説明

血液の体外循環処理中での置換液の供給を監視する方法および装置

【課題】 高水準の信頼性で前希釈または後希釈のどちらであるかを認識できる方法及びその装置。
【解決手段】ダイアライザもしくはフィルタと、体外循環血液流路と、流体流路とを備え、圧力波を発生する置換液ポンプによって置換液をダイアライザ等の上流または下流に供給する血液の体外循環処理装置での前記置換液の供給を監視する方法であって、置換液の供給を検知し、体外循環処理装置に設けた測定装置によって体外循環血液流路内の圧力がダイアライザ等の下流で測定されること、体外循環処理装置に設けた評価装置によって前記体外循環血液流路内に伝搬し、ダイアライザ等の下流で測定された振動圧力信号から置換液ポンプに起因する振動圧力信号が得られ、また、置換液の供給が前記置換液ポンプの振動圧力信号と特徴的な基準信号との比較に基づいてダイアライザ等の上流または下流で認識されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1枚の膜によって第1チャンバおよび第2チャンバに分離されているダイアライザもしくはフィルタの第1チャンバを含む体外循環血液流路と、および該ダイアライザもしくはフィルタの第2チャンバを含む流体流路とを備える血液の体外循環処理装置のための置換液を監視する方法に関する。さらに、本発明は、該ダイアライザもしくはフィルタの上流または下流で置換液の供給を検知するための装置を使用する血液の体外循環処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性腎不全の症例では、通常は尿中に含まれる物質を除去したり流体を回収したりする目的で血液の体外循環処理および/または浄化のために様々な方法が使用されている。血液透析では、患者の血液は体外のダイアライザ(透析器)で浄化される。ダイアライザには、半透膜によって分離されている血液チャンバおよび透析液チャンバが備えられている。血液の体外循環処理中には患者の血液は血液チャンバを通して潅流させられる。通常は尿中に含まれる物質を血液から効果的に除去するために、新鮮透析液は透析液チャンバを通して継続的に潅流させられる。
【0003】
血液透析(HD)中には低分子量物質が主として透析液と血液の濃度差によって膜を通して搬送(拡散)されるが、血液濾過(HF)中には血漿水に溶解した物質、特により高分子量物質が高流量(対流)によってダイアライザの膜を通して効果的に除去される。血液濾過中には、ダイアライザはフィルタとして機能する。血液透析濾過(HDF)はこれら2つの方法の組み合わせである。
血液透析濾過では、膜を通して取り除かれた血清の一部は無菌置換液と置換され、ダイアライザの上流またはダイアライザの下流のどちらかで体外循環血液流路へ運ばれる。ダイアライザの上流での置換液の供給は前希釈と呼ばれ、ダイアライザの下流での供給は後希釈と呼ばれる。
透析液が真水および濃縮液からオンライン式で生成され、置換液が透析液からオンライン式で生成される血液透析濾過装置は知られている。
【0004】
この知られている血液透析濾過装置では、置換液は置換液ラインを介してこの装置の流体流路から体外循環血液流路へ運ばれる。前希釈の場合は、置換液ラインはダイアライザもしくはフィルタの上流の動脈血ライン上の連結部に通じており、他方後希釈の場合は置換液ラインはダイアライザの下流にある静脈血ライン上の連結部に通じている。置換液ラインは、一般にはそれによって静脈血ラインまたは動脈血ラインのどちらかへ接続できるコネクタを有する。液体の供給を中断するために、置換液ライン上にはクランプまたはクランプに似たものが用意されている。そのような血液透析濾過装置は、例えば欧州特許出願公開第0189561号明細書(特許文献1)から知られている。
【0005】
血液の体外循環処理の監視は、置換液がダイアライザもしくはフィルタの上流または下流のどちらで体外循環血液流路へ運ばれるのかが分かっていることを前提にしている。前希釈および後希釈は例えば導電率測定に基づくオンラインクリアランス測定(OCM)に関して影響を及ぼすが、それはダイアライザの下流での透析液の導電率が前希釈または後希釈のどちらが行われたのかに左右されるためである。
【0006】
欧州特許出願公開第1348458号明細書(特許文献2)は、血液の体外循環処理装置のため置換液の供給を監視する方法および装置について記載している。ダイアライザもしくはフィルタの上流または下流で置換液の供給を検知するために、置換液ラインに配置された置換液ポンプの圧力波の伝播時間が測定される。置換液の供給がダイアライザもしくはフィルタの上流または下流で行われたのかは、伝播時間の測定に基づいて認識される。知られている方法は、圧力波を発生させる置換液ポンプの使用を前提にしている。
