説明

蛋白質溶液の処理装置および蛋白質結晶の作製方法

【課題】確度の高い蛋白質結晶化条件に効率よく到達して蛋白質結晶を作製することができる蛋白質溶液の処理装置および蛋白質結晶の作製方法を提供する。
【解決手段】刺激付与工程(STA)において、蛋白質溶液を含む混合液3を収納した複数の容器2のうちの特定の容器2内の混合液3への結晶化促進のための刺激付与を開始した後、他の容器2内の混合液3への刺激付与を所定の時間間隔を置いて順次開始し、特定の容器2について結晶化に関連して生じる変化が検出されたならば、全ての容器2内の混合液3への刺激付与を停止し、刺激付与時間の異なる混合液3を結晶化条件選別のためのサンプルとして準備する。これらのサンプルを保管工程(STB)において所定条件下で保管し、混合液3中に生成された結晶核を成長させて、観察工程(STC)にて結晶化促進度合いを観察することにより、結晶化促進のための至適な刺激付与時間を見いだすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質結晶の作製において蛋白質溶液に結晶核を生成するための所定の処理を行う蛋白質溶液の処理装置および蛋白質溶液から蛋白質結晶を作製する蛋白質結晶の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年遺伝子情報を医療などの分野に有効に利用するための取り組みが活発化しており、その基礎技術として遺伝子の産物である蛋白質の構造を解析する努力が行われている。この蛋白質の構造解析は、蛋白質の3次元立体構造を特定するものであり、NMR(核磁気共鳴)やX線結晶構造解析などの方法によって行われる。このような蛋白質の構造解析は、分子量2万以下の蛋白質はNMR装置を用いて溶液状で可能であるが、大部分を占める分子量2万以上の蛋白質は、まず結晶化することが求められ、従来より知られている蒸気拡散法やマイクロバッチ法などの結晶化方法とともに、各種の結晶化のための方法や結晶化条件スクリーニング方法が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1には、蛋白質などの巨大分子の溶液に光を照射することにより、巨大分子結晶の核を形成し成長させることが可能であるとの知見が開示されている。また特許文献2においては、蛋白質溶液の低度の過飽和溶液にレーザ光を照射することにより蛋白質の結晶核を生成することが可能であるとの知見に基づき、レーザ光照射によって生成した結晶核を成長させることによって蛋白質結晶を得る方法や、結晶核の生成の有無を判定することにより望ましい結晶化条件を求める方法などが開示されている。このような知見に基づいて蛋白質の結晶化を模索することにより、従来は熟練研究者の勘と経験に頼るしか方策がなかった蛋白質結晶化条件のスクリーニング作業を、より効率的に行えるようになることが期待されている。
【特許文献1】特開2003−306497号公報
【特許文献2】国際公開第2004/018744号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献例においては光照射やレーザ光照射によって蛋白質の結晶化が可能であるという知見レベルにとどまっており、これらの文献に開示された技術のみでは、蛋白質結晶化や結晶化条件のスクリーニングを効率よく行うことにはなお困難があった。すなわち良好な蛋白質結晶化の結果を与える光照射やレーザ光照射の条件に到達するには、いずれの例においても幾通りもの試行を行って蛋白質の結晶核の有無を判定するなどの試行錯誤的な作業が不可欠であり、実用的な意味において理詰めで確度の高い結晶化条件に効率よく到達して蛋白質結晶を再現性よく作製することが可能な実用レベルの技術には達していなかった。
【0005】
そこで本発明は、確度の高い蛋白質結晶化条件に効率よく到達して蛋白質結晶を作製することができる蛋白質溶液の処理装置および蛋白質結晶の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の蛋白質溶液の処理装置は、蛋白質結晶の作製において蛋白質溶液に結晶核を生成するための所定の処理を行う蛋白質溶液の処理装置であって、前記蛋白質溶液を含む液体を収納した溶液を複数個保持可能な容器保持部と、前記容器保持部に保持された前記容器内の液体に対して結晶核の生成を促進するための刺激を付与する刺激付与手段と、前記
刺激付与手段による刺激の付与を、前記複数の容器のうち特定の容器から開始させ、この後他の容器内の液体に対して前記刺激の付与を所定の時間間隔を置いて順次開始させる刺激付与開始手段と、前記複数の容器のうち特定の容器における前記液体の変化を検出した検出結果に基づいて、全ての前記複数の容器について容器内の液体に対する刺激の付与を停止させる刺激付与停止手段とを備えた。
【0007】
本発明の蛋白質結晶の作製方法は、蛋白質溶液に所定の処理を行うことにより生成された結晶核を成長させて蛋白質の結晶を作製する蛋白質結晶の作製方法であって、前記蛋白質溶液および結晶化溶液を含む液体を収納した複数の容器を準備し、前記複数の容器のうちの特定の容器内の液体に対して結晶核の生成を促進するための刺激の付与を開始し、前記特定の容器内の前記液体に対しする刺激の付与を開始した後、他の容器内の液体に対して前記刺激の付与を所定の時間間隔を置いて順次開始し、前記特定の容器内の液体の変化を監視する過程において前記変化が検出されたならば、全ての前記容器内の液体に対する前記刺激の付与を停止し、前記刺激を付与された複数の容器内の前記液体を所定条件下で保管することにより、前記複数の容器内の前記液体中に生成された結晶核を成長させて前記蛋白質結晶を作製する。
【0008】
