血圧測定装置および血圧測定方法
【課題】血圧測定装置において、環境音の影響を受けることなく血圧を測定できるようにする。
【解決手段】血圧計のカフ150には、圧電素子200が設けられている。そして、血圧測定の際には、カフ150は、圧電素子200が動脈の上に位置するように、被測定者の腕Aに巻付けられる。血圧計は、圧電素子200の出力信号の変化に基づいて、被測定者の血圧を決定する。
【解決手段】血圧計のカフ150には、圧電素子200が設けられている。そして、血圧測定の際には、カフ150は、圧電素子200が動脈の上に位置するように、被測定者の腕Aに巻付けられる。血圧計は、圧電素子200の出力信号の変化に基づいて、被測定者の血圧を決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧測定装置および血圧測定方法に関し、特に、血圧測定の際に測定部位に空気袋を巻き付けて圧迫する血圧測定装置および血圧測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血圧測定の方式には、一般的に、オシロメトリック法による方式とK音測定方式の2つが挙げられる。オシロメトリック法では、被測定者の腕等に巻き付けられるカフに内包される空気袋にエアーが送り込まれ、当該カフにおいて検出される被測定者の圧脈波情報から血圧が算出される。K音測定方式では、カフ(空気袋)の下流側の動脈付近において計測されるコロトコフ音(K音)に基づいて血圧が算出される。
【0003】
K音測定方式の血圧測定装置では、カフの下流側に、K音を計測するためのマイクロフォンが設けられる。血圧測定の際には、空気袋にエアーが送り込まれ、動脈が閉鎖された後、徐々に空気袋が減圧される。そして、当該減圧過程で、血流が動脈壁にぶつかるK音が計測される。
【0004】
K音測定方式による血圧測定装置についての従来技術としては、たとえば、特許文献1(特公平4−70011号公報)や特許文献2(特開昭62−148641号公報)がある。
【0005】
特許文献1では、カフの下流側に、腕周方向に複数個のマイクロフォン(K音センサ)が設置され、最も大きな出力を示すK音センサの出力を選定する。これにより、カフが腕周方向にずれて巻き付けられても、複数のマイクロフォンのいずれかによって動脈壁におけるK音を計測でき、血圧の測定が可能となる。
【0006】
特許文献2では、カフより下流側に、腕周方向においてマイクロフォンより大きいを寸法を有する金属薄板が設置される。マイクロフォンは、当該金属薄板に接触して設置される。これにより、カフが腕周方向にずれて巻き付けられ、マイクロフォンが動脈壁に対応する位置から外れた場合でも、動脈壁におけるK音は金属薄板を介してマイクロフォンに伝えられるためK音を測定でき、血圧の測定が可能になる。
【0007】
なお、上記した血圧測定装置では、K音を検出するためのマイクに、被測定者の体動によるカフの音など、K音以外の環境音がK音センサに入力される場合があった。そして、入力される環境音の音量が大きい場合、K音センサの検出出力によっては、正確な血圧の測定ができない場合があった。
【0008】
このような不都合を回避するため、特許文献3(特開昭61−247430号公報)には、カフ内で発生する音(C音)を検出するマイク(C音マイク)を、K音を検出するためのマイク(K音マイク)とは別に設け、K音マイクで検出された音声からC音マイクで検出された音声を用いてC音を分離して、血圧測定を行なう技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平4−70011号公報
【特許文献2】特開昭62−148641号公報
【特許文献3】特開昭61−247430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3に開示されている技術では、K音マイクで検出される音声から、カフ内で発生する音声を分離することはできるが、カフの外で発生する環境音については分離することができなかった。したがって、カフの外で発生する環境音の音量が大きい場合には、正確なK音の測定が難しく、正確な血圧測定ができない場合があった。
【0011】
本発明は、かかる実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、血圧測定装置において、環境音の影響を受けることなく血圧を測定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に従った血圧測定装置は、巻付けられることにより被測定者の測定部位を圧迫するカフと、カフ内の圧力を制御する制御手段と、測定部位の表面の歪みに応じた圧電効果を奏する圧電素子と、圧電素子の形状の変化による圧電素子の出力信号の変化に基づいて被測定者の血圧を決定する決定手段とを備える。
【0013】
本発明に従った血圧測定方法は、血圧測定装置による血圧測定方法であって、血圧測定装置は、巻付けられることにより被測定者の測定部位を圧迫するカフに、当該測定部位の表面の歪みに応じた圧電効果を奏する圧電素子を備え、圧電素子の形状の変化による圧電素子の電圧の変化に基づいて、被測定者の血圧を決定する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、血圧測定装置において、カフに設けられた圧電素子における、測定部位の表面の歪みに応じた形状の変化に基づいて、被測定者の血圧が決定される。
【0015】
これにより、環境音の影響を受けることなく、被測定者の血液を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態の血圧測定装置(血圧計)の外観を示す斜視図である。
【図2】図1のカフを展開させた状態を示す図である。
【図3】図1のカフが、被測定者の左腕の上腕部に巻付けられて固定されている状態を示す図である。
【図4】図2中に示すIV−IV線に沿ったカフの断面図である。
【図5】図1の血圧計のハードウェア構成を模式的に示す図である。
【図6】図1の血圧計における、カフ圧の変化に対する圧電素子の表面電位の変化の一例を示す図である。
【図7】血圧測定時のカフ圧の変化に対するコロトコフ音の音量および圧電素子の電圧変化を説明するための図である。
【図8】図1の血圧計において実行される血圧測定処理のフローチャートである。
【図9】本発明の第2の実施の形態の血圧計における、カフの断面を模式的に示す図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態の血圧計における、カフの断面を模式的に示す図である。
【図11】本発明の第3の実施の形態の血圧計のブロック構成を模式的に示す図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態の血圧計に設けられた空気袋による圧電素子の固定の効果を説明するための図である。
【図13】図12に示す効果を説明するための比較例のカフの断面図である。
【図14】コロトコフ音に基づく血圧測定と圧電素子の検出出力に基づく血圧測定を対比して説明するための図である。
【図15】圧電素子の具体的な構成を説明するための図である。
【図16】比較例の血圧計の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。
【0018】
[第1の実施の形態]
(血圧測定装置の構造)
図1は、本実施の形態の血圧測定装置(以下、「血圧計」という)の外観を示す斜視図である。
【0019】
図1を参照して、血圧計100は、装置本体110とカフ150とを主に備えている。装置本体110は、表示部114および操作部115を有している。表示部114は、血圧値の測定結果や脈波数の測定結果などを数値やグラフなどを用いて視認可能に表示する。この表示部114としては、たとえば液晶パネルなどが利用される。操作部115には、たとえば電源ボタンや測定開始ボタンなどが配設されている。
【0020】
カフ150は、被測定者の左腕の上腕部に巻付けられることが企図されたものであり、帯状の外形を有している。カフ150は、上腕を圧迫するための流体袋としての空気袋(図2〜図4に示す空気袋151)と、当該空気袋151を上腕に巻付けて固定するための外装部材としての袋状カバー体161とを有している。空気袋151は、袋状カバー体161の内部に設けられた空間に収容されている。なお、カフ150の詳細な構造については、後述する。本実施の形態では、空気袋151により、測定用流体袋が構成される。
【0021】
カフ150と装置本体110とは、接続管としてのエア管140によって接続されている。エア管140は可撓性のチューブからなり、一端が後述する装置本体110に設けられた血圧測定用エア系コンポーネント131(図5参照)に接続され、他端が前述したカフ150の空気袋151に接続されている。
【0022】
図2は、カフ150を展開させた状態を示す図である。図3は、カフ150が、被測定者の左腕の上腕部に巻付けられて固定されている状態を示す図である。図4は、図2中に示すIV−IV線に沿ったカフ150の断面図である。
【0023】
本実施の形態の血圧計100では、袋状カバー体161内に圧電素子200が設けられている。そして、血圧測定の際には、カフ150が、被測定者の腕Aに、圧電素子200(の一部)が動脈の上に位置するように、巻付けられる。なお、たとえば袋状カバー体161には、位置を示す目印等が付されており、当該目印を参照することにより、被測定者は、圧電素子200が動脈の上に位置するように、カフ150を腕Aに巻きつけることができる。
【0024】
なお、圧電素子200は、腕Aの表面における、血流に基づく歪みを検出することができれば、袋状カバー体161内に設けられている必要はなく、袋状カバー体161の外部に設けられてもよく、また、袋状カバー体161に対して固定されていても着脱可能に設けられても良い。
