説明

蛍光材料の製造方法

【課題】 発光強度を向上したシンチレータ用蛍光材料を得るための製造方法を提供する。
【解決手段】 Ceを発光元素とし、Gd、Ga、Al、Oを含有するガーネット構造の蛍光材料の製造方法であって、成形体の温度を上げる昇温工程と、前記成形体を1300〜1700℃の範囲内の温度で焼結する焼結工程と、焼結後に焼結体の温度を下げる降温工程とを有し、前記降温工程は、75〜300℃/hの降温速度で降温を開始するように制御する。前記降温工程は、75〜300℃/hである第1の降温速度で温度を下げ、降温の途中に、前記第1の降温速度よりも速い第2の降温速度に変えて温度を下げることがより望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線等の放射線を吸収し発光する蛍光材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線診断装置の一つにX線CT(Computed Tomography)がある。このCTは扇状のファンビームX線を照射するX線管と、多数のX線検出素子を併設したX線検出器とで構成される。該装置は、人体にX線を照射し、透過したX線を検出器であるシンチレータの発光によって検知し、光電子増倍管の出力を画像処理する装置である。
【0003】
従来からこのX線検出器としてはキセノン(Xe)ガス検出器が用いられてきている。このキセノンガス検出器はガスチャンバにキセノンガスを封入し、多数配列した電極間に電圧を印加すると共にX線を照射すると、X線がキセノンガスを電離し、X線の強度に応じた電流信号を取り出すことができ、それにより画像が構成される。しかし、このキセノンガス検出器では高圧のキセノンガスをガスチャンバに封入するため厚い窓が必要であり、そのためX線の利用効率が悪く感度が低いという問題があった。また、高解像度のCTを得るためには電極板の厚みを極力薄くする必要があり、そのように電極板を薄くすると外部からの振動によって電極板が振動しノイズが発生するという問題があった。
【0004】
一方、シンチレータとしてはCdWO単結晶、GdS:Pr,Ce,F、(Y,Gd):Eu,Pr、GdGa12:Cr,Ce等の多結晶蛍光体が用いられている。この様な蛍光体に要求される点としては、材料の均一性が高く、X線特性のバラツキが小さいこと、放射線劣化が小さいこと、環境変化に対して特性の変化が少ないこと、吸湿性・潮解性がなく、化学的に安定であることが求められている。
【0005】
こうしたX線検出器においては、X線の吸収に応じてシンチレータが発する光の強度(発光強度)が高いほど高感度となる。発光強度を大きくするためにはX線を充分に吸収する必要がある。また、この吸収が小さいと、シンチレータを透過するX線量が増加し、シリコンフォトダイオードのノイズ源となり、感度の低下の一因となる。シンチレータを透過するX線量を減らすためにはシンチレータを厚くする必要があるが、そうすると、検出素子の小型化ができないとともにコストが増加する。従って、薄い蛍光材料で充分なX線吸収をするためには、X線吸収係数が大きいことが必要である。また、蛍光材料中におけるこの光の透過率が低いと、発生した光のうちフォトダイオードまで届かなくなるものが増えるため、実質的に発光強度は低下する。従って、発光強度を高くするためには、シンチレータ材料となる蛍光材料には、(a)X線の吸収係数が大きいこと、(b)発光する光の透過率が高いことが要求される。
【0006】
また、X線CTには、解像度の向上、すなわち検出素子の小型化と、体動の影響を少なくするため走査時間の短縮が必要とされている。この場合、一つの検出素子における積分時間は短くなり、積分時間中に吸収するX線総量は低下することになるため、特に発光効率が高い(発光強度が大きい)ことが必要である。さらに、検出素子の時間分解能を上げるためには、X線照射停止後の発光(残光)が瞬時に小さくなることが必要となる。このためには、発光の減衰時定数及び残光強度が小さいことが必要である。ここで、発光の減衰時定数とは、X線照射を停止し、発光強度がX線照射中の発光強度の1/eになるまでの時間であり、残光強度とは、X線照射を停止し一定時間経過後の発光強度の、X線照射中の発光強度に対する比率を表す。減衰が完全に指数関数的であれば、減衰時定数が小さければ必然的に残光強度も低くなるが、実際には残光の減衰は指数関数的ではない。そのため、残光を小さくして高性能のX線CT装置を得るためには、減衰時定数および残光強度が共に小さい蛍光材料を用いることが必要となる。従来使用されている各種蛍光材料における、発光強度と減衰時定数及び30ms後の残光強度について表1に示す。
