説明

蛍光体およびその製造方法ならびに発光装置

【課題】 簡便な製造方法で発光効率が高く信頼性に優れた蛍光体およびその製造方法ならびに発光装置を提供する。
【解決手段】 III族窒化物半導体からなる母体半導体11が、III族窒化物半導体のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する酸化物からなる外層13により被覆されている蛍光体。ここで、上記母体半導体11には、発光中心12を添加することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体およびその製造方法ならびに発光装置に関する。なお、このような蛍光体および発光装置は、たとえば、フルカラーの表示装置や液晶パネルのバックライトなどの照明装置に用いられる。
【背景技術】
【0002】
蛍光体とこれを励起する光源としての発光素子とを含む表示装置および照明装置として、蛍光体として励起子ボーア半径の2倍以下でかつ異なる粒径を有する2ないし3のZnCdSe半導体と、これを励起する光源としてGaN系半導体の発光素子とを含み、励起光源から発せられる励起光により蛍光体を励起して、緑と赤、あるいは緑と赤と青の2次光に変換し、これらを混色して白色発光を得る表示装置あるいは照明装置が提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。
【0003】
上記特許文献1には、また、上記半導体の表面はダングリングボンド(未結合手)が支配的であるため、半導体をそのバンドギャップ(バンド間のエネルギーギャップをいう、以下同じ)より大きなバンドギャップを有する材料で覆うことにより、半導体の表面欠陥をキャッピングする技術が記載されている。その一例として、ZnCdSe半導体の表面をZnSで覆った蛍光体が開示されている。
【0004】
このような所謂「表面修飾」の手法は、非放射遷移を抑止して量子閉じ込め効果を増大させるのに有効な手法であり、特許文献1の手法の他にも、カルボキシル基やリン酸基を有する有機酸や界面活性剤で表面を被覆することによって発光効率(発光の際の量子効率をいう、以下同じ)を向上させる手法が提案されている(たとえば、非特許文献1を参照)。
【0005】
しかし、上記の表面修飾手法は、蛍光体と付活される修飾剤が異なる性質の材料で構成されているため、蛍光体となる半導体の微結晶生成とは別に表面修飾プロセスが必要となる。
【0006】
たとえば、ZnSで被覆されたCdSe半導体微結晶の製造には、まずCdSe半導体微結晶を作製した後、これを酢酸亜鉛と硫化ナトリウムを含む媒体中に投入し反応させる必要がある。また、有機酸や無機ガラスで修飾する場合でも、まず蛍光体となる半導体の微結晶を作製した後に共沈法や逆ミセル法などでこれらを吸着させる必要がある。
【0007】
これらの手法は蛍光体の製造に手間となる上にコストがかかる。特に、蛍光体を構成する微結晶がCVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相堆積)法やPLD(Pulse Laser Deposition;パルスレーザ堆積)法などで気相成長される場合、薬剤を用いた化学合成による表面修飾法は、生産性を著しく低下させる。
【0008】
さらに、上記の表面修飾法による発光効率の向上は、ZnCdSe、ZnSなどの半導体の微結晶を用いた蛍光体では効果が確認されているものの、II−VI族化合物半導体は信頼性および環境負荷に懸念を有しており、その他の化合物半導体材料では表面修飾の効果およびその形成手法は未だ確立されていない。
【特許文献1】特開平11−340516号公報
【非特許文献1】磯部,「有機/無機複合型ZnS:Mnナノクリスタル蛍光体の発光機構と局所解析」,表面科学,日本表面科学会,2001年5月1日,第22巻,第5号,p.315−322
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記状況に鑑み、簡便な製造方法で発光効率(発光の際の内部量子効率をいう、以下同じ)が高く信頼性に優れた蛍光体およびその製造方法ならびに発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、III族窒化物半導体からなる母体半導体が、III族窒化物半導体のバンドギャップ(バンド間のエネルギーギャップをいう、以下同じ)よりも大きいバンドギャップを有する酸化物からなる外層により被覆されている蛍光体である。
【0011】
本発明にかかる蛍光体において、上記母体半導体には発光中心が添加されていることが好ましい。また、上記母体半導体の粒径が、励起子ボーア半径の2倍以下であることが好ましい。ここで、上記発光中心は遷移元素からなる群から選択される少なくとも1の元素であること、さらに、上記遷移元素は希土類元素であることが好ましい。
【0012】
また、本発明において、上記母体半導体は、量子サイズ効果を有し蛍光を発するコアと、前記コアのバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有するシェルとの2層構造からなることが好ましい。また、上記コアの粒径が、励起子ボーア半径の2倍以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明にかかる蛍光体において、上記III族窒化物半導体は、III族元素として少なくともInを含む窒化物半導体であることが好ましい。また、上記外層が、III族窒化物半導体を構成するIII族元素の酸化物からなることが好ましい。
【0014】
本発明は、III族窒化物半導体からなる母体半導体をレーザアブレーション法により形成する工程と、母体半導体に酸素を供給することにより、III族窒化物半導体を構成するIII族元素の酸化物からなる外層で母体半導体を被覆する工程とを含む蛍光体の製造方法である。
【0015】
また、本発明は、III族窒化物半導体からなる母体半導体を化学合成法により形成する工程と、母体半導体を媒体中で酸化することにより、III族窒化物半導体を構成するIII族元素の酸化物からなる外層で母体半導体を被覆する工程とを含む蛍光体の製造方法である。
【0016】
