説明

蛍光体の製造方法

【課題】本発明は蛍光体の製造に関して、従来高温長時間の焼成法や、高温の水を介して製造する水熱法などによる複雑なプロセスを改善し、簡便で迅速な製造法を提供することを目的とする。また従来の無機EL素子の高価格と高電圧駆動である課題を解決するものであり、高輝度・低電圧駆動のエレクトロルミネッセンス(EL)素子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ウルツアイト構造を中心とする硫化亜鉛と賦活材を含む混合物母材に、減圧下でマイクロ波を照射加熱する熱触媒法による、励起発光性の蛍光体の製造方法、及びその蛍光体用いたエレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化亜鉛母体に発光中心となる賦活材を含む蛍光体の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトルミネッセンス(以下PLと略す)、エレクトロルミネッセンス(以下ELと略す)に供する蛍光体の製造方法は、例えば特開昭61−296085号に記載されているように、硫化亜鉛、銅化合物、ハロゲン化物の混合物を、1000〜1200℃で数時間1次焼成し、六方晶系の中間蛍光体粉末を形成し、これに常圧下で静水圧を加えた後、700〜950℃で数時間熱処理するか、熱間プレスして立方晶系に全部または一部転移させ、高輝度の蛍光体粉末を得る方法が記載されている。このように、1000℃以上数時間で1次焼成し、1000℃以下数時間で2次焼成して、大変手間と時間を要して作製している。
【0003】
また特開2006−199794号では、硫化ストロンチウムを母剤とする各種賦活剤を含む系で、真空中、2000℃以上、1時間で第1の焼成工程を行い、硫黄ガスを6%含む窒素雰囲気中、800℃で第2の焼成を行い蛍光体を得る方法が記載されている。
【0004】
また特開2005−264108号では、上記の固相反応とはことなり、高温で水を溶媒とする水熱合成法によって調整される硫化亜鉛の合成層が記載されている。これは亜鉛イオン水溶液、硫黄イオン水溶液に銅などの賦活剤イオンの水溶液を助剤とともに適当量混合し、数時間から数十時間、200〜400℃でオスワルド熟成をする。
【0005】
以上は主に交流駆動で発光するELに供する蛍光体の製造方法であり、通常図2のように蛍光体層と誘電体層を積層し、これを2つの電極間に挟み、交流電圧を印加することにより、EL発光をさせる。蛍光体粒子層、誘電体粒子層などを印刷法で形成する分散型無機ELでは、硫化亜鉛などの蛍光体母材に取り込んだ不純物であるドナー(D)とアクセプター(A)のD−Aペアによる再結合により発光がなされる。一方、真空蒸着などによる薄膜型無機ELでは、母材中の賦活剤原子に加速された電子が衝突することにより励起発光する衝突励起発光がその発光メカニズムと言われている。いづれの方法によるEL表示体も産業的に行われている。ここで誘電層の役割は、電荷供給、電気的絶縁、白色反射板である。
【0006】
直流駆動EL用の蛍光体は、液相法などで前記蛍光体母材または前駆体を銅化合物でコーティングした粒子層のみを2つの電極で挟んだ構成がとられる。これに直流電圧によるフォーミングといわれるプロセスを通して、銅イオンを反対極性の電極側に移動させ、銅イオンの濃度勾配を有する2層的構成にする。この時、直流電圧により導電性の高い部分から低い部分の蛍光体母剤に注入された電子により発光センタ原子が励起され発光が行われることが報告されているが、実用には到っていない。
【0007】
一方、マイクロ波による加熱は、ヒーターなどの外部加熱とことなり、物体の内部から加熱されるため、従来溶液系の化学反応を促進する方法や、窒化珪素、窒化アルミニウム酸化チタンなどの窒化物、酸化物無機材料の迅速合成方法として研究され、一部有効な方法として実用されてきた。
【特許文献1】特開昭61−296085号
【特許文献2】特開2005−264108号
