説明

血行動態データの推定

【解決手段】たとえば哺乳動物の血管の一部において、局所的な血流速度または流量波形を測定するための技術が存在する。血管の一部における病気について、測定されたそのような波形から、たとえば平均血圧や平均血圧の低下および/または水圧耐性の低下などの情報を導出するための方法およびシステムを説明する。それらの波形は、たとえばドップラー超音波または磁気共鳴技術を用いて非侵襲的に測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、血行動態のデータを推定するために、以下に限定されるわけではないが、特に哺乳動物(ヒトまたは動物)の傷つけられていない血管系の正常なおよび病変した一部(segments)から、特に生体内の平均血圧、平均血圧の低下および/または水圧耐性データを、非侵襲的に取得するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの平均余命は世界的に延びている。そのため、進行性の動脈疾患の影響が老齢人口においてより顕著になっている。動脈疾患は一般に、狭窄(局所的な断面の動脈狭窄)の形をとる。狭窄は、たとえば冠状動脈、腸骨動脈、大腿動脈および内頸動脈において、血流に対して大きな抵抗を呈しうる。その結果、狭心症、跛行または脳卒中が発症する。狭窄が抵抗におよぼす影響には線形性がなく、狭窄が閾値を上回った場合に症状を引き起こす。
【0003】
狭窄により動脈の断面が完全に遮られる場所では閉塞が生じる。この場合、より小さな動脈(側副)の内腔がこの閉塞を越えて血流を誘導して、閉塞の下流にある動脈経路に再び合流することが多い。実際には、狭窄の特別な場合として、この側副路をモデル化することができる。内腔がさらに覆われるため、狭窄の周囲では側副血流も発達し始めることに留意すべきである。以下では、文脈が許す場合には、狭窄と閉塞を区別しないで用い、これらをまとめて「病気(disease)」または「病変(a lesion)」と呼ぶ。
【0004】
個々の病変の臨床的な深刻さを正確に判断するためには、局所的な血行動態の情報を取得する必要がある。
【0005】
超音波に基づくドップラー偏移スペクトル解析、ならびに連続波ドップラーおよび二重(Duplex)スキャン装置を用いた画像技術は、速度データおよび(後者の場合)流量データを、血管網の接近可能な多くの部位において非侵襲的に直接測定することを可能とする。同様に、血流速度および流量を磁気共鳴映像法(MRI)データから計算するための技術が存在する(Thompson RBとMcVeigh ERの「Real−time volumetric flow measurements with complex−difference MRI」(Magnetic Resonance in Medicine、第50巻第6号、P.1248〜1255)を参照。参照により本明細書に援用される)。MRIデータは血管網のすべての部位から取得することができる。それらの中には、超音波スキャナでは接近できない部位もある。
【0006】
狭窄内で上昇した最大速度を測定することにより、狭窄の程度をはっきりさせる能力は、臨床的に重要であることが証明されている。しかしこれは閉塞には当てはまらない。狭窄を流れる血流量または閉塞の周囲を流れる血流量は、臨床的には役に立たないとされてきた。それは、必要な場合には最適な血流および血圧により主要組織および筋肉床をかん流させることができるようにするために、能動制御および受動制御のもと血管を拡張および収縮させることによって、血管床が血流量の特性を動的に変化させるからである。これは実際には、病変により生じた抵抗が血液に及ぼす影響を低減させる効果を有する生理学的サーボシステムである。
【0007】
病変部位の下流の血圧や上流から下流への血圧低下は、狭窄性疾患に対する高感度な指標であることが示されてきた。しかし、本願発明よりも前には、狭窄性疾患は閉塞性カフまたはサーボ制御カフに基づく方法などを用いることにより四肢でのみ、または血圧カテーテルを血管系へ侵襲的に直接挿入することにより血管系のどこかでのみ、判断することができた。
【0008】
病状の程度を直接測定するのが望ましい。そのうちの1つは、局所的な血流データおよび血圧データから計算された抵抗に基づく方法である。病変の水圧耐性は、血管が収縮していようと拡張していようと、血管にかかった負荷の状態から比較的独立している。そのため、病変の水圧耐性により病状の程度を正確に推定することができる。本願発明に先だって、「生体内の(in vivo)」絶対平均動脈圧の非侵襲的な計算、および/またはある病変もしくは一連の病変に関する絶対水圧耐性の非侵襲的な計算は、理想的な条件下で単離された単一の病変の場合を除いて実用的ではなかった。これは事実と異なることが多い。それは、各病変は個別的(individual)であり、たとえば狭窄の分岐した端部における血流の分離(flow separation)の程度に依存するからである。また、各病変は幅広く変化して非線型で流量に依存する水圧耐性の特性を有するからである。この特性は、(たとえば)ポアズイユまたはベルヌーイを用いて説明されるようなよく知られている方程式を用いて予測するのが、困難か実用的でないか不可能かのいずれかである(Gould K Lの「Pressure−Flow characteristics of coronary stenoses in unsedated dogs at rest and during coronary vasodilation」(Circulation Research、第43巻第2号、1978年8月)を参照。参照により本明細書に援用される)。特に、患者が医師の忠告を求めるほどの症状となっている頃までには、血行動態に影響を与えるような病変の大部分は完全閉塞となっている。本願発明よりも前には、そのような閉塞を迂回する複雑な側副血行循環の合併した影響は、従来の手段では解析が困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Magnetic Resonance in Medicine、第50巻第6号、P.1248〜1255
