薄膜金属積層体の製造方法
【課題】 基材の種類にかかわらず、短時間で、かつ薄膜金属層と、基材との間で優れた密着性を有する薄膜金属積層体が得られる薄膜金属積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】 基材上への薄膜金属積層体の製造方法であって、下記工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする。
(1)基材を準備する工程
(2)基材表面に対して、ケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を吹き付け処理するか、あるいは、ケイ素含有化合物の気体状物を、400℃以上の熱源を介して吹き付け処理する工程
(3´)紫外線硬化型樹脂からなる下地層を形成する工程
(3)薄膜金属層を金属イオンの還元処理、例えば、銀鏡反応により形成する工程
【解決手段】 基材上への薄膜金属積層体の製造方法であって、下記工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする。
(1)基材を準備する工程
(2)基材表面に対して、ケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を吹き付け処理するか、あるいは、ケイ素含有化合物の気体状物を、400℃以上の熱源を介して吹き付け処理する工程
(3´)紫外線硬化型樹脂からなる下地層を形成する工程
(3)薄膜金属層を金属イオンの還元処理、例えば、銀鏡反応により形成する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜金属積層体の製造方法に関し、特に、基材(下地層付きの基材を含む場合がある。以下、同様である。)と、薄膜金属層との間の密着力に優れた薄膜金属積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銀鏡反応を用いて薄膜金属層を形成する場合、図11の製造フローチャートに示すように、工順4に示すプライマー塗布や工順6に示すアンダーコート塗布以外に、工順8や工順10、あるいは工順13に示すように、特定の活性化処理剤(第1ズスイオンやパラジウムイオンの塩酸溶液)や安定化剤を使用して、複数の活性化処理や安定化処理を施すことが必須とされてきた(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、特定の活性化処理剤や安定化剤を使用して、複数の活性化処理や安定化処理を実施するためには、長時間を要する一方、活性化処理効果や安定化処理効果が不十分となりやすく、形成した薄膜金属層と、基材との間の密着性が未だ乏しく、基材から薄膜金属層が容易に剥離したり、使用する塩酸等のために薄膜金属層が腐食したり、割れたりしやすいという問題も見られた。
また、上述した薄膜金属層のみならず、従来の薄膜金属層は、基材の種類との選択性が顕著であって、ポリプロピレンやポリエステル等に対して、薄膜金属層を均一かつ強固に形成するのが困難であった。
一方、本発明の発明者は、基材に対して、ケイ素含有化合物を含む燃料ガスからなる火炎を吹き付け処理して、ケイ酸化炎処理する際に、シラン原子等を含有するケイ素含有化合物を比較的多量に使用した場合であっても、効率的に燃焼しやすくして、基材等の表面を均一かつ十分に改質できる表面改質方法を提案している(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、かかるケイ酸化炎処理を実施することにより、体積抵抗率(表面抵抗)の値を調節できるという事実は見出せられておらず、さらには、それを利用して、金属イオンの還元反応によって形成される薄膜金属層あるいはその下地層としての密着効果や導電性の安定化効果を高めるために使用できるという事実は見出せられていなかった。
【特許文献1】特開2004−190061号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】WO03/069017号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明の発明者らは鋭意検討した結果、基材上に、銀鏡反応等に代表される金属イオンの還元反応によって薄膜金属層を形成するに先立ち、所定のケイ酸化炎処理等を施すことにより、基材の種類にかかわらず、短時間で、かつ薄膜金属層と、基材との間で優れた密着性を有する薄膜金属積層体が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
よって、本発明の目的は、迅速かつ簡易な前処理方法により、薄膜金属層と、基材との間で優れた密着性が得られる薄膜金属積層体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、基材上への薄膜金属積層体の製造方法であって、下記工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする薄膜金属積層体の製造方法が提供され、上述した問題を解決することができる。
(1)基材を準備する工程
(2)基材表面に対して、ケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を吹き付け処理するか、あるいは、ケイ素含有化合物の気体状物を、400℃以上の熱源を介して吹き付け処理する工程
(3)薄膜金属層を金属イオンの還元反応により形成する工程
【0005】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、薄膜金属層の厚さを0.01〜100μmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0006】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、薄膜金属層が、主成分として、金、銀、銅、ニッケル、およびアルミニウムの少なくとも一つ、特に銀を含むことが好ましい。
【0007】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、工程(2)において、基材表面の濡れ指数(測定温度25℃)を40〜80dyn/cmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0008】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、工程(2)において、基材表面の体積抵抗率を1×104〜1×1010Ω・cmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0009】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、工程(2)と、工程(3)との間に、(3´)下地層を形成する工程をさらに設けて、基材と、薄膜金属層との間に、下地層を形成することが好ましい。
【0010】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、火炎または気体状物の吹き付け時間を、単位面積(100cm2)あたり、0.1秒〜100秒の範囲内の値とすることが好ましい。
【0011】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、基材が、主成分として、ガラス材料、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびポリイミド樹脂の少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、工程(3)の後に、(4)保護層を形成する工程をさらに設けて、薄膜金属層の表面に保護層を形成することが好ましい。
【0013】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、下地層および保護層、あるいはいずれか一方を、紫外線硬化型樹脂から形成することが好ましい。
【0014】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、薄膜金属積層体を、遊戯具、電気製品、車両、機械部品、工具、家具、または装飾品の一部として形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、基材に対して、薄膜金属層を、銀鏡反応等の金属イオンの還元反応により形成する前に、ケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を吹き付け処理するか、あるいは、ケイ素含有化合物の気体状物を、所定温度以上の熱源を介して吹き付け処理することにより、薄膜金属層と、基材との間で優れた密着性を得ることができる。
すなわち、ケイ素含有化合物が火炎または熱源により迅速に熱分解するとともに、反応して、基材の表面において、凹凸形状を有するとともに、所定の体積抵抗率を有するシリカ層を形成し、特殊な導電性下地層としての機能を発揮させることができる。その結果、薄膜金属層と、基材との間で優れた密着性を得ることができる。
また、基材の表面において形成される凹凸形状を有するとともに、所定の体積抵抗率を有するシリカ層が、所定の平滑化機能を発揮することができ、より均一で、滑らかな薄膜金属層あるいはその下地層を形成することができる。
さらに、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、複数の表面活性化処理や紫外線硬化処理の前処理等についても適宜省略できるため、連続的かつ迅速な製造を実施することができ、結果として、薄膜金属積層体を低コストで製造することもできる。
【0016】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、薄膜金属層の厚さを所定厚さとすることにより、所定の導電性、光反射特性、装飾性、あるいは耐久性等を得ることができる。
【0017】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、薄膜金属層が、主成分として、銀や銅等の少なくとも一つを含むことにより、薄膜金属層において所定の導電性や光反射特性を得ることができるとともに、薄膜金属層の抵抗についても安定化させることができる。
なお、従来から金属イオンの還元反応に使用されている硝酸銀およびその還元剤の組み合わせがそのまま使用でき、かつ導電性や光反射特性が優れていることから、薄膜金属層の主成分としては、銀を含むことがより好ましい。
【0018】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、工程(2)において、基材表面の濡れ指数(測定温度25℃)を所定範囲の値に調整することにより、薄膜金属層と、基材との間で、さらに優れた密着性を安定的に得ることができる。
【0019】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、工程(2)において、基材表面の体積抵抗率を所定範囲の値に調整することにより、特殊な導電性改善層としての機能を発揮させることができる。したがって、薄膜金属層と、基材との間でさらに優れた密着性を得ることができ、かつ、薄膜金属層の抵抗についても安定化させることができる。
また、下地層に着色剤や導電粒子等を添加することにより、薄膜金属積層体の装飾効果や外観性、さらには薄膜金属層の抵抗についてもより安定化させることができる。
【0020】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、特定の下地層を形成する工程(3´)をさらに設けることにより、薄膜金属層の下方に設けた下地層と、基材との間でさらに優れた密着性を得ることができる。
【0021】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、所定の火炎または気体状物の吹き付け時間を、単位面積あたり、所定時間の範囲内の値とすることにより、当該基材の体積抵抗率や濡れ指数の制御を容易に実施することができる。
【0022】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、基材が、主成分として、ガラス材料、ポリカーボネート樹脂あるいはポリイミド樹脂等を含むことにより、所定の耐熱性を得ることができる。また、基材が、主成分として、ポリエステル樹脂やポリオレフィン樹脂等を含むことにより、所定の柔軟性や軽量性を得ることができる。
【0023】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、工程(4)をさらに設けて、薄膜金属層の表面に保護層を形成することにより、薄膜金属積層体の耐久性を著しく向上させることができる。また、保護層に着色剤や導電粒子等を添加することにより、薄膜金属積層体の装飾効果や外観性を向上させたり、さらには薄膜金属層の抵抗についてもより安定化させたりすることができる。
【0024】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、薄膜金属積層体を、遊戯具等の一部として形成することにより、当該遊戯具等の装飾を容易かつ迅速に行なうことができる。
なお、遊戯具等は、メッキ形成箇所が多く、それを本発明の薄膜金属積層体に置き換えることにより、極めて経済的に製造することができるという利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、基材上への薄膜金属積層体の製造方法であって、図1や図2に例示するように、下記工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする薄膜金属積層体の製造方法である。
(1)基材を準備する工程(以下、準備工程と称する場合がある。)
(2)基材表面に対して、ケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を吹き付け処理するか、あるいは、ケイ素含有化合物の気体状物を、400℃以上の熱源を介して吹き付け処理する工程(以下、表面処理工程と称する場合がある。)
(3)薄膜金属層を金属イオンの還元反応により形成する工程(以下、金属イオンの還元処理工程と称する場合がある。)
以下、図1〜図10を適宜参照しつつ、本発明の態様を、準備工程と、表面処理工程と、金属イオンの還元処理工程と、それらの後工程である検査工程と、に分けて具体的に説明する。
なお、図1に示す薄膜金属積層体の製造方法は、金属イオンの還元反応を用いた最も簡易な製造フローチャートであり、図2に示す薄膜金属積層体の製造方法は、下地層の形成を含む薄膜金属積層体の製造フローチャートである。
また、図3(a)〜(c)は、本発明によって得られた薄膜金属層86を備えた薄膜金属積層体80、80´、80´´の態様例をそれぞれ示しており、図3(a)に示す薄膜金属積層体80は、基材82上に、特定の表面処理層(シリカ層)84および薄膜金属層86を設けた例であり、図3(b)に示す薄膜金属積層体80´は、基材82上に、特定の表面処理層84と、下地層85と、薄膜金属層86とを設けた例であって、図3(c)に示す薄膜金属積層体80´´は、基材82上に、特定の表面処理層84と、薄膜金属層86と、保護層87と、を設けた例である。
また、図4〜図6は、それぞれ表面処理装置10、10´、50の概要を示す図であり、図7は、表面処理装置10および金属イオンの還元処理装置400を含む薄膜金属積層体の製造ラインの概要を示す図である。さらに、図8は、金属イオンの還元処理装置400に使用されるスプレーガン300の一態様を示す図であり、図9は、かかるスプレータイプの金属イオンの還元処理装置400´の概略図であり、図10は、薄膜金属積層体80の使用例としての遊戯具500の概要を示す図である。
【0026】
1.準備工程
本発明の準備工程において用意される基材の種類は特に制限されるものではないが、例えば、ガラス、金属、セラミック、樹脂等が構成材料として挙げられる。
そして、基材を構成するガラスとしては、具体的に、ソーダガラス(アルカリガラス)、無アルカリガラス、低アルカリガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、リン酸ガラス、鉛ガラス、着色ガラス、導電性ガラス等が挙げられる。
例えば、無アルカリガラスは、そのままでは体積抵抗率が高く、表面活性化処理を施したとしても、金属イオンの還元処理によって、均一な薄膜金属層を形成することが困難であった。そこで、無アルカリガラスの表面に対して、ケイ素含有化合物のケイ酸化火炎処理等を施した後、所定の金属イオンの還元処理を実施することにより、密着性に優れた薄膜金属層を形成することができる。
また、基材を構成する金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、鉄、マグネシウム、ステンレス、ニッケル、クロム、タングステン、亜鉛、スズ、鉛等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
