説明

融雪路盤構造

【課題】融雪液を直接積雪に噴射して衝突させることにより、融雪液が積雪に与える熱エネルギーのロスを抑制して融雪効率を向上させるとともに、融雪水を滞留させずに排水することにより路面の凍結を抑制する融雪路盤構造を提供する。
【解決手段】温水を滞留させずに排水する融雪路盤構造1であって、難透水材または難透水処理された部材から形成されるとともに排水方向に傾斜された複数の排水溝4を備えた下層路盤2と、透水性を有する部材から形成された上層路盤3と、温水を上層面31に沿って滴状に噴射する複数のノズル51を備えるとともに噴射される温水の拡散範囲が少なくとも隣設するノズル51との拡散範囲を重複させるように上層面31に配置された噴射部5とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融雪路盤構造に関し、特に、融雪液を直接積雪に衝突させて融かすとともに融雪水を滞留させずに排水する融雪路盤構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路等の融雪を行うため、融雪機や融雪槽、流雪溝、融雪路盤構造等の様々な融雪設備が提案されている。特に、人力を費やさない融雪路盤構造は、車道や歩道、敷地等における融雪設備として実用化されている。融雪路盤構造には、路盤構造内に電熱線や温水循環パイプ等を埋設して路面を加熱する、いわゆるロードヒーティングに代表される無散水型と、地下水や温水を路面に散水することにより融雪する、いわゆる消雪パイプに代表される散水型とがある。
【0003】
無散水型融雪路盤構造の場合、融雪前の路面を予め昇温させるための予備熱や、融雪後の路面にアイスバーンが形成されるのを防止するための乾燥熱を、各々、融雪の前後に路面へ供給しなければならず、また、融雪されて路面に残った融雪水に、路面の熱が逐次奪われてしまうため、多大な熱エネルギーを必要としてしまい、融雪効率も悪い。
【0004】
ここで、「融雪効率」とは、理論的に融雪に必要な熱エネルギー量を、融雪設備で消費する熱エネルギー量で除した値を%表示した値であり、その値が大きいほど熱量消費は少なくて済むが、前述のような従来のロードヒーティングにおいては、融雪効率が30%以下であるとの報告がなされている{北海道立北方建築総合研究所Home Page C−4.融雪設備(融雪装置のいろいろ)}。近年のエネルギー資源の高騰によるランニングコストの上昇や地球温暖化等の環境破壊等の問題を鑑みれば、融雪効率を高めることが急務である。
【0005】
一方、消雪パイプのような従来の散水型融雪路盤構造の場合、その多くが路面上において噴水状に散水するものであるため、融雪箇所にムラができ、融けきれずに残った雪と水とが混合してシャーベット状の雪となってしまい、歩行者等の交通に支障をきたすほか、路面が凍結した場合、雪だけが凍結した場合と比較して滑りやすくなってしまう。また、水はけの悪い箇所において、或いは雪づまり等で排水能力が落ちた場合において、道路が冠水する等の問題が生じている。
【0006】
そこで、前述のような問題を解決するため、例えば、特開平6−272207号公報には、防水処理された基礎路盤、基礎路盤の表面に敷設された排水材、基礎路盤と道路表層材との間に配設される温水供給パイプ、および温水回収手段を備えて、温水供給パイプのノズル穴から温水を噴出し、排水材の内部に一様に温水を流下させて道路表層材を一様に加温する融雪路盤構造が開示されている(特許文献1)。
【0007】
また、特開平11−286904号公報には、透水表層の全面に連通する通水性を利用し、透水表層内部から道路表面に向けて温水を噴出させて、道路上の積雪や道路表面に形成されている凍結層等を融解させ、この融解水を透水表層の透水性を利用して透水表層内に導入排出させる融雪路盤構造が開示されている(特許文献2)。
【0008】
【特許文献1】特開平6−272207号公報
【特許文献2】特開平11−286904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された融雪路盤構造においては、直接温水を噴射して熱エネルギーを積雪に与えて融雪するのではなく、排水材の内部に一様に温水を流下させて道路表層材を一様に加温して融雪するため、融雪水が道路表層材に浸透して排水される際に、融雪水によって道路表層材が熱エネルギーを奪われてしまい、その結果、融雪効率が低くなってしまう。
【0010】