【非特許文献2】Circulation Research、第43巻第2号、1978年8月
【発明の概要】
【0010】
本願発明の態様は、独立項に提示されている。さらに、任意的な特徴は従属項に規定されている。
【0011】
本願発明の実施の形態は、測定された生理学的データを用いて非侵襲的に得られた波形の形状因子に基づいて、病変に関する情報またはデータを導出するためのシステムおよび方法を提供する。生理学的データには、特定の血管床を供給する血流速度または流量および血圧などがある。特定の血管床は、解析中の臓器または筋肉の血管および組織である。これらの実施の形態は、測定された速度または流量から取り出された単純な形状因子の測定値および血圧データを、以下を推定するために使用することができるとの認識に基づく。
1.特定の測定位置/血管床(たとえば脳、腎臓、筋肉)に関連する上流の抵抗と下流の抵抗との比率。
2.上述の血管床をかん流する局所的な絶対平均血圧を推定する。
3.病気の場合および正常な場合に、特定の血管床に関係する最大の血管拡張を特定する。
4.特定の血管床を供給する血管経路の内部で、病変を見つける。
そして局所的な血流が測定できる場合には、
5.上流および下流の絶対抵抗が計算できる。
6.特定の病変の絶対抵抗が計算できてマッピングできる。
7.特定の病変を(たとえばバルーン血管形成術により)除去したことによる特定の血管床への最大血流に対する影響を推定することができる。
8.血管の単位長さあたりの抵抗(線形抵抗)を計算することができる。
【0012】
実施の形態によっては、これらの計算は、(中心)平均動脈圧と、たとえば上腕の測定に対してカフ、聴診器および血圧計を用いて推定された中心血圧の拍動性(pulsatility)の測定の推定値とを含む。速度データまたは流量データは多くの方法により測定できる。実施の形態では、速度の測定にはCWドップラー装置が用いられ、速度の測定および/または流量の測定には二重超音波装置または多数ゲートドップラー超音波装置が用いられている。血管床の選択された場所において、入射(incident)血圧および局所的な血流量を非侵襲的に測定または推定することによって、病変による血行動態の抵抗の増加度が計算およびマッピングできる。そして、抵抗や他の測定値の変化を、狭窄の位置を特定するために使用することができる。
【0013】
本願発明の実施の形態では、これらの測定値を使用することにより、血行動態のデータが導出される。血行動態のデータは、病変の有無および/または健康な血管系の刺激に対する反応の指標となる。刺激には、薬剤注入,過呼吸、二酸化炭素、酸素、呼吸器疾患、心臓まひ、大気温度、消化または暗算(arithmetic)などがある。
【0014】
実施の形態によっては、血管上で既知の直線距離だけ離れた任意の2点間の平均血圧の低下により、推定値が導出されてもよい。平均血流データと組み合わせた場合、血管の単位長さあたりの血行動態の抵抗が計算されてもよい。この測定値は線形抵抗として知られている。そのような測定値は、特定の血管に対する実証された基準と比較されてもよい。この能力に起因して、さらなる測定値が導出されてもよい。たとえば、せん断ひずみで割ったせん断応力の測定値を組み合わせることにより、流体(血液)粘性が導出されてもよい。上述の手法によりせん断応力データが得られる。一方、せん断ひずみは、血管内部から得られた流体(血液)速度の分析結果から導出することができる。この目的で、瞬間的な血流速度の分析結果のデータが多数ゲートドップラー装置またはMRI装置を用いて導出されてもよい。そして瞬間的な血流速度の分析結果のデータにより、(典型的には)血管壁における最大値と血管軸に沿った最小値にわたって、せん断速度の全範囲に対して詳細な情報が提供される。(Koseli V、Zeybek SおよびUludag Yの「Online viscosity measurement of complex solutions using Ultrasound Doppler Velocimetry」(Turk J Chem、第30巻、P.297〜305、2006年)を参照。参照により本明細書に援用される)また、Gibbs SJ、 Haycock DE、 Frith NJ、 Ablett SおよびHall LDの「Strategies for rapid NMR rheometry by Magnetic Resonance Image Velocimetry」(J of Magnetic Resonance、第125巻、P.43〜51、1997年)も参照。参照により本明細書に援用される)。
【0015】
