説明

血管新生活性とMMP阻害活性を有するメリッサの葉抽出物の分画およびそれを含む組成物

本発明は、優れた血管新生活性とMMP阻害活性を有するメリッサの葉のエチルアセテート分画およびそれを含む組成物に関する。特に、メリッサの葉のエチルアセテート分画は、メリッサの葉を50〜100%のC1〜C6アルコールで抽出・濃縮し、次いでその濃縮アルコール抽出物を水中で懸濁し、エチルアセテートを用いて分画し、さらにそれを乾燥してメリッサの葉のエチルアセテート分画を得ることを特徴とする。本発明のメリッサの葉のエチルアセテート分画は強力かつ優れた抗血管新生活性とMMP阻害活性を有する。従って、本発明のメリッサの葉のエチルアセテート分画を含む組成物は、血管新生関連疾患およびMMP媒介性疾患の治療または予防のための薬剤としても使用することができる。

【選択図面】図2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた血管新生活性とMMP阻害活性を有するメリッサの葉のエチルアセテート分画およびそれを含む組成物に関し、特に、メリッサの葉のエチルアセテート分画は、メリッサの葉を50〜100%のC1〜C6アルコールで抽出・濃縮し、次いでその濃縮アルコール抽出物を水中で懸濁し、エチルアセテートを用いて分画し、さらにそれを乾燥してメリッサの葉のエチルアセテート分画を得ることを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
メリッサ(Melissa officinalis、以下メリッサと呼ぶ)、シソ科の多年生草本(ハーブ)で、レモンバーム、バーム、または慣用名や民間名として浮腫の植物とも呼ばれる。
【0003】
メリッサの主要成分はフラボノイド、テルペン酸、揮発油、アルコール性のフェノール化合物およびコーヒー酸誘導体の配糖体である。特に、シナロシド、コスモシン、ラムノシトリンとイソクエルシトリンはフラボノイドとして多量に含まれる成分であり、ウルソール酸は成分テルペン酸として多量に含まれる成分である。コーヒー酸誘導体としてのロスマリン酸は最も多量に含まれる成分(約4.7%)であり、およびゲラニアール、ネラール、シトロネラルおよびオイゲノールはメリッサの葉抽出物に含まれた揮発油として公知の成分である。
【0004】
ロスマリン酸、メリッサの葉抽出物に多量に含まれる非揮発性成分は、強力な抗炎症性と解熱作用を有し、精油はうつ病、神経性頭痛、記憶減少、神経痛、熱に利用され、さらに鎮静、抗菌性、抗ウィルス、抗酸化と抗ホルモン作用を有することがよく知られている。最近になって、メリッサの葉抽出物は、末梢血管の拡張に役立つ血液循環活性化剤に含まれている。
【0005】
血管新生は新しい毛細管血管の生成過程であり、血管新生は、厳重に規制され、胚発育中、組織再構築、創傷治癒および黄体発育の定期サイクル中に起こる。(Folkman and CotranのRelation of vascular proliferation to tumor growth, Int Rev Exp Pathol、16、207−248、1976年)。
【0006】
内皮細胞は、体内の他の細胞型に比べて非常に緩慢に成長するが、内皮細胞の増殖は、細胞外基質または血管新生因子の刺激作用から血管新生媒介物を放出する、活性化した加水分解性酵素である血管新生促進サイトカインによって誘発される。
【0007】
一般に、血管新生の過程は、血管の基底膜の劣化、内皮細胞の移動、および内皮細胞の増殖と分化を介する内腔形成であり、前記血管新生の過程における主要イベントの1つは、毛細管血管の形成前の細胞外基質の破壊であり、マトリックス分解の最も重要な酵素は細胞外マトリックス分解酵素(MMP)である。
【0008】
血管新生の調節障害が起こるか、またはMMPが過剰活性化すると、病理学的な血管新生が起こり、多くの疾患の原因となる。[Polverini PJのCritical Reviews in Oral Biology、6(3)、230−247(1995年);ArupDasらのProgress in Retinal and Eye Research、第22巻(2003年)721−748;Nick Di GirolamoらのIOVS、2001年8月、第42巻、No.9、1963−1968; Patricia LeeらのSurvey of ophthalmology、第43巻、No.3、1998年11月〜12月、245−269;D.B. HollandらのBritish Journal of Dermatology、2004年、第150巻、72−81;Anthony H Vagnucci JrらのThe Lancet、第361巻、2003年2月15日、605−608;Berislav V. ZlokovicのTrends in Neuroscience、第28巻、No.4、2005年4月、202−208;Jaap G. NeelsらのThe FASEB Journal express、第10論文、1096/fj.03-1101fje、オンライン公開日2004年4月14日;D.L. CrandallらのMicrocirculation、1997年4月、211−232;G. VorosらのEndocrinology、第146巻、2005年、4545−4554;M.A. RupnickらのPNAS、第99巻、2002年、10730−10735;E. BrakenhielmらのCirc. Res.、第94巻、2004年、1579−1588; H.R. LijnenらのArterioscler Thromb Vase Biol、第22巻、2002年、374−379;D. DemeulemeesterらのBiochem. Biophys. Res. Commun.、第329巻、2005年、105−110、など]。
【0009】
癌の増殖と転移;
血管腫、血管線維腫、血管変形・奇形、およびアテローム性動脈硬化、血管狭窄症、風土性(地方病性)硬化症および狭窄症などの心疾患;
