説明

血液凝固促進剤及び採血管

優れた血液凝固促進性と優れた血餅剥離性との双方を発揮することができる血液凝固促進剤、及びこの血液凝固促進剤が収容された採血管を提供する。難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体、部分けん化ポリビニルアルコール、吸着性無機物並びにペプチド鎖において、Argと任意のアミノ酸残基との結合及び/またはLysと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る加水分解酵素からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質と、ポリビニルピロリドン、及び好ましくは水溶性シリコーンオイルを含有することを特徴とする血液凝固促進剤、及び前記血液凝固促進剤が有底の管状容器に収容されていることを特徴とする採血管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、血液凝固促進剤及び採血管に関し、さらに詳しくは、優れた血液凝固促進性と血餅剥離性とを有する血液凝固促進剤、及びこの血液凝固促進剤が収容された採血管に関する。
【背景技術】
通常の血液検査では、採血管に採取した血液を凝固させた後、遠心分離操作を行うことによって目的とする血液成分を分離している。
このような採血管には、採取した血液を短時間で凝固させる血液凝固促進性や、凝固した血液が血餅として採血管の内壁に付着することを防止し、付着した血餅を剥離する血餅剥離性が求められており、管の内壁に種々の加工を施した採血管が報告されている。
例えば、特公平5−10095号公報には、所定の材質からなる容器の内壁に、水に不溶性のシリコーンオイル、ポリビニルピロリドン及び吸着性物質を含有する血液凝固促進剤が塗布された採血管が開示されている。
また、特開平5−103772号公報には、所定の材質からなる容器の内壁に、水溶性シリコーンオイルを介して血液凝固促進剤が塗布された採血管が開示されている。
上記のような凝固促進剤を採血管の内壁に塗布することによって、採取した血液を短時間で凝固させることができると共に、管の内壁に血餅が付着することを防止することができると報告されている。
しかしながら、このような採血管では、管の内壁に血餅が付着するのを防止するためには高濃度のシリコーンオイルを塗布する必要があった。すなわち、採血管の内壁に塗布されるシリコーンオイルの濃度は5.0×10−6〜1.0×10−5g/cmと高濃度であった。そのため、高濃度のシリコーンオイルの存在によって、検査値に悪影響を与えるおそれがあるという問題があった。
また、これらの採血管が栓体を有する場合には、採血管に採取した血液を凝固させると血餅が栓体に付着してしまうという問題があった。
【発明の開示】
本発明は、上記従来の問題点に鑑み、優れた血液凝固促進性と優れた血餅剥離性との双方を発揮することができる血液凝固促進剤、及びこの血液凝固促進剤が収容された採血管を提供することを目的とする。
本発明に係る血液凝固促進剤は、難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体と、(a)吸着性無機物並びに(b)ペプチド鎖において、Argと任意のアミノ酸残基との結合及び/またはLysと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る加水分解酵素からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質と、ポリビニルピロリドンとを含有することを特徴とする。
本発明の血液凝固促進剤のある特定の局面では、難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体と、(a)吸着性無機物並びに(b)ペプチド鎖において、Argと任意のアミノ酸残基との結合及び/またはLysと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る加水分解酵素からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質と、ポリビニルピロリドンとの合計重量100重量部に対して、3×10−3〜7重量部の水溶性シリコーンオイルがさらに含有されている。
本発明に係る血液凝固促進剤では、好ましくは、部分けん化ポリビニルアルコールがさらに含有される。
本発明の血液凝固促進剤のある特定の局面では、難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体と、部分けん化ポリビニルアルコールと、(a)吸着性無機物並びに(b)ペプチド鎖において、Argと任意のアミノ酸残基との結合及び/またはLysと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る加水分解酵素からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質と、ポリビニルピロリドンとの合計重量100重量部に対して、3×10−3〜7重量部の水溶性シリコーンオイルがさらに含有されている。