【0025】
そして、血圧計100は、空気袋151の内圧を高めることにより動脈を閉鎖させた後、空気袋151内を徐々に減圧し、当該減圧過程において動脈に血液が流れる際に生じる生体の歪を、圧電素子200において生じる表面電位の変化として検出する。なお、本命最初では、圧電素子200は、当該圧電素子200に含まれるピエゾフィルム(後述するピエゾフィルム2001)の表面電位を、出力信号として出力する。
【0026】
そして、血圧計100は、圧電素子200の表面電位の変化(表面電位の振幅)に基づいて、被測定者の血圧を決定する。なお、圧電素子200は、薄膜のフィルム状の素子が好ましい。図3に示されるようにカフ150が腕Aなどの測定部位に巻付けられたときに、圧電素子200を当該測定部位に良好にフィットさせることができるからである。
【0027】
圧電素子200については、血圧計100が利用される環境等において適宜決定するものができると考えられる。なお、その一例として、カフ150の測定部位に対する巻付方向の寸法は、たとえば3〜6cm程度が考えられ、また、当該巻付方向に交わる方向(図2のIV−IV線の方向)の寸法としては、たとえば1〜3cm程度が考えられる。なお、このような寸法は、一例であり、カフ150が測定部位に巻付けられた際に測定部位に良好にフィットすることができ、また、人体の動脈における血液の流れによって生じる生体の歪を検出することができれば、圧電素子200の寸法はこれに限定されない。
【0028】
本実施の形態では、圧電素子200の一例として、上記カフ150の巻付方向についての有効長さ29.9mm、幅方向(図2のIV−IV線方向)の有効長さ12.19mm、厚さ0.23mmのMSI社製(東京センサ)のピエゾフィルムを使用している。図15は、圧電素子200の具体的な構成を説明するための図である。図15(A)は、圧電素子の平面図であり、図15(B)は、圧電素子200の縦断面を説明するための図である。
【0029】
図15の(A)および(B)を参照して、圧電素子は、その内部に、圧電効果を奏するピエゾフィルム2001が配設されている。ピエゾフィルム2001は、カフ150が装着される生体の血流による歪に応じて、その外形に歪が生じると、静電容量が変化する。ピエゾフィルム2001には、主に図15(A)に示されるように、2つの端子部(端子部2001A,2001B)が形成されている。当該端子部が装置本体110内の電気回路に接続されているため、血圧計100では、当該電気回路の電圧の変化を調べることにより、血流による測定部位の歪を検出する。
【0030】
圧電素子200では、主に図15(B)に示されるように、ピエゾフィルム2001の上下には、それぞれ、銀塗料2002が塗布され、さらに、ピエゾフィルムの一方の面には、保護層2003が形成され、また、他方の面には、樹脂などの、保護フィルムが配設されている。
【0031】
ピエゾフィルム2001の長手方向の寸法は、上記した端子部分が7.14mmであり、そして、上記端子部分以外の部分(有効長さ)が、29.93mmである。また、ピエゾフィルムの幅は12.19mmであり、そして、圧電素子200の長さが41.40mm、幅15.25mm、そして、厚さ0.23mmである。
【0032】
図4に戻って、カフ150では、当該カフ150が腕Aに当接する面について、空気袋151は領域R1に、そして、圧電素子200は領域R2に、位置している。つまり、カフ150が測定部位の一例である腕Aに当接する面について空気袋151と圧電素子200とが重ならないように、配置されている。これにより、空気袋151の減圧過程における当該空気袋151の偏位による歪が極力圧電素子200に伝わらないようになる。
【0033】
また、図4では、被測定者の血管300が示され、そして、当該血管300における、被測定者の中枢側から末梢側への、血液の流れる方向が矢印BF1で示されている。カフ150では、当該カフ150の巻付方向に交わる方向(IV−IV線方向)について、圧電素子200は、空気袋151の一方側に隣接するように設けられている。これにより、主に図3に示されるように、血圧測定時には、カフ150において、圧電素子200が空気袋151に対して、矢印BF1についての下流側に設置することができる。このような配置により、空気袋151内が被測定者の動脈を閉鎖させる程度に加圧されたときに、空気袋151よりも上流側の動脈における脈動が圧電素子200の表面電位の変化に影響を与えることを極力回避できる。
【0034】
また、カフ150では、空気袋151と圧電素子200の間に、クッション材201が配設されている。これにより、空気袋151の減圧過程等における歪が、圧電素子200の検出出力に極力影響を与えないように構成されている。つまり、空気袋151の変位が、クッション材201によって吸収されることにより、圧電素子200への当該変位の伝達の回避が意図されている。なお、クッション材201の材料としては、たとえば、発泡ウレタン、ネオスポンジ、コイルバネ、板バネ(リン酸銅、SUS)を採用することができる。
【0035】
また、クッション材201は、袋状カバー体161に固定されている。これにより、カフ150が測定部位に巻付けられた際に、圧電素子200は、クッション材201によって、より密接に測定部位に固定される。したがって、より確実に、測定部位の血流による歪が圧電素子200に伝えられ、これにより、当該測定部位の歪がより確実に圧電素子200の表面電位の変化に反映される。
【0036】
(血圧計のハードウェア構成)
図5は、血圧計100のハードウェア構成を模式的に示す図である。
【0037】
図5を参照して、血圧計100の装置本体110の内部には、カフ150に内包された空気袋151にエア管140を介して空気を供給または排出するための血圧測定用エア系コンポーネント131が設けられている。血圧測定用エア系コンポーネント131には、空気袋151内の圧力を検出する圧力検出手段である圧力センサ132と、空気袋151を膨張/収縮させるためのポンプ134および弁135が含まれる。また、装置本体110の内部には、血圧測定用エア系コンポーネント131に関連して発振回路125、ポンプ駆動回路126および弁駆動回路127が設けられている。
【0038】
さらに、装置本体110には、各部を集中的に制御および監視するためのCPU(Central Processing Unit)122と、CPU122に所定の動作をさせるプログラムや測定された血圧値などの各種情報を記憶するためのメモリ部123と、血圧測定結果を含む各種情報を表示するための表示部114と、測定のための各種指示を入力するために操作される操作部115と、CPU122および各機能ブロックに電力を供給するための電源部124とが設置される。
【0039】
CPU122は、圧電素子200からの検出出力に基づいて被測定者の血圧値を決定するための決定手段として機能する血圧決定部122B、および、圧電素子200などからの各種の信号を処理するための処理手段として機能する信号処理部122Aを含む。CPU122は、たとえばメモリ部123(または、装置本体110に対して着脱可能な記録媒体)に記憶されたプログラムを実行することにより、これらの機能を実現する。
【0040】
圧力センサ132は、空気袋151内の圧力(以下、適宜「カフ圧」という)を検出し、検出した圧力に応じた信号を発振回路125に出力する。ポンプ134は、空気袋151に空気を供給する。弁135は、空気袋151内の圧力を維持したり、空気袋151内の空気を排出したりする際に、CPU122からの信号に基づいて開閉される。発振回路125は、圧力センサ132の出力値に応じた発振周波数の信号をCPU122に出力する。ポンプ駆動回路126は、ポンプ134の駆動をCPU122から与えられる制御信号に基づいて制御する。弁駆動回路127は、CPU122から与えられる制御信号に基づいて、弁135の開閉制御を行なう。
【0041】
また、装置本体110は、圧電素子200(端子部2001A,2001B)に接続される増幅器211と、A/D(Analog/Digital)変換回路212とを含む。増幅器211は、圧電素子200が出力する電圧値を適宜増幅し、A/D変換回路212へ出力する。A/D変換回路212は、増幅器211から導入されたアナログ信号をデジタル信号へと変換して、CPU122(信号処理部122A)へ入力する。
【0042】
(圧電素子の検出出力)
図6は、血圧計100における、カフ圧の変化に対する圧電素子200の表面電位の変化の一例を示す図である。図6では、圧電素子200の表面電位がデータD1で示され、また、カフ圧がデータD2で示されている。
【0043】
血圧測定時には、カフ圧は、加圧目標値である圧PM(所定の圧力)まで、一定の速度で(単位時間当りの上昇する圧が一定となるように)上昇された後、一定の速度で、特定の圧力(たとえば、30mmHg)まで下降される。ここで、加圧目標値とは、一般に収縮期血圧として想定される血圧より高い圧とされる。また、特定の圧力とは、一般に拡張期血圧として想定される血圧よりも低い圧とされている。なお、図6に示されているカフ圧には、圧力センサ132の検出出力であり、血流における脈動が反映されている。
【0044】
カフ圧が圧PMから低下していく過程で、圧電素子200の表面電位(データD1)の振幅は、カフ圧が被測定者の収縮期血圧に相当する圧力となると増加を開始し、その後、カフ圧の低下とともに増加し、そして、極大値をとった後、減少する。そして、被測定者の拡張期血圧までカフ圧が低下すると、それ以降、圧電素子200が出力する電圧の振幅はほぼ一定となる。
【0045】
血圧計100では、カフ圧が一般に被測定者の拡張期血圧として想定される圧力よりも十分に低い圧力(たとえば、30mmHg)に調整された状態で圧電素子200の表面電位の振幅を測定し、当該振幅を、リファレンスとして取得する。
