説明

融合二環式構造を異性化するための新規な方法、及びそれを含むビタミンD類似体の調製

【課題】トランス二環式融合構造を対応するシス二環式融合構造により高い選択性で異性化するための新規な方法の提供。
【解決手段】シス融合二環式誘導体を対応するトランス融合二環式誘導体から調製する方法であって、前記トランス融合二環式誘導体を水素化物塩基と反応させる工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融合二環式構造を異性化するための新規な方法、及びそれを含むビタミンD類似体の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンDはプロホルモンであり、その意味するところは、それ自体ホルモン活性は有さないが、調節された合成メカニズムを通じて活性なホルモンに変換されるものである。D1−D5を含むビタミンDのいくつかの形態が発見されている。化学的には、ビタミンDの各種の形態はセコステロイドであり、ステロイド環における結合の一つが破壊されている。各種の形態のビタミンDは側鎖が異なっている。ビタミンDレセプターは、ステロイド/甲状腺ホルモンレセプターの核レセプタースーパーファミリーに属し、脳、心臓、皮膚、性腺、前立腺、及び乳を含むほとんどの器官における細胞により発現されている。腸、骨、腎臓、副甲状腺細胞におけるビタミンDレセプターの活性化は、血中のカルシウム及びリン濃度の維持と骨密度の維持を導いている(Holick等, American Journal of Clinical Nutrition 81(6) 1678S-88S)。ビタミンDレセプターは、細胞増殖と分化に関与していることも知られている。ビタミンDレセプターは単球及び活性化T細胞とB細胞を含むいくつかの白血球細胞において発現されているため、ビタミンDはまた免疫系にも影響している。
【0003】
天然のビタミンDの治療上の能力を増大するため、特異的な作用について増大した能力を有する類似体が合成されており、セオカルシトール、イネカルシトール、エロカルシトール、エクサカルシトールといったいくつかのビタミンD類似体が開発されている。
【0004】
ビタミンD類似体は、細胞増殖及び細胞分化におけるその強力な役割について認識されており、そのことはビタミンD類似体をガン患者の治療のための薬剤候補として約束されたものとしている。
【0005】
イネカルシトール1は、下式の(7E)-19-ノル-9,10-セコ-14β-コレスタ-5,7-ジエン-23-イネ-1α,3β,25-トリオール(C2640)についての国際的な非専売名である(WHO Drug Information, Vol17, No.2, 2003):
【化1】

【0006】
それはカルシトールの合成誘導体であり、ビタミンD3の天然活性代謝産物である。しかしながらイネカルシトールは、カルシトールより10倍強力であり、100倍毒性が低い。このプロフィールは、イネカルシトールを、最初にホルモン耐性前立腺ガンの治療のための有効な薬剤候補として位置づけていた。他のビタミンD類似体とは異なり、イネカルシトールの構造は、シスC/D環接合によって特徴付けられる。シスC/D環を含むビタミンD類似体のプロセッシングは、特に米国特許第6,017,907号に開示されている。それはシスC/D部分の誘導体を対応するA環誘導体とカップリングさせることを含み、それはイネカルシトールの場合、以下のスキームによって説明できる:
【化2】

【0007】
シスC/D環接合は、対応するトランスC/D環のエピマー化から得られる。米国特許第6,017,907号は、多様に保護されたケトン上で実施されたエピマー化が、NaOMe、MeOHの存在下で室温で24時間の間で実施でき、以下のスキームにしたがってシス異性体を好んで約3/1の比で60−70%の収率で予測されたエピマー化を常に導くことを教示している:
【化3】

