説明

血液試料分注キット及び血液試料分注方法

【課題】
本発明は、血液試料を安全且つ容易に分注するキット及び方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明は、血液試料を分注するためのキットであって、前記キットは、血液分注ユニット並びに複数の減圧採血管を含むものであり、前記血液分注ユニットは、血液試料を収容するためのバッグ、前記バッグに直接又は間接的に接続し、少なくとも2以上の分岐路を有する分岐管と、前記分岐路のそれぞれに直接又は間接的に接続した複数の採血管ホルダを備えることを特徴とする血液試料分注キットを提供する。また、当該キットを用いる血液試料分注方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液試料分注キット及び血液試料分注方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、臨床検査データは個々の医療機関で独立して利用されている。しかしながら、患者が複数の医療機関を受診したり、健常者が健康診断結果を持参して来院したりすることが多くなってきた。したがって、臨床検査データの相互利用を一般化する必要性が生じている。
【0003】
係る現状を鑑みて、社団法人日本臨床衛生検査技師会の臨床検査データ共有化部会では、臨床検査データ共有化マニュアルを発行した(非特許文献1)。当該マニュアルにおいて、臨床検査における測定の維持管理において、精度管理資料による正確さの測定を少なくとも年4回行うことを義務づけている。さらに、当該マニュアルにおいて、この精度管理試料(血液試料)は、(1)市販されている管理試料、又は、(2)自家製試料を用いることが紹介されている。医療機関における経費の削減及び測定試薬における市販管理試料と完全にヒト由来の血液試料との反応性の相違の観点から、(2)自家製試料を用いることが好ましい。
【0004】
ところで、自家製試料を調製するためには、特別な装置が必要である。上記マニュアルが発行される以前から、出願人は図3に示すような血漿精製装置を医療機関に提供し、医療機関の経費削減に貢献してきた。この貢献が認められ、上記マニュアルでも、出願人の製品が紹介されている。
【0005】
ところで、調製した自家製試料は、各基準測定を行うために、当該試料を小容器に分注して保管することが好ましい。しかしながら、分柱作業の際に、血液試料が汚染したり、感染事故を招くおそれがあった。
【0006】
【非特許文献1】医療検査 Vol. 55, No. 11, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、血液試料を安全且つ容易に分注するキット及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
[1] 血液試料を分注するためのキットであって、
前記キットは、血液分注ユニット並びに減圧採血管を含むものであり、
前記血液分注ユニットは、
血液試料を収容するためのバッグ、
前記バッグポートに直接又は間接的に接続した複数の採血管ホルダ
を備えることを特徴とする血液試料分注キット、
[2] さらに、少なくとも2以上の分岐路を有する分岐管を備えてなり、
前記採血管ホルダは前記分岐路を介して前記バッグに接続することを特徴とする[1]に記載の血液分注キット、
[3] 前記減圧採血管は、有底容器に遮光層を具備する[1]に記載の血液試料分注キット、
[4] 血液分注キットを用いて血液試料を分注する方法であって、
前記血液分注キットは、血液分注ユニット並びに減圧採血管を含むものであり、
前記血液分注ユニットは、
血液試料を収容するためのバッグ、
前記バッグに直接又は間接的に接続した採血管ホルダ
を備えることを特徴とし、
(1)血液試料をバッグに収容するステップと、
並びに(2)前記採血管ホルダに前記減圧採血管を接続するステップ
を含む血液試料分注方法、
及び、[5] 前記血液試料が、制度管理用血清である[4]に記載の血液試料分注方法。
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の血液分注キット及び方法によれば、作業者が安全且つ容易に血液試料を分注することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、血液試料分注ユニットA並びに複数の減圧採血管Bを含むキット態様をとる。つまり、血液試料分注ユニットAを利用して、複数の減圧採血管Bに血液試料を安全且つ容易に分注することを達成するためのものである。
【0011】
本発明において、「血液試料」とは、
(A)市販で購入した血液試料
(B)検査の済んだ残余血液から分離・精製した血清試料(プール血清)
(C)インフォームドコンセントの得られたボランティアから採取した全血試料(血液検査試料)
(D)上記(C)から分離・精製した血清試料(血清)
をいう。また、「自家製試料」とは、上記血液試料のうち、(B)〜(D)の試料をいう。さらに、血液試料が血清の場合である場合は、制度管理血清という。
【0012】
以下、本発明を図を用いて説明する。
【0013】
図1は、本発明の血液試料分注ユニットAを示す図である。当該血液試料分注ユニットAは、血液試料を収容するためのバッグ1、当該バッグ1に直接又は間接的に接続した採血管ホルダ2を備える。
【0014】