【0046】
なお、当該リファレンスは、カフ圧が圧PMから低下する過程において検出される圧電素子200の表面電位の振幅を計測することによって取得されても良い。なお、この場合には、当該リファレンスの取得は、カフ圧が、一般に収縮期血圧として想定される圧力よりも十分大きいと考えられる圧力とされるまでに、取得される必要がある。
【0047】
血圧計100は、CPU122は、カフ圧が圧PMから低下する過程で、圧電素子200の表面電位の振幅を検出し、当該振幅が上記したリファレンスの振幅を超えた時点でのカフ圧を、被測定者の収縮期血圧として決定する。また、CPU122は、カフ圧がさらに低下する過程においても、さらに、圧電素子200の表面電位の振幅を検出する。そして、当該振幅が、上記したリファレンスの振幅以下となったカフ圧を、被測定者の拡張期血圧として決定する。
【0048】
図6では、リファレンスとして取得された振幅が、線L1と線L2によって、V0として、示されている。
【0049】
ここで、圧電素子200によって測定される血圧と、従来から行なわれているコロトコフ音の計測によって測定される血圧とを対比する。
【0050】
図7は、血圧測定時のカフ圧の変化に対するコロトコフ音(以下、適宜「K音」という)の音量および圧電素子の電圧変化を説明するための図である。
【0051】
まず、図7(A)では、カフ圧の時間変化が模式的に示されている。図7(A)では、カフ圧が、加圧目標値である圧PMまで、一定の速度で上昇された後、一定の速度で減少するように制御される状態が示されている。図7(B)は、圧電素子200の代わりにマイクを搭載された血圧計(図16の血圧計100X)における、当該マイクによって検出されるコロトコフ音の音量の時間変化を模式的に示す図である。なお、図7(B)における音量の変化は、図7(A)に示されたカフ圧の変化に対応したものである。また、図16では、血圧計100Xは、マイク100Yを含む。
【0052】
図7(B)に示されるように、カフ圧が、PMとされた後、低下すると、ある圧力まで低下したときに、急激にK音の音量が増加する。そして、カフ圧の低下とともに、当該音量は徐々に大きくなり、極大値を示した後、カフ圧がある圧力まで低下すると、急激に当該音量は低下する。
【0053】
一般の血圧測定では、カフ圧が低下する過程における、K音の音量が急激に増加したときのカフ圧が、被測定者の収縮期血圧として決定される。また、カフ圧がさらに低下し、K音の音量が急激に減少したときのカフ圧が、拡張期血圧として決定される。
【0054】
図7(C)は、血圧計100における、カフ圧(図7(A))の変化に対応した圧電素子200の表面電位の変化を示している。なお、図7(C)のデータは、図6においてデータD1として示された圧電素子200の出力(ピエゾフィルム2001の表面電位)が、人体の動きなどによって生じたノイズをカットするために、所定の周波数(たとえば、200Hz)以上の周波数の信号をカットするなどして処理されたものに相当する。
【0055】
図7(C)に示されるように、圧電素子200の表面電位の振幅は、カフ圧が圧PMから低下する初期の過程では、所定の値(図7(C)ではV0の値)をとっている。そして、上記した収縮期血圧において、圧電素子200の表面電位の振幅は、急激に大きくなる。そして、圧電素子200の表面電位の振幅は、カフ圧の低下とともに徐々に大きくなり、極大値を示した後、カフ圧が被測定者の拡張期血圧を超えると急激に減少し、そして、上記したV0の値となる。
【0056】
図7から理解されるように、圧電素子200の表面電位は、K音の音量と同様に、上記したカフ圧の減圧過程において、収縮期血圧を境に挙動が変化し、また、拡張期血圧を境に挙動が変化する。これにより、圧電素子200の表面電位の変化に基づいて、被測定者の収縮期血圧および拡張期血圧の測定が可能であると言える。
【0057】
なお、本実施の形態では、上記V0が、リファレンスとして取得される。そして、カフ圧が低下する過程において、検出される振幅が上記V0に対して一定の値以上大きくなったときのカフ圧が、収縮期血圧と決定される。その後、カフ圧の低減が継続され、計測される圧電素子200の表面電位の振幅が上記V0との差が特定の値以下となったときのカフ圧が、拡張期血圧として決定される。
【0058】
(血圧測定処理)
図8は、血圧計100の血圧測定処理のフローチャートである。以下、血圧計100において実行される血圧測定処理について、図8を参照して説明する。
【0059】
図8を参照して、操作部115の電源スイッチ(以下、「電源SW」)が押下されたことによって当該電源SWに対応する操作信号を受信すると(ステップS10)、CPU122は、血圧計100の各部を初期化する(ステップS20)。
【0060】
そして、CPU122は、操作部115の使用者選択スイッチが押下されたことによる操作信号を受信し(ステップS30)、そして、操作部115の測定スイッチ(以下、「測定SW」)が押下されたことによる操作信号を受信すると(ステップS40)、CPU122は、空気袋151に所定量の空気を供給することによって予備的に空気袋151を加圧する(ステップS50)。この予備的な加圧では、たとえば、空気袋151は、上記した特定の圧力(たとえば、30mmHg)まで加圧される。
【0061】
そして、CPU122は、その時点での圧電素子200の振幅のリファレンス(図6および図7のV0)を取得する(ステップS60)。
【0062】
次に、CPU122は、空気袋151を、その内圧が上記した圧PMに達するまで加圧する(ステップS70〜ステップS80)。そして、CPU122は、空気袋151の内圧が上記した圧PMに達したと判断すると(ステップS80でYES)、ステップS90で、空気袋151の減圧を開始する。
【0063】
そして、CPU122は、当該空気袋151の減圧工程において、圧電素子200から出力される表面電位の変化を適宜処理することにより、被測定者の血圧を決定するための処理を実行する。そして、被測定者の血圧が決定できたと判断すると(ステップS110でYES)、当該血圧を表示部114に表示させる(ステップS120)。そして、CPU122は、空気袋151の内圧が大気圧と同等となるのに十分な時間だけ弁135を開放させた後、弁135は閉じて、血圧測定処理を終了させる。
【0064】
本実施の形態の血圧計100では、図6および図7を参照して説明したように、被測定者の収縮期血圧と拡張期血圧が、測定される。したがって、ステップS110では、収縮期血圧と拡張期血圧の双方の決定が完了したことを条件として、ステップS120へと処理が進められる。なお、カフ圧が圧PMとされた後、一般に拡張期血圧よりも低いと考えられる特定の圧力までカフ圧が低減されても被測定者の拡張期血圧を決定することができなかった場合には、強制的に血圧測定処理は終了されても良い。
【0065】
図8を参照して説明した血圧測定処理では、カフ圧が一般に被測定者の拡張期血圧として想定される圧力よりも十分に低い圧力(たとえば、30mmHg)に調整された状態で圧電素子200の表面電位の振幅のリファレンスが取得された(ステップS60)。なお、当該リファレンスは、カフ圧が圧PMから低下する過程において、つまり、ステップS90におけるカフ圧の減圧が開始された後、取得されても良い。ただし、この場合には、当該リファレンスの取得は、カフ圧が、一般に収縮期血圧として想定される圧力よりも十分大きいと考えられる圧力とされるまでに、取得される必要がある。
【0066】
[第2の実施の形態]
本実施の形態の血圧計100では、圧電素子200に対して、空気袋151の膨張/収縮による振動が圧電素子200に伝達されることを極力回避するべく、圧電素子を覆う薄板がさらに設けられる。
【0067】
本実施の形態の血圧計100の、カフの断面の一例を、図9に示す。
図9を参照して、本実施の形態の血圧計100のカフ150では、圧電素子200と、空気袋151の振動が圧電素子200に伝達されることを回避するために設けられたクッション材201との間に、さらに、薄板202が配設されている。
【0068】
薄板202としては、たとえばリン酸銅、SUSなどの材料を採用することができる。
本実施の形態では、クッション材201と圧電素子200の間にさらに薄板202が設けられることにより、空気袋151からの振動が圧電素子200へ伝達されることを確実に回避できるとともに、カフ150が測定部位に巻付けられた際に、より確実に、圧電素子200を測定部位にフィットさせることができる。
【0069】
[第3の実施の形態]
本実施の形態の血圧計100では、第2の実施の形態のクッション材201の代わりに、圧電素子200を固定するための空気袋が設けられる。
【0070】
図10は、本実施の形態の血圧計100のカフ150の断面を模式的に示す図である。
図10を参照して、本実施の形態のカフ150では、図9に示した第2の実施の形態のカフにおいてクッション材201が設けられていた代わりに、空気袋203が設けられている。本実施の形態では、空気袋203により、固定用流体袋が構成される。
【0071】
図11は、本実施の形態の血圧計のブロック構成を模式的に示す図である。
さらに図11を参照して、本実施の形態の血圧計100では、圧電素子200を測定部位に対して確実に固定するために、空気袋203がさらに備えられている。また、本実施の形態の血圧計100の装置本体110の内部には、空気袋203に空気を供給または排出するための圧電素子固定用エア系コンポーネント310が設けられている。圧電素子固定用エア系コンポーネント310には、空気袋203内の圧力を検出する圧力センサ311と、空気袋203を膨張/収縮させるためのポンプ312および弁313が含まれる。また、装置本体110の内部には、圧電素子固定用エア系コンポーネント310に関連して、増幅器320、A/D変換回路321、ポンプ駆動回路330、および弁駆動回路340が設けられている。
