薬物送達システムおよびその薬物送達システムの製造方法
薬物送達システムとしての機能を果たすため適合した外科的埋設のための医療機器は、穴からの薬物の放出もしくは溶出を制御するか、または、穴への流体の内向き拡散を制御するために障壁層を備える1つ以上の薬物が装填される穴を有している。障壁層は、非重合体であり、イオンビーム処理によって薬物材料自体で作られている。穴は、薬物送達を空間的に制御するためにパターン化されることがある。柔軟性に富む選択肢は、薬物の組み合わせ、穴1個当たりの可変な薬物投与量、穴1個当たりの複数の薬物、薬物放出順序および分布の時間的制御を可能にする。このような薬物送達システムを形成する方法もまた開示されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)本願は、2008年8月7日付けで出願され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている米国仮特許出願第61/086,981号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、たとえば、哺乳類に埋設(移植、留置)可能である医療機器(例えば、冠動脈および/または血管ステント、埋設可能な人工器官)のような薬物送達システムに関し、より具体的には、薬物を医療機器の表面に塗布し、そして、長時間に亘って表面からの効果的な薬物の放出を促進する形で、イオンビーム技術、好ましくは、ガスクラスタイオンビーム(GCIB)技術を使用して、たとえば、薬物放出速度および生物反応性のような、薬物送達システムの表面特徴を制御する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
たとえば、医療人工器官や外科的埋設のような、(ヒトを含む)哺乳類の身体もしくは身体組織に埋設または直接的に接触することを目的とする医療機器は、その用途のために適しており、適切に生体適合性をもつような種々の金属、金属合金、プラスチック、重合体(ポリマー)もしくは共重合体材料、固形樹脂材料、ガラス状材料、および、その他の材料といった多様な材料から製造されることがある。たとえば、ある種のステンレス鋼合金、コバルト・クロム合金、チタンおよびチタン合金、鉄およびマグネシウムのような生物分解性金属、ポリエチレンと、その他の不活性プラスチックとが使用されている。このような機器は、たとえば、限定されることなく、血管ステント、人工関節補装具(およびこれらの構成要素)、冠動脈ペースメーカなどを含む。埋設可能な医療機器は、薬物またはその他の生物学的活性に役立つ物質をこの医療機器が埋設されている組織または器官へ送達するため頻繁に使用される。
【0004】
冠動脈または血管ステントは、薬物またはその他の役立つ物質の局所送達のため使用されている埋設可能な医療機器のほんの一例である。ステントは、血管に挿入され、所望の場所に位置決めされ、バルーンまたはその他の機械的拡張機器によって拡張されることがある。残念ながら、この処置に対する身体反応は、多くの場合に、血栓症または血液凝固と、処置部位における瘢痕組織またはその他の外傷誘発性組織反応の形成とを含む。統計データは、ステント埋設後の瘢痕組織による動脈の再狭窄または再狭小化がこれらの処置後わずか6ヶ月以内に処置された患者のかなりの割合に発生し、多くの患者において重度の合併症を引き起こすことを示す。
【0005】
ステントに伴う冠動脈再狭窄合併症は、単独または組み合わせて作用する多数の要因によって引き起こされると考えられる。これらの合併症は、ステント埋設の部位に局所的に導入された数種類の薬物によって軽減することができる。カテーテル法、再ステント、集中治療などのような再狭窄の合併症の処置にはかなりの金銭的コストが伴うので、再狭窄率の低下は、金銭を節約し、患者の苦痛を軽減することになる。
【0006】
現在よく知られている冠動脈ステントまたは血管ステントの設計は多数存在している。冠動脈ステントの使用は増大しているが、冠動脈ステント使用の利点は、ある種の臨床的状況または兆候では、冠動脈ステントの潜在的な合併症のために依然として意見のわかれるところである。ステントを拡張する処理の間に、動脈を再閉塞させる癒合反応を誘発する損傷が血管の内皮ライニングに起こると広く考えられている。この現象に対抗することを助けるため、薬物担持ステントが血管の再狭窄または再閉塞の発生を低減するために市場に導入されている。これらの薬物は、典型的に、ステント表面に塗布されるか、または、ステント表面に塗布され、続いて硬化する液体の重合体もしくは共重合体と混合される。埋設されたとき、薬物は、重合体の混合物から時間をかけて溶出し、薬を周囲組織に放出する。この技術に伴うある程度の数の問題が残っている。ステントは病的部位で膨張されるので、重合体材料は、裂け、時には、ステント表面から剥離する傾向がある。これらの重合体薄片は、心臓血管系の中を移動し、重大な損傷を引き起こす可能性がある。重合体自体が身体に中毒反応を引き起こすことを示唆する証拠がある。付加的に、所要量の薬を運ぶために必要とされるコーティングの厚さのため、ステントは、やや硬くなり、拡張を難しくする可能性がある。さらに、薬を適切に収容するため必要とされる重合体の容積に起因して、装填することができる薬の総量は不必要に低減されることがある。
【0007】
その他の従来技術のステントでは、ステント自体のむきだしの線または金属メッシュは、高圧装填法、噴霧法、および、浸漬法のようなプロセスを通じて、1つ以上の薬物で被覆されている。しかし、装填法、噴霧法、および、浸漬法は、周囲組織に送達された薬物の最適な時間的放出投与量を生じるとは限らない。薬物または薬物/重合体コーティングは、前述の薬物収容層、ならびに、無薬物被包層のような数層を含むことが可能であり、機器が最初に埋設されたときに液体への初期露出によって引き起こされる初期薬物放出量を削減することために役立つ可能性がある。
【0008】
薬物またはその他の治療物質を埋設可能な医療機器に装着し、外科的埋設後に薬物/物質の放出速度を制御するため、種々の方法が利用されている。一例は、埋設可能な医療機器の表面に穴を設けることを含む。これらの穴は、所望の薬物もしくは物質、または、これらの組み合わせで充填される。シャンレーらによって登録された特許文献1は、冠動脈ステントにおける薬物が装填される穴の使用を開示する。重合体または共重合体の障壁層が、装着された薬物/物質の放出速度を制御するため、および/または、装着された薬物への(水または生物学的流体のような)外部流体の拡散の速度を制御するため、穴の下端および/または上端に形成される。薬物/重合体混合物もまた穴を充填する際に利用される。薬物を収容するための穴の使用は、ステントに保持することができる薬物の量を増加し、必要とされる望ましくない重合体または共重合体の量を削減する。しかし、前述の通り、これらの重合体または共重合体は、薬物放出速度の制御に寄与するが、薬物が装填された埋設可能な機器の医療を越える成功を低減する望ましくない特徴を有することがあり、そして、これらの特徴は完全に除去できることが望ましい。
【0009】
ガスクラスタイオンビームは、ステントのような埋設可能な医療機器およびその他の埋設可能な医療機器の表面を平滑化、または、そうでなければ、改質するために利用されている。たとえば、カークパトリックらによって登録された特許文献2は、血管ステントのような管状または円筒状の加工品を処理するために適したホルダ(保持具)およびマニピュレータを有するGCIB(ガスクラスタイオンビーム)処理システムを教示する。別の例では、カークパトリックらによって登録された特許文献3は、たとえば、股関節人工器官を含むその他の非平面型医療機器を処理する加工品ホルダおよびマニピュレータを有するGCIB処理システムを教示する。さらに別の例では、ブリンらによって登録された特許文献4は、ステント上の薬物コーティングの粘着を改善し、コーティングからの薬物の溶出または放出速度を変更するためにGCIP処理の使用を教示する。
【0010】
体内の薬物送達のこの新しいアプローチを考慮すると、穴の使用によってより多い量の薬物装填容量が設けられると共に、薬物を結合するため、および/または、埋設可能な機器からの薬物の放出速度もしくは溶出速度を制御するだけでなく、薬物送達媒体のその他の表面特徴を制御するためには、重合体材料を利用する必要性を低減または除去することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第7,208,011号明細書
【特許文献2】米国特許第6,676,989(C1)号明細書
【特許文献3】米国特許第6,491,800(B2)号明細書
【特許文献4】米国特許第7,105,199(B2)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、実質的な量の薬物を医療機器に塗布し、イオンビーム技術、好ましくは、ガスクラスタイオンビーム技術を使用することにより重合体の組み込みを必要とすることなく、溶出または放出速度を制御する手段を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、薬物保持のための穴を設け、表面からの(複数の)薬物の時限放出を容易化するように、イオンビーム、好ましくは、ガスクラスタイオンビームを用いて薬物の表面を処理することにより医療機器の表面を薬物送達システムに変換することである。
【0014】
本発明のさらに別の目的は、薬物保持のための穴を設け、保持された薬物への外部(水または生物学的)流体の拡散を抑制するように、イオンビーム、好ましくは、ガスクラスタイオンビームを用いて薬物の表面を処理することにより医療機器の表面を薬物送達システムに変換することである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、薬物送達の空間的および時間的な制御を用いて実質的な量の薬物を送達する薬物送達システムである医療機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(発明の概要)本発明の前述の目的、ならびに、さらなる他の目的および利点は、以下に記載された発明によって実現される。
【0017】
本発明は、薬物を収容するため医療機器の穴を使用することと、薬物を穴の内部に収容するため薬物を穴の中へ導入することと、薬物または物質が放出または溶出される速度を制御するように、および/または、外部流体が表面層を通って下にある薬物まで達する速度を制御するように、収容された薬物の表面層を改質するため収容された薬物の表面を改質するために、イオンビーム処理、好ましくは、GCIB処理を使用し、それによって、重合体、共重合体、または、何らかの他の接着剤の必要性を除去し、医療機器表面を薬物送達システムに変換することと、を対象とする。本発明は、身体の至る所で剥離された重合体材料の輸送によって引き起こされる毒性および損傷の問題を防止する。薬物が装填される穴を収容し、薬物放出もしくは溶出速度を制御するために別々に塗布された重合体障壁層材料または薬物重合体(もしくは共重合体)混合物を利用する前述の従来技術のステントとは違って、本発明は、薬物放出型の埋設可能な医療機器の準備において重合体もしくは共重合体バインダまたは障壁層の使用を完全に回避する能力を提供する。
【0018】
高電圧の電界を通して加速された、エネルギー的に従来型のイオン、帯電した原子、または、荷電した分子のビームは、半導体機器接合を形成し、スパッタリングによって表面を平滑化し、そして、薄膜の特性を増強するため広く利用される。従来型のイオンとは異なって、ガスクラスタイオンは、高い総エネルギーをもつために、共通電荷を共有し、(約3kVから70kV以上の程度の)高電圧の中で一体的に加速された(標準温度および圧力の条件下で気体状であり、一般に、たとえば、アルゴンのような不活性ガスである)材料の(平均値が二、三千である何百ないし何千の典型的な分布を有する)多数の弱結合原子または分子のクラスターから形成される。緩く結合されているので、ガスクラスタイオンは、表面との衝突時に崩壊し、クラスターの総エネルギーは構成原子の間で共有される。このエネルギー共有のため、原子は、個別には、従来型のイオン、または、一体的にクラスター化されていないイオンの場合より遙かに低エネルギーであり、その結果として、原子は非常に浅い深さしか達しない。
【0019】
励起されたガスクラスタイオン内の個別の原子のエネルギーは非常に小さく、典型的には数eVないし数十eVであるので、原子は、衝突中にターゲット表面の多くても僅かな数の原子層にしか侵入しない。衝突する原子のこの浅い侵入(典型的に、ビーム加速に依存して数ナノメートルないし約10ナノメートル)は、クラスタイオン全体によって運ばれるエネルギーのすべてが、その結果として、マイクロ秒未満の期間中に上端表面層の非常に小さい体積内に分散することを意味する。これは、材料への侵入が時には数百ナノメートルであり、材料の表面より下の深い場所に変化を生じさせる従来型のイオンビームを使用する場合とは異なる。ガスクラスタイオンの高い総エネルギーと、非常に小さい相互作用体積とのため、衝突部位での堆積エネルギー密度は、従来型イオンによる衝撃の場合より遙かに高い。この理由のため、GCIBは、約10ナノメートル未満の非常に浅い表面層に重大な変化を生じさせるため、薬物のような有機材料の表面と相互作用する能力がある。このような変化は、分子の架橋結合、表面層の緻密化(密度を高めること)、表面層内の有機材料の炭化、重合と、その他の形式の変性とを含むことがある。
【0020】
GCIBは、たとえば、参照により本明細書中に内容全体が組み込まれている、カークパトリックらによる米国特許出願公開第2009/0074834(A1)号において教示されるような従来の技術にしたがって加工品を照射する目的のため、発生され運搬される。
