説明

血管形成の調節に有用なトリプトファニル−tRNAシンテターゼ由来ポリペプチド

【課題】ケモカイン作用があり、研究、診断、予後及び治療用途に有用であり、血管内皮細胞機能の調節、特に血管形成、特に眼内血管新生の阻害に有用であるトリプトファニル−tRNAシンテターゼに由来し、天然に存在するものよりも短いポリペプチドの提供。
【解決手段】トリプトファニル−tRNAシンテターゼに由来する単離形水溶性ポリペプチドは血管形成の阻害に有用である。本ポリペプチドは主にアミノ酸残基配列:


又はその血管形成阻害フラグメントから構成され、単離形ポリペプチドは約45キロダルトン以下の寸法である、本ポリペプチドの使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は短縮tRNAシンテターゼポリペプチドを含む組成物と、前記短縮tRNAシンテターゼポリペプチドをコードする核酸に関する。このような組成物の製造及び使用方法も開示する。
【背景技術】
【0002】
tRNA分子のアミノアシル化を触媒するアミノアシル−tRNAシンテターゼは翻訳プロセス中に遺伝情報をデコードするのに不可欠な古典的タンパク質である。高等真核生物では9種のアミノアシル−tRNAシンテターゼが少なくとも3種の他のポリペプチドに会合して超分子多酵素複合体を形成する(Mirandeら,Eur.J.Biochem.147:281−89(1985))。真核tRNAシンテターゼは、tRNAシンテターゼの原核対応物に密接に関連するコア酵素と、このコア酵素のアミノ末端又はカルボキシル末端に付加した付加ドメインから各々構成される(Mirande,Prog.Nucleic Acid Res.Mol.Biol.40:95−142(1991))。
【0003】
殆どの場合、付加ドメインは多酵素複合体の結合に寄与すると思われる。しかし、付加ドメインの存在はシンテターゼと多酵素複合体の会合には厳密に相関していない。
【0004】
哺乳動物TrpRS分子はアミノ末端付加ドメインをもつ。正常ヒト細胞では、全長分子(配列番号1のアミノ酸残基1〜471)から構成される大きい形態と、小さい短縮形態(「ミニTrpRS」;配列番号3のアミノ酸残基1〜424)の2形態のTrpRSを検出することができる。小さい形態はプレmRNAの選択的スプライシングを介してアミノ末端ドメインの欠失により作製される(Tolstrupら,J.Biol.Chem.270:397−403(1995))。ミニTrpRSのアミノ末端は全長TrpRS分子の48位の「met」残基であることが決定されている(同上)。あるいは、タンパク分解により短縮TrpRSを作製することもできる(Lemaireら,Eur.J.Biochem.51:237−52(1975))。例えば、ウシTrpRSは膵臓で高度に発現され、膵液に分泌され(Kisselev,Biochimie 75:1027−39(1993))、その結果、短縮TrpRS分子が生産される。以上の結果は短縮TrpRSがtRNAのアミノアシル化以外の機能をもち得ることを示唆している(同上)。
【0005】
血管形成即ち既存血管からの新しい毛細血管の増殖は胚発生、後続成長及び組織修復に必要な基本プロセスである。血管形成は血管樹の発生分化と広範な基礎生理プロセス(例えば胚形成、体細胞成長、組織と臓器の修復と再生、黄体と子宮内膜の周期的増殖、及び神経系の発生分化)の前提条件である。雌生殖系では妊娠の設定と維持のために発生中の卵胞、排卵後の黄体及び胎盤で血管形成が起こる。更に、例えば創傷や骨折の治癒のような身体修復プロセスの一部としても血管形成が起こる。腫瘍が増殖するためには新しい毛細血管の増殖を連続的に刺激する必要があるので血管形成は腫瘍増殖にも関与する。血管形成はヒト固形癌の増殖の主要部分でもあり、異常な血管形成は関節リウマチ、乾癬及び糖尿病性網膜症等の他の疾患にも関連している(Folkman,J.とKlagsbrun,M.,Science 235:442−447(1987))。
【0006】
数種の因子が血管形成に関与している。酸性及び塩基性繊維芽細胞増殖因子はいずれも内皮細胞及び他の細胞種のマイトジェンである。アンジオトロピンとアンジオテンシンは血管形成を誘導するらしいが、その機能は不明である(Folkman,J.,Cancer Medicine,pp.153−170,Lea and Febiger Press(1993))。血管内皮細胞に高度に選択性のマイトジェンは血管内皮細胞増殖因子即ちVEGFである(Ferrara,N.,ら,Endocr.Rev.13:19−32(1992))。
【0007】
失明に至る大多数の疾患は眼内血管新生に起因し、65歳以上の1200〜1500万人の米国人が加齢黄斑変性(ARMD)にかかり、そのうち10〜15%が脈絡膜(網膜下)血管新生の直接結果として視力障害を併発している。65歳以下の米国人では視力障害の主因は糖尿病であり、米国では1600万人が糖尿病にかかり、年間40000人が疾患の眼科合併症を併発しており、その多くの原因が網膜血管新生である。危険度の高い糖尿病患者群で重度視力障害を予防するにはレーザー光凝固が有効であったが、10年間の総網膜症発生率は実質的に変わっていない。ARMD又は眼ヒストプラスマ症等の炎症性眼疾患による脈絡膜血管新生患者には、光凝固は少数の例外を除いて視力障害の予防に無効である。最近開発された非破壊的光線力学療法は従来治療できなかった脈絡膜血管新生患者数を一時的に減らすのに期待できるが、3〜4カ月おきに治療して視力が改善又は安定した患者はプラシーボ治療群の45.9%に比較して61.4%に止まっている。
【0008】
正常成人では血管形成は厳密に調節され、創傷治癒、妊娠及び子宮周期に制限される。血管形成は塩基性及び酸性繊維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、アンジオテンシン、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)及び血小板由来増殖因子(PDGF)等の特定血管形成分子により刺激される。血管形成はインターフェロンα、トロンボトポンジン−1、アンジオスタチン及びエンドスタチン等の阻害分子により抑制することができる。これらの天然刺激剤と阻害剤のバランスにより正常休止毛細血管系が調節される。所定疾患状態のようにこのバランスが崩れると、毛細血管内皮細胞が増殖し、移動し、最終的に分化する。
【0009】
血管形成は癌や眼内血管新生を含む種々の疾患に中心的な役割を果たす。種々の腫瘍の持続的増殖と転移も新しい宿主血管が腫瘍由来血管形成因子に反応して腫瘍に成長するためであることが分かっている。大半の眼疾患と失明の主要知見(例えば増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、ARMD、血管新生緑内障、間質性角膜炎及び早期網膜症)でも種々の刺激に反応して新血管の増殖が生じている。これらの疾患では、組織損傷が血管形成因子の放出を刺激する結果、毛細血管増殖を生じると考えられる。VEGFは虹彩血管新生と血管新生網膜症に主要な役割を果たす。眼内VEGF値と虚血性網膜症眼内血管新生の相関は明確に報告されているが、FGFが関与している可能性もある。正常成人網膜に塩基性及び酸性FGFが存在することは知られているが、検出可能な濃度が常に血管新生と相関している訳ではない。これは主にFGFが細胞外マトリックスの荷電成分に非常に密接に結合し、眼液の標準アッセイで検出される自由に拡散可能な形態では容易に得られないためであると思われる。
【0010】
血管形成反応の一般的な最終経路の1つは増殖中の血管内皮細胞と細胞外マトリックスの間でインテグリンに媒介される情報交換である。インテグリンと呼ばれるこの類の接着受容体は全細胞上でα及びβサブユニットをもつヘテロダイマーとして発現される。このようなインテグリンの1例であるαβはこのファミリーの最も相手を選ばないメンバーであり、内皮細胞を多種多様な細胞外マトリックス成分と相互作用させる。このインテグリンのペプチド及び抗体アンタゴニストは増殖中の血管内皮細胞のアポトーシスを選択的に誘導することにより血管形成を阻害する。2つのサイトカイン依存性血管形成経路が存在し、別個の血管細胞インテグリンαβ及びαβへの依存性により定義することができる。特に、各インテグリンの抗体アンダコニストはウサギ角膜及びニワトリ絨毛尿膜(CAM)モデルでこれらの血管形成経路の一方を選択的に阻害するので、塩基性FGF及びVEGFにより誘導される血管形成は夫々インテグリンαβ及びαβに依存する。全αインテグリンを阻害するペプチドアンタゴニストはFGF及びVEGFの刺激による血管形成を阻害する。正常ヒト眼内血管はインテグリンαβ及びαβのどちらも示さないが、活性な血管新生眼疾患患者からの組織ではこれらのインテグリンが血管上に選択的に示される。ARMD患者からの組織には常にαβしか観察されないが、PDR患者からの組織にはαβ及びαβの両者が存在する。インテグリンのペプチドアンタゴニストを全身投与すると、マウス網膜血管形成モデルで新規血管形成が阻止された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Mirandeら,Eur.J.Biochem.147:281−89(1985)
【非特許文献2】Mirande,Prog.Nucleic Acid Res.Mol.Biol.40:95−142(1991)
【非特許文献3】Tolstrupら,J.Biol.Chem.270:397−403(1995)
【非特許文献4】Lemaireら,Eur.J.Biochem.51:237−52(1975)
【非特許文献5】Kisselev,Biochimie 75:1027−39(1993)
【非特許文献6】Folkman,J.とKlagsbrun,M.,Science 235:442−447(1987)
【非特許文献7】Folkman,J.,Cancer Medicine,pp.153−170,Lea and Febiger Press(1993)
【非特許文献8】Ferrara,N.,ら,Endocr.Rev.13:19−32(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、抗血管形成剤は網膜変性の治療でこれらの栄養及び増殖因子の有害作用を防ぐ機能がある。血管形成剤は細胞への血流を増すことにより望ましい脈管新生を促進して網膜変性を抑制する機能もある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
トリプトファニル−tRNAシンテターゼに由来し、天然に存在するものよりも短いポリペプチドはケモカイン作用があり、研究、診断、予後及び治療用途に有用である。1態様では、これらのtRNAシンテターゼ由来ポリペプチドは血管内皮細胞機能の調節、特に血管形成、特に眼内血管新生の阻害に有用である。
【0014】
これらの短縮トリプトファニル−tRNAシンテターゼ由来ポリペプチドはアミノ末端が短縮しているが、ロスマンフォールドヌクレオチド結合ドメインを含むことができる。これらのポリペプチドは血管内皮細胞機能を調節することができる。
【0015】
好ましい短縮トリプトファニル−tRNAシンテターゼ由来ポリペプチドとしては、配列番号1のアミノ酸残基96〜471から構成されるポリペプチドとその血管形成阻害フラグメント、特に配列番号10及び配列番号11に示すシグナチャー配列の間のフラグメント又はこれらのシグナチャー配列の少なくとも一方を含むフラグメントが挙げられる。1好適態様では、短縮tRNAシンテターゼポリペプチドは哺乳動物、より好ましくはヒトに由来する。
【0016】
別の態様では、本発明は配列番号6のポリヌクレオチド、配列番号6のポリヌクレオチドにハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド、配列番号7のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、配列番号12のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、配列番号7のポリペプチドエピトープをコードするポリヌクレオチド、及び配列番号7のポリペプチドエピトープをコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドから構成される群から選択されるポリヌクレオチドの配列に少なくとも95%一致するヌクレオチド配列をもつ単離形ポリヌクレオチドに関する。本発明は上記トリプトファニル−tRNAシンテターゼ由来ポリペプチドの任意のものをコードする単離形核酸分子を含む組換え発現ベクターにも関する。別の態様はこのような組換え発現ベクターを含む宿主細胞である。
【0017】
本発明は更に短縮トリプトファニル−tRNAシンテターゼ由来ポリペプチドと医薬的に適切な賦形剤を含む組成物及び製剤を提供する。このような組成物は眼内(例えば硝子体内、網膜下等)及び全身投与(例えば経皮、経粘膜、腸管又は腸管外投与)に適している。
【0018】
別の態様では、本発明は血管形成阻害量の上記ポリペプチドと適切な生理的に適合可能な賦形剤又はキャリヤーを投与することにより、加齢黄斑変性、糖尿病眼合併症、血管新生緑内障、早期網膜症、角膜炎、虚血性網膜症(例えば鎌状細胞)、病的近視、眼ヒストプラスマ症、翼状片、点状内部脈絡膜症等の血管新生眼疾患を治療する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】トリプトファニル−tRNAシンテターゼポリペプチドのアミノ酸残基配列(配列番号1)を示し、短縮形(配列番号1のアミノ酸残基配列94〜471)に含まれるシグナチャー配列(配列番号10及び配列番号11)を囲みの中に示す。