また本発明の蛋白質結晶の作製方法は、蛋白質溶液に所定の処理を行うことにより生成された結晶核を成長させて蛋白質の結晶を作製する蛋白質結晶の作製方法であって、前記蛋白質溶液を含む液体を収納した複数の容器を準備し、前記複数の容器のうちの特定の容器内の液体に対して結晶核の生成を促進するための刺激の付与を開始し、前記特定の容器内の前記液体に対する刺激の付与を開始した後、他の容器内の液体に対して前記刺激の付与を所定の時間間隔を置いて順次開始し、前記特定の容器内の前記液体の変化を監視する過程において前記変化が検出されたならば、全ての前記容器内の液体に対する前記刺激の付与を停止し、前記刺激を付与された複数の容器内の前記液体を結晶化溶液を含む液体と混合した混合液を所定条件下で保管することにより、前記複数の容器内の前記混合液中に生成された結晶核を成長させて前記蛋白質結晶を作製する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、蛋白質溶液を含む液体を収納した複数の容器のうちの特定の容器内の液体に対する結晶化促進のための刺激の付与を開始した後、他の容器内の液体に対して刺激の付与を所定の時間間隔を置いて順次開始し、特定の容器内の液体の変化を監視する過程において結晶化に関連して液体に生じる変化が検出されたならば、全ての容器内の液体に対する刺激の付与を停止することにより、刺激付与時間の異なる液体を収納した複数の容器が結晶化条件選別のためのサンプルとして準備される。そしてこれら刺激を付与された複数の容器内の液体を所定条件下で保管し、複数の容器内の混合液中に生成された結晶核を成長させて蛋白質結晶を作製することにより、結晶化促進のための至適な刺激付与時間を見出すことが可能となり、確度の高い蛋白質結晶化条件に効率よく到達して蛋白質結晶を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1の蛋白質溶液の処理装置の構成を示すブロック図、図2は本発明の実施の形態1の蛋白質結晶の作製方法の工程説明図、図3は本発明の実施の形態1の蛋白質結晶の作製方法における刺激付与工程のフロー図、図4は本発明の実施の形態1における結晶核の生成条件を示すフロー図、図5,図6,図7は本発明の実施の形態1の蛋白質溶液の処理装置の構成を示すブロック図、図8は本発明の実施の形態1における結晶化促進度合いの判定のために行われた試験結果の説明図である。
【0011】
まず図1を参照して、蛋白質溶液の処理装置1の構成を説明する。蛋白質溶液の処理装
置1は、蛋白質の構造解析を目的とする蛋白質結晶の作製において結晶化条件をスクリーニングするための一連の試験作業に用いられ、蛋白質溶液における結晶核を生成するための所定の処理を行う機能を有するものである。
【0012】
図1において、容器2A,2B,2C,2D,2Eはいずれもガラスや樹脂など透明な材質で製作された試料収納用の容器であり、容器2A,2B,2C,2D,2Eには、処理対象となる混合液3(液体)が収納されている。混合液3は蛋白質溶液3aと結晶化溶液3bを混合したものであり、容器2A,2B,2C,2D,2Eはそれぞれ容器保持器4A,4B,4C,4D,4Eによって保持されている。なお以下の記載では、各容器2A〜2E、各容器保持器4A〜4Eを個別に区別する必要がない場合には、単に容器2、容器保持器4と記述する。すなわち容器保持器4の集合体は、蛋白質溶液3aを含む混合液3(液体)を収納した容器2を複数個保持可能な容器保持部を構成する。
【0013】
容器保持器4A,4B,4C,4D,4Eはそれぞれ加振器5A,5B,5C,5D,5Eに装着されており、制御部7によって加振器5A,5B,5C,5D,5Eを作動させることにより、容器2A,2B,2C,2D,2Eのそれぞれに収納された混合液3には、所定の振動数・振幅の機械的な振動が付与される。混合液3に対するこのような機械的な振動の付与は、混合液3に含まれる蛋白質溶液3aに対する物理的な刺激となり、この刺激により蛋白質結晶化に不可欠な結晶核の生成を促進させる作用を有する。したがって、加振器5A,5B,5C,5D,5Eおよびこれらを作動させる制御部7は、容器保持部に保持された容器2内の混合液3に対して結晶核の生成を促進するための刺激を付与する刺激付与手段となっている。
【0014】
これらの複数の容器2のうち、特定の容器2(ここでは左端に位置する容器2A)を検出対象として、白濁検出センサ6が設けられており、白濁検出センサ6による検出結果は制御部7に伝達される。ここでは、振動付与に伴って容器2Aの内部の混合液3に生じる光学的な変化である白濁現象を、白濁検出センサ6によって検出する。この白濁は、混合液3内において蛋白質の結晶核が生成することに起因して生じるものであり、機械的な振動などの物理的な刺激によって発生が促進される。
【0015】
なお混合液3内における白濁は、結晶核が成長して蛋白質の結晶が生成されたことを直接に示すものではなく、まだ結晶に到らない段階における結晶核の変性や凝集による変化が光学的に検知可能となったことを示すものである。換言すれば、白濁が検出された混合液3については、白濁検出に先立ついずれかの時点において、混合液3に蛋白質の結晶核が生成された可能性が高いことを示している。したがって白濁検出センサ6は、特定の容器である容器2Aを対象として混合液3の変化、すなわち蛋白質の結晶核の生成に起因する変化を検出する検出手段となっている。
【0016】
制御部7は、加振器5A,5B,5C,5D,5Eによる振動付与動作を時間的に制御するため、4つの遅れタイマDT1,DT2,DT3、DT4、時限タイマLT1および5つの時間計測タイマRT1,RT2,RT3,RT4、RT5を内蔵している。遅れタイマDT1,DT2,DT3、DT4は、加振器5A,5B,5C,5D,5Eを所定の時間間隔で順次作動させるための動作遅れ時間を計時する機能を有している。すなわち最初に作動開始する加振器5Aの作動開始と同時に遅れタイマDT1の計時がスタートする。この後、遅れタイマDT1がタイムアップすることにより次の加振器5Bが作動開始するとともに、遅れタイマDT2の計時がスタートする。そして同様の動作制御が、他の加振器5C〜5E、遅れタイマDT3、DT4についても順次実行される。これにより、加振器5A,5B,5C,5D,5Eは、加振器5Aが作動を開始した後、遅れタイマDT1,DT2,DT3、DT4によって規定される遅れ時間が経過するたびに、順次動作を開始する。
【0017】
