蛍光体及びその製造方法
【課題】白色LEDが広く用いられるようになっているが、色の赤み成分が不足しているために光が青白く、照らされたものに冷たく無機質といった印象を与えてしまい、店舗やリビングルームといった高い演色性が求められる環境や色味に暖かみが求められる環境において照明として使用することができなかった。
【解決手段】Ta2O5とEu2O3を、Ta:Euの原子数比が0.96:0.04〜0.70:0.30となるように混合し、その混合物を1200℃以上、Ta酸化物の溶融温度以下で加熱する。これにより、Ta2O5がホスト酸化物、Euが発光源となった赤色蛍光体を簡便に得ることができる。混合物にZnやTiを更に添加することによって、発光特性を向上させることもできる。また、ベース酸化物をTa2O5に替えてTa2O5+Al2O3としてもよい。
【解決手段】Ta2O5とEu2O3を、Ta:Euの原子数比が0.96:0.04〜0.70:0.30となるように混合し、その混合物を1200℃以上、Ta酸化物の溶融温度以下で加熱する。これにより、Ta2O5がホスト酸化物、Euが発光源となった赤色蛍光体を簡便に得ることができる。混合物にZnやTiを更に添加することによって、発光特性を向上させることもできる。また、ベース酸化物をTa2O5に替えてTa2O5+Al2O3としてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近紫外光から緑色の可視光で効率よく発光する蛍光体に関し、特に、Ta酸化物或いはLa−Zn−Ti酸化物を主体とする蛍光体に主たる発光元素としてEuを含有させた赤色蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、発光強度の高い白色LEDが製品化され始めており、照明やバックライト等の用途において広く使われるようになっている。白色LEDは、水銀フリー、低消費電力、直流駆動のため輝度調節が比較的容易、といった多くのメリットを備えているため、その需要は高まる一方である。
【0003】
現在、白色LEDの白色光は青色LEDと黄色蛍光体(YAG:イットリウム・アルミニウム・ガーネット)との組合せにより実現されているため、光が青白いという特徴を持つ。一般に店舗やリビングルームでは、演色性の高い照明や暖かみを感じさせる照明が求められるため、このような環境における白色LEDの使用は不適当であった。
【0004】
青白い光の演色性を高めるためには赤み成分を付加する必要があるため、白色LEDに添加するための適切な赤色蛍光体が求められている。しかし、現在赤色蛍光体として使用されているものは、発光効率が低い、時間経過により劣化しやすい、可視光励起できない等の問題があった。
【0005】
非特許文献1には、以上のような問題を解決することを目的とした赤色蛍光体が開示されている。これによると、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化カルシウム、窒化ユーロピウム粉末を、水分と空気を遮断したグローブボックス内で混合し、その後窒化ホウ素製のるつぼに入れて窒素中、10気圧、1800℃で反応させることにより、ユーロピウムが固溶したカルシウム・アルミニウム・シリコン三窒化物(CaAlSiN3)赤色蛍光体粉末が得られる。この方法によって得られる赤色蛍光体は、450〜490nmの青色LED光源を励起光として使用できるとされている。また、−240℃〜100℃の温度範囲で劣化しないとも報告されている。
【0006】
【非特許文献1】 独立行政法人物質・材料研究機構,”白色LED用赤色蛍光体の開発に成功−新時代の明かり−”,[online],平成16年8月31日,[平成18年3月27日検索],インターネット<URL:http://www.nims.go.jp/jpn/news/press/pdf/press90.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1に記載されている赤色蛍光体は高圧の窒素雰囲気下で製造する必要があるため、製造設備やコストの面で改善が望まれる。そこで、本願発明者らは、特に白色LEDに好適に適用できる赤色蛍光体を得るべく鋭意研究を行った結果、Ta2O5のTa酸化物或いはLa−Zn−Ti酸化物を主体とし、そこにEuを含有させた新規な赤色蛍光体を得ることに成功した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のようにして成された本発明に係る蛍光体は、近紫外光から緑色の可視光により励起され、前記近紫外から緑色までの波長域に少なくとも2つの励起ピークを有する、発光源としての希土類元素を含有する蛍光体である。
具体的には、前記励起ピークは450〜510nm及び500〜600nmの波長域にある。また、340〜450nmの波長域に励起ピークがあるものも含まれる。
発光源としての希土類元素には、Eu,Er,Dy,Sm,Tb,Ce,Gd,Nd,Dy,Hoのいずれか又はそれらの2以上の組み合わせを用いることができる。
本発明の蛍光体の第1の態様は、Ta酸化物を主体とするものである。
前記Ta酸化物は、そのTa:Euの原子数比が、0.99:0.01〜0.60:0.40となるようEuを含有することを特徴とする。
【0009】
また、Ta:Euの原子数比は、好適には0.95:0.05〜0.70:0.30とするとよい。
【0010】
更に、Ta:Eu:Znの原子数比が0.985:0.01:0.005〜0.45:0.40:0.15となるようZnを含有するものであってもよい。
【0011】
更に、Mg、Gd、Sn、Ti、Tbのいずれか1つ又は複数を含有するものであってもよい。
【0012】
更には、前記蛍光体はTa及びAl酸化物を主体とするものであってもよく、その場合、Euは(Ta・Al):Euの原子数比が0.99:0.01〜0.60:0.40であるようにする。また、Ta酸化物にはLa等の酸化物が含まれていてもよい。
【0013】
前記蛍光体を製造する方法は各種あるが、例えば次のような方法を用いることができる。
すなわち、Ta酸化物とEu酸化物を、Ta:Euの原子数比が0.99:0.01〜0.60:0.40となるように混合し、
該混合物を1200℃以上、Ta酸化物の溶融温度以下の温度で加熱・焼結する。
【0014】
ここで、上記Ta酸化物として例えばTa2O5を、Eu酸化物として例えばEu2O3を用いることができる。この場合、加熱温度の最高値は、Ta2O5の溶融温度である1785℃となる。
【0015】
上記のZnを含有する赤色蛍光体を製造する場合、上記混合物に更にZn酸化物を、Ta:Eu:Znの原子数比が0.985:0.01:0.005〜0.45:0.40:0.15となるように加える。加熱温度範囲は同じでよい。
【0016】
上記の、更にMg、Gd、Sn、Ti、Tbのいずれか1つ又は複数を含有するEu−Ta酸化物蛍光体の場合、Ta酸化物とEu酸化物を混合する際に、或いはそれらを混合した後、それらMg等の元素の酸化物又はそれら酸化物の混合物を加え、その後は上記同様に加熱・焼結することにより、蛍光体を得ることができる。なお、これらMg等の元素の酸化物又はそれら酸化物の混合物の混合量は、目的に応じて適宜選択される。
【0017】
上記酸化物混合体には、焼結助剤を添加してもよい。焼結助剤を加えることにより、加熱・焼結温度を下げることができ、本発明に係る蛍光体の製造工程を簡略化し、コストを下げることができる。焼結助剤としては、Na塩(例えば、Na2SO4、Na2CO3、NaCl、Na2O等)やK塩(例えば、KCl等)を用いることができる。その含有量は30〜60重量%とすることが望ましい。これよりも少ないと十分な焼結補助作用が得られず、この範囲を超えると発光体自体の発光効率が低下するおそれがある。
【0018】
本発明の蛍光体の第2の態様は、La−Zn−Ti酸化物を主体とするものである。
この場合、La−Zn−Ti酸化物にEu酸化物が、La、Zn、Ti、Euの原子数比がLa:Zn:Ti:Eu=2:1:1:0.1〜2:1:1:16となるように混合されている良く、好ましくは、La:Zn:Ti:Eu=2:1:1:0.5〜2:1:1:3となるように混合されていると良い。
更に、La−Zn−Ti酸化物は、Laの一部をYで置換したものも蛍光体として用いることができる。この場合、Yに置換する割合は、La全体の0.3〜0.9、好ましくは0.4〜0.8、更に好ましくは0.5〜0.7にすると良い。
【0019】
前記蛍光体を製造する方法は各種あるが、例えば次のような方法を用いることができる。
すなわち、La−Zn−Ti酸化物とEu酸化物を、La、Zn、Ti、Euの原子数比がLa:Zn:Ti:Eu=2:1:1:0.1〜2:1:1:16となるように混合し、
該混合物を1300℃以上、1600℃以下で加熱する。
ここで、上記La−Zn−Ti酸化物として例えばLa2O3,ZnO,TiO2の混合物を、Eu酸化物として例えばEu2O3を用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る蛍光体は、近紫外光から緑色の可視光により励起され、青色域及び緑色域にそれぞれ励起ピークを有する、内部に発光源としての希土類元素を含有するものであり、その具体例としてはTa酸化物を主体としEuを含有するもの、La−Zn−Ti酸化物を主体としEuを含有するものが挙げられる。
【0021】
前記蛍光体においては、主としてEuが発光源として作用し、赤色蛍光を発する。明確な構造は未だ解明されていないが、後述するX線回折の結果から判断すると、恐らくTa酸化物やLa−Zn−Ti酸化物がホストの役割を担い、発光源となるEuを囲うカゴ状の構造を有するものと想定される。
【0022】
従って、発光源としてEuと同様の化学的性質を有する希土類元素を用いても、本発明は同様に成立し得る。すなわち、Ta酸化物やLa−Zn−Ti酸化物によるカゴ構造中に発光源としての希土類元素を含有する、Ta酸化物やLa−Zn−Ti酸化物を主体とする蛍光体も本発明の範疇に入るものである。ここにおける希土類元素には、例えば、Er,Dy,Sm,Tb,Ce,Gd,Nd,Dy,Ho等を挙げることができる。
【0023】
本発明に係る蛍光体のうち特にEuを発光源とする赤色蛍光体は、後述するように高い発光効率及び高い発光安定性を備えているほか、青色域及び緑色域に特徴的な励起ピーク構造を有しているため、可視光励起により強い赤色発光を行うことができる。現在、白色LEDは青色発光LEDと黄色蛍光体の組み合わせにより構成されているが、前記の通り発光色がやや青白いという特徴があり、暖色系が求められる用途には不適であるとされていたが、本発明に係る赤色蛍光体をそこに適度の量加えることにより、演色性に優れた白色光を得ることができるようになる。これは、LEDの照明光源としての使用に大きな道を開くものとなる。
【0024】
また、本発明に係る蛍光体は、その製造が非常に容易であるという特徴を持つ。すなわち、製造時の加熱は常圧・空気中で行うことができるため、上記非特許文献1に記載のもののような特別な装置を必要としない。そして、原料の酸化物も一般的に容易に入手することができる。従って、低コストで製造することができる。また、その加熱温度も比較的低い温度を用いることができる。
【0025】
Euを発光源とする赤色蛍光体を白色LED製造の際に使用することにより、従来は青白く無機質な印象を与えていた白色LEDの発色を、赤みを帯びた暖かく感じられる発色とすることができるようになる。本発明に係る蛍光体を用いた発光装置の一例として、砲弾型LED発光装置を図35に示す。砲弾型LED発光装置10は、発光光束に指向性を与えるためのプラスチック製砲弾型レンズ11の中にLED12を埋設したもので、本願発明に係る蛍光体13は、発光源であるLED12の上に塗布して使用することができる。
【0026】
本発明に係る蛍光体はその他に、単独に各色の発光源として、又はその他の発光源と組み合わせることにより各種色を実現する光源の構成要素として用いることができるのはもちろん、液晶パネル(LCD)のバックライト等の各種発光装置に好適に用いることができる。
【0027】
本発明に係る赤色蛍光体は、青色域及び緑色域の可視光の他、紫外線によっても励起して赤色蛍光を発する。従って、紫外線により励起して発光する照明装置や表示装置の蛍光体としても使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の第1の実施態様に係る蛍光体の基本的な構成は、Ta酸化物とEu等の希土類発光元素が原子レベルで混合した構成にある。発光源としてEuを用いる場合、その原料物質としてはフッ化物塩、炭酸塩、酸化物等が挙げられるが、なかでも酸化物が好ましい。この場合、最も典型的には出発物質としてTa2O5とEu2O3を用いることができる。
【0029】
これらの酸化物は通常、粉末で得られるが、両者を単純に混合し、それを加熱することにより、両酸化物の構造が変化し、Euを発光源とする赤色蛍光体が形成される。なお、混合物にはTa2O5及びEu以外の成分が含まれていてもよい。
【0030】
加熱温度は1200℃以上とする。この温度未満では、前記のようなTa酸化物ホストとEu発光源のカゴ状構造が良好に形成されず、十分な発光強度が得られないおそれがある。発光強度は加熱処理の温度が高くなるにつれて増加する傾向にある(詳細は後述)。従って、加熱温度はTa酸化物の融点まで上げることができる。なお、Ta酸化物の融点を超えて加熱すると、カゴ状構造が形成されなくなる。
【0031】
Ta:Euの原子数比に関しては、例えば酸化物としてTa2O5とEu2O3を用いた場合、両者の混合割合を、Ta:Euの原子数比が0.99:0.01〜0.60:0.40の範囲内となるようにする。
【0032】
Ta2O5及びEu2O3に更に別の元素を添加することにより、発光特性を向上させることもできる。例えば、ZnOやZnS、Al2O3を所定量添加し、多元元素化することによって発光色及び励起波長の制御が可能となる。更には、Mg、Gd、Sn、Ti、Tbのいずれか1つ又は複数を加えることによっても、発光色及び励起波長の微調整が可能である。
【0033】
(実施例)
