説明

蛍光測定装置、複合光学素子、及び試料収容容器

【課題】複数の試料から発生する蛍光を同時に測定することができる蛍光測定装置と、これに用いる複合光学素子及び試料の収容容器を提供する。
【解決手段】蛍光測定装置10は、励起光光源11、励起光分岐プリズム12、集光容器13、受光部16を備える。励起光光源11は、平行光の励起光ELを励起光分岐プリズム12に入射させる。励起光分岐プリズム12は、集光容器13に正対して配置され、励起光ELを凹部61の配列に応じた本数及び位置に分岐させて出射する。集光容器13は、励起光ELの照射により蛍光FLを発生する試料を収容する凹部61を複数有し、凹部61の内面は反射面であるとともに、励起光ELを試料に集光する形状となっている。受光部16は、試料から発生した蛍光FLを受光して光電変換することにより、各々の試料から発生した蛍光FLの光量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起光を照射することにより試料から発せられる蛍光を測定する蛍光測定装置と、これに用いる複合光学素子及び試料を収容する容器に関し、さらに詳しくは、複数の試料から発生する蛍光を測定する蛍光測定装置、これに用いる複合光学素子及び複数の試料を収容する容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムのような長大なDNA分子の中から、特定のDNA断片を選択的に増幅させる手法として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いた手法(以下、PCR法という)が知られている。周知のように、PCR法は、増幅対象(以下、テンプレートという)を含む二本鎖DNAと、テンプレートに相補的なオリゴヌクレオチド(以下、プライマーという)と、テンプレートに結合したプライマーを起点としてDNA鎖の合成を促すDNAポリメラーゼとを含む試料溶液(以下、単に試料という)を加熱/冷却するサイクルを繰り返すことにより、加熱による二本鎖DNAから一本鎖DNAへの変性と、冷却時のDNA鎖長に応じた再結合性の相違とを利用してテンプレートを増幅する手法である。
【0003】
また、近年では単にテンプレートを増幅させるだけでなく、増幅前のテンプレートの総量やPCR産物の総量を定量的に評価することができるように改良されたPCR法(以下、定量PCR法という)が知られている。定量PCR法の具体的な手法としては、例えば、アガロースゲル電気泳動法、SYBRグリーン法、蛍光プローブ法が知られている。アガロースゲル電気泳動法は、アガロースゲル電気泳動によってPCR産物を分離し、これを同条件で増幅した既知試料と比較することにより未知試料を定量する。また、SYBRグリーン法は、二本鎖DNAに結合するDNA結合色素(SYBRグリーン)を加えてPCRを行うと同時に、DNA結合色素から発せられる蛍光をリアルタイムに測定し、これとDNA結合色素を含まない標準試料と比較することで二本鎖DNA濃度を定量する。蛍光プローブ法は、テンプレートの両端に相補的に結合するプライマーに加えて、テンプレート内に相補的に結合する蛍光プローブを用いる。このとき蛍光プローブとしては、テンプレートに特異的に結合するものを選ぶことで、テンプレートの総量やPCR産物の総量を正確に定量することができる。
【0004】
定量PCR法によってテンプレートを増幅させる装置の中でも、蛍光を測定して未知試料を定量する蛍光測定装置には、試料を加熱/冷却する恒温槽と、DNA結合色素や蛍光プローブを励起して蛍光を発生させる励起光を照射する光源や光学系、発生した蛍光を集光する光学系や受光素子等が備えられている。また、こうした蛍光測定装置では、通常、試料に照射する励起光の光量と比較して、試料から発せられる蛍光の光量は極めて小さいため、蛍光を効率良く発生させたり、発生した蛍光を効率良く受光する等の目的で様々な工夫がなされる。
【0005】
例えば、試料を入れる容器の周囲に半球状や放物面状のリフレクタを設け、このリフレクタによって試料から発生した蛍光を受光素子に効率良く導くようにした蛍光測定装置が知られている(特許文献1,2)。また、従来、円筒状に形成されていた容器を椀型に形成し、さらに蓋の形状を容器内に膨出したレンズ形状とすることによって、試料の凝集を防ぎ、励起光の照射効率及び蛍光の発生効率を向上させた試料容器が知られている(特許文献3)。さらに、従来は、励起光を照射する光軸と蛍光の受光する光軸とが略垂直になるように構成されていたところ、近年では、バンドルファイバを用いることによって、一つのプローブで、ほぼ同一の光路で励起光の照射と蛍光の受光とを両立するとともに、複数種類の波長帯の蛍光を測定可能にした蛍光測定装置も知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−19779号公報
【特許文献2】特開2008−180567号公報
【特許文献3】特開2006−214986号公報
【特許文献4】特開2009−19961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のような蛍光測定装置は、通常、一つの試料に対して励起光を照射して蛍光を測定する。このとき、蛍光を受光素子に導く受光プローブや受光光学系と試料との相対的な位置や向き、特に、受光プローブや受光光学系と試料との距離によって、受光プローブや受光光学系に入射し、受光素子に到達する蛍光の光量が変化する。したがって、PCR産物の総量等を正確に定量するためには、試料に対して受光プローブや受光光学系を正確に位置決めしたり、試料に対する位置や向き、距離に応じて受光量を校正する必要がある。さらに、前述のように試料の周囲にリフレクタを設ける場合や、レンズ等の集光光学系を用いる場合には、受光プローブや受光光学系の位置決め精度が蛍光の受光量に及ぼす影響が顕著である。こうしたことから、従来の蛍光測定装置では、新しい試料を用いる度に、あるいは複数の試料を収容した容器を用いる場合には各試料に合わせて受光プローブや受光光学系を移動させる度に、これらの位置決めするという煩雑な作業を繰り返す必要があった。
【0008】
また、前述のように、蛍光測定装置は、一つの試料に対して励起光を照射し、その蛍光を測定するが、これを複数同時に行うことは難しい。例えば、複数の試料を配列して収容する試料容器を用い、かつ、各々の試料に個別の受光プローブや受光光学系を設ければ、同時に各試料からの蛍光を測定することができる。しかし、こうして単に複数の試料を配列する場合、受光プローブや受光光学系には対応する試料からの蛍光だけでなく、周辺に配列された他の試料からの蛍光も迷光として入射してしまう。このため、こうした方法で蛍光を測定し、各試料中のPCR産物の総量等を定量したとしても、その正確性に問題が生じる。