【0021】
本明細書中で使用されているように、用語「薬物」は、一般に有益な形で活性的であり、(たとえば、これに限定されることはないが、潤滑化することにより)機器の埋設を実現しやすくするため、または、(たとえば、これに限定されることはないが、生物学的または生化学的活性によって)機器の埋設の好ましい医療的または生理的結果を実現しやすくするため、埋設可能な医療機器の近くで局所的に放出または溶出させることができる治療物質または材料を指すことが意図されている。「薬物」は、薬物と、薬物への結合または密着をもたらす目的、薬物を医療機器に装着する目的、または、薬物の放出もしくは溶出を制御するために障壁層を形成する目的のため利用される重合体との混合物を指すことが意図されていない。薬物の分子の密度を高めるため、また炭化もしくは部分的に炭化させるため、部分的に変性させるため、架橋結合もしくは部分的に架橋結合させるため、または、少なくとも部分的に重合させるために、イオンビーム照射によって改質された薬物は、「薬物」の定義に含まれることが意図されている。
【0022】
本明細書中で使用されているように、用語「重合体」は、共重合体を含み、著しく重合させられ、単量体形式もしくは重合体形式のどちらでも一般に有利な形で生物学的に不活性である材料を指すことが意図されている。典型的な重合体は、これに限定されることなく、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体、ポリ乳酸・カプロラクトン共重合体、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリオルトエステル、多糖類、多糖類派生物、ポリヒアルロン酸、ポリアルギン酸、キチン、キトサン、種々のセルロース、ポリペプチド、ポリリシン、ポリグルタミン酸、ポリ無水物、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリヒドロキシ酪酸、および、ポリリン酸エステルを含むことがある。用語「重合体」は、薬物の分子を緻密化(密度を高める)するため、炭化もしくは部分的に炭化するため、部分的に変性するため、架橋結合もしくは部分的に架橋結合するため、または、少なくとも部分的に重合させるために、イオンビーム照射によって改質された薬物を含むことが意図されていない。
【0023】
本明細書中で使用されているように、用語「穴」は、埋設可能な医療機器の表面に侵入し、機器の一部分を貫通することがあり(貫通穴)、もしくは、機器を部分的に通ることがあり(止まり穴または空洞)、そして、実質的に円筒状、長方形状、もしくは、任意のその他の形状をしていることがある穴、空洞、窪み(クレータ)、凹部(トラフ)、溝(トレンチ)、または、凹みを指すことが意図されている。
【0024】
医療機器への(複数の)薬物の塗布は、いくつかの方法によって実現されることがある。たとえば、金属、金属合金、セラミック、または、その他の非重合体材料で構成されている医療機器の表面は、最初に、医療機器の表面に1つ以上の穴を形成するため処理される。望ましい(複数の)薬物が次に穴に堆積される。薬物堆積(穴装填)法は、噴霧法、浸漬法、静電蒸着法、超音波噴霧法、蒸着法、または、離散液滴オンデマンド流体噴射技術を含む多数の方法のうちのいずれでもよい。噴霧法、浸漬法、静電蒸着法、超音波噴霧法、蒸着法、または、類似した技術が利用されるとき、従来のマスキングの仕組みが選択された場所への堆積を制限するため利用されることがある。離散液滴オンデマンド流体噴射法は、正確な量の液体薬物または溶液中薬物を正確にプログラム可能な場所に導入する能力を提供するので好ましい方法である。離散液滴オンデマンド流体噴射法は、(たとえば、これに限定されることなく)テキサス州プラノ所在のマイクロファブ テクノロジーズ社から入手できるような市販されている流体噴射プリントヘッド式噴射機器を使用して実現されることがある。
【0025】
穴に薬物が装填された後、本発明は、保持された薬物の非常に浅い表面層を改質し、表面膜を越える拡散を制限する障壁特性をもつ薄い表面膜を形成する形で薬物の特性を変更するようにこの層内の薬物を変えるため、イオンビーム照射、好ましくは、GCIB照射を使用する。これは、穴に保持された薬物への水または他の生物学的流体の拡散速度を制御し、穴からの薬物の溶出速度を制御する能力をもたらす。障壁特性を有する表面膜になる薬物の表面部分の改質は、薬物の性質およびイオンビーム(好ましくは、GCIB)処理の性質に依存して、いくつかの改質結果のうちのいずれかにより構成されることがある。考えられる結果は、薬物分子の架橋結合または重合、分子から揮発的な原子を追い出すことによる薬物材料の炭化、薬物の密度をたかめることと、溶解性、浸食性の低減、および/または、空隙率または拡散速度の低下をもたらす他の形式の変性とを含む。
【0026】
前述されているようなGCIB表面改質による薬物の塗布は、合併症を軽減し、純粋な費用節約および患者の生活の質の改善をもたらし、従来の血栓症および再狭窄の問題を解決する。本発明の薬物送達システムにおいて送達される好ましい治療剤は、抗凝固剤、抗生物質、免疫抑制剤、血管拡張剤、抗プロリフィック剤、抗血栓物質、抗血小板物質、コレステロール低下剤、抗腫瘍薬剤と、これらの組み合わせとを含む。
【0027】
本発明のより良い理解のため、本発明の他の目的およびさらなる目的と共に、添付図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】発明の実施形態で利用されるような貫通穴付きの冠動脈ステントの図である。
【図1B】最も手前の表面より後ろ側の細部を省くことにより明瞭にするため簡略化された冠動脈ステントの第二の図である。
【図2】発明の実施形態で利用されるような止まり穴付きの冠動脈ステントの図である。
【図3A】重合体を利用することによる従来技術の穴の装填を示す従来技術のステントにおける従来技術の穴の図である。
【図3B】重合体を利用することによる従来技術の穴の装填を示す従来技術のステントにおける従来技術の穴の図である。
【図3C】重合体を利用することによる従来技術の穴の装填を示す従来技術のステントにおける従来技術の穴の図である。
【図4A】発明の実施形態によるステントにおける薬物が装填される貫通穴の形成のステップを示す図である。
【図4B】発明の実施形態によるステントにおける薬物が装填される貫通穴の形成のステップを示す図である。
【図4C】発明の実施形態によるステントにおける薬物が装填される貫通穴の形成のステップを示す図である。
【図4D】発明の実施形態によるステントにおける薬物が装填される貫通穴の形成のステップを示す図である。
【図5A】発明の実施形態によるステントにおける薬物が装填される止まり穴の形成のステップを示す図である。
【図5B】発明の実施形態によるステントにおける薬物が装填される止まり穴の形成のステップを示す図である。
【図5C】発明の実施形態によるステントにおける薬物が装填される止まり穴の形成のステップを示す図である。
【図6A】発明の実施形態による穴エッジのGCIB処理の任意ステップを示す図である。
【図6B】発明の実施形態による穴エッジのGCIB処理の任意ステップを示す図である。
【図7】薬物投与を制御するため本発明の範囲内で利用できる種々の方法を示す埋設可能な医療機器の表面の一部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、発明の実施形態で利用されるような貫通穴付きの拡張可能な冠動脈ステント100の斜視図である図1Aを参照する。本発明は、多種多様の埋設可能な医療機器に適用できることが発明者によって理解されているが、説明の目的のため、ステント100が一実施例として示されている。ステント100は、拡張された状態、または、部分的に拡張された状態で図示された拡張可能な金属冠動脈ステントである。拡張可能なステントは、各構造が種々の利点および不利点を有する多くの構造で製造される。図1Aに示された構造は、限定のためではなく、本発明の説明を簡単にするために示された単純な菱形形状メッシュである。ステント100は、支柱(たとえば、110)と、支柱110を連結する交差(たとえば、112)とを有する。ステント100は、ステントのルーメンを形成する内面(たとえば、108Aおよび108Bとして表示されている)と、血管スキャフォールドを形成する外面(106として表示されている)とを有する。穴(たとえば、102)は支柱に位置することがある。他の穴(たとえば、104)は交差に位置することがある。穴102および104は、外面106から内面108Aおよび108Bに達する貫通穴である。支柱110および交差112は、ステントが拡張されるとき、様々な構造をもつステントが違った影響を受けることがある異なる領域を有することがあるという共通の事実を例示することに注意を要する。たとえば、ステント100では、ここで示されるように、交差112の近くに位置しているある一定の穴102は、拡張中に、交差内の穴104および交差112から遠くに位置している他の穴102の場合より大きい歪みを受けることがある。他の構造をもつステントが、拡張中により大きいか、または、小さい程度の歪みを受ける場所を有することは当業者に明白である。図1Aでは、穴102、104は、支柱110および交差112の寸法と比べてかなり大きい径を有するように図示されている。これらの相対的なサイズは、概念の説明図を簡単にするため選択され、発明を限定することは意図されていない。図示された寸法より小さい相対的な寸法をもつ穴がステントの拡張中に図示されたようなより大きい穴が受ける歪みより小さい程度の歪みを受けることは当業者に理解される。穴は、種々のサイズおよびパターン(配列)のいずれでもよく、ステントの特徴的形状に対し異なる場所にあり、そして、依然として発明の精神の範囲内に留まることが当業者に認められる。図1Aは、従来技術のステントに類似し、そして、本発明を説明するためにも適しているステントを表す。
【0030】
図1Bは、拡張可能な冠動脈ステント100の第二の図である。このステントは、同一のステントであるが、図は、最も手前の表面より後ろ側の細部を省くことにより明瞭にするため簡略化されている。すなわち、ステント100の手前の部分より後ろ側にある内面の一部分108Bは、図を簡略化し、かつ、明瞭にするため図から省かれ、内面の一部分108Aは図の中に残っている。図1Bは、従来技術のステントに類似し、そして、本発明を説明するためにも適しているステントを表す。本発明によれば、穴102、104は、レーザー加工を含む実際的な方法、または、集束イオンビーム加工によって形成されることがある。
【0031】
図2は、発明の実施形態で利用されるような止まり穴付きの拡張可能な冠動脈ステント200の斜視図である。図は、最も手前の表面より後ろ側の細部を省くことにより明瞭にするため簡略化されている。ステント200は、拡張され、または、部分的に拡張された状態で図示された拡張可能な金属冠動脈ステントである。ステント200は、支柱(たとえば、210)と、支柱210を連結する交差(たとえば、212)とを有する。ステント200は、ステントのルーメンを形成する内面208と、血管スキャフォールドを形成する外面206とを有する。穴(たとえば、202)は支柱に位置することがある。他の穴(たとえば、204)は交差に位置することがある。穴202および204は、外面206から内面208まで達するのではなく、むしろステント壁の厚さを通る進路の一部だけに達する止まり穴である。穴202、204は、支柱210および交差212の寸法と比べてかなり大きい径を有するように図示されている。これらの相対的なサイズは、概念の説明図を簡単にするため選択され、発明を限定することは意図されていない。図示された寸法より小さい相対的な寸法をもつ穴がステントの拡張中に図示されたようなより大きい穴が受ける歪みより小さい程度の歪みを受けることは当業者に理解される。穴は、種々のサイズ、パターン、深さのいずれでもよく、ステントの特徴的形状に対し異なる場所にあり、そして、依然として発明の精神の範囲内に留まることが当業者に認められる。図2は、従来技術のステントに類似し、そして、本発明を説明するためにも適しているステントを表す。本発明によれば、穴202、204は、レーザー加工を含む実際的な方法、または、集束イオンビーム加工によって形成されることがある。
【0032】
図3Aは、重合体を利用することにより穴に薬物を装填する従来技術の方法を説明する従来技術のステント100における従来技術の穴102の断面図300Aを示す。治療層304は、薬物または薬物重合体混合物で構成される。ステント100の内面308に接した障壁層302は、重合体を備え、ステントの内側部分(ルーメン)への治療層304の溶出を防止するか、または、溶出速度を制御する。ステント100の外面106に接した第二の障壁層306は、重合体を備え、ステントの外側部分(血管スキャフォールド)への治療層304の溶出速度を制御する。障壁層302および306は、ステントの外側からステント内の穴によって保持された治療層304への水または他の生物学的流体の拡散を制御または防止する。障壁層302および306は、封止された治療層の放出を遅延させるため重合体を含む生物分解性または浸食性の材料でもよい。治療層304は、薬物でもよく、または、代替的に、治療層304の溶出または放出速度をさらに遅延または制御するために薬物と重合体との混合物でもよい。
【0033】
