説明

薄鋼板用連続焼鈍設備

【課題】0.5mm以下の薄鋼板に高温長時間の焼鈍を施しても炉内破断を起こし難い新規な連続焼鈍設備を提供する。
【解決手段】薄鋼板を、炉内に対向して配設された反転ロールに巻きつけて進行方向を反転し、炉内を往復させながら焼鈍を施す連続焼鈍設備において、上記反転ロールを、対向して水平方向に配設することによって鋼板の自重による張力増大を軽減するとともに、ロール軸心が鋼板進行方向に直交する方向より一定方向に、好ましくは2〜10°ずらして配設し、対向する反転ロールの周囲を鋼板を螺旋状に移動させることによって、薄鋼板の高温長時間の焼鈍を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄鋼板の連続焼鈍設備に関し、具体的には0.5mm以下の薄鋼板を、高温長時間焼鈍するのに適した連続焼鈍設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延した薄鋼板を焼鈍する方法としては、雰囲気ガスを調整したインナーカバーの内部に鋼板をコイルの状態にして載置し、その外側に箱型の炉を被せて焼鈍するバッチ式の箱型焼鈍(ボックス焼鈍、バッチ焼鈍)と、コイルを巻き戻しながら鋼板を雰囲気と温度を制御した炉内を通板して焼鈍する連続焼鈍がある。箱型焼鈍は、大きな鉄の塊(コイル)を外部から加熱し、冷却する方法であるため、コイル内の温度が不均一で、焼鈍時間も長く生産性が低いという問題がある。また、コイル状態では鋼板が焼き付きを起こしやすいため、高温焼鈍する場合には、焼鈍分離剤を塗布する必要があるという問題もある。これに対して、連続焼鈍は、コイルを巻き戻しつつ鋼板の状態で熱処理を施すため、温度が均一で、焼鈍所要時間も短く、生産性に優れるという特長がある。そのため、近年では薄鋼板の焼鈍には、連続焼鈍法が主に採用されている。
【0003】
薄鋼板を連続焼鈍する設備としては、連続溶融亜鉛めっき鋼板や合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の原板を焼鈍するのに用いられている、鋼板を水平方向に移動させながら焼鈍する横型の連続焼鈍設備と、ブリキ用原板や一般冷延鋼板、高強度冷延鋼板、ステンレス鋼板の焼鈍等に用いられている縦型の連続焼鈍設備が一般的である。
ここで、上記横型の連続焼鈍設備は、通常、コイルから巻き戻した鋼板を炉内に導入し、炉内に設置されたハースロール上を一方向に通板させながら熱処理するものであるため、炉長の関係から、比較的低温で短時間の焼鈍にしか適用できない。一方、縦型の連続焼鈍設備は、コイルから巻き戻した鋼板を、炉内の上方と下方に対向して配設されたハースロールを介して方向を反転し、上下方向に往復運動させながら熱処理を施すものであるため、炉内に大量の鋼板を蓄えることができ、その分、焼鈍時間も長く確保することができる。したがって、現今では、縦型の連続焼鈍設備が主流である(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、縦型の連続焼鈍では、鋼板の走行安定性を確保するため、通常、炉内の鋼板には一定の張力を付与しつつ通板しているが、板厚が薄くなったり、板幅が広くなったりすると、ヒートバックルや蛇行を起こして、安定して鋼板を通板することが難しくなる。また、高温焼鈍では、鋼板の強度が低下することから、上記傾向はさらに強まる。さらに、縦型の連続熱処理では、上方のハースロール近傍の鋼板には、上記付与された張力に、鋼板の自重による引張応力も加わることになる。
そのため、例えば、板厚0.5mm以下の鋼板を750℃以上の高温で焼鈍を行うような場合には、鋼板が炉内で破断を起こし易く、特に、溶接部などのように、鋼板自体の材質や板厚、板幅が大きく変化する個所ではより破断を起こしやすい。
【0005】
上記溶接部の破断問題に対しては、例えば、特許文献1には、竪型熱処理炉において、溶接部の張力制御を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−279660号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「熱処理技術便覧」、日刊工業新聞社、2000年8月30日発行,p.764〜765.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術は、ステンレスの光輝焼鈍などに用いられる竪型の熱処理炉の技術であり、鋼板が炉内を何往復もする連続焼鈍設備に適用するには無理がある。また、鋼板の炉内での破断は溶接部に限って起こるわけではないため、高温長時間焼鈍でも破断を起こし難い焼鈍設備の開発が望まれている。
