説明

血液体外処理における抗凝固剤の使用

【課題】体外循環を受けている患者、取分け長期の治療を受けている透析患者のより広範な防御について、補足的な予防的な、特に、治療と予防を組み合わせた抗凝固剤の使用の提供。
【解決手段】時々血液の体外循環を受けている個体の予防的処理のために、少なくとも1種の抗凝固剤を使用すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液の体外循環における抗凝固剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
体外循環において血液は外来性の表面と接触する。これが血液の凝固系、例えば、凝固カスケードの内在性経路を介してファクターXIIおよび血小板を活性化する。血液は凝固する。これを予防するのはこのような状況に際して通常投与される抗凝固剤の役割である。
【0003】
臨床的習慣として、実際上常にそれはヘパリンと、この目的のために使用されるヘパリン様薬剤であるが、その使用には幾つかの問題がある。ヘパリンで処理した患者は、一般的に知られたHIT(ヘパリン誘発血小板減少症)の危険、骨粗しょう症、脂質代謝障害、および出血性合併症のために、特に連続的なモニターが必要である。一般的には、複雑な用量処方を遵守する必要がある。このように、10〜20U/kgの最初のボーラスの後に、患者は通常、血中の所定レベルを維持するために、さらに5〜10U/kg/時間を受ける(非特許文献1)。
【0004】
これらの欠点に鑑みて、ヘパリンに代わる代替物の探索がなされ、いわゆる低分子量ヘパリンが特に見出されたが、これらは血中半減期が長くなっているばかりでなく、aXa/aIIa比も増大している。他のグリコサミノグリカン、例えば、硫酸ヘパラン、硫酸デルマタン、硫酸コンドロイチン、およびその混合物での実験は同じ方向を目指すものであった。このように、例えば、オルガランはaXa/aIIa比が22であるが、一方、低分子量ヘパリンは1〜5の範囲である(非特許文献2)。
【0005】
半減期の長い物質を求める相当する探索はヒルジン類で成功した。上に述べたグリコサミノグリカンと対照的に、これらはペプチドであり、例えば、医療用ヒル、ヒルド・メディシナリス(Hirudo medicinaliis)の唾液腺から得られる天然のヒルジン、または組換えヒルジンである(特許文献1)。またこれと関連して、動物またはヒトの体躯でのヒルジンの比較的短い滞留時間を引き延ばそうとの試み、例えば、誘導化ヒルジンを目指す試みもあった。この意味で、特許文献2はデキストラン−およびセファロース−誘導化ヒルジンについて記載している。特許文献3は硫酸化およびスルホン化し、任意にPEG化したヒルジン類を具体化している。特許文献4に記載されたPEG化ヒルジン・ムテインもまた活性が低下せず、さらに長時間の半減期を達成する目的で開発された(非特許文献3、非特許文献4)。
【0006】
その抗凝固作用のために、上記の化合物は抗凝固作用を望む場合に、常に有益なものであり得る。このように、特許文献4の示すところによると−PEG−ヒルジンの場合−その効能・効果は一般に抗凝固剤として掲載され、正確には体外血液循環に際しての使用、例えば、血液透析または人工心肺での使用である(非特許文献5)。冠状組織移植領域では、ポリ乳酸にもとづくコーティングがPEG−ヒルジンによりすでに処理されている(非特許文献6)。
【0007】
実際の透析に際しては有効に防御されているに拘わらず、特に慢性の腎臓疾患患者では、血管系合併症の不釣合いに高い発生率についての報告頻度が増大している。深刻な血管系合併症の発生率に関して、統計調査は、長期治療を受けている透析患者に対して、年間20〜30%という高いリスクを示している。米国では、体外循環と血管系との間を連結するものとして埋め込まれたすべての人工アクセス(側路)の約40〜50%が、機能低下(例えば、閉塞によって)のために毎年新しく取り替えなければならない。これらの血液透析患者においては、血管系合併症による死亡率が年間約12%である。これは慢性の腎臓疾患患者で、しかも定期的血液透析を要する患者について、その生存がわずか6年であることに起因する。この生存は転移した腫瘍についての生存に相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0158564号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0345616号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0372670号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0502962号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Mehta R.L.,ASAIO Journal,931−935(1994)
【非特許文献2】Beijering et al.,Seminars in Thrombosis and Hemostasis(血栓症と止血に関するセミナー),Vol.23,No.2,225−233(1997)
【非特許文献3】Esslinger H.−U.,et al.:Thromb.Haemost.77(5)(1997)911−919
【非特許文献4】Esslinger H.−U.,et al.:Ann.Hematol.76(Suppl.I)(1998)A97
【非特許文献5】Heidrich J.P.,et al.;Clinical Chemistry and Laboratory Medicine 36(1998)847−854