例えば、アルミニウムは軽量金属として多用されているが、表面に酸化膜を形成しやすく、そのままでは金属イオンの還元処理が施せないという問題が見られた。そこで、アルミニウム表面に対して、ケイ素含有化合物のケイ酸化火炎処理等を施した後、金属イオンの還元処理することにより、密着性に優れた薄膜金属層を形成することができる。
また、マグネシウムはリサイクル可能な金属部材として、パーソナルコンピューター等の筐体に近年多用されているが、表面の平滑性が乏しいことから、スパッタリング処理や金属イオンの還元処理を施しても、薄膜金属層が容易に剥離してしまうという問題が見られた。そこで、マグネシウム表面に対して、ケイ素含有化合物のケイ酸化火炎処理等を施した後、金属イオンの還元処理することにより、密着性に優れた薄膜金属層を形成することができる。
【0027】
また、基材を構成するセラミックとしては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化亜鉛、窒化インジウム、窒化スズ、窒化マグネシウム、窒化カルシウム、あるいはこれらセラミック材料からなるれんが、耐火壁、容器、焼き物、セラミック基材等の一種単独または二種以上のセラミックの組み合わせが挙げられる。
例えば、酸化アルミニウム等からなるセラミック基材は、耐熱性、軽量性の回路基板として多用されているが、熱伝導性が良好であって、表面温度を所定温度に保持することが困難であることから、スパッタリング処理や金属イオンの還元処理を施しても、薄膜金属層が容易に剥離してしまうという問題が見られた。そこで、セラミック基材の表面に対して、ケイ素含有化合物を用いたケイ酸化炎処理等を施した後、金属イオンの還元処理を施すことにより、密着性に優れた薄膜金属層を形成することができる。
【0028】
また、基材を構成する樹脂としては、ポリエチレン樹脂(高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高圧法ポリエチレン、中圧法ポリエチレン、低圧法ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、高圧法線状低密度ポリエチレン、超固体量ポリエチレン、架橋ポリエチレン)、ポリプロピレン樹脂、変性ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニル樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリトリフルオロクロロエチレン樹脂、およびエチレン−トリフルオロクロロエチレン共重合体等が挙げられる。
したがって、これらの樹脂を主成分として含む基材に対して、ケイ素含有化合物を用いたケイ酸化炎処理等を施した後、所定の金属イオンの還元処理を施すことにより、密着性に優れた薄膜金属層を形成することができ、薄膜金属層の剥離を有効に防止することができる。
【0029】
また、本発明に使用する基材の形態についても特に制限されるものではないが、例えば、板状、シート状、フィルム状、テープ状、短冊状、パネル状、紐状などの平面構造を有するものであっても良く、あるいは、容器状、筒状、柱状、球状、ブロック状、チューブ状、パイプ状、凹凸状、膜状、繊維状、織物状、束状等の三次元構造を有するものであっても良い。
さらに、上述したガラス、金属、セラミック、樹脂等の複合体であっても良い。例えば、繊維状のガラスやカーボンファイバーに対して、本発明により、ケイ素含有化合物を用いたケイ酸化炎処理等を施した後、金属イオンの還元処理を施すことにより、薄膜金属層を形成することができる。したがって、これらの導電性繊維を、エポキシ樹脂やポリエステル樹脂等のマトリクス樹脂中に均一に分散させることにより、所定の導電性複合体を得ることができる。すなわち、FRPやCFRPを心材とした導電性複合体として、優れた機械的強度や耐熱性、さらには電磁波シールド効果等を発揮することができる。
【0030】
2.表面処理工程
次いで、図1および図2に示す製造フローチャートに示すように、表面処理工程として、基材上に、ケイ素含有化合物を用いたケイ酸化炎処理等を実施する。
【0031】
(1)ケイ素含有化合物
本発明の表面処理工程において使用するケイ素含有化合物の沸点(大気圧下)を10〜200℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるケイ素含有化合物の沸点が10℃未満の値であっては、揮発性が激しくて、取り扱いが困難となる場合があるためである。一方、かかるケイ素含有化合物の沸点が200℃を超えると、空気との混合性が低下し、基材の表面改質が不均一になったり、長時間にわたって、改質効果を持続させることが困難になったりする場合があるためである。
したがって、かかるケイ素含有化合物の沸点を15〜180℃の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜120℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかるケイ素含有化合物の沸点は、ケイ素含有化合物自体の構造を制限することによっても調整することができるが、その他、比較的沸点が低いアルキルシラン化合物等と、比較的沸点が高いアルコキシラン化合物等とを適宜混合使用することによっても調整することができる。
【0032】
また、ケイ素含有化合物の種類についても特に制限されるものではないが、例えば、アルキルシラン化合物やアルコキシシラン化合物等が挙げられる。
このようなアルキルシラン化合物やアルコキシシラン化合物の好適例としては、テトラメチルシラン、テトラエチルシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジフェニルシラン、ジエチルジクロロシラン、ジエチルジフェニルシラン、メチルトリクロロシラン、
メチルトリフェニルシラン、ジメチルジエチルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジクロロジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリクロロエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0033】
また、ケイ素含有化合物において、分子内または分子末端に窒素原子、ハロゲン原子、ビニル基およびアミノ基の少なくとも一つを有することがより好ましい。
より具体的には、ヘキサメチルジシラザン(沸点:126℃)、ビニルトリメトキシシラン(沸点:123℃)、ビニルトリエトキシシラン(沸点:161℃)、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(沸点:144℃)、トリフルオロプロピルトリクロロシラン(沸点:113〜114℃)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(沸点:215℃)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(沸点:217℃)、ヘキサメチルジシロキサン(沸点:100〜101℃)、および3−クロロプロピルトリメトキシシラン(沸点:196℃)の少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
この理由は、このようなケイ素含有化合物であれば、キャリアガスとの混合性が向上し、基材の表面に、粒状物(シリカ層)を形成して改質がより均一になるとともに、沸点等の関係で、かかるケイ素含有化合物が基材の表面に一部残留しやすくなるため、基材と、薄膜金属層との間で、より優れた密着力を得ることができるためである。
【0034】
(2)火炎
本発明の表面処理工程において、図4に示すように、ケイ素含有化合物14を基材40
に対して均一に吹き付けるとともに、ケイ素含有化合物14を容易に熱分解して、酸化させるために、火炎を用いることが好ましい。
すなわち、所定量のケイ素含有化合物を、燃料ガス中に混合し、それを燃焼させて火炎とし、それを基材の表面に吹き付けることが好ましい。
そのため、火炎の温度を500〜1、500℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる火炎の温度が500℃未満の値になると、ケイ素含有化合物の不完全燃焼を有効に防止することが困難になる場合があるためである。一方、かかる火炎の温度が1、500℃を超えると、表面改質する対象の基材が、熱変形したり、熱劣化したりする場合があり、使用可能な基材の種類が過度に制限される場合があるためである。したがって、火炎の温度を550〜1、200℃の範囲内の値とすることが好ましく、600〜900℃未満の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0035】
また、火炎を用いるにあたり、ケイ素含有化合物の添加量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、1×10-10〜10モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるケイ素含有化合物の添加量が1×10-10モル%未満の値になると、基材に対する改質効果が発現しない場合があるためである。一方、かかるケイ素含有化合物の添加量が10モル%を超えると、ケイ素含有化合物と空気等との混合性が低下し、それにつれてケイ素含有化合物が不完全燃焼する場合があるためである。
したがって、ケイ素含有化合物の添加量を、気体状物の全体量を100モル%としたときに、1×10-9〜5モル%の範囲内の値とすることがより好ましく、1×10-8〜1モル%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0036】
また、かかる火炎温度の制御が容易にできることから、燃料ガス中に、通常、引火性ガスや可燃性ガス、あるいは空気等(以下、引火性ガス等と称する場合がある)を添加することが好ましい。
このような引火性ガス等としては、プロパンガスや天然ガス等の炭化水素、水素、酸素等が挙げられる。なお、燃料ガスをエアゾール缶に入れて使用する場合には、このような引火性ガス等として、プロパンガスおよび圧縮空気等を使用することが好ましい。
また、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、このような引火性ガス等の含有量を80〜99.9モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる引火性ガス等の含有量が80モル%未満の値になると、ケイ素含有化合物との混合性が低下し、それにつれてケイ素含有化合物が不完全燃焼する場合があるためである。一方、かかる引火性ガス等の添加量が99.9モル%を超えると、基材に対する改質効果が発現しない場合があるためである。
したがって、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、引火性ガス等の添加量を85〜99モル%の範囲内の値とすることがより好ましく、90〜99モル%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0037】
また、ケイ素含有化合物を容易に移送して、燃料ガス中に均一に混合するために、キャリアガスを使用することも好ましい。すなわち、ケイ素含有化合物と、キャリアガスとを予め混合し、それを所定箇所に移送した後、引火性ガス等に混合することが好ましい。
この理由は、かかるキャリアガスを使用することにより、比較的分子量が大きく、移動しづらいケイ素含有化合物を用いた場合であっても、所定箇所に容易に移送することができるとともに、引火性ガス等と均一に混合することができるためである。すなわち、キャリアガスを用いることにより、ケイ素含有化合物の取り扱いが容易になるばかりか、燃焼しやすくして、基材の表面改質を均一かつ十分に実施することができる。
なお、このようなキャリアガスとして、上述した燃料ガス中に添加する同種のガスが使用できるが、具体的に、空気や酸素、あるいはプロパンガスや天然ガス等の炭化水素を挙げることができる。
【0038】
(3)熱源
また、本発明の表面処理工程において、図5に示すように、火炎の代わりにケイ素含有化合物14を熱分解するための熱源25を使用するとともに、当該熱源25の温度を400〜2、500℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる熱源の温度が400℃未満の値になると、ケイ素含有化合物を熱分解して、基材の表面等に所定形状を有する粒状物を形成することが困難になる場合があるためである。一方、かかる熱源の温度が2、500℃を超えると、気体状物が過度に加熱され、表面改質する対象の基材が、熱変形したり、熱劣化したりする場合があるためである。
したがって、熱源の温度を500〜1、800℃の範囲内の値とすることが好ましく、800〜1、200℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0039】
また、熱源の種類は特に制限されるものではないが、例えば、レーザー、ハロゲンランプ、赤外線ランプ、高周波コイル、誘導加熱装置、熱風ヒーター、およびセラミックヒーターからなる群から選択される少なくとも一つの加熱手段を用いることが好ましい。
例えば、レーザーを用いることにより、スポット的に、極めて迅速に加熱して、ケイ素含有化合物を熱分解させて、例えば、基材として、ナノオーダーのパターン化された半導体基板についての表面処理が可能となる。
また、ハロゲンランプや赤外線ランプを用いることにより、極めて均一な温度分布でもって、大量のケイ素含有化合物の熱分解が可能となり、例えば、基材として、オレフィンフィルム等の効率的な表面処理が可能となる。
また、高周波コイルや誘導加熱装置を用いることにより、極めて迅速に加熱して、ケイ素含有化合物を熱分解させて、例えば、基材の効率的な表面処理が可能となる。
さらに、熱風ヒーターやセラミックヒーターを用いることにより、例えば、2000℃を超える温度処理が、小規模から大規模まで各種サイズにおいて可能となり、ケイ素含有化合物を容易に熱分解させて、例えば、基材として、セラミック基材等の効率的な表面処理が可能となる。
【0040】
(4)処理時間
また、本発明において火炎または熱源を介した気体状物の吹き付け時間(噴射時間)を、単位面積(100cm2)あたり、0.01秒〜100秒の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる噴射時間が0.01秒未満の値になると、ケイ素含有化合物による改質効果が均一に発現しない場合があるためである。一方、かかる噴射時間が100秒を超えると、表面改質する対象の基材が、熱変形したり、熱劣化したりする場合があり、使用可能な基材の種類が過度に制限される場合があるためである。
したがって、かかる噴射時間を、単位面積(100cm2)あたり、0.3〜30秒の範囲内の値とすることが好ましく、0.5〜20秒の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0041】
(5)火炎型表面処理装置
また、本発明において所定の火炎を吹き付けるにあたり、図4に示すように、ケイ素含有化合物14を貯蔵するための第1の貯蔵タンク12と、圧縮空気や引火性ガス等を貯蔵するための第2の貯蔵タンク27と、圧縮空気等と、ケイ素含有化合物14とを混合し、燃料ガスとする混合室22と、得られた燃料ガスを移送するための移送部24と、燃料ガスの火炎34を吹き付けるための噴射部32と、を含む火炎型表面処理装置10を用いることができる。
すなわち、この例では、第1の貯蔵タンク12の下方に、ヒーターや電熱線、あるいは熱交換器に接続した加熱板等からなる加熱手段16が備えてあり、通常、常温、常圧状態では液状のケイ素含有化合物14が気化できるように構成してある。
そして、基材40を表面処理する際には、加熱手段16によって、第1の貯蔵タンク12内のケイ素含有化合物14を所定温度に加熱し、気化させた状態で、混合室22において、第2の貯蔵タンク27から移送した圧縮空気や引火性ガス等と混合して、燃料ガスとする。
なお、燃料ガス中におけるケイ素含有化合物の含有量は極めて重要であるため、当該ケイ素含有化合物の含有量を間接的に制御すべく、第1の貯蔵タンク12に圧力計(または液面のレベル計)18を設けて、ケイ素含有化合物14の蒸気圧(またはケイ素含有化合物量)をモニターし、第1の貯蔵タンク12におけるケイ素含有化合物量が減少した場合には、当該ケイ素含有化合物を予備タンク19から追加することが好ましい。
【0042】
また、燃料ガスの移送部24は、通常、管構造であって、上述したように、ケイ素含有化合物14と、圧縮空気や引火性ガス等とを均一に混合して、燃料ガスとするための混合室22を備えているとともに、当該混合室22と、後述する噴射部との間の配管24には、流量を制御するための弁30や流量計、あるいは燃料ガスの圧力を制御するための圧力計28を備えている。また、混合室22において、ケイ素含有化合物と、圧縮空気や引火性ガス等とを均一に混合した上で、燃料ガスとしての流量を厳格に制御できるように、混合ポンプや、滞留時間を長くするための邪魔板等を備えることも好ましい。
【0043】
