説明

薄膜試料作製方法

【課題】 集束イオンビームを用いて透過型電子顕微鏡で観察をおこなうための薄膜試料を作製する方法において、大きな試料基板から観察所望部位を確実に抽出し、薄膜試料作製のための仕上げ加工を行なう際に、観察所望部位を試料ホルダに安定して保持することができるようにする。
【解決手段】 ナノピンセット40の先端で、試料ブロック27上部の凸部27aを掴む。試料ブロック27を試料基板23から掴みだし、シリコンブロック29の端面29aに予め形成された溝41に試料ブロック27を差し込む。
試料ブロック27の外壁面と溝41の内壁面の摩擦力が大きくて、ナノピンセット40で試料ブロックを把持する力だけでは試料ブロック27を溝41に圧入することが困難な場合は、試料ブロック27の凸部27aの段差部をナノピンセット40の先端で押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス等の試料に集束イオンビームを照射して、透過型電子顕微鏡(以下、TEMと略称する)で観察を行うための薄膜試料を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の各種デバイスは、近年の機能向上のために、その内部構造は微細且つ複雑化している。TEMは試料の拡大観察、構造解析、微小領域分析等を行なう装置である。TEMを用いれば、こうした試料の内部構造を高い空間分解能で観察することが可能であるが、そのためには観察部位を百ナノメートル程度の薄膜にする必要がある。大きな試料基板から微小な観察所望部位を抽出し、更にTEMによる観察が可能な厚さまで薄膜化するために、集束イオンビームによる試料加工が行なわれている。
【0003】
このような試料加工方法については、いくつかの方法が工夫されている。例えば、特許文献1の特許第2774884号には、集束イオンビーム装置(以下、FIBと略称する)の中で、大きな半導体ウェハから試料の一部を取り出す技術が開示されている。また、特許文献2の特開2002−150984号公報には、FIBの中で仕上げ加工まで行なって作製した観察試料をTEMに装着して観察した後、試料の追加工を行なうのに好適な試料ホルダが開示されている。また、特許文献3の特開2002−148160号公報には、FIBの中で大きな試料基板から切り離した観察所望部位を試料基板ごと一旦FIBの外に取り出し、光学顕微鏡下でTEM観察用試料ホルダに装着後再びFIBに装着し、TEMで観察可能なまでに仕上げ加工を行なう際に好適な試料支持用カートリッジと試料ホルダが開示されている。
【0004】
ここでは、従来から行なわれている試料作製方法の例として、図5、図6、図7を参照しながら、試料基板から切り離した観察所望部位を試料基板ごと一旦FIBの外に取り出す方法を説明する。
【0005】
図5はTEMの概略構成例を示したものである。図5において、1は電子光学系鏡筒で、内部には、電子銃2、集束レンズ3、対物レンズ4、中間レンズ5、投影レンズ6等が設けられている。7は像観察室で蛍光板8が設けられている。試料ステージ9には、先端部分に観察試料Sを保持した試料ホルダ本体9Aと試料の3軸方向移動と回転と傾斜を行なう試料ホルダ駆動機構9Bが着脱可能に装填されている。
【0006】
図5に示すTEMにおいて、電子銃2から放出された電子ビームEBは集束レンズ3により集束されて観察試料S上に照射される。観察試料Sを透過した電子ビームEBが、対物レンズ4、中間レンズ5及び投影レンズ6の作用を受けて蛍光板8上に透過電子像或いは回折像を形成する。
【0007】
図6は、TEM観察用の薄膜試料(観察試料Sに相当する)を作製するためのFIBの概略構成例を示したものである。図6において、10はイオン源、11は集束レンズ、12はX方向偏向器、13はY方向偏向器、14は対物レンズ、15は加工室、16はX及びY方向に移動可能に且つ何れか一方の方向に傾斜可能に構成されたステージ、17はピックアップ用プローブ18と該プローブをX,Y及びZ方向に駆動させるための駆動機構19からなるマニピュレータ、20はガスノズル21をそなえたガス源、22は2次電子検出器である。なお、ピックアップ用プローブ18には、タングステンなどの金属が通常使用される。更に、図5のTEMに装填されているTEM観察用の試料ホルダ本体9Aと試料試料ホルダ駆動機構9Bを試料ステージ9から取り外してFIBの加工室に装着できるようになっている。
【0008】