【特許文献3】特開2006−199794号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高温長時間の焼成法や、高温の水を介して製造する水熱法などによる蛍光体を用いた従来の無機EL素子の高電圧駆動である課題を解決するものであり、発光素子を簡便にして迅速な方法で製造し、それを用いて高輝度、低電圧の高効率駆動のフォトルミネッセンス(PL)素子、エレクトロルミネッセンス(EL)素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による解決手段は、ウルツアイト構造を主体とする硫化亜鉛の母材に、減圧下でマイクロ波を照射し加熱処理をすることにより製造した励起発光性の蛍光体の製造方法 である。
【0010】
またウルツアイト構造を主体とする硫化亜鉛に、賦活材を含有させこれを母材として、減圧下でマイクロ波を照射し加熱処理をすることにより製造した励起発光性の蛍光体の製造方法である。
【0011】
またウルツアイト構造を主体とする硫化亜鉛に、減圧下でマイクロ波を照射し加熱処理をすることにより製造した励起発光性の蛍光体を常圧に戻し、賦活材を混入させたものを母材とし、再度減圧下で、マイクロ波処理することにより製造した励起発光性の蛍光体の製造方法である。
【0012】
またウルツアイト構造を主体とする硫化亜鉛に、予め賦活材を混入した母材に、減圧下でマイクロ波を照射し加熱処理をすることにより製造した励起発光性の蛍光体の製造方法である。
【0013】
また前記賦活材が、少なくとも銅単体または銅を含む化合物である蛍光体の製造方法である。
【0014】
また前記銅を含む化合物が、硫化銅、硫酸銅、硝酸銅、セレン化銅、塩化銅の少なくとも1つを含む蛍光体の製造方法である。
【0015】
また前記賦活材が、銅単体または銅を含む化合物と共に、少なくとも塩素、臭素、ガリウム、アルミニウム、インジウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム、銀、ユーロピウムなどのランタノイドの単体またそれを含む化合物である蛍光体の製造方法である。
【0016】
またマイクロ波処理後の硫化亜鉛の結晶系が、ウルツアイトと閃亜鉛鉱構造の混晶系である蛍光体の製造方法である。
【0017】
また前記減圧が1000パスカル以下の圧力である蛍光体の製造方法である。
【0018】
また内部にマイクロ波吸収体を形成した断熱性セラミックス加熱容器の底辺に、マイクロ波吸収性耐熱基板を配置し、この基板上に前記硫化亜鉛又はそれを含む混合物粉末母材を配置して形成した蛍光体の製造方法である。
【0019】
また前記マイクロ波吸収体またはマイクロ波吸収性耐熱基板が炭化珪素である蛍光体の製造方法である。
【0020】
また前記賦活剤の溶液中に、前記硫化亜鉛粒子を入れ、その表面に賦活材を付着させ溶媒を蒸発して乾燥後、これを硫化亜鉛母材とした蛍光体の製造方法である。
【0021】
また前記賦活剤の溶液中に、前記硫化亜鉛粒子を入れた溶液系にマイクロ波を照射し、溶媒を蒸発させて硫化亜鉛粒子表面に賦活材を付着させ、これを母材とした蛍光体の製造方法である。
【0022】
また前記ウルツアイト構造を主体とする硫化亜鉛の代わりに、ウルツアイト構造と閃亜鉛鉱構造を含む蛍光体の製造方法である。
【0023】
また前記減圧の方法が、減圧系を閉じてからマイクロ波照射する蛍光体の製造方法である。
【0024】
また前記減圧の方法が、連続的に排気を行いながらマイクロ波照射する蛍光体の製造方法である。
【0025】
また少なくとも2つの電極間に蛍光体を含む層を形成したエレクトロルミネッセンス素子である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の製造方法により、短時間のマイクロ波照射により、乾式法で蛍光体母剤中に簡単に賦活剤を導入し、高い輝度の蛍光体を得ることができ、PL素子として利用できる。また、この蛍光体を用いて印刷法で作製した無機ELは高輝度、低電圧、高効率駆動が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
