説明

血栓塞栓性障害を治療する方法

本発明の分野は、血小板収縮の阻害剤を使用して血栓を溶解させるための方法に関する。より詳細には、本発明は、発生中の血栓において血小板の収縮および硬化を阻害するための1つまたは複数の血小板溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせた血小板収縮の阻害剤の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、血小板収縮の阻害剤を使用して血栓を溶解させるための方法に関する。より詳細には、本発明は、発生中の血栓において血小板の収縮および硬化を阻害するための1つまたは複数の血小板溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせた血小板収縮の阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血栓形成は、2つの時間的に異なる相に分けることができる。第一相は、凝集血小板で構成され、フィブリン生成とは無関係に形成する一次止血栓の形成である。この一次血小板栓(すなわち、血栓)は、二次止血相の間に硬化され、その後、フィブリン重合体は、発生中の血栓内で網目状になり、血小板栓を物理的に安定化する。止血栓の発生中に、血小板は、アクチン細胞骨格の大幅なリモデリングを必要とする複雑な一連の形態学的および機能的反応を受ける。これらの細胞骨格変化は、血小板の通常の止血機能にとって不可欠であり、シグナル伝達タンパク質、構造タンパク質および調節タンパク質の複合的ネットワークにより制御される。
【0003】
血小板のアクチンベースの細胞骨格は、2つの機能的に異なる構造、すなわち、(i)内側の細胞膜を裏打ちするスペクトリンに富んだ膜骨格、および(ii)細胞中心から表面膜まで放射状に伸びる長いアクチンフィラメントからなる細胞骨格に分離することができる。膜骨格は、表面膜の構造および完全性を維持することにとって不可欠であり、一方、細胞骨格は、ミオシンとのその結合によって、細胞内の収縮力を主に生成する。収縮力の内部生成は、血小板形状変化を調節すること1および顆粒分泌を促進すること2において役割を有し、一方、収縮力の外部伝達は、二次止血相の間に起こるフィブリン血餅退縮3にとって不可欠である。
【0004】
血小板収縮は、ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)およびミオシンホスファターゼ(mPP)の二重制御下にあるミオシン軽鎖(MLC)のリン酸化を必要とする。血小板において、カルシウムが、収縮力生成の主要な調節因子であるように見えるのは、Rhoキナーゼの阻害が、フィブリン血餅退縮相4に対して最小限の効果を有し、サイトゾルカルシウム流束を制限する実験条件下で血小板形状変化を阻害するに過ぎないことが分かっているからである。
【0005】
血栓形成の第二相の間に、血小板-フィブリン複合体は、血栓を安定化するのを支援するように設計されている退縮(「フィブリン血餅退縮」相と呼ばれる)を受ける。Rhoキナーゼの阻害が、剪断場における血小板-マトリックスおよび血小板-血小板相互作用の安定性を損ない5、血栓成長の主要な欠陥につながることから6、Rhoキナーゼは、血栓の初期発生中に血小板-血小板接着接触の安定性を調節することにおいて役割を果たしている。
【0006】
血小板中にミオシンIIAの標的欠失のあるマウスに関する研究は、尾出血時間の大幅延長および血栓成長の著しい欠陥につながる、血小板の止血機能を支える血小板収縮機構の重要性を裏付けている。ミオシンIIaの完全な欠損は、血小板形状変化および血餅退縮をなくしたが、血小板凝集および顆粒放出は、ほとんど損なわれないままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/117896号
【特許文献2】国際公開第2005/087237号
【特許文献3】国際公開第2000/009133号
【特許文献4】米国特許第4634770号
【特許文献5】米国特許第6943172号
【特許文献6】米国特許第6924290号
【特許文献7】米国特許第6451825号
【特許文献8】米国特許第6906061号
【特許文献9】米国特許第6218410号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ishizaki Tら、2000、Molecular Pharmacology 57:976〜983頁
【非特許文献2】Asano Tら、1989、Br. J. Pharmacol. 98:1091〜1100頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、血液凝固およびフィブリン血餅退縮とは無関係に、収縮が一次止血栓の調節にとってどれほど重要であるかは不明である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、対象において血栓を溶解させるための方法であって、1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤を組み合わせて血小板収縮阻害剤を対象へ投与する段階を含む方法を提供する。
【0011】
本発明は、対象において血栓収縮を阻害するための方法であって、1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤を組み合わせて血小板収縮阻害剤を対象へ投与する段階を含む方法も提供する。
【0012】
本発明は、血栓溶解剤の有効性を増強するための方法であって、血栓が、形成中であるか凝集血小板から形成したときに血栓溶解剤と一緒に血小板収縮阻害剤を対象へ投与する段階を含む方法も提供する。
【0013】
本発明は、対象において血栓収縮を阻害するための1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせた、血小板収縮阻害剤の使用も提供する。
【0014】
本発明の一実施形態において、血小板収縮阻害剤は、血栓が形成した部位において局所的に投与される。
【0015】
本発明の別の実施形態において、血小板収縮阻害剤は、血栓中へ直接投与される。
【0016】
本発明の別の実施形態において、血小板収縮阻害剤は、ボーラスとして投与される。
【0017】
本発明の別の実施形態において、血小板収縮阻害剤は、定常状態レベルに阻害を維持するために、経口もしくは静脈内ボーラスまたはボーラス+注入として投与される。
【0018】
本発明の一実施形態において、血小板収縮阻害剤は、血栓塞栓性障害の最初の同定後12時間以内に対象へ本発明に従って投与される。
【0019】
本発明の別の実施形態において、血小板収縮阻害剤は、血栓塞栓性障害の最初の同定後3時間以内に対象へ本発明に従って投与される。
【0020】
本発明の別の実施形態において、血小板収縮阻害剤は、脳卒中から3時間以内に対象へ本発明に従って投与される。
【0021】
別の実施形態において、血小板収縮阻害剤は、脳卒中直後に対象へ本発明の方法に従って投与される。
【0022】
本発明の別の実施形態において、血小板収縮阻害剤は、心臓発作から3時間以内に対象へ本発明に従って投与される。
【0023】
本発明の一実施形態において、血小板収縮阻害剤は、Rhoキナーゼ阻害剤である。本発明の別の実施形態において、血小板収縮阻害剤は、ブレビスタチンである。本発明の別の実施形態において、血小板収縮阻害剤は、Rho阻害剤である。
【0024】
Rhoキナーゼ阻害剤は、
(i) (S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]ホモピペラジン(ジメチルファスジル)もしくは1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン(ファスジル)などのイソキノリンスルホンアミドまたはそれらの塩、
(ii) (+)-(R)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩、
(iii) (+)-(R)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミド]またはその塩、あるいは
(iv)Rhoキナーゼ阻害活性を有する誘導体
からなる群から選択されることが好ましい。
【0025】
一実施形態において、塩は、塩酸塩である。
【0026】
本発明によるRho阻害剤は、Rho GTPアーゼの阻害剤であることが好ましい。Rho阻害剤は、Cdc42、Rac1およびRhoAの阻害剤からなる群から選択されることが好ましい。一実施形態において、Rho阻害剤は、C3トランスフェラーゼである。
【0027】
血小板収縮阻害剤は、1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と順次または同時に投与することができる。
【0028】
本発明による適当な血栓溶解剤の例は、ストレプトキナーゼ(カビキナーゼ(kabikinase)、STREPTASE(登録商標))、アニストレプラーゼ(EMINASE(登録商標))、ウロキナーゼ(アボキナーゼ)、テネクテプラーゼ(TNKアーゼ、METALYSE(登録商標))、レテプラーゼ(RETAVASE(登録商標)、RAPILYSIN(登録商標))または組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA、アルテプラーゼ、ACTIVASE(登録商標)、ACTILYSE(登録商標))を包含する。しかしながら、上に述べられていない他の血栓溶解剤も本発明における使用に適していることは、本発明の当業者により理解されるであろう。
