説明

蛋白質毒素の分泌阻害剤

【課題】 毒素産生病原菌に対して、高い毒素分泌抑制効果、結果として感染予防効果を有する組成物および医薬を提供する。
【解決手段】 ガロイルエステル類を有効成分として含有する細菌による蛋白質毒素の分泌阻害剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸管毒素を産生する病原菌に対して毒素の分泌を阻害する、医薬のほか食品保存物質として使用可能な細菌による蛋白質毒素の分泌阻害剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細菌感染症においては、多くの場合、その細菌が産生する毒素が、生体の組織に対しそれぞれ微量で特異性の高い薬理作用を引き起こし、これに障害を与えて、病的な状態を惹起する。毒素は、lipid Aに代表される内毒素もあるが、主として蛋白質やペプチド性で、生体内の液状成分、細胞、組織やその構成成分を破壊する加水分解酵素(ホスホリパーゼ、コラゲナーゼ、DNaseなど)、細胞膜を通過し細胞内機能を破壊する毒素(ベロ毒素、エンテロトキシン、ボツリヌス毒素など)、細胞膜に結合し細胞内の代謝変化を起こす毒素(サルモネラ毒素、大腸菌ST、腸炎エルシニア毒素など)、膜構造に変化を与えるヘモリジン毒素類(ウェルシュ菌δ毒素、黄色ブドウ球菌α、β、γ毒素、ストレプトリジンO、Sなど)が知られている。
【0003】
一般に、細菌感染症に対し、これを防ぐための手段として、細菌の増殖を抑制することを目的とした治療剤(たとえば抗生物質や抗菌剤など)が用いられるが、こうした治療剤を用いることにより、腸内細菌叢が乱され、その薬剤に耐性の、より強力な病原菌が出現することが問題となっており、抗生物質や抗菌剤を用いない新たな治療法の開発が求められている。
【0004】
さらに、すでに産生された細菌毒素に対しては、もはや上記した治療薬をもってしても効果はなく、細菌毒素そのものによって惹起される組織の病的な状態を解消することはできない。細菌毒素に起因する疾患の症状の軽減や予防ができる方法は、牛乳や卵白による毒素の吸収や沈着の防止、吐剤の使用などがあるが、ほとんど臨床的な治療を必要としているというのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、従来の抗生物質や抗菌剤に代わるものとして、感染症を引き起こす菌を死滅させるのではなく、感染症を引き起こす菌が産生する蛋白質毒素の産生や分泌を阻害する因子を見出すことにより、細菌毒素によって惹き起こされる病態の症状を、緩和、消失、あるいは予防することができる新技術の開発が切望されている。すなわち、毒素産生病原菌に対して、細菌の生存能に影響を及ぼさず、毒素の産生・分泌のみを抑制することにより、その病原性のみを喪失させ、正常細菌叢に影響を及ぼすことなく、したがって耐性菌の出現をも抑制することができるという技術である。
【0006】
本発明は、この要望に応えるために開発されたもので、毒素産生病原菌に対して、高い毒素分泌抑制効果、結果として感染予防効果を有する組成物および医薬を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、細菌毒素により病的状態が生じているか、あるいは近い将来に生ずるであろう人や動物において、当該細菌毒素の悪影響を最小限に抑え得る薬物を開発するべく、実験、研究を重ね、ガレート化合物群が、腸管毒産生病原菌に対して顕著な抗毒素分泌活性を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0008】
ここでいうガレート化合物群とは、ガロイルエステル類である。
【0009】
すなわち、本発明は、ガロイルエステル類を有効性分として含有する細菌の蛋白質毒素分泌阻害剤を提供する。
【0010】
そして、本発明は、このような蛋白質分泌阻害剤として、上記のガロイルエステル類が、次の群の少なくともいずれかの化合物であることを好ましいものとしている。
【0011】
1)素数1〜18の範囲の直鎖状にあるいは分枝鎖状のアルキル基がガロイル基とエステル結合したもの。
【0012】
2)エピガロカテキン、ガロカテキン、エピカテキン、カテキンがガロイル基とエステル結合したもの、