実施の形態によっては、体の異なる地点における測定は、患者のビデオ画像上に重ね合わされた末梢血圧または抵抗のマップを示す、対応するビデオ画像と関係している。実施の形態によっては、速度データまたは流量データは、MRIスキャナを用いて得られる。MRIスキャナにより、計算された血圧データまたは抵抗データを、色で塗り分けられた血管の血圧または抵抗のマップとして表示することが可能となる。このマップは、MRIスキャナを用いて得られた対応する生体構造の画像上に重ね合わせられている。この実施の形態は、ヒト以外の動物とヒトの両方を含む哺乳動物の測定に特に適している。
【0016】
ここで、本願発明の実施の形態を、添付の図を参照して、単に例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本願発明を特徴づける血行動態のモデルを示す。
【図2】交流項(terms)および直流項を含む例示的な中心動脈血圧/時間波形を示す。
【図3(A)】測定された末梢部の平均血圧と、記載された実施の形態に従って計算された末梢部の平均血圧との関係を示す。
【図3(B)】図3(A)に対応する実験データを示す。
【図3(C)】図3(A)に対応する実験データを示す。
【図4】記載された実施の形態のステップを説明するフロー図を示す。
【図5】超音波に基づく実施の形態を示す。
【図6】対象のビデオ画像上の複数の位置において得られた、推定された血圧、抵抗または線形抵抗データの重ね合わせを可能にする非侵襲的な超音波に基づく実施の形態を示す。
【図7】対象の全身画像上の複数の位置において得られた、推定された血圧、抵抗または線形抵抗データの重ね合わせを可能にするMRIに基づく実施の形態を示す。
【図8】対象の最大エネルギー出力を推定するためのシステムを示す。
【0018】
(詳細な説明)
図1を参照する。哺乳動物の血管系の単純化された血行動態のモデルは、心臓に対応する駆動要素と、心臓の内部抵抗や血液を血管床へと運搬する輸送動脈の抵抗に対応するソース抵抗Rと、負荷抵抗Rにより表され、心臓への回路を閉じる静脈の抵抗も含む血管または血管系の一部(segment)とを含む。心臓は定圧Pにて可変の流量を生じさせる。可変流量の血液は、ソース抵抗Rにより表される輸送動脈中を流れる。ソース抵抗Rを通過することにより血圧低下が生じ、最終的に血管床を血圧Pにてかん流させる。抵抗の静脈成分と、負荷抵抗Rを通過することによる血圧低下は、生理条件下では小さい(中心静脈圧は、中心部および末梢部にかかった血圧よりもずっと低い。前者は10mmHg未満のオーダーであり、後者は100mmHgのオーダーである)。したがって、血圧Pおよび抵抗Rは、解析中の末梢血管床の特性であると一次的には近似されうる。透析用につくられた動静脈の瘻孔の場合、静脈側が動脈化する点に留意すべきである。この特別な場合、浅部静脈を経由して深部静脈へ向かう戻り経路は、後述するモデルでは動脈供給とみなすことができる。右心の基準血圧(中心静脈圧)は、環境大気圧を基準にすると通常0に近い。右心の基準血圧が病状によって異常に上昇してしまった場合、アルゴリズムの正確性はそれに応じて低下する。それは、有効な駆動血圧/時間波形の重要性はそれに応じて低下するからである。中心静脈圧が分かっているか推定できるなら、補正をすることができる(以下を参照)。
【0019】
電気的な分圧器回路と同様に、末梢部の平均血圧Pは方程式1によって中心平均血圧Pと関連づけられる。
=P/(1+R/R)・・・・・(方程式1)
(ただし、Rは心臓と輸送動脈の内部抵抗である。Rは解析中の組織の血管床抵抗である。いずれも末梢抵抗単位(PRU)または臨床的に許容されるそれと同等の単位で表される。PRUは通常、1秒あたりのmmHg/mlで定義される。血圧はmmHgの単位である。)
【0020】
したがって、単純な血行動態の血圧分配(divider)モデルに基づけば、ソース抵抗と負荷抵抗の両方が分かっているか測定可能な場合、末梢血圧を中心血圧から計算できるとみなされてしまう可能性がある。しかし、これはまさにこれらの数量に対する知識の欠如による。これがここで説明する実施の形態が扱う問題の1つの側面である。
【0021】
=Rで定義される場合である釣り合った状態では、図1に示された回路と類似する回路中の入射(incident)血圧波形と結果として生じる速度波形とは、同一形状であって変形しないということが従来から示されてきた。それは、任意の容量効果および誘起効果(これと同様に動脈コンプライアンスおよび血液の質量)が除去されているからである(Wetterer EおよびKenneth Thの「Grundlagen der Dynamic des Arterienpulses」(シュプリンガー・フェアラーク ベルリン、1968年)を参照)。この釣り合った状態では、上述したPの計算に用いた比率R/Rは1(unity)である。
【0022】
説明した実施の形態の基になっているのは、以下の認識、つまり上述した流量波形と血圧波形の類似性を考えると、血圧波形および速度波形の形状を説明する形状因子の比率が同等に一定であるべきこと、および抵抗の比率と形状因子の比率とのこの対応を、釣り合った状態以外の抵抗の範囲にわたって一般化することにより、測定可能な数量をもたらしうることである。この数量は、心臓の左側(動脈)から右側(静脈)にかけて血管回路周辺の任意の位置において、周囲または末梢部の血圧(P)を推定するために使用することができる。
【0023】