【図2】マウスモデルにおける網膜血管発生を示す顕微鏡写真。
【図3】実施例3に報告したデータのグラフ。
【図4】実施例4に報告したデータのグラフ。
【図5】マウスモデルの網膜におけるTrpRSのフラグメント(T2)の結合局在を示す顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
「短縮tRNAシンテターゼポリペプチド」とは対応する全長tRNAシンテターゼよりも短いポリペプチドを意味する。
【0021】
「TrpRS」とはトリプトファニル−tRNAシンテターゼを意味する。
【0022】
「細胞培養液」とは培地と培養細胞の両者を包含する。
【0023】
「細胞培養液からポリペプチドを単離する」なる表現は培地から可溶性又は分泌ポリペプチドを単離することと、培養細胞から膜内在性タンパク質を単離することを包含する。
【0024】
「細胞抽出液」は培地、特に細胞を取出した後の廃培地を含む。目的DNA又はタンパク質を含有する細胞抽出液は目的タンパク質を発現するか又は目的DNAを含む細胞から得られる均質調製物又は無細胞調製物を意味すると理解すべきである。
【0025】
「プラスミド」は自律性自己複製染色体外DNA分子であり、小文字「p」とその前及び/又は後に大文字及び/又は数字で表す。本明細書に記載する出発プラスミドは公に無制限に得られる市販品でもよいし、文献記載の方法に従って市販プラスミドから構築してもよい。更に、記載するプラスミドに等価のプラスミドも当分野で公知であり、当業者に自明である。
【0026】
DNAの「消化」とはDNA中の所定配列のみに作用する制限酵素でDNAを触媒開裂することを意味する。本明細書で使用する種々の制限酵素は市販されており、その反応条件、補因子及び他の要件は当業者に公知の通りに使用した。分析目的では、一般にプラスミド又はDNAフラグメント1μgを緩衝液約20μl中で酵素約2単位と使用する。プラスミド構築のためにDNAフラグメントを単離する目的では、一般にDNA5〜50μgをもっと多い容量中で酵素20〜250単位で消化する。特定制限酵素に適した緩衝液と基質の量は製造業者に指定されている。通常は37℃で約1時間のインキュベーション時間を使用するが、製造業者の指示に従って変動できる。消化後に反応物をポリアクリルアミドゲル上で直接電気泳動させ、所望フラグメントを単離する。種々のDNA及びRNAフラグメントに存在するヌクレオチドを本明細書では当分野で使用されている標準一文字表記(A、T、C、G、U)で表す。
【0027】
本発明の1態様である「ポリヌクレオチド」はRNA形態でもDNA形態でもよく、DNAはcDNA、ゲノムDNA及び合成DNAを含む。DNAは2本鎖でも1本鎖でもよく、1本鎖の場合にはコーディング鎖でも非コーディング(アンチセンス)鎖でもよい。成熟ポリペプチドをコードするコーディング配列は配列番号6に示すコーディング配列と同一でもよいし、遺伝コードの冗長又は縮重の結果として配列番号7に示す同一成熟ポリペプチド配列をコードする別のコーディング配列でもよい。
【0028】
「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」なる用語はポリペプチドのコーディング配列のみを含むポリヌクレオチドと、付加コーディング及び/又は非コーディング配列を加えたポリヌクレオチドを包含する。
【0029】
「オリゴヌクレオチド」とは化学的に合成可能な1本鎖ポリヌクレオチド又は2本の相補的ポリヌクレオチド鎖を意味する。このような合成オリゴヌクレオチドは5’リン酸をもたないので、キナーゼの存在下にリン酸とATPを加えないと別のオリゴヌクレオチドと連結しない。合成オリゴヌクレオチドは脱リン酸されていないフラグメントに連結する。
【0030】
「アミノ酸残基」とはポリペプチドを構成するアミノ酸を意味する。本明細書に記載するアミノ酸残基はL”異性形が好ましい。しかし、所望機能特性がポリペプチドに維持される限り、任意Lアミノ酸残基をD”異性形残基に置換してもよい。NHはポリペプチドのアミノ末端に存在する遊離アミノ基を意味する。COOHはポリペプチドのカルボキシル末端に存在する遊離カルボキシ基を意味する。J.Biol.Chem.,243:3552−59(1969)に記載され、37C.F.R.§§1.821−1.822に公認されている標準ポリペプチド命名法に従い、アミノ酸残基の略称を下表に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
本明細書に式で表す全アミノ酸残基配列は慣例通り、左から右に向かってアミノ末端からカルボキシル末端である。更に、「アミノ酸残基」なる用語は表1に記載するアミノ酸だけでなく、参考資料として本明細書に組込む37C.F.R.§§1.821−1.822に記載されているような改変及び特殊アミノ酸も含むものとして広義に定義される。アミノ酸残基配列の先頭と末尾のダッシュは1個以上のアミノ酸残基からなる付加配列又はNH等のアミノ末端基又はCOOH等のカルボキシル末端基とのペプチド結合を示す。
【0033】
ペプチド又はタンパク質ではアミノ酸の適切な保存置換が当業者に公知であり、一般に置換後の分子の生理活性を変えずに可能である。当業者に自明の通り、一般にポリペプチドの非必須領域の単一アミノ酸置換は生理活性を実質的に変えない(例えばWatsonら,Molecular Biology of the Gene,第4版,1987,The Benjamin/Cummings Pub.Co.,p.224参照)。
【0034】
このような置換は下表2の記載に従うことが好ましい。
【0035】
【表2】

他の置換も許容可能であり、経験又は公知保存置換に従って決定することができる。
【0036】
「相補プラスミド」とは細胞ゲノム内の染色体に安定に組込むためのパッケージング細胞株に核酸を送達するプラスミドベクターを意味する。
【0037】
「送達プラスミド」とは治療遺伝子又は治療物質もしくはその前駆物質をコードする遺伝子又は調節遺伝子又はin vivoもしくは細胞株(例えばパッケージング細胞株が挙げられるが、これに限定されない)に送達すると治療効果を生じて治療ウイルスベクターを増殖する他の因子をコードする核酸を輸送又は送達するプラスミドベクターである。
【0038】
本明細書には種々のベクターを記載する。例えば、あるベクターは染色体に安定に組込むためのパッケージング細胞株に特定核酸分子を送達するために使用される。この種のベクターを本明細書では一般に相補プラスミドと呼ぶ。本明細書に記載する別種のベクターは治療ウイルスベクターを増殖させる目的で核酸分子を細胞株(例えばパッケージング細胞株)に輸送又は送達するものであり、これらのベクターを本明細書では一般に送達プラスミドと呼ぶ。本明細書に記載する第3「種」のベクターは治療を必要とする対象の特定細胞又は細胞種に治療タンパク質もしくはポリペプチド又は調節タンパク質もしくは調節配列をコードする核酸分子を輸送するために使用され、これらのベクターを本明細書では一般に治療ウイルスベクター又は組換えアデノウイルスベクター又はウイルスAd由来ベクターと呼び、治療遺伝子を発現させるための発現カセットを含むウイルス核酸を封入したウイルス粒子の形態である。
【0039】
「DNA又は核酸ホモログ」とは治療ポリペプチドをコードする配列等の予め選択された保存ヌクレオチド配列を含む核酸を意味する。「実質的に相同」なる用語は相同度が少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%であるか、又は相同度もしくは一致度百分率は前記よりも低いが、生理活性又は機能が保存されていることを意味する。
【0040】
「相同度」及び「一致度」なる用語は同義に使うことが多い。ここで、相同度又は一致度は例えばGAPコンピュータープログラムを使用して配列情報を比較することにより決定することができる。GAPプログラムはNeedlemanとWunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)のアラインメント法をSmithとWaterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の変法に従って利用している。要約すると、GAPプログラムは類似する整列記号(即ちヌクレオチド又はアミノ酸)の数を2つの配列の短いほうの合計記号数で割った数として類似度を定義する。GAPプログラムの好適デフォルトパラメーターは(1)(一致に1、不一致に0の値を含む)単項比較マトリックスと、SchwartzとDayhoff編,Atlas of Protein Sequence and Structure,National Biomedical Research Foundation,pp.353−358(1979)に記載されているようなGribskovとBurgess,Nucl.Acids Res.14:6745(1986)の加重比較マトリックス、(2)各ギャップに3.0のペナルティと各ギャップの各記号に追加0.10ペナルティ、(3)末端ギャップにペナルティなしを含むことができる。任意2つの核酸分子が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%「一致する」ヌクレオチド配列をもつか否かは例えばPearsonとLipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444(1988)に記載されているようなデフォルトパラメーターを使用して「FAST A」プログラム等の公知コンピューターアルゴリズムを使用して決定することができる。あるいは、National Center for Biotechnology InformationデータベースのBLAST関数を使用して一致度を決定することもできる。一般に、最高位マッチが得られるように配列を整列する。「一致度」自体は当業者に一般に認められている通りの意味であり、文献記載の方法を使用して計算することができる。(例えばComputational Molecular Biology,Lesk,A.M.編,Oxford University Press,New York,(1988);Smith,D.W.編,Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Academic Press,New York,(1993);Griffin,A.M.とGriffin,H.G.編,Computer Analysis of Sequence Data,Part I,Humana Press,New Jersey,(1994);von Heinje,G.,Sequence Analysis in Molecular Biology,Academic Press,(1987);及びGribskov,M.とDevereux,J.編,Sequence Analysis Primer,M Stockton Press,New York,(1991)参照)。2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列間の一致度を測定する方法は多数存在するが、「一致度」なる用語は当業者に周知である(Carillo,H.& Lipton,D.,SIAM J.Applied Math.48:1073(1988))。2つの配列間の一致度又は類似度を決定するために一般に使用されている方法としては、Martin J.Bishop編,Guide to Huge Computers,Academic Press,San Diego,(1994)やCarillo,H.& Lipton,D.,SIAM J.Applied Math.48:1073(1988)に記載されている方法が挙げられるが、これらに限定されない。一致度及び類似度を決定する方法はコンピュータープログラムで体系化されている。2つの配列間の一致度及び類似度を決定するための好適コンピュータープログラム法としてはGCGプログラムパッケージ(Devereux,J.,ら,Nucleic Acids Research 12(I):374(1984))、BLASTP、BLASTN、FASTA(Atschul,S.F.,ら,J.Molec.Biol.215:403(1990))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
「一致度」なる用語は試験ポリペプチド又はポリヌクレオチドと参照ポリペプチド又はポリヌクレオチドの比較を表す。例えば、参照ポリペプチドと90%以上一致する任意ポリペプチドとして試験ポリペプチドを定義することができる。本明細書で使用する少なくとも「90%一致」なる用語は参照ポリペプチドに対して90〜99.99%の一致度百分率を意味する。90%以上の一致度は、例えば100アミノ酸長の試験ポリペプチドと参照ポリヌクレオチドを比較した場合に試験ポリペプチドと参照ポリペプチドの相違が10%(即ちアミノ酸100個のうちの10個)以下であることを示す。同様の比較を試験ポリヌクレオチドと参照ポリヌクレオチドの間で行うことができる。このような相違はアミノ酸配列の完全長にわたってランダムに分配された点突然変異でもよいし、最大許容差(例えば10/100アミノ酸差(約90%一致度))までの変動長の1以上の位置に群発していてもよい。相違は核酸又はアミノ酸置換又は欠失として定義される。
