説明

薬剤による光線過敏症の発症の危険性の判定方法

【課題】薬剤による光線過敏症の発症の危険性と関連性のある遺伝子多型を同定し、その遺伝子多型を利用して、ピルフェニドンなどの薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定する方法を提供すること。
【解決手段】CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子、CRISP3(cystein-rich secretpory protein 3)遺伝子、GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子、MN1(meningioma 1)遺伝子、及びKCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子から選択される遺伝子に存在する少なくとも一種の遺伝子多型を検出することを含む、薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の遺伝子多型を検出することを含む薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定する方法、副作用として光線過敏症を伴う薬剤を投与する患者の選別方法、上記方法に使用されるオリゴヌクレオチド、該オリゴヌクレオチドを含む薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
5−メチル−1−フェニル−2−(1H)−ピリドン(一般名:ピルフェニドン(Pirfenidone))は肺線維症を対象疾患とする薬剤である。ピルフェニドンに関しては、現在までに様々な効果が報告されている。例えば、1)肺や動脈硬化巣などにおける線維化に対して治療効果を示すことが特開平2−215719号公報に、2)その類縁体も同様の作用を有することが特表平8−510251号公報に、3)呼吸器や皮膚における炎症症状の治療に有用であることが米国特許第3,974,281号、米国特許第4,042,699号、及び米国特許第4,052,509号に、4)TNF−αの合成および放出を抑制することが特表平11−512699号公報に記載されている。また、国際公開WO02/060446号公報には、5−メチル−1−フェニル−2−(1H)−ピリドンを主薬として含有し、においや苦みをマスキングし、光安定性を向上させた錠剤が記載されている。
【0003】
ピルフェニドンの副作用の一つとして、一部の患者においては、光線過敏症が報告されている(Arata Azuma et al., American Jounal of Respiratory and Critical Care Medicine, Vol 171, pp1040-1057, 2005)。光線過敏症では、日光が肌に照射されることで湿疹やじんましんを発症する。しかしながら、光線過敏症の発症の有無は患者により異なる。もしピルフェニドンの投与前に光線過敏症の発症の危険性を判定することができればピルフェニドンを投与する患者を選別することができるが、そのような判定方法はこれまで報告がない。
【0004】
【非特許文献1】Arata Azuma et al., American Jounal of Respiratory and Critical Care Medicine, Vol 171, pp1040-1057, 2005
【特許文献1】特開平2−215719号公報
【特許文献2】特表平8−510251号公報
【特許文献3】米国特許第3,974,281号
【特許文献4】米国特許第4,042,699号
【特許文献5】米国特許第4,052,509号
【特許文献6】特表平11−512699号公報
【特許文献7】国際公開WO02/060446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、薬剤による光線過敏症の発症の危険性と関連性のある遺伝子多型を同定し、その遺伝子多型を利用して、ピルフェニドンなどの薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定する方法を提供することである。本発明の更に別の課題は、副作用として光線過敏症を伴う薬剤を投与する患者の選別方法、上記の薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定する方法に用いることのできるオリゴヌクレオチド、並びに薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定するためのキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ピルフェニドンによる光線過敏症の発症の危険性と関連性のある遺伝子多型を同定することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子、CRISP3(cystein-rich secretpory protein 3)遺伝子、GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子、MN1(meningioma 1)遺伝子、及びKCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子から選択される遺伝子に存在する少なくとも一種の遺伝子多型を検出することを含む、薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定する方法が提供される。