【0007】
独国特許第10115991号明細書(特許文献3)は、ホースシステム内の狭窄を検知するための装置について記載している。公表された文書は、ホースシステム内に伝播する振動圧力信号の周波数スペクトルにおける変化が生じるとホースシステム内に狭窄(狭い部位)が存在するという判定ができると提案している。知られている装置の作動原理は、ホースシステムの動態における変化の原因がホースシステムのコンプライアンス、すなわち圧力下の弾性率にあるという事実に基づいている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0189561号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1348458号明細書
【特許文献3】独国特許第10115991号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、高水準の信頼性で前希釈または後希釈のどちらであるかを認識できる方法を提示することである。さらに本発明のもう1つの課題は、それによって前希釈または後希釈のどちらであるかを確実に認識できる装置を備える、血液の体外循環処理装置を記載することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、本願の請求項1−12の発明に係る特徴的な方法及び装置によって達成される。原出願の請求項13以降の発明を抜粋したもので、原出願の第2実施形態で示されるものである。
【0011】
本発明の実施形態は、圧力波を発生させる置換液ポンプの使用を前提にしている。
ダイアライザもしくはフィルタの上流または下流での置換液の供給は、体外循環血液流路内に伝搬し、置換液ポンプに起因する振動圧力信号の比較に基づいた特徴的(又は特有の)な基準信号(又は参照信号)によって認識される。本発明による方法および装置は、振動圧力信号の周波数スペクトルが、前希釈の場合には振動圧力信号がダイアライザを通って伝搬するかどうか、あるいは後希釈の場合にはダイアライザを通らずに伝搬するかどうかことに左右されるという事実に基づいている。同様に、圧力パルスの振幅は前希釈または後希釈の関数として変化する。
【0012】
公知の血液の体外循環処理装置の場合は、体外循環血液流路内に伝搬する置換液ポンプの振動圧力信号にはさらに例えばダイアライザもしくはフィルタの上流の体外循環血液流路内に配置された血液ポンプに起因する、または例えば濃縮液ポンプ、限外濾過ポンプもしくは平衡チャンバを含む流体流路内に配置された装置に起因する振動圧力信号が重なる。このため、置換液ポンプに起因する振動圧力信号は体外循環血液流路内で測定された圧力から得られる。測定誤差を回避するためには、ダイアライザもしくはフィルタをさらにまた流体流路から分離することもできる。
【0013】
特に高度の信頼性レベルを備えて置換液の供給を検知できる好ましい実施形態は、特徴的な基準信号として、ダイアライザもしくはフィルタの上流の体外循環血液流路内に配置された血液ポンプの信号を提供するが、このポンプもまた振動圧力信号を発生させる。この実施形態は、前希釈中には、ダイアライザおよびホースシステムを通って伝搬する血液ポンプおよび置換液ポンプの振動圧力信号の振動がほとんど相違しないという前提に基づいている。他方、後希釈の場合は、置換液ポンプの振動圧力信号はダイアライザを通って伝搬しないので、置換液ポンプおよび血液ポンプの振動圧力信号は実質的に相違する。これによって、前希釈と後希釈との間で相対的に相違するだけではなく絶対的に相違する特徴が得られる。
【0014】
血液ポンプおよび置換液ポンプの圧力信号を得るためには、好ましくはダイアライザもしくはフィルタの下流で測定された圧力信号のフーリエ解析を実施する。置換液ポンプおよび血液ポンプの圧力信号から、好ましくは少なくとも2つの高調波成分の振幅を決定する。少なくとも1つの第1評価係数は置換液ポンプの少なくとも1つの高次の高調波成分と少なくとも1つの低次の高調波成分の比率(商)から決定し、そして少なくとも1つの第2評価係数は血液ポンプの少なくとも1つの高次の高調波成分と少なくとも1つの低次の高調波成分の比率(商)から決定する。
実際に、フーリエ変換によって2つの評価係数を形成するには、血液ポンプおよび/または置換液ポンプの圧力信号の二次以上の高調波成分の係数を血液ポンプおよび/または置換液ポンプの圧力信号の一次の高調波成分の係数に関して標準化すれば十分であることが証明されている。
