説明

薬剤放出コーティングを有する医療インプラント

【課題】生物活性材料の溶出を効果的に調節するコーティングを施した医療インプラント、および、骨または組織の医療インプラントへの内方成長を妨げない医療インプラントの提供。
【解決手段】コラーゲンマトリックス、生物活性材料および自己配列型(self-arranging)輸送バリヤー層から構成される拡散マトリックスを含んでなる、薬剤放出コーティングを有する医療インプラント。該医療インプラント生物活性材料は、コラーゲンマトリックス層16および/または自己配列型輸送バリヤー層18に含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
緒言
本開示は、薬剤放出コーティング(drug delivery coating)を有する医療インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
医療装置を患者に移植する様々な外科的手法において、生物活性材料を直接インプラント部位に供給することが有利であることがある。このような材料としては、様々なタンパク質、成長因子、薬剤、栄養素または抗生物質が非制限的例として挙げられる。このような材料は、感染のないインプラント部位の維持、インプラントの体内への統合の促進、およびインプラントについての修正手術の必要の防止など様々な利点を提供することができる。
【0003】
現在用いられている手法では、生物活性材料をインプラントに接着するのにマトリックス(例えば、ワックス、シリコーンまたはフィルム形成ポリマー)の使用が必要である。特定のコーティングは、例えば、基材の種類、放出しようとする生物活性材料、インプラントの種類および移植の範囲、およびコーティングしたインプラントの製造および保管が容易であることに基づいて選択される。さらに、コーティングからの生物活性材料の放出の時期および所定の時間間隔で放出される生物活性材料の量を、制御しなければならない。現在用いられているコーティングおよびコーティング手法は、上記の選択基準によって提供される制限により、かかる制御に対して十分に準備されていないのである。
【0004】
さらに、現在用いられている放出手法もまた通常は単一プラットフォームに限定されており、またはそれらの手法を特定のインプラントの種類に調整しなければならないのである。例えば、セメントなしの(cementless)骨インプラントにあっては、骨はある種のポリマー表面が用いられているインプラント中には成長しない。新たな骨組織はポリマー残基があるところには引きつけられないからである。かかるインプラントにおけるポリマーコーティングされた領域は、内方成長および新たな骨の強い結合のための最適結合部位としては適さないのである。
【0005】
したがって、生物活性材料の溶出を効果的に調節する、コーティングを施した医療インプラントが求められている。また、治療計画の提供を促進し、骨または組織の医療インプラントへの内方成長を妨げない、医療インプラントのコーティングが必要とされている。さらにまた、さまざまなプラットフォームにて適用しうるコーティングされた医療インプラントの簡易で統一された製造方法も求められている。
【発明の概要】
【0006】
様々な態様において、本発明は、基材と、該基材の表面上に少なくとも2つの拡散マトリックス層とを含んでなる、コーティングされた医療インプラントを提供する。それぞれの拡散マトリックスは、生物活性材料、コラーゲンマトリックス層、およびコラーゲンマトリックス層に隣接する輸送バリヤー層を含んでなる。
【0007】
様々な態様において、コーティングされた医療インプラントを製造する方法が提供される。第一のコラーゲンマトリックス、第一の生物活性材料、および第一の輸送バリヤー層を含んでなる第一の拡散マトリックスを、インプラント基材に塗布する。第二のコラーゲン、第二の生物活性材料、および第二の輸送バリヤー層を含んでなる第二の拡散マトリックスを、第一の拡散マトリックス上に塗布する。
【0008】
様々な態様において、コラーゲンマトリックスは親水性または親油性である。コラーゲンマトリックス層の少なくとも一部分は、比較的親水性部分と比較的親油性部分とを有する輸送バリヤー材料と接触している。コラーゲンマトリックス層が親水性であるときには、輸送バリヤー材料の親水性部分はコラーゲンマトリックス層に配向する。コラーゲンマトリックス層が親油性であるときには、輸送バリヤー材料の親油性部分はコラーゲンマトリックス層に配向する。
【0009】
様々な態様において、コーティングされた医療インプラントからの生物活性材料のインプラント部位への溶出速度を調節する方法が提供される。これらの方法は、複数の拡散マトリックス層を医療インプラントへコーティングすることを含んでなり、それぞれの拡散マトリックスは生物活性材料、コラーゲンマトリックス層および輸送バリヤー層を含んでなる。医療インプラントは、インプラント部位に移植される。拡散マトリックス最外層は、インプラント部位の拡散媒質と接触して、生物活性材料をインプラント部位へ所定の速度で放出する。
【0010】
応用可能性の他の分野は、本明細書に提供される説明から明らかになるであろう。説明および具体例は、単に例示の目的としようとするものであり、本開示の範囲を制限しようとするものではないことを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】様々な態様によるコーティングを施したステントである。
【図2】様々な態様による線2-2についての図1のステントの横断面図である。
【図3】様々な態様によるコーティングを施した寛骨臼(acetabular cup)である。
【図4】図4A−4Cは様々な態様による鋸状金属表面のコーティング方法である。
