説明

蛍光ランプ及びそれに用いる赤色発光蛍光体

【課題】 従来の残光性蛍光体だけでは赤色発光成分の発光強度が弱く、白色もしくは赤色発光の残光性蛍光ランプを実現することはこれまで困難であった。本発明は青緑色光を効率よく吸収し赤色発光する残光性蛍光体を得ることによって、白色光もしくは赤色発光の残光性を持つ蛍光ランプを提供する。
【解決手段】 ガラス容器1の内表面に蓄光蛍光体膜4aを形成した蛍光ランプにおいて、蓄光蛍光体膜4aは、MAl(ただし、MはCa、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の金属元素)で表される蛍光体からなる残光性蛍光体と、一般式Ca(La1−X,Eu12(0<X<1)で表される赤色発光蛍光体もしくは一般式LiLa1−XEuNb(0<X<1)で表される赤色発光蛍光体との両方を具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛍光ランプに関し、特にランプ消灯後、長時間が経過しても物の識別が可能な残光特性を有する蛍光ランプ及びそれに用いる赤色発光蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の残光性を有する蛍光ランプとして、ガラスバルブの内部空間に希ガスと共に水銀を封入した残光形水銀蛍光ランプがある。この蛍光ランプは、電力供給が絶たれた後も長い間発光を続けるという性質(蓄光性あるいは長残光性)を利用した蛍光ランプである。そして、外部からの電力供給が絶たれた後も明るさを保っていることから、例えば、大型店舗や劇場あるいは地下街のように、人が多く集まる空間において一般照明を兼ねた停電時の避難経路表示などに用いられている。
【0003】
図1は、この従来の残光形水銀蛍光ランプの一例を示す要部断面図である(例えば、特許文献1参照。)。同図(a)は要部を切り欠いたランプの長手方向断面図を示し、同図(b)は図(a)中のA−A部におけるランプの断面図を示す。
【0004】
図1を参照すると、円筒状のガラス容器1が、中空密閉の空間(放電空間)を形作っている。その放電空間には、放電媒体の気体2として、アルゴンやキセノンのような希ガスと水銀蒸気との混合ガスが封入されている。封入圧力は、概ね200〜400Pa(1.5〜3.0Torr)である。水銀は液滴の形でガラス容器1内に封入してあって、液体の水銀と、ランプの温度によって決まる蒸気圧を有する気体の水銀とが共存している状態となっている。
【0005】
ガラス容器1の内表面には、透光性の導電性被膜3と、蓄光蛍光体膜4と、赤、緑、青の三波長域型蛍光体膜5とが、この順に重ねて形成してある。また、ガラス容器1の内部の両端部分には、放電空間に放電を生じさせるための一対の電極6A、6Bが設けられている。これらの電極6A、6Bは、フィラメントに電子放出材料を塗布した構造の熱電極である。
【0006】
上記した従来の水銀蛍光ランプにおいて、二つの電極6A、6Bのフィラメントに電流を流して加熱すると、各電極から熱電子が放出される。このとき、二つの電極6A、6Bの一方を正電極、他方を負電極として両電極間に電圧を加える。これにより放出された熱電子は負電極から正電極に向かって走行して行く。その際、熱電子が、ガラス容器内で蒸発して気体となっている水銀原子に衝突し、エネルギーを得た水銀原子が紫外線を放射する。そして、その水銀原子からの放射紫外線が三波長域型蛍光体膜5を励起して、白色あるいは昼光色などの可視光を放射させる。この時、蓄光蛍光体膜4も水銀原子が放射する紫外線により発光するのであるが、蓄光蛍光体膜4は、さらに紫外線から得たエネルギーを蓄積して、紫外線による励起が停止した後も発光を続ける。
【0007】
このように、残光形水銀蛍光ランプは、上述のような動作によって、外部から電力を供給している間は主に三波長域型蛍光体膜5の発光により明るく光る。そして、電力供給が停止した後、つまり放電が止まって水銀原子からの紫外線放射がなくなった後でも、蓄光蛍光体膜4の働きにより発光を続ける。
【0008】
なお、ガラス容器1の内表面で蓄光蛍光体膜4の下に設けてある導電性被膜3は、この残光形水銀蛍光ランプを内面導電性被膜方式のラピッドスタート形放電ランプとして用いるために形成してあるものである。例えば、グロースタート形のランプの場合であれば、導電性被膜3は特に設ける必要はない。
【0009】
