薬剤スクリーニング方法、組換えベクター、形質転換体およびアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬
【課題】アピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する有効な治療薬を安全かつ迅速にスクリーニングすることができる薬剤スクリーニング方法、および該治療薬を提供すること。
【解決手段】アピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬をスクリーニングする方法であって、
宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体(a)を培養することを含む培養工程と、
フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子を共発現する形質転換体(a)の増殖が、それ以外の形質転換体または宿主細胞のうちの少なくともいずれかの増殖に比べて阻害される候補化合物を選択する選択工程とを有することを特徴とするとする薬剤スクリーニング方法。
【解決手段】アピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬をスクリーニングする方法であって、
宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体(a)を培養することを含む培養工程と、
フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子を共発現する形質転換体(a)の増殖が、それ以外の形質転換体または宿主細胞のうちの少なくともいずれかの増殖に比べて阻害される候補化合物を選択する選択工程とを有することを特徴とするとする薬剤スクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬の開発に関し、より詳しくは、アピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬のスクリーニングに用いられる薬剤スクリーニング方法、該薬剤スクリーニング方法に好適に用いられる組換えベクター、該薬剤スクリーニング方法に好適に用いられる形質転換体および該薬剤スクリーニング方法によりスクリーニングされるアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
マラリアは、アピコンプレキサン類に属するマラリア原虫により引き起こされる疾病であり、全世界のマラリアによる年間の感染者は推定で3〜5億人、犠牲者は270万人にのぼるといわれている。世界人口の40%が流行地域に居住しており、地球温暖化による媒介蚊の生息地の北上や、社会経済の国際化に伴ういわゆる輸入感染症として、更なる流行地域の拡大および感染者の増加が懸念されている。
また、薬剤耐性マラリア原虫や、殺虫剤耐性媒介蚊の世界規模での拡散により、マラリアの治療およびその制圧は困難になっており、新たな抗マラリア薬の開発が待望されている。
【0003】
一方、アピコンプレキサン類に属する他の原虫であるトキソプラズマやクリプトスポリジウムは、先天性およびエイズなどの後天性免疫不全、あるいは免疫抑制剤の使用により、強力な病原性を発揮するため医療現場において重要な問題となってきている。
【0004】
このようなアピコンプレキサン類に属する原虫は、アピコプラストと称される色素体様のオルガネラを有しており、このオルガネラは、原虫の増殖や生存に重要な役割を果たすことが知られている。
アピコプラストは、植物のプラスチド(色素体)と類似したものと考えられている。植物プラスチドの一種である葉緑体に電子伝達活性を有するフェレドキシン(Fd)が存在することはよく知られている。葉緑体においては、光エネルギー転換系で生じる電子がフェレドキシンの還元に用いられる。還元されたフェレドキシンは、電子供与体として、フェレドキシン:NADP+還元酵素(FNR)によるNADP+の還元の他、亜硝酸還元酵素やグルタミン酸合成酵素による窒素源の同化、Fd:チオフェレドキシン還元酵素による炭酸同化系酵素の活性調節など、フェレドキシン依存酵素群が関与する種々の反応において機能し、プラスチドにおける代謝経路の要として機能する。
【0005】
一方、根のような非光合成器官のプラスチドでは、硝酸イオンや硫酸イオンの還元や不飽和脂肪酸の合成などが行われる重要な場となっており、これらの反応の鍵となる酵素のいくつかは葉緑体における場合と同様にフェレドキシンからの環元力を必要とする。非光合成プラスチドにおいては、光からの化学エネルギーは得られず、解糖系や酸化的ペントースリン酸回路から生じる電子がNADPHとしてフェレドキシンに還元力を提供する。このNADPHによるフェレドキシンの還元は、非光合成プラスチドに存在し、葉緑体のFNRとは逆の反応を行うFNRのアイソザイムにより行われることが明らかになっている。いくつかの植物で、光合成組織と非光合成組織とでフェレドキシンとFNRのペアは異なる分子種として存在し、それぞれの組織のペアは組織の必要に応じた働きを持つと考えられている。還元されたフェレドキシンは、葉緑体における場合と同様に電子供与体として種々の反応に関与する(例えば、非特許文献1および非特許文献2参照)。
【0006】
また、発明者らは、X線構造解析により明らかにした、植物フェレドキシンとFNRとの電子伝達複合体の構造を報告している(非特許文献3参照)。
なお、本明細書においては、「フェレドキシン:NADP+還元酵素」とは、生理的条件下で前記NADP+を還元する方向の反応を促進するもののみならず、逆向きの反応を促進するものも含んで広義に用いられる。
【0007】
【非特許文献1】
Y.Onda et al. Plant Physiology, July2000, Vol.123, p.1037−1045
【非特許文献2】
長谷俊治等著「化学と生物」 Vol.39,No10,2001 p.660−666
【非特許文献3】
G.Kurisu et al. Nature Struct. Biol.,Vol.8,No2,2001 p.117−121
【0008】
【発明を解決しようとする課題】
本発明は、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、アピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬の開発に関し、より詳しくは、アピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する有効な治療薬を安全かつ迅速にスクリーニングすることができる薬剤スクリーニング方法、該薬剤スクリーニング方法に好適に用いられる組換えベクター、該薬剤スクリーニング方法に好適に用いられる形質転換体およびアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する有効で薬剤耐性原虫発生の可能性の低い治療薬を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、マラリア原虫のアピコプラストには、植物の根組織等の非光合成プラスチドに存在するフェレドキシン(Fd)とフェレドキシン:NADP+還元酵素(FNR)と構造および機能が類似した酵素が発現しており、このマラリアFdとFNRは、電子伝達複合体を形成してNADPHからの電子を種々の化合物に伝達する機能を持つとの知見を得た。このことから、この複合体から効率よく電子を受容し、ラジカル種のような細胞内毒性を発揮できる物質(酸化還元剤)が、アピコンプレキサン類に属する原虫の増殖を阻害し、該原虫により引き起こされる疾病に対する有効な治療薬となるとの着想を得た。この着想にもとづき、アピコンプレキサン類に属する原虫におけるフェレドキシンおよびFNRの反応系をよく再現する薬剤スクリーニング系を構築し、実際にスクリーニングを行うことにより更なる知見を得た。
【0010】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
<1> アピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬をスクリーニングする方法であって、
宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体(a)と、宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子が導入されており該遺伝子が発現している形質転換体(b)、宿主細胞にフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が導入されており該遺伝子が発現している形質転換体(c)、フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子のいずれも導入されておらずフェレドキシン遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子のいずれも発現していない形質転換体(d)、および、フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子のいずれも導入されておらずフェレドキシン遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子のいずれも発現していない宿主細胞(e)、のうちの少なくともいずれかとを、候補化合物の存在下においてそれぞれ培養する培養工程と、
フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子を共発現する形質転換体(a)の増殖が、それ以外の形質転換体または宿主細胞のうちの少なくともいずれかの増殖に比べて阻害される候補化合物を選択する選択工程とを有することを特徴とする薬剤スクリーニング方法である。
<2> 培養工程が、前記培養工程で用いられる形質転換体と同一の形質転換体、または、前記培養工程で用いられる形質転換体および宿主細胞と同一の形質転換体および宿主細胞を、候補化合物の不存在下においてコントロールとしてそれぞれ培養することを含み、
選択工程が、候補化合物存在下と前記コントロールとの差を増殖の阻害として行われる前記<1>に記載の薬剤スクリーニング方法である。
<3> 培養工程が、培地上に、複数の異なる濃度で、または、連続的な濃度勾配をもって、前記形質転換体を播種して行われる前記<1>および<2>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
<4> 培養工程が、前記候補化合物について複数の異なる濃度条件下で、または、連続的な濃度勾配条件下で行われる前記<1>から<3>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
<5> 宿主細胞が大腸菌である前記<1>から<4>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
<6> フェレドキシンをコードする遺伝子が、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストに実質的に由来する以下の(a)および(b)のいずれかの鉄硫黄タンパク質をコードするDNAであって、宿主細胞内で過剰発現させることができるDNAである前記<1>から<5>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
(a)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる鉄硫黄タンパク質
(b)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、電子伝達活性を有する鉄硫黄タンパク質
配列番号1:
<7> フェレドキシンをコードする遺伝子が、以下の(a)および(b)のいずれかのDNAである前記<1>から<5>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA配列番号2:
<8> フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストに実質的に由来する以下の(a)および(b)のいずれかのタンパク質をコードするDNAであって、宿主細胞内で過剰発現させることができるDNAである前記<1>から<7>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
(a)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号7で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質
配列番号7:
<9> フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が、以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであるである前記<1>から<7>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
(a)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドの酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
配列番号8:
<10> アピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬が、抗マラリア剤である前記<1>から<9>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
<11> フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子を含み、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであり、
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのDNAであることを特徴とする組換えベクターである。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドの酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
<12> 前記<11>に記載の組換えベクターを含むことを特徴とする形質転換体である。
<13> 宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体であって、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子であり、
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子であることを特徴とする形質転換体である。
(a)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる鉄硫黄タンパク質
(b)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、電子伝達活性を有する鉄硫黄タンパク質
(c)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(d)配列番号7で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質
<14> 大腸菌にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体であって、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであり、
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのDNAであることを特徴とする形質転換体である。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドの酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
<15> ラジカル発生剤を有効成分として含むことを特徴とするアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬である。
<16> ラジカル発生剤が、窒素原子にアルキル、ベンジル、または、ベタインなどの置換基を有してもよいビピリジルまたはその塩化物である前記<15>に記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬である。
<17> 窒素原子にアルキル、ベンジル、または、ベタインなどの置換基を有してもよいビピリジルまたはその塩化物が、γ,γ’ビピリジル骨格を有する前記<16>に記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬である。
<18> 有効成分が、メチルビオローゲン、エチルビオローゲン、ベンジルビオローゲン、ベタインビオローゲンのいずれかである前記<17>に記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬である。
<19> 抗マラリア剤である、前記<15>から<18>のいずれかに記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の薬剤スクリーニング方法は、アピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬をスクリーニングする方法であって、
宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体(a)と、宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子が導入されており該遺伝子が発現している形質転換体(b)、宿主細胞にフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が導入されており該遺伝子が発現している形質転換体(c)、フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子のいずれも導入されておらずフェレドキシン遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子のいずれも発現していない形質転換体(d)、フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子のいずれも導入されておらずフェレドキシン遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子のいずれも発現していない宿主細胞(e)のうちの少なくともいずれかとを、候補化合物の存在下においてそれぞれ培養する培養工程と、
フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子を共発現する形質転換体(a)の増殖が、それ以外の形質転換体または宿主細胞のうちの少なくともいずれかの増殖に比べて阻害される候補化合物を選択する選択工程とを有することを特徴とする。
【0012】
本明細書において「アピコンプレキサン類原虫」とは、アピコンプレキサン(アピコプラスト)を含む分類群をいい、マラリア原虫、トキソプラズマ、クリプトスポリジウム、バベシア、イソスポーラ、肉胞子虫等を含む。熱帯熱マラリア原虫以外のマラリア原虫としては、特に制限はないが、例えば三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、および卵形マラリア原虫等が挙げられる。
【0013】
「アピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病」とは、アピコンプレキサン類原虫の寄生により引き起こされる疾病であれば特に制限はないが、例えば、マラリア原虫によるマラリアや、トキソプラズマやクリプトスポリジウムによる、免疫不全または免疫抑制下における病原性などが挙げられ、中でも、マラリアに対する治療薬である抗マラリア剤は特に開発の要請が強いことから重要である。
【0014】
前記培養工程においては、形質転換体(b)、(c)および(d)のすべてを用いてもよいが、例えば形質転換体(d)だけを用いて形質転換体(a)と対比しても良い。また、必ずしも形質転換体である必要は無く、形質転換体(d)の代わりに宿主細胞(e)をそのまま用いても良い。
【0015】
前記フェレドキシンとしては、アピコプレキサン類に属する原虫のフェレドキシン、植物の根のフェレドキシン、植物の葉のフェレドキシン、およびそれらの変異体など、フェレドキシンの相同体であって、電子伝達活性を有するものであれば特に制限はないが、アピコプレキサン類に属する原虫における電子伝達系をよく再現し、該原虫の増殖阻害に特に有効な薬剤をスクリーニングする観点から、アピコプレキサン類に属する原虫のフェレドキシンおよびその変異体が好ましく、抗マラリア剤スクリーニングのためにはマラリア原虫のフェレドキシンおよびその変異体が特に好ましい。
【0016】
前記アピコンプレキサン類に属する原虫のフェレドキシンおよびその変異体をコードする遺伝子としては、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストに実質的に由来する以下の(a)および(b)のいずれかの鉄硫黄タンパク質をコードするDNAであって、宿主細胞内で過剰発現させることができるDNAであることが好ましい。