また、特許文献2に開示された融雪路盤構造においても、直接温水を噴射して熱エネルギーを積雪に与えて融雪するのではなく、一旦、透水表層内部から透水表層を通じて道路表面に向けて温水を噴出させて融雪するため、噴射された温水が透水表層を通じて熱エネルギーを奪われてしまい、やはり融雪効率が低くなってしまう。
【0011】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、融雪液を直接積雪に噴射して衝突させることにより、融雪液が積雪に与える熱エネルギーのロスを抑制して融雪効率を向上させるとともに、融雪水を滞留させずに排水することにより滞留水に奪われる熱エネルギーの損失を抑えつつ路面の凍結を抑制する融雪路盤構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る融雪路盤構造は、融雪水を滞留させずに排水する融雪路盤構造であって、難透水材または難透水処理された部材から形成されるとともに排水方向に傾斜された複数の排水溝を備えた下層と、透水性を有する部材から形成された上層と、融雪液を上層面に沿って滴状に噴射する複数のノズルを備えるとともに噴射される前記融雪液の拡散範囲が少なくとも隣設するノズルとの拡散範囲を重複させるように前記上層面に配置された噴射部とを備えている。
【0013】
また、本発明において、前記難透水材はゴム材であることが好ましく、前記難透水処理された部材は防水塗料を表面に塗布したアスファルトであることが好ましく、また、前記透水性を有する部材はゴムチップ舗装材または開粒度アスコンであることが好ましい。
【0014】
また、本発明において、前記各ノズルは、前記融雪液の噴射角度を上層面に対して上方に向けて配置されていることが好ましい。
【0015】
また、本発明において、前記複数のノズルは複数列をなすように配置されるとともに隣り合う列のノズルの噴射口が対向するように配置されていることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明に係る融雪路盤構造は、総合融雪効率が約68%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、融雪液を直接積雪に噴射して衝突させることにより、融雪液が積雪に与える熱エネルギーのロスを抑制して融雪効率を向上させるとともに、融雪水を滞留させずに排水することにより滞留水に奪われる熱エネルギーの損失を抑えつつ路面の凍結を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る融雪路盤構造は、路盤表面である上層の上面すなわち上層面を加温して上層面の積雪を融雪するのではなく、滴状の融雪液を直接積雪に噴射し衝突させることにより融雪し、それにより生じる融雪水を、この融雪路盤構造内に滞留させずに速やかに排水するものである。そのため、本発明に係る融雪路盤構造は、少なくとも排水方向に傾斜された複数の排水溝を備えた難透水性を有する下層と、透水性を有する上層と、上層面に配置された融雪液を噴射するための噴射部とを備えている。
【0019】
本発明に係る融雪路盤構造が傾斜されている態様としては、この融雪路盤構造がいずれかの一方向に傾斜されている態様のほか、例えば、略中央から長手方向の両側縁或いは長手方向に直交する幅方向の両側縁へ傾斜されている態様を挙げることができる。また、下層および上層ともに傾斜されている態様であってもよいし、排水溝を備えた下層のみを傾斜させて上層を傾斜させない態様であってもよい。なお、車両の駐車等を考慮すれば、傾斜は緩やかに施されていることが好ましい。
【0020】
本発明に係る融雪路盤構造の下層は、難透水材または難透水処理された部材から形成されて、難透水性を有するが、本発明において難透水材または難透水処理された部材は特に限定されず、難透水材としては、例えば、天然ゴムや合成ゴム、熱可塑性エラストマー、塩化ビニル、ウレタン、アクリルエマルション、FRP(繊維強化プラスチック)等で形成されたシートや板、密粒度アスファルト混合物、細粒度アスファルト混合物等を挙げることができ、天然ゴムや合成ゴム等のゴム材が好ましい。一方、難透水処理された部材としては、例えば、密粒度アスファルト・コンクリート混合物(密粒度アスコン)や細粒度アスファルト・コンクリート混合物(細粒度アスコン)を用いたアスファルト・コンクリート舗装(アスファルト)に防水塗料を塗布したものや、ウレタン、合成ゴム、FRPの塗膜を施した等を挙げることができ、防水塗料を表面に塗布したアスファルトが好ましい。なお、防水塗料を表面に塗布したアスファルトを用いる場合の、アスファルトに用いる密粒度アスコンや細粒度アスコンの粒度については、適宜好適な粒度を選択することができるが、粒度が2.36mm以下のものが35〜50%の範囲で含まれているものが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る融雪路盤構造の下層は、排水路等に向かって下降に傾斜された複数の排水溝を備えている。排水溝は、排水方向に傾斜されていれば全体形状や横断面形状は特に限定されないが、幅の細い、長尺直線状に形成された多数の排水溝が平行に並べられた配置構成であることが好ましく、各排水溝の横断面形状が略V字状ないし略U字状であることが好ましい。