マイクロ波は周波数300MHZから300GHZまでの電磁波の通称であるが、本発明による蛍光体の製造方法に用いられるマイクロ波は、家庭用電子レンジで用いられる周波数2.45GHZのほか通称ミリ波加熱法と言われる装置で用いられる28GHZの周波数を用いてもよい。更にこれ以外の周波数のマイクロ波を用いることもできる。特に10g程度の少量蛍光体の試作レベルであれば、家庭用の電子レンジを改造した小型加熱装置を用いることができる。マイクロ波の発信器としては、家庭用レンジなどに用いられるマグネトロン発振管や、ミリ波加熱装置に用いられるジャイロトロン発振管などが知られている。
【0028】
マイクロ波加熱では、被加熱体の比誘電率、誘電損失が大きいほど、効率よく加熱される。その発熱量は、周波数、比誘電率、誘電損失、投入電力に比例する。また、そのマイクロ波電力半減深度は、逆に周波数、比誘電率、誘電損失に逆比例的に依存する。この特性を有効に生かす必要がある。例えばSiCの場合、比誘電率30、誘電損失(タンジェントデルタ)0.1と置くと約2cmの電力半減深度になる。
【0029】
図1は本発明に用いるマイクロ波加熱装置(2.45GHZ、700W)の断面図をしめす。マイクロ波加熱装置1の中に断熱性セラミックス容器2を配置する。発泡性酸化ケイ素を主成分とする中空の断熱性セラミックス容器2の内部壁面には炭化珪素(SiC)などのマイクロ波吸収体3を塗布したものを用いる。SiCの塗布部は左右前後または円筒周囲だけでもよい。一般にこの状態だけで、容器底部に耐熱性基板4を配置し、その上に目的の試料5を置いて、試料のマイクロ波加熱をすることができる。このようなマイクロ波用オーブンは市販もされている。本発明に関わる効果を促進するためには、試料を置く基板を、マイクロ波をよく吸収するSiCを主成分とする基板4を用いると加熱効率がいっそう向上する。SiC基板は純度99%以上の焼結体でも、99.9%以上の物理化学的気相成長法で作製したものでも利用できる。このような加熱容器2全体を真空ガラス容器6の中でセットする。ガラス容器上部には、排気用のパイプが設けられ、マイクロ波加熱装置1の外部に通じて、マイクロ波照射中、排気を続けることができる。ガラス容器はパイレックス(登録商標)以上の耐熱性があるものが望まれる。減圧の程度は、排気ポンプの能力によるが、100〜500Ps(パスカル)程度で実験できる。1〜10Ps程度に真空度を上げると、母材の微小部分の酸化を抑制することができる。絶縁基板4の上に置かれた
母材試料5の上に、アルミナなどの耐熱材料で作られたカバー(図示せず)を設けてもよい。このカバーがあると、母材材料の蒸発などを最小限に防ぐことができる。
【0030】
マイクロ波による加熱温度は、SiC基板4に60mm直径、厚さ5〜6mmのものを用いたとき、700wのマイクロ波照射で、5分後600℃、10分後800℃、15分後1000℃のSiC表面温度を得ることができ、迅速な蛍光体実験や、製造を行える。
減圧下では、大気中より、早く温度が上がる。特に閉じた真空系より、連続的に排気しながらマイクロ波処理したほうが、昇温に効果的である。また後者のほが、アウトガスなどの影響が少ない純粋な材料を得るとこができる。
【0031】
この様な加熱装置の基板4上に、未処理状態では蛍光を発しないまたはそのレベルの低い硫化亜鉛などの無機化合物半導体やそれに賦活剤や還元剤や触媒などを含む混合物の粉末試料を平たく乗せ、マイクロ波加熱をすると、適切な条件下、適切な試料の組合せにより、酸化状態の少ない、または全く酸化しない蛍光体を作製することができることを見出した。排気して真空中でマイクロ波加熱を行う代わりに、窒素などの不活性ガスを導入して、窒化物を合成することもできる。
【0032】
母材としての硫化亜鉛(ZnS)は、高温で安定な六方晶系であるウルツアイト構造と、より低温で安定な立方晶系の閃亜鉛鉱構造があるが、本発明では、ウルツアイト構造を用いると、特にその効果が大きい。粒子径としても、1ミクロンないし50ミクロン程度が使えるが、特に10μから20ミクロン程度が効果が大きい。しかしながら、閃亜鉛鉱を主体としたZnSでもウルツアイトより性能は劣るが同様の効果があり、本発明では、ウルツアイトに特定しない。
【0033】
母材として、硫化亜鉛以外の2−6化合物半導体や、3元系の化合物半導体を用いることもできる。2元系の亜鉛の代わりにストロンチウム(SrS)や、ZnSの硫黄Sの代わりにセレン(Se)、テルル(Te)を用いてもよい。亜鉛Znの代わりに、カルシウムCa、ストロンチウムSr、バリウムBaをもちいてもよい。3元系化合物としては、亜鉛、ガリウムGa、硫黄の(Zn−Ga−S)系、Sr−Ga−S、Ca−Ga−Sの系なども有効である。