図7は、試料基板から切り離した観察所望部位を試料基板から取り出して、TEM観察用の試料ホルダにセットする操作を行なうための光学顕微鏡システムの概略構成例を示している。光学顕微鏡装置32は試料台33を備えており、FIBから取り出された試料基板23は試料台33の中央(光学系鏡筒34の真下)に置かれる。試料台33上には、マニピュレータ駆動機構35とピックアップ用プローブ36を備えたマニピュレータ37が配置されている。ピックアップ用プローブ36には、ガラス管を加熱しながら細く引き伸ばし、先端を丸めたものが通常使用される。更に、試料台33上には、TEM観察用の試料ホルダ本体9Aと試料試料ホルダ駆動機構9Bを安定した状態で置くことができるようになっている。
【0009】
次に、図8、図9、図10を参照しながら、図6に示すようなFIBを用いた薄膜試料の作成方法を説明する。
【0010】
先ず、FIBのステージ16の所定位置に、図8(a)に示すような試料基板23をセットする。試料基板23は、例えば300mmウェハ等の試料である。FIBのイオン源10から照射されるイオンビームIBを集束レンズ11と対物レンズ12により試料基板23上に集束させ、X方向偏向器12とY方向偏向器13により試料基板23上の矩形領域P及びQでイオンビームIBを走査する。イオンビームIBにより、図8(b)に示すように2つの直方体の穴25Pと25Qが形成される。穴25Pと25Qに挟まれた直方体状部26の厚さは通常数μm程度であり、TEMで観察するためには0.1μm程度まで薄くしなければならない。
【0011】
直方体状部26のエッジ部26Aと26BにイオンビームIBを照射し、図9(a)のように、穴25P、25Qと同じ深さの溝を形成する。更に、図9(b)に示すように、ステージ16を傾斜させて、試料基板23を例えば半時計方向に60〜70度程度傾け、直方体状部26の底部に沿った部分26CをイオンビームIBで走査して、穴25Pと25Qとが通じる底穴を形成する。直方体状部26は試料基板と完全に切り離されるか僅かに保持されている状態となり、試料ブロック27が形成される。
【0012】
図6のFIBのステージ16から試料基板23を取り外し、図7の光学顕微鏡システムのステージ33上に置く。光学顕微鏡像を見ながらマニピュレータ駆動機構35によりピックアップ用プローブ36を移動させて、ピックアップ用プローブ36の先端を試料ブロック27に接近させると分子間力によりピックアップ用プローブ36の先端部に試料ブロック27が付着する。
【0013】
この状態で図10(a)に示すように、試料基板23から試料ブロック27を取り出す。ピックアップ用プローブ36を軸中心で回転させれば、試料ブロック27は、保持される姿勢を変えて、例えば最も面積の大きい面を底面とすることができる。マニピュレータ駆動機構35を作動して、ピックアップ用プローブ36に保持された試料ブロック27を、図10(b)に示すようにシリコンブロック29の端面29aに載せる。
【0014】
なお、シリコンブロック29は既に図11に示す半切りメッシュ28の端面28a近傍に接着されている。さらに、シリコンブロック29が接着された半切りメッシュ28は図12、図13に示すように、TEM用試料ホルダに取り付けられている。すなわち、図12(a)において、半切りメッシュ28は、図12(B)のカートリッジ30に板バネ30で固定されている。カートリッジ30は、図13(a)に示すように試料ホルダ本体9Aの先端に装着され、図13(b)に示す状態でFIBまたはTEMの試料ステージ9に装着される。
【0015】
半切りメッシュ28には通常、銅(Cu)又はモリブデン(Mo)等の金属が用いられている。もし、半切りメッシュ28の端面28aが十分平滑であればシリコンブロック29を使用しないで、試料ブロック27を直接半切りメッシュ28の端面28aに載せる場合もある。
【0016】
シリコンブロック29上に試料ブロック27を載せると分子間力により、試料ブロック27はシリコンブロック29に付着するが、より安定に固定させるために通常はエポキシ樹脂等の接着剤を用いる。接着剤の使用を避けて試料ブロック27をメッシュに固定する方法としては、予めFIBを用いて支持部材に試料ブロック27より大きめの溝を設けておき、試料ブロック27を該溝に落し込む方法もある。特許文献3の特開2002−148160号公報に開示されている試料カートリッジと試料ホルダを用いれば、試料ブロック27を少し大きめの溝に落し込む方法をとる場合に、弾性体の変形作用を利用して試料ブロック27を安定に支持すること可能である。
