説明

蛍光インキおよび蛍光印刷物

【課題】高い耐性と色再現を実現する可変情報に対応した蛍光印刷物等を提供する。
【解決手段】量子ドットを含有する蛍光インキ、特に量子ドットの粒子径が1から20nm、さらに好ましくは2から10nmの間である蛍光インキや、それらの蛍光インキによる印刷層を形成され蛍光印刷物、特にそれぞれ異なる波長の蛍光を発する粒子径の量子ドットを含有する蛍光インキからなる印刷層が複数形成された蛍光印刷物、さらに好ましくはこれらの蛍光インキが、それぞれ赤、緑、青の蛍光を発する粒子径の量子ドットであることを特徴とする蛍光印刷物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐性で、任意の波長で蛍光を発する蛍光インキおよび蛍光印刷物を提供するとともに、さらに、可変情報を印刷するインキ、トナー、リボンおよびこれらを用いた蛍光印刷物を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
従来、カードやパスポートなどの認証媒体、商品券や株券などの有価証券媒体には、偽造の困難なデバイスを貼付することにより、目視もしくは検証器を用いて真偽判定をする方法が用いられている。
【0003】
近年では、製品の贋造品の流通が問題となり、これら流通を防ぐため、有価証券類と同等の技術を用いることが増えている。
【0004】
偽造防止技術は、一般のユーザが偽造防止技術と認知でき真偽判定できるいわゆるオバート技術と、特定のユーザのみが偽造防止技術の存在を知り真偽判定できるいわゆるコバート技術とに分けられる。
【0005】
オバート技術の代表としては、ホログラムなどの回折構造形成体、Optically
Variable Ink(略称OVI)などの多層干渉膜などがあげられる。また、コバート技術の代表としては、蛍光印刷、万線潜像、液晶を用いた偏光潜像などがあげられ、ともに重要な地位を占め、通常、これらの組合せにより製品化されることが多い。
【0006】
蛍光印刷は、検証具が安価であることから、コバート技術として普及している。特に、可変情報蛍光印刷は、ID媒体での顔写真を吸収インキによる印刷と蛍光印刷の両方を印刷することにより、認証作業が簡単なことからニーズが高い。
【特許文献1】特開2000−141863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般の蛍光体は、有機蛍光体および無機蛍光体に別れる。一般に有機蛍光体は、耐光性が弱く、検証によるUV照射により、徐々に劣化し易い。また、無機蛍光体は、劣化は小さいが、ある程度以上の大きさ(平均粒子径が0.1μm以上が好ましい。)がないと発光効率を落とすこととなり、適応できる印刷手法が限られる。特に、インキジェットプリンター用インキでは、粒子径が大きいとノズルを詰まらせるため不適である。さらに、有機蛍光体・無機蛍光体を問わず、物質固有の蛍光波長を有するため、要求する蛍光波長の物質を探す必要があり、フルカラーの蛍光印刷での色合わせが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明で、前記課題を解決するため、まず、請求項1では、量子ドットを含有するインキを提供するものである。
【0009】
また、請求項2では、量子ドットの粒子径が1から20nmの間であることを特徴とする請求項1記載の蛍光インキを提供するものである。
【0010】
また、請求項3では、量子ドットの粒子径が2から10nmの間であることを特徴とする請求項2記載の蛍光インキを提供するものである。
【0011】
また、請求項4では、被印刷物上に請求項1から3何れかに記載の蛍光インキによる印刷層を形成され蛍光印刷物を提供するものである。
【0012】
また、請求項5では、請求項4に記載の蛍光印刷物において、それぞれ異なる波長の蛍光を発する粒子径の量子ドットを含有する蛍光インキからなる印刷層が複数形成された蛍光印刷物を提供するものである。
【0013】
また、請求項6では、請求項5に記載の蛍光印刷物の蛍光インキが、それぞれ赤、緑、青の蛍光を発する粒子径の量子ドットであることを特徴とする蛍光印刷物を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本件では、量子ドットの粒子径を変化させることにより、インキを提供することにより、高い耐性と色再現を実現する可変情報に対応した蛍光印刷物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するにあたって、最良の形態を説明する。