図3Bは、重合体を利用することにより穴に複数の薬物の層を装填する従来技術の方法を説明する従来技術のステント100における従来技術の穴102の断面図300Bを示す。治療層308、312は、それぞれ薬物または薬物・重合体混合物で構成され、類似した薬物または異なる薬物を含むことがある。ステント100の内面108に接する障壁層302は、重合体を含み、ステントの内側部分(ルーメン)への治療層308の溶出を防止し、または、溶出速度を制御する。ステント100の外面106に接する第二の障壁層314は、重合体を含み、ステントの外側部分(血管スキャフォールド)への治療層312の溶出速度を制御する。第三の障壁層310は、重合体を含み、治療層308と治療層312とを分離し、治療層308および310の溶出を防止し、または、溶出速度を制御することもある。障壁層302、310および314は、ステントの外部からステント内の穴によって保持された治療層308および312への水または他の生物学的流体の拡散をさらに制御または防止することがある。障壁層302、310および314は、封止された治療層308および312の放出を遅延させるため重合体を含む生物分解性または腐食性の材料でもよい。治療層308および312は、それぞれが、薬物であるか、または、代替的に、治療層308および312の溶出または放出速度をさらに遅延または制御するために薬物と重合体との混合物でもよい。
【0034】
図3Cは、重合体を利用することにより穴に薬物を装填する従来技術の方法を説明する従来技術のステント200における従来技術の止まり穴202の断面図300Cを示す。治療層350は、薬物または薬物・重合体混合物で構成される。ステント200の外面206に接する障壁層352は、重合体を含み、ステントの外側部分(血管スキャフォールド)への治療層350の溶出速度を制御する。障壁層352は、ステントの外部からステント内の穴によって保持された治療層350への水または他の生物学的流体の拡散をさらに制御または防止する。障壁層352は、封止された治療層350の放出を遅延させるため重合体を含む生物分解性または腐食性の材料でもよい。治療層350は、薬物でもよく、または、代替的に、治療材料の溶出または放出速度をさらに遅延または制御するために薬物と重合体との混合物でもよい。
【0035】
図4Aは、発明の実施形態によるステント100における薬物が装填される貫通穴の形成のステップを説明するステントの支柱の断面図400Aである。ステント100は貫通穴102を有する。ステントは、ステントのルーメンを形成する内面108を有し、ステントの血管スキャフォールド部分を形成する外面106を有する。発明の実施形態におけるステップとして、障壁層402は、既知技術によってステント100の内面108に堆積される。障壁層402は、重合体、または、他の生体適合性障壁材料で構成されることがある。
【0036】
図4Bは、図4Aに示されたステップに続くステント100における薬物が装填される貫通穴の形成のステップを説明するステントの支柱の断面図400Bである。図4Bに示されたステップでは、薬物410は、ステント100内の穴102に堆積される。薬物410の堆積は、噴霧法、浸漬法、静電蒸着法、超音波噴霧法、蒸着法、または、好ましくは、離散液滴オンデマンド流体噴射技術含む多数の方法のうちのいずれでもよい。噴霧法、浸漬法、静電蒸着法、超音波噴霧法、蒸着法、または、類似した技術が利用されるとき、従来のマスキングの仕組みは、ステント内の穴または穴のうちのいくつか、もしくは、全部への堆積を制限するため有利に利用することができる。離散液滴オンデマンド流体噴射法は、正確な量の液体薬物または溶液中薬物を正確にプログラム可能な場所に導入する能力を提供するので好ましい堆積方法である。離散液滴オンデマンド流体噴射法は、(たとえば、これに限定されることなく)テキサス州プラノ所在のマイクロファブ テクノロジーズ社から入手できるような市販されている流体噴射プリントヘッド式噴射機器を使用して実現することも可能である。薬物410が液体または溶液中薬物であるとき、薬物は、好ましくは、次のステップへ進む前に、乾燥され、または、そうでなければ、硬化する。乾燥または硬化ステップは、実施例として、焼成法、低温焼成法、または、真空蒸着法を含むことがある。
【0037】
図4Cは、図4Bに示されたステップに続くステント100における薬物が装填される貫通穴の形成のステップを説明するステントの支柱の断面図400Cである。図4Cに示されたステップでは、ステント100内の穴102に堆積された薬物410は、薬物410の薄い上側領域の改質によって薄い障壁層412を形成するため、イオンビーム、好ましくは、GCIB408によって照射される。薄い障壁層412は、薬物410の最も薄い上側の層内の薬物の分子の密度を高めるか、炭化もしくは部分的に炭化するか、変性させるか、架橋結合を行うか、または、重合させるかによって改質された薬物410で構成される。この薄い障壁層412は、約10ナノメートル以下程度の厚さを有することがある。表面を改質する際に、好ましくは、アルゴンのクラスタイオンまたは別の不活性ガスのクラスタイオンを含むGCIB408が利用される。GCIB408は、好ましくは、5kVから50kVまで、または、これ以上の加速電位で加速される。コーティング層は、好ましくは、1平方センチメートル当たりに少なくとも約1×1013個のガスクラスタイオンのGCIB照射量に晒される。GCIB408の照射量および/または加速電位を選択することにより、薄い障壁層412の特徴は、ステント100が埋設され、拡張されたとき、放出もしくは溶出速度、および/または、水および/または他の生物学的流体の内向き拡散の速度を制御できるようにするため調整されることがある。一般に、加速電位の増大は、形成される薄い障壁層の厚さを増大させ、GCIB照射量の変更は、結果として生じる架橋結合、緻密化(高密度化)、炭化、変性、および/または、重合の程度を変えることによって、薄い障壁層の性質を変える。これは、薬物が障壁を通って引き続いて放出または溶出する速度、および/または、水および/または生物学的流体が外部から薬物の中へ拡散する速度を制御する手段を提供する。
【0038】
図4Dは、図4Cに示されたステップに続くステント100における薬物が装填される貫通穴を説明するステントの支柱の断面図400Dである。図4では、薬物を堆積させるステップと、薬物の表面内の薄い障壁層を形成するためGCIB照射を使用するステップとは、図4に示された段階の後、(たとえば)2回以上に亘って繰り返された。図4Dは、付加的な薬物層(414および418)と、付加的なGCIB形成された薄い障壁層416および420とを示す。薬物410、414および418は、同じ薬物材料でもよく、または、異なる治療モードをもつ異なる薬物でもよい。薬物層410、414および418の厚さは異なることが示され、すなわち、異なる薬物投与量が個別の層のそれぞれに堆積されることがあることを示す。代替的に、厚さ(および投与量)は、一部の層または全部の層において同じでもよい。薄い障壁層412、416および420のそれぞれの特性は、前述されているようにGCIB特性を制御することにより各障壁層形成照射ステップでGCIB特性を選択することにより、さらに個別に調整されることがある。図4Dは、3層の薬物層が装填された穴を示すが、発明の精神の範囲内で1層から非常に多数の層まですべてを利用するために、穴深さおよび薬物堆積能力の制約の範囲内で完全な自由度がある。GCIB処理によって形成することができる非常に薄い障壁層と、たとえば、離散液滴オンデマンド流体噴射技術によって非常に少量の薬物を堆積する能力とは、何十または何百もの層を可能にすることがある。各薬物層は、異なる薬物材料または類似した薬物材料でもよく、両立できる薬物の混合物でもよく、より大量でもよく、または、より少量でもよく、薬物送達システムの治療効果と、1つ以上の薬物の順序付けおよび溶出速度の調整との柔軟性および制御性を高める。
【0039】
図4Dに示された薬物送達システムは、従来技術のシステムの改良であるが、重合体または他の生体適合性障壁材料で構成される従来型の障壁層402を利用する点に問題がある。ステントの場合、たとえば、拡張されていないステントの内部(ルーメン)表面にGCIB処理によって障壁層を形成することは一般に都合がよくない。よって、従来型の障壁層402が一般に必要とされる。重合体の使用は、障壁層402の形成のため他の生体適合性材料を利用することにより回避されることがあるが、たとえそうでも、その後に材料が剥離し、その位置で材料の望ましくない放出をもたらす危険性がある。図5A、5Bおよび5Cは、従来型の障壁材料を使用する望ましくない必要性を回避する本発明の別の実施形態を示す。
【0040】
図5Aは、発明の実施形態によるステント200における薬物が装填される止まり穴の形成のステップを説明するステントの支柱の断面図500Aである。ステント200は、止まり穴202を有する。ステントは、ステントのルーメンを形成する内面208と、ステントの血管スキャフォールド部を形成する外面206とを有する。発明の実施形態におけるステップとして、薬物502は、ステント200内の穴202に堆積される。図示されないが、場合によっては、GCIB洗浄プロセスは、薬物502を穴202の中に堆積する前に、穴202の表面を洗浄するため利用されることがある。薬物502の堆積は、前述の方法のうちのいずれでもよい。離散液滴オンデマンド流体噴射法は、正確な量の液体薬物または溶液中薬物を正確にプログラムされた場所に導入する能力を提供するので、好ましい堆積方法である。薬物502が液体または溶液中薬物であるとき、薬物は、好ましくは、次のステップへ進む前に、乾燥されるか、そうでなければ、硬化される。乾燥または硬化は、実施例として、焼成、低温焼成、または、真空蒸着を含むことがある。
【0041】
図5Bは、図5Aに示されたステップの後に続くステント200における薬物が装填される止まり穴の形成におけるステップを説明するステントの支柱の断面図500Bを示す。図5Bに示されたステップでは、ステント200内の穴202に堆積された薬物502は、薬物502の薄い上側領域の改質によって薄い障壁層506を形成するため、イオンビーム、好ましくは、GCIB504によって照射される。薄い障壁層506は、薬物502の最も薄い上側の層内の薬物の分子の密度を高めるか、炭化もしくは部分的に炭化させるか、変性させるか、架橋結合させるか、または、重合させることによって改質された薬物502で構成される。この薄い障壁層506は、約10ナノメートル以下程度の厚さを有することがある。表面を改質する際に、好ましくは、アルゴンのクラスタイオンまたは別の不活性ガスのクラスタイオンを含むGCIB504が利用される。GCIB504は、好ましくは、5kVから50kVまで、または、これ以上の加速電位で加速される。コーティング層は、好ましくは、1平方センチメートル当たりに少なくとも約1×1013個のガスクラスタイオンのGCIB照射量に晒される。GCIB504の照射量および/または加速電位を選択することにより、薄い障壁層506の特徴は、ステント200が埋設され、拡張されたとき、溶出速度、および/または、水および/または他の生物学的流体の内向き拡散の速度を制御できるようにするため調整されることがある。一般に、加速電位の増大は、形成される薄い障壁層の厚さを増大させ、GCIB照射量の変更は、結果として生じる架橋結合、緻密化、炭化、変性、および/または、重合の程度を変えることにより、薄い障壁層の性質を変える。これは、薬物が障壁を通って引き続いて放出または溶出する速度、および/または、水および/または生物学的流体が外部から薬物の中へ拡散する速度を制御する手段を提供する。
【0042】
図5Cは、発明の実施形態による複数の薬物層を有するステント200内の薬物が装填される止まり穴の断面図500Cを示す図である。図5Aおよび図5Bに関して前述されたような薬物を堆積させるステップと、薬物の表面内に薄い障壁層を形成するためイオンビーム照射を使用するステップとは、(たとえば)連続して3回適用され、3つの薬物510、514および518が装填された止まり穴202を形成し、各薬物は、イオンビーム、好ましくは、GCIB照射によって形成された薄い障壁層512、516および520を有する。薬物510、514および518は、同じ薬物材料でもよく、または、異なる治療モードをもつ異なる薬物でもよい。薬物層510、514および518の厚さは異なることが示され、すなわち、異なる薬物投与量が個別の層のそれぞれに堆積されることがあることを示す。代替的に、厚さ(および投与量)は、一部の層または全部の層において同じでもよい。薄い障壁層512、516および520のそれぞれの特性は、前述されているようにGCIB特性を制御することにより各障壁層形成照射ステップでイオンビーム特性を制御することにより、さらに個別に調整されることがある。3層の薬物層が示されるが、発明の精神の範囲内で1層から非常に多数の層まですべてを利用するために、穴深さおよび薬物堆積能力の制約の範囲内で完全な自由度がある。
【0043】
図6Aは、穴202がレーザー加工により形成され、加工プロセスから結果として生じる鋭いまたは(図示された)バリ状のエッジ602を有する埋設可能な医療機器(たとえば、ステント200)内の止まり穴の一部分の断面図600Aを示す。殆どの場合、このようなエッジまたはバリは埋設可能な医療機器において望ましくない。GCIB処理は、(前述されているように)穴に薬物を装填し、薄い障壁層を形成する前に、このようなバリまたは鋭いエッジを取り除くため有利に利用することができる。
【0044】