(a)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる鉄硫黄タンパク質
(b)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、電子伝達活性を有する鉄硫黄タンパク質
配列番号1:
【0017】
発明者らは、データベース検索から、熱帯熱マラリアゲノムDNA中に、植物根フェレドキシンと相同な(52%同一)オープンリーディングフレームが存在するとの知見を得た(図1)。植物フェレドキシンとの比較により、97番目のLeuから成熟体がスタートすると推定したが、マラリアに代表されるアピコンプレキサン類に属する原虫のゲノムは特殊なコード配列を有するため、通常の方法により前記原虫のゲノムDNAをそのまま大腸菌等の宿主に導入しても、マラリアフェレドキシンを効率よく過剰発現させることはできない。そこで、アピコンプレキサン類に属する原虫のフェレドキシンをコードする遺伝子の塩基配列を改変し、宿主細胞内で効率よく過剰発現できるDNAの塩基配列を設計した。すなわち、図2に示すようにN末端側15番目までに位置するアミノ酸のコドンの3番目の塩基をA若しくはTになるように設計した(図2上段および下段のDNAの塩基配列は、それぞれ配列番号2および6とする)。このDNAを用いることにより初めて該フェレドキシンを宿主細胞で過剰発現させることができた。
【0018】
なお、前記植物フェレドキシンと相同性のある配列を有するアピコンプレキサン類原虫のアピコプラスト由来フェレドキシンが実際に原虫において発現されており、原虫細胞内のアピコプラストに存在していることは、マラリア原虫において確認した。マラリア原虫の生活史は、ハマダラ蚊の体内にいる段階とヒトの体内にいる段階とに分けられるが、ヒトの体内では肝細胞に入った後赤血球に入って増殖していく。この赤血球期におけるフェレドキシンの分布をマラリア原虫フェレドキシン特異抗体で検出すると、原虫の核外の限られた一器官に局在しているのが確認された(図3)。ミトコンドリアのマーカーとは異なる通常単一の核外小器官に存在することから、このスポットはアピコプラストにフェレドキシンが局在していることを示す。また、このフェレドキシン特異抗体で検出されるスポットは、原虫の成熟後期になると数が増え、その後分裂した核の周りに存在するようになることが観察された。これは、アピコプラストの分裂に関する知見と一致する。
【0019】
前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質に鉄−硫黄クラスターが配位されている鉄硫黄タンパク質は、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)に由来する、植物フェレドキシンと相同性を有する鉄硫黄タンパク質であり、マラリア原虫由来のフェレドキシンである。
【0020】
また、鉄−硫黄クラスターが配位され、前記配列番号1のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなりかつ電子伝達活性を有する鉄硫黄タンパク質とは、熱帯熱マラリア原虫のフェレドキシンにおいて電子伝達活性を維持しつつ改変を加えたアミノ酸配列を有するフェレドキシンの変異体や、他のマラリア原虫や、マラリア以外のアピコンプレキサン類原虫のフェレドキシンまたはその変異体を含む。このような変異体の中でも、野生型のアピコンプレキサン類原虫の鉄硫黄タンパク質、または、制限酵素導入等のための1又は数個のアミノ酸残基の改変を導入した該鉄硫黄タンパク質が、野生型の反応をよく再現できることから、特に好ましい。
【0021】
どのアミノ酸に改変を加えると電子伝達活性を維持し得るかは、フェレドキシンファミリー内における配列比較や(図1)、後述する立体構造解析の結果等から推測して設計することができる。例えば、前述の熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンにおいて、39番目、44番目、47番目、および77番目のシステインは酸化還元中心である[2Fe−2S]クラスターを保持するアミノ酸であり、このシステインの近傍のアミノ酸はクラスターの電子伝達特性を規定している(図4)。したがって、これらのシステインの近傍(立体構造上システイン側鎖からの距離が5Å以内に存在するものが好ましい)のアミノ酸の置換は、クラスターの挿入は起こるが、その酸化還元電位を大きく変化させて、フェレドキシンの電子伝達剤としての生理的機能を消失させることから、本発明の薬剤スクリーニング用としては好ましくない。例えば、45番目のセリンをグリシン置換したS45G変異体および45番目のセリンと46番目のスレオニンを両方ともグリシンに置換したS45G/T46G変異体とを調製したが、45番目のセリンをグリシン置換すること(S45G変異体)により電位が200 mV程度上昇する。この変異体フェレドキシンではアピコプラストの代謝反応が進行しないと考えられる。なお、図1中、上段が熱帯熱マラリア原虫のフェレドキシン(配列番号3)、中段がトウモロコシの根のフェレドキシン(配列番号4)、下段がホウレンソウの葉のフェレドキシン(配列番号5)を表す。
【0022】
また、前記改変には、組換え体作製のため制限酵素部位を導入するための改変も含まれる。一般にこのようなタンパク質の機能を維持した1〜数個のアミノ酸の改変は極めて容易に行われ、数個以上のアミノ酸の改変も容易に行われる。
前記鉄−硫黄クラスターとしては、[2Fe−2S]クラスター、[4Fe−4S]クラスターなどが挙げられ、マラリア原虫由来の鉄硫黄タンパク質は、野生型において[2Fe−2S]クラスターを有することから、[2Fe−2S]クラスターを有することが好ましい。該鉄−硫黄クラスターは、タンパク質部分のシステイン側鎖の硫黄に配位する。
【0023】
前記「アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストに実質的に由来する」とは、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストのフェレドキシンや、これに前記のような改変を加えた変異体を含む意味である。
なお、前記鉄硫黄タンパク質が電子伝達活性を有するか否かは、該鉄硫黄タンパク質とフェレドキシン:NADP+還元酵素との反応性を、フェレドキシン:NADP+還元酵素依存性NADPH−Cyt c還元反応を測定することにより評価することができる。
【0024】
前記アピコンプレキサン類に属する原虫のフェレドキシンおよびその変異体をコードする遺伝子としては、以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであることもまた、好ましい。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA配列番号2:
【0025】
配列番号2は、発明者らが設計した大腸菌内で熱帯熱マラリア原虫のフェレドキシンを過剰発現することができるDNAであり、配列の両端には制限酵素部位(NcoIとXbaI)を有する。適当なプロモーターと前記制限酵素部位を含むベクターにDNAリガーゼを用いて結合させ、大腸菌内で大量にフェレドキシンを発現することができる。また、該DNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNAには、アミノ酸配列を変えずに、かつ、発現能を保持しつつ、単一のまたは複数の塩基配列を改変したDNAや、制限酵素部位を改変したDNA、電子伝達活性を維持しながらアミノ酸配列に本質的でない改変を加えたタンパク質をコードするDNA、および熱帯熱マラリア原虫以外のマラリア原虫のフェレドキシンをコードするDNA等が含まれる。
【0026】
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素としては、アピコプレキサン類に属する原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素、植物の根のフェレドキシン:NADP+還元酵素、植物の葉のフェレドキシン:NADP+還元酵素、およびそれらの変異体など、フェレドキシン:NADP+還元酵素の相同体であって、電子伝達活性を有するものであれば特に制限はないが、アピコプレキサン類に属する原虫における電子伝達系をよく再現し、該原虫の増殖阻害に特に有効な薬剤をスクリーニングする観点から、アピコプレキサン類に属する原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素およびその変異体が好ましく、抗マラリア剤スクリーニングのためにはマラリア原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素およびその変異体が特に好ましい。
【0027】
アピコプレキサン類に属する原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素およびその変異体をコードする遺伝子としては、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストに実質的に由来する以下の(a)および(b)のいずれかのタンパク質をコードするDNAであって、宿主細胞内で過剰発現させることができるDNAであることが好ましい。
(a)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号7で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質
配列番号7:
【0028】
発明者らは、データベース検索から、熱帯熱マラリア原虫ゲノムDNA中に、トウモロコシ根フェレドキシン:NADP+還元酵素(ZmrFNR)およびトウモロコシ葉フェレドキシン:NADP+還元酵素(ZmlFNR)と相同な(ZmrFNRと29%同一、ZmlFNEと25%同一)オープンリーディングフレームが存在するとの知見を得た(図5)。トウモロコシ根フェレドキシン:NADP+還元酵素(図5下段、配列番号9)との比較から、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素前駆体の35番目のアミノ酸からスタートすると推定し、それよりC末端側の成熟体領域(図5上段、配列番号7)をコードするDNA断片をフェレドキシンの場合と同様に、宿主細胞において過剰発現可能なように設計することができる。このDNAを用いることにより初めて該熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素を宿主細胞で過剰発現させることができた。
【0029】
配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、熱帯熱マラリア原虫に由来する、植物のフェレドキシン:NADP+還元酵素のタンパク質部分と相同性を有するタンパク質であり、FADを包摂する該タンパク質は、マラリア原虫由来のフェレドキシン:NADP+還元酵素である。フェレドキシン:NADP+還元酵素は、補酵素であるフラビン−アデニンジヌクレオチド(FAD)が、タンパク質分子の窪みのなかに包摂されて活性中心を構成する。
【0030】
また、FADを包摂する前記配列番号7で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存してピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質であるタンパク質−FAD複合体は、熱帯熱マラリア原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素において電子伝達活性(ここではピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性)を維持しつつ改変を加えたアミノ酸配列を有するフェレドキシン:NADP+還元酵素の変異体、他のマラリア原虫やマラリア以外のアピコンプレキサン類原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素およびその変異体を含む。また、前記改変は、前述のフェレドキシンの場合と同様に、フェレドキシン:NADP+還元酵素ファミリー内における配列比較(図5)等から推測して設計することができる。たとえば、FADやNADPH結合部位などの領域(図5中下線部)の近傍に改変を加えることにより、活性が変化するため、これを保存することにより、活性を維持した変異体を設計することもできる。
【0031】
前記タンパク質−FAD複合体がフェレドキシンに依存してピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するか否かは、フェレドキシンの電子伝達活性と同様に、フェレドキシンと該タンパク質−FAD複合体との反応性を、フェレドキシン:NADP+還元酵素依存性NADPH−Cyt c還元反応を測定することにより評価することができる。
【0032】
アピコプレキサン類に属する原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素およびその変異体をコードする遺伝子としては、以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであることもまた、好ましい。
(a)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
配列番号8:
【0033】
配列番号8は、発明者が設計した大腸菌内で熱帯熱マラリア原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素を過剰発現することができるDNAであり、配列の両端には制限酵素部位(NcoIとXbaI)を有する。適当なプロモーターと前記制限酵素部位を含むベクターにDNAリガーゼを用いて結合させ、大腸菌内で大量にフェレドキシン:NADP+還元酵素を発現することができる。また、該DNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNAには、アミノ酸配列を変えずに、かつ、発現能を保持しつつ、単一のまたは複数の塩基配列を改変したDNAや、制限酵素部位を改変したDNA、ピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を維持しながらアミノ酸配列に本質的でない改変を加えたタンパク質をコードするDNA、および熱帯熱マラリア原虫以外のマラリア原虫やマラリア以外のアピコンプレキサン原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードするDNA等が含まれる。
【0034】
前記宿主細胞としては、公知の材料の中から目的に合わせて適宜選択することができるが、例えば、大腸菌、酵母等が挙げられ、大腸菌が特に好ましい。
前記宿主細胞へのDNAの導入方法も、公知の方法の中から、目的にあわせて、適宜選択することができ、ベクターによる方法、相同組換え等による宿主ゲノムDNAへの挿入等が挙げられ、中でもベクターによる方法が好ましい。前記ベクターとしては特に制限はないが、前記プロモーターを含むpTrc99A等のベクターが好適に使用できる。
【0035】
前記フェレドキシンをコードする遺伝子の場合、大腸菌内で[2Fe−2S]クラスターを有するホロ型蛋白質として過剰発現させる必要があるため、このクラスター挿入を宿主である大腸菌細胞内で起こさせるためには、当該ポリペプチドの発現速度がクラスター挿入と共役できるように配慮する必要がある。このためには適切な発現プロモーターの選択が重要となる。このようなプロモーターとしては、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター等が好適に用いることができる。
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子の場合、大腸菌内でFADを包摂することが好ましく、FADの包摂は、大腸菌の成育温度を20℃〜37℃の間で変化させることにより最適化を図ることができる。配列番号8で表される塩基配列からなるDNAを用いた場合には、27℃および37℃のいずれでも包摂が起こった。
【0036】
前記DNAの発現条件は、前記宿主細胞や前記使用ベクター等の材料や、目的に合わせて適宜選択することができる。
【0037】
前記培養工程は、前記培養工程で用いられる形質転換体と同一の形質転換体、または、前記培養工程で用いられる形質転換体および宿主細胞と同一の形質転換体および宿主細胞を、候補化合物の不存在下においてコントロールとしてそれぞれ培養することを含み、選択工程が、候補化合物存在下と前記コントロールとの差を増殖の阻害として行われることが、形質転換体自体の増殖の差の影響を除去できることから好ましい。
【0038】
また、培養工程は、培地上に、複数の異なる濃度で、または、連続的な濃度勾配をもって、前記形質転換体を播種して行われることが、形質転換体による育成阻害の程度を段階的に観察できることがら好ましい。このような方法としては、例えば、培地上に十倍ごとに希釈した形質転換体の縣濁液を滴下した列をつくる方法が挙げられる。
また、培養工程が、前記候補化合物について複数の異なる濃度条件下で、または、連続的な濃度勾配条件下で行われることも、形質転換体による育成阻害の候補化合物濃度依存を観察できることがら好ましい。このような方法としては、例えば、異なる濃度の候補化合物を加えたプレートで培養する方法や、培地の中央に候補化合物を滴下し、周囲にいくほど候補化合物の濃度が低くなるような濃度勾配を作り、そこに形質転換体を同一濃度同一量の複数のスポット上に播種する方法などが挙げられる。
【0039】
本発明の薬剤スクリーニング方法は、マラリア原虫などの原虫を用いる必要が無いことから、安全に薬剤スクリーニングを行うことができる。また、大腸菌等の利便性の高い宿主を用いることができることから、簡便で、かつ、マラリア原虫を用いる実験系に比べて迅速に薬剤スクリーニングを行うことができる。
【0040】
本発明の組換えベクターは、フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子を含み、前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであり、前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのDNAであること以外特に制限はない。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0041】
前記フェレドキシンをコードする遺伝子の場合、宿主(特に大腸菌)内で[2Fe−2S]クラスターを有するホロ型蛋白質として過剰発現させる必要があるため、当該ポリペプチドの発現速度がクラスター挿入と共役できるように、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター等を有することが好ましい。
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子の場合、宿主(特に大腸菌)内でFADを包摂して精製されることが好ましい。
【0042】
前記組換えベクターは、前記本発明の薬剤スクリーニング方法に用いられる形質転換体の生成のため、好適に用いることができる。抗マラリア剤のスクリーニング方法に用いられる形質転換体を生成する場合には、前記フェレドキシンをコードする遺伝子が前記(a)のDNAであり、前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が前記(c)のDNAであることが、野生型の反応をよく再現するため、特に好適である。
【0043】
本発明の形質転換体は、前記本発明の組換えベクターを含むこと以外は特に制限はない。
【0044】
本発明の他の態様の形質転換体は、宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体であって、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子であり、前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子である形質転換体である。
(a)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる鉄硫黄タンパク質
(b)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、電子伝達活性を有する鉄硫黄タンパク質
(c)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(d)配列番号7で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質
【0045】
本発明の他の態様の形質転換体は、大腸菌にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体であって、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであり、前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのDNAである形質転換体である。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0046】
