説明

蛍光体からの希土類元素の回収方法

【課題】希土類元素を付活成分として含む蛍光体から希土類元素を回収する方法であって、幅広い種類の蛍光体に対して比較的簡単に適用できる新規な方法を提供する。
【解決手段】希土類元素を含む蛍光体に、該蛍光体とガラス化し得る成分を添加した後、溶融してガラス化させ、その後、酸を含む水溶液と接触させて該蛍光体から希土類元素を抽出することを特徴とする、蛍光体からの希土類元素の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付活成分として希土類元素を含む蛍光体から、希土類元素を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素は、蛍光体、磁石などをはじめとする各種の分野において、目的とする機能を発現させるために必要な成分として、無機材料、金属などに添加して使用されており、特に、電気・電子機器において必要不可欠な元素である。しかしながら、希土類元素は、資源として中国等の地域に偏在しており、輸出や価格設定がコントロールされるために、供給不安が起こる危険性があることが指摘されている。
【0003】
希土類元素を含む材料のうちで、蛍光体は、蛍光ランプ、バックライト、ディスプレイなどに使用される重要な材料であり、現在、国内で年間数百トン以上が使用されている。これらの使用済みの蛍光ランプやディスプレイを解体した後、蛍光体を回収し、更に、赤色、緑色、青色の各色の蛍光体を分取する方法については、例えば、特許文献1〜3等に記載されている。また、分取後、劣化した部分をメカニカルミリング、加熱等によって回復させる方法も特許文献3、4等に記載されている。
【0004】
しかしながら、一度劣化した蛍光体をこれらの方法で再生させる方法では、再生後の蛍光体の表面状態、粒子形状等は、再生前の蛍光体とは異なるものとなり、蛍光体としての性能に相違が生じるという欠点がある。
【0005】
また、丸管等の複雑な形状の蛍光ランプは、ガラスを全部破砕して水銀を回収した後、比重、粒度等で蛍光体を主とする材料として分離されており、質の良い蛍光体を得ることが難しく、上記した方法では、蛍光体として再生することは困難である。
【0006】
通常、蛍光体には、数%から十%程度の希土類元素が含まれており、回収した低品位の蛍光体は貴重な希土類資源となる。回収蛍光体から化学的手法を用いて希土類元素を回収することは可能ではあるが、コスト点で問題があるため、希土類元素を効率良く分離できる方法が望まれる。
【0007】
廃棄された蛍光体から希土類を抽出する方法としては、酸処理によって蛍光体を水中に溶解させた後、希土類をシュウ酸などで沈殿させて希土類酸化物として回収する方法、溶媒抽出によって希土類を抽出する方法などが知られている(非特許文献1)。
【0008】
しかしながら、工業的に取り扱いが容易な1規定程度の酸で分解できる蛍光体の種類は限られており、酸を用いて蛍光体から希土類元素を回収する方法は、適用できる蛍光体の種類が非常に限定されたものとなる。例えば、非特許文献1には、Euを付活成分とする赤色蛍光体(Y2O3:Eu3+)は、1N程度の硫酸で分解できるが、Ceを付活成分とする緑色蛍
光体(LaPO4:Tb,Ce)を溶解させるためには、36Nの高濃度の硫酸を使用するか、或いはアルカリ融解等の手段を適用することが必要であることが示されている。今後、BaMgAl10O17:Eu2+、Y3Al5O12:Ce3+などの使用量の増大が見込まれることもあり、酸に対して安定な
蛍光体から、簡単に希土類元素などを回収できる方法が望まれている。
【特許文献1】特開2005−108642
【特許文献2】特開2004−137320
【特許文献3】特開2004−83869
【特許文献4】特開平10−17859
【非特許文献1】高橋徹、富田恵一、作田庸一、高野明富、北海道立工業試験場報告,No.293(1994)p.7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、希土類元素を付活成分として含む蛍光体から希土類元素を回収する方法であって、幅広い種類の蛍光体に対して比較的簡単に適用できる新規な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、酸化物、リン酸塩等を母材とし、希土類元素を付活成分として含む蛍光体について、該蛍光体とガラスを形成し得る成分を添加し、溶融してガラス化させることによって、蛍光体中に含まれる希土類元素を酸によって効率よく抽出できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の蛍光体からの希土類元素の回収方法を提供するものである。
1. 希土類元素を含む蛍光体に、該蛍光体とガラス化し得る成分を添加した後、溶融してガラス化させ、その後、酸を含む水溶液と接触させて該蛍光体から希土類元素を抽出することを特徴とする、蛍光体からの希土類元素の回収方法。