本発明は、III族窒化物半導体からなる母体半導体とこの母体半導体を被覆する酸化物からなる外層とを有し、励起によりピーク波長が600nm〜670nmの範囲にある赤色を呈する赤色蛍光体と、III族窒化物半導体からなる母体半導体とこの母体半導体を被覆する酸化物からなる外層とを有し、励起によりピーク波長が500nm〜540nmの範囲にある緑色を呈する緑色蛍光体とを含み、上記赤色蛍光体および緑色蛍光体を青色発光素子とともに励起して混色することにより白色発光を得る発光装置である。
【0017】
本発明にかかる発光装置において、III族窒化物半導体からなる母体半導体と前記母体半導体を被覆する酸化物からなる外層とを有し、励起によりピーク波長が420nm〜480nmの範囲にある青色を呈する青色蛍光体をさらに含み、上記赤色蛍光体、緑色蛍光体および青色蛍光体を上記青色発光素子とともに励起して混色することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
上記のように、本発明によれば、簡便な製造方法で発光効率が高く信頼性に優れた蛍光体およびその製造方法ならびに発光装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明にかかる一の蛍光体は、図1を参照して、III族窒化物半導体からなる母体半導体11が、III族窒化物半導体のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する酸化物からなる外層13により被覆されている。本蛍光体は、III族窒化物半導体からなる母体半導体の微結晶で形成されているので、CdSeやZnSなど従来のII−VI族化合物半導体の微結晶に比べて環境負荷が低く化学的に安定である。また、本蛍光体は、酸化物からなる外層が、微結晶の表面欠陥をキャッピングするので無放射遷移が抑制され、母体半導体の粒径を、量子サイズ効果を有する程度に小さくしても、発光効率の低下を抑制できる。このことにより、発光効率が高く信頼性に優れた蛍光体を得ることができる。
【0020】
本発明にかかる一の蛍光体の母体半導体には、図1に示すような発光中心12が添加されていることが好ましい。発光中心12として添加された元素の殻内遷移による発光は、母体半導体および外層からなる蛍光体での自己吸収が無く発光効率が高い。また発光中心となる添加元素の種類によって遷移エネルギーが異なるため、不純物を適宜選択することにより所定の発光波長に制御できる。このことにより、高い効率を有する発光を所望の波長で得ることができる。
【0021】
本発明にかかる一の蛍光体の発光機構は、図1および図2を参照して、以下のように説明される。蛍光体の本体であるIII族窒化物半導体からなる母体半導体11を励起する励起光のエネルギーは、外層13のバンドギャップより小さいため、外層13を透過して母体半導体11によって吸収される。添加された発光中心12に、母体半導体11に吸収されたエネルギーが遷移すると、発光中心12は軌道電子の殻内遷移により発光する。外層13は、母体半導体11からの発光のエネルギーよりも大きなバンドギャップを有するので、発光は自己吸収されることなく蛍光体外へ放射される。このようにして、発光効率の高い蛍光体が得られる。
【0022】
また、本発明にかかる一の蛍光体において、上記母体半導体の粒径が、励起子ボーア半径の2倍以下であることが好ましい。母体半導体の粒径が励起子ボーア半径の2倍以下であれば、量子サイズ効果が顕著となり、母体半導体と発光中心との電子軌道カップリングが増大するため発光効率が増大する。ここで、励起子ボーア半径とは励起子の存在確率の広がりを示すもので、4πεh2/me2(但し、εは誘電率、hはプランク定数、mは有効質量、eは電荷素量を表わす)で表わされる。なお、母体半導体がIII族窒化物半導体の場合、たとえば、GaN半導体の励起子ボーア半径は約3nm、InN半導体の励起子ボーア半径は約7nmである。さらに、上記母体半導体の粒径は、ボーア半径の1/2倍以上3/2倍以下であるのがより好ましい。母体半導体の粒径が小さくなるほど量子効果が顕著となり、特にボーア半径の3/2倍以下であれば内部量子効率がさらに顕著に増大するので好ましい。一方、量子効果が大きくなりすぎると、母体半導体の粒径によって発光波長が大きく変化し制御が困難となるため、ボーア半径の1/2倍以上であることが好ましい。たとえば、GaN半導体からなる母体半導体の粒径は1.5nm〜4.5nmであることが好ましく、InN半導体からなる母体半導体の粒径は3.5nm〜10.5nmであることが好ましい。
【0023】
また、本発明にかかる一の蛍光体において、上記発光中心12が遷移元素からなる群から選択された少なくとも1の元素であることが好ましい。遷移元素イオンは発光中心として高い効率を有し、また内殻の遷移エネルギーが赤色〜青色の可視光に相当するため、これらを組み合わせることによって極めて演色性の高い白色発光を得ることができる。
【0024】
また、本発明にかかる一の蛍光体において、上記遷移元素が希土類元素であること、すなわち、上記発光中心12が希土類元素からなる群から選択された少なくとも1の元素であることがより好ましい。希土類元素イオンは発光中心として特に高い効率を有し、また内殻遷移エネルギーが赤色〜青色の可視光に相当するため、これらを組み合わせることによって極めて演色性の高い白色発光を得ることができる。
【0025】
また、本発明にかかる一の蛍光体において、上記III族窒化物半導体が、III族元素として少なくともInを含む窒化物半導体であることが好ましい。III族窒化物半導体は化学的に安定で信頼性が高く環境負荷が低い。また、III族窒化物半導体は、III族元素として少なくともInを含むことにより、Inの組成比によってバンドギャップの制御が容易になる。特に、III族元素として少なくともInおよびGaを含む窒化物半導体は、バンドギャップをおよそ1eV〜3eVの広範囲に渡って制御することができる。
【0026】
また、本発明にかかる一の蛍光体において、上記外層が、III族窒化物半導体を構成するIII族元素の酸化物であることが好ましい。外層がIII族元素の酸化物であれば、蛍光体の母体半導体をそのまま表面酸化するなどの簡便な手法で被覆できる。また、吸着などによる表面修飾手法より密着性が高く、信頼性が高い。
【0027】