【非特許文献6】Schmidmaier G.,et al.:Journal of the American College of Cardiology,29/2(1997)354A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が基礎とする目的は、体外循環を受けている患者、取分け長期の治療を受けている透析患者のより広範な防御について、補足的な予防的な、特に、治療と予防を組み合わせた抗凝固剤の使用により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本発明は時々血液の体外循環を受けている個体の予防的処理のために、少なくとも1種の抗凝固剤を使用することに関する。
【発明の効果】
【0012】
予防的処理は取分け血管系合併症を回避(低減)するのに有用である。この処理の目的は血管系で起こり得る危険性を少なくとも相当に低減させること、特にその発生を低減させることである。この処理は個体の血液について体外循環を受けていないときに特に重要である。従って、この処理は、ある意味では、血液の体外循環を受けた個体の後処理である。これは体外循環の際には常に必要とする抗凝固剤防御を補うものであり、結果として、血液が体外循環にない場合に、しばしば血管系合併症の発生と存在に対して予防的防御効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】患者15の例によるもので、透析1回〜50回までに投与されたPEG−ヒルジンの用量(棒グラフ)、および一部の透析終了後に測定されたPEG−ヒルジンの血中レベル(黒点)を示す;
【図2】患者16の例によるもので、透析1回〜47回までに投与されたPEG−ヒルジンの用量(棒グラフ)、および一部の透析終了後に測定されたPEG−ヒルジンの血中レベル(黒点)を示す;
【図3】患者18の例によるもので、透析1回〜49回までに投与されたPEG−ヒルジンの用量(棒グラフ)、および一部の透析終了後に測定されたPEG−ヒルジンの血中レベル(黒点)を示す;
【図4】患者20の例によるもので、透析1回〜31回までに投与されたPEG−ヒルジンの用量(棒グラフ)、および一部の透析終了後に測定されたPEG−ヒルジンの血中レベル(黒点)を示す;
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による処理は体外循環に際し使用される抗凝固剤とは異なる抗凝固剤により実施することができるが、本発明の有利な態様においては、体外循環に際してと、体外循環後の両方で特定の抗凝固剤を使用する。
【0015】
従って、本発明は体外循環に際しての、また体外循環後の血管系合併症の予防のための抗凝固剤として、体外循環による個体の処理のために少なくとも1種の抗凝固剤を使用することに関する。このことは体外循環を受けている個体の処理方法に相当し、その場合、体外循環に際し、また体外循環後の血管系合併症の予防のための抗凝固剤として、少なくとも1種の抗凝固剤を使用する。
【0016】
処理期間は、本発明によると、処理すべき個体の血液が体外循環を通過する処理段階(体外処理段階)、および血液を体外循環に通さない処理段階(体内処理段階)に分けられる。
【0017】
体外循環とは個体の体躯の外に血液を迂回させることを意味する。この目的は通常、血流から身体区分を除外すること、および/または血液の体外処理を行うことである。前者での使用は心臓切開または主要血管での手術において特に適応するものであり、例えば、人工心肺(心肺機械)による心臓の一次的な切り離しなどに適応する。後者の用例は、血液の腎臓外での腎機能治療に対し、例えば、腎不全の場合の血液透析または他の症状、例えば、脂質アフェレーシスを受けている患者の透析に適応する。
【0018】
血液が体外循環状態にある場合、血液または血液成分と体外システム表面との間に接触があり、それが特に血液凝固の活性化に導く可能性がある。医学的見地から、この状況は抗凝固手段を必要とするが、その手段としては体外段階での体外システムにおける血液に特に目が向けられている。この目的のための抗凝固剤として本発明による抗凝固剤が使用される。抗凝固作用はこれに関連して特に血栓形成の予防に関係し、適切な場合には、取分け体外システムでの血栓成長の減少に関係する。
【0019】
さらに、特定の抗凝固剤を使用する体外段階に際して、さらに都合の良い抗凝固手段を採ることも可能である。さらなる抗凝固手段の便宜性と必要性は専門家の評価に委ねる。このように、特定の抗凝固剤に加えてのさらなる抗凝固剤はさらなる抗凝固手段の枠組みの中で使用するとよい。特定のタイプのさらなる抗凝固手段は、体外システムまたはその部分に抗凝固剤を装備すること、例えば、コーティング表面とすることからなる。
【0020】
“抗凝固”という用語は本発明の目的にとって一般に受け容れられた意味をもつ。従って、抗凝固剤は一般に認められた抗凝固剤、および脊椎動物、好ましくは哺乳動物、取分けヒトの血液凝固に同様の作用を有する薬剤を包含する。
【0021】
特定分類の抗凝固剤は直接のトロンビン・インヒビター、例えば、ヒルジン類およびヒルジン誘導体、取分けPEG−ヒルジンを含有してなる。
【0022】
本発明の一局面において、処理すべき生体において半減期の引き伸ばされた抗凝固剤は、本発明による特定の処理処方にとって有利である。この目的のために本発明で好適なのは、ヘパリンよりも半減期の長い抗凝固剤、取分け、未分画ヘパリン、特に静脈投与の終末半減期が少なくとも約4時間、さらに好適には約5時間、特に少なくとも約6時間のものである。定められた終末半減期は実質的に完全な腎機能、換言すると、正常でクレアチニン・クリアランスCLCRが少なくとも約100ml/分に相当する腎臓の除去効率に関係する。
【0023】