図6Bは、滑らかなエッジ606を形成するGCIB処理によって鋭いまたはバリ状のエッジ602を取り除くため、GCIB604を用いる照射によって処理されたステント200内の穴202の断面図600Bを示す。好ましくは、アルゴンもしくは窒素のクラスタイオンまたは別の不活性ガスのクラスタイオンまたは酸素クラスタイオンを含むGCIB604が利用される。GCIB604は、好ましくは、5kVから50kVまで、または、これ以上の加速電位で加速される。コーティング層は、好ましくは、1平方センチメートル当たりに約1×1015ないし約1×1017個のガスクラスタイオンのGCIB照射量に晒される。GCIB504の照射量および/または加速電位を選択することにより、GCIB604のエッチング特徴は、平滑化されたエッジ606を形成する際に実行されるエッチングおよび平滑化の量を制御するため調整される。一般に、加速電位および/またはGCIB照射量の増大は、エッチング速度を増大させる。
【0045】
図7は、発明の多様性および柔軟性を示す種々の薬物が装填される穴706、708、710、712および714を有する非重合体型の埋設可能な医療機器の一部分702の表面704の断面図700である。埋設可能な医療機器は、たとえば、血管ステント、人工関節補装具、心臓ペースメーカ、または、他の埋設可能な非重合体医療機器を含み、必ずしも血管または冠動脈ステントのような薄壁型機器でなくてもよい。穴はすべてが、穴毎に1層以上の薬物の層の上に発明によって形成された薄い障壁層740を有する。簡単にするため、図7における薄い障壁層の必ずしもすべてに符号が付けられていないが、薄い障壁層740で覆われた第一の薬物736を収容する穴714が示される(穴714の中の薄い障壁層740だけに符号が付けられているが、図7におけるクロスハッチングされた領域は薄い障壁層を示し、以下では、すべてが典型的な符号740によって参照される)。穴706は、薄い障壁層740で覆われた第二の薬物716を収容する。穴708は、薄い障壁層740で覆われた第三の薬物720を収容する。穴710は、薄い障壁層740で覆われた第四の薬物738を収容する。穴712は、それぞれが薄い障壁層740で覆われた第五、第六および第七の薬物728、726および724を収容する。薬物716、720、724、726、728、736および738の1つずつは、異なる薬物材料であるように選択されることがあり、または、異なる薬物材料もしくは同じ薬物材料が種々に組み合わされた同じ薬物材料でもよい。薄い障壁層740の1つずつは、前述されたイオンビーム(好ましくは、GCIB)処理の原理に応じて、溶出または放出速度を制御するため、および/または、水もしくは他の生物学的流体の内向き拡散の速度を制御するため同じ特性または異なる特性を有することがある。穴706および708は、同じ幅および充填深さ718を有するので、同じ量の薬物を保持するが、薬物716および720は、異なる治療モードのための異なる薬物でもよい。穴706および708にそれぞれ対応する薄い障壁層740は、穴706および708に収容された薬物に同じまたは異なる溶出、放出、または、内向き拡散速度を与えるため、同じまたは異なる特性のいずれを有してもよい。穴708および710は、同じ幅を有するが、異なる充満深さ718および722をそれぞれ有するので、異なる投与量に対応する異なる薬物が装填される量を収容する。穴708および710にそれぞれ対応する薄い障壁層740は、穴708および710に収容されている薬物に同じまたは異なる溶出、放出、または、内向き拡散速度を与えるため、同じ特性または異なる特性のいずれかを有することがある。710および712は、同じ幅730を有し、同じ充填深さ722を有するので、薬物の同じ総装填量を収容するが、穴710は単一層の薬物738で充填され、穴712は、それぞれが同じまたは異なる投与量を表す同量または異なる量の薬物でもよく、そして、それぞれが異なる治療モードのための異なる薬物材料でもよい複数層の薬物724、726および728で充填される。穴710および712のための薄い障壁層740の1つずつは、穴に収容されている薬物に同じまたは異なる溶出、放出、もしくは、内向き拡散速度を与えるため、同じまたは異なる特性を有することがある。穴708および714は、同じ充填深さ718を有するが、異なる幅を有するので、異なる量および投与量の薬物720および736を収容する。穴708および714にそれぞれ対応する薄い障壁層740は、穴708および714に収容されている薬物に同じまたは異なる溶出、放出、または、内向き拡散速度を与えるため、同じ特性または異なる特性のいずれかを有することがある。埋設可能な医療機器の表面704の全体的な穴のパターンと、穴732の間の間隔とは、埋設可能な医療機器の表面全体に亘る薬物投与量の空間分布を制御するため、付加的に選択されることがある。このように、発明の薬物送達システムによって送達される薬物のタイプ、投与量、投与量空間分布、時間的放出順序、放出速度、放出速度の時間的な分布(放出速度の時間的なプロファイル)を制御するため、発明の適用には多くの柔軟な選択肢が存在する。
【0046】
発明は、種々の実施形態に関して説明されているが、本発明は、発明と請求項との精神および範囲に含まれる多種多様のさらなる実施形態および他の実施形態が同様に可能であることが理解されるべきである。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)本願は、2008年8月7日付けで出願され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている米国仮特許出願第61/086,981号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、たとえば、哺乳類に埋設(移植、留置)可能である医療機器(例えば、冠動脈および/または血管ステント、埋設可能な人工器官)のような薬物送達システムに関し、より具体的には、薬物を医療機器の表面に塗布し、そして、長時間に亘って表面からの効果的な薬物の放出を促進する形で、イオンビーム技術、好ましくは、ガスクラスタイオンビーム(GCIB)技術を使用して、たとえば、薬物放出速度および生物反応性のような、薬物送達システムの表面特徴を制御する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
たとえば、医療人工器官や外科的埋設のような、(ヒトを含む)哺乳類の身体もしくは身体組織に埋設または直接的に接触することを目的とする医療機器は、その用途のために適しており、適切に生体適合性をもつような種々の金属、金属合金、プラスチック、重合体(ポリマー)もしくは共重合体材料、固形樹脂材料、ガラス状材料、および、その他の材料といった多様な材料から製造されることがある。たとえば、ある種のステンレス鋼合金、コバルト・クロム合金、チタンおよびチタン合金、鉄およびマグネシウムのような生物分解性金属、ポリエチレンと、その他の不活性プラスチックとが使用されている。このような機器は、たとえば、限定されることなく、血管ステント、人工関節補装具(およびこれらの構成要素)、冠動脈ペースメーカなどを含む。埋設可能な医療機器は、薬物またはその他の生物学的活性に役立つ物質をこの医療機器が埋設されている組織または器官へ送達するため頻繁に使用される。
【0004】
冠動脈または血管ステントは、薬物またはその他の役立つ物質の局所送達のため使用されている埋設可能な医療機器のほんの一例である。ステントは、血管に挿入され、所望の場所に位置決めされ、バルーンまたはその他の機械的拡張機器によって拡張されることがある。残念ながら、この処置に対する身体反応は、多くの場合に、血栓症または血液凝固と、処置部位における瘢痕組織またはその他の外傷誘発性組織反応の形成とを含む。統計データは、ステント埋設後の瘢痕組織による動脈の再狭窄または再狭小化がこれらの処置後わずか6ヶ月以内に処置された患者のかなりの割合に発生し、多くの患者において重度の合併症を引き起こすことを示す。
【0005】
ステントに伴う冠動脈再狭窄合併症は、単独または組み合わせて作用する多数の要因によって引き起こされると考えられる。これらの合併症は、ステント埋設の部位に局所的に導入された数種類の薬物によって軽減することができる。カテーテル法、再ステント、集中治療などのような再狭窄の合併症の処置にはかなりの金銭的コストが伴うので、再狭窄率の低下は、金銭を節約し、患者の苦痛を軽減することになる。
【0006】
現在よく知られている冠動脈ステントまたは血管ステントの設計は多数存在している。冠動脈ステントの使用は増大しているが、冠動脈ステント使用の利点は、ある種の臨床的状況または兆候では、冠動脈ステントの潜在的な合併症のために依然として意見のわかれるところである。ステントを拡張する処理の間に、動脈を再閉塞させる癒合反応を誘発する損傷が血管の内皮ライニングに起こると広く考えられている。この現象に対抗することを助けるため、薬物担持ステントが血管の再狭窄または再閉塞の発生を低減するために市場に導入されている。これらの薬物は、典型的に、ステント表面に塗布されるか、または、ステント表面に塗布され、続いて硬化する液体の重合体もしくは共重合体と混合される。埋設されたとき、薬物は、重合体の混合物から時間をかけて溶出し、薬を周囲組織に放出する。この技術に伴うある程度の数の問題が残っている。ステントは病的部位で膨張されるので、重合体材料は、裂け、時には、ステント表面から剥離する傾向がある。これらの重合体薄片は、心臓血管系の中を移動し、重大な損傷を引き起こす可能性がある。重合体自体が身体に中毒反応を引き起こすことを示唆する証拠がある。付加的に、所要量の薬を運ぶために必要とされるコーティングの厚さのため、ステントは、やや硬くなり、拡張を難しくする可能性がある。さらに、薬を適切に収容するため必要とされる重合体の容積に起因して、装填することができる薬の総量は不必要に低減されることがある。
【0007】
その他の従来技術のステントでは、ステント自体のむきだしの線または金属メッシュは、高圧装填法、噴霧法、および、浸漬法のようなプロセスを通じて、1つ以上の薬物で被覆されている。しかし、装填法、噴霧法、および、浸漬法は、周囲組織に送達された薬物の最適な時間的放出投与量を生じるとは限らない。薬物または薬物/重合体コーティングは、前述の薬物収容層、ならびに、無薬物被包層のような数層を含むことが可能であり、機器が最初に埋設されたときに液体への初期露出によって引き起こされる初期薬物放出量を削減することために役立つ可能性がある。
【0008】
薬物またはその他の治療物質を埋設可能な医療機器に装着し、外科的埋設後に薬物/物質の放出速度を制御するため、種々の方法が利用されている。一例は、埋設可能な医療機器の表面に穴を設けることを含む。これらの穴は、所望の薬物もしくは物質、または、これらの組み合わせで充填される。シャンレーらによって登録された特許文献1は、冠動脈ステントにおける薬物が装填される穴の使用を開示する。重合体または共重合体の障壁層が、装着された薬物/物質の放出速度を制御するため、および/または、装着された薬物への(水または生物学的流体のような)外部流体の拡散の速度を制御するため、穴の下端および/または上端に形成される。薬物/重合体混合物もまた穴を充填する際に利用される。薬物を収容するための穴の使用は、ステントに保持することができる薬物の量を増加し、必要とされる望ましくない重合体または共重合体の量を削減する。しかし、前述の通り、これらの重合体または共重合体は、薬物放出速度の制御に寄与するが、薬物が装填された埋設可能な機器の医療を越える成功を低減する望ましくない特徴を有することがあり、そして、これらの特徴は完全に除去できることが望ましい。
【0009】
ガスクラスタイオンビームは、ステントのような埋設可能な医療機器およびその他の埋設可能な医療機器の表面を平滑化、または、そうでなければ、改質するために利用されている。たとえば、カークパトリックらによって登録された特許文献2は、血管ステントのような管状または円筒状の加工品を処理するために適したホルダ(保持具)およびマニピュレータを有するGCIB(ガスクラスタイオンビーム)処理システムを教示する。別の例では、カークパトリックらによって登録された特許文献3は、たとえば、股関節人工器官を含むその他の非平面型医療機器を処理する加工品ホルダおよびマニピュレータを有するGCIB処理システムを教示する。さらに別の例では、ブリンらによって登録された特許文献4は、ステント上の薬物コーティングの粘着を改善し、コーティングからの薬物の溶出または放出速度を変更するためにGCIP処理の使用を教示する。
【0010】
体内の薬物送達のこの新しいアプローチを考慮すると、穴の使用によってより多い量の薬物装填容量が設けられると共に、薬物を結合するため、および/または、埋設可能な機器からの薬物の放出速度もしくは溶出速度を制御するだけでなく、薬物送達媒体のその他の表面特徴を制御するためには、重合体材料を利用する必要性を低減または除去することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第7,208,011号明細書
【特許文献2】米国特許第6,676,989(C1)号明細書
【特許文献3】米国特許第6,491,800(B2)号明細書
【特許文献4】米国特許第7,105,199(B2)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、実質的な量の薬物を医療機器に塗布し、イオンビーム技術、好ましくは、ガスクラスタイオンビーム技術を使用することにより重合体の組み込みを必要とすることなく、溶出または放出速度を制御する手段を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、薬物保持のための穴を設け、表面からの(複数の)薬物の時限放出を容易化するように、イオンビーム、好ましくは、ガスクラスタイオンビームを用いて薬物の表面を処理することにより医療機器の表面を薬物送達システムに変換することである。
【0014】
