説明

蛋白質発現解析用示差ゲル電気泳動法

【課題】検出感度と再現性が高く、標識効率の高い安価で簡便な蛋白質発現解析用示差ゲル電気泳動法を提供する。
【解決手段】蛋白質発現解析用の示差ゲル二次元電気泳動法は、2種以上の蛋白質を比較するのに広く用いられている。本発明では、少なくとも2種の蛋白質試料を2次元電気泳動にかける前に、グアニジン塩酸塩を用いて加熱変性する。変性温度は、96〜100℃の範囲内が望ましく、好適には98℃で行う。同様に変性時間は、98℃であれば2〜3分程度が望ましい。その他は、慣用の示差ゲル二次元電気泳動法によるが、この加熱変性により、本発明では、色素が蛋白質の所望の部位に共有結合しやすくなるため、蛋白質の検出感度が高く、色素結合効率が立体構造に依存しないため、確率論的に各蛋白質試料間の標識効率が等しくなり、再現性を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質発現解析用示差ゲル電気泳動法、特に一枚のゲルに少なくとも二つの試料を同時に供与する蛋白質発現解析用示差ゲル電気泳動法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで基本的な適合多重色素を用いる二次元示差ゲル電気泳動法としては、特許文献1が知られている。特許文献1は、二種以上の蛋白質試料を等電軸と分子量軸の二次元的に展開し、その差異を検出する方法を開示している。この方法では、2種以上の蛋白質の差異を検出するに際し、同じイオン特徴及びpH特徴を有するが、波長は異なる色素でもって各試料を標識し、標識された試料を混合して一枚のゲルに供与し、二次元電気泳動により蛋白質の発現を検出する。この場合、各試料に特有なあるいは過剰な蛋白質は、標識した色素固有の色を発色することにより検出でき、各試料に共通の蛋白質は一緒に移動して、同じ色の蛍光を発する。具体的には、青、赤、黄といった3種類の色により識別できる。特許文献2は、特許文献1の米国における一部継続出願に係わるもので、実質的に特許文献1と同一の方法を開示しているに過ぎないが、さらに二次元電気泳動以外の実施例が追加されている。
【特許文献1】特許第3729859号
【特許文献2】特表2003−506718号
【0003】
しかしながら、これらの標識に使用する色素としては、試料となる蛋白質に共有結合する色素が用いられている。このため、立体構造を有する蛋白質の結合部位によっては、色素が結合しにくい懸念がある。実際、特許文献1及び2の方法では、蛋白質に結合する色素は、一種類の全蛋白質のうち1〜2%といわれており、すべて蛋白質試料に対して検出感度が十分に得られていないおそれがある。さらに蛋白質スポットの同定を目的に回収する場合、蛍光標識された蛋白質に対して、無標識の蛋白質の割合が大きく、ゲルイメージとして得られた蛍光標識蛋白質の分布と、無標識の蛋白質の分布が一致しないため蛍光標識蛋白質の位置情報を頼りに蛋白質の回収が困難となると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記のごとき問題点を解決したもので、検出感度と再現性が高く、標識効率の高い安価で簡便な蛋白質発現解析用示差ゲル電気泳動法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成した本発明の蛋白質発現解析用示差ゲル電気泳動法は、下記の特徴を有する。
【0006】
(1)少なくとも二つの蛋白質を等電点電気泳動用緩衝液に溶解して蛋白質試料を調製し、調製された蛋白質試料を蛍光波長の異なる少なくとも二つの色素で標識して混合し、一枚のゲルに供与し、蛋白質の発現を示差ゲル電気泳動法により解析するに当たり、
(A)加熱時蛋白質に悪影響を及ぼさない変性用緩衝液に少なくとも2種の蛋白質試料をそれぞれ溶解するステップと、
(B)グアニジン塩酸塩を含む変性剤の存在下、各溶液を加熱して、各蛋白質試料を変性するステップと、
(C)蛍光波長の異なる少なくとも二つの異なる色素で、各溶液中の各蛋白質試料を別々に標識するステップと、