また、噴射部32は、図4に示すように、移送部24の配管を通して送られてきた燃料ガスを燃やし、得られた火炎34を、被処理物である基材40に吹き付けるためのバーナーを備えている。
かかるバーナーの種類も特に制限されるものでないが、例えば、予混合型バーナー、拡散型バーナー、部分予混合型バーナー、噴霧バーナー、蒸発バーナー、微粉炭バーナー等のいずれであっても良い。また、バーナーの形態についても特に制限されるものでなく、例えば先端部に向かって拡大し、全体として扇型の構成であっても良く、あるいは、概ね長方形であって、複数の噴射口が横方向に配列されたバーナーであっても良い。
また、噴射部32の配置、すなわち、バーナーの配置は、被処理物である基材40の表面改質の容易さ等を考慮して決定することが好ましい。例えば、噴射部32を円形または楕円形に沿って配置することも好ましいし、あるいは、被処理物である基材40の両側に近接して配置することも好ましい。
さらに、噴射部32を、被処理物である基材40の片側に所定距離だけ離して配置することも好ましいし、被処理物である基材40の両側にそれぞれ所定距離だけ離して配置することも好ましい。
【0044】
(6)熱源型表面処理装置
また、本発明において、ケイ素含有化合物14を含む気体状物を、熱源を介して吹き付けるにあたり、図5に示すように、ケイ素含有化合物14を貯蔵するための第1の貯蔵タンク12と、圧縮空気等のキャリアガスを貯蔵するための第2の貯蔵タンク27と、圧縮空気等のキャリアガスを加熱するための熱源(第1の熱源)25と、気化したケイ素含有化合物14および圧縮空気等のキャリアガスを混合して、ケイ素含有化合物を含む気体状物とするための混合室22と、ケイ素含有化合物を含む気体状物を所定場所に移送するための移送部24と、当該ケイ素含有化合物を含む気体状物を基材40に対して吹き付けるための噴射部32と、を含む熱源型表面改質装置10´を用いることができる。
【0045】
また、このような熱源型表面改質装置10´を用いて、基材40を表面処理する際には、加熱手段16によって、第1の貯蔵タンク12内のケイ素含有化合物14を、所定温度に加熱し、気化させた状態で、矢印Cで表されるように移送させるとともに、矢印Aで表されるように導入された加熱状態のキャリアガスと混合し、所定温度の気体状物とする。なお、かかる熱源型表面改質装置10´にも、上述した火炎型表面処理装置10と同様の圧力計18や予備タンク等の設備を設けることができる。
さらにまた、ケイ素含有化合物を含む気体状物のきめ細かい温度制御のために、移送部24の途中に、第1の熱源25とは別に、第2の熱源35を設けて、矢印Bで表されるように、加熱状態のキャリアガスを導入することも好ましい。なお、かかる第2の熱源35として、レーザーやハロゲンランプ、あるいはセラミックヒーターからなる群から選択される少なくとも一つの加熱手段を用いることができる。
すなわち、このような構成の熱源型表面改質装置10´であれば、所定温度に制御されたケイ素含有化合物を含む気体状物を、基材40に対してあらゆる方向から吹き付けることができ、基材を均一かつ十分に処理することができる。また、火炎を用いることがなく、表面改質作業中に気体状物を着火したり、消火したりする必要がなく、着火装置等への負担が小さく、表面処理装置を容易に小型化することができる。さらには、ケイ素含有化合物の燃焼性を考慮する必要がなく、ケイ素含有化合物に対する使用制限も少なくなる。
【0046】
また、別の熱源型表面処理装置として、図6に示すように、ニードル型の表面処理装置50を使用することも好ましい。すなわち、かかるニードル型の表面処理装置50は、ケイ素含有化合物14を貯蔵するとともに、所定温度に加熱して気化させるための加熱手段16を備えた貯蔵タンク12と、気化したケイ素含有化合物14を移送するためのポンプ(図示せず)と、ケイ素含有化合物14の流量を制御するための流量弁66と、移送管64と、それに連なるケイ素含有化合物14の加熱室56と、ケイ素含有化合物14を所定温度に加熱するための熱源58と、を備えている。なお、ケイ素含有化合物の貯蔵タンク12から気化したケイ素含有化合物14の流れを矢印A´で表している。
そして、圧縮空気等のキャリアガスを移送するためのポンプ78と、当該キャリアガスの流量を制御するための流量弁76と、ニードル型の表面処理装置50を構成するように、加熱室56の周囲に設けてあるキャリアガスの導入路54a、54bと、所定温度に加熱されたケイ素含有化合物14およびキャリアガスを混合するとともに、基材40に対して吹き付けるための噴射部60と、を備えている。
【0047】
したがって、このように構成されたニードル型の表面処理装置50であれば、矢印A´で表されるように流れるケイ素含有化合物14と、矢印B´で表されるように流れるキャリアガスを均一に混合し、所定温度に制御したケイ素含有化合物を含む気体状物として、基材40に対して、あらゆる方向から吹き付けることができる。
また、このようなニードル型の表面処理装置50であれば、スポット的に、所定箇所のみに表面処理を施すことができる。さらに、このような形態の表面処理装置50であれば、容易に小型化することができ、携帯型の表面処理装置として持ち運びすることもできる。
【0048】
(7)濡れ指数
また、本発明の表面処理工程において表面改質された基材の濡れ指数(測定温度25℃)を40〜80dyn/cmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる基材の濡れ指数が40dyn/cm未満の値になると、金属イオンの還元処理前に、金属活性化処理を十分に実施しても、密着性に優れた薄膜金属層を形成することが困難となる場合があるためである。一方、かかる基材の濡れ指数が80dyn/cmを超えると、過度に表面処理を実施することになり、基材を熱劣化させたり、燃料を過度に消費したりする場合があるためである。
したがって、表面改質された基材において、濡れ指数を45〜78dyn/cmの範囲内の値とすることがより好ましく、50〜75dyn/cmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0049】
(8)接触角
また、本発明の表面処理工程において表面改質された基材の、水を用いて測定される接触角(測定温度25℃)を0.1〜30°の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる基材の接触角が0.1°未満の値になると、過度に表面処理を実施することになり、基材を熱劣化させたり、燃料を過度に消費したりする場合があるためである。一方、かかる基材の接触角が30°を超えると、金属イオンの還元処理前に、金属活性化処理を十分に実施しても、密着性に優れた薄膜金属層を形成することが困難となる場合があるためである。
したがって、表面改質された基材において、水を用いて測定される接触角(測定温度25℃)を0.5〜20°の範囲内の値とすることがより好ましく、1〜10°の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0050】
3.金属イオンの還元処理工程
次いで、図1および図2に示すように、表面処理工程(S2、S2´)の後、金属イオンの還元処理工程(S3、S4´)を実施して、薄膜金属層を形成する。
(1)前処理工程
まず、表面処理工程(S2´)を実施した後、金属イオンの還元処理工程(S4´)を実施する前の前処理工程として、図2に示すように、下地層形成工程(S3´)を設けて、基材表面に下地層を形成することが好ましい。
この理由は、このような下地層を形成することにより、薄膜金属層と、基材との間でさらに優れた密着性を得ることができるとともに、薄膜金属層の電気抵抗についても安定化させることができるためである。
また、基材表面に、文字、図形、記号等のパターン化した下地層を形成することにより、それに対応させて、パターン化した薄膜金属層を形成することができるためである。すなわち、基材表面の所定箇所にパターン化した下地層を形成することにより、その後、全面的に薄膜金属層を設けて、さらに機械的刺激を付与したり、粘着テープを適用したりすることにより、パターン化した薄膜金属層を容易かつ迅速に形成することができる。
【0051】
ここで、形成される下地層の態様は特に制限されるものではないが、例えば、紫外線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂、あるいは熱可塑性樹脂からなる下地層を形成することが好ましい。
この理由は、かかる紫外線硬化型樹脂からなる下地層を形成することにより、加熱処理工程等を設けることなく、迅速に形成することができるためである。一方、熱硬化型樹脂からなる下地層を形成する場合には、露光装置等を省略することができ、安価に形成することができるためである。さらに、熱可塑性樹脂からなる下地層を形成する場合には、硬化処理が不要となるとともに、当該熱可塑性樹脂を含む塗布液等の保存安定性に優れており、製造管理が容易になるためである。
【0052】
また、下地層を構成する紫外線硬化型樹脂等の種類は特に制限されるものではないが、例えば、エポキシアクリレート系紫外線硬化型樹脂、ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂、およびポリエステルアクリレート系紫外線硬化型樹脂等の少なくとも一種を使用することが好ましい。
なお、エポキシアクリレート系の紫外線硬化型塗料は、燐酸基等の極性基を有しても良いエポキシアクリレートオリゴマーと、アクリレートモノマーと、開始剤と、さらには所望により樹脂とから基本的に構成してある紫外線硬化型塗料であることが好ましい。
また、ウレタンアクリレート系の紫外線硬化型塗料は、ウレタンアクリレートオリゴマーと、アクリレートモノマーと、開始剤と、さらには所望により樹脂から基本的に構成してある紫外線硬化型塗料であることが好ましい。
さらに、ポリエステルアクリレート系の紫外線硬化型塗料は、ポリエステルアクリレートオリゴマーと、アクリレートモノマーと、開始剤、さらには所望により樹脂とから基本的に構成してある紫外線硬化型塗料であることが好ましい。
また、下地層を形成する紫外線硬化型樹脂の種類は、密着性に関して少なからず選択性が存在するため、表面処理工程に使用するケイ素含有化合物の種類を考慮して定めることがより好ましい。
例えば、ヘキサメチルジシラザン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリクロロシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等の分子内に窒素原子およびハロゲン原子を含むケイ素含有化合物を使用する場合には、エポキシアクリレート系紫外線硬化型樹脂やウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂を使用することが好ましい。また、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等の分子末端にビニル基やアミノ基を有するケイ素含有化合物を使用する場合には、ポリエステルアクリレート系紫外線硬化型樹脂を使用することが好ましい。
【0053】
また、下地層の厚さを1〜100μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる下地層の厚さが1μm未満になると、薄膜金属層と、基材との間の密着性の向上が困難となったり、所定の電気抵抗や光反射特性、さらには適当な装飾性や耐久性が得られなかったりする場合があるためである。一方、かかる薄膜金属層の厚さが100μmを超えると、ハーフミラーに使用することが困難になったり、あるいは、製造時間が過度にかかって、製造コストが高くなったりする場合があるためである。
したがって、薄膜金属層の厚さを0.1〜50μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜10μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0054】
(2)金属イオンの還元処理装置
次いで、金属イオンの還元処理工程において使用する金属イオンの還元処理装置400について説明する。
かかる金属イオンの還元処理装置400としては、図7に例示されるような装置を典型的に使用することができる。
すなわち、かかる金属イオンの還元処理装置400としては、少なくとも金属塩溶液および還元剤を含む処理液(以下、単に、処理液と称する。)402を収容できる金属イオンの還元処理槽401を備えることが好ましい。また、後述するように、処理液402の温度を制御するために、ヒーター403を備えることが好ましく、その他、図示しないものの、処理液402を一定条件に管理するためのpH計、粘度計、攪拌装置、超音波振動装置等を備えることが好ましい。
なお、かかる金属イオンの還元処理装置400は、図7に示すように、薄膜金属層の製造ラインにおける表面処理工程の次工程に設けられていることが好ましく、その場合、図示しないが、表面処理工程との間に、簡易な金属活性化処理工程や洗浄工程を設けたり、後工程として、別途の洗浄工程や、パターン形成工程や、レジストの除去工程等を設けたりすることも好ましい。
【0055】
また、かかる金属イオンの還元処理装置400の変形例として、図8に示すようなスプレーガン300を使用することも好ましい。
すなわち、このようなスプレーガン300を使用することにより、金属イオンの還元処理装置の小型化が可能になるばかりか、金属イオンの還元反応の制御が容易になったり、あるいは所望箇所に対してのみ処理液402を吹き付けて、薄膜金属層を選択的に形成したりすることも可能となる。
ここで、かかるスプレーガン300をより詳しく説明すると、図8に示すように、ガン本体302は、把手の上端に胴部を配したピストル状をなし、この胴部に、引き金304を枢着している。そして、ガン本体302の先端にヘッド部303が設けてあり、このヘッド部303の前面に、金属塩溶液を吐出する第1の吐出口J1と、当該第1の吐出口J1の周囲に同心円状に配置された還元剤としての第2液を吐出する第2の吐出口J2と、空気を吐出するための空気ノズル口J3と、純水を吐出するための純水ノズル口J4と、を備えている。
従って、引き金304における開閉弁V3の解放により、高圧空気が空気流路P3を通って空気ノズル口から吐出され、このとき高圧空気の一部が、シリンダ室319に流入して、針弁317を後退させる。これによって開閉弁V4が解放され、純水取入口A4から純水流路P4についても吐出される。
よって、かかるスプレーガン300から、例えば、金属塩溶液および還元剤を同時に吹き付け、さらには、これらの吹き付けと同時、あるいはその後に、純水およびエアーを吹き付け、金属イオンの還元反応を均一に生じさせることができる。
なお、図8に示すようなスプレーガン300の変形例として、薄膜金属層の形成箇所に対して、金属塩溶液および還元剤を吹き付けるための第1のスプレーガンと、純水およびエアーを吹き付けるための第2のスプレーガンとをそれぞれ使用することも好ましい。
【0056】
また、かかる金属イオンの還元処理装置400のさらに変形例として、図9に示すようなスプレーユニット400´を使用することも好ましい。
すなわち、コンベア403によってワーク(W)が、矢印Lで示される方向へ搬送される過程で、活性化処理液や洗浄液をスプレーユニット406、457から噴射処理した後、第1の噴射用スプレーユニット454から金属塩溶液、例えば、硝酸銀水溶液が噴射され、第2の噴射用スプレーユニット455から還元剤、例えば、アンモニア水溶液が噴射されると、ワーク(W)の表面で、硝酸銀水溶液中の硝酸銀が還元されて銀が析出することになる。一方、余剰液は純水スプレーユニット453,456から噴射される純水によって洗い流されるので、ワーク(W)表面に銀膜が均一な層厚で連続的に形成されて行く。したがって、金属イオンの還元反応により形成された銀膜は、乾燥ユニットによって、水分が完全に除去されるので、銀膜表面の水分に起因する黄変が防止され、高品位な銀光沢を得ることができる。
なお、図9に示すスプレーユニット400´の場合、還元剤や純水と混合しながらワーク(W)表面に対して、斜め方向に噴射させるための還元液噴射用スプレーユニット451や、純水スプレーユニット452が設けられている。すなわち、銀膜の厚さや還元程度をより正確に調整するためである。
【0057】
(3)金属塩溶液および還元剤
次いで、金属イオンの還元処理工程において用いられる処理液、すなわち、金属塩溶液および還元剤について詳細に説明する。
まず、使用する金属塩溶液(金属錯体溶液を含む。)の種類としては、硝酸金、硝酸銀、硝酸銅、硝酸アルミニウム、硝酸ニッケル等の少なくとも一種が挙げられる。
また、かかる金属塩溶液中の金属濃度を0.001〜3mol/リットルの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる金属濃度が0.001mol/リットル未満の値となると、金属の析出量が著しく低下し、薄膜金属層の生産性が低下する場合があるためである。一方、かかる金属濃度が3mol/リットルを超えると、基材表面に薄膜金属層を均一に形成することが困難となって、同様に薄膜金属層の生産性が低下する場合があるためである。したがって、金属塩溶液中の金属濃度を0.01〜2.5mol/リットルの範囲内の値とすることがより好ましく、0.1〜2mol/リットルの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0058】