直流のレベルに対して血圧波形の交流項を説明する形状因子の1つは、1つの心拍に対して平均化された平均血圧に対するパルス血圧(収縮期血圧(つまり最大血圧)−拡張期血圧(つまり最小血圧))の比率である。中心動脈圧波が図2に示されている。図2は、収縮期血圧(SP)、平均動脈圧(MAP)および拡張期血圧(DP)、ならびに血圧0の参照データを示す。釣り合った状態では、速度/時間波形と血圧/時間波形とは同一形状となる。ここの説明では、中心動脈圧に対する形状因子(ff)を血圧形状因子(Pff)と名づけている。そのため、Pff=(SP−DP)/MAPである。また、末梢部で測定された速度波形に対する形状因子を速度形状因子(Vff)と名付けている。そのため、Vff=(Vmax−Vmin)/Vの平均である。流量/時間波形は速度/時間波形と形状が同一となることに留意すべきである。したがって、(以下の)議論は流量/時間波形から計算された対応する流量/時間形状因子(Fff)にも当てはまる。他には、Vffに言及した場合には、文脈が許す限りFffへの言及も含む。
【0024】
血圧/時間波形および速度/時間波形の形状は同一である。そのため、釣り合った状態では、それらの形状因子の比率は同一となる。したがって、Pff/Vff=1である。しかし、釣り合った状態ではR/R=1である。そのため、方程式1のR/RまたはPff/Vffを置き換えることによって、同一の結果が得られる。そのため、P=P/2となる。
【0025】
説明した実施の形態の基礎をなすのは、この関係が釣り合った状態だけではなく一般にも当てはまりうるという認識である。完全な末梢血管収縮のもと、Rが無限の場合に末梢部の血圧に対する上限値を分析すると、R/R=0である。この状態では、直流速度(流量)項が0に近づくため、Vffは無限大に近づく。したがって、Pff/Vffは0に近づく。方程式1のR/RまたはPff/Vffを置き換えることによって、同一の結果が得られる。そのため、PはPに近づく。
【0026】
同様に、たとえば透析に使用されるようにa−v瘻孔を用いて末梢血管床が迂回された場合、Rは0に近づく。したがって、R/Rは無限大に近づく。同様に、Vffは0に近づく。それは、直流の速度成分が速度/時間波形の交流成分よりもはるかに大きくなるからである。したがって、Pff/Vffは無限大に近づく。方程式1のR/RまたはPff/Vffを置き換えることによって、同一の結果が得られる。そのため、Pは0に近づく。
【0027】
上述の理論的考察は、末梢血管床バイパスから末梢血管収縮全体にかけての範囲にわたる3点において、それら3点のうち2点において生じる釣り合った状態で、比率R/RをPff/Vffとして形状因子の比率と置き換えることができることを示す。これはPを計算するための以下の方程式2を意味する。
=P/(1+Pff/Vff)・・・・・(方程式2)
同様に、分圧器の類推によると、起点(source)と負荷との間の血圧低下は以下の方程式3により得られる。
−P=P/(1+Vff/Pff)・・・・・(方程式3)
【0028】
上述した関係の導出には、多くの仮定が基礎をなしている。これらの仮定は上述しなかったため、ここでリストアップする。
1)PffとVffは常に有限である。
2)Pffの上腕血圧=Pffの中心血圧=Pffの入射血圧である。この第2の仮定の正当性は、様々な方法でテストすることができる(後述)。
3)被験者はあおむけになっている。そうでない場合には、中心血圧の測定(たとえば上腕カフを使用)と速度波形の測定との間における静水圧のあらゆる相違は、ΔP=(h[cm]/13.6)[mmHg]で補正することによって考慮することができる。ここでhは中心カフと速度または流量の測定位置との間の垂直距離である。測定位置は、たとえばカフの下側の位置である。つまり、
(修正)=計算されたP+ΔP
である。
4)入射血圧は左心室に由来する。これが当てはまらない場合、たとえば右心室および肺循環が関与する測定には、カテーテルに基づく血圧変換器を用いた直接測定により、入射血圧波形を計算することができる。特別な事情がある場合以外はこの値は定数とみなされるため、通常は1つだけ決定をすればよい。
5)上昇した中心静脈圧(CVP)が存在しかつ既知であるなら、Pffを計算するときにCVPを平均動脈圧から引くために補正をすることができる。つまり、
ff=SP−DP/(平均動脈圧−CVP)
である。
6)動脈の特性は心拍に対して一定であるとみなされる。これは冠状動脈には当てはまらない。冠状動脈では、収縮駆出期(SEP)において機械的圧縮による輸送動脈および血管床の動的な変化により、血管床(心筋)の抵抗が一時的に大きくなる。しかし、圧縮されていない心臓周期の拡張期部分に対してのみPff、Vff、Fffを計算する限りでは、同じ方程式が適用できるであろう。
7)特定の臓器(たとえば腎臓や脳)に供給されるかん流圧を推定する場合、上述したモデルは、Vffの計算の基礎をなす波形が、検査中の血管床に対する供給の末端部において測定されることを想定している。
【0029】
平均中心血圧に基づく末梢血圧と、中心血圧および末梢部の速度波形の形状の測定値に対する比率とを計算するための式に対する上述した考察は、完全末梢血管収縮(TPV)、釣り合った状態(MS)および末梢血管床バイパス(PBB)におけるそれらの数量の挙動に対する理論的解析に基づいている。この結果は、図3(A)を参照してここで説明する実験データによって、さらに支持される。図3(A)は、イヌの実験からえられた実験データを概略的に表現している。この実験データでは、上述した式に基づいて計算された末梢部の血圧が、上述したPBB、MSおよびTPVの状態とともに、測定された末梢部の血圧に対して描かれている。実験データはMSとTPVの間の形態(regimes)においてのみ得られた。しかし、直線はそのデータにフィッティングされている。この直線は、上述した理論的な考察に基づいて予想できるように、測定された末梢部の血圧と計算された末梢部の血圧とが傾き1の関係にあり、y切片が原点に接近していることを示す。