(D)各溶液から標識された各蛋白質試料を分取するステップと、
(E)分取された各標識蛋白質を混合し、等電点電気泳動用緩衝液に溶解するステップと、
を含むことを特徴とする蛋白質発現解析用示差ゲル電気泳動法。
【0007】
(2)色素がリジン残基のアミノ基に共有結合する化合物であることを特徴とする前記(1)記載の蛋白質発現解析用示差ゲル電気泳動法。
【0008】
下記構造を有する二種類の色素を用いることを特徴とする前期(1)または(2)記載の方法。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
加熱温度が96〜100℃の範囲内であることを特徴とする前記(1)記載の方法。
【0012】
変性用緩衝液中のグアニジン塩酸塩の濃度が少なくとも0.5mMであることを特徴とする前記(1)記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、蛋白質発現解析用示差ゲル電気泳動法において、試料蛋白質に色素で標識する前に、試料蛋白質を変性剤グアニジン塩酸塩の存在下で加熱変性することにより、蛋白質の三次元立体構造が破壊され、実質的に構造の流動性が高くなるものと推定され、その結果として、下記の効果を奏する。
(1)色素が蛋白質の所望の部位に共有結合しやすくなる。
(2)結合部位および結合効率の増加により、蛋白質の検出感度が高くなる。
(3)色素結合効率が立体構造に依存しないため、確率論的に各蛋白質試料間の標識効率が等しくなり、再現性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
元来、蛋白質発現解析用の示差ゲル二次元電気泳動法は、2種以上の蛋白質を比較するのに有用である。本発明では、少なくとも2種の蛋白質試料を2次元電気泳動にかける前に、特定の変性剤を用いて加熱変性する。変性剤には、グアニジン塩酸塩を用いる。変性温度は、96〜100℃の範囲内が望ましく、好適には98℃で行う。96℃未満では、十分な変性が起こらず、100℃を超えると蛋白質自体が分解するおそれがある。同様に変性時間も、98℃であれば2〜3分程度が望ましい。2分より短いと十分な変性が起こらず、3分以上では、蛋白質が分解するおそれがある。
【0015】
このグアニジン塩酸塩存在下での変性は、調製された少なくとも2種の蛋白質試料を別々に変性用緩衝液に溶かして、色素による標識前に行う。変性用緩衝液としては、尿素のごとき加熱時蛋白質に影響を及ぼすおそれのある化合物を含まない緩衝剤または溶媒であればよく、プロテアーゼインヒビターを含むリン酸緩衝液等が好ましい。本発明の加熱変性では、機序は必ずしも明らかではないが、蛋白質への色素標識が円滑になり、標識効率が均一になる。その結果、色素間の泳動による誤差が少なくなり、効果的に定量的な発現差異解析が容易となる。
【0016】
加熱変性後は、各溶液に蛍光波長の異なる少なくとも二つの異なる色素で、各溶液中の各蛋白質試料を別々に標識する。色素には、蛋白質と共有結合する色素であれば特に制限されないが、代表的な色素として、株式会社同仁化学研究所製の商品名IC3−OSu(前記化1)及びIC5−OSu(前記化2)や、GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製のCy3及びCy5を挙げることができる。特に、本発明の加熱変性との関係では、IC3−OSu及びIC5−OSuが好適である。
【0017】
本発明での蛍光標識色素の調製にあたっては、例えば、IC3−OSu及びIC5−OSuの場合、それぞれを180〜220μg計量し、適量のDMSOのごとき溶媒を加え調整する。蛍光標識色素濃度は、例えば100〜600μMを例示することができるが、上限を上回ると過剰量の蛍光標識色素の除去が難しく、下限を下回ると蛍光標識色素による標識が十分に行われないため、好ましくは200〜400μMを挙げることができる。
【0018】
本発明における蛋白質資料の調製は、慣用的方法によるが、例えば、次の手順、方法によるのが望ましい。
【0019】