本発明にかかる別の蛍光体は、図3を参照して、III族窒化物半導体からなる母体半導体11が、III族窒化物半導体のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する酸化物からなる外層13により被覆されている蛍光体であって、上記母体半導体11が、量子サイズ効果を有し蛍光を発するコア21と、このコア21のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有するシェル22との2層構造からなる。
【0028】
シェルがコアよりも大きなバンドギャップを有するので、量子閉じ込め効果によって発光効率が増大し、また自己吸収されること無く蛍光体外へ放射することができる。また、遷移エネルギーに対応する基底準位は、母体半導体の粒径によって制御することができるので、所定の発光波長を得ることができる。このことにより、所定波長の発光を高い効率で得ることができる。
【0029】
本発明にかかる別の蛍光体の発光機構は、図3および図4を参照して、蛍光体の本体であるIII族窒化物半導体からなる母体半導体11を励起する励起光のエネルギーは、外層13のバンドギャップより小さいため、外層13を透過して母体半導体11のシェル22によって吸収され、次いでシェル22によって周囲を囲まれたコア21に遷移する。ここで、コア21の粒径は量子サイズ効果を有する程度に小さいので、コア21は離散化した複数のエネルギー準位のみを取り得る。コア21に遷移した光エネルギーは、上記エネルギー準位のうち伝導帯の基底準位と価電子帯の基底準位との間で遷移(基底量子準位間遷移)し、そのエネルギーに相当する波長の光が発光する。シェル22および外層13は、コア21からの発光のエネルギーよりも大きなバンドギャップを有するので、発光は自己吸収されることなく蛍光体外へ放射される。このようにして、発光効率の高い蛍光体が得られる。
【0030】
本発明にかかる別の蛍光体において、上記コアの粒径が、励起子ボーア半径の2倍以下であることが好ましい。コアの粒径が励起子ボーア半径の2倍以下であれば、量子サイズ効果が顕著となり、コアとシェルとの電子軌道カップリングが増大するため発光効率が増大する。なお、コアがIII族窒化物半導体の場合、たとえば、GaN半導体の励起子ボーア半径は約3nm、InN半導体の励起子ボーア半径は約7nmである。さらに、上記コアの粒径は、ボーア半径の1/2倍以上3/2倍以下であるのがより好ましい。コアの粒径が小さくなるほど量子効果が顕著となり、特にボーア半径の3/2倍以下であれば内部量子効率がさらに顕著に増大するので好ましい。一方、量子効果が大きくなりすぎると、コアの粒径によって発光波長が大きく変化し制御が困難となるため、ボーア半径の1/2倍以上であることが好ましい。たとえば、GaN半導体からなるコアの粒径は1.5nm〜4.5nmであることが好ましく、InN半導体からなるコアの粒径は3.5nm〜10.5nmであることが好ましい。
【0031】
本発明にかかる蛍光体の一の製造方法は、図1を参照して、III族窒化物半導体からなる母体半導体11をレーザアブレーションで形成する工程と、レーザアブレーションを行う装置内で母体半導体11に酸素を供給することにより、III族窒化物半導体を構成するIII族元素の酸化物からなる外層13で母体半導体を被覆する工程とを含む。
【0032】
レーザアブレーション法は非平衡性が高く、原材料ターゲットからの組成ずれが極めて小さいので、結晶成長の困難なIII族窒化物半導体の微結晶、特にInGaN半導体の微結晶を生成させるのに好ましい成長手法である。また、プルーム(飛散粒子)は高い活性状態にあるので、基板などに到達するまでに酸化力の強いガスを吹き付けることにより、母体半導体の表面のみを酸化させて被覆することができる。本手法はin-situで母体半導体の酸化物層を形成でき、生産性が高い。
【0033】
図5に、本発明において用いられる一のレーザアブレーション装置200を示す。図5を参照して、本レーザアブレーション装置は、超高真空に排気可能な成長室201の上部に基板ホルダー202が配置され、基板ホルダー202に基板203が固定されている。基板ホルダー202の上部に配置されたヒータ204により基板ホルダー202の裏面が加熱され、その熱伝導により基板203が加熱される。基板ホルダー202直下には適当な距離を置いてターゲットテーブル205が配置され、ターゲットテーブル205上には原料ターゲット206が配置されている。また、成長室201にはガスを導入できるようガス導入管210が設けられており、ラジカルセル209によって活性化された原子状ビームを基板に照射することも可能である。
【0034】
ここで、III族窒化物を原料ターゲット206として用いて、原料ターゲット206に成長室201の側面に設けられたビューポート207を通じてパルスレーザ光208を照射するにより原料ターゲット206の表面がアブレーションされ、瞬時に蒸発した原料ターゲット206の原料であるIII族窒化物が基板203上に堆積することにより、蛍光体の母体半導体となるIII族窒化物半導体の微結晶が成長する。
【0035】
このとき、基板203近傍に設置されたガス導入管210からO2ガスを供給し、基板に到着する直前のIII族窒化物半導体の微結晶からなるプレームの表面を酸化することにより、上記母体半導体がIII族窒化物半導体を構成するIII族元素の酸化物からなる外層により被覆される。
【0036】
本製造方法においては、母体半導体の表面欠陥をキャッピングするのに必要な外層による被覆を、蛍光体生成の最終段階で母体半導体表面のIII族元素を酸化することによって行っており、複雑な表面修飾手法を付加すること無く発光効率を向上させることができる。
【0037】
なお、上記レーザアブレーション装置において、基板203およびヒータ204を設けずに、母体半導体を酸化物層からなる外層で被覆して形成した蛍光体を別途設けた排気管(図示せず)へ直接導入し回収するようにすれば、微結晶粉末の蛍光体を得ることができる。
【0038】
また、図1および図5を参照して、本製造方法においては、発光中心12となる元素の添加濃度は原料ターゲット206への添加量で制御することができる。また、蛍光体の粒径は、レーザアブレーション時のパルスレーザ出力、成長室真空度および原料ターゲット206と基板203との間の距離で制御することが可能である。さらに、外層13の厚さは、ガス導入管210より供給されるO2ガス流量および供給位置によって制御することができる。すなわち、O2ガス供給位置を基板203あるいは排気管(図示せず)に近くすれば外層13は薄くなり、原料ターゲット206に近くすれば外層13は厚くなる。なお、O2ガスは常に供給する必要はなく、原料ターゲットをアブレーションするレーザパルスに同期してパルス的に供給してもよい。さらに、酸化力を強めるため、ガス導入管210からO2ガスを供給する代りに、別途設けたラジカルセル(図示せず)を用いてプラズマ化した酸素ラジカルを供給してもよい。