【0022】
本発明に係る融雪路盤構造の上層は、透水性を有する部材から形成されているが、本発明において透水性を有する部材は特に限定されず、例えば、ゴムチップ舗装材、開粒度アスファルト・コンクリート混合物(開粒度アスコン)等を用いた多孔質のアスファルトやコンクリートを用いた多孔質の透水性コンクリート舗装材、自然石をエポキシ樹脂で固めた樹脂系透水性舗装材、透水性煉瓦、透水性インターロッキングブロック等を挙げることができ、ゴムチップ舗装材または開粒度アスコンが好ましい。なお、ゴムチップ舗装材や開粒度アスコンを用いる場合のこれらの粒度については、適宜好適な粒度を選択することができるが、空隙率が15〜25%になることが好ましい。
【0023】
なお、本発明において「ゴムチップ舗装」は、「ゴムチップブロック舗装」、「弾性ゴム舗装」、「リサイクルゴムチップ舗装」、「再生ゴムチップ舗装」、「透水型ゴムチップ舗装」、「ゴムチップ弾性舗装」、或いは「弾性ゴムチップ舗装」と交換可能に用いられ、「ゴムチップ舗装材」は、「ゴムチップブロック」、「弾性ゴム舗装材」、「リサイクルゴムチップ」、「再生ゴムチップ」、「透水型ゴムチップ」、「ゴムチップ弾性舗装材」、或いは「弾性ゴムチップ」と交換可能に用いられる。
【0024】
本発明に係る融雪路盤構造のノズルは、融雪液を上層面に沿って滴状に噴射することが可能であれば特に限定されず、例えば、ノズルの先端或いはノズル全体が回動自在となって融雪液の噴射角度を調節できるものであってもよい。好ましい態様としては、融雪液の噴射角度を上層面に対して上方に向けてノズルが配置されている態様や、複数のノズルが複数列をなすように配置されるとともに隣り合う列のノズルの噴射口が対向するように配置されている態様を挙げることができる。また、複数のノズルが複数列をなすように配置されて、その列同士が隣接する場合、例えば、一方の列のノズルが隣接する他方の列のノズルと同等な位置に配置されてもよく、一方の列の複数のノズルの間に位置するように他方の列のノズルが配置されてもよい。さらに、前記列同士が隣接しない場合においては、例えば、一つの列の複数のノズルが交互に反対方向を向くように配置されてもよい。
【0025】
なお、本発明における融雪液とは、融雪可能で滴状に噴射することができる液体であれば特に限定されず、温水や熱水等の水のほか、例えば、融雪剤や不凍液が溶解された液体等を挙げることができる。なお、排水や設備の維持等の観点に鑑みれば、温水が好ましい。
【0026】
また、本発明に係る融雪路盤構造は、融雪液として温水を用いた場合の総合融雪効率が約68パーセントである。ここで、「総合融雪効率」とは、前述の融雪効率において、ボイラー等の加熱手段およびこの加熱手段から融雪路盤構造までの熱損失を見込んだ値をいう。すなわち、本発明における総合融雪効率は、ノズルから噴射される融雪液の熱量に基づいて算出されている。
【0027】
ここで、雪を氷に換算し、T℃かつWkgの氷をT℃の融雪液で融解する場合の総合融雪効率η(%)は、以下のようにして算出することができる。
【0028】
まず、Smの路面に密度Dkg/mの積雪がHcmである場合、計A個のノズル1個当たりの融解すべき氷の重量Wは、
W(kg)=SDH/100A
と換算される。
【0029】
次に、T℃かつWkgの氷を、0℃の水とするために必要な熱量Qsを求める。
Qs(kcal)=Q(kcal)+Q(kcal)
ここで、QとQとは、各々
:T℃の氷を0℃の氷とするために必要なノズル1個当たりの熱量(kcal)
={氷の比熱(kcal/kg・℃)}×{氷の重量(kg)}×{温度差(℃)}
=−0.5T
:0℃の氷を0℃の水とするために必要なノズル1個当たりの熱量(kcal)
={氷の融解潜熱(kcal/kg)}×{氷の重量(kg)}
=80W
である。
よって、
Qs=(−0.5T+80)W
となる。
【0030】