【0072】
増幅器320は、圧力センサ311の出力値を適宜増幅して、A/D変換回路321へ出力する。A/D変換回路321は、増幅器320が出力するアナログ信号をデジタル信号へ変換して、CPU122へ出力する。CPU122は、当該出力を信号処理部122Aで適宜処理することにより、空気袋203の内圧を検出する。
【0073】
ポンプ駆動回路330は、CPU122から与えられる制御信号に基づいて、ポンプ312の駆動を制御する。弁駆動回路340は、CPU122から与えられる制御信号に基づいて、弁313の開閉を制御する。
【0074】
本実施の形態の血圧測定処理では、CPU122は、空気袋151および空気袋203の内圧が、一般に被測定者の拡張期血圧として想定される圧力よりも十分に低い圧力(たとえば、30mmHg)に調整された状態で、圧電素子200の振幅のリファレンスが取得される(ステップS60)。
【0075】
そして、血圧測定処理では、空気袋203の内圧は、空気袋151と同じ圧力となるように、制御される。
【0076】
なお、リファレンスの取得は、カフ圧とともに空気袋203の内圧が圧PMから低下する過程において、つまり、ステップS90におけるカフ圧および空気袋203の減圧が開始された後、取得されても良い。ただし、この場合には、当該リファレンスの取得は、カフ圧が、一般に収縮期血圧として想定される圧力よりも十分大きいと考えられる圧力とされるまでに、取得される必要がある。
【0077】
また、血圧測定処理において、空気袋203の内圧は、上記したリファレンスの取得以外の時点では、空気袋151と同じ圧力ではなく、圧電素子200を測定部位に固定するための予め定められた圧力で制御されていても良い。
【0078】
図12は、本実施の形態において設けられた空気袋203による圧電素子200の固定の効果を説明するための図である。
【0079】
図12(A)は、図10を参照して説明したように、カフ150において空気袋203が設けられ、適宜空気袋203の内圧が加圧された状態での、血圧測定時のカフ圧の変化(データD11)と、当該カフ圧の変化に伴う圧電素子200の表面電位の変化(データD11)を示す図である。
【0080】
一方、図12(B)は、図13に示すように、カフ150において圧電素子200を固定するための空気袋を備えられていない血圧計における、血圧測定時のカフ圧の変化に対する圧電素子の表面電位の変化(データD22)を示す図である。
【0081】
図12(B)のデータD22と比較して、図12(A)のデータD11では、カフ圧が低下する過程において、圧電素子200の表面電位の振幅の増大の開始(測定時間22秒辺り)の開始、振幅の極大、および、振幅が減少しリファレンスと同等となる直前のタイミング(測定時間28.5秒辺り)が、視認可能となっている。
【0082】
一方、図12(B)のデータD22では、図12(A)に対して縦軸方向に拡大して(縦軸における電位の目盛りの間隔が小さくされて)表示されているにも拘わらず、図12(A)のデータD11において見られた、カフ圧に変化に応じた上記の振幅の変化が、視認できなくなっている。
【0083】
これは、図13に示したように、圧電素子200を測定部位に固定する空気袋203が設けられていないことにより、圧電素子200が、血圧測定において比較的不安定な状態となり、動脈の血流による振動以外の、腕A(図3参照)自体の動きが雑音として含まれていることに基づくと考えられる。
【0084】
以上説明したように、本実施の形態では、カフ150において、圧電素子200をより安定して測定部位に密着させることができ、これにより、測定部位の動脈の血流が、より確実に圧電素子200の検出出力へと反映されることとなる。
【0085】
[外部騒音に対しての、コロトコフ音に基づく血圧測定との対比]
図14は、一般に実施されている、コロトコフ音に基づく血圧測定と、本明細書に記載された各実施の形態における圧電素子200の検出出力に基づく血圧測定を対比して説明するための図である。
【0086】
図14(A)では、血圧測定時におけるカフ圧の変化を示している。
図14(B)および図14(C)は、血圧計100の比較例である血圧計100X(図16参照)における、カフ圧の変化に応じた、マイク100Yによって検出されるK音の音量の変化を示す。なお、図14(B)は、外部騒音がない状況で血圧測定がされた際の結果であり、図14(C)は、外部騒音が比較的大きい状況で血圧測定がされた際の結果である。
【0087】
図14(D)は、血圧計100における、図14(A)のカフ圧の変化に伴う、圧電素子200の表面電位の変化の一例を示す。
【0088】
図14(B)を参照して、カフ圧が、圧PMに調整された後、低減される過程において、コロトコフ音の音量(図14(B)における出力の上下方向の振幅)は、カフ圧が収縮期血圧に相当する圧まで低下した時点で増加を開始し、その後カフ圧の低下とともに増加した後減少し、そして、カフ圧が被測定者の拡張期血圧に相当する圧力とされたところで、急激に減少する。
【0089】
図14(D)に示された圧電素子200の表面電位の振幅についても、同様に、被測定者の収縮期血圧に相当する圧までカフ圧が低下すると、表面電位の振幅は増加を開始し、カフ圧の低下とともに、当該振幅は増加し、その後減少し、そして、カフ圧が被測定者の拡張期血圧に相当する圧力となるところを境に、当該振幅は急激に減少する。
【0090】
一方、図14(C)に示された音量には、カフ圧が変化しているほぼ全期間において、比較的に大きなノイズが乗っている。これは、マイク100Yが外部で発生している騒音を拾っていることに起因する。そして、このようなノイズのため、カフ圧が被測定者の収縮期血圧や拡張期血圧に対応した圧となっていることに起因する音量の変化を認識することが、図14(B)や図14(D)と比較して、困難になっている。
【0091】
つまり、血圧測定において、マイクを用いたコロトコフ音の検出に基づく血圧測定では、血圧計100(血圧計100X)の周辺において騒音がないまたは比較的小さい場合には、図14(B)を参照して説明したように、比較的正確な血圧測定が可能であると考えられるが、血圧計100(血圧計100X)の周辺において比較的大きな騒音が発生している場合には、コロトコフ音を検出するためのマイクが外部の騒音を拾ってしまうために、当該マイクの検出出力においてコロトコフ音を判別しにくい状態となっている。
【0092】
一方、血圧計100における、圧電素子200の検出出力に基づく血圧測定であれば、圧電素子200は外部騒音に影響を受けずに、動脈における血流によって生じる生体の歪みを検出することができる。
【0093】
これにより、本明細書に記載された、圧電素子200を用いた血圧測定によれば、外部騒音の影響を受けることなく、比較的正確な血圧測定が可能となる。
【0094】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、以上説明した各実施の形態は、可能な限り組合わせて実施されることが意図される。
【符号の説明】
【0095】
100 血圧計、150 カフ、151,203 空気袋、161 袋状カバー体、200 圧電素子、201 クッション材、202 薄板、203 空気袋、2001 ピエゾフィルム、2001A,2001B 端子部、2002 銀塗料、2003 保護層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧測定装置および血圧測定方法に関し、特に、血圧測定の際に測定部位に空気袋を巻き付けて圧迫する血圧測定装置および血圧測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血圧測定の方式には、一般的に、オシロメトリック法による方式とK音測定方式の2つが挙げられる。オシロメトリック法では、被測定者の腕等に巻き付けられるカフに内包される空気袋にエアーが送り込まれ、当該カフにおいて検出される被測定者の圧脈波情報から血圧が算出される。K音測定方式では、カフ(空気袋)の下流側の動脈付近において計測されるコロトコフ音(K音)に基づいて血圧が算出される。
【0003】
K音測定方式の血圧測定装置では、カフの下流側に、K音を計測するためのマイクロフォンが設けられる。血圧測定の際には、空気袋にエアーが送り込まれ、動脈が閉鎖された後、徐々に空気袋が減圧される。そして、当該減圧過程で、血流が動脈壁にぶつかるK音が計測される。
【0004】
K音測定方式による血圧測定装置についての従来技術としては、たとえば、特許文献1(特公平4−70011号公報)や特許文献2(特開昭62−148641号公報)がある。
【0005】
特許文献1では、カフの下流側に、腕周方向に複数個のマイクロフォン(K音センサ)が設置され、最も大きな出力を示すK音センサの出力を選定する。これにより、カフが腕周方向にずれて巻き付けられても、複数のマイクロフォンのいずれかによって動脈壁におけるK音を計測でき、血圧の測定が可能となる。
【0006】
特許文献2では、カフより下流側に、腕周方向においてマイクロフォンより大きいを寸法を有する金属薄板が設置される。マイクロフォンは、当該金属薄板に接触して設置される。これにより、カフが腕周方向にずれて巻き付けられ、マイクロフォンが動脈壁に対応する位置から外れた場合でも、動脈壁におけるK音は金属薄板を介してマイクロフォンに伝えられるためK音を測定でき、血圧の測定が可能になる。
【0007】
なお、上記した血圧測定装置では、K音を検出するためのマイクに、被測定者の体動によるカフの音など、K音以外の環境音がK音センサに入力される場合があった。そして、入力される環境音の音量が大きい場合、K音センサの検出出力によっては、正確な血圧の測定ができない場合があった。