特に抗マラリア剤のスクリーニング方法に用いられる場合には、前記フェレドキシンをコードする遺伝子が前記(a)のDNAであり、前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が前記(c)のDNAである形質転換体が、野生型のマラリア原虫のフェレドキシンおよびフェレドキシン:NADP+還元酵素と極めて近いタンパク質を大腸菌においてよく過剰発現し、マラリア原虫における反応をよく再現する観点から好ましい。
【0047】
本発明のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬は、ラジカル発生剤を有効成分として含むことを以外特に制限はない。
ラジカル発生剤は、アピコンプレキサン類原虫において機能しているフェレドキシンとFNRとが関与する系から、電子を受容し、ラジカル種を発生する化合物であり、例えば、窒素原子にアルキル(メチル、エチル、プロピル等)、ベンジル、または、ベタインなどの置換基を有してもよいビピリジルまたはその塩化物(ビピリジニウム)などが挙げられ、前記ビピリジニウムとしては、γ,γ’ビピリジル骨格を有するビピリジニウムが好ましい。また、前記γ,γ’ビピリジル骨格を有するビピリジニウムとしては、メチルビオローゲン、エチルビオローゲン、ベンジルビオローゲン、ベタインビオローゲンなどが挙げられ、メチルビオローゲン、ベンジルビオローゲンがより好ましく、ベンジルビオローゲンが特に好ましい。
【0048】
本発明のラジカル発生剤を有効成分として含むアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬は、アピコンプレキサン類原虫におけるレドックスカスケードを以下のようにバイパスすることにより、本来フェレドキシンに還元力を与えられて進行する種々の反応を阻害し、細胞毒性を発揮するラジカル種を発生させることにより機能すると考えられる。
【0049】
【0050】
また、本発明のアピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬は、前記のように、該原虫成育の要となる電子伝達系をバイパスするものであり、かつ、該フェレドキシンとFNRが関与する反応は、植物における例によれば、多岐にわたることから、原虫アピコプラスト内においても相当数の未知の酸化還元反応が該フェレドキシンとFNRを必要とすることが予想される。したがって、該フェレドキシンとFNRの電子供給系としての必須性は高く、この電子供給系を低下あるいは消失して、ラジカル発生剤への電子供与効率を減少したような薬剤耐性原虫が生じる可能性は極めて低いと考えられる。
【0051】
次に、本発明のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬の製剤化および投与量について説明する。本発明のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬は、上記有効成分をそのまま、または、公知の医薬用担体と組合せて製剤化することができる。投与形態としては、特に限定がなく、必要に応じ適宜選択して使用され、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられる。
本発明のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬の投与量は、疾病に関与する原虫、該薬剤の効力、患者の年令、体重、疾患の程度等により異なるが、例えば、メチルビオローゲンおよびベンジルビオローゲンを抗マラリア剤として用いる場合には、通常成人で本発明の抗マラリア剤の有効成分の重量として、一回の服用量はメチルビオローゲンで0.25〜5g程度、ベンジルビオローゲンで0.02g〜0.4g程度が好ましい。
【0052】
経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。
この種の製剤には、適宜上記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用することができる。
【0053】
【実施例】
発明者等はまず、マラリア原虫のアピコプラストには、植物の根組織等の非光合成プラスチドに存在するフェレドキシン(Fd)とフェレドキシン:NADP+還元酵素(FNR)と構造および機能が類似した酵素が発現しており、このマラリアFdとFNRは、電子伝達複合体を形成してNADPHからの電子を種々の化合物に伝達する機能を持つことを以下の実施例によって実証した。
【0054】
(実施例1)
実験1:熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン(P. falciparum Fd)の生産
発明者らは、データベース検索から、熱帯熱マラリアゲノムDNA中に、植物根フェレドキシンと相同な(52%同一)オープンリーディングフレームが存在するとの知見を得た(図1)。
トウモロコシ由来フェレドキシンとの比較から、マラリアフェレドキシン前駆体の97番目のLeuから成熟体がスタートすると推定し、それよりC末端側の領域(配列番号1のアミノ酸配列)をコードするDNA断片を化学合成することとした。
【0055】
マラリアゲノムは特殊なコード配列を有するため、通常の方法によりマラリアゲノムDNAをそのまま大腸菌に導入しても、マラリアフェレドキシンを効率よく過剰発現させることはできない。そこで、マラリアフェレドキシンをコードする遺伝子の塩基配列を改変し、大腸菌内でマラリアフェレドキシンが効率よく過剰発現できるDNAの塩基配列を設計した。また、DNA配列の両端には制限酵素部位(NcoIとXbaI)を設けた。制限酵素部位導入のため配列番号1のN末端のアミノ酸残基であるLeuをAlaに改変した(図3のアミノ酸配列、配列番号10)。このようなDNA配列を、配列番号2に表す。
【0056】
前記配列番号2で表されるDNAの化学合成は以下の手順で行った。
前記配列番号2で表されるDNAを、図3のように8分割し、2本鎖で計16本のオリゴヌクレオチドをDNA合成装置により化学合成した。前記配列番号2で表されるDNA両鎖の5’末端に相当する2本を除く14本のオリゴヌクレオチド1nmolを、ATPとT4ポリヌクレオチドキナーゼ10単位とを用いて37℃で60分間反応させてリン酸化した。次に、90℃で3分間加熱しキナーゼを失活させた。
前半と後半の2つのブロックに分け、ブロックごとにそれぞれ7本のリン酸化DNA溶液および1本の5’末端DNA溶液を1本のチューブにまとめ、それぞれの混合溶液を90℃で3分間加熱したのち、氷水で急冷した。
つづいて、75℃で5分間加熱したのち、室温に達するまで放置しアニーリングさせ、T4DNAリガーゼ700単位を加えて16℃で2時間反応させた。
2%アガロースゲル(1x TBE buffer)で電気泳動し、目的の鎖長のバンドを切り、アガロースからDNAを回収した。
精製した2本のフラグメントを1つのチューブにまとめ、T4 DNAリガーゼ100単位を用いて16℃で2時間反応させ、末端に導入した制限酵素サイトNcoIとXbaIを利用して、Trcプロモーターを有し制限酵素(NcoIおよびXbaI)で切断した大腸菌発現ベクター(pTrc99A)(ファルマシア社)へ、組み込んだ(図6)。
【0057】
フェレドキシンDNAの大腸菌内での発現は、以下のように行った。
大腸菌JM105株に上記pTrc99A由来の組換えプラスミドを導入した。この大腸菌をアンピシリン添加LB培地(1リットルあたりポリペプトン80g、酵母エキス40g、塩化ナトリウム80g)にて37℃で一晩、培養した。この培養液80mlを8リットルのアンピシリン添加LB培地に加え、37℃で2時間培養した後に、イソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシドを最終濃度0.5mMになるように添加し、さらに約10時間培養した。培養液を5000g、10分間の条件で遠心し、集菌した。菌体は−30℃にて保存した。
【0058】
組換え体フェレドキシンの精製は、以下のように行った。
大腸菌を50mMのTris−HCl、pH7.5、25%のスクロース、0.5%の2−メルカプトエタノール、0.5mMのPMSF溶液にて懸濁し、リゾチームを0.5mg/mlに添加し、氷上で10分間反応させた。この懸濁液を50mMのTris−HCl、pH7.5、60mMのNaCl、3mMのEDTAにて2倍量に希釈した。次いで、−30℃のアセトンを最終濃度40%(v/v)になるように加えた。この懸濁液を10000g、10分間の条件で遠心し、上清をDEAEセルロースカラムに注入した。吸着されたFdタンパクは、50mMのTris−HCl、pH7.5、700mMのNaCl溶液にて溶出した。さらに、セファデックスG75カラム(ファルマシア)、DE52カラム、フェニルスーパロースカラムの3つのカラムを用いる公知の方法により、組換えFdタンパクを精製した。
【0059】
精製されたフェレドキシンの純度と収量を検定するために、分光光度計(島津UV−2550)により解析した結果を図7に示す。
フェレドキシンは、50mMのTris−HCl(pH7.5)透析後、終体積8mlとなった。光路長2mmのキュベットを用いて吸光度を測定した。
図7の波形、すなわちピーク点の波長、および、277nm(第4ピーク)および423nm(第2ピーク)の波長における吸光度の比から、この精製物がフェレドキシンであることが確認された。すなわち、これまで同定されているフェレドキシンの前記比(A423/A277)は、0.45〜0.60の範囲内であり、測定値から求めた前記比は、
【0060】
R=A423/A277=0.568
であった。さらに、423nmでの吸光度から、下記のように収量を計算した。
【0061】
モル分子吸光係数 ε=10mM−1cm−1
分子量11000とすると本濃度は5.1mg/mlに相当する。
【0062】
実験2:熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンの立体構造の決定
フェレドキシンの結晶化は、ハンギングドロップ蒸気拡散法により行った。液滴とするフェレドキシン溶液は、50mMのTris−HCl(pH7.5)中にフェレドキシンを20mg/mlの濃度で含むフェレドキシン溶液2μlと、下記外液用溶液2μlとをピペットマンチューブで混合して調製した。外液には、0.2M酢酸ナトリウム三水塩、0.1Mカコジル酸ナトリウム(pH6.5)、および、30%(w/v)ポリエチレングリコール8000を500μl使用した。4℃で10日間静置し、フェレドキシン結晶が得られた。
【0063】
フェレドキシンの立体構造の解析は、X線結晶構造解析により行った。
得られた結晶は、試料吹付低温装置(Rigaku社製)により液体窒素温度下に置き、Rigaku R-AXIS IVにより、振動角度1度、合計180度の振動写真の回折像を測定した。なお、X線発生機はRigaku ultrax 18HB、コンフォーカルミラーはRigaku多層膜ミラーを使用した。
回折像はDPSおよびMOS−FILMプログラムにより構造因子データに変換し、トウモロコシ根フェレドキシンの立体構造をプローブモデルとした分子置換法により、前記マラリアフェレドキシンの結晶構造を解いた。回折像を図8に示す。
【0064】
得られた原子座標は、表1に示したとおりである。
【0065】
【表1】
【0066】
また、前記解析結果から導かれる立体構造の模式図を図9に示す。図中のアルファベット表記EとDは各々グルタミン酸とアスパラギン酸を示し、数字はこれらのアミノ酸の残基番号を示す。フェレドキシンのこれらの酸性アミノ酸残基の一部あるいは大部分が、FNRとの分子間相互作用に関与していると推察される。
【0067】
実験3:熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンの電子伝達活性の評価
フェレドキシンの電子伝達活性は、フェレドキシン:NADP+還元酵素(FNR)との反応性を、FNR依存性NADPH−Cyt c還元反応を測定することにより評価した。反応液は、NADPH産生系(3mMのグルコース6リン酸ナトリウムおよび50μgのグルコース6リン酸脱水素酵素)存在下において、100mMのNaCl、200μMのCyt c、40nMのFNR、および50μMのNADPHを含み、計0.6mlになるよう調製した。
【0068】
前記FNRとしては、トウモロコシ根由来のFNRおよびトウモロコシ葉由来のFNRのいずれかを用いた。反応は熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンを最終濃度1.25μM〜40μMになるように加えることにより開始した。Cyt cの還元は、550nmの波長の吸光度(A550)の増加を分光光度計で測定することによりモニターした。また、ホウレンソウの葉由来のフェレドキシン、トウモロコシの根由来のフェレドキシンの電子伝達活性も同様に測定した。
測定結果を表2および表3に示す。
【0069】
【表2】
トウモロコシ根FNR存在下における電子伝達活性(μM/sec)
電子伝達活性は、Cyt c還元能にて測定した。
【0070】
【表3】
トウモロコシ葉FNR存在下における電子伝達活性(μM/sec)
電子伝達活性は、Cyt c還元能にて測定した。
【0071】
熱帯熱マラリア原虫由来のフェレドキシンは、トウモロコシ根由来のFNRとの反応においては、低濃度で極めて高い活性を示すが、トウモロコシ葉由来のFNRとの反応においては、低い活性を示すにとどまった。この特性は、トウモロコシ根フェレドキシンの活性プロファイルとよく似ている。これにより、マラリア原虫由来フェレドキシンは、トウモロコシ根フェレドキシンに代表される植物根の非光合成プラスチドのフェレドキシンと同じような反応特性を有することが明らかになった。
【0072】
トウモロコシ根フェレドキシンが、トウモロコシ葉FNR存在下におけるよりも、トウモロコシ根FNR存在下における場合の方が高い反応性を示したことは、根フェレドキシンが根FNRに対しては優れたNADPHからの還元能を有するが、葉FNRに対しては前記還元能が劣ることを実証するもので、このことは、本発明者らにより既になされたトウモロコシ根フェレドキシンのX線構造解析による結果により裏付けられている。
【0073】
マラリア原虫由来フェレドキシンが、根フェレドキシンと極めて類似した反応特性を有することを示したことは、マラリア原虫フェレドキシンが根フェレドキシン同様、葉FNRではなく根FNRに対してのみ優れた複合体形成能、電子伝達能を有することを実証したものであり、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラスト由来フェレドキシンと該アピコプラスト由来のFNRとが、植物根の非光合成プラスチド由来フェレドキシンと該FNRとの場合に類似した立体構造を有する複合体を形成することを強く示唆するものである。
【0074】
実験4:熱帯熱マラリア原虫由来フェレドキシンの電子伝達活性阻害の測定法重合度の異なるポリリジンの阻害効果の評価のため、熱帯熱マラリア原虫由来フェレドキシンの電子伝達活性を測定した。反応液にポリリジンを加えることを除いては、実験3と同様にフェレドキシンの電子伝達活性を測定した。
単体のリジン、および分子量範囲500〜2000、4000〜15000のポリリジンによるマラリアフェレドキシンの電子伝達活性阻害を表4に示した。0.5 mg/ml濃度での阻害率は分子量範囲4000〜15000のポリリジンが最も高く98%、次に分子量範囲500〜2000のポリリジンが35%であり、単体のリジンの阻害効果は認められなかった。分子量範囲4000〜15000のポリリジン阻害濃度を調べたところ(表5)、ID50は約50μg/mlの低濃度であった。これらの結果は、フェレドキシンの、FNRとの会合部分にあるグルタミン酸やアスパラギン酸の酸性残基の側鎖のカルボキシル基が、重合した複数のリジンの塩基性側鎖によりふさがれて、FNRとの複合体形成能が阻害されたと考えられる。これによっても、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラスト由来フェレドキシンと該アピコプラスト由来のFNRとが、植物根の非光合成プラスチド由来フェレドキシンと該FNRとの場合に類似した立体構造を有する複合体を形成することを強く示唆された。
【0075】
【表4】
リジン、ポリリジンによるマラリアフェレドキシンの電子伝達活性の阻害
【0076】
【表5】
分子量範囲4000〜15000ポリリジンの濃度によるマラリアフェレドキシンの電子伝達活性の阻害
【0077】
実験5:熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素(PfFNR)の生産
発明者らは、データベース検索から、熱帯熱マラリア原虫ゲノムDNA中に、トウモロコシ根フェレドキシン:NADP+還元酵素(ZmrFNR)およびトウモロコシ葉フェレドキシン:NADP+還元酵素(ZmlFNR)と相同な(ZmrFNRと29%同一ZmlFNEと25%同一)オープンリーディングフレームが存在するとの知見を得た(図5)。マラリア原虫のFNRの一次構造には、植物型FNRと比べてN末端の28塩基にわたる挿入やC末端の8塩基の欠失など特異な構造が見られたが、FADやNADPH結合部位などの領域は保存されていた。トウモロコシ根フェレドキシン:NADP+還元酵素との比較から、熱帯熱マラリア原虫FNR前駆体の35番目からスタートすると推定し、それよりC末端側の成熟体領域(配列番号7のアミノ酸配列)をコードするDNA断片を化学合成することとした。
【0078】
前述の熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンの場合と同様に、大腸菌内での発現を考慮したDNAの塩基配列を設計し、配列番号8に表す人工配列を得た。このDNA配列の両端には制限酵素部位(NcoIとXbaI)を設けた。制限酵素部位導入のため配列番号7のアミノ酸配列のN末端のアミノ酸残基であるLeuをAlaに改変した(図10および図11のアミノ酸配列、配列番号11)。このようなDNA配列を、配列番号8に表す。
前期配列番号8で表されるDNAの化学合成は以下の手順で行った。
前期配列番号8で表されるDNAを、図10および図11のように24分割し、2本鎖で計48本のオリゴヌクレトチドをDNA合成装置により化学合成した。全体を前部、中部、後部の3つのブロックに均等に分け、DNA断片のリン酸化と結合反応、アガロースゲル電気泳動による精製、ベクター(pTrc99A)への組み込みを、前述の熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンの場合と同様の方法で行った(図12)。
このFNRの化学合成遺伝子の発現は実験1で述べた熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンの場合と同様の方法で行った。
【0079】
組換え体FNRの精製は以下のように行った。
大腸菌菌体を50mMのTris−HCl(pH7.5)、200mMのNaClおよび0.5mMのPMSF溶液にて懸濁し、超音波にて細胞を十分破砕した。この破砕液を10000g、10分の条件で遠心し、上清をDEAEセルロースカラムに注入し素通り画分を回収した。この画分を40%〜60%飽和硫安で分画し、沈殿物を同様の遠心で集め、50mMTris−HCl(pH7.5)に透析した。これをDEAE−トヨーパールとフェレドキシンアフィニティカラムを用いる公知の方法により、組換え酵素を精製した。
精製されたFNRの純度と収量を検定するために、分光光度計(島津UV−2500)により、解析した結果を図13に示す。
【0080】
図13に示すスペクトルを元にした277.5nm(第4ピーク)と453nm(第2ピーク)の吸光度の比から、この精製物がFNRであることが確認された。すなわち、これまで同定されているFNRの前記比(A453/A275)は0.10〜0.13であり本測定値から求めた前記比は、
R=A453/A275=0.124
であった。さらに、A453での吸光度から、下記のように収量を計算した。
モル分子吸光係数 ε=10.7mM−1cm−1
A453 x 1/ε = 0.211 x 1/10.7 =0.02mM
分子量35000とすると0.7mg/mlに相当する。
【0081】
実験6:熱帯熱マラリア原虫FNRを用いた熱帯熱マラリア原虫およびトウモロコシフェレドキシンの電子伝達活性の評価
前記実験3における、トウモロコシ根のFNRを用いた、上記の2種のフェレドキシンの活性評価と同一のアッセイ方法および条件で、実験5で得られた熱帯熱マラリア原虫FNRを用いた熱帯熱マラリア原虫およびトウモロコシフェレドキシンの電子伝達活性評価を行い、熱帯熱マラリア原虫FNRの反応性を測定した。電子伝達活性はCyt c還元能(μM/sec)で測定したが、e−/secに換算し、その結果を図14に示す。対比のため、実験3におけるトウモロコシの根のFNRを用いた場合の結果もe−/secに換算し(40nMのFNRを用いてCytcの1電子還元反応をアッセイしているので、0.04μMで割る)図14左に示す。
【0082】
実験5で得られた熱帯熱マラリア原虫FNR存在下において、フェレドキシンはNADPH−Cyt c還元反応において電子伝達活性を示すことから、該熱帯熱マラリア原虫FNRがピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有することが実証された。
また、熱帯熱マラリア原虫FNRは、トウモロコシフェレドキシンに比べ熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンと高い反応性を示すことが判明した。この特性は、熱帯熱マラリア原虫由来の酵素・タンパク質同士が分子間の電子伝達に好都合な構造特性を備えていることを示すものである。したがって、熱帯熱マラリア原虫アピコプラストでのフェレドキシンとFNRをターゲットにした抗マラリア薬剤の探索には、前述の植物根のFNRを用いるよりも、熱帯熱マラリア原虫由来のタンパク質同士の組み合わせの方がより優れたスクリーニング系を提供するものであると結論づけられる。