時限タイマ9は、蛋白質溶液の処理装置1による処理継続時間が、予め上限値として定められた時間に到達したか否かを計時する。すなわち加振器5A,5B,5C,5D,5Eが順次作動を開始して、予め設定された処理継続時間が経過したことが時限タイマ9のタイムアップによって確認された場合には、制御部7は全ての加振器5A〜5Eの動作を停止する。時間計測タイマRT1,RT2,RT3,RT4、RT5は、加振器5A,5B,5C,5D,5Eによってそれぞれ容器2A,2B,2C,2D,2Eに対して振動が付与された実際の振動付与時間を計測して計測結果を記憶する機能を有している。
【0018】
上記構成において、4つの遅れタイマDT1〜DT4を内蔵した制御部7は、刺激付与手段である加振器5A,5B,5C,5D,5Eによる刺激の付与を、複数の容器2のうち特定の容器2Aから開始させ、この後他の容器5B,5C,5D,5E内の混合液3に対して刺激の付与を所定の時間間隔を置いて順次開始させる刺激付与開始手段であるとともに、特定の容器2Aにおける混合液3の変化を検出した検出結果に基づいて、全ての複数の容器2について容器2内の混合液3に対する刺激の付与を停止させる刺激付与停止手段として機能している。そしてこの刺激付与停止手段は、特定の容器2Aを対象として混合液3の変化を検出する検出手段である白濁検出センサ6の検出結果に基づいて、刺激の付与を停止させる構成となっている。
【0019】
操作・入力部8はキーボードやマウスなどの入力装置であり、蛋白質溶液の処理装置1を作動させるための指令や、遅れタイマDT1〜DT4に設定される遅れ時間の入力などの操作を行う。表示部9は液晶装置などの表示パネルであり、操作・入力部8による操作時の案内画面や、時間計測タイマRT1〜RT5による計時結果の表示を行う。なお、白濁検出センサ6によって容器2A内の白濁を検出する代わりに、蛋白質溶液の処理装置1による処理作業を実行する作業者が容器2A内を目視により観察し、混合液3内に白濁が生じたことを視認して操作・入力部8からその旨入力することにより、刺激付与を停止するようにしてもよい。この場合には、刺激付与停止手段は、特定の容器である容器2Aを観察する作業者が液体の変化を検出することにより行う所定の操作入力に基づいて、刺激の付与を停止させる形態となっている。
【0020】
図2は、図1に示す蛋白質溶液の処理装置1を用いて行われる蛋白質結晶の製造方法の工程フローを示している。本実施の形態に示す蛋白質結晶の製造方法では、容器2に収納された混合液3(蛋白質溶液3a、結晶化溶液3bの混合液)に対して、まず機械的な振動などの物理的な刺激を付与する刺激付与工程(STA)を実行し、混合液3内において結晶核を生成させる。この後、刺激付与工程にて生成した結晶核を成長させることを目的として、混合液3を収納した容器2をインキュベータなどで所定環境下で保管する保管工程(STB)を実行し、さらに所定の保管時間が経過した混合液3を観察して結晶化の促進度合いを判定するための観察工程(STC)を実行する。このとき、刺激付与工程にて適正な刺激が付与されることにより結晶化に適した結晶核が生成し、混合液3a内においてこの結晶核の結晶化が良好に促進されることにより、時間の経過とともに混合液3内には結晶核が蛋白質結晶に成長し、観察工程において蛋白質結晶10の生成が確認される。
【0021】
このような混合液3に対する物理的な刺激の付与が、結晶核の生成促進に寄与することは、特許文献1,2に示されているように、従来より定性的な知見としては得られていた。しかしながら、どの程度の強さの振動をどの程度の時間継続して付与することが結晶核の生成に対して最も有効であるかについては、現状においてもまだ解明されておらず、現段階では至適と思われる刺激付与条件を、試行により探るしか有効な方策がない実情にある。このため、本実施の形態に示す蛋白質結晶の製造方法においては、結晶核の生成のための至適な条件を見いだすため、以下に説明するように振動付与時間を異ならせた複数のサンプルを作製し、これらの複数のサンプルを所定条件下で保管して結晶化の促進度合い
を観察することにより、結晶核の生成の上での至適な刺激付与条件を推定するようにしている。
【0022】
次に図3を参照して、図2に示す刺激付与工程(STA)の詳細ステップを説明する。なお、以下の説明では、図1にて示した蛋白質結晶液の処理装置1を用いた刺激付与工程が示され、物理的な刺激付与の方法として加振器による機械的な振動付与が用いられているが、刺激付与の具体的な形態としては機械的な振動に限定されるものではなく、後述するような光照射によって刺激を付与する方法や、機械的な振動と光照射を組み合わせた方法であってもよい。
【0023】
まず操作・入力部8から処理動作を開始する旨の操作入力がなされると、制御部7から刺激付与手段である加振器5Aに動作指令が出力され、これにより容器2Aに対する刺激付与が開始される(ST1)。これと同時に、時間計測タイマRT1,時限タイマLTによる計時、遅れタイマDT1〜DT4による計時がスタートする。次いで遅れタイマDT1がタイムアップしたか否かが確認され(ST2)、ここでNOであれば次ステップをスキップして(ST4)に進み、YESであれば制御部7が加振器5Bに対して動作指令を出力することにより、容器2Bに対する刺激付与が開始される(ST3)。そしてこれとともに、時間計測タイマRT2による計時がスタートする。
【0024】
この後遅れタイマDT2がタイムアップしたか否かが確認され(ST4)、ここでNOであれば、次ステップをスキップして(ST6)に進み、YESであれば、制御部7が加振器5Cに対して動作指令を出力することにより、容器2Cに対する刺激付与が開始される(ST5)。そしてこれとともに、時間計測タイマRT3による計時がスタートする。次いで遅れタイマDT3がタイムアップしたか否かが確認され(ST6)、ここでNOであれば、次ステップをスキップして(ST8)に進み、YESであれば、制御部7が加振器5Dに対して動作指令を出力することにより、容器2Dに対する刺激付与が開始される(ST7)。そしてこれとともに、時間計測タイマRT4による計時がスタートする。