3)キナ酸がガロイル基とエステル結合したもの。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、毒素産生病原菌(細菌)に対して、高い毒素分泌抑制効果を発現させることができ、その結果として高い感染予防効果が得られる。しかも、細菌の生存能に影響を及ぼすことがほとんどない濃度および条件で投与できるため、薬剤耐性菌の出現を抑えることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の蛋白質毒素分泌阻害剤に用いられるガロイルエステル類としては、その代表例として具体的に例示すると以下のとおりである。すなわち、エチルガレート、n−プロピルガレート、n−ブチルガレート、n−ペンチルガレート、n−ヘキシルガレート、n−ヘプチルガレート、n−オクチルガレート、n−ノニルガレート、n−デシルガレート、n−ウンデシルガレート、n−ラウリルガレート、イソブチルガレート、イソアミルガレート、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、およびエピカテキンガレートを挙げることができる。好ましくは、メチルガレート、エチルガレート、n−プロピルガレート、n−ブチルガレート、n−ペンチルガレート、n−オクチルガレート、n−ノニルガレート、n−デシルガレート、イソブチルガレート、イソアミルガレートなどである。
【0015】
そして、本発明のガロイルエステル類は化学合成したものであってもよいし、あるいはその原料として、市販のガロイルエステル類のほかに、茶、ブドウ、柿などの植物体、および煎茶、ワイン、果実酒など加工食品由来のものなども問題なく用いることができる。これらの場合には、原材料を水、熱水、アルコール水溶液などで抽出し、必要であればガロイルエステル類に親和性の高い吸着樹脂カラムを用いてガロイルエステル類を精製する方法が挙げられる。
【0016】
本発明の蛋白質毒素分泌阻害剤は、一般に使用される担体、助剤、添加剤とともに製剤化することができ、常法にしたがって経口、非経口の製品として医薬品として用いることができる。
【0017】
経口投与する場合には、たとえば、錠剤、カプセル、糖などで被覆した錠剤、液状溶液または懸濁液の形態である。
【0018】
予防・治療で用いる上記有効成分の投与量は、年齢、体重、患者の症状および投与経路によって変ることができ、たとえば、成人に対して投与する場合は、1回投与当たり、10mg〜3g(体重1kgあたり)を1日1回から3回投与する。これらの投与量および投与経路を変化させることによって最良の治療効果をあげるようにする。
【0019】
薬剤組成物は、通常、常法に従って調製され、医薬的に適切な形態とされる。たとえば、固体経口形態は、活性化合物と共にラクトース、デキストロース、サッカーロース、セルロース、トウモロコシ澱粉およびジャガイモ澱粉などの希釈剤、シリカ、タルク、ステアリン酸、ステリアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸カルシウムおよび/またはポリエチレングリコールなどの滑沢剤、澱粉、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリジンなどの結合剤、澱粉、アルギン酸、アルギン酸塩、グリコール酸デンプンナトリウムなどの崩壊剤、発泡剤、色素、甘味料、例えばレシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸塩などの湿潤剤、および一般に非毒性および医薬的処方に用いられる薬学的に非活性な物質を含んでいてもよい。
【0020】
これらの薬剤組成物は既知の方法、例えば混合、粒状化、錠剤化、糖衣、または被覆方法などにより製造される。
【0021】
非経口投与の場合、直腸への適用を意図した坐剤でも可能であるが、汎用剤形は注射剤である。注射剤では液体製剤、用時溶解型製剤、懸濁製剤などの外観を異にする剤形があるが、基本的には活性成分を適当な方法により無菌化したのち、直接容器に入れ、密封する点で同一と考えられる。
【0022】
最も簡単な製剤化法としては、活性有効成分を適当な方法により無菌化したのち、これを別々に、または物理的に混合した後、その一定量を分割製剤化する方法がある。溶剤形態を選ぶ場合には活性成分を適当な媒体に溶解し、これを滅菌濾過したのち適当なアンプルまたはバイアルに充填、密封する方法をとることができる。
【0023】
この場合汎用される媒体は注射用蒸留水であるが、本発明においては、これに拘束されるものではない。また必要ならば、塩酸プロカイン、塩酸キシロカイン、ベンジルアルコールおよびフェノールなどの局所麻酔作用を有する無痛化剤、ベンジルアルコール、フェノール、メチル、またはプロピルバクベン、およびクロロブタノールなどの防腐剤、クエン酸、酢酸、リン酸のナトリウム塩などの緩衝剤、エタノール、プロピレングリコール、塩酸アルギニンなどの溶解補助剤、L−システイン、L−メチオニン、L−ヒスチジンなどの安定化剤、さらには等張化剤などの添加剤を添加することも可能である。
