説明

蛍光観察又は蛍光測光システム、及び蛍光観察又は蛍光測光方法

【課題】高精度、高品質な蛍光観察、蛍光計測、更には微弱蛍光の観察や計測が可能な標本保持部材を用いた蛍光観察システム、蛍光測光システム、蛍光観察方法、及び蛍光測光方法を提供する。
【解決手段】低蛍光な標本保持部材を用いてなる蛍光観察又は蛍光測光システムであって、前記低蛍光な標本保持部材が次の条件式を満足する。
BSG'/BSG≦0.6
但し、BSG'は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光観察又は蛍光測光システム、及び蛍光観察又は蛍光測光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の顕微鏡分野、蛍光顕微鏡分野、タンパク質・DNA解析装置分野などにおける測定機器と装置の発展によって、これらの分野における観察・計測の傾向が変化している。その傾向の変化として次の2つの大きな流れがある。
【0003】
一つの流れは、固定細胞の観察・計測から生細胞の観察・計測といった観察・計測対象の変化である。ポストゲノムの時代となり、蛍光色素一分子蛍光測定、蛍光色素の多色化による生体機能の同時解析など、微弱な蛍光を広帯域で正確に観察・計測する技術の重要性が増している。最先端のリサーチ分野では、生体の機能解明やタンパク質の挙動解析・相互作用の解析などを目的として、細胞を生かしたまま、長時間(数日から数週間)に亘り観察し続けるというニーズが高まり、そうした観察を実施する手法が種々提案されている。細胞の観察手法としては、蛍光タンパク質を所望の細胞に発現させたり、蛍光色素を導入したりして、その蛍光を観察する手法が主流である。さらに、究極の微弱蛍光観察といえる一分子蛍光観察などがあり、より一層微弱な蛍光の観察・計測が求められている。しかしながら、蛍光観察において蛍光物質を励起する光(励起光)の強度が強すぎると細胞にダメージを与える。このため、細胞を長時間生かし続けるためには、励起光強度をできるだけ弱くする必要がある。一方、蛍光物質に励起光を照射し続けると、その蛍光が次第に褪色していくことも良く知られている。従って、弱い励起光を照射することによって、褪色を抑制しつつ微弱な蛍光をS/N比よく観察できるようにすることは非常に有用である。
【0004】
しかし、励起光を弱めると、それにつれて蛍光強度も弱くなるから、S/N比の高い蛍光画像を得ることが困難となる。即ち、蛍光が微弱であればあるほど、ノイズの影響が大きくなって、S/N比が下がる。ここで、ノイズとは主に光学系や試料からの自家蛍光などを含むものとする。
【0005】
もう一つの流れは、従来の顕微鏡装置のように観察機能のみの装置から、蛍光強度、波長、被検出物の局在などを計測して定量化する機能を備えた装置への変化である。この場合、ノイズも含めた正確な定量性が要求される。
【0006】
ところで、従来の蛍光観察装置及び蛍光計測装置として、例えば、次の特許文献1,2に記載のものが提案されている。
【特許文献1】特開平08−320437号公報
【特許文献2】特開平08−178849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1や特許文献2に開示されているような、従来の蛍光観察装置や蛍光計測装置は、蛍光観察における像の見えのよさや、蛍光測定における定量性に関して、装置に用いられている光学素子に含まれる不純物(特に、白金コロイド)から発した自家蛍光や、標本保持部材から発した自家蛍光や、低屈折率オイルから発した自家蛍光によるノイズの影響を受け易いものであった。
【0008】
また、従来の蛍光顕微鏡を用いた蛍光検出システムにおいて、検出器で検出される信号は、所望の深度からの蛍光のみならず、蛍光顕微鏡観察に使用する対物レンズやイマージョン物質など光学系や試料から発した自家蛍光も含まれ、これらすべてがノイズ源となり、結果的にS/N比を大きく低下させる原因となっていた。
【0009】
高倍率・高NAの油浸対物レンズを用いて蛍光観察する場合、イマージョン物質として、対物レンズと試料との間に、水よりも自家蛍光の大きなイマージョン物質を充填する必要がある。一分子蛍光観察など微弱な蛍光を検出する際には、これらのノイズの寄与が大きくなるため、S/N比の劣化が顕著となっていた。
【0010】
また、本発明者は、これらの自家蛍光によるノイズの問題に対処すべく、特願2006−175495号、特願2006−175496号に記載の蛍光観察又は蛍光計測システム、蛍光観察又は蛍光測光方法を発明した。
しかし、これらの発明は、それぞれカバーガラス、イマージョン物質の自家蛍光に着目したものであり、自家蛍光発生源として標本保持部材(例えば、スライドガラス)を考慮していないものであった。
微弱な蛍光をより高S/N比で観察・計測できるようにするためには、標本保持部材の自家蛍光も低減することが望まれる。
【0011】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、自家蛍光によるノイズの影響を低減でき、高精度、高品質な蛍光観察、蛍光計測が可能で、更には微弱蛍光の観察や計測が可能な蛍光観察システム、蛍光測光システム、蛍光観察方法、及び蛍光測光方法を提供することを目的とする。
【0012】
より詳しくは、本発明は、高精度、高品質な蛍光観察、蛍光計測、更には微弱蛍光の観察や計測が可能な標本保持部材を用いた蛍光観察システム、蛍光測光システム、蛍光観察方法、及び蛍光測光方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明による蛍光観察又は蛍光測光システムは、低蛍光な標本保持部材を用いてなる蛍光観察又は蛍光測光システムであって、前記低蛍光な標本保持部材が次の条件式(1-1)を満足することを特徴としている。
BSG'/BSG≦0.6 …(1-1)
但し、BSG'は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0014】
また、本発明による蛍光観察又は蛍光測光方法は、次の工程(A),(B),(C)からなることを特徴としている。
(A)生細胞を用いた蛍光を発する試料を選択する工程。
(B)前記工程(A)で選択した試料を観察又は測光するためのアプリケーション、及び次の条件式(1-1)を満足する低蛍光な標本保持部材を用いてなる蛍光観察又は蛍光測光システムを選択する工程。
(C)前記工程(B)で選択したアプリケーション及びシステムを用いて、前記工程(A)で選択した試料を蛍光観察又は蛍光測光する工程。
BSG'/BSG≦0.6 …(1-1)
但し、BSG'は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0015】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法においては、前記工程(A)で選択する生細胞を用いた蛍光を発する試料が、次の条件式(2-1),(3-1)の少なくとも一方を満足することが好ましい。
(S−s)/(B+b)≦5 …(2-1)
4BSG/B≧0.2 …(3-1)
但し、Sは前記試料が発する蛍光の強度の平均値、sは該蛍光の強度の揺らぎ幅、Bは試料が存在しない背景ノイズの強度の平均値、bは該背景ノイズの強度の揺らぎ幅、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0016】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法においては、前記工程(B)で選択したアプリケーションがFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法においては、前記工程(B)で選択したアプリケーションがカルシウムイオンイメージングであることが好ましい。
【0018】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法においては、前記工程(B)で選択したアプリケーションが動画観察又はタイムラプス観察であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法においては、前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることが好ましい。
【0020】
また、本発明による全反射照明蛍光観察又は蛍光計測システムは、コンデンサレンズを用いてレーザ光を低蛍光な標本保持部材の底面で全反射するように照明し、この全反射照明によって標本保持部材に保持された標本から発する蛍光を、前記コンデンサレンズと対峙して設けられた対物レンズで検出する全反射照明蛍光観察又は蛍光測光システムであって、前記低蛍光な標本保持部材が次の条件式(1-1')を満足することを特徴としている。
BSG’/BSG≦0.89 …(1-1')
但し、BSG’は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0021】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光計測システムにおいては、前記低蛍光な標本保持部材がガラスシャーレまたはガラスボトムディッシュであることが好ましい。
【0022】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光計測システムにおいては、前記低蛍光な標本保持部材がスライドガラスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、自家蛍光によるノイズの影響を低減でき、高精度、高品質な蛍光観察、蛍光計測が可能で、更には微弱蛍光の観察や計測が可能な蛍光観察システム、蛍光測光システム、蛍光観察方法、及び蛍光測光方法が得られる。