【0025】
この後さらに遅れタイマDT4がタイムアップしたか否かが確認され(ST8)、ここでNOであれば次ステップをスキップして(ST10)に進み、YESであれば、制御部7が加振器5Eに対して動作指令を出力することにより、容器2Eに対する刺激付与が開始される(ST9)。そしてこれとともに、時間計測タイマRT5による計時がスタートする。次いで、白濁検出センサ6によって容器2Aにおける混合液3内の白濁が検出されたか否かを確認する。ここでYESであれば、全ての容器2に対する刺激付与を停止するとともに、全てのタイマを停止する(ST12)。そして時間計測タイマRT1からRT5によって計測された各容器2への刺激付与時間の計測結果を表示部9に表示して、全ての処理を終了する。
【0026】
また(ST10)にてNOであれば、時限タイマLTがタイムアップしたか否かを確認し(ST11)、未だタイムアップしていない場合には(ST2)に戻って同様の処理ステップを反復実行する。(ST11)においてタイムアップしている場合には、蛋白質溶液の処理装置1による処理継続時間が所定の上限時間に到達していると判断し、全ての容器2に対する刺激付与を停止するとともに、全てのタイマを停止する(ST14)。次いで所定の上限時間が経過した後においてもなお白濁未検出である旨を表示部9に表示して、全ての処理を終了する。
【0027】
このようにして5つの容器2A〜2Eに収納された混合液3を対象として刺激付与を実行することにより、図4に示すように、刺激が付与された付与時間がそれぞれ異なる5種類のサンプルS1〜S5が準備される。すなわちサンプルS1〜S5はそれぞれ、異なる付与時間Ts1〜Ts5だけ機械的な振動による刺激が付与されており、付与時間Ts1
〜Ts5の相互には、遅れタイマ(DT1〜DT4)によって設定される遅れ時間に相当する時間差がある。これらのサンプルS1〜S5は、保管工程(STB)にてインキュベータなどの装置によって所定の環境条件下で保管される。そしてこの保管工程を経たのち、観察工程(STC)において、サンプルS1〜S5を対象として混合液3内での結晶の有無が観察される。
【0028】
ここでは、付与時間が最も長いサンプルS1(付与時間Ts1)には蛋白質結晶10が観察されず、2番目および3番目に長い付与時間に対応するサンプルS2,S3(付与時間Ts2,Ts3)において、蛋白質結晶10が観察されている。そして4番目および5番目に長い付与時間に対応するサンプルS4,S5(付与時間Ts4,Ts5)においては、蛋白質結晶10が観察されていない。このことより、蛋白質の結晶生成に最適の付与時間は、混合液3において白濁が検出されるに到る付与時間Ts1よりも短い時間であることが判る。
【0029】
すなわち、図2,図4に示す蛋白質結晶の作製方法は、蛋白質溶液に所定の処理を行うことにより生成された結晶核を成長させて蛋白質の結晶を作製する蛋白質結晶の作製方法であって、蛋白質溶液3aおよび結晶化溶液3bを含む混合液3を収納した複数の容器2を準備し、複数の容器2のうちの特定の容器2A内の混合液3に対して結晶核の生成を促進するための刺激の付与を開始し、特定の容器2A内の混合液3に対する刺激の付与を開始した後、他の容器2内の混合液3に対して刺激の付与を所定の時間間隔を置いて順次開始するようにしている。そして特定の容器2A内の混合液3の変化を監視する過程において、混合液3の変化が検出されたならば、全ての容器2内の混合液3に対する刺激の付与を停止し、刺激を付与された複数の容器2内の混合液3を所定条件下で保管することにより、複数の容器2内の混合液3中に生成された結晶核を成長させて蛋白質結晶を作製するようにしている。なお本実施の形態においては、前述のように混合液3の変化は混合液3の白濁であり、この白濁を白濁検出センサ6によって光学的に検出するようにしている。
【0030】
なお、前述の刺激付与手段および刺激付与開始手段、刺激付与停止手段の構成としては、図1に示す蛋白質溶液の処理装置1の構成例以外にも、図5に示す蛋白質溶液の処理装置1Aの構成を用いてもよい。図5において、蛋白質溶液の処理装置1Aは、容器収納部14、容器加振部16および容器移載機構20を備え、これらを制御部7によって制御する構成となっている。制御部7は蛋白質溶液の処理装置1に示す制御部7と同様に、4つの遅れタイマDT1〜DT4、時限タイマLT1および5つの時間計測タイマRT1〜RT5を内蔵しており、それぞれ蛋白質溶液の処理装置1におけるものと同様の機能を果たす。
【0031】
容器収納部14は基部14a上に容器保持部15を載置して構成されており、容器保持部15に設けられた複数の保持孔15aには、振動付与処理前の混合液3を収納した複数の容器2が保持されている。容器加振部16は、加振器18上に容器保持部17を結合した構成となっており、容器保持部17に設けられた複数の保持孔17aには、振動付与対象の混合液3を収納した複数の容器2が保持される。制御部7によって加振器18を作動させた状態で、容器保持部17に容器2を保持させることにより、当該容器2には機械的な振動が付与される。容器加振部16において、最初に移載される容器2Aが保持される位置には、蛋白質溶液の処理装置1と同様の白濁検出センサ6が配設されており、容器2Aに収納された混合液3の変化である白濁を光学的に検出することができるようになっている。
【0032】
容器収納部14および容器加振部16の上方には、移動テーブル21に沿って移載ヘッド22を水平移動させる構成の容器移載機構20が配設されている。移載ヘッド22は、昇降機構23によって昇降する昇降軸24の下端部に、把持機構25を装着した構成とな
っている。把持機構25は2つの把持チャック25aによって容器2を把持可能となっており、このような構成の容器移載機構20を制御部7によって制御することにより、容器収納部14に保持された容器2を容器加振部16に移載することができる。図5では、当初容器収納部14に保持されていた5つの容器2A、2B,2C,2D,2Eのうち、容器2A、2Bが容器加振部16に移載されて、容器保持部17に保持された状態を示している。