【0016】
まず、量子ドットについて説明する。量子ドットは特殊な状態の半導体で、II−VI族、III−V族、IV−VI族の元素グループによって構成され、ナノクリスタルと呼ばれる場合もある。半導体は、現代の電気産業には不可欠な物質で、LEDやパーソナルコンピュータの実現にも寄与してきた。外部刺激(電圧、光子束、等)によって伝導性を大きく変化させるという性質のため、半導体の重要性は増し、多くの電気回路や光学アプリケーションには欠かせない部品となったのです。量子ドットは、直径が1から20nm(原子5から100個)と、非常に小さい特殊な半導体である。このような微少なサイズでは、物質の性質は通常とは異なり、ピーク発光波長を、クリスタルの粒径と組成によって大幅に変更することができる。特に、量子ドットが2から10nm(原子10から50個)の場合は、その粒径と蛍光波長との関係で可視光線を蛍光することができ、印刷物等の用途に特に有効である。
【0017】
粒径・組成と発光波長の相関関係は、量子メカニズムの性質によるもので、以下のように説明される。バルク状半導体(10nm以上)の電子は、ある範囲のエネルギーを保有している。ある光子が隣の電子と異なるエネルギーを保有している場合、「エネルギー準位が異なる」と言う。また、一つのエネルギー準位には、電子は2つしか存在することができないことが確認されている。バルク状態では、エネルギー準位は互いに非常に近く、これを「連続している」と表現し、準位間にはエネルギーの差はほとんどない。電子が存在することができないエネルギー準位が存在ことも確認されている。この禁止された電子エネルギーの領域は、「バンドギャップ」と呼ばれており、バルク物質によって異なる。バンドギャップから下のエネルギー準位を埋める電子は、「荷電子帯」に存在すると表現される。バンドギャップより上のエネルギー準位に存在する電子は、伝導帯に存在する、と表現される。
【0018】
天然のバルク半導体物質では、非常に少量の電子しか伝導帯に存在せず、圧倒的多数の電子は価電子帯にあり、ほぼ完全に価電子帯を満たしている。価電子帯の電子が、伝導帯にジャンプするには、バンドギャップを超えるに足りるエネルギーを得るしかない。バルク状態では、ほとんどの電子にはそのようなエネルギーは全くない。熱、電圧、光子束のような刺激を与えると、電子の中には、存在できないギャップを飛び越えて伝導帯へ移るものもある。価電子帯のその光子が抜けた後の位置には、電子構造に一時的に孔をあけるため、孔(ホール)と呼ばれる。十分な強さの刺激を与えると、価電子帯の光子は伝導帯へ移り、その跡には正の電気を持った孔が生まれる。飛び出した電子とその孔は、一対で
「励起子」と呼ばれる。伝導帯へジャンプした電子からバルク半導体が吸収することができる放射エネルギーは、バンドギャップのエネルギーに応じて下限がある。バルク状態での原子数に加え、連続電子エネルギー準位により、バルク半導体材質のバンドギャップエネルギーは一定である。また、天然の半導体バルクにおいては、伝導体に持ち上げられた電子は、バンドギャップを越えて元の荷電子帯エネルギー準位に戻る前には、ほんの一瞬しか伝導帯にとどまらない。電子がバンドギャップを超えて元の位置に戻ると、その移動で失うエネルギーに相当する波長を持つ電磁放射が起こる。大部分の電子は、伝導帯から価電子帯に戻る際に、伝導帯の底辺から、価電子帯の上部へ移動する傾向にあることが確認される。つまり、バンドギャップの片側から、反対側に移るとも言える。
【0019】
バルクのバンドギャップは一定なので、移動によって一定の発光波長が生まれる。一方量子ドットでは、人工的にバンドギャップを調整できるので、発光波長も変更することできる。電子が伝導帯の最下部から価電子帯の最上部に戻ると、一定の波長の蛍光発光が発生する。量子ドットでは、バンドギャップのサイズは量子の粒径を変えるだけでコントロールすることができる。ドットの発光波長はバンドギャップに依存するので、ドットの蛍光波長を非常に精密に調節可能である。例えば、CdSe系の量子ドットの場合、粒子径が、およそ2nmで青、3nmで緑、5nmで赤の蛍光を発する。
【0020】
本件では、前記のような量子ドットを顔料として用いるが、インキに分散し難い場合には、表面処理を行うことで分散性が改善する。
【0021】
量子ドットを、メジウムインキに分散することにより、印刷インキとすることができる。印刷方法は、公知のもので、オフセット印刷、凸版印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷に対応する。
【0022】