【0083】
実験7:熱帯熱マラリア原虫由来のFNRとフェレドキシンの組み合わせによる電子伝達阻害の測定
トウモロコシ根のFNRを用いて重合度の異なるポリリジンの阻害効果の評価を行った前記実験4の実験に加え、熱帯熱マラリア原虫由来のFNRを用いた同様の測定を行った。本実験では、ポリリジンの重合度を32、16、8、4に特定できるペプチドを用いて行なった。その結果を図15に示す。32量体(重合度32)のものが、ID50が約20μg/mlで阻害効果が最も高く、16量体、8量体のものは10倍から100倍阻害力は低下した。4量体のものや単体のリジンは、ほとんど阻害効果はなかった。これらの結果は、特定の重合度を持ったポリカチオンが、FNRとフェレドキシンの分子間電子伝達を阻害できることを示すものであり、トウモロコシ根のFNRを用いて行われた阻害実験と基本的には良い一致が得られた。
【0084】
実験8:熱帯熱マラリア原虫由来フェレドキシンの改変体の作製と吸収スペクトルの評価
前述のpTrc99Aに組み込んだ熱帯熱マラリア原虫由来フェレドキシンの発現プラスミドを用いて、コード領域にユニークに存在する制限酵素サイト(BamHIとHindIII)を利用して、45番目のセリンをグリシンに置換した変異体(S45G)、および45番目のセリンと46番目のスレオニンを共にグリシンに置換した変異体(S45G/T46G)を作製するためのオリゴヌクレオチドのカセットを化学合成し、定法に従って野生型の対応する部分と入れ換えた(図16)。
【0085】
上記2種のフェレドキシン変異体は、野生型と同様にして大腸菌発現系で精製可能であった。精製標品の吸収スペックトルを図17に示す。両方の変異体とも[2Feー2S]クラスターに由来する420nmと330nm付近の吸収極大がレッドシフトしており、改変によりクラスターの存在環境が変化したことを示唆している。この結果は、クラスターの配位子であるシステイン近傍のアミノ酸の置換により、電子伝達活性が変化したマラリア原虫フェレドキシンを作製できることを実証したものである。
【0086】
次に、フェレドキシンとFNRとの複合体から効率よく電子を受容し、ラジカル種のような細胞内毒性を発揮できる物質(酸化還元剤)が、アピコンプレキサン類に属する原虫の増殖を阻害し、該原虫により引き起こされる疾病に対する有効な治療薬となるとの着想を実用化するために、アピコンプレキサン類に属する原虫におけるフェレドキシンおよびFNRの反応系をよく再現する薬剤スクリーニング系を構築し、実際にスクリーニングを行うとともに、そのスクリーニング系およびスクリーニングされた化合物の機能を検証すべく、以下の実験を行った。
【0087】
(実施例2)
薬剤スクリーニング系構築のための、熱帯熱マラリア原虫のフェレドキシン(Fd)およびフェレドキシン:NADP+還元酵素(FNR)の人工合成遺伝子を組み込んだ大腸菌細胞の作製
FdまたはFNR遺伝子を単独に含むプラスミドであるpTrc99A(Fd)、pTrc99A(FNR)については、前述の実施例1実験1の図6(下)および実験5の図12のように構築したものを用いた。FdおよびFNR遺伝子を共に含むプラスミド(pTrc99A(FNR/Fd))は、図18に示すように構築した。pTrc99A(FNR/Fd)は、pTrc99A(FNR)のApaI/DraI領域を切り出し、pTrc99A(Fd)のApaI/EcoRVサイトに挿入することにより構築した。元のベクターとこれら3種のプラスミドを用いて大腸菌細胞を形質転換した。形質転換細胞はアンピシリン(50μg/ml)を含むLB−培地プレート(LB−培地:1リットルあたりポリペプトン80g、酵母エキス40g、塩化ナトリウム80g)で選別した。両遺伝子の発現はpTrcプロモーターにより制御され、培地中にIPTG(イソプロピルチオガラクトシド、ナカライテスク社製)を10μM〜1mM加えることにより発現誘導が起こることが確認された。
【0088】
(実施例3)
Fd、FNR、Fd/FNR遺伝子で形質転換した大腸菌の生育に及ぼすビピリジニウム系化合物の影響
上記の4種の形質転換大腸菌株を種々の濃度のベンジルビオローゲン(BV)を含むプレート上で生育させて、BVの大腸菌増殖阻害効果を調べた。その一例を図19に示した。4種の大腸菌株を液体L培地で終夜培養した種菌を、100万倍希釈に至るまで10倍毎の希釈を繰り返した希釈系列の菌体縣濁液を調製し、BVを20μM、IPTGを10μM含むプレートと同濃度のIPTGのみを含むプレート上に、上記4種の大腸菌株をそれぞれの希釈系列から1μlずつをプレート上に滴下、37℃で1昼夜培養した。その結果、BV無しでは4種の大腸菌株は同等に増殖したが、BV存在下では、Fd/FNR遺伝子形質転換株のみで生育阻害が認められた。BVの濃度を0から50 μMまで変化させた実験における阻害の濃度依存性を図20に示した。これらの結果からNADPH/FNR/Fd/BVのレドックスカスケードが大腸菌内で駆動した場合に、菌体の増殖阻害が顕著に認められることが判明した。同様の現象はメチルビオローゲン(MV)を酸化還元剤として用いても認められた。
【0089】
(実施例4)
in vitroのアッセイ系によるNADPH/FNR/Fd/ビピリジニウムの電子伝達の証明
図21に示すように、FNR、Fd、ビピリジニウム存在下でNADPHの酸化を340nmの吸光度の経時変化で追跡した。この結果、BV、MVとも効率よく電子を受け取り、このレドックスカクケードの駆動は、FNR、Fd、ビピリジニウムいずれを欠いても大幅に低下することが判明した。
なお具体的な反応条件は以下の通りである。
NADPH:200μM
FNR:100nM
Fd:10μM
ビピリジニウム:200μM
【0090】
50mMのTris−HCl(pH 7.5)および100mMのNaClの緩衝液600μl中に、これら全てを含む、あるいはいずれか一つを欠いた反応混合液を調製し、分光光度計(島津UV−2500)により吸光度の減少をモニターした。図21中、(+MV)はFNR、FdおよびMvを含む場合、(−FNR+MV)はFdおよびMvを含む場合、(−Fd+MV)はFNRおよびMvを含む場合、(−Mv)はFNRおよびFdを含む場合の結果を表し、(+BV)はFNR、FdおよびBvを含む場合の結果を表す。
【0091】
(実施例5)
ビピリジニウムによる熱帯熱マラリアの増殖抑制効果の試験
ビピリジニウムの抗マラリア作用については、培養熱帯熱マラリア原虫の細胞増殖阻害効果を測定することにより求めた。Plasmodium falciparum のHonduras−1株を用い、その培養と維持は、TrageおよびJensenの方法(Science、193、673−675、1976)、および、マラリア学ラボマニュアル6章、7章(田辺和裄他編集、菜根出版、2000 ISBN4-7820-0152-5)に記載の方法により行った。先ず、培養下のリング期のPf寄生赤血球を新鮮赤血球で希釈し、この寄生赤血球数を全血球数の0.5%に調整した。次いで、これを更に完全培地で希釈して赤血球濃度を3%(V/V)に調整することにより、Pf寄生赤血球培養液を調製した。この培養液を96ウエルのマイクロプレートに100μl/ウエルずつ滴下の後、MVあるいはBVを図22に記載の濃度を終濃度として加え、酸素濃度および二酸化炭素濃度を両者ともそれぞれ5%に制御したガス恒温器内で48時間培養をした。培養終了後、これをスライドガラス上に塗抹してギムザ染色し、スライド上の5000この赤血球を検鏡し、マラリア原虫感染赤血球数を計数した。薬剤の溶媒(0.1%DMSO)のみを添加した培養液を対照として用いた。上記の条件においてビピリジニウムを含まない場合には、3.5%の原虫率となった。マラリア原虫増殖阻害率は以下の式により計算した。
【0092】
Inhibition of parasitemia (%)=
100 x {[(対照の原虫率)−(測定点での原虫率)]/(対照の原虫率)}
結果は図22に示す。MVもBVも赤血球中において、マラリア原虫の増殖を阻害し、本発明のスクリーニング方法の結果とよく相関した。これにより、MVおよびBVに代表されるラジカル発生剤が、抗マラリア剤となることが確かめられ、同時に、前記本発明の薬剤スクリーニング方法が、アピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬のスクリーニングに有効であることが実証された。また、BVはMVに比して20倍ほど活性が高い。
【0093】
【発明の効果】
本発明によると、アピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬の開発に関し、より詳しくは、アピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する有効な治療薬を安全かつ迅速にスクリーニングすることができる薬剤スクリーニング方法、該薬剤スクリーニング方法に好適に用いられる組換えベクター、該薬剤スクリーニング方法に好適に用いられる形質転換体およびアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する有効で薬剤耐性原虫発生の可能性の低い治療薬を提供することができる。
【0094】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、フェレドキシンファミリーのアミノ酸配列比較図である。
【図2】図2は、フェレドキシンの合成図である。
【図3】図3は、アピコプラストにおけるフェレドキシンの発現を表す図である。
【図4】図4は、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンのアミノ酸配列図である。
【図5】図5は、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素とトウモロコシ根フェレドキシン:NADP+還元酵素のアミノ酸配列比較図である。
【図6】図6は、遺伝子導入のためのベクター、および、Fdを導入したプラスミドを表す図である。
【図7】図7は、精製したフェレドキシンの分光光度計によるスペクトルを表す図である。
【図8】図8は、回折像である。
【図9】図9は、フェレドキシンの立体構造を示す図である。
【図10】図10は、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子の合成図をN末端側から表した図である。
【図11】図11は、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子の合成図である図8のつづきである。
【図12】図12は、FNRを導入したプラスミドを表す図である。
【図13】図13は、精製した熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素の分光光度計によるスペクトルを表す図である。
【図14】図14は、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素とフェレドキシンの電子伝達活性の測定図である。
【図15】図15は、熱帯熱マラリア原虫由来のフェレドキシン:NADP+還元酵素とフェレドキシンの電子伝達活性の、ポリリジンによる阻害を表す図である。
【図16】図16は、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンの変異体作成のためのオリゴヌクレオチドカセットを表す図である。
【図17】図17は、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンの変異体のスペクトルを表す図である。
【図18】図18は、FdおよびFNRを導入したプラスミドを表す図である。
【図19】図19は、ベンジルビオローゲンによる阻害実験を表す図である。
【図20】図20は、ベンジルビオローゲン濃度依存性の阻害実験を表す図である。
【図21】図21は、ベンジルビオローゲンおよびメチルビオローゲンの電子受容活性を表す図である。
【図22】図22は、ベンジルビオローゲンおよびメチルビオローゲンによる熱帯熱マラリアの増殖抑制効果の試験を表す図である。
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬の開発に関し、より詳しくは、アピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬のスクリーニングに用いられる薬剤スクリーニング方法、該薬剤スクリーニング方法に好適に用いられる組換えベクター、該薬剤スクリーニング方法に好適に用いられる形質転換体および該薬剤スクリーニング方法によりスクリーニングされるアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
マラリアは、アピコンプレキサン類に属するマラリア原虫により引き起こされる疾病であり、全世界のマラリアによる年間の感染者は推定で3〜5億人、犠牲者は270万人にのぼるといわれている。世界人口の40%が流行地域に居住しており、地球温暖化による媒介蚊の生息地の北上や、社会経済の国際化に伴ういわゆる輸入感染症として、更なる流行地域の拡大および感染者の増加が懸念されている。
また、薬剤耐性マラリア原虫や、殺虫剤耐性媒介蚊の世界規模での拡散により、マラリアの治療およびその制圧は困難になっており、新たな抗マラリア薬の開発が待望されている。
【0003】
一方、アピコンプレキサン類に属する他の原虫であるトキソプラズマやクリプトスポリジウムは、先天性およびエイズなどの後天性免疫不全、あるいは免疫抑制剤の使用により、強力な病原性を発揮するため医療現場において重要な問題となってきている。
【0004】
このようなアピコンプレキサン類に属する原虫は、アピコプラストと称される色素体様のオルガネラを有しており、このオルガネラは、原虫の増殖や生存に重要な役割を果たすことが知られている。
アピコプラストは、植物のプラスチド(色素体)と類似したものと考えられている。植物プラスチドの一種である葉緑体に電子伝達活性を有するフェレドキシン(Fd)が存在することはよく知られている。葉緑体においては、光エネルギー転換系で生じる電子がフェレドキシンの還元に用いられる。還元されたフェレドキシンは、電子供与体として、フェレドキシン:NADP+還元酵素(FNR)によるNADP+の還元の他、亜硝酸還元酵素やグルタミン酸合成酵素による窒素源の同化、Fd:チオフェレドキシン還元酵素による炭酸同化系酵素の活性調節など、フェレドキシン依存酵素群が関与する種々の反応において機能し、プラスチドにおける代謝経路の要として機能する。
【0005】
一方、根のような非光合成器官のプラスチドでは、硝酸イオンや硫酸イオンの還元や不飽和脂肪酸の合成などが行われる重要な場となっており、これらの反応の鍵となる酵素のいくつかは葉緑体における場合と同様にフェレドキシンからの環元力を必要とする。非光合成プラスチドにおいては、光からの化学エネルギーは得られず、解糖系や酸化的ペントースリン酸回路から生じる電子がNADPHとしてフェレドキシンに還元力を提供する。このNADPHによるフェレドキシンの還元は、非光合成プラスチドに存在し、葉緑体のFNRとは逆の反応を行うFNRのアイソザイムにより行われることが明らかになっている。いくつかの植物で、光合成組織と非光合成組織とでフェレドキシンとFNRのペアは異なる分子種として存在し、それぞれの組織のペアは組織の必要に応じた働きを持つと考えられている。還元されたフェレドキシンは、葉緑体における場合と同様に電子供与体として種々の反応に関与する(例えば、非特許文献1および非特許文献2参照)。
【0006】
また、発明者らは、X線構造解析により明らかにした、植物フェレドキシンとFNRとの電子伝達複合体の構造を報告している(非特許文献3参照)。
なお、本明細書においては、「フェレドキシン:NADP+還元酵素」とは、生理的条件下で前記NADP+を還元する方向の反応を促進するもののみならず、逆向きの反応を促進するものも含んで広義に用いられる。
【0007】
【非特許文献1】
Y.Onda et al. Plant Physiology, July2000, Vol.123, p.1037−1045
【非特許文献2】
長谷俊治等著「化学と生物」 Vol.39,No10,2001 p.660−666
【非特許文献3】
G.Kurisu et al. Nature Struct. Biol.,Vol.8,No2,2001 p.117−121
【0008】
【発明を解決しようとする課題】
本発明は、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、アピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬の開発に関し、より詳しくは、アピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する有効な治療薬を安全かつ迅速にスクリーニングすることができる薬剤スクリーニング方法、該薬剤スクリーニング方法に好適に用いられる組換えベクター、該薬剤スクリーニング方法に好適に用いられる形質転換体およびアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する有効で薬剤耐性原虫発生の可能性の低い治療薬を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、マラリア原虫のアピコプラストには、植物の根組織等の非光合成プラスチドに存在するフェレドキシン(Fd)とフェレドキシン:NADP+還元酵素(FNR)と構造および機能が類似した酵素が発現しており、このマラリアFdとFNRは、電子伝達複合体を形成してNADPHからの電子を種々の化合物に伝達する機能を持つとの知見を得た。このことから、この複合体から効率よく電子を受容し、ラジカル種のような細胞内毒性を発揮できる物質(酸化還元剤)が、アピコンプレキサン類に属する原虫の増殖を阻害し、該原虫により引き起こされる疾病に対する有効な治療薬となるとの着想を得た。この着想にもとづき、アピコンプレキサン類に属する原虫におけるフェレドキシンおよびFNRの反応系をよく再現する薬剤スクリーニング系を構築し、実際にスクリーニングを行うことにより更なる知見を得た。
【0010】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
<1> アピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬をスクリーニングする方法であって、
宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体(a)と、宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子が導入されており該遺伝子が発現している形質転換体(b)、宿主細胞にフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が導入されており該遺伝子が発現している形質転換体(c)、フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子のいずれも導入されておらずフェレドキシン遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子のいずれも発現していない形質転換体(d)、および、フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子のいずれも導入されておらずフェレドキシン遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子のいずれも発現していない宿主細胞(e)、のうちの少なくともいずれかとを、候補化合物の存在下においてそれぞれ培養する培養工程と、
フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子を共発現する形質転換体(a)の増殖が、それ以外の形質転換体または宿主細胞のうちの少なくともいずれかの増殖に比べて阻害される候補化合物を選択する選択工程とを有することを特徴とする薬剤スクリーニング方法である。
<2> 培養工程が、前記培養工程で用いられる形質転換体と同一の形質転換体、または、前記培養工程で用いられる形質転換体および宿主細胞と同一の形質転換体および宿主細胞を、候補化合物の不存在下においてコントロールとしてそれぞれ培養することを含み、
選択工程が、候補化合物存在下と前記コントロールとの差を増殖の阻害として行われる前記<1>に記載の薬剤スクリーニング方法である。
<3> 培養工程が、培地上に、複数の異なる濃度で、または、連続的な濃度勾配をもって、前記形質転換体を播種して行われる前記<1>および<2>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
<4> 培養工程が、前記候補化合物について複数の異なる濃度条件下で、または、連続的な濃度勾配条件下で行われる前記<1>から<3>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
<5> 宿主細胞が大腸菌である前記<1>から<4>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