【0008】
本発明によれば好ましくは、CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子、CRISP3(cystein-rich secretpory protein 3)遺伝子、GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子、MN1(meningioma 1)遺伝子、及びKCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子から選択される遺伝子に存在する少なくとも一種の一塩基多型を検出することを含む、薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定する方法が提供される。
【0009】
本発明によれば好ましくは、下記の(1)から(5)よりなる群から選ばれる少なくとも一種の一塩基多型を検出することを含む、薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定する方法が提供される。
(1)CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子の第6イントロンの−161番目(3’末端から数えて161番目)の塩基におけるT/Cの多型;
(2)GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子の第2イントロンの+14184番目(5’末端から数えて14184番目)の塩基におけるT/Cの多型;
(3)MN1(meningioma 1)遺伝子の第1イントロンの−8320番目(3’末端から数えて8320番目)の塩基におけるT/Cの多型;
(4)KCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子の第1イントロンの+8504番目(5’末端から数えて8504番目)の塩基におけるA/Gの多型:及び
(5)上記(1)から(4)の何れかに記載の多型と連鎖不平衡係数D’が0.8以上の連鎖不平衡状態にある多型。
【0010】
好ましくは、薬剤はピルフェニドンである。
【0011】
本発明によればさらに、上記した本発明の方法により取得した薬剤による光線過敏症の発症の危険性に基づいて当該薬剤を投与する患者を選別することを含む、薬剤を投与する患者の選別方法が提供される。
【0012】
本発明によればさらに、下記の(1)から(5)よりなる群から選ばれる少なくとも1つの部位を含む連続する少なくとも10塩基の配列、又はその相補配列にハイブリダイズすることができ、上記した本発明の方法においてプローブとして用いるオリゴヌクレオチドが提供される。
(1)CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子の第6イントロンの−161番目(3’末端から数えて161番目)の部位;
(2)GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子の第2イントロンの+14184番目(5’末端から数えて14184番目)の部位;
(3)MN1(meningioma 1)遺伝子の第1イントロンの−8320番目(3’末端から数えて8320番目)の部位;
(4)KCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子の第1イントロンの+8504番目(5’末端から数えて8504番目)の部位:及び
(5)上記(1)から(4)の何れかに記載の多型と連鎖不平衡係数D’が0.8以上の連鎖不平衡状態にある多型の部位。
【0013】
本発明によればさらに、下記の(1)から(6)よりなる群から選ばれる少なくとも1つの部位を含む連続する少なくとも10塩基の配列、及び/又はその相補配列を増幅することができ、上記した本発明の方法においてプライマーとして用いるオリゴヌクレオチドが提供される。
(1)CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子の第6イントロンの−161番目(3’末端から数えて161番目)の部位;
(2)GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子の第2イントロンの+14184番目(5’末端から数えて14184番目)の部位;
(3)MN1(meningioma 1)遺伝子の第1イントロンの−8320番目(3’末端から数えて8320番目)の部位;
(4)KCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子の第1イントロンの+8504番目(5’末端から数えて8504番目)の部位:及び
(5)上記(1)から(4)の何れかに記載の多型と連鎖不平衡係数D’が0.8以上の連鎖不平衡状態にある多型の部位。
【0014】
好ましくは、プライマーはフォワードプライマー及び/又はリバースプライマーである。
【0015】
本発明によればさらに、上記のいずれかに記載のオリゴヌクレチドの1種以上を含む、薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定するためのキットが提供される。