本発明に係る採血管は、本発明に従って構成された血液凝固促進剤が容器内に収容されていることを特徴とする。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の血液凝固促進剤は、難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体と、(a)吸着性無機物並びに(b)ペプチド鎖において、Argと任意のアミノ酸残基との結合及び/またはLysと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る加水分解酵素からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質と、ポリビニルピロリドンとを必須成分として含む。
本発明の血液凝固促進剤に用いられる難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体は、血餅付着防止成分として用いられている。
難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体としては、公知のポリオキシアルキレンに種々の化合物を誘導した誘導体が挙げられ、例えば、ポリオキシアルキレンのブタノール誘導体や、ポリオキシアルキレンのグリセリン誘導体等が挙げられる。
難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体は、水や血液に対して溶解性が低いことが好ましく、水や血液に対して溶解しないことがより好ましい。
また、難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体は、血餅付着防止成分として作用するので、凝固した後の血餅成分が容器の内壁に付着することを防止することができ、遠心分離時においても血餅の移動が制限されることなく血餅と血清とを良好に分離することができる。
本発明の血液凝固促進剤では、好ましくは、部分けん化ポリビニルアルコールが含有される。部分けん化ポリビニルアルコールは、血餅剥離成分として用いられる。
部分けん化ポリビニルアルコールとしては、公知の化合物を使用することができ、例えば、ポリ酢酸ビニルを水酸化ナトリウムによってけん化された化合物等が挙げられる。
部分けん化ポリビニルアルコールのけん化度は、75〜98モル%であることが好ましく、85〜95モル%であることがより好ましい。
部分けん化ポリビニルアルコールのけん化度が75モル%未満であると、部分けん化ポリビニルアルコールが血液中への溶解性や界面活性作用が高くなるために検査値に悪影響を与えるおそれがある。
また、部分けん化ポリビニルアルコールのけん化度が98モル%を超えると、十分な血餅剥離性を発揮することが困難となることがある。
また、部分けん化ポリビニルアルコールの重合度は、300〜3500であることが好ましく、500〜2500であることがより好ましい。
部分けん化ポリビニルアルコールの重合度が300未満であると、溶解性が高くなりすぎて血餅剥離性が低下することがある。また、重合度が3500を越えると、粘度が高くなり過ぎるので容器内壁に均一に塗布することが困難になることがある。
本発明の血液凝固促進剤に用いられる(a)吸着性無機物は、血液凝固成分として用いられる。
吸着性無機物は水に不溶性であることが好ましい。吸着性無機物が水に不溶性であることによって、検査結果に与える影響を小さくすることができる。
また、吸着性無機物は粉末状であることが好ましい。吸着性無機物が粉末状であることによって吸着性無機物の比表面積が増大するので、本発明の血液凝固促進剤はより短時間で血液を凝固させることができる。
吸着性無機物の比表面積は、10〜1000m/gであることが好ましく、50〜500m/gであることがより好ましい。
吸着性無機物の平均粒径は、50μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが好ましい。吸着性無機物の平均粒径が50μmを越えると、短時間で血液を凝固させることが困難になることがある。
このような吸着性無機物としては、例えば、シリカ、ガラス、カオリン、セライト、ベントナイト等が挙げられる。
これらの吸着性無機物は単独で用いられてもよく、2種以上が混合されて用いられてもよい。
これらの吸着性無機物のうち、シリカが好適に用いられる。このシリカは粉末状であることが好ましく、無定形成分を20重量%以上含有する多孔質状であることがより好ましい。
また、このようなシリカは疎水性であることが好ましい。シリカが疎水性であることによって、血液中への溶解度が低下して溶血を防ぐことができるとともに、血液中への分散性が向上して短時間で血液を凝固させることができる。
また、吸着性無機物は、血液中での分散性が高いことが好ましい。血液中での分散性が高いことによって、より短時間で血液を凝固させることができる。
上記吸着性無機物の量が少なくなると、血液凝固の時間が長くなったり、凝固が不完全になることがあり、多くなると検査値に悪影響を及ぼすおそれがあるので、血液1mLあたり1×10−6〜1×10−3gが好ましく、1×10−5〜1×10−4がより好ましい。
上記(b)加水分解酵素はプロテアーゼであり、ペプチド鎖において、Argと任意のアミノ酸残基との結合及び/またはLysと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得るものが用いられる。
上記加水分解酵素としては、例えば、トリプシン、トロンビン、蛇毒トロンビン様酵素等のセリンプロテアーゼ;カテプシンB、フィシン等のチオールプロテアーゼ;キニナーゼI等の金属プロテアーゼ等が挙げられ、特にセリンプロテアーゼが好適に用いられる。上記加水分解酵素の量が少なくなると、血液凝固の時間が長くなったり、凝固が不完全になることがあり、多くなると検査値に悪影響を及ぼすおそれがあるので、加水分解酵素の使用量は、血液1mLあたり0.1〜100単位が好ましく、0.5〜50単位がより好ましい。