【0017】
試料ブロックが取り付けられた試料ホルダ本体9A先端と試料ホルダ駆動機構9BをFIBに再度装着し、試料ブロック27にイオンビームIBを照射して、TEMで観察可能なまでに薄膜作製の仕上げ加工を行なう。図18は、観察対象となる試料が積層構造を持っている場合、どの方向から観察するかによってシリコンブロック上での試料ブロックの置き方を変える例を示している。
【0018】
図18(a)のように試料ブロックを置き、イオンビームIBを照射して図18(b)のようにTEM観察用薄膜に加工する。(A)の置き方は、積層Lを平面方向から観察したい場合であり、(B)の置き方は、積層Lの断面方向から電子ビームEBを照射して観察したい場合である。
【0019】
以上が試料基板から試料ブロックを取り出すとき、FIBの外に置かれた光学顕微鏡下で取り出す方法の概略である。
【0020】
次に、FIB装置の中で試料基板から観察所望部位を取り出してTEM観察用試料ホルダに載せ換えて仕上げ加工まで行なう方法について簡単に説明する。この方法では、試料ブロックを試料基板から完全に切り離す前に、金属製プローブ18を試料ブロックにデポジションガスによる堆積膜で固定し、試料ブロックを完全に切り離した後、試料基板から取り出して空中に保持した状態にする。試料基板用のホルダとTEM観察用試料ホルダを交換し、TEM観察用試料ホルダに取り付けられているメッシュ(又はそれに接着されたシリコンブロック)上に、試料ブロックを置いて、デポジションガスによる堆積膜で固定する。試料ブロックにイオンビームIBを照射して、TEMで観察可能なまでに薄膜作製の仕上げ加工を行なう。なお、これらの操作は、試料基板23等から発生する2次電子を図6の2次電子検出器22で検出し、表示装置に表示された検出信号に基づく画像を観察しながら行なうようにしている。薄膜作製作製が完了したら、薄膜試料が装着されたまま試料ホルダ本体9Aと試料試料ホルダ駆動機構9BをFIBから取り外して、TEMに装填し観察を行なう。
【0021】
以上がFIB装置の中でTEM観察用の薄膜作製のための仕上げ加工まで行なう方法の概略である。

【特許文献1】特許第2774884号
【特許文献2】特開2002−150984号公報
【特許文献3】特開2002−148160号公報
【特許文献4】特開2006−30017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
FIBの中で仕上げ加工まで行なう方法の場合は、ピックアップ用プローブ18と試料ブロックの付着部をデポジションガスによる堆積膜で固定し、更にシリコンブロックと試料ブロックをデポジションガスによる堆積膜で固定するため、分子間力を利用するよりも付着力を増すことができる。しかし、試料ブロックを切り離す際は、ピックアップ用プローブ18の先端部近傍にイオンビームを照射して先端部を切り離す必要があり、高価なプローブの交換頻度が増えるという問題がある。また、FIBの中で仕上げ加工に適する角度に試料ブロックを固定する操作を、2次電子像を観察しながら行なうことは難しく、操作に熟練を要するという問題もある。
【0023】
試料を一旦FIBの外に取り出す方法においては、試料ブロック27を試料基板から取り出す際、ピックアップ用プローブ36の先端に分子間力で付着させる方法は、付着力が弱いため操作に細心の注意が必要である。また、試料ブロックをシリコンブロック等の支持台に固定する際に接着剤を用いる方法は、固定する場所に適量の接着剤を塗布することが難しいという問題がある。
【0024】
特許文献3の特開2002−148160号公報に開示されている弾性体の変形作用を利用する方法であれば、接着剤を用いることなく試料ブロックを安定に固定できる。しかし、こうした試料をうまく支持するための微小な弾性体をうまく組み込んだ試料ホルダの製作は簡単ではないという問題がある。
【0025】
本発明は上記した問題を解決するためになされたものであって、その目的は、集束イオンビームを用いて透過型電子顕微鏡で観察をおこなうための薄膜試料を作製する方法において、大きな試料基板から観察所望部位を確実に抽出し、薄膜試料作製のための仕上げ加工を行なう際に、観察所望部位を試料ホルダに安定して保持することができる薄膜試料作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記の問題を解決するために、