本発明のさらに別の目的は、薬物保持のための穴を設け、保持された薬物への外部(水または生物学的)流体の拡散を抑制するように、イオンビーム、好ましくは、ガスクラスタイオンビームを用いて薬物の表面を処理することにより医療機器の表面を薬物送達システムに変換することである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、薬物送達の空間的および時間的な制御を用いて実質的な量の薬物を送達する薬物送達システムである医療機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(発明の概要)本発明の前述の目的、ならびに、さらなる他の目的および利点は、以下に記載された発明によって実現される。
【0017】
本発明は、薬物を収容するため医療機器の穴を使用することと、薬物を穴の内部に収容するため薬物を穴の中へ導入することと、薬物または物質が放出または溶出される速度を制御するように、および/または、外部流体が表面層を通って下にある薬物まで達する速度を制御するように、収容された薬物の表面層を改質するため収容された薬物の表面を改質するために、イオンビーム処理、好ましくは、GCIB処理を使用し、それによって、重合体、共重合体、または、何らかの他の接着剤の必要性を除去し、医療機器表面を薬物送達システムに変換することと、を対象とする。本発明は、身体の至る所で剥離された重合体材料の輸送によって引き起こされる毒性および損傷の問題を防止する。薬物が装填される穴を収容し、薬物放出もしくは溶出速度を制御するために別々に塗布された重合体障壁層材料または薬物重合体(もしくは共重合体)混合物を利用する前述の従来技術のステントとは違って、本発明は、薬物放出型の埋設可能な医療機器の準備において重合体もしくは共重合体バインダまたは障壁層の使用を完全に回避する能力を提供する。
【0018】
高電圧の電界を通して加速された、エネルギー的に従来型のイオン、帯電した原子、または、荷電した分子のビームは、半導体機器接合を形成し、スパッタリングによって表面を平滑化し、そして、薄膜の特性を増強するため広く利用される。従来型のイオンとは異なって、ガスクラスタイオンは、高い総エネルギーをもつために、共通電荷を共有し、(約3kVから70kV以上の程度の)高電圧の中で一体的に加速された(標準温度および圧力の条件下で気体状であり、一般に、たとえば、アルゴンのような不活性ガスである)材料の(平均値が二、三千である何百ないし何千の典型的な分布を有する)多数の弱結合原子または分子のクラスターから形成される。緩く結合されているので、ガスクラスタイオンは、表面との衝突時に崩壊し、クラスターの総エネルギーは構成原子の間で共有される。このエネルギー共有のため、原子は、個別には、従来型のイオン、または、一体的にクラスター化されていないイオンの場合より遙かに低エネルギーであり、その結果として、原子は非常に浅い深さしか達しない。
【0019】
励起されたガスクラスタイオン内の個別の原子のエネルギーは非常に小さく、典型的には数eVないし数十eVであるので、原子は、衝突中にターゲット表面の多くても僅かな数の原子層にしか侵入しない。衝突する原子のこの浅い侵入(典型的に、ビーム加速に依存して数ナノメートルないし約10ナノメートル)は、クラスタイオン全体によって運ばれるエネルギーのすべてが、その結果として、マイクロ秒未満の期間中に上端表面層の非常に小さい体積内に分散することを意味する。これは、材料への侵入が時には数百ナノメートルであり、材料の表面より下の深い場所に変化を生じさせる従来型のイオンビームを使用する場合とは異なる。ガスクラスタイオンの高い総エネルギーと、非常に小さい相互作用体積とのため、衝突部位での堆積エネルギー密度は、従来型イオンによる衝撃の場合より遙かに高い。この理由のため、GCIBは、約10ナノメートル未満の非常に浅い表面層に重大な変化を生じさせるため、薬物のような有機材料の表面と相互作用する能力がある。このような変化は、分子の架橋結合、表面層の緻密化(密度を高めること)、表面層内の有機材料の炭化、重合と、その他の形式の変性とを含むことがある。
【0020】
GCIBは、たとえば、参照により本明細書中に内容全体が組み込まれている、カークパトリックらによる米国特許出願公開第2009/0074834(A1)号において教示されるような従来の技術にしたがって加工品を照射する目的のため、発生され運搬される。
【0021】
本明細書中で使用されているように、用語「薬物」は、一般に有益な形で活性的であり、(たとえば、これに限定されることはないが、潤滑化することにより)機器の埋設を実現しやすくするため、または、(たとえば、これに限定されることはないが、生物学的または生化学的活性によって)機器の埋設の好ましい医療的または生理的結果を実現しやすくするため、埋設可能な医療機器の近くで局所的に放出または溶出させることができる治療物質または材料を指すことが意図されている。「薬物」は、薬物と、薬物への結合または密着をもたらす目的、薬物を医療機器に装着する目的、または、薬物の放出もしくは溶出を制御するために障壁層を形成する目的のため利用される重合体との混合物を指すことが意図されていない。薬物の分子の密度を高めるため、また炭化もしくは部分的に炭化させるため、部分的に変性させるため、架橋結合もしくは部分的に架橋結合させるため、または、少なくとも部分的に重合させるために、イオンビーム照射によって改質された薬物は、「薬物」の定義に含まれることが意図されている。
【0022】
本明細書中で使用されているように、用語「重合体」は、共重合体を含み、著しく重合させられ、単量体形式もしくは重合体形式のどちらでも一般に有利な形で生物学的に不活性である材料を指すことが意図されている。典型的な重合体は、これに限定されることなく、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体、ポリ乳酸・カプロラクトン共重合体、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリオルトエステル、多糖類、多糖類派生物、ポリヒアルロン酸、ポリアルギン酸、キチン、キトサン、種々のセルロース、ポリペプチド、ポリリシン、ポリグルタミン酸、ポリ無水物、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリヒドロキシ酪酸、および、ポリリン酸エステルを含むことがある。用語「重合体」は、薬物の分子を緻密化(密度を高める)するため、炭化もしくは部分的に炭化するため、部分的に変性するため、架橋結合もしくは部分的に架橋結合するため、または、少なくとも部分的に重合させるために、イオンビーム照射によって改質された薬物を含むことが意図されていない。
【0023】
本明細書中で使用されているように、用語「穴」は、埋設可能な医療機器の表面に侵入し、機器の一部分を貫通することがあり(貫通穴)、もしくは、機器を部分的に通ることがあり(止まり穴または空洞)、そして、実質的に円筒状、長方形状、もしくは、任意のその他の形状をしていることがある穴、空洞、窪み(クレータ)、凹部(トラフ)、溝(トレンチ)、または、凹みを指すことが意図されている。
【0024】
医療機器への(複数の)薬物の塗布は、いくつかの方法によって実現されることがある。たとえば、金属、金属合金、セラミック、または、その他の非重合体材料で構成されている医療機器の表面は、最初に、医療機器の表面に1つ以上の穴を形成するため処理される。望ましい(複数の)薬物が次に穴に堆積される。薬物堆積(穴装填)法は、噴霧法、浸漬法、静電蒸着法、超音波噴霧法、蒸着法、または、離散液滴オンデマンド流体噴射技術を含む多数の方法のうちのいずれでもよい。噴霧法、浸漬法、静電蒸着法、超音波噴霧法、蒸着法、または、類似した技術が利用されるとき、従来のマスキングの仕組みが選択された場所への堆積を制限するため利用されることがある。離散液滴オンデマンド流体噴射法は、正確な量の液体薬物または溶液中薬物を正確にプログラム可能な場所に導入する能力を提供するので好ましい方法である。離散液滴オンデマンド流体噴射法は、(たとえば、これに限定されることなく)テキサス州プラノ所在のマイクロファブ テクノロジーズ社から入手できるような市販されている流体噴射プリントヘッド式噴射機器を使用して実現されることがある。
【0025】
穴に薬物が装填された後、本発明は、保持された薬物の非常に浅い表面層を改質し、表面膜を越える拡散を制限する障壁特性をもつ薄い表面膜を形成する形で薬物の特性を変更するようにこの層内の薬物を変えるため、イオンビーム照射、好ましくは、GCIB照射を使用する。これは、穴に保持された薬物への水または他の生物学的流体の拡散速度を制御し、穴からの薬物の溶出速度を制御する能力をもたらす。障壁特性を有する表面膜になる薬物の表面部分の改質は、薬物の性質およびイオンビーム(好ましくは、GCIB)処理の性質に依存して、いくつかの改質結果のうちのいずれかにより構成されることがある。考えられる結果は、薬物分子の架橋結合または重合、分子から揮発的な原子を追い出すことによる薬物材料の炭化、薬物の密度をたかめることと、溶解性、浸食性の低減、および/または、空隙率または拡散速度の低下をもたらす他の形式の変性とを含む。
【0026】
前述されているようなGCIB表面改質による薬物の塗布は、合併症を軽減し、純粋な費用節約および患者の生活の質の改善をもたらし、従来の血栓症および再狭窄の問題を解決する。本発明の薬物送達システムにおいて送達される好ましい治療剤は、抗凝固剤、抗生物質、免疫抑制剤、血管拡張剤、抗プロリフィック剤、抗血栓物質、抗血小板物質、コレステロール低下剤、抗腫瘍薬剤と、これらの組み合わせとを含む。
【0027】
本発明のより良い理解のため、本発明の他の目的およびさらなる目的と共に、添付図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】発明の実施形態で利用されるような貫通穴付きの冠動脈ステントの図である。
【図1B】最も手前の表面より後ろ側の細部を省くことにより明瞭にするため簡略化された冠動脈ステントの第二の図である。
【図2】発明の実施形態で利用されるような止まり穴付きの冠動脈ステントの図である。
【図3A】重合体を利用することによる従来技術の穴の装填を示す従来技術のステントにおける従来技術の穴の図である。
【図3B】重合体を利用することによる従来技術の穴の装填を示す従来技術のステントにおける従来技術の穴の図である。
【図3C】重合体を利用することによる従来技術の穴の装填を示す従来技術のステントにおける従来技術の穴の図である。
【図4A】発明の実施形態によるステントにおける薬物が装填される貫通穴の形成のステップを示す図である。
【図4B】発明の実施形態によるステントにおける薬物が装填される貫通穴の形成のステップを示す図である。
【図4C】発明の実施形態によるステントにおける薬物が装填される貫通穴の形成のステップを示す図である。
【図4D】発明の実施形態によるステントにおける薬物が装填される貫通穴の形成のステップを示す図である。
【図5A】発明の実施形態によるステントにおける薬物が装填される止まり穴の形成のステップを示す図である。
【図5B】発明の実施形態によるステントにおける薬物が装填される止まり穴の形成のステップを示す図である。
【図5C】発明の実施形態によるステントにおける薬物が装填される止まり穴の形成のステップを示す図である。
【図6A】発明の実施形態による穴エッジのGCIB処理の任意ステップを示す図である。
【図6B】発明の実施形態による穴エッジのGCIB処理の任意ステップを示す図である。
【図7】薬物投与を制御するため本発明の範囲内で利用できる種々の方法を示す埋設可能な医療機器の表面の一部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、発明の実施形態で利用されるような貫通穴付きの拡張可能な冠動脈ステント100の斜視図である図1Aを参照する。本発明は、多種多様の埋設可能な医療機器に適用できることが発明者によって理解されているが、説明の目的のため、ステント100が一実施例として示されている。ステント100は、拡張された状態、または、部分的に拡張された状態で図示された拡張可能な金属冠動脈ステントである。拡張可能なステントは、各構造が種々の利点および不利点を有する多くの構造で製造される。図1Aに示された構造は、限定のためではなく、本発明の説明を簡単にするために示された単純な菱形形状メッシュである。ステント100は、支柱(たとえば、110)と、支柱110を連結する交差(たとえば、112)とを有する。ステント100は、ステントのルーメンを形成する内面(たとえば、108Aおよび108Bとして表示されている)と、血管スキャフォールドを形成する外面(106として表示されている)とを有する。穴(たとえば、102)は支柱に位置することがある。他の穴(たとえば、104)は交差に位置することがある。穴102および104は、外面106から内面108Aおよび108Bに達する貫通穴である。支柱110および交差112は、ステントが拡張されるとき、様々な構造をもつステントが違った影響を受けることがある異なる領域を有することがあるという共通の事実を例示することに注意を要する。たとえば、ステント100では、ここで示されるように、交差112の近くに位置しているある一定の穴102は、拡張中に、交差内の穴104および交差112から遠くに位置している他の穴102の場合より大きい歪みを受けることがある。他の構造をもつステントが、拡張中により大きいか、または、小さい程度の歪みを受ける場所を有することは当業者に明白である。図1Aでは、穴102、104は、支柱110および交差112の寸法と比べてかなり大きい径を有するように図示されている。これらの相対的なサイズは、概念の説明図を簡単にするため選択され、発明を限定することは意図されていない。図示された寸法より小さい相対的な寸法をもつ穴がステントの拡張中に図示されたようなより大きい穴が受ける歪みより小さい程度の歪みを受けることは当業者に理解される。穴は、種々のサイズおよびパターン(配列)のいずれでもよく、ステントの特徴的形状に対し異なる場所にあり、そして、依然として発明の精神の範囲内に留まることが当業者に認められる。図1Aは、従来技術のステントに類似し、そして、本発明を説明するためにも適しているステントを表す。