より詳しくは、本発明によれば、高精度、高品質な蛍光観察、蛍光計測、更には微弱蛍光の観察や計測が可能な標本保持部材を用いた蛍光観察システム、蛍光測光システム、蛍光観察方法、及び蛍光測光方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
実施例の説明に先立ち、本発明を想到するに至った経緯を説明する。
(試料の明るさに着目した蛍光画像S/N比のランク分け)
まず、本発明者は、高精度、高品質な蛍光観察、蛍光測光、更には微弱蛍光観察や微弱蛍光測光などのアプリケーション(検鏡法)が可能な蛍光観察装置及び蛍光測光装置に要求されるノイズレベルに関して、観察・測光に用いられる試料ごとに後述する如くランク分けすることを試みた。
ここで、ランク分けに用いる式を定義する。被観察物(又は被測光物)の蛍光強度の平均値をS、背景(観察領域において被観察物、又は被測光物が存在しない部分)の自家蛍光の強度の平均値をB、それらの強度の揺らぎをそれぞれs,bとしたとき、アプリケーションのS/N比を次式(2-0)により定義した。
(S−s)/(B+b) …(2-0)
【0025】
(1)一分子蛍光観察
まず、最も自家蛍光の影響を受けやすい試料として、いわゆる一分子蛍光観察のS/N比について考察した。一分子蛍光観察では、観察光学系または測光光学系の自家蛍光が主たるノイズ成分である。一分子蛍光観察では、S/N比は次の条件式(2-3)を満たす。
(S−s)/(B+b)≦2 …(2-3)
【0026】
(2)暗い試料の蛍光観察
次に、生細胞を用いた蛍光観察(又は測光)について考察した。生細胞観察では、細胞の活性を長時間に亘って維持する必要がある。一般に、細胞へのダメージを軽減するため、蛍光物質の量を少なくすることや、励起光の生細胞への照射強度を弱めることが行われる。したがって、蛍光の強度も小さくなり易い傾向にある。暗い試料の蛍光観察ではS/N比は次の条件式(2-2)を満たす。
(S−s)/(B+b)≦3 …(2-2)
【0027】
(3)通常の明るさの試料の蛍光観察
最後に、一般的な固定細胞を用いた蛍光観察(又は測光)、あるいは、生細胞を用いた蛍光観察のうち、蛍光強度が強い場合について考察した。固定細胞の場合、細胞の活性を維持する必要がないため、蛍光物質の濃度を高くしたり、励起光強度を強めたりすることができる。従って、蛍光強度を高めることができる。また、生細胞を用いる場合でも、活性を維持する期間が短くてもよい場合や、細胞への影響が少ない部位に蛍光タンパクを発現させる場合などもこれに該当する。この場合、S/N比は次の条件式(2-1)を満たす。
(S−s)/(B+b)≦5 …(2-1)
【0028】
以上のように、本発明者は、蛍光観察(又は測光)に用いられている試料の明るさについて、アプリケーションのS/N比に応じて3つに分類した。
【0029】
(アプリケーションの種類)
次に、本発明者は、これらの試料を蛍光観察(又は測光)するためのアプリケーションの種類について考察した。
【0030】
(1)FRET観察
蛍光試料を観察又は測光する手法として、良く利用される手法の一つにFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)がある。
FRETはドナー物質とアクセプタ物質の2つの蛍光物質を用い、ドナー物質の蛍光波長とアクセプタ物質の励起波長とが略一致するようにしている。そのため、FRETにおける励起光の波長は、アクセプタ物質を単独で用いる場合の励起光の波長よりも、短波長側に離れている。一方、観察または測光光学系の自家蛍光は、励起光の波長が短くなるほど強くなる傾向を有する。従って、FRETでは、同じ蛍光波長を観察または測光する場合であっても、観察または測光光学系からの自家蛍光が大きくなるという問題がある。
【0031】
(2)カルシウムイオンイメージング
また、細胞内、あるいは、細胞間の信号の伝達に大きな役割を果たしている物質にカルシウムイオンがある。このカルシウムイオンの濃度勾配や濃度の変化を観察、測光することは細胞の機能解明において極めて重要である。カルシウムイオンの濃度を検出する場合によく用いられる試薬として、Fura-2、Indo-1がある。これらの試薬には励起光として波長300〜400nmのUV光が利用される。そのため、観察または測光光学系からの自家蛍光が大きくなるという問題があった。近年、UV光を用いないCameleonという蛍光試薬が提供されているが、Cameleonは上述のFRETを応用した試薬であるため、FRETと同様の問題が起こる。
【0032】
(3)動画、タイムラプス観察
細胞膜上の一分子を観察する場合や、前記FRET、カルシウムイオンイメージングにおいては、その強度の比だけでなく、強度比の時間変化を調べることが重要である。変化のスピードが速い場合には、ビデオレートあるいはそれ以上の高速度カメラによる動画観察が行われる。動画観察の場合、変化の速い現象を検出するため、1コマ当たりのカメラの露光時間が必然的に短くなり、蛍光の輝度レベルが低くなる。従って、動画観察では、一般的な蛍光観察または測光に比べて蛍光が弱いため、S/N比の良い画像データを得ることが難しい。
一方、変化のスピードが遅い場合には、数時間から数日にわたり間欠的に観察を続けるタイムラプス観察が行われる。タイムラプス観察においては、細胞の活性を長時間にわたって維持する必要があるため、試料細胞へ照射する励起光の強度を可能な限り小さくすることが要求される。このため、タイムラプス観察では、一般的な蛍光観察または測光に比べて、蛍光が弱いため、S/N比の良い画像データを得ることが難しい。
【0033】
以上述べたように、蛍光試料を観察する種々のアプリケーションにおいても、アプリケーションに応じたS/N比劣化要因が存在する。
実際には、上記条件式(2-1)〜(2-3)の少なくともいずれかの明るさの条件に当てはまる試料と、上記(1)〜(3)の各アプリケーションとの組み合わせによって蛍光観察または蛍光測光が行われており、S/N比も上記条件式(2-1)〜(2-3)と前記アプリケーション(1)〜(3)との組み合わせに応じて決まる。
【0034】
(自家蛍光の割合の調査)
次に、本発明者は、従来の一般的な対物レンズ、イマージョン物質、標本保持部材を用いた顕微鏡や測光装置などの光学システムにおける各々の自家蛍光の割合を調べた。
なお、本発明における標本保持部材とは、蛍光観察標本を顕微鏡ステージ上に保持するための光学部材であって、かつ、結像性能には影響しないが、そこで発生する自家蛍光が蛍光観察画像に影響を与える部材を指す。具体的には、スライドガラスや、後述する実施例2に示すようにガラスシャーレやガラスボトムディッシュなどが含まれ、スライドガラスのみに限定されるものではない。
【0035】
蛍光顕微鏡システムにおけるノイズは、試料からの自家蛍光と、光学系からの自家蛍光とに大別できる。本発明者は、正立顕微鏡BX51(OLYMPUS(株)製)を用いて測定した場合において、ノイズ成分のうち、試料からの自家蛍光と、光学系からの自家蛍光との割合を調査した。
【0036】
光源から発した光はフィルタ(例えばU-MWIB3(OLYMPUS(株)製)のフィルタユニット)により、観察目的に応じた適切な波長が選択され、照明光学系を通り、励起光として試料に照射される。その際、照明光学系中に配置された対物レンズ、イマージョン物質、標本保持部材や、試料と一緒に封入されている物質が励起され、ノイズとなる自家蛍光を発する。本発明者は、この自家蛍光の量を、観察光学系に取り付けられたフォトマルチプライヤ(浜松ホトニクス(株)製)や冷却CCDであるCoolSNAP HQ(Photometrics社製)などの検出器を用いて測定した。
【0037】
まず、通常の落射蛍光観察方法で試料の背景からの自家蛍光を測定し、次に試料を除いた状態で同測定を行う。これらの値の差が試料からの自家蛍光であり、残りが光学系からの自家蛍光として算出される。
算出されたノイズのうち、試料からの自家蛍光は、例えば、後述する如く試料の洗浄法や、試料作製条件によって大きく変動することが判明した。その結果、本発明者は、試料の作製条件により、試料からの自家蛍光のノイズのノイズ全体に及ぼす影響の度合の傾向が大きく3つに分類できることを見出した。これをノイズ全体に対する光学系からの自家蛍光のノイズの割合で示すと、次のように表すことができる。
普通の(洗浄しない)試料
(光学系からの自家蛍光のノイズ)/B≧0.2 …(3'-1)
洗浄した試料
(光学系からの自家蛍光のノイズ)/B≧0.4 …(3'-2)
極めて綺麗に洗浄した試料
(光学系からの自家蛍光のノイズ)/B≧0.6 …(3'-3)
但し、上記条件式(3'-1)〜(3'-3)において、Bは背景(観察領域において被観察物、又は被測光物が存在しない部分)の自家蛍光の強度の平均値である。
上記条件式(3'-1)〜(3'-3)において、下限値が大きいほど光学系からの自家蛍光のノイズの占める割合が大きくなり、光学系からの自家蛍光を改善すれば、その効果がより顕著に現れる。
【0038】
S/N比向上のためには光学系からの自家蛍光のノイズの内訳を知る必要がある。そこで、本発明者は、対物レンズとイマージョン物質と標本保持部材のそれぞれのノイズ(自家蛍光)値の割合を調査した。測定方法は、上述した試料からの自家蛍光と光学系からの自家蛍光の割合を調査したときと同様の方法を用いた。
【0039】
まず、照明光学系に対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材を適切に配置した状態(実使用状態)で検出される自家蛍光量を測定する。その後、カバーガラスを光学系から除いて測定、次にイマージョンオイルを光学系から除いて測定、さらに標本保持部材を光学系から除いた状態での自家蛍光を測定し、それぞれの値の差分を取ることによって、対物レンズ、イマージョンオイル、カバーガラス、標本保持部材のそれぞれからの自家蛍光値を求めた。
UPLSAPO60XO(OLYMPUS(株)製),イマージョンオイル(OLYMPUS(株)製),カバーガラス(松浪ガラス工業(株)製),標本保持部材の一例として一般的に用いられるスライドガラス(松浪ガラス工業(株)製)のそれぞれからの自家蛍光値について測定したところ、対物レンズとイマージョンオイルとカバーガラスとスライドガラスの自家蛍光値は同程度であった。