【0039】
本発明にかかる他の蛍光体の製造方法は、III族窒化物半導体からなる母体半導体を化学合成法で形成し、母体半導体を媒体中で酸化することにより、III族窒化物半導体を構成するIII族元素の酸化物からなる外層で母体半導体を被覆する工程とを含む。
【0040】
ここで、化学合成法とは、生成物質の構成元素を含む複数の出発物質を媒体に分散させ、これを反応させて目的の生成物質を得る合成法をいい、ゾルゲル法(コロイド法)、逆ミセル法、分子プレカーサ法、水熱合成法、フラックス法などが含まれる。化学合成法は極めて簡便な手法により低コストで母体半導体を得ることができる。媒体を介して化学反応を生ぜしめるので、合成完了後に媒体に酸化剤を添加するなどの手法で表面のみを酸化させて被覆することができる。本手法はin-situで外層となる酸化物層を形成でき、生産性が高い。
【0041】
本発明にかかる一の発光装置は、図7を参照して、III族窒化物半導体からなる母体半導体と、母体半導体を被覆する酸化物からなる外層とを有し、励起によりピーク波長が600nm〜670nmの範囲にある赤色を呈する赤色蛍光体103と、III族窒化物半導体からなる母体半導体と、母体半導体を被覆する酸化物からなる外層とを有し、励起によりピーク波長が500nm〜540nmの範囲にある緑色を呈する緑色蛍光体104とを含み、赤色蛍光体103および緑色蛍光体104を青色発光素子102とともに励起して混色することにより白色発光を得るものである。
【0042】
さらに具体的には、本発明にかかる一の発光装置は、図7を参照して、支持基板101上に、青色発光素子102が配置され、さらにその上に赤色蛍光体103および緑色蛍光体104を均一に分散させた蛍光体分散層105が配置されている。青色発光素子102は、等間隔でアレイ状に配置されている。ここで、青色発光素子102の大きさおよび配置間隔は任意である。また、青色発光素子102が隔壁106で仕切られていてもよい。隔壁106を設ける場合、隔壁106に入射した光が蛍光体(赤色蛍光体103および緑色蛍光体104をいう、以下同じ)を含む蛍光体分散層105方向へ高効率に反射されるように、隔壁106の少なくとも表面は光反射率の高い材料で形成されることが好ましい。
【0043】
本発光装置において用いられる赤色蛍光体および緑色蛍光体は、青色発光素子と共に発光させることにより全体として白色発光を得るものであり、安定かつ発光効率の高い蛍光体材料で構成されているので、省電力性と信頼性に優れた発光装置を得ることができる。また、蛍光ピーク波長が上記所定の範囲にあることにより、単原色の色純度が高いので、白色光の演色性が向上する。
【0044】
また、本発明にかかる別の発光装置は、上記の一の発光装置において、III族窒化物半導体からなる母体半導体と、母体半導体を被覆する酸化物からなる外層とを有し、励起によりピーク波長が420nm〜480nmの範囲にある青色を呈する青色蛍光体をさらに含み、赤色蛍光体、緑色蛍光体および青色蛍光体を青色発光素子とともに励起して混色することにより白色発光を得るものである。かかる発光装置は、励起光源とは独立した青色蛍光体を含むことにより、光吸収および/または光散乱を制御する必要がなく、発光装置中の蛍光体充填度を上げることができる。また、蛍光ピーク波長が上記所定の範囲にあることにより、青色蛍光体による単原色の色純度が高いので、励起光源を内部量子効率の高い波長に最適化しても演色性を損なわない。これらのことにより、発光効率と生産性に優れた発光装置を得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づいて、本発明にかかる蛍光体、蛍光体の製造方法および発光装置について具体的に説明する。なお、実施例において、発光効率、すなわち発光の際の量子効率としては、内部量子効率または外部量子効率を用いた。ここで、外部量子効率とは蛍光体に照射されたフォトン数に対する蛍光体が発したフォトン数の比をいい、内部量子効率とは蛍光体が吸収したフォトン数に対する蛍光体が発したフォトン数の比をいう。
【0046】
(実施例1)
本実施例は、上記の一の蛍光体であって母体半導体に発光中心が添加されているもの、すなわち、発光中心が添加されているIII族窒化物半導体からなる母体半導体が、III族窒化物半導体のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する酸化物からなる外層により被覆されている蛍光体についての実施例である。
【0047】
本実施例にかかる蛍光体は、レーザアブレーション法により製造した。図5を参照して、洗浄処理したサファイア基板を基板203としてレーザアブレーション装置200に配置して、600℃で30分間加熱して基板203を清浄化した。次に、基板203の温度を25℃まで降温した後、Euを1×1020cm-3の濃度で添加したIn0.1Ga0.9Nを原料ターゲットとして、KrFエキシマレーザのパルス照射(波長:248nm、パルス数:10Hz、出力1J/cm2)によりアブレーションを行なった。このとき、ラジカルセル209よりプラズマ化したN2ガスを流し、アブレーション時に欠損する窒素を補った。また、このとき、さらに、基板203近傍のガス導入管210にO2ガスを流し、基板に到達する直前のプルーム表面が酸化されるようにして、InおよびGaの酸化物からなる外層により母体半導体が被覆された蛍光体を形成した。
【0048】
このようにして得られた蛍光体は、図1を参照して、発光中心12であるEuが1×1020cm-3の濃度で添加された粒径100nmのIn0.1Ga0.9N半導体の微結晶である母体半導体11が、InおよびGaの酸化物からなる厚さ約1nmの外層13によって被覆されていた。
【0049】
この蛍光体において、その母体半導体であるIn0.1Ga0.9N半導体は、その吸収端の波長が420nmとなるようにIn組成比が調整されているため、III族窒化物からなる青色発光素子を励起光源として用いることができ、特に外部量子効率の高い400nm近傍の発光を効率よく吸収することができる。
【0050】