以下、本願発明者らがTa酸化物を主体とする蛍光体について行った各種の実験について説明する。まず、粉末のTa2O5とEu2O3を混合し、ペレット状にした後に加熱・焼結処理を行った。以下の実験における基本的な加熱処理条件は特に記載のない限り、次の通りとした:空気中、1気圧、1200℃、2時間。
【0034】
[励起光波長]
Eu添加Ta2O5の励起光波長と、発光強度との関係を調べた。このときのTa2O5とEu2O3の混合モル比は、Ta2O5:Eu2O3=0.92:0.08(原子数比では、Ta:Eu=0.92:0.08)である。図1aに、発光波長と発光強度との関係を複数の異なる励起波長について表すグラフを示す。図1aのグラフによれば、励起波長が470nm付近において、608〜615nmの波長範囲(特に611nm)での発光強度が特に強くなることがわかる。なお、611nmの発光ピークにおける半値幅は約3nmとなっており、本発明に係る蛍光体の発光の波長選択性が良好であることが示されている。
【0035】
そこで次に、同じ物質について、励起波長を200〜600nmの範囲で連続的に変化させたときに611nmにおける発光強度がどのように変化するかを調べた。その結果を図1bに示す。図1bには、Taに起因する発光波長である430nmにおける発光強度の結果も併記した。また、Euを添加しない、Ta2O5単独の同様の結果を図1cに示す。これらの図より、Eu添加Ta酸化物赤色蛍光体は、460〜480nm(青色域)及び520〜540nm(緑色域)の他、380〜420nm及び290〜340nmの近紫外域でも励起可能であることを示している。
【0036】
[Y2O3との比較]
現在、赤色蛍光体として精力的に研究開発が行われているのはEu添加Y2O3である。そこで、本願発明者らは本発明の赤色蛍光体であるEu添加Ta2O5と、Eu添加Y2O3との発光特性の比較を行った。図2に両者の発光強度の比較を表すグラフを示す。励起波長は共に325nmとし、Eu添加Ta2O5におけるTa2O5とEu2O3の比はTa2O5:Eu2O3=0.92:0.08である。Eu添加Ta2O5赤色蛍光体の発光強度(波長611nm)は、Eu添加Y2O3のそれの10倍程度もあることが確認された。
【0037】
[減衰特性]
また、図3に、本発明に係る赤色蛍光体であるEu添加Ta2O5及びEu添加Y2O3の、一定強度の励起光を連続的に照射した場合の、時間経過による発光強度低下(Fatigue)特性の比較を示す。Ta2O5及びY2O3共に、Eu2O3の添加モル比は0.08である。図3のグラフから明らかなように、本発明のEu添加Ta2O5はEu添加Y2O3と比べて発光の減衰が少なく、安定であることがわかる。
【0038】
[Euの添加量変化による発光強度の変化]
Ta2O5に対してEuの添加量を変化させ、各場合の発光強度を観察した。図4に、Ta2O5に対するEu2O3のモル比を0.0(すなわちTa2O5のみ)、0.01、0.04、0.08、0.15、0.30と変化させた場合の発光波長と発光強度の関係を表すグラフを示す。励起光波長は470nmである。図4のグラフが示す通り、Eu2O3を適切な割合で添加したとき、611nmにおいて鋭い赤色発光が見られることが確認された。また、Eu2O3を全く添加しない場合にはほとんど赤色発光が生じないこともわかった。
【0039】
Ta2O5に対するEu2O3のモル比の範囲を更に拡大し、0〜0.90の範囲で変化させた場合の611nmにおける発光強度のグラフを図5に示す。図5のグラフに示されているように、原子数比0.005〜0.5において有意な赤色発光が生じ、0.08付近において発光強度が最大となる。Euの割合が大きくなると発光強度が低下する理由は、Ta2O5によるカゴ構造を取りにくくなるためと考えられる。
図2を用いて説明したように、Y2O3と比較するとEu添加Ta2O5赤色蛍光体の最大発光強度はY2O3のそれよりも10倍程度高い。逆に言うと、ピーク強度の数分の一であっても、Eu添加Ta2O5赤色蛍光体は従来の赤色発光体であるY2O3よりも発光強度が高い。従って、図5のグラフにおいて縦軸のピーク強度(約1800)の約1/3の強度(約500)の蛍光を発する範囲である、Euの原子数比0.01〜0.40の範囲において、本発明に係るEu添加Ta2O5赤色蛍光体は従来の赤色発光体であるY2O3よりも十分発光強度が高く、新規且つ高発光強度の赤色蛍光体として使用することができる。なお、図5のグラフによると、その原子数比を0.05〜0.30とすることにより発光強度を1000以上とすることができ、従来物質より数倍も発光強度が高い赤色発光体を得ることができることがわかる。
【0040】
[第3元素の効果]
Ta2O5、Euに加え、さらに下に挙げるような第3の元素を添加することで、本発明の発光特性がどのように変化するかを調べた。
Gd、Mn、Sn、Tb、Ce:発光効率において際立った向上効果は見られない。
Zn:発光特性が向上する。
TiO2:発光特性が向上する。
Al2O3:Al2O3はTa2O5と同様、前記のカゴ状構造の一部を構成する。
【0041】
[Zn添加の効果]
図6に、Eu添加Ta2O5(Eu2O3添加量はモル比でTa2O5:Eu2O3=0.92:0.08)と、Zn及びEu添加Ta2O5(Ta2O5:Eu2O3:ZnO=0.84:0.08:0.08)との発光強度の比較を表すグラフを示す。なお、図6のグラフには、参考のために黄色蛍光体であるYAGの発光特性も重ねて表示した。図6のグラフには、Znを添加することにより発光強度が増加することが示されている。
【0042】
図7aに、Eu添加Ta2O5(Ta2O5:Eu2O3=0.92:0.08)にZnOを添加した場合の、Znの濃度(原子数比)と611nmにおける発光強度との関係を示すグラフを示す。これによれば、Eu添加Ta2O5にZnを僅かでも添加すると、発光特性が向上する効果が得られ、Znの原子数比が0.08である時に、最大の発光強度が得られることがわかる。従って、本発明の赤色蛍光体において有効な発光特性を生じさせるためには、先に述べたEuの添加割合と合わせると、Ta、Eu、Znの原子数比を(1−x−y):x:yと表した場合、x=0.01〜0.3、y=0.005〜0.15程度が好適であると言える。特に、x=0.07〜0.17、y=0.005〜0.05程度のとき、強い発光強度が得られる。
また、図7bに、Eu添加Ta2O5(Ta2O5:Eu2O3=0.92:0.08)に添加するZn化合物をZnO及びZnSとした場合の、励起波長が325nmである場合のZn濃度(原子数比)と611nm発光強度の関係を示す。更に、図7cに、励起波長が470nmである場合の611nm発光強度の関係を示す。図7cには、Zn化合物を添加していないEu添加Ta2O5のEu原子数比と発光強度の関係も併記した。従って、図7cの横軸は、Zn化合物を添加したEu添加Ta2O5についてはZn原子数比を、Zn化合物を添加していないEu添加Ta2O5についてはEu原子数比を示す。
図7cからわかるように、いずれの形にせよ、Znを添加することにより発光強度は大きく増加している。また、両グラフより、Znを添加する場合、ZnOの形よりはZnSの形で添加した方が高い発光強度が得られることがわかる。
【0043】
[熱処理温度による発光強度の変化]
熱処理温度によって、本発明の赤色蛍光体の発光特性がどのように変化するかを調べた。図8に、Zn及びEu添加Ta2O5(酸化物の混合モル比でTa2O5:Eu2O3:ZnO=0.84:0.08:0.08)に対する熱処理温度を変化させた各場合の発光特性を表すグラフを示す。また、図9に、Zn及びEu添加Ta2O5の熱処理温度と発光強度(発光波長は611nm)の関係を表すグラフを示す。図8、図9のグラフにおいて示されている熱処理温度の最小値は1250℃であるが、本願発明者は、1200℃より低い熱処理温度では有意な赤色発光が生じないことを確認している。図8及び図9に示す実験結果から、熱処理温度が高くなるに伴い発光強度が増加し、1450℃でピークとなることがわかる。なお、熱処理温度はTa2O5の融点である1785℃以下とする必要がある。
【0044】
[紫外線による励起]
次に、紫外線により励起した場合の本発明の赤色蛍光体の発光特性を調べた。図10にEu添加Ta2O5(Eu2O3のモル比=0.08〜0.3)の、図11にTi及びEu添加Ta2O5(Eu2O3の混合モル比=0.08、TiO2の混合モル比=0.01〜0.08)の、それぞれ励起波長325nmの紫外線により励起した場合の発光スペクトルを示す。図6と縦軸のスケールが異なるので直接比較することはできないが、紫外線励起でも611nmにおいて十分な発光が認められる。
【0045】
[Eu添加(Ta・Al)酸化物]
ベース物質であるTa2O5に替え、Ta2O5とAl2O3の混合物をベース物質とした場合のEu添加赤色発光体の特性を調べた。図12a〜図12dは、Ta2O5とAl2O3の混合モル比を1:1、2:3、3:2、3:5と変化させた場合のEu添加赤色発光体の発光スペクトルを示す。いずれも、Eu2O3のモル比は0.08、熱処理温度は1200℃、励起波長は325nmである。全体的にTa2O5のみをベースとした場合よりも発光強度は低下しているが、592nmと618nmの2つの発光ピークが現れる。
この混合色はほぼピンク色であり、この発光体はピンク色光源として用いることができる。
【0046】
[焼結助剤]
ベース物質を加熱・焼結する際に、焼結助剤を加えることにより焼結温度を下げることができる。その焼結助剤を添加することによる発光特性への影響を調べた。焼結前の混合物におけるベース物質及び焼結助剤の構成モル比を次に記載する。
Ta2O5: 0.1
Eu2O3: 0.08
K塩(KCl等): 0.053
Na塩(NaCl,Na2CO3,Na2SO4等):0.767
(なお、焼結助剤であるK塩とNa塩のモル比合計は0.82となるが、重量比では60%以下となる)
上記混合物を800℃で2時間加熱したところ、十分な焼結が行われた。こうして作製した赤色発光体の発光特性を図13に示す。なお、励起波長は325nmである。図1のグラフと比較すると611nmのピークにおける発光強度の絶対値はやや低下しているが、ピークの鋭さ(半値幅)はそのまま維持されており、赤色発光体の発光特性自体には大きな影響は与えないことがわかる。
【0047】
以上、本発明に係る赤色蛍光体について説明を行ったが、上記は例に過ぎず、本発明の精神内で適宜に変更や改良を行っても構わないことは明らかである。
【0048】
[構造解析]
図14に、Ta2O5のみの場合と、それにEu2O3をモル比で0.01〜0.3添加して1200℃で加熱した場合のX線回折の結果を示す。これらを比較すると、いずれの場合においてもTa2O5の基本構造がほぼそのまま現れていることがわかる。このことから、Euは、Ta2O5で構成される基本構造の隙間に、イオンとして入り込んでいるのではないかと想定される。
【0049】
次に、本発明の第2の実施態様に係る蛍光体について説明する。この蛍光体の基本的な構成は、La−Zn−Ti酸化物とEu等の希土類発光元素が原子レベルで混合した構成にある。発光源としてEuを用いる場合、その原料物質としてはフッ化物塩、炭酸塩、酸化物等が挙げられるが、なかでも酸化物が好ましい。この場合、最も典型的には出発物質としてLa2O3,ZnO,TiO2の混合物とEu2O3を用いることができる。
これらの酸化物は通常、粉末で得られるが、両者を単純に混合し、それを加熱することにより、両酸化物の構造が変化し、Euを発光源とする赤色蛍光体が形成される。なお、混合物にはLa2O3,ZnO,TiO2及びEu以外の成分が含まれていてもよい。
【0050】
例えばLa−Zn−Ti酸化物としてLa2O3,ZnO,TiO2の混合物とEu2O3を用いた場合、La−Zn−Ti酸化物に対するEuのモル比が0.05〜8、好ましくは0.25〜1.5となるように、両者を混合する。
【0051】
(実施例1)
以下、本願発明者らがLa−Zn−Ti酸化物を主体とする蛍光体について行った各種の実験について説明する。まず、粉末のLa−Zn−Ti酸化物(La2O3+ZnO+TiO2)とEu2O3を混合し、ペレット状にした後に加熱・焼結処理を行った。以下の実験における基本的な加熱処理条件は特に記載のない限り、次の通りとした:空気中、1気圧、1300〜1500℃、2時間。
【0052】
[励起光波長]
Eu添加La−Zn−Ti酸化物の励起光波長と、発光強度との関係を調べた。
図15は、励起波長を200〜600nmの範囲で連続的に変化させたときの616nmにおける発光強度の変化を調べた結果を示している。このときのLa−Zn−Ti酸化物に対するEu2O3の添加量は0.25モルである。図15には前述のEu添加Ta2O5にZnを添加したものを併記している。図15に示すように、Eu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体は、Eu添加Ta2O5にZnを添加したものと同様、460〜480nm(青色域)及び520〜540nm(緑色域)の他、380〜420nm及び290〜340nmの近紫外域でも励起可能であることを示している。
【0053】
図16は、励起波長が470nmのときのEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体及びEu添加Ta酸化物にZnを添加した蛍光体の、発光波長と発光強度との関係を表すグラフである。図16によれば、Eu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体の発光強度が強くなる波長範囲はTa酸化物蛍光体よりもやや赤色波長側にずれており、610〜620nmの波長範囲(特に616nm)での発光強度が特に強くなることがわかる。また、Eu添加La−Zn−Ti酸化物においては、625〜635nmの波長範囲に第2の発光ピーク(626nm付近)があることがわかる。このため、Eu添加Ta酸化物蛍光体よりもEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体の方が、より強い赤色発光を生じる。
【0054】
[Euの添加量変化による発光強度の変化]