本発明の血液凝固促進剤には、さらにアミノ酸が含有されていても良い。アミノ酸は、本発明においては上記加水分解酵素の安定化剤として用いられ、例えばグリシン、β−アラニン、L−セリン、L−トリプトファン等が好適に用いられる。アミノ酸の量が少なくなると、加水分解酵素の安定性を保つ効果が不十分となるおそれがあり、多くなると検査値に悪影響を及ぼすおそれがあるので、加水分解酵素1単位あたり0.01〜10mgが好ましく、0.05〜5mgがより好ましい。
本発明の血液凝固促進剤には、さらにアミン塩及び/または第4級窒素を有する有機化合物が含有されていても良い。アミン塩及び/または第4級窒素を有する有機化合物は、ヘパリンを吸着、中和して不活性化するヘパリン中和剤として作用する。
上記アミン塩を構成するアミンは第1級、第2級及び第3級アミンのいずれでもよく、アミン塩を構成する酸も無機酸及び有機酸のいずれでもよい。無機酸としては、例えば、塩酸等のハロゲン化水素酸、硫酸、亜硫酸等が挙げられ、有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸等が挙げられる。アミン塩の有機残基は通常アルキル基であるが、イミノ基やエーテル基等の異種元素を含む炭化水素基であってもよい。アミン塩は、分子内塩でもよい。好ましいアミン塩の具体例としては、例えば、ヘキサデシルジメチルアミン塩酸塩や、テトラデシル(アミノエチル)グリシン等が挙げられる。
上記第4級窒素を有する有機化合物としては、例えば、テトラアルキルアンモニウムが挙げられるが、アルキル基の代わりにアリール基を有する化合物や、イミノ基もしくはエーテル基等の異種元素を含む炭化水素基を有する化合物でもよい。好ましい第4級窒素を有する有機化合物としては、例えば、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドが挙げられるが、第4級窒素を有するポリカチオン等の有機重合体を用いてもよい。上記有機化合物の量が少なくなると、ヘパリンが中和されないためヘパリンを含む血液が凝固しなくなることがあり、多くなると検査値に悪影響を及ぼすおそれがあるので、血液1mLあたり0.005〜10mgが好ましく、0.01〜5mgがより好ましい。
本発明の血液凝固促進剤には、さらに抗線溶剤及び/または抗プラスミン剤が含有されていてもよい。これらにより、血液の凝固反応過程で拮抗的に生成してくるプラスミンのフィブリン分解作用が阻害される。そのため血液の凝固が促進され、さらに凝固においても凝固状態を安定に保つことができる。
上記抗線溶剤及び/または抗プラスミン剤としては、例えば、アプロチニン、大豆トリプシンインヒビター、ε−アミノカプロン酸、p−アミノメチル安息香酸、アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸等が、単独であるいは組み合わされて用いられる。これらは、得られる血清を用いた臨床検査に影響を及ぼさない程度の量で血液凝固促進剤中に含有される。例えば、アプロチニンは、血液1mLあたり約100〜600KIU(単位)の割合で、大豆トリプシンインヒビターは血液1mLあたり約500〜4000FU(単位)の割合で、ε−アミノカプロン酸、p−アミノメチル安息香酸、アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸は、いずれも血液1mLあたり約1×10−8〜1×10−2gの割合が好ましい。
本発明の血液凝固促進剤に用いられるポリビニルピロリドンは、(a)吸着性無機物や上記(b)加水分解酵素を分散させる分散剤として用いられる。
このようなポリビニルピロリドンとしては、例えば、N−ビニルピロリドン等が挙げられる。
ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は1万〜60万であることが好ましく、3万〜50万であることがより好ましい。
ポリビニルピロリドンの重量平均分子量が1万未満であると溶血を引き起こすおそれがある。また、重量平均分子量が60万を超えると血液中における吸着性無機物等の分散性を低下させるため、短時間で血液を凝固させることが困難になることがある。
また、ポリビニルピロリドンは、本発明の血液凝固促進剤を構成する化合物に対して高い溶解性を示すことが好ましく、特に水溶性シリコーンオイルに対して高い溶解性を示すことが好ましい。
血液凝固促進剤を構成する化合物との溶解性が高いことによって、本発明の血液凝固促進剤は、水等の溶媒と混合しても安定した状態で存在することができるとともに、これらの化合物が吸着性無機物の表面に吸着して血液が凝固しにくくなることを防止することができる。
本発明の血液凝固促進剤を構成する各化合物の配合量は、難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体100重量部に対し、部分けん化ポリビニルアルコール1〜2×10重量部、吸着性無機物並びにペプチド鎖において、Argと任意のアミノ酸残基との結合及び/またはLysと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る加水分解酵素からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質4×10〜5×10重量部、及びポリビニルピロリドン2×10〜4×10重量部であることが好ましい。なお、部分けん化ポリビニルアルコールが配合されない場合には、部分けん化ポリビニルアルコールを除いた他の化合物の配合量を上記の通りとすることが好ましい。