第1評価係数と第2評価係数との差が所定の限界値より大きい場合は後希釈が行われていると判定され、第1評価係数と第2評価係数との差が所定の限界値より小さい場合は前希釈が行われていると判定される。
【0015】
本発明による血液の体外循環処理装置への置換液の供給を検知するための装置は、ダイアライザもしくはフィルタの下流の体外循環血液流路内の圧力を測定するための測定装置および評価装置を備えており、この評価装置は置換液ポンプに起因する振動圧力信号を得るための手段、振動圧力信号を特徴的な基準信号と比較するための手段、および置換液ポンプの圧力信号と特徴的な基準信号との比較に基づいて前希釈または後希釈を検知する手段を備えている。
前希釈と後希釈は、透析処理の開始時に置換液ポンプの圧力信号の評価だけで区別することができるが、好ましくは血液ポンプの圧力信号を併用して区別する。
一般に、知られている血液処理装置の一部であるダイアライザもしくはフィルタの下流で体外循環血液流路内の圧力を測定するための測定装置以外の他の機器や装置は必要とされない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】前希釈および後希釈を検知するための装置を備える、血液の体外循環処理装置を極めて簡略化した略図である。
【図2A】図1での後希釈の場合のダイアライザもしくはフィルタの下流での体外循環血液流路内の経時的な静脈圧の変化を示したグラフである。
【図2B】図1での前希釈の場合の経時的な静脈圧の変化を示したグラフである。
【図3A】図1での後希釈の場合のin vitro HDF透析療法中に測定した時間の関数としての平均静脈圧を示したグラフである。
【図3B】図1での前希釈の場合の平均静脈圧を示したグラフである。
【図4】本発明による血液の体外循環処理装置の実施形態を極めて簡略化した略図である。
【図5A】置換液ポンプおよび血液ポンプに起因する体外循環血液流路内の圧力波の周波数スペクトルを示し、後希釈の場合の血液ポンプおよび置換液ポンプの圧力信号の標準化係数を記載した表である。
【図5B】置換液ポンプおよび血液ポンプに起因する体外循環血液流路内の圧力波の周波数スペクトルを示し、前希釈の場合の血液ポンプおよび置換液ポンプの圧力信号の標準化係数を記載した表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明による方法の実施形態および本発明による血液処理装置について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、ダイアライザもしくはフィルタの上流または下流での体外循環血液流路内の置換液の供給を検知するための設備を含む血液透析濾過装置の本質的構成要素の略図である。以下でダイアライザについて記載した場合はフィルタが含まれると理解されたい。
【0018】
血液透析濾過装置には、半透膜2によって血液が通って流れる第1チャンバ3および透析液が通って流れる第2チャンバ4に分離されているダイアライザ1が備えられている。第1チャンバ3は体外循環血液流路5A内で作動し、第2チャンバ4は血液透析濾過装置の流体流路5B内で作動する。
体外循環血液流路5Aは、血液チャンバ3の入口3aに通じている動脈血ライン6とダイアライザ1の血液チャンバ3の出口3bから通じている静脈血ライン7とを含んでいる。気泡を除去するために、動脈血ライン6内には動脈ドリップチャンバ8が配されており、静脈血ライン7内には静脈ドリップチャンバ9が配されている。患者の血液は、動脈血ライン6上に配置されている動脈血液ポンプ10、特別にはローラポンプによってダイアライザの血液チャンバを通って運ばれる。
【0019】
流体流路5Bは、透析液チャンバ4の入口4aに通じている透析液供給ライン11とダイアライザ1の透析液チャンバ4の出口4bから通じている透析液排出ライン12とを含んでいる。新鮮透析液は図示していない透析液供給源から透析液供給ライン11を通って透析液チャンバ内に流れ、使用済み透析液は透析液チャンバから透析液排出ライン12を通って図示していないドレンラインへ排液される。一般に新鮮透析液と使用済み透析液とを平衡させるために血液透析濾過装置内に用意されている平衡装置は、図を明確にするために図示していない。同様に、本システムを浄化および洗浄するための追加の装置も図示していない。
透析液供給ライン11は、膜14によって第1チャンバ13および第2チャンバ15に分離されている無菌フィルタ16の第1チャンバの入口13aに通じている第1部分11a、およびフィルタ16の第1チャンバ13の出口13bから透析液チャンバ4の入口4aへ通じている第2部分11bを含んでいる。
【0020】