請求項1に記載の発明は、集束イオンビーム装置内で試料基板に集束イオンビームを照射して観察所望部位を含む試料ブロックを試料基板から分離する加工を行なった後、該試料ブロックを載置した該試料基板を集束イオンビーム装置から大気中に取り出し、光学顕微鏡下で該試料ブロックを該試料基板から取り出し、透過型電子顕微鏡用試料ホルダに装着可能な試料ベースに該試料ブロックを固定した後、再び集束イオンビーム装置内で該試料ブロックの観察所望部位に集束イオンビームを照射して、透過型電子顕微鏡で観察を行なうための薄膜試料を作製する方法において、
前記試料ブロックをマニピュレータ先端に取り付けた微小物把持装置により把持して該試料基板から取り出し、把持されている該試料ブロックを該微小物把持装置によって前記試料ベースに予め形成された溝に差し込み、該溝の内壁面と前記試料ブロックの外壁面との接触部に生じる摩擦力により前記試料ブロックを前記試料ベースに固定するようにしたことを特徴とする。
【0027】
また請求項2に記載の発明は、前記試料ブロックを圧入するための前記溝の対向する内壁面の組み合わせのうち少なくともひとつの組み合わせにおける溝の幅を、前記試料ブロックにおける外壁面の組み合わせのうち少なくともひとつの組み合わせにおける厚さと略同じ大きさとなるように形成したことを特徴とする。
【0028】
また請求項3に記載の発明は、前記微小物把持装置によって把持される前記試料ブロック把持部分を予め集束イオンビームによって研削し段差部を形成し、前記試料ブロックを前記微小物把持装置で掴んで前記溝に圧入するときに、前記微小物把持装置による押圧力を前記段差部に作用させるようにしたことを特徴とする。
【0029】
また請求項4に記載の発明は、前記段差部の形成を行なった後に、前記試料ブロックを前記試料基板から取り出すようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
請求項1に記載の発明によれば、
前記試料ブロックをマニピュレータ先端に取り付けた微小物把持装置により掴み、試料基板から分離した試料ブロックを試料ベースの端面に予め形成してある溝に差し込むことによって試料ベースに固定するようにしたので、
試料ブロックをデポジション膜で固定するか、或いは接着剤を用いて接着固定する必要が無い。本発明の固定方法はデポジションによる堆積膜の力で固定した場合に比べて機械的衝撃に強いため、薄片への仕上げ加工のために集束イオンビーム装置内への再搬送や、加工完了後にTEMの試料ステージに装着する場合に観察試料が脱落することが無くなった。また、試料ブロックを接着剤でメッシュに接着固定する必要が無いため、塗布する接着剤の量が不適当なため試料ブロックを破壊してしまうといった失敗をすることが無くなった。
【0031】
請求項2に記載の発明によれば、
試料ブロックの差し込み部分とほぼ同じ大きさで試料ベースに開けられた溝に試料ブロックを圧入することができるので、
溝の内壁面と試料ブロックの外壁面との接触部に生じる摩擦力が高まり、より確実に試料ブロックを試料ベースに固定することができる。
【0032】
請求項3に記載の発明によれば、
研削加工によって生じた試料ブロック上部の段差部に微小物把持装置の先端が掛かるので、試料ブロックと溝の間に引っ掛かりがあって差し込みにくい場合でも、試料ブロックに力を十分に働かせて溝に圧入できるので、より強固に試料ブロックを試料ベースに固定することができる。
【0033】
請求項4に記載の発明によれば、
試料ブロックを試料基板から取り出す前に予め段差部を形成しておくので、簡単且つ正確に試料ブロック上部の段差加工を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。但し、この例示によって本発明の技術範囲が制限されるものでは無い。各図において、同一または類似の構成要素には共通の符号を付し、詳しい説明の重複を避ける。
【0035】
本発明を実施するための微小物把持装置として、例えば特許文献4の特開2006−30017号公報に開示されているサンプルピックアップ機構を用いることができる。このようなサンプルピックアップ機構の微小試料を把持する2本の針状体からなる先端部を、以下の説明においてナノピンセットと称する。
【0036】