本発明の他の局面において、処理すべき生体において持続する薬力学活性を有する抗凝固剤が、本発明による特定の処理処方にとって有利である。薬力学活性を有する薬剤は、本発明によると最小の予防的活性をもつ薬剤、すなわち、未処理対照群と比較して、血管系合併症について臨床的に適切な減少をもたらす薬剤である。持続するとは、特に、体外段階を超えて延びる時間の長さ、具体的には体外−および体内−段階の定期的な反復の場合、次の体外段階まで有利に延長される時間の長さを意味する。
【0024】
抗凝固剤の半減期と薬力学は選択した薬剤に左右されるのみならず、処理の枠内で、また特に投与様式の枠内で、例えば製剤的手段によっても制御される。このように、それ自体半減期の短いまたは薬力学活性の短い薬剤は、適切な遅速放出製剤として投与することができる。
【0025】
半減期の延長された、および/または持続的な薬力学活性を有する抗凝固剤は、例えば、欧州特許出願公開第0345616号明細書に記載されており、遅延作用をもつ薬剤として、ヒルジンと可溶性担体から構成されるある種のヒルジン誘導体に関係する。これら文献の内容、および特にそこに記載されたヒルジン誘導体、特にそこに式Iで示される複合体はポリアルキレングリコールまたはポリアルキレングリコール誘導体とヒルジン、デスルファトヒルジンまたは抗凝固性ヒルジン・ムテインから構成され、本開示の一部を形成する。
【0026】
半減期の延長された、および/または持続的な薬力学活性を有する抗凝固剤の使用は、体外循環に際しての抗凝固剤として、また体外循環後の血管系合併症予防のための抗凝固剤として、いずれについても使用し得るという点で有利である。このように、本発明による処理は単一の薬剤で実施するのが好ましい。
PEG−ヒルジンを使用するのが本発明では特に好ましい。
【0027】
PEG−ヒルジンはヒルジンとポリエチレングリコールとの複合体を意味する。ヒルジンという用語は、本明細書ではヒルジンそのもの、すなわち、医療用ヒル、ヒルド・メディシナリス(Hirudo medicinaliis)から得られる天然のヒルジン、から誘導されるポリペプチドを基本とする一連の抗凝固性物質をいう。かくして、本発明によるヒルジンという用語は組換え変異体(γ−ヒルジン)および突然変異による変異体(ヒルジン・ムテイン)をも包含する。ポリエチレングリコールとの共役に好適なのは、欧州特許出願公開第0502962号明細書に記載された式IIのポリペプチド、そしてこれらの内、取分け本発明による配列番号SEQ ID NO:1のものである。ポリエチレングリコールは、好ましくはリジン残基を介して共役している;適切な場合には、適当なリンカー、例えば、欧州特許出願公開第0502962号明細書に示されたものを用いるが、このリンカーは生理的条件下で好都合に安定である。
【0028】
本発明によると、配列番号SEQ ID NO:1を有する上記のポリペプチドにもとづくPEG−ヒルジンを使用するのが特に好ましく、この配列にポリエチレングリコール残基がそれぞれの場合に27位のリジンと33位のリジンに結合している。結合は、例えば、ウレタン様リンカーを介して生じさせることができる。ポリエチレングリコール残基は下記式で示される:−CO−O−CH−CH−[O−CH−CH−]nOR(ただし、式中、nは50〜200の整数、好ましくは75〜150、特に110〜120である;Rは好ましくは炭素数1〜4のアルキルである)。Rは特にメチルである。これらのポリエチレングリコール残基は、好ましくは、リジン残基のε−アミノ基に結合している。従って、PEG−ヒルジンという用語は種々のポリエチレングリコール残基を有するPEG化ペプチドの通例不均一系混合物をいう。ポリエチレングリコール残基の多様性は特にPEG鎖長に起因するものであり、その分量はnの値によって、約2000〜約9000の範囲、好ましくは約3000〜約7000、取分け約5000±1000Daの範囲で変わる。
【0029】
本発明の一局面によると、PEG−ヒルジンの一態様は、排除クロマトグラフィー(スーパローズ(Superose)12;PEGにより校正;ファルマシア(Pharmacia))により決定された重量平均分子量が約17,000±1000Daである。
【0030】
本発明のもう一つの局面によると、PEG−ヒルジンの有利な態様では、タンパク質についての抗血栓比活性が10,000〜14,000ATU/mgである。
【0031】
処理すべき個体の血管系に体外システムを接合するには幾つかの可能性がある。従来式の二者択一法は動静脈(AV)、静脈静脈(VV)および静脈動脈(VA)型の接合であり、それによってそれぞれの場合に血流方向は体躯血管系にもとづき描かれる。例えば、動静脈接合は個体の体躯から動脈血を取り出す体外システムを描出するものであり、−要すれば適切な処理の後に−体躯の静脈系に血液を戻す。AVおよびVV接合は通常血液透析および血液濾過の領域で好適である。体外VVおよびVAシステムは通常外部のポンプで運転されるが、体外AVシステムではこれを必要としない−ただし、動脈の血圧が十分である必要がある。抗凝固剤と佐剤抗凝固剤の用量は異なるタイプの接合により相違する;例えば、高い用量ではポンプの使用が必要となる。
【0032】
体の血管系への接近は、例えば、管状の吸い込みラインを体の血管に導入することにより達成し得る。適切な例はカニューレまたはカテーテルであり、その寸法は、換言すると、特にその長さと内径は特定のシステムに適合させることができる。例えば、短い内孔の広いカテーテルがAVシステムについて好適であり、二重孔カテーテルがVVシステムに好適である。通常、いわゆるシャント(側路)が体の血管系への適切な接近手段として使用されるが、例えば、人工血管挿入管または瘻管の形状である。
【0033】