透析処理中、透析液は、例えば置換液として流体流路5Bから置換液ライン17を通って体外循環血液流路5Aへ供給することができる。流体ライン17は、両端に各々2つのライン部分17a、17b、17c、17dを備えている。ライン部分17aは無菌フィルタ16の第1出口15aと接続されており、他方コネクタ18a、18bはライン部分17cおよび17dへ接続されている。2つのコネクタ18a、18bによって、置換液ライン17は動脈ドリップチャンバ8へ通じている接続ライン19および/または静脈ドリップチャンバ9へ通じている接続ライン20へ接続することができる。接続ライン19、20にはこの目的に対応するコネクタ19a、20aが備えられている。ホースクランプ17e、17fはホースライン部分17c、17dに適合し、そのクランプによって任意選択的に動脈または静脈ドリップチャンバ8、9への流体連絡を確立することができる。さらにまた置換液ライン17を両方の接続ライン19、20と接続すること、そしてこれらのホースクランプ17e、17f両方を開いておくことも可能である。
【0021】
置換液ライン17を締め付けて閉鎖するためには、閉鎖器具21、例えばホースクランプが無菌フィルタ16の下流に用意されており、そのクランプは好ましくは電磁的に作動する。置換液は、その中に置換液ライン17が挿入される閉塞ポンプ、特にローラポンプ22によって運ばれる。そのようなローラポンプは最新技術の一部である。そのようなローラポンプには、それによって流体を運ぶホースラインの断面を減少させることのできる幾つかのローラ22a、22bが備えられている。このような方法で、置換液ラインを通って両方の方向へ伝搬できる圧力波が形成される。本発明による血液の体外循環処理装置の第1実施形態では、置換液ポンプとして圧力波を発生させる閉塞ポンプは必要とされないことを理解されたい。その代わりに、置換液を運ぶために圧力波を発生させない置換液ポンプを使用できる。これはこの実施形態の1つの利点である。
【0022】
ダイアライザ1を流体流路5Bから切り離すためには、電磁作動型閉鎖器具25、26がダイアライザ1上流の透析液供給ライン11およびダイアライザ1の下流の透析液排出ライン12各々に用意されている。
血液ポンプ10、置換液ポンプ22ならびに閉鎖器具21、25および26は制御ライン10’、22’、21’、25’および26’を介して、それによって所定の処理パラメータを考慮に入れながら個々の構成要素が制御される中央制御装置27と接続されている。
【0023】
血液透析濾過装置を血液透析装置として作動させるためには、透析液がダイアライザの透析液チャンバ4を通って流れるように閉鎖器具21が閉鎖される。血液透析濾過装置を血液透析濾過装置として作動させるためには、無菌透析液が無菌フィルタ16から置換液として任意選択的に動脈ドリップチャンバ8(前希釈)または静脈ドリップチャンバ9(後希釈)内に流れるように閉鎖器具21が開放される。しかしダイアライザの透析液チャンバ4への透析液の供給を中断すれば、血液透析濾過装置を単なる血液濾過装置として作動させることも可能である。透析液の供給を中断するためには、ダイアライザの上流で閉鎖器具25が閉鎖される。
【0024】
前希釈および後希釈を検知するための装置には、血液処理装置の中央制御装置27の一部を形成する制御装置が備えられている。さらに、検知装置にはダイアライザ3の下流での体外循環血液流路の圧力を測定するための測定装置28および評価装置29が備えられている。ドリップチャンバ9に付設する圧力センサ28が測定装置として用意されており、このセンサは静脈圧の関数としての電気圧力信号を生成する。圧力センサ28の圧力信号は、順にデータ転送ライン30を介して評価装置29に送信され、データ転送ライン31を介して制御装置27へ受け渡される。評価装置29には、圧力センサ28の圧力信号をフィルタリングするための低域フィルタ29aおよびそれによって圧力信号が所定の上限値および下限値と比較されるコンパレータ29bが備えられている。
【0025】
以下では、ダイアライザの上流または下流での置換液の供給の検知について詳細に記載する。
一例として、検知装置の制御装置27は、測定を開始するために、好ましくは血液処理の開始時に、既に作動している置換液ポンプ22を停止させる。所定の時間間隔の経過後に、制御装置27は置換液ポンプ22を再び始動させる。圧力センサ28は、置換液ポンプが停止している間に静脈圧を測定する。低域フィルタ29aによってフィルタリングされた圧力センサ28の静脈圧信号は、置換液ポンプの停止後の圧力上昇および置換液ポンプの始動後の圧力低下または置換液ポンプの停止後の圧力低下および置換液ポンプの始動後の圧力上昇のどちらであるかを検知するために、評価装置29のコンパレータ29b内で上限値および下限値と比較される。