【0029】
本発明は、認可された適応症に従って処方される投与量以下である血小板収縮阻害剤および、場合により、抗凝固剤と組み合わせて使用される場合の血栓溶解剤の投与量も提供する。
【0030】
例えば、一実施形態において、血小板収縮阻害剤は、血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせて投与され、血栓溶解剤の総投与量は、ヒト対象において90mg未満である。血栓溶解剤の総投与量は、70mg未満であることが好ましく、より好ましくは、50mg未満であり、さらにより好ましくは、35mg未満であり、さらにより好ましくは、20mg未満であり、さらにより好ましくは、10mg未満である。
【0031】
別の実施形態において、血小板収縮阻害剤は、t-PAおよび、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせて投与され、t-PAの総投与量は、90mg未満、好ましくは、70mg未満、より好ましくは、50mg未満、さらにより好ましくは、35mg未満、さらにより好ましくは、20mg未満、さらにより好ましくは、10mg未満である。
【0032】
別の実施形態において、血小板収縮阻害剤は、ストレプトキナーゼおよび、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせて投与され、ストレプトキナーゼの投与量は、1,500,000IU未満である。
【0033】
別の実施形態において、血小板収縮阻害剤は、ウロキナーゼおよび、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせて投与され、ウロキナーゼの総投与量は、500,000IU未満である。
【0034】
本発明は、血栓塞栓性障害を治療する方法であって、1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせて、血小板収縮阻害剤を対象へ投与する段階を含む方法も提供する。
【0035】
本発明による血栓塞栓性障害の例は、虚血性脳卒中、急性心筋梗塞、深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓、血餅化動静脈フィステル(clotted AV fistula)およびシャント(shunt)を包含する。しかしながら、治療することができる血栓塞栓性障害の網羅的リストでないことが理解されるべきである。
【0036】
本発明は、脳卒中を治療する方法であって、1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせて、血小板収縮阻害剤を対象へ投与する段階を含む方法も提供する。
【0037】
本発明は、心臓発作を治療する方法であって、1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせて、血小板収縮阻害剤を対象へ投与する段階を含む方法も提供する。
【0038】
本発明は、血栓塞栓性障害を治療するための医薬品の製造における1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせた、血小板収縮阻害剤の使用も提供する。
【0039】
本発明は、脳卒中を治療するための医薬品の製造における1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせた、血小板収縮阻害剤の使用も提供する。
【0040】
本発明は、心臓発作を治療するための医薬品の製造における1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせた、血小板収縮阻害剤の使用も提供する。
【0041】
本発明は、血栓を溶解させるのに使用するための組成物であって、血小板収縮阻害剤および1つまたは複数の血栓溶解剤を含む組成物も提供する。
【0042】
本発明は、血栓を溶解させるのに使用するための組成物であって、血小板収縮阻害剤、ならびに1つまたは複数の血栓溶解剤および1つまたは複数の抗凝固剤を含む組成物も提供する。
【0043】
この明細書を通して、「含む(comprise)」という単語、または「含む(comprises)」もしくは「含むこと(comprising)」などの変形形態は、述べられた要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップのグループの包含を意味し、任意の他の要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップのグループの除外を意味するものではない、と理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】フィブリン非依存性血栓収縮を示す図である。ヒト全血を、抗凝固剤の不存在下(未変性の) (A)、フィブリン重合阻害剤GPRPの存在下(GPRP-280μM) (A)、またはレピルジンの存在下(800U/ml) (A、B)で採取し、次いで、最高で5分までにわたって1800s-1にてI型コラーゲンをコーティングしたガラスマイクロスライドを通して灌流させた。(A)フィブリン形成を可視化するため、全血灌流を、オレゴングリーン標識フィブリノーゲン(20μg/ml)の存在下で行った。DICおよび蛍光画像を、Leica倒立顕微鏡(63倍)を使用してリアルタイムに取得した。画像は、4つの独立した実験を代表する1つから選ばれる。(B)レピルジン抗凝固処理全血の灌流中の血栓形成および硬化を、DIC顕微鏡法を使用してリアルタイムに記録し、指示時点における個別血栓のスナップショットをオフラインで得た。これらの画像は、12の独立した実験を代表する1つから選ばれる。収縮前の血栓の当初の輪郭は、破線により強調表示される。
【図2】in vitroでの血栓硬化の特徴付けを示す図である。レピルジン抗凝固処理ヒト全血を、1800s-1にてコラーゲンをコーティングしたマイクロスライドを通して灌流させた。A.血栓容積を定量化するため、全血を、灌流前にDiIC12と一緒にプレインキュベートし、「3次元容積測定血栓分析」に記載されているように、3D画像を、倒立Leica DMIRB共焦点顕微鏡を使用してリアルタイムに取得し、続いて、オフライン分析で血栓容積を定量化した。このグラフは、4つの独立した実験から選ばれた4つの個別血栓からの血栓容積を経時的に描いている。B.血栓硬化の定量化は、灌流前にDiIC12標識血小板を全血に「スパイクし」、続いて、リアルタイムに連続的なDICおよび蛍光画像を取得することにより行った。(i)画像は、12の独立した血流を代表する1つの血流から選ばれる。(ii)オフライン分析は、「血栓硬化の二次元定量化」の欄に記載されているように行った。結果は、1分における血小板間の距離を100%として、血流の1分前に血栓中へ組み入れられた2つの蛍光標識された血小板間の距離の減少割合として表される。結果は、12の独立した実験(n=12)から、36の個別血栓の平均値±SDとして表される(実線)。
【図3】血栓収縮を調節することにおけるカルシウムの役割を示す図である。DiIC12標識血小板がスパイクされたレピルジン抗凝固処理ヒト全血を、1800s-1にてコラーゲンをコーティングしたマイクロスライドを通して灌流させた。堅く接着した血小板間の距離の減少を、「血栓硬化の二次元定量化」に記載されているように定量化し、血栓収縮の間接的マーカーとして使用した。(A)全血を、EGTA/Mg2+ (2mM/1mM)の存在下で灌流させた。(B) 2-APBを使った研究のため、全血を、阻害剤なしで30秒にわたってまず灌流させ、非収縮血栓の初期形成を可能にし(「血栓硬化の二次元定量化」を参照)、続いて、2-APB (200μM)の存在下で全血を灌流させた。(A、B)結果は、平均値±SEM (n=5) (*p<0.05; **p<0.005;***p<0.001)を表し、1分における100%と比べた血小板間距離の減少割合を表す。(C)フィブリン血餅退縮にとってのカルシウム流入の重要性を調べるため、PRPを、2-APB (200μM)、c7E3 (50μg/ml)またはEGTA/Mg2+ (2mM/1mM)と一緒にプレインキュベートし、続いて、トロンビン(1U/ml)を添加した。血餅退縮は、「血小板媒介性フィブリン血餅退縮」の欄に記載されているように評価した。結果は、平均値±SEM (n=3) (ns=p>0.05; **p<0.005)を表す。