ある場合には、血液をフィルターまたは膜に沿って流すかまたはそれらを通過させる。膜は使用する抗凝固剤に対応させて選定する必要がある。本発明によるPEG−ヒルジンの好適な使用は、特に血液透析および血液濾過の領域で使用される常套の膜と濾過システムに適している。これらの膜としては、セルロース誘導体などの天然材料、例えば、三酢酸セルロースの膜、および合成材料、例えば、ポリスルホン、ポリアミド、ポリアクリロニトリルなどの膜を包含する。板状のフィルターおよび中空ファイバー配列が可能な構成の例である。PEG−ヒルジンを使用することの一つの利点は、HF膜(高流量)の体外システムおよびLF膜(低流量)の体外システムの両方に適している。さらなる利点は、PMMA膜、例えば、DE 197 15 504A1に記載されたポリ(アクリル酸メチル)またはポリ(メタクリル酸メチル)コポリマー、例えば、本目的のために既知の東レの膜が、PEG−ヒルジンに特別の結合性を有するために、PEG−ヒルジンを迅速に除去するための機能的解毒剤として、例えば、不耐性反応または過量投与の場合に使用し得るということである。
【0034】
本発明による抗凝固剤使用の目的は、体外循環に際しての凝固阻害の目的の外に、特に体外循環後の二次的血管系合併症を予防することである。
【0035】
血管系合併症とは、本発明によると、脳、心臓、腸間膜および抹消血管の機能障害、およびそれと関連する病的状態、およびその症候などである。これらは、例えば、処理すべき個体の血管系における血栓形成、換言すると、特に静脈および動脈血栓症、特に深部静脈血栓症、抹消閉塞性疾患、シャント血栓症、カテーテル血栓症、血栓塞栓症、心筋梗塞、不安定狭心症、および発作などである。従って、本発明により抗凝固剤を使用することは、血管系合併症のリスクの高い個体にとって特に有利である。リスクの上昇ファクターは凝固系の障害、特にAT−III欠損およびフィブリノーゲンレベルの上昇、血小板増加症、HIT、および高血圧と既存の障害、例えば、冠状心臓疾患、糖尿病または他の血管系障害などである。
【0036】
血管系合併症予防のための本発明による抗凝固剤の使用は、少なくとも体外循環の時点から後の期間、そして本発明の特定の態様によると、直接それにつながる期間にまで及ぶ。複数回の場合、すなわち、定期的に中断される体外循環、換言すると、特に、定期的な一連の体外−および体内段階の場合、この期間が理想的には次の体外段階まで延びることである。本発明の特定の態様によると、抗凝固剤は複数回の体外段階と体内段階の交互変換により個体を処理するために使用するが、体外段階では抗凝固剤として、また体内段階では血管系合併症の予防に使用する。完全なものとするためには、体外段階での抗凝固剤としての使用も、同様に血管系合併症の予防的処理であると申し立てることもできる;事実、常にそうである。
【0037】
本発明による抗凝固剤の使用は処理の枠内で一つの方法からなる。この方法は処理すべき個体、好ましくは動物、取分けヒト、畜産動物もしくは家畜に、適切な量の1種以上の抗凝固剤、通常、ヒトの医薬もしくは動物薬の習慣に従って製剤化したものを投与することを必要とする。
【0038】
抗凝固剤の投与は−通常必要とする−全身用薬物の投与法に従って行うことができる。可能な投与経路については、経口経路を含め、適当量の抗凝固剤を投与する常套の可能なものとして、非経口経路、取分け、導入手段を介して、特に血流先端から透析システムに注入することである。
【0039】
体外循環という観点で、投与すべき抗凝固剤の好適な量は得られる血中レベルの抗凝固作用により特に決定される。本発明の一局面によると、治療範囲での値が好都合である。本明細書でいう治療とは、体外循環に際し生じる血栓性刺激に抵抗し得る作用を意味する。この意味で有益なのは、抗−IIaに基づく血中レベル(最小血中レベル)であって、少なくとも約400ng/ml、好ましくは少なくとも約500ng/ml、取分け少なくとも約600ng/mlである。APTTの測定値は少なくとも約1.3倍、好ましくは少なくとも約1.6倍、取分け少なくとも約1.8倍、有利に引き延ばされたAPTTを示す。ECTの測定値は少なくとも約1.2倍、好ましくは少なくとも約1.6倍、取分け少なくとも約1.8倍、有利に引き延ばされたECTを示す。
【0040】
本発明のさらなる局面によると、都合のよい値とは処理を受けた個体が制限内で出血の危険性を留置し続ける値である。この意味で、血中レベルは抗凝固剤投与後約5分、抗−IIaに基づき、約2400ng/mlの最大値、好ましくは約1700ng/mlの最大値、取分け約1500ng/mlの最大値であることが有利である。APTTの測定値は約5.0倍の最大値、好ましくは約3.3倍の最大値、取分け約2.7倍の最大値、有利に引き延ばされたAPTTを示す。ECTの測定値は約5.5倍の最大値、好ましくは約4.5倍の最大値、取分け約4.0倍の最大値、有利に引き延ばされたECTを示す。
【0041】
上記の値は−医学的に判断可能であれば−体外段階での全期間を通して維持される必要はない。本発明の有利な態様によると、投与すべき抗凝固剤の量は、上記の最小血中レベルが体外循環の終了時点で得られるようにする。本発明のさらに有利な態様によると、上記の値は、一方で最大血中レベルの到達によって制限され、また他方で体外段階の終了により制限される期間適用する。
【0042】
抗凝固剤の投与時期、また適切な場合にはさらなる抗凝固剤は、抗凝固作用が体外循環の初期段階においても確実なものであるように適宜選択する。この目的のためには、体外システムに接合する前に投与を行うことができる。体外システム接合時に直接投与することも可能であり、この場合、便宜的には体外システムを介して行うとよい。体外システム接合時に投与を直接行う場合には、これは通常、血流先端で、または−患者の抗凝固剤の残余レベルが医学的観点からそれを許すのであれば−その後直ぐに行う。体外システムを経由する投与は、非経口投与という用語の範囲内で本発明に包含されるべきであり−体外システムに静脈を接合する場合には−特に静脈内投与の用語の範囲内に含めるべきである。