【図5】様々な態様によるコープランド・ショルダー(Copeland Shoulder)上の多層コーティングである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書に示される図は、本発明の態様を説明する目的で本発明の装置、材料および方法の一般的特徴を例示しようとするものであることに留意すべきである。これらの図は、任意の所定の態様の特徴を正確に反映していないことがあり、本発明の範囲内の具体的態様を必ずしも画定または制限しようとするものではない。
【0013】
下記の技術の説明は、1以上の発明の主題、製造および使用の性質を単に例示したものであり、本願、または本願に対して優先権を主張して出願されるような他の出願、またはそれから発行される特許明細書に記載されている任意の特定の発明の範囲、応用または使用を制限しようとするものではない。下記の定義および非制限的指針は、本明細書に記載の技術の概説において考察されねばならない。
【0014】
本明細書で用いる標題(例えば、「緒言」および「概要」)および副題は、単に本発明の開示中の主題の一般的構成のつもりであり、技術またはその任意の側面の開示内容を制限しようとするものではない。特に、「緒言」に開示された主題は、新規技術を包含することがあり、従来技術の詳説を構成しないことがある。「概要」に開示された主題は、技術またはその任意の態様の全範囲を包括的または完全な開示ではない。特定の有用性を有するものとしての本明細書のある段落中の材料は、便宜的に分類または論考されるものであり、材料を任意の所定の組成物に用いるときには、必然的にまたは単に本明細書のその分類に従って機能しなければならないと断定すべきではない。
【0015】
説明および具体例は、技術の態様を示しているが、単なる例示の目的のためであり、この技術の範囲を制限しようとするものではない。さらに、記載された特徴を有する複数の態様への言及は、追加の特徴を有する他の態様または記載された特徴の様々な組合せを包含する他の態様を除外しようとするものではない。具体例は、この技術の組成物および方法を作成しかつ使用する方法を例示する目的に提供され、明確に断らない限り、この技術の所定の態様が作成されまたは試験されたまたはされていないことを表現しようとするものではない。
【0016】
本明細書で用いられる「好ましい」および「好ましくは」という単語は、一定環境下で一定の利益を与える技術の態様を指している。しかしながら、同一または他の環境下では、他の態様が好ましいこともある。さらに、1以上の好ましい態様への言及が、他の態様が有用でないことを暗示するものではなく、技術の範囲から他の態様を除外しようとするものではない。
【0017】
本明細書で用いられる総ての組成百分率は、特に断らない限り総組成の重量によるものである。本明細書で用いられる「包含する」という単語およびその変異体は、非制限的にしようとするものであり、リストの項目の記載がこの技術の材料、組成物、装置および方法においても有用なことがある他の同様な項目を除外することにはならない。同様に、「できる」および「してよい」という用語およびそれらの変異体は、非制限的にしようとするものであり、ある態様が一定の要素または特徴を含んでなることができまたはことがあることの記載は、これらの要素または特徴を含まない本発明の技術の他態様を除外しない。
【0018】
本発明は、少なくとも2つの拡散マトリックスをコーティングした医療インプラントを提供する。検討を容易にするため、図1-5には、複数の拡散マトリックス12、12'、12"および/または12'"を含んでなるコーティングを有する様々の典型的な医療インプラント基材10を示している。様々な態様において、それぞれの拡散マトリックスは、生物活性材料14、コラーゲンマトリックス層16、およびコラーゲンマトリックス層16に隣接する自己配列型(self-arranging)輸送バリヤー層18を含んでなる。明確にするため、同一要素番号を様々な第一および第二の拡散マトリックスおよびそれらのそれぞれの下層について用いる。それぞれの成分の部位およびそれぞれの性質を、プライム符号を用いて示す。
【0019】
本発明の技術は、ヒトまたは他の動物患者における多種多様な治療および化粧応用に用いられる広汎な種類のインプラントを包含することは理解されている。この技術に用いられる特定の装置および材料は、したがって、生物医学的に許容可能なものでなければならない。本明細書で用いられるこのような「生物医学的に許容可能な」成分は、過度の好ましくない副作用(例えば、毒性、刺激およびアレルギー反応)がなく、合理的な利益/危険比と釣り合ったヒトおよび/または動物での使用に適当な成分である。
【0020】
医療インプラント基材
医療インプラント基材10は、任意の生体適合性材料から作製することができる。典型的な材料としては、ステンレススチール、チタン、タンタル、または別の生体適合性金属またはその合金;シリコーン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラゾールフルオロエチレンまたは別の生体適合性ポリマー材料、またはそれらの混合物またはコポリマー;ポリ乳酸、ポリグリコール酸またはそれらの組合せ、または別の生物分解性ポリマー;または上記材料の混合物またはコポリマーが挙げられる。
【0021】
医療インプラント基材10としては、腰、膝、肘、肩、背骨、手首または足首インプラント、固定板、ネジ、縫合アンカーなどとして成形することができる。他の装置としては、気管切開装置、イントラウレサーナル(intraurethanal)および他の尿生殖器インプラント、スタイレット、骨拡張器、ステント、ワイヤーガイドおよび皮下移植された血管カテーテルのアクセスポートのような成形外科装置を挙げることができる。本開示の具体例はステント110(図1)、寛骨臼(acetabular cup)210(図3)およびコープランド・ショルダー(Copeland shoulder)310に関するものであるが、これらの医療装置の検討は単に例示的なものであり、本発明の教示内容を制限しようとするものではない。
