説明

蛍光表示管の駆動方法および蛍光表示管

【課題】ダイナミック駆動方式で駆動され、輝度飽和が顕著な蛍光体を用いた蛍光表示管の輝度寿命を向上できる。
【解決手段】低速電子線励起下で陽極電極上に形成された蛍光体層をダイナミック駆動により表示する蛍光表示管の駆動方法であって、上記蛍光体層に含まれる蛍光体は、ダイナミック駆動において、Duを同一とする条件下でパルス幅が短くなると輝度が向上する蛍光体であり、かつ上記陽極電極に電圧が印加され、蛍光体の輝度が飽和された後に該電圧印加停止後の上記飽和輝度値の10%輝度値に低下する時間が200μsec以上の蛍光体であり、
上記ダイナミック駆動は、上記蛍光体の初期輝度を維持する方向に、駆動時間の経過とともにパルス幅およびパルスの繰返し周期を可変とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛍光表示管の駆動方法およびその駆動方法を用いた蛍光表示管に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光表示管などの低速電子線励起用蛍光体として、優れた発光特性を示すZnO:Zn(緑色)以外に、SrTiO3:Pr(赤色)、CaTiO3:Pr(赤色)、Gd22S:Eu(赤色)、Y22S:Eu(赤色)、La22S:Eu(赤色)、SnO2:Eu(橙色)、ZnS:Mn(橙色)、ZnGa24(青色)、ZnGa24:Mn(緑色)などにIn23などの導電性物質を添加した蛍光体が数多く研究、開発されてきた(非特許文献1)。
しかし、低速電子線励起用蛍光体として開発されてきている蛍光体は、緑色発光のZnO:Zn以外は寿命の短い蛍光体が多い。
【0003】
一方、蛍光表示管の駆動方法としてダイナミック駆動方法が知られている。このダイナミック駆動における、パルス幅tpとパルスの繰り返し周期Tとの比(tp/T)として表されるデューティサイクル(以下、Duと略称する)が一定の場合、応答速度の速い蛍光体ではパルス幅tpを変化させても輝度は略同一であるが、応答速度の遅い蛍光体ではパルス幅tpを短くすると輝度が低くなる。それゆえ必要な輝度を得るために応答速度の遅い蛍光体を用いたダイナミック駆動は不利になるとされている(特許文献1、非特許文献2)。
このため、応答速度の遅い蛍光体を用いる場合、パルスの繰り返し周期Tを必要以上に短くする(すなわち、パルス幅を短くする)ことを避けて、繰り返し周期Tを8〜20msecとしている。例えば、Du=1/10〜1/50、T=10msecのとき、パルス幅としては、200〜1000μsecの比較的長いパルス幅で駆動されている。
【0004】
ダイナミック駆動において、蛍光体の輝度寿命を向上させる方法として、特許文献2に記載の方法が知られている。この方法は、特にリブ・グリッド電極を有する蛍光表示管における使用時間の経過とともに陰極と並行に明暗の輝度ムラが発生するのを防ぐことを目的になされたもので、陽極およびグリッドの少なくとも一方に印加する駆動パルスのパルス幅および電圧の少なくとも一方を、陰極からその陽極までの距離に関連して調節する、また累積行動時間が長くなるほど陰極からの距離に関連するパルス幅および電圧の調節量を大きくするという方法である。
また、蛍光表示管を駆動するのに必要な駆動電圧が供給され、その駆動電圧によって上記蛍光表示管をダイナミック駆動する駆動手段と、該駆動手段の動作環境温度を検出する温度検出手段と、該温度検出手段の温度検出結果に応じて、上記駆動電圧のうち、上記蛍光表示管の陽極電極に対して供給される陽極電圧を所要の電圧値に可変することができる電圧可変手段とを備えていることを特徴とする蛍光表示管駆動装置が知られている(特許文献3)。
しかしながら、低速電子線励起用蛍光体として各種蛍光体が開発され、これらの蛍光体を用いた蛍光表示管が実用化されるにつれて、緑色発光のZnO:Zn蛍光体を除いては、上記改善方法を行なっても、輝度が低く、寿命も短い蛍光体が多く、更なる高輝度化、長寿命化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−250454号公報
【特許文献2】特開2003−195818号公報