また、さらに対物レンズを光学系から除いた状態での自家蛍光を測定し、対物レンズが光学系に配置されている状態での自家蛍光の測定値との差分を取ることによって、その他の光学部材の自家蛍光値を求めたところ、照明光学系に対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材を適切に配置した状態(実使用状態)で検出される自家蛍光量の1割程度であった。
従って、光学システムの観察光学系(又は測光光学系)全体のノイズに占める各々の自家蛍光は、対物レンズが約20〜25%、イマージョン物質が約20〜25%、カバーガラスが約20〜25%、標本保持部材が20〜25%、対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材の合計では約9割、その他が約1割弱であると見積もれる。
【0040】
従って、微弱蛍光観察(又は測光)において、対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材からの自家蛍光は、S/N比の低下につながり、システム全体の検出性能を高めることができる。
【0041】
しかるに、本発明者は、S/N比を5%向上するためには、対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材の4つの自家蛍光成分のうち少なくとも一つを40%低減、又はこれら4つの自家蛍光を全体で10%低減させる必要があることを見出した。
【0042】
なお、コンデンサレンズを用いてレーザ光を低蛍光な標本保持部材の底面で全反射するように照明し、この全反射照明によって標本保持部材に保持された標本から発する蛍光を、そのコンデンサレンズと対峙して設けられた対物レンズで検出する全反射照明蛍光観察又は蛍光測光システムにおいては、照明光が対物レンズやカバーガラスを通らないで標本保持部材に入射する。また、標本保持部材と標本との界面で全反射するときに標本へ向けて僅かに染み出したエバネッセント波によって標本を励起する。このため、このようなコンデンサレンズを用いた全反射顕微鏡観察では、標本の極く近傍で発光された蛍光を拾うのみであって、対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラスの全体のノイズに占める各々の自家蛍光は、略ゼロに近くなり、像の見え等に影響する光学系からのノイズの殆どは標本保持部材の自家蛍光成分が占めることになる。
従って、この場合には、標本保持部材の自家蛍光を10%低減させれば、S/N比を5%向上するために必要な「対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材の4つの自家蛍光を全体で10%低減させること」ができる。
【0043】
これらのことから、本発明者は、試料、アプリケーション、またその組み合わせにおけるS/N比と、S/N比を向上するために必要な条件を精査し、本発明を完成するに至った。
【0044】
即ち、本発明の蛍光観察又は蛍光測光システムは、低蛍光な標本保持部材を用いてなる蛍光観察又は蛍光測光システムであって、前記低蛍光な標本保持部材が次の条件式(1-1)を満足する。
BSG’/BSG≦0.6 …(1-1)
但し、BSG’は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
上記条件式(1-1)の上限値は、上述した「S/N比を5%向上するためには、対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材の4つの自家蛍光成分のうち少なくとも一つを40%低減させる必要がある」ということより導出したものである。
【0045】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光システムにおいては、次の条件式(1-2)を満足するのがより好ましい。
BSG’/BSG≦0.45 …(1-2)
但し、BSG’は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
さらには、本発明の蛍光観察又は蛍光測光システムにおいては、次の条件式(1-3)を満足するのがより一層好ましい。
BSG’/BSG≦0.3 …(1-3)
但し、BSG’は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0046】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法は、次の工程(A),(B),(C)からなる。
(A)生細胞を用いた蛍光を発する試料を選択する工程。
(B)前記工程(A)で選択した試料を観察又は測光するためのアプリケーション、及び次の条件式(1-1)を満足する低蛍光な標本保持部材を用いてなる蛍光観察又は蛍光測光システムを選択する工程。
(C)前記工程(B)で選択したアプリケーション及びシステムを用いて、前記工程(A)で選択した試料を蛍光観察又は蛍光測光する工程。
BSG’/BSG≦0.6 …(1-1)
但し、BSG’は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
上記条件式(1-1)の上限値は、上述した「S/N比を5%向上するためには、対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材の4つの自家蛍光成分のうち少なくとも一つを40%低減させる必要がある」ということより導出したものである。
【0047】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法においては、前記工程(B)で用いる前記低蛍光な標本保持部材が次の条件式(1-2)を満足するのがより好ましい。
BSG’/BSG≦0.45 …(1-2)
但し、BSG’は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
さらには、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法においては、前記工程(B)で用いる前記低蛍光な標本保持部材が次の条件式(1-3)を満足するのがより一層好ましい。
BSG’/BSG≦0.3 …(1-3)
但し、BSG’は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0048】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法においては、前記工程(A)で選択する生細胞を用いた蛍光を発する試料が、次の条件式(2-1),(3-1)の少なくとも一方を満足するのが好ましい。
(S−s)/(B+b)≦5 …(2-1)
4BSG/B≧0.2 …(3-1)
但し、Sは前記試料が発する蛍光の強度の平均値、sは該蛍光の強度の揺らぎ幅、Bは試料が存在しない背景ノイズの強度の平均値、bは該背景ノイズの強度の揺らぎ幅、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
上記条件式(2-1)の上限値は、上述した試料の明るさのランク分けにおける「通常の明るさの試料」を蛍光観察・蛍光測光する場合に求められるアプリケーションのS/N比に対応させたものである。
上記上限式(3-1)の下限値は、上述したノイズ全体に対する光学系からの自家蛍光のノイズの割合における「普通の(洗浄しない)試料」についての条件式(3'-1)に対応させたものである。また、上記条件式(3-1)の左辺は、上述した「光学システムの観察光学系(又は測光光学系)全体のノイズに占める各々の自家蛍光は、対物レンズが約20〜25%、イマージョン物質が約20〜25%、カバーガラスが約20〜25%、標本保持部材が20〜25%、対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材の合計では約9割」を占め、対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材のそれぞれの光学系全体に占めるノイズの割合が同じであること、及び条件式(3'-1)より、光学系からの自家蛍光のノイズのうちの対物レンズ、イマージョン物質及びカバーガラスの自家蛍光のノイズの割合を標本保持部材の自家蛍光のノイズの割合に置き換えることによって導出したものである。
【0049】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法においては、前記工程(A)で選択する生細胞を用いた蛍光を発する試料が、次の条件式(2-2),(3-2)の少なくとも一方を満足するのが好ましい。
(S−s)/(B+b)≦3 …(2-2)
4BSG/B≧0.4 …(3-2)
但し、Sは前記試料が発する蛍光の強度の平均値、sは該蛍光の強度の揺らぎ幅、Bは試料が存在しない背景ノイズの強度の平均値、bは該背景ノイズの強度の揺らぎ幅、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
上記条件式(2-2)の上限値は、上述した試料の明るさのランク分けにおける「暗い試料」を蛍光観察・蛍光測光する場合に求められるアプリケーションのS/N比に対応させたものである。
上記上限式(3-2)の下限値は、上述したノイズ全体に対する光学系からの自家蛍光のノイズの割合における「洗浄した試料」についての条件式(3'-2)に対応させたものである。また、上記条件式(3-2)の左辺は、上述した「光学システムの観察光学系(又は測光光学系)全体のノイズに占める各々の自家蛍光は、対物レンズが約20〜25%、イマージョン物質が約20〜25%、カバーガラスが約20〜25%、標本保持部材が20〜25%、対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材の合計では約9割」を占め、対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材のそれぞれの光学系全体に占めるノイズの割合が同じであること、及び条件式(3'-2)より、光学系からの自家蛍光のノイズのうちの対物レンズ、イマージョン物質及びカバーガラスの自家蛍光のノイズの割合を標本保持部材の自家蛍光のノイズの割合に置き換えることによって導出したものである。