【0009】
また、こうして複数の試料を配列する場合、配列のスペース等を考慮すれば、特許文献1,2等に記載されているように、各々の試料についてリフレクタを設けることは難しい。このため、複数の試料を配列してこれらから発生する蛍光を測定する場合には、前述のように迷光によって蛍光の測定精度が悪化するだけでなく、蛍光の受光量自体にも問題がある。
【0010】
本発明は上述の問題点を鑑みてなされたものであり、複数の試料から発生する蛍光を同時に測定するとともに、迷光が少なく、発生した蛍光を効率良く受光することができ、また試料と受光光学系の位置合わせ精度にほとんど影響されずに、PCR産物の総量等を正確に定量することができる蛍光測定装置を提供することを目的とする。また、これに用いる複合光学素子及び複数の試料を収容する容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の蛍光測定装置は、励起光が照射されることにより蛍光を発生する試料が収容される凹部を複数有し、前記凹部の内面が前記励起光及び前記蛍光を反射するとともに、前記励起光が平行光の場合に、入射した前記励起光を前記試料に集光する内面形状に形成された試料収容手段と、前記励起光を発生させ、前記励起光を平行光に整えて出射する励起光光源と、前記試料収容手段に正対して配置され、前記励起光光源から平行光に整えられた前記励起光が入射され、前記励起光を前記凹部の配列に応じて分岐させ、前記凹部にそれぞれ入射させる励起光分岐手段と、前記励起光分岐手段を介して前記試料収容手段に正対して配置され、前記試料から発生した蛍光を受光して光電変換することにより、各々の前記試料から発生した蛍光の光量を測定する受光手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
前記凹部の内面は放物面であり、前記励起光分岐手段から入射される平行光の前記励起光を前記放物面の焦点に集光させるとともに、前記焦点にある前記試料から発せられた前記蛍光が平行光に整えて前記凹部から出射させることが好ましい。
【0013】
前記励起光分岐手段は、前記蛍光を透過し、前記励起光の少なくとも一部を反射する半透膜を介して、複数のプリズムを接合して形成されることが好ましい。
【0014】
前記励起光分岐手段は、前記励起光光源から入射する前記励起光を前記励起光分岐手段の中で複数に分岐させる第1分岐手段と、前記第1分岐手段から入射する複数の前記励起光を前記凹部の配列に応じてさらに分岐させて前記試料収容手段側に出射する第2分岐手段とからなることが好ましい。
【0015】
前記励起光分岐手段は、複数の前記凹部に各々等しい光量の前記励起光を入射させることが好ましい。
【0016】
前記試料収容手段に前記励起光を照射したときに、前記試料収容手段によって反射されることにより前記受光手段に入射する前記励起光をカットする励起光カット手段が、前記励起光分岐手段と前記受光手段との間に設けられることが好ましい。
【0017】
前記受光手段は、前記凹部に一対一に対応するように配列されたフォトダイオードからなることが好ましい。
【0018】
前記試料収容手段は、前記凹部に収容した複数の前記試料の温度を一様に調節する温度調節手段内に配置され、前記試料は、二本鎖DNAと、前記励起光が照射されることによって前記二本鎖DNAの総数に応じた蛍光を発生させる蛍光発生手段とを含み、前記温度調節手段によって前記試料の温度を変化させることによって前記二本鎖DNAの少なくとも一部配列を増幅させることが好ましい。
【0019】
本発明の試料収容容器は、励起光が照射されることにより蛍光を発生する試料が収容される凹部を複数有し、前記凹部の内面が前記励起光及び前記蛍光を反射するとともに、前記励起光が平行光の場合に、入射した前記励起光を前記試料に集光させることを特徴とする。
【0020】
前記凹部の内面は放物面であり、前記励起光分岐手段から照射される平行光の前記励起光を前記放物面の焦点に集光させるとともに、前記焦点にある前記試料から発せられた前記蛍光を平行光に整えて前記凹部から出射させることが好ましい。
【0021】
前記凹部の内面は、反射膜がコーティングされて反射面が形成されることが好ましい。
【0022】
本発明の複合光学素子は、蛍光物質から蛍光を発生させる励起光が入射され、前記励起光の少なくとも一部を反射する半透膜を介して、各々の接合面が平行になるように複数のプリズムを接合して形成され、前記半透膜によって前記励起光を複数平行に分岐させて第2分岐手段に入射させる第1分岐手段と、前記第1分岐手段から複数の平行な励起光が入射され、前記励起光の少なくとも一部を反射し、かつ、前記蛍光を透過する半透膜を介して、各々の接合面が平行になるように複数のプリズムを接合して形成され、前記半透膜によって前記励起光を複数平行に分岐させて前記蛍光物質に入射させるとともに、前記蛍光物質から発生した前記蛍光を透過させる第2分岐手段と、を備えることを特徴とする。
【0023】
また、前記第1分岐手段に設けられた複数の前記半透膜は、前記第2分岐手段に入射させる前記励起光の光量が等しくなるように前記励起光に対する反射率及び透過率が定められ、前記励起光の入射光軸に沿って当該反射率が高くなる順に配置されるとともに、前記第2分岐手段に設けられた複数の前記半透膜は、出射する前記励起光の光量が等しくなるように前記励起光に対する反射率及び透過率が定められ、前記第1分岐手段から入射する前記励起光の入射光軸に沿って当該反射率が高くなる順に配置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、複数の試料から発生する蛍光を各々峻別して同時に測定することができるとともに、各試料で発生した蛍光を効率良く受光することができる。また、受光光学系と試料との位置合わせ精度にほとんど影響されずに、各試料のPCR産物の総量等を正確に定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】蛍光測定装置の概略を示すブロック図である。
【図2】受光部、励起光分岐プリズム、及び集光容器の構成を示す図である。
【図3】励起光分岐プリズムの第1分岐部と励起光光源の構成とその作用を示す説明図である。
【図4】励起光分岐プリズムの第2分岐部の構成とその作用を示す説明図である。
【図5】集光容器の各凹部に励起光を照射した時の作用を示す説明図である。
【図6】試料から蛍光が出射する場合の凹部の作用を示す説明図である。