【特許文献3】特開平11−95712号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】岸野隆雄編著 蛍光表示管 56頁、産業図書株式会社発行
【非特許文献2】岸野隆雄編著 蛍光表示管 155頁、産業図書株式会社発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、ダイナミック駆動方式で駆動され、輝度飽和が顕著な蛍光体を用いた蛍光表示管の輝度寿命を向上できる駆動方法およびこの駆動方法で駆動される蛍光表示管の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の駆動方法は、低速電子線励起下で陽極電極上に形成された蛍光体層をダイナミック駆動により表示する蛍光表示管の駆動方法であって、
上記蛍光体層に含まれる蛍光体は、ダイナミック駆動において、Duを同一とする条件下でパルス幅が短くなると輝度が向上する蛍光体であり、かつ上記陽極電極に電圧が印加され、蛍光体の輝度が飽和された後に該電圧印加停止後の上記飽和輝度値の10%輝度値に低下する時間が200μsec以上の蛍光体であり、
上記ダイナミック駆動は、上記蛍光体の初期輝度を維持する方向に、駆動時間の経過とともにパルス幅およびパルスの繰返し周期を可変とすることを特徴とする。
また、駆動時間の経過とともにパルス幅およびパルスの繰返し周期を可変とすることは、陽極電圧、グリッド電圧およびDuを駆動開始時の値を維持しながら行なうことを特徴とする。
【0009】
本発明の駆動方法において、上記蛍光体が局在形発光中心を有する蛍光体であることを特徴とする。
また、上記蛍光体が遷移金属イオン発光中心および希土類イオン発光中心の少なくとも1つの発光中心を有する蛍光体であることを特徴とする。特に上記発光中心がMnイオン、Prイオン、Euイオン、またはTbイオンであり、また、これら発光中心を有する蛍光体がZnS:Mn、ZnGa24:Mn、SrTiO3:Pr、CaTiO3:Pr、Gd22S:Eu、Y22S:Eu、ZnGa24、Gd22S:Tb、Y23:Eu、La22S:Eu、SnO2:Eu、Zn2SiO4:Mn、および、CaS:Mnから選ばれた少なくとも1つの蛍光体であることを特徴とする。
【0010】
本発明の蛍光表示管は、真空容器内に形成された蛍光体層に低速電子線を射突させて発光させる蛍光表示管であって、上記蛍光体層がZnS:Mn、ZnGa24:Mn、SrTiO3:Pr、CaTiO3:Pr、Gd22S:Eu、Y22S:Eu、ZnGa24、Gd22S:Tb、Y23:Eu、La22S:Eu、SnO2:Eu、Zn2SiO4:Mn、および、CaS:Mnから選ばれた少なくとも1つの蛍光体を含み、上記蛍光体層は、同一Duを維持しながら、駆動時間の経過とともにパルス幅およびパルスの繰返し周期を短くするダイナミック駆動方式で発光表示されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の駆動方法は、輝度飽和が顕著な蛍光体を用いて、上記蛍光体の初期輝度を維持する方向に、駆動時間の経過とともにDuが同一の条件下でパルス幅およびパルスの繰返し周期を可変とするので、輝度の低下を大幅に抑制し蛍光表示管の長寿命化が図れる。
駆動時間の経過とともに陽極電圧、グリッド電圧、Duのいずれかを大きくする操作をしても輝度を上げることは可能であるが、こうした操作は蛍光体に衝突する電子のエネルギーの増大や電子数の増加をもたらすため、蛍光体の劣化が加速され、やがて輝度の補正ができなくなる。また、消費電力の増大をもたらす。一方、本発明の駆動方法の場合は、上記操作条件を変えずに輝度を上げることができるため、蛍光体の劣化が加速されることはなく、蛍光表示管の消費電力も増加しない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】蛍光表示管の断面図である。
【図2】ダイナミック駆動方法におけるタイミングチャート図である。
【図3】ZnO:Zn蛍光体における発光効率のDu依存性を示す図である。
【図4】ZnS:Mn蛍光体における発光効率のDu依存性を示す図である。
【図5】SrTiO3:Pr蛍光体の発光効率のパルス幅依存性を示す図である。