【0026】
図2Aは後希釈の場合の経時的な静脈圧の基本的変化を示しており、図2Bは前希釈の場合の経時的な静脈圧の基本的変化を示している。後希釈の場合は、圧力が最初は増加し、その後に低下するのが明らかである。前希釈の場合は、圧力が最初は低下し、その後に上昇する。評価装置は、これら2つの特徴的な変化に基づいて後希釈または前希釈のどちらが行われているのかを認識する。結果は、図示していないディスプレイ装置上で視覚的および/または聴覚的に表示することができる。
図3Aおよび3Bは、その間は置換液ポンプが停止させられる所定の時間が比較的長い場合における時間の関数としての静脈圧を示している。時間間隔が短い場合は、最大値および/または最小値は極めて近くなる。測定を開始するためには、既に始動していた置換液ポンプが所定の時間間隔にわたり停止させられる。しかし原理的には、最初に所定の時間間隔にわたり停止していた置換液ポンプを始動させることもまた可能である。
【0027】
図2Aおよび2Bに示した圧力信号の特徴的な変化は、前希釈または後希釈中の血液の粘度変化に起因する。後希釈の場合は、血液粘度はドリップチャンバ9の下流の静脈血ライン7における置換液の供給が原因で低下する。置換液ポンプ22が停止させられると、血液粘度は静脈血ラインのこの部分内では増加する。静脈針上での増大した圧力落下が発生する。その結果として、静脈圧が増加する。置換液ポンプが再始動させられると、ドリップチャンバ9の下流での静脈血ライン7内の血液粘度が減少して静脈圧が低下する。結果として、正符号を備える圧力パルスは置換液ポンプの停止後に発生し、負符号を備える圧力パルスはポンプの始動後に発生する(図2A)。パルス幅は、血流量と同様にダイアライザ1の透析液チャンバ3とドリップチャンバ9との間の血液量の割合に依存する。他方前希釈の場合は、置換液ポンプの停止および始動後の圧力パルスの符号の順序は逆転する。ポンプが停止すると圧力低下が発生し、ポンプの始動後には圧力上昇が発生する(図2B)。
【0028】
図3Aおよび3Bは、血流量を250mL/分に、前希釈および後希釈のための置換速度を70mL/分に、および限外濾過速度を0mL/時に調整して行われたin vitro HDF透析処理中の時間の関数としての平均静脈圧[mmHg]を示している。実際上、圧力上昇または圧力低下の振幅が相互に相違することが見いだされている。しかし前希釈および後希釈のどちらの場合でも、圧力上昇または圧力低下は明白に認識できる。所定の上限値および下限値は、それらが最大値または最小値より下方または上方であるように設定されなければならない。しかし他方、上限値および下限値は圧力信号に重なっている圧力変動より上方または下方でなければならない。
【0029】
正および/または負の圧力パルスに基づいて、フィステル循環に関して判定できる。静脈圧力センサ28を用いて静脈血ライン7において検知できる、そして動脈圧力センサを用いて動脈血ライン6において検知できる圧力パルス順序の反復は再循環を指し示す。反復する負および/または正の圧力パルスが発生する所定の時間間隔での動脈圧力センサの圧力信号の積分と負および/または正の圧力パルスが発生する所定の時間間隔での静脈圧力センサ28の圧力信号の積分との比は、再循環の尺度として使用される。再循環率Rez[%]は次の方程式によって計算される:
【0030】
【数1】

【0031】
ダイアライザ1の透析液チャンバ3の入口3aと置換液ライン17、20からドリップチャンバ9へのコネクタ間のホース部分の充填量(VPD)に関して血液供給速度(Qb)が分かっている場合は、圧力パルス上昇または圧力パルス低下の開始時と終了時との時間差(Δt)から結果を出すことができる。充填量(VPD)は次の方程式によって計算される:
【0032】
【数2】

【0033】
さらに、HDF前希釈の場合は、置換液ポンプ22の停止と圧力低下との間の所定の時間間隔および/または置換液ポンプの始動と圧力上昇の開始時との時間間隔に血液供給速度(Qb)を掛けることによって、透析液チャンバ3の入口3aと静脈針との間のホース部分の充填量(VPD)を計算することができる。HDF後希釈の場合は、類似の関係が存在し、置換液ポンプの停止と圧力パルス上昇の開始時との間の圧力差および/または置換液ポンプの始動と圧力パルス低下の開始時との時間差が監視される。
上記のホース部分の充填量および時間差が各々分かっている場合は、逆の方法で真の血流量を決定できる。
【0034】
ヘマトクリット、血圧低下および/または血圧上昇、血液供給速度および針の形状の間の関係が分かっている場合は、圧力上昇および/または低下の振幅が針のタイプに関する情報を提供する。針のタイプが分かっている場合は、ヘマトクリットに関して対応する結果を出すことができる。