好ましくは、薬剤はピルフェニドンである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、ピルフェニドンなどの薬剤による光線過敏症の発症の危険性の判断を正確にかつ迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[1] 薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定する方法
本発明の方法は、薬剤による光線過敏症の発症と関連性を示す特定遺伝子に存在する遺伝子多型、特には一塩基多型(SNPs)を検出することによって、薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定する方法である。
【0018】
上記の特定遺伝子とは、CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子、CRISP3(cystein-rich secretpory protein 3)遺伝子、GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子、MN1(meningioma 1)遺伝子、及びKCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子から選択される遺伝子であり、遺伝子多型は、この遺伝子を含むゲノムDNAのエクソン又はイントロンに存在する。
【0019】
本発明において「遺伝子に存在する少なくとも一種の遺伝子多型(一塩基多型など)を検出する」とは、(i)当該遺伝子多型(遺伝子側多型と称する)を直接検出すること、及び(ii)前記遺伝子の相補配列側に存在する遺伝子多型(相補側多型と称する)を検出し、その検出結果から遺伝子側多型を推定することの双方を指すものとする。ただし、遺伝子側の塩基と相補配列側の塩基とが完全に相補的な関係にあるとは限らないという理由から、遺伝子側多型を直接検出することがより好ましい。
【0020】
なお、本発明において検出対象となる一塩基多型としては、CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子、CRISP3(cystein-rich secretpory protein 3)遺伝子、GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子、MN1(meningioma 1)遺伝子、及びKCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子から選択される遺伝子に存在する遺伝子多型が挙げられ、より具体的には、下記の(1)から(5)よりなる群から選ばれる少なくとも一種の一塩基多型が挙げられる。
(1)CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子の第6イントロンの−161番目(3’末端から数えて161番目)の塩基におけるT/Cの多型;
(2)GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子の第2イントロンの+14184番目(5’末端から数えて14184番目)の塩基におけるT/Cの多型;
(3)MN1(meningioma 1)遺伝子の第1イントロンの−8320番目(3’末端から数えて8320番目)の塩基におけるT/Cの多型;
(4)KCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子の第1イントロンの+8504番目(5’末端から数えて8504番目)の塩基におけるA/Gの多型:及び
(5)上記(1)から(4)の何れかに記載の多型と連鎖不平衡係数D’が0.8以上の連鎖不平衡状態にある多型。
【0021】
CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子の塩基配列は公知であり、例えば、The National Center for Biotechnology Information (NCBI)にGeneID: 7180で登録されている。CRISP3(cystein-rich secretpory protein 3)遺伝子の塩基配列は公知であり、例えば、NCBIにGeneID: 10321で登録されている。GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子の塩基配列は公知であり、例えば、NCBIにGeneID: 55638で登録されている。MN1(meningioma 1)遺伝子の塩基配列は公知であり、例えば、NCBIにGeneID: 4330で登録されている。KCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子の塩基配列は公知であり、例えば、NCBIにGeneID: 80333で登録されている。
【0022】
CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子の第6イントロンの−161番目の塩基におけるT/Cの多型の位置は、配列番号1に記載の塩基配列の1136番目の塩基(3’末端側から数えて161番目の塩基)に対応する。なお、配列番号1に記載の塩基配列は、CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子の第6イントロンの塩基配列である。
【0023】
GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子の第2イントロンの+14184番目の塩基におけるT/Cの多型の位置は、配列番号2に記載の塩基配列の4185番目の塩基に対応する。なお、配列番号2に記載の塩基配列は、GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子の第2イントロンの10000番目から15000番目までの塩基の塩基配列である。
【0024】
MN1(meningioma 1)遺伝子の第1イントロンの−8320番目の塩基におけるT/Cの多型の位置は、配列番号3に記載の塩基配列の1348番目の塩基に対応する。なお、配列番号3に記載の塩基配列は、MN1(meningioma 1)遺伝子の第1イントロンの36000番目の塩基から3’末端の塩基までの塩基配列である。MN1(meningioma 1)遺伝子の第1イントロンの−8320番目(3’末端から数えて8320番目)の塩基は、MN1(meningioma 1)遺伝子の第1イントロンの37347番目の塩基に対応する。
【0025】
KCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子の第1イントロンの+8504番目の塩基におけるA/Gの多型の位置は、配列番号4に記載の塩基配列の3505番目の塩基に対応する。なお、配列番号4に記載の塩基配列は、KCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子の第1イントロンの5000番目から10000番目までの塩基配列である。
【0026】
本発明においては、CRISP2遺伝子の第6イントロンの−161番目(3’末端から数えて161番目)の塩基がTである場合、GOLSYN遺伝子の第2イントロンの+14184番目(5’末端から数えて14184番目)の塩基がCである場合、MN1遺伝子の第1イントロンの−8320番目(3’末端から数えて8320番目)の塩基がTである場合、そしてKCNIP4遺伝子の第1イントロンの+8504番目(5’末端から数えて8504番目)の塩基がAである場合は、薬剤による光線過敏症の発症の危険性が高いと判定できる。
【0027】
これに対し、CRISP2遺伝子の第6イントロンの−161番目(3’末端から数えて161番目)の塩基がCである場合、GOLSYN遺伝子の第2イントロンの+14184番目(5’末端から数えて14184番目)の塩基がTである場合、MN1遺伝子の第1イントロンの−8320番目(3’末端から数えて8320番目)の塩基がCである場合、そしてKCNIP4遺伝子の第1イントロンの+8504番目(5’末端から数えて8504番目)の塩基がGである場合は、薬剤による光線過敏症の発症の危険性が低いと判定できる。
【0028】
さらに本発明においては、上記(1)から(4)の何れかに記載の多型と連鎖不平衡係数D’が0.8以上の連鎖不平衡状態にある多型を用いることもできる。連鎖不平衡とは、2つの対立遺伝子がそれぞれ独立に遺伝する場合よりも大きな頻度で互いに連鎖して遺伝することをいう。SNPsマーカーは、日本人を含むアジア人とヨーロッパ人では平均22kb以内で連鎖不平衡が保たれている。また、アフリカ人では平均11kb以内で連鎖 不平衡が保たれていることが報告されている。さらに、このような連鎖不平衡を示す一群の対立遺伝子のことをハプロタイプと称する。所定の遺伝子座において複数のSNPsがある場合、その多型の組み合わせは個人によって異なる。この組み合わせがいわゆるハプロタイプマーカーであり、個人の多様性を表している。このようなハプロタイプマーカーを利用して被験者の遺伝情報と、薬剤による光線過敏症の発症に対する素因を関連付けることができる。連鎖不平衡係数D'は、2つのSNPについて第一のSNPの各アレルを(A,a)、第二のSNPの各アレルを(B,b)とし、4つのハプロタイプ(AB,Ab,aB,ab)の各頻度をPAB,PAb,PaB,Pabとすると、下記式により得られる。
D'=(PABPab-PAbPaB)/Min[(PAB+PaB)(PaB+Pab),(PAB+PAb)(PAb+Pab)]
[式中、Min[(PAB+PaB)(PaB+Pab),(PAB+PAb)(PAb+Pab)]は、(PAB+PaB)(PaB+Pab)と(PAB+PAb)(PAb+Pab)とのうち、値の小さい方をとることを意味する。]
【0029】
本発明では、好ましくは、連鎖不平衡係数D'が0.8以上、より好ましくは0.95以上、さらに好ましくは0.99以上、最も好ましくは1である多型を用いることができる。
【0030】
本明細書において、薬剤による光線過敏症の発症の危険性の「判定」とは、光線過敏症の発症の有無の判断、光線過敏症の発症の可能性の判断、光線過敏症の遺伝的要因の解明などをいう。
【0031】
また、薬剤による光線過敏症の発症の危険性の「判定」は、上記の一塩基多型の検出法による結果と、所望により他の多型分析(VNTRやRFLP)及び/又は他の検査結果と合わせて行うこともできる。
【0032】
また、本明細書において、「薬剤」とは、副作用により光線過敏症を発症させる可能性のある薬剤であれば特に限定されないが、特に好ましくはピルフェニドンである。
【0033】
(検出対象)
遺伝子多型の検出の対象は、ゲノムDNAが好ましいが、場合によっては(つまり多型部位及びその隣接領域の配列がゲノムと同一または完全相補的になっている場合)cDNA、又はmRNAを使用することもできる。また、上記対象を採取する試料としては、任意の生物学的試料、例えば血液、骨髄液、精液、腹腔液、尿等の体液;肝臓等の組織細胞;毛髪等の体毛等が挙げられる。ゲノムDNA等は、これらの試料より常法に従い抽出、精製し、調製することができる。