【0033】
制御部7によって容器移載機構20の移載動作を制御する際には、蛋白質溶液の処理装置1Aの処理動作開始によって制御部7から容器移載機構20に対して動作指令が出力され、これによりまず最初に容器2Aが容器収納部14から容器加振部16に移載される。次いで、遅れタイマDT1〜DT4が順次タイムアップするたびに、容器2B、2C,2D,2Eの順で順次容器収納部14から容器加振部16に移載される。このとき、加振器18による振動付与が継続していることにより、容器加振部16に順次移載される容器2に対して、遅れタイマDT1〜DT4のそれぞれに設定された遅れ時間の時間間隔で順次振動付与が開始される。これにより、単一の加振器18によって複数の容器2に対して異なる付与時間で振動を付与することが可能となっている。
【0034】
すなわちこの構成においては、遅れタイマDT1〜DT4を備えた制御部7および容器移載機構20が、刺激付与手段である加振器18による刺激の付与を、複数の容器2のうち特定の容器2Aから開始させ、この後他の容器2内の混合液3に対して刺激の付与を所定の時間間隔を置いて順次開始させる刺激付与開始手段となっている。また制御部7は、複数の容器2のうち特定の容器2Aにおける混合液3の変化を検出した検出結果に基づいて、全ての複数の容器2について容器2内の混合液3に対する刺激の付与を停止させる刺激付与停止手段として機能している。そしてこの刺激付与停止手段は、特定の容器2Aを対象として混合液3の変化を検出する検出手段である白濁検出センサ6の検出結果に基づいて、刺激の付与を停止させる構成となっている。
【0035】
また蛋白質溶液の処理装置1、蛋白質溶液の処理装置1Aにおいては、混合液3内に結晶核を生成するための物理的な刺激として、加振器による機械的な振動を付与する例を示したが、物理的な刺激としては振動には限定されず、光を照射することによっても同様の効果を得ることができる。光照射の光源としては、紫外線光源、レーザ光光源、水銀灯、キセノンランプ、ハロゲンランプなどを用いる。このように、光照射によって物理的な刺激の付与を行う構成例について、図6,図7を参照して説明する。
【0036】
まず図6に示す蛋白質溶液の処理装置1Bは、容器2を保持するための保持孔30aが平面配置で複数設けられた容器保持部30を備えており、容器保持部30は、複数の容器2を保持可能となっている。容器保持部30の上方には、各保持孔30aの位置に対応して、個別に点灯制御が可能な複数の光源部32A,32B,32C,32Eが配設されており、保持孔30aに容器2A,2B,2C,2D,2Eをそれぞれ保持させた状態において、光源部32A,32B,32C,32Eは、容器2A,2B,2C,2D,2Eの上方に位置する。
【0037】
容器保持部30において、保持孔30aの両側には遮光部31が立設されており、容器2A,2B,2C,2D,2Eは、それぞれその両側を遮光部31によって遮蔽される。これにより隣接する光源から照射される光や外部からの光が各容器2に照射されることを防止するようになっている。これら複数の容器2のうち、特定の容器2Aには蛋白質溶液の処理装置1と同様の白濁検出センサ6が配設されており、容器2Aに収納された混合液3内における白濁など、混合液3の変化を光学的に検出することができるようになっている。
【0038】
光源部32A,32B,32C,32Eは制御部7によって個別に点灯制御され、白濁検出センサ6の検出結果は制御部7に伝達される。制御部7の構成は、蛋白質溶液の処理装置1に示す制御部7と同様に、4つの遅れタイマDT1〜DT4、時限タイマLT1および5つの時間計測タイマRT1〜RT5を内蔵している。制御部7によって光源部32A,32B,32C,32Eを点灯させる際には、まず最初に光源部32Aを点灯して容器2Aに対する光照射を開始する。次いで遅れタイマDT1〜DT4が順次タイムアップするたびに、光源部32B、32C,32D,32Eをこの順序で順次点灯させる。これにより、複数の容器2A,2B,2C,2D,2Eに対して、対応した各光源部による光の照射が所定の時間間隔を置いて順次開始される。そして白濁検出センサ6が容器2A内の混合液3における白濁を検出することにより、制御部7は全ての光源部32B、32C,32D,32Eの点灯を停止させ、これにより、容器2A,2B,2C,2D,2Eに対する光照射は停止する。
【0039】
すなわち上記構成において、光源部32A,32B,32C,32D,32Eおよびこれらを作動させる制御部7は、容器保持部30に保持された容器2内の混合液3に対して結晶核の生成を促進するための刺激の付与としての光照射を行う刺激付与手段となっている。遅れタイマDT1〜DT4を備えた制御部7は、刺激付与手段である光源部32A,32B,32C,32D,32Eによる光照射を、複数の容器2のうち特定の容器2Aから開始させ、この後他の容器2内の混合液に対する光照射を所定の時間間隔を置いて順次開始させる刺激付与開始手段となっている。また制御部7は、複数の容器2のうち特定の容器2Aにおける混合液3の変化を検出した検出結果に基づいて、全ての複数の容器2について容器2内の混合液3に対する光照射を停止させる刺激付与停止手段として機能している。そしてこの刺激付与停止手段は、特定の容器2Aを対象として混合液3の変化を検出する検出手段である白濁検出センサ6の検出結果に基づいて、光照射を停止させる構成となっている。
【0040】
また図7に示す蛋白質溶液の処理装置1Cは、図6の蛋白質溶液の処理装置1Bにおいては個別に点灯制御される光源部32A、32B、32C,32D,32Eに代えて、容器2A,2B,2C,2D,2Eの上方に配置された常時点灯する共通の光源部32を備えている。光源部32と容器2A,2B,2C,2D,2Eとの間には、個別に開閉制御可能なシャッタ33A、33B、33C,33D,33Eが配設されており、シャッタ33A、33B、33C,33D,33Eを制御部7によって個別に開閉制御することにより、光源部32からの光を、シャッタ33A、33B、33C,33D,33Eのうち開放状態となったシャッタのみを介して、容器2A,2B,2C,2D,2Eに選択的に照射することができるようになっている。