【0007】
【表1】

【0008】
発光強度、減衰時定数、残光強度はPIN型フォトダイオード(浜松ホトニクス社製:S2281)を用いて測定した。表1の発光強度はCdWO単結晶の発光強度を基準としたときの相対値である。
【0009】
特許文献1においては、焼結開始から昇温速度を一定速度に保つことによる、シンチレータFZ単結晶育成用の種結晶が開示されている。また、特許文献2においては、降温途中で再度一定時間キープすることによる、多結晶シンチレータ材料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2006/068130号
【特許文献2】特開2005−126718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
高性能X線CTにおいては、鮮明な画像を得るため体動の影響を少なくすることと、人体への被曝線量を極力抑えるため、走査時間はさらに短縮されつつある。この2点を実現するためには短い積分時間中にできるだけ発光効率を上げる(発光効率、発光強度が大きい)ことと、それに伴い時間分解能の向上が必要であり、時間分解能を上げるためにはX線照射停止後の発光が小さい(残光が小さい)ことが求められる。
【0012】
現在、発光強度については、従来使用されている材料よりさらに20%程度高発光の材料が求められている。そこで、本発明はこの問題に鑑みてなされたものであり、目的は発光強度を向上させたシンチレータ用の蛍光材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の蛍光材料の製造方法は、Ceを発光元素とし、Gd、Ga、Al、Oを含有するガーネット構造の蛍光材料の製造方法であって、
成形体の温度を上げる昇温工程と、前記成形体を1300〜1700℃の範囲内の温度で焼結する焼結工程と、焼結後に焼結体の温度を下げる降温工程とを有し、
前記降温工程は、75〜300℃/hの降温速度で降温を開始するように制御することを特徴とする。前記焼結工程は1300〜1700℃の範囲内の所定の温度で維持して行われることが望ましい。
【0014】
このガーネット構造の蛍光材料はシンチレータ用であることが望ましい。成形体は、例えば、成形体を加圧処理したもの、或いは焼結が十分には進行していない段階のもの(焼結完了していないもの)を含む。
【0015】
前記降温工程は、75〜300℃/hである第1の降温速度で温度を下げ、降温の途中に、前記第1の降温速度よりも速い第2の降温速度に変えて温度を下げ、前記第1の降温速度による降温は前記焼結工程に続けて行い、前記第2の降温速度による降温は前記第1の降温速度による降温に続けて行うことが望ましい。第2の降温速度は、例えば400〜500℃/hが望ましい。第1の降温速度を第2の降温速度に切替える変換点(降温パターンの屈曲点)は、温度でいうと、1500℃〜室温の範囲内であればよく、より好ましい範囲はGaの蒸気圧がほぼ0Paになる1400〜1000℃であることが望ましい。また、変換点において数時間キープしてもよい。焼結工程の温度は、1300℃から1700℃の範囲内であることが望ましい。
【0016】
前記昇温工程において、昇温速度を150〜450℃/hに制御することが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、シンチレータ用蛍光材料の発光強度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明及び比較例における各焼結パターンの図である。
【図2】本発明に係わる放射線検出器の構造の一例を示す図である。
【図3】図2においてA−A断面の断面図である。
【図4】実施例1における焼結体の組織写真である。
【図5】図4の組織の特徴を模写した模式図である。
【図6】比較例1における焼結体の組織写真である。
【図7】図6の組織の特徴を模写した模式図である。
【図8】実施例と比較例を比べた表である。
【図9】降温速度と、焼結体密度及び発光強度との関係を示すグラフである。
【図10】降温速度と拡散透過率の関係を示すグラフである。
【図11】温度と蒸気圧の関係を示すグラフである。
【図12】昇温速度と、焼結体密度及び発光強度との関係を示すグラフである。
【図13】昇温速度と拡散透過率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者は、上記した課題を解決するため、焼結プロセス中の少なくとも降温パターンを制御することで発光強度が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