【0034】
賦活剤としては、銅または銅を含む化合物、例えば硫化銅、硫酸銅、硝酸銅、セレン化銅、塩化銅、酸化銅などが有効である。特に、銅単体や硫化銅、硫酸銅が効果が高い。この銅または銅化合物以外に、塩素、臭素などの17族、リン、砒素、アンチモンなどの15族、ガリウム、アルミニウム、インジウムなどの13族、銀、金などの11族、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウムなどの2族、ユーロピウムなどのランタノイドの単体またそれを含む化合物も有効である。これらは銅または銅化合物とともに用いられる。
ランタノイドとしては、ユーロピウム以外にセリウム、プラセオジム、テルビウム、サマリウムなどが有効である。
【0035】
特に導電性を大きくする賦活剤として、硫化銅、塩化銅、硫酸銅、酢酸銅などが有効である。イオン性の賦活剤化合物はまず母材と賦活剤を含む溶液系から母材表面に賦活剤をコーティングし、その後でマイクロ波を照射してもよい。また、母材と賦活剤を含む溶液系そのものにマイクロ波を照射し、まず溶媒を蒸発させ、その後更にマイクロ波を追加照射してもよい。通常の交流駆動EL用としては、母材に対する賦活剤の量は、おおよそ0.05(500ppm)から0.1重量パーセント(1000ppm)程度以下であるが、直流駆動用には、賦活剤量を0.5重量パーセントから15パーセント程度含有させることが有効である。1から5重量パーセント程度がさらに好ましい。
【0036】
触媒作用をする材料は、蛍光体の賦活に有効である。これは還元剤と同様な効果の他、マイクロ波効果を促進するのに寄与している。このような触媒効果材料には、通常触媒として用いられる白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、ジルコニウムまたはこれらを含む化合物が有効である。還元剤は減圧下では、支配的ではないが、微視的な議論では、必要となる。グラファイトやカーボンなどの炭化物、窒化ガリウムなどの窒化物が有効である
【0037】
本発明によるELとしての断面構成は、従来例と同じで、図2に交流駆動ELを示す。21はガラスやフィルム等の透明基材、22はインジウム(In)ドープの酸化錫(SnO2)(以下ITOと略す)などの透明電極層、23は本発明による蛍光体を印刷で形成した蛍光体層、24は誘電体層、25は背面電極をしめす。
【0038】
交流駆動ELは22,25の両電極間に交流または正負の電圧パルスを印加することにより、ある閾値より発光する。交流用EL素子はコンデンサーに相当するので、片極性の電圧パルスでも印加パルス毎に表面電荷を放電する回路にすれば、駆動可能である。ELの明るさは一般に印加電圧と周波数に比例して増大する。ピークツーピーク(以下ppと略す)の電圧で約50ボルト(以下Vと記す)から発光しだし、pp500V、2キロヘルツ(KHZ)で一般に約1000カンデラ/平方メートル(以下cd/mと記す)の輝度が得られる。周波数を8KHZ程度まであげると、電圧はpp300V程度まで下げることができる。
【0039】
硫化亜鉛を用いた交流駆動ELの動作原理は、硫化亜鉛の立方晶と六方晶の混晶系の面欠陥などに偏析し、成長した硫化銅のウイスカーから、高電界下、電子、正孔が放出され、交番電界により、両者が再結合する発光メカニズムと言われている。
【0040】
本発明による手段では、もともとウルツアイト構造(六方晶系)が主体的であった硫化亜鉛母材を、マイクロ波の照射エネルギーの調整により、酸化亜鉛ZnOを含まない立方晶系と六方晶系の混晶系に変化させることができる。このことはX線回折により確認されている。この母材としてのウルツアイト構造のZnSは、UV光など紫外線を当てるとわずかに光るが、本発明の減圧マイクロ波照射を行うと、きわめて強い発光(フォトルミネッセンス(PL))を示すように変化する。ピーク発光波長は図3に示すように、450(青)ナノメートが中心であるが500ナノメートル(緑)を示す場合もある。賦活材をいれなくても、500ナノメートルのピーク発光波長を示すのは、マイクロ波照射による硫黄(S)の欠損によると考えられる。大気中でのマイクロ波処理でも500ナノメートルの黄緑色発光を示すが、これはZnSがZnOになるためである。