上記のように、この蛍光体の発光機構は、図1および図2を参照して、以下のように説明される。蛍光体の本体であるIII族窒化物半導体からなる母体半導体11を励起する励起光のエネルギーは、外層13のバンドギャップより小さいため、外層13を透過して母体半導体11によって吸収される。添加された発光中心12に、母体半導体11に吸収されたエネルギーが遷移すると、発光中心12は軌道電子の殻内遷移により発光する。ここで、外層13は母体半導体11からの発光のエネルギーよりも大きなバンドギャップを有するので、発光は自己吸収されることなく蛍光体外へ放射される。このようにして、蛍光体の発光効率が向上する。
【0051】
この蛍光体をピーク波長405nmのGaN半導体の青色発光素子で励起したところ、波長620nmの赤色蛍光が得られた。この蛍光体の内部量子効率(蛍光体が吸収したフォトン数に対する蛍光体が発したフォトン数の割合(%)、以下同じ)を図8に示す測定装置300により測定したところ、75%であった。また、この蛍光体寿命(励起スペクトルのピーク波長で励起したときのエネルギー変換効率が初期値の50%となるまでの時間、以下同じ)を図8の測定装置300を用いてエネルギー変換効率の時間依存性を評価することにより算出したところ、10000時間であった。結果を表1にまとめた。ここで、エネルギー変換効率とは投入電力(単位:W(ワット))に対する全光束量(単位:lm(ルーメン))の比をいい、図8の測定装置300を用いて励起光源301をピーク波長405nmのGaN半導体の青色発光素子とすることにより測定できる。
【0052】
ここで、図8に示す装置300を用いて内部量子効率および外部量子効率を測定する方法を説明する。図8の装置300は、励起光源301としてキセノンランプを用い、連続した波長に分布する励起光をモノクロメータ302で単一波長に分光し、ミラー303を経て積分球304の入射孔305に入射させる。入射孔305に入射した励起光は、反対側の測定孔306に入射し、そこに設置された試料307に入射する。試料からの発光および励起光の反射成分は、積分球305内で集光され、出射孔308より出射する。出射光は分光器309で分光され測定される。モノクロメータ302および分光器309の駆動は、制御コンピュータ310によって制御されている。
【0053】
内部量子効率の測定および算出は、以下のように行なう。すなわち、予め励起波長における反射率が既知の標準試料(ここでは硫酸バリウムをコーティングした反射板を用いた)を用いて励起光の強度を測定し、次いで測定試料について励起光の強度を測定すれば、両者の比より蛍光体の吸収率を求めることができる。この蛍光体の吸収率に励起光源301から発せられるフォトン数に吸収係率を乗じれば、蛍光体が吸収したフォトン数が導かれる。蛍光体から発せられるフォトン数を上記蛍光体が吸収したフォトン数で除すると、内部量子効率が算出される。
【0054】
また、外部量子効率の測定および算出についても図8の測定装置を用いて行なうことができる。この場合は、蛍光体から発せられるフォトン数を励起光源301から発せられるフォトン数で除すれば、外部量子効率が算出される。
【0055】
(比較例1)
実施例1において、基板203近傍のガス導入管210にO2ガスを流さなかった以外は実施例1と同様にして、発光中心12であるEuが1×1020cm-3の濃度で添加された粒径100nmのIn0.1Ga0.9N半導体の微結晶である母体半導体11からなる蛍光体が得られた。この蛍光体の内部量子効率は20%であり、蛍光体寿命は5000時間であった。結果を表1にまとめた。
【0056】
(比較例2)
比較のために、メタクリル酸で表面修飾された粒径3nmのMn添加ZnS半導体からなる蛍光体(蛍光ピーク波長:580nm)の内部量子効率および蛍光体寿命を測定した。この蛍光体の内部量子効率は30%、蛍光体寿命は2000時間であった。結果を表1にまとめた。
【0057】
(比較例3)
比較のために、粒径10nmのEu添加Y22S半導体からなる蛍光体(蛍光ピーク波長:625nm)の内部量子効率は60%、蛍光体寿命は3000時間であった。結果を表1にまとめた。
【0058】
【表1】

【0059】
表1において、実施例1と比較例1とを比較すると明らかなように、III族窒化物半導体からなる母体半導体が、上記III族窒化物半導体のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する酸化物からなる外層により被覆されている蛍光体の内部量子効率および寿命が、上記外層により被覆されていない蛍光体の内部量子効率および寿命に比べて著しく優れていることがわかる。また、実施例1と比較例2または比較例3とを比較すると明らかなように、本実施例にかかる蛍光体の内部量子効率および寿命は、従来の蛍光体の内部量子効率および寿命に比べても著しく優れていることがわかる。
【0060】
(実施例2)
本実施例は、上記の別の蛍光体、すなわち、III族窒化物半導体からなる母体半導体がIII族窒化物半導体のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する酸化物からなる外層により被覆されている蛍光体であって、上記母体半導体が、量子サイズ効果を有し蛍光を発するコアと、このコアのバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有するシェルとの2層構造からなる蛍光体についての実施例である。
【0061】
本実施例にかかる蛍光体は、InCl3(塩化インジウム)、GaCl3(塩化ガリウム)およびLi3N(窒化リチウム)を原料とした化学合成法により製造した。すなわち、0.03モルの粉末状InCl3、0.07モルの粉末状GaCl3および0.1モルの粉末状Li3Nを各々キシレン100cm3に分散させたのち混合し、オートクレーブにて300気圧(30.39MPa)、300℃に保ち12時間反応させた。25℃まで冷却しキシレンを蒸発させてコアを得た。次に、0.01モルの粉末状InCl3、0.09モルの粉末状GaCl3および0.1モルの粉末状Li3Nを各々キシレン100cm3に分散させたのち混合し、かかる混合液に上記コアを混合して、オートクレーブにて300気圧(30.39MPa)、350℃に保ち24時間反応させた。25℃まで冷却してキシレンを蒸発させてシェルを得た後、媒体として純水を加えて副生成物のLiClを溶解除去すると共に、純水中の溶存酸素によってシェルの主生成物であるIn0.1Ga0.9N半導体の表面を酸化してInおよびGaの酸化物からなる厚さ約1nmの外層によりInGaO3を被覆して、微粉末状の蛍光体を得た。