糖尿病性網膜症、黄斑変性症(加齢性黄斑変性症を含む)、翼状片、網膜変性症、角膜の移植における血管新生、血管新生緑内障などの眼科疾患、角膜の癒着と虹彩の癒着、水晶体後線維増殖、顆粒結膜炎、角膜潰瘍、増殖性硝子体網膜症、未成熟網膜症、眼の炎症、円錐角膜、シェーグレン症候群、近視、眼腫瘍と角膜移植の拒絶反応などの血管新生角膜疾患;
肥満症;
関節炎、関節リウマチ、骨関節炎、敗血症性関節炎などの慢性炎症性疾患、MMP媒介性のオステオパシーおよび外傷性関節損傷後の変性軟骨減少;
中枢神経系の炎症や炎症性腸疾患などの炎症疾患;
乾癖、毛細血管拡張症、化膿性肉芽腫、脂漏性皮膚炎およびざ瘡などの皮膚科疾患;
アルツハイマー疾患;
角膜の癒着、蛋白尿、腹部の大動脈瘤、神経脱髄疾患、肝線維症、腎糸球体疾患、胎膜の早期破水、歯肉炎と歯周炎などの歯周疾患。
【0010】
特に、血管新生は癌細胞増殖と転移に非常に重要な役割を果たす。新しい血管は栄養分や酸素を急速に増殖する癌細胞に供給するだけではなく、転移の進化を助長する役割も果たす。[Folkman and TylerのCancer Invasion and metastasis、Biologic mechanisms and Therapy (S.B. Day ed.) Raven press 出版、ニューヨーク、94−103(1977年); Polverini PJのCritical Reviews in Oral Biology、6(3)、230−247(1995年)]。
【0011】
癌患者の死亡は転移に起因し、現在癌の治療に使用されている化学療法と免疫療法には抗転移作用が欠如しているために癌患者の生存に寄与することができない。
【0012】
公知の炎症性疾患である関節炎は自己免疫性の疾患として始まるが、骨膜空洞での血管内皮細胞の増殖は、最終的に関節内の軟骨を破壊する炎症性サイトカインによって活性化される。言い換えれば、骨膜空洞での骨膜細胞と内皮細胞の増殖は炎症を誘発するサイトカインの助けで、血管新生とパンヌス形成を誘導し、それは軟骨の破壊に主要な役割を果たす。[Koch AE、Polverini PJおよびLcibovich SJのArth Rheum、29、471−479、1986年;Stupack DG、Storgard CMおよびCheresh DA BrazのJMed Biol Res、第32巻、578−581、1999年、Koch AEのArthritis Rheum、41、951−962、1998年)。その一方、関節炎と外傷性関節損傷におけるストロメライシンが活性の高いコラゲナーゼに対してプロコラゲナーゼを活性化する上で重要な役割を果たすことが認識されている[Murphy, G.らのBiochem. J.、248、265−268(1987年)]。従って、MMP活性の下方制御は関節炎の進行を防止することができる。
【0013】
全世界で多くの人々がさまざまな眼疾患のためにその視力を失っており、多くの患者が硝子体液への毛細管血球の浸潤のために盲目になった。[Jeffrey MIおよびTakayuki AのJ Clin Invest、103、1231−1236、1999年]。加齢性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、血管新生緑内障、血管新生角膜疾患は典型的な血管新生眼疾患である。[Adamis AP、Aiello LPおよびD'Amato RAのAngiogenesis、3、9−14(1999年)]。糖尿病性網膜症、糖尿病の合併症は毛細管の破壊と網膜表面の出血による被覆に起因する。
【0014】
コラゲナーゼ、ゼラチナーゼおよびストロメライシンは角膜細胞外基質の破壊に関与している。これは、多くの潰瘍性眼疾患、特に感染または化学損傷の伴う疾患において罹患率と失明の重要なメカニズムであると思われている。(Burns, F.R.らのInvest Opthalmol and Visual Sci、32、1569−1575、1989年)。潰瘍形成時に眼中に存在するMMPは、内生的に白血球または線維芽細胞の浸潤、または外因的に微生物にのいずれかに由来する。
【0015】
乾癖は角化細胞の極度に活性の高い増殖に起因する。急速に増殖する細胞は十分な血液供給を必要とし、血管新生は乾癖において異常に誘発される。(Folkman J.のJ Invest Dermatol、59、40−48、1972年)。
【0016】
炎症性刺激作用や微生物によって分泌されるコラゲナーゼは、歯肉結合組織におけるコラーゲンを分解し、最後には歯周炎を起こす。コラゲナーゼ活性とストロメライシン活性は、炎症性歯肉から単離された線維芽細胞内で確認されており、酵素のレベルは観察された歯肉炎の重度と相関関係を持つ。(Beeley、N.R.A.らの前出のOverall、CM.らのJ Periodontal Res、22、81−88、1987年)。
【0017】
MMPは、ミエリンまたは血液脳関門破壊するCNS(中枢神経系)の病原体と相関関係を持つ。また、MMPは、アルツハイマー疾患におけるアミロイドβ前駆体タンパク質の蓄積に関連することも報告されている。[Yong、VWらのTrends Neurosci、21(2)、75−80(1998年)]。
【0018】
脳脊髄液中の過剰レベルゼラチナーゼBは多発性硬化症および他の神経障害の発生に結びついており、[Beeley、N.R.Aら、前出;Miyazaki, K.らのNature、362、839−841(1993)]、アミロイドβ前駆体タンパク質の劣化と蓄積の一因となる[Backstrom JRらのJ neurosci、16(24)、7910−9(1996年)]。
【0019】
また、最近の報告はMMP-1活性がアルツハイマー疾患者の脳に高度に誘発されていることを明らかにしており、
また、MMPの酵素前駆体を活性化するMMP-3は、前記疾患の病態生理学にも関与する。[Leake A、Morris CMおよびWhateleyのJ Neurosci Lett、291、201−3、2000;Yoshiyama Y、Asahina M、およびHattori TのActa Neu-ropathol (berl)、99、91−5、2000)。