【0041】
しかしながら、賦活材を含まないマイクロ波処理されたZnSは、PLとして強い発光をしめすが、EL構造に形成しEL特性を調べると、点状発光しか呈しない。銅などの賦活材を添加してマイクロ波処理を行ったZnSのELは、一様な発光を呈するようになる。
母材ZnSに銅や硫化銅などの賦活材を入れてマイクロ波処理をすると、ZnS混合晶系の面欠陥などに、賦活剤が偏析し、一様な発光のELを呈するようになる。マイクロ波で振動された硫化亜鉛母材には、賦活剤不純物がよく拡散する。このような蛍光体粒子を約10ミクロンから30ミクロン前後に粒度調整をし、通常の方法でインキ化を行い、ITO基材上に蛍光体層をスクリーン印刷法などを用いて製膜する。更に、誘電体層、電極層を通常方法で形成する。このように形成した交流駆動ELは、通常方法で製造された蛍光体を用いた場合より、同等以上の高感度化が確認された。即ち、閾値が通常のpp50Vより約10V低く、また最高輝度の電圧も50vから100V低下させることができる。
【0042】
直流駆動用の蛍光体は、交流用と比べ、硫化亜鉛母材に対する硫化銅などの賦活材の添加量が数倍から1桁以上多い。本発明による方法では、硫化亜鉛母材中に半導体不純物としては過剰の賦活剤を、母材結晶中に拡散ドープすることができる。そのため、直流駆動用のEL構成に製膜し、直流電源で駆動させると直流10V程度から電流が流れ、発光を確認することができる。この場合、交流用の誘電層がないため、絶縁防止の観点から、蛍光体層は、10ミクロン程度の層を2〜4回上塗りして、20〜40ミクロンの厚さにしたほうが、実用的である。また、10ミクロン以下の粒度のそろった蛍光体を用いた方が、電気的短絡などのトラブルの発生が少なくなる。
【実施例】
【0043】
更に実施例を用いて詳細を説明する。本発明は以下の実施例に例示された内容に限定されるものではない。
実施例1
【0044】
図1に示すような、減圧可能なマイクロ波加熱装置(2.45GHZ、最大出力700W)1を用いた。加熱装置1は松下電器製電子レンジNE−EZ2を排気が可能なように上面に孔をあけ改造した装置を用いた。断熱性セラミックス容器2として、ふたつき円筒状の断熱セラミックスであるアートボックス(内径110mm、旭物産製)を用いた。この内部壁面はSiC塗布加工されている。この容器底部にSiC製基板(外径60mm、厚さ5mm)を置き、基板上部面に一様に試料粉末を約5gから10g薄く広げて配置した。更にこの断熱性セラミック容器2全体を上部から排気可能なように設計した真空ガラス容器6に入れ、1のマイクロ波加熱装置内にセットした。ガラス容器はパイレックス(登録商標)以上の耐熱性があるものが望まれる。
【0045】
外部に設けた排気ポンプで、到達真空度約100Psになるように脱気した後、マイクロ波電力を700Wに設定し、15分間加熱した。事前に測定したSiC基板上の温度は約1000℃に達した。その後、マイクロ波電力をオン、オフし5分から20分間マイクロ波を照射し、マイクロ波電源をオフにした。その後、減圧排気を続け、基板が200℃以下になった時点で、排気弁を閉じた。容器内部を大気に戻すのは、十分基板温度が下がったのち行なった。
【0046】
母剤として、ZnS(堺化学製、商品名RAK−LC、ウルツアイト構造、純度99%)5000mgを、60mm直径のSiC基板上に数ミリメートルの厚さ以下に均一に配置した。
【0047】
蛍光体を発光させるための紫外線UV源は365nmの波長のUVランプを用いた。
マイクロ波加熱前では、六方晶のみの結晶系で、かつUVランプでは弱い発光の試料が、加熱後では、室内の蛍光灯下でも視認できる強度の発光を確認した。その分光特性を図3に示すように450ナノメートルのピーク発光波長が得られた。またエックス線解析(XRD)で、六方晶のほか、立方晶系も現れ、混晶系となっていた。大気中処理では多く発生した酸化亜鉛ZnO構造は全く確認されなかった。閉じた真空系でマイクロ波処理を行うより、連続排気系でマイクロ波処理を行うほうが、ZnSのSの欠落が大きくなり、Sの欠陥が作るバンド内準位が多くなるためスペクトルが少し長波長にシフトする。