【0008】
しかしながら、この反応は、グラムスケールで実施されると、HPLCによる注意深い分離の後でのみ、所望の純粋なシス異性体を与え、それはスケールアップした合成と産業上の工程では問題を呈するようである。例えば100gのスケールでは、本発明者は78/22のシス/トランス比を得たが、わずか49%の収率で純粋なシス化合物(98/02のシス/トランス)を与えるために、3の連続的なクロマトグラフィー精製が必要とされた。本発明者は更に、キログラムのスケールでは、反復的なクロマトグラフィー分離により、不満足なジアステレオマー比とシスC/Dケトンの純度が導かれることを見出した:所望の純度(95/05)を得るためには、50/50の混合物のリサイクリングを含むいくつかの精製が実際に必要とされた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,017,907号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Holick等, American Journal of Clinical Nutrition 81(6) 1678S-88S
【非特許文献2】WHO Drug Information, Vol17, No.2, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
それ故、トランス二環式融合構造を対応するシス二環式融合構造により高い選択性で異性化するための新規な方法を提供することが非常に所望されている。本発明者は驚くべきことに、非常に満足な収率とより高い異性化比を可能にする、簡便な操作条件で、且つ産業上のスケールにも合致する新規な実験条件を発見した。これは、イネカルシトールと、シスC/D環接合を有する他の推定上のビタミンD類似体の調製方法の重要な単純化を表している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第一の目的によれば、かくして本発明は、シス融合二環式誘導体を対応するトランス融合二環式誘導体から調製する方法に関し、前記方法は、前記トランス融合二環式誘導体を水素化物塩基と反応させる工程を含む。適切な塩基は、式M−H(式中、MはIA族の原子である)のものから選択されて良く、例えばKHまたはNaHであり、好ましくはNaHである。
【0013】
塩基は好ましくは過剰量で存在する。塩基の濃度は、トランス開始生成物のものの1から2当量の間で含まれ、好ましくは約1.5当量である。
【0014】
前記反応は、室温から反応混合物の沸点の間に含まれる温度で実施されて良い。好ましくは前記反応は、還流温度で実施されて良い。
【0015】
前記反応は、満足する収率を達成するのに十分な時間で実施されて良い。継続時間は数分から1日の間に含まれ、より好ましくは1から12時間の間である。
【0016】
前記反応は、THF、Me−THFを含むアルキル化THF、トルエンのような適切な有機溶媒、より好ましくはTHFで一般的に実施される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
好ましい特徴点によれば、前記融合二環式誘導体は、シクロアルキルと融合したシクロアルカノンを含む融合二環式系から選択される。前記シクロアルカノン及びシクロアルキルは、任意に置換されたシクロヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキサン、シクロペンタンから選択されて良い。
【0018】
前記融合二環式誘導体は好ましくは、任意に置換されたシクロヘキサノン、とりわけ任意に置換されたシクロペンタンと融合された任意に置換されたシクロヘキサノン(「C/D環」とも称される)を含む系から選択される。
【0019】
ここで「任意に置換された」は、前記シクロアルカノン及び前記シクロアルキルの任意の一つ以上の置換基を指し、H、ハロゲン原子、C−Cアルキル、C−Cアルケニル、OR、NRR’、CN、NO、パーハロゲノ(C−C)アルキル、COR、COOR、CONRR’、アルキルアリール、アルケニルアリールから独立に選択され、ここでR及びR’は同一でも異なってもよく、H、アルキル、アリールから選択される。
【0020】
別の実施態様によれば、前記トランス及びシス融合二環式構造は、それぞれ下式(I)及び(II)を有する:
【化4】

[式中、
−RはHまたはC−Cアルキル基を表し;
−RはHまたはDを表し、Dは重水素原子を表し;
−Rは任意に一つ以上の二重または三重結合を含み、及び/またはO、N、S、Siから選択される一つ以上のヘテロ原子により任意に中断されたC−C20アルキルを表し;好ましくはRは直鎖状または分枝状のC−C20アルキル、C−C20アルケニル、C−C20アルキニルであり、前記アルキル、アルケニル、またはアルキニルは、OHまたはOH官能基の保護基から選択される一つ以上の基により任意に置換される。前記保護基は好ましくは、ケタールのような酸不安定基:エトキシエチル(EE)、またはトリアルキルシリル基のようなフッ素不安定基:トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、tert-ブチルジメチルシリル(TBS)、トリイソプリピルシリル(TIPS)、tert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)から選択される;
−mは0,1,2,3から選択される整数であり;
−nは0,1または2から選択される整数であり;
−存在する場合、R及びRは同一でも異なってもよく、それぞれ1からnまたは1からm基を表し、同一でも互いに異なってもよく、ハロゲン原子、C−Cアルキル、C−Cアルケニル、OR、NRR’、CN、NO、パーハロゲノ(C−C)アルキル、COR、COOR、CONRR’、アルキルアリール、アルケニルアリールから独立に選択され、ここでR及びR’は同一でも異なってもよく、H、アルキル、アリールから選択される]。
【0021】
より好ましくは:
−m=n=0:
−R=メチル;
−R=H;及び/または
−Rは下式
【化5】