【0020】
MMPによる基底膜の劣化は癌浸潤、転移さらに血管新生に非常に重要な方法である。つまり、MMPの過剰発現は血管新生、癌浸潤および癌の転移を促進することができる。
【0021】
アデノ癌腫の場合、浸潤性近位胃癌細胞は72−kD形態のIV型コラゲナーゼを発現する。[Schwartz, G.K.らのCancer 73、22−27(1994年)]。Ha−rasおよびv−myc癌遺伝子またはHa−ras単独によって形質転換されたラット胚細胞は、ヌードマウスで転移性であり、92kDaゼラチナーゼ/コラゲナーゼ(MMP-9)を放出する。[Bernhard, EJらのProc. Natl. Acad. Sci 91、4293−4597(1994年)]。
【0022】
従って、これらの疾患を治療するため、血管新生の阻害剤またはMMP阻害剤を開発することができる。
【0023】
これに関連して、本発明者らは、HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)チューブ形成などのインビトロアッセイ、およびマウスのマトリゲルモデルやCAMアッセイなどのインビボ試験法を介してメリッサの葉抽出物が抗血管新生作用を持つ韓国特許登録番号第10−550,298号を開示した。
【0024】
さらに、本発明者らは、韓国特許登録番号第10−473,688号で、メリッサの葉抽出物がMMP(細胞外マトリックス分解酵素)に対して阻害作用を有し、それは血管新生の過程で基底膜を劣化させるのに重要であることを開示した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明者らは、研究を重ねた結果、優れた血管新生活性とMMP阻害活性を有する、より活性の高いメリッサの葉分画を得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の目的は、優れた血管新生活性とMMP阻害活性を有するメリッサの葉のエチルアセテート分画およびそれを含む組成物を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ALS−L1023のMMP活性に対する阻害作用を示すグラフである。
【図2】ALS−L1023のHUVECチューブ形成に対する阻害作用を示す写真である。
【図3】ALS−L1023の血管新生に対する阻害作用を解析するマウスのマトリゲルアッセイの結果を示すグラフである。
【図4】高用量のALS−L1023を与えた直後の高脂肪食由来肥満ラットにおける脂肪肝と炎症細胞浸潤の減少を溶媒対照群と比べて示す肝組織の光学顕微鏡写真である。
【図5】中・高用量のALS−L1023を与えた直後の高脂肪食由来肥満ラットの後腹膜脂肪組織における脂肪細胞面積の減少を、溶媒対照群と比べて示すグラフである。
【図6】ALS−L1023の経口投与による滲出性加齢黄斑変性症の進行に対するALS-L1023の阻害作用を示す写真である。
【図7】ALS−L1023の投与量2000mg/kgでの単回経口投与毒性試験におけるラットの体重変化を示すグラフである。
【図8】ALS−L1023の投与量2000mg/kgでの単回経口投与毒性試験におけるラットの体温変化を示すグラフである。さらに、
【図9】ALS−L1023の投与量2000mg/kgでの単回経口投与毒性試験における臓器の相対重量を総体重のパーセントとして示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
そこで、本発明は優れた血管新生活性と細胞外マトリックス分解酵素(MMP)阻害活性を有するメリッサの葉のエチルアセテート分画を提供するものである。
【0029】
また本発明は、血管新生関連疾患およびMMP媒介性疾患の治療または予防のためのメリッサの葉のエチルアセテート分画を含む組成物を提供することを課題とする。
【0030】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0031】
本発明に係るメリッサの葉のエチルアセテート分画は、メリッサの葉を50〜100%のC1〜C6アルコールで抽出・濃縮し、次いでその濃縮アルコール抽出物を水中で懸濁し、エチルアセテートを用いて分画し、さらにそれを乾燥してメリッサの葉のエチルアセテート分画を得ることを特徴とする。
【0032】
本発明に係るメリッサの葉のエチルアセテート分画の作製法で使用するメリッサの葉は、乾燥または非乾燥のもの、またはその混合物であってもよく、抽出効率を高めるため、メリッサの葉を小片に切断するか、または微粉化することもできる。
【0033】
この時点では、メリッサの葉のアルコール抽出物は従来の方法を用いて抽出することができ、使用する抽出溶媒は50〜100%のアルコール、好ましくは70〜80%のアルコールとし、アルコールとメリッサの葉との容量比は5〜10:1であってもよく、前記アルコールはC1〜C6アルコール、好ましくはメタノール、エタノールまたはその混合物であってもよい。
【0034】
本発明の実施例では、メリッサの葉の75%エタノール抽出液を水中で懸濁し、エチルアセテートを用いて分画し、さらにそれを乾燥してメリッサの葉のエチルアセテート分画を得た(ALS−L1023と呼ぶ)。
【0035】
水溶性物質と不水溶性物質は抽出溶媒として50〜100%のアルコールを使用することで効率的に抽出することができ、この方法はエチルアセテート可溶性の水不溶性物質を得るために効果的である。
【0036】
エチルアセテートは、生成物の収率、残基の毒性および基準物質の相対含有量を考慮して第2抽出溶媒として選択される。
【0037】
優れた抗血管新生活性を有するメリッサの葉から分画の大量作製を行う場合、メリッサの葉の50〜100%アルコール抽出物を水中で懸濁し、エチルアセテートを用いて分画し、さらにそれを乾燥してメリッサの葉のエチルアセテート分画を得る(以下の実施例ではALS−L1023と呼ぶ)。
【0038】