【0050】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法においては、前記工程(A)で選択する生細胞を用いた蛍光を発する試料が、次の条件式(2-3),(3-3)の少なくとも一方を満足するのが好ましい。
(S−s)/(B+b)≦2 …(2-3)
4BSG/B≧0.6 …(3-3)
但し、Sは前記試料が発する蛍光の強度の平均値、sは該蛍光の強度の揺らぎ幅、Bは試料が存在しない背景ノイズの強度の平均値、bは該背景ノイズの強度の揺らぎ幅、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
上記条件式(2-3)の上限値は、上述した試料の明るさのランク分けにおける「一分子」を蛍光観察・蛍光測光する場合に求められるアプリケーションのS/N比に対応させたものである。
上記上限式(3-3)の下限値は、上述したノイズ全体に対する光学系からの自家蛍光のノイズの割合における「極めて綺麗に洗浄した試料」についての条件式(3'-3)に対応させたものである。また、上記条件式(3-3)の左辺は、上述した「光学システムの観察光学系(又は測光光学系)全体のノイズに占める各々の自家蛍光は、対物レンズが約20〜25%、イマージョン物質が約20〜25%、カバーガラスが約20〜25%、標本保持部材が20〜25%、対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材の合計では約9割」を占め、対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材のそれぞれの光学系全体に占めるノイズの割合が同じであること、及び条件式(3'-3)より、光学系からの自家蛍光のノイズのうちの対物レンズ、イマージョン物質及びカバーガラスの自家蛍光のノイズの割合を標本保持部材の自家蛍光のノイズの割合に置き換えることによって導出したものである。
【0051】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法においては、前記工程(B)で選択したアプリケーションがFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)であるのが好ましい。
【0052】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法においては、前記工程(B)で選択したアプリケーションがカルシウムイオンイメージングであるのが好ましい。
【0053】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法においては、前記工程(B)で選択したアプリケーションが動画観察又はタイムラプス観察であるのが好ましい。
【0054】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法においては、前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであるのが好ましい。
【0055】
また、本発明の蛍光観察又は蛍光測光方法においては、前記工程(B)で選択したシステムが落射蛍光システムまたは透過蛍光システムのいずれかであるのが好ましい。
【0056】
また、本発明による全反射照明蛍光観察又は蛍光計測システムは、コンデンサレンズを用いてレーザ光を低蛍光な標本保持部材の底面で全反射するように照明し、この全反射照明によって標本保持部材に保持された標本から発する蛍光を、前記コンデンサレンズと対峙して設けられた対物レンズで検出する全反射照明蛍光観察又は蛍光測光システムであって、前記低蛍光な標本保持部材が次の条件式(1-1')を満足する。
BSG’/BSG≦0.89 …(1-1')
但し、BSG’は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
上述したように、コンデンサレンズを用いてレーザ光を低蛍光な標本保持部材の底面で全反射するように照明し、この全反射照明によって標本保持部材に保持された標本から発する蛍光を、そのコンデンサレンズと対峙して設けられた対物レンズで検出する全反射照明蛍光観察又は蛍光測光システムにおいては、照明光が対物レンズ、カバーガラスを通らないで標本保持部材に入射する。また、標本保持部材と標本との界面で全反射するときに標本へ向けて僅かに染み出したエバネッセント波によって標本を励起する。このため、このようなコンデンサレンズを用いた全反射顕微鏡観察では、標本の極く近傍で発光された蛍光を拾うのみであって、対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラスの全体のノイズに占める各々の自家蛍光は、略ゼロに近くなり、像の見え等に影響する光学系からのノイズの殆どは標本保持部材の自家蛍光成分が占めることになる。
しかるに、上記条件式(1-1')の上限値は、「S/N比を5%向上するためには、対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材の4つの自家蛍光を全体で10%低減させる必要がある」、「この場合には、標本保持部材の自家蛍光を10%低減させれば、対物レンズ、イマージョン物質、カバーガラス、標本保持部材の4つの自家蛍光を全体で10%低減させることができる」ということより導出したものである。
【0057】
次に、本発明の蛍光観察システム、蛍光測光システム、蛍光観察方法、蛍光測光方法の実施形態について、図面を参照して詳述する。
実施例1及び比較例1
図1は本発明の実施例1及び比較例1にかかる蛍光観察又は蛍光測光システムに適用可能な倒立蛍光顕微鏡装置の一例として白色アーク光源を用いた落射蛍光顕微鏡装置の概略構成を示す側面図、図2は図1の落射蛍光顕微鏡装置における要部の光学構成を簡略化して示す説明図である。図3は本発明の実施例1及び比較例1にかかる蛍光観察又は蛍光測光システムに適用可能な倒立蛍光顕微鏡装置の他の例として白色アーク光源を用いた透過蛍光顕微鏡装置の概略構成を示す側面図、図4は図3の透過蛍光顕微鏡装置における要部の光学構成を簡略化して示す説明図である。
【0058】
図1に示す蛍光顕微鏡装置は、白色アーク光源1と、白色アーク光源1から発した光を試料(標本)8に照射する照射光学系2としての、落射投光管3から対物レンズ7に至る光学部材を備えた顕微鏡として構成されている。図1中、5はダイクロイックミラー、4は吸収フィルタ、6はバリアフィルタ、9はミラー、10は顕微鏡本体、11は観察鏡筒である。
照射光学系2は、図2に示すように、試料8側に配置された対物レンズ7と、落射投光管(図示省略)に配置された集光レンズ12を有する。図2中、13はイマージョン物質、14はカバーガラス、15は光軸、16は標本保持部材としてのスライドガラスである。図2では、便宜上、吸収フィルタ4、ダイクロイックミラー5を省略し、白色アーク光源1から対物レンズ7までを直線的に示してある。
集光レンズ12は、対物レンズ7の後側焦点位置あるいはその近傍に白色アーク光源1から射出された光を集光させるように構成されている。
試料8は、スライドガラス16とカバーガラス14に挟まれている。対物レンズ7とカバーガラス14との間は、イマージョン物質13で満たされている。
なお、試料8で発した蛍光は、対物レンズ7、ダイクロイックミラー5、バリアフィルタ6、ミラー9、観察鏡筒11を経て観察される。また、図1の顕微鏡は、観察位置と共役な所定位置に検出器(図示省略)を取り付け、検出器を介して蛍光の強度を検出できるようになっている。
【0059】
図3に示す蛍光顕微鏡装置は、白色アーク光源1’と、白色アーク光源1’から発した光を試料(標本)8に照射する照射光学系2’としての、コンデンサレンズ17を有する光学部材を備えた顕微鏡として構成されている。図3中、5’はミラー、4は吸収フィルタ、6はバリアフィルタ、7は対物レンズ、9はミラー、10は顕微鏡本体、11は観察鏡筒である。
照射光学系2’は、図4に示すように、試料8を隔てて対物レンズ7と反対側に配置されたコンデンサレンズ17を有する。図4中、13はイマージョン物質、14はカバーガラス、15’は光軸、16は標本保持部材としてのスライドガラスである。図4では、便宜上、吸収フィルタ4、ミラー5’を省略し、白色アーク光源1から対物レンズ7までを直線的に示してある。
試料8は、スライドガラス16とカバーガラス14に挟まれている。対物レンズ7とカバーガラス14との間は、イマージョン物質13で満たされている。
なお、試料8で発した蛍光は、対物レンズ7、バリアフィルタ6、ミラー9、観察鏡筒11を経て観察される。また、図3の顕微鏡は、観察位置と共役な所定位置に検出器(図示省略)を取り付け、検出器を介して蛍光の強度を検出できるようになっている。
【0060】
次に、本発明の実施例1及び比較例1の蛍光顕微鏡装置について説明する。本発明の実施例1及び比較例1の蛍光顕微鏡装置の基本的な光学構成は、図1及び図2、並びに図3及び図4に示した蛍光顕微鏡装置と同じである。以下は、実施例と比較例とで異なる構成部分のみを説明し、同一の構成部分についての重複する説明は省略する。
【0061】
(標本保持部材の自家蛍光量の測定)
図1に示した蛍光顕微鏡装置と基本的な光学構成が同じ顕微鏡装置を用いて後述する実施例1及び比較例1のそれぞれの標本保持部材の自家蛍光量の測定を行った。対物レンズ7には、OLYMPUS(株)製UPLFLN40Xを用いた。また、図示省略した検出器として浜松ホトニクス(株)製ホトマル(R6355)を用いた。