ここでXはHであるかまたはXはOH官能基の保護基であり、破線の結合
【化6】

はシクロペンチルコアに対する結合である。
【0022】
一般的に本発明の方法は更に加水分解工程を含み、前記異性化工程の後に実施される。前記加水分解は、反応混合物を水と接触させるような通常の加水分解方法により実施される。
【0023】
本発明の方法は更に、得られたシス融合二環式誘導体を標準的な方法によって精製することを含む。HPLCはもはや必要とされないため、本発明の方法の特定の実施態様によれば、前記精製は好ましくはHPLCではない。
【0024】
前記精製は有利には、カラムクロマトグラフィーのようなクロマトグラフィーにより実施されて良い。通常のガラスカラムを含むいずれのタイプのカラムを使用しても良いが、Flashmartカラムのような事前に実装されたカラムが好ましい。溶出溶媒は有利には、アルカン、エステル、またはそれらの混合物の混合物、例えばヘプタンとエチルアセテートの混合物である。好ましい混合物は、70:30から95:5の範囲、好ましくは約90:10のヘプタン/エチルアセテートである。
溶出溶媒は更にTEAのような塩基を含んでも良い。
【0025】
更なる目的によれば、本発明はまた、シスC/D環接合を有するステロイドまたはセコステロイド誘導体の調製方法に関し、前記方法は、本発明に係るシス融合二環式誘導体の調製方法を含む。
【0026】
前記セコステロイドは好ましくは、ビタミンDの類似体であり、より好ましくは式(III)のイネカルシトールまたはその誘導体である:
【化7】

[式中、R、R、R、R、R、m、nは式(I)に定義したとおりであり、lは0,1,2,3または4から選択される整数であり、各Rは同一でも互いに異なってもよく、ハロゲン原子、C−Cアルキル、C−Cアルケニル、OR、NRR’、CN、NO、パーハロゲノ(C−C)アルキル、COR、COOR、CONRR’、アルキルアリール、アルケニルアリールから独立に選択され、ここでR及びR’は同一でも異なってもよく、H、アルキル、アリールから選択される]。
【0027】
前記ビタミンDの類似体の調製方法は更に以下の工程を含む:
−ウィッティヒ反応を実施する工程;
−得られた化合物を対応するシクロヘキサン誘導体またはその前駆体とカップリングする工程;及び任意に
−得られた化合物を加水分解する工程。
【0028】
ビニルハライド誘導体を導くウィッティヒ反応は、トリフェニルホスフィン誘導体、例えばイリド、例えばPhPCH(Hal)[式中、HalはBrのようなハロゲン原子を表す]によって一般的に実施される。この反応は、通常のウィッティヒ条件、特に−80℃から−50℃の間の温度で実施できる。この工程は、クロマトグラフィーのような一つ以上の精製工程によって引き続いても良い。イリドは、対応するアルキルハライドをトリフェニルホスフィン(PPh)と反応させることによって調製されて良い。Vandewalle等(Tetrahedron Lett, 37, 7637-7640, 1996)は、この段階でエピマー化は生じないことを示した。
【0029】
ウィッティヒ反応に引き続き、好ましい実施態様によれば以下の化合物を得る:
【化8】

【0030】
カップリング工程は好ましくは、シクロヘキサン誘導体、またはその二環式前駆体、例えば式(VI)の化合物によって実施される:
【化9】

[式中、Pg’はOH官能基の保護基である]。式(VI)の化合物の調製は、US6191292に記載されている。
【0031】
カップリングは、強力なリチオ化塩基、例えばn−BuLi、s−BuLiまたはt−BuLi、より好ましくはt−BuLiの存在下で一般的に実施されるメチル−ハロゲン交換を経て進行する。
【0032】
カップリング反応は、式(VI)の化合物を導く:
【化10】