【0042】
「遺伝子治療」及び「遺伝子療法」なる用語はこのような治療を要する疾患又は状態をもつ哺乳動物、特にヒトの所定細胞、標的細胞への異種DNAの導入を意味する。異種DNAが発現され、このDNAにコードされる治療物質が生産されるように異種DNAを選択標的細胞に導入する。あるいは、異種DNAは治療物質をコードするDNAの発現を何らかの方法で媒介するものでもよいし、治療物質の発現を直接又は間接的に何らかの方法で媒介する物質(例えばペプチド又はRNA)をコードするものでもよい。遺伝子療法は遺伝子産物をコードする核酸で欠損遺伝子を置換するため又は前記核酸を導入する哺乳動物又は細胞により生産される遺伝子産物を補充するためにも使用できる。導入する核酸は通常は哺乳動物宿主で生産されないか又は治療上有効な量もしくは治療上有用な時点で生産されない治療化合物(例えば増殖因子もしくはその阻害剤又は腫瘍壊死因子もしくはその阻害剤又はその受容体)をコードするものでもよい。治療物質をコードする異種DNAは治療物質又はその発現を強化又は他の方法で改変するために疾患宿主の細胞に導入する前に修飾してもよい。
【0043】
「異種DNA」はこのDNAを発現させる細胞が通常はin vivoで生産しないRNA及びタンパク質をコードするDNAでもよいし、転写、翻訳又は他の調節可能な生化学プロセスに作用することにより内在DNAの発現を改変するメディエーターを媒介又はコードするRNA及びタンパク質をコードするDNAでもよい。異種DNAは外来DNAと言うこともできる。DNAを発現させる細胞に対して異種又は外来であると当業者に認識又は判断される任意DNAを本明細書では異種DNAに包含する。異種DNAの例としては、追跡可能なマーカータンパク質(例えば薬剤耐性を付与するタンパク質)をコードするDNA、治療上有効な物質(例えば抗癌剤、酵素及びホルモン)をコードするDNA、及び他の種のタンパク質(例えば抗体)をコードするDNAが挙げられるが、これらに限定されない。異種DNAによりコードされる抗体は異種DNAを導入した細胞の表面に分泌又は発現させることができる。従って、「異種DNA」又は「外来DNA」とは対応する野生型アデノウイルスに存在する対応するDNA分子と全く同一の方向と位置には存在しないDNA分子を意味する。別の生物もしくは種(即ち外因性)又は別のAd血清型からのDNA分子を意味する場合もある。
【0044】
「治療上有効なDNA産物」とは、DNAを宿主に導入すると、遺伝性もしくは後天性疾患の症状、徴候を有効に改善もしくは解消するか又は前記疾患を治癒する物質が発現されるように異種DNAによりコードされる物質である。一般に、所望異種DNAをコードするDNAをプラスミドベクターにクローニングし、リン酸カルシウムによるDNA取込み又はマイクロインジェクション等の日常的方法により産生細胞(例えばパッケージング細胞)に導入する。産生細胞で増幅後に異種DNAを含むベクターを選択標的細胞に導入する。
【0045】
「発現又は送達ベクター」とは適切な宿主細胞で発現させるため、即ちDNAによりコードされるタンパク質又はポリペプチドを宿主細胞系で合成するために外来又は異種DNAを挿入することができる任意プラスミド又はウイルスを意味する。1種以上のタンパク質をコードするDNAセグメント(遺伝子)の発現を誘導することが可能なベクターを本明細書では「発現ベクター」と言う。逆転写酵素を使用して生産されたmRNAからcDNA(相補的DNA)をクローニングするためのベクターも含む。
【0046】
「遺伝子」はそのヌクレオチド配列がRNA又はポリペプチドをコードする核酸分子である。遺伝子はRNAでもDNAでもよい。遺伝子はコーディング領域の前後の領域(リーダー及びトレーラー)と、各コーディングセグメント(エキソン)間の介在配列(イントロン)を含んでいてもよい。
【0047】
核酸分子、ポリペプチド又は他の生体分子について「単離形」と言う場合には、核酸又はポリペプチドがポリペプチド又は核酸を獲得した遺伝環境から分離していることを意味する。天然状態からの改変を意味する場合もある。例えば、本明細書で使用する用語によると、生きた動物に天然に存在するポリヌクレオチド又はポリペプチドは「単離」形ではないが、その天然状態の共存物質から分離された同一ポリヌクレオチド又はポリペプチドは「単離」形である。従って、組換え宿主細胞内で生産されるか及び/又は組換え宿主細胞に含まれるポリペプチド又はポリヌクレオチドは単離形とみなす。組換え宿主細胞又は天然源から部分的又は実質的に精製されたポリペプチド又はポリヌクレオチドも「単離形ポリペプチド」又は「単離形ポリヌクレオチド」とみなす。例えば、化合物の組換え生産物はSmithとJohnson,Gene 67:31−40(1988)に記載されている1段階法により実質的に精製することができる。「単離」及び「精製」なる用語は同義に使用する場合もある。このようなポリヌクレオチドはベクターの一部でもよいし、及び/又はこのようなポリヌクレオチド又はポリペプチドは組成物の一部でもよく、このようなベクター又は組成物はその天然環境を構成しないのでやはり単離形と言える。
【0048】
「単離形ポリヌクレオチド」とは、核酸が(仮に存在するとして)生物の天然ゲノムで目的核酸をコードする遺伝子のすぐ両側の遺伝子のコーディング配列をもたないことを意味する。単離形DNAは1本鎖でも2本鎖でもよく、ゲノムDNA、cDNA、組換えハイブリッドDNA又は合成DNAのいずれでもよい。天然DNA配列と同一でもよいし、1個以上のヌクレオチドの欠失、付加又は置換によりこのような配列と相違していてもよい。
【0049】
生体細胞又は宿主から作製した調製物について「単離」又は「精製」と言う場合には、指定DNA又はタンパク質を含有する任意細胞抽出液を意味し、目的DNA又はタンパク質の粗抽出液を含む。例えばタンパク質の場合には、個々の操作又は一連の調製もしくは生化学操作後に精製調製物を得ることができ、目的DNA又はタンパク質はこれらの調製物に種々の純度で存在し得る。手法としては硫安分画、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、密度勾配遠心分離及び電気泳動を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0050】
「実質的に純粋」であるか又は「単離」形のDNA又はタンパク質調製物とは、このようなDNA又はタンパク質が通常天然に会合している天然物質を含まない調製物を意味する。「ほぼ純粋」とは少なくとも95%の目的DNA又はタンパク質を含む「高度に」精製された調製物を意味すると理解すべきである。
【0051】
「パッケージング細胞株」は欠失遺伝子産物又はその等価物を提供する細胞株である。
【0052】
「アデノウイルス粒子」はウイルスの最小構造又は機能単位である。ウイルスは単粒子、粒子ストック又はウイルスゲノムを意味することができる。アデノウイルス(Ad)粒子は比較的複雑で種々のサブ構造に分解することができる。
【0053】
「転写後調節エレメント(PRE)」はスプライスされてない即ちイントロンなしのメッセージであるウイルス又は細胞メッセンジャーRNAに存在する調節エレメントである。例えばヒト肝炎ウイルス、ウッドチャック肝炎ウイルス、TK遺伝子及びマウスヒストン遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。PREはポリA配列の前で異種DNA配列の後に配置することができる。
【0054】
「シュードタイピング」とはベクター自体の血清型とは異なる血清型に由来する1種以上の改変キャプシドタンパク質をもつアデノウイルスベクターの生産を意味する。1例はAd37繊維タンパク質を含むアデノウイルス5ベクター粒子の生産である。これは種々の繊維タンパク質を発現するパッケージング細胞株でアデノウイルスベクターを生産することにより実施することができる。
【0055】
「本発明の該当プロモーター」は誘導型でも構成型でもよい。誘導型プロモーターは付加分子の存在下でしか転写を開始せず、構成型プロモーターは遺伝子発現の調節に付加分子の存在を必要としない。RNAポリメラーゼ結合及び開始率又は程度が外部刺激により調節される場合には調節又は誘導型プロモーターもプロモーターと言うことができる。このような刺激は種々の化合物又は組成物、光、熱、ストレス及び化学エネルギー源等であるが、これらに限定されない。誘導、抑圧及び抑制型プロモーターは調節プロモーターとみなす。本発明で好ましいプロモーターは眼細胞、特に光受容細胞で選択的に発現されるプロモーターである。
【0056】
「受容体」とは他の分子と特異的に結合する生体活性分子を意味する。「受容体タンパク質」なる用語は特定受容体のタンパク性をより厳密に示すために使用することができる。
【0057】
「組換え」とは遺伝子組換えの結果として形成される任意子孫を意味する。これはパッケージング細胞でプラスミドの組換えにより形成されるウイルスを表すためにも使用することができる。
【0058】
「トランスジーン」又は「治療核酸分子」はRNA又はポリペプチドをコードするDNA及びRNA分子を含む。このような分子は「天然」又は天然由来配列でもよいし、天然又は組換え由来の「非天然」又は「外来」でもよい。「トランスジーン」なる用語は本明細書では「治療核酸分子」と同義に使用することができ、ウイルスベクターにより輸送されて宿主細胞に導入される異種又は外来(外因性)遺伝子を表すために使用することが多い。治療ヌクレオチド核酸分子はアンチセンス配列又はアンチセンス配列に転写可能なヌクレオチド配列を含む。全治療ヌクレオチド配列(又はトランスジーン)は前記治療配列を送達する細胞又は細胞核で所望効果を生じるように機能する核酸分子を含む。例えば、治療核酸分子は機能タンパク質を生産することができない細胞に送達するための機能タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むことができる。
【0059】
「硝子体」とは水晶体の後方の室を満たす物質(即ち硝子体液又は硝子体)を意味する。
【0060】
「プロモーター領域」とはこの領域と作動的に連結されたDNAの転写を調節する遺伝子のDNA部分を意味する。プロモーター領域はRNAポリメラーゼ認識、結合及び転写開始に十分な特定DNA配列を含む。プロモーター領域のこの部分をプロモーターと言う。更に、プロモーター領域はこのRNAポリメラーゼ認識、結合及び転写開始活性を調節する配列を含む。これらの配列はシス作用型でもよいし、トランス作用因子に反応性のものでもよい。プロモーターは調節の種類に応じて構成型でもよいし、調節型でもよい。
【0061】
「作動的に連結」とは1つのセグメント上の調節配列が他のセグメントの発現又は複製等を調節するように配列又はセグメントが(1本鎖でも2本鎖でもよい)DNAの1片に共有結合していることを意味する。但し、2つのセグメントは必ずしも隣接していなくてもよい。
【0062】
「パッケージ」とは本発明のポリペプチド、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を一定区域内に保持することが可能なガラス、プラスチック(例えばポリエチレン、ポリプロピレン又はポリカーボネート)、紙、箔等の固体マトリックス又は材料を意味する。従って、例えばパッケージはmg量の所期ポリペプチドを収容するために使用するガラスバイアルでもよいし、夫々抗体又は抗原に免役学的に結合できるようにμg量の所期ポリペプチド又は抗体を作動的に固定(即ち結合)したマイクロタイタープレートウェルでもよい。
【0063】
「使用説明書」は一般に試薬濃度又は少なくとも1つのアッセイ方法パラメーター(例えば混合する試薬と試料の相対量、試薬/試料混合物の保持時間、温度、緩衝液条件等)を記載した有形文書を含む。
【0064】
本発明の関連で「診断システム」は本発明のポリペプチド又は抗体分子を含む免役複合体の形成を示すことが可能な標識又は指示手段も含む。
【0065】
本明細書で使用する「複合体」とは抗体−抗原又は受容体−リガンド反応等の特異的結合反応の生成物を意味する。複合体の例は免役反応物である。
【0066】
各種文法形で記載する「標識」及び「指示手段」は複合体の存在を示すための検出可能なシグナルの発生に直接又は間接的に関与する単原子又は分子を意味する。本発明の抗体又はモノクローナル抗体組成物を構成する発現タンパク質、ポリペプチド又は抗体分子に任意標識又は指示手段を結合又は組込むことができ、あるいは別に使用してもよく、これらの原子又は分子は単独で使用してもよいし、付加試薬と併用してもよい。このような標識自体は臨床診断化学で周知であり、他の点で新規なタンパク質、方法及び/又は系と併用する場合のみに本発明を構成する。
【0067】
考察
図1に配列番号1のアミノ酸残基94〜471(例えば配列番号12)として示すポリペプチド及び配列番号7のアミノ酸配列をもつポリペプチド又は配列番号6のcDNAによりコードされるポリペプチドは本発明を構成する。本発明は上記ポリペプチドの変異体とポリヌクレオチドの変異体にも関する。ポリヌクレオチド変異体はポリヌクレオチドの天然対立遺伝子変異体でもポリヌクレオチドの非天然変異体でもよい。従って、本発明は配列番号7、配列番号12に示すと同一のポリペプチド及び配列番号6のcDNAによりコードされるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、配列番号7及び配列番号12のポリペプチドの血管形成阻害フラグメント、誘導体又は類似体をコードする前記ポリヌクレオチドの変異体に関する。このようなヌクレオチド変異体としては欠失変異体、置換変異体及び付加又は挿入変異体が挙げられる。