標本保持部材単体をステージの上に置き、対物レンズを標本保持部材に当てつけた。その状態で、波長488nmの励起光を照射し、検出器に検出される数値(ここでは、数値Aとする)をカウントした。次いで、標本保持部材をステージから外し、対物レンズとステージとの間を1mm程度離した状態で波長488nmの励起光を照射し、検出器に検出される数値(ここでは、数値Bとする)をカウントした。数値Aから数値Bを差し引くことによって標本保持部材の自家蛍光量を得た。
【0062】
(比較例1)
図1及び図2、並びに図3及び図4に示した蛍光顕微鏡装置と基本的な光学構成が同じ顕微鏡装置を用いて蛍光観察を行い、そのときの自家蛍光の強度を測定した。
標本保持部材としてのスライドガラス16には、松浪ガラス工業(株)製の蛍光顕微鏡用スライドグラスNEO白縁磨No1を用いた。対物レンズ7には、OLYMPUS(株)製UPLSAPO60XO、カバーガラス14には、松浪ガラス工業(株)製 MICRO COVER GLASS No.1-S、イマージョン物質13には、OLYMPUS(株)製イマージョンオイル(nd=1.52)を用いた。また、倒立顕微鏡の本体10には、OLYMPUS(株)製IX71を用いた。そして、図示省略した検出器として浜松ホトニクス(株)製EM-CCDを用いて、図1及び図2に示すような通常の落射蛍光方式による蛍光観察、ならびに図3及び図4に示すような透過蛍光観察を行い、自家蛍光の強度を測定した。
このときの蛍光観察試料は上述の条件式(2-1)(即ち、(S−s)/(B+b)≦5)、および条件式(3-1)(即ち、4BSG/B≧0.2)を満たすものであった。
比較例1の蛍光顕微鏡装置では、自家蛍光による背景ノイズが強く、蛍光観察を満足に行うことができなかった。
【0063】
(実施例1)
比較例1の蛍光顕微鏡装置と基本的な光学構成が同じ顕微鏡装置を用いて蛍光観察を行い、そのときの自家蛍光の強度を測定した。
実施例1の蛍光顕微鏡装置は、比較例1の蛍光顕微鏡装置で使用した光学部材のうち、標本保持部材16(スライドガラス)のみを低蛍光な標本保持部材16に変更し、その他は比較例1と同じ構成である。
実施例1の低蛍光な標本保持部材16には、日本板硝子(株)製スーパークリアを松浪ガラス工業(株)製の蛍光顕微鏡用スライドグラスNEO白縁磨No1と同じ大きさ(26mm×76mm,厚さ1mm)に切断し、表面を研磨したものを用いた。
なお、比較例1と実施例1で用いた標本保持部材の自家蛍光量をそれぞれ測定したところ、比較例1のものを1としたとき、実施例1のものでは0.25であった。すなわち、実施例1の標本保持部材16の自家蛍光の強度は、比較例1の標本保持部材16の自家蛍光の強度に対する比率が、条件式(1-1)(即ち、B'SG/BSG≦0.6)を満たすものであった。
実施例1の低蛍光標本保持部材(スライドガラス)を用いて、比較例1の蛍光顕微鏡装置による通常の落射蛍光方式による蛍光観察と同じ試料を同じ条件で観察したところ、自家蛍光による背景ノイズが低減され、蛍光像のS/N比が向上しており、満足に蛍光観察を行うことができた。
【0064】
比較例1と実施例1との比較により、本発明の標本保持部材(スライドガラス)を用いると、蛍光観察像のS/N比が改善され、高品質な観察が可能であることが確認できた。
なお、本発明は実施例1の蛍光顕微鏡装置における標本保持部材の自家蛍光の強度の比率のものに限定されるものではない。例えば、実施例1において、好ましくはBSG'/BSG≦0.45、さらに好ましくはBSG'/BSG≦3を満たす標本保持部材を用いれば、S/N比がより一層改善される。
【0065】
また、実施例1の標本保持部材を用いた蛍光観察において、蛍光観察試料として、条件式(2-1)(即ち、(S−s)/(B+b)≦5)と条件式(3-1)(即ち、4BSG/B≧0.2)の組み合わせに代えて、次の条件式の組み合わせにおいてもそれぞれ蛍光観察像のS/N比が改善され、高品質な観察結果が得られた。
条件式(2-2)(即ち、(S−s)/(B+b)≦3)と条件式(3-2)(即ち、4BSG/B≧0.4)の組み合わせ。
条件式(2-3)(即ち、(S−s)/(B+b)≦2)、および条件式(3-3)(即ち、4BSG/B≧0.6)の組み合わせ。
【0066】
また、実施例1では、倒立顕微鏡を用いて説明したが、本発明は倒立顕微鏡に限定適用されるものではなく、正立顕微鏡においても同様の効果を発揮する。
本発明を適用する顕微鏡としては、倒立顕微鏡と正立顕微鏡とを試料を挟んで配置した上下顕微鏡として構成してもよい。上下顕微鏡の場合には、正立顕微鏡側、倒立顕微鏡側のいずれか一方に本発明の実施例に示した標本保持部材が用いられていれば、本発明の効果が発揮される。上下顕微鏡において、正立顕微鏡側、および倒立顕微鏡側は、それぞれ独立に駆動する構成、あるいは連動して駆動する構成のいずれでもよい。さらに、正立顕微鏡側で通常蛍光観察、倒立顕微鏡側で全反射蛍光観察という具合に、上下の顕微鏡で互に異なる観察方法を用いてもよい。
【0067】
実施例2及び比較例2
次に、本発明の実施例2及び比較例2として、コンデンサレンズ方式全反射蛍光観察(TIRF観察)システムについて説明する。
図5は本発明の実施例2及び比較例2にかかる蛍光観察又は蛍光測光システムに適用可能な正立蛍光顕微鏡装置の一例としてレーザ光源を用いたコンデンサレンズ方式全反射蛍光顕微鏡装置の概略構成を示す側面図、図6は図5のコンデンサレンズ方式全反射蛍光顕微鏡装置における要部の光学構成を簡略化して示す説明図である。
【0068】
図5に示すコンデンサレンズ方式全反射蛍光観察装置は、培養液等の液体を蓄えることが可能な容器(シャーレ、ディッシュ、スライドガラス等)を標本保持部材16’として用いている(なお、図5及び図6では、便宜上、標本保持部材16’は標本8近傍の保持部のみを示してある)。この顕微鏡装置は、レーザ光源1”と、レーザ光源1”から発した光を試料(標本)8に全反射照射する照射光学系2”としての、光ファイバ1からコンデンサレンズ17’に至る光学部材を備えた顕微鏡として構成されている。レーザ光源1”とコンデンサレンズ17’は、光ファイバ18で接続されている。また、照射光学系2”は、コンデンサレンズ17’を介して全反射照明を行うために、コンデンサレンズ17’へのレーザスポット入射位置を調節可能な機構(図6に示す入射角度調製可能なミラー21)を備えている。図5中、7は対物レンズ、6はバリアフィルタ、10’は顕微鏡本体、19は結像レンズ、20は検出器である。なお、図6では便宜上、図5に示した光ファイバ18を省略して示してある。その他、図示を省略したが、照射光学系2”には、レーザ光源1”から発された光のうち励起波長のみを通過させその他の波長を吸収する吸収フィルタを有している。また、図5に示す顕微鏡は、バリアフィルタ6を通過した蛍光を観察鏡筒11と検出器20の双方へ導くことの可能な光路分岐部材(図示省略)を備えている。
【0069】
図6に示す全反射照明では、図5に示した光ファイバ18を介して導入された照明光がコンデンサレンズ17’の周辺部から(標本8との界面で全反射するための)大きな入射角でイマージョン物質13、標本保持部材16’に入射し、標本保持部材16’と標本8との界面で全反射する。そのとき、標本保持部材16’から標本8に向けて極く僅かに滲みだしたエバネッセント波が標本8への励起光となっている。図6中、15”は光軸、22は対物レンズ7と標本8との間に充填された水である。
また、コンデンサレンズ方式の全反射照明では、照明光が対物レンズやカバーガラスを通らないで標本保持部材に入射する(なお、そもそも、図6の顕微鏡システムでは、カバーガラスは用いていない)。このため、図6に示すコンデンサレンズ方式の全反射照明では、標本8の極く近傍で発光された蛍光を拾うのみであって、イマージョン物質13や対物レンズ17から発生する自家蛍光は全く検出されない。そのため、標本8に最も近い、標本保持部材16’からの自家蛍光のみが、像の見え等に影響する光学系からのノイズ源であると考えることができる。
なお、試料8で発した蛍光は、対物レンズ7、ダイクロイックミラー5、バリアフィルタ6、結像レンズ19、光路分岐部材(図示省略)、観察鏡筒11を経て観察される。また、結像レンズ19を経た蛍光は、結像レンズ19、光路分岐部材(図示省略)、検出器20を介して強度が検出される。
【0070】
(比較例2)
図5及び図6に示したコンデンサレンズ方式全反射蛍光顕微鏡装置と基本的な光学構成が同じコンデンサレンズ方式全反射蛍光顕微鏡装置を用いて全反射蛍光観察を行い、そのときの自家蛍光の強度を測定した。
標本保持部材16’には、松浪硝子工業(株)製の蛍光顕微鏡用スライドグラスNEO白縁磨No1を用いた。対物レンズ7には、OLYMPUS(株)製XLUMPlanFl20XW、光源1”には、Arレーザ(λ=488nm)、吸収フィルタには、488バンドパスフィルタ、バリアフィルタ6には、550ハイパスフィルター、コンデンサレンズ17’には、OLYMPUS(株)製WI-CDEVA、結像レンズ19には、同社製U-TLU、イマージョンオイル物質13には、OLYMPUS(株)製イマージョンオイルを用いた。また、正立顕微鏡の本体10’には、OLYMPUS(株)製BX51WIを用いた。そして、検出器20には、浜松ホトニクス(株)製EM-CCDを用いて、図5及び図6に示すような全反射照明による一分子蛍光観察を行い、自家蛍光の強度を測定した。
このときの蛍光観察標本は、Alexa488-IGGを1nM以下に調整後、標本保持部材16’上に塗布したものである。この標本は上述の条件式(2-3)(即ち、(S−s)/(B+b)≦2)、および条件式(3-3)(即ち、4BSG' /B≧0.6)を満たすものであった。
比較例2のコンデンサレンズ方式全反射蛍光顕微鏡装置では、自家蛍光による背景ノイズが強く、蛍光観察を満足に行うことができなかった。
【0071】
(実施例2)