【0033】
式(VI)の化合物の任意の加水分解は、転移を経て式(VII)の化合物を導く:
【化11】

【0034】
一般的に加水分解は、TsOHのような酸の存在下で、ジオキサン/水中の酸触媒化過溶媒分解によって実施されて良い。これらの条件と共に、エトキシエチル保護基の除去が生じて、粗イネカルシトールを与え、結晶化を経て精製される。
【0035】
式(II)の化合物から開始してビタミンDまたはその類似体に至る工程は、特に米国特許第6,017,907号から当該技術分野で既知であり、そのような既知の方法を適用または採用することにより当業者により完成できる。
【0036】
本発明の方法の開始生成物は市場で入手可能であり、または既知の方法を適用及び採用することにより当業者により調製されてよい。
【0037】
ここで使用される「シスC/D環接合を有するステロイドまたはセコステロイド誘導体」は、以下の骨格を含む誘導体を指す:
【化12】

[式中、C及びD環は、シス環接合を形成するように整列する]。
【0038】
ここで使用される用語「ビタミンDの類似体」は、イネカルシトールのようなシスC/D環系を含むビタミンD誘導体を指す。
【0039】
用語「その前駆体」は、一つ以上の官能基の存在及び/または不在によって、指摘されたまたは所望される化合物とは異なっている化合物を指す。そのような官能基は、当業者に既知である一般的な官能化反応によって導入、転位、及び/または省略されて良い。
【0040】
ここで使用される用語「対応する」は、反応に関与し、それ故前記反応によって影響される部分を除いて同じ置換基を有する、開始化合物、試薬、中間体、及び/または得られる化合物を指す。
【0041】
以下の実施例は、非制限的な目的を説明するために記載されている。
【実施例】
【0042】
実施例1:(1R,3aS,7aR)-1-((2S)-5-(1-エトキシエトキシ)-5-メチルヘクス-3-イン-2-イル)-7a-メチルヘキサヒドロ-1H-インデン-4(2H)-オン(3)
【化13】