蛋白質試料の調製:蛋白質試料における蛋白質の種類は特に制限されないが、一般的な蛋白質発現細胞には、動物やヒトの正常組織及び細胞、あるいは癌組織及び細胞等を好適に用いることができる。例えば、ヒト急性リンパ性白血病由来がん細胞では、Jurkat、MOLT4、MOLT15、HL−60、HTLV−1持続感染細胞では、HUT102、MT2、ATL細胞では、ED、Su9T01、SIT、肝癌細胞では、HepG2、Huh−7、HCVレプリコン細胞、ヒト子宮頸癌細胞HeLa、ヒト胎児肺由来繊維芽細胞MRC−5、IMR−90、ヒト大腸がん細胞Caco−2、ラット肝細胞がんdRLh−84、マウス繊維芽細胞3T3、その他、一般的に知られている培養細胞等には、広く適用できる。
【0020】
培養方法は、使用する細胞によって異なるので一概に特定できないが、Jurkatの場合であれば、10%FBS、ペニシリン100ユニット/ml、ストレプトマイシン0.1mg/mlを含むRPMI−1640培地で、35〜40℃、3〜7%CO2 条件下で培養することができる。
【0021】
少なくとも2種の蛋白質試料としては、一方を前述のJurkat細胞培養物からなるコントロール試料とし、他方をこのコントロール試料に抗酸化物質リポ酸のごとき被検物質を終濃度1mMとなるようにコントロール試料に加えることで調整できる。抗酸化物質のような被検物質添加後は、通常略24時間程度培養するのが望ましい。本発明は、添加する被検物質の種類は問わないが、例えば、前述の抗酸化剤の外、生理活性ペプチド、HGF等の蛋白製剤、抗ATL剤、肝癌等の癌細胞増殖抑制剤、アポトーシス誘引剤、ヒト成人病T細胞白血病ウイルス(HTLV―1)産生抑制剤、C型肝炎ウイルス(HCV)産生抑制剤、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)産生抑制剤、その他多くのウイルス産生抑制剤、生物由来の成分や化学薬品等を使用することができる。
【0022】
(2)蛋白質の抽出:蛋白質培養物の抽出はチューブにより行う。回収された蛋白質は、200×gで5分間程度遠心分離し、細胞のペレットを得る。細胞の洗浄を行うため、リン酸緩衝液(PBS)を適量加え、ペレットをほぐした後、200×gで5分遠心分離することにより、細胞のペレットを得ることができる。この操作は数回、望ましくは3回以上行う。得られた細胞にプロテアーゼインヒビターを含むPBSを加え、ホモジナイザーにより細胞を破砕し、得られたホモジネートを20,000×gで15分遠心分離し、上清を解析用蛋白質試料とする。試料の濃度はLowry法(Bio−Rad社製DCプロテインアッセイ)により測定することができる。
【0023】
(3)蛋白質の標識:得られた少なくとも2種の解析用蛋白質試料は、前述のようにグアニジン存在下で加熱変性し、それぞれ別の色素で標識する。この変性及び標識は、具体的には次のように行うことができる。例えば、2mg/mlに調製した両蛋白質試料25μlを用意し、それぞれに終濃度1mMとなるように2mMのグアニジン塩酸塩を25μl加える。その後、軽くボルテックス・遠心し、98℃で3分間ヒートブロックにかけ、蛋白質を加熱変性させる。氷浴中で冷却後、一つ目の試料に400μMのIC3−OSuを1μl、そしてもう一つの試料に400μMのIC5−OSuを1μl添加し、氷浴中で1時間程度インキュベートする。1時間後、氷中から取り出し過剰量の色素の反応を停止させるために10mMのリシン2μlをそれぞれに添加し、反応を進めるため15分間氷中で静置するのが望ましい。
【0024】
(4)キットによる蛋白質の精製:次に、色素標識した蛋白質試料を混合し、蛋白質の沈殿化、濃縮を行うキット(BIO−RAD社製Ready Prep 2D clean up kit)にかける。
【0025】
(5)等電点電気泳動サンプル作製:得られた蛋白質ペレットに等電点電気泳動用緩衝液(7MのUrea、2MのThiourea、3%のCHAPS、1%のTriton−X100、75mMのDTT、0.2%のamphlyts)を100μl添加して再溶解させ、5分間超音波処理する。不溶性の物を除去するために15,000×gで5分遠心分離し、上清を試験蛋白質試料とする。