これにより、透析処理中における圧力パルスの振幅変化によってヘマトクリットの変化を監視できる。
【0035】
図4は、本発明による血液処理装置のまた実施形態の極めて簡略化した略図である。図4の血液処理装置は、前希釈および後希釈を検知するための装置以外は図1の血液処理装置と相違していない。このため、相互に対応する構成要素は同一の参照記号で表示されている。
この検知装置には、同様に静脈血ライン7内の圧力を測定するための静脈圧力センサ28が備えられている。評価装置50は、データ転送ライン30を介して圧力センサ28の静脈圧信号を受信する。評価装置50には、静脈圧信号のフーリエ解析を実施するフーリエ解析装置50aが備えられている。
【0036】
前希釈または後希釈を検知する本方法は、置換液ポンプ22および血液ポンプ10が、閉塞ポンプ、特にローラポンプのように圧力波を発生させるポンプであることを前提としている。血液ポンプ10によって発生する圧力波の周波数は、置換液ポンプに比して血液ポンプの速度が極めて高速であるために置換液ポンプの圧力波の周波数よりもはるかに高いので、置換液ポンプの圧力波から血液ポンプの圧力波を識別することができる。前希釈の場合は、置換液ポンプ22の圧力波は、圧力センサ28に到達する前に置換液ライン17、19、20のホース部分だけではなくドリップチャンバ8と透析液チャンバ3の入口3aとの間の動脈血ライン6のホース部分、透析液チャンバおよび静脈血ライン7も通過する。他方後希釈の場合は、圧力波は透析液チャンバおよび対応する静脈血ライン部分を通過しない。透析液チャンバ3および関連する静脈血ライン部分の作用は、伝播関数として記載することができる。ダイアライザおよび関連するライン部分が圧力波の伝播路内に位置する場合は、圧力波およびそれらの周波数スペクトル変化、特により高い周波数の動態はより強度に減衰する。
前希釈または後希釈を検知するために伝播関数を正確に知る必要はない。置換液ポンプの圧力信号と血液ポンプの圧力信号との関係が明らかになれば十分である。
【0037】
圧力センサ28を用いて測定された圧力信号は、血液ポンプ10の圧力信号および置換液ポンプ22の圧力信号の両方を含有している。評価装置50のフーリエ解析装置50aは、圧力センサ28を用いて測定された血液ポンプ10および置換液ポンプ22の圧力信号を血液ポンプおよび/または置換液ポンプに起因する信号成分に分解する。
【0038】
図5Aおよび5Bは、後希釈または前希釈の場合にフーリエ変換によって決定された静脈圧信号の周波数スペクトルを示している。図に示した測定値は、血流量を300mL/分に、置換液流量を80mL/分に、そして限外濾過速度を100mL/時へ調整した実験室試験において決定された。周波数スペクトルでは、血液ポンプ10および置換液ポンプ22に起因する一次高潮波成分およびより高次の高潮波成分の係数を認識できる。
【0039】
評価装置50は、例えば二次もしくは三次高潮波成分のようなより高次の高潮波成分の係数と一次高潮波成分の係数、即ちスペクトル分流の標準化係数との指数を計算する。置換液ポンプの標準化係数は第1評価係数を表し、血液ポンプの標準化係数は第2評価係数を表す。置換液ポンプと血液ポンプの評価係数を比較するために、評価装置50にはまた別の装置50bが備えられている。置換液ポンプの評価係数が実質的に血液ポンプの評価係数より上方である場合、後希釈が存在すると判定される(図5A)。置換液ポンプの評価係数が血液ポンプの評価係数のほんのわずかに上もしくは近くにある場合、または両方の評価係数が同一である場合、前希釈が存在すると判定される(図5B)。評価係数の比較に基づく前希釈または後希釈の検知は装置50cで行われる。
【0040】
前希釈または後希釈を認識するための装置50cには、2つの評価係数間の差を生成するための装置が備えられている。その差は、前希釈と後希釈との間で確実に識別できるように決定されている所定の限界値と比較される。後希釈は第1評価係数と第2評価係数との差が所定限界値より大きい場合に存在し、前希釈は第1評価係数と第2評価係数との差が所定限界値より小さい場合に存在する。結果は、図示していないディスプレイ装置上で視覚的および/または聴覚的に表示することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、体外循環血液流路内に配置されたダイアライザもしくはフィルタの上流または下流で置換液の供給を監視するための方法又は装置に関する産業上の利用可能性の高いものである。
【符号の説明】
【0042】
1 ダイアライザ
2 半透膜
3 血液チャンバ
3a 血液チャンバの入口
3b 血液チャンバの出口