また、メリッサの葉を50〜100%のC1〜C6アルコールで抽出・乾燥し、そのアルコール抽出物を水中で懸濁し、次いで、エチルアセテートを用いて分画・乾燥し、そのエチルアセテート分画を水中で再懸濁し、さらにそれを乾燥してメリッサの葉のエチルアセテート分画を得ることもできる。
【0039】
得られたメリッサの葉のエチルアセテート分画は動物試験と前臨床試験に使用した。
【0040】
本発明者らは、本発明におけるメリッサの葉のエチルアセテート分画は、他の溶媒分配で得られたその他の分画と比べて血管新生活性とMMP活性の阻害に優れていることを見出した。前記メリッサの葉のエチルアセテート分画は、MMP阻害アッセイ、HUVECチューブ形成アッセイ、およびマウスのマトリゲル移植アッセイによって、血管新生の阻害において最も効果的かつ優れた活性を示す。また、本発明者らは、この分画が、脂肪組織、脂肪細胞のサイズを縮小するとともに、脂肪酸の酸化に関連した遺伝子発現を誘導することで肥満を抑制することも見出した。
【0041】
従って、本発明に係るメリッサの葉のエチルアセテート分画を、血管新生関連疾患およびMMP媒介性疾患の治療または予防用の抗血管新生剤およびMMP阻害剤として使用できることが明らかである。
【0042】
従って本発明はメリッサの葉のエチルアセテート分画を含む組成物を提供するものである。
【0043】
本発明の組成物で治療または予防することができる血管新生関連疾患およびMMP媒介性疾患は、限定するものではないが、癌の増殖と転移と;血管腫、血管線維腫、血管変形・奇形、およびアテローム性動脈硬化、血管狭窄症、風土性(地方病性)硬化症および狭窄症などの心疾患と;糖尿病性網膜症、黄斑変性症(加齢性黄斑変性症を含む)、翼状片、網膜変性症、角膜の移植における血管新生、血管新生緑内障などの眼科疾患、角膜の癒着と虹彩の癒着、水晶体後線維増殖、顆粒結膜炎、角膜潰瘍、増殖性硝子体網膜症、未成熟網膜症、眼の炎症、円錐角膜、シェーグレン症候群、近視、眼腫瘍と角膜移植の拒絶反応などの血管新生角膜疾患と;肥満症と;関節炎、関節リウマチ、骨関節炎、敗血症性関節炎などの慢性炎症性疾患、中枢神経系の炎症や炎症性腸疾患などの炎症疾患と;MMP媒介性のオステオパシーと退行性軟骨減少と;乾癖、毛細血管拡張症、化膿性肉芽腫、脂漏性皮膚炎およびざ瘡などの皮膚科疾患と;アルツハイマー疾患と;角膜の癒着、蛋白尿、腹部大動脈瘤、神経脱髄疾患、肝線維症、腎糸球体疾患、胎膜の早期破水、歯肉炎や歯周炎などの歯周疾患と、を含む。
【0044】
本発明の組成物は公知の抗血管新生剤または公知のMMP阻害剤と併用することができる。
【0045】
本発明では、血管新生関連疾患およびMMP媒介性疾患の治療剤または予防剤として使用されるメリッサの葉のエチルアセテート分画を含む組成物は医薬組成物または食品組成物であり得る。
【0046】
また、本発明の医薬組成物は、希釈剤、分散剤、界面活性剤、溶媒、崩壊剤、甘味料、結合剤、コーティング剤、発泡剤、潤滑剤、流動促進剤または風味剤などの薬学的・生理的学的に許容できる添加物を含むことができる。
【0047】
活性成分としての本発明のメリッサの葉のエチルアセテート分画を含む医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤、担体または希釈剤と組み合せて製剤することができる。
【0048】
本発明の医薬組成物は任意の形態、例えば顆粒、粉末、錠剤、被覆錠剤、カプセル、ピル、シロップ剤、ドロップ剤、液剤、溶液、懸濁液、エマルジョン、または注射剤などの形態で製剤することができる。
【0049】
例えば、錠剤またはカプセル型の組成物では、その活性成分を薬学的に許容される不活性担体と無毒性の担体と結合させることができ、適切な結合剤、潤滑剤、崩壊剤および発色剤を必要に応じて含むこともできる。好適な結合剤の例には、限定するものではないが、デンプン、ゼラチン、デキストリン、マルトデキストリン、グルコースやβラクトースなどの天然の砂糖、トウモロコシ甘味料、アカシア、トラガントやオレイン酸ナトリウムなどの天然および合成ゴム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムが含まれる。崩壊剤には、限定するものではないが、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンゴムなどが含まれる。
【0050】
液体溶媒型の組成物では、薬学的に許容される担体は、生理食塩液、滅菌水、リンゲル液、緩衝生理食塩液、アルブミン注射液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノールまたは混合溶液であり、抗酸化物、緩衝液、静菌剤などの一般的な添加物をこの組成物に添加することができる。従来の方法を用いるかまたはレミントンの薬科学(米国ペンシルベニア州イーストンのMack出版社)に記載の方法を用いることで、本組成物の組成を疾患または成分に応じて所望の形態で製剤することができる。
【0051】
また、活性成分としての本発明のメリッサの葉のエチルアセテート分画を含む食品組成物は、機能的食品、栄養補助食品または食品添加物としても使用することができ、食品添加物の場合、本発明の食品組成物を肉、飲料水、チョコレート、食料雑貨類、スナック、ピザ、即席ラーメン、麺類、チューインガム、アイスクリーム、アルコール飲料、複合ビタミン、または健康食品に添加することができる。
【0052】
本発明は、血管新生関連疾患およびMMP媒介性疾患の治療または予防のため、メリッサの葉のエチルアセテート分画を含む組成物の使用方法を提供するものであり、本発明の組成物は食品と、血管新生関連疾患およびMMP媒介性疾患の治療または予防用医薬と、に使用することができる。
【0053】
また本発明は、メリッサの葉のエチルアセテート分画の治療有効量を哺乳動物に投与することを含む、血管新生関連疾患およびMMP媒介性疾患の治療または予防方法も提供する。
【0054】
本明細書中で用いた、治療目的のための「哺乳動物」は、哺乳動物として分類される任意の動物、好ましくはヒトを意味する。