【0008】
このような不都合を回避するため、特許文献3(特開昭61−247430号公報)には、カフ内で発生する音(C音)を検出するマイク(C音マイク)を、K音を検出するためのマイク(K音マイク)とは別に設け、K音マイクで検出された音声からC音マイクで検出された音声を用いてC音を分離して、血圧測定を行なう技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平4−70011号公報
【特許文献2】特開昭62−148641号公報
【特許文献3】特開昭61−247430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3に開示されている技術では、K音マイクで検出される音声から、カフ内で発生する音声を分離することはできるが、カフの外で発生する環境音については分離することができなかった。したがって、カフの外で発生する環境音の音量が大きい場合には、正確なK音の測定が難しく、正確な血圧測定ができない場合があった。
【0011】
本発明は、かかる実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、血圧測定装置において、環境音の影響を受けることなく血圧を測定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に従った血圧測定装置は、巻付けられることにより被測定者の測定部位を圧迫するカフと、カフ内の圧力を制御する制御手段と、測定部位の表面の歪みに応じた圧電効果を奏する圧電素子と、圧電素子の形状の変化による圧電素子の出力信号の変化に基づいて被測定者の血圧を決定する決定手段とを備える。
【0013】
本発明に従った血圧測定方法は、血圧測定装置による血圧測定方法であって、血圧測定装置は、巻付けられることにより被測定者の測定部位を圧迫するカフに、当該測定部位の表面の歪みに応じた圧電効果を奏する圧電素子を備え、圧電素子の形状の変化による圧電素子の電圧の変化に基づいて、被測定者の血圧を決定する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、血圧測定装置において、カフに設けられた圧電素子における、測定部位の表面の歪みに応じた形状の変化に基づいて、被測定者の血圧が決定される。
【0015】
これにより、環境音の影響を受けることなく、被測定者の血液を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態の血圧測定装置(血圧計)の外観を示す斜視図である。
【図2】図1のカフを展開させた状態を示す図である。
【図3】図1のカフが、被測定者の左腕の上腕部に巻付けられて固定されている状態を示す図である。
【図4】図2中に示すIV−IV線に沿ったカフの断面図である。
【図5】図1の血圧計のハードウェア構成を模式的に示す図である。
【図6】図1の血圧計における、カフ圧の変化に対する圧電素子の表面電位の変化の一例を示す図である。
【図7】血圧測定時のカフ圧の変化に対するコロトコフ音の音量および圧電素子の電圧変化を説明するための図である。
【図8】図1の血圧計において実行される血圧測定処理のフローチャートである。
【図9】本発明の第2の実施の形態の血圧計における、カフの断面を模式的に示す図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態の血圧計における、カフの断面を模式的に示す図である。
【図11】本発明の第3の実施の形態の血圧計のブロック構成を模式的に示す図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態の血圧計に設けられた空気袋による圧電素子の固定の効果を説明するための図である。
【図13】図12に示す効果を説明するための比較例のカフの断面図である。
【図14】コロトコフ音に基づく血圧測定と圧電素子の検出出力に基づく血圧測定を対比して説明するための図である。
【図15】圧電素子の具体的な構成を説明するための図である。
【図16】比較例の血圧計の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。
【0018】
[第1の実施の形態]
(血圧測定装置の構造)
図1は、本実施の形態の血圧測定装置(以下、「血圧計」という)の外観を示す斜視図である。
【0019】
図1を参照して、血圧計100は、装置本体110とカフ150とを主に備えている。装置本体110は、表示部114および操作部115を有している。表示部114は、血圧値の測定結果や脈波数の測定結果などを数値やグラフなどを用いて視認可能に表示する。この表示部114としては、たとえば液晶パネルなどが利用される。操作部115には、たとえば電源ボタンや測定開始ボタンなどが配設されている。
【0020】
カフ150は、被測定者の左腕の上腕部に巻付けられることが企図されたものであり、帯状の外形を有している。カフ150は、上腕を圧迫するための流体袋としての空気袋(図2〜図4に示す空気袋151)と、当該空気袋151を上腕に巻付けて固定するための外装部材としての袋状カバー体161とを有している。空気袋151は、袋状カバー体161の内部に設けられた空間に収容されている。なお、カフ150の詳細な構造については、後述する。本実施の形態では、空気袋151により、測定用流体袋が構成される。
【0021】
カフ150と装置本体110とは、接続管としてのエア管140によって接続されている。エア管140は可撓性のチューブからなり、一端が後述する装置本体110に設けられた血圧測定用エア系コンポーネント131(図5参照)に接続され、他端が前述したカフ150の空気袋151に接続されている。
【0022】
図2は、カフ150を展開させた状態を示す図である。図3は、カフ150が、被測定者の左腕の上腕部に巻付けられて固定されている状態を示す図である。図4は、図2中に示すIV−IV線に沿ったカフ150の断面図である。
【0023】
本実施の形態の血圧計100では、袋状カバー体161内に圧電素子200が設けられている。そして、血圧測定の際には、カフ150が、被測定者の腕Aに、圧電素子200(の一部)が動脈の上に位置するように、巻付けられる。なお、たとえば袋状カバー体161には、位置を示す目印等が付されており、当該目印を参照することにより、被測定者は、圧電素子200が動脈の上に位置するように、カフ150を腕Aに巻きつけることができる。
【0024】
なお、圧電素子200は、腕Aの表面における、血流に基づく歪みを検出することができれば、袋状カバー体161内に設けられている必要はなく、袋状カバー体161の外部に設けられてもよく、また、袋状カバー体161に対して固定されていても着脱可能に設けられても良い。
【0025】
そして、血圧計100は、空気袋151の内圧を高めることにより動脈を閉鎖させた後、空気袋151内を徐々に減圧し、当該減圧過程において動脈に血液が流れる際に生じる生体の歪を、圧電素子200において生じる表面電位の変化として検出する。なお、本命最初では、圧電素子200は、当該圧電素子200に含まれるピエゾフィルム(後述するピエゾフィルム2001)の表面電位を、出力信号として出力する。
【0026】
そして、血圧計100は、圧電素子200の表面電位の変化(表面電位の振幅)に基づいて、被測定者の血圧を決定する。なお、圧電素子200は、薄膜のフィルム状の素子が好ましい。図3に示されるようにカフ150が腕Aなどの測定部位に巻付けられたときに、圧電素子200を当該測定部位に良好にフィットさせることができるからである。
【0027】
圧電素子200については、血圧計100が利用される環境等において適宜決定するものができると考えられる。なお、その一例として、カフ150の測定部位に対する巻付方向の寸法は、たとえば3〜6cm程度が考えられ、また、当該巻付方向に交わる方向(図2のIV−IV線の方向)の寸法としては、たとえば1〜3cm程度が考えられる。なお、このような寸法は、一例であり、カフ150が測定部位に巻付けられた際に測定部位に良好にフィットすることができ、また、人体の動脈における血液の流れによって生じる生体の歪を検出することができれば、圧電素子200の寸法はこれに限定されない。
【0028】
本実施の形態では、圧電素子200の一例として、上記カフ150の巻付方向についての有効長さ29.9mm、幅方向(図2のIV−IV線方向)の有効長さ12.19mm、厚さ0.23mmのMSI社製(東京センサ)のピエゾフィルムを使用している。図15は、圧電素子200の具体的な構成を説明するための図である。図15(A)は、圧電素子の平面図であり、図15(B)は、圧電素子200の縦断面を説明するための図である。
【0029】
図15の(A)および(B)を参照して、圧電素子は、その内部に、圧電効果を奏するピエゾフィルム2001が配設されている。ピエゾフィルム2001は、カフ150が装着される生体の血流による歪に応じて、その外形に歪が生じると、静電容量が変化する。ピエゾフィルム2001には、主に図15(A)に示されるように、2つの端子部(端子部2001A,2001B)が形成されている。当該端子部が装置本体110内の電気回路に接続されているため、血圧計100では、当該電気回路の電圧の変化を調べることにより、血流による測定部位の歪を検出する。
【0030】
圧電素子200では、主に図15(B)に示されるように、ピエゾフィルム2001の上下には、それぞれ、銀塗料2002が塗布され、さらに、ピエゾフィルムの一方の面には、保護層2003が形成され、また、他方の面には、樹脂などの、保護フィルムが配設されている。
【0031】