【図4】血栓収縮を調節することにおけるRhoキナーゼの役割を示す図である。DiIC12標識血小板がスパイクされたレピルジン抗凝固処理ヒト全血を、1800s-1にてコラーゲンをコーティングしたマイクロスライドを通して灌流させる前に、ビヒクル(DMSO)、H1152 (40μM)またはHA1077 (80μM)と一緒にプレインキュベートした。堅く接着した血小板間の距離を定量化し、血栓収縮の間接的マーカーとして利用した。結果は、平均値±SEM (n=4) (*p<0.05; **p<0.005; ***p<0.001)を表し、1分における100%と比べた血小板間距離の減少割合を表す。(B)ビヒクル(DMSO)またはH1152 (40μM)存在下での血栓形成をリアルタイムに記録し、指示時間における個別血栓のスナップショットをオフラインで得た。血栓の当初のサイズは、実線により輪郭が描かれ、一方、血流の2分後に得られた血栓サイズは、破線により輪郭が描かれている。これらの画像は、4つの独立した実験を代表する1つから選ばれる。(C)フィブリン依存性血餅退縮に対するRhoキナーゼ阻害剤の効果を調べるため、クエン酸処理PRPを、ビヒクル(DMSO)、H1152 (40μM)、HA1077 (80μM)またはc7E3 (100μg/ml)と一緒にプレインキュベートし、続いて、トロンビン(1.0U/ml)を添加した。血餅退縮の程度を、「血小板媒介性フィブリン血餅退縮」の欄に記載されているように、30分後に評価した。結果は、平均値±SEM (n=3)を表す。
【図5】in vitroでの血栓硬化に対するミオシンII阻害剤(ブレビスタチン)の効果を示す図である。レピルジン抗凝固処理ヒト全血を、「血栓硬化の二次元定量化」に記載されているように、1800s-1にてコラーゲンをコーティングしたマイクロスライドを通して灌流させる前に、ブレビスタチン(ブレビスタチン[-])、またはブレビスタチンの不活性エナンチオマー(ブレビスタチン[+])と一緒にプレインキュベートした。(A)1.5分の時間にわたる個別血栓のスナップショットをオフラインで得た。これらの画像は、3つの独立した実験を代表する1つから選ばれる。(B) DiIC12標識血小板がスパイクされた全血を、1800s-1にてコラーゲンをコーティングしたマイクロスライドを通して灌流させ、「血栓硬化の二次元定量化」に記載されているように、堅く接着した血小板間の距離を定量化した。結果は、平均値±SEM (n=3) (ns p>0.05; **p<0.005; ***p<0.001)を表し、1分における100%と比べた血小板間距離の減少割合を表す。
【図6】in vitroで血栓安定性を調節することにおけるミオシンIIaおよびRhoキナーゼの役割を示す図である。血管損傷を、針穿刺により、麻酔したC57/B16マウスの腸間膜後毛細管細静脈において誘発させ、血栓発生を、「生体内顕微鏡検査」に記載されているように記録した。指示実験において、血栓安定性に対するブレビスタチンの不活性エナンチオマー(ブレビスタチン[+])、ビヒクル(DMSO)、H1152またはブレビスタチン(ブレビスタチン[-])の効果を、「生体内顕微鏡検査」に記載されているような濃度および容積で、間欠注射(実線バーにより示される)後に評価した。(A)経時的な所与の血栓の相対的な表面積変化は、オフラインで決定され、注射前の血栓の初期表面積と比べて表された。これらの結果は、4つの独立した実験のうちの1つから選択されたデータを描いており、1つのそのような実験からの代表的画像が(B)に描かれている。注射後の血栓表面積の減少割合は、「生体内顕微鏡検査」に記載されているように定量化され、元の血栓にしめる割合(%)として表された。これらの結果は、平均値±SEM (n=4)を表し、***p<0.0001である。
【図7】一次止血栓の安定性を調節することにおけるミオシンIIaおよびRhoキナーゼの役割を示す図である。血管損傷を、レピルジン(50mg/kg、i.v.-損傷前に投与する)の存在下で、針穿刺により、麻酔したC57/B16マウスの腸間膜後毛細管細静脈において誘発させた。指示実験において、血栓安定性に対するブレビスタチンの不活性エナンチオマー(ブレビスタチン[+])、ビヒクル(DMSO)、H1152またはブレビスタチン(ブレビスタチン[-])の効果を、「生体内顕微鏡検査」に記載されているような濃度および容積で、反復注射(実線バーにより示される)後に評価した。(A)経時的な所与の血栓の相対的な表面積変化は、オフラインで決定され、注射前の血栓の初期表面積と比べて表された。これらの結果は、4つの独立した実験のうちの1つから選択されたデータを描いており、1つのそのような実験からの代表的画像が(B)に描かれている。(C)ビヒクル/阻害剤の各注入後の血栓サイズの最大減少割合は、「生体内顕微鏡検査」に記載されているように定量化され、注入前の元の血栓にしめる割合(%)として表された。これらの結果は、平均値±SEM (n=4)を表し、***p<0.0001である。
【図8】血管再灌流に対するt-PAまたはウロキナーゼ±抗凝固剤と組み合わせたRhoキナーゼ阻害剤の効果を示す図である。(i)から(vi)の棒グラフは、麻酔したマウスの頸動脈における血管灌流に対する、抗凝固剤の有無にかかわらずt-PAまたはウロキナーゼと組み合わせたRhoキナーゼ阻害剤(HA1077およびY27632)の効果を立証している。様々な治療レジメンは、以下の通りであった:A:食塩水、B:HA1077 (8mg/kg)、Cut-PA (2mg/kg)ボーラス+18mg/kg/30分注入、D: t-PA(2mg/kg)&ヘパリン(71U/kg)ボーラス+t-PA (18mg/kg/30分)&ヘパリン28.6U/kg/30分注入、E: t-PA(2mg/kg)&ヘパリン(142U/kg)ボーラス+t-PA (18mg/kg/30分)ヘパリン(57.2U/kg/30分)注入、F: Y27632 (8mg/kg)&t-PA (2mg/kg)&ヘパリン(142U/kg)ボーラス+t-PA (18mg/kg/30分)&ヘパリン(57.2U/kg/30分)注入、G: HA-1077 (8mg/kg)&ウロキナーゼ(4,400IU/kg)&ヘパリン(142U/kg)ボーラス+ウロキナーゼ(4,400IU/kg/30分)&ヘパリン(57.2U/kg/30分)注入、H: HA1077 (8mg/kg)& t-PA (2mg/kg)&ヒルジン(10mg/kg)ボーラス+ t-PA 18mg/kg/30分)注入。黒一色の棒=再灌流なし、縞模様の棒=不安定な再灌流-再閉塞の期間が散在する正常血流の期間を特徴とする間欠性血流障害を指す、灰色一色の棒=中程度に安定な再灌流-いかなる再閉塞も存在しない、血流低下が散在する正常血流の期間を特徴とする間欠性血流障害を指す、白色の棒=安定な再灌流-この期間にわたって閉塞の再発生のない、60分の期間を通じての血流の再確立を指す。
【図9】血管灌流に要する時間に対するt-PAまたはウロキナーゼ±抗凝固剤と組み合わせたRhoキナーゼ阻害剤の効果を示す図である。(i)から(vi)の棒グラフは、遮断された血管(血流=0ml/分)において再灌流を確立するのに要する時間を示しており、再灌流は、血流の再確立(血流>0ml/分)として記載される。様々な治療レジメンは、以下の通りであった:A:食塩水、B: HA1077 (8mg/kg)、C: t-PA (2mg/kg)ボーラス+18mg/kg/30分注入、D: t-PA (2mg/kg)&ヘパリン(71U/kg)ボーラス+t-PA (18mg/kg/30分)&ヘパリン28.6U/kg/30分注入、E: t-PA (2mg/kg)&ヘパリン(142U/kg)ボーラス+t-PA (18mg/kg/30分)ヘパリン(57.2U/kg/30分)注入、F: Y27632 (8mg/kg)&t-PA (2mg/kg)&ヘパリン(142U/kg)ボーラス+t-PA (18mg/kg/30分)&ヘパリン(57.2U/kg/30分)注入、G: HA-1077 (8mg/kg)&ウロキナーゼ(4,400IU/kg)&ヘパリン(142U/kg)ボーラス+ウロキナーゼ(4,400IU/kg/30分)&ヘパリン(57.2U/kg/30分)注入、H: HA1077 (8mg/kg)& t-PA (2mg/kg)&ヒルジン(10mg/kg)ボーラス+ t-PA 18mg/kg/30分)注入。
【発明を実施するための形態】
【0045】
血栓症は、血管における血餅(血栓)の発生について説明している。動脈血栓症は、冠状動脈血栓症として最も頻繁に現れる主要な臨床問題であり、冠状動脈の閉塞および急性心筋梗塞(心臓発作)の発生につながる。下肢の深部静脈内での血栓の形成は、深部静脈血栓症(DVT)として特徴付けられている。原因因子は、不動および静脈うっ血、遺伝性および後天性の血栓形成促進状態、エストロゲン療法ならびに妊娠を包含する。ある外科的手順も、術後静脈血餅形成と強く相関している。これらは、股関節または膝関節置換術、選択的脳外科的手術、および急性脊髄損傷修復を包含する。
【0046】
病的血栓の治療的溶解は、組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)などの血栓溶解剤を投与することにより達成される。血栓溶解療法の有益性は、血流の回復(再灌流)を伴う血栓の急速な溶解を包含する。しかしながら、合併症は、生理的血餅の溶解に起因する内出血および外出血を包含し、出血性脳卒中につながる。今日利用可能な血栓溶解剤は、t-PAの他に、レテプラーゼ、ストレプトキナーゼ、アニストレプラーゼ、ウロキナーゼ、およびテネクテプラーゼを包含する。急性心筋梗塞の血栓溶解治療は、治療される1000例の患者当たり30例の命を救うと推定されているが、この障害についての30日死亡率は相当なままである。
【0047】