【図7】励起光カットフィルタを設けた例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に示すように、蛍光測定装置10は、励起光ELを照射することによって試料から発せられる蛍光FLを受光し、その光量を測定する装置であり、励起光光源11、励起光分岐プリズム12(励起光分岐手段)、集光容器13(試料収容容器,試料収容手段)、恒温槽14(温度調節手段)、受光部16(受光手段)等から構成される。また、蛍光測定装置10は、試料を加熱/冷却するサイクルを繰り返すことにより、二本鎖DNAの所定部分をテンプレートとして選択的に増幅するいわゆるPCR装置である。このため、蛍光測定装置10では、テンプレートを含む二本鎖DNA、テンプレートの両端に相補的に結合するプライマー、DNAの合成素材であるデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)、プライマーを起点としてDNAの合成を促すDNAポリメラーゼに加え、例えば、PCRの過程でテンプレート内に結合する蛍光プローブを含む溶液を試料とし、この試料を加熱/冷却するサイクルを繰り返すことにより試料から発せられる蛍光を測定する。
【0027】
励起光光源11は、励起光ELを発生する光源装置であり、レーザーダイオード(以下、LDという)とコリメートレンズとからなる。LDは、試料に用いる蛍光プローブの特性に応じて、蛍光プローブを励起して蛍光を発生させ得る波長の光を発光する。LDは、例えば、波長470nmの青色光を発し、この青色光を照射されることによって蛍光プローブから波長560nmの緑色の蛍光を発する。また、コリメートレンズは、LDで発生した光を平行光に整える。このため、励起光分岐プリズム12には、平行光に整えられた青色光が励起光ELとして入射する。
【0028】
励起光分岐プリズム12は、集光容器13に正対する位置に配置され、後述するように側面方向から入射される励起光ELを、集光容器13が収容する複数の試料に分配して照射する。また、このとき励起光ELは、励起光分岐プリズム12への入射時と同様に、平行光に保たれたまま、集光容器13に照射される。こうして励起光ELが各試料に分配して照射されることにより、各試料からは、各試料が含むテンプレート数に応じた蛍光FLが発生する。こうして各試料から発生した蛍光FLは、励起光分岐プリズム12を通って受光部16に入射する。
【0029】
集光容器13は、蛍光測定装置10で用いる試料を入れる容器であり、複数の試料を同時に収容することができるようになっている。こうした複数の試料を収容するスペース(図4参照。凹部61)は、集光容器13に対してほぼ垂直に入射する平行光を凹部61内の極狭い領域に集光させる形状の凹面鏡となっている。したがって、励起光分岐プリズム12から複数に分岐して入射される平行光の励起光ELは、それぞれの試料に集光される。また、励起光ELが照射されることによって試料から発生する蛍光FLは、励起光ELとは逆の光路で、凹部61によって反射されることにより概ね平行光として集光容器13を出射し、励起光分岐プリズム12に入射する。そして、励起光分岐プリズム12を通過して、受光部16に到達する。なお、集光容器13は、試料を収容した状態で恒温槽14内に配置される。
【0030】
恒温槽14は、配置された集光容器13の全体を一様な温度に調節する装置である。したがって、集光容器13に収容された複数の試料は、温度環境は全て等しい。恒温槽14は、こうした温度調節を、内蔵するヒーター及びクーラー(いずれも図示しない)によって行う。また、恒温槽14は、蛍光測定装置10をPCR装置として用いるときには、これらのヒーター及びクーラーを用いて、集光容器13の全体を一様に加熱/冷却するサイクルを繰り返す。例えば、テンプレートを増幅させるときには、恒温槽14は、試料中に含まれる二本鎖DNAの鎖長等に応じて、集光容器13を80〜90度程度の高温に加熱し、数十秒〜数分程度、この温度を維持する。このとき、試料に含まれる二本鎖DNAは一本鎖DNAに変性する。次に、集光容器13の温度を、試料に用いたプライマーの種類に応じて、例えば60度程度の低温に急速に冷却すると、一本鎖DNAのテンプレートの端に、プライマーが優先的に結合する。同時に、テンプレート内の所定位置には蛍光プローブが結合する。その後、恒温槽14の温度が、DNAポリメラーゼが活性化する60〜70度程度の温度に調節されると、一本鎖DNAに結合したプライマーを起点としてテンプレートの相補鎖が合成される。また、このときエキソヌクレアーゼ活性により蛍光プローブは上書きされ、蛍光プローブ内に含まれる蛍光レポーターと励起光吸収剤(クエンチャー)とが分離される。これにより、試料に対して励起光ELを照射したときに、蛍光レポーターから蛍光が発せられるようになる。恒温槽14によってこうした加熱/冷却のサイクルが繰り返されることによって、指数関数的にテンプレートが増幅されるとともに、これに応じて、励起光ELを照射したときに試料から発生する蛍光FLが増大する。
【0031】
受光部16は、例えばフォトダイオード等の光電変換素子からなり、励起光分岐プリズム12を介して集光容器13に正対する位置に配置される。受光部16は、試料から発せられた蛍光FLを受光すると、その光量に応じた信号を出力する。こうして受光部16から出力される信号と、前述の加熱/冷却のサイクルの総数等に応じて、増幅前後のテンプレートの総量等が定量される。
【0032】
図2に示すように、励起光分岐プリズム12は、複数のプリズムを接合して全体として平板状に形成された複合光学素子であり、各プリズムの接合面には入射した光の波長に応じて、その一部成分を透過/反射する半透膜が設けられている。半透膜は、例えば、誘電体の多層膜等で形成される。また、励起光分岐プリズム12は、第1分岐部21と第2分岐部22とからなる。
【0033】
第1分岐部21は、励起光分岐プリズム12の側面から入射される励起光ELの光路を複数に分岐させて第2分岐部22に入射させる部材である。この第1分岐部21は、2つの三角プリズム23,24と4つの平行四辺形プリズム26〜29からなり、励起光ELの入射光軸(y方向)に沿って縦長の直方体状に形成される。三角プリズム23,24は、第1分岐部21の両端に配置されるとともに、これらの三角プリズム23,24の側面のうち、第1分岐部21の側面として露呈される端面はほぼ正方形状に形成され、励起光ELは三角プリズム23の正方形の端面から、この端面に対して垂直に入射される。また、平行四辺形プリズム26、〜29は全て等しい大きさ及び形状に形成され、三角プリズム23,24に挟み込まれるように斜面を合わせて平行に配置される。このため、三角プリズム23,24及び平行四辺形プリズム26〜29の接合面は全て平行であるとともに、励起光ELの入射光軸に対して45度傾斜している。そして、これらの接合面における励起光ELの反射光は、第1分岐部21の長手方向に垂直な方向(x方向)に出射し、第2分岐部22に入射する。
【0034】