【0022】
拡散マトリックス
医療インプラント基材10の少なくとも一部分は、少なくとも2層の拡散マトリックス12でコーティングされており、拡散マトリックス12は1以上の生物活性材料14を含んでなる。一般に、第一の拡散マトリックス12はインプラント基材10上にコーティングされ、後続するそれぞれの拡散マトリックス12は前の拡散マトリックス12の表面上にコーティングされる。以下の説明においては、平明にするために、単一の拡散マトリックス12のみに言及することがある。単一の拡散マトリックス12の特徴を、他の拡散マトリックス層の1つまたは総てに用いることができることは無論のことである。
【0023】
(本発明の技術の機能および有用性を制限することのない)様々な態様において、それぞれの拡散マトリックス12は1以上の方法で生物活性材料14を調節することができる。例えば、拡散マトリックス12の下層(コラーゲンマトリックス層16および自己配列型輸送バリヤー層18)は、様々なレベルの再吸収可能性(resorbability)または再吸収を備えた部分を有し、様々な下層を介し隣接環境中への生物活性材料14の溶出を制御する。本明細書で用いられる「再吸収可能」または「溶解」という用語、および「溶解性」および「分解性」およびそれらの変形のような他の同様な用語は、拡散マトリックス下層を記載しており、該拡散マトリックス下層は、全体または部分的に溶解しかつ様々な態様において、ある環境、例えば、水溶液においてまたは生理学的条件下で構造完全性を喪失する。
【0024】
(本発明の技術の機能および有用性を制限することのない)様々な態様において、生物活性材料14の調節は、下層間の極性差、および水溶液と下層との間の極性および水親和性にの差よるものであり、生物活性材料14が溶出することができる厳格で遅い溶出路または容易で速やかな溶出路を提供する。水溶液の拡散マトリックス12の下層への通過およびコーティングのそれぞれの下層からの生物活性材料14の溶出は、下層および下層の組合せの相対的水親和性に基づいている。より高い水親和性を有する下層は、より低い水親和性を有する下層と比較して下層からの薬剤を一層速やかに溶出する。水溶液に応じた下層の選択配列および生物活性材料14の溶出は、本明細書において後で詳細に説明するように、養生法または療法の逐次放出を考慮することができる。
【0025】
様々な態様において、複数の拡散マトリックス12層の間の溶出プロフィールは、多数の生物活性材料14を同時に放出することができるように重複することができる。他の態様によれば、溶出プロフィールは不連続にして、後続するそれぞれの拡散マトリックス12層および生物活性材料14は、組織に接触している前の拡散マトリックス12層および生物活性材料が溶出するまで、溶出しないようにすることができる。
【0026】
さらにまた、生物活性材料14が含まれているコラーゲンマトリックス層16の厚みも、生物活性材料の溶出速度を調節する。コラーゲンマトリックス層16が熱くなれば、溶出速度は遅くなり、療法を行う時間の量は長くなる。逆に、コラーゲンマトリックス層16が薄くなれば、溶出速度は相対的に速くなる。コラーゲンマトリックス層16の厚みがそれぞれの拡散マトリックス12層の間で変化し得ることは無論である。
【0027】
生物活性材料14の調節についての上記説明は非制限的であり、材料の選択、応用技術などの他の要因の組合せが調節に寄与するのはいうまでもない。
【0028】
生物活性材料
生物活性材料14は、本発明の装置を移植しているヒトまたは他の動物患者に、装置が移植されている部位に隣接した組織の構造または機能を全身または局所的に維持し、向上させあるいは影響を与えることなどによって治療、栄養または化粧上の利益を提供する任意の材料を包含する。様々な態様において、これらの利益は、不健康または損傷を受けた組織を修復し、移植部位における感染を最小限にし、健康な組織の医療インプラントへの統合を増加させ、健康なまたは損傷を受けた組織における疾患または欠損を防止することの1以上を包含する。
【0029】
生物活性材料は、好ましくは安全かつ有効量で含まれている。生物活性材料の「安全かつ有効」量は、本発明の方法で用いたときにヒトまたは下等動物患者で所望な効果を有するのに十分であり、過度の有害な副作用(例えば、毒性、刺激またはアレルギー反応)がなく、妥当な利益/危険比を有する量である。生物活性材料の具体的な安全かつ有効量は、治療を行う特定の症状、患者の肉体的健康状態、併用療法(もしあれば)の性質、用いられる特定の生物活性材料、投与および投薬形態の特定の経路、用いられるキャリヤー、および所望な投薬計画のような要因によって変化するのは明らかである。
【0030】
本発明の実施に有用な生物活性材料としては、有機分子、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、核タンパク質、アンチセンス分子 多糖類、糖タンパク質、リポタンパク質、炭水化物および多糖類、およびそれらの合成および生物学的処理を施した類似物、軟骨細胞、骨髄細胞のような生細胞、ウイルスおよびウイルス粒子、天然抽出物、およびそれらの組合せが挙げられる。生物活性材料の特定の非制限的例としては、ホルモン、抗生物質および他の抗感染症薬、造血(hematopoietics)、血小板新生(thrombopoietics)、薬、抗痴呆薬、抗ウイルス薬、抗腫瘍薬(化学療法薬)、解熱薬、鎮痛薬、抗炎症薬、抗潰瘍薬、抗アレルギー薬、抗鬱薬、向精神薬、抗パーキンソン病薬、強心薬、抗不整脈薬、血管拡張薬、抗高血圧薬、利尿薬、コリン作動薬、抗糖尿病薬、抗凝血薬、コレステロール低下薬、胃腸薬、筋弛緩薬、骨粗鬆症の治療薬、酵素、ワクチン、免疫薬およびアジュバント、サイトカイン、増殖因子、細胞誘引薬および結合薬、遺伝子調節因子、ビタミン、ミネラルおよび他の栄養分、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0031】