比較例2のコンデンサレンズ方式全反射蛍光顕微鏡装置と基本的な光学構成が同じコンデンサレンズ方式全反射蛍光顕微鏡装置を用いて全反射照明による一分子蛍光観察を行い、そのときの自家蛍光の強度を測定した。
実施例2のコンデンサレンズ方式全反射蛍光顕微鏡装置は、比較例2のコンデンサレンズ方式全反射蛍光顕微鏡装置で使用した光学部材のうち、標本保持部材16’のみを低蛍光な標本保持部材16’に変更し、その他は比較例2と同じ構成である。
実施例2の低蛍光な標本保持部材16’には、実施例1で用いた低蛍光な標本保持部材16と同一のものを用いた。
実施例2の標本保持部材16’の自家蛍光の強度は、比較例2の標本保持部材16’の自家蛍光の強度に対する比率が、条件式(1-1')(即ち、B'SG/BSG≦0.89)を満たすものであった。
実施例2の低蛍光標本保持部材を用いて比較例2のコンデンサレンズ方式全反射蛍光顕微鏡装置による全反射照明による一分子蛍光観察と同じ試料を調整して同じ条件で観察したところ、自家蛍光による背景光が低減され、蛍光観察像のS/N比が改善されていることが確認できた。
【0072】
比較例2と実施例2との比較により、本発明の標本保持部材を用いることにより、蛍光観察像のS/N比が向上し、より高品質な観察が可能であることが確認できた。
【0073】
以上述べたことから理解されるように、本発明の蛍光観察又は蛍光測光システム、及び蛍光観察又は蛍光測光方法は、特許請求の範囲に記載された発明の他にも、以下に列挙する特徴を有する。
【0074】
(1)低蛍光な標本保持部材を用いてなる蛍光観察又は蛍光測光システムであって、前記低蛍光な標本保持部材が次の条件式(1-2)を満足することを特徴とする蛍光観察又は蛍光計測システム。
BSG'/BSG≦0.45 …(1-2)
但し、BSG'は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0075】
(2)低蛍光な標本保持部材を用いてなる蛍光観察又は蛍光測光システムであって、前記低蛍光な標本保持部材が次の条件式(1-3)を満足することを特徴とする蛍光観察又は蛍光計測システム。
BSG'/BSG≦0.3 …(1-3)
但し、BSG'は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0076】
(3)前記工程(A)で選択する生細胞を用いた蛍光を発する試料が、次の条件式(2-2),(3-2)の少なくとも一方を満足することを特徴とする請求項2に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
(S−s)/(B+b)≦3 …(2-2)
4BSG/B≧0.4 …(3-2)
但し、Sは前記試料が発する蛍光の強度の平均値、sは該蛍光の強度の揺らぎ幅、Bは試料が存在しない背景ノイズの強度の平均値、bは該背景ノイズの強度の揺らぎ幅、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0077】
(4)前記工程(B)で選択したアプリケーションがFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)であることを特徴とする上記(3)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0078】
(5)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(4)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0079】
(6)前記工程(B)で選択したアプリケーションがカルシウムイオンイメージングであることを特徴とする上記(3)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0080】
(7)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(6)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0081】
(8)前記工程(B)で選択したアプリケーションが動画観察又はタイムラプス観察であることを特徴とする上記(3)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0082】
(9)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(8)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0083】
(10)前記工程(A)で選択する生細胞を用いた蛍光を発する試料が、次の条件式(2-3),(3-3)の少なくとも一方を満足することを特徴とする請求項2に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
(S−s)/(B+b)≦2 …(2-3)
4BSG/B≧0.6 …(3-3)
但し、Sは前記試料が発する蛍光の強度の平均値、sは該蛍光の強度の揺らぎ幅、Bは試料が存在しない背景ノイズの強度の平均値、bは該背景ノイズの強度の揺らぎ幅、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0084】
(11)前記工程(B)で選択したアプリケーションがFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)であることを特徴とする上記(10)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0085】
(12)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(11)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0086】
(13)前記工程(B)で選択したアプリケーションがカルシウムイオンイメージングであることを特徴とする上記(10)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0087】
(14)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(13)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0088】
(15)前記工程(B)で選択したアプリケーションが動画観察又はタイムラプス観察であることを特徴とする上記(10)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0089】
(16)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(15)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0090】
(17)蛍光観察又は蛍光測光方法において、次の工程(A),(B),(C)からなることを特徴とする蛍光観察又は蛍光測光方法。
(A)生細胞を用いた蛍光を発する試料を選択する工程。
(B)前記工程(A)で選択した試料を観察又は測光するためのアプリケーション、及び次の条件式(1-2)を満足する低蛍光な標本保持部材を用いてなる蛍光観察又は蛍光測光システムを選択する工程。
(C)前記工程(B)で選択したアプリケーション及びシステムを用いて、前記工程(A)で選択した試料を蛍光観察又は蛍光測光する工程。
BSG'/BSG≦0.45 …(1-2)
但し、BSG'は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0091】
(18)前記工程(A)で選択する生細胞を用いた蛍光を発する試料が、次の条件式(2-1),(3-1)の少なくとも一方を満足することを特徴とする上記(17)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
(S−s)/(B+b)≦5 …(2-1)
4BSG/B≧0.2 …(3-1)
但し、Sは前記試料が発する蛍光の強度の平均値、sは該蛍光の強度の揺らぎ幅、Bは試料が存在しない背景ノイズの強度の平均値、bは該背景ノイズの強度の揺らぎ幅、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0092】
(19)前記工程(B)で選択したアプリケーションがFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)であることを特徴とする上記(18)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0093】
(20)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(19)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0094】
(21)前記工程(B)で選択したアプリケーションがカルシウムイオンイメージングであることを特徴とする上記(18)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0095】
(22)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(21)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0096】
(23)前記工程(B)で選択したアプリケーションが動画観察又はタイムラプス観察であることを特徴とする上記(18)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0097】
(24)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(23)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0098】