【0055】
本明細書中で用いた「治療有効量」は、本組成物投与対象の動物またはヒトにおいて生物学的応答または医療対応を誘導する量を意味し、通常の熟練度を有する医療提供者であれば、最適な臨床結果を達成するために、その治療有効量、ならびにその適切な用量と投与の頻度を決定することができ、治療有効量は、疾患の種類、患者症状の重度、成分の内容、年齢、体重、個々の患者の性別、食品、投与時間、投与経路、前記組成物の構成比率、治療期間、および他の同時投与する医薬品などのさまざまな要因で変動し、本発明の組成物は、単回投与、または複数回投与などの投与管理体制の一部として投与することができ、メリッサの葉のエチルアセテート分画の好ましい投与量は1日あたり3mg/kg〜250mg/kgである。
【0056】
本発明の組成物はさまざまな経路、例えば、限定するものではないが、経口、直腸、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、粘膜内、皮下、真皮内、経皮、経皮、腟内、直腸内、経鼻、経眼、ないしは腸管内などの経路で投与することができる。
【0057】
以下の実施例は本発明をさらに例示することを意図するが、これらの実施例と実験例は、本発明をよりよく理解するためのもので、その範囲を限定するものではない。
【0058】
(実施例)
【0059】
(実施例1)メリッサの葉のエチルアセテート分画の作製
強力な抗血管新生活性を有するメリッサの葉抽出物を作製するため、蒸留水、50%水溶性エタノール、75%水溶性エタノール、100%エタノールおよびメタノールをそれぞれ用いてメリッサの葉を抽出する。その粗抽出物を遠心分離し、ろ過・濃縮し、次いで凍結乾燥して抽出物の粉末を得た。前記粉末は使用するまで4℃にて保存する。前記抽出物の抗血管新生作用を50μg/mlの濃度にてHUVECチューブ形成アッセイで検査した。表1に示したように、水、50%、75%、100%エタノール、および100%メタノール抽出液を含むすべての抽出液はHUVECチューブ形成アッセイで阻害作用を示した。特に、前記75%エタノール抽出液が、他の抽出液と比べて相対的に良好な阻害活性を示したことから、75%エタノールを第1抽出溶媒として選択する。
【0060】
【表1】

【0061】
メリッサの葉分画から最も強力な抗血管新生活性を見出すため、ヘキサン、エチルアセテート、およびブタノールを用いてメリッサの葉の75%エタノール抽出液を連続的に区分する。各分画を遠心分離し、ろ過・濃縮し、次いで凍結乾燥して分画粉末を得る。前記粉末は使用するまで4℃にて保存する。前記抗血管新生作用を50μg/mlの濃度にてHUVECチューブ形成アッセイでそれぞれ検査した。表2に示したように、前記エチルアセテート分画が最も強力な抗血管新生活性を示す。
【0062】
【表2】

【0063】
これらのアッセイの結果に基づいて、優れた抗血管新生活性を有するメリッサの葉分画の大量作製を以下の通りに行った。メリッサの葉の75%エタノール抽出液を水中で懸濁し、エチルアセテートを用いて分画し、さらにそれを乾燥してメリッサの葉のエチルアセテート分画を得た(以下の実施例ではALS−L1023と呼ぶ)。このALS−L1023を動物試験と前臨床試験に使用した。
【0064】
以下にALS−L1023の詳細な大量作製方法を説明する。
乾燥した100kgのメリッサの葉を、83℃にて4時間、350Lの75%水溶性エタノールを用いて2回抽出した。前記抽出物を10μmフィルタでろ過し、30Lに濃縮し、次いで40Lエチルアセテートを用いて2回分画した。この分画を蒸留水で洗浄した後、15Lの容量になるまで濃縮し、次いで45℃の熱風で乾燥した。最終的に、5kgのALS−L1023を乾燥粉末形態で得た。
【0065】
(実施例2)ALS−L1023のインビトロアッセイ
(1)MMP阻害アッセイ
大量作製したALS−L1023によるMMP阻害を調べるために、分光蛍光分析方法(パーキンエルマー社製LS50B)を用いてMMP酵素活性アッセイを行った。
前記アッセイに使用するヒトMMP酵素は、AngioLab社のバキュロウイルスシステムを用いた組換え体タンパク質産生法によって調製し、蛍光定量的基質(Bachem社カタログNo.M-2105)をMMP−2とMMP−9の基質として使用し、さまざまな濃度のALS−L1023をMMP酵素と基質を含有する反応緩衝液に添加して蛍光強度を測定した。MMP−2とMMP−9に対するALS−L1023のIC50はそれぞれ17.7+1.0mg/mLと12.3±1.4mg/mLであった。
MMP−2とMMP−9に対するメリッサの葉の75%エタノール抽出液のIC50はそれぞれ33.6+1.5mg/mLと26.0±1.7mg/mLであった。かくして、ALS−L1023のMMP阻害活性はメリッサの葉の75%エタノール抽出液の阻害活性と比べて高いことが確認された(図1)。
【0066】
(2)HUVECチューブ形成阻害活性
前記HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)チューブ形成アッセイは、インビボ有効性に緊密に関連するインビトロアッセイであるので、HUVECチューブ形成に対するALS−L1023の作用を調べた。
前記チューブ形成アッセイを行うため、HUVECを新たに得られたコードから単離した。細胞を培養し、抗第VIII因子抗体を用いた免疫細胞の化学的染色によって識別した。通路5以内で培養したHUVECを、さまざまな濃度のALS−L1023の不在下または存在下で、37℃にてマトリゲル(米国マサチューセッツ州ベッドフォードのBDバイオサイエンス社製)上で18時間増殖させた。チューブ形成を顕微鏡で観察した。図2に示したように、大量作製したALS−L1023は50mg/mLの濃度でチューブ形成を阻害した。チューブの毛細管ネットワークは、対照で観察されたが、ALS−L1023によって連絡切断した。また、表3に示したように、ALS−L1023は用量依存方式でHUVECチューブ形成を阻害した。
【0067】
【表3】

【0068】