【0043】
トランスケトン2(1g)を、過剰(1.5当量)のNaHの存在下で4時間THF中での還流下で攪拌した。96/4のシス/トランス比を得た(HPLCによって測定した)。ついで反応混合物を10℃の水に室温で注いだ。シス/トランス比はこの加水分解により影響されなかった。ゲルクロマトグラフィーをシリカ(15重当量)で実施し、ヘプタン/AcOEt+TEA(90/10)の混合物で溶出した。680mg(68%)の所望のシス生成物を>99%の純度で得た。集積した分析データは、3の構造と一致した。
【0044】
実施例2
実施例1を以下のようなスケールアップした量で繰り返した:
【0045】
2.1.テトラヒドロフラン(1.5L)中のトランスケトン2(299g, 0.851モル)の溶液を、テトラヒドロフラン(1.5L)中の懸濁物の60%水酸化ナトリウム(52g, 2.16モル)にゆっくりと加えた。添加が終了してから、混合物を室温で0.5時間攪拌し、還流下で4時間沸騰させた。次いで溶液を冷却し、水(1.5L)を添加した。混合物を攪拌し、n-ヘプタンで抽出した。有機相を水で洗浄し、濃縮した。粗生成物をフラッシュクロマトグラフィーによりシリカゲル上で精製し、精製シスケトン3(215g, 収率75%、97/3のシス/トランス比)を得た。集積した分析データは、3の構造と一致した。
【0046】
2.2.テトラヒドロフラン(13L)中のトランスケトン2(2.640kg, 7.57モル)の溶液を、テトラヒドロフラン(14L)中の懸濁物の60%水酸化ナトリウム(464g, 19.33モル)にゆっくりと加えた。添加が終了してから、混合物を室温で0.5時間攪拌し、還流下で4時間沸騰させた。次いで溶液を冷却し、水(14L)を添加した。混合物を攪拌し、n-ヘプタンで抽出した。有機相を水で洗浄し、濃縮した。粗生成物をフラッシュクロマトグラフィーによりシリカゲル上で精製し、シスケトン3(1.850g, 収率69%、97/3のシス/トランス比)を得た。集積した分析データは、3の構造と一致した。
【0047】
実施例3:イネカルシトールの精製
3.1.ビニルブロミド4の形成
テトラヒドロフラン(2.2L)中のカリウムビス(トリメチルシリル)アミド(484g, 2.42モル)の溶液を、テトラヒドロフラン(2.2L)中の(ブロモメチル)トリフェニルホスホニウムブロミド(1.124kg, 2.57モル)の溶液に-30℃でゆっくりと添加した。添加が終了してから、混合物を-30℃で1.5時間維持し、次いで0℃に温めた。次いでテトラヒドロフラン(0.5L)中のシスケトン3(340g, 0.945モル)の溶液を0℃で添加し、混合物を2.5時間攪拌した。次いで、20℃未満の温度を維持しながら。水をゆっくりと添加した。混合物をエチルアセテートで抽出した。有機相を塩水で洗浄し、乾かし、濃縮した。粗残余物をシリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィーにより精製し、純粋なビニルブロミド4(200g, 収率48%)を得た。
【0048】
3.2.アルデヒド5での濃縮
tert-ブチルリチウム(ペンタン中に1.7M、1.25L)の溶液を、テトラヒドロフラン(3.4L)中の4の溶液(431, 1.01モル)に-70℃で滴下した。添加が終了してから、混合物を-70℃で1.5時間攪拌し、テトラヒドロフラン(0.5L)中のアルデヒド5(253g, 1.05モル)の溶液を混合物を滴下した。次いで溶液を-70℃で1時間維持し、飽和塩化アンモニウム溶液の添加により停止した。溶液をエチルアセテートで抽出し、次いで有機相を塩水で洗浄し、乾燥して濃縮した。粗残余物をシリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィーにより精製し、純粋な化合物6(308g, 収率51%)を得た。
【0049】
3.3.イネカルシトール1の合成
ジオキサン/水(120mL, 7/3)中のp-トルエンスルホン酸(57g, 0.299モル)の溶液を、ジオキサン/水(4L)中の化合物6(305g, 0.505モル)の溶液に添加した。混合物を60℃で4時間攪拌し、次いで室温に冷却した。エチルアセテートを添加し、溶液を炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液と塩水で洗浄した。有機相を分離し、乾かし、濃縮した。粗残余物をシリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィーにより精製し、ジイソプロピルエーテル/エタノールから結晶化し、純粋なイネカルシトール1(145g, 収率71%)を得た。
【0050】
比較例1(米国特許第6,017,907号の方法)
実施例1で使用された370mgのトランス化合物の異性化を、室温で12時間、MeONa/MeOHの存在下で実施する。混合物を減圧下で蒸発させ、残余物をシリカゲルカラム(エチルアセテート/ヘキサン、2/8)で精製し、純粋なシスケトンをHPLC(エチルアセテート/ヘキサン、2:8)による分離によって65%の収率で得る。
【0051】
比較例2
比較例1をスケールアップした量で繰り返した。
【0052】
ナトリウムメトキシド(メタノール中に30重量%、73ml)の溶液を、メタノール(5.4L)中のトランスケトン2(538g1, 1.55モル)の溶液に10℃で滴下した。添加が終了してから、混合物を50℃で3時間攪拌した。次いで溶液を室温に冷却し、シリカゲル(1kg)で濾過した。濾液を濃縮し、522gの粗シスケトン3(80/20のシス/トランス比)を得た。粗残余物を2つの部分に分離し、各部分をシリカゲルでのフラッシュクロマトグラフィー(2×2kg、溶出液:n-ヘプタン/エチルアセテート(9/1))により精製した。精製をHPLCによりモニターした。
【0053】
≧95/5のシス/トランス比を示す分画を組み合わせて濃縮し、純粋なシスケトン3(144g 収率27%, シス/トランス比97/3)を得た。85/15から95/5の間のシス/トランス比を示す分画を組み合わせて濃縮し、シリカゲル(2kg, 溶出液n-ヘプタン/エチルアセテート(9/1))での第二のフラッシュクロマトグラフィーに供した。≧95/5のシス/トランス比を示す分画を組み合わせて濃縮し、純粋なシスケトン3(117g 収率22%, シス/トランス比98/2)を得た。最後に純粋な材料を組み合わせ、261gの純粋なシスケトン(収率49%, シス/トランス比97/3)を得た。
【0054】
注意:3のカラム由来の≦85/15のシス/トランス比を示す分画を組み合わせて濃縮し、主としてシスケトン3とトランスケトン2(シス/トランス比52/48)を含む217gの粗混合物を得た。この分画を上記記載の条件を使用して再び異性化し、3の粗混合物(シス/トランス比80/20)を得た。いくつかのフラッシュクロマトグラフィーを使用する冗長な精製法を繰り返し、合成の全収率のわずかな増大を得た。
【0055】
比較例3
実施例1で使用したトランス化合物の異性化を、以下の各種の条件で実施する。得られた比は以下の表に報告されている。
【0056】
【表1】