【0062】
このようにして得られた蛍光体は、図3を参照して、In0.3Ga0.7N半導体からなる粒径10nmのコア21とIn0.1Ga0.9N半導体からなる粒径1.2μmのシェル22とからなる母体半導体11が、InおよびGaの酸化物からなる厚さ約1nmの外層13により被覆されていた。
【0063】
この蛍光体において、その母体半導体11のシェル22であるIn0.1Ga0.9N半導体は、実施例1の場合と同様に、その吸収端の波長が420nmとなるようにIn組成比が調整されているため、III族窒化物からなる青色発光素子を励起光源として用いることができ、特に外部量子効率の高い400nm近傍の発光を効率よく吸収することができる。
【0064】
上記のように、この蛍光体の発光機構は、図3および図4を参照して、以下のように説明される。すなわち、蛍光体の本体であるIII族窒化物半導体からなる母体半導体11を励起する励起光のエネルギーは、外層13のバンドギャップより小さいため、外層13を透過して母体半導体11のシェル22によって吸収され、次いでシェル22によって周囲を囲まれたコア21に遷移する。ここで、コア21の粒径は量子サイズ効果を有する程度に小さいので、コア21は離散化した複数のエネルギー準位のみを取り得る。コア21に遷移した光エネルギーは、上記エネルギー準位のうち伝導帯の基底準位と価電子帯の基底準位との間で遷移(基底量子準位間遷移)し、そのエネルギーに相当する波長の光が発光する。シェル22および外層13は、コア21からの発光のエネルギーよりも大きなバンドギャップを有するので、発光は自己吸収されることなく蛍光体外へ放射される。このようにして、蛍光体の発光効率が向上する。
【0065】
この蛍光体をピーク波長405nmのGaN半導体の青色発光素子で励起したところ、ピーク波長530nmの緑色蛍光が得られた。また、この蛍光体の内部量子効率は80%、蛍光体寿命は10000時間であった。
【0066】
本実施例においては、コア21の粒径は、オートクレーブ中の圧力および反応時間で制御することができる。また、外層13の厚さは、媒体である純水中の溶存酸素量および主生成物In0.3Ga0.7Nの浸水時間によって制御できる。シェルの表面を酸化させるための酸化剤としては、媒体中の溶存酸素の他、過酸化水素水など酸化力の強い薬剤を用いてもよい。
【0067】
コアおよびシェルを合成する際の溶媒には無極性有機溶媒が好ましく、キシレンの他にベンゼンなどを用いることができる。
【0068】
なお、本実施例の製造方法を用いて発光中心を添加した蛍光体を製造することも可能である。同様に、実施例1の製造方法を用いて母体半導体としてコアとシェルを有する蛍光体を製造することも可能である。
【0069】
本実施例にかかる蛍光体において、コア21の粒径を変化させた時における蛍光体の内部量子効率の変化を図6に示す。図6から明らかに、コアの粒径が10nm以下のときに内部量子効率が顕著に増大することがわかる。この粒径は、励起子ボーア半径のほぼ2倍の大きさに相当する。ここで、励起子ボーア半径とは励起子の存在確率の広がりを示すもので、4πεh2/me2(但し、εは誘電率、hはプランク定数、mは有効質量、eは電荷素量を表わす)で表わされる。ここで、本実施例において、コア21を構成するIn0.3Ga0.7N半導体の励起子ボーア半径は5nmである。このように、コアの粒径が励起子ボーア半径の2倍以下である蛍光体は、量子サイズ効果により内部量子効率が増大し、発光効率が増大するので好ましい。
【0070】
本実施例における上記コアの粒径は、特に7.5nm以下、すなわちボーア半径の3/2倍以下であれば内部量子効率がさらに顕著に増大するので好ましい。一方、量子効果が大きくなりすぎると、コアの粒径によって発光波長が大きく変化し制御が困難となる。このため、2.5nm以上、すなわちボーア半径の1/2倍以上であることが好ましい。
【0071】
(実施例3)
本実施例は、上記の一の発光装置、すなわち青色発光素子、実施例1の赤色蛍光体および実施例2の緑色蛍光体を用いた白色光を呈する面発光型の発光装置の例を示す。
【0072】
本実施例にかかる発光装置は、図7を参照して、支持基板101上に、III族窒化物半導体で構成された青色発光素子102が配置され、その上にInGaN半導体を母体半導体とする赤色蛍光体103とInGaN半導体を母体半導体とする緑色蛍光体104とを均一に分散させた板状のエポキシ樹脂からなる蛍光体分散層105が配置されている。励起光源である青色発光素子102のピーク波長は450nmである。青色発光素子102の大きさは300μm角であり、50μmの等間隔でアレイ状に配置されている。なお、青色発光素子102大きさおよび配置間隔は任意に設定することができる。青色発光素子102は隔壁106で仕切られていてもよい。隔壁106を設ける場合、隔壁106に入射した光が蛍光体を含む蛍光体分散層105方向へ高効率に反射されるように、隔壁106表面は光反射率の高い材料で構成されることが好ましい。
【0073】
蛍光体分散層105に分散された赤色蛍光体103は、実施例1と同様に、発光中心であるEuが1×1020cm-3の濃度で添加された粒径100nmのIn0.1Ga0.9N半導体である母体半導体が、InおよびGaの酸化物からなる厚さ約1nmの外層13によって被覆されており、その蛍光ピーク波長は620nmである。
【0074】
蛍光体分散層105に分散された緑色蛍光体104は、実施例2と同様に、In0.3Ga0.7N半導体からなる粒径10nmのコア21とIn0.1Ga0.9N半導体からなる粒径1.2μmのシェル22とからなる母体半導体11が、InおよびGaの酸化物からなる厚さ約1nmの外層13により被覆されており、その蛍光ピーク波長は530nmである。
【0075】
蛍光体分散層105への赤色蛍光体103および緑色蛍光体104の充填度とその割合は、蛍光体からの赤色発光および緑色発光が励起光の青色発光の散乱成分と混色されて白色発光を呈するように調整されている。
【0076】
青色発光素子102と赤色蛍光体103および緑色蛍光体104を含む蛍光体分散層105との距離は近いほど発光効率は高くなるので、両者は接していてもよいが、青色発光素子102からの発熱がエポキシ樹脂からなる蛍光体分散層105を劣化させないように間隙を設けてもよく、たとえばAlNまたはSiCなどで構成された光透過性の熱伝導材を間に設けることができる。