4 透析液チャンバ
4a 透析液チャンバの入口
4b 透析液チャンバの出口
5A 体外循環血液流路
5B 流体流路
6 動脈血ライン
7 静脈血ライン
8 動脈ドリップチャンバ
9 静脈ドリップチャンバ
10 動脈血液ポンプ
11 透析液供給ライン
11a 第1部分
11b 第2部分
12 透析液排出ライン
13 第1チャンバ
13a 第1チャンバの入口
13b 第1チャンバの出口
14 膜
15 第2チャンバ
16 無菌フィルタ
17 置換液ライン
17a〜17d ライン部分
17e、17f ホースクランプ
18a、18b、19a、20a コネクタ
19、20 接続ライン
21 閉鎖器具
22 置換液ポンプ
22a、22b ローラ
25、26 電磁作動型閉鎖器具
27 中央制御装置
28 圧力センサ
29、50 評価装置
29a 低域フィルタ
29b コンパレータ
50a フーリエ解析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚の膜によって第1チャンバおよび第2チャンバに分離されているダイアライザもしくはフィルタの第1チャンバを含む体外循環血液流路と、および前記ダイアライザもしくはフィルタの第2チャンバを含む流体流路と、を備えており、圧力波を発生する置換液ポンプによって置換液が前記ダイアライザもしくはフィルタの上流または下流に供給される、血液の体外循環処理装置のための前記置換液の供給を監視する方法であって、
前記置換液の供給を検知するために、
前記体外循環処理装置に設けた測定装置によって前記体外循環血液流路内の圧力が前記ダイアライザもしくはフィルタの下流で測定されること、
前記体外循環処理装置に設けた評価装置によって、前記体外循環血液流路内に伝搬し、前記ダイアライザもしくはフィルタの下流で測定された振動圧力信号から前記置換液ポンプに起因する振動圧力信号を取得し、また、前記置換液ポンプの振動圧力信号と特徴的な基準信号との比較に基づいて前記置換液の供給が前記ダイアライザもしくはフィルタの上流または下流で認識されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記体外循環血液流路内の血液が、前記ダイアライザもしくはフィルタの上流に配置されている圧力波を発生させる前記血液ポンプによって運ばれること、および前記体外循環血液流路内に伝搬して前記ダイアライザもしくはフィルタの下流で測定される振動圧力信号から体外循環処理装置に設けた評価装置によって前記血液ポンプに起因する振動圧力信号が得られ、前記ダイアライザもしくはフィルタの上流または下流での前記置換液の供給が前記血液ポンプおよび前記置換液ポンプの振動圧力信号の比較に基づいて認識されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記血液ポンプおよび前記置換液ポンプの振動圧力信号を得るために、前記ダイアライザもしくはフィルタの下流で測定された振動圧力信号のフーリエ解析が実施されることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記置換液ポンプの振動圧力信号から前記置換液ポンプの少なくとも2つの高潮波成分の振幅が決定され、そして前記血液ポンプの振動圧力信号から前記血液ポンプの少なくとも2つの高潮波成分の振幅が決定されること、
少なくとも1つの第1評価係数が、前記置換液ポンプの少なくとも1つの高次の高調波成分と少なくとも1つの低次の高調波成分の比率から決定され、少なくとも1つの第2次評価係数が血液ポンプの少なくとも1つの高次の高調波成分と少なくとも1つの低次の高調波成分の比率から決定されること、および
前記少なくとも1つの第1および第2評価係数が相互に比較されることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記第1評価係数と第2評価係数との差が所定の限界値より大きい場合は前記置換液の供給が前記ダイアライザもしくはフィルタの下流で行われていると判定されることを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記第1評価係数と第2評価係数との差が所定の限界値より小さい場合は前記置換液の供給が前記ダイアライザもしくはフィルタの上流で行われていると判定されることを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項7】