また、上記の各配合量において、難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体100重量部に対する部分けん化ポリビニルアルコールの配合量は、10〜2×10重量部であることがより好ましい。
また、難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体100重量部に対する吸着性無機物並びにペプチド鎖において、Argと任意のアミノ酸残基との結合及び/またはLysと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る加水分解酵素からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質の配合量は7×10〜5×10重量部であることがより好ましく、ポリビニルピロリドンの配合量は、5×10〜4×10重量部であることがより好ましい。
また、本発明の血液凝固促進剤には、血餅付着防止成分として水溶性シリコーンオイルを少量添加してもよい。
水溶性シリコーンオイルを用いることによって、栓体を有する採血管においては、管の内壁に対してより優れた血餅剥離性を発揮するとともに、栓体に対しても優れた血餅剥離性を発揮することができる。
水溶性シリコーンオイルとしては、親水性が高いシリコーンオイルであれば特に限定されず、例えば、極性基の導入によって親水性に変性されたシリコーンオイル等が挙げられる。
このような極性基としては、例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、エーテル基等が挙げられる。
変性前のシリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジエンポリシロキサン等の脂肪族シリコーンオイル、メチルフェノルポリシロキサン等の芳香族シリコーンオイル等が挙げられる。
これらの水溶性シリコーンオイルのうち、エーテル基によって変性されたジメチルポリシロキサンが好適に用いられる。
また、これらの水溶性シリコーンオイルは単独で用いられてもよく、2種以上が混合されて用いられてもよい。
また、本発明の血液凝固促進剤が水溶性シリコーンオイルを含有する場合、水溶性シリコーンオイルの配合量は、難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体と、(a)吸着性無機物及び(b)加水分解酵素からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質と、ポリビニルピロリドンとの合計重量100重量部に対して3×10−3〜7重量部であることが好ましく、3×10−2〜5重量部であることがより好ましい。
なお、前述した部分けん化ポリビニルアルコールも配合されている場合には、難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体と、部分けん化ポリビニルアルコールと、(a)吸着性無機物及び(b)加水分解酵素からなる群から選ばれた少なくとも1種類の物質と、ポリビニルピロリドンとの合計100重量部に対し、水溶性シリコーンオイルを3×10−3〜7重量部とすることが好ましく、3×10−2〜5重量部であることがより好ましい。
水溶性シリコーンオイルの配合量が7重量部を超えると検査値に悪影響を及ぼす可能性がある。また、配合量が3×10−3重量部未満であると、採血管の栓体に対して十分な血餅剥離性を発揮することが困難となることがある。
本発明の採血管には、必要に応じて血清分離剤を収容しても良い。
本発明の血液凝固促進剤が血液と接触されることによって血液の凝固が促進される。
血液凝固促進剤と血液とを接触させる方法としては特に限定されないが、例えば、▲1▼予め本発明の血液凝固促進剤が収容された採血管等の有底の管状容器に採取した血液を加える方法、▲2▼採取した血液が入った採血管等の有底の管状容器に本発明の血液凝固促進剤を加える方法、等が挙げられる。
これらの方法のうち、▲1▼の方法が好適に用いられる。なお、このような予め血液凝固促進剤が収容された採血管も本発明の1つの態様である。図1は、本発明に係る採血管の一例を示す正面断面図である。有底管状の採血管1内に、本発明に係る血液凝固促進剤2が収納されている。採血管1は、血液凝固促進剤2を収容した真空採血管であってもよい。
また、栓体を有する採血管であってもよい。採血管が栓体を有している場合、栓体にも血液凝固促進剤が塗布されていることが好ましい。
上記採血管の材質としては特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂、金属、ガラス等が挙げられる。
採血管に血液凝固促進剤を収容する方法は特に限定されないが、例えば、水等の溶媒に本発明の血液凝固促進剤を分散させた溶液を採血管の内壁に塗布した後、乾燥によって溶媒を除去する方法等が挙げられる。
採血管の内壁に血液凝固促進剤を塗布する方法としては、例えば、スプレー法やディッピング法等が挙げられる。
本発明の血液凝固促進剤が採血管の内壁に塗布された後の該血液凝固促進剤中の難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体の量は、内壁上の面積を基準として、1×10−9〜1×10−5g/cmが好ましく、1×10−8〜1×10−6g/cmがより好ましい。難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体の量が1×10−9g/cm未満であると管の内壁に対して十分な血餅剥離性を発揮することが困難になることがある。また、難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体の量が1×10−5g/cmを超えると検査値に悪影響を及ぼすおそれがある。