【0041】
蛋白質溶液の処理装置1Cによる処理作業に際しては、まず光源部32を点灯させた状態において、制御部7によってシャッタ33Aを開放して、容器2Aに対する光照射を開始する。次いで遅れタイマDT1〜DT4が順次タイムアップするたびに、シャッタ33B、33C,33D,33Eをこの順序で順次開放させる。これにより、複数の容器2A,2B,2C,2D,2Eに対して光源部32による光の照射が所定の時間間隔を置いて順次開始される。そして白濁検出センサ6が容器2A内の混合液3における白濁を検出することにより、制御部7は全てのシャッタ33A、33B、33C,33D,33Eを閉止して光源部32からの光を遮光する。これにより、容器2A,2B,2C,2D,2Eに対する光照射は停止する。
【0042】
すなわち上記構成において、光源部32は容器保持部30に保持された容器2内の混合液3に対して結晶核の生成を促進するための刺激の付与としての光照射を行う刺激付与手段となっている。また遅れタイマDT1〜DT4を備え、シャッタ33A,33B,33C,33D,33Eの開閉制御を行う制御部7は、刺激付与手段である光源部32による
光照射を、複数の容器2のうち特定の容器2Aから開始させ、この後他の容器2内の混合液3に対する光照射を所定の時間間隔を置いて順次開始させる刺激付与開始手段となっている。また制御部7は、複数の容器2のうち特定の容器2Aにおける液体の変化を検出した検出結果に基づいて、全ての複数の容器2について容器2内の混合液3に対する光照射を停止させる刺激付与停止手段として機能している。そしてこの刺激付与停止手段は、特定の容器2を対象として混合液3の変化を検出する検出手段である白濁検出センサ6の検出結果に基づいて、光照射を停止させる構成となっている。
【0043】
なお上記各実施例において、蛋白質溶液の処理装置1、蛋白質溶液の処理装置1Aでは混合液3への刺激を付与する方法として、機械的な振動を付与するようにしており、また蛋白質溶液の処理装置1B、蛋白質溶液の処理装置1Cでは、光照射によって混合液3に対して刺激を付与するようにしているが、図2,図4に示す蛋白質結晶の製造方法において、機械的な振動の付与と光照射とを組み合わせることによって混合液3に刺激を付与するようにしてもよい。
【0044】
次に本実施の形態1に示す蛋白質結晶の製造方法における刺激の付与時間と結晶化促進度合いとの関連を実証するために行った試験例について、図8を参照して説明する。ここでは、蛋白質溶液であるLysozyme(リゾチーム)溶液と結晶化溶液とを混合した混合液に対して、光照射による刺激を付与することにより混合液内において蛋白質の結晶化を行わせるようにしている。
【0045】
実験手順を説明する。まず、マイクロプレートの各ウェルにパラフィンオイルを100μl注ぎ、ウェルのオイル中で結晶化溶液である1.4MNaCl・0.2%PEG8000(50mM酢酸緩衝液pH4.3)と、蛋白質溶液である14mg/mlLysozyme(50mM酢酸緩衝液pH4.3)を等量混合した。(最終濃度:7mg/mlLysozyme、0.7MNaCl・0.1%PEG8000)。ここでは、7通りの異なる光照射時間について試験を行うため、サンプルS1〜S7の7通りのサンプルを作成した。
【0046】
次いでマイクロプレートのウェル中の混合液に対して、オイル越しにキセノンランプによって光照射した。照射時間はサンプルS1〜S7について、それぞれ0、0.5、1、1.5、2、3、4分である。そして光照射後のウェル中における白濁の有無を目視判定した結果、照射時間3〜4分頃より白濁が認められた。この後、各ウェルに対して2000rpmの回転数により加振した後、温度20℃、湿度50%の環境下で1日間保管して結晶生成を行わせた。そしてウェル内を観察することにより、混合液内における結晶化促進度合いを判定した。ここでは、短辺が20μm以上のものを蛋白質の結晶と定義している。
【0047】
なお、白濁の判定は、目視結果が以下の判定基準に示すX、△、○の3段階のいずれに該当するかによって決定した。すなわち、全く白濁が認められない場合はX判定、白濁かどうか疑わしい場合には△判定、目視可能な白濁が認められる場合には○判定とした。また結晶化促進度合いの判定は、目視結果が以下の判定基準に示す0、1、2の3段階のいずれに該当するかによって決定した。すなわち、光照射時間0分で加振なしのサンプル1と同等である場合には0判定、サンプル1に対して結晶出現頻度・結晶数とも僅かに増大している場合には1判定、サンプル1に対して結晶出現頻度・結晶数とも明らかに増大している場合には2判定とした。
【0048】
図8に示すように、白濁は光照射時間が長いサンプルS6,S7にて検出されており、白濁の発生にはある程度以上の刺激付与時間の経過が必要であることが判る。これに対し、1日後の結晶化促進度合は、サンプルS2,S5において1判定、サンプルS3,S4
において2判定となっている。すなわち刺激付与時間との関連において結晶化促進度合は白濁の発生とは直接的な対応関係にはなく、白濁発生の前に刺激の付与を停止した方が、却って結晶化の促進度合いが良好であることが判る。すなわち、目視や光学的検知によって検出される白濁は、蛋白質結晶が成長したことを示す変化ではなく、結晶化に到る確率が高い結晶核を有効に生成させるには、白濁が発生に対応した刺激付与時間の経過より前に刺激付与を停止すればよい。例えば図8に示す実験例では、白濁が目視できる刺激付与時間の1/2〜1/4の時間に刺激付与時間を設定することによって、良好な結晶化促進効果が得られることを示している。
【0049】
(実施の形態2)
図9は本発明の実施の形態2の蛋白質結晶の作製方法の工程説明図、図10は本発明の実施の形態2における結晶化促進度合いの判定のために行われた試験結果の説明図である。
【0050】