La−Zn−Ti酸化物に対してEuの添加量を変化させ、各場合の発光強度を観察した。図17に、La−Zn−Ti酸化物に対するEuのモル比を0,0.10,0.25,0.70,1.50としたときの発光強度の観察結果を、図18に、La−Zn−Ti酸化物に対するEuのモル比を1.5,3.00,5.00,7.00としたときの発光強度の観察結果を示す。励起光波長はいずれも470nmである。図17及び図18に示す通り、Eu2O3を適切な割合で添加したとき、616nmにおいて鋭い赤色発光が見られることが確認され、特に、Euの添加モル比が0.25〜1.5のときに発光強度が大きく上昇することがわかる。また、Eu2O3の添加量の変化に対する第1発光ピークと第2発光ピークの発光強度の変化は異なることがわかる。
【0055】
La−Zn−Ti酸化物に対するEu2O3のモル比を0〜0.07の範囲で変化させた場合の616nmにおける発光強度のグラフを図19に示す。図19のグラフに示されているように、モル比が0.10〜0.25付近において616nmにおける発光強度は最大となる。Ta酸化物と同様に、La−Zn−Ti酸化物の場合もEuの割合が大きくなると発光強度が低下する傾向を示した。
【0056】
図20は、La−Zn−Ti酸化物に対するEu2O3のモル比を0〜5の範囲で変化させた場合の591nm+597nm、616nm、626nmにおける発光強度の変化のグラフを示す。「591nm+597nm」の発光強度とは、591nm及び597nmの各発光強度を積算したものを示している。図20から、波長が611nmのときに発光強度が最大となるEu濃度よりも、波長が626nmのときに発光強度が最大となるEu濃度の方が少し高いことが分かる。尚、Eu添加La−Zn−Ti酸化物の赤色領域全体の発光強度は、616nmの発光強度と626nmの発光強度を積算したものであることから、赤色領域全体の発光強度が最大となるEu濃度は、616nmの発光強度のピークと626nmの発光強度のピークの間の濃度になると思われる。
【0057】
[熱処理温度による発光強度の変化]
図21に、Eu添加La−Zn−Ti酸化物(酸化物の混合モル比でLa−Zn−Ti酸化物:Eu2O3=0.75:0.25)に対する熱処理温度と発光強度(励起波長は470nm、発光波長は611nm)の関係を示す。グラフにおいて示されている熱処理温度の最小値は1380℃、最大値は1450℃であるが、発明者は、1300℃以下、1600℃以上では有意な赤色発光が生じず、最適な焼結温度は1350〜1450℃であることを確認している。また、図21に示す実験結果から、熱処理温度が1430〜1440℃付近のときの発光強度が最も高くなることがわかる。
【0058】
[構造解析]
図22に、La−Zn−Ti酸化物のみの場合と、それにEu2O3をモル比で0.08〜5.0添加して1430℃で2hr加熱した場合のX線回折の結果を示す。これらの結果から、Eu濃度が増えるにつれてX線回折ピークが変化するものの、Euイオン周囲の局所的な構造はあまり変化していないと考えられる。但し、Euイオン周囲の構造の周期配列は乱れていると思われる。このことから、Euイオンの周囲は、カゴ状の構造を有するものと想定される。
【0059】
(実施例2)
次に、本願発明者が、La−Zn−Ti酸化物のLaの一部をYに置換した物質にEuを添加して成る蛍光体について行った各種の実験結果について説明する。尚、以下の説明では、La−Zn−Ti酸化物のLaの一部をYに置換した物質を「Y置換La−Zn−Ti酸化物」とも表現する。
Eu添加La−Zn−Ti酸化物のLaの一部をYに置換した蛍光体の製造方法、実験条件等は、上述のEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体とほぼ同じであるため、詳しい説明は省略する。
【0060】
[励起光波長及び発光波長]
図23に、Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物の励起波長(YLZT_Eu)及び発光波長(YLZT_Eu_Ex)と発光強度との関係を示す。Yに置換した割合は、La全体の0.7とした。励起波長は、616nmにおける発光強度を示しており、発光波長は470nmで励起したときの発光強度を示している。
【0061】
尚、図23には、参考のために、Eu添加Ta酸化物にZnSを添加した蛍光体の励起波長(Ta_Eu_ZnS)及び発光波長(Ta_Eu_ZnS_Ex)、及びEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長(LZT_Eu)及び発光波長(LZT_Eu_Ex)も重ねて表示した。
図23のグラフによれば、Laの一部をYに置換したLa−Zn−Ti酸化物系蛍光体は、他の二つと同様、460〜480nm(青色域)及び520〜540nm(緑色域)の他、380〜420nm(及び290〜340nm)の近紫外域で励起可能であることを示している。
【0062】
また、励起波長が470nmのときの発光波長についても、Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体は、Eu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体と同様に、Eu添加Ta酸化物にZnを添加した蛍光体よりもやや赤色波長側にずれており、610〜620nmの波長範囲(特に616nm)での発光強度が特に強くなることがわかる。また、Eu添加La−Zn−Ti酸化物と同様に、625〜635nmの波長範囲に第2の発光ピーク(626nm付近)があることがわかる。従って、Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体においても、より強い赤色発光を生じる。
【0063】
[Euの添加量変化による発光強度の変化]
La−Zn−Ti酸化物のLaの一部をYに置換したものに対してEu2O3の添加量を変化させ、各場合の発光強度を観察した。図24は、Y置換La−Zn−Ti酸化物に対するEuのモル比を0.20モル、0.25モル、0.30モル、0.70モルとしたときの発光強度の観察結果を示す。励起波長は470nmである。図24に示す通り、Eu2O3を適切な割合で添加したとき、616nmにおいて鋭い赤色発光が見られることが確認された。また、Eu2O3の添加量を増やすと、第1発光ピークの発光強度は低下するが、第2発光ピークの発光強度は上昇することがわかった(一応、このように記載しましたが、添加量が0.2モルのときと0.25モルのときを示す線が逆の場合には、訂正する必要があります)。また、Eu2O3を全く添加しない場合には殆ど赤色発光が生じないこともわかった。
【0064】
図25は、Y置換La−Zn−Ti酸化物に対するEu2O3のモル比を0〜7の範囲で変化させた場合の591nm+597nm、616nm、626nmにおける発光強度の変化のグラフを示す。「591nm+597nm」の発光強度とは、591nm及び597nmの各発光強度を積算したものを示している。図25から、波長が611nmのときに発光強度が最大となるEu濃度よりも、波長が626nmのときに発光強度が最大となるEu濃度の方が高いことが分かる。尚、Eu添加La−Zn−Ti酸化物の赤色領域全体の発光強度は、616nmの発光強度と626nmの発光強度を積算したものであることから、赤色領域全体の発光強度が最大となるEu濃度は、616nmの発光強度のピークと626nmの発光強度のピークの間の濃度になると思われる。
【0065】
[Y置換割合による発光強度の変化]
図26〜図30は、La−Zn−Ti酸化物のLaをYに置換させる割合を変化させた場合の発光強度の変化を示す。これらの図において用いる記号が示す各蛍光体の組成及び混合モル比は次の通りである。
LZT_Eu0.25(Eu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体)−−−La2O3:ZnS:TiO2:Eu2O3=1:1:1:0.25
Y0.3L0.7ZT_Eu0.25(Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体)−−−Y2O3:La2O3:ZnS:TiO2:Eu2O3=0.7:0.3:1:1:0.25
Y0.5L0.5ZT_Eu0.25(Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体)−−−Y2O3:La2O3:ZnS:TiO2:Eu2O3=0.5:0.5:1:1:0.25
Y0.6L0.4ZT_Eu0.25(Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体)−−−Y2O3:La2O3:ZnS:TiO2:Eu2O3=0.6:0.4:1:1:0.25
Y0.9L0.1ZT_Eu0.25(Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体)−−−Y2O3:La2O3:ZnS:TiO2:Eu2O3=0.9:0.1:1:1:0.25
図26は、励起波長を200〜600nmの範囲で連続的に変化させたときの616nmにおける発光強度の変化を調べた結果を示している。Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体は、いずれもEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体よりも発光強度が上昇し、この傾向はいずれの励起波長(380〜420nm(近紫外域)460〜480nm(青色域)、520〜540nm(緑色域))においても見られた。また、Yに置換する割合がLa全体の0.3のものに比べて0.5及び0.6のものの方が発光強度の上昇が大きいことがわかる。
【0066】
図27a、図27bは、それぞれ励起波長が395nmのときのEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体及びEu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の発光波長と発光強度との関係、592nm及び616nmにおける発光強度の変化を示す。
図28a及び図28bは、それぞれ励起波長が470nmのときのEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体及びEu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の発光波長と発光強度との関係、592nm及び616nmにおける発光強度の変化を示す。
図29a及び図29bは、それぞれ励起波長が535nmのときのEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体及びEu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の発光波長と発光強度との関係、592nm及び616nmにおける発光強度の変化を示す。
【0067】
図27〜29から、Laの一部をYに置換したものは(置換割合「0.3〜0.9」)いずれも置換していないもの(置換割合「0」)に比べて発光強度が上昇する傾向を示し、特に、616nmにおける発光強度が上昇する傾向が大きいことがわかる。また、LaをY置換した割合がLa全体の0.5〜0.8、特に0.5〜0.7のときに616nmにおける発光強度が大きく上昇することがわかる。
【0068】
[構造解析]
図30に、Y置換La−Zn−Ti酸化物のみの場合と、それにEu2O3をモル比で0.25添加して1430℃で2hr加熱した場合のX線回折の結果を示す。これらを比較すると、Euを添加した場合においてもY置換La−Zn−Ti酸化物の基本構造がほぼそのまま現れていることがわかる。このことから、Euは、Y置換La−Zn−Ti酸化物の基本構造の隙間に、イオンとして入り込んでいるのではないかと想定される。
【0069】
[Ta酸化物、La−Zn−Ti酸化物及びY置換La−Zn−Ti酸化物を主体とする蛍光体の比較]
Ta酸化物、La−Zn−Ti酸化物及びY置換La−Zn−Ti酸化物を主体とする各蛍光体について、励起波長と発光強度との関係、発光波長と発光強度との関係を比較する。比較に用いた各蛍光体の組成及び混合モル比は次の通りである。
Ta_Eu_13(Ta酸化物蛍光体)−−−Eu2O3:Ta2O5:Zns=1:3:2.5
Ta_Eu_19(Ta酸化物蛍光体)−−−Eu2O3:Ta2O5:Zns=1:9:2.5
LZT_Eu(Eu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体)−−−La2O3:ZnS:TiO2:Eu2O3=1:1:1:0.25、
Y07L03ZT(Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体)−−−Y2O3:La2O3:ZnS:TiO2:Eu2O3=0.7:0.3:1:1:0.25
【0070】
図31は、上述の各蛍光体の励起波長と発光強度との関係を併記して示す図である。図31に示すように、いずれの蛍光体も460〜480nm(青色域)、520〜540nm(緑色域)、380〜420nmの近紫外域で励起可能であることがわかる。
図32〜図34は、各蛍光体について、各励起波長における発光波長と発光強度との関係を併記して示す図である。いずれの励起波長においても、各蛍光体の発光波長と発光強度との関係は類似することがわかる。
これらの蛍光体の構造について現在も解明を進めている段階であり、詳しい考察はできないが、いずれの各蛍光体も、酸化物が発光源のEuを囲むかご状の構造を有しているのではないかと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る蛍光体は、赤色光源としてはもちろん、青色LED及び黄色蛍光体と組み合わせることにより白色LEDや任意色の光源を構成することができる。このような光源は、照明光源の他、液晶パネル(LCD)のバックライト等にも用いることができる。更に、本発明に係る赤色蛍光体は、紫外線によっても励起するため、紫外線励起照明装置や表示装置の蛍光体としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1a】本発明の第1の実施形態を示すものであり、Eu添加Ta2O5の励起光波長と発光強度の関係を示すグラフ。