シンチレータの発光強度には材料の密度が大きく影響し、多結晶の場合、いかにボイド(空隙)を少なくするかが重要である。多結晶シンチレータの焼結プロセス中で緻密化を促進させる段階は主に焼結キープ中であるが、昇温段階および降温段階も緻密化に大きく影響する。本発明の要旨は、Ceを発光元素とし、少なくともGd、Al、GaおよびOを含んだガーネット構造の蛍光材料を製造する際に、少なくとも降温パターンを制御することを特徴とする蛍光材料の製造方法である。
【0021】
セラミックスの緻密化には、原料粉の粒径、成形体密度および焼結条件が影響を及ぼしている。この中でも焼結プロセスでの緻密化は、通常、焼結温度を一定に維持している状態(以下、焼結キープと記す)に支配されることが多い。焼結温度まで温度を上昇させる昇温の速度、また焼結キープが終了してから温度を低下させていく降温の速度は時間効率を優先させる場合が多く、緻密化のための特別な制御を施したパターンは無い。
【0022】
一方、蛍光体の特性の中で、発光強度はミクロな観点ではバンドギャップ、不純物準位および欠陥準位などがあるが、マクロな点では材料そのものの密度に起因する場合が多い。即ちボイド(空隙)の少ない緻密な材料であることが高発光強度蛍光体には求められる。
【0023】
セラミックス蛍光体のプロセスは一般的なセラミックス合成方法に準ずるが、当該蛍光体の大きな特徴は昇降温のパターンを制御し残存するボイド空間を低減していることである。
【0024】
本発明の製造方法に係る蛍光材料は、Ceを発光元素とし、少なくともGd、Al、Ga、O、Fe、Si及びREを含み、REがPr,Dy及びErのうち少なくとも1種類であり、MがMg、Ti、Niのうち少なくとも1種類であり、下記一般式で表されることを特徴とする蛍光材料である。
(Gd1−x−y−zLuRECe3+a(Al1−u−sGaSc5−a12
ここで、
0≦a≦0.15、
0≦x≦0.5、
0<y≦0.003、
0.0003≦z≦0.0167、
0.2≦u≦0.6
0≦s≦0.1
であり、単位質量が100mass%であり、
Fe、Si、Mの含有率(massppm)は、
0.05≦Fe含有率≦1、
0.5≦Si含有率≦10、
0≦M含有率≦50
であることが望ましい。
【0025】
前記aのより好ましい範囲として0.005≦a≦0.05である。
前記xのより好ましい範囲として0.03≦x≦0.2である。
前記yのより好ましい範囲として0.0001≦y≦0.0015である。
本発明の蛍光材料において、前記zのより好ましい範囲として0.001≦z≦0.005である。
前記uのより好ましい範囲として0.35≦u≦0.55である。
前記sのより好ましい範囲として0.01≦s≦0.1である。
前記Feのより好ましい含有率(massppm)が0.05≦Fe含有率≦0.4の範囲にあることを特徴とする。
前記Siのより好ましい含有率(massppm)が0.5≦Si含有率≦5の範囲にあることを特徴とする。
前記Mのより好ましい含有率(massppm)が3≦M含有率≦15の範囲にあることを特徴とする。
【0026】
本発明の製造方法に係る蛍光材料は、Ceを発光元素とし、Gd、Ga、Al,O、Fe、Si及びREがPr,Dy及びErのうち少なくとも1種類以上を含有するガーネット構造のシンチレータ用の蛍光材料であって、各元素を以下の範囲で含有し、各元素の総和を100mass%とすることを特徴とする。ここで、MはMg、Ti、Niのうちの少なくとも1種類以上の元素である。
24.3≦Gd含有率(mass%)≦57.6、
0≦Lu含有率(mass%)≦31.1、
0.02≦Ce含有率(mass%)≦0.7、
0<RE含有率(mass%)≦0.12、
4.0≦Al含有率(mass%)≦12.8、
7.5≦Ga含有率(mass%)≦22.6、
0≦Sc含有率(mass%)≦2.64、
19.6≦O含有率(mass%)≦22.8、
0.05≦Fe含有率(massppm)≦1、
0.5≦Si含有率(massppm)≦10、
0≦M含有率(massppm)≦50である。
【0027】
より好ましい組成範囲は、
45.9≦Gd含有率(mass%)≦52.8、
1.7≦Lu含有率(mass%)≦12.0、
0.06≦Ce含有率(mass%)≦0.24、
0.006≦RE含有率(mass%)≦0.07、
7.0≦Al含有率(mass%)≦10.0、
13.7≦Ga含有率(mass%)≦20.6、
0.05≦Sc含有率(mass%)≦0.5、
20.7≦O含有率(mass%)≦21.9、
0.05≦Fe含有率(massppm)≦0.4、
0.5≦Si含有率(massppm)≦5、