本発明の血液凝固促進剤が採血管の内壁に塗布された後の該血液凝固促進剤中の部分けん化ポリビニルアルコールの量は、内壁上の面積を基準として、1×10−9〜1×10−5g/cmが好ましく、1×10−8〜1×10−6g/cmがより好ましい。部分けん化ポリビニルアルコールの量が1×10−9g/cm未満であると管の内壁に対して十分な血餅剥離性を発揮することが困難になることがある。また、部分けん化ポリビニルアルコールの量が1×10−5g/cmを超えると、吸着性無機物の分散性が低下するために短時間で血液を凝固させることが困難になることがある。
本発明の血液凝固促進剤が採血管の内壁に塗布された後の該血液凝固促進剤中のポリビニルピロリドンの量は、内壁上の面積を基準として、1×10−7〜1×10−4g/cmが好ましく、1×10−6〜1×10−5g/cmがより好ましい。ポリビニルピロリドンの量が1×10−7g/cm未満であると吸着性無機物の表面が血餅付着防止成分で覆われて血液と直接接触しにくくなるので短時間で血液を凝固させることが困難になることがある。また、ポリビニルピロリドンの量が1×10−4g/cmを超えると、吸着性無機物の分散性が低下するために短時間で血液を凝固させることが困難になることがある。
本発明の血液凝固促進剤が採血管の内壁に塗布された後の該血液凝固促進剤中の水溶性シリコーンオイルの量は、内壁上の面積を基準として、1×10−10〜1×10−6g/cmが好ましく、1×10−9〜5×10−7g/cmがより好ましい。水溶性シリコーンオイルの量が1×10−10g/cm未満であると、採血管をゴム栓等の栓体を有する場合、栓体に対して十分な血餅剥離性を発揮することが困難になることがある。また、シリコーンオイルの量が1×10−6g/cmを超えると、検査値に悪影響を及ぼすおそれがある。
本発明の採血管を用いて血液を凝固させる方法としては、例えば、本発明の採血管に血液を採取して密封した後、室温で放置することによって血液を凝固させる方法や、血液を採取した後、血清分離剤等の添加剤を添加して血液を凝固させる方法等が挙げられる。
また、本発明の採血管は、血液が凝固した後に遠心分離操作を行い得るものが好ましい。これによって、凝固した血液の分離を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の採血管の一例を示す正面断面図。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例において、血液凝固促進剤の配合成分として用いた化合物は以下の通りである。
・難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体
ポリプロピレングリコールのグリセリン誘導体
(旭電化工業社製、「アデカカーポールG4000」)
・部分けん化ポリビニルアルコール
(けん化度87〜89モル%、重合度1000)
・ポリビニルピロリドン
(重量平均分子量45000)
・吸着性無機物
微粉末シリカ
・加水分解酵素
トロンビン
(持田製薬社製、トロンビン持田)
・水溶性シリコーンオイル
エーテル基によって変性されたジメチルポリシロキサン
(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、「SF8410オイル」)
・溶媒
イオン交換水
[実施例1〜12、比較例1〜3]
(血液凝固促進剤の調製)
溶媒であるイオン交換水に対して各化合物を表1及び表2に示す組成となるように混合することによって血液凝固促進剤を調製した。
(採血管の作製)
それぞれの実施例及び比較例によって得られた血液凝固促進剤の20mlを内容量が10mlのポリエチレンテレフタレート製の血清分離用採血管からなる管状容器の内壁にスプレー法によって均一に塗布し、風乾することによって採血管を作製した。
各採血管を試験用採血管として、以下の評価を行った。
(血液凝固時間の測定)
実施例1〜12及び比較例1〜3で得られた試験用採血管については、試験用採血管に3mlのヒト新鮮血液を採取してパラフィルムによって密封した後、5回転倒混和して25℃で放置した。このとき、採血終了時点から血液が完全に凝固するのに要した時間(単位:分)を測定した。凝固の判定は、試験用採血管を傾けても血液上の上面が動かず、さらに逆さに保っても血液が流れ出ない時点とした。また、1回転倒混和した以外は上記と同様に操作した場合についても評価した。実施例13〜24で得られた試験用採血管については、まず、試験用採血管の内部を排気して採血量が3mlとなるように圧力を調節し、ブチルゴムの栓によって密栓を行った。この試験用採血管に3mlのヒト新鮮血液を採取した後、5回転倒混和して25℃で放置した。このとき、採血終了時点から血液が完全に凝固するのに要した時間(単位:分)を測定した。凝固の判定は、試験用採血管を傾けても血液上の上面が動かず、さらに逆さに保っても血液が流れ出ない時点とした。また、1回転倒混和した以外は上記と同様に操作した場合についても評価した。
(溶血・血餅の確認)
血液凝固測定を行った後の各々の試験用採血管を遠心分離機にセットし、3000rpmの回転数で5分間遠心分離を行い、遠心分離された血清の溶血の有無を目視によって観察した。また、遠心分離後の試験用採血管の内壁やゴム栓に血餅が付着しているかを目視によって確認した。