【図1b】Eu添加Ta2O5の励起光波長と発光強度の関係を示すグラフ。
【図1c】Ta2O5の励起光波長と発光強度の関係を示すグラフ。
【図2】本発明に係る赤色蛍光体とEu添加Y2O3との発光強度の比較を表すグラフ。
【図3】本発明に係る赤色蛍光体及びEu添加Y2O3の、時間経過による発光強度の減衰を表すグラフ。
【図4】Ta2O5に対するEu2O3の添加濃度変化による発光強度の変化を示すグラフ。
【図5】発光波長611nmにおける発光強度のEuのモル濃度依存性を表すグラフ。
【図6】Eu添加Ta2O5と、Zn及びEu添加Ta2O5との発光強度の比較を表すグラフ。
【図7a】Znの添加割合と、611nmにおける発光強度との関係を示すグラフ。
【図7b】ZnO、ZnS添加の場合のZnの添加割合と、励起波長が325nmの場合の611nmにおける発光強度との関係を示すグラフ。
【図7c】ZnO、ZnS添加の場合のZnの添加割合と、励起波長が470nmの場合の611nmにおける発光強度との関係を示すグラフ。
【図8】複数の熱処理温度におけるZn及びEu添加Ta2O5の発光特性の関係を示すグラフ。
【図9】Zn及びEu添加Ta2O5の熱処理温度と発光強度の関係を表すグラフ。
【図10】励起波長325nmの紫外線により励起した場合のEu添加Ta2O5の発光特性を表すグラフ。
【図11】励起波長325nmの紫外線により励起した場合のTi及びEu添加Ta2O5の発光特性を表すグラフ。
【図12a】Ta2O5:Al2O3=1:1酸化物をベースとするEu添加赤色発光体の発光特性を表すグラフ。
【図12b】Ta2O5:Al2O3=2:3酸化物をベースとするEu添加赤色発光体の発光特性を表すグラフ。
【図12c】Ta2O5:Al2O3=3:2酸化物をベースとするEu添加赤色発光体の発光特性を表すグラフ。
【図12d】Ta2O5:Al2O3=3:5酸化物をベースとするEu添加赤色発光体の発光特性を表すグラフ。
【図13】焼結助剤を添加した場合の赤色発光体の発光特性を表すグラフ。
【図14】Ta2O5のみ、及びEu添加Ta2O5のX線回折の結果を表すグラフ。
【図15】本発明の第2の実施形態を示すものであり、Eu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起光波長と発光強度との関係を示すグラフ。
【図16】Eu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体の発光強度を示すグラフ。
【図17】La−Zn−Ti酸化物に対するEu添加濃度変化による発光強度の変化を示すグラフ。
【図18】La−Zn−Ti酸化物に対するEu添加濃度変化による発光強度の変化を示すグラフ。
【図19】La−Zn−Ti酸化物の発光強度のEu濃度依存性を表すグラフ。
【図20】La−Zn−Ti酸化物の各発光ピークにおける発光強度のEu濃度依存性を表すグラフ。
【図21】複数の熱処理温度におけるEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体5の発光特性の関係を示すグラフ。
【図22】複数のEu添加濃度におけるLa−Zn−Ti酸化物蛍光体のX線回折の結果を表すグラフ
【図23】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長と発光強度との関係及び発光波長と発光強度との関係を併記して示すグラフ。
【図24】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体に対するEu添加濃度変化による発光強度の変化を示すグラフ。
【図25】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の発光強度のEu濃度依存性を表すグラフ。
【図26】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体におけるY置換割合の変化による励起波長と発光強度の関係の変化を表すグラフ。
【図27a】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長395nmにおけるY置換割合の変化による発光強度の変化を表すグラフ。
【図27b】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長395nmにおける発光強度のY置換割合依存性を表すグラフ。
【図28a】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長470nmにおけるY置換割合の変化による発光強度の変化を表すグラフ。
【図28b】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長470nmにおける発光強度のY置換割合依存性を表すグラフ。
【図29a】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長535nmにおけるY置換割合の変化による発光強度の変化を表すグラフ。
【図29b】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長535nmにおける発光強度のY置換割合依存性を表すグラフ。
【図30】Eu添加及びEu無添加のY置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体のX線回折の結果を表すグラフ。
【図31】Eu添加Ta酸化物、Eu添加La−Zn−Ti酸化物、Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物における励起波長と発光強度との関係を比較して示すグラフ。
【図32】Eu添加Ta酸化物、Eu添加La−Zn−Ti酸化物、Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物の励起波長395nmにおける発光強度を比較して示すグラフ。
【図33】Eu添加Ta酸化物、Eu添加La−Zn−Ti酸化物、Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物の励起波長470nmにおける発光強度を比較して示すグラフ。
【図34】Eu添加Ta酸化物、Eu添加La−Zn−Ti酸化物、Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物の励起波長530nmにおける発光強度を比較して示すグラフ。
【図35】本発明に係る蛍光体を用いた発光装置の一例である砲弾型LED発光装置の断面図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、近紫外光から緑色の可視光で効率よく発光する蛍光体に関し、特に、Ta酸化物或いはLa−Zn−Ti酸化物を主体とする蛍光体に主たる発光元素としてEuを含有させた赤色蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、発光強度の高い白色LEDが製品化され始めており、照明やバックライト等の用途において広く使われるようになっている。白色LEDは、水銀フリー、低消費電力、直流駆動のため輝度調節が比較的容易、といった多くのメリットを備えているため、その需要は高まる一方である。
【0003】
現在、白色LEDの白色光は青色LEDと黄色蛍光体(YAG:イットリウム・アルミニウム・ガーネット)との組合せにより実現されているため、光が青白いという特徴を持つ。一般に店舗やリビングルームでは、演色性の高い照明や暖かみを感じさせる照明が求められるため、このような環境における白色LEDの使用は不適当であった。
【0004】
青白い光の演色性を高めるためには赤み成分を付加する必要があるため、白色LEDに添加するための適切な赤色蛍光体が求められている。しかし、現在赤色蛍光体として使用されているものは、発光効率が低い、時間経過により劣化しやすい、可視光励起できない等の問題があった。
【0005】
非特許文献1には、以上のような問題を解決することを目的とした赤色蛍光体が開示されている。これによると、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化カルシウム、窒化ユーロピウム粉末を、水分と空気を遮断したグローブボックス内で混合し、その後窒化ホウ素製のるつぼに入れて窒素中、10気圧、1800℃で反応させることにより、ユーロピウムが固溶したカルシウム・アルミニウム・シリコン三窒化物(CaAlSiN3)赤色蛍光体粉末が得られる。この方法によって得られる赤色蛍光体は、450〜490nmの青色LED光源を励起光として使用できるとされている。また、−240℃〜100℃の温度範囲で劣化しないとも報告されている。
【0006】
【非特許文献1】 独立行政法人物質・材料研究機構,”白色LED用赤色蛍光体の開発に成功−新時代の明かり−”,[online],平成16年8月31日,[平成18年3月27日検索],インターネット<URL:http://www.nims.go.jp/jpn/news/press/pdf/press90.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1に記載されている赤色蛍光体は高圧の窒素雰囲気下で製造する必要があるため、製造設備やコストの面で改善が望まれる。そこで、本願発明者らは、特に白色LEDに好適に適用できる赤色蛍光体を得るべく鋭意研究を行った結果、Ta2O5のTa酸化物或いはLa−Zn−Ti酸化物を主体とし、そこにEuを含有させた新規な赤色蛍光体を得ることに成功した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のようにして成された本発明に係る蛍光体は、近紫外光から緑色の可視光により励起され、前記近紫外から緑色までの波長域に少なくとも2つの励起ピークを有する、発光源としての希土類元素を含有する蛍光体である。
具体的には、前記励起ピークは450〜510nm及び500〜600nmの波長域にある。また、340〜450nmの波長域に励起ピークがあるものも含まれる。
発光源としての希土類元素には、Eu,Er,Dy,Sm,Tb,Ce,Gd,Nd,Dy,Hoのいずれか又はそれらの2以上の組み合わせを用いることができる。
本発明の蛍光体の第1の態様は、Ta酸化物を主体とするものである。
前記Ta酸化物は、そのTa:Euの原子数比が、0.99:0.01〜0.60:0.40となるようEuを含有することを特徴とする。
【0009】
また、Ta:Euの原子数比は、好適には0.95:0.05〜0.70:0.30とするとよい。
【0010】
更に、Ta:Eu:Znの原子数比が0.985:0.01:0.005〜0.45:0.40:0.15となるようZnを含有するものであってもよい。
【0011】
更に、Mg、Gd、Sn、Ti、Tbのいずれか1つ又は複数を含有するものであってもよい。
【0012】
更には、前記蛍光体はTa及びAl酸化物を主体とするものであってもよく、その場合、Euは(Ta・Al):Euの原子数比が0.99:0.01〜0.60:0.40であるようにする。また、Ta酸化物にはLa等の酸化物が含まれていてもよい。
【0013】
前記蛍光体を製造する方法は各種あるが、例えば次のような方法を用いることができる。
すなわち、Ta酸化物とEu酸化物を、Ta:Euの原子数比が0.99:0.01〜0.60:0.40となるように混合し、
該混合物を1200℃以上、Ta酸化物の溶融温度以下の温度で加熱・焼結する。
【0014】
ここで、上記Ta酸化物として例えばTa2O5を、Eu酸化物として例えばEu2O3を用いることができる。この場合、加熱温度の最高値は、Ta2O5の溶融温度である1785℃となる。
【0015】
上記のZnを含有する赤色蛍光体を製造する場合、上記混合物に更にZn酸化物を、Ta:Eu:Znの原子数比が0.985:0.01:0.005〜0.45:0.40:0.15となるように加える。加熱温度範囲は同じでよい。
【0016】
上記の、更にMg、Gd、Sn、Ti、Tbのいずれか1つ又は複数を含有するEu−Ta酸化物蛍光体の場合、Ta酸化物とEu酸化物を混合する際に、或いはそれらを混合した後、それらMg等の元素の酸化物又はそれら酸化物の混合物を加え、その後は上記同様に加熱・焼結することにより、蛍光体を得ることができる。なお、これらMg等の元素の酸化物又はそれら酸化物の混合物の混合量は、目的に応じて適宜選択される。
【0017】
上記酸化物混合体には、焼結助剤を添加してもよい。焼結助剤を加えることにより、加熱・焼結温度を下げることができ、本発明に係る蛍光体の製造工程を簡略化し、コストを下げることができる。焼結助剤としては、Na塩(例えば、Na2SO4、Na2CO3、NaCl、Na2O等)やK塩(例えば、KCl等)を用いることができる。その含有量は30〜60重量%とすることが望ましい。これよりも少ないと十分な焼結補助作用が得られず、この範囲を超えると発光体自体の発光効率が低下するおそれがある。
【0018】
本発明の蛍光体の第2の態様は、La−Zn−Ti酸化物を主体とするものである。
この場合、La−Zn−Ti酸化物にEu酸化物が、La、Zn、Ti、Euの原子数比がLa:Zn:Ti:Eu=2:1:1:0.1〜2:1:1:16となるように混合されている良く、好ましくは、La:Zn:Ti:Eu=2:1:1:0.5〜2:1:1:3となるように混合されていると良い。
更に、La−Zn−Ti酸化物は、Laの一部をYで置換したものも蛍光体として用いることができる。この場合、Yに置換する割合は、La全体の0.3〜0.9、好ましくは0.4〜0.8、更に好ましくは0.5〜0.7にすると良い。
【0019】
前記蛍光体を製造する方法は各種あるが、例えば次のような方法を用いることができる。
すなわち、La−Zn−Ti酸化物とEu酸化物を、La、Zn、Ti、Euの原子数比がLa:Zn:Ti:Eu=2:1:1:0.1〜2:1:1:16となるように混合し、
該混合物を1300℃以上、1600℃以下で加熱する。