様々な態様において、VEGF-1、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、例えばFGF-2、表皮増殖因子(EGF)、インスリン様増殖因子-1(IGF)、例えばIGF-1またはIGF-II、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、例えばTGF-β、血小板由来増殖因子(PDGF)、EGM、骨形態発生タンパク質(BMP)、例えばBMP-2、BMP-4、BMP-6またはBMP-7から選択される1以上の増殖因子を挙げることができる。
【0032】
抗生物質を用いる態様によれば、抗生物質(または抗微生物)薬は、細菌および/または真菌生物の増殖の予防または阻止に有効である。本明細書で用いられる「細菌および真菌生物」(または細菌または真菌)という用語は、あらゆる球状、桿状および螺旋状細菌を包含する細菌および真菌の総ての属および種を表す。細菌の幾つかの例としては、ブドウ球菌(すなわち、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus))、乳酸球菌(Enterococcus faecalis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、他のグラム陽性細菌およびグラム陰性細菌である。真菌の一例はカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)である。
【0033】
抗生物質は、ある生物によって産生される別の生物の増殖を阻害するのに有効な化学物質を含み、半合成品および合成品を包含する。本明細書で有用な抗生物質としては、マクロライドおよびリンコサミン、キノロンおよびフルオロキノロン、カルベペネム、モノバクタム、アミノグリコシド、グリコペプチド、テトラサイクリン、スルホンアミド、リファンピン、オキサゾリドノン、および、ストレプトグラミン、ニトロフラン、それらの誘導体、およびそれらの組合せが挙げられる。マクロライドおよびリンコサミンの例としては、アジトロマイシン、クラリトロマイシン、クリンダマイシン、ジリトロマイシン、エリトロマイシン、リンコマイシンおよびトロレアンドマイシンが挙げられる。キノロンおよびフルオロキノロンの例としては、シノキサシン、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、グレパフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モクシフロキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、スパルフロキサシン、トロバフロキサシン、オキソリン酸、ゲミフロキサシンおよびペルフロキサシンが挙げられる。カルベペネムの例としては、イミペネム-シラスタチンおよびネロペネムが挙げられる。モノバクタムの例としては、アズトレオナムが挙げられる。アミノグリコシドの例としては、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシンおよびパロモマイシンが挙げられる。グリコペプチドの例としては、テイコプラニンおよびバンコマイシンが挙げられる。テトラサイクリンの例としては、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、メタサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリンおよびクロテトラサイクリンが挙げられる。スルホンアミドの例としては、マフェニド、銀スルファジジン(silver sulfadizine)、スルファセタミド、スルファジアジン、スルファメトキサゾール、スルファサラジン、スルフィソキサゾール、トリメトプリム-スルファメトキサゾールおよびスルファメチゾールが挙げられる。オキサゾリドノンの一例は、リネゾリドである。ストレプトグラミンの一例は、キヌプリスチン+ダルフォプリスチンである。他の好適な抗生物質としては、バシトラシン、クロラムフェニコール、コリステメテート(colistemetate)、ホスホマイシン、イソニアジド、メテナミン、メトロニダゾール、ムピロシン、ニトロフラントイン、ニトロフラゾン、ノボビオシン、ポリミキシンB、スペクチノマイシン、トリメトプリム、コリチス(colitis)、シクロセリン、カプレオマイシン、エチオナミド、ピラジナミド、パラ-アミノサリチル酸およびエリトロマイシンエチルスクシネート+スルフイソキサゾールが挙げられる。さらに他の抗生物質としては、広範囲スペクトルペニシリン、ペニシリンとβ-ラクタマーゼ阻害剤、およびセファロスポリンを挙げることもできる。これらの抗生物質は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0034】
様々な態様において、拡散マトリックス12は、テトラサイクリン、リファンピン、またはそれらの混合物、例えばミノサイクリンとリファンピンとの組合せを含んでなる。ミノサイクリンは主として静菌性であり、広範囲のグラム陽性およびグラム陰性生物中のタンパク質合成を阻害する。リファンピンは、グラム陽性およびグラム陰性生物中の細菌DNA依存性RNAポリメラーゼ活性を阻害する。この組合せは、様々な生物の増殖を有利に防止しまたは阻害することができる。
【0035】