3≦M含有率(massppm)≦15である。
前記蛍光材料は、多結晶であることを特徴とする。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
Gdを117.63g、Luを4.45g、Ce(NO)・9HOを0.777g、Scを0.925g、Alを32.35g、Gaを43.87g計量した。これらの素原料をφ5mmアルミナボールを充填した容器内に投入し、12h混合後乾燥した。乾燥粉に1wt%の純水を添加し500kg/cmで1軸加圧成形した後、3000kg/cmで冷間静水圧加圧(CIP)を行った。その成形体をO雰囲気中、1350℃まで300℃/h、1350℃から1675℃まで150℃/hで昇温し、1675℃で12hキープし、キープ終了後1000℃まで150℃/hで降温し、1000℃以下は炉冷で室温まで冷却した。炉冷に移行した直後の降温速度は500℃/hであった。得られた焼結体を面積=10mm×10mm、厚さt=2mmに機械加工後、鏡面研磨を施し、多結晶シンチレータを作製した。
【0029】
得られたシンチレータを図2、3の放射線検出器を用いて評価した。放射線検出器は、1.2mmピッチで24個配列した上記スライスしたシンチレータ2と、配列した上記スライスしたシンチレータ2の上面と側面にTiOとエポキシ樹脂の混合材を塗布し硬化させてなる光反射膜3と、シンチレータ2の配列に対応し大きさが1mm×30mmでピッチが1.2mmで配列されるとともにシンチレータ2と受光面が正確に一致するよう位置決めした受光部を有しシンチレータ2とエポキシ樹脂で固定した24チャンネルシリコンフォトダイオード5と、24チャンネルシリコンフォトダイオード5が電気的に接続される配線基板4で構成される。かかる放射線検出器によれば、X線1の照射によりシンチレータ2が励起され発光し、その光をフォトダイオード5で検出することにより、シンチレータの特性を確認することができる。
【0030】
(実施例2)
上記組成の成形体を、O雰囲気中、1350℃まで300℃/h、1350℃から1675℃まで150℃/hで昇温し、1675℃で12hキープし、キープ終了後は300℃/hで室温まで冷却した。その後の工程は実施例1と同様の方法で、多結晶の蛍光材料を試料として作製した。
【0031】
(実施例3)
上記組成の成形体を、O雰囲気中、1350℃まで300℃/h、1350℃から1675℃まで150℃/hで昇温し、1675℃で12hキープし、キープ終了後1000℃まで150℃/hで降温し、1000℃で24hキープし、キープ終了後は炉冷で室温まで冷却した。その後の工程は実施例1と同様の方法で、多結晶の蛍光材料を試料として作製した。
【0032】
実施例1の多結晶シンチレータの組織写真を図4に示す。組織写真はレーザー顕微鏡で焼結体試料の断面を観察・撮影することで得た。粒界におけるボイドの生成はほとんど抑制されている。図4の下方の余白には“50μm”を示す寸法線を表示した。図5は、図4の写真の組織の特徴を模写しており、白い部分が結晶粒、黒い部分がボイドである。ボイドは結晶粒より光の反射が少ないので模式図では濃く表示したが、色が黒い訳ではない。結晶粒11同士の間はほぼ粒界13となっており、微小な粒界ボイド12は少なくかなり抑制されている。図5中の右下の線分の長さは、図4中の右下の線分の長さに対応しており、同じものである。
【0033】
(比較例1)
上記組成の成形体を、O雰囲気中、1350℃まで300℃/h、1350℃から1675℃まで150℃/hで昇温し、1675℃で12hキープし、キープ終了後は炉冷で室温まで冷却した。その後の工程は実施例1と同様の方法で、多結晶の蛍光材料を試料として作製した。炉冷とは、焼成炉への加熱用エネルギーの供給を止めて、自然に冷却させることを指す。
【0034】
比較例1の多結晶シンチレータの組織写真を図6に示す。粒界に寸法の大きいボイドが多数生成していることがわかる。粒内における特に濃い白い部分は、粒内ボイド或いは粒を透過して見える内部の粒界ボイドと考えられる。図6の下方の余白には“50μm”を示す寸法線を表示した。図7は、図6の写真の組織の特徴を模写しており、結晶粒21同士の間には、粒界13の他に、大きな粒界ボイド22が多数形成されている。符号24は結晶粒の内部に生成した粒内ボイドと考えられる(模式図では小さい円状部分(点線で表示)に相当する)。図7中の右下の線分の長さは、図6中の右下の線分の長さに対応しており、同じものである。
【0035】