【0034】
(増幅)
遺伝子多型を検出するにあたっては、まず遺伝子多型を含む部分を増幅する。増幅は、例えばPCR法によって行われるが、他の公知の増幅方法、例えばNASBA法、LCR法、SDA法、LAMP法等で行ってもよい。
プライマーの選択は、例えば、配列番号1から4に示す塩基配列における、前記の一塩基多型部位を含む連続する少なくとも10塩基以上、好ましくは10〜100塩基、より好ましくは10〜50塩基の配列、及び/又はその相補配列を増幅するように行う。
【0035】
プライマーは、前記の一塩基多型部位を含む所定塩基数の配列を増幅するためのプライマーとして機能し得る限り、その配列において1又はそれ以上の置換、欠失、付加を含んでいてもよい。
【0036】
増幅のために用いるプライマーは、試料が一の対立遺伝子型の場合にのみ増幅されるようにフォワードプライマー又はリバースプライマーの一方が一塩基多型部位にハイブリダイズするように選択してもよい。プライマーは必要に応じて蛍光物質や放射性物質等により標識することができる。
【0037】
(遺伝子多型の検出)
遺伝子多型の検出は、一の対立遺伝子型に特異的なプローブとのハイブリダイゼーションにより行うことができる。プローブは、必要に応じて、蛍光物質や放射性物質等の適当な手段により標識してもよい。プローブは、前記の一塩基多型部位を含み、被検試料とハイブリダイズし、採用する検出条件下に検出可能な程度の特異性を与えるものである限り何等限定はない。プローブとしては、例えば配列番号1から4に示す配列における、前記の一塩基多型部位を含む連続する少なくとも10塩基以上、好ましくは10〜100塩基の配列、より好ましくは10〜50塩基の配列、又はそれらの相補配列にハイブリダイズすることのできるオリゴヌクレオチドを用いることができる。また、一塩基多型部位がプローブのほぼ中心部に存在するようにオリゴヌクレオチドを選択するのが好ましい。該オリゴヌクレオチドは、プローブとして機能し得る限り、即ち、目的の対立遺伝子型の配列とハイブリダイズするが、他の対立遺伝子型の配列とはハイブリダイズしない条件下でハイブリダイズする限り、その配列において1又はそれ以上の置換、欠失、付加を含んでいてもよい。また、プローブには、RCA(rolling circle amplification)法による増幅に用いられる一本鎖プローブ(パドロックプローブ)のように、ゲノムDNAとアニールし、環状になることによって上記のブロープの条件を満たすプローブが含まれる。
【0038】
本発明に用いるハイブリダイゼーション条件は、対立遺伝子型を区別するのに十分な条件である。例えば、試料が一の対立遺伝子型の場合にはハイブリダイズするが、他の対立遺伝子型の場合にはハイブリダイズしないような条件、例えばストリンジェントな条件である。ここで、「ストリンジェントな条件」としては、例えば、例えば、モレキュラークローニング・ア・ラボラトリーマニュアル第2版(Sambrook et al., 1989)に記載の条件等が挙げられる。具体的には、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mlニシン精子DNAを含む溶液中プローブとともに65℃で一晩保温するという条件等が挙げられる。
【0039】
プローブは、一端を基板に固定してDNAチップとして用いることもできる。この場合、DNAチップには、一の対立遺伝子型に対応するプローブのみが固定されていても、両方の対立遺伝子型に対応するプローブが固定されていてもよい。
【0040】
遺伝子多型の検出は、制限酵素断片長多型分析法(RFLP:Restriction fragment length polymorphism)により行うこともできる。この方法では、一塩基多型部位がいずれの遺伝子型をとるかによって制限酵素により切断されるか否かが異なってくる制限酵素で試料核酸を消化し、消化物の断片の大きさを調べることにより、該制限酵素で試料核酸が切断されたか否かを調べ、それによって試料の多型を分析する。
【0041】
遺伝子多型の検出は、増幅産物を直接配列決定することによって行ってもよい(ダイレクトシークエンシング法)。配列決定は、例えばジデオキシ法、Maxam-Gilbert法等の公知の方法により行うことができる。
【0042】
遺伝子多型の検出は、インベーダーアッセイにより行ってもよい。この方法では、SNPがあるかどうかテストするDNAターゲットフラグメントに対して相補的配列を持つインベーダーオリゴと5’のフラップ構造を持ち、SNPを検出するための相補的オリゴ(シグナルプローブ)を使用する。まずターゲットDNAに対してインベーダーオリゴとシグナルプローブをハイブリダイズさせる。この時、インベーダーオリゴとプローブは1塩基がオーバーラップする構造(invasive structure)を持つ。この部分にCleavase(Archaeoglobus fulgidusから分離されたフラップ・エンドヌクレアーゼ)が作用し、SNP部位のシグナルプローブの塩基とターゲットの塩基が相補的(SNPなし)の場合にはシグナルプローブの5'フリップが切断される。切断された5’フリップはFRET Probe (Fluorescence resonance energy transfer probe)にハイブリダイズする。FRET プローブ上には蛍光色素とクエンチャー(Quencher)が近接しており、蛍光が抑制されるが、5’フリップDNAが結合することによりCleavaseによって蛍光色素の部分が切断され、蛍光シグナルが検出できる。