拡散マトリックス12における抗生物質の量は、好ましくは抗生物質がインプラントに隣接する組織へ溶出した後に局所的抗微生物活性を提供するのに十分な量である。「局所的抗微生物活性を提供するのに十分な量」とは、細菌および/または真菌生物の増殖を減少させ、防止しまたは阻害するのに十分な抗生物質の量を表す。この量は、薬学的特徴、医療装置の種類、被移植者の年齢、性別、健康および体重、および特定のインプラントのような既知因子によってそれぞれの抗生物質について変化することができる。
【0036】
生物活性材料は、コラーゲン層16および輸送バリヤー層18のいずれかまたは両方に組込むことができる。さらに、異なる生物活性材料14を異なる層に組込むことができる。例えば、第一の拡散マトリックス12は、第一の輸送バリヤー層18によって保護されている第一の生物活性材料14を有するコラーゲンマトリックス層16を含むことができ、一方第二の拡散マトリックス12'は、第二の輸送バリヤー層18'によって保護されている第二の生物活性材料14'を有するコラーゲンマトリックス層16'を含むことができる。さらに、それぞれの拡散マトリックス12層のコラーゲン層16は、他の層における生物活性材料と同一のまたは異なる1以上の生物活性材料を含むことができる。多数の生物活性材料14を、それぞれの拡散マトリックス12層に組込むこともできる。
【0037】
生物活性材料14は、生物活性材料14をコラーゲン分散液に溶解または分散させることによってコラーゲンマトリックス層16に組込まれる。生物活性材料とコラーゲン分散液を、均一混合物が提供されるまでまたは分散液がコラーゲンマトリックス層16の医療インプラント基材10への特定の適用を促進するための特性(例えば、粘度)を有するようになるまで混合することができる。
【0038】
コラーゲンマトリックス層
コラーゲンマトリックス層16は、医療インプラント基材10の少なくとも一部分に適用されているコラーゲンの溶液または分散体である。コラーゲン分散体(collagen dispersion)は、任意のコラーゲンまたはコラーゲン誘導体から調製することができる。コラーゲンの基本構造は、3本のポリペプチド鎖であってそれぞれが-グリシン-X-Y-の反復一次アミノ酸配列を有するものからなっている。コラーゲンは、多数の架橋を伴った長い三次元構造を有する重合繊維形態をしていることがある。様々な態様において、コラーゲン成分は、糸状コラーゲン(fibrillar collagen)、アテロペプチドコラーゲン、テロペプチドコラーゲンまたはトロポコラーゲンであることができ、ヒト、ウシ、ブタおよびトリ供給源など様々の哺乳類または他の動物供給源から集めることができる。骨、腱、皮膚などコラーゲンが由来する特定の組織は、石化していてもまたは石化していなくともよい。幾つかの態様によれば、コラーゲンキャリヤーは精製した糸状のウシ腱I型コラーゲンであることができる。このコラーゲンは、ヒトコラーゲンであってもよい。例えば、コラーゲンは、ヒトI、II、IIIまたはIV型、ウシI型コラーゲン、およびブタI型コラーゲンを含んでなる群から選択することができる。好ましくは、コラーゲンは、コラーゲンが用いられている患者に有害な反応、または分散体におけるコラーゲンと、生物活性材料または本発明の組成物における任意の他の材料との間の副反応がないようなものである。
【0039】
コラーゲン分散体は、一般的には中性電荷を有する。しかしながら、他の材料の存在によって「親水性」または「親油性」にすることができる。特に、生物活性材料14は、コラーゲンマトリックス層16の極性または電荷に寄与することがある。
【0040】
当該技術分野で周知のように、「親水性」および「疎水性」または「親油性」という用語は、相対的用語である。一般に、親水性化合物は極性または荷電残基を含み、水溶液により大きな溶解性を有する。疎水性または親油性化合物は無極性残基を含み、例えば、油分により大きな溶解性を有する。さらに他の化合物は、両性である。様々な化合物の相対的親水性および親油性を特徴付けるのに普通に用いられるパラメーターは、親水性-親油性バランス(「HLB」値)である。一般に、親水性材料はHLB値が約10より大きく、一方、疎水性材料はHLB値が約10未満である。
【0041】
下層またはその成分(例えば、コラーゲン層16)のHLBがリファレンス材料より低いときには、その下層は親油性として分類される。下層または成分のHLBがリファレンス材料より高いときには、その層は親水性として分類される。親水性または親油性分類の相対的評価の一例としては、HLB値が15である典型的な第一の層は、HLB値が20である典型的な第二の層と比較して親油性であると考えられるが、第一層も第二層も古典的な非相対的HLBパラメーターによれば親油性として分類されることになる。
【0042】
自己配列型輸送バリヤー層
様々な態様において、自己配列型輸送バリヤー層18は、それぞれの拡散マトリックス12層についてコラーゲンマトリックス層16に隣接して配置される。自己配列型輸送バリヤー層18は、第一の末端に親油性部分と第二の末端に親水性部分とを含む材料から作成され、自己配列型輸送バリヤー層を両性にする。親水性部分と新油性部分とは、互いに反発する。自己配列型輸送バリヤー材料は、ミセルのパターンと同様のパターンで隣接層と整列する。極性または無極性環境では、親油性または親水性部分は、溶液の極性によって整列しかつ自己配列型輸送バリヤー材料の反対極性部分の間の距離が最大になるように自己決定しまたは誘引される。例えば、隣接するコラーゲンマトリックス層16が親水性である場合には、自己配列型輸送バリヤー層18の親水性部分はコラーゲンマトリックス層16と接触し、疎水性部分(hydrophobic tail region)は外に伸び出てコラーゲンマトリックス層16から離れたままになる。親油性および親水性部分は、コラーゲンマトリックス層16の電荷に基づいて親油性末端または親水性末端をコラーゲンマトリックス層16に付着させる能力により、輸送バリヤー層18をコラーゲンマトリックス層16に関して自動的に配向または「自己配列」させる。