<6> フェレドキシンをコードする遺伝子が、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストに実質的に由来する以下の(a)および(b)のいずれかの鉄硫黄タンパク質をコードするDNAであって、宿主細胞内で過剰発現させることができるDNAである前記<1>から<5>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
(a)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる鉄硫黄タンパク質
(b)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、電子伝達活性を有する鉄硫黄タンパク質
配列番号1:
<7> フェレドキシンをコードする遺伝子が、以下の(a)および(b)のいずれかのDNAである前記<1>から<5>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA配列番号2:
<8> フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストに実質的に由来する以下の(a)および(b)のいずれかのタンパク質をコードするDNAであって、宿主細胞内で過剰発現させることができるDNAである前記<1>から<7>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
(a)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号7で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質
配列番号7:
<9> フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が、以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであるである前記<1>から<7>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
(a)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドの酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
配列番号8:
<10> アピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬が、抗マラリア剤である前記<1>から<9>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
<11> フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子を含み、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであり、
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのDNAであることを特徴とする組換えベクターである。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドの酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
<12> 前記<11>に記載の組換えベクターを含むことを特徴とする形質転換体である。
<13> 宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体であって、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子であり、
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子であることを特徴とする形質転換体である。
(a)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる鉄硫黄タンパク質
(b)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、電子伝達活性を有する鉄硫黄タンパク質
(c)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(d)配列番号7で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質
<14> 大腸菌にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体であって、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであり、
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのDNAであることを特徴とする形質転換体である。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドの酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
<15> ラジカル発生剤を有効成分として含むことを特徴とするアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬である。
<16> ラジカル発生剤が、窒素原子にアルキル、ベンジル、または、ベタインなどの置換基を有してもよいビピリジルまたはその塩化物である前記<15>に記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬である。
<17> 窒素原子にアルキル、ベンジル、または、ベタインなどの置換基を有してもよいビピリジルまたはその塩化物が、γ,γ’ビピリジル骨格を有する前記<16>に記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬である。
<18> 有効成分が、メチルビオローゲン、エチルビオローゲン、ベンジルビオローゲン、ベタインビオローゲンのいずれかである前記<17>に記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬である。
<19> 抗マラリア剤である、前記<15>から<18>のいずれかに記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の薬剤スクリーニング方法は、アピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬をスクリーニングする方法であって、
宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体(a)と、宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子が導入されており該遺伝子が発現している形質転換体(b)、宿主細胞にフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が導入されており該遺伝子が発現している形質転換体(c)、フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子のいずれも導入されておらずフェレドキシン遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子のいずれも発現していない形質転換体(d)、フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子のいずれも導入されておらずフェレドキシン遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子のいずれも発現していない宿主細胞(e)のうちの少なくともいずれかとを、候補化合物の存在下においてそれぞれ培養する培養工程と、
フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子を共発現する形質転換体(a)の増殖が、それ以外の形質転換体または宿主細胞のうちの少なくともいずれかの増殖に比べて阻害される候補化合物を選択する選択工程とを有することを特徴とする。
【0012】
本明細書において「アピコンプレキサン類原虫」とは、アピコンプレキサン(アピコプラスト)を含む分類群をいい、マラリア原虫、トキソプラズマ、クリプトスポリジウム、バベシア、イソスポーラ、肉胞子虫等を含む。熱帯熱マラリア原虫以外のマラリア原虫としては、特に制限はないが、例えば三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、および卵形マラリア原虫等が挙げられる。
【0013】
「アピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病」とは、アピコンプレキサン類原虫の寄生により引き起こされる疾病であれば特に制限はないが、例えば、マラリア原虫によるマラリアや、トキソプラズマやクリプトスポリジウムによる、免疫不全または免疫抑制下における病原性などが挙げられ、中でも、マラリアに対する治療薬である抗マラリア剤は特に開発の要請が強いことから重要である。
【0014】
前記培養工程においては、形質転換体(b)、(c)および(d)のすべてを用いてもよいが、例えば形質転換体(d)だけを用いて形質転換体(a)と対比しても良い。また、必ずしも形質転換体である必要は無く、形質転換体(d)の代わりに宿主細胞(e)をそのまま用いても良い。
【0015】
前記フェレドキシンとしては、アピコプレキサン類に属する原虫のフェレドキシン、植物の根のフェレドキシン、植物の葉のフェレドキシン、およびそれらの変異体など、フェレドキシンの相同体であって、電子伝達活性を有するものであれば特に制限はないが、アピコプレキサン類に属する原虫における電子伝達系をよく再現し、該原虫の増殖阻害に特に有効な薬剤をスクリーニングする観点から、アピコプレキサン類に属する原虫のフェレドキシンおよびその変異体が好ましく、抗マラリア剤スクリーニングのためにはマラリア原虫のフェレドキシンおよびその変異体が特に好ましい。
【0016】
前記アピコンプレキサン類に属する原虫のフェレドキシンおよびその変異体をコードする遺伝子としては、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストに実質的に由来する以下の(a)および(b)のいずれかの鉄硫黄タンパク質をコードするDNAであって、宿主細胞内で過剰発現させることができるDNAであることが好ましい。
(a)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる鉄硫黄タンパク質
(b)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、電子伝達活性を有する鉄硫黄タンパク質
配列番号1:
【0017】
発明者らは、データベース検索から、熱帯熱マラリアゲノムDNA中に、植物根フェレドキシンと相同な(52%同一)オープンリーディングフレームが存在するとの知見を得た(図1)。植物フェレドキシンとの比較により、97番目のLeuから成熟体がスタートすると推定したが、マラリアに代表されるアピコンプレキサン類に属する原虫のゲノムは特殊なコード配列を有するため、通常の方法により前記原虫のゲノムDNAをそのまま大腸菌等の宿主に導入しても、マラリアフェレドキシンを効率よく過剰発現させることはできない。そこで、アピコンプレキサン類に属する原虫のフェレドキシンをコードする遺伝子の塩基配列を改変し、宿主細胞内で効率よく過剰発現できるDNAの塩基配列を設計した。すなわち、図2に示すようにN末端側15番目までに位置するアミノ酸のコドンの3番目の塩基をA若しくはTになるように設計した(図2上段および下段のDNAの塩基配列は、それぞれ配列番号2および6とする)。このDNAを用いることにより初めて該フェレドキシンを宿主細胞で過剰発現させることができた。
【0018】
なお、前記植物フェレドキシンと相同性のある配列を有するアピコンプレキサン類原虫のアピコプラスト由来フェレドキシンが実際に原虫において発現されており、原虫細胞内のアピコプラストに存在していることは、マラリア原虫において確認した。マラリア原虫の生活史は、ハマダラ蚊の体内にいる段階とヒトの体内にいる段階とに分けられるが、ヒトの体内では肝細胞に入った後赤血球に入って増殖していく。この赤血球期におけるフェレドキシンの分布をマラリア原虫フェレドキシン特異抗体で検出すると、原虫の核外の限られた一器官に局在しているのが確認された(図3)。ミトコンドリアのマーカーとは異なる通常単一の核外小器官に存在することから、このスポットはアピコプラストにフェレドキシンが局在していることを示す。また、このフェレドキシン特異抗体で検出されるスポットは、原虫の成熟後期になると数が増え、その後分裂した核の周りに存在するようになることが観察された。これは、アピコプラストの分裂に関する知見と一致する。
【0019】
前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質に鉄−硫黄クラスターが配位されている鉄硫黄タンパク質は、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)に由来する、植物フェレドキシンと相同性を有する鉄硫黄タンパク質であり、マラリア原虫由来のフェレドキシンである。
【0020】
また、鉄−硫黄クラスターが配位され、前記配列番号1のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなりかつ電子伝達活性を有する鉄硫黄タンパク質とは、熱帯熱マラリア原虫のフェレドキシンにおいて電子伝達活性を維持しつつ改変を加えたアミノ酸配列を有するフェレドキシンの変異体や、他のマラリア原虫や、マラリア以外のアピコンプレキサン類原虫のフェレドキシンまたはその変異体を含む。このような変異体の中でも、野生型のアピコンプレキサン類原虫の鉄硫黄タンパク質、または、制限酵素導入等のための1又は数個のアミノ酸残基の改変を導入した該鉄硫黄タンパク質が、野生型の反応をよく再現できることから、特に好ましい。
【0021】
どのアミノ酸に改変を加えると電子伝達活性を維持し得るかは、フェレドキシンファミリー内における配列比較や(図1)、後述する立体構造解析の結果等から推測して設計することができる。例えば、前述の熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンにおいて、39番目、44番目、47番目、および77番目のシステインは酸化還元中心である[2Fe−2S]クラスターを保持するアミノ酸であり、このシステインの近傍のアミノ酸はクラスターの電子伝達特性を規定している(図4)。したがって、これらのシステインの近傍(立体構造上システイン側鎖からの距離が5Å以内に存在するものが好ましい)のアミノ酸の置換は、クラスターの挿入は起こるが、その酸化還元電位を大きく変化させて、フェレドキシンの電子伝達剤としての生理的機能を消失させることから、本発明の薬剤スクリーニング用としては好ましくない。例えば、45番目のセリンをグリシン置換したS45G変異体および45番目のセリンと46番目のスレオニンを両方ともグリシンに置換したS45G/T46G変異体とを調製したが、45番目のセリンをグリシン置換すること(S45G変異体)により電位が200 mV程度上昇する。この変異体フェレドキシンではアピコプラストの代謝反応が進行しないと考えられる。なお、図1中、上段が熱帯熱マラリア原虫のフェレドキシン(配列番号3)、中段がトウモロコシの根のフェレドキシン(配列番号4)、下段がホウレンソウの葉のフェレドキシン(配列番号5)を表す。
【0022】
また、前記改変には、組換え体作製のため制限酵素部位を導入するための改変も含まれる。一般にこのようなタンパク質の機能を維持した1〜数個のアミノ酸の改変は極めて容易に行われ、数個以上のアミノ酸の改変も容易に行われる。
前記鉄−硫黄クラスターとしては、[2Fe−2S]クラスター、[4Fe−4S]クラスターなどが挙げられ、マラリア原虫由来の鉄硫黄タンパク質は、野生型において[2Fe−2S]クラスターを有することから、[2Fe−2S]クラスターを有することが好ましい。該鉄−硫黄クラスターは、タンパク質部分のシステイン側鎖の硫黄に配位する。
【0023】
前記「アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストに実質的に由来する」とは、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストのフェレドキシンや、これに前記のような改変を加えた変異体を含む意味である。
なお、前記鉄硫黄タンパク質が電子伝達活性を有するか否かは、該鉄硫黄タンパク質とフェレドキシン:NADP+還元酵素との反応性を、フェレドキシン:NADP+還元酵素依存性NADPH−Cyt c還元反応を測定することにより評価することができる。
【0024】
前記アピコンプレキサン類に属する原虫のフェレドキシンおよびその変異体をコードする遺伝子としては、以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであることもまた、好ましい。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA配列番号2:
【0025】
配列番号2は、発明者らが設計した大腸菌内で熱帯熱マラリア原虫のフェレドキシンを過剰発現することができるDNAであり、配列の両端には制限酵素部位(NcoIとXbaI)を有する。適当なプロモーターと前記制限酵素部位を含むベクターにDNAリガーゼを用いて結合させ、大腸菌内で大量にフェレドキシンを発現することができる。また、該DNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNAには、アミノ酸配列を変えずに、かつ、発現能を保持しつつ、単一のまたは複数の塩基配列を改変したDNAや、制限酵素部位を改変したDNA、電子伝達活性を維持しながらアミノ酸配列に本質的でない改変を加えたタンパク質をコードするDNA、および熱帯熱マラリア原虫以外のマラリア原虫のフェレドキシンをコードするDNA等が含まれる。
【0026】
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素としては、アピコプレキサン類に属する原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素、植物の根のフェレドキシン:NADP+還元酵素、植物の葉のフェレドキシン:NADP+還元酵素、およびそれらの変異体など、フェレドキシン:NADP+還元酵素の相同体であって、電子伝達活性を有するものであれば特に制限はないが、アピコプレキサン類に属する原虫における電子伝達系をよく再現し、該原虫の増殖阻害に特に有効な薬剤をスクリーニングする観点から、アピコプレキサン類に属する原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素およびその変異体が好ましく、抗マラリア剤スクリーニングのためにはマラリア原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素およびその変異体が特に好ましい。
【0027】
アピコプレキサン類に属する原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素およびその変異体をコードする遺伝子としては、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストに実質的に由来する以下の(a)および(b)のいずれかのタンパク質をコードするDNAであって、宿主細胞内で過剰発現させることができるDNAであることが好ましい。
(a)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号7で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質
配列番号7:
【0028】
発明者らは、データベース検索から、熱帯熱マラリア原虫ゲノムDNA中に、トウモロコシ根フェレドキシン:NADP+還元酵素(ZmrFNR)およびトウモロコシ葉フェレドキシン:NADP+還元酵素(ZmlFNR)と相同な(ZmrFNRと29%同一、ZmlFNEと25%同一)オープンリーディングフレームが存在するとの知見を得た(図5)。トウモロコシ根フェレドキシン:NADP+還元酵素(図5下段、配列番号9)との比較から、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素前駆体の35番目のアミノ酸からスタートすると推定し、それよりC末端側の成熟体領域(図5上段、配列番号7)をコードするDNA断片をフェレドキシンの場合と同様に、宿主細胞において過剰発現可能なように設計することができる。このDNAを用いることにより初めて該熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素を宿主細胞で過剰発現させることができた。
【0029】
配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、熱帯熱マラリア原虫に由来する、植物のフェレドキシン:NADP+還元酵素のタンパク質部分と相同性を有するタンパク質であり、FADを包摂する該タンパク質は、マラリア原虫由来のフェレドキシン:NADP+還元酵素である。フェレドキシン:NADP+還元酵素は、補酵素であるフラビン−アデニンジヌクレオチド(FAD)が、タンパク質分子の窪みのなかに包摂されて活性中心を構成する。