【0043】
本発明による体外循環後の処理という観点で、投与すべき抗凝固剤の好適な量は、得られる血中レベルの予防的効果により特に決定する。これに関連する予防的効果とは抗血栓作用であり、体外循環後の比較的弱い血栓性刺激に適合し得るものである。体外処理段階の期間、血中レベルが体外循環の間に得られる血中レベルよりも低いレベルを選択することが可能であり、通常好都合である。本発明の一局面によると、予防的活性の範囲の値が可能である−体外循環に際して得られる治療血中レベルに相対的に。この意味で有利なのは、体外循環の抗−IIaに基づく抗凝固剤の血中レベルであり、その値は少なくとも約150ng/ml、好ましくは少なくとも約300ng/ml、取分け少なくとも約400ng/mlである。APTTの測定値は少なくとも約1.2倍、好ましくは少なくとも約1.3倍、取分け少なくとも約1.5倍、有利に引き延ばされたAPTTを示す。ECTの測定値は少なくとも約1.1倍、好ましくは少なくとも約1.3倍、取分け少なくとも約1.4倍、有利に引き延ばされたECTを示す。取分け、体外段階での血中レベルは体外循環終了後の血中レベルと上記の最小値の間で変動する。血中レベルは通常時間の関数として低下する。
【0044】
これらの値は体外段階の全過程を通じて必ずしも維持する必要はない。本発明の他の有利な態様によると、投与すべき抗凝固剤の量は、体外段階と体内段階の一定間隔の順で、体内段階の終末点で得られる血中レベルが、抗−IIaに基づき、少なくとも約150ng/ml、好ましくは少なくとも約300ng/ml、取分け少なくとも約400ng/mlとなるようにする。APTTの測定値は少なくとも約1.2倍、好ましくは少なくとも約1.3倍、取分け少なくとも約1.5倍、有利に引き延ばされたAPTTを示す。ECTの測定値は少なくとも約1.1倍、好ましくは少なくとも約1.3倍、取分け少なくとも約1.4倍、有利に引き延ばされたECTを示す。他方、この時点で有利な血中レベルは、抗−IIaに基づき、約1000ng/mlの最大値、好ましくは約700ng/mlの最大値、取分け約600ng/mlの最大値である。APTTの測定値は約3.5倍の最大値、好ましくは約2.8倍の最大値、取分け約2.5倍の最大値、有利に引き延ばされたAPTTを示す。ECTの測定値は約4.0倍の最大値、好ましくは約3.0倍の最大値、取分け約2.5倍の最大値、有利に引き延ばされたECTを示す。
【0045】
体外循環終了時に存在する治療血中レベルにより、体外循環後の一定の過渡期間の後にのみ、準治療血中レベルが通常得られる。治療から準治療までの過渡期間および、特に予防的血中レベルは、抗凝固剤が処理した個体の血液から自然に除去されるか、または適切であれば人工的に除去されることに依存する。
【0046】
本発明の特定の局面は腎不全の個体の処理を包含する。腎不全は本発明によると、腎臓の除去効率が不適切であるか、または存在しないことを意味する。これらは特にクレアチニン・クリアランスCLCRが100ml/分未満、取分け50ml/分未満、特に10ml/分未満の個体である。
【0047】
本発明の一態様によると、急性腎不全の個体、すなわち、腎臓の除去効率が不適切であるかまたは存在しない個体を処理する。この場合、罹患した個体の血液は、適切な腎除去効率の回復するまで、体外処理を受ける。体外段階の所要期間は当然ながら事例ごとに変わり、平均数日である。このタイプの処理は、本発明では連続血液濾過という。少なくとも約3日、特に少なくとも約5日の継続処理期間が本発明の特定態様を代表する。
【0048】
本発明のさらなる特定の態様は、慢性腎不全の個体を処理することを目的とする。これらは腎臓の除去効率が永久的に不適切であるかまたは存在しない個体である。この場合、体外循環は定常的な出来事である。体外段階の持続期間、および本発明の特定の態様による体外処理段階に相当する体外段階間のギャップは、共に残存する腎除去効率を特に考慮して、個体の症状に合致させる。本発明は特に週に少なくとも1回体外循環を受けている個体、取分け進行した慢性腎不全の個体、従って平均して少なくとも週に約2回、取分け約3回、体外循環を受けている個体を目標とする。このタイプの処理は、本発明では断続的(定期的)血液透析といい、本発明の特定の態様によると、体外−および体内交互処理段階からなる長期間の処理を代表する。
【0049】
断続的血液透析に関係するこの態様の範囲内で、好適な血中レベルは単回用量として、または頻回用量、特に2、3または4回の用量により、1サイクルあたり適量の抗凝固剤を投与することにより達成することが可能である。本発明の特定の態様によると、抗凝固剤は1サイクルあたり単回用量の形態で、従って血液透析ごとに1回投与する。
【0050】
サイクルは体外段階と体内段階から構成される。投与は、好適には、特に単回投与の場合、サイクルの開始時点、すなわち体外段階の開始時点で行う。しかし、投与はサイクルの他の時点、例えば、体外循環終了後に行ってもよい。もう一つの可能性は抗凝固剤の投与を体外段階の開始時点と体外循環終了後に実施することである。単回投与の量は、好ましくはボーラスとして、各事例の次回サイクルの開始時に新たな用量の抗凝固剤を与えるように有利なものとすることができる。可能な各投与量の基礎となるのは、特にサイクルの開始時点で投与すべき単回用量の場合、サイクルの開始前に特に測定した抗凝固剤のそれぞれの血中レベルである。相当する血中レベルはその用量を投与することにより上昇する。そのレベルは抗凝固手段の目的にとって適切な範囲内にある最大値に到達する。サイクルの開始時に投与すべき単回用量の場合には、投与から5分後の有利な血中レベルは抗−IIaに基づき、少なくとも約600ng/ml、好ましくは少なくとも約700ng/ml、取分け少なくとも約800ng/mlである。APTTの測定値は少なくとも約1.5倍、好ましくは少なくとも約1.9倍、取分け少なくとも約2.3倍、有利に引き延ばされたAPTTを示す。ECTの測定値は少なくとも約1.5倍、有利には少なくとも約2.0倍、取分け少なくとも約2.5倍、有利に引き延ばされたECTを示す。