【0024】
そしてまた、本発明のガロイルエステル類は、外用剤とすることもできる。外用剤の基材としてワセリン、パラフィン、油脂類、ラノリン、マクロゴールなどを用い、通常の方法によって軟膏剤、クリーム剤などとすることができる。
【0025】
本発明の細菌の蛋白質毒素分泌阻害剤を含有した飲食品は、上記製剤の形態でもよいが、あめ、せんべい、クッキー、飲料などの形態でそれぞれの食品原料に所要量を加えて、一般の製造法により加工製造することもできる。健康食品、機能性食品としての摂取は、病気予防、健康維持に用いられるので、経口摂取として1日数回に分けて、全日量として0.01〜0.2%を含む加工品として摂取される。
【0026】
これらの飲食品に本発明の細菌毒素分泌阻害剤を添加する際には、粉末のまま添加してもよいが、好ましくは1〜2%の水溶液またはアルコール水溶液の溶液あるいはアルコール溶液とし、飲食品に対し最終濃度が0.01〜0.2%となるように添加することが望ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を示すが本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>
オクチルガレート(Octyl gallate)による毒素分泌効果について、SEA、SEB、SEC、そしてTSST−1産生株の培養液を用いて評価した。
<実施例1−1>
SEA産生株No.4株をミュウーラーヒントンブロスを用いて一夜培養した。集菌、洗浄後、種々の濃度のオクチルガレートを含むミュウーラーヒントンブロス全量2mLに再懸濁し、さらに一日培養した。この培養液の上清について、逆受身ラテックス凝集反応(Reversed passive latex agglutination assay:RPLA assay)を行うことにより、毒素の分泌活性に及ぼす影響を評価した。RPLA assayはSET-RPLA(デンカ生研)を用いて行った。その結果、オクチルガレートは濃度依存的に毒素の分泌を抑制した。
【0028】
【表1】

【0029】
<実施例1−2>
実施例1−1と同様に調製したSEB産生株MRSA COL株を用いて、その培養液上清について、実施例1と同様に、毒素の分泌活性に及ぼす影響を評価した。その結果、オクチルガレートはSEBについても濃度依存的に毒素の分泌を抑制した。
【0030】
【表2】

【0031】
<実施例1−3>
実施例1−1と同様に調製したSEC 産生株MRSA No.9株を用いて、その培養液上清について、実施例1と同様に、毒素の分泌活性に及ぼす影響を評価した。その結果、オクチルガレートはSECについても濃度依存的に毒素の分泌を抑制した。
【0032】
【表3】

【0033】
<実施例1−4>
実施例1−3と同様に調製したTSST-1産生株MRSA No.9株を用いて、その培養液上清について、逆受身ラテックス凝集反応(Reversed passive latex agglutination assay:RPLA assay)を行うことにより、毒素の分泌活性に及ぼす影響を評価した。RPLA assayはTSST-RPLA(デンカ生研)を用いて行った。その結果、オクチルガレートは濃度依存的に毒素の分泌を抑制した。
【0034】
【表4】

【0035】
<実施例2>
上記の実施例1−1から1−4において用いているオクチルガレート(Octyl gallate)と、これと同様のAlkyl gallatesの一種であるIsoamyl gallateを用いて、Octyl gallateの場合と対比しつつ、S.aureusの毒素分泌機構に及ぼす影響を評価した。
【0036】
材料と方法は以下のとおりとした。
1.供試菌株
MSSA HCS060603(SEA産生株)
MRSA COL株(SEB産生株)
MRSA 9株(SEB,SEC,TSST-1産生株)
2.微量液体希釈法による最小発育阻止濃度(MIC)の測定
種々の毒素を分泌するS.aureusのAlkyl gallatsの抗菌活性を調べるため、MIC(Minimum Inhibitory Concentration;最小発育阻止濃度)を測定した。抗菌活性の測定は、日本化学療法学会抗菌薬感受性測定法検討委員会提案の方法に従って行った。判定はマイクロプレートリーダーを用いた吸光度測定を行い、培養前と培養後のOD570の値の差が、0.05未満の場合は発育阻止とみなし、その最小の濃度をMICとし、また、0.05以上の場合は発育と認めた。