【0077】
励起光源の青色発光素子102に電流を流して本実施例にかかる発光装置100を駆動したところ、蛍光体分散層105の表面から白色光が放射された。このとき、本発光装置のエネルギー変換効率は80lm/Wであり、平均演色評価数はRa90であった。ここで、エネルギー変換効率とは投入電力(単位:W(ワット))に対する全光束量(単位:lm(ルーメン))の比をいい、図8の測定装置を用いることにより測定できる。また、平均演色評価数とは、基準光源による色彩再現の忠実度を表す尺度をいい、基準光にCIE昼光(色温度5000K)を用い、試験色として赤・黄・黄緑・緑・青緑・青紫・紫・赤紫(明度6、彩度7)の8色を用いて、本発光装置の演色評価数を
Ri=100−4.6×ΔEi
(ここで、iは上記8つの試験色のいずれかを表す符号で、1〜8の値をとる)
で算出し、さらに各々の演色評価数の総加平均
Ra=Σ(i=1〜8)Ri×1/8
を算出することにより求めることができる。
【0078】
本実施例にかかる発光装置は、赤色蛍光体103の蛍光ピーク波長が600nm〜670nmの範囲にあり、かつ、緑色蛍光体104の蛍光ピーク波長が500nm〜540nmの範囲にあるので、いずれも単原色の色純度が高い。さらに、励起光が、青色発光素子の発光ピーク波長が440nm〜480nmの範囲内の純青色であるため、これらの混色による白色発光において優れた演色性が得られたと考えられる。
【0079】
本実施例において、蛍光体の励起光源には、450nmに発光ピーク波長を有するIII族窒化物から構成される青色発光素子を用いたが、この場合、実施例1で述べたように、励起光源は380nm〜420nmに発光ピーク波長を有することが、発光素子の外部量子効率がより高くなるため、好ましい。
【0080】
ここで、青色発光素子102として、III族窒化物半導体の他にMgCdZnO、ZnMgSSeなどのII−VI族化合物半導体を用いることもできる。また、発光素子の形態も、自然放出光を用いた発光素子のみならず、SLD(Super Luminescent Diode;スーパールミネッセントダイオード)や、誘導放出光を用いた半導体レーザ素子を用いてもよい。特に半導体レーザ素子はスペクトル線幅が狭く、発光ピーク波長を発光素子の外部量子効率および蛍光体の励起効率が最大となる波長に合わせ込むことにより、エネルギー変換効率の極めて高い発光装置を実現することができる。
【0081】
また、蛍光体が分散される蛍光体分散層105に用いる有機樹脂としては、吸湿性が低く耐久性と寸法安定性に優れたエポキシ樹脂の他、可視光の透過性に優れたアクリル樹脂、紫外線劣化に強いシリコン樹脂あるいはポリカーボネート樹脂などが適している。また、これらを組み合わせて用いてもよく、たとえば、励起光源側にはシリコン樹脂を、反対側の光放射面にはエポキシ樹脂を用いた2層構造とすることによって、励起光の短波長成分および外気のいずれに対しても耐久性が向上する。また、上記蛍光体分散層にはガラスを用いてもよく、上記有機樹脂に比べ可視光の透過性、耐久性などの点においてさらに優れている。
【0082】
また、支持基板101は、アレイ状の青色発光素子102および蛍光体分散層105を支持できれば、その材質は任意のもの、たとえば、ガラス、プラスチック、セラミックスなどを用いてよい。また、サファイアなどIII族窒化物半導体のエピタキシャル成長用基板を用いることもできる。さらに、青色発光素子をアレイ状に作り付けた基板をそのまま支持基板として用いれば、青色発光素子の配置および配線の手間を大幅に省くことができる。
【0083】
面内で色ムラの無い均一な発光を得るために、青色発光素子と蛍光体分散層の間に導光板を設けてもよく、その場合には青色発光素子は発光装置の側面に取り付けてもよい。さらに、蛍光体分散層中にはシリカ微粒子などの光拡散材を分散させてもよい。光拡散材は、自身は光を吸収せず散乱させる働きを有し、蛍光体分散層中に分散したの赤色蛍光体および緑色蛍光体からの赤色光および緑色光ならびに青色発光素子からの青色光を均一に混色する働きを有する。これによって白色光の色ムラを防止し、白色光の視認性を向上させることができる。
【0084】
また、支持基板の蛍光分散層側とは反対側の面には、励起光および2次光を反射する反射板を設けてもよい。反射板を設けることにより、発光装置から放射される光の損失を抑制して発光に寄与させることができ、発光装置の効率が格段に向上する。
【0085】
さらに、青色発光素子と蛍光体分散層との間には、380nmより小さい波長の光を遮蔽する光学フィルタが設けられていてもよい。かかる光学フィルタを設けることにより、励起光源スペクトルの裾部にわずかながら含まれる紫外光成分を遮蔽することができる。この紫外線成分は上記蛍光体の励起に寄与せず、また蛍光体分散層の材質が有機樹脂である場合にはこれが劣化する要因となる。すなわち、光学フィルタを設けることによって、発光装置の信頼性を格段に向上させることができる。
【0086】
(実施例4)
本実施例は、上記の別の発光装置、すなわち青色発光素子、実施例1の赤色蛍光体および実施例2の緑色蛍光体に加えて、青色蛍光体を用いた白色光を呈する面発光型の発光装置の例を示す。
【0087】
本実施例において、上記赤色蛍光体および緑色蛍光体とともに蛍光体分散層に分散された青色蛍光体は、InN半導体からなる粒径4.5nmのコア21とIn0.1Ga0.9N半導体からなる粒径1.2μmのシェル22とからなる母体半導体11が、InおよびGaの酸化物からなる厚さ約1nmの外層13により被覆されており、その蛍光ピーク波長は425nmである。また、励起光源としては、III族窒化物半導体から構成される発光ピーク波長が455nmの青色発光素子を用いた。その他の構成は、実施例3と同様である。
【0088】
本実施例においては、励起光源とは独立に青色発光を呈する蛍光体を用いたので、励起光源の吸収と散乱を制御する必要が無く、中における蛍光体の充填度を向上させることができる。また、青色蛍光体の蛍光波長と、青色発光素子の発光波長とを互いに独立に制御することができるため、演色性が向上する。また、白色発光の演色性の向上の点から、青色蛍光体の蛍光ピーク波長は420nm〜480nmの範囲にあることが好ましく、440nm〜460nmの範囲にあることがより好ましい。
【0089】