【0051】
他方、出血のリスクを考慮して、これらの最大値はできるだけ低く維持すべきである。PEG−ヒルジン使用の一つの利点は、これらの最大値が抗−IIaに基づき約2400ng/mlまで、好ましくは約1700ng/mlまで、取分け約1500ng/mlまでとすることができることである。このように、APTTは約5.0倍まで、好ましくは約3.3倍まで、取分け約2.7倍まで引き延ばすことが可能であり、ECTについては約5.5倍まで、好ましくは約4.5倍まで、取分け約4.0倍まで引き延ばすことが可能である。
【0052】
血中レベルは体外段階での時間の関数として低下する。血中レベルは有利には体外段階の間、治療範囲に留まる。これと関連して上記の血中レベルはここでもまた有利である。他方、体外段階終了時に有利な血中レベルは、抗−IIaに基づき、約2000ng/mlの最大値、好ましくは約1500ng/mlの最大値、取分け約1100ng/mlの最大値である。APTTの測定値は約4.5倍の最大値、好ましくは約3.6倍の最大値、取分け約2.5倍の最大値、有利に引き延ばされたAPTTを示す。ECTの測定値は約4.0倍の最大値、好ましくは約3.5倍の最大値、取分け約3.0倍の最大値、有利に引き延ばされたECTを示す。
【0053】
本発明によると、単回投与は断続的血液透析の枠内で抗凝固剤を使用する場合、サイクルごとに実質的に同一のままとすることが可能である。従って、サイクルごとに実質的に一定値を保つ量の抗凝固剤を個体に投与する。この量は個体のパラメータ、特に投与量に影響するパラメータ、例えば、処理すべき個体の体重に基づき得るが、個体ごとに一定の用量を使用することも可能である。しかし、本発明により使用される抗凝固剤に対する適応は、治療の開始時点で必要であるという事実を考慮しなければならない。従って、例えば、慢性腎不全の患者にPEG−ヒルジンを定期的に投与し、好適な血中レベルを得るためには、投与の開始時点で比較的高い用量を選択しなければならない。その結果、投与量はサイクルごとに引き続くPEG−ヒルジンの規則的投与に際し、実質的に一定となるレベルに維持することができる。適応段階は通常数サイクル、好ましくは15サイクル未満、取分け10サイクル未満とするが、約5サイクルの後には、1回の投与量を有利には最大値の約±25%または特に±10%、好ましくは実質的に所望の一定投与量で選択することが可能である。
【0054】
抗凝固剤を実質的に同一のままとした投与量で投与する場合、個体のモニターは体外段階前の特定の血中レベルをチェックすることに限定することが可能であり、適切な場合には、単回用量の投与の後に特定の血中レベルをチェックする。前者のチェックは必要な投与量の基礎として特に役割をもち、また後者は過剰な血中レベルによる出血のリスク増大を回避するためのものである。これに関連して言及し得ることは、PEG−ヒルジンの使用が個体の血液からPEG−ヒルジンの能力を除去する可能性を有利に提供することである。この目的のために参照される膜は上記の膜であり、既知の膜である。
【0055】
本発明の特定の態様によると、血液透析のために、好ましくはその開始時点で投与される単回投与量は、血液透析に際し、抗−IIaに基づき、抗凝固剤の濃度が約400ng/mlないし約2400ng/mlの範囲、好ましくは約500ng/mlないし約1700ng/mlの範囲、取分け約600ng/mlないし約1500ng/mlの範囲で変動するようにする。この意味で、測定されるAPTTは約1.3倍ないし約5.0倍の範囲、好ましくは約1.6倍ないし約3.3倍の範囲、取分け、約1.8倍ないし約2.7倍の範囲で引き延ばされるか、または測定されるECTが約1.2倍ないし約5.5倍の範囲、好ましくは約1.6倍ないし約4.5倍の範囲、取分け、約1.8倍ないし約4.0倍の範囲で引き延ばされる。
【0056】
本発明のもう一つの特定の態様によると、血液透析のために、好ましくはその開始時点で投与される単回投与量は、血液透析終了後、次の透析まで、抗−IIaに基づき、抗凝固剤の濃度が約2000ng/mlないし約150ng/mlの範囲、好ましくは約1500ng/mlないし約300ng/mlの範囲、取分け約1100ng/mlないし約400ng/mlの範囲で変動するようにする。この意味で、測定されるAPTTは約4.5倍ないし約1.2倍の範囲、好ましくは約3.0倍ないし約1.3倍の範囲、取分け、約2.5倍ないし約1.5倍の範囲で引き延ばされるか、または測定されるECTが約4.5倍ないし約1.1倍の範囲、好ましくは約3.5倍ないし約1.3倍の範囲、取分け、約3.0倍ないし約1.4倍の範囲で引き延ばされる。
【0057】
上記本発明の特定の態様の範囲内で、血液透析のために投与される単回投与量は、投与の約5分後に、抗凝固剤の濃度が抗−IIaに基づき、有利には少なくとも約600ng/ml、好ましくは少なくとも約700ng/ml、取分け少なくとも約800ng/mlとなるようにする。APTTの測定値は少なくとも約1.5倍、好ましくは少なくとも約1.9倍、取分け少なくとも約2.3倍、有利に引き延ばされたAPTTを示す。ECTの測定値は少なくとも約1.5倍、有利には少なくとも約2.0倍、取分け少なくとも約2.5倍、有利に引き延ばされたECTを示す。
【0058】