【0030】
また、FADを包摂する前記配列番号7で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存してピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質であるタンパク質−FAD複合体は、熱帯熱マラリア原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素において電子伝達活性(ここではピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性)を維持しつつ改変を加えたアミノ酸配列を有するフェレドキシン:NADP+還元酵素の変異体、他のマラリア原虫やマラリア以外のアピコンプレキサン類原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素およびその変異体を含む。また、前記改変は、前述のフェレドキシンの場合と同様に、フェレドキシン:NADP+還元酵素ファミリー内における配列比較(図5)等から推測して設計することができる。たとえば、FADやNADPH結合部位などの領域(図5中下線部)の近傍に改変を加えることにより、活性が変化するため、これを保存することにより、活性を維持した変異体を設計することもできる。
【0031】
前記タンパク質−FAD複合体がフェレドキシンに依存してピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するか否かは、フェレドキシンの電子伝達活性と同様に、フェレドキシンと該タンパク質−FAD複合体との反応性を、フェレドキシン:NADP+還元酵素依存性NADPH−Cyt c還元反応を測定することにより評価することができる。
【0032】
アピコプレキサン類に属する原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素およびその変異体をコードする遺伝子としては、以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであることもまた、好ましい。
(a)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
配列番号8:
【0033】
配列番号8は、発明者が設計した大腸菌内で熱帯熱マラリア原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素を過剰発現することができるDNAであり、配列の両端には制限酵素部位(NcoIとXbaI)を有する。適当なプロモーターと前記制限酵素部位を含むベクターにDNAリガーゼを用いて結合させ、大腸菌内で大量にフェレドキシン:NADP+還元酵素を発現することができる。また、該DNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNAには、アミノ酸配列を変えずに、かつ、発現能を保持しつつ、単一のまたは複数の塩基配列を改変したDNAや、制限酵素部位を改変したDNA、ピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を維持しながらアミノ酸配列に本質的でない改変を加えたタンパク質をコードするDNA、および熱帯熱マラリア原虫以外のマラリア原虫やマラリア以外のアピコンプレキサン原虫のフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードするDNA等が含まれる。
【0034】
前記宿主細胞としては、公知の材料の中から目的に合わせて適宜選択することができるが、例えば、大腸菌、酵母等が挙げられ、大腸菌が特に好ましい。
前記宿主細胞へのDNAの導入方法も、公知の方法の中から、目的にあわせて、適宜選択することができ、ベクターによる方法、相同組換え等による宿主ゲノムDNAへの挿入等が挙げられ、中でもベクターによる方法が好ましい。前記ベクターとしては特に制限はないが、前記プロモーターを含むpTrc99A等のベクターが好適に使用できる。
【0035】
前記フェレドキシンをコードする遺伝子の場合、大腸菌内で[2Fe−2S]クラスターを有するホロ型蛋白質として過剰発現させる必要があるため、このクラスター挿入を宿主である大腸菌細胞内で起こさせるためには、当該ポリペプチドの発現速度がクラスター挿入と共役できるように配慮する必要がある。このためには適切な発現プロモーターの選択が重要となる。このようなプロモーターとしては、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター等が好適に用いることができる。
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子の場合、大腸菌内でFADを包摂することが好ましく、FADの包摂は、大腸菌の成育温度を20℃〜37℃の間で変化させることにより最適化を図ることができる。配列番号8で表される塩基配列からなるDNAを用いた場合には、27℃および37℃のいずれでも包摂が起こった。
【0036】
前記DNAの発現条件は、前記宿主細胞や前記使用ベクター等の材料や、目的に合わせて適宜選択することができる。
【0037】
前記培養工程は、前記培養工程で用いられる形質転換体と同一の形質転換体、または、前記培養工程で用いられる形質転換体および宿主細胞と同一の形質転換体および宿主細胞を、候補化合物の不存在下においてコントロールとしてそれぞれ培養することを含み、選択工程が、候補化合物存在下と前記コントロールとの差を増殖の阻害として行われることが、形質転換体自体の増殖の差の影響を除去できることから好ましい。
【0038】
また、培養工程は、培地上に、複数の異なる濃度で、または、連続的な濃度勾配をもって、前記形質転換体を播種して行われることが、形質転換体による育成阻害の程度を段階的に観察できることがら好ましい。このような方法としては、例えば、培地上に十倍ごとに希釈した形質転換体の縣濁液を滴下した列をつくる方法が挙げられる。
また、培養工程が、前記候補化合物について複数の異なる濃度条件下で、または、連続的な濃度勾配条件下で行われることも、形質転換体による育成阻害の候補化合物濃度依存を観察できることがら好ましい。このような方法としては、例えば、異なる濃度の候補化合物を加えたプレートで培養する方法や、培地の中央に候補化合物を滴下し、周囲にいくほど候補化合物の濃度が低くなるような濃度勾配を作り、そこに形質転換体を同一濃度同一量の複数のスポット上に播種する方法などが挙げられる。
【0039】
本発明の薬剤スクリーニング方法は、マラリア原虫などの原虫を用いる必要が無いことから、安全に薬剤スクリーニングを行うことができる。また、大腸菌等の利便性の高い宿主を用いることができることから、簡便で、かつ、マラリア原虫を用いる実験系に比べて迅速に薬剤スクリーニングを行うことができる。
【0040】
本発明の組換えベクターは、フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子を含み、前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであり、前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのDNAであること以外特に制限はない。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0041】
前記フェレドキシンをコードする遺伝子の場合、宿主(特に大腸菌)内で[2Fe−2S]クラスターを有するホロ型蛋白質として過剰発現させる必要があるため、当該ポリペプチドの発現速度がクラスター挿入と共役できるように、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター等を有することが好ましい。
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子の場合、宿主(特に大腸菌)内でFADを包摂して精製されることが好ましい。
【0042】
前記組換えベクターは、前記本発明の薬剤スクリーニング方法に用いられる形質転換体の生成のため、好適に用いることができる。抗マラリア剤のスクリーニング方法に用いられる形質転換体を生成する場合には、前記フェレドキシンをコードする遺伝子が前記(a)のDNAであり、前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が前記(c)のDNAであることが、野生型の反応をよく再現するため、特に好適である。
【0043】
本発明の形質転換体は、前記本発明の組換えベクターを含むこと以外は特に制限はない。
【0044】
本発明の他の態様の形質転換体は、宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体であって、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子であり、前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子である形質転換体である。
(a)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる鉄硫黄タンパク質
(b)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、電子伝達活性を有する鉄硫黄タンパク質
(c)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(d)配列番号7で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質
【0045】
本発明の他の態様の形質転換体は、大腸菌にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体であって、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであり、前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのDNAである形質転換体である。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0046】
特に抗マラリア剤のスクリーニング方法に用いられる場合には、前記フェレドキシンをコードする遺伝子が前記(a)のDNAであり、前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が前記(c)のDNAである形質転換体が、野生型のマラリア原虫のフェレドキシンおよびフェレドキシン:NADP+還元酵素と極めて近いタンパク質を大腸菌においてよく過剰発現し、マラリア原虫における反応をよく再現する観点から好ましい。
【0047】
本発明のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬は、ラジカル発生剤を有効成分として含むことを以外特に制限はない。
ラジカル発生剤は、アピコンプレキサン類原虫において機能しているフェレドキシンとFNRとが関与する系から、電子を受容し、ラジカル種を発生する化合物であり、例えば、窒素原子にアルキル(メチル、エチル、プロピル等)、ベンジル、または、ベタインなどの置換基を有してもよいビピリジルまたはその塩化物(ビピリジニウム)などが挙げられ、前記ビピリジニウムとしては、γ,γ’ビピリジル骨格を有するビピリジニウムが好ましい。また、前記γ,γ’ビピリジル骨格を有するビピリジニウムとしては、メチルビオローゲン、エチルビオローゲン、ベンジルビオローゲン、ベタインビオローゲンなどが挙げられ、メチルビオローゲン、ベンジルビオローゲンがより好ましく、ベンジルビオローゲンが特に好ましい。
【0048】
本発明のラジカル発生剤を有効成分として含むアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬は、アピコンプレキサン類原虫におけるレドックスカスケードを以下のようにバイパスすることにより、本来フェレドキシンに還元力を与えられて進行する種々の反応を阻害し、細胞毒性を発揮するラジカル種を発生させることにより機能すると考えられる。
【0049】
【0050】
また、本発明のアピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬は、前記のように、該原虫成育の要となる電子伝達系をバイパスするものであり、かつ、該フェレドキシンとFNRが関与する反応は、植物における例によれば、多岐にわたることから、原虫アピコプラスト内においても相当数の未知の酸化還元反応が該フェレドキシンとFNRを必要とすることが予想される。したがって、該フェレドキシンとFNRの電子供給系としての必須性は高く、この電子供給系を低下あるいは消失して、ラジカル発生剤への電子供与効率を減少したような薬剤耐性原虫が生じる可能性は極めて低いと考えられる。
【0051】
次に、本発明のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬の製剤化および投与量について説明する。本発明のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬は、上記有効成分をそのまま、または、公知の医薬用担体と組合せて製剤化することができる。投与形態としては、特に限定がなく、必要に応じ適宜選択して使用され、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられる。
本発明のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬の投与量は、疾病に関与する原虫、該薬剤の効力、患者の年令、体重、疾患の程度等により異なるが、例えば、メチルビオローゲンおよびベンジルビオローゲンを抗マラリア剤として用いる場合には、通常成人で本発明の抗マラリア剤の有効成分の重量として、一回の服用量はメチルビオローゲンで0.25〜5g程度、ベンジルビオローゲンで0.02g〜0.4g程度が好ましい。
【0052】
経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。
この種の製剤には、適宜上記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用することができる。
【0053】
【実施例】
発明者等はまず、マラリア原虫のアピコプラストには、植物の根組織等の非光合成プラスチドに存在するフェレドキシン(Fd)とフェレドキシン:NADP+還元酵素(FNR)と構造および機能が類似した酵素が発現しており、このマラリアFdとFNRは、電子伝達複合体を形成してNADPHからの電子を種々の化合物に伝達する機能を持つことを以下の実施例によって実証した。
【0054】
(実施例1)
実験1:熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン(P. falciparum Fd)の生産
発明者らは、データベース検索から、熱帯熱マラリアゲノムDNA中に、植物根フェレドキシンと相同な(52%同一)オープンリーディングフレームが存在するとの知見を得た(図1)。
トウモロコシ由来フェレドキシンとの比較から、マラリアフェレドキシン前駆体の97番目のLeuから成熟体がスタートすると推定し、それよりC末端側の領域(配列番号1のアミノ酸配列)をコードするDNA断片を化学合成することとした。
【0055】
マラリアゲノムは特殊なコード配列を有するため、通常の方法によりマラリアゲノムDNAをそのまま大腸菌に導入しても、マラリアフェレドキシンを効率よく過剰発現させることはできない。そこで、マラリアフェレドキシンをコードする遺伝子の塩基配列を改変し、大腸菌内でマラリアフェレドキシンが効率よく過剰発現できるDNAの塩基配列を設計した。また、DNA配列の両端には制限酵素部位(NcoIとXbaI)を設けた。制限酵素部位導入のため配列番号1のN末端のアミノ酸残基であるLeuをAlaに改変した(図3のアミノ酸配列、配列番号10)。このようなDNA配列を、配列番号2に表す。
【0056】
前記配列番号2で表されるDNAの化学合成は以下の手順で行った。
前記配列番号2で表されるDNAを、図3のように8分割し、2本鎖で計16本のオリゴヌクレオチドをDNA合成装置により化学合成した。前記配列番号2で表されるDNA両鎖の5’末端に相当する2本を除く14本のオリゴヌクレオチド1nmolを、ATPとT4ポリヌクレオチドキナーゼ10単位とを用いて37℃で60分間反応させてリン酸化した。次に、90℃で3分間加熱しキナーゼを失活させた。
前半と後半の2つのブロックに分け、ブロックごとにそれぞれ7本のリン酸化DNA溶液および1本の5’末端DNA溶液を1本のチューブにまとめ、それぞれの混合溶液を90℃で3分間加熱したのち、氷水で急冷した。
つづいて、75℃で5分間加熱したのち、室温に達するまで放置しアニーリングさせ、T4DNAリガーゼ700単位を加えて16℃で2時間反応させた。
2%アガロースゲル(1x TBE buffer)で電気泳動し、目的の鎖長のバンドを切り、アガロースからDNAを回収した。
精製した2本のフラグメントを1つのチューブにまとめ、T4 DNAリガーゼ100単位を用いて16℃で2時間反応させ、末端に導入した制限酵素サイトNcoIとXbaIを利用して、Trcプロモーターを有し制限酵素(NcoIおよびXbaI)で切断した大腸菌発現ベクター(pTrc99A)(ファルマシア社)へ、組み込んだ(図6)。
【0057】
フェレドキシンDNAの大腸菌内での発現は、以下のように行った。
大腸菌JM105株に上記pTrc99A由来の組換えプラスミドを導入した。この大腸菌をアンピシリン添加LB培地(1リットルあたりポリペプトン80g、酵母エキス40g、塩化ナトリウム80g)にて37℃で一晩、培養した。この培養液80mlを8リットルのアンピシリン添加LB培地に加え、37℃で2時間培養した後に、イソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシドを最終濃度0.5mMになるように添加し、さらに約10時間培養した。培養液を5000g、10分間の条件で遠心し、集菌した。菌体は−30℃にて保存した。
【0058】
組換え体フェレドキシンの精製は、以下のように行った。
大腸菌を50mMのTris−HCl、pH7.5、25%のスクロース、0.5%の2−メルカプトエタノール、0.5mMのPMSF溶液にて懸濁し、リゾチームを0.5mg/mlに添加し、氷上で10分間反応させた。この懸濁液を50mMのTris−HCl、pH7.5、60mMのNaCl、3mMのEDTAにて2倍量に希釈した。次いで、−30℃のアセトンを最終濃度40%(v/v)になるように加えた。この懸濁液を10000g、10分間の条件で遠心し、上清をDEAEセルロースカラムに注入した。吸着されたFdタンパクは、50mMのTris−HCl、pH7.5、700mMのNaCl溶液にて溶出した。さらに、セファデックスG75カラム(ファルマシア)、DE52カラム、フェニルスーパロースカラムの3つのカラムを用いる公知の方法により、組換えFdタンパクを精製した。
【0059】
精製されたフェレドキシンの純度と収量を検定するために、分光光度計(島津UV−2550)により解析した結果を図7に示す。
フェレドキシンは、50mMのTris−HCl(pH7.5)透析後、終体積8mlとなった。光路長2mmのキュベットを用いて吸光度を測定した。
図7の波形、すなわちピーク点の波長、および、277nm(第4ピーク)および423nm(第2ピーク)の波長における吸光度の比から、この精製物がフェレドキシンであることが確認された。すなわち、これまで同定されているフェレドキシンの前記比(A423/A277)は、0.45〜0.60の範囲内であり、測定値から求めた前記比は、
【0060】
R=A423/A277=0.568
であった。さらに、423nmでの吸光度から、下記のように収量を計算した。
【0061】
モル分子吸光係数 ε=10mM−1cm−1
分子量11000とすると本濃度は5.1mg/mlに相当する。
【0062】
実験2:熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンの立体構造の決定
フェレドキシンの結晶化は、ハンギングドロップ蒸気拡散法により行った。液滴とするフェレドキシン溶液は、50mMのTris−HCl(pH7.5)中にフェレドキシンを20mg/mlの濃度で含むフェレドキシン溶液2μlと、下記外液用溶液2μlとをピペットマンチューブで混合して調製した。外液には、0.2M酢酸ナトリウム三水塩、0.1Mカコジル酸ナトリウム(pH6.5)、および、30%(w/v)ポリエチレングリコール8000を500μl使用した。4℃で10日間静置し、フェレドキシン結晶が得られた。
【0063】
フェレドキシンの立体構造の解析は、X線結晶構造解析により行った。
得られた結晶は、試料吹付低温装置(Rigaku社製)により液体窒素温度下に置き、Rigaku R-AXIS IVにより、振動角度1度、合計180度の振動写真の回折像を測定した。なお、X線発生機はRigaku ultrax 18HB、コンフォーカルミラーはRigaku多層膜ミラーを使用した。
回折像はDPSおよびMOS−FILMプログラムにより構造因子データに変換し、トウモロコシ根フェレドキシンの立体構造をプローブモデルとした分子置換法により、前記マラリアフェレドキシンの結晶構造を解いた。回折像を図8に示す。
【0064】
得られた原子座標は、表1に示したとおりである。
【0065】
【表1】
【0066】