ここで、従来の蓄光蛍光体膜4には、MAl(ただし、MはCa、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の金属元素)(以下、単にMAlとのみ記載する)で表される化合物を母結晶とし、Eu、Dy及びNdの少なくとも一つを付活剤又は共付活剤に用いた蛍光体が用いられる(例えば、特許文献1あるいは特許文献2参照。)。そのほかにも、YSを母結晶とし、Eu、Mg及びTiの少なくとも一つを付活剤又は共付活剤に用いた蓄光蛍光体なども知られている。
【0010】
しかし、MAlで表される蛍光体の赤色発光成分の発光強度は弱い。また、YSを母結晶とし、Eu、Mg及びTiの少なくとも一つを付活剤又は共付活剤に用いた蛍光体も発光強度が弱く、しかも硫酸化物のため紫外線、熱に対する劣化が著しい。
【0011】
そのため、白色もしくは赤色発光の残光性蛍光ランプを実現することはこれまで困難であった。また、青緑色光を効率よく吸収し赤色発光する酸化物母体からなる赤色発光蛍光体も得られていなかった。
【0012】
【特許文献1】特開平11−144683号公報([0042]、図3)
【特許文献2】特開平07−011250号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記したように、従来の残光性蛍光体だけでは赤色発光成分の発光強度が弱く、白色もしくは赤色発光の残光性蛍光ランプを実現することはこれまで困難であった。本発明はこの課題を解決するためになされたもので、青緑色光を効率よく吸収し赤色発光する残光性蛍光体を得ることによって、白色光もしくは赤色発光の残光性を持つ蛍光ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ガラス容器の内表面に蓄光蛍光体膜を形成した蛍光ランプにおいて、前記蓄光蛍光体膜は青緑色発光を示す残光性蛍光体と、青緑色発光を吸収し発光する赤色発光蛍光体との両方を具備するようにしたものである。
【0015】
また、本発明の蛍光ランプにおいて、前記青緑色発光を示す残光性蛍光体は、MAlで表される残光性蛍光体から構成されている。
【0016】
また、本発明の蛍光ランプにおいて、前記赤色発光蛍光体は、一般式Ca(La1−X,Eu12(0<X<1)で表される赤色発光蛍光体もしくは一般式LiLa1−XEuNb(0<X<1)で表される赤色発光蛍光体から構成されている。
【0017】
また、本発明の蛍光ランプにおいて、前記蓄光蛍光体膜は、MAlで表される蛍光体からなる残光性蛍光体と、一般式Ca(La1−X,Eu12(0<X<1)で表される赤色発光蛍光体もしくは一般式LiLa1−XEuNb(0<X<1)で表される赤色発光蛍光体との混合膜で形成されている。また、前記蓄光蛍光体膜の発光色の制御は、前記青緑色発光を示す残光性蛍光体と前記赤色発光蛍光体との混合比を調節することによって行われる。
【0018】
また、本発明の蛍光ランプにおいて、前記蓄光蛍光体膜は、金属酸化物の微粒子が含有されている。この金属酸化物は、α−アルミナ、γ−アルミナ、TiO、SiO、MgO、Yである。そして、これらの金属酸化物から選ばれた一つ又は複数が含有されている。また、金属酸化物の微粒子は、一次粒子の最大粒径が前記蓄光蛍光体膜の最小粒径より小さくなるようにし、また、金属酸化物は、前記蓄光蛍光体膜に重量比で10〜40wt%含有されている。
【0019】
また、本発明は、一般式Ca(La1−X,Eu12(0<X<1)もしくは一般式LiLa1−XEuNb(0<X<1)で表される赤色発光蛍光体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の蛍光ランプは、ガラス容器の内表面に形成した蓄光蛍光体膜が青緑色発光を示す残光性蛍光体と、青緑色発光領域で効率よく光吸収して発光する赤色発光蛍光体との両方を具備している。この蓄光蛍光体膜において、青緑色発光が赤色発光蛍光体に当たることによって、赤色発光蛍光体は青緑色光域で青緑色発光を効率よく光吸収する。この際、青緑色発光を全て光吸収させずに一部通り抜けるようにすれば、光吸収されなかった部分の青緑色発光と赤色発光とが混合されて残光性の白色光が得られる。もしくは、青緑色発光を全て光吸収させるようにすれば残光性の赤色発光のみが得られる。これにより、蛍光ランプとしてより発光強度の高い白色もしくは赤色の残光性をもつ蛍光ランプを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、図1(a)、(b)を用いて本発明の蛍光ランプにおける一実施の形態について説明する。本発明の一実施の形態に係る残光形水銀蛍光ランプは、外観上は図1(a)、(b)に示す従来の残光形水銀蛍光ランプと同じ形状をしており、蓄光蛍光体膜の構成のみが従来とは異なっている。ここで、本発明に係る蓄光蛍光体膜は符号4aで示すものとする。