【0026】
こうして得られた蛋白質試料は、BIO−RAD社製IPG Rady Stripを用いて泳動を行う。このゲルの使用には膨潤処理を行う必要がある。この膨潤処理では、例えば等電点電気泳動用緩衝液(7MのUrea、2MのThiourea、3%のCHAPS、1%のTriton−X100、75mMのDTT、0.2%のampholyts)を135μl/strip膨潤用トレイに添加し、IPG Rady strip(7cm pH 3−10NL)をその上に乗せ、さらにその上にミネラルオイルをかぶせて、室温で12時間程度膨潤させる。
【0027】
二次元電気泳動は、例えば下記のごとき常法による。
【0028】
(1)等電点電気泳動:膨潤の完了したIPG Rady stripを等電点電気泳動トレイに乗せかえ、電極、サンプルカップを設置する。IPG Rady stripの乾燥を防ぐため、ミネラルオイルを全体にまんべんなくかぶせ、不要物を除去した蛋白質試料をサンプルカップに適量添加し、ミネラルオイルをかぶせる。その後、等電点電気泳動を約20℃で6時間程度行う。
(2)平衡化:等電点電気泳動終了後、IPG Rady stripを取り出し、余分なミネラルオイルを拭き取る。平衡化緩衝液1(6MのUrea、375mMのTris pH8.8、2%のSDS、2%のDTT)で15分間程度振とうする。その後、平衡化緩衝液2(6MのUrea、375mMのTris pH8.8、2%のSDS、2.5%のヨードアセトアミド )で15分間程度分振とうする。
(3)SDSポリアクリルアミド電気泳動:SDSポリアクリルアミド電気泳動を(10%の)均一ゲルを用いて行う。
【0029】
ゲルの映像化では、まず泳動後のゲルをメタノール、酢酸等を含む蛋白質固定化溶液(13 %メタノール及び7.5%の酢酸溶液)に浸す。次いでゲルを蛍光イメージャーのガラス板上に置き、イメージャーに搭載してある150Wのキセノンランプを照射する。照射光線は、例えば標識色素IC3及びIC5のそれぞれに対して、540nm及び625nmの帯域フィルターを通過する。映像をIC3及びIC5のそれぞれに対して、590nm及び680nmの帯域フィルター通し、冷却したCCDカメラ収録する。
【0030】
得られた画像ファイルは、発現差異解析ソフトProgenesis Discoveryに移し、ゲル上の異なった試料間の差を測定する。
【0031】
本発明の蛋白質発現解析用示差ゲル電気泳動法は、前記以外のさらに異なった蛋白質の検出や試験への利用が予想される。
【実施例1】
【0032】
蛍光物質の調製
IC3−OSu及びIC5−OSu(株式会社同仁化学研究所製、商品名)のそれぞれ200μgに、適量のDMSOを加えて400μMとした。
【0033】
蛋白質試料の調製
(1)動物細胞の培養
ヒト急性リンパ性白血病由来がん細胞Jurkat細胞を、10%FBS、ペニシリン100ユニット/ml、ストレプトマイシン0.1mg/mlを含むRPMI−1640培地で、37℃、5%CO2 条件下で培養し、コントロール試料とした。このコントロール試料に、抗酸化物質であるリポ酸を終濃度1mMで加え、被検試料とした。両試料の培養物を成分添加後24時間培養した。
(2)蛋白質の抽出
培養物をチューブに回収し、200×gで5分遠心分離し、細胞のペレットを得た。細胞の洗浄を行うためPBSを適量加え、ペレットをほぐした。その後、200×gで5分遠心分離し、細胞のペレットを得た。この操作を計3回行った。得られた細胞にプロテアーゼインヒビターを含むリン酸緩衝液を加え、ホモジナイザーにより細胞を破砕した。得られたホモジネートを20,000×gで15分遠心分離し、上清を解析用蛋白質試料とした。試料の濃度はLowry法(BIO−RAD社製DCプロテインアッセイ)により測定した。
(3)蛋白質の標識