【図6】Gd22S:Eu蛍光体の発光効率のパルス幅依存性を示す図である。
【図7】CaTiO3:Pr蛍光体の発光効率のパルス幅依存性を示す図である。
【図8】ZnS:Mn蛍光体の発光効率のパルス幅依存性を示す図である。
【図9】ZnGa24:Mn蛍光体の発光効率のパルス幅依存性を示す図である。
【図10】ZnGa24蛍光体の発光効率のパルス幅依存性を示す図である。
【図11】Y22S:Eu蛍光体の発光効率のパルス幅依存性を示す図である。
【図12】ZnS:Mn蛍光体の発光効率のパルス幅依存性を示す図である。
【図13】ZnO:Zn蛍光体の発光効率のパルス幅依存性を示す図である。
【図14】ZnS:Zn蛍光体の発光効率のパルス幅依存性を示す図である。
【図15】ZnS:Cu,Al蛍光体の発光効率のパルス幅依存性を示す図である。
【図16】ZnCdS:Ag蛍光体の発光効率のパルス幅依存性を示す図である。
【図17】ZnO:Zn蛍光体における陽極電流のパルス幅依存性を示す図である。
【図18】ZnS:Mn蛍光体における陽極電流のパルス幅依存性を示す図である。
【図19】蛍光体の発光の立上がり時間t、立下り時間tを示す図である。
【図20】ZnS:Mn蛍光体の輝度寿命を示す図である。
【図21】CaTiO3:Pr蛍光体の輝度寿命を示す図である。
【図22】Gd22S:Eu蛍光体の輝度寿命を示す図である。
【図23】SrTiO3:Pr蛍光体の輝度寿命を示す図である。
【図24】ZnGa24:Mn蛍光体の輝度寿命を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の駆動方法は、蛍光表示管のダイナミック駆動方法に関する。図1は蛍光表示管の断面図である。
蛍光表示管1は、陽極基板7の表示面において複数の陽極5上にそれぞれ形成された蛍光体層6を備え、真空空間内においてその蛍光体層6の上方に位置する陰極9から発生させられた電子をそれら蛍光体層6と陰極9との間に設けられた複数のグリッド電極8で制御してそれら複数の蛍光体層6を選択的に発光させる表示管である。
なお、図1において、2はガラス基板であり、3はこのガラス基板上に形成された配線層であり、4は絶縁層であり、4aは配線層3と陽極電極5とを電気的に接続するスルーホールである。また、10はフェースガラス、11はスペーサガラスである。
【0014】
ダイナミック駆動方法を図2により説明する。図2はダイナミック駆動方法におけるタイミングチャート図である。
ダイナミック駆動方法は、上記複数のグリッド電極8(G1〜Gn)に陰極9の電位よりも高い加速電圧を桁信号(グリッドスキャン)のパルス電圧として順次印加して走査し、その走査のタイミングに同期して所定の陽極5にその陰極9の電位よりも高い点灯電圧を、表示の種類に応じて選択的にON(正)またはOFF(負)のセグメント信号のパルス電圧として印加する駆動方法である。図2はa〜gのセグメントで算用数字を表している。このようなダイナミック駆動方法によれば、グリッド電極8が所定の発光単位(発光群)毎に分割して設けられる一方、複数の陽極5のうちその発光単位毎に予め定められた所定位置のものがそれぞれ共通の陽極配線に接続され、グリッド電極8は桁選択電極として、陽極5はセグメント選択電極として、それぞれ作用する。
図2において、TはT1〜Tnを周期とする繰り返し周期であり、tpはパルス幅であり、tbはブランキング時間である。DuはtpとTとの比(tp/T)として定義される。
【0015】
上記ダイナミック駆動方法において、低速電子線励起用蛍光体の種類によりDu依存性は顕著に異なる。例えば、図3はZnO:Zn蛍光体における発光効率のDu依存性を、図4はZnS:Mn蛍光体における発光効率のDu依存性をそれぞれ示す。ZnO:Zn蛍光体はDuが変化しても、すなわち蛍光体への入射電流を大きくしても小さくしても発光効率は殆ど変化しない。これに対して、ZnS:Mn蛍光体はDuが大きくなると、すなわち蛍光体への入射電流を大きくすると発光効率が大きく低下する。
ZnS:Mn蛍光体は応答速度が遅いため、従来のダイナミック駆動においては、発光が出来るだけ立ち上がるように、200〜1000μsecの比較的長いパルス幅で駆動されている。
【0016】