【0048】
このようにマイクロ波を照射して、元々発光の弱い試料が、強い発光体になることを確認したが、そのマイクロ波効果を以下のように考察している。1000℃以上で発現し安定に存在するといわれているZnSの六方晶系が1000℃以下で安定な立方晶系と混在していること。また比較例1、2に示すように、単なる1000℃前後の外部加熱では、発光体は形成できにくいことも考えあわせると、マイクロ波加熱は単なる熱的効果だけでなく、マイクロ波の周波数で結晶格子を振動させることにより、混晶系が発現したり、実施例2で得られた蛍光体サンプルのようにZnS中の銅を含む不純物が、ZnS格子の適切なサイト(混晶系の面欠陥など)に入り、発光中心になると考えることができる。またZnSの比誘電率が約10と相対的に大きいことも、マイクロ波効果に相乗されていると考えられる。なお、上記実施例では純度99%のZnSを用いたが、99.99%純度(高純度化学製)のものでも結果は大差なかった。
【0049】
実施例2
母材のZnS粉末に約500ppmになるように賦活材として銅を混入した試料を母材として、同様な実験を行った。この粉末試料でも実施例1と同じような結晶系と分光特性
が得られた。銅を入れても、ピーク発光波長は変わらなかった。
【0050】
実施例3
母材のZnS粉末に約500ppmになるように賦活材として硫化銅を混入した試料を母材として、同様な実験を行った。この粉末試料でも実施例1と同じような結晶系と分光特性が得られた。硫化銅を入れても、ピーク発光波長は変わらなかった。
【0051】
実施例4
母材のZnS粉末に約500ppmになるように賦活材として硫酸銅を混入した試料を母材として、同様な実験を行った。この粉末試料でも実施例1と同じような結晶系と分光特性が得られた。硫化銅を入れても、ピーク発光波長は変わらなかった。
【0052】
実施例5
母材のZnS粉末に約500ppmになるように賦活材としてセレン化銅を混入した試料を母材として、同様な実験を行った。この粉末試料でも実施例1と同じような結晶系と分光特性が得られた。硫化銅を入れても、ピーク発光波長は変わらなかった。
【0053】
実施例6
母材のZnS粉末に約500ppmになるように賦活材として硝酸銅を混入した試料を母材として、同様な実験を行った。この粉末試料でも実施例1と同じような結晶系と分光特性が得られた。硫化銅を入れても、ピーク発光波長は変わらなかった。
実施例7
【0054】
実施例1で得られた賦活材を含まないZnSをまずマイクロ波焼成で作製し、常温常圧に戻した後、これに賦活材として銅を約500ppm混入したものを母材とし、実施例1のようなマイクロ波処理を行った。その結果、実施例2と同等以上の結果が得られた。
実施例8
【0055】
予め通常の熱処理技術で、上記ZnS母材(ウルツアイト構造)のなかに銅を500ppmになるようにドープした粉末試料を母材とした。それを実施例1と同様な処理を行い蛍光体を得た。この蛍光体のPL特性は、1から6までの実施例より、高い発光強度と、470nm前後のより長波長にピークを持つスペクトルが得られた。
実施例9
【0056】
予め通常の熱処理技術で、上記ZnS母材(ウルツアイト構造)のなかに銅を1000ppmになるようにドープした粉末試料を母材とした。それを実施例1と同様な処理を行い蛍光体を得た。この蛍光体のPL特性は、実施例7と比較して、若干弱い発光強度と、480から490nm前後のより長波長にピークを持つスペクトルが得られた。
比較例1
【0057】
上述の母剤試料を用いて、電気炉(バーンステッド社製、ファーネス1300)を用い、大気雰囲気で1000℃まで昇温し、30分保持後、自然冷却した。この試料のUV光照射による発光は全く観測されなかった。
比較例2
【0058】
上述の母剤試料を用いて、還元性ガスが導入できるマッフル炉(KDF社製、S90G)を用い、窒素ガス雰囲気で1000℃まで昇温し、30分保持後、自然冷却した。この試料のUV光照射による発光は、ガスと接触する試料表面に発光が観測されたが、実施例1と比較すると、発光レベルは低いものであった。また試料内部では発光は確認できなかった。
比較例3
【0059】