【0043】
遺伝子多型の検出はまた、変性勾配ゲル電気泳動法(DGGE:denaturing gradient gel electrophoresis)、一本鎖コンフォメーション多型解析(SSCP:single strand conformation polymorphism)、対立遺伝子特異的PCR(allele- specific PCR)、ASO(allele-specific oligonucleotide)によるハイブリダイゼーション法、ミスマッチ部位の化学的切断(CCM:chemical cleavage of mismatches)、HET(heteroduplex method)法、PEX(primer extension)法、RCA(rolling circle amplification)法等を用いることができる。
【0044】
[2] 薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定するためのキット
前記のプライマー又はプローブとしてのオリゴヌクレオチドは、これを含む薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定するためのキットとして提供できる、キットは、上記遺伝子多型の分析法に使用される制限酵素、ポリメラーゼ、ヌクレオシド三リン酸、標識、緩衝液等を含んでいてもよい。
【0045】
本発明を、下記実施例により説明するが、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例において特に断りのない限り、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition (1989) (Cold Spring Harbor Laboratory Press)、Current Protocols in Molecular Biology (Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience) に記載された方法を用いた。
【実施例】
【0046】
実施例1 関連を有するSNPの探索
「ピルフェニドン(S-7701)の特発性肺線維症を対象とした第III相臨床試験」 に登録
され、かつ、遺伝子解析用の採血に文書で同意した特発性肺線維症患者において、ピルフェニドン(S-7701)による光線過敏症を発症した患者54例、ならびに非発症患者42例を対象として実験を行った。
【0047】
まず、前記の光線過敏症発症患者および非発症患者から得られた末梢血液を用いて、受託施設でDNA抽出を行った。このDNA試料を用いて、Illumina社のBeadArray法により、SNP解析用アレイSentrixTM HumanHap300 Genotyping BeadChipを用いて遺伝子型の判定を行った。解析するSNPは、国際HapMapプロジェクトのデータをもとにIllumina社によって選択された。
【0048】
ピルフェニドン(S-7701)による光線過敏症患者54例および非発症患者42例のそれぞれに対し、307570カ所のSNP座についてジェノタイピングを行った。ついで、2×2分割表を用いて遺伝統計学的解析を行い、光線過敏症患者群と非発症患者群との間の遺伝子型頻度または対立遺伝子頻度に有意な差を示したSNPを選択した (関連解析)。なお、関連解析は、Devlin BらGenomics, 29, 311-322 (1995) およびNielsen DMらAm J Hum Genet,63, 1531-1540 (1998) の報告に従って行った。
【0049】
その結果、表1に示す。19 SNP座における遺伝子型の分布が、S-7701による光線過敏症の発症と強い関連を示した。表中の11は、メジャーアレルのホモ接合体、12はヘテロ接合体、22はマイナーアレルのホモ接合体をそれぞれ示している。
【0050】
【表1】

【0051】
前記の19 SNPから、Odds ratio が20以上の値を示すものは疾患との関連が高いSNPとして選択した。このうち、ケースとコントロールの値の比較から、連動していると判断したものを除いたrs515257、rs3133926、rs2267113およびrs6858452について更に解析対象とすることにした。rs515257はCRISP2遺伝子の第6イントロンの−161番目の塩基におけるSNP座(T/C)、rs3133926はGOLSYN遺伝子の第2イントロンの+14184番目の塩基におけるSNP座(T/C)、rs2267113はMN1遺伝子の第1イントロンの−8320番目の塩基におけるSNP座(T/C)およびrs6858452はKCNIP4遺伝子の第1イントロンの+8504番目の塩基におけるSNP座(A/G)であった。(塩基の位置情報については、数値が小さくなる方向から数え、5’側から数えた場合は+、3’側から数えた場合は−を付している)。また、各SNPにおけるアレルのパターンは以下の通りである(表2)。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例2:4 SNPを組み合わせた光線過敏症予測システムの構築