【0030】
血圧を流量波形の速度から計算するための上述の方法に対する実験検証は、(側面を向いた血圧センサを有する)血圧感受性カテーテルを、麻酔された体重15kgのグレーハウンド犬の腹部大動脈および大腿動脈に挿入することにより得られた。さらに、方向性ドップラー超音波光線束(pencil)変換器が、ドップラー速度スペクトルデータを記録可能とするように、外科的に露出された大腿動脈上に直接固定された。電磁カフ型血流変換器は、瞬間的に測定された血流を記録可能とするように、ドップラープローブに隣接して大腿動脈の周囲に配置された。心拍によってSP、DP、平均大動脈圧、PおよびPffの心拍ごとの測定を可能とするように、腹部大動脈から血圧/時間波形が取得された。同時に、大腿動脈から血圧/時間波形が記録された。これにより心拍ごとに(beat to beat)Pを同期的に(synchronous)測定することが可能となる。同時に、大腿動脈のドップラープローブから得られた血流速度/時間スペクトル波形により、Vffを心拍ごとに測定することが可能となった。各心拍に対するRとRも、同期して記録された大動脈圧P、大腿動脈圧Pおよび測定された大腿動脈の血流量の直接測定から計算された。
【0031】
上述したパラメータを記録しながら、2つの実験が行われた。実験1では、動脈を流れる血流の完全な停止を伴う腸骨動脈圧迫の1分後に、即座に動的な充血反応を記録した。圧迫を解放するにあたり、血流が最高値に達したあと静止状態へと安定化するまでの間、Pの値の範囲が記録された。実験2は、動脈の休止状態において行われた。そして腸骨動脈に部分的で可変的な用手圧迫をする間、動的応答が記録された。第2の実験により、第1の実験と類似したP値の範囲が得られた。各心臓周期に対してPff、Vff、PおよびPが記録された。血圧データは、血圧センサ間で推定された静水高差に対して補正された。
【0032】
図3(B)と図3(C)は、それぞれ実験1および実験2について、測定されたデータから計算されたPの理論値をPの測定値に対して示す。図3(B)と図3(C)で示されたデータにフィッティングされた直線は、0.885と0.795の傾き、3.04mmHgと7.31mmHgの切片、0.962と0.836の相関係数をそれぞれ有する。
【0033】
図4を参照する。上述した考察に基づいて、病変を検出および/または末梢血圧と末梢抵抗を推定する方法をここで説明する。第1のステップ2において、Pffが導出される。中心収縮期血圧(SP)および平均動脈圧(MAP)が測定または推定される。実施の形態によっては、SPとDPを測定するために上腕カフおよび血圧計が使用される。血圧計は聴診による手作業式(variety)または既知の自動化された電子式である可能性がある。次に、当業者にはよく知られているように、(2DP+SP)/3としてMAPを推定することができる。または、MAPを計算できる電子血圧計が使用される場合、MAPはこの装置から直接得られてもよい。中心平均血圧は、MAPに等しいと考えられる。次にこのデータから、次式のようにPffを計算することができる。
ff=(SP−DP)/MAP=3(SP−DP)/(SP+2DP)
【0034】
続いてまたは同時に、Vffが導出される。瞬間的な末梢部の血流速度率が、ステップ4で解析中の血管床または組織を供給する動脈における時間の関数としてサンプリングされる。そして、1回の心拍中に測定された波形の最大値と最小値の差を、波形の平均値によって割った値として、Vffが推定される。
【0035】
ステップ6において、形状因子の比率Pff/Vff(またはVff/Pffの場合もありうる)が分析変数として計算される。上述のモデルでは、この比率はR/R(R/R)に相当する。
【0036】
任意的なステップ8では、Pなどの血圧(測定位置における血圧)、P−P(測定位置の上流における血圧低下)、またはRもしくはRなどの抵抗を計算することができる。抵抗の計算には、平均流量を使用できることが必要である(実施の形態によっては、1つ以上の心拍にわたって平均化することにより、平均流量は流量波形から計算される)。これにより、対応する血圧低下を平均流量で割って、抵抗を計算することができる。
【0037】
以下でより詳細に説明するように、実施の形態によっては、ステップ8(またはステップ6)で計算された値が、保存および/または表示用に、次にステップ9において出力される。
【0038】
実施の形態によっては、解析中の体の一部または血管の一部に沿って測定位置をスキャンすること、およびVff、Vff/Pff、Pff/Vff、計算された血圧、抵抗、またはそれらの数量から導出された任意の適切な測定値における変化を検出することにより、狭窄または病変が検出される。これらの実施の形態では、ステップ9(既に計算された値の保存および/または表示)に続いて、(たとえば超音波プローブを新たな位置に移動させることによって)新たな測定位置が選択される。そしてこの手順がステップ2(またはPffが再計算されないならステップ4)から再び始められる。これらの実施の形態では、保存された値を比較して著しい階段状の変化または隣接する値間の相違を検出することにより、病変が検出される。病変の抵抗は、病変のすぐ前におけるサンプル上の位置と、病変のすぐ後におけるサンプル上の位置との間で測定された抵抗(RまたはR)における階段状の変化の大きさから導出することができる。