【0009】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、0.5mm以下の薄鋼板に高温長時間の焼鈍を施しても炉内破断を起こし難い新規な連続焼鈍設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた。その結果、炉内に配設されている鋼板の通板方向を反転させるためのハースロール(以降、「反転ロール」と称する。)を、従来の縦型炉のように上下に対向して配設するのではなく、水平方向に対向して配設することで、鋼板の自重による張力増大を軽減するとともに、上記反転ロールの軸心を鋼板の進行方向に直交する方向よりずらして配設することで、対向する反転ロールの周囲を鋼板が螺旋状に移動するようにすれば、炉内に大量の鋼板を蓄えることができるので、炉内破断を起こすことなく、高温長時間の焼鈍を施すことが可能となることに想到し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、薄鋼板を、炉内に対向して配設された反転ロールに巻きつけて進行方向を反転し、炉内を往復させながら焼鈍を施す連続焼鈍設備において、上記反転ロールは、水平方向に対向し、かつ、ロール軸心が鋼板進行方向に直交する方向より一定方向にずれて配設されてなることを特徴とする薄鋼板用連続焼鈍設備である。
【0012】
本発明の薄鋼板用連続焼鈍設備は、上記直交方向からのずれ角が2〜10°であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の薄鋼板用連続焼鈍設備は、上記対をなす反転ロール間に鋼板支持ロールが配設されてなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の薄鋼板用連続焼鈍設備は、上記反転ロールの外周に、鋼板を軸方向に移動させるスライド機構を設けてなることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の薄鋼板用連続焼鈍設備は、上記反転ロールのロール径が600mmφ以上であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の薄鋼板用連続焼鈍設備が対象とする上記薄鋼板は、板厚が0.5mm以下のものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鋼板を水平方向に対向配置した反転ロール間を往復移送させるとともに、反転ロールの軸心を鋼板の進行方向の直交方向とずらすことで、上記対向する反転ロールの周囲を鋼板が螺旋状に移動するようにしたので、0.5mm以下の薄鋼板でも、炉内破断を起こすことなく高温長時間の焼鈍を施すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の連続焼鈍炉の概要を説明する図である。
【図2】反転ロール軸心と鋼板進行方向の直交方向とのずれ角を説明する図である。
【図3】ずれ角により反転ロールの回転に伴って鋼板が板幅方向に移動することを説明する図である。
【図4】本発明の反転ロールの外周に設けられたスライド機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の連続焼鈍設備の概要を説明する模式図であり、(a)は平面図を、(b)は側面図を示したものである。連続焼鈍設備入側のペイオフリールでコイル1から巻き戻された鋼板2は、焼鈍炉3内に導入され、炉内に水平方向に対向して配設された反転ロール4aによって進行方向を反転され、反転ロール4aに対向する反転ロール4b方向に進行し、反転ロール4bによってまた進行方向を反転されて反転ロール4aの方向に進行する。その後、この反転を繰り返して所定の焼鈍が終了した鋼板は、炉外に取り出されて、設備出側のテンションリールでコイル5に巻き取られる。
【0020】
ところで、従来の縦型の連続焼鈍炉では、鋼板の進行方向と反転ロールの軸心方向は直交しているため、図1の平面図上では同じ位置を往復することになる。しかし、本発明の連続焼鈍炉では、反転ロールの軸心が、鋼板の進行方向と直交する方向から一定方向にずらして配設されている。このずれた角度を、以降、「ずれ角」という(図2参照)。そのため、本発明の連続焼鈍設備では、反転ロールによって反転された鋼板は、反転されるたびに鋼板の板幅方向(反転ロール軸心方向)に変位し、反転ロール4aおよび4bの周囲を螺旋状に往復するように移動することになる。