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1について、各々の試料で測定した。図1に各焼結パターンの図を示す。図1に記載した番号とパターンの対応は、実施例1:α、実施例2:β、実施例3:γ、比較例1:δ(従来行っている焼結パターン)である。焼結体密度、拡散透過率、発光強度を図8に示す。焼結体密度は、試料の焼結体の重量及び寸法から求めた。拡散透過率は、積分球を取りつけた分光光度計(日本分光製:V−570)を用い、測定光として550nmの光を試料に照射することにより、測定した。発光強度は、各々の試料をシンチレータとした放射線検出器(図2、3と同様)を作製し、X線源としてタングステンターゲットのX線管を用い、管電圧120kV、管電流5mAの条件でX線を前記放射線検出器のシンチレータに照射し、シリコンフォトダイオードの出力を得ることにより、評価した。降温変換点から室温まで冷却されるまでの時間が、実施例1、実施例2、実施例3の順に長くなるため、生産性を考慮すると変換点からの冷却時間は短い方が望ましい。
【0036】
降温速度と焼結体密度および発光強度の関係を図9に、拡散透過率の関係を図10に示す。また、Gd、AlおよびGaの温度と蒸気圧の関係を図11に示す。焼結保持時はGaの蒸発によるボイド生成とボイド拡散・消滅が平衡状態にあるが、降温過程ではその速度により両者に差が生じる。降温速度が速い場合は冷却も急速に進むため、Ga蒸発によるボイド生成は抑制されるが、ボイド拡散・消滅が完全に行われる前に室温まで冷却され、ボイドが焼結体内に残存し密度が低下する。残存したボイドによる光散乱のため発光強度が低下する。一方、降温速度が遅い場合は冷却も緩やかに進むため、Ga蒸発によるボイド生成は一定温度まで継続されるが、ボイド拡散・消滅が完全に行われる程度に緩やかに室温まで冷却されるため、焼結体内に残存するボイド数は降温速度が速い場合に比べ少なくなる。その結果、ボイドによる光散乱も降温速度が速い場合に比べ少なくなるため、発光強度は増加すると考えられる。
【0037】
昇温速度と焼結体密度および発光強度の関係を図12に、拡散透過率の関係を図13に示す。焼結体の密度は原料粉の粒径に大きく依存し、また焼結反応の順序はより小さい粒径の粒子から反応するため、原料粉の粒径が均一に近いほど、より緻密な焼結体が得られる。原料粉の粒径が疎らでは、小さい粒径の粒子の凝集体から反応が始まり、次いで粒径の大きな粒子へと反応が進んでいく。このように反応開始時間に差が生じると、凝集体間に空隙が生じそれがボイドとなり密度を低下させる。よって昇温速度を速くすることで反応開始時間の差を少なくし、空隙の生成が抑制され高密度な焼結体が得られると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、X線等の放射線を吸収し、発光する蛍光材料の製造に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0039】
1 X線
2 シンチレータ
3 光反射膜
4 配線基板
5 フォトダイオード
11 結晶粒
12 粒界ボイド
13 粒界
21 結晶粒
22 粒界ボイド
23 粒界
24 ボイド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ceを発光元素とし、Gd、Ga、Al、Oを含有するガーネット構造のシンチレータ用の蛍光材料の製造方法であって、
成形体の温度を上げる昇温工程と、前記成形体を1300〜1700℃の範囲内の温度で焼結する焼結工程と、焼結後に焼結体の温度を下げる降温工程とを有し、
前記降温工程は、75〜300℃/hの降温速度で降温を開始するように制御することを特徴とする蛍光材料の製造方法。
【請求項2】
前記降温工程は、75〜300℃/hである第1の降温速度で温度を下げ、降温の途中に、前記第1の降温速度よりも速い第2の降温速度に変えて温度を下げることを特徴とする請求項1に記載の蛍光材料の製造方法。
【請求項3】
前記第1の降温速度から前記第2の降温速度への変換は、1000〜1400℃の範囲内で行われることを特徴とする請求項2に記載の蛍光材料の製造方法。
【請求項4】
前記昇温工程において、昇温速度を150〜450℃/hに制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光材料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−207937(P2011−207937A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74622(P2010−74622)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】