次に、ノズル1個当たりから噴射される融雪液の流量Vs(L/秒)を求める。融雪液の貯留タンク(ボイラー)の容量をV(L)、この貯留タンクが空になるのに要した時間をt(秒)とすると、
Vs=V/t
となる。
この流量Vsを用いて、ノズル1個当たりからt秒間噴射される融雪液(基準温度を0℃とする)の保有熱量Qwを求める。
Qw(kcal)={流量Vs(L/秒)}×{噴射時間t(秒)}
×{温水容積比熱1(kcal/L・℃)}×{温度差T−0(℃)}
=tVT/t
となる。
【0031】
以上より、総合融雪効率η(%)は、
η=100Qs/Qw
であり、
η=100(−0.5T+80)WtA/tVT
と算出される。
【0032】
以下、本発明に係る融雪路盤構造の第一実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本第一実施形態を示す斜視図であり、図2は、この第一実施形態の配水管6とノズル51との状態を示す斜視図、図3は、この第一実施形態の構成を示す断面図である。
【0033】
本第一実施形態における融雪路盤構造1は、図1、図2、および図3に示すように、主に、下層路盤2、上層路盤3、排水溝4、噴射部5、配水管6、および排水路7を備えている。以下、各構成について詳細に説明する。
【0034】
下層路盤2は、細粒度アスコンを調製して用い、長手方向に10m、長手方向に直交する幅方向に2m、厚さが50mmとなるように形成されている。図3に示すように、下層路盤2の上面である下層面21には、排水溝4が形成されており、排水溝4を含む下層面21の全面に図示しない防水塗料(水性強力コンクリート床用アクリルペイント;アサヒペン社)が塗布されて、難透水性を備えている。また、図3に示すように、下層面21の排水溝4が形成されていない凸面と上層路盤3の上層下面32とが接面されており、下層路盤2の下層下面22と路床8の路床上面81とが接面されている。
【0035】
前記排水溝4は、図3に示すように、平面視において細長い矩形であって横断面形状がV字形に形成され、かつ長手方向の排水路7に向かって下降傾斜された直線的な溝に形成されており、前述の通り、前記防水塗料(水性強力コンクリート床用アクリルペイント;アサヒペン社)が塗布されて難透水性を有している。なお、排水溝4は、下層路盤2が形成される過程において、型取りされて形成されているが、これに限定されず、例えば、下層路盤2の形成後に下層面21を削ることにより形成されてもよい。
【0036】
また、前記路床8は、図1および図3に示すように、前記路床8全体が長手方向に1mに対し5mmの割合で傾斜するよう、かつ、0〜40mmの砕石を用いて、融雪路盤構造1が路床8上に敷設できる面積、および厚さが150mm以上となるよう、圧縮して形成されている。
【0037】
上層路盤3は、1mm〜5mmのゴムチップ粒子(B−5;新生ゴム社)を用いて、図1、図2、および図3に示すように、下層路盤2とほぼ同等な面積であって、厚さが22mmとなるように形成されており、透水性を有している。
【0038】
噴射部5は、図3および図7に示すように、ノズル51を備えており、ノズル51には、温水を上層路盤3の上面である上層面31に沿って滴状に噴射させる噴射口52が形成されている。ノズル51は、配水管6上に等間隔となるよう配設されつつ、噴射口52が上層面31の方向に向くよう、すなわち内向きとなるよう、かつ温水の拡散範囲53が少なくとも隣設するノズル51との拡散範囲53を重複させるよう、上層面31に配置されている。つまり、この温水の拡散範囲53が、隣設するノズル51との拡散範囲53のみならず、例えば、2つ隣に配置されているノズル51との拡散範囲53を重複させるよう、上層面31に配置されてもよい。
【0039】
また、この温水の拡散範囲53の水平方向の角度や全体形状等は特に限定されるものではないが、水平方向に広角状の、全体形状が楕円錐形状であることが好ましく、本第一実施形態においては、図8に示すように、水平方向に約115°の角度でノズル51から拡散される。ノズル51からの水平方向の噴射角度が鋭角過ぎる場合、その拡散範囲53から外れる領域、つまり列方向に並ぶノズル51同士の間に略三角形エリアに雪が残ってしまうおそれがある。また、ノズル51は、図1および図2に示すように、その噴射口52が、隣り合う配水管6に配設されたノズル51の噴射口52と対向するように配置されている。さらに、噴射口52は上層面31に対し、やや上方へ向けられて配置されている。
【0040】