本発明の実施には、図17に概略構成例を示す光学顕微鏡システムを使用する。図17において、光学顕微鏡装置32は試料台33を備えており、FIBから取り出された試料基板23は試料台33の中央(光学系鏡筒34の真下)に置かれる。試料台33上には、マニピュレータ駆動機構45とナノピンセット40を備えたマニピュレータ47が配置されている。マニピュレータ駆動機構45は、ナノピンセット40の先端部を目的とする場所に移動させるとともに、ナノピンセット40に微小物を把持するための微細な動作を制御することができる。更に、試料台33上には、TEM及びFIBに装着可能な試料ホルダ本体9Aと試料試料ホルダ駆動機構9Bを安定した状態で置くことができるようになっている。
【0037】
(実施の形態1)
先ず、本発明の実施の形態1について説明する。
【0038】
図6に示すようなFIBのステージ16に、図8(a)のような試料基板23をセットし、イオンビームIBにより、図8(b)のように2つの直方体の穴25Pと25Qを形成する。穴25Pと25Qに挟まれた直方体状部26の厚さは数μm程度である。直方体状部26のエッジ部26Aと26BにイオンビームIBを照射し、図9(a)のように、穴25P、25Qと同じ深さの溝を形成する。更に、図9(b)のように、ステージ16を傾斜させて、試料基板23を例えば半時計方向に60〜70度程度傾け、直方体状部26の底部に沿った部分26CをイオンビームIBで走査して、穴25Pと25Qとが通じる底穴を形成する。直方体状部26は試料基板と完全に切り離されるか僅かに保持されている状態となり、試料ブロック27が形成される。次に、ステージ16から試料基板23を取り外し、図17の光学顕微鏡システムのステージ33上に置く。ここまでは背景技術の中で述べた従来方法と同じ手順である。
【0039】
次に、光学顕微鏡装置32の光学顕微鏡像を見ながらマニピュレータ駆動機構45によりナノピンセット40を移動させて、ナノピンセット40の先端を試料ブロック27に接近させる。図14(a)のように試料ブロック27をナノピンセット40で把持し、試料基板3から試料ブロック27を掴みだす。図14(b)のように、シリコンブロック29(試料ベース)の端面29aに予め形成された溝41に試料ブロック27を差し込む。
【0040】
ここで、溝41の対向する内壁面の組み合わせのうち少なくともひとつの組み合わせにおける溝の幅(図14(b)の例では41a)は、試料ブロック27において外壁面の組み合わせのうち少なくともひとつの組み合わせにおける厚さ(図14(b)の例では41b)とほぼ同じ大きさになるように予め作成されている。すなわち、試料ブロック27の外壁面と溝41の内壁面との接触による摩擦力のために、試料ブロック下部の鋭角部を単に溝41に落し込むだけでは溝41の奥まで試料ブロック27を差し込むことはできない。そのため、ナノピンセット40で試料ブロックを把持する力で、試料ブロック27を溝41に圧入することになる。試料ブロック27が溝41に圧入されることによって試料ブロック27の外壁面と溝41の内壁面との接触部に生じる摩擦力により、試料ブロック27は確実にシリコンブロック29に固定される。従って、試料ブロックを接着剤で固定する必要は無く、又はFIBの中でデポジションガスによる堆積膜で固定する必要も無い。
【0041】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
【0042】
本発明の発明者は、試料ブロック27を溝41に差し込む場合、ナノピンセット40で試料ブロックの外壁面を把持する力だけでは、試料ブロック27を溝41に圧入する力が不十分な場合があることに気が付いた。
かかる問題を解決するため、本発明の発明者は、以下に説明するように、より強い力で試料ブロック27を溝41に圧入できるように試料ブロックに加工を施す方法を工夫した。
【0043】
実施の形態2における方法の特徴は、ナノピンセット40で把持する試料ブロック27の上部に段差を設けることにある。すなわち図9(a)に示す状態にまで直方体状部26を作製した後、更にイオンビームIBを直方体状部26の上部に照射して、図1(a)に示すように、段差26Dと26Eを形成する。このとき、図8(b)に示す状態まで直方体状部26を作製した後、段差26Dと26Eを形成し、更にエッジ部26Aと26Bに溝を形成するようにしても図1(a)に示す結果が得られる。
【0044】
続いて、図1(b)に示すようにFIBのステージ16を傾斜させて、試料基板23を例えば半時計方向に60〜70度程度傾け、直方体状部26の底部に沿った部分26CをイオンビームIBで走査して、穴25Pと25Qとが通じる底穴を形成する。直方体状部26は試料基板23と完全に切り離されるか僅かに保持されている状態となり、試料ブロック27が形成される。