さらに、第1分岐部21には、これらの三角プリズム23,24及び平行四辺形プリズム26〜29の接合面には、半透膜31〜34,36が設けられている。半透膜31〜34は、ほぼ全ての波長帯の光を透過するが、励起光ELについて、その一部成分を反射する光学薄膜である。例えば、半透膜31は、励起光光源11から入射する励起光ELの80%を透過し、残り20%を第2分岐部22側に反射する。同様に、半透膜32は、半透膜31を透過して入射する励起光ELの75%を透過し、残り25%を第2分岐部22側に反射するとともに、半透膜33は、半透膜32を透過して入射する励起光ELの約66.6%(2/3)を透過し、約33.3%(1/3)を第2分岐部22側に反射する。そして、半透膜34は、半透膜33を透過して入射する励起光ELの50%を透過し、残り50%を第2分岐部22側に反射する。さらに、半透膜36は、半透膜31〜34と同様にほぼ全ての波長帯の光を透過するが、励起光ELについてはこれを全て反射する光学薄膜である。こうして三角プリズム23,24及び平行四辺形プリズム26〜29の接合面に半透膜31〜34,36が設けられていることによって、励起光分岐プリズム12に入射された励起光ELは、第1分岐部21で5本の平行光に分岐され、第2分岐部22に入射する。また、半透膜31〜34,36の透過率及び反射率が上述のように定められていることによって、第1分岐部21で5本に分岐された励起光ELの光量は等しい。
【0035】
第2分岐部22は、第1分岐部21から5本に分岐されて入射する励起光ELを集光容器13に設けられた凹部61の位置及び個数に合わせてさらに分岐させ、これらの凹部61に各々入れられた試料に励起光ELを照射する部材である。また、こうして励起光ELを照射したことにより、各試料からは蛍光FLが発生するとともに、蛍光FLの発生に寄与しなかった励起光ELが集光容器13で反射される。このため、第2分岐部22には、集光容器13側から、蛍光FLと励起光ELの反射光が入射するが、後述するように第2分岐部22は、蛍光FLを透過して受光部16に入射させ、励起光ELは少なくともその一部成分を反射する。
【0036】
この第2分岐部22は、2個の三角プリズム41,42と4個の平行四辺形プリズム43〜46とを接合して形成され、三角プリズム41,42を両端に配置し、これらの三角プリズム41,42に挟み込まれるように斜面を合わせて平行四辺形プリズム43〜46が配置される。また、三角プリズム41,42及び平行四辺形プリズム43〜46間の各接合面は、平行であるとともに、第1分岐部21から入射する励起光ELの光軸(x方向)に対して45度傾斜している。さらに、これらの三角プリズム41,42及び平行四辺形プリズム43〜46の接合面には、半透膜51〜54,56がそれぞれ設けられるとともに、第2分岐部22は、三角プリズム41の長手方向の側面によって第1分岐部21の長手方向に沿った側面に接合される。このため、第1分岐部21から入射する5本の励起光ELはそれぞれ半透膜51〜54,56に到達するとともに、各励起光ELは、後述するように半透膜51〜54,56によって下方(z方向のマイナス側)に反射され、集光容器13に入射する。
【0037】
半透膜51〜54は、蛍光FLを含むほぼすべての波長帯の光を透過するが、励起光ELについては所定の光量を反射する光学薄膜である。例えば、半透膜51は、第1分岐部21から入射する励起光ELの80%を透過し、残り20%を集光容器13側に反射する。同様に、半透膜52は、半透膜51を透過して入射する励起光ELの75%を透過し、残り20%を集光容器13側に反射するとともに、半透膜53は、半透膜52を透過して入射する励起光ELの約66.6%を透過し、残り約33.3%を反射する。そして、半透膜54は、半透膜53を透過した励起光ELの50%を透過し、残り50%を集光容器13側に反射する。さらに、半透膜56は、他の半透膜51〜54と同様にほぼ全ての波長帯の光を透過するが、励起光ELについては入射した成分を全て反射する光学薄膜である。こうして三角プリズム41,42と平行四辺形プリズム42〜45との接合面に半透膜51〜54,56が設けられていることによって、第1分岐部21から入射する5本の励起光ELは、さらに5箇所で分岐され、それぞれ集光容器13に照射される。
【0038】
また、第2分岐部22には、上述のように第1分岐部21から励起光ELが入射するだけでなく、試料で発生した蛍光FLと集光容器13で反射された励起光ELが集光容器13側から入射するが、蛍光FLは半透膜51〜54,56を透過して受光部16に入射する。また、集光容器13による励起光ELの反射光は、半透膜51〜54,56によって少なくともその一部成分が反射される。
【0039】
集光容器13には試料を収容する凹部61が複数設けられている。これらの凹部61は、第1分岐部21が励起光ELを分岐させる間隔と、第2分岐部22が励起光ELを分岐させる間隔とに応じて配列されており、縦横に5箇所ずつ、合計で25箇所に設けられている。このため、集光容器13は、各凹部61に試料を収容して恒温槽14に配置されるときに、各凹部61の位置が励起光分岐プリズム12からの励起光ELの照射位置にほぼ合致するように定められた所定の位置に配置される。
【0040】
また、集光容器13は不透明な樹脂からなるが、凹部61の内面にはアルミニウム薄膜等からなる反射膜がコーティングされている。このため、凹部61の内面は励起光ELや蛍光FLを反射する反射面を形成する。さらに、凹部61の内面は概ね放物面形状に形成されている。したがって、平行光の励起光ELが凹部61に入射すると、励起光ELは放物面の焦点近傍に集光される。同時に、凹部61に入れられた試料から発せられる蛍光FLのうち、焦点近傍で発生した蛍光FLは凹部61の内面で反射されることにより、平行光となって凹部61を出射し、励起光分岐プリズム12に入射する。
【0041】
受光部16は、集光容器13の凹部61に一対一に対応して設けられたフォトダイオード62からなる。また、これらのフォトダイオード62は、励起光分岐プリズム12を介して、それぞれ対応する凹部61に正対する位置に設けられている。フォトダイオード62のこうした配置と、励起光分岐プリズム12の構成や集光容器13の凹部61の形状等によって、各々のフォトダイオード62には、ほぼ対応する凹部61から出射した光だけが入射する。このため、各フォトダイオード62が受光量に応じて出力する信号は、各凹部61に収容された試料に対応したものである。したがって、各フォトダイオード62から出力された信号と、集光容器13を加熱/冷却したサイクルの総数等に応じて、増幅前後のテンプレートの総量等が定量される。
【0042】