(3)細胞毒性試験
ALS−L1023のHUVECに対する細胞毒性試験を行うため、ウェルあたり5,000〜10,000のHUVECを96ウェルプレートに播種し、さまざまな濃度のALS−L1023を各ウェルに添加した。前記細胞生存度を、XTTテトラゾリウム基(ナトリウム3’−[L−(フェニルアミノカルボニル)−3,4−テトラゾリウム]−ビス[4−メトキシ−6−ニトロ]ベンゼンスルホン酸水和物)細胞増殖キット(ドイツのロッシェ社製)で検査し、生細胞をELISA(酵素結合免疫測定法)プレートリーダーで測定した。ALS−L1023は50mg/mL濃度にて、HUVEC生存度に影響を及ぼさず、HUVECチューブ形成阻害活性を示した。
【0069】
(4)マウスのマトリゲルアッセイ
マウスのマトリゲル移植アッセイを行って、ALS−L1023でインビボ血管新生の阻害を定量的に測定した。
50ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)と50単位/mLのヘパリンを含有する0.4mLのマトリゲルを皮下注射でC57BL/6マウスに移植した。マウス1匹あたりに、10%エタノール中に溶解した0.5mgのALS−L1023を経口で1日2回、4日間にわたって投与した。10%エタノールを経口で対照群に投与した。5日目に、マウスの表皮を除去して、マトリゲルを回収し、次いで前記マトリゲル中のヘモグロビンの量をDrabkin試薬(シグマ社製、米国)で判定した。
図3に示したように、ALS−L1023による治療群から回収したマトリゲル中のヘモグロビン含有量は溶媒対照群に比べて減少した。ALS−L1023による血管新生阻害の割合は33%であった。
【0070】
(製剤例)
好適な賦形剤をALS−L1023に添加してその安定性を向上させ、次いでその250mgを硬質カプセルにパッケージングした。その混合比を以下の表4に記載する。
【0071】
【表4】

【0072】
(実施例3)ALS−L1023分画の抗肥満作用
高脂肪食由来の肥満症に関し、以下の実験を行って腹部脂肪に対するALS−L1023の阻害作用を調べた。活性成分として製剤したALS-L1023を、0(対照群)、0.1%(低)、0.25%(中)、および0.5%(高)(製剤形態:0、0.17、0.42、0.83%)の含有量で、45KcaL%の高脂肪飼料(米国リサーチダイエット社製)と混合した。活性成分ALS−L1023を含有しない対照群の調製には、製剤したALS−L1023に含まれた賦形剤を、高用量として0.33%の含有量で前記高脂肪飼料と混合した。1週間の順化期間後、生後7週間の雄SDラットを群あたり7匹のマウスからなる群に分割し、12週間にわたって給餌した。次いで、その体重と腹部脂肪の重さを測定し、肝臓と脂肪組織の生化学的血液試験と病理組織学的試験を行った。
【0073】
(1)体重
体重の測定は、マウス取得日、投与開始日、投与開始後1週間毎に1回の頻度、および解剖日に行った。表5にその結果をまとめた通り、溶媒対照群の平均体重は204.73±5.57g(投与前)から633.63±43.08g(12週間にわたる投与後)へと常に増加し、ALS−L1023群(低、中、および高用量群)の平均体重も、210.10+5.19g、204.97+6.61g、および208.01+7.65g(投与前)から623.72+58.02g、588.69+33.76g、および584.83+33.44g(12週間にわたる投与後)へと常に増加した。溶媒対照群とALS−L1023群の間に統計的有意差は認められなかったが、ALS−L1023群の平均体重は用量依存方式では減少した。
【0074】
【表5】

【0075】
(2)飼料摂取
1日の飼料摂取量を以下の通りに決定した。フィーダーを粉末状の飼料で充填し、次いでその重量を測定した。前記フィーダーを用いた前記動物の給餌後24時間にてその重量を測定し、測定重量の差を1日の飼料摂取量として決定した。その測定は、投与開始日と、投与開始後1週間毎に1回の頻度で行った。
溶媒対照群の1日の平均飼料摂取量は12週間にわたって18.46〜22.73gの範囲内であり、低、中、および高用量群の1日の平均飼料摂取量はそれぞれ17.14〜21.84g、17.29〜22.03gおよび16.99〜20.84gの範囲内であった。溶媒対照群に比べて有意差認められなかった。
【0076】
(3)臓器と脂肪組織の重量
解剖と採血前に、18時間以上にわたって前記動物を絶食させ、エーテルで麻酔し、続いて採血と静脈切開を行った。その腸間膜脂肪組織、精巣上体脂肪組織、および後腹膜脂肪組織をその腹部の空洞から切除し、秤量し、その肝臓、心臓、腎臓、脾臓、および膵臓を秤量した。
結果として、溶媒対照群と実験群間の心臓、肝臓、膵臓、腎臓(左右)および脾臓の重量に有意差は認められなかった。低、中・高用量群の腸間膜脂肪組織の重量は、それぞれ15.90+4.36g、12.64+1.69g、および11.23+3.32gであった。つまり、用量依存方式では、実験群での重量は溶媒対照群の15.16±4.41gに比べて減少した。低、中・高用量群の精巣上体脂肪組織重量は、それぞれ17.74±3.37g、16.29±2.62g、および15.67±3.83gであった。つまり、用量依存方式では実験群での重量は溶媒対照群の20.80±4.41gに比べて減少し、高用量群で統計的な有意差(p<0.05)が観察された。低、中・高用量群の後腹膜脂肪組織重量は、それぞれ27.20±5.76g、21.36±4.03g、および23.94±6.24gであった。つまり、用量依存方式では実験群での重量は溶媒対照群の29.73±3.23gに比べて減少し、中用量群で統計的な有意差(p<0.05)が観察された。低、中・高用量群の腸間膜脂肪組織、精巣上体脂肪組織および後腹膜脂肪組織を含む腹部脂肪組織の総重量は、それぞれ60.84±11.66g、50.29±7.31g、および50.84±11.84gであった。つまり、実験群での重量は溶媒対照群の65.69±10.13gに比べて減少し、中・高用量群で統計的有意差(p<0.05)が観察された(表6を参照)。