【0030】
図1Bは、拡張可能な冠動脈ステント100の第二の図である。このステントは、同一のステントであるが、図は、最も手前の表面より後ろ側の細部を省くことにより明瞭にするため簡略化されている。すなわち、ステント100の手前の部分より後ろ側にある内面の一部分108Bは、図を簡略化し、かつ、明瞭にするため図から省かれ、内面の一部分108Aは図の中に残っている。図1Bは、従来技術のステントに類似し、そして、本発明を説明するためにも適しているステントを表す。本発明によれば、穴102、104は、レーザー加工を含む実際的な方法、または、集束イオンビーム加工によって形成されることがある。
【0031】
図2は、発明の実施形態で利用されるような止まり穴付きの拡張可能な冠動脈ステント200の斜視図である。図は、最も手前の表面より後ろ側の細部を省くことにより明瞭にするため簡略化されている。ステント200は、拡張され、または、部分的に拡張された状態で図示された拡張可能な金属冠動脈ステントである。ステント200は、支柱(たとえば、210)と、支柱210を連結する交差(たとえば、212)とを有する。ステント200は、ステントのルーメンを形成する内面208と、血管スキャフォールドを形成する外面206とを有する。穴(たとえば、202)は支柱に位置することがある。他の穴(たとえば、204)は交差に位置することがある。穴202および204は、外面206から内面208まで達するのではなく、むしろステント壁の厚さを通る進路の一部だけに達する止まり穴である。穴202、204は、支柱210および交差212の寸法と比べてかなり大きい径を有するように図示されている。これらの相対的なサイズは、概念の説明図を簡単にするため選択され、発明を限定することは意図されていない。図示された寸法より小さい相対的な寸法をもつ穴がステントの拡張中に図示されたようなより大きい穴が受ける歪みより小さい程度の歪みを受けることは当業者に理解される。穴は、種々のサイズ、パターン、深さのいずれでもよく、ステントの特徴的形状に対し異なる場所にあり、そして、依然として発明の精神の範囲内に留まることが当業者に認められる。図2は、従来技術のステントに類似し、そして、本発明を説明するためにも適しているステントを表す。本発明によれば、穴202、204は、レーザー加工を含む実際的な方法、または、集束イオンビーム加工によって形成されることがある。
【0032】
図3Aは、重合体を利用することにより穴に薬物を装填する従来技術の方法を説明する従来技術のステント100における従来技術の穴102の断面図300Aを示す。治療層304は、薬物または薬物重合体混合物で構成される。ステント100の内面308に接した障壁層302は、重合体を備え、ステントの内側部分(ルーメン)への治療層304の溶出を防止するか、または、溶出速度を制御する。ステント100の外面106に接した第二の障壁層306は、重合体を備え、ステントの外側部分(血管スキャフォールド)への治療層304の溶出速度を制御する。障壁層302および306は、ステントの外側からステント内の穴によって保持された治療層304への水または他の生物学的流体の拡散を制御または防止する。障壁層302および306は、封止された治療層の放出を遅延させるため重合体を含む生物分解性または浸食性の材料でもよい。治療層304は、薬物でもよく、または、代替的に、治療層304の溶出または放出速度をさらに遅延または制御するために薬物と重合体との混合物でもよい。
【0033】
図3Bは、重合体を利用することにより穴に複数の薬物の層を装填する従来技術の方法を説明する従来技術のステント100における従来技術の穴102の断面図300Bを示す。治療層308、312は、それぞれ薬物または薬物・重合体混合物で構成され、類似した薬物または異なる薬物を含むことがある。ステント100の内面108に接する障壁層302は、重合体を含み、ステントの内側部分(ルーメン)への治療層308の溶出を防止し、または、溶出速度を制御する。ステント100の外面106に接する第二の障壁層314は、重合体を含み、ステントの外側部分(血管スキャフォールド)への治療層312の溶出速度を制御する。第三の障壁層310は、重合体を含み、治療層308と治療層312とを分離し、治療層308および310の溶出を防止し、または、溶出速度を制御することもある。障壁層302、310および314は、ステントの外部からステント内の穴によって保持された治療層308および312への水または他の生物学的流体の拡散をさらに制御または防止することがある。障壁層302、310および314は、封止された治療層308および312の放出を遅延させるため重合体を含む生物分解性または腐食性の材料でもよい。治療層308および312は、それぞれが、薬物であるか、または、代替的に、治療層308および312の溶出または放出速度をさらに遅延または制御するために薬物と重合体との混合物でもよい。
【0034】
図3Cは、重合体を利用することにより穴に薬物を装填する従来技術の方法を説明する従来技術のステント200における従来技術の止まり穴202の断面図300Cを示す。治療層350は、薬物または薬物・重合体混合物で構成される。ステント200の外面206に接する障壁層352は、重合体を含み、ステントの外側部分(血管スキャフォールド)への治療層350の溶出速度を制御する。障壁層352は、ステントの外部からステント内の穴によって保持された治療層350への水または他の生物学的流体の拡散をさらに制御または防止する。障壁層352は、封止された治療層350の放出を遅延させるため重合体を含む生物分解性または腐食性の材料でもよい。治療層350は、薬物でもよく、または、代替的に、治療材料の溶出または放出速度をさらに遅延または制御するために薬物と重合体との混合物でもよい。
【0035】
図4Aは、発明の実施形態によるステント100における薬物が装填される貫通穴の形成のステップを説明するステントの支柱の断面図400Aである。ステント100は貫通穴102を有する。ステントは、ステントのルーメンを形成する内面108を有し、ステントの血管スキャフォールド部分を形成する外面106を有する。発明の実施形態におけるステップとして、障壁層402は、既知技術によってステント100の内面108に堆積される。障壁層402は、重合体、または、他の生体適合性障壁材料で構成されることがある。
【0036】
図4Bは、図4Aに示されたステップに続くステント100における薬物が装填される貫通穴の形成のステップを説明するステントの支柱の断面図400Bである。図4Bに示されたステップでは、薬物410は、ステント100内の穴102に堆積される。薬物410の堆積は、噴霧法、浸漬法、静電蒸着法、超音波噴霧法、蒸着法、または、好ましくは、離散液滴オンデマンド流体噴射技術含む多数の方法のうちのいずれでもよい。噴霧法、浸漬法、静電蒸着法、超音波噴霧法、蒸着法、または、類似した技術が利用されるとき、従来のマスキングの仕組みは、ステント内の穴または穴のうちのいくつか、もしくは、全部への堆積を制限するため有利に利用することができる。離散液滴オンデマンド流体噴射法は、正確な量の液体薬物または溶液中薬物を正確にプログラム可能な場所に導入する能力を提供するので好ましい堆積方法である。離散液滴オンデマンド流体噴射法は、(たとえば、これに限定されることなく)テキサス州プラノ所在のマイクロファブ テクノロジーズ社から入手できるような市販されている流体噴射プリントヘッド式噴射機器を使用して実現することも可能である。薬物410が液体または溶液中薬物であるとき、薬物は、好ましくは、次のステップへ進む前に、乾燥され、または、そうでなければ、硬化する。乾燥または硬化ステップは、実施例として、焼成法、低温焼成法、または、真空蒸着法を含むことがある。
【0037】
図4Cは、図4Bに示されたステップに続くステント100における薬物が装填される貫通穴の形成のステップを説明するステントの支柱の断面図400Cである。図4Cに示されたステップでは、ステント100内の穴102に堆積された薬物410は、薬物410の薄い上側領域の改質によって薄い障壁層412を形成するため、イオンビーム、好ましくは、GCIB408によって照射される。薄い障壁層412は、薬物410の最も薄い上側の層内の薬物の分子の密度を高めるか、炭化もしくは部分的に炭化するか、変性させるか、架橋結合を行うか、または、重合させるかによって改質された薬物410で構成される。この薄い障壁層412は、約10ナノメートル以下程度の厚さを有することがある。表面を改質する際に、好ましくは、アルゴンのクラスタイオンまたは別の不活性ガスのクラスタイオンを含むGCIB408が利用される。GCIB408は、好ましくは、5kVから50kVまで、または、これ以上の加速電位で加速される。コーティング層は、好ましくは、1平方センチメートル当たりに少なくとも約1×1013個のガスクラスタイオンのGCIB照射量に晒される。GCIB408の照射量および/または加速電位を選択することにより、薄い障壁層412の特徴は、ステント100が埋設され、拡張されたとき、放出もしくは溶出速度、および/または、水および/または他の生物学的流体の内向き拡散の速度を制御できるようにするため調整されることがある。一般に、加速電位の増大は、形成される薄い障壁層の厚さを増大させ、GCIB照射量の変更は、結果として生じる架橋結合、緻密化(高密度化)、炭化、変性、および/または、重合の程度を変えることによって、薄い障壁層の性質を変える。これは、薬物が障壁を通って引き続いて放出または溶出する速度、および/または、水および/または生物学的流体が外部から薬物の中へ拡散する速度を制御する手段を提供する。
【0038】
図4Dは、図4Cに示されたステップに続くステント100における薬物が装填される貫通穴を説明するステントの支柱の断面図400Dである。図4では、薬物を堆積させるステップと、薬物の表面内の薄い障壁層を形成するためGCIB照射を使用するステップとは、図4に示された段階の後、(たとえば)2回以上に亘って繰り返された。図4Dは、付加的な薬物層(414および418)と、付加的なGCIB形成された薄い障壁層416および420とを示す。薬物410、414および418は、同じ薬物材料でもよく、または、異なる治療モードをもつ異なる薬物でもよい。薬物層410、414および418の厚さは異なることが示され、すなわち、異なる薬物投与量が個別の層のそれぞれに堆積されることがあることを示す。代替的に、厚さ(および投与量)は、一部の層または全部の層において同じでもよい。薄い障壁層412、416および420のそれぞれの特性は、前述されているようにGCIB特性を制御することにより各障壁層形成照射ステップでGCIB特性を選択することにより、さらに個別に調整されることがある。図4Dは、3層の薬物層が装填された穴を示すが、発明の精神の範囲内で1層から非常に多数の層まですべてを利用するために、穴深さおよび薬物堆積能力の制約の範囲内で完全な自由度がある。GCIB処理によって形成することができる非常に薄い障壁層と、たとえば、離散液滴オンデマンド流体噴射技術によって非常に少量の薬物を堆積する能力とは、何十または何百もの層を可能にすることがある。各薬物層は、異なる薬物材料または類似した薬物材料でもよく、両立できる薬物の混合物でもよく、より大量でもよく、または、より少量でもよく、薬物送達システムの治療効果と、1つ以上の薬物の順序付けおよび溶出速度の調整との柔軟性および制御性を高める。
【0039】
図4Dに示された薬物送達システムは、従来技術のシステムの改良であるが、重合体または他の生体適合性障壁材料で構成される従来型の障壁層402を利用する点に問題がある。ステントの場合、たとえば、拡張されていないステントの内部(ルーメン)表面にGCIB処理によって障壁層を形成することは一般に都合がよくない。よって、従来型の障壁層402が一般に必要とされる。重合体の使用は、障壁層402の形成のため他の生体適合性材料を利用することにより回避されることがあるが、たとえそうでも、その後に材料が剥離し、その位置で材料の望ましくない放出をもたらす危険性がある。図5A、5Bおよび5Cは、従来型の障壁材料を使用する望ましくない必要性を回避する本発明の別の実施形態を示す。
【0040】
図5Aは、発明の実施形態によるステント200における薬物が装填される止まり穴の形成のステップを説明するステントの支柱の断面図500Aである。ステント200は、止まり穴202を有する。ステントは、ステントのルーメンを形成する内面208と、ステントの血管スキャフォールド部を形成する外面206とを有する。発明の実施形態におけるステップとして、薬物502は、ステント200内の穴202に堆積される。図示されないが、場合によっては、GCIB洗浄プロセスは、薬物502を穴202の中に堆積する前に、穴202の表面を洗浄するため利用されることがある。薬物502の堆積は、前述の方法のうちのいずれでもよい。離散液滴オンデマンド流体噴射法は、正確な量の液体薬物または溶液中薬物を正確にプログラムされた場所に導入する能力を提供するので、好ましい堆積方法である。薬物502が液体または溶液中薬物であるとき、薬物は、好ましくは、次のステップへ進む前に、乾燥されるか、そうでなければ、硬化される。乾燥または硬化は、実施例として、焼成、低温焼成、または、真空蒸着を含むことがある。
【0041】