【0057】
試験された各種の塩基のいずれもが、84/16より高いシス/トランス比を導かないことが明らかであり、水素化物塩基の使用は>96/4のシス:トランス比を導く。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シス融合二環式誘導体を対応するトランス融合二環式誘導体から調製する方法であって、前記トランス融合二環式誘導体を水素化物塩基と反応させる工程を含む方法。
【請求項2】
前記融合二環式誘導体が、任意に置換されたシクロアルカンで任意に置換されたシクロアルカノンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記トランス及びシス融合二環式構造が、それぞれ下式(I)及び(II)を有する、請求項1または2に記載の方法:
【化1】

[式中、
−RはHまたはC−Cアルキル基を表し;
−RはHまたはDを表し、Dは重水素原子を表し;
−Rは任意に一つ以上の二重または三重結合を含み、及び/またはO、N、S、Siから選択される一つ以上のヘテロ原子を任意に含むC−C20アルキルを表し;
−mは0,1,2,3から選択される整数であり;
−nは0,1または2から選択される整数であり;
−存在する場合、各R及びRは同一でも異なってもよく、それぞれ1からnまたは1からm基を表し、同一でも互いに異なってもよく、ハロゲン原子、C−Cアルキル、C−Cアルケニル、OR、NRR’、CN、NO、パーハロゲノ(C−C)アルキル、COR、COOR、CONRR’、アルキルアリール、アルケニルアリールから独立に選択され、ここでR及びR’は同一でも異なってもよく、H、アルキル、アリールから選択される]。
【請求項4】
m=n=0であり、R=メチルであり、R=Hであり、及び/またはRが下式
【化2】

[式中、XはHであるかまたはXはOH官能基の保護基であり、破線の結合
【化3】

はシクロペンチルコアに対する結合である]
である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記塩基が、式M−H(式中、MはIA族の原子である)を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記塩基がNaHである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。。
【請求項7】
前記工程が、THFまたはアルキル化THFから選択される溶媒で実施される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
更に加水分解工程を含み、前記異性化工程の後に実施される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
更に得られたシス融合二環式誘導体を精製する工程を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記精製がカラムクロマトグラフィーにより実施される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
溶出溶媒がヘプタンとエチルアセテートとの混合物である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
シスC/D環接合を有するステロイドまたはセコステロイド誘導体の調製方法であって、請求項1から11のいずれか一項に記載のシス融合二環式誘導体を対応するトランス融合二環式誘導体から調製する方法を含む方法。
【請求項13】
前記セコステロイドが式(III)のビタミンDの類似体である、請求項12に記載の方法:
【化4】

【請求項14】
前記セコステロイドが下式のイネカルシトールである、請求項12または13に記載の方法:
【化5】

【請求項15】
−ウィッティヒ反応を実施して、ビニルハロゲン化物誘導体を導く工程;
−得られた化合物を対応するシクロヘキサン誘導体またはその前駆体とカップリングする工程;及び任意に
−得られた化合物を加水分解する工程。
を更に含む、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。

【公開番号】特開2011−153140(P2011−153140A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−12797(P2011−12797)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(508036581)
【Fターム(参考)】