2−1 試薬と培地
Isoamyl gallate(東京化成)
Octyl gallate(東京化成)
Epigallocatechin gallate(EGCg)(SIGMA)
Dimethyl sulfoxide(DMSO)(関東化学)
感受性測定培地・被検菌増殖培地
MHB
2−2.装置
マイクロプレートリーダー(GENESIS NPS 100,TECAN)
マイクロプレート用ミキサー(BioShaker M・BR-022,TAITEC)
2−3.方法
1)被検菌株をMHBに接種し、37℃、18時間増菌培養する。
【0037】
2)培養液を生理食塩水で5×106 CFU/mLに希釈し、接種用菌液とする。
【0038】
3)種々のGallatesをDMSOに溶かし濾過滅菌した後、2倍段階希釈法によりサンプルを作製する。
【0039】
4)種々の濃度に希釈したサンプルにMHBを加え、薬剤添加液体培地を作製する。
【0040】
5)接種用菌液を、薬剤添加液体培地に1 wellあたり5×105CFU/mLとなるように接種する。
【0041】
6)37℃、24時間培養後マイクロプレートリーダーでOD570を測定し、判定を行う。
3.SEsやTSST-1産生株に対するAlkyl gallatesの影響
3−1.試薬と培地
Octyl gallate
Isoamyl gallate
DMSO
SET-RPLA「生研」
TST-RPLA「生研」
RPLA assay希釈液
被検菌増殖培地
MHB
3−2.装 置
マイクロプレートリーダー(GENESIS NPS 100,TECAN)
マイクロプレート用ミキサー(BioShaker M・BR-022,TAITEC)
卓上遠心分離機(MicrofugeR,BECKMAN)
3−3.方法
1)被検菌株をMHBに接種し、37℃、18時間培養する。
【0042】
2)培養菌液を3000rpm、5分、4℃で遠心し、沈渣を生理食塩水で2回洗浄した後、マイクロプレートリーダーを用いて4×106 CFU/mLに調整する。
【0043】
3)種々のGallateをDMSOに溶かし、種々の濃度に希釈する。
【0044】
4)空試験管に、以下のものを添加し、さらに37℃、15〜20時間培養する。
【0045】
2×MHB 1mL
Octyl gallate 100μL
(Isoamyl gallate)
菌液(4×106 CFU/mL)50μL
DDW 850μL
Total l2mL
5)さらに培養した菌液を生理食塩水で希釈し、マイクロプレートリーダーを用いて4×108 CFU/mLに調整し、3000rpm、20分、4℃で遠心後、上清をエッペンドルフチューブにとる。
【0046】
6)RPLA assayを行い、判定する。
<実施例2−1>
MIC測定
Isoamyl gallate,Octyl gallate,EGCgのMIC値は、表5のとおりの結果を示した。MRSA 9株やCOL株については、既報のものと一致した。
【0047】
【表5】

【0048】
<実施例2−2>
SEA産生株に対するAlkyl gallatesの影響を評価した。
【0049】
供試菌として、SEA産生株であるMSSA HCS060603を使用した。
【0050】
図1は、Isoamyl gallate 20、40、80μg/mL存在下、Octyl gallateについて、5、10、15μg/mL存在下にインキュベーションした培養液のRPLAassayの結果を示している。図1(c)は、Isoamyl gallate,図1(d)はOctyl gallateのRPLAassayの結果に基づいて、培養液中に分泌された毒素濃度を算出したものである。
【0051】
なお、図1(a)、(b)の縦軸はサンプルの希釈倍数である。
【0052】
なお、図1(c)、(d)の縦軸は毒素分泌量を%で、横軸は化合物処理濃度を示している。また、Controlの時の毒素分泌量を100%とした時、化合物処理時の菌体から分泌される毒素分泌量を%で示した。以下、図5まで同じである。
【0053】
Octyl gallateでは、処理濃度に依存してSEA分泌量の抑制がみられ、15μg/mL存在下ではControlと比較して80%減少した。そのときの推定毒素分泌量はおよそ156ng/mLであった。SEAは単独、または他のSEsと共存した形で食中毒を引き起こし、毒素量が200ngでも発症するといわれている。この結果は、Octyl gallateが、このような食中毒の発生を抑制する治療薬となる可能性を強く示唆する結果である。