【0068】
上述のように、ポリヌクレオチドは配列番号6に示すコーディング配列の天然対立遺伝子変異体であるコーディング配列をもつことができる。当分野で公知のように、対立遺伝子変異体はコードされるポリペプチドの機能を実質的に変えずに1個以上のヌクレオチドを置換、欠失又は付加したポリヌクレオチド配列の代替形である。
【0069】
本明細書で使用するT1なる用語は配列番号13のアミノ酸配列をもつポリペプチドと、配列番号5のアミノ酸配列をもつHisタグ付きポリペプチドの両者を意味する。本明細書で使用するT2なる用語は配列番号12のアミノ酸配列をもつポリペプチドと、配列番号7のアミノ酸配列をもつHisタグ付きポリペプチドの両者を意味する。本明細書で使用するTrpRSなる用語は配列番号1の残基1〜471のアミノ酸配列をもつポリペプチドと、配列番号1のアミノ酸配列をもつHisタグ付きポリペプチドの両者を意味する。
【0070】
本発明は宿主細胞からのポリペプチドの発現と分泌を助長するポリヌクレオチド(例えば細胞からのポリペプチドの輸送を調節するための分泌配列として機能するリーダー配列)に成熟ポリペプチドのコーディング配列を同一読み枠で融合できるポリヌクレオチドにも関する。リーダー配列をもつポリペプチドはプレタンパク質であり、宿主細胞により開裂されるとポリペプチドの成熟形を形成するリーダー配列をもつことができる。ポリヌクレオチドは5’アミノ酸残基を付加した成熟タンパク質であるプロタンパク質をコードすることもできる。プロ配列をもつ成熟タンパク質はプロタンパク質であり、タンパク質の不活性形である。プロ配列を開裂すると活性成熟タンパク質が残る。
【0071】
従って、例えば、本発明のポリヌクレオチドは成熟タンパク質又はプロ配列をもつタンパク質又はプロ配列とプレ配列(リーダー配列)の両者をもつタンパク質をコードすることができる。
【0072】
本発明のポリヌクレオチドは本発明のポリペプチドの精製を可能にするマーカー配列にインフレーム融合したコーディング配列をもつこともできる。マーカー配列は細菌宿主の場合にはマーカーに融合した成熟ポリペプチドの精製を可能にするためにpQE−9ベクターにより提供されるヘキサヒスチジンタグとすることができ、あるいは例えば哺乳動物宿主(例えばCOS−7細胞)を使用する場合にはマーカー配列はヘマグルチニン(HA)タグとすることができる。HAタグはインフルエンザヘマグルチニンタンパク質に由来するエピトープに対応する(Wilson,I.,ら,Cell,37:767(1984))。
【0073】
本発明は更に配列間に少なくとも50%、好ましくは70%の一致度が存在する場合に上記配列とハイブリダイズするポリヌクレオチドにも関する。本発明は特に上記ポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドに関する。本明細書で使用する「ストリンジェント条件」なる用語は配列間に少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%の一致度が存在する場合のみにハイブリダイゼーションが起こることを意味する。1好適態様で上記ポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドは配列番号6のcDNAによりコードされる成熟ポリペプチドと実質的に同一の生理機能又は活性を保持するポリペプチドをコードする。
【0074】
配列番号7、配列番号12のポリペプチド又は配列番号6のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドに関して「フラグメント」、「誘導体」及び「類似体」と言う場合には、これらのポリペプチドと実質的に同一の抗血管形成(即ち血管形成阻害)機能又は活性を保持するポリペプチド部分を意味する。従って、「類似体」はプロタンパク質部分の開裂により活性化されると抗血管形成活性成熟ポリペプチドを生産することができるプロタンパク質を含む。
【0075】
本発明のポリペプチドは組換えポリペプチドでも、天然ポリペプチドでも、合成ポリペプチドでもよいが、組換えポリペプチドが好ましい。
【0076】
配列番号7、配列番号12のポリペプチド又は配列番号6のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの血管形成阻害フラグメント、誘導体又は類似体は(i)アミノ酸残基の1個以上を保存又は非保存アミノ酸残基(好ましくは保存アミノ酸残基)で置換したものでもよく、このような置換アミノ酸残基は遺伝コードによりコードされるものでもされないものでもよく、(ii)アミノ酸残基の1個以上が置換基を含むものでもよいし、(iii)ポリペプチドの半減期を増すための化合物(例えばポリエチレングリコール)等の別の化合物にポリペプチドを融合したものでもよいし、(iv)リーダーもしくは分泌配列又はポリペプチドもしくはプロタンパク質配列の精製に使用される配列等の付加アミノ酸をポリペプチドに融合したものでもよい。このようなフラグメント、誘導体及び類似体は本明細書の教示から当業者が容易に想到し得るとみなす。
【0077】
本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドは単離形態で提供することが好ましく、均質まで精製されていることが好ましい。
【0078】
本発明は更に本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、本発明のベクターを用いて遺伝子組換えした宿主細胞及び組換え技術による本発明のポリペプチドの製造にも関する。
【0079】
宿主細胞は例えばクローニングベクター又は発現ベクター等の本発明のベクターを用いて遺伝子組換え(形質導入又は形質転換又はトランスフェクト)する。ベクターは例えばプラスミド、ウイルス粒子、ファージ等の形態とすることができる。組換え宿主細胞はプロモーターの活性化、形質転換体の選択又はtRNAシンテターゼポリペプチド遺伝子の増幅等の目的で適宜改変した慣用栄養培地で培養することができる。温度、pH等の培養条件は発現に選択する宿主細胞に従来使用されている通りであり、当業者に自明である。
【0080】
本発明のポリヌクレオチドは組換え技術により対応するポリペプチドを製造するために使用することができる。従って、例えば、種々の発現媒体、特にポリペプチド発現用ベクター又はプラスミドの任意のものにポリヌクレオチド配列を挿入できる。このようなベクターとしては染色体、非染色体及び合成DNA配列(例えばSV40の誘導体)、細菌プラスミド、ファージDNA、酵母プラスミド、プラスミドとファージDNAの組合せに由来するベクター、ウイルスDNA(例えばワクシニア、アデノウイルス、鶏痘ウイルス及び仮性狂犬病ウイルス)が挙げられる。好ましいベクターはpET20bである。しかし、宿主で複製可能且つ生存可能であれば他の任意プラスミド又はベクターも使用できる。
【0081】
上述のように、適切なDNA配列を種々の方法によりベクターに挿入することができる。一般に、当分野で公知の方法により適切な制限酵素部位にDNA配列を挿入する。このような方法等も当業者が容易に想到できるとみなす。
【0082】
発現ベクター内のDNA配列はmRNA合成を誘導するのに適した発現調節配列(プロモーター)に作動的に連結させる。このようなプロモーターの代表的な例としてはLTR又はSV40プロモーター、大腸菌lac又はtrpプロモーター、ファージλPプロモーター及び原核もしくは真核細胞又はそれらのウイルスで遺伝子の発現を調節することが知られている他のプロモーターが挙げられる。発現ベクターは更に翻訳開始のためのリボソーム結合部位と転写ターミネーターも含む。ベクターは更に発現の増幅に適した配列も含むことができる。
【0083】
更に、配列ベクターは形質転換宿主細胞の選択用表現型を提供するための遺伝子(例えば真核細胞培養にはデヒドロ葉酸レダクターゼ又はネオマイシン耐性、大腸菌ではテトラサイクリン又はアンピシリン耐性)を含むことが好ましい。
【0084】
上記のような適切なDNA配列と適切なプロモーター又は調節配列を含むベクターを使用して適切な宿主を形質転換すると、宿主にタンパク質を発現させることができる。適切な宿主の代表的な例としては細菌細胞(例えば大腸菌、ネズミチフス菌、ストレプトミセス)、真菌細胞(例えば酵母)、昆虫細胞(例えばショウジョウバエ及びSf9)、動物細胞(例えばCHO、COS又はボーズメラノーマ)、植物細胞等が挙げられる。適切な宿主の選択は本明細書の教示から当業者が容易に想到できるとみなす。
【0085】
より特定的には、本発明は上記に概説したような配列の1種以上を含む組換え構築物にも関する。構築物は本発明の配列を順又は逆方向に挿入したベクター(例えばプラスミド又はウイルスベクター)を含む。本態様の1好適側面では、構築物は配列に作動的に連結した調節配列(例えばプロモーター)を更に含む。多数の利用可能なベクターやプロモーターが当業者に公知であり、市販されている。例えば以下のベクターが挙げられる。細菌:pQE70、pQE−9(Qiagen)、pBS、ファージスクリプト、psiX174、pBluescript SK、pBSKS、pNH8a、pNH16a、pNH18a、pNH46a(Stratagene);pTrc991、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pRIT5(Pharmacia)。真核:pWLneo、pSV2cat、pOG44、pXT1、pSG(Stratagene);pSVK3、pBPV、pMSG、pSVL(Pharmacia)及びpET20B。1好適態様では、ベクターはpET20Bである。しかし、宿主で複製可能且つ生存可能であれば他の任意プラスミド又はベクターも使用できる。
【0086】
プロモーター領域はCAT(クロラムフェニコールトランスフェラーゼ)ベクター又は選択マーカーをもつ他のベクターを使用して任意所望遺伝子から選択することができる。適切なベクターを2種挙げると、pKK232−8とpCM7である。特定名の細菌プロモーターとしてはlacI、lacZ、T3、T7、gpt、λP、PL及びtrpが挙げられる。真核プロモーターとしてはCMV極初期、HSVチミジンキナーゼ、初期及び後期SV40、レトロウイルス由来LTR及びマウスメタロチオネイン−Iが挙げられる。適切なベクターとプロモーターの選択は当業者が容易に実施できる。
【0087】
別の態様では、本発明は上記構築物を含む宿主細胞に関する。宿主細胞は哺乳動物細胞等の高等真核細胞でもよいし、酵母細胞等の下等真核細胞でもよいし、細菌細胞等の原核細胞でもよい。構築物を宿主細胞に導入するにはリン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラントランスフェクション又はエレクトロポレーションを利用することができる(Davis,L.,Dibner,M.,Battey,I.,Basic Methods in Molecular Biology,1986)。
【0088】
宿主細胞中の構築物を慣用方法で使用し、組換え配列によりコードされる遺伝子産物を生産することができる。あるいは、慣用ペプチド合成器により本発明のポリペプチドを合成することもできる。
【0089】
タンパク質は適切なプロモーターの制御下に哺乳動物細胞、酵母、細菌又は他の細胞で発現させることができる。無細胞翻訳系を利用し、本発明のDNA構築物に由来するRNAを使用してこのようなタンパク質を生産することもできる。原核及び真核宿主で使用するのに適したクローニング及び発現ベクターはSambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,Cold Spring Harbor,N.Y.,(1989)に記載されており、その開示内容は参考資料として本明細書に組込む。
【0090】
本発明のポリペプチドをコードするDNAの高等真核細胞による転写は、エンハンサー配列をベクターに挿入することにより増進する。エンハンサーは通常約10〜約300塩基対(bp)のDNAのシス作用エレメントであり、プロモーターに作用してその転写を増進する。例としては複製起点の後期側のSV40エンハンサー(100〜270bp)、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。
【0091】
一般に、組換え発現ベクターは複製起点と、宿主細胞の形質転換を可能にする選択マーカー(例えば大腸菌のアンピシリン耐性遺伝子やS.cerevisiae TRP1遺伝子)と、下流構造配列の転写を誘導するための高度発現遺伝子に由来するプロモーターを含む。このようなプロモーターは特に3−ホスホグリセル酸キナーゼ(PGK)、αファクター、酸ホスファターゼ又は熱ショックタンパク質等の解糖酵素をコードするオペロンから誘導することができる。翻訳開始及び終結配列と、好ましくは翻訳されたタンパク質を細胞周辺腔又は細胞外媒質に分泌させることが可能なリーダー配列と異種構造配列を適切な段階で結合する。場合により、異種配列は所望特性(例えば発現される組換え産物の安定化や簡易精製)を付与するN末端認識ペプチドを含む融合タンパク質をコードすることもできる。