実施の形態1においては、図2に示すように、蛋白質溶液3aと結晶化溶液3bとが予め混合された混合液3に対して刺激付与を行う例を示したが、本実施の形態2においては、図9に示すように、容器2に収納された蛋白質溶液3aを含む液体を刺激付与の対象とし、光照射や機械的な振動によって刺激が付与された後の蛋白質溶液3aを含む液体を、結晶化溶液3bと混合しするようにしている。すなわち実施の形態2においては、図2に示す刺激付与工程(STA)、保管工程(STB)、観察工程(STC)より成る処理フローと比較して、刺激付与工程と保管工程との間に結晶化溶液混合工程(STD)が追加された工程構成となっている。
【0051】
結晶化溶液混合工程(STD)においては、結晶化溶液3bを含む液体3dが予め容れられた容器102に、刺激付与工程(STA)にて所定時間の刺激付与が行われた後の蛋白質溶液3aを含む液体3cを混合して、結晶化の対象となる混合液3を調製する。そして容器102内の混合液3を対象として、保管工程(STB)、観察工程(STC)が実行される。
【0052】
すなわち図9に示す蛋白質結晶の作製方法は、蛋白質溶液に所定の処理を行うことにより生成された結晶核を成長させて蛋白質の結晶を作製する蛋白質結晶の作製方法であって、蛋白質溶液3aを含む液体3cを収納した複数の容器2を準備し、これら複数の容器2のうちの特定の容器2A内の液体3cに対して結晶核の生成を促進するための刺激の付与を開始し、特定の容器2A内の液体3cに対する刺激の付与を開始した後、他の容器2内の液体3cに対して刺激の付与を所定の時間間隔を置いて順次開始し、特定の容器2A内の液体3cの変化を監視する過程において変化が検出されたならば、全ての容器2内の液体3cに対する刺激の付与を停止する。
【0053】
そして刺激を付与された複数の容器2内の液体3cを結晶化溶液3bを含む液体3dと混合した混合液3を所定条件下で保管することにより、複数の容器102内の混合液3中に生成された結晶核を成長させて蛋白質結晶を作製するようにしている。また液体3cに対して付与される刺激が、光または機械的な振動のいずれかもしくはこれらの組み合わせであること、さらに液体3cに生じる変化が液体3cの白濁であり、この白濁を光学的に検出することも、実施の形態1と同様である。
【0054】
次に本実施の形態2に示す蛋白質結晶の製造方法における刺激の付与時間と結晶化促進度合いとの関連を実証するために行った試験例について、図10を参照して説明する。ここでは、蛋白質溶液であるLysozyme(リゾチーム)溶液に対して光照射による刺激を付与した後、この蛋白質溶液と結晶化溶液を混合した混合液内において蛋白質の結晶化を行わせるようにしている。
【0055】
実験手順を説明する。まずLysozymeを等電点近傍のpHの緩衝液(100mMCAPS pH10.5)で0.3mg/mlに調整した。この操作により得られたLysozyme溶液を、光路長2mmの石英セルに800μl添加し、キセノンランプにて光照射した。ここでは、7通りの異なる光照射時間について試験を行うため、サンプルS1〜S7の7通りのサンプルを作成し、サンプルS1〜S7について、それぞれ0、1、2、4、6、8、16分の光照射時間で光照射を行った。そして光照射後の各サンプルについて白濁の有無を目視判定した結果、照射時間8分以上で白濁が認められた。
【0056】
次いで33.11mg/mlLysozyme溶液(50mM酢酸緩衝液pH4.3)に、上記光照射後のLysozyme溶液を1/10容量の比率で混合し、濃度が約29.8mg/mlのLysozyme溶液を得た。そして得られたLysozyme溶液とを、結晶化溶液である1.4MNaCl・0.2%PEG8000(50mM酢酸緩衝液pH4.3)とを、予めパラフィンオイルで満たされたマイクロプレートのウェル内で等量混合し、結晶化プレートを作製した。
【0057】
この後、作製された結晶化プレートを温度20℃、湿度50%の環境下で3日間保管して結晶生成を行わせた。そしてウェル内を観察することにより、混合液内における結晶化促進度合いを判定した。ここでも同様に短辺が20μm以上のものを結晶と定義している。また、白濁の判定基準、結晶化促進度合いの判定基準についても、図8に示すものと同様である。
【0058】
図10に示すように、白濁は光照射時間が長いサンプルS6,S7にて検出されており、この場合においても同様に白濁の発生にはある程度以上の刺激付与時間の経過が必要であることが判る。これに対し、3日後の結晶化促進度合は、サンプルS3において2判定、サンプルS4において1判定となっている。すなわちこの場合においても図8に示す例と同様に、刺激付与時間との関連において結晶化促進度合は白濁の発生とは直接的な対応関係にはなく、白濁発生の前に刺激の付与を停止した方が、却って結晶化の促進度合いが良好であることが判る。すなわち、目視や光学的検知によって検出される白濁は、蛋白質結晶が成長したことを示す変化ではなく、結晶化に到る確率が高い結晶核を有効に生成させるには、白濁が発生する刺激付与時間の経過より前に刺激付与を停止すればよい。例えば図10に示す実験例では、白濁が目視できる刺激付与時間の1/4程度の時間に刺激付与時間を設定することによって、良好な結晶化促進効果が得られることを示している。
【0059】
上記説明したように、実施の形態1,2においては、蛋白質溶液を含む液体を収納した複数の容器2のうちの特定の容器2A内の液体に対する結晶化促進のための刺激の付与を開始した後、他の容器2内の液体に対して刺激の付与を所定の時間間隔を置いて順次開始し、特定の容器2A内の液体の変化を監視する過程において結晶化に関連して液体に生じる変化が検出されたならば、全ての容器2内の液体に対する刺激の付与を停止するようにしている。これにより、刺激付与時間の異なる液体を収納した複数の容器2、容器102が結晶化条件選別のためのサンプルとして準備される。
【0060】
そしてこれらのサンプルを所定条件下で保管しこれら複数の容器2内の混合液中に生成された結晶核を成長させて蛋白質結晶を作製することにより、結晶化促進のための至適な刺激付与時間を見出すことが可能となる。したがって大量のサンプルを対象として試行錯誤的に結晶化条件を探ることを余儀なくされた従来技術と比較して、確度の高い蛋白質結晶化条件に効率よく到達して蛋白質結晶を作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の蛋白質溶液の処理装置および蛋白質結晶の作製方法は、確度の高い蛋白質結晶