【0054】
また、Isoamyl gallateも、有効性はOctyl gallateより低いが、80μg/mL存在下での分泌量をControlと比較すると明らかにSEA分泌抑制効果が認められた。
<実施例2−3>
実施例2−2と同様にしてSEBの場合について評価した。
【0055】
供試菌株は、SEB産生株であるMRSACOLと9である。図2は、MRSA COL培養液について、図3はMRSA 9の培養液について、Isoamyl gallate、Octyl gallate存在下でのRPLA assayの結果から、培養液中に分泌された毒素濃度を算出した結果を示したものである。
【0056】
Octyl gallate 7.5μg/mLを添加することによって、MRSA COLについてはほぼ100%、MRSA 9については90%、SEB分泌量が低下した。そのときの推定SEB分泌量はそれぞれ0、156.3ng/mLであった。また、Isoamyl gallateでも同様に濃度依存的にSEB分泌抑制効果が見られ、供試した最大濃度の80μg/mL添加時でそれぞれMRSA COLは90%、MRSA 9は60%の分泌抑制がみられた。この結果は、特にOctyl gallateの場合には、SEA同様、SEBに対しても、食中毒発生を抑制する治療薬となる可能性を強く示唆するものである。
<実施例2−4>
実施例2−2と同様にしてSECの場合について評価した。
【0057】
供試菌はSEC産生株MRSA 9である。図4はIsoamyl gallate 20、40、80μg/mL存在下、図5は、Octyl gallate 2.5、5、7.5μg/mL存在下にインキュベーションした培養液のRPLA assayの結果に基づいて、培養液中に分泌された毒素濃度を算出した結果を示したものである。
【0058】
Octyl gallate非存在下では、分泌されたSECの推定毒素濃度はおよそ3125ng/mLであった。Octyl gallate 7.5μg/mLを添加することによって、SECの分泌はおよそ95%抑制され、推定毒素濃度は156.3ng/mLであった。同様に、Isoamyl gallateの場合、40〜80μg/mLの添加時において分泌を抑制する傾向がみられた。
【0059】
SECはSEAと共存した形で食中毒を引き起こす毒素であるが、この毒素に対してもOctyl gallateが効果的な分泌抑制効果を持っていることが明らかとなった。
<実施例2−5>
実施例2−2と同様にしてTSST−1の場合について評価した。
【0060】
供試菌はTSST-1産生株MRSA 9である。図5は、Isoamyl gallate 20、40、80μg/mL存在下、Octyl gallate2.5、5、7.5μg/mL存在下にインキュベーションした培養液のRPLA assayの結果に基づいて、培養液中に分泌された毒素濃度を算出した結果を示したものである。
【0061】
Octyl gallate 7.5μg/mLを添加することによって、TSST-1の分泌は98%まで抑制された。TSST-1の推定分泌濃度は、およそ1563ng/mLから31.3ng/mLにまで減少した。Isoamyl gallateでも80μg/mLにおいて、わずかではあるが分泌抑制効果が見られた。
【0062】
臨床の場において、MRSAのTSST-1産生株はかなり高い頻度で分離されており、TSSは長期入院による免疫力の低下によってより発症しやすくなることから、本症発症の原因として、TSST-1中和抗体の保有率の差が大きな一因と考えてられている。そのため、発症したTSSによってさらに入院生活が長期になるという悪循環になる。Octyl gallateがTSST-1の分泌を劇的に抑制することが明らかになったことから、Octyl gallateあるいはこれをリード化合物とする新規薬剤の開発により、患者のTSST-1中和抗体の保有率にかかわらず、MRSAを保有するすべての患者のTSS発症抑制が可能となることを意味しており、患者のQOLの改善、ひいてはインフェクションコントロールの面からは入院期間の短縮といった病院経済学の改善にもつながる。
<実施例3>
(n−オクチルガレートの合成)
市販のガレート(1.0g)の無水THF(20ml)溶液に、オクタノール(2ml)DCC(1.2g)を加え、N2雰囲気下室温にて5時間攪拌した。得られた反応液を減圧下で濃縮した後、5%クエン酸水溶液を加え、酢酸エチールアルコールで抽出し、有機層を飽和NaHCO3で洗浄後、MgSO4で乾燥した。濾紙濾過した後、減圧下に濾液の溶媒を留去して得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー「CHCl3−メタノール(99:1)」により精製し、さらにn−hexane−CHCl3から再結晶することによりオクチルガレートを得た。