【0092】
適切な宿主株を形質転換し、宿主株を適切な細胞密度まで増殖させた後に選択プロモーターを適切な手段(例えば温度変化又は化学的誘導)により抑圧し、細胞を更に一定期間培養する。
【0093】
細胞を一般に遠心分離により回収し、物理的又は化学的手段で破砕し、得られた粗抽出液を更に精製するために保持する。
【0094】
タンパク質の発現に使用する微生物細胞は凍結−解凍サイクル、音波処理、機械的破砕、又は細胞溶解剤の使用等の任意慣用方法により破砕することができる。
【0095】
種々の哺乳動物細胞培養系を使用して組換えタンパク質を発現させることもできる。哺乳動物発現系の例としてはGluzman,Cell,23:175(1981)に記載されているサル腎繊維芽細胞株COS−7や、適合可能なベクターを発現することが可能な他の細胞株(例えばC127、3T3、CHO、HeLa及びBHK細胞株)が挙げられる。哺乳動物発現ベクターは複製起点と、適切なプロモーター及びエンハンサーと、必要な任意リボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライス供与及び受容部位、転写終結配列、並びに5’フランキング非転写配列を含む。SV40ウイルスゲノムに由来するDNA配列(例えばSV40起点、初期プロモーター、エンハンサー、スプライス及びポリアデニル化部位)を使用すると、必要な非転写遺伝エレメントを提供することができる。
【0096】
従来使用されている方法(例えば硫安又はエタノール沈殿、酸抽出、アニオン又はカチカン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィー)により組換え細胞培養液からポリペプチドを回収し、精製する。精製中に存在するカルシウムイオンは低濃度(約0.1〜5mM)にすることが好ましい(Priceら,J.Biol.Chem.,244:917(1969))。必要に応じて成熟タンパク質の構成を完成するのにタンパク質リフォールディング段階を使用してもよい。最後に、最終精製段階として高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用することができる。
【0097】
本発明のポリペプチドは天然精製物でもよいし、化学合成物でもよいし、原核又は真核宿主(例えば培養細菌、酵母、高等植物、昆虫及び哺乳動物細胞)から組換え技術により製造してもよい。組換え製造法で使用する宿主に応じて、本発明のポリペプチドを哺乳動物又は他の真核炭水化物でグリコシル化してもよいし、グリコシル化しなくてもよい。
【0098】
本発明のポリペプチドは安定性を改善し、力価を増すために当分野で公知の手段により改変することができる。例えば、Lアミノ酸をDアミノ酸で置換してもよいし、アミノ末端をアセチル化してもよいし、カルボキシル末端を修飾(例えばエチルアミンでキャップ)してもよい(Dawson,D.W.,ら,Mol.Pharmacol.,55:332−338(1999))。
【0099】
本発明のポリペプチドはこのようなポリペプチドをin vivo発現させることにより本発明による遺伝子治療として利用することもできる。
【0100】
本明細書に教示するような遺伝子治療に利用可能な種々のウイルスベクターとしてはアデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニア、アデノ随伴ウイルス(AAV)、又は好ましい例としてRNAウイルス(例えばレトロウイルス)が挙げられる。レトロウイルスベクターはマウス又は鳥類レトロウイルスの誘導体であるか又はレンチウイルスベクターであることが好ましい。好ましいレトロウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。単一外来遺伝子を挿入可能なレトロウイルスベクターの例としてはモロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳腺癌ウイルス(MuMTV)、SIV、BIV、HIV及びラウス肉腫ウイルス(RSV)が挙げられるが、これらに限定されない。多数の付加レトロウイルスベクターに複数遺伝子を組込むこともできる。これらの全ベクターは導入した細胞を同定及び作製できるように選択マーカー遺伝子を導入又は組込むことができる。例えば、特定標的細胞上の受容体のリガンドをコードする別の遺伝子と共に亜鉛フィンガーに由来する目的DNA結合ポリペプチド配列をウイルスベクターに挿入することにより、ベクターを標的特異的にする。例えばタンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入することによりレトロウイルスベクターを標的特異的にすることができる。好適ターゲティングは抗体を使用してレトロウイルスベクターを送達することにより実施される。亜鉛フィンガー−ヌクレオチド結合タンパク質ポリヌクレオチドを含むレトロウイルスベクターの標的特異的送達を実現できるようにレトロウイルスゲノムに挿入可能な特定ポリヌクレオチド配列は当業者に公知であるか又は過度の実験なしに容易に見出すことができる。
【0101】
組換えレトロウイルスは欠損しているので、感染性ベクター粒子を生産するためには補助が必要である。この補助は例えばLTR内の調節配列の制御下にレトロウイルスの全構造遺伝子をコードするプラスミドを含むヘルパー細胞株を使用することにより得られる。これらのプラスミドはキャプシド封入用RNA転写産物をパッケージング機構に認識させるヌクレオチド配列を欠失している。パッケージングシグナルを欠失するヘルパー細胞株としては例えばΨ2、PA317及びPA12が挙げられるが、これらに限定されない。ゲノムがパッケージングされないので、これらの細胞株は空のビリオンを生産する。パッケージングシグナルは無傷であるが、構造遺伝子を他の目的遺伝子で置換したこのような細胞にレトロウイルスベクターを導入すれば、ベクターをパッケージングし、ベクタービリオンを生産することができる。その後、この方法により生産したベクタービリオンを使用して組織細胞株(例えばNIH3T3細胞)に感染させると、大量のキメラレトロウイルスビリオンを生産することができる。
【0102】
亜鉛フィンガー由来DNA結合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの別の標的送達系はコロイド分散系である。コロイド分散系として巨大分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ及び脂質系(例えば水中油エマルション、ミセル、混合ミセル及びリポソーム)が挙げられる。本発明の好適コロイド系はリポソームである。リポソームはin vitro及びin vivo送達媒体として有用な人工膜小胞である。0.2〜4.0μmの寸法範囲の大きな単層小胞(LUV)は大きな巨大分子を含む実質的百分率の水性緩衝液を封入できることが分かっている。RNA、DNA及び無傷のビリオンを内部水相に封入し、生理活性形態で細胞に送達することができる(Fraleyら,Trends Biochem.Sci.,6:77,(1981))。哺乳動物細胞以外に、リポソームは植物、酵母及び細菌細胞にポリヌクレオチドを送達するためにも使用されている。リポソームが効率的な遺伝子導入媒体であるためには、以下の特性が必要である。(1)生理活性を損なわずに高効率で目的遺伝子を封入できる、(2)非標的細胞に比較して標的細胞に優先的且つ実質的に結合する、(3)小胞の水分を高効率で標的細胞の細胞質に送達する、(4)遺伝情報を正確且つ有効に発現する(Manninoら,Biotechniques,6:682(1988))。
【0103】
リポソームの組成は通常はリン脂質、特に相転移温度の高いリン脂質を通常はステロイド、特にコレステロールと組合せている。他のリン脂質や他の脂質も使用できる。リポソームの物性はpH、イオン強度及び2価カチオンの存在に依存する。
【0104】
リポソーム製造に有用な脂質の例としてはホスファチジル化合物(例えばホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン)、スフィンゴ脂質、セレブロシド及びガングリオシドが挙げられる。脂質部分が14〜18、特に16〜18個の炭素原子を含み、飽和しているジアシルホスファチジルグリセロールが特に有用である。リン脂質の例としては卵ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン及びジステアロイルホスファチジルコリンが挙げられる。
【0105】
リポソームのターゲティングは解剖学的及び機械的因子に基づいて分類されている。解剖学的分類は例えば臓器特異的、細胞特異的及びオルガネラ特異的等の選択性レベルに基づく。機械的ターゲティングは受動的であるか能動的であるかに基づいて区別することができる。受動的ターゲティングはリポソームが洞様毛細血管を含む臓器の細網内皮系(RES)の細胞に分配される自然傾向を利用している。他方、能動的ターゲティングはリポソームをモノクローナル抗体、糖、糖脂質又はタンパク質等の特異的リガンドに結合するか、天然局在部位以外の臓器及び細胞種にターゲティングできるようにリポソームの組成又は寸法を変えることによりリポソームを改変する。
【0106】
標的送達系の表面は種々の方法で改変することができる。リポソーム標的送達系の場合には、ターゲティングリガンドとリポソーム二重層の安定な結合を維持するようにリポソームの脂質二重層に脂質基を組込むことができる。脂質鎖をターゲティングリガンドに結合するには種々の連結基を使用することができる。
【0107】
一般に、標的送達系の表面に結合する化合物は、標的送達系に所望細胞を検出させてこの細胞に「誘導」するリガンドと受容体である。リガンドは受容体等の別の化合物に結合する任意目的化合物とすることができる。
【0108】
一般に、特定エフェクター分子に結合する表面膜タンパク質を受容体と言う。本発明では、抗体が好適受容体である。抗体を使用するとリポソームを特異的細胞表面リガンドに送達することができる。例えば、腫瘍細胞上で特異的に発現される所定抗原は腫瘍関連抗原(TAA)と呼ばれ、抗体−亜鉛フィンガー−ヌクレオチド結合タンパク質を含むリポソームを悪性腫瘍に直接送達する目的で使用することができる。亜鉛フィンガー−ヌクレオチド結合タンパク質遺伝子産物は細胞種に無差別に作用するので、標的送達系は非特異的リポソームをランダムに注入するよりも著しい改善をもたらす。ポリクローナル又はモノクローナル抗体をリポソーム二重層に共有結合するには多数の方法を利用できる。抗体標的リポソームは標的細胞上の抗原エピトープに効率的に結合するならばモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよいし、Fab又はF(ab’)等のそのフラグメントでもよい。ホルモン又は他の血清因子の受容体を発現する細胞にリポソームを送達してもよい。
【0109】
核酸分子を標的細胞に導入するのに適した多数のウイルス及び非ウイルス方法が当業者に利用可能である。一次腫瘍細胞の遺伝子操作は当分野で周知である。細胞の遺伝子改変は遺伝子治療分野で周知の1種以上の方法を使用して実施することができる(Mulligan,R.C.Human Gene Therapy,5(4):543−563(1993))。ウイルス導入法は標的細胞に感染させるためにシアリルトランスフェラーゼ活性をもつタンパク質の発現を誘導又は阻害する核酸配列を含む組換えDNA又はRNAウイルスを使用することができる。本発明で使用するのに適したDNAウイルスとしてはアデノウイルス(Ad)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス又はポリオウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。本発明で使用するのに適したRNAウイルスとしてはレトロウイルス又はシンドビスウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。当業者に自明の通り、本発明で使用するのに適したこのようなDNA及びRNAウイルスは数種のものが存在する。
【0110】
ワクチン開発のために動物モデルで真核遺伝子発現を試験する目的で真核細胞に遺伝子導入するにはアデノウイルスベクターが有用である。嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節(CFTR)遺伝子を肺に導入するなど、Ad媒介遺伝子治療もヒトで利用されている。組換えAdを各種組織にin vivo投与する経路としては例えば気管内注入、筋肉注射、末梢静脈注射及び脳定位注入が挙げられる。アデノウイルスベクターは当業者に広く入手可能であり、本発明で使用するのに適している。
【0111】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は遺伝子治療で潜在用途がある遺伝子導入系として最近開発された。野生型AAVは高レベル感染性、広い宿主範囲及び宿主細胞ゲノムへの組込み特異性を示すと報告されている。1型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)は神経向性があるため、特に神経系で使用するのにベクター系として注目されている。ポックスウイルスファミリーのワクシニアウイルスも発現ベクターとして開発されている。上記ベクターは各々当業者に広く入手可能であり、本発明で使用するのに適していると思われる。