【0045】
次に、図2(a)に示すように、試料基板23を水平に戻し、ステージ16から試料基板23を取り外し、図17の光学顕微鏡システムのステージ33上に置く。
【0046】
ナノピンセット40の先端を試料ブロック27に接近させ、段差加工によって生じた試料ブロック27上部の凸部27aをナノピンセット40で掴む。試料ブロック27を試料基板23から掴みだし、図2(b)のようにシリコンブロック29の(試料ベース)の端面29aに予め形成された溝41に試料ブロック27を差し込む。
【0047】
このとき、試料ブロック27の外壁面と溝41の内壁面の摩擦力が大きくて、ナノピンセット40で試料ブロックを把持する力だけでは試料ブロック27を溝41に圧入することが困難であっても、ナノピンセット40は試料ブロック27の凸面27aを掴んでいるので、段差部をナノピンセット40の先端で押すことができる。従って、ナノピンセット40で試料ブロック27の外壁面を把持しているだけの場合と比較すると、格段に強い力で試料ブロック27を溝41に圧入することが可能となる。
【0048】
図3(a)のように溝41に圧入された試料ブロック27は、図3(b)に示すようにTEM観察用の試料ホルダ本体9Aに取り付けられ、FIBに装着される。そして、図4に示すように、試料ブロック27の凸部27aにイオンビームIBが照射されて、更に薄いTEM観察用の薄膜が形成されるように仕上げ加工が施される。
【0049】
薄膜加工が完了したら、FIBから薄膜試料をホルダ本体9Aごと取り出し、そのまま図5に示すようなTEMの試料ステージ9に装着する。図16のように観察試料Sに電子ビームEBを照射して、観察や分析を行なうことができる。
【0050】
前述したように、観察試料Sの基体である試料ブロック27は、シリコンブロック29(試料ベース)に確実に固定されている。そのため、試料ホルダ本体9AをFIBに装着するとき、またFIBから外してTEMに搬送するとき、試料ステージに装着するとき等、試料ホルダ本体9Aに衝撃が加わっても試料ブロック27は試料ホルダ本体9Aに安定に保持される。
【0051】
なお、上記の説明において、試料ブロック27の上部に形成する凸部27aの段差を、図4に示すようなTEM観察用薄膜の方向と平行になるように形成する場合を例にとったが、図15に示すようにTEM観察用薄膜の方向と直角となるように段差を形成しても良い。
【0052】
また、上記の説明において、試料ブロック27の上部に段差を形成してから試料ブロック27を試料基板23から取り出すようにしたが、一旦試料基板から取り出した後に試料ブロックの一部に段差加工を施すことも可能である。しかし、観察所望部位を含む凸部を正確に形成するためには、試料ブロック27を試料基板23から取り出す前に、段差加工を行なうことが望ましい。
【0053】
なお、実施の形態1及び2で、溝41をシリコンブロック29に形成する例を示したが、半切りメッシュ28を試料ベースとして、その端面28aに溝41を形成するようにしても良い。
【0054】
以上述べたように、本発明によれば、集束イオンビームを用いて透過型電子顕微鏡で観察をおこなうための薄膜試料を作製する方法において、大きな試料基板から観察所望部位を確実に抽出し、薄膜試料作製のための仕上げ加工を行なう際に、観察所望部位を試料ホルダに安定して保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】

【図1】本発明の方法で集束イオンビーム装置により段差を形成した試料ブロックの加工手順を説明するための図。
【図2】本発明の方法で上部に段差を形成した試料ブロックをナノピンセットで掴んで溝に圧入する様子を示す図。
【図3】本発明の方法で溝に圧入された試料ブロックとTEM観察用の試料ホルダとの関係を示す図。
【図4】本発明の方法で試料ブロックの上部に形成された凸部に集束イオンビームを照射してTEM観察用の薄膜を作製する方法を示す図。
【図5】透過型電子顕微鏡の概略構成例を示す図。
【図6】集束イオンビーム装置の概略構成例を示す図。
【図7】従来方法で用いるマニピュレータを備えた光学顕微鏡装置の構成概略例を示す図。
【図8】従来方法で集束イオンビーム装置による試料基板の加工手順の一部を説明するための図。