【0043】
様々な態様において、自己配列型輸送バリヤー層18の材料はグリセリルエステルである。本明細書で有用なグリセリルエステルとしては、リン脂質、その誘導体、その塩などが挙げられる。幾つかの態様によれば、自己配列型輸送バリヤー層18は、レシチンを含んでなる。本明細書で用いられる「レシチン」は、天然、合成、半合成エステルおよびそれらの他の誘導体、およびそれらの組合せを包含する。
【0044】
隣接層に基づく配置指示を有する自己配列型輸送バリヤー材料に加えて、この材料の輸送バリヤー態様は、拡散マトリックス12を介する生物活性材料14の溶出を促進し、阻害しまたは防止することができる。例えば、コラーゲンマトリックス層16の生物活性材料14が水に完全に溶解性(または高度に親水性)であるときには、水溶液が輸送バリヤー層18を破って親油性部分を通過し、さらに生物活性材料が親油性部分を通って周囲の環境に溶出するのに要する時間によって、高度に親水性の生物活性材料14は拡散マトリックス12に長時間留まることがある。
【0045】
凹凸
図4A-4Cについては、様々な態様において凹凸20が数個の拡散マトリックス層の間に包含される。幾つかの態様によれば、凹凸20は拡散マトリックス12層間に「エアゾール・ギャップ」のような物理的バリヤーを提供する。このような凹凸は、生物活性材料14の溶出の不連続部分を提供することがある。幾つかの態様によれば、凹凸20は、生物活性材料14が通って溶出しなければならない追加距離および後続する拡散マトリックス層12が破られるまでの追加距離を提供することによって、生物活性材料14の直接溶出を防止している。凹凸は、鋸歯、エッチング、溝、チャンネルなどのような表面の不規則さであることができる。凹凸20は、丸みを帯びた、滑らかな、ギザギザしたまたは鈍いなどの任意の形状のものであってもよい。
【0046】
図4A-4Cに示された金属インプラント基材10は、誇張されたプラズマエッチングされた鋸歯(serration) 22を示している。鋸歯22は、複数の拡散マトリックス12層をインプラント基材10に結合するための様々な結合部分を提供する。鋸歯22は、突出部分24とへこんでいる部分26を有する。突出部分24は、一般にへこんでいる部分26より高い側面を有し、金属インプラント基材10にテクスチャーまたは表面特性を提供する。突出部分24およびへこんでいる部分26は任意の形状であることができ、必ずしもプラズマエッチングによって形成される突出または陥凹部に限定されず、上記のような溝、チャンネル、隆起などを包含することができる。
【0047】
図4Bについてみると、拡散マトリックス12層はインプラント基材10の不規則表面上に適用される。第一の拡散マトリックス12層は、通常は表面の不規則さの輪郭に従う。図4Cは、第一層12、第二層12'および第三層12"の積層であって、それぞれの拡散マトリックス層が表面の不規則に満ちており、比較的滑らかなまたは平らな拡散マトリックス12を提供している。へこんでいる部分26の深さによっては、滑らかなまたは平らな拡散マトリックス12を提供するには様々な厚みの多数の層が必要とされることがある。さらに他の様々な態様において、テクスチャード加工の(textured)拡散マトリックス12を残すのが有用であることがある。
【0048】
インプラント基材10の鋸歯に最も近い陥凹部分26に配置された生物活性材料は、同一拡散マトリックス12層中であっても突出部分24に配置された生物活性材料より溶出時間が長い。この層内グラディエントは、突出部分24の生物活性材料14が、第一の拡散マトリックス層12'に隣接する第二の拡散マトリックス層12"の陥凹部分26に配置された生物活性材料14と同じ時間に拡散マトリックス12から溶出することができるように溶出時間を変更する。
【0049】
それぞれの拡散マトリックス12層間の凹凸20および表面特性により、拡散マトリックス12への部分的または限定された水の浸透を可能にする。さらに、輸送バリヤー層18材料の親水性および親油性配置は、生物活性材料14の溶出の一層遅いまたはより厳格な通路を提供する。この厳格な通路は、第一層28の突出部分24から、隣接している第二層30のへこんでいる部分26へ伸びている親油性部分または親水性部分によるものである。したがって、それぞれの輸送バリヤー層を完全に破るための時間量は増加する。
【0050】
再吸収速度(resorption rate)
様々な態様によれば、本発明の拡散マトリックス12は、様々な再吸収能を有する。例えば、様々な極性および再吸収速度を有する層の組合せによって、生物活性材料14がそれぞれの拡散マトリックス12から速やかな、中間のまたは遅い溶解を有するようにすることができる。
【0051】
本明細書で用いられる「速やかな溶解」とは、一般的には1分から1週間までの時間で溶解するコーティングまたはその副成分を説明している。「中間の溶解」とは、一般的には1週間から12週間までの時間で溶解または分解するコーティングまたはその副成分を説明している。「遅い溶解」とは、一般的には12週間から2年までの時間で溶解または分解するコーティングまたはその副成分を説明している。「安定な」または「非分解性」コーティングまたはその副成分は、2年間より長期間完全なままである。
【0052】
例えば、拡散マトリックス12からの生物活性材料14の溶出時期は、インプラント部位における様々な生理学的工程および組織改造に結びつけることができる。生物活性材料14は、抗生物質が1〜10日間放出され、組織改造(例えば、血管新生)に適する様々な増殖因子は2個の中間的溶解下層を用いて11〜90日間放出され、ビタミンは単一の迅速溶解下層を用いて91〜92日間放出されるように調節することができる。
【0053】