心筋梗塞の治療における血栓溶解療法の有効性は、上に記載されている薬剤のうちの1つまたは複数を使用して過去10年間にわたって立証されてきた。残念なことに、これらの薬剤に伴う副作用がある。例えば、組み換えt-PA (ACTIVASE、CATHFLOACTIVASE、ACTIVASE rt-PA、ACTILYSEなどの様々な商品名で市販されている)は、低フィブリノーゲン血症および出血などの二次毒性を伴う。t-PA療法に伴っていた有害反応は、不整脈、心不全、心停止、再発性虚血、心筋再梗塞、心外膜炎、血栓塞栓症、肺水腫、および低血圧症を包含する。さらに、t-PAなどの血栓溶解剤が血栓溶解を誘発する割合は、極めて変わりやすく、血栓を持っている患者の約25%は、溶解に対して抵抗性である。研究は、溶解感受性における主要な決定因子として血栓の組成を報告しており、血小板に富んだ血栓は、t-PA媒介性溶解に対してより大きな抵抗性を示す13。冠状動脈血栓は、血小板に富んでいることが多いため、血餅溶解を阻害することにおける血小板の役割は、冠状動脈血栓溶解を調節することにおいて重要な役割を果たすことがある。この仮説の裏付けとして、臨床治験は、血栓溶解療法と抗血小板療法を組み合わせることにより再灌流の発生率増強、死亡率および二次合併症の減少を立証している14,15,16
【0048】
本発明の重要な知見は、血栓溶解剤および抗凝固剤への血小板収縮阻害剤の追加が、血小板収縮阻害剤がないことに比べて、再灌流のタイミングを有意に増強したことである。再灌流までの時間は、急性血栓事象のある患者の管理において重要な問題であり、血栓溶解療法単独では30分以上の再灌流時間が典型的には観察される。血栓性再閉塞も血栓溶解療法の制限であり、急性心筋梗塞患者においておおよそ25%の再閉塞率をもたらす。血小板収縮阻害剤の血栓溶解剤±抗凝固剤との組合せは、再灌流後の動脈閉塞の割合を有意に低下させる。このことは、脳卒中および心筋梗塞の治療および管理における有益性を明らかに有する。
【0049】
肺塞栓症を治療するための血栓溶解療法の使用は、議論の余地がある。標準的療法を上回る血栓溶解の理論的利点にもかかわらず、それが真に適応とされる状況、すなわち、低血圧症または全身性低灌流を伴う広範肺塞栓症を除いて、標準的抗凝固療法を上回るその広範な使用を支持するデータはほとんどない17。しかしながら、再発性肺塞栓症、死亡率または慢性合併症のための標準的抗凝固療法を上回る血栓溶解療法の有益性を示す証拠は存在しない。大部分の低血圧広範肺塞栓症患者は、症状の発現から2時間以内に死亡するため、この状況におけるRhoキナーゼ阻害剤の使用は、より低投与量の血栓溶解剤およびより長い治療的処置期間でのより有効な血栓溶解を可能にすることがある。
【0050】
コラーゲン基質上で血小板の接着および凝集のリアルタイム分析を行うことにより、本発明者らは、トロンビン生成およびフィブリン重合とは無関係に起こる血栓発生への明確な収縮相(「血小板血栓収縮」相と呼ばれる)を解明した。
【0051】
血小板の収縮機能を低下させる能力は、形成中の血栓の安定性を損なうばかりでなく、形成した血栓を溶解する組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)またはウロキナーゼなどの血栓溶解剤の能力を高めることがある。RhoキナーゼまたはミオシンII(ブレビスタチン)の阻害剤などの血小板収縮阻害剤が血栓溶解を容易にするためにこれまで使用されたことがなかったのは、一次血栓収縮を促進することにおけるRhoキナーゼおよびミオシンIIについての役割が認識されたことがなかったからである。
【0052】
本明細書に記載されている本発明の一実施形態によれば、本発明者らは、t-PAかウロキナーゼのどちらかの血栓溶解剤および抗凝固剤と一緒のRhoキナーゼ阻害剤の組合せが、相乗的に働いて血栓溶解を容易にすることを見いだした。実際に、Rhoキナーゼ阻害剤および抗凝固剤との相乗作用を達成するのに必要とされるウロキナーゼの濃度は、げっ歯類の肺塞栓症モデルにおいて血栓溶解を誘発するのに必要とされるよりも最高で100倍も低いことが判明した7。したがって、0.9mg/kgの処方投与量よりも低いt-PAの投与量を使用し、急性虚血性脳卒中を治療し、それによって、t-PAの投与で見られる副作用の頻度を軽減することができそうである。
【0053】
現在、血栓溶解療法は、脳卒中患者に対して症状の発現から3時間以内に施すことができるに過ぎない。しかしながら、血小板収縮阻害剤が、より低投与量のt-PAによるより有効な血栓溶解を可能にすれば、治療時間枠をかなり広げることができる。
【0054】
血栓溶解剤
組織プラスミノーゲン活性化因子
t-PAは、現在、急性虚血性脳卒中を管理するための唯一の認可薬である。成人対象へ投与されるt-PAの用量は、治療されている状態によって決まる。認可された用量および適応症を詳述する製品情報は、MIMSなどの薬学的リソースから公的に利用可能である。例えば、成人における急性虚血性脳卒中を治療するための推奨用量は、60分にわたって注入される0.9mg/kg(最高90mg)の投与量での静脈内(IV)投与であり、総投与量の10%は、1分にわたって初期IVボーラスとして投与される。肺塞栓症については、成人における推奨用量は、2時間にわたって静脈内投与される100mgであり、部分トロンボプラスチン時間またはトロンビン時間が通常の2倍以下に戻る場合、t-PA注入の終わり近くまたは直後にヘパリン療法を開始または復帰させる。急性心筋梗塞については、推奨用量は、患者の体重を基準とし、100mgを超えてはならない。
【0055】
ストレプトキナーゼ
ストレプトキナーゼ(ストレプターゼ)は、急性心筋梗塞、肺塞栓症および深部静脈血栓症の治療に適応するとされてきた。成人における急性MIについての推奨用量は、60分以内の1,500,000単位の総投与量の静脈内注入である。肺塞栓症、DVT、動脈の血栓症または塞栓症の治療については、成人における推奨治療は、30分にわたって末梢静脈中へ注入される150,000単位の負荷投与量の7日以内が好ましい静脈内投与である。
【0056】
テネクテプラーゼ
テネクテプラーゼは、急性心筋梗塞の血栓溶解治療に適応するとされる。推奨用量は、体重を基準とし、投与は、5〜10秒にわたるIVボーラス注射を介する。最大投与量は、10,000IU (50mg)である。テネクテプラーゼは、心筋梗塞後の血栓溶解についてアルテプラーゼ(rt-PA)と類似した臨床的有効性を有する。
【0057】
レテプラーゼ
レテプラーゼは、急性心筋梗塞の血栓溶解療法に適応するとされ、10+10U二重ボーラス注射として投与される。レテプラーゼ10Uは、レテプラーゼタンパク質量17.4mgに相当する。
【0058】
アニストレプラーゼ
アニストレプラーゼは、急性心筋梗塞の血栓溶解療法に適応するとされる。推奨用量は、2〜5分にわたって静脈内投与される30単位である。
【0059】
ウロキナーゼ
ウロキナーゼは、肺塞栓症ならびに血餅化動静脈フィステルおよびシャントならびに深部静脈血栓症の治療に適応するとされてきた。成人における肺塞栓症についての推奨用量は、10分にわたる4,400IU/Kgの負荷投与量と、続く、12時間にわたる4,400IU/Kg/時間の維持投与量である。
【0060】
これらの血栓溶解剤の使用は、特に、抗凝固剤またはアスピリンなどの血小板機能を変える薬剤と一緒に投与された場合に多くの有害事象、特に、出血の危険性を伴うため、著しく低用量の血栓溶解剤を使用する結果になる方法が極めて望ましいであろう。
【0061】
血小板収縮阻害剤
Rhoキナーゼ阻害剤
Rhoキナーゼは、タンパク質キナーゼの筋緊張性ジストロフィーファミリーの1メンバーであり、アミノ末端におけるセリン/スレオニンキナーゼドメイン、中央領域中のコイルドコイルドメインおよびカルボキシ末端におけるRho相互作用ドメインを含有する。そのキナーゼ活性は、GTP結合RhoAと結合することによって増強され、細胞中へ導入された場合に、活性化RhoAの活性の多くを再生することができる。平滑筋細胞において、Rhoキナーゼは、カルシウム感作および平滑筋収縮を媒介し、Rhoキナーゼの阻害は、5-HTおよびフェニレフリンアゴニスト誘発性筋収縮をブロックする。非平滑筋細胞中へ導入された場合、Rhoキナーゼは、ストレスファイバー形成を誘発し、RhoAにより媒介される細胞形質転換に必要となる。Rhoキナーゼは、リン酸化によって、ミオシン軽鎖、ミオシン軽鎖ホスファターゼ結合サブユニットおよびLIM-キナーゼ2を包含する多くの下流タンパク質を調節する。
【0062】
Rhoキナーゼ阻害剤は、肺高血圧症、安定狭心症およびアテローム性動脈硬化症を包含する血管疾患の治療において有用であることが分かっている。さらに、Rhoキナーゼ阻害剤は、腫瘍細胞の遊走および足場非依存性成長を阻害することにおいて役割を果たすことが分かっている。
【0063】
p160ROCK (ROCK-I)およびROKα/Rho-キナーゼ(ROCK-II)にとって選択的であるY-27632 ([(+)-(R)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド二塩酸塩]およびY-30141 ([(+)-(R)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミド二塩酸塩]を包含する様々なRhoキナーゼ(ROCK)阻害剤について記載されてきた(Ishizaki Tら、2000、Molecular Pharmacology 57:976〜983頁)。
【0064】
他のRhoキナーゼ阻害剤は、ジメチルファスジルとしても知られているH1152 (S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]ホモピペラジン、2HClまたはファスジル塩酸塩としても知られているHA-1077 1-(5-イソキノリンスルホニル)-ホモピペラジンHClを包含する(Asano Tら、1989、Br. J. Pharmacol. 98:1091〜1100頁)。