ピエゾフィルム2001の長手方向の寸法は、上記した端子部分が7.14mmであり、そして、上記端子部分以外の部分(有効長さ)が、29.93mmである。また、ピエゾフィルムの幅は12.19mmであり、そして、圧電素子200の長さが41.40mm、幅15.25mm、そして、厚さ0.23mmである。
【0032】
図4に戻って、カフ150では、当該カフ150が腕Aに当接する面について、空気袋151は領域R1に、そして、圧電素子200は領域R2に、位置している。つまり、カフ150が測定部位の一例である腕Aに当接する面について空気袋151と圧電素子200とが重ならないように、配置されている。これにより、空気袋151の減圧過程における当該空気袋151の偏位による歪が極力圧電素子200に伝わらないようになる。
【0033】
また、図4では、被測定者の血管300が示され、そして、当該血管300における、被測定者の中枢側から末梢側への、血液の流れる方向が矢印BF1で示されている。カフ150では、当該カフ150の巻付方向に交わる方向(IV−IV線方向)について、圧電素子200は、空気袋151の一方側に隣接するように設けられている。これにより、主に図3に示されるように、血圧測定時には、カフ150において、圧電素子200が空気袋151に対して、矢印BF1についての下流側に設置することができる。このような配置により、空気袋151内が被測定者の動脈を閉鎖させる程度に加圧されたときに、空気袋151よりも上流側の動脈における脈動が圧電素子200の表面電位の変化に影響を与えることを極力回避できる。
【0034】
また、カフ150では、空気袋151と圧電素子200の間に、クッション材201が配設されている。これにより、空気袋151の減圧過程等における歪が、圧電素子200の検出出力に極力影響を与えないように構成されている。つまり、空気袋151の変位が、クッション材201によって吸収されることにより、圧電素子200への当該変位の伝達の回避が意図されている。なお、クッション材201の材料としては、たとえば、発泡ウレタン、ネオスポンジ、コイルバネ、板バネ(リン酸銅、SUS)を採用することができる。
【0035】
また、クッション材201は、袋状カバー体161に固定されている。これにより、カフ150が測定部位に巻付けられた際に、圧電素子200は、クッション材201によって、より密接に測定部位に固定される。したがって、より確実に、測定部位の血流による歪が圧電素子200に伝えられ、これにより、当該測定部位の歪がより確実に圧電素子200の表面電位の変化に反映される。
【0036】
(血圧計のハードウェア構成)
図5は、血圧計100のハードウェア構成を模式的に示す図である。
【0037】
図5を参照して、血圧計100の装置本体110の内部には、カフ150に内包された空気袋151にエア管140を介して空気を供給または排出するための血圧測定用エア系コンポーネント131が設けられている。血圧測定用エア系コンポーネント131には、空気袋151内の圧力を検出する圧力検出手段である圧力センサ132と、空気袋151を膨張/収縮させるためのポンプ134および弁135が含まれる。また、装置本体110の内部には、血圧測定用エア系コンポーネント131に関連して発振回路125、ポンプ駆動回路126および弁駆動回路127が設けられている。
【0038】
さらに、装置本体110には、各部を集中的に制御および監視するためのCPU(Central Processing Unit)122と、CPU122に所定の動作をさせるプログラムや測定された血圧値などの各種情報を記憶するためのメモリ部123と、血圧測定結果を含む各種情報を表示するための表示部114と、測定のための各種指示を入力するために操作される操作部115と、CPU122および各機能ブロックに電力を供給するための電源部124とが設置される。
【0039】
CPU122は、圧電素子200からの検出出力に基づいて被測定者の血圧値を決定するための決定手段として機能する血圧決定部122B、および、圧電素子200などからの各種の信号を処理するための処理手段として機能する信号処理部122Aを含む。CPU122は、たとえばメモリ部123(または、装置本体110に対して着脱可能な記録媒体)に記憶されたプログラムを実行することにより、これらの機能を実現する。
【0040】
圧力センサ132は、空気袋151内の圧力(以下、適宜「カフ圧」という)を検出し、検出した圧力に応じた信号を発振回路125に出力する。ポンプ134は、空気袋151に空気を供給する。弁135は、空気袋151内の圧力を維持したり、空気袋151内の空気を排出したりする際に、CPU122からの信号に基づいて開閉される。発振回路125は、圧力センサ132の出力値に応じた発振周波数の信号をCPU122に出力する。ポンプ駆動回路126は、ポンプ134の駆動をCPU122から与えられる制御信号に基づいて制御する。弁駆動回路127は、CPU122から与えられる制御信号に基づいて、弁135の開閉制御を行なう。
【0041】
また、装置本体110は、圧電素子200(端子部2001A,2001B)に接続される増幅器211と、A/D(Analog/Digital)変換回路212とを含む。増幅器211は、圧電素子200が出力する電圧値を適宜増幅し、A/D変換回路212へ出力する。A/D変換回路212は、増幅器211から導入されたアナログ信号をデジタル信号へと変換して、CPU122(信号処理部122A)へ入力する。
【0042】
(圧電素子の検出出力)
図6は、血圧計100における、カフ圧の変化に対する圧電素子200の表面電位の変化の一例を示す図である。図6では、圧電素子200の表面電位がデータD1で示され、また、カフ圧がデータD2で示されている。
【0043】
血圧測定時には、カフ圧は、加圧目標値である圧PM(所定の圧力)まで、一定の速度で(単位時間当りの上昇する圧が一定となるように)上昇された後、一定の速度で、特定の圧力(たとえば、30mmHg)まで下降される。ここで、加圧目標値とは、一般に収縮期血圧として想定される血圧より高い圧とされる。また、特定の圧力とは、一般に拡張期血圧として想定される血圧よりも低い圧とされている。なお、図6に示されているカフ圧には、圧力センサ132の検出出力であり、血流における脈動が反映されている。
【0044】
カフ圧が圧PMから低下していく過程で、圧電素子200の表面電位(データD1)の振幅は、カフ圧が被測定者の収縮期血圧に相当する圧力となると増加を開始し、その後、カフ圧の低下とともに増加し、そして、極大値をとった後、減少する。そして、被測定者の拡張期血圧までカフ圧が低下すると、それ以降、圧電素子200が出力する電圧の振幅はほぼ一定となる。
【0045】
血圧計100では、カフ圧が一般に被測定者の拡張期血圧として想定される圧力よりも十分に低い圧力(たとえば、30mmHg)に調整された状態で圧電素子200の表面電位の振幅を測定し、当該振幅を、リファレンスとして取得する。
【0046】
なお、当該リファレンスは、カフ圧が圧PMから低下する過程において検出される圧電素子200の表面電位の振幅を計測することによって取得されても良い。なお、この場合には、当該リファレンスの取得は、カフ圧が、一般に収縮期血圧として想定される圧力よりも十分大きいと考えられる圧力とされるまでに、取得される必要がある。
【0047】
血圧計100は、CPU122は、カフ圧が圧PMから低下する過程で、圧電素子200の表面電位の振幅を検出し、当該振幅が上記したリファレンスの振幅を超えた時点でのカフ圧を、被測定者の収縮期血圧として決定する。また、CPU122は、カフ圧がさらに低下する過程においても、さらに、圧電素子200の表面電位の振幅を検出する。そして、当該振幅が、上記したリファレンスの振幅以下となったカフ圧を、被測定者の拡張期血圧として決定する。
【0048】
図6では、リファレンスとして取得された振幅が、線L1と線L2によって、V0として、示されている。
【0049】
ここで、圧電素子200によって測定される血圧と、従来から行なわれているコロトコフ音の計測によって測定される血圧とを対比する。
【0050】
図7は、血圧測定時のカフ圧の変化に対するコロトコフ音(以下、適宜「K音」という)の音量および圧電素子の電圧変化を説明するための図である。
【0051】
まず、図7(A)では、カフ圧の時間変化が模式的に示されている。図7(A)では、カフ圧が、加圧目標値である圧PMまで、一定の速度で上昇された後、一定の速度で減少するように制御される状態が示されている。図7(B)は、圧電素子200の代わりにマイクを搭載された血圧計(図16の血圧計100X)における、当該マイクによって検出されるコロトコフ音の音量の時間変化を模式的に示す図である。なお、図7(B)における音量の変化は、図7(A)に示されたカフ圧の変化に対応したものである。また、図16では、血圧計100Xは、マイク100Yを含む。
【0052】
図7(B)に示されるように、カフ圧が、PMとされた後、低下すると、ある圧力まで低下したときに、急激にK音の音量が増加する。そして、カフ圧の低下とともに、当該音量は徐々に大きくなり、極大値を示した後、カフ圧がある圧力まで低下すると、急激に当該音量は低下する。
【0053】
一般の血圧測定では、カフ圧が低下する過程における、K音の音量が急激に増加したときのカフ圧が、被測定者の収縮期血圧として決定される。また、カフ圧がさらに低下し、K音の音量が急激に減少したときのカフ圧が、拡張期血圧として決定される。
【0054】
図7(C)は、血圧計100における、カフ圧(図7(A))の変化に対応した圧電素子200の表面電位の変化を示している。なお、図7(C)のデータは、図6においてデータD1として示された圧電素子200の出力(ピエゾフィルム2001の表面電位)が、人体の動きなどによって生じたノイズをカットするために、所定の周波数(たとえば、200Hz)以上の周波数の信号をカットするなどして処理されたものに相当する。