ここで、上記La−Zn−Ti酸化物として例えばLa2O3,ZnO,TiO2の混合物を、Eu酸化物として例えばEu2O3を用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る蛍光体は、近紫外光から緑色の可視光により励起され、青色域及び緑色域にそれぞれ励起ピークを有する、内部に発光源としての希土類元素を含有するものであり、その具体例としてはTa酸化物を主体としEuを含有するもの、La−Zn−Ti酸化物を主体としEuを含有するものが挙げられる。
【0021】
前記蛍光体においては、主としてEuが発光源として作用し、赤色蛍光を発する。明確な構造は未だ解明されていないが、後述するX線回折の結果から判断すると、恐らくTa酸化物やLa−Zn−Ti酸化物がホストの役割を担い、発光源となるEuを囲うカゴ状の構造を有するものと想定される。
【0022】
従って、発光源としてEuと同様の化学的性質を有する希土類元素を用いても、本発明は同様に成立し得る。すなわち、Ta酸化物やLa−Zn−Ti酸化物によるカゴ構造中に発光源としての希土類元素を含有する、Ta酸化物やLa−Zn−Ti酸化物を主体とする蛍光体も本発明の範疇に入るものである。ここにおける希土類元素には、例えば、Er,Dy,Sm,Tb,Ce,Gd,Nd,Dy,Ho等を挙げることができる。
【0023】
本発明に係る蛍光体のうち特にEuを発光源とする赤色蛍光体は、後述するように高い発光効率及び高い発光安定性を備えているほか、青色域及び緑色域に特徴的な励起ピーク構造を有しているため、可視光励起により強い赤色発光を行うことができる。現在、白色LEDは青色発光LEDと黄色蛍光体の組み合わせにより構成されているが、前記の通り発光色がやや青白いという特徴があり、暖色系が求められる用途には不適であるとされていたが、本発明に係る赤色蛍光体をそこに適度の量加えることにより、演色性に優れた白色光を得ることができるようになる。これは、LEDの照明光源としての使用に大きな道を開くものとなる。
【0024】
また、本発明に係る蛍光体は、その製造が非常に容易であるという特徴を持つ。すなわち、製造時の加熱は常圧・空気中で行うことができるため、上記非特許文献1に記載のもののような特別な装置を必要としない。そして、原料の酸化物も一般的に容易に入手することができる。従って、低コストで製造することができる。また、その加熱温度も比較的低い温度を用いることができる。
【0025】
Euを発光源とする赤色蛍光体を白色LED製造の際に使用することにより、従来は青白く無機質な印象を与えていた白色LEDの発色を、赤みを帯びた暖かく感じられる発色とすることができるようになる。本発明に係る蛍光体を用いた発光装置の一例として、砲弾型LED発光装置を図35に示す。砲弾型LED発光装置10は、発光光束に指向性を与えるためのプラスチック製砲弾型レンズ11の中にLED12を埋設したもので、本願発明に係る蛍光体13は、発光源であるLED12の上に塗布して使用することができる。
【0026】
本発明に係る蛍光体はその他に、単独に各色の発光源として、又はその他の発光源と組み合わせることにより各種色を実現する光源の構成要素として用いることができるのはもちろん、液晶パネル(LCD)のバックライト等の各種発光装置に好適に用いることができる。
【0027】
本発明に係る赤色蛍光体は、青色域及び緑色域の可視光の他、紫外線によっても励起して赤色蛍光を発する。従って、紫外線により励起して発光する照明装置や表示装置の蛍光体としても使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の第1の実施態様に係る蛍光体の基本的な構成は、Ta酸化物とEu等の希土類発光元素が原子レベルで混合した構成にある。発光源としてEuを用いる場合、その原料物質としてはフッ化物塩、炭酸塩、酸化物等が挙げられるが、なかでも酸化物が好ましい。この場合、最も典型的には出発物質としてTa2O5とEu2O3を用いることができる。
【0029】
これらの酸化物は通常、粉末で得られるが、両者を単純に混合し、それを加熱することにより、両酸化物の構造が変化し、Euを発光源とする赤色蛍光体が形成される。なお、混合物にはTa2O5及びEu以外の成分が含まれていてもよい。
【0030】
加熱温度は1200℃以上とする。この温度未満では、前記のようなTa酸化物ホストとEu発光源のカゴ状構造が良好に形成されず、十分な発光強度が得られないおそれがある。発光強度は加熱処理の温度が高くなるにつれて増加する傾向にある(詳細は後述)。従って、加熱温度はTa酸化物の融点まで上げることができる。なお、Ta酸化物の融点を超えて加熱すると、カゴ状構造が形成されなくなる。
【0031】
Ta:Euの原子数比に関しては、例えば酸化物としてTa2O5とEu2O3を用いた場合、両者の混合割合を、Ta:Euの原子数比が0.99:0.01〜0.60:0.40の範囲内となるようにする。
【0032】
Ta2O5及びEu2O3に更に別の元素を添加することにより、発光特性を向上させることもできる。例えば、ZnOやZnS、Al2O3を所定量添加し、多元元素化することによって発光色及び励起波長の制御が可能となる。更には、Mg、Gd、Sn、Ti、Tbのいずれか1つ又は複数を加えることによっても、発光色及び励起波長の微調整が可能である。
【0033】
(実施例)
以下、本願発明者らがTa酸化物を主体とする蛍光体について行った各種の実験について説明する。まず、粉末のTa2O5とEu2O3を混合し、ペレット状にした後に加熱・焼結処理を行った。以下の実験における基本的な加熱処理条件は特に記載のない限り、次の通りとした:空気中、1気圧、1200℃、2時間。
【0034】
[励起光波長]
Eu添加Ta2O5の励起光波長と、発光強度との関係を調べた。このときのTa2O5とEu2O3の混合モル比は、Ta2O5:Eu2O3=0.92:0.08(原子数比では、Ta:Eu=0.92:0.08)である。図1aに、発光波長と発光強度との関係を複数の異なる励起波長について表すグラフを示す。図1aのグラフによれば、励起波長が470nm付近において、608〜615nmの波長範囲(特に611nm)での発光強度が特に強くなることがわかる。なお、611nmの発光ピークにおける半値幅は約3nmとなっており、本発明に係る蛍光体の発光の波長選択性が良好であることが示されている。
【0035】
そこで次に、同じ物質について、励起波長を200〜600nmの範囲で連続的に変化させたときに611nmにおける発光強度がどのように変化するかを調べた。その結果を図1bに示す。図1bには、Taに起因する発光波長である430nmにおける発光強度の結果も併記した。また、Euを添加しない、Ta2O5単独の同様の結果を図1cに示す。これらの図より、Eu添加Ta酸化物赤色蛍光体は、460〜480nm(青色域)及び520〜540nm(緑色域)の他、380〜420nm及び290〜340nmの近紫外域でも励起可能であることを示している。
【0036】
[Y2O3との比較]
現在、赤色蛍光体として精力的に研究開発が行われているのはEu添加Y2O3である。そこで、本願発明者らは本発明の赤色蛍光体であるEu添加Ta2O5と、Eu添加Y2O3との発光特性の比較を行った。図2に両者の発光強度の比較を表すグラフを示す。励起波長は共に325nmとし、Eu添加Ta2O5におけるTa2O5とEu2O3の比はTa2O5:Eu2O3=0.92:0.08である。Eu添加Ta2O5赤色蛍光体の発光強度(波長611nm)は、Eu添加Y2O3のそれの10倍程度もあることが確認された。
【0037】
[減衰特性]
また、図3に、本発明に係る赤色蛍光体であるEu添加Ta2O5及びEu添加Y2O3の、一定強度の励起光を連続的に照射した場合の、時間経過による発光強度低下(Fatigue)特性の比較を示す。Ta2O5及びY2O3共に、Eu2O3の添加モル比は0.08である。図3のグラフから明らかなように、本発明のEu添加Ta2O5はEu添加Y2O3と比べて発光の減衰が少なく、安定であることがわかる。
【0038】
[Euの添加量変化による発光強度の変化]
Ta2O5に対してEuの添加量を変化させ、各場合の発光強度を観察した。図4に、Ta2O5に対するEu2O3のモル比を0.0(すなわちTa2O5のみ)、0.01、0.04、0.08、0.15、0.30と変化させた場合の発光波長と発光強度の関係を表すグラフを示す。励起光波長は470nmである。図4のグラフが示す通り、Eu2O3を適切な割合で添加したとき、611nmにおいて鋭い赤色発光が見られることが確認された。また、Eu2O3を全く添加しない場合にはほとんど赤色発光が生じないこともわかった。
【0039】
Ta2O5に対するEu2O3のモル比の範囲を更に拡大し、0〜0.90の範囲で変化させた場合の611nmにおける発光強度のグラフを図5に示す。図5のグラフに示されているように、原子数比0.005〜0.5において有意な赤色発光が生じ、0.08付近において発光強度が最大となる。Euの割合が大きくなると発光強度が低下する理由は、Ta2O5によるカゴ構造を取りにくくなるためと考えられる。
図2を用いて説明したように、Y2O3と比較するとEu添加Ta2O5赤色蛍光体の最大発光強度はY2O3のそれよりも10倍程度高い。逆に言うと、ピーク強度の数分の一であっても、Eu添加Ta2O5赤色蛍光体は従来の赤色発光体であるY2O3よりも発光強度が高い。従って、図5のグラフにおいて縦軸のピーク強度(約1800)の約1/3の強度(約500)の蛍光を発する範囲である、Euの原子数比0.01〜0.40の範囲において、本発明に係るEu添加Ta2O5赤色蛍光体は従来の赤色発光体であるY2O3よりも十分発光強度が高く、新規且つ高発光強度の赤色蛍光体として使用することができる。なお、図5のグラフによると、その原子数比を0.05〜0.30とすることにより発光強度を1000以上とすることができ、従来物質より数倍も発光強度が高い赤色発光体を得ることができることがわかる。
【0040】
[第3元素の効果]
Ta2O5、Euに加え、さらに下に挙げるような第3の元素を添加することで、本発明の発光特性がどのように変化するかを調べた。
Gd、Mn、Sn、Tb、Ce:発光効率において際立った向上効果は見られない。
Zn:発光特性が向上する。
TiO2:発光特性が向上する。
Al2O3:Al2O3はTa2O5と同様、前記のカゴ状構造の一部を構成する。
【0041】
[Zn添加の効果]
図6に、Eu添加Ta2O5(Eu2O3添加量はモル比でTa2O5:Eu2O3=0.92:0.08)と、Zn及びEu添加Ta2O5(Ta2O5:Eu2O3:ZnO=0.84:0.08:0.08)との発光強度の比較を表すグラフを示す。なお、図6のグラフには、参考のために黄色蛍光体であるYAGの発光特性も重ねて表示した。図6のグラフには、Znを添加することにより発光強度が増加することが示されている。
【0042】
図7aに、Eu添加Ta2O5(Ta2O5:Eu2O3=0.92:0.08)にZnOを添加した場合の、Znの濃度(原子数比)と611nmにおける発光強度との関係を示すグラフを示す。これによれば、Eu添加Ta2O5にZnを僅かでも添加すると、発光特性が向上する効果が得られ、Znの原子数比が0.08である時に、最大の発光強度が得られることがわかる。従って、本発明の赤色蛍光体において有効な発光特性を生じさせるためには、先に述べたEuの添加割合と合わせると、Ta、Eu、Znの原子数比を(1−x−y):x:yと表した場合、x=0.01〜0.3、y=0.005〜0.15程度が好適であると言える。特に、x=0.07〜0.17、y=0.005〜0.05程度のとき、強い発光強度が得られる。
また、図7bに、Eu添加Ta2O5(Ta2O5:Eu2O3=0.92:0.08)に添加するZn化合物をZnO及びZnSとした場合の、励起波長が325nmである場合のZn濃度(原子数比)と611nm発光強度の関係を示す。更に、図7cに、励起波長が470nmである場合の611nm発光強度の関係を示す。図7cには、Zn化合物を添加していないEu添加Ta2O5のEu原子数比と発光強度の関係も併記した。従って、図7cの横軸は、Zn化合物を添加したEu添加Ta2O5についてはZn原子数比を、Zn化合物を添加していないEu添加Ta2O5についてはEu原子数比を示す。
図7cからわかるように、いずれの形にせよ、Znを添加することにより発光強度は大きく増加している。また、両グラフより、Znを添加する場合、ZnOの形よりはZnSの形で添加した方が高い発光強度が得られることがわかる。
【0043】
[熱処理温度による発光強度の変化]
熱処理温度によって、本発明の赤色蛍光体の発光特性がどのように変化するかを調べた。図8に、Zn及びEu添加Ta2O5(酸化物の混合モル比でTa2O5:Eu2O3:ZnO=0.84:0.08:0.08)に対する熱処理温度を変化させた各場合の発光特性を表すグラフを示す。また、図9に、Zn及びEu添加Ta2O5の熱処理温度と発光強度(発光波長は611nm)の関係を表すグラフを示す。図8、図9のグラフにおいて示されている熱処理温度の最小値は1250℃であるが、本願発明者は、1200℃より低い熱処理温度では有意な赤色発光が生じないことを確認している。図8及び図9に示す実験結果から、熱処理温度が高くなるに伴い発光強度が増加し、1450℃でピークとなることがわかる。なお、熱処理温度はTa2O5の融点である1785℃以下とする必要がある。
【0044】
[紫外線による励起]
次に、紫外線により励起した場合の本発明の赤色蛍光体の発光特性を調べた。図10にEu添加Ta2O5(Eu2O3のモル比=0.08〜0.3)の、図11にTi及びEu添加Ta2O5(Eu2O3の混合モル比=0.08、TiO2の混合モル比=0.01〜0.08)の、それぞれ励起波長325nmの紫外線により励起した場合の発光スペクトルを示す。図6と縦軸のスケールが異なるので直接比較することはできないが、紫外線励起でも611nmにおいて十分な発光が認められる。
【0045】
[Eu添加(Ta・Al)酸化物]
ベース物質であるTa2O5に替え、Ta2O5とAl2O3の混合物をベース物質とした場合のEu添加赤色発光体の特性を調べた。図12a〜図12dは、Ta2O5とAl2O3の混合モル比を1:1、2:3、3:2、3:5と変化させた場合のEu添加赤色発光体の発光スペクトルを示す。いずれも、Eu2O3のモル比は0.08、熱処理温度は1200℃、励起波長は325nmである。全体的にTa2O5のみをベースとした場合よりも発光強度は低下しているが、592nmと618nmの2つの発光ピークが現れる。