しかしながら、ZnS:Mn蛍光体など、特定の蛍光体はDuが同一の場合であってもパルス幅tpを短くすると、これまで考えられてきたこととは逆に大幅に輝度(発光効率)が上昇することを本発明者は見出した。
ZnS:Mn蛍光体などは、所定のDu条件下で、パルス幅を短くすると輝度を大幅に向上させることができるので、駆動時間の経過とともにパルス幅を変動させることにより、初期輝度を維持することができる。また、同じ輝度を得る場合は駆動電圧を下げることができるので、蛍光表示管の長寿命化が図れる。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0017】
発光効率のパルス幅依存性について測定した結果を図5〜図16に示す。図5〜図12はパルス幅tpを短くすると発光効率が上昇する蛍光体の例であり、図13〜図16はパルス幅tpを変化させても発光効率が変化しない蛍光体の例である。
上記測定は以下の方法で測定した。蛍光表示管のカーボン陽極上に各種低速電子線用蛍光体を塗布後、公知の蛍光表示管製造工程で管球化を行なった。ZnO:Zn以外の蛍光体には、チャージアップを防ぐために導電性の高いIn23を蛍光体とIn23との合計量に対して約10重量%混合した。フィラメント状陰極を通電し約650℃に加熱した状態で陽極・グリッド電極(ebc)を50Vppとして、Duとパルス幅tpとを変えて発光効率特性を測定した。
なお、発光効率は輝度を測定して、パルス幅tpが250μsecの輝度の値を100として、その相対値で表した。
【0018】
図5〜図12に示すように、蛍光体がSrTiO3:Pr(図5)、Gd22S:Eu(図6)、CaTiO3:Pr(図7)、ZnS:Mn(図8)、ZnGa24:Mn(図9)、ZnGa24(図10)、Y22S:Eu(図11)の場合、パルス幅が短くなると発光効率が大幅に向上する。また、陽極・グリッド電極(ebc)が35Vppの場合の一例としてZnS:Mnの例を図12に示すが、陽極・グリッド電極(ebc)が50Vppよりも低い35Vppにおいても、パルス幅が短くなると発光効率が大幅に向上する。
【0019】
一方、図13〜図16に示すように、蛍光体がZnO:Zn(図13)、ZnS:Zn(図14)、ZnS:Cu,Al(図15)、ZnCdS:Ag(CdS、70重量%)(図16)ではパルス幅が短くなっても発光効率は向上しないで、パルス幅依存性がみられない。この傾向は陽極・グリッド電極(ebc)が35Vppにおいても同様であった。
【0020】
上記図5〜図16に示す測定において、パルス幅(周期)は変更しているが、陽極・グリッド電極(ebc)とDuとは同じであるため、蛍光体へ流れ込む電流(陽極電流)は略一定である。したがって、発光効率の依存性は輝度の依存性と同じである。ZnO:Zn蛍光体における陽極電流のパルス幅依存性を図17に、ZnS:Mn蛍光体における陽極電流のパルス幅依存性を図18にそれぞれ示すが、いずれも陽極電流はパルス幅に依存していない。
【0021】
ダイナミック駆動において、パルス幅tpを短くすると発光効率が上昇する蛍光体と、パルス幅依存性を示さない蛍光体とを比較すると、前者は主に遷移金属イオン発光中心および希土類イオン発光中心の少なくとも1つの発光中心を有する局在形発光中心を有する蛍光体であり、後者は非局在形発光中心を有する蛍光体であることが分かる。
【0022】
また、上記両蛍光体に図19に示す入力波形のパルス電圧を印加して、蛍光体の輝度が飽和された後に該電圧印加停止後の飽和輝度値の低下傾向を調査した結果を表1および表2に示す。
図19は、蛍光表示管の陽極にパルス電圧を印加したときの蛍光体の発光の立上がり時間tおよび電圧印加停止後の立下り時間tを示す図である。入力波形は陽極・グリッド電極(ebc)が50Vpp、パルス幅tが1msecで、飽和輝度値の10%に低下する時間を「立下り時間t」として測定した。
【0023】
【表1】

【表2】

【0024】
表2に示すように、パルス幅依存性を示さない蛍光体群の立下り時間が100μsec以下であるのに対して、表1に示すように、パルス幅tpを短くすると発光効率が上昇する蛍光体群の立下り時間は最低でも290μsecである。