2. 蛍光体が、酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩又はホウ酸塩を母材として希土類元素を付活成分として含むものである上記項1に記載の希土類元素の回収方法。
3. 付活成分としてTb及び/又はCeを含みLaPOを母材とする緑色蛍光体100重量部に対して、酸化物量として、PO40〜80重量部とアルカリ金属酸化物0〜20重量部となる量の酸化物形成用原料を添加した後、溶融してガラス化させ、その後、酸を含む水溶液と接触させる方法である上記項1又は2に記載の希土類元素の回収方法。
4. 酸を含む水溶液が、0.01〜5規定の硝酸水溶液である上記項1〜3のいずれかに記載の方法。
5. 酸を含む水溶液と接触させる前に、ガラス化物を粉砕する工程を含む上記項1〜4のいずれかに記載の方法。
【0012】
本発明方法では、処理対象としては、希土類元素を含む蛍光体を用いる。特に、本発明では、酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩又はホウ酸塩を母材とし、希土類元素を付活成分として含む蛍光体が処理対象として適切である。この様な蛍光体の具体例としては、付活成分としてEuを含み、BaMgAl10O17を母材とする青色蛍光体(BaMgAl10O17:Eu)、付活成分と
してEuを含み、(Sr、Ca、Ba、Mg)10(PO4Clを母材とする青色蛍光体((Sr、Ca
、Ba、Mg)10(PO4Cl:Eu)、付活成分としてTb及び/又はCeを含みLaPOを母材
とする緑色蛍光体(LaPO:Tb, Ce)、付活成分としてEuを含みYOを母材とする赤色蛍光体(YO:Eu)、付活成分としてMnを含みZnSiOを母材とする緑色蛍光体(ZnSiO:Mn)、付活成分としてTbを含み(Y、Gd)BOを母材とする緑色蛍光体((Y、Gd)BO:Tb)、付活成分としてEuを含み(Y、Gd)BOを母材とする赤色蛍光体((Y、Gd)BO:Eu)、付活成分としてCeを含みYAlO12を母材とする黄色蛍光体(YAlO12:Ce)などを例示できる。
【0013】
本発明の希土類元素の回収方法では、まず、処理対象の蛍光体に対して、該蛍光体とガラスを形成し得る成分を添加する。添加する成分の種類については特に限定的ではなく、処理対象の蛍光体とガラスを形成できる成分であれば任意の成分を使用でき、通常のガラス製造用原料として用いられる各種の化合物から適宜選択すればよい。具体的な化合物の種類については、処理対象の蛍光体に添加成分を加えて加熱溶融させ、その後冷却した際に、ガラスを形成できる成分を選択すればよく、例えば、加熱溶融した際に、アルカリ金属酸化物(NaO,KO,LiO等)、SiO、P及びBのいずれ
か一種の酸化物又は二種以上の酸化物を形成し得る成分を、処理対象とする蛍光体の種類に応じて添加すればよい。添加成分の添加量についても特に限定はなく、処理対象の蛍光体とともにガラスを形成できる範囲から適宜選択すればよい。
【0014】
例えば、処理対象とする蛍光体が、付活成分としてTb及び/又はCeを含みLaPOを母材とする緑色蛍光体(LaPO:Tb, Ce)である場合には、該緑色蛍光体100重量部に対して、酸化物量として、POが40〜80重量部程度、好ましくは50〜70重量程度、アルカリ金属酸化物(NaO,KO,LiO等)が0〜20重量部程度、好ましくは3〜10重量部程度の範囲内となるように、各酸化物の形成用原料を添加することにより、溶融物を容易にガラス化することができる。PO量が上記範囲を下回ると溶融物をガラス化することができず、上記範囲を上回ると、コスト高となるので好ましくない。また、アルカリ金属酸化物については、上記範囲内で添加することによって、希土類元素の抽出率を増加させることができるが、添加量が多くなり過ぎるとガラス化が難くなり、しかもコスト高となるので好ましくない。
【0015】
ガラス化の方法については、特に限定はなく、例えば、処理対象とする蛍光体に上記した添加成分を加えて加熱して溶融させた後、急冷することによって、処理対象の蛍光体を含むガラス化物を得ることができる。この際の具体的な処理条件については、使用する蛍光体の種類に応じて、加熱温度を該蛍光体に添加成分を加えた混合物を十分に溶融できる温度に設定し、冷却速度を溶融物をガラス化できる速度に設定すればよい。
【0016】
上記した方法でガラス化された処理物は、希土類元素を抽出する処理に先立って、必要に応じて、粉砕して微細な粉砕物とすることによって、希土類元素の抽出速度を向上させることができる。粉砕の程度については特に限定はないが、例えば、粒径25〜100μm程度、好ましくは25〜50μm程度の範囲となるまで粉砕することにより、短時間に多量の希土類元素を抽出することができる。
【0017】
次いで、上記方法でガラス化した蛍光体又はその粉砕物を、酸を含む水溶液と接触させることによって、該蛍光体中に含まれる希土類元素を効率よく抽出することができる。酸の種類については特に限定的ではないが、例えば、硝酸、塩酸、硫酸等を用いることができる。酸の濃度についても特に限定的ではないが、例えば、酸濃度として0.01規定(N)〜5規定(N)程度、好ましくは0.1N〜2N程度とすればよい。