【0021】
その結果、従来の横型の連続焼鈍設備では一方向にしか鋼板が進行しなかったため、炉内に蓄えられる鋼板量も少なく、長時間の熱処理を施すことが不可能であった。一方、本発明の連続焼鈍設備では、対向する反転ロールの周囲を往復することで、大量の鋼板を炉内に蓄えることができるので、長時間の熱処理が可能となる。例えば、対向する反転ロール間が30mの場合、従来の横型設備では、30mの間で熱処理を完了させる必要があったが、本発明の連続焼鈍設備では、10往復させた場合には、600mの鋼板を炉内に蓄えることができる。したがって、鋼板を5m/分の速度で炉内を通板した場合には、2時間という長時間の焼鈍が可能となる。
【0022】
なお、上記ずれ角は、2〜10°の範囲とするのが好ましい。2°未満では、反転ロール間の距離が長くなりすぎるからであり、一方、10°を超えると、後述する鋼板とロール外周との間のスリップが大きくなり、鋼板を安定して通板することが難しくなり、表面疵が発生するようになるからである。
【0023】
また、本発明の連続焼鈍設備では、反転ロールを水平方向に対向して配設したので、鋼板の自重によって鋼板に付与される張力を大幅に軽減することができ、高温焼鈍における鋼板の炉内破断を回避することが可能となる。なお、対向する反転ロールの間が長い場合には、自重による撓み量が大きくなって鋼板に大きな張力が加わるようになるので、図1に示したような、鋼板を支持する支持ロール6を配設するのが好ましい。なお、この支持ロールは、図1のように1本である必要はなく、対向する反転ロール間の距離に応じて、適宜の本数、配設すればよい。好ましくは、5〜10mに1本の間隔で配設するのが望ましい。
【0024】
また、図1に示した本発明の連続焼鈍設備では、反転ロールは、長い胴長ロールとして、鋼板を1本のロールに複数回巻き付けるようにしているが、反転ロールを細分化して、1本のロールに対して1回巻き付けるようにしてもよい。なお、鋼板の走行安定性を確保するためには、個々のロールのずれ角を制御できる後者の方が好ましい。
【0025】
なお、本発明の連続焼鈍設備のように、鋼板の進行方向と反転ロールの軸心とが直交していない場合には、反転ロールに巻き付いた鋼板は、ロールが回転するのに伴って軸心方向に移動する。すなわち、図3に示したように、反転ロールが回転して図3の(a)から(b)に変化した場合には、鋼板がロールと接触を開始するときの幅端部の位置は、○印の位置から●印の位置に移動する。したがって、鋼板がロール胴長の中央部に位置し続けるためには、鋼板がロール軸心方向に常にスリップしている必要がある。しかし、上記鋼板とロール表面との間でのスリップは、鋼板にスリ疵を発生したり、ロール表面の摩耗を促進したりするため好ましくない。また、鋼板に付与する張力を小さくすることで、上記弊害を軽減することはできるが、張力を低下し過ぎると、却って通板安定性を確保し難くなる。
【0026】
そこで、本発明の連続焼鈍設備では、上記弊害を回避するため、反転ロールの外周部分に、図4に示したようなスライド機構を設けることが好ましい。このスライド機構は、反転ロールの外周部分を外周方向にセグメント8で小分割し、それぞれのセグメントがロール軸心方向にスライド可能となっており、鋼板がロール軸心方向に移動するのに伴って、鋼板と一緒に動くことで、鋼板とロール表面との間のスリップを回避することができる。そして、鋼板の反転が終了し、鋼板との接触がなくなったセグメントは、元の位置に戻すことで、鋼板のロール軸心方向への移動をキャンセルすることができる。なお、上記各セグメントのスライド機構は、板との滑りが少なくなるように、駆動系を設けて強制的にスライドさせるのが好ましい。
【0027】
また、上記反転ロールは、ロール径が600mmφ以上とすることが好ましい。ロール径が600mmφ未満では、板の曲げ歪が過大となり、鋼板の機械的特性等に悪影響を及ぼすおそれがあるからである。
【0028】
また、図1の連続焼鈍設備には、加熱装置として電気ヒータを用いた加熱装置7の例を示したが、本発明の連続焼鈍設備における加熱方法はこれに限定されるものではなく制限はない。したがって、高温に加熱できれば、いずれの方法を用いてもよく、例えば、ラジアントチューブのような輻射加熱方式や、誘導加熱方式や通電加熱方式でもよく、また、加熱した雰囲気ガスを炉内に吹き込む方式を用いてもよい。さらに、上記の方法を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