例えば、図4Cに示される後続する拡散マトリックス層12'、12"および12"'の追加は、生物活性材料全体の溶出速度を調節する。図4Cに示される非制限例として、最外部の拡散マトリックス層12"'の輸送バリヤー18が最初に破られて、そこに含まれる生物活性材料を溶出することができる。最外部の拡散マトリックス層12"'に含まれる生物活性材料を溶出した後、後続する拡散マトリックス層12"の輸送バリヤー18が次に破られて、次の生物活性材料を系から溶出することができる。引き続く層の分解が、インプラント基材10が隣接組織と直接接触するまで次々と続くようになる。
【0054】
拡散マトリックス12は、非再吸収性、部分再吸収性または完全に再吸収性であることができる。「非再吸収性」とは、実質的に完全なままでありかつ約0%〜約5%が分解する下層(sublayer)を表す。「部分再吸収性」とは、下層の約5%〜約99%の構造一体性を分解しかつ喪失する下層を表す。「完全に再吸収性」とは、完全に分解し(100%)かつ下層が完全に溶解して身体に吸収される下層を表す。様々な態様において、拡散マトリックス12は、骨の内方成長を可能にするのに十分な再吸収性である。幾つかの態様においては、内方成長は約100%〜約5%である。
【0055】
医療インプラントの製造方法
コラーゲンマトリックス層16および自己配列型輸送バリヤー層18は、生物活性材料14の有効性または活性に影響を与えない任意の適当な方法を用いてインプラント基材に適用することができる。適当な適用手法としては、少なくとも基材の一部分にそれぞれコラーゲンマトリックスまたは輸送バリヤー材料の溶液または分散体をスプレー、浸漬または散布することが挙げられる。溶液は、特定の適用方法を促進するのに十分な温度に維持される。適当な温度は、約10℃〜約75℃とすることができる。溶液の適用は、一般的には均一に適用して、コラーゲンマトリックス、輸送バリヤー材料およびそれぞれの生物活性材料14がインプラント基材10に付着するのを促進し、故意でないそれらの除去を防止すべきである。下層は、インプラントの表面特性または用いられる特定の適用手法によって、基材表面における実質的に均一な厚み、厚みグラディエントまたは様々な厚みに適用することができる。
【0056】
拡散マトリックス12のそれぞれの下層を適用した後、インプラント10を乾燥することができる。適当な乾燥法としては、風乾またはオーブン乾燥が挙げられる。乾燥オーブンを用いる態様では、乾燥温度を十分低くして生物活性材料14の変性または構造変化を防止するのが望ましい。乾燥は、数秒(約2秒〜約45秒)、数分(約2分〜約45分)または数時間(約1時間〜約5時間)とすることができる。例えば、コラーゲンおよび抗生物質の分散体が特に低濃度の抗生物質およびコラーゲンを含んでいる態様においては、乾燥時間は一般的にはより高濃度の抗生物質およびコラーゲンを含む分散体より短くなる。
【0057】
自己配列型輸送バリヤー層18を適用するときには、輸送バリヤー材料の親水性部分または親油性部分は、隣接するコラーゲンマトリックス層16が親水性であるかまたは親油性であるかに応じて隣接層に配向する。コラーゲンマトリックス層16が親水性として分類される場合、自己配列型輸送バリヤー層18のコーティング適用により、自己配列型輸送バリヤー層18の親水性部分は親水性コラーゲンマトリックス層16へ自動的に方向決定され、自己配列型輸送バリヤー材料の親油性末端が親水性のコラーゲンマトリックス層16に接近するのを防止する。コラーゲンマトリックス層16が親油性として分類される場合、自己配列型輸送バリヤー層18のコーティング適用によって自己配列型輸送バリヤー層18の親油性部分は親油性コラーゲンマトリックス層16へと自動的に方向決定され、自己配列型輸送バリヤー材料の親水性部分を保護する。
【0058】
生物活性材料の放出の調節方法
本発明はまた、生物活性材料のインプラント部位への投与方法であって、
複数の拡散マトリックス層を医療インプラントにコーティングし、それぞれの拡散マトリックス層が、
生物活性材料、
コラーゲンマトリックス層、および
輸送バリヤー層
を含んでなり、
医療インプラントをインプラント部位に移植(implant)し、
コーティングされたインプラントをインプラント部位の拡散媒質と接触させて、少なくとも1つの生物活性材料を所定の速度でインプラント部位に放出すること
を含んでなる、方法を提供する。
【0059】
必要な外科的切開を行い、インプラント部分を調整した後、インプラントを挿入する。図5に示されるコープランド・ショルダー(Copeland shoulder)310について説明すると、コープランド・ショルダー310がインプラント部位の周囲の流体と接触することによって下層の分解が生じ、続いて生物活性材料14が拡散マトリックス12から放出されて、生物活性材料14が周囲の組織に分散する(局在化放出)。周囲の流体は、患者由来の内因性血液を包含する。この流体は、コーティングされたインプラントを含むインプラント部分を食塩溶液または滅菌水で洗浄することなどによって外因的に提供することもできる。外因性流体は、患者から予め採取した血液または血小板濃縮物などの血液生成物を包含することもある。速やかに溶解する層が最初に分解し、中間および遅く溶解する層はその後特定の時間間隔で分解する。
【0060】
図3について説明すると、寛骨臼カップ(acetabular cup)210は、感染を減少させる目的で抗生物質を含む拡散マトリックス12でコーティングされる。コーティングした寛骨臼カップ210は、移植の時点に局在化抗生物質活性を示し、寛骨臼カップ210インプラントは、創傷の直接的または空気伝搬汚染から保護される。寛骨臼カップ210は、創傷閉鎖部の細菌集落形成のような隣接感染からも保護される。さらに、インプラントは、インプラント部位に潜むことがある血液中の任意の菌血症または細菌から保護される。局在化抗生物質活性の提供は、患者における外来生物の増殖または伝染を減少させ、阻害しおよび/または防止する。層の均一なコーティングにより、抗生物質活性はインプラント部分中に分散され、インプラントの単一領域に限定されない。
