水溶性接着剤を介して対向させて配置する基板配置工程と、
前記水溶性接着剤を硬化させる接着剤硬化工程と、
前記製造元基板を前記転写先基板から剥離させる事に依って、前記薄膜素子群を前記転写先基板に転写する基板剥離工程と、を有する事を特徴とする薄膜素子群の転写方法。
【請求項2】
前記接着剤塗布工程では、前記製造元基板と前記転写先基板とで面積の小さい方の基板表面に水溶性接着剤を塗布し、
前記基板配置工程では、平面視に於いて、前記面積の小さい方の基板全面を覆い重ねる様に面積の大きい方の基板を配置する事を特徴とする請求項1に記載の薄膜素子群の転写方法。
【請求項3】
前記接着剤塗布工程前に前記面積の小さい方の基板表面に囲い込み手段を形成する囲み手段形成工程を有し、
前記囲い込み手段は前記基板配置工程時に前記撥水領域の内側で、且つ前記薄膜素子群を囲む様に形成され、
前記接着剤塗布工程では前記囲い込み手段の内側に前記水溶性接着剤を塗布する事を特徴とする請求項2に記載の薄膜素子群の転写方法。
【請求項4】
前記囲い込み手段は粘度が5000cps以上且つ50000cps以下の囲み用接着剤で形成される事を特徴とする請求項3に記載の薄膜素子群の転写方法。
【請求項5】
前記囲み用接着剤が粘着剤、シール剤、又は水溶性接着剤である事を特徴とする請求項3又は4に記載の薄膜素子群の転写方法。
【請求項6】
前記基板配置工程の前に、前記面積の小さい方の基板よりも更に小さい面積の設置面を有するステージ上に前記面積の小さい方の基板を設置する基板設置工程を有する事を特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載の薄膜素子群の転写方法。
【請求項7】
前記接着剤塗布工程で塗布する前記水溶性接着剤は粘度が1cps以上且つ50cps以下である事を特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の薄膜素子群の転写方法。
【請求項8】
前記基板剥離工程の後に、前記薄膜素子群が転写された前記転写先基板表面と第二転写先基板表面とを対向させて、第二の接着剤を介在させて貼り合わせる第二接着工程と、
前記転写先基板を前記第二転写先基板から剥離させる事に依って、前記薄膜素子群を前記第二転写先基板に転写する第二転写工程と、
前記水溶性接着剤を除去する接着剤除去工程と、を有する事を特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の薄膜素子群の転写方法。
【請求項9】
前記表面処理工程に於いて、前記製造元基板の周辺部と前記転写先基板の周辺部の双方に撥水処理を行う事を特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の薄膜素子群の転写方法。
【請求項10】
前記表面処理工程が、前記製造元基板表面乃至は前記転写先基板表面に形成された前記撥水領域の外側に親水処理を施して親水領域を作成する工程を含む事を特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の薄膜素子群の転写方法。
【請求項11】
前記撥水領域は前記製造元基板乃至は前記転写先基板の端面から1mm以上且つ10mm以下の範囲である事を特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の薄膜素子群の転写方法。
【請求項12】
前記表面処理工程で行われる撥水処理としてフッ素プラズマ処理を行う事を特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の薄膜素子群の転写方法。
【請求項13】
前記表面処理工程で行われる撥水処理として油脂の塗布を行う事を特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の薄膜素子群の転写方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2011−49210(P2011−49210A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194094(P2009−194094)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】