さらに、印刷パターンは固定パターンでも構わないが、インクジェットプリンタ、レーザプリンタ、サーマルプリンタ用のインキ、トナー、リボンの色材と置き換えることにより、可変情報印刷に対応することもできる。
【0023】
さらに、蛍光印刷ばかりではなく、蛍光インキでないプロセスインキ等の蛍光しない一般印刷と組み合わせて偽造防止等の効果をさらに高めることも可能であり、相乗効果により偽造防止効果を高めることも可能である。
【0024】
この場合の励起させるための励起光の波長は、蛍光より短い波長であり、例えばHgランプi線(波長365nm)などが好適に用いられる。
【0025】
蛍光印刷は、加法混色であるため、減法混色であるプロセス印刷とは異なり、RGBで分版することにより、フルカラーの蛍光印刷が可能である。
【0026】
印刷を施す被印刷物は、紙が一般的であるがプラスチックフィルムや立体物等制限は特にないが、偽造防止の用途のためには有価証券等のデバイス、認証用途としてはカードやパスポート等の認証媒体、真贋判定の為には鑑定証や証明書等の各種真正物など、各種の被印刷物に利用可能である。
【0027】
図1には、被印刷物1に印刷を施し量子ドットが分散された蛍光インキからなる印刷層2を形成した断面図を示す。
【0028】
同様に図2には、被印刷物1に印刷を施し粒子径が5nmの量子ドットが分散された蛍光インキからなる印刷層2Rを形成し、続いて印刷を施し粒子径が3nmの量子ドットが分散された蛍光インキからなる印刷層2Gを形成し、続いて印刷を施し粒子径が2nmの
量子ドットが分散された蛍光インキからなる印刷層2Bを形成し、それぞれ異なる波長の蛍光を発する粒子径の量子ドットを含有する蛍光インキからなる印刷層が複数形成された蛍光印刷物の断面図を示す。
【0029】
得られた印刷物は、励起光により量子ドットが破壊されることがほとんどなく、強い耐光性を有する。
【実施例1】
【0030】
オフセットメジウムインキにそれぞれ粒子径が5nm、3nm、2nmの量子ドットを重量比で1%分散し、それぞれ赤、緑、青の蛍光インキを得た。RGBで分版した印刷版を用いてそれぞれのインキを、厚さ100μmのコート紙に最終膜厚が各色1μmになる様に印刷し、フルカラー印刷物である蛍光印刷物を得た。
【実施例2】
【0031】
インクジェットインキにそれぞれ粒子径が5nm、3nm、2nmの量子ドットを重量比で1%分散し、それぞれ赤、緑、青の蛍光インキカートリッジに詰め、処理装置に繋いだインクジェットプリンタにセットした。厚さ100μmのコート紙に最終膜厚が各色1μmになる様に印刷し、可変画像のフルカラー印刷物である蛍光印刷物を得た。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明にかかる蛍光印刷物の層構成の実施例を示す側断面図である。
【図2】本発明にかかる蛍光印刷物の層構成の図1とは別な実施例を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1…被印刷物
2…量子ドットが分散された蛍光インキからなる印刷層
2R…粒子径が5nmの量子ドットが分散された蛍光インキからなる印刷層
2G…粒子径が3nmの量子ドットが分散された蛍光インキからなる印刷層
2B…粒子径が2nmの量子ドットが分散された蛍光インキからなる印刷層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドットを含有する蛍光インキ。
【請求項2】
量子ドットの粒子径が1から20nmの間であることを特徴とする請求項1記載の蛍光インキ。
【請求項3】
量子ドットの粒子径が2から10nmの間であることを特徴とする請求項2記載の蛍光インキ。
【請求項4】
被印刷物上に請求項1から3何れかに記載の蛍光インキによる印刷層を形成され蛍光印刷物。
【請求項5】
請求項4に記載の蛍光印刷物において、それぞれ異なる波長の蛍光を発する粒子径の量子ドットを含有する蛍光インキからなる印刷層が複数形成された蛍光印刷物。
【請求項6】
請求項5に記載の蛍光印刷物の蛍光インキが、それぞれ赤、緑、青の蛍光を発する粒子径の量子ドットであることを特徴とする蛍光印刷物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−1425(P2010−1425A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163088(P2008−163088)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】