本発明に使用できる蛍光体は、ダイナミック駆動の同一Duにおいてパルス幅が短くなると輝度が向上する蛍光体であり、かつ立下り時間が100μsecをこえる蛍光体であり、好ましくは立下り時間が200μsec以上の蛍光体であり、より好ましくは立下り時間が290μsec以上の蛍光体である。そして、そのような特性を示す蛍光体は、主に遷移金属イオン発光中心および希土類イオン発光中心の少なくとも1つの発光中心を有する局在形発光中心を有する蛍光体である。発光中心としては、Mnイオン、Prイオン、Euイオン、またはTbイオンであることが好ましい。
【0025】
具体例としては、ZnS:Mn蛍光体(橙)、ZnGa24:Mn(緑)、SrTiO3:Pr(赤)、CaTiO3:Pr(赤)、Gd22S:Eu(赤)、Y22S:Eu(赤)、Y23:Eu(赤)、ZnGa24(青)、La22S:Eu(赤)、SnO2:Eu(橙)、Zn2SiO4:Mn(緑)、Gd22S:Tb(緑)、CaS:Mn(橙)等を挙げることができる。
【0026】
本発明に使用できる蛍光体は、電子線励起領域内における発光中心の数が少ないことや励起状態から基底状態への遷移確率が低いために、長いパルス幅tpでは励起・発光過程が飽和傾向となり輝度(発光効率)が低下する。反対に短いパルス幅tpにすると相対的に輝度(発光効率)が上がるものと考えられる。
【0027】
本発明のダイナミック駆動は、Duが同一の条件下において、パルス幅tpが短くなると輝度が向上する上記蛍光体群を用いる。パルス幅が短くなると輝度が向上するので、このような蛍光体を用いて、初期輝度を維持する方向に、駆動時間の経過とともにパルス幅tpおよびパルスの繰返し周期Tを可変とする。
蛍光体の輝度は駆動時間の経過とともに低下することが多いため、具体的には、駆動時間の経過とともにパルス幅tpおよびパルスの繰返し周期Tを駆動開始時のtpおよびTよりも短くする。
【0028】
pおよびTを短くすることは、Duの同一性を維持しながら行なう。また、陽極電圧およびグリッド電圧を駆動開始時の両電圧を維持したまま行なう。
駆動時間の経過とともにtpおよびTを短くするには、例えば蛍光表示管の駆動回路内に設けられた不揮発性メモリに駆動累積時間を積算保持し、蛍光体の種類および点灯割合などを考慮し所定の時間経過後にコントローラによってパルス幅および周期が変更されるよう公知の方法で設定することができる。
これらの条件とすることにより、本発明のダイナミック駆動は、蛍光体に衝突する電子のエネルギーの増大や電子数の増加、および消費電力の増大をもたらすことなく、初期輝度を維持する方向に輝度の補正をすることができる。さらに、電子のエネルギーの増大や電子数の増加をもたらすことがないので、蛍光体の劣化が加速されることはなく蛍光表示管の寿命が向上する。また、消費電力も増加しない。
【実施例】
【0029】
実施例1および比較例1
蛍光表示管のカーボン陽極上にZnS:Mn(橙)にIn23を10重量%添加した蛍光体を塗布後、公知の蛍光表示管製造工程で管球化を行なった。
得られた蛍光表示管を用いて陽極・グリッド電極(ebc)が50Vppで、Duが1/60の条件で点灯して輝度維持率を測定した。結果を図20に示す。
比較例1は、従来の駆動方法であり、パルス幅tpを250μs、および繰り返し周期Tを15msecに固定して蛍光表示管の輝度維持率を測定した。
実施例1は、点灯開始時のパルス幅tpを250μs、および繰り返し周期Tを15msecとしたが、点灯時間の経過とともに、Duが1/60の条件を維持して、tpおよびTをそれぞれ短くした。各時間経過後に変更したtpおよびTの値を表3に示す。
図20に示すように、比較例1が初期輝度を大きく低下させているのに比較して、実施例1は初期輝度を維持することができた。
また、点灯開始してから170時間後では、輝度維持率が比較例1の87%から97%に、530時間後では同79%から102%に、1000時間後では同75%から95%にそれぞれ実施例1の輝度維持率は改善された。
【0030】
実施例2および比較例2
蛍光表示管のカーボン陽極上にCaTiO3:Pr(赤)にIn23を10重量%添加した蛍光体を塗布後、公知の蛍光表示管製造工程で管球化を行なった。
得られた蛍光表示管を用いて陽極・グリッド電極(ebc)が50Vppで、Duが1/60の条件で点灯して輝度維持率を測定した。結果を図21に示す。