【0065】
FASUDIL(登録商標)
ファスジルは、現在、臨床使用における唯一の認可されたRhoキナーゼ阻害剤である。ファスジルの静脈内製剤は、くも膜下出血患者における脳血管痙攣の予防のために日本で1995年に認可された。
【0066】
ファスジルの経口および吸入製剤は、肺動脈高血圧症の治療のために開発されつつある。
【0067】
ファスジルの様々な製剤について記載されている。例えば、国際公開第2005/117896号は、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルアセテートを含むマトリックス体およびエンベロープ中のファスジルの製剤について記載している。国際公開第2005/087237号は、ファスジルの改善された安定化製剤について記載しており、国際公開第2000/009133号は、ファスジル塩酸塩の経口調製物について記載している。そのようなファスジル含有製剤は、本発明の方法における使用に適していると考えられる。
【0068】
一実施形態において、本発明によるRhoキナーゼ阻害剤は、1-(5-イソキノリンスルホニル)-ホモピペラジンHCl (HA-1077)である。
【0069】
「Rhoキナーゼ阻害活性を有する誘導体」という用語は、1-(ヒドロキシル-5-イソキノリンスルホニル)-ホモピペラジン(ヒドロキシファスジル)などのRhoキナーゼ阻害剤の活性代謝産物を包含することが意図されている。
【0070】
米国特許第4634770号に記載されているものなどのイソキノリンスルホンアミド誘導体および米国特許第6943172号、米国特許第6924290号、米国特許第6451825号、米国特許第6906061号、米国特許第6218410号に記載されている化合物を包含する追加のRhoキナーゼ阻害剤についても記載されている。
【0071】
そのような誘導体は、本発明の請求項の範囲内に包含される。
【0072】
Rhoキナーゼ阻害剤は、上に記載されているものなどの1つまたは複数の血栓溶解剤と組み合わせて投与される。Rhoキナーゼ阻害剤および血栓溶解剤は、順次または同時に投与することができる。
【0073】
本発明の方法は、初期段階で(血栓閉塞事象からの症状発現から12時間以内の)血栓溶解を容易にするように設計されているため、Rhoキナーゼ阻害剤と併せて使用することができる血栓溶解剤の投与量は、典型的に使用される投与量未満である。例えば、ヒト対象における急性虚血性脳卒中のt-PA療法についての総用量範囲は、5〜90mgの程度となるであろう。
【0074】
ブレビスタチン
ブレビスタチン(細胞ブレビングをブロックするその能力のためにそう名付けられた)は、非筋肉性ミオシンIIの選択的および高親和性(IC50 おおよそ4μM)阻害剤である。細胞分裂中に、ブレビスタチンは、有糸分裂を妨げることなく分裂溝の収縮を阻害する。
【0075】
GTPアーゼのRhoファミリー
GTPアーゼのRhoファミリーは、小さなシグナル伝達Gタンパク質の1ファミリー(GTPアーゼ)であり、Rasスーパーファミリーの1サブファミリーである。Rho GTPアーゼファミリーのメンバーは、細胞内アクチン動態の多くの側面を調節することが明らかにされており、酵母および一部の植物を包含するすべての真核生物中に見いだされる。Rhoタンパク質は、細胞極性、小胞輸送、細胞周期およびトランスクリプトーム動態などの多種多様な細胞機能に関与している。
【0076】
抗凝固剤
本発明の方法は、適切な場合に、ワルファリン、ヒルジンおよびヘパリンからなる群から選択される1つまたは複数の追加抗凝固剤の使用も包含する。
【0077】
上に列挙されていない追加抗凝固剤も、本発明における使用に適していることは、当業者により理解されるであろう。
【0078】
追加薬剤
アスピリン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、アブシキシマブ、ジピリダモールおよびクロピドグレルから選択される1つまたは複数の薬剤を包含する追加薬剤も、本発明の方法において使用することができる。
【0079】
血小板収縮阻害剤の投与
本発明の方法において使用される血小板収縮阻害剤は、有効量で対象へ投与される。一般的に、有効量は、正常皮膚出血時間により測定されるように、出血の危険性を実質的に高めることなく形成中の血栓の溶解を引き起こすのに有効な量である。
【0080】
投与される用量は、対象の年齢、健康および体重によって決まる。典型的には、対象へ投与される投与量は、Rhoキナーゼ阻害剤ファスジルの場合の処方情報に従うものとする。
【0081】
投与は、好ましくは、血栓塞栓事象の同定後、できる限り速やかに、ボーラス注射または静脈内注入により生じることが好ましい。形成中の血栓の有効な溶解については、Rhoキナーゼ阻害剤は、血栓塞栓事象の最初の同定からおおよそ0〜12時間後に投与されるべきである。
【0082】
Rhoキナーゼ阻害剤は、例えば、静脈内注射または血栓中への直接注射などの非経口または局所投与を包含する任意の適当な手段により、経口投与によりまたは吸入により投与することができる。好ましい形態において、Rhoキナーゼ阻害剤は、静脈内ボーラス注射または静脈内注入として投与される。Rhoキナーゼ阻害剤のボーラス注射は、血栓症直後、すなわち、入院前に行われることが好ましい。
【0083】
血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と一緒に血小板収縮阻害剤を投与するタイミングは、治療するべき血栓塞栓事象によって決まるであろう。例えば、心筋梗塞については、対象へ同時に薬剤を投与することが好ましいであろう。脳卒中事象については、好ましい治療単位は、血栓溶解剤と一緒に血小板収縮阻害剤を投与することであろう。動脈血栓性閉塞の部位における局所投与については、血小板収縮阻害剤、血栓溶解剤および抗凝固剤の同時投与が好ましいであろう。
【0084】
「対象」という用語は、本明細書において、ヒト対象を指すために使用される。しかしながら、対象は、霊長類動物、またはイヌ、ネコもしくはウマなどの家畜であってもよい。
【実施例】
【0085】
[実施例1]
材料および方法
材料
Rhoキナーゼ阻害剤H1152は、Toronto Research Chemicals (Canada)から入手した。IP3受容体アンタゴニストホウ酸2-アミノエトキシジフェニル(2-APB)は、Cayman Chemicals (Michigan、USA)から入手し、HA1077、ミオシンII阻害剤ブレビスタチン[-]およびその不活性エナンチオマーブレビスタチン[+]は、Chemicon (USA)から入手した。DiIC12は、BD Biosciences (NSW、Australia)から入手した。組み換えヒルジン(レピルジン)は、Pharmion (Australia)から購入した。
【0086】
マウス株
C57B16およびPAR4-/-マウスの使用が関わるすべての手順は、プロジェクト番号E/0569/2007/M、E/0621/2007/MおよびE/0464/2006/Mの下に、Alfred Medical Research and Education Precinct (AMREP)動物倫理委員会(AEC) (Melbourne、Australia)により承認された。
【0087】
血液の採取、PRPおよび洗浄血小板の調製
ヒトおよびマウス血液の採取が関わるすべての手順は、それぞれMonash University Standing Committee on Ethics in Research involving Humans (SCERH) (プロジェクト番号CF07/0125-2007/0005)、およびAlfred Medical Research and Education Precinct (AMREP)動物倫理委員会(AEC) (Melbourne、Australia) (SOP19-マウスからの全血の採取)により承認された。ヒト多血小板血漿(PRP)の採取については、同意した健常志願者からの全血を、クエン酸三ナトリウム(0.38%最終濃度)中へ採取し、37℃にて16分にわたって300×gにて遠心分離した。洗浄血小板は、血小板洗浄緩衝液中のレピルジン(800U/ml)およびタイロード緩衝液中のアピラーゼ(0.02U/ml)を含めて、酸性クエン酸ブドウ糖(ACD)抗凝固処理全血から調製した。
【0088】
血流下のin vitro血栓硬化の可視化および定量化。
ウシ線維状I型コラーゲンマトリックス上の血流ベースの血栓形成アッセイを、フィブリンの不存在下で37℃にて行った。手短に言うと、抗凝固処理(800U/mlレピルジン)ヒト全血を、5分にわたって1800s-1にて線維状I型コラーゲンをコーティングしたマイクロキャピラリー管を通して灌流(2.0mg/ml)する前に、ビヒクル(DMSO)、ブレビスタチン(+)(200μM)、ブレビスタチン(-)(200μM)、EGTA/Mg2+ (2 mM/1 mM)、HA1077(80μM)、H1152(40μM)または2-APB (200μM)と一緒にプレインキュベートした(10分、37℃)。血栓形成を、63×水浸対物レンズ(1.2開口数(NA))付き倒立Leica DMIRB顕微鏡(Leica Microsystems、Wetzlar、Germany)を使用して観察し、Dage-MTI電荷結合素子(CCD)カメラ300 ETRCX (Dage-MTI、Michigan City、IN)を使用してリアルタイムに記録した。