この混合色はほぼピンク色であり、この発光体はピンク色光源として用いることができる。
【0046】
[焼結助剤]
ベース物質を加熱・焼結する際に、焼結助剤を加えることにより焼結温度を下げることができる。その焼結助剤を添加することによる発光特性への影響を調べた。焼結前の混合物におけるベース物質及び焼結助剤の構成モル比を次に記載する。
Ta2O5: 0.1
Eu2O3: 0.08
K塩(KCl等): 0.053
Na塩(NaCl,Na2CO3,Na2SO4等):0.767
(なお、焼結助剤であるK塩とNa塩のモル比合計は0.82となるが、重量比では60%以下となる)
上記混合物を800℃で2時間加熱したところ、十分な焼結が行われた。こうして作製した赤色発光体の発光特性を図13に示す。なお、励起波長は325nmである。図1のグラフと比較すると611nmのピークにおける発光強度の絶対値はやや低下しているが、ピークの鋭さ(半値幅)はそのまま維持されており、赤色発光体の発光特性自体には大きな影響は与えないことがわかる。
【0047】
以上、本発明に係る赤色蛍光体について説明を行ったが、上記は例に過ぎず、本発明の精神内で適宜に変更や改良を行っても構わないことは明らかである。
【0048】
[構造解析]
図14に、Ta2O5のみの場合と、それにEu2O3をモル比で0.01〜0.3添加して1200℃で加熱した場合のX線回折の結果を示す。これらを比較すると、いずれの場合においてもTa2O5の基本構造がほぼそのまま現れていることがわかる。このことから、Euは、Ta2O5で構成される基本構造の隙間に、イオンとして入り込んでいるのではないかと想定される。
【0049】
次に、本発明の第2の実施態様に係る蛍光体について説明する。この蛍光体の基本的な構成は、La−Zn−Ti酸化物とEu等の希土類発光元素が原子レベルで混合した構成にある。発光源としてEuを用いる場合、その原料物質としてはフッ化物塩、炭酸塩、酸化物等が挙げられるが、なかでも酸化物が好ましい。この場合、最も典型的には出発物質としてLa2O3,ZnO,TiO2の混合物とEu2O3を用いることができる。
これらの酸化物は通常、粉末で得られるが、両者を単純に混合し、それを加熱することにより、両酸化物の構造が変化し、Euを発光源とする赤色蛍光体が形成される。なお、混合物にはLa2O3,ZnO,TiO2及びEu以外の成分が含まれていてもよい。
【0050】
例えばLa−Zn−Ti酸化物としてLa2O3,ZnO,TiO2の混合物とEu2O3を用いた場合、La−Zn−Ti酸化物に対するEuのモル比が0.05〜8、好ましくは0.25〜1.5となるように、両者を混合する。
【0051】
(実施例1)
以下、本願発明者らがLa−Zn−Ti酸化物を主体とする蛍光体について行った各種の実験について説明する。まず、粉末のLa−Zn−Ti酸化物(La2O3+ZnO+TiO2)とEu2O3を混合し、ペレット状にした後に加熱・焼結処理を行った。以下の実験における基本的な加熱処理条件は特に記載のない限り、次の通りとした:空気中、1気圧、1300〜1500℃、2時間。
【0052】
[励起光波長]
Eu添加La−Zn−Ti酸化物の励起光波長と、発光強度との関係を調べた。
図15は、励起波長を200〜600nmの範囲で連続的に変化させたときの616nmにおける発光強度の変化を調べた結果を示している。このときのLa−Zn−Ti酸化物に対するEu2O3の添加量は0.25モルである。図15には前述のEu添加Ta2O5にZnを添加したものを併記している。図15に示すように、Eu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体は、Eu添加Ta2O5にZnを添加したものと同様、460〜480nm(青色域)及び520〜540nm(緑色域)の他、380〜420nm及び290〜340nmの近紫外域でも励起可能であることを示している。
【0053】
図16は、励起波長が470nmのときのEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体及びEu添加Ta酸化物にZnを添加した蛍光体の、発光波長と発光強度との関係を表すグラフである。図16によれば、Eu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体の発光強度が強くなる波長範囲はTa酸化物蛍光体よりもやや赤色波長側にずれており、610〜620nmの波長範囲(特に616nm)での発光強度が特に強くなることがわかる。また、Eu添加La−Zn−Ti酸化物においては、625〜635nmの波長範囲に第2の発光ピーク(626nm付近)があることがわかる。このため、Eu添加Ta酸化物蛍光体よりもEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体の方が、より強い赤色発光を生じる。
【0054】
[Euの添加量変化による発光強度の変化]
La−Zn−Ti酸化物に対してEuの添加量を変化させ、各場合の発光強度を観察した。図17に、La−Zn−Ti酸化物に対するEuのモル比を0,0.10,0.25,0.70,1.50としたときの発光強度の観察結果を、図18に、La−Zn−Ti酸化物に対するEuのモル比を1.5,3.00,5.00,7.00としたときの発光強度の観察結果を示す。励起光波長はいずれも470nmである。図17及び図18に示す通り、Eu2O3を適切な割合で添加したとき、616nmにおいて鋭い赤色発光が見られることが確認され、特に、Euの添加モル比が0.25〜1.5のときに発光強度が大きく上昇することがわかる。また、Eu2O3の添加量の変化に対する第1発光ピークと第2発光ピークの発光強度の変化は異なることがわかる。
【0055】
La−Zn−Ti酸化物に対するEu2O3のモル比を0〜0.07の範囲で変化させた場合の616nmにおける発光強度のグラフを図19に示す。図19のグラフに示されているように、モル比が0.10〜0.25付近において616nmにおける発光強度は最大となる。Ta酸化物と同様に、La−Zn−Ti酸化物の場合もEuの割合が大きくなると発光強度が低下する傾向を示した。
【0056】
図20は、La−Zn−Ti酸化物に対するEu2O3のモル比を0〜5の範囲で変化させた場合の591nm+597nm、616nm、626nmにおける発光強度の変化のグラフを示す。「591nm+597nm」の発光強度とは、591nm及び597nmの各発光強度を積算したものを示している。図20から、波長が611nmのときに発光強度が最大となるEu濃度よりも、波長が626nmのときに発光強度が最大となるEu濃度の方が少し高いことが分かる。尚、Eu添加La−Zn−Ti酸化物の赤色領域全体の発光強度は、616nmの発光強度と626nmの発光強度を積算したものであることから、赤色領域全体の発光強度が最大となるEu濃度は、616nmの発光強度のピークと626nmの発光強度のピークの間の濃度になると思われる。
【0057】
[熱処理温度による発光強度の変化]
図21に、Eu添加La−Zn−Ti酸化物(酸化物の混合モル比でLa−Zn−Ti酸化物:Eu2O3=0.75:0.25)に対する熱処理温度と発光強度(励起波長は470nm、発光波長は611nm)の関係を示す。グラフにおいて示されている熱処理温度の最小値は1380℃、最大値は1450℃であるが、発明者は、1300℃以下、1600℃以上では有意な赤色発光が生じず、最適な焼結温度は1350〜1450℃であることを確認している。また、図21に示す実験結果から、熱処理温度が1430〜1440℃付近のときの発光強度が最も高くなることがわかる。
【0058】
[構造解析]
図22に、La−Zn−Ti酸化物のみの場合と、それにEu2O3をモル比で0.08〜5.0添加して1430℃で2hr加熱した場合のX線回折の結果を示す。これらの結果から、Eu濃度が増えるにつれてX線回折ピークが変化するものの、Euイオン周囲の局所的な構造はあまり変化していないと考えられる。但し、Euイオン周囲の構造の周期配列は乱れていると思われる。このことから、Euイオンの周囲は、カゴ状の構造を有するものと想定される。
【0059】
(実施例2)
次に、本願発明者が、La−Zn−Ti酸化物のLaの一部をYに置換した物質にEuを添加して成る蛍光体について行った各種の実験結果について説明する。尚、以下の説明では、La−Zn−Ti酸化物のLaの一部をYに置換した物質を「Y置換La−Zn−Ti酸化物」とも表現する。
Eu添加La−Zn−Ti酸化物のLaの一部をYに置換した蛍光体の製造方法、実験条件等は、上述のEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体とほぼ同じであるため、詳しい説明は省略する。
【0060】
[励起光波長及び発光波長]
図23に、Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物の励起波長(YLZT_Eu)及び発光波長(YLZT_Eu_Ex)と発光強度との関係を示す。Yに置換した割合は、La全体の0.7とした。励起波長は、616nmにおける発光強度を示しており、発光波長は470nmで励起したときの発光強度を示している。
【0061】
尚、図23には、参考のために、Eu添加Ta酸化物にZnSを添加した蛍光体の励起波長(Ta_Eu_ZnS)及び発光波長(Ta_Eu_ZnS_Ex)、及びEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長(LZT_Eu)及び発光波長(LZT_Eu_Ex)も重ねて表示した。
図23のグラフによれば、Laの一部をYに置換したLa−Zn−Ti酸化物系蛍光体は、他の二つと同様、460〜480nm(青色域)及び520〜540nm(緑色域)の他、380〜420nm(及び290〜340nm)の近紫外域で励起可能であることを示している。
【0062】
また、励起波長が470nmのときの発光波長についても、Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体は、Eu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体と同様に、Eu添加Ta酸化物にZnを添加した蛍光体よりもやや赤色波長側にずれており、610〜620nmの波長範囲(特に616nm)での発光強度が特に強くなることがわかる。また、Eu添加La−Zn−Ti酸化物と同様に、625〜635nmの波長範囲に第2の発光ピーク(626nm付近)があることがわかる。従って、Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体においても、より強い赤色発光を生じる。
【0063】
[Euの添加量変化による発光強度の変化]
La−Zn−Ti酸化物のLaの一部をYに置換したものに対してEu2O3の添加量を変化させ、各場合の発光強度を観察した。図24は、Y置換La−Zn−Ti酸化物に対するEuのモル比を0.20モル、0.25モル、0.30モル、0.70モルとしたときの発光強度の観察結果を示す。励起波長は470nmである。図24に示す通り、Eu2O3を適切な割合で添加したとき、616nmにおいて鋭い赤色発光が見られることが確認された。また、Eu2O3の添加量を増やすと、第1発光ピークの発光強度は低下するが、第2発光ピークの発光強度は上昇することがわかった(一応、このように記載しましたが、添加量が0.2モルのときと0.25モルのときを示す線が逆の場合には、訂正する必要があります)。また、Eu2O3を全く添加しない場合には殆ど赤色発光が生じないこともわかった。
【0064】
図25は、Y置換La−Zn−Ti酸化物に対するEu2O3のモル比を0〜7の範囲で変化させた場合の591nm+597nm、616nm、626nmにおける発光強度の変化のグラフを示す。「591nm+597nm」の発光強度とは、591nm及び597nmの各発光強度を積算したものを示している。図25から、波長が611nmのときに発光強度が最大となるEu濃度よりも、波長が626nmのときに発光強度が最大となるEu濃度の方が高いことが分かる。尚、Eu添加La−Zn−Ti酸化物の赤色領域全体の発光強度は、616nmの発光強度と626nmの発光強度を積算したものであることから、赤色領域全体の発光強度が最大となるEu濃度は、616nmの発光強度のピークと626nmの発光強度のピークの間の濃度になると思われる。
【0065】
[Y置換割合による発光強度の変化]
図26〜図30は、La−Zn−Ti酸化物のLaをYに置換させる割合を変化させた場合の発光強度の変化を示す。これらの図において用いる記号が示す各蛍光体の組成及び混合モル比は次の通りである。
LZT_Eu0.25(Eu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体)−−−La2O3:ZnS:TiO2:Eu2O3=1:1:1:0.25
Y0.3L0.7ZT_Eu0.25(Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体)−−−Y2O3:La2O3:ZnS:TiO2:Eu2O3=0.7:0.3:1:1:0.25
Y0.5L0.5ZT_Eu0.25(Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体)−−−Y2O3:La2O3:ZnS:TiO2:Eu2O3=0.5:0.5:1:1:0.25
Y0.6L0.4ZT_Eu0.25(Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体)−−−Y2O3:La2O3:ZnS:TiO2:Eu2O3=0.6:0.4:1:1:0.25
Y0.9L0.1ZT_Eu0.25(Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体)−−−Y2O3:La2O3:ZnS:TiO2:Eu2O3=0.9:0.1:1:1:0.25