また、前記解析結果から導かれる立体構造の模式図を図9に示す。図中のアルファベット表記EとDは各々グルタミン酸とアスパラギン酸を示し、数字はこれらのアミノ酸の残基番号を示す。フェレドキシンのこれらの酸性アミノ酸残基の一部あるいは大部分が、FNRとの分子間相互作用に関与していると推察される。
【0067】
実験3:熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンの電子伝達活性の評価
フェレドキシンの電子伝達活性は、フェレドキシン:NADP+還元酵素(FNR)との反応性を、FNR依存性NADPH−Cyt c還元反応を測定することにより評価した。反応液は、NADPH産生系(3mMのグルコース6リン酸ナトリウムおよび50μgのグルコース6リン酸脱水素酵素)存在下において、100mMのNaCl、200μMのCyt c、40nMのFNR、および50μMのNADPHを含み、計0.6mlになるよう調製した。
【0068】
前記FNRとしては、トウモロコシ根由来のFNRおよびトウモロコシ葉由来のFNRのいずれかを用いた。反応は熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンを最終濃度1.25μM〜40μMになるように加えることにより開始した。Cyt cの還元は、550nmの波長の吸光度(A550)の増加を分光光度計で測定することによりモニターした。また、ホウレンソウの葉由来のフェレドキシン、トウモロコシの根由来のフェレドキシンの電子伝達活性も同様に測定した。
測定結果を表2および表3に示す。
【0069】
【表2】
トウモロコシ根FNR存在下における電子伝達活性(μM/sec)
電子伝達活性は、Cyt c還元能にて測定した。
【0070】
【表3】
トウモロコシ葉FNR存在下における電子伝達活性(μM/sec)
電子伝達活性は、Cyt c還元能にて測定した。
【0071】
熱帯熱マラリア原虫由来のフェレドキシンは、トウモロコシ根由来のFNRとの反応においては、低濃度で極めて高い活性を示すが、トウモロコシ葉由来のFNRとの反応においては、低い活性を示すにとどまった。この特性は、トウモロコシ根フェレドキシンの活性プロファイルとよく似ている。これにより、マラリア原虫由来フェレドキシンは、トウモロコシ根フェレドキシンに代表される植物根の非光合成プラスチドのフェレドキシンと同じような反応特性を有することが明らかになった。
【0072】
トウモロコシ根フェレドキシンが、トウモロコシ葉FNR存在下におけるよりも、トウモロコシ根FNR存在下における場合の方が高い反応性を示したことは、根フェレドキシンが根FNRに対しては優れたNADPHからの還元能を有するが、葉FNRに対しては前記還元能が劣ることを実証するもので、このことは、本発明者らにより既になされたトウモロコシ根フェレドキシンのX線構造解析による結果により裏付けられている。
【0073】
マラリア原虫由来フェレドキシンが、根フェレドキシンと極めて類似した反応特性を有することを示したことは、マラリア原虫フェレドキシンが根フェレドキシン同様、葉FNRではなく根FNRに対してのみ優れた複合体形成能、電子伝達能を有することを実証したものであり、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラスト由来フェレドキシンと該アピコプラスト由来のFNRとが、植物根の非光合成プラスチド由来フェレドキシンと該FNRとの場合に類似した立体構造を有する複合体を形成することを強く示唆するものである。
【0074】
実験4:熱帯熱マラリア原虫由来フェレドキシンの電子伝達活性阻害の測定法重合度の異なるポリリジンの阻害効果の評価のため、熱帯熱マラリア原虫由来フェレドキシンの電子伝達活性を測定した。反応液にポリリジンを加えることを除いては、実験3と同様にフェレドキシンの電子伝達活性を測定した。
単体のリジン、および分子量範囲500〜2000、4000〜15000のポリリジンによるマラリアフェレドキシンの電子伝達活性阻害を表4に示した。0.5 mg/ml濃度での阻害率は分子量範囲4000〜15000のポリリジンが最も高く98%、次に分子量範囲500〜2000のポリリジンが35%であり、単体のリジンの阻害効果は認められなかった。分子量範囲4000〜15000のポリリジン阻害濃度を調べたところ(表5)、ID50は約50μg/mlの低濃度であった。これらの結果は、フェレドキシンの、FNRとの会合部分にあるグルタミン酸やアスパラギン酸の酸性残基の側鎖のカルボキシル基が、重合した複数のリジンの塩基性側鎖によりふさがれて、FNRとの複合体形成能が阻害されたと考えられる。これによっても、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラスト由来フェレドキシンと該アピコプラスト由来のFNRとが、植物根の非光合成プラスチド由来フェレドキシンと該FNRとの場合に類似した立体構造を有する複合体を形成することを強く示唆された。
【0075】
【表4】
リジン、ポリリジンによるマラリアフェレドキシンの電子伝達活性の阻害
【0076】
【表5】
分子量範囲4000〜15000ポリリジンの濃度によるマラリアフェレドキシンの電子伝達活性の阻害
【0077】
実験5:熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素(PfFNR)の生産
発明者らは、データベース検索から、熱帯熱マラリア原虫ゲノムDNA中に、トウモロコシ根フェレドキシン:NADP+還元酵素(ZmrFNR)およびトウモロコシ葉フェレドキシン:NADP+還元酵素(ZmlFNR)と相同な(ZmrFNRと29%同一ZmlFNEと25%同一)オープンリーディングフレームが存在するとの知見を得た(図5)。マラリア原虫のFNRの一次構造には、植物型FNRと比べてN末端の28塩基にわたる挿入やC末端の8塩基の欠失など特異な構造が見られたが、FADやNADPH結合部位などの領域は保存されていた。トウモロコシ根フェレドキシン:NADP+還元酵素との比較から、熱帯熱マラリア原虫FNR前駆体の35番目からスタートすると推定し、それよりC末端側の成熟体領域(配列番号7のアミノ酸配列)をコードするDNA断片を化学合成することとした。
【0078】
前述の熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンの場合と同様に、大腸菌内での発現を考慮したDNAの塩基配列を設計し、配列番号8に表す人工配列を得た。このDNA配列の両端には制限酵素部位(NcoIとXbaI)を設けた。制限酵素部位導入のため配列番号7のアミノ酸配列のN末端のアミノ酸残基であるLeuをAlaに改変した(図10および図11のアミノ酸配列、配列番号11)。このようなDNA配列を、配列番号8に表す。
前期配列番号8で表されるDNAの化学合成は以下の手順で行った。
前期配列番号8で表されるDNAを、図10および図11のように24分割し、2本鎖で計48本のオリゴヌクレトチドをDNA合成装置により化学合成した。全体を前部、中部、後部の3つのブロックに均等に分け、DNA断片のリン酸化と結合反応、アガロースゲル電気泳動による精製、ベクター(pTrc99A)への組み込みを、前述の熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンの場合と同様の方法で行った(図12)。
このFNRの化学合成遺伝子の発現は実験1で述べた熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンの場合と同様の方法で行った。
【0079】
組換え体FNRの精製は以下のように行った。
大腸菌菌体を50mMのTris−HCl(pH7.5)、200mMのNaClおよび0.5mMのPMSF溶液にて懸濁し、超音波にて細胞を十分破砕した。この破砕液を10000g、10分の条件で遠心し、上清をDEAEセルロースカラムに注入し素通り画分を回収した。この画分を40%〜60%飽和硫安で分画し、沈殿物を同様の遠心で集め、50mMTris−HCl(pH7.5)に透析した。これをDEAE−トヨーパールとフェレドキシンアフィニティカラムを用いる公知の方法により、組換え酵素を精製した。
精製されたFNRの純度と収量を検定するために、分光光度計(島津UV−2500)により、解析した結果を図13に示す。
【0080】
図13に示すスペクトルを元にした277.5nm(第4ピーク)と453nm(第2ピーク)の吸光度の比から、この精製物がFNRであることが確認された。すなわち、これまで同定されているFNRの前記比(A453/A275)は0.10〜0.13であり本測定値から求めた前記比は、
R=A453/A275=0.124
であった。さらに、A453での吸光度から、下記のように収量を計算した。
モル分子吸光係数 ε=10.7mM−1cm−1
A453 x 1/ε = 0.211 x 1/10.7 =0.02mM
分子量35000とすると0.7mg/mlに相当する。
【0081】
実験6:熱帯熱マラリア原虫FNRを用いた熱帯熱マラリア原虫およびトウモロコシフェレドキシンの電子伝達活性の評価
前記実験3における、トウモロコシ根のFNRを用いた、上記の2種のフェレドキシンの活性評価と同一のアッセイ方法および条件で、実験5で得られた熱帯熱マラリア原虫FNRを用いた熱帯熱マラリア原虫およびトウモロコシフェレドキシンの電子伝達活性評価を行い、熱帯熱マラリア原虫FNRの反応性を測定した。電子伝達活性はCyt c還元能(μM/sec)で測定したが、e−/secに換算し、その結果を図14に示す。対比のため、実験3におけるトウモロコシの根のFNRを用いた場合の結果もe−/secに換算し(40nMのFNRを用いてCytcの1電子還元反応をアッセイしているので、0.04μMで割る)図14左に示す。
【0082】
実験5で得られた熱帯熱マラリア原虫FNR存在下において、フェレドキシンはNADPH−Cyt c還元反応において電子伝達活性を示すことから、該熱帯熱マラリア原虫FNRがピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有することが実証された。
また、熱帯熱マラリア原虫FNRは、トウモロコシフェレドキシンに比べ熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンと高い反応性を示すことが判明した。この特性は、熱帯熱マラリア原虫由来の酵素・タンパク質同士が分子間の電子伝達に好都合な構造特性を備えていることを示すものである。したがって、熱帯熱マラリア原虫アピコプラストでのフェレドキシンとFNRをターゲットにした抗マラリア薬剤の探索には、前述の植物根のFNRを用いるよりも、熱帯熱マラリア原虫由来のタンパク質同士の組み合わせの方がより優れたスクリーニング系を提供するものであると結論づけられる。
【0083】
実験7:熱帯熱マラリア原虫由来のFNRとフェレドキシンの組み合わせによる電子伝達阻害の測定
トウモロコシ根のFNRを用いて重合度の異なるポリリジンの阻害効果の評価を行った前記実験4の実験に加え、熱帯熱マラリア原虫由来のFNRを用いた同様の測定を行った。本実験では、ポリリジンの重合度を32、16、8、4に特定できるペプチドを用いて行なった。その結果を図15に示す。32量体(重合度32)のものが、ID50が約20μg/mlで阻害効果が最も高く、16量体、8量体のものは10倍から100倍阻害力は低下した。4量体のものや単体のリジンは、ほとんど阻害効果はなかった。これらの結果は、特定の重合度を持ったポリカチオンが、FNRとフェレドキシンの分子間電子伝達を阻害できることを示すものであり、トウモロコシ根のFNRを用いて行われた阻害実験と基本的には良い一致が得られた。
【0084】
実験8:熱帯熱マラリア原虫由来フェレドキシンの改変体の作製と吸収スペクトルの評価
前述のpTrc99Aに組み込んだ熱帯熱マラリア原虫由来フェレドキシンの発現プラスミドを用いて、コード領域にユニークに存在する制限酵素サイト(BamHIとHindIII)を利用して、45番目のセリンをグリシンに置換した変異体(S45G)、および45番目のセリンと46番目のスレオニンを共にグリシンに置換した変異体(S45G/T46G)を作製するためのオリゴヌクレオチドのカセットを化学合成し、定法に従って野生型の対応する部分と入れ換えた(図16)。
【0085】
上記2種のフェレドキシン変異体は、野生型と同様にして大腸菌発現系で精製可能であった。精製標品の吸収スペックトルを図17に示す。両方の変異体とも[2Feー2S]クラスターに由来する420nmと330nm付近の吸収極大がレッドシフトしており、改変によりクラスターの存在環境が変化したことを示唆している。この結果は、クラスターの配位子であるシステイン近傍のアミノ酸の置換により、電子伝達活性が変化したマラリア原虫フェレドキシンを作製できることを実証したものである。
【0086】
次に、フェレドキシンとFNRとの複合体から効率よく電子を受容し、ラジカル種のような細胞内毒性を発揮できる物質(酸化還元剤)が、アピコンプレキサン類に属する原虫の増殖を阻害し、該原虫により引き起こされる疾病に対する有効な治療薬となるとの着想を実用化するために、アピコンプレキサン類に属する原虫におけるフェレドキシンおよびFNRの反応系をよく再現する薬剤スクリーニング系を構築し、実際にスクリーニングを行うとともに、そのスクリーニング系およびスクリーニングされた化合物の機能を検証すべく、以下の実験を行った。
【0087】
(実施例2)
薬剤スクリーニング系構築のための、熱帯熱マラリア原虫のフェレドキシン(Fd)およびフェレドキシン:NADP+還元酵素(FNR)の人工合成遺伝子を組み込んだ大腸菌細胞の作製
FdまたはFNR遺伝子を単独に含むプラスミドであるpTrc99A(Fd)、pTrc99A(FNR)については、前述の実施例1実験1の図6(下)および実験5の図12のように構築したものを用いた。FdおよびFNR遺伝子を共に含むプラスミド(pTrc99A(FNR/Fd))は、図18に示すように構築した。pTrc99A(FNR/Fd)は、pTrc99A(FNR)のApaI/DraI領域を切り出し、pTrc99A(Fd)のApaI/EcoRVサイトに挿入することにより構築した。元のベクターとこれら3種のプラスミドを用いて大腸菌細胞を形質転換した。形質転換細胞はアンピシリン(50μg/ml)を含むLB−培地プレート(LB−培地:1リットルあたりポリペプトン80g、酵母エキス40g、塩化ナトリウム80g)で選別した。両遺伝子の発現はpTrcプロモーターにより制御され、培地中にIPTG(イソプロピルチオガラクトシド、ナカライテスク社製)を10μM〜1mM加えることにより発現誘導が起こることが確認された。
【0088】
(実施例3)
Fd、FNR、Fd/FNR遺伝子で形質転換した大腸菌の生育に及ぼすビピリジニウム系化合物の影響
上記の4種の形質転換大腸菌株を種々の濃度のベンジルビオローゲン(BV)を含むプレート上で生育させて、BVの大腸菌増殖阻害効果を調べた。その一例を図19に示した。4種の大腸菌株を液体L培地で終夜培養した種菌を、100万倍希釈に至るまで10倍毎の希釈を繰り返した希釈系列の菌体縣濁液を調製し、BVを20μM、IPTGを10μM含むプレートと同濃度のIPTGのみを含むプレート上に、上記4種の大腸菌株をそれぞれの希釈系列から1μlずつをプレート上に滴下、37℃で1昼夜培養した。その結果、BV無しでは4種の大腸菌株は同等に増殖したが、BV存在下では、Fd/FNR遺伝子形質転換株のみで生育阻害が認められた。BVの濃度を0から50 μMまで変化させた実験における阻害の濃度依存性を図20に示した。これらの結果からNADPH/FNR/Fd/BVのレドックスカスケードが大腸菌内で駆動した場合に、菌体の増殖阻害が顕著に認められることが判明した。同様の現象はメチルビオローゲン(MV)を酸化還元剤として用いても認められた。
【0089】
(実施例4)
in vitroのアッセイ系によるNADPH/FNR/Fd/ビピリジニウムの電子伝達の証明
図21に示すように、FNR、Fd、ビピリジニウム存在下でNADPHの酸化を340nmの吸光度の経時変化で追跡した。この結果、BV、MVとも効率よく電子を受け取り、このレドックスカクケードの駆動は、FNR、Fd、ビピリジニウムいずれを欠いても大幅に低下することが判明した。
なお具体的な反応条件は以下の通りである。
NADPH:200μM
FNR:100nM
Fd:10μM
ビピリジニウム:200μM
【0090】
50mMのTris−HCl(pH 7.5)および100mMのNaClの緩衝液600μl中に、これら全てを含む、あるいはいずれか一つを欠いた反応混合液を調製し、分光光度計(島津UV−2500)により吸光度の減少をモニターした。図21中、(+MV)はFNR、FdおよびMvを含む場合、(−FNR+MV)はFdおよびMvを含む場合、(−Fd+MV)はFNRおよびMvを含む場合、(−Mv)はFNRおよびFdを含む場合の結果を表し、(+BV)はFNR、FdおよびBvを含む場合の結果を表す。
【0091】
(実施例5)
ビピリジニウムによる熱帯熱マラリアの増殖抑制効果の試験
ビピリジニウムの抗マラリア作用については、培養熱帯熱マラリア原虫の細胞増殖阻害効果を測定することにより求めた。Plasmodium falciparum のHonduras−1株を用い、その培養と維持は、TrageおよびJensenの方法(Science、193、673−675、1976)、および、マラリア学ラボマニュアル6章、7章(田辺和裄他編集、菜根出版、2000 ISBN4-7820-0152-5)に記載の方法により行った。先ず、培養下のリング期のPf寄生赤血球を新鮮赤血球で希釈し、この寄生赤血球数を全血球数の0.5%に調整した。次いで、これを更に完全培地で希釈して赤血球濃度を3%(V/V)に調整することにより、Pf寄生赤血球培養液を調製した。この培養液を96ウエルのマイクロプレートに100μl/ウエルずつ滴下の後、MVあるいはBVを図22に記載の濃度を終濃度として加え、酸素濃度および二酸化炭素濃度を両者ともそれぞれ5%に制御したガス恒温器内で48時間培養をした。培養終了後、これをスライドガラス上に塗抹してギムザ染色し、スライド上の5000この赤血球を検鏡し、マラリア原虫感染赤血球数を計数した。薬剤の溶媒(0.1%DMSO)のみを添加した培養液を対照として用いた。上記の条件においてビピリジニウムを含まない場合には、3.5%の原虫率となった。マラリア原虫増殖阻害率は以下の式により計算した。
【0092】
Inhibition of parasitemia (%)=
100 x {[(対照の原虫率)−(測定点での原虫率)]/(対照の原虫率)}
結果は図22に示す。MVもBVも赤血球中において、マラリア原虫の増殖を阻害し、本発明のスクリーニング方法の結果とよく相関した。これにより、MVおよびBVに代表されるラジカル発生剤が、抗マラリア剤となることが確かめられ、同時に、前記本発明の薬剤スクリーニング方法が、アピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬のスクリーニングに有効であることが実証された。また、BVはMVに比して20倍ほど活性が高い。
【0093】
【発明の効果】
本発明によると、アピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬の開発に関し、より詳しくは、アピコンプレキサン類に属する原虫により引き起こされる疾病に対する有効な治療薬を安全かつ迅速にスクリーニングすることができる薬剤スクリーニング方法、該薬剤スクリーニング方法に好適に用いられる組換えベクター、該薬剤スクリーニング方法に好適に用いられる形質転換体およびアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する有効で薬剤耐性原虫発生の可能性の低い治療薬を提供することができる。
【0094】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、フェレドキシンファミリーのアミノ酸配列比較図である。
【図2】図2は、フェレドキシンの合成図である。
【図3】図3は、アピコプラストにおけるフェレドキシンの発現を表す図である。
【図4】図4は、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンのアミノ酸配列図である。
【図5】図5は、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素とトウモロコシ根フェレドキシン:NADP+還元酵素のアミノ酸配列比較図である。
【図6】図6は、遺伝子導入のためのベクター、および、Fdを導入したプラスミドを表す図である。
【図7】図7は、精製したフェレドキシンの分光光度計によるスペクトルを表す図である。
【図8】図8は、回折像である。
【図9】図9は、フェレドキシンの立体構造を示す図である。
【図10】図10は、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子の合成図をN末端側から表した図である。
【図11】図11は、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子の合成図である図8のつづきである。
【図12】図12は、FNRを導入したプラスミドを表す図である。
【図13】図13は、精製した熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素の分光光度計によるスペクトルを表す図である。
【図14】図14は、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシン:NADP+還元酵素とフェレドキシンの電子伝達活性の測定図である。