【0112】
レトロウイルスベクターは高率の標的細胞に感染し、細胞ゲノムに組込むことができる。レトロウイルスは他のウイルスよりも比較的初期に遺伝子導入ベクターとして開発され、遺伝子マーキングとアデノシンデアミナーゼ(ADA)のcDNAのヒトリンパ球導入に使用するのに最初に成功した。好適レトロウイルスとしてはレンチウイルスが挙げられる。好適態様では、レトロウイルスはHIV、BIV及びSIVから構成される群から選択される。
【0113】
遺伝子治療に使用又は提案されている「非ウイルス」送達法としてはDNA−リガンド複合体、アデノウイルス−リガンド−DNA複合体、DNAの直接注入、CaPO沈殿、遺伝子銃法、エレクトロポレーション、リポソーム及びリポフェクションが挙げられる。これらの方法はいずれも当業者に広く利用可能であり、本発明で使用するのに適していると思われる。他の適当な方法も当業者に利用可能であり、当然のことながら、本発明は利用可能な任意トランスフェクション法を使用して実施することができる。このような方法のいくつかは当業者に利用され、種々の成果を上げている。リポフェクションは単離形DNA分子をリポソーム粒子に封入し、リポソーム粒子を標的細胞の細胞膜に接触させることにより実施することができる。リポソームはホスファチジルセリンやホスファチジルコリン等の両親媒性分子から構成される脂質二重層が内部親水相を囲むように周囲媒体の一部を封入する自己結合性コロイド粒子である。内部に所望薬品、薬剤又は本発明のように単離形DNA分子を含むように単層又は多層リポソームを構成することができる。
【0114】
細胞はin vivo、ex vivo又はin vitroのいずれでトランスフェクトしてもよい。細胞は患者から単離した一次細胞としてトランスフェクトしてもよいし、一次細胞に由来する細胞株としてトランスフェクトしてもよく、必ずしも最終的に細胞を投与する患者の自系でなくてもよい。ex vivo又はin vitroトランスフェクション後に細胞を宿主に移植してもよい。
【0115】
標的細胞内で本発明の核酸の転写を得るためには、標的細胞で遺伝子発現を誘導することが可能な転写調節領域を使用する。転写調節領域はプロモーター、エンハンサー、サイレンサー又はリプレッサーエレメントを含むことができ、本発明の核酸と機能的に関連させる。転写調節領域は標的細胞で高レベルな遺伝子発現を誘導することが好ましい。本発明で使用するのに適した転写調節領域としてはヒトサイトメガロウイルス(CMV)極初期エンハンサー/プロモーター、SV40初期エンハンサー/プロモーター、JCポリオーマウイルスプロモーター、アルブミンプロモーター、PGK及びCMVエンハンサーに結合したαアクチンプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
本発明のベクターは当業者に広く利用可能な標準組換え技術を使用して構築することができる。このような技術はSambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press(1989)、D.Goeddel編,Gene Expression Technology,Methods in Enzymology series,Vol.185,Academic Press,San Diego,CA(1991)、及びInnisら,PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press,San Diego,CA(1990)等の一般分子生物学参考書に記載されている。
【0117】
本発明のポリペプチド又は核酸を標的細胞にin vivo投与するには、当業者に周知の種々の方法の任意のものを使用して実施することができる。
【0118】
本発明のベクターは医薬的に許容可能な慣用キャリヤー、アジュバント及びビヒクルを含む用量単位製剤として経口、非経口、吸入スプレー、直腸又は局所投与することができる。本明細書で使用する非経口なる用語は皮下、静脈内、筋肉内、胸骨内、輸液法又は腹腔内を含む。常温で固体であるが、直腸温度で液体となるので、直腸で溶けて薬剤を放出する適当な非刺激性賦形剤(例えばカカオバターやポリエチレングリコール)と薬剤を混合することにより薬剤の直腸投与用坐薬を製造することができる。
【0119】
本発明のベクター及び/又は本発明の組成物で疾患又は疾病を治療するための投薬計画は疾病の種類、患者の年齢、体重、性別、症状、症状の重篤度、投与経路、及び使用する特定化合物等の種々の因子に基づいて決定する。従って、投薬計画は多様であるが、標準方法を使用して通常通りに決定することができる。
【0120】
本発明の医薬活性化合物は慣用製薬法に従って加工し、ヒト及び他の哺乳動物を含む患者に投与する医薬組成物又は薬剤を製造することができる。経口投与用として、医薬組成物は例えば液剤、眼インサート、カプセル剤、錠剤、懸濁液の形態にすることができる。医薬組成物は所与量の活性剤を含有する用量単位形態で製造することが好ましい。例えば、ウイルス粒子約10〜1015個、好ましくは約10〜1012個の量のベクターを含むことができる。ヒト又は他の哺乳動物に適した1日用量は患者の症状又は他の因子に応じて広い範囲をとることができるが、この場合も日常的方法を使用して決定することができる。生理食塩水、デキストロース又は水等の適当な薬理的に許容可能なキャリヤーとの組成物として活性剤を注射により投与することもできる。
【0121】
本発明の核酸及び/又はベクターは単独活性薬剤として投与できるが、本発明の1種以上のベクター又は他の薬剤と併用することもできる。併用剤として投与する場合には、同時又は時間をずらせて投与する別々の組成物として治療剤を処方してもよいし、単一組成物として治療剤を投与してもよい。
【0122】
本発明のポリペプチドは適当な医薬キャリヤーと併用することもできる。このような組成物は治療上有効な量のタンパク質と、医薬的に許容可能なキャリヤー又は賦形剤を含む。このようなキャリヤーとしては生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール及びその組合せ等が挙げられるが、これらに限定さない。製剤は投与方法に適合しなければならない。
【0123】
本発明は更に本発明の医薬組成物の成分の1種以上を充填した1個以上の容器を含む医薬パック又はキットも提供する。このような容器には医薬又は生物製品の製造、使用又は販売を管轄する政府機関が規定した形態の表示を付することができ、この表示にはヒト投与用製造、使用又は販売を政府機関に認可されたことを示す。更に、本発明のポリペプチドは他の治療化合物と併用することもできる。
【0124】
医薬組成物は眼内、点眼及び全身経路等の慣用方法で投与することができる。tRNAシンテターゼ由来ポリペプチドの患者への投与量と投薬計画は投与方法、治療する症状の種類、治療する対象の体重及び処方医の判断等の多数の因子に依存する。一般に、少なくとも約10μg/kg体重の治療上有効な量のポリペプチドを投与する。頻度、投与経路、症状等を考慮すると、用量は毎日約10μg/kg体重〜約1mg/kg体重が好ましい。
【0125】
血管形成と新血管形成は固体腫瘍増殖の必須段階であるので、抗血管形成TrpRS療法を使用すると、内因及び外因血管形成因子の血管形成活性を阻止し、それ以上の増殖を防ぐか固体腫瘍を退化させることさえできる。このような治療はいずれも異常な血管形成を特徴とする関節リウマチ、乾癬及び糖尿病性網膜症の治療にも使用することができる。
【0126】
本発明は特定受容体を発現する細胞に治療遺伝子産物を送達するための組換えアデノウイルス送達ベクターを治療上有効な量と濃度で含有する組成物も提供する。これらの細胞には眼細胞が含まれる。眼の光受容細胞が特に有利である。投与は光受容細胞との接触を行う任意手段により実施することができる。光受容細胞に接近できるようにするために好ましい投与方法としては網膜下注射や硝子体内注射が挙げられるが、これらに限定されない。
【0127】
組換えウイルス組成物はコラーゲンスポンジ等の生分解性支持体に吸着させる等の持続放出製剤や、リポソームとして前眼房又は後眼房、好ましくは硝子体腔に移植するように処方することもできる。持続放出製剤は1カ月又は約1年間まで等の選択期間中に数回投与するように多重用量投与用に処方することができる。従って、例えば単用量を1回の注射で合計約2回〜約5回以上まで投与するようにリポソームを製造することができる。
【0128】
ベクターは約0.05ml〜0.15ml、好ましくは約0.05〜0.1mlの容量の眼内、好ましくは硝子体内投与に眼科学的に許容可能なキャリヤーで処方する。
【0129】
組成物は眼内投与すると約50〜150μl容量中に少なくとも約10、より好ましくは少なくとも約10プラーク形成単位を含む十分な量のウイルス粒子を光受容細胞に送達する量の活性剤を含む密閉無菌バイアルに収容して提供することができる。従って、バイアルは一般に約0.15mlの組成物を含む。
【0130】
このような組成物を製造するためには、ウイルス粒子を適当な眼科学的に許容可能なキャリヤーで透析するか、ウイルス粒子をこのようなキャリヤーで濃縮及び/又は混合する。得られる混合物は溶液でも、懸濁液でも、エマルションでもよい。更に、ウイルス粒子は組成物中の単独医薬活性成分として処方してもよいし、治療する特定疾患に適した他の活性剤と併用してもよい。
【0131】
眼内注射又は点眼剤として投与するのに適したキャリヤーとしては生理食塩水、リン酸緩衝食塩水(PBS)、平衡塩類溶液(BSS)、リンゲル乳酸溶液、及び増粘剤と可溶化剤(例えばグルコース、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールとその混合物)を含む溶液が挙げられるが、これらに限定されない。リポソーム懸濁液も医薬的に許容可能なキャリヤーとして利用できる。これらは当業者に公知の方法に従って製造することができる。適当な眼科学的に許容可能なキャリヤーは公知である。眼科用溶液又は混合物は適当な塩でpH約5〜7の0.01%〜10%等張溶液として処方することができる(例えば眼洗浄液と局所投与用溶液の典型的組成について記載した米国特許第5,116,868号参照)。このような溶液はpHを約7.4に調整し、例えば90〜100mM塩化ナトリウム、4〜6mM第二リン酸カリウム、4〜6mM第二リン酸ナトリウム、8〜12mMクエン酸ナトリウム、0.5〜1.5mM塩化マグネシウム、1.5〜2.5mM塩化カルシウム、15〜25mM酢酸ナトリウム、10〜20mMD,L−β−ヒドロキシ酪酸ナトリウム及び5〜5.5mMグルコースを含有する。
【0132】
組成物は活性剤が体内から短時間で排出されないようにするキャリヤーを(例えば徐放製剤やコーティング)用いて製造することができる。このようなキャリヤーとしては制御放出製剤(例えばマイクロカプセル送達系が挙げられるが、これに限定されない)や、生分解生体適合性ポリマー(例えばエチレン−酢酸ビニル、ポリ無水酸、ポリグリコール酸、ポリオルトエステル、ポリ乳酸及び前眼房又は後眼房又は硝子体腔に直接挿入可能な他の種のインプラント)が挙げられる。組成物はELVAX(登録商標)ペレット(エチレン−酢酸ビニルコポリマー樹脂、DuPont)等のペレットとして投与することもできる。
【0133】
組織標的リポソームを含むリポソーム懸濁液も医薬的に許容可能なキャリヤーとして利用できる。例えば、リポソーム製剤は当業者に公知の方法により製造することができる(例えばKimmら,Bioch.Bioph.Acta 728:339−398(1983);Assilら,Arch Ophthalmol.105:400(1987);及び米国特許第4,522,811号参照)。ウイルス粒子はリポソーム系の水相に封入することができる。
【0134】
活性材料又は活性剤は所望作用を損なわない他の活性材料又は所望作用を補うかもしくは他の作用をもつ材料と混合してもよく、このような材料としては粘弾性材料が挙げられ、例えばヒアルロン酸ナトリウム(例えば米国特許第5,292,362号、5,282,851号、5,273,056号、5,229,127号、4,517,295号及び4,328,803号参照)約300万フラクションの高分子量(MW)溶液である商品名HEALON(登録商標)(Pharmacia,Inc)で市販されているヒアルロン酸、1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシルメタアクリレート(例えば米国特許第5,278,126号、5,273,751号及び5,214,080号参照)等の含フッ素(メタ)アクリレートである商品名VISCOAT(登録商標)(Alcon Surgical,Inc.)で市販されている樹脂、商品名ORCOLON(登録商標)(Optical Radiation Corporation,例えば米国特許第5,273,056号参照)で市販されている樹脂、メチルセルロース、ヒアルロン酸メチル、ポリアクリルアミド及びポリメタクリルアミド(例えば米国特許第5,273,751号参照)が挙げられる。粘弾性材料は一般に共役材料の約0.5〜5.0重量%、好ましくは1〜3重量%の範囲の量を配合し、被処理組織を被覆及び保護するように機能する。組成物は眼に注入したときに組成物を判別できるように更に色素(例えばメチレンブルー又は他の不活性色素)を加えてもよい。付加活性剤も加えてもよい。