【0055】
図7(C)に示されるように、圧電素子200の表面電位の振幅は、カフ圧が圧PMから低下する初期の過程では、所定の値(図7(C)ではV0の値)をとっている。そして、上記した収縮期血圧において、圧電素子200の表面電位の振幅は、急激に大きくなる。そして、圧電素子200の表面電位の振幅は、カフ圧の低下とともに徐々に大きくなり、極大値を示した後、カフ圧が被測定者の拡張期血圧を超えると急激に減少し、そして、上記したV0の値となる。
【0056】
図7から理解されるように、圧電素子200の表面電位は、K音の音量と同様に、上記したカフ圧の減圧過程において、収縮期血圧を境に挙動が変化し、また、拡張期血圧を境に挙動が変化する。これにより、圧電素子200の表面電位の変化に基づいて、被測定者の収縮期血圧および拡張期血圧の測定が可能であると言える。
【0057】
なお、本実施の形態では、上記V0が、リファレンスとして取得される。そして、カフ圧が低下する過程において、検出される振幅が上記V0に対して一定の値以上大きくなったときのカフ圧が、収縮期血圧と決定される。その後、カフ圧の低減が継続され、計測される圧電素子200の表面電位の振幅が上記V0との差が特定の値以下となったときのカフ圧が、拡張期血圧として決定される。
【0058】
(血圧測定処理)
図8は、血圧計100の血圧測定処理のフローチャートである。以下、血圧計100において実行される血圧測定処理について、図8を参照して説明する。
【0059】
図8を参照して、操作部115の電源スイッチ(以下、「電源SW」)が押下されたことによって当該電源SWに対応する操作信号を受信すると(ステップS10)、CPU122は、血圧計100の各部を初期化する(ステップS20)。
【0060】
そして、CPU122は、操作部115の使用者選択スイッチが押下されたことによる操作信号を受信し(ステップS30)、そして、操作部115の測定スイッチ(以下、「測定SW」)が押下されたことによる操作信号を受信すると(ステップS40)、CPU122は、空気袋151に所定量の空気を供給することによって予備的に空気袋151を加圧する(ステップS50)。この予備的な加圧では、たとえば、空気袋151は、上記した特定の圧力(たとえば、30mmHg)まで加圧される。
【0061】
そして、CPU122は、その時点での圧電素子200の振幅のリファレンス(図6および図7のV0)を取得する(ステップS60)。
【0062】
次に、CPU122は、空気袋151を、その内圧が上記した圧PMに達するまで加圧する(ステップS70〜ステップS80)。そして、CPU122は、空気袋151の内圧が上記した圧PMに達したと判断すると(ステップS80でYES)、ステップS90で、空気袋151の減圧を開始する。
【0063】
そして、CPU122は、当該空気袋151の減圧工程において、圧電素子200から出力される表面電位の変化を適宜処理することにより、被測定者の血圧を決定するための処理を実行する。そして、被測定者の血圧が決定できたと判断すると(ステップS110でYES)、当該血圧を表示部114に表示させる(ステップS120)。そして、CPU122は、空気袋151の内圧が大気圧と同等となるのに十分な時間だけ弁135を開放させた後、弁135は閉じて、血圧測定処理を終了させる。
【0064】
本実施の形態の血圧計100では、図6および図7を参照して説明したように、被測定者の収縮期血圧と拡張期血圧が、測定される。したがって、ステップS110では、収縮期血圧と拡張期血圧の双方の決定が完了したことを条件として、ステップS120へと処理が進められる。なお、カフ圧が圧PMとされた後、一般に拡張期血圧よりも低いと考えられる特定の圧力までカフ圧が低減されても被測定者の拡張期血圧を決定することができなかった場合には、強制的に血圧測定処理は終了されても良い。
【0065】
図8を参照して説明した血圧測定処理では、カフ圧が一般に被測定者の拡張期血圧として想定される圧力よりも十分に低い圧力(たとえば、30mmHg)に調整された状態で圧電素子200の表面電位の振幅のリファレンスが取得された(ステップS60)。なお、当該リファレンスは、カフ圧が圧PMから低下する過程において、つまり、ステップS90におけるカフ圧の減圧が開始された後、取得されても良い。ただし、この場合には、当該リファレンスの取得は、カフ圧が、一般に収縮期血圧として想定される圧力よりも十分大きいと考えられる圧力とされるまでに、取得される必要がある。
【0066】
[第2の実施の形態]
本実施の形態の血圧計100では、圧電素子200に対して、空気袋151の膨張/収縮による振動が圧電素子200に伝達されることを極力回避するべく、圧電素子を覆う薄板がさらに設けられる。
【0067】
本実施の形態の血圧計100の、カフの断面の一例を、図9に示す。
図9を参照して、本実施の形態の血圧計100のカフ150では、圧電素子200と、空気袋151の振動が圧電素子200に伝達されることを回避するために設けられたクッション材201との間に、さらに、薄板202が配設されている。
【0068】
薄板202としては、たとえばリン酸銅、SUSなどの材料を採用することができる。
本実施の形態では、クッション材201と圧電素子200の間にさらに薄板202が設けられることにより、空気袋151からの振動が圧電素子200へ伝達されることを確実に回避できるとともに、カフ150が測定部位に巻付けられた際に、より確実に、圧電素子200を測定部位にフィットさせることができる。
【0069】
[第3の実施の形態]
本実施の形態の血圧計100では、第2の実施の形態のクッション材201の代わりに、圧電素子200を固定するための空気袋が設けられる。
【0070】
図10は、本実施の形態の血圧計100のカフ150の断面を模式的に示す図である。
図10を参照して、本実施の形態のカフ150では、図9に示した第2の実施の形態のカフにおいてクッション材201が設けられていた代わりに、空気袋203が設けられている。本実施の形態では、空気袋203により、固定用流体袋が構成される。
【0071】
図11は、本実施の形態の血圧計のブロック構成を模式的に示す図である。
さらに図11を参照して、本実施の形態の血圧計100では、圧電素子200を測定部位に対して確実に固定するために、空気袋203がさらに備えられている。また、本実施の形態の血圧計100の装置本体110の内部には、空気袋203に空気を供給または排出するための圧電素子固定用エア系コンポーネント310が設けられている。圧電素子固定用エア系コンポーネント310には、空気袋203内の圧力を検出する圧力センサ311と、空気袋203を膨張/収縮させるためのポンプ312および弁313が含まれる。また、装置本体110の内部には、圧電素子固定用エア系コンポーネント310に関連して、増幅器320、A/D変換回路321、ポンプ駆動回路330、および弁駆動回路340が設けられている。
【0072】
増幅器320は、圧力センサ311の出力値を適宜増幅して、A/D変換回路321へ出力する。A/D変換回路321は、増幅器320が出力するアナログ信号をデジタル信号へ変換して、CPU122へ出力する。CPU122は、当該出力を信号処理部122Aで適宜処理することにより、空気袋203の内圧を検出する。
【0073】
ポンプ駆動回路330は、CPU122から与えられる制御信号に基づいて、ポンプ312の駆動を制御する。弁駆動回路340は、CPU122から与えられる制御信号に基づいて、弁313の開閉を制御する。
【0074】
本実施の形態の血圧測定処理では、CPU122は、空気袋151および空気袋203の内圧が、一般に被測定者の拡張期血圧として想定される圧力よりも十分に低い圧力(たとえば、30mmHg)に調整された状態で、圧電素子200の振幅のリファレンスが取得される(ステップS60)。
【0075】
そして、血圧測定処理では、空気袋203の内圧は、空気袋151と同じ圧力となるように、制御される。
【0076】
なお、リファレンスの取得は、カフ圧とともに空気袋203の内圧が圧PMから低下する過程において、つまり、ステップS90におけるカフ圧および空気袋203の減圧が開始された後、取得されても良い。ただし、この場合には、当該リファレンスの取得は、カフ圧が、一般に収縮期血圧として想定される圧力よりも十分大きいと考えられる圧力とされるまでに、取得される必要がある。
【0077】
また、血圧測定処理において、空気袋203の内圧は、上記したリファレンスの取得以外の時点では、空気袋151と同じ圧力ではなく、圧電素子200を測定部位に固定するための予め定められた圧力で制御されていても良い。
【0078】
図12は、本実施の形態において設けられた空気袋203による圧電素子200の固定の効果を説明するための図である。
【0079】
図12(A)は、図10を参照して説明したように、カフ150において空気袋203が設けられ、適宜空気袋203の内圧が加圧された状態での、血圧測定時のカフ圧の変化(データD11)と、当該カフ圧の変化に伴う圧電素子200の表面電位の変化(データD11)を示す図である。
【0080】
一方、図12(B)は、図13に示すように、カフ150において圧電素子200を固定するための空気袋を備えられていない血圧計における、血圧測定時のカフ圧の変化に対する圧電素子の表面電位の変化(データD22)を示す図である。
【0081】
図12(B)のデータD22と比較して、図12(A)のデータD11では、カフ圧が低下する過程において、圧電素子200の表面電位の振幅の増大の開始(測定時間22秒辺り)の開始、振幅の極大、および、振幅が減少しリファレンスと同等となる直前のタイミング(測定時間28.5秒辺り)が、視認可能となっている。
【0082】