【0039】
上述した理論モデルでは、Rを、速度または流量波形が測定された地点のすぐ下流における血管床の抵抗とみなすことができる。この抵抗には、心臓の右側に戻る静脈還流も含まれる。Rは、心臓の左側から測定位置へと血管床を供給する動脈経路の抵抗とみなすことができる。
【0040】
供給経路に沿った様々な地点でサンプリングすることにより、直近の2つのサンプリング地点間における病変の存在が、(形状因子または抵抗の)計算された血圧、抵抗または比率における突然の変化として示されるであろう。病変の正確な位置は、サンプリングされた2地点間の領域(sample volume)を少しずつ大きくして移動させることにより特定されてもよい。または、病変に的を絞るために、賢いサンプリング戦略が使われてもよい。病変の抵抗は、病変のすぐ上流と下流でPをサンプリングすることにより規定することができる。これにより、病変の上流から下流への血圧低下を突き止めることができる(したがって、病変の抵抗により平均流量が得られる)。これは二重超音波技術を用いて実現することができる。または、MRIに基づく全身マッピング装置もしくは超音波マッピング装置(いずれのマッピング装置も後述する)を用いて、任意の数の病変を正確な解剖学的位置に表示することができる。上述したモデルに従って、サンプリングされた2地点間の領域(sampled volume)が動脈供給経路の内部を病変の上流から下流へと移動させられる場合、PとRは著しく減少し、P−PとRは著しく増加する。同様に、R/Rは著しく増加する。また、上述した考察からPFF/VFFをR/Rの測定値として直接使用することができることは明らかである。
【0041】
絶対抵抗の測定は、血流から比較的独立している。そのため、同じ動脈経路内に複数の病変が存在する場合には、絶対抵抗を測定することにより、任意の1つの病変の深刻さを立証することが可能となる。加えて、カフ閉塞または血管床の運動により誘導された充血中に行われた抵抗測定により、任意の流量依存性の大きさを規定することができる。したがって、1つ以上の特定の病変を除去したことが最大流量に及ぼす影響が予想されうる。
【0042】
1つだけの測定が行われる実施の形態によっては、R(またはP−P)の異常に高い値は、測定位置の上流における病変または狭窄を示す。また、R(またはP)の異常に高い値は、測定位置の下流における病変または狭窄を示す。
【0043】
のある特定の応用は、摘出された臓器中で、病気のために決定的に低いかん流圧(通常は30mmHg未満)の存在を特定する能力であろう。
【0044】
歴史的には、足首/上腕血圧の指標(ABPI)が、下肢において臨床的に重要な末梢部の動脈疾患に対する便利な指標として使用されてきた。周囲を取り囲む血圧カフのすぐ下流の動脈上にCWドップラー装置を配置することによって、収縮期血圧を容易に取得することができる。収縮期血圧と同じかそれを少し超えるまで動脈の内部で血圧カフが膨張した場合、ドップラー装置から出される音声信号が止む。その正確な瞬間のカフ血圧を記録することにより、動脈内部の拡張期血圧がカフ血圧に等しいとみなされる。上腕と足首の血圧カフが適用される。1つ以上の臨床的に深刻な病変が下肢を供給する動脈の内部に存在する場合には、足首と上腕の間の拡張期血圧の比率は、あらかじめ決められた閾値より低くなる。この測定は通常、あおむけになって休んだ被験者に対して行われる。
【0045】
平均血圧を拡張期血圧に代えて使用することにより、下肢への動脈の血液の供給に関与し、血行動態に大きな影響を与えるような1つ以上の病変の存在を示すために足首と上腕の間の拡張期血圧の比率が使用されてもよいとの認識によると、以下の応用が提案される。本方法は、上述した聴診方法を用いて記録された上腕の平均血圧を使用する。上腕の平均血圧からPffが計算されてもよい。Pffが分かれば、たとえば後脛骨動脈から得られたCWドップラー血流速度スペクトル波形から、足関節の血圧を推定することができる。上述した理論を用いることにより、ふくらはぎ(calf)の血圧カフが推定される。また、類似する診断用の比率(ABPIm)が以下の式により計算される。
ABPIm=足関節の平均血圧/上腕の平均血圧=P/P=1/(1+Pff/Vff
【0046】
得られた比率を、あらかじめ決められた閾値と比較してもよい。この代替的な診断法にはいくつかの利点がある。たとえば、糖尿病患者において足首のカフ拡張期血圧の人為的な上昇により引き起こされる測定上の問題を回避することができる。また、開放創、包帯またはギプス包帯が足関節血圧カフの応用を阻害する場合に、判断を行うことが可能となる。
【0047】
実施の形態によっては、上述した1つ以上のパラメータ、特にRとRを推定するように調整されている。これにより、薬剤注入、過呼吸、二酸化炭素、酸素、呼吸器疾患、心臓まひ、大気温度、消化または暗算などの刺激に対する健康な血管系の反応を測定することが可能となる。
【0048】