一方、還元剤としては、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、ヒドラジン化合物、ヒドロキノン、L−アスコルビン酸およびその塩、ピロカテコール、アンモニア、ブドウ糖、次亜リン酸ナトリウム、亜硫酸塩、ギ酸、無水亜硫酸ナトリウム、L(+)酒石酸、ギ酸アンモニウム等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
これらの還元剤のうち、金属イオンの還元元反応を容易に制御しやすいことから、L−アスコルビン酸およびその塩、アンモニア、あるいは、L−アスコルビン酸およびその塩と、ピロカテコールとの組み合わせを使用することがより好ましい。
また、このような還元剤の濃度を0.001〜3mol/リットルの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる還元剤の濃度が0.001mol/リットル未満の値となると、金属の析出量が著しく低下し、薄膜金属層の生産性が低下する場合があるためである。一方、かかる還元剤の濃度が3mol/リットルを超えると、基材表面に薄膜金属層を均一に形成することが困難となって、同様に薄膜金属層の生産性が低下する場合があるためである。
したがって、還元剤の濃度を0.01〜2.5mol/リットルの範囲内の値とすることがより好ましく、0.1〜2mol/リットルの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0059】
(4)金属イオンの還元処理条件
次いで、金属イオンの還元処理工程における還元処理条件について詳細に説明する。
まず、金属イオンの還元処理を実施する温度、すなわち、金属イオンの還元処理温度を0〜80℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる処理温度が0℃未満になると、所定厚さの薄膜金属層を形成するのに過度に時間がかかる場合があるためである。一方、かかる処理温度が80℃を超えると、金属イオンの還元処理液の濃度調整が困難となって、基材表面に均一な厚さの薄膜金属層を形成することが困難となる場合があるためである。
したがって、金属イオンの還元処理する際の処理温度を5〜50℃の範囲内の値とすることがより好ましく、10〜30℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
また、単位面積(100cm2)あたりの金属イオンの還元処理を実施する時間、すなわち、金属イオンの還元処理時間は、所望の薄膜金属層の厚さ等にもよるが、通常、0.1〜60分の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる処理時間が0.1分未満になると、所望の薄膜金属層の厚さが安定的に得られない場合があるためである。一方、かかる処理時間が60分を超えると、製造時間が過度にかかって、製造コストが高くなる場合があるためである。
したがって、金属イオンの還元処理する際の処理時間を0.5〜30分の範囲内の値とすることがより好ましく、1〜10分の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0060】
4.検査工程
次いで、図1および図2に示すように、金属イオンの還元処理工程において得られる薄膜金属層(全面ベタパターンを含む)の検査工程について説明する。
まず、図7に示す薄膜金属層86を含む薄膜金属積層体80´´の製造ラインにおいて、ラミネート装置410によって、保護フィルム87を積層する前、あるいはその後において、薄膜金属層86の厚さ、幅、あるいは形状等を検査することが好ましい。
かかる検査工程において、例えば、薄膜金属層の厚さが0.01〜100μmの範囲内の値であることを検査することが好ましい。
この理由は、かかる薄膜金属層の厚さが0.01μm未満になると、所定の電気抵抗や光反射特性、さらには適当な装飾性や耐久性が得られない場合があるためである。一方、かかる薄膜金属層の厚さが100μmを超えると、ハーフミラーに使用することが困難になったり、あるいは、製造時間が過度にかかって、製造コストが高くなったりする場合があるためである。
したがって、薄膜金属層の厚さを0.1〜50μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜10μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
また、薄膜金属層の形状は用途によるが、検査工程において、例えば、直線状、らせん状、曲線状、円状、ループ状、あるいは、三次元構造等、種々の形態に形成されているか否かを検査することが好ましい。
さらに、金属イオンの還元処理工程の後に、パターニング工程やレジスト処理工程、あるいはメッキ処理工程等を設けた場合には、文字、図形、記号等のパターン化した薄膜金属層の態様の是非を検査することも好ましい。
【0061】
なお、検査工程を実施するに際して、上述したように薄膜金属層の表面に保護フィルムを積層する前に、さらに保護層を形成する工程を設けることも好ましい。
この理由は、薄膜金属層の表面に、紫外線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂、あるいは熱可塑性樹脂や無機材料等からなる保護層を形成することにより、薄膜金属層の耐久性や耐スクラッチ性を著しく向上させることができるためである。また、形成する保護層中に、着色剤や導電粒子等を添加することにより、薄膜金属積層体の装飾効果や外観性を向上させたり、さらには薄膜金属層の抵抗についてもより安定化させたりすることができるためである。
ここで、保護層を構成する紫外線硬化型樹脂等としては、上述した下地層と同様の紫外線硬化型樹脂等から形成することもできるし、あるいは、下地層と異なる紫外線硬化型樹脂等を用いることもできる。
また、保護層の厚さについても、用途等を考慮して定めることができるが、通常、0.01〜100μmの範囲内の値でとすることが好ましい。
この理由は、かかる保護層の厚さが0.01μm未満の値になると、薄膜金属層に対する保護効果が不十分となったり、均一な厚さに形成することが困難となったりする場合があるためである。一方、かかる保護層の厚さが100μmを超えると、薄膜金属層に対する保護効果が不十分となったり、均一な厚さに形成することが困難となったりする場合があるためである。
【0062】
5.対象物
本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、各種用途の対象物の製造方法に展開することができるが、例えば、遊戯具、電気製品、車両、機械部品、工具、家具、または装飾品の一部として、本発明の薄膜金属積層体を形成することが好ましい。例えば、図10に示すような薄膜金属積層体を一部に備えた遊戯具500を提供することができる。
また、対象物として、薄膜金属積層体を、薄膜金属パターンとして、通信用アンテナ、電子タグ用アンテナ、電気回路用配線パターン、電磁波シールド用金属パターンまたは装飾用金属パターンとして使用することも好ましい。
【実施例】
【0063】
[実施例1]
1.薄膜金属積層体の製造
基材として、ポリプロピレンフィルム(縦10cm×横10cm×厚さ125μm、表1中、PPと称する。)を準備し、当該ポリプロピレンフィルムの表面に対して、図4に示す表面改質装置を用いて、ケイ酸化炎処理を単位面積当り(100cm2)、0.2秒間実施した。なお、燃料ガスとして、ヘキサメチルジシラザンを0.01モル%、残りの99.99モル%がプロパンガスを所定量含む圧縮空気であるカートリッジ入りの混合ガスを用いた。
次いで、紫外線硬化型樹脂であるPES−B(SC)((株)イシマット・ジャパン製)を表面処理した基材上に塗布した後、紫外線を300mJ/cm2照射して、厚さ10μmの下地層を形成した。
次いで、形成した下地層上に、図7に示す金属イオンの還元処理装置を用いて、厚さ0.5μmの銀層を全面的に形成した。その後、オーブンを用いて、100℃、10分の条件で加熱処理を施し、さらに乾燥させた後、形成した銀層の上に下地層と同様の紫外線硬化型樹脂からなる厚さ10μmの保護層を形成して実施例1の薄膜金属積層体とした。
【0064】
2.基材および薄膜金属層の評価
(1)体積抵抗率
ケイ酸化炎処理した段階におけるポリプロピレンフィルムにおける体積抵抗率(表面抵抗)を、JIS K 6911に準拠して測定した。また、ケイ酸化炎処理前のポリプロピレンフィルムの体積抵抗率を同様に測定した。得られた結果を表1に示す。
【0065】
(2)濡れ指数
ケイ酸化炎処理した段階におけるポリプロピレンフィルムにおける濡れ指数を、標準液を用いて測定した。また、ケイ酸化炎処理前のポリプロピレンフィルムの濡れ指数を同様に測定した。得られた結果を表1に示す。
【0066】
(3)密着性
JIS K−5400に準拠した碁盤目試験を実施し、以下の基準に沿って薄膜金属層と、ポリプロピレンフィルムとの間の密着性を評価した。得られた結果を表1に示す。
◎:100個の碁盤目試験で、全く剥がれが無い。
○:100個の碁盤目試験で、剥がれ数は1〜2個である。
△:100個の碁盤目試験で、剥がれ数は3〜10個である。
×:100個の碁盤目試験で、剥がれ数は11個以上である。
【0067】
[実施例2〜6]
実施例2〜6では、表1に示すように、ケイ素含有化合物の種類および表面処理時間を変えた他は、それぞれ実施例1と同様に、ポリプロピレンフィルム上に薄膜金属層を形成し、薄膜金属層の密着性等の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0068】
[実施例7〜10]
実施例7〜10では、ポリプロピレンフィルムの代わりに、PETフィルム(縦10cm×横10cm×厚さ125μm、表1中、PETと称する。)を用いた他は、それぞれ実施例1〜4と同様に薄膜金属層を形成したPETフィルムを作成し、密着性等の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0069】
[実施例11〜14]
実施例11〜14では、ポリプロピレンフィルムの代わりに、ポリカーボネートフィルム(縦10cm×横10cm×厚さ2mm、表1中、PCと称する。)を用いた他は、それぞれ実施例1〜4と同様に薄膜金属層を形成したポリカーボネートフィルムを作成し、密着性等の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0070】
[実施例15〜18]
実施例15〜18では、ポリプロピレンフィルムの代わりに、低アルカリガラス板(縦10cm×横10cm×厚さ2mm、表1中、ガラスと称する。)を用いた他は、それぞれ実施例1〜4と同様に薄膜金属層を形成したガラス板を作成し、密着性等の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0071】
[比較例1〜4]
比較例1〜3では、ポリプロピレンフィルム、PETフィルム、ポリカーボネートフィルムおよび低アルカリガラス板の表面に、ケイ酸化炎処理を行なわず、スズおよびパラジウムによる複数の活性化処理を施した後、金属イオンの還元処理を実施した他は、それぞれ実施例1、実施例7、実施例11および実施例15と同様に薄膜金属層を形成し、密着性等の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
*HMDN:ヘキサメチルジシラザン
*VTMS:ビニルトリメトキシシラン
*HMDN/ETA:ヘキサメチルジシラザン/エタノール
*HMDS:ヘキサメチルジシロキサン
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上の説明の通り、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、基材上に、金属イオンの還元処理を実施して薄膜金属層を形成する前に、あるいは基材上にかかる薄膜金属層の下地層を形成する前に、当該基材の表面に対して、ケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を吹き付け処理するか、あるいは、ケイ素含有化合物の気体状物を、所定温度以上の熱源を介して吹き付け処理することにより、均一な厚さを有し、かつ、密着性に優れた薄膜金属層を備えた薄膜金属積層体を得ることができるようになった。
したがって、ガラスやセラミック等あるいは、ポリエステル樹脂やポリプロピレン樹脂等の各種基材に対しても、簡易かつ迅速な製造工程よって、密着性に優れた薄膜金属層を形成することができる。
すなわち、薄膜金属積層体を備えた対象物として、薄膜金属積層体を多用する遊戯具や電気製品等を安価に提供することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の薄膜金属積層体の製造フローチャートである。
【図2】本発明の別の薄膜金属積層体の製造フローチャートである。
【図3】(a)〜(c)は、薄膜金属積層体の製造方法により得られた積層体を説明するために供する図である。
【図4】火炎型表面改質装置を説明するために供する図である。
【図5】熱源型表面処理装置を説明するために供する図である。
【図6】ニードル型の表面処理装置を説明するために供する図である。
【図7】金属イオンの還元処理装置を説明するために供する図である。
【図8】金属イオンの還元処理装置としてのスプレーガンを説明するために供する図である。
【図9】金属イオンの還元処理装置としてのスプレー装置を説明するために供する図である。
【図10】遊戯具を説明するために供する図である。
【図11】従来の薄膜金属積層体の製造フローチャートである。
【符号の説明】
【0075】
10、10´:火炎型表面改質装置
12:ケイ素含有化合物の貯蔵タンク(第1の貯蔵タンク)
14:ケイ素含有化合物
16:加熱手段
18:圧力計
22:混合室
24:移送部
25:熱源
27:キャリアガスの貯蔵タンク
28:圧力計
32:噴射部
35:第2の熱源
37:キャリアガスの第2の貯蔵タンク
40:基材
80、80´、80´´:積層体
82:基材
84:表面処理層(シリカ層)
86:薄膜金属層
87:保護層(保護フィルム)
100:熱源型表面処理装置
200:ニードル型の表面処理装置
300:スプレーガン
400、400´:金属イオンの還元処理装置
500:遊戯具
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜金属積層体の製造方法に関し、特に、基材(下地層付きの基材を含む場合がある。以下、同様である。)と、薄膜金属層との間の密着力に優れた薄膜金属積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銀鏡反応を用いて薄膜金属層を形成する場合、図11の製造フローチャートに示すように、工順4に示すプライマー塗布や工順6に示すアンダーコート塗布以外に、工順8や工順10、あるいは工順13に示すように、特定の活性化処理剤(第1ズスイオンやパラジウムイオンの塩酸溶液)や安定化剤を使用して、複数の活性化処理や安定化処理を施すことが必須とされてきた(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、特定の活性化処理剤や安定化剤を使用して、複数の活性化処理や安定化処理を実施するためには、長時間を要する一方、活性化処理効果や安定化処理効果が不十分となりやすく、形成した薄膜金属層と、基材との間の密着性が未だ乏しく、基材から薄膜金属層が容易に剥離したり、使用する塩酸等のために薄膜金属層が腐食したり、割れたりしやすいという問題も見られた。
また、上述した薄膜金属層のみならず、従来の薄膜金属層は、基材の種類との選択性が顕著であって、ポリプロピレンやポリエステル等に対して、薄膜金属層を均一かつ強固に形成するのが困難であった。
一方、本発明の発明者は、基材に対して、ケイ素含有化合物を含む燃料ガスからなる火炎を吹き付け処理して、ケイ酸化炎処理する際に、シラン原子等を含有するケイ素含有化合物を比較的多量に使用した場合であっても、効率的に燃焼しやすくして、基材等の表面を均一かつ十分に改質できる表面改質方法を提案している(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、かかるケイ酸化炎処理を実施することにより、体積抵抗率(表面抵抗)の値を調節できるという事実は見出せられておらず、さらには、それを利用して、金属イオンの還元反応によって形成される薄膜金属層あるいはその下地層としての密着効果や導電性の安定化効果を高めるために使用できるという事実は見出せられていなかった。
【特許文献1】特開2004−190061号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】WO03/069017号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明の発明者らは鋭意検討した結果、基材上に、銀鏡反応等に代表される金属イオンの還元反応によって薄膜金属層を形成するに先立ち、所定のケイ酸化炎処理等を施すことにより、基材の種類にかかわらず、短時間で、かつ薄膜金属層と、基材との間で優れた密着性を有する薄膜金属積層体が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