一方、図12(B)のデータD22では、図12(A)に対して縦軸方向に拡大して(縦軸における電位の目盛りの間隔が小さくされて)表示されているにも拘わらず、図12(A)のデータD11において見られた、カフ圧に変化に応じた上記の振幅の変化が、視認できなくなっている。
【0083】
これは、図13に示したように、圧電素子200を測定部位に固定する空気袋203が設けられていないことにより、圧電素子200が、血圧測定において比較的不安定な状態となり、動脈の血流による振動以外の、腕A(図3参照)自体の動きが雑音として含まれていることに基づくと考えられる。
【0084】
以上説明したように、本実施の形態では、カフ150において、圧電素子200をより安定して測定部位に密着させることができ、これにより、測定部位の動脈の血流が、より確実に圧電素子200の検出出力へと反映されることとなる。
【0085】
[外部騒音に対しての、コロトコフ音に基づく血圧測定との対比]
図14は、一般に実施されている、コロトコフ音に基づく血圧測定と、本明細書に記載された各実施の形態における圧電素子200の検出出力に基づく血圧測定を対比して説明するための図である。
【0086】
図14(A)では、血圧測定時におけるカフ圧の変化を示している。
図14(B)および図14(C)は、血圧計100の比較例である血圧計100X(図16参照)における、カフ圧の変化に応じた、マイク100Yによって検出されるK音の音量の変化を示す。なお、図14(B)は、外部騒音がない状況で血圧測定がされた際の結果であり、図14(C)は、外部騒音が比較的大きい状況で血圧測定がされた際の結果である。
【0087】
図14(D)は、血圧計100における、図14(A)のカフ圧の変化に伴う、圧電素子200の表面電位の変化の一例を示す。
【0088】
図14(B)を参照して、カフ圧が、圧PMに調整された後、低減される過程において、コロトコフ音の音量(図14(B)における出力の上下方向の振幅)は、カフ圧が収縮期血圧に相当する圧まで低下した時点で増加を開始し、その後カフ圧の低下とともに増加した後減少し、そして、カフ圧が被測定者の拡張期血圧に相当する圧力とされたところで、急激に減少する。
【0089】
図14(D)に示された圧電素子200の表面電位の振幅についても、同様に、被測定者の収縮期血圧に相当する圧までカフ圧が低下すると、表面電位の振幅は増加を開始し、カフ圧の低下とともに、当該振幅は増加し、その後減少し、そして、カフ圧が被測定者の拡張期血圧に相当する圧力となるところを境に、当該振幅は急激に減少する。
【0090】
一方、図14(C)に示された音量には、カフ圧が変化しているほぼ全期間において、比較的に大きなノイズが乗っている。これは、マイク100Yが外部で発生している騒音を拾っていることに起因する。そして、このようなノイズのため、カフ圧が被測定者の収縮期血圧や拡張期血圧に対応した圧となっていることに起因する音量の変化を認識することが、図14(B)や図14(D)と比較して、困難になっている。
【0091】
つまり、血圧測定において、マイクを用いたコロトコフ音の検出に基づく血圧測定では、血圧計100(血圧計100X)の周辺において騒音がないまたは比較的小さい場合には、図14(B)を参照して説明したように、比較的正確な血圧測定が可能であると考えられるが、血圧計100(血圧計100X)の周辺において比較的大きな騒音が発生している場合には、コロトコフ音を検出するためのマイクが外部の騒音を拾ってしまうために、当該マイクの検出出力においてコロトコフ音を判別しにくい状態となっている。
【0092】
一方、血圧計100における、圧電素子200の検出出力に基づく血圧測定であれば、圧電素子200は外部騒音に影響を受けずに、動脈における血流によって生じる生体の歪みを検出することができる。
【0093】
これにより、本明細書に記載された、圧電素子200を用いた血圧測定によれば、外部騒音の影響を受けることなく、比較的正確な血圧測定が可能となる。
【0094】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、以上説明した各実施の形態は、可能な限り組合わせて実施されることが意図される。
【符号の説明】
【0095】
100 血圧計、150 カフ、151,203 空気袋、161 袋状カバー体、200 圧電素子、201 クッション材、202 薄板、203 空気袋、2001 ピエゾフィルム、2001A,2001B 端子部、2002 銀塗料、2003 保護層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻付けられることにより被測定者の測定部位を圧迫するカフと、
前記カフ内の圧力を制御する制御手段と、
前記測定部位の表面の歪みに応じた圧電効果を奏する圧電素子と、
前記圧電素子の形状の変化による前記圧電素子の出力信号の変化に基づいて被測定者の血圧を決定する決定手段とを備える、血圧測定装置。
【請求項2】
前記圧電素子を固定するために、流体の出入りにて膨張・収縮する固定用流体袋をさらに備える、請求項1に記載の血圧測定装置。
【請求項3】
測定部位を圧迫するために、流体の出入りにて膨張・収縮する測定用流体袋をさらに備え、
前記圧電素子は、前記測定用流体袋に対して、前記カフが前記測定部位に巻き付けられる方向に交わる方向についての一方側に設けられる、請求項1または請求項2に記載の血圧測定装置。
【請求項4】
前記測定用流体袋と前記圧電素子の間に設けられたクッション材とをさらに備える、請求項3に記載の血圧測定装置。
【請求項5】
前記測定用流体袋と前記圧電素子の間に設けられ、前記測定用流体袋の変位に基づく前記圧電素子の変形を防止するための板体とをさらに備える、請求項3または請求項4に記載の血圧測定装置。
【請求項6】
前記決定手段は、
前記固定用流体袋の内圧が第1の圧力より低い特定の圧力または第2の圧力より高い特定の圧力とされたときの前記圧電素子の出力信号の振幅を基準振幅として取得し、
前記測定用流体袋の内圧が前記第2の圧力より高い所定の圧力から低下したときの、前記圧電素子の出力信号の振幅が前記基準振幅を超えたときの前記測定用流体袋の内圧を被測定者の収縮期血圧と決定し、さらに、前記圧電素子の出力信号の振幅が前記基準振幅を下回ったときの前記測定用流体袋の内圧を被測定者の拡張期血圧と決定する、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の血圧測定装置。
【請求項7】
前記第1の圧力は拡張期血圧であり、前記第2の圧力は収縮期血圧である、請求項6に記載の血圧測定装置。
【請求項8】
血圧測定装置による血圧測定方法であって、
前記血圧測定装置は、巻付けられることにより被測定者の測定部位を圧迫するカフに、当該測定部位の表面の歪みに応じた圧電効果を奏する圧電素子を備え、
前記圧電素子の形状の変化による前記圧電素子の電圧の変化に基づいて、被測定者の血圧を決定する、血圧測定方法。
【請求項1】
巻付けられることにより被測定者の測定部位を圧迫するカフと、
前記カフ内の圧力を制御する制御手段と、
前記測定部位の表面の歪みに応じた圧電効果を奏する圧電素子と、
前記圧電素子の形状の変化による前記圧電素子の出力信号の変化に基づいて被測定者の血圧を決定する決定手段とを備える、血圧測定装置。
【請求項2】
前記圧電素子を固定するために、流体の出入りにて膨張・収縮する固定用流体袋をさらに備える、請求項1に記載の血圧測定装置。
【請求項3】
測定部位を圧迫するために、流体の出入りにて膨張・収縮する測定用流体袋をさらに備え、
前記圧電素子は、前記測定用流体袋に対して、前記カフが前記測定部位に巻き付けられる方向に交わる方向についての一方側に設けられる、請求項1または請求項2に記載の血圧測定装置。
【請求項4】
前記測定用流体袋と前記圧電素子の間に設けられたクッション材とをさらに備える、請求項3に記載の血圧測定装置。
【請求項5】
前記測定用流体袋と前記圧電素子の間に設けられ、前記測定用流体袋の変位に基づく前記圧電素子の変形を防止するための板体とをさらに備える、請求項3または請求項4に記載の血圧測定装置。
【請求項6】
前記決定手段は、
前記固定用流体袋の内圧が第1の圧力より低い特定の圧力または第2の圧力より高い特定の圧力とされたときの前記圧電素子の出力信号の振幅を基準振幅として取得し、
前記測定用流体袋の内圧が前記第2の圧力より高い所定の圧力から低下したときの、前記圧電素子の出力信号の振幅が前記基準振幅を超えたときの前記測定用流体袋の内圧を被測定者の収縮期血圧と決定し、さらに、前記圧電素子の出力信号の振幅が前記基準振幅を下回ったときの前記測定用流体袋の内圧を被測定者の拡張期血圧と決定する、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の血圧測定装置。
【請求項7】
前記第1の圧力は拡張期血圧であり、前記第2の圧力は収縮期血圧である、請求項6に記載の血圧測定装置。
【請求項8】
血圧測定装置による血圧測定方法であって、
前記血圧測定装置は、巻付けられることにより被測定者の測定部位を圧迫するカフに、当該測定部位の表面の歪みに応じた圧電効果を奏する圧電素子を備え、
前記圧電素子の形状の変化による前記圧電素子の電圧の変化に基づいて、被測定者の血圧を決定する、血圧測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図14】
【公開番号】特開2012−152372(P2012−152372A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13935(P2011−13935)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】
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