【図9】従来方法で集束イオンビーム装置による試料ブロックの形成手順を説明するための図。
【図10】従来方法でピックアップ用プローブ付着させた試料ブロックをシリコンブロックに載せる手順を説明するための図。
【図11】シリコンブロックが接着された半切りメッシュの概略図。
【図12】半切りメッシュを装着したカートリッジの概略図。
【図13】TEM観察用の試料ホルダにカートリッジを取り付ける様子を示す図。
【図14】本発明の方法で試料ブロックをナノピンセットで掴んで溝に圧入する様子を示す図。
【図15】本発明の方法で試料ブロック上部の段差をTEM観察用薄膜の方向と直角となるように形成する例を示す図。
【図16】本発明の方法で作製したTEM観察用の薄膜試料に電子ビームを照射して観察を行なう様子を示す図。
【図17】本発明に用いるマニピュレータを備えた光学顕微鏡装置の概略構成例を示す図。
【図18】従来方法でTEM観察用の薄膜試料を作製する手順を説明するための図。
【符号の説明】
【0056】
(同一または類似の動作を行なうものには共通の符号を付す。)
1…電子光学系鏡筒
2…電子銃
3…集束レンズ
4…対物レンズ
5…中間レンズ
6…投影レンズ
7…像観察室
8…蛍光板
9…試料ステージ
9A…試料ホルダ本体
9B…試料ホルダ駆動機構
10…イオン源
11…集束レンズ
12…X方向偏向器
13…Y方向偏向器
14…対物レンズ
15…加工室
16…ステージ
17…マニピュレータ
18…ピックアップ用プローブ
19…駆動機構
20…ガス源
21…ガスノズル
22…2次電子検出器
23…試料基板
26…直方体状部
27…試料ブロック
28…半切りメッシュ
29…シリコンブロック
30…カートリッジ
32…光学顕微鏡装置
33…試料台
34…光学系鏡筒
35…マニピュレータ駆動機構
36…ピックアップ用プローブ
37…マニピュレータ
40…ナノピンセット(微小物把持装置)
41…溝
45…マニピュレータ駆動機構
47…マニピュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビーム装置内で試料基板に集束イオンビームを照射して観察所望部位を含む試料ブロックを試料基板から分離する加工を行なった後、該試料ブロックを載置した該試料基板を集束イオンビーム装置から大気中に取り出し、光学顕微鏡下で該試料ブロックを該試料基板から取り出し、透過型電子顕微鏡用試料ホルダに装着可能な試料ベースに該試料ブロックを固定した後、再び集束イオンビーム装置内で該試料ブロックの観察所望部位に集束イオンビームを照射して、透過型電子顕微鏡で観察を行なうための薄膜試料を作製する方法において、
前記試料ブロックをマニピュレータ先端に取り付けた微小物把持装置により把持して該試料基板から取り出し、把持されている該試料ブロックを該微小物把持装置によって前記試料ベースに予め形成された溝に差し込み、該溝の内壁面と前記試料ブロックの外壁面との接触部に生じる摩擦力により前記試料ブロックを前記試料ベースに固定するようにした、ことを特徴とする薄膜試料作製方法。
【請求項2】
前記試料ブロックを圧入するための前記溝の対向する内壁面の組み合わせのうち少なくともひとつの組み合わせにおける溝の幅を、前記試料ブロックにおける外壁面の組み合わせのうち少なくともひとつの組み合わせにおける厚さと略同じ大きさとなるように形成した、ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜試料作製方法。
【請求項3】
前記微小物把持装置によって把持される前記試料ブロック把持部分を予め集束イオンビームによって研削し段差部を形成し、前記試料ブロックを前記微小物把持装置で掴んで前記溝に圧入するときに、前記微小物把持装置による押圧力を前記段差部に作用させるようにした、ことを特徴とする請求項1乃至2の何れか1項に記載の薄膜試料作製方法。
【請求項4】
前記段差部の形成を行なった後に、前記試料ブロックを前記試料基板から取り出すようにした、ことを特徴とする請求項3に記載の薄膜試料作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−216534(P2009−216534A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60471(P2008−60471)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】