【0089】
血栓硬化の二次元定量化-血栓収縮の定量化は、灌流前に3%DiIC12標識血小板を全血に「スパイクする」ことにより行った。次いで、スパイクした全血を、上に記載されているようなコラーゲンマトリックスの上で灌流し、DIC/蛍光画像を、オフライン分析のために、上に記載されているようにリアルタイムに記録した。硬化に対する2-APBの効果を調べる研究は、核発生中の血栓を確立するために30秒にわたってマイクロスライドと交わるように未処理全血を灌流し、続いて、阻害剤処理血液を灌流することにより行った。この事前阻害剤灌流は、2-APBの存在が、血栓形成を妨げ、硬化の分析を不可能にすることから必要であった。所与の血栓における2つの蛍光標識血小板間の距離を、5分にわたって30秒毎にmm単位で測定した。結果は、1分における血小板間の距離を100%として、血流の1分前に血栓中へ組み入れられた2つの血小板間の距離の減少割合として表される。
【0090】
3D容積測定血栓分析-血栓容積の分析については、全血を、灌流前にDiIC12(1μM)で標識した。血栓を、上に記載されているように形成させ、画像を、4〜5分にわたって30秒毎に取得した1μM切片について、倒立Leica DMIRB共焦点顕微鏡を使用してリアルタイムに取得した。血栓容積の分析は、Metamorph 6ソフトウェアを使用して行った。
【0091】
生体内顕微鏡検査
血管損傷に反応した血栓の発生および硬化を、生体内顕微鏡検査を使用してモニターした。C57BL6またはPAR4欠損(15g〜18g)マウスを、ナトリウムペントバルビトン(60mg/kg)を使用して麻酔し、正中腹部切開によって腸間膜を体外に出した。体温を、赤外線加熱ランプを使用して手順中に維持し、露出した腸間膜血管(50〜160μm直径)を、温食塩水を使用して水分補給した。血管損傷は、マイクロマニピュレーター(Eppendorf)に連結されているマイクロインジェクション針(20〜30μm先端直径)か、6% FeCl3浸漬濾紙の塗布(8秒)のどちらかによって達成された。損傷領域への血小板の発生を、in vitro血流アッセイ(上記)について記載されているようにリアルタイムに記録した。一部の実験において、H1152 (5mMストック溶液、1サイクル当たりの注射容積2.5μl)、HA1077 (10 mMストック溶液、1サイクル当たりの注射容積2.5μl)、2-APB (25mMストック溶液、1サイクル当たりの注射容積2.5μl)、ブレビスタチン[-]またはその不活性エナンチオマーブレビスタチン[+] (25mMストック溶液、1サイクル当たりの注射容積2.5μl)、または等容積のビヒクル(DMSO)を、マイクロインジェクション針(放出速度2〜3μl/分、3サイクル)を介して発生中の血栓中へ局所的に注入した。フィブリン生成を防ぐため、一部の実験において、レピルジン(50mg/kg)を、損傷の導入と、続く、阻害剤の注射の前に、静脈内注射を介して投与した。レピルジンのこの濃度におけるフィブリン形成の完全な消滅は、Carstair's染色により裏付けられた。in vivoでの血栓の表面積を、4〜5分にわたる第5フレーム毎(毎秒1フレームにて)の分析で、Image Jを使用して測定した。表面積の変化は、元の表面積(=1)に対する増加または減少倍率として表した。
【0092】
血小板媒介性フィブリン血餅退縮
血小板媒介性フィブリン依存性血餅退縮を、クエン酸処理PRPを使用して測定した9,10。結果は、c7E3(陰性対照)サンプルについて得られた容積を差し引いた後の、血餅除去後に管内に残っている血清の割合として表される。
【0093】
統計分析
複数の処置群間の統計的有意性は、ダネット多重比較検定で一元配置分散分析を使用して分析した。経時的な複数の処置群間の統計的有意性は、ボンフェローニ事後テストで二元配置分散分析を使用して行った。2つの処置群間の統計的有意性は、両側p値について対応のないスチューデントのt検定を使用して分析した(Prismソフトウェア、GraphPAD Software for Science、San Diego、CA) (ns[有意差なし]; p>0.05; *p<0.05; **p<0.01; ***p<0.001)。データは、平均値±SEMかSDのどちらか(指示されている場合)として表され、n=行われた独立した実験数である。
【0094】
[実施例2]
血栓発生中の収縮相の同定
血餅退縮につながる、フィブリン重合体への細胞骨格収縮力の伝達における血小板の重要性は、十分に明らかにされている。しかしながら、特に生理的血流状態の下での血栓成長の様々な段階の調節におけるこれらの収縮機構の重要性は、それほどはっきりとは明らかにされてこなかった。これを検討するため、発明者らは、固定化I型線維状コラーゲン基質上で血小板接着および血栓成長をリアルタイムに分析することができるin vitro灌流システムを利用した。細動脈剪断速度(1800s-l)における未変性の(抗凝固処理されていない)全血の灌流は、速やかな血小板接着および凝集体形成をもたらし、血流の2分以内に大きく安定な凝集体が形成した。蛍光標識フィブリノーゲンを同時灌流することによる沈着フィブリン(フィブリノーゲン)の分析は、発生中の血栓内の広範なフィブリン(フィブリノーゲン)取り込みを示し、個別の厚いフィブリンストランドは、血栓の底部周囲およびコラーゲン表面上で顕著であった(図1A)。血栓形成と同時に、血栓の時間依存性収縮が観察された。血栓の収縮は、血流の最初の60秒以内に明らかであり、5分の灌流時間を通して継続した。血栓の高分解能画像化は、血栓収縮が、凝集血小板の進行性密充填(tight packing)を伴い、個別の血小板の縁が、もはや発生中の血栓内で区別できないほどであることを示した。とりわけ、発生中の血栓中への血小板の退縮は、厚いフィブリン重合体の発生前に起こり、このプロセスが、フィブリン重合とは無関係に起こる可能性を高めた。これを検討するため、発明者らは、フィブリン重合の阻害剤であるGly-Pro-Arg-Proペプチド(GPRP)の存在下で灌流研究を行った。未変性の全血へのGPRPの添加は、個別のフィブリン重合体の形成を阻害したが、血小板血栓成長に対する阻害効果はなかった(図1A)。さらに、血小板血栓の収縮は、GPRPにより変わらなかった。同様に、ヒルジン抗凝固処理全血を使用して形成される血栓も、顕著な収縮相を受け、形成中の血栓の顕著な硬化につながった(図IB)。微量のトロンビンが、この収縮プロセスを担っていた可能性を排除するため、発明者らは、トロンビン刺激に対して完全に不応性であるマウス血小板(PAR4-/-マウス)に関する研究を行った。PAR4欠損は、血栓収縮に対しても、形成中の血栓
の硬化に対しても阻害効果を有していなかった。さらに、低分子量ヘパリン、エノキサパリン(400U/ml)と組み合わせて、極めて高濃度のレピルジン(1600U/ml)で全血を処理することも、血栓収縮を妨げることはなく、この現象が、トロンビン生成およびフィブリン重合とは無関係に起こることを裏付けた。
【0095】
形成中の血栓の容積に対する収縮の影響を決定するため、血栓の三次元容積測定分析を行った。蛍光性膜色素DiIC12と共にプレインキュベートしたヒルジン処理全血を、1800s-1にてI型コラーゲン上で灌流し、発生中の血栓の共焦点切片を、5分間にわたって30秒間隔で取得した。血栓を、3次元で再構築し、容積を、材料および方法の欄に記載されているように定量化した。図2Aに示されているように、個別血栓の容積は、時間依存的に増加し(〜5,000mm3から15,000mm3までの範囲の個別血栓の容積)、最大血栓サイズは、血流の3〜3.5分後にはっきり見られた。収縮は、血栓発生を通じて連続的に起こったが、血栓容積の純減少がはっきり見られたのは、血流の3.5分後に初めてであり、総体的減少は、23.9〜48.2%(平均値38.2+/-16.1% S.D. n=10)であった。血栓収縮は、典型的には、発生中の血栓の本体中への個別血小板の退縮が関わり、最も速やかな収縮は、発生中の血栓の下流尾部(downstream tail)において起こった(図1B)。血栓収縮中の個別血小板間の距離の変化を定量化するため、発明者らは、血栓中への安定取り込み後の個別血小板の移動の分析を可能にする蛍光ベースの追跡方法を確立した(図2Bi、「材料および方法」の欄を参照)。これらの研究は、12.5〜62.5%(平均値37.7+/-12.8% S.D. n=36)の範囲の個別血小板間の距離の時間依存性減少を示した(図2Bii)。
【0096】
[実施例3]
血栓収縮にとってのRhoキナーゼの重要性
アクチンミオシンベースの収縮は、ミオシン軽鎖キナーゼのカルシウム/カルモジュリン依存性活性化およびミオシンホスファターゼのRhoキナーゼ依存性不活性化を通じて、ミオシン軽鎖キナーゼのリン酸化と密接に関係している。血小板において、ミオシン軽鎖キナーゼのカルシウム活性化は、血小板形状変化およびフィブリン血餅退縮を調節する主要な収縮機構であるように見える4。血栓収縮を調節することにおけるサイトゾルカルシウム流束の役割を検討するため、全血灌流研究を、カルシウム流入(EGTA/MgCl2)または内部貯蔵からのカルシウム動員(IP3受容体アンタゴニスト-2-APB)を妨げる実験条件下で行った。細胞外カルシウムをEGTAでキレート化することは、血栓収縮の割合を有意に低下させた(5分灌流にて52%までp<0.001、図3A)。類似のアッセイ条件下で、カルシウム動員の阻害(2-APB)は、血栓収縮に対してあまり顕著な効果を有しておらず、収縮を32%低下させた(図3B)。このことは、EGTA/MgCl2が、有意な阻害効果を有しておらず(図3C)、一方、APBが、調べられたすべての時点で血餅退縮を消滅させた(図3C)フィブリン血餅退縮と顕著な対照をなしていた。