上述のように構成される蛍光測定装置10は、以下に説明するように動作して、テンプレートを増幅する。まず、テンプレートを含む二本鎖DNA、プライマー、dNTP、DNAポリメラーゼ、蛍光プローブを適量含有した液体状の試料66(図4参照)が作製される。このとき、増幅するテンプレートの違い等に応じて、二本鎖DNAやプライマー、蛍光プローブ等の種類が異なる複数の試料66が作製される。こうして作製された複数種類の試料66は、集光容器13の凹部61にそれぞれ適量収容される。このとき、試料66が収容された各凹部61には、試料66の溶媒が揮発することを防ぐために、試料66に溶解せず、試料66よりも比重が小さい揮発防止液67(図4参照)が注がれる。したがって、集光容器13の凹部61に収容された試料66の上面は揮発防止液67で覆われる。こうして試料66が収容された集光容器13は、恒温槽14内の所定位置に配置される。この恒温槽14内の所定位置は、集光容器13の各凹部61の配列と、励起光分岐プリズム12による励起光ELの分岐位置、受光部16のフォトダイオード62の配列を概ね一致させるとともに、集光容器13と励起光分岐プリズム12及び受光部16との距離を、各試料66からの蛍光FLの測定に適した所定の距離にする集光容器13の配置位置である。こうして集光容器13が配置されると、恒温槽14は集光容器13の全体を一様な温度に調節する。
【0043】
こうして集光容器13が配置されると、蛍光測定装置10は、恒温槽14によって集光容器13に収容されたすべての温度を一様に加熱/冷却するサイクルを繰り返すことによりテンプレートを増幅させる。テンプレートを増幅させるときには、まず、蛍光測定装置10は、恒温槽14によって集光容器13に収容された全ての試料66を一様に、所定温度の高温に加熱する。これにより、各試料66に含まれる二本鎖DNAは一本鎖DNAに変性する。そして、二本鎖DNAが一本鎖DNAに変性するまでに要する十分な時間が経過すると、蛍光測定装置10は、試料66を所定温度の低温になるまで、恒温槽14の温度を急速に冷却する。このとき、プライマーと蛍光プローブの鎖長が一本鎖DNAに比べて短いので、プライマーと蛍光プローブは優先的に一本鎖DNAのテンプレートに結合する。こうして、プライマー及び蛍光プローブを一本鎖DNAに結合させると、蛍光測定装置10は、DNAポリメラーゼが活性化する温度まで試料66の温度を上昇させる。このとき、プライマーを起点としてテンプレートが増幅され、同時に、蛍光プローブが分解され、蛍光プローブに含まれる蛍光レポーターがクエンチャーから分離される。これにより、励起光ELを照射することにより、試料66から蛍光FLが発生するようになる。蛍光測定装置10は、上述の加熱/冷却のサイクルを繰り返すことによりテンプレートを増幅させる。
【0044】
また、蛍光測定装置10は、上述のようにテンプレートを増幅させると同時に、集光容器13に収容された各試料66にそれぞれ励起光ELを照射し、各試料66から蛍光FLを発生させ、その光量をそれぞれ測定する。
【0045】
図3に示すように、蛍光測定装置10は、LD68を発光させ、励起光ELを発生させる。このとき、LD68から出射する励起光ELは、所定の角度範囲で拡散するが、コリメートレンズ69を通ることによって平行光に整えられる。したがって、平行光の励起光ELが励起光光源11から励起光分岐プリズム12の第1分岐部21に入射する。
【0046】
励起光ELは、三角プリズム23の正方形の端面から第1分岐部21に入射し、三角プリズム23と平行四辺形プリズム26の接合面に設けられた半透膜31に到達する。このとき、励起光ELの20%は半透膜31で反射される。したがって、励起光ELは、その一部成分が入射光軸(y方向)に対して光路が90度折り曲げられてx方向に分岐し、第2分岐部22に入射する。一方、半透膜31に入射した励起光ELのうち、80%は半透膜31を透過する。こうして半透膜31を透過した励起光ELは、平行四辺形プリズム26と平行四辺形プリズム27の接合面に設けられた半透膜32に入射する。
【0047】
こうして半透膜32に入射した励起光ELは、25%の成分が反射され、入射光軸に対して光路が90度折り曲げられて分岐し、第2分岐部22に入射する。また、半透膜32で分岐して第2分岐部22に入射する励起光ELは、前述の三角プリズム23と平行四辺形プリズム26との接合面で分岐された励起光ELと平行であり、その光量も等しく、励起光光源11から出射された励起光ELの20%の光量となっている。また、平行四辺形プリズム26と平行四辺形プリズム26との接合面に設けられた半透膜32に入射した励起光ELの75%はこれを透過し、平行四辺形プリズム27と平行四辺形プリズム28の接合面に設けられた半透膜33に入射する。
【0048】
半透膜33に入射した励起光ELは、上述と同様にして、約33%が半透膜33によって反射されて分岐し、第2分岐部22に入射するとともに、約66%は半透膜33を透過し、平行四辺形プリズム28と平行四辺形プリズム29の接合面に設けられた半透膜34に入射する。そして、半透膜34に入射した励起光ELは、50%が半透膜34によって反射されて分岐し、第2分岐部22に入射するとともに、50%は半透膜34を透過し、平行四辺形プリズム29と三角プリズム24との接合面に設けられた半透膜36に入射する。こうして半透膜36に入射した励起光ELは、半透膜36によって100%反射され、その光路を90度折り曲げられ、半透膜31〜34で分岐された各励起光ELと平行に第2分岐部22に入射する。
【0049】
上述のようにして第1分岐部21では、励起光光源11からy方向に沿って入射する励起光ELを5本のx方向に沿った励起光ELに分岐させて第2分岐部22へと入射させる。また、これらの5本の励起光ELの光量は、いずれも励起光光源11から出射された励起光ELの光量の1/5となっている。さらに、励起光光源11から出射される励起光ELが平行光であるので、第1分岐部21によって分岐され、第2分岐部22に入射する各励起光ELは、いずれも平行光である。
【0050】
図4に示すように、第1分岐部21からx方向に沿って第2分岐部22に入射した各励起光ELは、それぞれ第2分岐部22によってさらに5本に分岐されて集光容器13側に出射される。
【0051】
まず、第1分岐部21から第2分岐部22に入射した励起光ELは、三角プリズム41と平行四辺形プリズム43の接合面に設けられた半透膜51に入射する。このとき、励起光ELの20%が半透膜51で反射され、励起光分岐プリズム12の下方に向けて光路を90度折り曲げられて分岐し、集光容器13側に出射される。一方、半透膜51に入射した励起光ELのうち、80%は半透膜51を透過して、平行四辺形プリズム43と平行四辺形プリズム44の接合面に設けられた半透膜52に入射する。
【0052】
半透膜52に入射した励起光ELは25%の成分が反射し、励起光分岐プリズム12の下方に向けて光路を90度折り曲げられて分岐され、集光容器13側に出射される。また、75%の成分は半透膜52を透過し、平行四辺形プリズム44と平行四辺形プリズム45との接合面に設けられた半透膜53に入射する。