ピルフェニドン(S-7701)による光線過敏症の予測精度を上げる目的で、疾患との関連の強いと思われる上記の4 SNPを組み合わせた解析を実施した。光線過敏症発症に関するリスクタイプの遺伝子型を示す患者に1点を、非リスクタイプの遺伝子型を示す患者に0点を与えた。(図1のScoring参照)。次に、患者ごとにスコアを合計し、合計スコアが0点の患者を非リスクタイプ、1点以上の患者をリスクタイプと判定し、2×2分割表を用いた統計解析を行った。その結果、P値は、3.9×10-15と有意な関連が見られたことから、4 SNPにおけるジェノタイプを組み合わせることにより、ピルフェニドン(S-7701)による光線過敏症の発症を予測できることが示された。
【0054】
また、前記のピルフェニドン(S-7701)による光線過敏症の予測システムの感度 (sensitivity)、特異度 (specificity)、陽性的中率 (PPV) および陰性的中率 (NPV) を調べた。具体的には、以下のような予測結果の表3において、
感度 = a / (a + b)
特異度 = d / (c + d)
陽性的中率 = 感度×発症率 / (感度×発症率 + (1 - 特異度)×(1 - 発症率))
陰性的中率 = 特異度×(1 - 発症率) / (特異度×(1 - 発症率) + (1 - 感度)×発症率)
の計算式によって、予測システムの診断特性を評価することができる。
【0055】
【表3】

【0056】
その結果、感度 (sensitivity)は0.81であり、特異度 (specificity)は0.95であり、陽性的中率 (PPV)は0.94であり、陰性的中率 (NPV)は0.84であった (図2)。すなわち、本予測システムを用いた場合、擬陽性および擬陰性の割合はともに低いことが予想され、信頼性の高い診断が期待できる。
【0057】
実施例3:光線過敏症の発症に関連する候補遺伝子の探索
CRISP2、CRISP3およびPGK2遺伝子における光線過敏症関連SNP (rs6935473、rs515257、rs699983、rs699986) 周辺の領域については、より詳細な遺伝子多型の検索をダイレクトシークエンス法にて行った。CRISP2、CRISP3およびPGK2を含むゲノム配列に関連するGenBankの情報(アクセッション番号:NM_003296、NM_006061およびNM_138733)を基にデザインしたPCRプライマーを用いて、標的部位を増幅した。また、PCRプライマーのデザインに際して、Bedellら、Bioinformatics, 16, 1040-1041 (2000) の報告に従って、REPEATMASKERプログラム (ワシントン大学より供給、http://www.repeatmasker.org/cgi-bin/WEBRepeatMaskerにて利用可能) により、検索対象から反復エレメントを排除した。探索対象領域のダイレクトシークエンシングによって同定されたSNPについて、光線過敏症患者54例および非発症患者42例のジェノタイピングを実施した。光線過敏症患者群と非発症患者群との間の遺伝子型頻度または対立遺伝子頻度の差について、2×2分割表を用いて遺伝統計学的解析を行った。得られたP値の負の常用対数 (-log(P-value))を算出し、各SNPの染色体上のポジションに対してプロットすることにより、図3を得た。
【0058】
解析の結果、rs6935473の約60 kb上流から約30 kb下流の領域において、さらなる光線過敏症関連SNPが存在することが示された(図3)。この領域は、国際HapMapプロジェクトのデータに基づく連鎖不平衡ブロックの範囲とほぼ一致していた。
【0059】
したがって、ピルフェニドン(S-7701)による光線過敏症の発症に重要な領域は、rs6935473を含むこの約90 kbの範囲内に存在すると考えられる。また、この連鎖不平衡ブロック内に存在するCRISP2、CRISP3およびPGK2が、ピルフェニドン(S-7701)による光線過敏症の発症に関する候補遺伝子であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、4個のSNPについて光線過敏症発症に関するリスクタイプの遺伝子型を示す患者に1点を与え、非リスクタイプの遺伝子型を示す患者に0点を与え、次に患者ごとにスコアを合計し、合計スコアが0点の患者を非リスクタイプ、1点以上の患者をリスクタイプと判定し、2×2分割表を用いた統計解析を行った結果を示す。
【図2】図2は、本発明によるピルフェニドンによる光線過敏症の予測システムの感度 (sensitivity)、特異度 (specificity)、陽性的中率 (PPV) および陰性的中率 (NPV) を調べた結果を示す。
【図3】図3は、光線過敏症の発症に関連する候補遺伝子を探索した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子、CRISP3(cystein-rich secretpory protein 3)遺伝子、GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子、MN1(meningioma 1)遺伝子、及びKCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子から選択される遺伝子に存在する少なくとも一種の遺伝子多型を検出することを含む、薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定する方法。
【請求項2】
CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子、CRISP3(cystein-rich secretpory protein 3)遺伝子、GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子、MN1(meningioma 1)遺伝子、及びKCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子から選択される遺伝子に存在する少なくとも一種の一塩基多型を検出することを含む、薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定する方法。
【請求項3】
下記の(1)から(5)よりなる群から選ばれる少なくとも一種の一塩基多型を検出することを含む、薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定する方法。
(1)CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子の第6イントロンの−161番目(3’末端から数えて161番目)の塩基におけるT/Cの多型;
(2)GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子の第2イントロンの+14184番目(5’末端から数えて14184番目)の塩基におけるT/Cの多型;
(3)MN1(meningioma 1)遺伝子の第1イントロンの−8320番目(3’末端から数えて8320番目)の塩基におけるT/Cの多型;
(4)KCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子の第1イントロンの+8504番目(5’末端から数えて8504番目)の塩基におけるA/Gの多型:及び
(5)上記(1)から(4)の何れかに記載の多型と連鎖不平衡係数D’が0.8以上の連鎖不平衡状態にある多型。
【請求項4】
薬剤がピルフェニドンである、請求項1から3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の方法により取得した薬剤による光線過敏症の発症の危険性に基づいて当該薬剤を投与する患者を選別することを含む、薬剤を投与する患者の選別方法。
【請求項6】
下記の(1)から(5)よりなる群から選ばれる少なくとも1つの部位を含む連続する少なくとも10塩基の配列、又はその相補配列にハイブリダイズすることができ、請求項1から5のいずれかに記載の方法においてプローブとして用いるオリゴヌクレオチド。
(1)CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子の第6イントロンの−161番目(3’末端から数えて161番目)の部位;
(2)GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子の第2イントロンの+14184番目(5’末端から数えて14184番目)の部位;
(3)MN1(meningioma 1)遺伝子の第1イントロンの−8320番目(3’末端から数えて8320番目)の部位;
(4)KCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子の第1イントロンの+8504番目(5’末端から数えて8504番目)の部位:及び
(5)上記(1)から(4)の何れかに記載の多型と連鎖不平衡係数D’が0.8以上の連鎖不平衡状態にある多型の部位。
【請求項7】
下記の(1)から(6)よりなる群から選ばれる少なくとも1つの部位を含む連続する少なくとも10塩基の配列、及び/又はその相補配列を増幅することができ、請求項1から5のいずれかに記載の方法においてプライマーとして用いるオリゴヌクレオチド。
(1)CRISP2(cystein-rich secretpory protein 2)遺伝子の第6イントロンの−161番目(3’末端から数えて161番目)の部位;
(2)GOLSYN(golgi-localized protein)遺伝子の第2イントロンの+14184番目(5’末端から数えて14184番目)の部位;
(3)MN1(meningioma 1)遺伝子の第1イントロンの−8320番目(3’末端から数えて8320番目)の部位;
(4)KCNIP4(Kv channel interacting protein 4)遺伝子の第1イントロンの+8504番目(5’末端から数えて8504番目)の部位:及び
(5)上記(1)から(4)の何れかに記載の多型と連鎖不平衡係数D’が0.8以上の連鎖不平衡状態にある多型の部位。
【請求項8】
プライマーがフォワードプライマー及び/又はリバースプライマーである請求項7に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項9】
請求項6から8のいずれかに記載のオリゴヌクレチドの1種以上を含む、薬剤による光線過敏症の発症の危険性を判定するためのキット。
【請求項10】
薬剤がピルフェニドンである、請求項9に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−148470(P2010−148470A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331751(P2008−331751)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】