【0135】
組成物はガラス、プラスチック又は他の適当な材料から製造したアンプル、使い捨て注射器又は多重もしくは単一用量バイアルに密封することができる。このような密封組成物をキットで提供することができる。特に、約0.100mlを送達するために十分な量の組成物を加えたバイアル、アンプル又は他の容器、好ましくは使い捨てバイアルと、使い捨て針、好ましくはセルフシーリング25〜33ゲージ以下の針を含むキットも本発明により提供される。
【0136】
最後に、組成物はパッケージング材料、一般にはバイアルと、本発明のポリペプチドを含む眼科学的に許容可能な組成物と、組成物の治療用途を表示したラベルを含む製品としてパッケージングすることができる。
【0137】
本明細書に記載する方法を実施するためのキットも提供する。キットは1回用量を投与するのに十分な組成物を充填した1個以上の容器(例えば密閉バイアル)と、1本以上の針(例えば25〜33ゲージ以下、好ましくは33ゲージ以下のセルフシーリング針)と、硝子体内注射に適した精密目盛付き注射器又は他の精密目盛付き送達装置を含む。
【0138】
組成物の投与は眼内注射が好ましいが、十分な量の化合物を硝子体腔に接触できるならば他の投与方法も有効であり得る。眼内注射は硝子体内注射、房水注射又は眼の外層注射(例えば結膜下注射又は上強膜下注射)により実施することができ、浸透製剤を使用する場合には角膜局所投与も実施できる。
【0139】
任意特定患者毎に個体要求と組換えウイルス投与者又は投与監督者の専門的判断に従って特定投薬計画を経時的に調節すべきである。本明細書に記載する濃度と量の範囲は例示に過ぎず、特許請求の範囲に記載する方法の範囲又は実施を制限するものではない。
【0140】
以下、実施例により本発明の特定態様とその種々の使用を例証する。以下の実施例は例証と説明の目的に過ぎず、発明を制限するとみなすべきではない。
【実施例1】
【0141】
無内毒素組換えTrpRSの作製
無内毒素組換えヒトTrpRSを次のように作製した。全長TrpRS(配列番号1のアミノ酸残基1〜471)又は配列番号1の残基94〜471(即ち全長TrpRSの残基94〜471)から主に構成される短縮TrpRS(以下、T2(配列番号12)と言う)と、配列番号1の残基71〜471から主に構成される第2の短縮TrpRS(以下、T1(配列番号13)と言う)を作製した。各プラスミドは6個のヒスチジン残基(例えば配列番号1のアミノ酸残基472〜484)を含むC末端タグと開始メチオニン残基もコードした。Hisタグ付きT1は配列番号5のアミノ酸配列をもち、Hisタグ付きT2は配列番号7のアミノ酸配列をもつ。
【0142】
上記プラスミドを大腸菌株BL21(DE3)(Novagen,Madison,WI)に導入した。同様に6個のヒスチジン残基からなるC末端タグをコードするヒト成熟EMAPIIも同様に作製して使用した。細胞をイソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシドで4時間処理することにより組換えTrpRSの過剰発現を誘導した。次に細胞を溶解させ、上清からのタンパク質をHIS・BIND(登録商標)ニッケルアフィニティーカラム(Novagen)で製造業者の提案プロトコールに従って精製した。精製後、1μM ZnSOを加えたリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の存在下にTrpRSタンパク質をインキュベートした後、遊離Zn2+を除去した(Kisselevら,Eur.J.Biochem.120:511−17(1981))。
【0143】
Triton X−114を使用して相分離により内毒素をタンパク質試料から除去した(Liuら,Clin.Biochem.30:455−63(1997))。E−TOXATE(登録商標)ゲル−クロットアッセイ(Sigma,St.Louis,MO)を使用してタンパク質試料の内毒素含有量が1mL当たり0.01単位未満であることを確認した。ウシ血清アルブミン(BSA)を標準として使用してBradfordアッセイ(Bio−Rad,Hercules,CA)によりタンパク質濃度を測定した。
【実施例2】
【0144】
PMNエラスターゼによるヒトTrpRSの開裂
PMNエラスターゼによるヒト全長TrpRSの開裂を試験した。プロテアーゼ:タンパク質比が1:3000となるようにPBS(pH7.4)中PMNエラスターゼでTrpRSを0、15、30又は60分間処理した。開裂後、試料を12.5%SDS−ポリアクリルアミドゲル上で分析した。DNAのヌクレオチド3428〜4738(配列番号2)によりコードされる約53kDaの全長TrpRSをPMNエラスターゼで開裂すると、約46kDaの大きいフラグメント(配列番号5、C末端ヒスチジンタグをもつT1)と約43kDaの小さいフラグメント(配列番号7、C末端ヒスチジンタグをもつT2)が生成された。
【0145】
組換えTrpRSタンパク質のカルボキシル末端Hisタグに対する抗体を使用してウェスタンブロット分析した処、どちらのフラグメントもそのカルボキシル末端にHisタグをもつことが判明した。即ち、2つのTrpRSフラグメントはアミノ末端のみが短縮していた。ABI Model 494シーケンサーを使用してエドマン分解法によりTrpRSフラグメントのアミノ末端配列を決定した。これらのフラグメントのシーケンシングによると、アミノ末端配列はS−N−H−G−P(配列番号8)及びS−A−K−G−I(配列番号9)であり、大小TrpRSフラグメントのアミノ末端残基は全長TrpRSの夫々71位と94位に位置することが判明した。これらのヒトTrpRS構築物を図1に要約する。シグナチャー配列−HVGH−(配列番号10)及び−KMSAS−(配列番号11)を囲みの中に示す。
【0146】
大小TrpRSフラグメントの抗血管形成活性を血管形成アッセイで分析した。これらのアッセイではC末端ヒスチジンタグ(配列番号1のアミノ酸残基472〜484)を各々もつ大小TrpRSフラグメント(配列番号5及び配列番号7)の組換え形を使用した。どちらのTrpRSフラグメントも血管形成を阻害することができた。
【実施例3】
【0147】
TrpRSの短縮フラグメントは網膜血管形成に強力な抗血管形成作用を示す。
【0148】
生後マウス網膜血管形成モデルでトリプトファニル−tRNAシンテターゼ(TrpRS、53kd;配列番号1)に由来する短縮形の抗血管形成活性を試験した。Friedlanderら,Abstracts 709−B84及び714−B89,IOVS41(4):138−139(March 15,2000)はマウスでは生後網膜血管形成が段階的に進行すると報告している。本発明はこの段階的な網膜血管真性を利用することにより血管形成阻害をアッセイする方法を提供する。
【0149】
無内毒素組換えミニTrpRS(ヒスチジンタグ付きTrpRSの48kDaスプライス変異体、配列番号3)及びT2(ヒスチジンタグ付きTrpRSの43kDa開裂産物、配列番号7)を組換えタンパク質として作製した。これらのタンパク質を新生Balb/Cマウスに生後(P)7又は8日に硝子体内注射し、P12又はP13に網膜を摘出した。コラーゲンIV抗体とフルオレセイン結合二次抗体を使用して全網膜プレパラート中の血管を可視化した。注射したタンパク質が外深部脈管叢の形成に及ぼす効果に基づく共焦点顕微鏡試験により抗血管形成活性を評価した。解剖顕微鏡(SMZ 645,Nikon,日本)を使用して硝子体内注射と網膜分離を実施した。生後7日(P7)にマウスの眼瞼に薄刃ブレードで裂け目をつけて眼球を露出させ、T2(5pmol)又はTrpRS(5pmol)を注射した。試料(0.5μl)は32ゲージ針(Hamilton Company,Reno,NV)を装着した注射器で注射した。注射は赤道と角膜輪部の間に行い、注射中は針先端の位置を直接目視により監視し、針先端が硝子体腔内にあることを確認した。水晶体又は網膜が針で損傷した眼は試験から除外した。注射後に眼瞼を元に戻して裂け目を閉じた。
【0150】
生後12日(P12)に動物を安楽死させて眼を摘出した。4%パラホルムアルデヒド(PFA)に10分間浸漬した後、角膜、水晶体、強膜及び硝子体を辺縁切開により分離した。氷上でメタノールに10分間浸漬した後に氷上でPBS中20%正常ヤギ血清(The Jackson Laboratory,Bar Harbor,ME)を加えた50%胎仔ウシ血清(Gibco,Grand Island,NY)で1時間ブロックすることにより単離網膜を調製した。ブロッキング緩衝液で18時間4℃で200倍に希釈したウサギ抗マウスコラーゲンIV抗体(Chemicon,Temecula,CA)で網膜を染色することにより血管を特異的に可視化した。ALEXA FLUOR(登録商標)594を結合したヤギ抗ウサギIgG抗体(Molecular Probes,Eugene,OR)(ブロッキング緩衝液で200倍に希釈)を網膜に加えて2時間4℃でインキュベートした。退色防止マウント液M(Molecular Probes,Eugene,OR)を用いて網膜をマウントした。
【0151】
P8〜P12の間に形成される外深部網膜血管層(二次層)における血管形成度に基づいて抗血管形成活性を評価した。内部血管網(一次層)の外観を正常発生と毒性徴候の有無について評価した。本実施例で使用したタンパク質構築物のうちで一次層に有害な影響を及ぼすものは皆無であった。
【0152】
図2はT2がマウス網膜の二次深部血管網の血管新生を阻害する能力を示す顕微鏡写真である。図2中、A段はTrpRSに暴露した網膜の血管網を示し、B段はミニTrpRSに暴露した網膜の血管網を示し、C段は本発明のポリペプチドT2に暴露した網膜の血管網を示す。第1(左)列は一次表層網を示し、第2列は二次深部網を示す。図2から明らかなように、一次表層網に作用するポリペプチドはなかったが、T2のみは二次深部網の血管新生を有意に阻害した。
【0153】
PBSで処理した眼の大半は正常な網膜血管発生を示したが、処理した眼(n=73)の約8.2%に外側血管層の完全阻害が認められた。ミニTrpRS(0.5mg/ml)で処理した眼(n=75)の28%には外側網の完全阻害が認められた。もっと小さい短縮形(T2)は更に強力な用量依存的血管形成阻害剤であり、0.1mg/mlのT2で処理(n=14)後は14.3%、0.25mg/mlで処理(n=20)後は40%、0.5mg/mlで処理(n=53)後は69.8%が完全に阻害された。0.5mg/ml処理のデータを図3にグラフにより示す。SDS−PAGEとウェスタンブロットによる分析では、マウス網膜抽出物はヒトミニTrpRSと同一の見掛け分子量と免役反応性をもつタンパク質を含む。マウスとヒトの全長TrpRSはアミノ酸一致度が約88%であり、夫々アミノ酸475個及び471個を含む。TrpRSの短縮形、特にT2は網膜血管発生に強力な抗血管形成効果をもつ。
【実施例4】
【0154】
マトリゲル血管形成アッセイ
Brooksら,Methods Mol.Biol.,129:257−269(1999)及びEliceiriら,Mol.Cell,4:915−924(1999)に記載されている方法に従ってマウスマトリゲル血管形成アッセイを使用してT2(配列番号7)の抗血管形成活性を試験した。文献記載の方法を次のように改変して行った。20nM VEGFを加えた増殖因子無添加マトリゲル(Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)400μlを無胸腺Wehiマウスに皮下注射した。マトリゲルプラグに2.5μM T2を加えることによりまずT2の抗血管形成活性を試験した。種々の濃度のT2をプラグに加えて力価を測定した。5日目にフルオレセイン標識内皮結合レクチンGriffonia(Bandeiraea) Simplicifolia I、イソレクチンB4(Vector Laboratories,Burlingame,CA)をマウスに静脈注射し、マトリゲルプラグを切除した。RIPA緩衝液(10mMリン酸ナトリウム,pH7.4、150mM塩化ナトリウム、1%Nonidet P−40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム)中でプラグを粉砕後に分光学的分析により各プラグのフルオレセイン含量を定量した。
【実施例5】
【0155】
網膜内のT2結合の局在
網膜に注入したT2の取込みと局在を調べるために、フルオレセイン標識(ALEXA(登録商標)488,Molecular Probes,Inc.,Eugene OR)したT2を生後7日(P7)に硝子体に注入した。P8とP12に眼球を摘出し、4%PFAで15分間固定した。更に網膜から付着性非網膜組織を切除し、4%PFAに4℃で一晩浸した後、ドライアイス上で媒質(TISSUE−TEK(登録商標)O.C.T.,Sakura Fine Technical Co.,日本)で包埋した。クリオスタット切片(10ミクロン)をPBSで再水和し、PBS中5%BSA、2%正常ヤギ血清でブロックした。血管を抗マウスコラーゲンIV抗体で上述のように可視化した。DAPI核染色剤を加えたVECTASHIELD(登録商標)(Vector Laboratories,Burlingame,CA)を使用して組織をカバースリップにマウントした。
【0156】