実施例1の中でZnS試料を平たく配置せず、中央部に高く盛り上げて、同様なマイクロ波電力を印加して実験した。この時は、表層とSiC基材近くのZnSが発光に寄与し、内部のZnSの発光はすくなかった。
比較例4
【0060】
本装置を用いて排気せず、大気の雰囲気で、上述のマイクロ波照射を行った。その結果、XRDでは、多くのZnOが見られ、これが支配的な結晶構造になった。また分光特性でも500ナノメートルにピーク波長のある黄緑色の発光になった。これは以前からの知見によりZnOの発光による。
実施例10
【0061】
実施例2、及び実施例3で合成した硫化亜鉛蛍光体を用いて交流駆動用のELシートを試作し、一様なEL発光を確認した。EL膜は、透明導電膜(ITO)を形成したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、ポリエステル樹脂をバインダーとし、蛍光体:樹脂の重量比率が6:1になるように、有機溶剤(シクロヘキサノン、イソホロン、石油系のセルベッソ100などの混合液)と共に混合して、ペースト化し、スクリーン印刷機で製膜した。更にこの蛍光体膜上に市販の誘電体ペースト(藤倉化成製、FEL615。チタン酸バリウムなどの強誘電体と誘電率の高いフッソ系などの樹脂からなるペースト)を用いて、積層膜を作製、その上にカーボンインク、銀インクを重ねて製膜し、EL膜とした。これにパルス電圧500v(ピークツーピーク値)(周波数1.7KHz)を印加し、EL発光が発現したのを確認した。
実施例11
【0062】
実施例2、及び実施例3で合成した硫化亜鉛蛍光体を用いて更に別の仕様の交流駆動用のELシートを試作し、一様なEL発光を確認した。EL膜は、透明導電膜(ITO)を形成したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、フッソゴム系樹脂をバインダーとし、蛍光体:樹脂の重量比率が5:1になるように、有機溶剤(シクロヘキサノン、イソホロンなどの混合液)と共に混合して、ペースト化し、スクリーン印刷機で製膜した。更にこの蛍光体膜上に市販の誘電体ペースト(藤倉化成製、FEL615。チタン酸バリウムなどの強誘電体と誘電率の高いフッソ系などの樹脂からなるペースト)を用いて、積層膜を作製、その上にカーボンインク、銀インクを重ねて製膜し、EL膜とした。これにパルス電圧500v(ピークツーピーク値)(周波数10KHz)を印加し、EL発光が発現したのを確認した。その時の輝度の電圧依存性を示すグラフを図4に示す。図中
S1が実施例2で得た賦活材銅を含む蛍光体を用いた例、S2が実施例3で得た賦活材流化銅を含む蛍光体を用いた例である。
実施例12
【0063】
実施例8、9で得られた硫化亜鉛蛍光体を用いて、実施例11と同様なELシートを作製した。
これにパルス電圧500v(ピークツーピーク値)(周波数10KHz)を印加し、EL発光が発現したのを確認した。その時の輝度の電圧依存性を示すグラフを図4に示す。図中S3が実施例8の蛍光体を用いた例(500ppmの銅を含む)、S4が実施例9の蛍光体を用いた例(1000ppmの銅)を示す。S3,S4から銅の量が多すぎるとPLやELの特性が劣化する。また、S1,S2とS3,S4を比較すると、PL特性は後者が優れているが、EL特性は前者が若干すぐれていることが分かった。
実施例13
【0064】
実施例7で得られた硫化亜鉛蛍光体を用いて、実施例11と同様なELシートを作製した。その結果実施例11と同等以上の特性を得た。
【産業上の利用可能性】
【0065】
薄い広い面積の面光源に利用できる。また薄膜トランジスタ回路と結合可能な低電圧直流及び交流ELパネルに利用できる。更に、発光ダイオード(LED)やEL用の色変換蛍光体および、プラズマディスプレイ、蛍光放電管、電子放射(フィールドエミッション)型ディスプレイの蛍光体など面発光体やディスプレイ用の蛍光体に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のマイクロ波加熱装置
【図2】交流駆動ELの構成断面図
【図3】本発明の蛍光体の分光特性
【図4】本発明の蛍光体を用いたELの電圧・輝度特性
【符号の説明】
【0067】
1:マイクロ波加熱装置
2:断熱性セラミックス加熱容器
3:マイクロ波吸収体