配水管6は、図1および図2に示すように、図示しない水道管からの水がボイラー91において温められ、一旦、温水貯留タンク92にて貯留されてから高圧ポンプ93にて配水管6に送水される温水をノズル51に供給するものであり、上層面31を取り囲むようにして上層面31の傾斜下方の辺を除く上層面31の周縁に配設されている。また、図2に示すように、上層面31の傾斜下方に配置された配水管6の先端には、水抜き機構61が備えられている。
【0041】
前記水抜き機構61は、図4(a)(b)に示すように、排水部611とパッキン612とを備えている。パッキン612は、図示しない伸縮可能なステンレスバネにより排水部611と連結されている。水圧が0.03MPa以上のとき、すなわち高圧ポンプ93から配水管6へ温水が供給されているとき、温水がパッキン612を排水部611の先端方向へ押し、前記ステンレスバネが縮むことによってパッキン612が排水部611に嵌り込み、配水管6から排水部611への流路が遮断される。一方、水圧が0.03MPa未満のとき、すなわち高圧ポンプ93から配水管6へ温水が供給されないとき、温水がパッキン612を押すのをやめ、前記ステンレスバネが伸びることによってパッキン612が排水部611から離れ、配水管6から排水部611への流路が解放される。これにより、配水管6内に残った水を排水部611から排水することができる。
【0042】
また、配水管6は配水管支持体62により支持されている。図3に示すように、配水管支持体62には、配水管6を収容可能に略U字形の溝が上方に開口するように形成されており、当該配水管支持体62は平板状の配水管支持体基盤63上に設置されている。また、配水管支持体62は配水管6を支持しつつ定置させるものであるため、図3に示すように、配水管6と同様、上層面31を取り囲むようにして上層面31の傾斜下方の辺を除く上層面31の周縁に配設されている。なお、本第一実施形態において、配水管支持体62および配水管支持体基盤63はコンクリートにより形成されているが、これに限定されず、適宜好適な材料を選択することができる。
【0043】
また、図1および図3に示すように、配水管6と、これに配設されたノズル51とを外部の接触から保護するため、配水管支持体62に嵌合可能な、配水管グレーチング64によって蓋がれているが、これに限定されず、適宜好適な態様を選択することができる。
【0044】
さらに、例えば商業施設の敷地内に融雪路盤構造1を複数並べて配設させる場合、すなわち配水管6を複数列配置させる場合、図9(a)に示すように、一方の配水管6に配置された複数のノズル51と、隣接する他方の配水管6に配置された複数のノズル51とが同等な位置に配置されてもよく、或いは図9(b)に示すように、一方の配水管6に配置された複数のノズル51の間に位置するように他方の配水管6に配置された複数のノズル51が配置されてもよい。さらに、配水管6が隣接しない場合においては、図9(c)に示すように、一つの配水管6に配置された複数のノズル51が交互に反対方向を向いて配置されてもよい。
【0045】
排水路7は、図2に示すように、排水溝4の排水孔41と連通されており、排水溝4を流通する図示しない融雪水が傾斜に従って排水路7に流入する。排水路7はまた、水抜き機構61を通じて配水管6とも連通されており、配水管6内の図示しない残水が水抜き機構61を通じて排水路7に流入する。流入した前記融雪水および前記残水は、図示しない排水口を通じて外部へ流出される。なお、本第一実施形態においては、排水路7に嵌合可能な、排水路グレーチング71によって蓋がれているが、これに限定されず、適宜好適な態様を選択することができる。
【0046】
次に、本発明に係る融雪路盤構造の第二実施形態および第三実施形態について図面を用いて説明する。図5は、本第二実施形態を示す斜視図であり、図6は、本第三実施形態を示す斜視図である。なお、本第二実施形態および本第三実施形態の構成のうち、前述した第一実施形態と同一または相当する構成については同一の符号を付して再度の説明を省略する。
【0047】
本第二実施形態における融雪路盤構造1においては、路床8が長手方向の略中央位置から両側縁へ向けて長手方向に1mに対し5mmの下降割合で傾斜されている。このため、図5に示すように、排水路7は長手方向に直交する幅方向の両側縁の二辺に設けられている。一方、本第三実施形態における融雪路盤構造1においては、路床8が長手方向に直交する幅方向の略中央位置から両側縁へ幅方向に1mに対し5mmの下降割合で傾斜されている。このため、図6に示すように、排水路7は長手方向の両側縁の二辺に設けられている。
【0048】
以下、本実施形態における融雪路盤構造1の作用について、図面を用いて詳細に説明する。