<実施例4>
オクチルガレート含有の各種剤形のものを調製した。
(錠剤)
オクチルガレート100g、ヒドロキシプロピルセルロース80g、軽質無水ケイ酸20g、乳糖50g、結晶セルロース50g、タルク50gを常法により直径9mm、重量200mgの錠剤とした。
(カプセル剤)
オクチルガレート100g、結晶セルロース100g、乳糖150g軽質無水ケイ酸20gを常法によりカプセル剤とした。
(顆粒剤)
オクチルガレート200g、乳糖200g、ヒドロキシプロピルセルロース300g、タルク15gを常法により顆粒剤とした。
(クリーム剤)
オクチルガレート0.2g、コレステリルイソステアレート1g、ポリエーテル変性シリコーン1.5g、環状シリコーン20g、メチルフェニルポリシロキサン2g、メチルポリシロキサン2g、硫酸マグネシウム0.5g、55%エタノール5g、カルボキシメチルキチン0.5g、精製水(残量)を混合し、クリームとした。
(軟膏)
オクチルガレート0.5g、コレステリルイソステアレート3g、流動パラフィン10g、α−トコフェロール0.1g、グリセリルエーテル1g、グリセリン10g、白色ワセリン2gを混合し、軟膏とした。
(注射剤)
オクチルガレート15mg、ブドウ糖100mgを注射用蒸留水5mlに溶解し、加熱滅菌して注射剤を得た。
(ローション)
オクチルガレート1g、グリセリンモノステアレート1g、エタノール15g、プロピレングリコール4g、イソプロピルパルミテート3g、ラノリン1g、セラミド0.5g、パラオキシ安息香酸メチル0.1g、ビタミンC0.5g、香料、色素少量、精製水72gを混合し、ローションを得た。
(液剤1)
オクチルガレート0.1mg/ml〜0.5mg/ml、エタノール20〜82vol%
(液剤2)
オクチルガレート0.1mg/ml〜0.5mg/ml、エタノール20〜82vol% ポビドンヨード0.01〜1%(w/v)
(液剤3)
オクチルガレート0.1mg/ml〜0.5mg/ml、エタノール0〜82vol% 過マンガン酸カリウム0.01〜0.1%
(液剤4)
オクチルガレート0.1mg/ml〜0.5mg/ml、エタノール0〜82vol% イソプロパノール5〜70vol%
<実施例5>
機能性食品として、ガムなどにオクチルガレートなどのエステル類、たとえば、オクチルガレート、ノニルガレート、デシルガレート、ウンデシルガレート、ドデシルガレートをガム1gあたり0.05〜0.3mg混ぜたガムを得る。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例2−2におけるRPLA−assayの結果と分泌された毒素濃度とガレートの存在量との関係を例示した図である。
【図2】実施例2−3におけるMRSACoL培養液で分泌された毒素濃度とガレートの存在量との関係を例示した図である。
【図3】実施例2−3におけるMRSA9培養液で分泌された毒素濃度とガレートの存在量との関係を例示した図である。
【図4】実施例2−4における分泌された毒素濃度とガレートの存在量との関係を例示した図である。
【図5】実施例2−5における分泌された毒素濃度とガレートの存在量との関係を例示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガロイルエステル類を有効成分として含有することを特徴とする細菌による蛋白質毒素の分泌阻害剤。
【請求項2】
ガロイルエステル類は、次の群の少なくともいずれかの化合物であることを特徴とする請求項1の細菌による蛋白質毒素の分泌阻害剤。
1)炭素数1〜18の範囲の直鎖状にあるいは分枝鎖状のアルキル基がガロイル基とエステル結合したもの、
2)エピガロカテキン、ガロカテキン、エピカテキン、カテキンがガロイル基とエステル結合したもの、
3)キナ酸がガロイル基とエステル結合したもの。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−59057(P2010−59057A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44783(P2007−44783)
【出願日】平成19年2月24日(2007.2.24)
【出願人】(504378308)株式会社マイクロバイオテック (3)
【Fターム(参考)】