(25)前記工程(A)で選択する生細胞を用いた蛍光を発する試料が、次の条件式(2-2),(3-2)の少なくとも一方を満足することを特徴とする上記(17)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
(S−s)/(B+b)≦3 …(2-2)
4BSG/B≧0.4 …(3-2)
但し、Sは前記試料が発する蛍光の強度の平均値、sは該蛍光の強度の揺らぎ幅、Bは試料が存在しない背景ノイズの強度の平均値、bは該背景ノイズの強度の揺らぎ幅、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0099】
(26)前記工程(B)で選択したアプリケーションがFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)であることを特徴とする上記(25)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0100】
(27)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(26)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0101】
(28)前記工程(B)で選択したアプリケーションがカルシウムイオンイメージングであることを特徴とする上記(25)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0102】
(29)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(28)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0103】
(30)前記工程(B)で選択したアプリケーションが動画観察又はタイムラプス観察であることを特徴とする上記(25)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0104】
(31)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(30)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0105】
(32)前記工程(A)で選択する生細胞を用いた蛍光を発する試料が、次の条件式(2-3),(3-3)の少なくとも一方を満足することを特徴とする上記(17)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
(S−s)/(B+b)≦2 …(2-3)
4BSG/B≧0.6 …(3-3)
但し、Sは前記試料が発する蛍光の強度の平均値、sは該蛍光の強度の揺らぎ幅、Bは試料が存在しない背景ノイズの強度の平均値、bは該背景ノイズの強度の揺らぎ幅、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0106】
(33)前記工程(B)で選択したアプリケーションがFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)であることを特徴とする上記(32)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0107】
(34)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(33)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0108】
(35)前記工程(B)で選択したアプリケーションがカルシウムイオンイメージングであることを特徴とする上記(32)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0109】
(36)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(35)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0110】
(37)前記工程(B)で選択したアプリケーションが動画観察又はタイムラプス観察であることを特徴とする上記(32)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0111】
(38)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(37)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0112】
(39)蛍光観察又は蛍光測光方法において、次の工程(A),(B),(C)からなることを特徴とする蛍光観察又は蛍光測光方法。
(A)生細胞を用いた蛍光を発する試料を選択する工程。
(B)前記工程(A)で選択した試料を観察又は測光するためのアプリケーション、及び次の条件式(1-3)を満足する低蛍光な標本保持部材を用いてなる蛍光観察又は蛍光測光システムを選択する工程。
(C)前記工程(B)で選択したアプリケーション及びシステムを用いて、前記工程(A)で選択した試料を蛍光観察又は蛍光測光する工程。
BSG'/BSG≦0.3 …(1-3)
但し、BSG'は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0113】
(40)前記工程(A)で選択する生細胞を用いた蛍光を発する試料が、次の条件式(2-1),(3-1)の少なくとも一方を満足することを特徴とする上記(39)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
(S−s)/(B+b)≦5 …(2-1)
3BSG/B≧0.2 …(3-1)
但し、Sは前記試料が発する蛍光の強度の平均値、sは該蛍光の強度の揺らぎ幅、Bは試料が存在しない背景ノイズの強度の平均値、bは該背景ノイズの強度の揺らぎ幅、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0114】
(41)前記工程(B)で選択したアプリケーションがFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)であることを特徴とする上記(40)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0115】
(42)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(41)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0116】
(43)前記工程(B)で選択したアプリケーションがカルシウムイオンイメージングであることを特徴とする上記(40)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0117】
(44)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(43)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0118】
(45)前記工程(B)で選択したアプリケーションが動画観察又はタイムラプス観察であることを特徴とする上記(40)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0119】
(46)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(45)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0120】
(47)前記工程(A)で選択する生細胞を用いた蛍光を発する試料が、次の条件式(2-2),(3-2)の少なくとも一方を満足することを特徴とする上記(39)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
(S−s)/(B+b)≦3 …(2-2)
4BSG/B≧0.4 …(3-2)
但し、Sは前記試料が発する蛍光の強度の平均値、sは該蛍光の強度の揺らぎ幅、Bは試料が存在しない背景ノイズの強度の平均値、bは該背景ノイズの強度の揺らぎ幅、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0121】
(48)前記工程(B)で選択したアプリケーションがFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)であることを特徴とする上記(47)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0122】
(49)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(48)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0123】
(50)前記工程(B)で選択したアプリケーションがカルシウムイオンイメージングであることを特徴とする上記(47)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0124】
(51)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(50)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0125】
(52)前記工程(B)で選択したアプリケーションが動画観察又はタイムラプス観察であることを特徴とする上記(47)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0126】