4:基板
5:試料
6:真空ガラス容器
7:ガラス容器排気パイプ
21:透明基材
22;透明電極
23,33;蛍光体層
24:誘電体層
25;背面電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウルツアイト構造を主体とする硫化亜鉛の母材に、減圧下でマイクロ波を照射し加熱処理をすることにより製造した励起発光性の蛍光体の製造方法。
【請求項2】
ウルツアイト構造を主体とする硫化亜鉛に、賦活材を含有させこれを母材として、減圧下でマイクロ波を照射し加熱処理をすることにより製造した励起発光性の蛍光体の製造方法。
【請求項3】
ウルツアイト構造を主体とする硫化亜鉛に、減圧下でマイクロ波を照射し加熱処理をすることにより製造した励起発光性の蛍光体を常圧に戻し、賦活材を混入させたものを母材とし、再度減圧下で、マイクロ波処理することにより製造した励起発光性の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
ウルツアイト構造を主体とする硫化亜鉛に、予め賦活材を混入した母材に、減圧下でマイクロ波を照射し加熱処理をすることにより製造した励起発光性の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記賦活材が、少なくとも銅単体または銅を含む化合物である請求項1から4の蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記銅を含む化合物が、硫化銅、硫酸銅、硝酸銅、セレン化銅、塩化銅の少なくとも1つを含む請求項5の蛍光体の製造方法。
【請求項7】
前記賦活材が、銅単体または銅を含む化合物と共に、少なくとも塩素、臭素、ガリウム、アルミニウム、インジウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム、銀、ユーロピウムなどのランタノイドの単体またそれを含む化合物である請求項1から6の蛍光体の製造方法。
【請求項8】
マイクロ波処理後の硫化亜鉛の結晶系が、ウルツアイトと閃亜鉛鉱構造の混晶系である請求項1から7の蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記減圧が1000パスカル以下の圧力である請求項1から8の蛍光体の製造方法。
【請求項10】
内部にマイクロ波吸収体を形成した断熱性セラミックス加熱容器の底辺に、マイクロ波吸収性耐熱基板を配置し、この基板上に前記硫化亜鉛又はそれを含む混合物粉末母材を配置して形成した請求項1から9の蛍光体の製造方法。
【請求項11】
前記マイクロ波吸収体またはマイクロ波吸収性耐熱基板が炭化珪素である請求項1から10の蛍光体の製造方法。
【請求項12】
前記賦活剤の溶液中に、前記硫化亜鉛粒子を入れ、その表面に賦活材を付着させ溶媒を蒸発して乾燥後、これを硫化亜鉛母材とした請求項4の蛍光体の製造方法。
【請求項13】
前記賦活剤の溶液中に、前記硫化亜鉛粒子を入れた溶液系にマイクロ波を照射し、溶媒を蒸発させて硫化亜鉛粒子表面に賦活材を付着させ、これを母材とした請求項4の蛍光体の製造方法。
【請求項14】
前記ウルツアイト構造を主体とする硫化亜鉛の代わりに、ウルツアイト構造と閃亜鉛鉱構造を含む請求項1から13記載の蛍光体の製造方法。
【請求項15】
前記減圧の方法が、減圧系を閉じてからマイクロ波照射する請求項1から14記載の蛍光体の製造方法。
【請求項16】
前記減圧の方法が、連続的に排気を行いながらマイクロ波照射する請求項1から14記載の蛍光体の製造方法。
【請求項17】
少なくとも2つの電極間に前記1から16記載の蛍光体を含む層を形成したエレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−57741(P2011−57741A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205622(P2009−205622)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(306000968)有限会社イメージテック (5)
【Fターム(参考)】