比較例2は、従来の駆動方法であり、パルス幅tpを250μs、および繰り返し周期Tを15msecに固定して蛍光表示管の輝度維持率を測定した。
実施例2は、点灯開始時のパルス幅tpを250μs、および繰り返し周期Tを15msecとしたが、点灯時間の経過とともに、Duが1/60の条件を維持して、tpおよびTをそれぞれ短くした。各時間経過後のtpおよびTの値を表3に示す。
図21に示すように、比較例2が初期輝度を大きく低下させているのに比較して、実施例2は初期輝度の低下が少なかった。
また、点灯開始してから48時間後では、輝度維持率が比較例2の75%から91%に、170時間後では、輝度維持率が比較例2の60%から84%に、530時間後では同52%から80%に、1000時間後では同46%から80%にそれぞれ実施例2の輝度維持率は改善された。
【0031】
実施例3および比較例3
蛍光表示管のカーボン陽極上にGd22S:Eu(赤)にIn23を14重量%添加した蛍光体を塗布後、公知の蛍光表示管製造工程で管球化を行なった。
得られた蛍光表示管を用いて陽極・グリッド電極(ebc)が50Vppで、Duが1/60の条件で点灯して輝度維持率を測定した。結果を図22に示す。
比較例3は、従来の駆動方法であり、パルス幅tpを250μs、および繰り返し周期Tを15msecに固定して蛍光表示管の輝度維持率を測定した。
実施例3は、点灯開始時のパルス幅tpを250μs、および繰り返し周期Tを15msecとしたが、点灯時間の経過とともに、Duが1/60の条件を維持して、tpおよびTをそれぞれ短くした。各時間経過後のtpおよびTの値を表3に示す。
図22に示すように、比較例3が初期輝度を大きく低下させているのに比較して、実施例3は初期輝度を維持することができた。
また、点灯開始してから48時間後では、輝度維持率が比較例3の92%から100%に、170時間後では、輝度維持率が比較例3の80%から96%に、530時間後では同69%から96%に、1000時間後では同57%から94%にそれぞれ実施例3の輝度維持率は改善された。
【0032】
実施例4および比較例4
蛍光表示管のカーボン陽極上にSrTiO3:Pr(赤)にIn23を10重量%添加した蛍光体を塗布後、公知の蛍光表示管製造工程で管球化を行なった。
得られた蛍光表示管を用いて陽極・グリッド電極(ebc)が50Vppで、Duが1/60の条件で点灯して輝度維持率を測定した。結果を図23に示す。
比較例4は、従来の駆動方法であり、パルス幅tpを250μs、および繰り返し周期Tを15msecに固定して蛍光表示管の輝度維持率を測定した。
実施例4は、点灯開始時のパルス幅tpを250μs、および繰り返し周期Tを15msecとしたが、点灯時間の経過とともに、Duが1/60の条件を維持して、tpおよびTをそれぞれ短くした。各時間経過後のtpおよびTの値を表3に示す。
図23に示すように、比較例4が初期輝度を大きく低下させているのに比較して、実施例4は初期輝度の低下が少なかった。
また、点灯開始してから48時間後では、輝度維持率が比較例4の77%から104%に、170時間後では、輝度維持率が比較例4の52%から83%に、530時間後では同39%から70%に、1000時間後では同32%から63%にそれぞれ実施例4の輝度維持率は改善された。
【0033】
実施例5および比較例5
蛍光表示管のカーボン陽極上にZnGa24:Mn(緑)にIn23を10重量%添加した蛍光体を塗布後、公知の蛍光表示管製造工程で管球化を行なった。
得られた蛍光表示管を用いて陽極・グリッド電極(ebc)が50Vppで、Duが1/60の条件で点灯して輝度維持率を測定した。結果を図24に示す。
比較例5は、従来の駆動方法であり、パルス幅tpを250μs、および繰り返し周期Tを15msecに固定して蛍光表示管の輝度維持率を測定した。
実施例5は、点灯開始時のパルス幅tpを250μs、および繰り返し周期Tを15msecとしたが、点灯時間の経過とともに、Duが1/60の条件を維持して、tpおよびTをそれぞれ短くした。各時間経過後のtpおよびTの値を表3に示す。
図24に示すように、比較例5が初期輝度を大きく低下させているのに比較して、実施例5は初期輝度を維持することができた。