なお、本発明の連続焼鈍設備は、板厚が0.5mm以下の薄鋼板を対象とするものであることが好ましい。板厚が0.5mm超える鋼板では、高温焼鈍に起因して炉内破断を起こす頻度が少なく、本発明を適用する必要性がないからである。好ましくは、0.4mm以下、さらに好ましくは0.3mm以下の鋼板に適用するのが望ましい。
【0030】
また、本発明の連続焼鈍設備は、750℃以上の温度で10分以上の均熱処理を施す焼鈍設備に適用することが好ましい。750℃未満あるいは10分未満では、従来の縦型の連続焼鈍設備でも十分に対応が可能であり、本発明を適用する必要性がないからである。特に、本発明の連続焼鈍設備は、900℃以上で60分以上の高温長時間焼鈍を行う設備に適しており、1200℃以上の熱処理にも適用することができる。
【0031】
なお、上述した本発明の連続焼鈍設備の概要説明では、焼鈍炉3が1つの場合の例について説明したが、例えば、連続焼鈍設備を、加熱、均熱、冷却部分等に分割して、それぞれに上記と同じ構造の炉を設けてもよい。また、本発明の連続焼鈍設備は、高温長時間の焼鈍に適しているので、最も高温となる均熱部分を本発明の構造の炉とし、加熱および冷却部分は従来通りの炉としてもよい。
【0032】
また、本発明の連続焼鈍設備は、図1には示されていないが、コイル巻戻し設備と焼鈍炉との間に、切断・接合(溶接)設備やルーパーを設けて、連続してコイルを処理してもよい。また、上記切断・接合(溶接)設備の後方かつ炉前に、洗浄設備や酸洗設備、めっき設備等を設けもよいことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の熱処理設備は、従来の縦型や横型の連続焼鈍設備で焼鈍していたブリキ原板や冷延鋼板、高強度冷延鋼板、表面処理鋼板等の熱処理設備としても好適に用いることができる。さらに、本発明の熱処理設備は、高温長時間の熱処理が可能であるので、900℃以上の温度で二次再結晶焼鈍や純化焼鈍を行う方向性電磁鋼板の仕上焼鈍設備としても好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0034】
1:巻き戻し前のコイル
2:鋼板
3:熱処理炉
4、4a、4b:反転ロール
5:巻き取ったコイル
6:支持ロール
7:加熱装置
8:スライド機構
9:スライド機構を構成するセグメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄鋼板を、炉内に対向して配設された反転ロールに巻きつけて進行方向を反転し、炉内を往復させながら焼鈍を施す連続焼鈍設備において、上記反転ロールは、水平方向に対向し、かつ、ロール軸心が鋼板進行方向に直交する方向より一定方向にずれて配設されてなることを特徴とする薄鋼板用連続焼鈍設備。
【請求項2】
上記直交方向からのずれ角が2〜10°であることを特徴とする請求項1に記載の薄鋼板用連続焼鈍設備。
【請求項3】
上記対をなす反転ロール間に鋼板支持ロールが配設されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の薄鋼板用連続焼鈍設備。
【請求項4】
上記反転ロールの外周に、鋼板を軸方向に移動させるスライド機構を設けてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄鋼板用連続焼鈍設備。
【請求項5】
上記反転ロールのロール径が600mmφ以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄鋼板用連続焼鈍設備。
【請求項6】
上記薄鋼板は、板厚が0.5mm以下のものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の薄鋼板用連続焼鈍設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−87355(P2012−87355A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234230(P2010−234230)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】