流量波形の速度を測定するために異なる様式を使用したり、血圧データおよび/または抵抗データを表示するために異なる配置を使用したりする様々な実施の形態をここで説明する。図5を参照する。実施の形態によっては、処理装置14に接続された連続波(CW)ドップラー超音波プローブ12が含まれる。処理装置14は、キーボード18などの入力装置と、液晶モニタ26などの表示装置とを含む。実施の形態によっては、処理装置14はタブレット型パソコンなどの携帯用コンピュータであってもよい。処理装置14には適切な制御カードを介してプローブ12が接続されている。プローブ12は、解析される組織上で速度波形をサンプリングするために使用される。次に、プローブ12が処理装置14により処理されることにより、上述したようにVffが得られる。Pffと中心平均血圧は、手作業で計算されてもよいし、後述するように独立した装置により計算されてもよい。次にPffと中心平均血圧は、たとえばキーボード18を用いて処理装置14に入力される。または、SPとDPの測定値はキーボードまたは別の方法を用いて入力される。そして処理装置14は、入力されたデータからPffとMAPを計算する。次に、末梢部の平均血圧に対する値が処理装置14によって上述したように計算され、表示部26に出力される。実施の形態によっては、出力は表示部26上で推定値の数値表示またはグラフ表示の形をとる。
【0049】
解析中の血管の一部に沿ってプローブ12をスキャンすることにより、狭窄の位置を決定できる。これは、電気的に等価な状態で、電位差計の設定が変化したときに、電位差計の中央端部(middle terminal)の電圧変動を測定することに類似している。血管の一部に沿ってプローブを移動させることおよび上述した測定値の1つ以上を継続的にまたは繰り返し計算することにより、プローブにより病変を一度横切らせれば、上述したように1つ以上の測定値の変化によって狭窄の位置を特定することができる。
【0050】
実施の形態によっては、処理装置14は入力部16を有する。入力部16は、図6を参照して後述する画像取込装置20に対する任意的な接続18をもたらす。画像取込装置20が患者用ベッド22に対して設置されることにより、患者24の全身または一部の画像が得られる。これにより、流量データが測定された患者の体の部位と関連している末梢部の血圧測定が可能となる。実施の形態によっては、処理装置14の表示部が十字線などの視覚的な指示を患者のビデオ画像上に表示することにより、操作者は所定の位置におけるデータを取得するように促される。これにより、所定の位置をスキャンして、スキャン位置における末梢血圧の視覚地図が構築されてもよい。実施の形態によっては、画像取込装置20がビデオ画像上でプローブ12の位置を追跡する手段を含む点で、このプロセスはさらに自動化される。これにより、測定位置を画像と自動的に関係づけることができる。プローブの追跡を促進するために、実施の形態によっては、電磁トランスミッタまたは光学マーカーがプローブ12の先端に固定されている。測定が行われるときのマーカーの位置は、ある実施の形態ではビデオ画像自体から得られるし、別の実施の形態では3D追跡装置により得られる。3D追跡装置には、受動的または能動的、光学的または電磁的な、たとえば赤外線または高周波のマーカーを使用するOptoTrack(登録商標)やPolhemus(登録商標)装置などがある。
【0051】
計算された血圧データは、いったん保存されたら、速度波形がサンプリングされた画像上の位置において、たとえば色で塗り分けられた着色表示部として処理装置14の表示装置に表示される。着色表示部では、下にある血管の経路を表す軌道(track)または画像が、スキャンされた被験者の画像上に重ね合わせられる。軌道の色は、計算された局所的な変数、たとえばPの値に依存する。計算された血圧データはまた、後で表示および/または処理するために位置データおよびビデオ画像とともに保存できる。実施の形態によっては、たとえば拡張可能な各サムネイル画像を、画像上で対応する測定位置に配置することによって、画像とともに記録されたドップラープローブから得られた速度スペクトルを表示するという、さらなる任意的な特徴を提供する。
【0052】
実施の形態によっては、中心平均血圧およびPffデータの保存は、たとえば上腕カフを用いて電子血圧計26を処理装置14に適切に接続することにより自動化される。これにより、超音波プローブ12を用いた測定が得られたときに、これらの数量の各測定を自動的かつ定期的に書き換えることができる。
【0053】
実施の形態によっては、処理装置14および超音波プローブ12は、二重超音波スキャンシステムと置き換えられる。二重超音波スキャンシステムは、実施の形態によっては上述したCWドップラーの実施の形態と同等の方法で操作されてもよい。二重超音波スキャンシステムは、任意的な入力部16および任意的な電子血圧計26とともに、対応する処理装置14および二重(duplex)プローブ12を含むシステムである。血管を通って二次元の断面の画像を取得する性能があれば、二重超音波システムは、速度波形に加えて流量波形を計算するという追加的な機能を有する。実施の形態によっては、上述したようにRとRおよび/または血管の単位長さあたりの抵抗(線形抵抗)の絶対値を計算および表示するために、流量データが使用される。
【0054】
実施の形態によっては、任意的な多数ゲートドップラー11が使用されることにより、CWドップラー12からのデータと同時に血流と速度の分析結果が測定される。速度の分析結果と線形抵抗が処理装置14で処理されることにより、せん断(shear)データに対して瞬間的な血液粘性が生み出され(点別のレオロジー的測定)、画面26に表示させることができる(Koseli V、Zeybek SおよびUludag Yの「Online viscosity measurement of complex solutions using Ultrasound Doppler Velocimetry」(Turk J Chem、 第30巻、2006年、P.297〜305)を参照。参照により本明細書に援用される)。
【0055】