【0053】
こうして半透膜53に入射した励起光ELは、約33.3%の成分が半透膜53で反射されることにより分岐して集光容器13側に出射されるとともに、約66.6%の成分が半透膜53を透過して、平行四辺形プリズム45と平行四辺形プリズム46の接合面に設けられた半透膜54に入射する。そして、半透膜54に入射した励起光ELは、50%が半透膜54によって反射されて分岐し、集光容器13側に出射し、残り50%の成分は半透膜54を透過して、平行四辺形プリズム46と三角プリズム42の接合面に設けられた半透膜56に入射する。こうして半透膜56に入射した励起光ELは、半透膜56によって100%反射され、集光容器13側に出射される。
【0054】
このように、第2分岐部22は、第1分岐部21から入射する励起光ELをそれぞれさらに5本の励起光ELに分岐させて、下方の集光容器13に向けて出射する。したがって、励起光光源11から出射された励起光ELは、励起光分岐プリズム12によって合計で25本の平行な励起光ELに分岐されて出射される。また、励起光分岐プリズム12から出射される各励起光ELは、いずれも平行光であるとともに、各励起光ELの光量は励起光光源11から出射される励起光ELの4%である。さらに、集光容器13が前述のように恒温槽14内の所定位置に配置されていることにより、励起光分岐プリズム12から出射される各励起光ELは、集光容器13の各凹部61にそれぞれ入射する。
【0055】
凹部61に入射される励起光ELは、図5に示すように、試料66に集光される。前述のように、集光容器13の凹部61には試料66と揮発防止液67が収容されるとともに、試料66は凹部61の下方に、揮発防止液67は凹部61の上方に互いに分離して収容される。また、凹部61の内面は反射面となっている。さらに、上述のように、励起光分岐プリズム12から入射する励起光ELは平行光である。したがって、励起光分岐プリズム12から凹部61に入射する励起光ELは、揮発防止液67を透過して試料66に直接照射されると同時に、揮発防止液67や試料66を透過し、凹部61の内面に到達した成分は、凹部61の内面で反射される。このとき、凹部61の内面はほぼ放物面形状に形成され、かつ、凹部61に入射する励起光ELは平行光であるため、凹部61の内面で反射した励起光は、試料66内の概ね一定の範囲(以下、焦点近傍という)71に集光する。なお、焦点近傍71の位置が試料66内にあるように、凹部61内面の形状、または凹部61に収容する試料66の量等が予め定められている。こうして試料66に励起光ELが集光される。
【0056】
試料66から発生した蛍光FLは、凹部61からから出射すると、励起光分岐プリズム12を通過して、集光容器13の対面に設けられた受光部16に入射する。このとき、前述のように焦点近傍71に励起光ELが集光されることから、これに応じて、試料66から発生する蛍光FLの殆どは、焦点近傍71から発生する。こうして焦点近傍71から発生する蛍光FLは、図6に示すように、特定の方向性はなく焦点近傍71から四方八方に出射する。したがって、焦点近傍71で発生した蛍光FLの中には、蛍光FLa,FLb,FLcのように凹部61から直接出射するものもあるが、その大部分は、凹部61の内面によって反射され、平行光となって凹部61から出射される。
【0057】
こうして凹部61から平行光となって出射した蛍光FLは、励起光分岐プリズム12に入射し、各凹部61の直上に位置する半透膜51〜54,56を透過して、対応するフォトダイオード62に入射する(図4参照)。したがって、各フォトダイオード62は、各々に対応して配置された凹部61の試料66からの蛍光FLをほぼ個別に光電変換する。これにより、蛍光測定装置10は、複数の試料66から同時に発生する蛍光FLを個別に測定する。
【0058】
なお、焦点近傍71から発生する蛍光FLのうち、蛍光FLa及び蛍光FLbのように、凹部61から直接的に斜めに出射する蛍光FLは、上述のように出射した凹部61に対応しないフォトダイオード62に入射して迷光となるが、上述のように凹部61の内面で反射されて平行光となって出射する蛍光FLと比較して、その光量は十分に小さく抑えられる。このため、蛍光測定装置10による蛍光FLの測定には、蛍光FLaや蛍光FLbのような凹部61を斜めに出射して迷光となる蛍光はほとんど影響を与えない。
【0059】
以上のように、蛍光測定装置10は、励起光分岐プリズム12によって複数の試料66に同時に平行光の励起光ELを照射するとともに、試料66を収容する凹部61の内面が反射面となっており、かつ平行光を試料66に集光させる形状となっている。これにより、蛍光測定装置10は、励起光ELの利用効率を向上させることができるとともに、試料66からの蛍光FLの発生効率を向上させることができる。
【0060】
また、蛍光測定装置10によって試料66に励起光ELを照射する場合、蛍光FLは凹部61の焦点近傍71から発生する。そして、焦点近傍71から発生した蛍光FLは、凹部61の内面によって反射されることによってほぼ平行光となって凹部61を出射する。したがって、凹部61の位置に対応するようにフォトダイオード62等の受光素子を配置しておくことで、複数の試料66から同時に発生した蛍光FLを各々峻別して受光し、各々の試料66からの蛍光FLを独立して測定することができる。
【0061】
さらに、蛍光測定装置10によれば、各試料66から発生させる蛍光FLの大部分を平行光にしてフォトダイオード62に導くので、各試料66で発生させた蛍光FLを効率良く受光することができる。このため、PCRの加熱/冷却のサイクル数が少ない場合などで、各試料66から発生する蛍光FLの光量が小さいときにも、各試料66からの蛍光FLをより精密に測定することができる。
【0062】
また、蛍光測定装置10は、凹部61の内面が放物面状に形成されているが、これ以外にレンズ等の集光要素を用いず、また、凹部61の内面形状も平行光の励起光ELを入射させるだけで機能するものである。このため、蛍光測定装置10は、集光容器13、励起光分岐プリズム12、受光部16の各間隔に影響されずに蛍光FLの測定を行うことができる。したがって、蛍光測定装置10の場合、励起光分岐プリズム12によって分岐された励起光ELが各凹部61にそれぞれ照射されるように概ね配置されていれば、集光容器13の恒温槽14内での配置や、集光容器13,励起光分岐プリズム12,受光部16の配置間隔等の細かな調整は不要であり、容易に、かつ、短時間で蛍光FLの測定を開始することができる。
【0063】