【0049】
まず、図示しない水道管からボイラー91に水を供給し、このボイラー91にて温めた温水を温水貯留タンク92に貯留し、高圧ポンプ93の電源を入れることで配水管6に温水を送水する。配水管6に送水された温水は、各ノズル51に供給される。このとき、パッキン612にかかる水圧は0.03MPa以上となり、図4(a)に示すように、パッキン612が排水部611に嵌り込んで配水管6から排水部611への流路が遮断されるため、配水管6内の温水は水抜き機構61を通じて外部に排水されることはない。
【0050】
ノズル51に供給された温水は、図7および図9に示すように、噴射口52から上層面31に沿って、上層面31よりもやや上方に向かって滴状に噴射される。これにより、上層面31上の図示しない積雪に対して滴状の温水を衝突させることができ、積雪は短時間で融解され、融雪水となる。
【0051】
また、噴射口52から滴状に噴射された温水の拡散範囲53は、図7、図8、および図9に示すように、隣設するノズル51および2つ隣に配置されているノズル51の噴射口52から滴状に噴射された、全体形状が楕円錐形状である温水の拡散範囲53と水平方向に広角度で重複するため、積雪の上部を融解させた後は、対向した噴射口52から噴射された温水同士が楕円面を接面するようにして衝突する。ここで、温水を積雪の上部に衝突させて融雪させる場合、積雪の上部を融解させた後は、対向した噴射口52から噴射された温水同士が衝突して、温水が上層面31上の残雪へスコール状或いは温水のカーテンのように降り注いで融雪させることも可能であるため、ムラなく積雪全体をより短時間で融解させることができる。一方、温水を積雪の中・下部に衝突させて融雪させる場合でも、その中・下部を融解させた後はその上部が崩れ落ちるため、前述と同様、温水が上層面31上の残雪へスコール状或いは温水のカーテンのように降り注ぐことが可能であるから、同様にムラなく積雪全体を短時間で融解させることができる。
【0052】
融解された積雪は、図示しない融雪水となって上層面31から上層路盤3内に浸透する。浸透した融雪水は、上層路盤3が透水性を有しているため上層路盤3内にほとんど滞留することなく速やかに浸透し、短時間で上層下面32へ達する。上層下面32に達した融雪水は、接面する下層面21に形成された複数の排水溝4に流入する。ここで、複数の排水溝4は横断面形状をV字形に形成され、かつ排水路7に向かって下降傾斜されているため、排水溝4に流入した融雪水は、排水溝4内を下流し、短時間で排水孔41に到達する。
【0053】
排水孔41に到達した融雪水は、排水孔41に連通された排水路7に流入し、図示しない排水口を通じて外部へ流出される。
【0054】
なお、上層面31上にわずかに残った融雪水は、未だ熱エネルギーを有しているため、蒸発して上層面31上からほぼ消滅する。
【0055】
融雪を終えた後は、前記高圧ポンプ93の電源を切って配水管6への送水を止める。このとき、パッキン612にかかる水圧は0.03MPa未満となり、図4(b)に示すように、パッキン612が排水部611から離れ、配水管6から排水部611への流路が解放されることから、配水管6内に残った水は排水部542から排水され、水抜き機構61に連通された排水路7に流入し、図示しない排水口を通じて外部へ流出される。
【0056】
以下、本第一実施形態に係る融雪路盤構造1の実施例について説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0057】
20mの路面に密度80kg/mの積雪が5cmであるとして、配置した計38個のノズル1個当たりの融解すべき氷の重量を、ノズル1個当たり2.1kgと算出した。そこで、ノズル1個当たり2.1kgの氷を融解させる実験を行った。用いた氷は、−23℃の氷冷機で作製・保管されていたものを使用し、ノズルから発射される温水の温度を68.5℃と設定した。以上より、−23℃、2.1kgの氷を0℃の水にするために必要な熱量は192.15kcalと算出された。
【0058】
ボイラーの温水472Lを全て消費するのに150秒費やしたことから、ノズル1個当たりの温水流量は0.0828L/秒と算出された。このデータを基に、ノズル1個当たりの、50秒間噴射される温水の保有熱量を算出し、283.6kcalとの値を得た。
【0059】
以上より、本実施例における総合融雪効率は、67.8%と算出された。
【0060】
以上のような本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