【0077】
【表6】

【0078】
(4)生化学的血液試験
生化学的血液試験では、対照群と実験群間のAST(アスパラギン酸アミノ基転移酵素)、ALT(アラニンアミノ基転移酵素)、およびALP(アルカリホスファターゼ)の血清レベルなどの肝指数に有意差は認められなかった。低、中・高用量群の全血液コレステロールレベル値は、それぞれ88.07+14.35mg/dL、86.96+17.68mg/dL、および79.90+10.45mg/dLであった。つまり、用量依存方式では、実験群でのコレステロール値は溶媒対照群の102.09+21.82mg/dLと比べて減少した。低、中・高用量群の中性脂肪値は、それぞれ50.93+15.28mg/dL、46.63+11.77mg/dL、および45.50+22.45mg/dLであった。つまり、用量依存方式では、実験群での中性脂肪値は溶媒対照群の58.13+25.04mg/dLと比べて減少した。低、中・高用量群のLDL値は、それぞれ9.56+2.67mg/dL、9.11+2.92mg/dL、および8.56+2.26mg/dLであった。つまり、用量依存方式では、実験群でのLDL値も溶媒対照群の12.31±3.70mg/dLと比べて減少した。しかしながら、対照群と実験群間のグルコース、全タンパク質、およびアルブミンのレベルに有意差は認められなかった。かくして、ALS−L1023の投与に関しては、総コレステロール、中性脂肪、およびLDLにおける実験群の血清レベルは、用量依存方式では溶媒対照群と比べて減少した(表7を参照)。
【0079】
【表7】

【0080】
(5)肝臓の病理組織学的試験
肝臓を秤量し、次いで10%中性緩衝ホルマリン溶液中に固定し、続いて慣用的な組織学的治療を行った。組織のスライドサンプルを調製し、次いでH&Eを用いて染色し、続いて顕微鏡下で脂肪肝を観察した。その結果、溶媒対照群では、肝細胞の肝小葉において脂肪小球の過剰蓄積が観察された。それは脂肪肝の発見であった。小滴性または大滴性脂肪性の変化は主に肝門脈の周りで観察された。脂肪肝の進行期で発生する炎症細胞浸潤は、脂肪肝が発生した風船化肝細胞相互間またはその周りに主に起こった。中度の脂肪肝では、炎症細胞浸潤は中心静脈の周りに起こった。その他の異常病理学的な知見は観察されなかった。
低用量群では、脂肪肝も観察され、それは溶媒対照群で観察されたものと同様であった。中用量群では、溶媒対照と低用量群に比べてわずか減少した脂肪肝と炎症細胞浸潤が観察された。
高用量群では、脂肪肝の阻害または炎症細胞浸潤の減少が観察され、それは中用量群で観察されたものと同様であった(図4を参照)。この結果は、ALS−L1023がその上に阻害作用を発揮したことを示唆する。
【0081】
(6)脂肪組織における脂肪細胞面積
切除した後腹膜脂肪組織を秤量し、次いでパラフィン封入した組織サンプルを慣用的な病理組織プロセッシングで調製し、続いてH&E染色を行った。5つのサンプリング部位を無作為選択し、光学顕微鏡に接続されたStereo Investigatorソフトウェア(米国バーモント州のMicroBrightField社製)を用いて、各サンプリング部位に隣接する10の脂肪細胞面積の平均値を各被験体の脂肪細胞面積として決定した。図5に示したように、中・高用量群では脂肪細胞面積が溶媒対照群に比べて減少したことが観察された。高用量群では、有意差(p<0.05)が観察された。
総合すれば、高脂肪食誘発性肥満ラットにALS−L1023を12週間にわたって与えたところ、ALS−L1023は、腹部脂肪組織重量と総コレステロールと中性脂肪との血清レベルの減少、脂肪肝の軽減、および脂肪細胞サイズの縮小を含む肥満阻害作用を発揮した。
【0082】
(実施例4)新生血管性眼疾患に対するALS−L1023の作用
網膜血管新生に対するALS−L1023の有効性を評価するため、
ROP(未熟児網膜症)動物モデル中から酸素誘発性網膜症マウスを選び、その生後13日目に、DMSOで希釈したALS−L1023を25mg/kgの用量にて腹腔内注入し、それを5日間にわたって行った。
その結果、正常な網膜は血管の均1かつコンパクトパターンを示すが、ROP対照群では網膜血管新生と多くの異常血管が観察され、ALS−L1023群では、中心網膜と周辺網膜における血管新生の顕著な減少と、異常血管数がROP対照群に比べて減少したことが観察された。かくして、ALS-L1023は眼血管新生の予防と治療に効果的であると考えられる。
【0083】
(実施例5)黄斑変性症に対するALS−L1023の作用
製剤したALS−L1023カプセルを、滲出性加齢黄斑変性症と診断された男性患者に、1日3回、1回あたり2カプセルを12週間にわたって経口投与し、次いで、患者の網膜下領域の写真を取り、黄斑変性症領域のサイズを投与前に取った写真と比べてた。図6に示したように、黄斑変性症領域における進行は観察されなかった。かくして、ALS−L1023は加齢性黄斑変性症の予防と治療に効果的であると考えられる。
【0084】
(実験例)ALS−L1023の安全性試験
本試験物質ALS−L1023の原料であるメリッサの葉は食品または医薬として長期間にわたって使用されており、米国IDAによってGRAS(一般に安全と見なされる)として分類されている。そのため、前記試験物質ALS−L1023は無毒性と考慮されるが、本実験は急性毒性試験(限度試験)として、OECDガイドラインに従って、単回経口投与量を2000mg/kgのALS−L1023と設定して行った。
10匹の雄ラットと10匹の雌ラットを、各群が5匹のラットからなるように対照群と実験群に無作為分割した。対照群には1mL/150g(体重)のトウモロコシ油を投与し、実験群には2000mg/kgのALS−L1023を含有するトウモロコシ油を投与した。本試験物質ALS−L1023は水に溶解しないので、本試験ではトウモロコシ油に懸濁した。本試験物質は投与日に調製し、投与に先立ってボルテックスすることによって懸濁した。
【0085】