図26は、励起波長を200〜600nmの範囲で連続的に変化させたときの616nmにおける発光強度の変化を調べた結果を示している。Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体は、いずれもEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体よりも発光強度が上昇し、この傾向はいずれの励起波長(380〜420nm(近紫外域)460〜480nm(青色域)、520〜540nm(緑色域))においても見られた。また、Yに置換する割合がLa全体の0.3のものに比べて0.5及び0.6のものの方が発光強度の上昇が大きいことがわかる。
【0066】
図27a、図27bは、それぞれ励起波長が395nmのときのEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体及びEu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の発光波長と発光強度との関係、592nm及び616nmにおける発光強度の変化を示す。
図28a及び図28bは、それぞれ励起波長が470nmのときのEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体及びEu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の発光波長と発光強度との関係、592nm及び616nmにおける発光強度の変化を示す。
図29a及び図29bは、それぞれ励起波長が535nmのときのEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体及びEu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の発光波長と発光強度との関係、592nm及び616nmにおける発光強度の変化を示す。
【0067】
図27〜29から、Laの一部をYに置換したものは(置換割合「0.3〜0.9」)いずれも置換していないもの(置換割合「0」)に比べて発光強度が上昇する傾向を示し、特に、616nmにおける発光強度が上昇する傾向が大きいことがわかる。また、LaをY置換した割合がLa全体の0.5〜0.8、特に0.5〜0.7のときに616nmにおける発光強度が大きく上昇することがわかる。
【0068】
[構造解析]
図30に、Y置換La−Zn−Ti酸化物のみの場合と、それにEu2O3をモル比で0.25添加して1430℃で2hr加熱した場合のX線回折の結果を示す。これらを比較すると、Euを添加した場合においてもY置換La−Zn−Ti酸化物の基本構造がほぼそのまま現れていることがわかる。このことから、Euは、Y置換La−Zn−Ti酸化物の基本構造の隙間に、イオンとして入り込んでいるのではないかと想定される。
【0069】
[Ta酸化物、La−Zn−Ti酸化物及びY置換La−Zn−Ti酸化物を主体とする蛍光体の比較]
Ta酸化物、La−Zn−Ti酸化物及びY置換La−Zn−Ti酸化物を主体とする各蛍光体について、励起波長と発光強度との関係、発光波長と発光強度との関係を比較する。比較に用いた各蛍光体の組成及び混合モル比は次の通りである。
Ta_Eu_13(Ta酸化物蛍光体)−−−Eu2O3:Ta2O5:Zns=1:3:2.5
Ta_Eu_19(Ta酸化物蛍光体)−−−Eu2O3:Ta2O5:Zns=1:9:2.5
LZT_Eu(Eu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体)−−−La2O3:ZnS:TiO2:Eu2O3=1:1:1:0.25、
Y07L03ZT(Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体)−−−Y2O3:La2O3:ZnS:TiO2:Eu2O3=0.7:0.3:1:1:0.25
【0070】
図31は、上述の各蛍光体の励起波長と発光強度との関係を併記して示す図である。図31に示すように、いずれの蛍光体も460〜480nm(青色域)、520〜540nm(緑色域)、380〜420nmの近紫外域で励起可能であることがわかる。
図32〜図34は、各蛍光体について、各励起波長における発光波長と発光強度との関係を併記して示す図である。いずれの励起波長においても、各蛍光体の発光波長と発光強度との関係は類似することがわかる。
これらの蛍光体の構造について現在も解明を進めている段階であり、詳しい考察はできないが、いずれの各蛍光体も、酸化物が発光源のEuを囲むかご状の構造を有しているのではないかと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る蛍光体は、赤色光源としてはもちろん、青色LED及び黄色蛍光体と組み合わせることにより白色LEDや任意色の光源を構成することができる。このような光源は、照明光源の他、液晶パネル(LCD)のバックライト等にも用いることができる。更に、本発明に係る赤色蛍光体は、紫外線によっても励起するため、紫外線励起照明装置や表示装置の蛍光体としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1a】本発明の第1の実施形態を示すものであり、Eu添加Ta2O5の励起光波長と発光強度の関係を示すグラフ。
【図1b】Eu添加Ta2O5の励起光波長と発光強度の関係を示すグラフ。
【図1c】Ta2O5の励起光波長と発光強度の関係を示すグラフ。
【図2】本発明に係る赤色蛍光体とEu添加Y2O3との発光強度の比較を表すグラフ。
【図3】本発明に係る赤色蛍光体及びEu添加Y2O3の、時間経過による発光強度の減衰を表すグラフ。
【図4】Ta2O5に対するEu2O3の添加濃度変化による発光強度の変化を示すグラフ。
【図5】発光波長611nmにおける発光強度のEuのモル濃度依存性を表すグラフ。
【図6】Eu添加Ta2O5と、Zn及びEu添加Ta2O5との発光強度の比較を表すグラフ。
【図7a】Znの添加割合と、611nmにおける発光強度との関係を示すグラフ。
【図7b】ZnO、ZnS添加の場合のZnの添加割合と、励起波長が325nmの場合の611nmにおける発光強度との関係を示すグラフ。
【図7c】ZnO、ZnS添加の場合のZnの添加割合と、励起波長が470nmの場合の611nmにおける発光強度との関係を示すグラフ。
【図8】複数の熱処理温度におけるZn及びEu添加Ta2O5の発光特性の関係を示すグラフ。
【図9】Zn及びEu添加Ta2O5の熱処理温度と発光強度の関係を表すグラフ。
【図10】励起波長325nmの紫外線により励起した場合のEu添加Ta2O5の発光特性を表すグラフ。
【図11】励起波長325nmの紫外線により励起した場合のTi及びEu添加Ta2O5の発光特性を表すグラフ。
【図12a】Ta2O5:Al2O3=1:1酸化物をベースとするEu添加赤色発光体の発光特性を表すグラフ。
【図12b】Ta2O5:Al2O3=2:3酸化物をベースとするEu添加赤色発光体の発光特性を表すグラフ。
【図12c】Ta2O5:Al2O3=3:2酸化物をベースとするEu添加赤色発光体の発光特性を表すグラフ。
【図12d】Ta2O5:Al2O3=3:5酸化物をベースとするEu添加赤色発光体の発光特性を表すグラフ。
【図13】焼結助剤を添加した場合の赤色発光体の発光特性を表すグラフ。
【図14】Ta2O5のみ、及びEu添加Ta2O5のX線回折の結果を表すグラフ。
【図15】本発明の第2の実施形態を示すものであり、Eu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起光波長と発光強度との関係を示すグラフ。
【図16】Eu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体の発光強度を示すグラフ。
【図17】La−Zn−Ti酸化物に対するEu添加濃度変化による発光強度の変化を示すグラフ。
【図18】La−Zn−Ti酸化物に対するEu添加濃度変化による発光強度の変化を示すグラフ。
【図19】La−Zn−Ti酸化物の発光強度のEu濃度依存性を表すグラフ。
【図20】La−Zn−Ti酸化物の各発光ピークにおける発光強度のEu濃度依存性を表すグラフ。
【図21】複数の熱処理温度におけるEu添加La−Zn−Ti酸化物蛍光体5の発光特性の関係を示すグラフ。
【図22】複数のEu添加濃度におけるLa−Zn−Ti酸化物蛍光体のX線回折の結果を表すグラフ
【図23】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長と発光強度との関係及び発光波長と発光強度との関係を併記して示すグラフ。
【図24】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体に対するEu添加濃度変化による発光強度の変化を示すグラフ。
【図25】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の発光強度のEu濃度依存性を表すグラフ。
【図26】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体におけるY置換割合の変化による励起波長と発光強度の関係の変化を表すグラフ。
【図27a】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長395nmにおけるY置換割合の変化による発光強度の変化を表すグラフ。
【図27b】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長395nmにおける発光強度のY置換割合依存性を表すグラフ。
【図28a】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長470nmにおけるY置換割合の変化による発光強度の変化を表すグラフ。
【図28b】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長470nmにおける発光強度のY置換割合依存性を表すグラフ。
【図29a】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長535nmにおけるY置換割合の変化による発光強度の変化を表すグラフ。
【図29b】Y置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体の励起波長535nmにおける発光強度のY置換割合依存性を表すグラフ。
【図30】Eu添加及びEu無添加のY置換La−Zn−Ti酸化物蛍光体のX線回折の結果を表すグラフ。
【図31】Eu添加Ta酸化物、Eu添加La−Zn−Ti酸化物、Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物における励起波長と発光強度との関係を比較して示すグラフ。
【図32】Eu添加Ta酸化物、Eu添加La−Zn−Ti酸化物、Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物の励起波長395nmにおける発光強度を比較して示すグラフ。
【図33】Eu添加Ta酸化物、Eu添加La−Zn−Ti酸化物、Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物の励起波長470nmにおける発光強度を比較して示すグラフ。
【図34】Eu添加Ta酸化物、Eu添加La−Zn−Ti酸化物、Eu添加Y置換La−Zn−Ti酸化物の励起波長530nmにおける発光強度を比較して示すグラフ。
【図35】本発明に係る蛍光体を用いた発光装置の一例である砲弾型LED発光装置の断面図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近紫外光から緑色の可視光により励起され、前記近紫外から緑色までの波長域に少なくとも2つの励起ピークを有する、発光源としての希土類元素を含有する蛍光体。
【請求項2】
450〜510nm及び500〜600nmの波長域にそれぞれ励起ピークを有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
とを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記希土類元素がEu,Er,Dy,Sm,Tb,Ce,Gd,Nd,Dy,Hoのいずれか又はそれらの2以上の組み合わせであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項5】
Ta酸化物を主体とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項6】
Ta:Euの原子数比が0.99:0.01〜0.60:0.40となるようEuを含有することを特徴とする請求項5に記載の蛍光体。
【請求項7】
Ta:Euの原子数比が0.95:0.05〜0.70:0.30となるようEuを含有することを特徴とする請求項5に記載の蛍光体。
【請求項8】
Ta:Eu:Znの原子数比が0.985:0.01:0.005〜0.45:0.40:0.15となるようZnを含有する請求項6又は7に記載の蛍光体。
【請求項9】
Mg、Gd、Sn、Ti、Tbのいずれか1つ又は複数を含有する請求項5ないし8のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項10】
(Ta・Al):Euの原子数比が0.99:0.01〜0.60:0.40となるようEu及びAl酸化物を含有することを特徴とする請求項5に記載の蛍光体。
【請求項11】
発光波長が608〜615nmであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項12】
焼結助剤としてNa塩又はK塩を含むことを特徴とする請求項1〜10いずれかに記載の蛍光体。
【請求項13】
焼結助剤の含有量が30〜60重量%であることを特徴とする請求項12に記載の蛍光体。
【請求項14】
Ta酸化物とEu酸化物を、Ta:Euの原子数比が0.99:0.01〜0.60:0.40となるように混合し、