図5Bは、図5Aに示されたステップの後に続くステント200における薬物が装填される止まり穴の形成におけるステップを説明するステントの支柱の断面図500Bを示す。図5Bに示されたステップでは、ステント200内の穴202に堆積された薬物502は、薬物502の薄い上側領域の改質によって薄い障壁層506を形成するため、イオンビーム、好ましくは、GCIB504によって照射される。薄い障壁層506は、薬物502の最も薄い上側の層内の薬物の分子の密度を高めるか、炭化もしくは部分的に炭化させるか、変性させるか、架橋結合させるか、または、重合させることによって改質された薬物502で構成される。この薄い障壁層506は、約10ナノメートル以下程度の厚さを有することがある。表面を改質する際に、好ましくは、アルゴンのクラスタイオンまたは別の不活性ガスのクラスタイオンを含むGCIB504が利用される。GCIB504は、好ましくは、5kVから50kVまで、または、これ以上の加速電位で加速される。コーティング層は、好ましくは、1平方センチメートル当たりに少なくとも約1×1013個のガスクラスタイオンのGCIB照射量に晒される。GCIB504の照射量および/または加速電位を選択することにより、薄い障壁層506の特徴は、ステント200が埋設され、拡張されたとき、溶出速度、および/または、水および/または他の生物学的流体の内向き拡散の速度を制御できるようにするため調整されることがある。一般に、加速電位の増大は、形成される薄い障壁層の厚さを増大させ、GCIB照射量の変更は、結果として生じる架橋結合、緻密化、炭化、変性、および/または、重合の程度を変えることにより、薄い障壁層の性質を変える。これは、薬物が障壁を通って引き続いて放出または溶出する速度、および/または、水および/または生物学的流体が外部から薬物の中へ拡散する速度を制御する手段を提供する。
【0042】
図5Cは、発明の実施形態による複数の薬物層を有するステント200内の薬物が装填される止まり穴の断面図500Cを示す図である。図5Aおよび図5Bに関して前述されたような薬物を堆積させるステップと、薬物の表面内に薄い障壁層を形成するためイオンビーム照射を使用するステップとは、(たとえば)連続して3回適用され、3つの薬物510、514および518が装填された止まり穴202を形成し、各薬物は、イオンビーム、好ましくは、GCIB照射によって形成された薄い障壁層512、516および520を有する。薬物510、514および518は、同じ薬物材料でもよく、または、異なる治療モードをもつ異なる薬物でもよい。薬物層510、514および518の厚さは異なることが示され、すなわち、異なる薬物投与量が個別の層のそれぞれに堆積されることがあることを示す。代替的に、厚さ(および投与量)は、一部の層または全部の層において同じでもよい。薄い障壁層512、516および520のそれぞれの特性は、前述されているようにGCIB特性を制御することにより各障壁層形成照射ステップでイオンビーム特性を制御することにより、さらに個別に調整されることがある。3層の薬物層が示されるが、発明の精神の範囲内で1層から非常に多数の層まですべてを利用するために、穴深さおよび薬物堆積能力の制約の範囲内で完全な自由度がある。
【0043】
図6Aは、穴202がレーザー加工により形成され、加工プロセスから結果として生じる鋭いまたは(図示された)バリ状のエッジ602を有する埋設可能な医療機器(たとえば、ステント200)内の止まり穴の一部分の断面図600Aを示す。殆どの場合、このようなエッジまたはバリは埋設可能な医療機器において望ましくない。GCIB処理は、(前述されているように)穴に薬物を装填し、薄い障壁層を形成する前に、このようなバリまたは鋭いエッジを取り除くため有利に利用することができる。
【0044】
図6Bは、滑らかなエッジ606を形成するGCIB処理によって鋭いまたはバリ状のエッジ602を取り除くため、GCIB604を用いる照射によって処理されたステント200内の穴202の断面図600Bを示す。好ましくは、アルゴンもしくは窒素のクラスタイオンまたは別の不活性ガスのクラスタイオンまたは酸素クラスタイオンを含むGCIB604が利用される。GCIB604は、好ましくは、5kVから50kVまで、または、これ以上の加速電位で加速される。コーティング層は、好ましくは、1平方センチメートル当たりに約1×1015ないし約1×1017個のガスクラスタイオンのGCIB照射量に晒される。GCIB504の照射量および/または加速電位を選択することにより、GCIB604のエッチング特徴は、平滑化されたエッジ606を形成する際に実行されるエッチングおよび平滑化の量を制御するため調整される。一般に、加速電位および/またはGCIB照射量の増大は、エッチング速度を増大させる。
【0045】
図7は、発明の多様性および柔軟性を示す種々の薬物が装填される穴706、708、710、712および714を有する非重合体型の埋設可能な医療機器の一部分702の表面704の断面図700である。埋設可能な医療機器は、たとえば、血管ステント、人工関節補装具、心臓ペースメーカ、または、他の埋設可能な非重合体医療機器を含み、必ずしも血管または冠動脈ステントのような薄壁型機器でなくてもよい。穴はすべてが、穴毎に1層以上の薬物の層の上に発明によって形成された薄い障壁層740を有する。簡単にするため、図7における薄い障壁層の必ずしもすべてに符号が付けられていないが、薄い障壁層740で覆われた第一の薬物736を収容する穴714が示される(穴714の中の薄い障壁層740だけに符号が付けられているが、図7におけるクロスハッチングされた領域は薄い障壁層を示し、以下では、すべてが典型的な符号740によって参照される)。穴706は、薄い障壁層740で覆われた第二の薬物716を収容する。穴708は、薄い障壁層740で覆われた第三の薬物720を収容する。穴710は、薄い障壁層740で覆われた第四の薬物738を収容する。穴712は、それぞれが薄い障壁層740で覆われた第五、第六および第七の薬物728、726および724を収容する。薬物716、720、724、726、728、736および738の1つずつは、異なる薬物材料であるように選択されることがあり、または、異なる薬物材料もしくは同じ薬物材料が種々に組み合わされた同じ薬物材料でもよい。薄い障壁層740の1つずつは、前述されたイオンビーム(好ましくは、GCIB)処理の原理に応じて、溶出または放出速度を制御するため、および/または、水もしくは他の生物学的流体の内向き拡散の速度を制御するため同じ特性または異なる特性を有することがある。穴706および708は、同じ幅および充填深さ718を有するので、同じ量の薬物を保持するが、薬物716および720は、異なる治療モードのための異なる薬物でもよい。穴706および708にそれぞれ対応する薄い障壁層740は、穴706および708に収容された薬物に同じまたは異なる溶出、放出、または、内向き拡散速度を与えるため、同じまたは異なる特性のいずれを有してもよい。穴708および710は、同じ幅を有するが、異なる充満深さ718および722をそれぞれ有するので、異なる投与量に対応する異なる薬物が装填される量を収容する。穴708および710にそれぞれ対応する薄い障壁層740は、穴708および710に収容されている薬物に同じまたは異なる溶出、放出、または、内向き拡散速度を与えるため、同じ特性または異なる特性のいずれかを有することがある。710および712は、同じ幅730を有し、同じ充填深さ722を有するので、薬物の同じ総装填量を収容するが、穴710は単一層の薬物738で充填され、穴712は、それぞれが同じまたは異なる投与量を表す同量または異なる量の薬物でもよく、そして、それぞれが異なる治療モードのための異なる薬物材料でもよい複数層の薬物724、726および728で充填される。穴710および712のための薄い障壁層740の1つずつは、穴に収容されている薬物に同じまたは異なる溶出、放出、もしくは、内向き拡散速度を与えるため、同じまたは異なる特性を有することがある。穴708および714は、同じ充填深さ718を有するが、異なる幅を有するので、異なる量および投与量の薬物720および736を収容する。穴708および714にそれぞれ対応する薄い障壁層740は、穴708および714に収容されている薬物に同じまたは異なる溶出、放出、または、内向き拡散速度を与えるため、同じ特性または異なる特性のいずれかを有することがある。埋設可能な医療機器の表面704の全体的な穴のパターンと、穴732の間の間隔とは、埋設可能な医療機器の表面全体に亘る薬物投与量の空間分布を制御するため、付加的に選択されることがある。このように、発明の薬物送達システムによって送達される薬物のタイプ、投与量、投与量空間分布、時間的放出順序、放出速度、放出速度の時間的な分布(放出速度の時間的なプロファイル)を制御するため、発明の適用には多くの柔軟な選択肢が存在する。
【0046】
発明は、種々の実施形態に関して説明されているが、本発明は、発明と請求項との精神および範囲に含まれる多種多様のさらなる実施形態および他の実施形態が同様に可能であることが理解されるべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の薬物を送達するために適合した表面を有する医療機器であって、
前記1つ以上の薬物を収容する前記医療機器の表面内の1つ以上の穴と、
前記1つ以上の穴に収容された前記1つ以上の薬物の少なくとも1つの薬物の表面に改質された薬物を含む少なくとも1層の障壁層と、
を備えていることを特徴とする医療機器。
【請求項2】
前記少なくとも1層の障壁層は、
前記1つ以上の薬物の少なくとも1つの放出速度を制御するため、
前記1つ以上の薬物の少なくとも1つの溶出速度を制御するため、または、
少なくとも1つの穴に収容された少なくとも1つの薬物への流体の少なくとも1つの内向き拡散速度を制御するために構成されていることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
前記1つ以上の穴は、所定の分布計画に応じて前記1つ以上の薬物を前記医療機器の表面上で空間的に分布させるため所定のパターンで前記医療機器の表面に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の医療機器。
【請求項4】
前記1つ以上の穴のうちの第一の個数の穴が第一の薬物を収容し、第一のパターンで配置され、
前記1つ以上の穴のうちの第二の個数の穴が第二の薬物を収容し、第二のパターンで配置され、
前記第一のパターンおよび前記第二のパターンは、薬物毎に所定の分布計画に応じて前記第一の薬物および前記第二の薬物を空間的に分布させるために予め決められていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項5】
前記1つ以上の穴のうちの第一の個数の穴が第一の量の第一の薬物を収容し、第一のパターンで配置され、
前記1つ以上の穴のうちの第二の個数の穴が第二の量の前記薬物を収容し、第二のパターンで配置され、
前記第一のパターンおよび前記第二のパターンは、前記第一の薬物のための所定の投与量分布計画に応じて前記第一の薬物を空間的に分布させるために予め決められていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項6】
前記1つ以上の穴のうちの少なくとも1つが第一の量の第一の薬物を収容し、前記第一の薬物は、改質された第一の薬物を含む第一の障壁層によって覆われ、前記第一の障壁層は、第二の量の第二の薬物によって覆われ、前記第二の薬物は、改質された第二の薬物を含む第二の障壁層によって覆われていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項7】
前記第一の薬物および前記第二の薬物は、同じ薬物または異なる薬物であり、
前記第一の障壁層および上記第二の障壁層は、前記第一の薬物および前記第二の薬物の時間的な放出の分布を制御するために構成されていることを特徴とする請求項6に記載の医療機器。
【請求項8】
血管ステント、
冠動脈ステント、
人工関節補装具、
人工関節補装具構成要素、または、
冠動脈ペースメーカ、
のうちのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項9】
前記少なくとも1層の障壁層は、
架橋結合された薬物分子、
高密度化された薬物、
炭化された有機薬物材料、
重合された薬物、
変性された薬物、または、
これらの組み合わせ、
を含む改質された薬物を含んでいることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項10】
前記少なくとも1層の障壁層は、生物学的活性材料を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項11】
医療機器の表面を改質する方法であって、
前記医療機器の前記表面に1つ以上の穴を形成するステップと、
前記1つ以上の穴のうちの少なくとも1つに第一の薬物を装填する第一の装填ステップと、
少なくとも1つの装填された穴の中の前記第一の薬物の露出した表面を、前記露出した表面に第一の障壁層を形成するため、第一のイオンビームで照射する第一の照射ステップと、
を備えていることを特徴とする方法。
【請求項12】
前記第一のイオンビームは第一のガスクラスタイオンビームであることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記装填するステップの前に、
第二のガスクラスタイオンビームである第二のイオンビームを形成するステップと、
前記穴の少なくとも一部分を洗浄するため、および/または、前記穴の前記少なくとも一部分に接する鋭いエッジまたはバリ状エッジを取り除くため、前記医療機器の前記1つ以上の穴の少なくとも一部分を前記第二のイオンビームで照射する第二の照射ステップと、