1.温水が積雪に与える熱エネルギーのロスを抑制して融雪効率を向上させることができる。
2.温水を融雪路盤構造1内に滞留させずに排水することができる。
3.上層面31の凍結を抑制することができる。
4.滞留する水に奪われる路盤上の熱エネルギー損失を抑えることができる。
【0061】
なお、本発明に係る融雪路盤構造は、前述した実施例に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0062】
例えば、本発明に係る融雪路盤構造の平面形状は略矩形に限られず、例えば、円形や楕円形等に形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る融雪路盤構造の第一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る融雪路盤構造の第一実施形態の配液管とノズルとの状態を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る融雪路盤構造の第一実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明に係る融雪路盤構造の第一実施形態における水抜き機構を示す拡大図である。
【図5】本発明に係る融雪路盤構造の第二実施形態を示す斜視図である。
【図6】本発明に係る融雪路盤構造の第三実施形態を示す斜視図である。
【図7】本発明に係る融雪路盤構造における融雪液の拡散範囲を示す斜視図である。
【図8】本発明に係る融雪路盤構造における融雪液の拡散範囲を示す拡大平面図である。
【図9】本発明に係る融雪路盤構造における配液管の異なる構成態様と融雪液の拡散範囲とを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
1 融雪路盤構造
2 下層路盤
3 上層路盤
4 排水溝
5 噴射部
6 配水管
7 排水路
8 路床
21 下層面
22 下層下面
31 上層面
32 上層下面
41 排水孔
51 ノズル
52 噴射口
53 拡散範囲
61 水抜き機構
62 配水管支持体
63 配水管支持体基盤
64 配水管グレーチング
71 排水路グレーチング
81 路床上面
91 ボイラー
92 温水貯留タンク
93 高圧ポンプ
611 排水部
612 パッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融雪水を滞留させずに排水する融雪路盤構造であって、難透水材または難透水処理された部材から形成されるとともに排水方向に傾斜された複数の排水溝を備えた下層と、透水性を有する部材から形成された上層と、融雪液を上層面に沿って滴状に噴射する複数のノズルを備えるとともに噴射される前記融雪液の拡散範囲が少なくとも隣設するノズルとの拡散範囲を重複させるように前記上層面に配置された噴射部とを備える融雪路盤構造。
【請求項2】
請求項1において、前記難透水材がゴム材である融雪路盤構造。
【請求項3】
請求項1において、前記難透水処理された部材が防水塗料を表面に塗布したアスファルトである融雪路盤構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかにおいて、前記透水性を有する部材がゴムチップ舗装材または開粒度アスコンである融雪路盤構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかにおいて、前記各ノズルは、前記融雪液の噴射角度を上層面に対して上方に向けて配置されている融雪路盤構造。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかにおいて、前記複数のノズルが複数列をなすように配置されるとともに隣り合う列のノズルの噴射口が対向するように配置されている融雪路盤構造。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかにおいて、総合融雪効率が約68%である融雪路盤構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−112108(P2010−112108A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287239(P2008−287239)
【出願日】平成20年11月9日(2008.11.9)
【出願人】(501051985)有限会社屋根の興研 (3)
【Fターム(参考)】