【0022】
本発明は、青緑色発光を示すストロンチウム・アルミネート系の残光性蛍光体と、青緑色光域で効率よく光吸収し発光する赤色発光蛍光体との両方を具備したことを特徴とする長残光性を示す蛍光ランプである。
【0023】
すなわち、図1(a)、(b)に示す蛍光ランプの構成において、蓄光蛍光体膜4aは、MAlで表される蛍光体からなる残光性蛍光体と、一般式Ca(La1−X,Eu12(0<X<1)で表されることを特徴とする赤色発光蛍光体もしくは一般式LiLa1−XEuNb(0<X<1)で表されることを特徴とする赤色発光蛍光体との両方を具備している。
【0024】
次に、このような蓄光蛍光体膜4aを備えた本発明の一実施の形態における残光形水銀蛍光ランプの構成について説明する。すなわち、円筒状のガラス容器1が形作る中空密閉の放電空間に、キセノンと水銀蒸気との混合ガスからなる放電媒体の気体2が封入されている。
【0025】
このガラス容器1の内表面には、まず、SnOからなる導電性被膜3が形成されている。そして、この導電性被膜3の上に蓄光蛍光体膜4aが形成されている。蓄光蛍光体膜4aには、MAlで表される青緑色発光蛍光体からなる残光性蛍光体が含まれる。また、一般式Ca(La1−X,Eu12(0<X<1)で表される赤色発光蛍光体もしくは一般式LiLa1−XEuNb(0<X<1)で表される赤色発光蛍光体
が含まれる。蓄光蛍光体膜4aは、これらの青緑色発光蛍光体と赤色発光蛍光体との混合膜である。
【0026】
さらに、その蓄光蛍光体膜4aの上に、三波長域型蛍光体膜5が設けられている。この三波長域型蛍光体膜5は、BaMgAl1617:Eu,Mnで表される青色発光蛍光体と、LaPO:Ce,Tbで表される緑色発光蛍光体と、Yで表される赤色発光蛍光体との三色混合の蛍光体から構成されている。もしくは、BaMgAl1017:Euで表される青色発光蛍光体と、LaPO:Ce,Tbで表される緑色発光蛍光体と、Y:Euで表される赤色発光蛍光体との三色混合の蛍光体から構成されている。
【0027】
そして、蓄光蛍光体膜4aには、金属酸化物の微粒子を含ませてある。金属酸化物を含ませる理由は、蓄光蛍光体膜4aのピンホールの発生を防ぎ、発光強度の低下を防ぐためである。金属酸化物はα−アルミナやγ−アルミナ、TiO、SiO、MgO、Yなどが好適であるが、この他の金属酸化物でもよい。そして、これらの金属酸化物から選ばれた一つ又は複数が含有されている。
【0028】
また、金属酸化物の微粒子は、一次粒子の最大粒径が蓄光蛍光体膜4aを形成する蓄光蛍光体の最小粒径より小さいことが望ましい。これは、蓄光蛍光体の結晶粒子が概ね5〜30μmの範囲に分布していることから0.3〜5μm程度が好ましい。その理由は、粒径が大きすぎると蓄光蛍光体の発光強度が低下し暗くなるためである。また、金属酸化物は蓄光蛍光体膜4aに重量比で10wt%〜40wt%含ませると効果的である。
【0029】
なお、蓄光蛍光体に上記の粒度及び重量比の金属酸化物を含有させる技術及びその効果については、同一出願人において出願済みの特願2004−086953号に記載されている。
【0030】
上記のような本発明の蛍光ランプは、蓄光蛍光体膜が青緑色発光を示す残光性蛍光体と赤色発光蛍光体とを具備している。青緑色発光を示す残光性蛍光体は、MAlで表される蛍光体である。また、赤色発光蛍光体は、一般式Ca(La1−X,Eu12(0<X<1)もしくは一般式LiLa1−XEuNb(0<X<1)で表される蛍光体である。この蓄光蛍光体膜において、青緑色発光が赤色発光蛍光体に当たることによって、赤色発光蛍光体は青緑色光域で青緑色発光を効率よく光吸収する。この際、青緑色発光を全て光吸収させずに一部通り抜けるようにすれば、光吸収されなかった部分の青緑色発光と赤色発光が混合されて残光性の白色光が得られる。もしくは、青緑色発光を全て光吸収させるようにすれば残光性の赤色発光のみが得られる。これにより、蛍光ランプとしてより発光強度の高い白色もしくは赤色の残光性をもつ蛍光ランプを得ることができる。
【0031】