【0018】
酸を含む水溶液による処理方法については、特に限定的ではないが、通常、ガラス化した被処理物を、酸を含む水溶液中に浸漬すればよい。処理温度については、通常、60〜100℃程度、好ましくは90〜100℃程度とすればよい。酸処理時間については、処理時間が短すぎると希土類元素の浸出量が不十分となり、一方酸処理時間長くなりすぎると、再度結晶が析出して浸出量が減少する傾向があり、浸漬法によって処理する場合には、通常、1〜48時間程度とすることが好ましく、6〜26時間程度とすることがより好ましい。
【0019】
上記した方法によって、希土類元素を含む蛍光体を、酸を含む水溶液に接触させることによって、該蛍光体から希土類元素を効率良く抽出することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明方法によれば、希土類元素を含む蛍光体から、工業的に取り扱いが容易な比較的低濃度の酸を用いて、高い抽出率で希土類元素を回収することができる。
【0021】
従って、本発明によれば、廃棄された蛍光体から希土類元素を効率良く回収することが可能となり、希土類資源としての有効利用を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0023】
実施例1〜5及び比較例1〜3
被処理物として、付活成分としてTb及びCeを含み、LaPO4を母材とする緑色蛍光体(LaPO4:Tb,Ce)を用いた。該蛍光体は、蛍光体の全重量を基準として、Tbを9wt%と Ceを18wt%含むものである。
【0024】
まず、該蛍光体(LaPO4:Tb,Ce)100重量部に対して、溶融後のNaO量及びPO量が、下記表1に示す量となるように、Na2CO3とNH4H2(PO4)を秤量して混合し、1300℃で溶融させた。その後、急冷して溶融物をガラス化させた。
【0025】
得られたガラス化物を粉砕し、ふるいによって分級し、53μm以下の粉を採取した。その後、粉砕されたガラス粉1gを採取し、表中に示す90℃の抽出液25ml中に浸漬した。浸漬時間は、下記表1に示す通りである。
【0026】
次いで、残留した粉体をろ取し、ろ液をICP発光分析によって分析して、La,Tb及びCeの浸出率を求めた。結果を下記表1に示す。
【0027】
尚、下記表1において、ガラス化の有無については、ガラス化した試料を○印で示し、ガラス化しなかった試料を×印で示す。また、浸出割合は、処理前の蛍光体中に含まれる希土類元素量に対して、抽出液中に浸出した希土類元素の割合を示す。
【0028】
比較として、添加成分を加えることなく、酸水溶液を用いて蛍光体から希土類元素を直接抽出した場合(比較例1)、添加成分を加えて溶融したが、ガラス化しなかった場合(比較例2)、抽出液として水を用いた場合(比較例3)について、同様の方法でLa,Tb及
びCeの浸出率を求めた結果を下記表1に示す。
【0029】
【表1】

以上の結果から明らかなように、緑色蛍光体(LaPO4:Tb,Ce)に、NaO及びPOを加えて溶融し、ガラス化させることによって、希土類元素を効率良く抽出し回収できることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素を含む蛍光体に、該蛍光体とガラス化し得る成分を添加した後、溶融してガラス化させ、その後、酸を含む水溶液と接触させて該蛍光体から希土類元素を抽出することを特徴とする、蛍光体からの希土類元素の回収方法。
【請求項2】
蛍光体が、酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩又はホウ酸塩を母材として希土類元素を付活成分として含むものである請求項1に記載の希土類元素の回収方法。
【請求項3】
付活成分としてTb及び/又はCeを含みLaPOを母材とする緑色蛍光体100重量部に対して、酸化物量として、PO40〜80重量部とアルカリ金属酸化物0〜20重量部となる量の酸化物形成用原料を添加した後、溶融してガラス化させ、その後、酸を含む水溶液と接触させる方法である請求項1又は2に記載の希土類元素の回収方法。
【請求項4】
酸を含む水溶液が、0.01〜5規定の硝酸水溶液である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
酸を含む水溶液と接触させる前に、ガラス化物を粉砕する工程を含む請求項1〜4のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2009−96902(P2009−96902A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270884(P2007−270884)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】