2mg/mlに調製した両蛋白質試料25μlを用意し、それぞれに終濃度1mMとなるように2mMのグアニジン塩酸塩を25μl加えた。その後、軽くボルテックス・遠心し、98℃で3分間ヒートブロックにかけ、蛋白質を加熱変性させた。氷浴中で冷却後、一つ目の試料に400μMのIC3−OSuを1μl、そしてもう一つの試料に400μMのIC5−OSuを1μl添加し、氷浴中で1時間インキュベートした。1時間後、氷中から取り出し過剰量の色素の反応を停止させるために10mMのリシン2μlをそれぞれに添加した。反応を進めるために15分間氷中で静置した。
(4)キットによる蛋白質の精製
色素標識した蛋白質試料を混合し、蛋白質の沈殿化、濃縮を行うキット(BIO−RAD社製Ready Prep 2D clean up kit)にかけた。
(5)等電点電気泳動サンプル作製
得られた蛋白質ペレットに等電点電気泳動緩衝液(7MのUrea、2MのThiourea、3%のCHAPS、1%のTriton−X100、75mMのDTT、0.2%のamphlyts)を100μl添加し、再溶解させ5分間超音波処理した。不溶性の物を除去するために20,000×gで5分遠心分離し、上清を試験蛋白質サンプルとした。
【0034】
IPG Rady Stripの膨潤
等電点電気泳動緩衝液(7MのUrea、2MのThiourea、3%のCHAPS、1%のTriton−X100、75mMのDTT、0.2%のampholyts)を135μl/strip膨潤用トレイに添加し、IPG Ready strip(7cm pH 3−10NL)をその上に乗せ、さらにその上にミネラルオイルをかぶせて、室温で12時間膨潤させた。
【0035】
二次元電気泳動
(1)等電点電気泳動
膨潤の完了したIPG Ready stripを等電点電気泳動トレイに乗せかえ、電極、サンプルカップを設置した。IPG Ready stripの乾燥を防ぐためミネラルオイルを全体にまんべんなくかぶせ、不要物を除去した蛋白質試料をサンプルカップに適量添加し、ミネラルオイルをかぶせた。その後、等電点電気泳動を20℃で6時間行った。
(2)平衡化
等電点電気泳動終了後、IPG Ready stripを取り出し、余分なミネラルオイルを拭き取った。平衡化緩衝液1(6MのUrea、375mMのTris pH8.8、2%のSDS、2%のDTT)で15分間振とうした。その後、平衡化緩衝液2(6MのUrea、375mMのTris pH8.8、2%のSDS、2.5%のヨードアセトアミド)で15分間分振とうした。
(3)SDSポリアクリルアミド電気泳動
SDSポリアクリルアミド電気泳動を10%の均一ゲルを用いて行った。
【0036】
ゲルの映像化
泳動後のゲルを13 %メタノール及び7.5%の酢酸溶液に浸した。ゲルを蛍光イメージャーのガラス板上に置き、イメージャーに搭載してある150Wのキセノンランプを照射した。照射された光線は、IC3及びIC5のそれぞれに対して、540nm及び625nmの帯域フィルターを通過した。映像をIC3及びIC5のそれぞれに対して、590nm及び680nmの帯域フィルター通し、冷却したCCDカメラ収録した。
【0037】
画像解析
得られた画像ファイルを発現差異解析ソフトProgenesis Discoveryに移し、ゲル上の異なった試料間の差を測定した。測定した結果を図1に示す。
【実施例2】
【0038】
下記の方法にて蛋白質試料の調整を行った以外は、実施例1に記載する方法及び手順に従って蛍光物質の調整を行った。
(1)動物細胞の培養
ヒト急性リンパ性白血病由来がん細胞HL−60細胞を、10%FBS、ペニシリン100ユニット/ml、ストレプトマイシン0.1mg/mlを含むRPMI−1640培地で、37℃、5%CO2 条件下で培養し、コントロール試料とした。このコントロール試料に、抗酸化物質であるリポ酸を終濃度0.2mMで加え、被検試料とした。両試料の培養物を成分添加後24時間培養した。測定結果を図2に示す。
【実施例3】
【0039】
下記の方法にて蛋白質試料の調整を行った以外は、実施例1に記載する方法及び手順に従って蛍光物質の調整を行った。
蛋白質試料の調整