血餅の付着または溶血が確認された場合は「あり」と判定し、確認されなかった場合は「なし」と判定した。
(フェリチンの測定)
上記血液凝固時間の測定で5回転倒混和した試験用採血管については、遠心分離後の試験用採血管に対して既知濃度のフェリチン(56ng/ml)を含有する血清を3ml添加してよく混和した後、フェリチン測定試薬(デンカ生研社製、「FER−ラテックスX2」)を添加し、自動分析装置(日立製作所社製、「7170S」)によってフェリチンの濃度(単位:ng/ml)を測定した。
表1、表2及び表3にそれぞれの測定結果を示す。



【産業上の利用可能性】
本発明の血液凝固促進剤は、(a)吸着性無機物及び上記(b)加水分解酵素からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質と、ポリビニルピロリドンとを含有しているため、優れた血液凝固促進性を発揮し、短時間で血液を凝固させることができる。
また、本発明の血液凝固促進剤は、難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体と、必要に応じて部分けん化ポリビニルアルコールとを含有しているため、優れた血餅剥離性を発揮し、凝固した血液が血餅として採血管の内壁に付着することを防止するとともに、付着した血餅を剥離することができる。
従って、本発明の血液凝固促進剤は、優れた血液凝固促進性と優れた血餅剥離性との双方を発揮する。
また、本発明の血液凝固促進剤において、難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体と、必要に応じて添加される部分けん化ポリビニルアルコールと、吸着性無機物並びにペプチド鎖において、Argと任意のアミノ酸残基との結合及び/またはLysと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る加水分解酵素からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質と、ポリビニルピロリドンとの合計重量100重量部に対して、3×10−3〜7重量部の水溶性シリコーンオイルをさらに含有している場合、管の内壁に対する血餅剥離性がより一層高められる。加えて、採血管の栓体に対しても優れた血餅剥離性を発揮する。さらに、従来のような高濃度の水溶性シリコーンオイルを含有していないので、溶血等が生じ難い。従って、検査値に悪影響を与えることがない。
また、本発明の採血管では、本発明の血液凝固促進剤が収容されているので、血液凝固促進性及び血餅分離性の双方が高められた採血管を提供することができる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体と、吸着性無機物並びにペプチド鎖において、Argと任意のアミノ酸残基との結合及び/またはLysと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る加水分解酵素からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質と、ポリビニルピロリドンとを含有することを特徴とする血液凝固促進剤。
【請求項2】
難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体と、吸着性無機物並びにペプチド鎖において、Argと任意のアミノ酸残基との結合及び/またはLysと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る加水分解酵素からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質と、ポリビニルピロリドンとの合計重量100重量部に対して、3×10−3〜7重量部の水溶性シリコーンオイルをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の血液凝固促進剤。
【請求項3】
部分けん化ポリビニルアルコールをさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の血液凝固促進剤。
【請求項4】
難水溶性ポリオキシアルキレン誘導体と、部分けん化ポリビニルアルコールと、吸着性無機物並びにペプチド鎖において、Argと任意のアミノ酸残基との結合及び/またはLysと任意のアミノ酸残基との結合を加水分解し得る加水分解酵素からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質と、ポリビニルピロリドンとの合計重量100重量部に対して、3×10−3〜7重量部の水溶性シリコーンオイルをさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の血液凝固促進剤。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の血液凝固促進剤が、有底の管状容器内に収容されてなることを特徴とする採血管。

【国際公開番号】WO2004/097407
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505852(P2005−505852)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005689
【国際出願日】平成16年4月21日(2004.4.21)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】