まず、1匹のラットに経口投与し、その後24時間観察した。次に、2匹のラットを経口投与し、その後72時間観察した。次いで、残りの17匹のラッに経口投与し、30分間にわたって毒性を観察し、その後、30分毎に1回の観察を4時間にわたって続けた。続いて、1日に2回、14日間にわたっての観察を行い、体重と体温を毎日記録した。
実験の最終日にCO2を用いて前記ラットを安楽死させて解剖した。病理学者の見地から調べた異常組織を切除し、生理組織学的検査に供した。
【0086】
その結果、2000mg/kgのALS-L1023を5匹の各雄・雌ラットに単回経口投与した場合、14日にわたる観察期間中に有意な毒性の発見は観察されなかった。
対照群と実験群との両方で、明白に異なる臨床的異常現象は観察されなかったが、1匹の雌ラットが投与後60分後でわずかな興奮状態を示したが、投与後90分後には安定した状態に戻った。
加えて、ALS−L1023の投与は対照群と実験群のいずれにおいても体重と体温に影響を及ぼさなかった(図7と図8を参照)。
総体重に対する胸腺、心臓、脾臓、腎臓、肝臓、および脳の相対重量(%)を図9に示す。わずかだが、対照群の雌ラットの肝臓の重さが、ALS−L1023を投与した試験群の雌ラットと比べて統計的な有意差をもって増加したことが観察された。ただしこれは雄ラットの場合には観察されなかった。解剖による異常な知見や他の風変わりな知見はなかった。
また、いくつかの異常な知見が病理学者の観点によって検出されたが、その組織学的検査では異常現象の証拠はなかった。
そのため、2000mg/kgのALS−L1023の単回経口投与量による有毒症状は観察期間にわたって誘発されなかった。
(産業上の利用可能性)
【0087】
本発明のメリッサの葉のエチルアセテート分画は強力かつ優れた抗血管新生活性とMMP阻害活性を有する。従って、本発明のメリッサの葉のエチルアセテート分画を含む組成物は、血管新生関連疾患およびMMP媒介性疾患の治療または予防のための薬剤としても使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管新生活性とMMP阻害活性を有することを特徴とするメリッサの葉のエチルアセテート分画。
【請求項2】
メリッサの葉を50〜100%のC1〜C6アルコールで抽出・濃縮し、次いでその濃縮アルコール抽出物を水中で懸濁し、エチルアセテートを用いて分画し、さらにそれを乾燥してメリッサの葉のエチルアセテート分画を得ることを特徴とする請求項1に記載のメリッサの葉のエチルアセテート分画。
【請求項3】
前記C1〜C6アルコールは70〜80%C1〜C6アルコールであることを特徴とする請求項2に記載のメリッサの葉のエチルアセテート分画。
【請求項4】
前記C1〜C6アルコールはエタノールまたはメタノールであることを特徴とする請求項3に記載のメリッサの葉のエチルアセテート分画。
【請求項5】
請求項1のメリッサの葉のエチルアセテート分画を含む肥満症の予防または治療のための組成物。
【請求項6】
糖尿病性網膜症、黄斑変性症(加齢性黄斑変性症を含む)、翼状片、網膜変性症、角膜の移植血管新生、新生血管緑内障、新生血管角膜疾患、水晶体後線維増殖、トラコーマ、角膜潰瘍、増殖性硝子体網膜症、未成熟網膜症、眼の炎症、円錐角膜、シェーグレン症候群、近視、眼腫瘍または移植拒絶後角膜移植の予防または治療のための組成物において、請求項1に記載のメリッサの葉のエチルアセテート分画を含むことを特徴とする組成物。
【請求項7】
癌の増殖と転移の予防または治療のための組成物において、請求項1に記載のメリッサの葉のエチルアセテート分画を含むことを特徴とする組成物。
【請求項8】
血管腫、血管線維腫、血管変形、動脈硬化症、血管付着/接着・粘着・固着・遵守、強皮症、または再狭窄症の予防または治療のための組成物において、請求項1に記載のメリッサの葉のエチルアセテート分画を含むことを特徴とする組成物。
【請求項9】
関節炎、関節リウマチ、骨関節炎、敗血症性関節炎、MMP媒介性の骨減少症、または外傷性関節損傷後の変性軟骨減少の予防または治療のための組成物において、請求項1に記載のメリッサの葉のエチルアセテート分画を含むことを特徴とする組成物。
【請求項10】
前記中枢神経系または炎症性腸疾患の炎症性疾患の予防または治療のための組成物において、請求項1に記載のメリッサの葉のエチルアセテート分画を含むことを特徴とする組成物。
【請求項11】
乾癖、毛細血管拡張症、化膿性肉芽腫、脂漏性皮膚炎、またはざ瘡の予防または治療のための組成物において、請求項1に記載のメリッサの葉のエチルアセテート分画を含むことを特徴とする組成物。
【請求項12】
アルツハイマー疾患の予防または治療のための組成物において、請求項1に記載のメリッサの葉のエチルアセテート分画を含むことを特徴とする組成物。
【請求項13】
異常創部癒着、蛋白尿、腹部の大動脈瘤、神経脱髄疾患、肝線維症、腎糸球体疾患、胎膜の早期破水、または歯周疾患の予防または治療のための組成物において、請求項1に記載のメリッサの葉のエチルアセテート分画を含むことを特徴とする組成物。
【請求項14】
前記組成物は、顆粒、粉末、錠剤、被覆錠剤、カプセル、ピル、シロップ剤、ドロップ剤、液剤、溶液、懸濁液、エマルジョン、または注射剤の剤形に製剤されることを特徴とする請求項5〜13の何れか一項に記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2010−536847(P2010−536847A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521794(P2010−521794)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【国際出願番号】PCT/KR2008/004938
【国際公開番号】WO2009/025532
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(510043973)アンジオラブ,インコーポレーテッド (1)
【出願人】(510044006)
【Fターム(参考)】