別法として、非染色網膜切片にブロッキング緩衝液中200nMフルオレセイン標識全長TrpRS又はフルオレセイン標識T2を加えて一晩4℃でインキュベートした。切片を各々PBSで5分間6回洗浄後、1μg/ml DAPIを加えて5分間インキュベートし、核を可視化した。フルオレセイン標識T2と共にインキュベートする前に1μM未標識T2を8時間4℃でインキュベートすることにより未標識T2によるプレブロッキングを行った。多光子BioRad MRC1024共焦点顕微鏡で網膜を試験した。Confocal Assistantソフトウェア(BioRad,Hercules,CA)を使用して1組のZ系画像から3−D血管画像を生成した。
【0157】
マウスマトリゲルプラグアッセイにおける抗血管形成力価。T2(配列番号7)がアミノアシル化活性を失っても抗血管形成活性をもつかどうかを試験した。マウスマトリゲルアッセイを使用してT2のin vivo抗血管形成活性を試験した。VEGF165はマウスマトリゲルプラグに血管の発生を誘導する。VEGF165と共にT2をマトリゲルに加えると、図4に示すように血管形成は1.7nMのIC50で用量依存的に阻止された。
【0158】
フルオレセイン標識T2は網膜血管に局在する。T2(配列番号7)の眼内局在を可視化するために、生後7日に硝子体内注射後にフルオレセイン標識T2の分布を試験した。網膜を翌日摘出し、切断し、共焦点顕微鏡を使用して試験した。注射したタンパク質の分配は血管に限定されていた。標識T2で処理した眼をフルオレセイン標識(ALEXA(登録商標)594)抗コラーゲンIV抗体で同時染色することによりこの局在を確認した(データは示さず)。フルオレセイン標識T2注射後5日(P12)に標識T2の緑色蛍光はまだ目に見えていた(図5A)。これらの網膜ではP12に二次血管層は観察されず、フルオレセイン標識T2が未標識T2と同等の抗血管形成活性をもつと考えられた。フルオレセイン標識全長TrpRSをP7に注射した網膜はP12までに二次血管層を形成し、血管染色は観察されなかった(図5B)。図5中、フルオレセイン標識タンパク質は緑、コラーゲン標識血管は赤、核は青である。
【0159】
標識T2の結合特性を更に評価するために、正常新生網膜の横断面切片をフルオレセイン標識T2で染色した。これらの条件下ではフルオレセイン標識T2のみが血管に結合した(図5C)。結合は未標識T2と共にプレインキュベートすることにより阻止されたので特異的であった(データは示さず)。フルオレセイン標識全長TrpRSを網膜に加えても網膜血管染色は観察されず(図5D)、全長酵素に抗血管形成活性がないことを裏付けた。
【0160】
図5に示すように、フルオレセイン標識T2は抗血管形成性であり、網膜血管に局在する。フルオレセイン標識T2(図5A)又は全長TrpRS(図5B)を生後7日(P7)に注射した(0.5μl、硝子体内)。網膜をP8に摘出し、抗コラーゲンIV抗体とDAPI核染色剤で染色した処、標識T2(図5Aの血管を示す上部矢印)は一次表層網(1°)の血管に局在した。二次深部網は全く存在しない(2°)ことに留意されたい。フルオレセイン標識全長TrpRSを注射した眼には一次(1°)及び二次(2°)両者の血管層が存在する(図5Bの矢印)が、標識は観察されない。
【0161】
別の実験でP15網膜の凍結切片をフルオレセイン標識T2(図5C)又はフルオレセイン標識全長TrpRS(図5D)で染色し、共焦点走査型レーザー顕微鏡で画像を調べた。標識T2は血管に選択的に局在し、図5Cの記号「2°」のすぐ下に一次及び二次網膜血管層を貫く明るい緑色の管として見える。全長TrpRSでは染色は観察されなかった(図5D)。
【0162】
全長TrpRSはユニークなNH末端ドメインを含み、抗血管形成活性をもたない。この完全ドメインの一部又は全部を除去すると、抗血管形成活性をもつタンパク質が現れる。T2の抗血管形成活性に関与する構造はコアロスマンフォールドヌクレオチド結合ドメインに含まれると思われる。NH末端ドメインは選択的スプライシング又はタンパク分解により欠失させることができるので、恐らく全長TrpRSでは接近できない血管形成抑制に必要な結合部位を露出することによりTrpRSの抗血管形成活性を調節できると思われる。
【0163】
マウスマトリゲルモデルでVEGFにより誘導した血管形成は新生網膜における生理的血管形成と同様にT2により完全に阻害された。興味深いことに、in vitroとCAM及びマトリゲルモデルにおけるTrpRSフラグメントの最も強力な抗血管形成作用はVEGF刺激による血管形成で観察される。新生マウス網膜血管形成結果はVEGF刺激による血管形成とTrpRSフラグメントの抗血管形成効果の関係を裏付け、この系の網膜血管形成はVEGFにより誘導されると思われる。更に、網膜モデルで観察される阻害は新たに発生する血管に特異的であり、(注射時に)既存の一次血管層の血管は処置しても変化しなかった。T2の抗血管形成活性のメカニズムは不明であるが、T2が網膜内皮脈管系に特異的に局在していることと、T2の作用が新たに発生する血管に選択的であることは、T2が増殖中又は移動中の細胞で発現される内皮細胞受容体を介して機能するらしいことを示唆している。T2抗血管形成活性のメカニズムを更に解明するには該当細胞受容体を同定する必要がある。
【0164】
インターフェロンγで刺激すると抗血管形成ミニTrpRSを生産する種々の細胞種はIP−10等の抗血管形成因子も生産する。従って、これらの結果から正常な生理的に関連する血管形成経路にTrpRSが関与している可能性がある。別の遍在細胞タンパク質であるプロEMAPII(p43)は本明細書でTrpRSについて報告する機能に似た無関係に見える2つの機能をもつ。プロEMAPIIは哺乳動物アミノアシルtRNAシンテターゼの多重シンテターゼ複合体と会合することによりタンパク質翻訳を助長する。プロEMAPIIはプロセシングされてEMAPIIとして分泌され、EMAPIIは肺発生中の抗血管形成メディエーターとして機能することが示唆されている。
【0165】
従って、T2は正常又は病的状態で観察される生理的に関連する血管形成リモデリングに利用することができる。正常血管形成では、T2は網膜中心の中心無血管ゾーン等の所定臓器に存在する生理的に重要な無血管ゾーンの設定を助長すると思われる。全長TrpRSの開裂が阻害され、血管が過剰増殖すると、病的血管形成が生じると思われる。
【0166】
眼疾患では、新血管形成は失明に至る恐れがある。これらの患者は潜在的に血管形成阻害治療により多大な恩恵を受けると思われる。血管内皮増殖因子は網膜で新血管形成と斑状水腫に関連付けられているが、他の血管形成刺激も網膜血管形成に関与していると考えられる。本発明者らはVEGF刺激による血管形成とTrpRSフラグメントの強力な抗血管形成活性の間に関連を見出し、これらの分子を低酸素性及び他の増殖性網膜症の治療に利用できるようにした。本発明のT2(図5)のように当時70%の割合で血管形成を完全に阻害する抗血管形成剤は文献に報告されていない。TrpRSフラグメントは天然の抗血管形成剤であり、従って潜在的に非免疫原性の抗血管形成剤であるという利点もある。従って、これらの分子は細胞標的又はウイルスベクター型治療により送達することができる。多くの血管新生眼疾患患者は全身虚血性疾患を併発しているので、遺伝子組換え細胞又はウイルスベクターを眼に直接投与する局所抗血管形成治療が望ましい。
【0167】
血管形成網膜症の治療に加え、本発明のTrpRSフラグメント、特にT2とその血管形成阻害フラグメントは腫瘍の血管新生を防ぐことにより固体腫瘍増殖を阻害することもできる。本発明のTrpRSフラグメントはVEGFにより誘導される内皮細胞のin vitro増殖と走化性を阻害し、従って、望ましくない内皮細胞増殖及び血管新生を伴う任意疾病の治療に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管形成又は血管新生を阻害することができるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列からなる単離されたポリヌクレオチドであって、前記ヌクレオチド配列は配列番号7で表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、配列番号12で表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列及び配列番号12で表されるアミノ酸配列のフラグメントをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列と少なくとも95%一致するヌクレオチド配列であり、かつ配列番号1におけるアミノ酸残基71〜93のアミノ酸配列をコードしないヌクレオチド配列である、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドがプロタンパク質、プレタンパク質又は成熟タンパク質である請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項3】
さらにリーダー配列をコードするヌクレオチド配列を含む請求項1又は2に記載の単離されたポリヌクレオチドであって、前記ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が該リーダー配列をコードするヌクレオチド配列に同一読み枠で融合されている単離されたポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記リーダー配列がポリペプチドを細胞外又は細胞周辺腔へ分泌させることが可能な請求項3に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の単離されたポリヌクレオチドであって、配列番号7で表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、配列番号12で表されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列及び配列番号12で表されるアミノ酸配列のフラグメントをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列と少なくとも97%一致するヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の単離されたポリヌクレオチドであって、配列番号6で表されるポリヌクレオチド配列、配列番号12で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列及び配列番号12で表されるアミノ酸配列のフラグメントをコードするポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の単離されたポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項8】
アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニア、アデノ随伴ウイルス(AAV)、RNAウイルス及びプラスミドからなる群から選択される請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
RNAウイルスがSIV、BIV及びHIVからなる群から選択されるレンチウイルスである請求項7に記載のベクター。
【請求項10】
宿主細胞に請求項1から6のいずれかに記載の単離されたポリヌクレオチドを導入することを含む組換え宿主細胞の製造方法。
【請求項11】
請求項1から6のいずれかに記載の単離されたポリヌクレオチドを含み、血管形成又は血管新生を阻害することができるポリペプチドを発現する組換え宿主細胞。
【請求項12】
患者における血管新生又は血管形成を阻害するための医薬組成物であって、血管新生又は血管形成を阻害する量で投与される医薬組成物の製造における請求項1から6のいずれかに記載の単離されたポリヌクレオチドの使用。
【請求項13】
患者における血管新生又は血管形成を阻害するための医薬組成物であって、血管新生又は血管形成を阻害する量で投与される医薬組成物の製造における請求項7から9のいずれかに記載のベクターの使用。
【請求項14】
患者における血管新生又は血管形成を阻害するための医薬組成物であって、血管新生又は血管形成を阻害する量で投与される医薬組成物の製造における請求項1から6のいずれかに記載の単離されたポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの使用。
【請求項15】
血管新生が眼内血管新生である請求項12から14のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
投与が硝子体内注射、眼内注射、房水注射、結膜下注射、上強膜下注射又は持続性の送達装置によるものである請求項15に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−261409(P2009−261409A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157410(P2009−157410)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【分割の表示】特願2002−567336(P2002−567336)の分割
【原出願日】平成14年2月22日(2002.2.22)
【出願人】(501318914)ザ・スクリプス・リサーチ・インステイチユート (23)
【Fターム(参考)】