をさらに備えていることを特徴とする請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記第一の照射ステップは、
第一の薬物の分子を架橋結合すること、
前記第一の薬物を高密度化すること、
前記第一の薬物を炭化すること、
前記第一の薬物を重合すること、または、
前記第一の薬物を変性すること、によって前記露出した表面で前記第一の薬物を改質することにより前記第一の障壁層を形成することを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記第一の装填ステップは、
噴霧法、
浸漬法、
電解蒸着法、
超音波噴霧法、
蒸着法、または、
離散液滴オンデマンド流体噴射法によって、前記第一の薬物を前記1つ以上の穴に導入するステップを含んでいることを特徴とする請求項11乃至14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記第一の装填ステップは、
前記少なくとも1つの穴のうちのいずれかに前記第一の薬物が装填されるかを制御するためにマスクを利用するステップをさらに含んでいることを特徴とする請求項11乃至15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記第一の障壁層は、前記少なくとも1つの装填された穴への流体の内向き拡散の速度を制御することを特徴とする請求項11乃至16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記1つ以上の穴は、所定の分布計画に応じて前記第一の薬物を前記表面に分布させるために所定のパターンで前記表面に配置されていることを特徴とする請求項11乃至17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記1つ以上の穴のうちの少なくとも1つに前記第一の薬物とは異なる第二の薬物を装填する第二の装填ステップをさらに備えていることを特徴とする請求項11乃至18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記1つ以上の穴のうちの少なくとも1つは、前記1つ以上の穴のうちの少なくとも別の穴に装填された前記第一の薬物の第二の量とは異なる前記第一の薬物の第一の量が装填されていることを特徴とする請求項11乃至19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記第一の装填ステップは、前記少なくとも1つの穴を完全に充填することがなく、
前記少なくとも1つの不完全に充填された穴に前記第一の障壁層を覆う第二の薬物を装填する第二の装填ステップと、
少なくとも1つの第二の装填された穴の中の前記第二の薬物の露出した表面に第二の障壁層を形成するため、前記少なくとも1つの第二の装填された穴の中の前記第二の薬物の露出した表面を第三のイオンビームで照射する第三の照射ステップと、
をさらに備えていることを特徴とする請求項11乃至20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記第一の障壁層および前記第二の障壁層は、前記第一の薬物および前記第二の薬物の溶出速度を別々に制御するための異なる特性を有していることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第三のイオンビームは、第三のガスクラスタイオンビームであることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記穴を形成するステップは、レーザー加工または集束イオンビーム加工によって1つ以上の穴を形成するステップを備えていることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項1】
1つ以上の薬物を送達するために適合した表面を有する医療機器であって、
前記1つ以上の薬物を収容する前記医療機器の表面内の1つ以上の穴と、
前記1つ以上の穴に収容された前記1つ以上の薬物の少なくとも1つの薬物の表面に改質された薬物を含む少なくとも1層の障壁層と、
を備えていることを特徴とする医療機器。
【請求項2】
前記少なくとも1層の障壁層は、
前記1つ以上の薬物の少なくとも1つの放出速度を制御するため、
前記1つ以上の薬物の少なくとも1つの溶出速度を制御するため、または、
少なくとも1つの穴に収容された少なくとも1つの薬物への流体の少なくとも1つの内向き拡散速度を制御するために構成されていることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
前記1つ以上の穴は、所定の分布計画に応じて前記1つ以上の薬物を前記医療機器の表面上で空間的に分布させるため所定のパターンで前記医療機器の表面に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の医療機器。
【請求項4】
前記1つ以上の穴のうちの第一の個数の穴が第一の薬物を収容し、第一のパターンで配置され、
前記1つ以上の穴のうちの第二の個数の穴が第二の薬物を収容し、第二のパターンで配置され、
前記第一のパターンおよび前記第二のパターンは、薬物毎に所定の分布計画に応じて前記第一の薬物および前記第二の薬物を空間的に分布させるために予め決められていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項5】
前記1つ以上の穴のうちの第一の個数の穴が第一の量の第一の薬物を収容し、第一のパターンで配置され、
前記1つ以上の穴のうちの第二の個数の穴が第二の量の前記薬物を収容し、第二のパターンで配置され、
前記第一のパターンおよび前記第二のパターンは、前記第一の薬物のための所定の投与量分布計画に応じて前記第一の薬物を空間的に分布させるために予め決められていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項6】
前記1つ以上の穴のうちの少なくとも1つが第一の量の第一の薬物を収容し、前記第一の薬物は、改質された第一の薬物を含む第一の障壁層によって覆われ、前記第一の障壁層は、第二の量の第二の薬物によって覆われ、前記第二の薬物は、改質された第二の薬物を含む第二の障壁層によって覆われていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項7】
前記第一の薬物および前記第二の薬物は、同じ薬物または異なる薬物であり、
前記第一の障壁層および上記第二の障壁層は、前記第一の薬物および前記第二の薬物の時間的な放出の分布を制御するために構成されていることを特徴とする請求項6に記載の医療機器。
【請求項8】
血管ステント、
冠動脈ステント、
人工関節補装具、
人工関節補装具構成要素、または、
冠動脈ペースメーカ、
のうちのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項9】
前記少なくとも1層の障壁層は、
架橋結合された薬物分子、
高密度化された薬物、
炭化された有機薬物材料、
重合された薬物、
変性された薬物、または、
これらの組み合わせ、
を含む改質された薬物を含んでいることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項10】
前記少なくとも1層の障壁層は、生物学的活性材料を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の医療機器。
【請求項11】
医療機器の表面を改質する方法であって、
前記医療機器の前記表面に1つ以上の穴を形成するステップと、
前記1つ以上の穴のうちの少なくとも1つに第一の薬物を装填する第一の装填ステップと、
少なくとも1つの装填された穴の中の前記第一の薬物の露出した表面を、前記露出した表面に第一の障壁層を形成するため、第一のイオンビームで照射する第一の照射ステップと、
を備えていることを特徴とする方法。
【請求項12】
前記第一のイオンビームは第一のガスクラスタイオンビームであることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記装填するステップの前に、
第二のガスクラスタイオンビームである第二のイオンビームを形成するステップと、
前記穴の少なくとも一部分を洗浄するため、および/または、前記穴の前記少なくとも一部分に接する鋭いエッジまたはバリ状エッジを取り除くため、前記医療機器の前記1つ以上の穴の少なくとも一部分を前記第二のイオンビームで照射する第二の照射ステップと、
をさらに備えていることを特徴とする請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記第一の照射ステップは、
第一の薬物の分子を架橋結合すること、
前記第一の薬物を高密度化すること、
前記第一の薬物を炭化すること、
前記第一の薬物を重合すること、または、
前記第一の薬物を変性すること、によって前記露出した表面で前記第一の薬物を改質することにより前記第一の障壁層を形成することを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記第一の装填ステップは、
噴霧法、
浸漬法、
電解蒸着法、
超音波噴霧法、
蒸着法、または、
離散液滴オンデマンド流体噴射法によって、前記第一の薬物を前記1つ以上の穴に導入するステップを含んでいることを特徴とする請求項11乃至14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記第一の装填ステップは、
前記少なくとも1つの穴のうちのいずれかに前記第一の薬物が装填されるかを制御するためにマスクを利用するステップをさらに含んでいることを特徴とする請求項11乃至15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記第一の障壁層は、前記少なくとも1つの装填された穴への流体の内向き拡散の速度を制御することを特徴とする請求項11乃至16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記1つ以上の穴は、所定の分布計画に応じて前記第一の薬物を前記表面に分布させるために所定のパターンで前記表面に配置されていることを特徴とする請求項11乃至17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記1つ以上の穴のうちの少なくとも1つに前記第一の薬物とは異なる第二の薬物を装填する第二の装填ステップをさらに備えていることを特徴とする請求項11乃至18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記1つ以上の穴のうちの少なくとも1つは、前記1つ以上の穴のうちの少なくとも別の穴に装填された前記第一の薬物の第二の量とは異なる前記第一の薬物の第一の量が装填されていることを特徴とする請求項11乃至19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記第一の装填ステップは、前記少なくとも1つの穴を完全に充填することがなく、
前記少なくとも1つの不完全に充填された穴に前記第一の障壁層を覆う第二の薬物を装填する第二の装填ステップと、
少なくとも1つの第二の装填された穴の中の前記第二の薬物の露出した表面に第二の障壁層を形成するため、前記少なくとも1つの第二の装填された穴の中の前記第二の薬物の露出した表面を第三のイオンビームで照射する第三の照射ステップと、
をさらに備えていることを特徴とする請求項11乃至20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記第一の障壁層および前記第二の障壁層は、前記第一の薬物および前記第二の薬物の溶出速度を別々に制御するための異なる特性を有していることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第三のイオンビームは、第三のガスクラスタイオンビームであることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記穴を形成するステップは、レーザー加工または集束イオンビーム加工によって1つ以上の穴を形成するステップを備えていることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【公表番号】特表2011−530347(P2011−530347A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522269(P2011−522269)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/053113
【国際公開番号】WO2010/017456
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(508216552)エクソジェネシス コーポレーション (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/053113
【国際公開番号】WO2010/017456
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(508216552)エクソジェネシス コーポレーション (7)
【Fターム(参考)】
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