(53)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(52)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0127】
(54)前記工程(A)で選択する生細胞を用いた蛍光を発する試料が、次の条件式(2-3),(3-3)の少なくとも一方を満足することを特徴とする上記(39)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
(S−s)/(B+b)≦2 …(2-3)
4BSG/B≧0.6 …(3-3)
但し、Sは前記試料が発する蛍光の強度の平均値、sは該蛍光の強度の揺らぎ幅、Bは試料が存在しない背景ノイズの強度の平均値、bは該背景ノイズの強度の揺らぎ幅、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【0128】
(55)前記工程(B)で選択したアプリケーションがFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)であることを特徴とする上記(54)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0129】
(56)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(55)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0130】
(57)前記工程(B)で選択したアプリケーションがカルシウムイオンイメージングであることを特徴とする上記(54)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0131】
(58)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(57)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0132】
(59)前記工程(B)で選択したアプリケーションが動画観察又はタイムラプス観察であることを特徴とする上記(54)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【0133】
(60)前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする上記(59)に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明の蛍光観察又は蛍光測光システム、及び蛍光観察又は蛍光測光方法は、微弱な蛍光を広帯域で正確に観察・計測できる技術に関し、ノイズを含めた正確な定量性が必要とされる顕微鏡分野、蛍光顕微鏡分野、タンパク質・DNA解析装置分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】本発明の実施例1及び比較例1にかかる蛍光観察又は蛍光測光システムに適用可能な倒立蛍光顕微鏡装置の一例として白色アーク光源を用いた落射蛍光顕微鏡装置の概略構成を示す側面図である。
【図2】図1の落射蛍光顕微鏡装置における要部の光学構成を簡略化して示す説明図である。
【図3】本発明の実施例1及び比較例1にかかる蛍光観察又は蛍光測光システムに適用可能な倒立蛍光顕微鏡装置の他の例として白色アーク光源を用いた透過蛍光顕微鏡装置の概略構成を示す側面図である。
【図4】図3の透過蛍光顕微鏡装置における要部の光学構成を簡略化して示す説明図である。
【図5】本発明の実施例2及び比較例2にかかる蛍光観察又は蛍光測光システムに適用可能な正立蛍光顕微鏡装置の一例としてレーザ光源を用いたコンデンサレンズ方式全反射蛍光顕微鏡装置の概略構成を示す側面図である。
【図6】図5のコンデンサレンズ方式全反射蛍光顕微鏡装置における要部の光学構成を簡略化して示す説明図である。
【符号の説明】
【0136】
1,1’ 白色アーク光源
1” レーザ光源
2,2’,2” 照射光学系
3 落射投光管
4 吸収フィルタ
5 ダイクロイックミラー
5’ ミラー
6 バリアフィルタ
7 対物レンズ
8 試料(標本)
9 ミラー
10,10’ 顕微鏡本体
11 観察鏡筒
12 集光レンズ
13 イマージョン物質
14 カバーガラス
15,15’,15” 光軸
16,16’ 標本保持部材
17,17’ コンデンサレンズ
18 光ファイバ
19 結像レンズ
20 検出器
21 入射角度調製可能なミラー
22 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低蛍光な標本保持部材を用いてなる蛍光観察又は蛍光測光システムであって、
前記低蛍光な標本保持部材が次の条件式(1-1)を満足することを特徴とする蛍光観察又は蛍光計測システム。
BSG’/BSG≦0.6 …(1-1)
但し、BSG’は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【請求項2】
蛍光観察又は蛍光測光方法において、次の工程(A),(B),(C)からなることを特徴とする蛍光観察又は蛍光測光方法。
(A)生細胞を用いた蛍光を発する試料を選択する工程。
(B)前記工程(A)で選択した試料を観察又は測光するためのアプリケーション、及び次の条件式(1-1)を満足する低蛍光な標本保持部材を用いてなる蛍光観察又は蛍光測光システムを選択する工程。
(C)前記工程(B)で選択したアプリケーション及びシステムを用いて、前記工程(A)で選択した試料を蛍光観察又は蛍光測光する工程。
BSG’/BSG≦0.6 …(1-1)
但し、BSG’は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【請求項3】
前記工程(A)で選択する生細胞を用いた蛍光を発する試料が、次の条件式(2-1),(3-1)の少なくとも一方を満足することを特徴とする請求項2に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
(S−s)/(B+b)≦5 …(2-1)
4BSG/B≧0.2 …(3-1)
但し、Sは前記試料が発する蛍光の強度の平均値、sは該蛍光の強度の揺らぎ幅、Bは試料が存在しない背景ノイズの強度の平均値、bは該背景ノイズの強度の揺らぎ幅、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【請求項4】
前記工程(B)で選択したアプリケーションがFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)であることを特徴とする請求項3に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【請求項5】
前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする請求項4に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【請求項6】
前記工程(B)で選択したアプリケーションがカルシウムイオンイメージングであることを特徴とする請求項3に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【請求項7】
前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする請求項6に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【請求項8】
前記工程(B)で選択したシステムが落射蛍光システムまたは透過蛍光システムのいずれかであることを特徴とする請求項4に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【請求項9】
前記工程(B)で選択したアプリケーションが動画観察又はタイムラプス観察であることを特徴とする請求項3に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【請求項10】
前記工程(B)で選択したシステムが蛍光顕微鏡システムであることを特徴とする請求項9に記載の蛍光観察又は蛍光測光方法。
【請求項11】
コンデンサレンズを用いてレーザ光を低蛍光な標本保持部材の底面で全反射するように照明し、この全反射照明によって標本保持部材に保持された標本から発する蛍光を、前記コンデンサレンズと対峙して設けられた対物レンズで検出する全反射照明蛍光観察又は蛍光測光システムであって、
前記低蛍光な標本保持部材が次の条件式(1-1')を満足することを特徴とする全反射照明蛍光観察又は蛍光計測システム。
BSG’/BSG≦0.89 …(1-1')
但し、BSG’は前記低蛍光な標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値、BSGは従来一般的に使用されている標本保持部材の自家蛍光の強度の平均値である。
【請求項12】
前記低蛍光な標本保持部材がガラスシャーレまたはガラスボトムディッシュであることを特徴とする請求項1又は11に記載の蛍光観察又は蛍光計測システム。
【請求項13】
前記低蛍光な標本保持部材がスライドガラスであることを特徴とする請求項1又は11に記載の蛍光観察又は蛍光計測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−145078(P2009−145078A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319943(P2007−319943)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】