本実施例にかかる発光装置のエネルギー変換効率は90lm/Wであり、実施例3よりもさらにエネルギー変換効率が向上した。これは、青色発光素子の発光ピーク波長を、外部量子効率が最も高くなる405nmに設定したことによるものと考えられる。
【0090】
なお、本発明にかかる蛍光体は、上記実施例に示した面発光型の発光装置の他、光漏曳ファイバを用いた線状発光型の発光装置、発光素子の形状に代表される点発光型の発光装置に適用することもでき、その場合でも同様の効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0091】
上記のように、本発明は、発光効率および信頼性の向上を目的として、蛍光体およびその製造方法ならびに発光装置に広く利用することができる。かかる蛍光体および発光装置は、たとえば、フルカラーの表示装置や液晶パネルのバックライトなどの照明装置に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明にかかる一の蛍光体を示す断面模式図である。
【図2】本発明にかかる一の蛍光体の発光機構を示す模式図である。
【図3】本発明にかかる別の蛍光体を示す断面模式図である。
【図4】本発明にかかる別の蛍光体の発光機構を示す模式図である。
【図5】本発明において用いられる一のレーザアブレーション装置を示す模式図である。
【図6】本発明にかかる別の蛍光体において、コアの粒径を変化させた時における蛍光体の内部量子効率の変化を示す図である。
【図7】本発明にかかる一の発光装置を示す断面模式図である。
【図8】本発明にかかる蛍光体および発光装置の内部量子効率、外部量子効率およびパワー変換効率の測定装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0093】
10,20 蛍光体、11 母体半導体、12 発光中心、13 外層、21 コア、22 シェル、100 発光装置、101 支持基板、102 青色発光素子、103 赤色蛍光体、104 緑色蛍光体、105 蛍光体分散層、106 隔壁、200 レーザアブレーション装置、201 成長室、202 基板ホルダー、203 基板、204 ヒータ、205 ターゲットテーブル、206 原料ターゲット、207 ビューポート、208 パルスレーザ光、209 ラジカルセル、210 ガス導入管、300 測定装置、301 励起光源、302 モノクロメータ、303 ミラー、304 積分球、305 入射孔、306 測定孔、307 測定試料、308 出射孔、309 分光器、310 制御用コンピュータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体からなる母体半導体が、前記III族窒化物半導体のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する酸化物からなる外層により被覆されている蛍光体。
【請求項2】
前記母体半導体には、発光中心が添加されている請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記母体半導体の粒径が、励起子ボーア半径の2倍以下である請求項2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記発光中心が、遷移元素からなる群から選択される少なくとも1の元素である請求項2に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記遷移元素が、希土類元素である請求項4に記載の蛍光体。
【請求項6】
前記母体半導体が、量子サイズ効果を有し蛍光を発するコアと、前記コアのバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有するシェルとの2層構造からなる請求項1に記載の蛍光体。
【請求項7】
前記コアの粒径が、励起子ボーア半径の2倍以下である請求項6に記載の蛍光体。
【請求項8】
前記III族窒化物半導体が、III族元素として少なくともInを含む窒化物半導体である請求項1に記載の蛍光体。
【請求項9】
前記外層が、前記III族窒化物半導体を構成するIII族元素の酸化物からなる請求項1に記載の蛍光体。
【請求項10】
III族窒化物半導体からなる母体半導体をレーザアブレーション法により形成する工程と、前記母体半導体に酸素を供給することにより、前記III族窒化物半導体を構成するIII族元素の酸化物からなる外層で前記母体半導体を被覆する工程とを含む蛍光体の製造方法。
【請求項11】
III族窒化物半導体からなる母体半導体を化学合成法により形成する工程と、前記母体半導体を媒体中で酸化することにより、前記III族窒化物半導体を構成するIII族元素の酸化物からなる外層で前記母体半導体を被覆する工程とを含む蛍光体の製造方法。
【請求項12】
III族窒化物半導体からなる母体半導体と、前記母体半導体を被覆する酸化物からなる外層とを有し、励起によりピーク波長が600nm〜670nmの範囲にある赤色を呈する赤色蛍光体と、
III族窒化物半導体からなる母体半導体と、前記母体半導体を被覆する酸化物からなる外層とを有し、励起によりピーク波長が500nm〜540nmの範囲にある緑色を呈する緑色蛍光体とを含み、
前記赤色蛍光体および前記緑色蛍光体を青色発光素子とともに励起して混色することにより白色発光を得る発光装置。
【請求項13】
III族窒化物半導体からなる母体半導体と、前記母体半導体を被覆する酸化物からなる外層とを有し、励起によりピーク波長が420nm〜480nmの範囲にある青色を呈する青色蛍光体をさらに含み、
前記赤色蛍光体、前記緑色蛍光体および前記青色蛍光体を前記青色発光素子とともに励起して混色することにより白色発光を得る請求項12に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−83259(P2006−83259A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268202(P2004−268202)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(502284298)
【出願人】(502285309)
【出願人】(303008600)
【出願人】(502307081)
【Fターム(参考)】