【図15】図15は、熱帯熱マラリア原虫由来のフェレドキシン:NADP+還元酵素とフェレドキシンの電子伝達活性の、ポリリジンによる阻害を表す図である。
【図16】図16は、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンの変異体作成のためのオリゴヌクレオチドカセットを表す図である。
【図17】図17は、熱帯熱マラリア原虫フェレドキシンの変異体のスペクトルを表す図である。
【図18】図18は、FdおよびFNRを導入したプラスミドを表す図である。
【図19】図19は、ベンジルビオローゲンによる阻害実験を表す図である。
【図20】図20は、ベンジルビオローゲン濃度依存性の阻害実験を表す図である。
【図21】図21は、ベンジルビオローゲンおよびメチルビオローゲンの電子受容活性を表す図である。
【図22】図22は、ベンジルビオローゲンおよびメチルビオローゲンによる熱帯熱マラリアの増殖抑制効果の試験を表す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬をスクリーニングする方法であって、
宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体(a)と、宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子が導入されており該遺伝子が発現している形質転換体(b)、宿主細胞にフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が導入されており該遺伝子が発現している形質転換体(c)、フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子のいずれも導入されておらずフェレドキシン遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子のいずれも発現していない形質転換体(d)、並びに、フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子のいずれも導入されておらずフェレドキシン遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子のいずれも発現していない宿主細胞(e)、のうちの少なくともいずれかとを、候補化合物の存在下においてそれぞれ培養する培養工程と、
フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子を共発現する形質転換体(a)の増殖が、それ以外の形質転換体または宿主細胞のうちの少なくともいずれかの増殖に比べて阻害される候補化合物を選択する選択工程とを有することを特徴とする薬剤スクリーニング方法。
【請求項2】
培養工程が、前記培養工程で用いられる形質転換体と同一の形質転換体、または、前記培養工程で用いられる形質転換体および宿主細胞と同一の形質転換体および宿主細胞を、候補化合物の不存在下においてコントロールとしてそれぞれ培養することを含み、
選択工程が、候補化合物存在下と前記コントロールとの差を増殖の阻害として行われる請求項1に記載の薬剤スクリーニング方法。
【請求項3】
培養工程が、培地上に、複数の異なる濃度で、または、連続的な濃度勾配をもって、前記形質転換体を播種して行われる請求項1および2のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
【請求項4】
培養工程が、前記候補化合物について複数の異なる濃度条件下で、または、連続的な濃度勾配条件下で行われる請求項1から3のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
【請求項5】
宿主細胞が大腸菌である請求項1から4のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
【請求項6】
フェレドキシンをコードする遺伝子が、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストに実質的に由来する以下の(a)および(b)のいずれかの鉄硫黄タンパク質をコードするDNAであって、宿主細胞内で過剰発現させることができるDNAである請求項1から5のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
(a)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる鉄硫黄タンパク質
(b)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、電子伝達活性を有する鉄硫黄タンパク質
配列番号1:
【請求項7】
フェレドキシンをコードする遺伝子が、以下の(a)および(b)のいずれかのDNAである請求項1から5のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA配列番号2:
【請求項8】
フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストに実質的に由来する以下の(a)および(b)のいずれかのタンパク質をコードするDNAであって、宿主細胞内で過剰発現させることができるDNAである請求項1から7のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
(a)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号7で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質
配列番号7:
【請求項9】
フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が、以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであるである請求項1から7のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
(a)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
配列番号8:
【請求項10】
アピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬が、抗マラリア剤である請求項1から9のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
【請求項11】
フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子を含み、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであり、
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのDNAであることを特徴とする組換えベクター。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項12】
請求項11に記載の組換えベクターを含むことを特徴とする形質転換体。
【請求項13】
宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体であって、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子であり、
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子であることを特徴とする形質転換体。
(a)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる鉄硫黄タンパク質
(b)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、電子伝達活性を有する鉄硫黄タンパク質
(c)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(d)配列番号7で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質
【請求項14】
大腸菌にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体であって、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであり、
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのDNAであることを特徴とする形質転換体。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項15】
ラジカル発生剤を有効成分として含むことを特徴とするアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬。
【請求項16】
ラジカル発生剤が、窒素原子にアルキル、ベンジル、または、ベタインなどの置換基を有してもよいビピリジルまたはその塩化物である請求項15に記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬。
【請求項17】
窒素原子にアルキル、ベンジル、または、ベタインなどの置換基を有してもよいビピリジルまたはその塩化物が、γ,γ’ビピリジル骨格を有する請求項16に記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬。
【請求項18】
有効成分が、メチルビオローゲン、エチルビオローゲン、ベンジルビオローゲン、ベタインビオローゲンのいずれかである請求項17に記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬。
【請求項19】
抗マラリア剤である、請求項15から18のいずれかに記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬。
【請求項1】
アピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬をスクリーニングする方法であって、
宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体(a)と、宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子が導入されており該遺伝子が発現している形質転換体(b)、宿主細胞にフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が導入されており該遺伝子が発現している形質転換体(c)、フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子のいずれも導入されておらずフェレドキシン遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子のいずれも発現していない形質転換体(d)、並びに、フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子のいずれも導入されておらずフェレドキシン遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素遺伝子のいずれも発現していない宿主細胞(e)、のうちの少なくともいずれかとを、候補化合物の存在下においてそれぞれ培養する培養工程と、
フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子を共発現する形質転換体(a)の増殖が、それ以外の形質転換体または宿主細胞のうちの少なくともいずれかの増殖に比べて阻害される候補化合物を選択する選択工程とを有することを特徴とする薬剤スクリーニング方法。
【請求項2】
培養工程が、前記培養工程で用いられる形質転換体と同一の形質転換体、または、前記培養工程で用いられる形質転換体および宿主細胞と同一の形質転換体および宿主細胞を、候補化合物の不存在下においてコントロールとしてそれぞれ培養することを含み、
選択工程が、候補化合物存在下と前記コントロールとの差を増殖の阻害として行われる請求項1に記載の薬剤スクリーニング方法。
【請求項3】
培養工程が、培地上に、複数の異なる濃度で、または、連続的な濃度勾配をもって、前記形質転換体を播種して行われる請求項1および2のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
【請求項4】
培養工程が、前記候補化合物について複数の異なる濃度条件下で、または、連続的な濃度勾配条件下で行われる請求項1から3のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
【請求項5】
宿主細胞が大腸菌である請求項1から4のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
【請求項6】
フェレドキシンをコードする遺伝子が、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストに実質的に由来する以下の(a)および(b)のいずれかの鉄硫黄タンパク質をコードするDNAであって、宿主細胞内で過剰発現させることができるDNAである請求項1から5のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
(a)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる鉄硫黄タンパク質
(b)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、電子伝達活性を有する鉄硫黄タンパク質
配列番号1:
【請求項7】
フェレドキシンをコードする遺伝子が、以下の(a)および(b)のいずれかのDNAである請求項1から5のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA配列番号2:
【請求項8】
フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が、アピコンプレキサン類原虫のアピコプラストに実質的に由来する以下の(a)および(b)のいずれかのタンパク質をコードするDNAであって、宿主細胞内で過剰発現させることができるDNAである請求項1から7のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
(a)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号7で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質
配列番号7:
【請求項9】
フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が、以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであるである請求項1から7のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
(a)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
配列番号8:
【請求項10】
アピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬が、抗マラリア剤である請求項1から9のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
【請求項11】
フェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子を含み、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであり、
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのDNAであることを特徴とする組換えベクター。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項12】
請求項11に記載の組換えベクターを含むことを特徴とする形質転換体。
【請求項13】
宿主細胞にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体であって、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子であり、
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子であることを特徴とする形質転換体。
(a)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる鉄硫黄タンパク質
(b)鉄−硫黄クラスターが配位され、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、電子伝達活性を有する鉄硫黄タンパク質
(c)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(d)配列番号7で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質
【請求項14】
大腸菌にフェレドキシンをコードする遺伝子およびフェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が共に導入されており該遺伝子が共発現している形質転換体であって、
前記フェレドキシンをコードする遺伝子が以下の(a)および(b)のいずれかのDNAであり、
前記フェレドキシン:NADP+還元酵素をコードする遺伝子が以下の(c)および(d)のいずれかのDNAであることを特徴とする形質転換体。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつ、鉄−硫黄クラスター配位により電子伝達活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号8で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号8で表される塩基配列からなるDNAと60%以上の相同性を有し、宿主細胞においてコードタンパク質を過剰発現することができ、かつFADを包摂することによりフェレドキシンに依存したピリジンヌクレオチドを酸化還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項15】
ラジカル発生剤を有効成分として含むことを特徴とするアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬。
【請求項16】
ラジカル発生剤が、窒素原子にアルキル、ベンジル、または、ベタインなどの置換基を有してもよいビピリジルまたはその塩化物である請求項15に記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬。
【請求項17】
窒素原子にアルキル、ベンジル、または、ベタインなどの置換基を有してもよいビピリジルまたはその塩化物が、γ,γ’ビピリジル骨格を有する請求項16に記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬。
【請求項18】
有効成分が、メチルビオローゲン、エチルビオローゲン、ベンジルビオローゲン、ベタインビオローゲンのいずれかである請求項17に記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬。
【請求項19】
抗マラリア剤である、請求項15から18のいずれかに記載のアピコンプレキサン類原虫により引き起こされる疾病に対する治療薬。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
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【図6】
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【図19】
【図20】
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【公開番号】特開2006−149201(P2006−149201A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−2676(P2003−2676)
【出願日】平成15年1月8日(2003.1.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成14年8月25日 社団法人日本生化学会発行の「生化学 第74巻 第8号」に発表
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年1月8日(2003.1.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成14年8月25日 社団法人日本生化学会発行の「生化学 第74巻 第8号」に発表
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【Fターム(参考)】
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