本発明におけるバッグとは、フィルムから溶着により製造され、血液試料を収集し得る容器であって、少なくとも1つのポート11を具備する容器をいう。当該バッグ1は、医療用として認可されたものであれば特に限定されるものではない。但し、血液試料を十分に収容しうる容量であることが好ましい。具体的に、上記バッグ1は、約300〜5000ml、好ましくは約500〜3000mlの容量を有することが好ましい。当該バッグ1としては、血液試料を十分に収容し得る容量であり、バッグ1を構成するフィルムが十分な強度を有する観点から、ニプロ社製のアリメバッグ(登録商標)を用いることが望ましい。
【0015】
上記バッグ1には、直接又は間接的に採血管ホルダ2が接続される。本発明において採血管ホルダとは、後述する減圧採血管Bのゴム栓を安定して刺通するためのデバイスであって、上記バッグ1に収容した血液試料を当該減圧採血管B内に取り込むためのデバイスをいう。当該採血管ホルダ2は、市販のものを採用すればよく、特に限定されるものではないため、詳細については省略する。
【0016】
上記バッグ1に採血管ホルダ2を直接接続する場合は、例えば、バッグ1のポート11に採血管ホルダ2を直接接続することができるように、採血管ホルダ2を加工する態様が挙げられる。但し、操作性が向上し、市販の採血管ホルダ2をそのまま使用できる観点から、例えば、図1に示すようにチューブ3などを用いて間接的に接続する態様が好ましい。もちろん、これらのチューブ3には、例えば、ローラークランプ(図示せず)などの流量を制御する手段を備えてもよい。
【0017】
上記チューブ3の素材は、医療用途に適した素材であれば特に限定されるものではない。例えば、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン及びポリ(エチレン−ビニルアルコール)コポリマーなどが挙げられる。
【0018】
また、上記バッグ1に採血管ホルダ2を間接的に接続する場合の態様として、図1に示すように、さらに分岐管41,42を備えてもよい。本発明において分岐管とは、上記バッグ1に収容した血液試料を分流するための器具をいう。分岐管41,42において分岐する流路(本発明では、分岐路という)の個数は、2以上であれば特に限定するものではないが、医療分野におけるバッグシステムに用いられる2つの分岐路を有する分岐管を用いれば十分である。具体的には、Y字管、T字管又は三方活栓等がこれに該当する。もちろん、これらの分岐管41,42は、医療用として認可されたものであれば特に限定されるものではない。
【0019】
もちろん、分岐管41,42は1つでなくともよく、図1に示すように第2の分岐管として三方活栓42を用いて、さらに分岐させてもよい。図1に示す血液試料分注ユニットAは、末端の分岐数が4つである一実施態様を示しているにすぎない。もちろん、この最終的な末端の分岐数も当業者により適宜設定することができる。その数は、分注の作業効率を考慮すると、1〜6程度であればよい。
【0020】
上記バッグ1に当該分岐管41,42を接続する態様は、当業者により適宜選択することができ、特に限定されるものではない。例えば、溶着などの方法により上記バッグ1に当該分岐管41,42を直接接続することができる。但し、分注作業における操作性が向上する観点から、チューブ3を用いて間接的に接続することが好ましい。
【0021】
ここで、分岐管41,42の態様としてルアーテーパー接続構造を有する三方活栓を採用した場合、当該三方活栓と接続が容易となる観点から、当該採血管ホルダ2も、いわゆるヒト血管に穿刺するための金属針を接続する部分がルアーテーパー接続構造を有するものであることが好ましい。これにより、図1に示すように、採血管ホルダ2を、ルアーテーパー構造により直接分岐管(三方活栓)42に容易に接続することができる。
【0022】
一般的に、採血管ホルダ2は、その先端にヒト血管に穿刺するための金属針を接続することが通常であって、本発明のような、いわゆるバッグシステムの一部に用いるという使用態様は従来では存在しない。つまり、採血管ホルダ2は、減圧採血管を用いたヒトから血液を採血するために用いる器具であるのが通常であるために、例え当業者であっても、本発明を容易に想到することはできない。
【0023】
さらに、分岐管の一態様である三方活栓42に、直接採血管ホルダ2を接続することに関しても昨今の医療器機業界において当然に行われているものではない。この点に関しても、当業者が本発明を容易に想到することはできないと言える。
【0024】
また、図1は分岐管(三方活栓)42に直接接続する態様を示しているが、もちろんチューブを介して間接的に接続する態様であってもよい。これは、上述のバッグ1と分岐管41,42の接続の際と同様の理屈である。チューブ3を用いて間接的に接続する場合は、図示しないが、例えば、チューブ3の末端にルアーテーパー構造を有する器具を設け、採血管ホルダ2を接続する態様が挙げられる。
【0025】
以上に説明した血液試料分注ユニットAのバッグ1及び採血管ホルダ2は、あらかじめ組み立てられた状態で医療機関に提供しても、組み立て用セットとして医療機関に提供してもよい。
【0026】
本発明の血液試料分注キットは、さらに減圧採血管Bを備える。本発明において減圧採血管とは、一部又は全部がゴムで構成された蓋部材と、容器内が減圧状態にある円柱状の有底容器を備えるものをいう。当該減圧採血管は、医療業界では真空採血管と称するものである。上記減圧採血管Bにおける蓋部材は、ゴム栓タイプのものと、特開平06−189944号公報で開示されるようなフィルムタイプなどが存在するが、本発明における減圧採血管はこれらの態様に限定されるものではない。