よって、本発明の目的は、迅速かつ簡易な前処理方法により、薄膜金属層と、基材との間で優れた密着性が得られる薄膜金属積層体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、基材上への薄膜金属積層体の製造方法であって、下記工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする薄膜金属積層体の製造方法が提供され、上述した問題を解決することができる。
(1)基材を準備する工程
(2)基材表面に対して、ケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を吹き付け処理するか、あるいは、ケイ素含有化合物の気体状物を、400℃以上の熱源を介して吹き付け処理する工程
(3)薄膜金属層を金属イオンの還元反応により形成する工程
【0005】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、薄膜金属層の厚さを0.01〜100μmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0006】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、薄膜金属層が、主成分として、金、銀、銅、ニッケル、およびアルミニウムの少なくとも一つ、特に銀を含むことが好ましい。
【0007】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、工程(2)において、基材表面の濡れ指数(測定温度25℃)を40〜80dyn/cmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0008】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、工程(2)において、基材表面の体積抵抗率を1×104〜1×1010Ω・cmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0009】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、工程(2)と、工程(3)との間に、(3´)下地層を形成する工程をさらに設けて、基材と、薄膜金属層との間に、下地層を形成することが好ましい。
【0010】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、火炎または気体状物の吹き付け時間を、単位面積(100cm2)あたり、0.1秒〜100秒の範囲内の値とすることが好ましい。
【0011】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、基材が、主成分として、ガラス材料、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびポリイミド樹脂の少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、工程(3)の後に、(4)保護層を形成する工程をさらに設けて、薄膜金属層の表面に保護層を形成することが好ましい。
【0013】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、下地層および保護層、あるいはいずれか一方を、紫外線硬化型樹脂から形成することが好ましい。
【0014】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、薄膜金属積層体を、遊戯具、電気製品、車両、機械部品、工具、家具、または装飾品の一部として形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、基材に対して、薄膜金属層を、銀鏡反応等の金属イオンの還元反応により形成する前に、ケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を吹き付け処理するか、あるいは、ケイ素含有化合物の気体状物を、所定温度以上の熱源を介して吹き付け処理することにより、薄膜金属層と、基材との間で優れた密着性を得ることができる。
すなわち、ケイ素含有化合物が火炎または熱源により迅速に熱分解するとともに、反応して、基材の表面において、凹凸形状を有するとともに、所定の体積抵抗率を有するシリカ層を形成し、特殊な導電性下地層としての機能を発揮させることができる。その結果、薄膜金属層と、基材との間で優れた密着性を得ることができる。
また、基材の表面において形成される凹凸形状を有するとともに、所定の体積抵抗率を有するシリカ層が、所定の平滑化機能を発揮することができ、より均一で、滑らかな薄膜金属層あるいはその下地層を形成することができる。
さらに、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、複数の表面活性化処理や紫外線硬化処理の前処理等についても適宜省略できるため、連続的かつ迅速な製造を実施することができ、結果として、薄膜金属積層体を低コストで製造することもできる。
【0016】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、薄膜金属層の厚さを所定厚さとすることにより、所定の導電性、光反射特性、装飾性、あるいは耐久性等を得ることができる。
【0017】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、薄膜金属層が、主成分として、銀や銅等の少なくとも一つを含むことにより、薄膜金属層において所定の導電性や光反射特性を得ることができるとともに、薄膜金属層の抵抗についても安定化させることができる。
なお、従来から金属イオンの還元反応に使用されている硝酸銀およびその還元剤の組み合わせがそのまま使用でき、かつ導電性や光反射特性が優れていることから、薄膜金属層の主成分としては、銀を含むことがより好ましい。
【0018】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、工程(2)において、基材表面の濡れ指数(測定温度25℃)を所定範囲の値に調整することにより、薄膜金属層と、基材との間で、さらに優れた密着性を安定的に得ることができる。
【0019】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、工程(2)において、基材表面の体積抵抗率を所定範囲の値に調整することにより、特殊な導電性改善層としての機能を発揮させることができる。したがって、薄膜金属層と、基材との間でさらに優れた密着性を得ることができ、かつ、薄膜金属層の抵抗についても安定化させることができる。
また、下地層に着色剤や導電粒子等を添加することにより、薄膜金属積層体の装飾効果や外観性、さらには薄膜金属層の抵抗についてもより安定化させることができる。
【0020】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、特定の下地層を形成する工程(3´)をさらに設けることにより、薄膜金属層の下方に設けた下地層と、基材との間でさらに優れた密着性を得ることができる。
【0021】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、所定の火炎または気体状物の吹き付け時間を、単位面積あたり、所定時間の範囲内の値とすることにより、当該基材の体積抵抗率や濡れ指数の制御を容易に実施することができる。
【0022】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、基材が、主成分として、ガラス材料、ポリカーボネート樹脂あるいはポリイミド樹脂等を含むことにより、所定の耐熱性を得ることができる。また、基材が、主成分として、ポリエステル樹脂やポリオレフィン樹脂等を含むことにより、所定の柔軟性や軽量性を得ることができる。
【0023】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、工程(4)をさらに設けて、薄膜金属層の表面に保護層を形成することにより、薄膜金属積層体の耐久性を著しく向上させることができる。また、保護層に着色剤や導電粒子等を添加することにより、薄膜金属積層体の装飾効果や外観性を向上させたり、さらには薄膜金属層の抵抗についてもより安定化させたりすることができる。
【0024】
また、本発明の薄膜金属積層体の製造方法を実施するにあたり、薄膜金属積層体を、遊戯具等の一部として形成することにより、当該遊戯具等の装飾を容易かつ迅速に行なうことができる。
なお、遊戯具等は、メッキ形成箇所が多く、それを本発明の薄膜金属積層体に置き換えることにより、極めて経済的に製造することができるという利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、基材上への薄膜金属積層体の製造方法であって、図1や図2に例示するように、下記工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする薄膜金属積層体の製造方法である。
(1)基材を準備する工程(以下、準備工程と称する場合がある。)
(2)基材表面に対して、ケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を吹き付け処理するか、あるいは、ケイ素含有化合物の気体状物を、400℃以上の熱源を介して吹き付け処理する工程(以下、表面処理工程と称する場合がある。)
(3)薄膜金属層を金属イオンの還元反応により形成する工程(以下、金属イオンの還元処理工程と称する場合がある。)
以下、図1〜図10を適宜参照しつつ、本発明の態様を、準備工程と、表面処理工程と、金属イオンの還元処理工程と、それらの後工程である検査工程と、に分けて具体的に説明する。
なお、図1に示す薄膜金属積層体の製造方法は、金属イオンの還元反応を用いた最も簡易な製造フローチャートであり、図2に示す薄膜金属積層体の製造方法は、下地層の形成を含む薄膜金属積層体の製造フローチャートである。
また、図3(a)〜(c)は、本発明によって得られた薄膜金属層86を備えた薄膜金属積層体80、80´、80´´の態様例をそれぞれ示しており、図3(a)に示す薄膜金属積層体80は、基材82上に、特定の表面処理層(シリカ層)84および薄膜金属層86を設けた例であり、図3(b)に示す薄膜金属積層体80´は、基材82上に、特定の表面処理層84と、下地層85と、薄膜金属層86とを設けた例であって、図3(c)に示す薄膜金属積層体80´´は、基材82上に、特定の表面処理層84と、薄膜金属層86と、保護層87と、を設けた例である。
また、図4〜図6は、それぞれ表面処理装置10、10´、50の概要を示す図であり、図7は、表面処理装置10および金属イオンの還元処理装置400を含む薄膜金属積層体の製造ラインの概要を示す図である。さらに、図8は、金属イオンの還元処理装置400に使用されるスプレーガン300の一態様を示す図であり、図9は、かかるスプレータイプの金属イオンの還元処理装置400´の概略図であり、図10は、薄膜金属積層体80の使用例としての遊戯具500の概要を示す図である。
【0026】
1.準備工程
本発明の準備工程において用意される基材の種類は特に制限されるものではないが、例えば、ガラス、金属、セラミック、樹脂等が構成材料として挙げられる。
そして、基材を構成するガラスとしては、具体的に、ソーダガラス(アルカリガラス)、無アルカリガラス、低アルカリガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、リン酸ガラス、鉛ガラス、着色ガラス、導電性ガラス等が挙げられる。
例えば、無アルカリガラスは、そのままでは体積抵抗率が高く、表面活性化処理を施したとしても、金属イオンの還元処理によって、均一な薄膜金属層を形成することが困難であった。そこで、無アルカリガラスの表面に対して、ケイ素含有化合物のケイ酸化火炎処理等を施した後、所定の金属イオンの還元処理を実施することにより、密着性に優れた薄膜金属層を形成することができる。
また、基材を構成する金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、鉄、マグネシウム、ステンレス、ニッケル、クロム、タングステン、亜鉛、スズ、鉛等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
例えば、アルミニウムは軽量金属として多用されているが、表面に酸化膜を形成しやすく、そのままでは金属イオンの還元処理が施せないという問題が見られた。そこで、アルミニウム表面に対して、ケイ素含有化合物のケイ酸化火炎処理等を施した後、金属イオンの還元処理することにより、密着性に優れた薄膜金属層を形成することができる。
また、マグネシウムはリサイクル可能な金属部材として、パーソナルコンピューター等の筐体に近年多用されているが、表面の平滑性が乏しいことから、スパッタリング処理や金属イオンの還元処理を施しても、薄膜金属層が容易に剥離してしまうという問題が見られた。そこで、マグネシウム表面に対して、ケイ素含有化合物のケイ酸化火炎処理等を施した後、金属イオンの還元処理することにより、密着性に優れた薄膜金属層を形成することができる。
【0027】
また、基材を構成するセラミックとしては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化亜鉛、窒化インジウム、窒化スズ、窒化マグネシウム、窒化カルシウム、あるいはこれらセラミック材料からなるれんが、耐火壁、容器、焼き物、セラミック基材等の一種単独または二種以上のセラミックの組み合わせが挙げられる。
例えば、酸化アルミニウム等からなるセラミック基材は、耐熱性、軽量性の回路基板として多用されているが、熱伝導性が良好であって、表面温度を所定温度に保持することが困難であることから、スパッタリング処理や金属イオンの還元処理を施しても、薄膜金属層が容易に剥離してしまうという問題が見られた。そこで、セラミック基材の表面に対して、ケイ素含有化合物を用いたケイ酸化炎処理等を施した後、金属イオンの還元処理を施すことにより、密着性に優れた薄膜金属層を形成することができる。
【0028】
また、基材を構成する樹脂としては、ポリエチレン樹脂(高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高圧法ポリエチレン、中圧法ポリエチレン、低圧法ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、高圧法線状低密度ポリエチレン、超固体量ポリエチレン、架橋ポリエチレン)、ポリプロピレン樹脂、変性ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニル樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリトリフルオロクロロエチレン樹脂、およびエチレン−トリフルオロクロロエチレン共重合体等が挙げられる。
したがって、これらの樹脂を主成分として含む基材に対して、ケイ素含有化合物を用いたケイ酸化炎処理等を施した後、所定の金属イオンの還元処理を施すことにより、密着性に優れた薄膜金属層を形成することができ、薄膜金属層の剥離を有効に防止することができる。
【0029】
また、本発明に使用する基材の形態についても特に制限されるものではないが、例えば、板状、シート状、フィルム状、テープ状、短冊状、パネル状、紐状などの平面構造を有するものであっても良く、あるいは、容器状、筒状、柱状、球状、ブロック状、チューブ状、パイプ状、凹凸状、膜状、繊維状、織物状、束状等の三次元構造を有するものであっても良い。
さらに、上述したガラス、金属、セラミック、樹脂等の複合体であっても良い。例えば、繊維状のガラスやカーボンファイバーに対して、本発明により、ケイ素含有化合物を用いたケイ酸化炎処理等を施した後、金属イオンの還元処理を施すことにより、薄膜金属層を形成することができる。したがって、これらの導電性繊維を、エポキシ樹脂やポリエステル樹脂等のマトリクス樹脂中に均一に分散させることにより、所定の導電性複合体を得ることができる。すなわち、FRPやCFRPを心材とした導電性複合体として、優れた機械的強度や耐熱性、さらには電磁波シールド効果等を発揮することができる。
【0030】
2.表面処理工程
次いで、図1および図2に示す製造フローチャートに示すように、表面処理工程として、基材上に、ケイ素含有化合物を用いたケイ酸化炎処理等を実施する。
【0031】
(1)ケイ素含有化合物
本発明の表面処理工程において使用するケイ素含有化合物の沸点(大気圧下)を10〜200℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるケイ素含有化合物の沸点が10℃未満の値であっては、揮発性が激しくて、取り扱いが困難となる場合があるためである。一方、かかるケイ素含有化合物の沸点が200℃を超えると、空気との混合性が低下し、基材の表面改質が不均一になったり、長時間にわたって、改質効果を持続させることが困難になったりする場合があるためである。