上記の血中レベルは通常、体重あたり約200ないし約1400ATU/kgの範囲、好ましくは約400ATU/kgないし約1200ATU/kg、取分け約600ATU/kgないし約1000ATU/kgの範囲のボーラス投与によって得られる。適合させた後、慢性腎不全の個体については平均週3回の体外循環により、体重あたり約200ないし約1000ATU/kgの用量、好ましくは約200ATU/kgないし約800ATU/kg、取分け約400ATU/kgないし約600ATU/kgの投与量で処理することが可能である。略号ATUはWHO Iのトロンビン基準にもとづく抗トロンビン単位を意味する。
【0059】
特に、慢性腎不全の個体は、平均週3回の体外循環により、それぞれの場合に体重1kgに基づいて、PEG−ヒルジン約0.02ないし約1.0mgの投与量で、また適合させた後には、約0.03ないし約0.06mgの投与量で、PEG−ヒルジンの比活性がタンパク質として約10,000ないし14,000ATU/mg、取分けタンパク質として比活性が約13,350ATU/mgのもので処理することができる。
【0060】
また、本発明は本発明による処理のための医薬、取分け医薬組成物を生産するための抗凝固剤の使用に関する。このように、抗凝固剤は通常該薬物の外に少なくとも1種の製剤に適した賦形剤を含有してなる医薬組成物の形状で投与する。このタイプの組成物または医薬は当業者周知の技術により製造し、製剤化することができる。
【0061】
非経口投与に適した医薬組成物は、好ましくは、液状の製剤形で投与する。水または生理食塩水などの水性媒体の薬剤溶液が特に好ましい。
【0062】
実用的使用には、抗凝固剤、取分けPEG−ヒルジンは固形の形状、特に凍結乾燥品として、その溶媒とは別個に供給することができる。薬剤と溶媒は適当な容器、例えば、バイアルに分割して包装し、通常可能な既知濃度の溶液に戻し得るようにしておく。上記の好適な投与量の観点で適切なのは、例えば、2ないし10mlの容器にそれぞれ5〜50mgのPEG−ヒルジンを容れたものである;PEG−ヒルジン50mgを容れたバイアルは頻回用量容器として供給し得る(薬剤を保存溶液で戻す)。
【0063】
血中レベルという用語は個体の血中抗凝固剤の特定量をいい、例えば、文献に記載された定量方法を用いることにより、1種または適切な場合には数種の公認された活性値により表すことができる。
【0064】
抗−IIaに基づく抗凝固剤の公認された濃度は、使用されるPEG−ヒルジンのタンパク質含量に関係する。同等の量は抗−IIa活性を有する他の物質にも適用される。
【0065】
ECT(エカリン凝血塊形成時間)の測定は、本発明によると、直接のトロンビン・インヒビターの使用をいう。
【0066】
公認された血中レベルは少なくとも約10個体を1群として関連する平均値を表す。このように、生物の変化性のために、単一個体の値は通常統計的評価の枠内で公認された統計平均と異なるが、それでも平均には割り振ることが可能である。
【0067】
公認された血中レベルは、同じ測定サンプルに関係している場合であっても、測定精度の範囲内で変わり得る指針値である。個体定量法の測定精度は参考例に示されている。この変動は各値の頭に“約”を付すことで表す。
【0068】
以下の実施例の意図することは、本発明を説明することであって、それを限定することではない。
実施例1
PEG−ヒルジンによる透析患者の処理
定期的に血液透析を受けなければならない18才ないし75才の男女患者20名を選択した。最初にヘパリン(UHF=未分画ヘパリン)で処理した後、PEG−ヒルジン処理に際し、最初の透析直前に、各患者には体重1kgあたりタンパク質として13,354ATU/mgの抗トロンビン比活性を有するPEG−ヒルジン0.08mg/kgの用量を静脈注射により投与した。次いで、平均4時間継続の血液透析を週3回、GFSプラス16透析器によりヘモファン(Hemophan)低流量膜を用いて血液透析を行った。透析の終了時、および次の透析を実施する前に、先ず患者血中のPEG−ヒルジン濃度を定量した。この測定値は各血液透析直前に投与すべきPEG−ヒルジン量の基礎とした。残りのPEG−ヒルジン濃度は当初増大し、用量を当初の0.08mg/kg(体重)から0.03ないし0.05mg/kg(体重)に減量することができた。これで明らかになったことは、この投与量が週3回の血液透析による各透析終了後に、全血の約500ないし1000ng/mlの範囲でPEG−ヒルジンの血中レベルを得るのに適していることである。血液透析と血液透析の間に各患者の残りPEG−ヒルジンの血中濃度は血管系合併症に対する予防的防御を確かなものとした。
結果を表1〜3にまとめる。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
参考例1
APTT定量
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の定量は、部分トロンボプラスチン(アクチンFS)とカルシウムイオンを血漿に添加することにより誘発した血漿フィブリン形成に基づく。エラグ酸を活性化因子として用いる。
【0073】
静脈血9容量+クエン酸塩1容量(0.13mol/L)を注意深く混合し、1600×g、2〜10℃で10分間遠心分離する。サンプル容量は少なくとも450μlである。サンプルを要すれば迅速に凍結状態とし、フリーザーに保存する。
【0074】
使用する対照としては、正常範囲の対照血漿、治療範囲の対照血漿、低治療範囲の対照血漿、および正常範囲の品質対照、例えば、デイド(Dade)から市販品として入手可能な対照、シトロール(Citrol)1、シトロール2、シトロール3およびコアグ・トロールN(Coag Trol N)である。
【0075】
測定はACL3000で実施する。