【0097】
血栓収縮に対するRhoキナーゼの寄与を調べるため、Rhoキナーゼ阻害剤H115211の効果を調べた。H1152は、血栓収縮プロセスに対して著しい効果を有し、5分の灌流後に88%の減少をもたらした(p<0.001、図4A、B)。この収縮欠損は、発生中の血栓中への血小板の密充填の低下と関係しており、あまり安定でない血栓の形成につながった(図4B)。類似の知見は、別のRhoキナーゼ阻害剤HA1077について得られた(図4A)。これらの効果は、どちらの阻害剤もフィブリン血餅退縮の割合および程度に対していかなる有意な効果も有していなかったことから、血栓収縮に対して選択的であった(図4C)。
【0098】
[実施例4]
血小板収縮を阻害することは、血小板血栓の安定性を損なわせる
発生中の血栓内で血小板の密充填を促進する血小板収縮装置の能力は、血栓安定性を維持することにおける収縮についての潜在的に重要な役割を示唆している。このプロセスにおける血小板収縮の重要性を検討するため、我々は、血栓の成長および安定性に対するミオシンIIa阻害剤、ブレビスタチンの効果を調べた。図5に示されるように、ブレビスタチン処理血小板は、I型線維状コラーゲン基質上で接着して大きな凝集体を形成することができたが、続く血小板の密充填は起こらず、極めて不安定な血小板血栓の発生につながった。この血栓硬化欠如は、血栓表面からの血小板の連続的塞栓形成(embolization)をもたらし、形成中の血栓の成長を損なわせた(図5)。血小板収縮が、in vivoで血栓安定性を維持するのに重要であるか否かを決定するため、発明者らは、血栓の成長および安定性のリアルタイム動的分析を可能にするマウス微小循環における生体内血栓症モデルを確立した。このモデルにおいて、血小板血栓は、マイクロインジェクター針で、血管壁の微小穿刺により、後毛細管細静脈において誘発される。非閉塞性血栓は、損傷部位において速やかに形成し、高倍率画像化は、これらの条件下で形成される血栓が主に血小板からなることを示した。このことと一致して、血小板のGPIb受容体アンタゴニスト(アルボアグリジン)またはGPIIb-IIIaアンタゴニスト(GPI-162)によるマウスの前処置は、血栓形成を完全に取り除いた。形成中の血栓の高倍率画像化は、血栓収縮に関係している発生中の血栓のコア内での個別血小板の進行性密充填を示した。類似の知見は、FeCl3誘発性血管損傷後に形成される血栓についてはっきり見られ、血栓収縮が、in vivoでの血栓成長の一般的特徴であることを示唆していた。血栓形成後の微小循環中へのブレビスタチンの局所投与は、特に、形成された血栓の外層において、個別血小板間の密充填の喪失をもたらし、血栓表面からの血小板凝集体の進行性塞栓形成(図6A)および38%の血栓サイズの平均減少(図6B)につながった。対照研究において、ビヒクル単独または不活性なブレビスタチンエナンチオマーのマイクロインジェクションは、効果がなかった(図6AおよびB)。さらに、ブレビスタチン投与を中止すると、血栓は、損傷部位において速やかに再形成し、血栓の成長およ
び塞栓形成の反復サイクルを、ブレビスタチン投与の規則的サイクルにより実現することができた(図6A)。
【0099】
血栓安定性を調節することにおけるRhoキナーゼの役割を検討するため、H1152を、血栓発生後、微小循環中へ局所的に投与した。ブレビスタチンによる知見と一致するように、Rhoキナーゼを阻害することは、特に、血栓の表層において、凝集血小板の持続的密充填を損なわせ、血栓表面からの血小板の塞栓形成(図6A)および34%の血栓サイズの平均減少(図6B)につながった。対照研究において、ビヒクル(DMSO)対照の局所投与は、効果がなかった(図6AおよびB)。H1152が、血栓の不安定性および塞栓形成を誘発する際にIP3受容体アンタゴニストAPBよりも有効であったことから、Rhoキナーゼは、このプロセスにおいて主要な役割を果たすように見えた。これらの研究は、in vivoで血栓安定性を維持することにおけるRhoキナーゼおよび血小板収縮機構についての主要な役割を明らかにしている。
【0100】
[実施例5]
血小板収縮は、一次止血栓の安定性にとって不可欠である
in vivoでの血栓収縮が、血小板のトロンビン刺激を必要としたか否かについて検討するため、生体内顕微鏡検査研究を、PAR4-/-マウスで行った。これらの血小板の初期血小板接着および凝集応答は、後毛細管細静脈の微小穿刺後に普通であったが、形成した血栓は、PAR4+/+対照より不安定であり、特に、形成中の血栓の表層において、血栓の形成および塞栓形成の反復サイクルにつながった。これらの知見は、血小板のトロンビン刺激が、形成中の血栓を安定化することにおいて重要な役割を果たすという以前の報告を裏付けている12。それらの不安定性にもかかわらず、PAR4-/-マウスにおいて形成される血栓は、特に、形成中の血栓のコアにおいて、血栓硬化につながる顕著な収縮相を受けた。
【0101】
トロンビンを取り除き、それによって、このプロセスに対するフィブリン血餅退縮の可能な関与を排除するため、野生型マウスを、血管損傷前に高投与量のレピルジン(50mg/kg)で前処置した。壁在血栓形成は、後毛細管細静脈の針穿刺後、速やかに起こったが、トロンビンの不存在下で、血栓は、より不安定であり、血栓表面からの血小板凝集体の連続的塞栓形成につながった。しかしながら、持続的な表面塞栓形成にもかかわらず、15分の観察期間にわたる急速な血流の剥離作用に抵抗するのに十分な安定性のある安定な血栓コアが最終的に発生した(典型的には、損傷後3〜4分以内に)。ブレビスタチンの活性エナンチオマーの局所注入は、一次止血栓の速やかな不安定化をもたらし、形成した血栓は、ほぼ完全に塞栓形成した(図7A)。同様に、Rhoキナーゼの阻害は、一次止血栓の安定性に類似の欠陥を生じ、塞栓形成は、薬物注入から10〜15秒以内に起こった(図7A〜C)。対照研究において、ビヒクル(DMSO)または不活性なブレビスタチンエナンチオマーの注射は、一次止血栓の安定性に対する有害な効果を有していなかった(図7A、C)。まとめると、これらの知見は、トロンビンおよびフィブリン重合体とは無関係に、一次止血栓の完全性を維持することにおけるRhoキナーゼ依存性血小板収縮についての主要な役割を示唆している。
【0102】
[実施例6]
血管灌流に対する抗凝固剤の有無にかかわらずt-PA(または、ウロキナーゼ)と組み合わせたRhoキナーゼ阻害剤の効果
マウスを麻酔し、小手術を行って頸動脈および頸静脈を露出させた。ドップラー血流プローブを頸動脈の周りに置き、この血管を通して血流をモニターし、カテーテルを頸静脈に入れて薬物を投与した。血餅は、小電流(1.25分にわたって4mA8)の送達によってマウスの頸動脈に形成され、血流プローブにより測定されるように、血管を通る血流の完全な遮断(血流=0ml/分)をもたらした。血管遮断が確立された後、t-PA、ウロキナーゼ、ヘパリン、ヒルジン、HA1077およびY27632の様々な組合せを、指示された濃度およびレジメンを使用して投与し(図8および9におけるA〜H)、血餅を溶解させて血流を回復するそれらの有効性について調べた。血流を、さらに60分にわたって各薬物組合せを受けたマウスにおいてモニターし、血流測定値を、コンピューターソフトウェアを使用して記録した。
【0103】
図8および9に示されるデータは、血栓溶解剤t-PAが、閉塞性血餅を溶解するその能力において比較的中程度であることを示している(処置群Cを参照)。このことは、t-PAが、血餅の部分的溶解を行うことができるに過ぎず、血餅の再閉塞を効果的に防げないことを示唆している。単独で使用された場合のRhoキナーゼ阻害剤HA1077は、血餅を溶解して血流を再確立することはできなかった(処置群Bを参照)。抗凝固剤ヘパリンとt-PAの組合せは、フィブリン血餅の再形成を防ぐトロンビン阻害剤の能力と一致して、血餅溶解の用量依存性増加を引き起こすことも分かった。
【0104】
重要なことに、Rhoキナーゼ阻害剤のt-PAとの組合せは、相乗的に血餅溶解を増強することが分かった(処置群B+Cを参照)。
【0105】
さらに、t-PAまたはウロキナーゼおよびヘパリンまたはヒルジンと一緒のRhoキナーゼ阻害剤の組合せ投与は、Rhoキナーゼ阻害剤と血栓溶解剤の組合せについて観察されたものより、相乗的に血餅溶解をさらに増強することが分かった。この組合せ療法を使用すると、試験されたすべての動物において血流が回復した(処置群B+D、B+E、F、G、およびHを参照)。
【0106】
さらに、t-PAまたはウロキナーゼおよびヘパリン/ヒルジンと一緒のRhoキナーゼ阻害剤の組合せ投与は、t-PA単独またはt-PAおよびヘパリンと比較した場合、再灌流を確立するのに要した時間を有意に減少させるという知見も重要であった(処置群B+D、B+E、F、GおよびHを参照)。
【0107】
したがって、標準的血餅溶解療法へのRhoキナーゼ阻害剤の追加は、相乗的にこれらの薬物の有効性を高める。
【0108】
結論