したがって、かかるケイ素含有化合物の沸点を15〜180℃の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜120℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかるケイ素含有化合物の沸点は、ケイ素含有化合物自体の構造を制限することによっても調整することができるが、その他、比較的沸点が低いアルキルシラン化合物等と、比較的沸点が高いアルコキシラン化合物等とを適宜混合使用することによっても調整することができる。
【0032】
また、ケイ素含有化合物の種類についても特に制限されるものではないが、例えば、アルキルシラン化合物やアルコキシシラン化合物等が挙げられる。
このようなアルキルシラン化合物やアルコキシシラン化合物の好適例としては、テトラメチルシラン、テトラエチルシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジフェニルシラン、ジエチルジクロロシラン、ジエチルジフェニルシラン、メチルトリクロロシラン、
メチルトリフェニルシラン、ジメチルジエチルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジクロロジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリクロロエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0033】
また、ケイ素含有化合物において、分子内または分子末端に窒素原子、ハロゲン原子、ビニル基およびアミノ基の少なくとも一つを有することがより好ましい。
より具体的には、ヘキサメチルジシラザン(沸点:126℃)、ビニルトリメトキシシラン(沸点:123℃)、ビニルトリエトキシシラン(沸点:161℃)、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(沸点:144℃)、トリフルオロプロピルトリクロロシラン(沸点:113〜114℃)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(沸点:215℃)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(沸点:217℃)、ヘキサメチルジシロキサン(沸点:100〜101℃)、および3−クロロプロピルトリメトキシシラン(沸点:196℃)の少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
この理由は、このようなケイ素含有化合物であれば、キャリアガスとの混合性が向上し、基材の表面に、粒状物(シリカ層)を形成して改質がより均一になるとともに、沸点等の関係で、かかるケイ素含有化合物が基材の表面に一部残留しやすくなるため、基材と、薄膜金属層との間で、より優れた密着力を得ることができるためである。
【0034】
(2)火炎
本発明の表面処理工程において、図4に示すように、ケイ素含有化合物14を基材40
に対して均一に吹き付けるとともに、ケイ素含有化合物14を容易に熱分解して、酸化させるために、火炎を用いることが好ましい。
すなわち、所定量のケイ素含有化合物を、燃料ガス中に混合し、それを燃焼させて火炎とし、それを基材の表面に吹き付けることが好ましい。
そのため、火炎の温度を500〜1、500℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる火炎の温度が500℃未満の値になると、ケイ素含有化合物の不完全燃焼を有効に防止することが困難になる場合があるためである。一方、かかる火炎の温度が1、500℃を超えると、表面改質する対象の基材が、熱変形したり、熱劣化したりする場合があり、使用可能な基材の種類が過度に制限される場合があるためである。したがって、火炎の温度を550〜1、200℃の範囲内の値とすることが好ましく、600〜900℃未満の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0035】
また、火炎を用いるにあたり、ケイ素含有化合物の添加量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、1×10-10〜10モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるケイ素含有化合物の添加量が1×10-10モル%未満の値になると、基材に対する改質効果が発現しない場合があるためである。一方、かかるケイ素含有化合物の添加量が10モル%を超えると、ケイ素含有化合物と空気等との混合性が低下し、それにつれてケイ素含有化合物が不完全燃焼する場合があるためである。
したがって、ケイ素含有化合物の添加量を、気体状物の全体量を100モル%としたときに、1×10-9〜5モル%の範囲内の値とすることがより好ましく、1×10-8〜1モル%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0036】
また、かかる火炎温度の制御が容易にできることから、燃料ガス中に、通常、引火性ガスや可燃性ガス、あるいは空気等(以下、引火性ガス等と称する場合がある)を添加することが好ましい。
このような引火性ガス等としては、プロパンガスや天然ガス等の炭化水素、水素、酸素等が挙げられる。なお、燃料ガスをエアゾール缶に入れて使用する場合には、このような引火性ガス等として、プロパンガスおよび圧縮空気等を使用することが好ましい。
また、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、このような引火性ガス等の含有量を80〜99.9モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる引火性ガス等の含有量が80モル%未満の値になると、ケイ素含有化合物との混合性が低下し、それにつれてケイ素含有化合物が不完全燃焼する場合があるためである。一方、かかる引火性ガス等の添加量が99.9モル%を超えると、基材に対する改質効果が発現しない場合があるためである。
したがって、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、引火性ガス等の添加量を85〜99モル%の範囲内の値とすることがより好ましく、90〜99モル%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0037】
また、ケイ素含有化合物を容易に移送して、燃料ガス中に均一に混合するために、キャリアガスを使用することも好ましい。すなわち、ケイ素含有化合物と、キャリアガスとを予め混合し、それを所定箇所に移送した後、引火性ガス等に混合することが好ましい。
この理由は、かかるキャリアガスを使用することにより、比較的分子量が大きく、移動しづらいケイ素含有化合物を用いた場合であっても、所定箇所に容易に移送することができるとともに、引火性ガス等と均一に混合することができるためである。すなわち、キャリアガスを用いることにより、ケイ素含有化合物の取り扱いが容易になるばかりか、燃焼しやすくして、基材の表面改質を均一かつ十分に実施することができる。
なお、このようなキャリアガスとして、上述した燃料ガス中に添加する同種のガスが使用できるが、具体的に、空気や酸素、あるいはプロパンガスや天然ガス等の炭化水素を挙げることができる。
【0038】
(3)熱源
また、本発明の表面処理工程において、図5に示すように、火炎の代わりにケイ素含有化合物14を熱分解するための熱源25を使用するとともに、当該熱源25の温度を400〜2、500℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる熱源の温度が400℃未満の値になると、ケイ素含有化合物を熱分解して、基材の表面等に所定形状を有する粒状物を形成することが困難になる場合があるためである。一方、かかる熱源の温度が2、500℃を超えると、気体状物が過度に加熱され、表面改質する対象の基材が、熱変形したり、熱劣化したりする場合があるためである。
したがって、熱源の温度を500〜1、800℃の範囲内の値とすることが好ましく、800〜1、200℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0039】
また、熱源の種類は特に制限されるものではないが、例えば、レーザー、ハロゲンランプ、赤外線ランプ、高周波コイル、誘導加熱装置、熱風ヒーター、およびセラミックヒーターからなる群から選択される少なくとも一つの加熱手段を用いることが好ましい。
例えば、レーザーを用いることにより、スポット的に、極めて迅速に加熱して、ケイ素含有化合物を熱分解させて、例えば、基材として、ナノオーダーのパターン化された半導体基板についての表面処理が可能となる。
また、ハロゲンランプや赤外線ランプを用いることにより、極めて均一な温度分布でもって、大量のケイ素含有化合物の熱分解が可能となり、例えば、基材として、オレフィンフィルム等の効率的な表面処理が可能となる。
また、高周波コイルや誘導加熱装置を用いることにより、極めて迅速に加熱して、ケイ素含有化合物を熱分解させて、例えば、基材の効率的な表面処理が可能となる。
さらに、熱風ヒーターやセラミックヒーターを用いることにより、例えば、2000℃を超える温度処理が、小規模から大規模まで各種サイズにおいて可能となり、ケイ素含有化合物を容易に熱分解させて、例えば、基材として、セラミック基材等の効率的な表面処理が可能となる。
【0040】
(4)処理時間
また、本発明において火炎または熱源を介した気体状物の吹き付け時間(噴射時間)を、単位面積(100cm2)あたり、0.01秒〜100秒の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる噴射時間が0.01秒未満の値になると、ケイ素含有化合物による改質効果が均一に発現しない場合があるためである。一方、かかる噴射時間が100秒を超えると、表面改質する対象の基材が、熱変形したり、熱劣化したりする場合があり、使用可能な基材の種類が過度に制限される場合があるためである。
したがって、かかる噴射時間を、単位面積(100cm2)あたり、0.3〜30秒の範囲内の値とすることが好ましく、0.5〜20秒の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0041】
(5)火炎型表面処理装置
また、本発明において所定の火炎を吹き付けるにあたり、図4に示すように、ケイ素含有化合物14を貯蔵するための第1の貯蔵タンク12と、圧縮空気や引火性ガス等を貯蔵するための第2の貯蔵タンク27と、圧縮空気等と、ケイ素含有化合物14とを混合し、燃料ガスとする混合室22と、得られた燃料ガスを移送するための移送部24と、燃料ガスの火炎34を吹き付けるための噴射部32と、を含む火炎型表面処理装置10を用いることができる。
すなわち、この例では、第1の貯蔵タンク12の下方に、ヒーターや電熱線、あるいは熱交換器に接続した加熱板等からなる加熱手段16が備えてあり、通常、常温、常圧状態では液状のケイ素含有化合物14が気化できるように構成してある。
そして、基材40を表面処理する際には、加熱手段16によって、第1の貯蔵タンク12内のケイ素含有化合物14を所定温度に加熱し、気化させた状態で、混合室22において、第2の貯蔵タンク27から移送した圧縮空気や引火性ガス等と混合して、燃料ガスとする。
なお、燃料ガス中におけるケイ素含有化合物の含有量は極めて重要であるため、当該ケイ素含有化合物の含有量を間接的に制御すべく、第1の貯蔵タンク12に圧力計(または液面のレベル計)18を設けて、ケイ素含有化合物14の蒸気圧(またはケイ素含有化合物量)をモニターし、第1の貯蔵タンク12におけるケイ素含有化合物量が減少した場合には、当該ケイ素含有化合物を予備タンク19から追加することが好ましい。
【0042】
また、燃料ガスの移送部24は、通常、管構造であって、上述したように、ケイ素含有化合物14と、圧縮空気や引火性ガス等とを均一に混合して、燃料ガスとするための混合室22を備えているとともに、当該混合室22と、後述する噴射部との間の配管24には、流量を制御するための弁30や流量計、あるいは燃料ガスの圧力を制御するための圧力計28を備えている。また、混合室22において、ケイ素含有化合物と、圧縮空気や引火性ガス等とを均一に混合した上で、燃料ガスとしての流量を厳格に制御できるように、混合ポンプや、滞留時間を長くするための邪魔板等を備えることも好ましい。
【0043】
また、噴射部32は、図4に示すように、移送部24の配管を通して送られてきた燃料ガスを燃やし、得られた火炎34を、被処理物である基材40に吹き付けるためのバーナーを備えている。
かかるバーナーの種類も特に制限されるものでないが、例えば、予混合型バーナー、拡散型バーナー、部分予混合型バーナー、噴霧バーナー、蒸発バーナー、微粉炭バーナー等のいずれであっても良い。また、バーナーの形態についても特に制限されるものでなく、例えば先端部に向かって拡大し、全体として扇型の構成であっても良く、あるいは、概ね長方形であって、複数の噴射口が横方向に配列されたバーナーであっても良い。
また、噴射部32の配置、すなわち、バーナーの配置は、被処理物である基材40の表面改質の容易さ等を考慮して決定することが好ましい。例えば、噴射部32を円形または楕円形に沿って配置することも好ましいし、あるいは、被処理物である基材40の両側に近接して配置することも好ましい。
さらに、噴射部32を、被処理物である基材40の片側に所定距離だけ離して配置することも好ましいし、被処理物である基材40の両側にそれぞれ所定距離だけ離して配置することも好ましい。
【0044】
(6)熱源型表面処理装置
また、本発明において、ケイ素含有化合物14を含む気体状物を、熱源を介して吹き付けるにあたり、図5に示すように、ケイ素含有化合物14を貯蔵するための第1の貯蔵タンク12と、圧縮空気等のキャリアガスを貯蔵するための第2の貯蔵タンク27と、圧縮空気等のキャリアガスを加熱するための熱源(第1の熱源)25と、気化したケイ素含有化合物14および圧縮空気等のキャリアガスを混合して、ケイ素含有化合物を含む気体状物とするための混合室22と、ケイ素含有化合物を含む気体状物を所定場所に移送するための移送部24と、当該ケイ素含有化合物を含む気体状物を基材40に対して吹き付けるための噴射部32と、を含む熱源型表面改質装置10´を用いることができる。
【0045】
また、このような熱源型表面改質装置10´を用いて、基材40を表面処理する際には、加熱手段16によって、第1の貯蔵タンク12内のケイ素含有化合物14を、所定温度に加熱し、気化させた状態で、矢印Cで表されるように移送させるとともに、矢印Aで表されるように導入された加熱状態のキャリアガスと混合し、所定温度の気体状物とする。なお、かかる熱源型表面改質装置10´にも、上述した火炎型表面処理装置10と同様の圧力計18や予備タンク等の設備を設けることができる。
さらにまた、ケイ素含有化合物を含む気体状物のきめ細かい温度制御のために、移送部24の途中に、第1の熱源25とは別に、第2の熱源35を設けて、矢印Bで表されるように、加熱状態のキャリアガスを導入することも好ましい。なお、かかる第2の熱源35として、レーザーやハロゲンランプ、あるいはセラミックヒーターからなる群から選択される少なくとも一つの加熱手段を用いることができる。
すなわち、このような構成の熱源型表面改質装置10´であれば、所定温度に制御されたケイ素含有化合物を含む気体状物を、基材40に対してあらゆる方向から吹き付けることができ、基材を均一かつ十分に処理することができる。また、火炎を用いることがなく、表面改質作業中に気体状物を着火したり、消火したりする必要がなく、着火装置等への負担が小さく、表面処理装置を容易に小型化することができる。さらには、ケイ素含有化合物の燃焼性を考慮する必要がなく、ケイ素含有化合物に対する使用制限も少なくなる。
【0046】
また、別の熱源型表面処理装置として、図6に示すように、ニードル型の表面処理装置50を使用することも好ましい。すなわち、かかるニードル型の表面処理装置50は、ケイ素含有化合物14を貯蔵するとともに、所定温度に加熱して気化させるための加熱手段16を備えた貯蔵タンク12と、気化したケイ素含有化合物14を移送するためのポンプ(図示せず)と、ケイ素含有化合物14の流量を制御するための流量弁66と、移送管64と、それに連なるケイ素含有化合物14の加熱室56と、ケイ素含有化合物14を所定温度に加熱するための熱源58と、を備えている。なお、ケイ素含有化合物の貯蔵タンク12から気化したケイ素含有化合物14の流れを矢印A´で表している。
そして、圧縮空気等のキャリアガスを移送するためのポンプ78と、当該キャリアガスの流量を制御するための流量弁76と、ニードル型の表面処理装置50を構成するように、加熱室56の周囲に設けてあるキャリアガスの導入路54a、54bと、所定温度に加熱されたケイ素含有化合物14およびキャリアガスを混合するとともに、基材40に対して吹き付けるための噴射部60と、を備えている。