【0061】
本明細書に記載した態様は例示的なものであり、本発明の組成物および方法の全範囲の記載において制限しようとするものではない。態様、材料、組成物および方法の同等な変化、修飾および変異は、本発明の技術の範囲内で行い、実質的に同様な結果を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングされた医療インプラントであって、
基材と、
基材の表面上の第一の拡散マトリックスであって、
第一の生物活性材料、
第一のコラーゲンマトリックス層、および
該コラーゲンマトリックス層に隣接する第一の輸送バリヤー層
を含んでなる、第一の拡散マトリックスと、
第一の拡散マトリックスの最上部の第二の拡散マトリックスであって、
第二の生物活性材料、
第二のコラーゲンマトリックス層、および
該コラーゲンマトリックス層に隣接する第二の輸送バリヤー層
を含んでなる、第二の拡散マトリックスと
を含んでなる、医療インプラント。
【請求項2】
第一の生物活性材料を第一のコラーゲンマトリックス層に分散させ、第二の生物活性材料を第二のコラーゲンマトリックス層に分散させてなる、請求項1に記載のコーティングされた医療インプラント。
【請求項3】
第一の輸送バリヤー層または第二の輸送バリヤー層の少なくとも一方が両親媒性である、請求項1に記載のコーティングされた医療インプラント。
【請求項4】
第一の拡散マトリックスおよび第二の拡散マトリックスの少なくとも一方が、少なくとも部分的に再吸収性である、請求項1に記載のコーティングされたインプラント。
【請求項5】
第一の拡散マトリックスおよび第二の拡散マトリックスの少なくとも一方が、完全に再吸収性である、請求項1に記載のコーティングされたインプラント。
【請求項6】
第一の拡散マトリックスが第一の再吸収速度を有し、第二の拡散マトリックスが第二の再吸収速度を有する、請求項1に記載のコーティングされたインプラント。
【請求項7】
第一の拡散マトリックスにおけるコラーゲンマトリックス層が、インプラント基材に隣接している、請求項1に記載のコーティングされたインプラント。
【請求項8】
前記基材が金属基材である、請求項1に記載のコーティングされた医療インプラント。
【請求項9】
前記基材が複数の表面形状を包含し、好ましくは基材がプラズマにより鋸歯状になっている、請求項1に記載のコーティングされた医療インプラント。
【請求項10】
第一の拡散マトリックスが複数の表面形状上にあり、第一の拡散マトリックスと第二の拡散マトリックスとの間に凹凸を提供している、請求項9に記載のコーティングされたインプラント。
【請求項11】
前記凹凸の深さがコラーゲンマトリックス層または輸送バリヤー層の少なくとも一方の厚みに等しい、請求項10に記載のコーティングされたインプラント。
【請求項12】
前記生物活性材料が、抗生物質、薬剤、成長因子、ビタミン、栄養素、およびそれらの組合せからなる群から選択され、好ましくは抗生物質である、請求項1に記載のコーティングされたインプラント。
【請求項13】
コラーゲンマトリックス層の少なくとも一方が第一の生物活性材料を含み、輸送バリヤー層の少なくとも一方が第二の生物活性材料を含んでなる、請求項1に記載のコーティングされた医療インプラント。
【請求項14】
コーティングされた医療インプラントであって、
基材と、
基材の表面上の複数の拡散マトリックスであって、それぞれの拡散マトリックスが、
生物活性材料、および
複数のコラーゲンマトリックス層
を含んでなる、複数の拡散マトリックスと
を含んでなり、
前記複数の拡散マトリックスのそれぞれが、隣接する拡散マトリックスから凹凸によって分離されてなる、コーティングされた医療インプラント。
【請求項15】
それぞれの拡散マトリックスが、コラーゲンマトリックス層の間に配置された輸送バリヤー層をさらに含んでなる、請求項14に記載のコーティングされた医療インプラント。
【請求項16】
少なくとも一方の輸送バリヤー層が、グリセリルエステル、好ましくはレシチンを含んでなる、請求項3または15に記載のコーティングされた医療インプラント。
【請求項17】
生物活性材料をインプラント部位に投与する方法であって、
医療インプラント上に複数の拡散マトリックス層をコーティングし、それぞれの前記拡散マトリックス層が、
生物活性材料、
コラーゲンマトリックス層、および
輸送バリヤー層
を含んでなり、
前記医療インプラントをインプラント部位に移植し、
コーティングされた前記インプラントをインプラント部位における拡散媒質と接触させて、少なくとも1つの生物活性材料を所定の速度でインプラント部位に放出すること
を含んでなる、方法。
【請求項18】
複数の拡散マトリックス層が、骨組織を内方成長させるのに十分な再吸収性である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つの輸送バリヤー層がレシチンを含んでなる、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記拡散媒質がインプラント部位における周囲媒質を含んでなる、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−201166(P2010−201166A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−34305(P2010−34305)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(504378526)バイオメット、マニュファクチュアリング、コーポレイション (4)
【氏名又は名称原語表記】BIOMET MANUFACTURING CORP.
【Fターム(参考)】