なお、上述の実施形態では、集光容器13に励起光ELを照射すると、集光容器13の表面や、反射面となっている凹部61の内面で反射され、励起光ELの反射光が励起光分岐プリズム12に入射する。こうして励起光分岐プリズム12に入射する励起光ELの反射光は、第2分岐部22の半透膜51〜54,56に入射するが、前述のように半透膜51〜54は、励起光ELを部分的に透過する。したがって、励起光ELの反射光が励起光分岐プリズム12に入射すると、半透膜51〜54によって減光されるものの、これを透過してフォトダイオード62に入射する。
【0064】
蛍光測定装置10では、前述のように効率良く蛍光FLを発生させるとともに、受光効率も向上させることから、こうした励起光ELの反射光があっても十分に精度良く蛍光FLの光量を測定することができるが、励起光ELの反射光は受光部16に到達させないようにすることがより好ましい。このため、例えば図7に示すように、励起光分岐プリズム12と受光部16との間に、少なくとも蛍光FLを透過し、励起光ELを吸収または反射する励起光カットフィルタ76を設けることが好ましい。こうした励起光カットフィルタ76は、例えば、誘電体薄膜の積層体で形成される。なお、ここでは、励起光分岐プリズム12と受光部16との間に励起光カットフィルタ76を設ける例を説明したが、励起光カットフィルタ76は必ずしも励起光分岐プリズム12や受光部16から独立して設けられている必要はない。例えば、励起光カットフィルタ76は、励起光分岐プリズム12の上面(受光部16側の表面)に、励起光分岐プリズム12と一体に設けても良く、同様に、受光部16と一体に設けても良い。こうして励起光カットフィルタ76を設けておくことで、蛍光FLだけを受光部16へ入射させることができるようになるため、より精密に蛍光FLの光量を測定することができる。
【0065】
なお、上述の実施形態では、受光部16が複数の試料66に一対一に対応して配列されたフォトダイオード62からなる例を説明したが、受光部16の構成は蛍光FLの光量を測定することができればこの例に限らない。例えば、いわゆるCCDやCMOS等のエリアイメージセンサを受光部16として好適に用いることができる。また、ラインセンサを配列したものを受光部16として用いても良い。さらに、上述の実施形態では、励起光分離プリズム12からフォトダイオード62に直接的に蛍光が入射する例を説明したがこれに限らず、励起光分離プリズム12と受光部16との間に、励起光分離プリズム12から受光部16に入射する蛍光を集光したり、受光部16に導くための部材を設けても良い。例えば、集光容器13の各凹部61に対して、それぞれ集光レンズと光ファイバを設ける。そして、励起光分離プリズム12から入射する蛍光を集光レンズで光ファイバに集光して入射させ、この光ファイバの他端から受光部16に入射させる。こうして、励起光分離プリズム12と受光部16との間に集光レンズ及び光ファイバを設けると、各凹部61に対応する光ファイバに細経の光ファイバを用いて、これらを結束しておくことで、受光部16としてデジタルカメラ等に用いられるような一般的な受光面が小さいエリアイメージセンサを用いることができ、受光部16をコンパクトに構成することができる。また、集光レンズ及び光ファイバを介して蛍光を受光部16に導くことによって、受光部16を励起光分離プリズム12から離れた位置に設けたり、集光容器13に正対しない任意の向きに配置することができる。
【0066】
なお、上述の実施形態では、凹部61の形状を放物面状に形成する例を説明したが、これに限らない。凹部61の内面形状は、円筒状の穴に試料を収容する場合等、照射された励起光ELを試料66に集光させない場合と比較して、試料66に効率良く励起光ELを照射することができる形状であれば良い。例えば、凹部61の内面のうち、一部分が放物面となっていても良い。また、凹部61の内面形状は平行光を一点に集光する厳密な放物面となっている必要はなく、試料66内のある程度の広がりを持った部分的な領域に平行光を集光する形状となっていれば良い。但し、蛍光FLが凹部61を出射するときに平行光となっている割合が高いほど、迷光が少なく、かつ、受光部16では発生した蛍光FLを効率良く利用することができる。このため、凹部61の内面形状は、凹部61から出射する蛍光FLの60%以上が平行光の光軸(蛍光FLcの方向に沿った光軸)の±10度以内に収まる形状であることが好ましい。さらに、凹部61から出射する蛍光FLの70%以上が同様の角度範囲に収まることが好ましく、80%以上の蛍光FLが上述の角度範囲内に収まることが特に好ましい。また、上述の光量の蛍光FLが、平行光の光軸を基準として±5度以下の範囲に収まることがより好ましく、±3度以下に収まることが特に好ましい。
【0067】
また、上述の実施形態では、集光容器13を樹脂材料で形成し、凹部61の内面にアルミニウム等からなる反射膜をコーティングして反射面を形成する例を説明したがこれに限らない。例えば、集光容器13の全体を光沢のある金属材料で形成しても良い。また、上述の実施形態のように集光容器13を樹脂材料で形成する場合には、凹部61の内面にコーティングする反射膜の材料は励起光EL及び蛍光FLを反射するものであれば、任意の材料を用いることができる。
【0068】
なお、上述の実施形態では、集光容器13の縦横に5箇所ずつ、合計で25箇所に凹部61が設けられた例を説明したが、集光容器13で同時に収容する試料66の最大数は25でなくても良く、集光容器13には任意の個数の凹部61を設けて良い。また、この場合、上述の実施形態で説明したように、集光容器13の凹部61の位置と、励起光分岐プリズム12及び受光部16の構成を予め対応するように構成しておくことが好ましい。
【0069】
なお、上述の実施形態では、励起光ELが波長470nmの青色光であり、蛍光FLは波長560nmの緑色光である例を説明したが、励起光ELや蛍光FLの波長はこの例に限らない。励起光ELや蛍光FLの波長は、使用する蛍光プローブやDNA結合色素の種類に応じて任意に定めることができる。また、蛍光測定装置10で、複数種類の蛍光プローブやDNA結合色素を用いる場合には、これに応じて励起光光源11に複数のLD68を設け、叙述の実施形態と同様に、励起光分岐プリズム12に設けられた各々の半透膜の特性をこれに応じたものにすれば良い。
【0070】
なお、上述の実施形態では、試料66の溶媒が揮発してしまうことを防ぐために、試料66を収容した凹部61に揮発防止液67を入れる例を説明したが、これに限らず、例えば凹部61の開口形状や試料66の収容量等に合わせて作成されたフタを各凹部61に取り付けるようにしても良い。また、揮発防止液67を用いる場合にも、凹部61の内容物がこぼれることを防ぐためにこうしたフタを用いるようにしても良い。但し、凹部61の開口に取り付けるフタは、少なくとも励起光ELや蛍光FLを透過する材料でする必要があり、このフタによる屈折や反射が励起光ELの照射や蛍光FLの測定に影響が少ない形状とすることが好ましい。