ACl3000は完全自動マイクロコンピュータ制御遠心分析システムである。分析サイクル開始後、サンプルとアクチンをピペットで別々に20個のキュベットからなるアクリルガラス製の反応ローターのハーフキュベットに容れ、混合し、次いでインキュベートする。インキュベーションの後、塩化カルシウムをピペットでキュベットに容れ、混合し、測定する。測定はローターを回転させながら実施する。比濁測定用光源は、光ビームが光ガイドシステムを経て(λ=660nm)測定キュベットに向いている発光ダイオード(LED)である。散乱光の分布は、ローター担持体の下に置かれた半導体センサーにより、光源に対し90°の角度で測定する。測定結果は比で示すことも可能であり、PEG−ヒルジンでの透析前の患者の個々のベースライン値に対する現行値の比で記載する。
測定精度は+10%〜−10%である。
【0076】
参考例2
抗−IIa活性の定量
抗−IIa活性の定量はサンプルに過剰のトロンビンを添加した後に残存する活性の測定に基づく。ヘパリンおよび他の非トロンビン・セリンプロテアーゼはアッセイの前に、塩化プロタミンとアプロチニンをサンプルに加えることで中和する。残余のトロンビンはサンプルに添加する色素産生基質S223Bを開裂する。
【0077】
静脈血9容量およびクエン酸塩1容量(0.13mol/L)を注意深く混合し、1600×g、2〜10℃で10分間遠心分離する。サンプル容量は約100μlである。サンプルは、要すれば迅速に凍結状態とし、フリーザーに保存する。
【0078】
PEG−ヒルジンの定量には以下の標準を使用する:
標準A:PEG−ヒルジン濃度[C]=26.6mg/ml;タンパク質比活性、11,696ATU/mg
標準B:[C]=500μg/ml(標準Aを0.5%BSAにて1:53.3に希釈)
標準C:[C]=50μg/ml(標準Bを0.5%BSAにて1:10に希釈)
標準D:[C]=1000ng/ml(標準Cを正常ヒトクエン酸化血漿にて1:50に希釈)
標準B〜Dはその一部を凍結状態とし、使用時まで保存する。
【0079】
濃度100、200、400、600および800ng/mlをもつ校正用サンプルは、標準Dを正常ヒトクエン酸化血漿で適切に希釈することにより調製する。
この方法は他の抗凝固剤の定量用に相応に標準化することができる。
【0080】
測定はACL3000により実施する(インキュベーション時間:120秒;ランプ間間隔:3秒;遅延時間:3秒;取得時間:120秒;速度:600rpm)。吸光度は405nmのフィルターを用い、一定のローター速度で測定する。
測定精度は+20ないし−10%である。
【0081】
参考例3
ECT定量
ECTの定量(エカリン凝血塊形成時間)はメイゾトロンビンの凝固活性阻害に基づく。エカリンはエキス・カリナタス(Echis carinatus)の蛇毒の精製フラクションであり、血漿中のプロトロンビンの開裂によりメイゾトロンビンを生じる。エカリンにより誘発されフィブリノーゲンが凝固するまでの時間を測定する。
【0082】
静脈血9容量およびクエン酸塩1容量(0.13mol/L)を注意深く混合し、1600×g、2〜10℃で10分間遠心分離する。サンプル容量は約100μlである。サンプルは、要すれば迅速に凍結状態とし、フリーザーに保存する。
【0083】
PEG−ヒルジンの定量には以下の標準を使用する:
標準A:PEG−ヒルジン濃度[C]=26.6mg/ml;タンパク質比活性、11,696ATU/mg
標準B:[C]=500μg/ml(標準Aを0.5%BSAにて1:53.3に希釈)
標準C:[C]=50μg/ml(標準Bを0.5%BSAにて1:10に希釈)
標準E:[C]=2500ng/ml(標準Cを正常ヒトクエン酸化血漿にて1:20に希釈)
標準B〜Eはその一部を凍結状態とし、使用時まで保存する。
【0084】
濃度250、500、1500、2000および2500ng/mlをもつ校正用サンプルは、標準Eを正常ヒトクエン酸化血漿で適切に希釈することにより調製する。
この方法は他の抗凝固剤の定量用に相応に標準化することができる。
【0085】
測定はACL3000により実施する(インキュベーション時間:120秒;ランプ間間隔:3秒;遅延時間:3秒;取得時間:800秒;速度:1200rpm)。
【0086】
測定結果は比で示すことも可能であり、PEG−ヒルジンでの透析前の患者の個々のベースライン値に対する現行値の比で記載する。
測定精度は+30%〜−10%である。
【0087】
参考例4
終末半減期τ1/2の定量
終末半減期τ1/2は0.693/λzから計算される。λzは濃度−時間曲線の末端傾斜として時間に対する血中関連薬物濃度の対数プロットの直線回帰により決定される終末除去率を表す。例えば、下記の表4に示した濃度の経時的変化に基づき、λzは0.086 1/時間と計算され、τ1/2は8.04時間と計算される。
【0088】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性腎不全の個体を処理するための医薬を製造するためのPEG(ポリエチレングリコール)−ヒルジンの使用であって、該固体は体外循環を含む断続的な血液透析を必要とし、該体外循環の間の有効な抗凝固防御のための、かつ体外循環後の血管系合併症を予防するための、該PEG−ヒルジンの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−6964(P2012−6964A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184920(P2011−184920)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【分割の表示】特願2001−568469(P2001−568469)の分割
【原出願日】平成13年3月20日(2001.3.20)
【出願人】(502104228)アボット ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー (89)
【Fターム(参考)】