また、点灯開始してから48時間後では、輝度維持率が比較例5の88%から96%に、170時間後では、輝度維持率が比較例5の85%から102%に、1000時間後では同72%から97%にそれぞれ実施例5の輝度維持率は改善された。
【0034】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の駆動方法は、蛍光表示管の消費電力の低減および長寿命化ができるので、輝度飽和が顕著な蛍光体を用いた蛍光表示管に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 蛍光表示管
2 ガラス基板
3 配線層
4 絶縁層
5 陽極電極
6 蛍光体層
7 陽極基板
8 グリッド
9 陰極
10 フェースガラス
11 スペーサガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低速電子線励起下で陽極電極上に形成された蛍光体層をダイナミック駆動により表示する蛍光表示管の駆動方法であって、
前記蛍光体層に含まれる蛍光体は、前記ダイナミック駆動において、デューティサイクルを同一とする条件下でパルス幅が短くなると輝度が向上する蛍光体であり、かつ前記陽極電極に電圧が印加され、蛍光体の輝度が飽和された後に該電圧印加停止後の前記飽和輝度値の10%輝度値に低下する時間が200μsec以上の蛍光体であり、
前記ダイナミック駆動は、前記蛍光体の初期輝度を維持する方向に、駆動時間の経過とともにパルス幅およびパルスの繰返し周期を可変とすることを特徴とする蛍光表示管の駆動方法。
【請求項2】
前記パルス幅およびパルスの繰返し周期を可変とすることは、陽極電圧、グリッド電圧およびデューティサイクルを駆動開始時の値を維持しながら行なうことを特徴とする請求項1記載の蛍光表示管の駆動方法。
【請求項3】
前記蛍光体が局在形発光中心を有する蛍光体であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の蛍光表示管の駆動方法。
【請求項4】
前記蛍光体が遷移金属イオン発光中心および希土類イオン発光中心の少なくとも1つの発光中心を有する蛍光体であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の蛍光表示管の駆動方法。
【請求項5】
前記発光中心がMnイオン、Prイオン、Euイオン、またはTbイオンであることを特徴とする請求項4記載の蛍光表示管の駆動方法。
【請求項6】
前記蛍光体がZnS:Mn、ZnGa24:Mn、SrTiO3:Pr、CaTiO3:Pr、Gd22S:Eu、Y22S:Eu、ZnGa24、Gd22S:Tb、Y23:Eu、La22S:Eu、SnO2:Eu、Zn2SiO4:Mn、および、CaS:Mnから選ばれた少なくとも1つの蛍光体であることを特徴とする請求項5記載の蛍光表示管の駆動方法。
【請求項7】
真空容器内に形成された蛍光体層に低速電子線を射突させて発光させる蛍光表示管であって、
前記蛍光体層がZnS:Mn、ZnGa24:Mn、SrTiO3:Pr、CaTiO3:Pr、Gd22S:Eu、Y22S:Eu、ZnGa24、Gd22S:Tb、Y23:Eu、La22S:Eu、SnO2:Eu、Zn2SiO4:Mn、および、CaS:Mnから選ばれた少なくとも1つの蛍光体を含み、
前記蛍光体層は、同一デューティサイクルを維持しながら、駆動時間の経過とともにパルス幅およびパルスの繰返し周期を短くするダイナミック駆動方式で発光表示されることを特徴とする蛍光表示管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2010−181517(P2010−181517A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23293(P2009−23293)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000117940)ノリタケ伊勢電子株式会社 (38)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】