【0071】
なお、上述の実施形態では、全ての凹部61に等しい光量の励起光ELを照射する例を説明したが、これに限らず、励起光分岐プリズム12の各半透膜の反射率及び透過率を各々に定めることによって、各凹部61に照射する励起光ELの光量をそれぞれに異なるものにしても良い。
【0072】
なお、上述の実施形態では、蛍光測定装置10をDNAを増幅するPCR装置として用いる例を説明したが、蛍光測定装置10は試料66から蛍光FLを発生させ、その光量を測定するものであれば、PCR以外にも任意の用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0073】
10 蛍光測定装置
11 励起光光源
12 励起光分岐プリズム
13 集光容器
14 恒温槽
16 受光部
21 第1分岐部
22 第2分岐部
23,24,41,42 三角プリズム
26〜29,43〜46 平行四辺形プリズム
31〜34,36,51〜54,56 半透膜
61 凹部
62 フォトダイオード
66 試料
67 揮発防止液
68 LD
69 コリメートレンズ
71 焦点近傍
76 励起光カットフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光が照射されることにより蛍光を発生する試料が収容される凹部を複数有し、前記凹部の内面が前記励起光及び前記蛍光を反射するとともに、前記励起光が平行光の場合に、入射した前記励起光を前記試料に集光する内面形状に形成された試料収容手段と、
前記励起光を発生させ、前記励起光を平行光に整えて出射する励起光光源と、
前記試料収容手段に正対して配置され、前記励起光光源から平行光に整えられた前記励起光が入射され、前記励起光を前記凹部の配列に応じて分岐させ、前記凹部にそれぞれ入射させる励起光分岐手段と、
前記励起光分岐手段を介して前記試料収容手段に正対して配置され、前記試料から発生した蛍光を受光して光電変換することにより、各々の前記試料から発生した蛍光の光量を測定する受光手段と、
を備えることを特徴とする蛍光測定装置。
【請求項2】
前記凹部の内面は放物面であり、前記励起光分岐手段から入射される前記励起光を前記放物面の焦点に集光させるとともに、前記焦点にある前記試料から発せられた前記蛍光を平行光に整えて前記凹部から出射させることを特徴とする請求項1記載の蛍光測定装置。
【請求項3】
前記励起光分岐手段は、前記蛍光を透過し、前記励起光の少なくとも一部を反射する半透膜を介して、複数のプリズムを接合して形成されることを特徴とする請求項1または2記載の蛍光測定装置。
【請求項4】
前記励起光分岐手段は、前記励起光光源から入射する前記励起光を前記励起光分岐手段の中で複数に分岐させる第1分岐手段と、前記第1分岐手段から入射する複数の前記励起光を前記凹部の配列に応じてさらに分岐させて前記試料収容手段側に出射する第2分岐手段とからなることを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載の蛍光測定装置。
【請求項5】
前記励起光分岐手段は、複数の前記凹部に各々等しい光量の前記励起光を入射させることを特徴とする請求項1ないし4いずれかに記載の蛍光測定装置。
【請求項6】
前記試料収容手段に前記励起光を照射したときに、前記試料収容手段によって反射されることにより前記受光手段に入射する方向に進む前記励起光をカットする励起光カット手段が、前記励起光分岐手段と前記受光手段との間に設けられたことを特徴とする請求項1ないし5いずれかに記載の蛍光測定装置。
【請求項7】
前記受光手段は、前記凹部に一対一に対応するように配列されたフォトダイオードからなることを特徴とする請求項1ないし6いずれかに記載の蛍光測定装置。
【請求項8】
前記試料収容手段は、前記凹部に収容した複数の前記試料の温度を一様に調節する温度調節手段内に配置され、
前記試料は、二本鎖DNAと、前記励起光が照射されることによって前記二本鎖DNAの総数に応じた蛍光を発生させる蛍光発生手段とを含み、
前記温度調節手段によって前記試料の温度を変化させることによって前記二本鎖DNAの少なくとも一部配列を増幅させることを特徴とする請求項1ないし7いずれかに記載の蛍光測定装置。
【請求項9】
励起光が照射されることにより蛍光を発生する試料が収容される凹部を複数有し、前記凹部の内面が前記励起光及び前記蛍光を反射するとともに、前記励起光が平行光の場合に、入射した前記励起光を前記試料に集光させることを特徴とする試料収容容器。
【請求項10】
前記凹部の内面は放物面であり、前記励起光分岐手段から照射される前記励起光を前記放物面の焦点に集光させるとともに、前記焦点にある前記試料から発せられた前記蛍光を平行光に整えて前記凹部から出射させることを特徴とする請求項9記載の試料収容容器。
【請求項11】
前記凹部の内面は、反射膜がコーティングされて反射面が形成されることを特徴とする請求項9または10記載の試料収容容器。
【請求項12】
蛍光物質から蛍光を発生させる励起光が入射され、前記励起光の少なくとも一部を反射する半透膜を介して、各々の接合面が平行になるように複数のプリズムを接合して形成され、前記半透膜によって前記励起光を複数平行に分岐させて第2分岐手段に入射させる第1分岐手段と、
前記第1分岐手段から複数の平行な励起光が入射され、前記励起光の少なくとも一部を反射し、かつ、前記蛍光を透過する半透膜を介して、各々の接合面が平行になるように複数のプリズムを接合して形成され、前記半透膜によって前記励起光を複数平行に分岐させて前記蛍光物質に入射させるとともに、前記蛍光物質から発生した前記蛍光を透過させる第2分岐手段と、
を備えることを特徴とする複合光学素子。
【請求項13】
前記第1分岐手段に設けられた複数の前記半透膜は、前記第2分岐手段に入射させる前記励起光の光量が等しくなるように前記励起光に対する反射率及び透過率が定められ、前記励起光の入射光軸に沿って当該反射率が高くなる順に配置されるとともに、
前記第2分岐手段に設けられた複数の前記半透膜は、出射する前記励起光の光量が等しくなるように前記励起光に対する反射率及び透過率が定められ、前記第1分岐手段から入射する前記励起光の入射光軸に沿って当該反射率が高くなる順に配置されることを特徴とする請求項12記載の複合光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−257269(P2011−257269A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132093(P2010−132093)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】