【0047】
したがって、このように構成されたニードル型の表面処理装置50であれば、矢印A´で表されるように流れるケイ素含有化合物14と、矢印B´で表されるように流れるキャリアガスを均一に混合し、所定温度に制御したケイ素含有化合物を含む気体状物として、基材40に対して、あらゆる方向から吹き付けることができる。
また、このようなニードル型の表面処理装置50であれば、スポット的に、所定箇所のみに表面処理を施すことができる。さらに、このような形態の表面処理装置50であれば、容易に小型化することができ、携帯型の表面処理装置として持ち運びすることもできる。
【0048】
(7)濡れ指数
また、本発明の表面処理工程において表面改質された基材の濡れ指数(測定温度25℃)を40〜80dyn/cmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる基材の濡れ指数が40dyn/cm未満の値になると、金属イオンの還元処理前に、金属活性化処理を十分に実施しても、密着性に優れた薄膜金属層を形成することが困難となる場合があるためである。一方、かかる基材の濡れ指数が80dyn/cmを超えると、過度に表面処理を実施することになり、基材を熱劣化させたり、燃料を過度に消費したりする場合があるためである。
したがって、表面改質された基材において、濡れ指数を45〜78dyn/cmの範囲内の値とすることがより好ましく、50〜75dyn/cmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0049】
(8)接触角
また、本発明の表面処理工程において表面改質された基材の、水を用いて測定される接触角(測定温度25℃)を0.1〜30°の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる基材の接触角が0.1°未満の値になると、過度に表面処理を実施することになり、基材を熱劣化させたり、燃料を過度に消費したりする場合があるためである。一方、かかる基材の接触角が30°を超えると、金属イオンの還元処理前に、金属活性化処理を十分に実施しても、密着性に優れた薄膜金属層を形成することが困難となる場合があるためである。
したがって、表面改質された基材において、水を用いて測定される接触角(測定温度25℃)を0.5〜20°の範囲内の値とすることがより好ましく、1〜10°の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0050】
3.金属イオンの還元処理工程
次いで、図1および図2に示すように、表面処理工程(S2、S2´)の後、金属イオンの還元処理工程(S3、S4´)を実施して、薄膜金属層を形成する。
(1)前処理工程
まず、表面処理工程(S2´)を実施した後、金属イオンの還元処理工程(S4´)を実施する前の前処理工程として、図2に示すように、下地層形成工程(S3´)を設けて、基材表面に下地層を形成することが好ましい。
この理由は、このような下地層を形成することにより、薄膜金属層と、基材との間でさらに優れた密着性を得ることができるとともに、薄膜金属層の電気抵抗についても安定化させることができるためである。
また、基材表面に、文字、図形、記号等のパターン化した下地層を形成することにより、それに対応させて、パターン化した薄膜金属層を形成することができるためである。すなわち、基材表面の所定箇所にパターン化した下地層を形成することにより、その後、全面的に薄膜金属層を設けて、さらに機械的刺激を付与したり、粘着テープを適用したりすることにより、パターン化した薄膜金属層を容易かつ迅速に形成することができる。
【0051】
ここで、形成される下地層の態様は特に制限されるものではないが、例えば、紫外線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂、あるいは熱可塑性樹脂からなる下地層を形成することが好ましい。
この理由は、かかる紫外線硬化型樹脂からなる下地層を形成することにより、加熱処理工程等を設けることなく、迅速に形成することができるためである。一方、熱硬化型樹脂からなる下地層を形成する場合には、露光装置等を省略することができ、安価に形成することができるためである。さらに、熱可塑性樹脂からなる下地層を形成する場合には、硬化処理が不要となるとともに、当該熱可塑性樹脂を含む塗布液等の保存安定性に優れており、製造管理が容易になるためである。
【0052】
また、下地層を構成する紫外線硬化型樹脂等の種類は特に制限されるものではないが、例えば、エポキシアクリレート系紫外線硬化型樹脂、ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂、およびポリエステルアクリレート系紫外線硬化型樹脂等の少なくとも一種を使用することが好ましい。
なお、エポキシアクリレート系の紫外線硬化型塗料は、燐酸基等の極性基を有しても良いエポキシアクリレートオリゴマーと、アクリレートモノマーと、開始剤と、さらには所望により樹脂とから基本的に構成してある紫外線硬化型塗料であることが好ましい。
また、ウレタンアクリレート系の紫外線硬化型塗料は、ウレタンアクリレートオリゴマーと、アクリレートモノマーと、開始剤と、さらには所望により樹脂から基本的に構成してある紫外線硬化型塗料であることが好ましい。
さらに、ポリエステルアクリレート系の紫外線硬化型塗料は、ポリエステルアクリレートオリゴマーと、アクリレートモノマーと、開始剤、さらには所望により樹脂とから基本的に構成してある紫外線硬化型塗料であることが好ましい。
また、下地層を形成する紫外線硬化型樹脂の種類は、密着性に関して少なからず選択性が存在するため、表面処理工程に使用するケイ素含有化合物の種類を考慮して定めることがより好ましい。
例えば、ヘキサメチルジシラザン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリクロロシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等の分子内に窒素原子およびハロゲン原子を含むケイ素含有化合物を使用する場合には、エポキシアクリレート系紫外線硬化型樹脂やウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂を使用することが好ましい。また、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等の分子末端にビニル基やアミノ基を有するケイ素含有化合物を使用する場合には、ポリエステルアクリレート系紫外線硬化型樹脂を使用することが好ましい。
【0053】
また、下地層の厚さを1〜100μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる下地層の厚さが1μm未満になると、薄膜金属層と、基材との間の密着性の向上が困難となったり、所定の電気抵抗や光反射特性、さらには適当な装飾性や耐久性が得られなかったりする場合があるためである。一方、かかる薄膜金属層の厚さが100μmを超えると、ハーフミラーに使用することが困難になったり、あるいは、製造時間が過度にかかって、製造コストが高くなったりする場合があるためである。
したがって、薄膜金属層の厚さを0.1〜50μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜10μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0054】
(2)金属イオンの還元処理装置
次いで、金属イオンの還元処理工程において使用する金属イオンの還元処理装置400について説明する。
かかる金属イオンの還元処理装置400としては、図7に例示されるような装置を典型的に使用することができる。
すなわち、かかる金属イオンの還元処理装置400としては、少なくとも金属塩溶液および還元剤を含む処理液(以下、単に、処理液と称する。)402を収容できる金属イオンの還元処理槽401を備えることが好ましい。また、後述するように、処理液402の温度を制御するために、ヒーター403を備えることが好ましく、その他、図示しないものの、処理液402を一定条件に管理するためのpH計、粘度計、攪拌装置、超音波振動装置等を備えることが好ましい。
なお、かかる金属イオンの還元処理装置400は、図7に示すように、薄膜金属層の製造ラインにおける表面処理工程の次工程に設けられていることが好ましく、その場合、図示しないが、表面処理工程との間に、簡易な金属活性化処理工程や洗浄工程を設けたり、後工程として、別途の洗浄工程や、パターン形成工程や、レジストの除去工程等を設けたりすることも好ましい。
【0055】
また、かかる金属イオンの還元処理装置400の変形例として、図8に示すようなスプレーガン300を使用することも好ましい。
すなわち、このようなスプレーガン300を使用することにより、金属イオンの還元処理装置の小型化が可能になるばかりか、金属イオンの還元反応の制御が容易になったり、あるいは所望箇所に対してのみ処理液402を吹き付けて、薄膜金属層を選択的に形成したりすることも可能となる。
ここで、かかるスプレーガン300をより詳しく説明すると、図8に示すように、ガン本体302は、把手の上端に胴部を配したピストル状をなし、この胴部に、引き金304を枢着している。そして、ガン本体302の先端にヘッド部303が設けてあり、このヘッド部303の前面に、金属塩溶液を吐出する第1の吐出口J1と、当該第1の吐出口J1の周囲に同心円状に配置された還元剤としての第2液を吐出する第2の吐出口J2と、空気を吐出するための空気ノズル口J3と、純水を吐出するための純水ノズル口J4と、を備えている。
従って、引き金304における開閉弁V3の解放により、高圧空気が空気流路P3を通って空気ノズル口から吐出され、このとき高圧空気の一部が、シリンダ室319に流入して、針弁317を後退させる。これによって開閉弁V4が解放され、純水取入口A4から純水流路P4についても吐出される。
よって、かかるスプレーガン300から、例えば、金属塩溶液および還元剤を同時に吹き付け、さらには、これらの吹き付けと同時、あるいはその後に、純水およびエアーを吹き付け、金属イオンの還元反応を均一に生じさせることができる。
なお、図8に示すようなスプレーガン300の変形例として、薄膜金属層の形成箇所に対して、金属塩溶液および還元剤を吹き付けるための第1のスプレーガンと、純水およびエアーを吹き付けるための第2のスプレーガンとをそれぞれ使用することも好ましい。
【0056】
また、かかる金属イオンの還元処理装置400のさらに変形例として、図9に示すようなスプレーユニット400´を使用することも好ましい。
すなわち、コンベア403によってワーク(W)が、矢印Lで示される方向へ搬送される過程で、活性化処理液や洗浄液をスプレーユニット406、457から噴射処理した後、第1の噴射用スプレーユニット454から金属塩溶液、例えば、硝酸銀水溶液が噴射され、第2の噴射用スプレーユニット455から還元剤、例えば、アンモニア水溶液が噴射されると、ワーク(W)の表面で、硝酸銀水溶液中の硝酸銀が還元されて銀が析出することになる。一方、余剰液は純水スプレーユニット453,456から噴射される純水によって洗い流されるので、ワーク(W)表面に銀膜が均一な層厚で連続的に形成されて行く。したがって、金属イオンの還元反応により形成された銀膜は、乾燥ユニットによって、水分が完全に除去されるので、銀膜表面の水分に起因する黄変が防止され、高品位な銀光沢を得ることができる。
なお、図9に示すスプレーユニット400´の場合、還元剤や純水と混合しながらワーク(W)表面に対して、斜め方向に噴射させるための還元液噴射用スプレーユニット451や、純水スプレーユニット452が設けられている。すなわち、銀膜の厚さや還元程度をより正確に調整するためである。
【0057】
(3)金属塩溶液および還元剤
次いで、金属イオンの還元処理工程において用いられる処理液、すなわち、金属塩溶液および還元剤について詳細に説明する。
まず、使用する金属塩溶液(金属錯体溶液を含む。)の種類としては、硝酸金、硝酸銀、硝酸銅、硝酸アルミニウム、硝酸ニッケル等の少なくとも一種が挙げられる。
また、かかる金属塩溶液中の金属濃度を0.001〜3mol/リットルの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる金属濃度が0.001mol/リットル未満の値となると、金属の析出量が著しく低下し、薄膜金属層の生産性が低下する場合があるためである。一方、かかる金属濃度が3mol/リットルを超えると、基材表面に薄膜金属層を均一に形成することが困難となって、同様に薄膜金属層の生産性が低下する場合があるためである。したがって、金属塩溶液中の金属濃度を0.01〜2.5mol/リットルの範囲内の値とすることがより好ましく、0.1〜2mol/リットルの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0058】
一方、還元剤としては、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、ヒドラジン化合物、ヒドロキノン、L−アスコルビン酸およびその塩、ピロカテコール、アンモニア、ブドウ糖、次亜リン酸ナトリウム、亜硫酸塩、ギ酸、無水亜硫酸ナトリウム、L(+)酒石酸、ギ酸アンモニウム等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
これらの還元剤のうち、金属イオンの還元元反応を容易に制御しやすいことから、L−アスコルビン酸およびその塩、アンモニア、あるいは、L−アスコルビン酸およびその塩と、ピロカテコールとの組み合わせを使用することがより好ましい。
また、このような還元剤の濃度を0.001〜3mol/リットルの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる還元剤の濃度が0.001mol/リットル未満の値となると、金属の析出量が著しく低下し、薄膜金属層の生産性が低下する場合があるためである。一方、かかる還元剤の濃度が3mol/リットルを超えると、基材表面に薄膜金属層を均一に形成することが困難となって、同様に薄膜金属層の生産性が低下する場合があるためである。
したがって、還元剤の濃度を0.01〜2.5mol/リットルの範囲内の値とすることがより好ましく、0.1〜2mol/リットルの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0059】
(4)金属イオンの還元処理条件
次いで、金属イオンの還元処理工程における還元処理条件について詳細に説明する。
まず、金属イオンの還元処理を実施する温度、すなわち、金属イオンの還元処理温度を0〜80℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる処理温度が0℃未満になると、所定厚さの薄膜金属層を形成するのに過度に時間がかかる場合があるためである。一方、かかる処理温度が80℃を超えると、金属イオンの還元処理液の濃度調整が困難となって、基材表面に均一な厚さの薄膜金属層を形成することが困難となる場合があるためである。
したがって、金属イオンの還元処理する際の処理温度を5〜50℃の範囲内の値とすることがより好ましく、10〜30℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
また、単位面積(100cm2)あたりの金属イオンの還元処理を実施する時間、すなわち、金属イオンの還元処理時間は、所望の薄膜金属層の厚さ等にもよるが、通常、0.1〜60分の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる処理時間が0.1分未満になると、所望の薄膜金属層の厚さが安定的に得られない場合があるためである。一方、かかる処理時間が60分を超えると、製造時間が過度にかかって、製造コストが高くなる場合があるためである。
したがって、金属イオンの還元処理する際の処理時間を0.5〜30分の範囲内の値とすることがより好ましく、1〜10分の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0060】
4.検査工程
次いで、図1および図2に示すように、金属イオンの還元処理工程において得られる薄膜金属層(全面ベタパターンを含む)の検査工程について説明する。
まず、図7に示す薄膜金属層86を含む薄膜金属積層体80´´の製造ラインにおいて、ラミネート装置410によって、保護フィルム87を積層する前、あるいはその後において、薄膜金属層86の厚さ、幅、あるいは形状等を検査することが好ましい。
かかる検査工程において、例えば、薄膜金属層の厚さが0.01〜100μmの範囲内の値であることを検査することが好ましい。
この理由は、かかる薄膜金属層の厚さが0.01μm未満になると、所定の電気抵抗や光反射特性、さらには適当な装飾性や耐久性が得られない場合があるためである。一方、かかる薄膜金属層の厚さが100μmを超えると、ハーフミラーに使用することが困難になったり、あるいは、製造時間が過度にかかって、製造コストが高くなったりする場合があるためである。