膜(2)によって第1チャンバ(3)および第2チャンバ(4)に分離されているダイアライザ(1)もしくはフィルタの第1チャンバ(3)を含む体外循環血液流路(5A)と、および前記ダイアライザもしくはフィルタの第2チャンバを含む流体流路(5B)であって、置換液ライン(17、19、20)がその中に圧力波を発生させる置換液ポンプ(22)が配置されている前記ダイアライザもしくはフィルタの上流または下流の体外循環血液流路に通じている流体流路と、
前記ダイアライザ(1)もしくはフィルタの上流または下流での置換液の供給を検知するための装置と、を備える血液の体外循環処理装置であって、
前記置換液の供給を検知するための装置が、
前記ダイアライザ(1)もしくはフィルタの下流での前記体外循環血液流路(5A)内の圧力を測定するための測定装置(28)と、
前記体外循環血液流路内に伝搬して前記ダイアライザ(1)もしくはフィルタの下流で測定される振動圧力信号から前記置換液ポンプ(22)に起因する振動圧力信号を得るための手段(50a)と、
前記置換液ポンプ(22)の振動圧力信号と特徴的な基準信号とを比較するための手段(50b)と、
前記置換液ポンプ(22)の振動圧力信号と特徴的な基準信号との比較に基づいて前記置換液の供給が前記ダイアライザ(1)もしくはフィルタの上流または下流のどちらで行われているのかを認識するための手段(50c)を備える評価装置(50)と、を備えることを特徴とする装置。
【請求項8】
前記ダイアライザ(1)もしくはフィルタの上流の体外循環血液流路(5A)内に血液を運ぶための圧力波を発生させる血液ポンプ(10)が配置されていることと、
評価装置(50)が、
前記体外循環血液流路内に伝搬して前記ダイアライザ(1)もしくはフィルタの下流で測定される振動圧力信号から前記血液ポンプ(10)に起因する振動圧力信号を得るための手段(50a)と、
前記置換液ポンプ(22)の振動圧力信号と前記血液ポンプ(10)の振動圧力信号との比較に基づいて前記置換液の供給が前記ダイアライザもしくはフィルタの上流または下流のどちらで行われているのかを認識するように設計されている、前記置換液の供給が前記ダイアライザ(1)もしくはフィルタの上流または下流のどちらで行われているのかを認識するための手段(50c)と、を備えることを特徴とする、請求項7記載の装置。
【請求項9】
前記置換液ポンプ(22)および前記血液ポンプ(10)の振動圧力信号を得るための手段が前記ダイアライザ(1)もしくはフィルタの下流で測定された振動圧力信号のフーリエ解析(50a)のための装置を備えることを特徴とする、請求項8記載の装置。
【請求項10】
前記フーリエ解析のための装置(50a)が、前記置換液ポンプ(22)の振動圧力信号から前記置換液ポンプの少なくとも2つの高潮波成分の振幅および前記血液ポンプ(10)の振動圧力信号から前記血液ポンプの少なくとも2つの高潮波成分の振幅が決定され、少なくとも1つの第1評価係数が前記置換液ポンプ(22)の少なくとも1つの高次の高潮波成分および少なくとも1つの低次の高潮波成分の比率から決定され、そして少なくとも1つの第2評価係数が前記血液ポンプ(10)の少なくとも1つの高次の高潮波成分および少なくとも1つの低次の高潮波成分の比率から決定されるように設計されていることと、
前記振動圧力信号を比較するための手段(50b)が、少なくとも1つの第1評価係数と第2評価係数とを比較できるように設計されていることを特徴とする、請求項9記載の装置。
【請求項11】
前記置換液の供給を認識するための手段(50c)が、前記第1評価係数と第2評価係数との差が所定の限界値より大きい場合は置換液の供給が前記ダイアライザ(1)もしくはフィルタの下流で行われていると判定するように設計されていることを特徴とする、請求項10記載の装置。
【請求項12】
前記置換液の供給を認識するための手段(50c)が、前記第1評価係数と第2評価係数との差が所定の限界値より小さい場合は置換液の供給が前記ダイアライザ(1)もしくはフィルタの上流で行われていると判定するように設計されていることを特徴とする、請求項10記載の装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2010−234107(P2010−234107A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168159(P2010−168159)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【分割の表示】特願2005−138105(P2005−138105)の分割
【原出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(502207286)フレゼニウス メディカル ケア ドイチラント ゲー・エム・ベー・ハー (12)
【Fターム(参考)】