このように本発明の蛍光ランプは、より高い発光強度を持つ蓄光蛍光体膜を設けたことにより、消灯後に白色もしくは赤色発光が持続される。なお、発光色の制御は、残光性青緑色発光蛍光体と赤色発光蛍光体の混合比によって調節することができる。
【0032】
以上、本発明の一実施の形態について、円筒状のガラス容器を有する蛍光ランプを例にとって説明してきたが、蛍光ランプの形状は環状でも電球型でもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、青緑色と赤色発光が混合された白色もしくは赤色発光が、残光性を持つことを利用して残光形蛍光ランプを実現することができたので、ランプ消灯後にも白色もしくは赤色発光が持続される。これにより、大型店舗や劇場あるいは地下街のように、人が多く集まる空間において一般照明を兼ねた停電時の避難経路表示などへの利用可能性は大きなものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】残光形蛍光ランプの一例を示す図で、同図(a)は長手方向断面図、同図(b)はそのA−A断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ガラス容器
2 放電媒体の気体
3 導電性被膜
4 蓄光蛍光体膜
4a 蓄光蛍光体膜
5 三波長域型蛍光体膜
6A、6B 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス容器の内表面に蓄光蛍光体膜を形成した蛍光ランプにおいて、前記蓄光蛍光体膜は青緑色発光を示す残光性蛍光体と、青緑色発光を吸収し発光する赤色発光蛍光体との両方を具備したことを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項2】
前記青緑色発光を示す残光性蛍光体は、MAl(ただし、MはCa、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の金属元素)で表される残光性蛍光体からなることを特徴とする請求項1記載の蛍光ランプ。
【請求項3】
前記赤色発光蛍光体は、一般式Ca(La1−X,Eu12(0<X<1)で表される赤色発光蛍光体もしくは一般式LiLa1−XEuNb(0<X<1)で表される赤色発光蛍光体からなることを特徴とする請求項1記載の蛍光ランプ。
【請求項4】
前記蓄光蛍光体膜は、MAl(ただし、MはCa、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の金属元素)で表される蛍光体からなる残光性蛍光体と、一般式Ca(La1−X,Eu12(0<X<1)で表される赤色発光蛍光体もしくは一般式LiLa1−XEuNb(0<X<1)で表される赤色発光蛍光体との混合膜であることを特徴とする請求項1記載の蛍光ランプ。
【請求項5】
前記蓄光蛍光体膜の発光色の制御は、前記青緑色発光を示す残光性蛍光体と前記赤色発光蛍光体との混合比を調節することによって行われることを特徴とする請求項1記載の蛍光ランプ。
【請求項6】
前記蓄光蛍光体膜は、金属酸化物の微粒子が含有されていることを特徴とする請求項1記載の蛍光ランプ。
【請求項7】
前記金属酸化物の微粒子は、α−アルミナ、γ−アルミナ、TiO、SiO、MgO、Yから選ばれた一つ又は複数の微粒子であることを特徴とする請求項6記載の蛍光ランプ。
【請求項8】
前記金属酸化物の微粒子は、一次粒子の最大粒径が前記蓄光蛍光体膜の最小粒径より小さいことを特徴とする請求項6記載の蛍光ランプ。
【請求項9】
前記金属酸化物は、前記蓄光蛍光体膜に重量比で10〜40wt%含有されていることを特徴とする請求項6記載の蛍光ランプ。
【請求項10】
一般式Ca(La1−X,Eu12(0<X<1)もしくは一般式LiLa1−XEuNb(0<X<1)で表されることを特徴とする赤色発光蛍光体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−28445(P2006−28445A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212894(P2004−212894)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(300022353)NECライティング株式会社 (483)
【Fターム(参考)】