したがって、薄膜金属層の厚さを0.1〜50μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜10μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
また、薄膜金属層の形状は用途によるが、検査工程において、例えば、直線状、らせん状、曲線状、円状、ループ状、あるいは、三次元構造等、種々の形態に形成されているか否かを検査することが好ましい。
さらに、金属イオンの還元処理工程の後に、パターニング工程やレジスト処理工程、あるいはメッキ処理工程等を設けた場合には、文字、図形、記号等のパターン化した薄膜金属層の態様の是非を検査することも好ましい。
【0061】
なお、検査工程を実施するに際して、上述したように薄膜金属層の表面に保護フィルムを積層する前に、さらに保護層を形成する工程を設けることも好ましい。
この理由は、薄膜金属層の表面に、紫外線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂、あるいは熱可塑性樹脂や無機材料等からなる保護層を形成することにより、薄膜金属層の耐久性や耐スクラッチ性を著しく向上させることができるためである。また、形成する保護層中に、着色剤や導電粒子等を添加することにより、薄膜金属積層体の装飾効果や外観性を向上させたり、さらには薄膜金属層の抵抗についてもより安定化させたりすることができるためである。
ここで、保護層を構成する紫外線硬化型樹脂等としては、上述した下地層と同様の紫外線硬化型樹脂等から形成することもできるし、あるいは、下地層と異なる紫外線硬化型樹脂等を用いることもできる。
また、保護層の厚さについても、用途等を考慮して定めることができるが、通常、0.01〜100μmの範囲内の値でとすることが好ましい。
この理由は、かかる保護層の厚さが0.01μm未満の値になると、薄膜金属層に対する保護効果が不十分となったり、均一な厚さに形成することが困難となったりする場合があるためである。一方、かかる保護層の厚さが100μmを超えると、薄膜金属層に対する保護効果が不十分となったり、均一な厚さに形成することが困難となったりする場合があるためである。
【0062】
5.対象物
本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、各種用途の対象物の製造方法に展開することができるが、例えば、遊戯具、電気製品、車両、機械部品、工具、家具、または装飾品の一部として、本発明の薄膜金属積層体を形成することが好ましい。例えば、図10に示すような薄膜金属積層体を一部に備えた遊戯具500を提供することができる。
また、対象物として、薄膜金属積層体を、薄膜金属パターンとして、通信用アンテナ、電子タグ用アンテナ、電気回路用配線パターン、電磁波シールド用金属パターンまたは装飾用金属パターンとして使用することも好ましい。
【実施例】
【0063】
[実施例1]
1.薄膜金属積層体の製造
基材として、ポリプロピレンフィルム(縦10cm×横10cm×厚さ125μm、表1中、PPと称する。)を準備し、当該ポリプロピレンフィルムの表面に対して、図4に示す表面改質装置を用いて、ケイ酸化炎処理を単位面積当り(100cm2)、0.2秒間実施した。なお、燃料ガスとして、ヘキサメチルジシラザンを0.01モル%、残りの99.99モル%がプロパンガスを所定量含む圧縮空気であるカートリッジ入りの混合ガスを用いた。
次いで、紫外線硬化型樹脂であるPES−B(SC)((株)イシマット・ジャパン製)を表面処理した基材上に塗布した後、紫外線を300mJ/cm2照射して、厚さ10μmの下地層を形成した。
次いで、形成した下地層上に、図7に示す金属イオンの還元処理装置を用いて、厚さ0.5μmの銀層を全面的に形成した。その後、オーブンを用いて、100℃、10分の条件で加熱処理を施し、さらに乾燥させた後、形成した銀層の上に下地層と同様の紫外線硬化型樹脂からなる厚さ10μmの保護層を形成して実施例1の薄膜金属積層体とした。
【0064】
2.基材および薄膜金属層の評価
(1)体積抵抗率
ケイ酸化炎処理した段階におけるポリプロピレンフィルムにおける体積抵抗率(表面抵抗)を、JIS K 6911に準拠して測定した。また、ケイ酸化炎処理前のポリプロピレンフィルムの体積抵抗率を同様に測定した。得られた結果を表1に示す。
【0065】
(2)濡れ指数
ケイ酸化炎処理した段階におけるポリプロピレンフィルムにおける濡れ指数を、標準液を用いて測定した。また、ケイ酸化炎処理前のポリプロピレンフィルムの濡れ指数を同様に測定した。得られた結果を表1に示す。
【0066】
(3)密着性
JIS K−5400に準拠した碁盤目試験を実施し、以下の基準に沿って薄膜金属層と、ポリプロピレンフィルムとの間の密着性を評価した。得られた結果を表1に示す。
◎:100個の碁盤目試験で、全く剥がれが無い。
○:100個の碁盤目試験で、剥がれ数は1〜2個である。
△:100個の碁盤目試験で、剥がれ数は3〜10個である。
×:100個の碁盤目試験で、剥がれ数は11個以上である。
【0067】
[実施例2〜6]
実施例2〜6では、表1に示すように、ケイ素含有化合物の種類および表面処理時間を変えた他は、それぞれ実施例1と同様に、ポリプロピレンフィルム上に薄膜金属層を形成し、薄膜金属層の密着性等の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0068】
[実施例7〜10]
実施例7〜10では、ポリプロピレンフィルムの代わりに、PETフィルム(縦10cm×横10cm×厚さ125μm、表1中、PETと称する。)を用いた他は、それぞれ実施例1〜4と同様に薄膜金属層を形成したPETフィルムを作成し、密着性等の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0069】
[実施例11〜14]
実施例11〜14では、ポリプロピレンフィルムの代わりに、ポリカーボネートフィルム(縦10cm×横10cm×厚さ2mm、表1中、PCと称する。)を用いた他は、それぞれ実施例1〜4と同様に薄膜金属層を形成したポリカーボネートフィルムを作成し、密着性等の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0070】
[実施例15〜18]
実施例15〜18では、ポリプロピレンフィルムの代わりに、低アルカリガラス板(縦10cm×横10cm×厚さ2mm、表1中、ガラスと称する。)を用いた他は、それぞれ実施例1〜4と同様に薄膜金属層を形成したガラス板を作成し、密着性等の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0071】
[比較例1〜4]
比較例1〜3では、ポリプロピレンフィルム、PETフィルム、ポリカーボネートフィルムおよび低アルカリガラス板の表面に、ケイ酸化炎処理を行なわず、スズおよびパラジウムによる複数の活性化処理を施した後、金属イオンの還元処理を実施した他は、それぞれ実施例1、実施例7、実施例11および実施例15と同様に薄膜金属層を形成し、密着性等の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
*HMDN:ヘキサメチルジシラザン
*VTMS:ビニルトリメトキシシラン
*HMDN/ETA:ヘキサメチルジシラザン/エタノール
*HMDS:ヘキサメチルジシロキサン
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上の説明の通り、本発明の薄膜金属積層体の製造方法によれば、基材上に、金属イオンの還元処理を実施して薄膜金属層を形成する前に、あるいは基材上にかかる薄膜金属層の下地層を形成する前に、当該基材の表面に対して、ケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を吹き付け処理するか、あるいは、ケイ素含有化合物の気体状物を、所定温度以上の熱源を介して吹き付け処理することにより、均一な厚さを有し、かつ、密着性に優れた薄膜金属層を備えた薄膜金属積層体を得ることができるようになった。
したがって、ガラスやセラミック等あるいは、ポリエステル樹脂やポリプロピレン樹脂等の各種基材に対しても、簡易かつ迅速な製造工程よって、密着性に優れた薄膜金属層を形成することができる。
すなわち、薄膜金属積層体を備えた対象物として、薄膜金属積層体を多用する遊戯具や電気製品等を安価に提供することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の薄膜金属積層体の製造フローチャートである。
【図2】本発明の別の薄膜金属積層体の製造フローチャートである。
【図3】(a)〜(c)は、薄膜金属積層体の製造方法により得られた積層体を説明するために供する図である。
【図4】火炎型表面改質装置を説明するために供する図である。
【図5】熱源型表面処理装置を説明するために供する図である。
【図6】ニードル型の表面処理装置を説明するために供する図である。
【図7】金属イオンの還元処理装置を説明するために供する図である。
【図8】金属イオンの還元処理装置としてのスプレーガンを説明するために供する図である。
【図9】金属イオンの還元処理装置としてのスプレー装置を説明するために供する図である。
【図10】遊戯具を説明するために供する図である。
【図11】従来の薄膜金属積層体の製造フローチャートである。
【符号の説明】
【0075】
10、10´:火炎型表面改質装置
12:ケイ素含有化合物の貯蔵タンク(第1の貯蔵タンク)
14:ケイ素含有化合物
16:加熱手段
18:圧力計
22:混合室
24:移送部
25:熱源
27:キャリアガスの貯蔵タンク
28:圧力計
32:噴射部
35:第2の熱源
37:キャリアガスの第2の貯蔵タンク
40:基材
80、80´、80´´:積層体
82:基材
84:表面処理層(シリカ層)
86:薄膜金属層
87:保護層(保護フィルム)
100:熱源型表面処理装置
200:ニードル型の表面処理装置
300:スプレーガン
400、400´:金属イオンの還元処理装置
500:遊戯具
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上への薄膜金属積層体の製造方法であって、下記工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする薄膜金属積層体の製造方法。
(1)基材を準備する工程
(2)基材表面に対して、ケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を吹き付け処理するか、あるいは、ケイ素含有化合物の気体状物を、400℃以上の熱源を介して吹き付け処理する工程
(3)薄膜金属層を金属イオンの還元反応により形成する工程
【請求項2】
前記薄膜金属層の厚さを0.01〜100μmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項3】
前記薄膜金属層が、主成分として、金、銀、銅、ニッケル、およびアルミニウムの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項4】
前記薄膜金属層が、主成分として、銀を含むことを特徴とする請求項3に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項5】
前記工程(2)において、前記基材表面の濡れ指数(測定温度25℃)を40〜80dyn/cmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)において、前記基材表面の体積抵抗率を1×104〜1×1010Ω・cmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項7】
前記工程(2)と、工程(3)との間に、(3´)下地層を形成する工程をさらに設けて、前記基材と、薄膜金属層との間に、下地層を形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項8】
前記火炎または気体状物の吹き付け時間を、単位面積(100cm2)あたり、0.1秒〜100秒の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項9】
前記基材が、主成分として、ガラス材料、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびポリイミド樹脂の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項10】
前記工程(3)の後に、(4)保護層を形成する工程をさらに設けて、前記薄膜金属層の表面に保護層を形成することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項11】
前記下地層および保護層、あるいはいずれか一方を、紫外線硬化型樹脂から形成することを特徴とする請求項10に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項12】
前記薄膜金属積層体を、遊戯具、電気製品、車両、機械部品、工具、家具、または装飾品の一部として形成することを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項1】
基材上への薄膜金属積層体の製造方法であって、下記工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする薄膜金属積層体の製造方法。
(1)基材を準備する工程
(2)基材表面に対して、ケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を吹き付け処理するか、あるいは、ケイ素含有化合物の気体状物を、400℃以上の熱源を介して吹き付け処理する工程
(3)薄膜金属層を金属イオンの還元反応により形成する工程
【請求項2】
前記薄膜金属層の厚さを0.01〜100μmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項3】
前記薄膜金属層が、主成分として、金、銀、銅、ニッケル、およびアルミニウムの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項4】
前記薄膜金属層が、主成分として、銀を含むことを特徴とする請求項3に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項5】
前記工程(2)において、前記基材表面の濡れ指数(測定温度25℃)を40〜80dyn/cmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)において、前記基材表面の体積抵抗率を1×104〜1×1010Ω・cmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項7】
前記工程(2)と、工程(3)との間に、(3´)下地層を形成する工程をさらに設けて、前記基材と、薄膜金属層との間に、下地層を形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項8】
前記火炎または気体状物の吹き付け時間を、単位面積(100cm2)あたり、0.1秒〜100秒の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項9】
前記基材が、主成分として、ガラス材料、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびポリイミド樹脂の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項10】
前記工程(3)の後に、(4)保護層を形成する工程をさらに設けて、前記薄膜金属層の表面に保護層を形成することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項11】
前記下地層および保護層、あるいはいずれか一方を、紫外線硬化型樹脂から形成することを特徴とする請求項10に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【請求項12】
前記薄膜金属積層体を、遊戯具、電気製品、車両、機械部品、工具、家具、または装飾品の一部として形成することを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の薄膜金属積層体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−45595(P2006−45595A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225407(P2004−225407)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(501163657)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(501163657)
【Fターム(参考)】
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