4週齢SD系雄ラットを購入し、1週間予備飼育後、AIN−76組成に準じて調製した飼料を2週間摂食させた(コントロール群)。対照群として、同飼料にリポ酸を添加(0.05%)した飼料を摂食させた。2週間後断頭屠殺し、肝臓を採取、PBSで洗浄した後、プロテアーゼインヒビターを含むリン酸緩衝液を加え、ポリトロンタイプホモジナイザーで破砕し蛋白質の抽出を行った。破砕物を15,000×gで15分間遠心分離し、上清を100,000×gで1時間超遠心分離し、上清を被検試料とした。両試料の培養物を成分添加後24時間培養した。測定結果を図3に示す。
【0040】
図1、図2及び図3はコントロール試料と被検試料における蛋白質の発現を示しており、これらの図から、等電点軸での蛋白質の発現にシフトが見られるのがわかる。このことは、実施例のグアニジン加熱変性により、試料蛋白質の立体構造が分断され、2次元的に延びて、色素と蛋白質の共有結合が容易になり、蛋白質の異なる部位に多くの色素が付加された結果と推認される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、示差ゲル電気泳動法による蛋白質の発現解析に、これまでとは異なるひとつの方法を提供するもので、特に安価な簡便法としての利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】示差ゲル電気泳動法による実施例1、Jurkat細胞の蛋白質発現状況を示すもので、赤はコントロール、緑は被検試料を示す写真である。
【図2】示差ゲル電気泳動法による実施例2、HL−60細胞の蛋白質発現状況を示すもので、赤はコントロール、緑は被検試料を示す写真である。
【図3】示差ゲル電気泳動法による実施例3、ラットの肝臓細胞の蛋白質発現状況を示すもので、赤はコントロール、緑は被検試料を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二つの蛋白質を等電点電気泳動用緩衝液に溶解して蛋白質試料を調製し、調製された蛋白質試料を蛍光波長の異なる少なくとも二つの色素で標識して混合し、一枚のゲルに供与し、蛋白質の発現を示差ゲル電気泳動法により解析するに当たり、
(A)加熱時蛋白質に悪影響を及ぼさない変性用緩衝液に少なくとも2種の蛋白質試料をそれぞれ溶解するステップと、
(B)グアニジン塩酸塩を含む変性剤の存在下、各溶液を加熱して、各蛋白質試料を変性するステップと、
(C)蛍光波長の異なる少なくとも二つの異なる色素で、各溶液中の各蛋白質試料を別々に標識するステップと、
(D)各溶液から標識された各蛋白質試料を分取するステップと、
(E)分取された各標識蛋白質を混合し、等電点電気泳動用緩衝液に溶解するステップと、
を含むことを特徴とする蛋白質発現解析用示差ゲル電気泳動法。
【請求項2】
色素がリジン残基のアミノ基に共有結合する化合物であることを特徴とする請求項1記載の蛋白質発現解析用示差ゲル電気泳動法。
【請求項3】
下記構造を有する二種類の色素を用いることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【化1】

【化2】

【請求項4】
加熱温度が96〜100℃の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
変性用緩衝液中のグアニジン塩酸塩の濃度が少なくとも0.5mMであることを特徴とする請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−25991(P2008−25991A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195004(P2006−195004)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(306024609)財団法人宮崎県産業支援財団 (23)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(392001933)雲海酒造株式会社 (11)
【Fターム(参考)】