該混合物を1200℃以上、Ta酸化物の溶融温度以下で加熱する工程を有することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項15】
上記Ta酸化物がTa2O5であり、Eu酸化物がEu2O3である、請求項14に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項16】
前記混合物に更にZn酸化物を、Ta:Eu:Znの原子数比が0.985:0.01:0.005〜0.45:0.40:0.15となるように加えることを特徴とする請求項14又は15に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項17】
前記混合物に更に、Mg、Gd、Sn、Ti、Tbのいずれかの酸化物又はそれらの酸化物の混合物を加えることを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
【請求項18】
前記混合物に、焼結助剤として30〜60重量%のNa塩又はK塩を添加することを特徴とする請求項14〜17のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
【請求項19】
La−Zn−Ti酸化物を主体とすることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項20】
La−Zn−Ti酸化物にEu酸化物が、La、Zn、Ti、Euの原子数比がLa:Zn:Ti:Eu=2:1:1:0.1〜2:1:1:16となるように混合されていることを特徴とする請求項18に記載の蛍光体。
【請求項21】
La−Zn−Ti酸化物にEu酸化物が、La、Zn、Ti、Euの原子数比がLa:Zn:Ti:Eu=2:1:1:0.5〜2:1:1:3となるように混合されていることを特徴とする請求項18に記載の蛍光体。
【請求項22】
発光波長が610〜620nm及び625〜635nmであることを特徴とする請求項1〜12及び18〜20のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項23】
La−Zn−Ti酸化物は、Laの一部がYで置換されていることを特徴とする請求項18に記載の蛍光体。
【請求項24】
Yに置換する割合はLa全体の0.3〜0.9であることを特徴とする請求項22に記載の蛍光体。
【請求項25】
Yに置換する割合はLa全体の0.4〜0.8であることを特徴とする請求項22に記載の蛍光体。
【請求項26】
Yに置換する割合はLa全体の0.5〜0.7であることを特徴とする請求項22に記載の蛍光体。
【請求項27】
励起発光源と、請求項2〜12及び18〜25のいずれかに記載の蛍光体を有する発光装置。
【請求項28】
励起発光源と蛍光体とを有する照明装置において、蛍光体として少なくとも請求項2〜12及び18〜25のいずれかに記載の蛍光体を、励起発光源として該蛍光体の励起波長域に発光波長を有する発光源を、それぞれ用いることを特徴とする照明装置。
【請求項29】
請求項2〜12及び18〜25のいずれかに記載の蛍光体であって、370〜420nm、460〜480nm、520〜540nmのうち少なくとも1つの波長域の光で励起する蛍光体を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項30】
請求項2〜12及び18〜25のいずれかに記載の蛍光体であって、発光波長が608〜615nmである蛍光体を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項31】
請求項2〜12及び18〜25のいずれかに記載の蛍光体であって、発光波長が610〜620nm及び625〜635nmである蛍光体を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項32】
請求項3〜12のいずれかに記載の蛍光体であって、発光ピークにおける半値幅が3nm以下である蛍光体を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項33】
La−Zn−Ti酸化物とEu酸化物を、La、Zn、Ti、Euの原子数比がLa:Zn:Ti:Eu=2:1:1:0.1〜2:1:1:16となるように混合し、
該混合物を1300℃以上、1600℃以下で加熱する工程を有する
ことを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項34】
La−Zn−Ti酸化物とEu酸化物を、La、Zn、Ti、Euの原子数比がLa:Zn:Ti:Eu=2:1:1:0.5〜2:1:1:3となるように混合し、
該混合物を1300℃以上、1600℃以下で加熱する工程を有する
ことを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項35】
上記La−Zn−Ti酸化物がLa2O3,ZnO,TiO2の混合物であり、Eu酸化物がEu2O3である、請求項33または33に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項1】
近紫外光から緑色の可視光により励起され、前記近紫外から緑色までの波長域に少なくとも2つの励起ピークを有する、発光源としての希土類元素を含有する蛍光体。
【請求項2】
450〜510nm及び500〜600nmの波長域にそれぞれ励起ピークを有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
とを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記希土類元素がEu,Er,Dy,Sm,Tb,Ce,Gd,Nd,Dy,Hoのいずれか又はそれらの2以上の組み合わせであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項5】
Ta酸化物を主体とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項6】
Ta:Euの原子数比が0.99:0.01〜0.60:0.40となるようEuを含有することを特徴とする請求項5に記載の蛍光体。
【請求項7】
Ta:Euの原子数比が0.95:0.05〜0.70:0.30となるようEuを含有することを特徴とする請求項5に記載の蛍光体。
【請求項8】
Ta:Eu:Znの原子数比が0.985:0.01:0.005〜0.45:0.40:0.15となるようZnを含有する請求項6又は7に記載の蛍光体。
【請求項9】
Mg、Gd、Sn、Ti、Tbのいずれか1つ又は複数を含有する請求項5ないし8のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項10】
(Ta・Al):Euの原子数比が0.99:0.01〜0.60:0.40となるようEu及びAl酸化物を含有することを特徴とする請求項5に記載の蛍光体。
【請求項11】
発光波長が608〜615nmであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項12】
焼結助剤としてNa塩又はK塩を含むことを特徴とする請求項1〜10いずれかに記載の蛍光体。
【請求項13】
焼結助剤の含有量が30〜60重量%であることを特徴とする請求項12に記載の蛍光体。
【請求項14】
Ta酸化物とEu酸化物を、Ta:Euの原子数比が0.99:0.01〜0.60:0.40となるように混合し、
該混合物を1200℃以上、Ta酸化物の溶融温度以下で加熱する工程を有することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項15】
上記Ta酸化物がTa2O5であり、Eu酸化物がEu2O3である、請求項14に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項16】
前記混合物に更にZn酸化物を、Ta:Eu:Znの原子数比が0.985:0.01:0.005〜0.45:0.40:0.15となるように加えることを特徴とする請求項14又は15に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項17】
前記混合物に更に、Mg、Gd、Sn、Ti、Tbのいずれかの酸化物又はそれらの酸化物の混合物を加えることを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
【請求項18】
前記混合物に、焼結助剤として30〜60重量%のNa塩又はK塩を添加することを特徴とする請求項14〜17のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
【請求項19】
La−Zn−Ti酸化物を主体とすることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項20】
La−Zn−Ti酸化物にEu酸化物が、La、Zn、Ti、Euの原子数比がLa:Zn:Ti:Eu=2:1:1:0.1〜2:1:1:16となるように混合されていることを特徴とする請求項18に記載の蛍光体。
【請求項21】
La−Zn−Ti酸化物にEu酸化物が、La、Zn、Ti、Euの原子数比がLa:Zn:Ti:Eu=2:1:1:0.5〜2:1:1:3となるように混合されていることを特徴とする請求項18に記載の蛍光体。
【請求項22】
発光波長が610〜620nm及び625〜635nmであることを特徴とする請求項1〜12及び18〜20のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項23】
La−Zn−Ti酸化物は、Laの一部がYで置換されていることを特徴とする請求項18に記載の蛍光体。
【請求項24】
Yに置換する割合はLa全体の0.3〜0.9であることを特徴とする請求項22に記載の蛍光体。
【請求項25】
Yに置換する割合はLa全体の0.4〜0.8であることを特徴とする請求項22に記載の蛍光体。
【請求項26】
Yに置換する割合はLa全体の0.5〜0.7であることを特徴とする請求項22に記載の蛍光体。
【請求項27】
励起発光源と、請求項2〜12及び18〜25のいずれかに記載の蛍光体を有する発光装置。
【請求項28】
励起発光源と蛍光体とを有する照明装置において、蛍光体として少なくとも請求項2〜12及び18〜25のいずれかに記載の蛍光体を、励起発光源として該蛍光体の励起波長域に発光波長を有する発光源を、それぞれ用いることを特徴とする照明装置。
【請求項29】
請求項2〜12及び18〜25のいずれかに記載の蛍光体であって、370〜420nm、460〜480nm、520〜540nmのうち少なくとも1つの波長域の光で励起する蛍光体を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項30】
請求項2〜12及び18〜25のいずれかに記載の蛍光体であって、発光波長が608〜615nmである蛍光体を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項31】
請求項2〜12及び18〜25のいずれかに記載の蛍光体であって、発光波長が610〜620nm及び625〜635nmである蛍光体を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項32】
請求項3〜12のいずれかに記載の蛍光体であって、発光ピークにおける半値幅が3nm以下である蛍光体を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項33】
La−Zn−Ti酸化物とEu酸化物を、La、Zn、Ti、Euの原子数比がLa:Zn:Ti:Eu=2:1:1:0.1〜2:1:1:16となるように混合し、
該混合物を1300℃以上、1600℃以下で加熱する工程を有する
ことを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項34】
La−Zn−Ti酸化物とEu酸化物を、La、Zn、Ti、Euの原子数比がLa:Zn:Ti:Eu=2:1:1:0.5〜2:1:1:3となるように混合し、
該混合物を1300℃以上、1600℃以下で加熱する工程を有する
ことを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項35】
上記La−Zn−Ti酸化物がLa2O3,ZnO,TiO2の混合物であり、Eu酸化物がEu2O3である、請求項33または33に記載の蛍光体の製造方法。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図12d】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27a】
【図27b】
【図28a】
【図28b】
【図29a】
【図29b】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図1b】
【図1c】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図12d】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27a】
【図27b】
【図28a】
【図28b】
【図29a】
【図29b】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【公開番号】特開2008−255311(P2008−255311A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117688(P2007−117688)
【出願日】平成19年3月31日(2007.3.31)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月31日(2007.3.31)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
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