【0027】
また、上記減圧採血管Bは、ビリルビンなどの血液試料中に存在する物質の光分解を阻止するために、有底容器の周囲に遮光層を備えることが好ましい。遮光層を備える態様としては、従前の透明な有底容器の表面に遮光フィルムをラミネートしたもの、又は、素材に遮光効果を有する顔料を配合した組成物で製造されたものが挙げられる。
【0028】
上記遮光フィルムとしては、当業者が適宜選択することができるので、特に限定されるものではないが、例えば、アルミ蒸着膜、若しくは、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂及びポリエステル系樹脂等の材料に遮光効果を有する顔料を配合した組成物で構成されるものが挙げられる。これらの樹脂は、酢酸ビニル、プロピレン、アルキルビニルエーテル、アクリル酸エチル及びメタクリル酸メチル等の他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0029】
また、上記顔料としては、カーボンブラック及びチタンブラック等の無機顔料、並びに、アニリンブラック等の有機顔料が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
また、本発明は上記の血液試料採取キットを用いた血液試料分注方法にも及ぶ。本発明の血液試料分注方法は、(1)血液試料をバッグに収容するステップ、及び、(2)採血管ホルダに減圧採血管を接続するステップを含む。
【0031】
上記「(1)血液試料をバッグに収容するステップ」は、単にバッグ1に血液試料を収容すればよい。当該ステップは無菌的に行われることが望ましい。例えば、血液試料として(B)検査の済んだ残余血液から分離・精製した血清試料(プール血清)をバッグ1に収容する場合、図3に示すような出願人が提供してきた血漿精製装置を用いて自家製試料を調製する際の収集用の容器として、本発明のバッグ1を用いる態様が挙げられる。もちろん、精製する血清試料(プール血清)の量が多い場合は、それに応じてバッグ1を複数連結すればよい。
【0032】
また、上記「(2)採血管ホルダに減圧採血管を接続するステップ」も、単に採血管ホルダに減圧採血管を接続して、血液分注ユニットAと減圧採血管Bを連通させるだけであり、その作業は作業者の負担とはならない。例えば、図1に示す態様である場合は、採血管ホルダ2を4つ備えているので、4本の減圧採血管Bに同時に血液試料を分注することができる。図2は、その使用態様を示す図である。そして、この作業を繰り返して、複数の減圧採血管Bに血液試料を分注する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、臨床検査データ管理における基準試料を無菌的に扱うことができるために、医療現場における臨床検査データの信頼性が向上する。本発明は、今後、多くの医療機関で採用されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の血液試料分注ユニットの一実施態様を示す図である。
【図2】図1に示す血液試料分注ユニットの使用態様を示す図である。
【図3】本出願人が提供してきた血清精製装置の回路図である。
【符号の説明】
【0035】
1 バッグ
11 ポート
2 採血管ホルダ
3 チューブ
41 分岐管(Y字管)
42 分岐管(三方活栓)
B 減圧採血管
51 原液タンク
52 プレフィルター
53 ポンプ
541 陰圧系
542 陽圧系
55 血清濾過器
56 チャンバー
57 ローラークランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液試料を分注するためのキットであって、
前記キットは、血液分注ユニット並びに減圧採血管を含むものであり、
前記血液分注ユニットは、
血液試料を収容するためのバッグ、
前記バッグポートに直接又は間接的に接続した複数の採血管ホルダ
を備えることを特徴とする血液試料分注キット。
【請求項2】
さらに、少なくとも2以上の分岐路を有する分岐管を備えてなり、
前記採血管ホルダは前記分岐路を介して前記バッグに接続することを特徴とする請求項1に記載の血液分注キット。
【請求項3】
前記減圧採血管は、有底容器に遮光層を具備する請求項1に記載の血液試料分注キット。
【請求項4】
血液分注キットを用いて血液試料を分注する方法であって、
前記血液分注キットは、血液分注ユニット並びに減圧採血管を含むものであり、
前記血液分注ユニットは、
血液試料を収容するためのバッグ、
前記バッグに直接又は間接的に接続した採血管ホルダ
を備えることを特徴とし、
(1)血液試料をバッグに収容するステップと、
並びに(2)前記採血管ホルダに前記減圧採血管を接続するステップ
を含む血液試料分注方法。
【請求項5】
前記血液試料が、制度管理用血清である請求項4に記載の血液試料分注方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−216218(P2008−216218A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57969(P2007−57969)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】