これらの研究は、収縮力の細胞外伝達が、トロンビンおよびフィブリン形成とは無関係に、血栓収縮を促進することにおいて重要な役割を果たすことを示している。フィブリン血餅退縮と対照的に、血小板血栓収縮は、主に、Rhoキナーゼ依存性シグナル伝達機構により調節される。さらに、ブレビスタチンまたはRhoキナーゼアンタゴニストによる血栓収縮の阻害は、形成中の血栓の安定性を損ない、一次止血栓の速やかな塞栓形成につながることが立証される。これらの研究は、止血中に、血小板が、二段階の収縮機構、すなわち、(i)初期に関与するRhoキナーゼ依存性収縮および一次止血栓の維持と、(ii)続く、フィブリン生成および二次止血栓のカルシウム依存性退縮を利用することを示唆している。
【0109】
Rhoキナーゼ依存性収縮は、インテグリン結合に張力を印加し、受容体クラスター化および焦点接着部位中へのインテグリンの動員を誘発するプロセスであるアクチンフィラメントのバンドリングにとって重要であるように見える。少数のRho依存性焦点接着様複合体が、伸展血小板において生じるが、これらの構造は、フィブリン重合体への収縮力の伝達にとって不可欠であるようには見えない。インテグリン結合のRho依存性クラスター化が、高剪断の剥離作用に抵抗することができる安定な血小板凝集体の発生にとって必要な細胞-細胞接着接触を強化することにおいて重要な役割を果たすことは可能である。そのような高結合力の接着性相互作用は、特に、非剪断条件下で研究されている場合に、血餅退縮にとってあまり重要でないように見え、このプロセスにおけるRhoキナーゼの関与の欠如についての可能性のある説明を提供している。
【0110】
in vivoモデルにおける顕著な効果は、特に、トロンビン生成およびフィブリン形成を制限する実験条件下で、血栓が、血小板収縮の阻害剤への暴露後に塞栓形成する速さであった。一次止血栓内での血小板接着接触は、本質的に不安定であり、形成した凝集体を安定化して止血を確保するためのフィブリン生成を必要とする。ここに示されたin vivo結果は、収縮力の不存在下で、一次止血栓は、極めて不安定であり、収縮阻害剤への暴露から数秒以内に損傷部位から剥離されることを示している。このことは、一次止血栓を安定化するための2つの異なる相があることを示唆しており、一番目は、血小板収縮および血小板-血小板接着接触の物理的引き締めと関係している高速相であり、二番目は、トロンビン生成およびフィブリン重合と関係している低速相である。そのような二段階安定化プロセスは、血栓の成長および安定性の時間的制御の動的機構を提供する。
【0111】
広く記載されているような本発明の範囲を逸脱することなく、具体的な実施形態に示されているような本発明に対して多くの変形形態および/または修正形態を行うことができることは、当業者により理解されるであろう。したがって、本実施形態は、すべての点で例示的であって、制限的ではないと見なされるべきである。
【0112】
本明細書で議論および/参照されているすべての刊行物は、それらの全体が本明細書に組み込まれるものとする。
【0113】
本明細書に包含されている文書、行為、材料、装置、物品などに関するいずれの議論も、単に、本発明についての前後関係を提供するためである。これらの事項のいずれかまたはすべてが、先行技術基準の一部を形成するか、本出願の各請求項の優先日前に存在していたために、本発明に関連する分野における共通の一般知識であったことを容認するかのように受け取られるべきではない。
[参考文献]



【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において血栓を溶解させるための方法であって、1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせて血小板収縮阻害剤を対象へ投与する段階を含む方法。
【請求項2】
対象において血栓収縮を阻害するための方法であって、1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせて血小板収縮阻害剤を対象へ投与する段階を含む方法。
【請求項3】
血栓溶解剤の有効性を増強するための方法であって、血栓が形成中であるか凝集血小板から形成したときに血栓溶解剤と一緒に血小板収縮阻害剤を対象へ投与する段階を含む方法。
【請求項4】
血小板収縮阻害剤が、血栓が形成した部位において局所的に投与される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
血小板収縮阻害剤が、血栓中へ直接投与される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
血小板収縮阻害剤が、血栓塞栓性障害の最初の同定後12時間以内に対象へ投与される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
血小板収縮阻害剤が、脳卒中の最初の同定後3時間以内に対象へ投与される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
血小板収縮阻害剤が、1つまたは複数の血栓溶解剤および/または1つまたは複数の抗凝固剤と順次または同時に投与される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
血栓塞栓性障害を治療する方法であって、1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせて、血小板収縮阻害剤を対象へ投与する段階を含む方法。
【請求項10】
血栓塞栓性障害が、虚血性脳卒中、急性心筋梗塞、深部静脈血栓症(DVT)、肺動脈塞栓、凝固動静脈フィステルおよびシャントからなる群から選択されるが、これらに限定されない、請求項6または9に記載の方法。
【請求項11】
脳卒中を治療する方法であって、1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせて、血小板収縮阻害剤を対象へ投与する段階を含む方法。
【請求項12】
心臓発作を治療する方法であって、1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせて、血小板収縮阻害剤を対象へ投与する段階を含む方法。
【請求項13】
血小板収縮阻害剤が、Rhoキナーゼ阻害剤、ブレビスタチン、およびRho阻害剤からなる群から選択される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
Rhoキナーゼ阻害剤が、
(i) (S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]ホモピペラジン(ジメチルファスジル)もしくは1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン(ファスジル)などのイソキノリンスルホンアミドまたはそれらの塩、
(ii) (+)-(R)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩、
(iii) (+)-(R)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミド]またはその塩、あるいは
(iv)Rhoキナーゼ阻害活性を有する誘導体
からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
Rhoキナーゼ阻害剤が、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン塩酸塩(ファスジル塩酸塩)である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
対象において血栓収縮を阻害するための、1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせた、血小板収縮阻害剤の使用。
【請求項17】
血栓塞栓性障害を治療するための医薬品の製造における1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせた、血小板収縮阻害剤の使用。
【請求項18】
脳卒中を治療するための医薬品の製造における1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせた、血小板収縮阻害剤の使用。
【請求項19】
心臓発作を治療するための医薬品の製造における1つまたは複数の血栓溶解剤および、場合により、1つまたは複数の抗凝固剤と組み合わせた、血小板収縮阻害剤の使用。
【請求項20】
血栓を溶解させるのに使用するための組成物であって、血小板収縮阻害剤および1つまたは複数の血栓溶解剤を含む組成物。
【請求項21】
血栓を溶解させるのに使用するための組成物であって、血小板収縮阻害剤、ならびに1つまたは複数の血栓溶解剤および1つまたは複数の抗凝固剤を含む組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−510933(P2011−510933A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544536(P2010−544536)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【国際出願番号】PCT/AU2009/000105
【国際公開番号】WO2009/094718
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(594202523)モナシュ ユニバーシティ (10)
【Fターム(参考)】