化条件に効率よく到達して蛋白質結晶を作製することができるという効果を有し、生化学分野などにおいて蛋白質の3次元立体構造解析に先立って行われる蛋白質結晶化処理において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態1の蛋白質溶液の処理装置の構成を示すブロック図
【図2】本発明の実施の形態1の蛋白質結晶の作製方法の工程説明図
【図3】本発明の実施の形態1の蛋白質結晶の作製方法における刺激付与工程のフロー図
【図4】本発明の実施の形態1における結晶核の生成条件を示すフロー図
【図5】本発明の実施の形態1の蛋白質溶液の処理装置の構成を示すブロック図
【図6】本発明の実施の形態1の蛋白質溶液の処理装置の構成を示すブロック図
【図7】本発明の実施の形態1の蛋白質溶液の処理装置の構成を示すブロック図
【図8】本発明の実施の形態1における結晶化促進度合いの判定のために行われた試験結果の説明図
【図9】本発明の実施の形態2の蛋白質結晶の作製方法の工程説明図
【図10】本発明の実施の形態2における結晶化促進度合いの判定のために行われた試験結果の説明図
【符号の説明】
【0063】
1,1A,1B,1C 蛋白質溶液の処理装置
2,2A,2B,2C,2D,2E 容器
3 混合液
3a 蛋白質溶液
3b 結晶化溶液
3c,3d 液体
4A,4B,4C,4D,4E 容器保持部
5A,5B,5C,5D,5E 加振器
6 白濁検出センサ
10 蛋白質結晶
14 容器収納部
16 容器加振部
18 加振器
20 容器移載機構
30 容器保持部
32 光源部
32A,32B,32C,32D,32E 光源部
33A,33B,33C,33D,33E シャッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質結晶の作製において蛋白質溶液に結晶核を生成するための所定の処理を行う蛋白質溶液の処理装置であって、
前記蛋白質溶液を含む液体を収納した溶液を複数個保持可能な容器保持部と、
前記容器保持部に保持された前記容器内の液体に対して結晶核の生成を促進するための刺激を付与する刺激付与手段と、
前記刺激付与手段による刺激の付与を、前記複数の容器のうち特定の容器から開始させ、この後他の容器内の液体に対して前記刺激の付与を所定の時間間隔を置いて順次開始させる刺激付与開始手段と、
前記複数の容器のうち特定の容器における前記液体の変化を検出した検出結果に基づいて、全ての前記複数の容器について容器内の液体に対する刺激の付与を停止させる刺激付与停止手段とを備えたことを特徴とする蛋白質溶液の処理装置。
【請求項2】
前記刺激付与停止手段は、前記特定の容器を対象として前記液体の変化を検出する検出手段の検出結果に基づいて、前記刺激の付与を停止させることを特徴とする請求項1記載の蛋白質溶液の処理装置。
【請求項3】
前記刺激付与停止手段は、特定の容器を観察する作業者が前記液体の変化を検出することにより行う所定の操作入力に基づいて、前記刺激の付与を停止させることを特徴とする請求項1記載の蛋白質溶液の処理装置。
【請求項4】
蛋白質溶液に所定の処理を行うことにより生成された結晶核を成長させて蛋白質の結晶を作製する蛋白質結晶の作製方法であって、
前記蛋白質溶液および結晶化溶液を含む液体を収納した複数の容器を準備し、
前記複数の容器のうちの特定の容器内の液体に対して結晶核の生成を促進するための刺激の付与を開始し、
前記特定の容器内の前記液体に対しする刺激の付与を開始した後、他の容器内の液体に対して前記刺激の付与を所定の時間間隔を置いて順次開始し、
前記特定の容器内の液体の変化を監視する過程において前記変化が検出されたならば、全ての前記容器内の液体に対する前記刺激の付与を停止し、
前記刺激を付与された複数の容器内の前記液体を所定条件下で保管することにより、前記複数の容器内の前記液体中に生成された結晶核を成長させて前記蛋白質結晶を作製することを特徴とする蛋白質結晶の作製方法。
【請求項5】
蛋白質溶液に所定の処理を行うことにより生成された結晶核を成長させて蛋白質の結晶を作製する蛋白質結晶の作製方法であって、
前記蛋白質溶液を含む液体を収納した複数の容器を準備し、
前記複数の容器のうちの特定の容器内の液体に対して結晶核の生成を促進するための刺激の付与を開始し、
前記特定の容器内の前記液体に対する刺激の付与を開始した後、他の容器内の液体に対して前記刺激の付与を所定の時間間隔を置いて順次開始し、
前記特定の容器内の前記液体の変化を監視する過程において前記変化が検出されたならば、全ての前記容器内の液体に対する前記刺激の付与を停止し、
前記刺激を付与された複数の容器内の前記液体を結晶化溶液を含む液体と混合した混合液を所定条件下で保管することにより、前記複数の容器内の前記混合液中に生成された結晶核を成長させて前記蛋白質結晶を作製することを特徴とする蛋白質結晶の作製方法。
【請求項6】
前記刺激が、光または機械的な振動のいずれかもしくはこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項4または5のいずれかに記載の蛋白質結晶の作製方法。
【請求項7】
前記変化が前記液体の白濁であり、この白濁を光学的に検出することを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の蛋白質結晶の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−30811(P2010−30811A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192971(P2008−192971)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】