図7を参照する。実施の形態によっては、速度および/または流量の測定は、参照数字30により図示されているRFコイルシステムと、RFコイルシステム30を制御する処理装置32とを含むMRIシステム28を用いて得られる。処理装置32は、当業者によく知られているように、コイルシステム30の内部に配置された患者34の特定の血管部位において、解剖学的な血管のデータと、速度/時間または流量/時間データとの両方の読み出しを可能にする。速度または流量の値が処理装置32により計算される各ボクセルまたは一群のボクセルに対して、処理装置32によって上述した方法を用いて、対応する血圧および/または抵抗の値が導出される。実施の形態によっては、Pffは手作業で入力されたデータから計算される。また別の実施の形態では、たとえば上腕カフ36を用いて、Pffは自動的に取得される。したがって、血圧および/または抵抗、あるいは上述した1つ以上の測定値に対するボクセル地図が処理装置32によって計算されて保存される。また、このボクセル地図は、スキャンされた血管の位置のボクセル画像を、血圧および/または抵抗によって色で塗り分けるために使用することができる。または、このボクセル地図は、たとえば水圧抵抗が特定の値を上回る血管系の一部を特定するために使用することができる。さらに、上述した1つ以上の測定値におけるステップの異常な変化により、狭窄の位置を示すことができる。
【0056】
ここで図8を参照して説明する。実施の形態によっては、超音波プローブ38、たとえばCWドップラー超音波プローブは、処理装置40に接続されている。処理装置40はそのかわりにエルゴメータ42から入力を受ける。エルゴメータ42は、競技者つまり患者がエルゴメータ42の上で運動したときに、作業量の測定値を提供する。跛行(claudicants)における最大の血管拡張では、片側だけのふくらはぎの筋肉の運動に続いて、ふくらはぎの痛みまたは不快感によって停止させられるまで、血管床はPff/Vff=1である釣り合った状態になるということが従来から示されてきた(King DH、Bojanowski LMR、Di Giovanna IおよびKontis Sの「Post Exercise Blood Velocity Patterns in Health and Disease」(Computer−aided biomedical imaging and graphics, physiological measurement and control、 Proceedings of the Biological Engineering Society 第6回北欧会議、アバディーン(第22〜25回)、MM JordanとWJ Perkinsが編集、1984年7月)を参照。参照により本明細書に援用される)。これが血管床において最大水力が消える地点である。プローブ38と処理装置40を用いて、患者つまり競技者がエルゴメータ42の上で運動するときに比率Pff/Vffを測定および表示することにより、Pff/Vff=1である釣り合った状態が個々の自己最高記録の測定値として表示および記録される場合(または近似として、Vffが規定されたPffの幅に収まる場合)に、処理装置40によってエルゴメータ42から受信された作業量データが、表示および記録される。実施の形態によっては、釣り合った状態を示す信号が作り出されて作業量データを記録する引き金となる。これは競技者がトレーニングの進行を観察するのを助けるために使用することができる。また、跛行(claudicants)などの患者が歩行練習の最大能力を定め、投薬治療または運動によるあらゆる改善を観察することができるようにするためにも、使用することができる。
【0057】
上述の説明は、本願発明の理解を促進するために、単なる例として本願発明の実施の形態としてなされたものであって、本願発明を限定することが意図されていないことは理解されるであろう。上述した実施の形態には、多くの修正、変化、組み合わせおよび並列が可能であることは当業者には明らかであろう。そしてこれらは添付の特許請求の範囲によりカバーされるよう意図されている。
【0058】
上腕カフ血圧計26に関連して、中心の平均血圧およびPffの測定を上述した。しかし、多くの代替的な技術を同様に使用することができる。たとえば、Finapress(登録商標)センサなどのサーボ指血圧の模造物(follower)をSPおよびDPの測定に使用することができる。Pffを測定するためのさらなる方法は、測定される位置のすぐ下流に完全閉塞を生じさせた上で、たとえば血圧の模造物(follower)を用いてまたは完全閉塞のすぐ上流で末梢部の動脈上に配置されたトノメーター(tonometric)装置によって測定することにより、完全閉塞のすぐ上流でパルス血圧(SP−DP)およびMAPを測定することである。たとえば止血帯による完全閉塞は、入射(incident)血圧波に対して反射型の波腹をもたらす。これにより、パルス血圧は反射(釣り合った)値0を二重にする。このようにして、既知の振幅の反射(全体の構成的な反射)を与えることにより、別の方法では分からない動脈中の反射の効果を除外することができる。また、Pffの推定値をPff=パルス血圧/(2×平均血圧)として得ることができる(DL Newman、SE GreenwaldおよびNLR Bowdenの「An in vivo study of the total occlusion method for the analysis of forward and backwards pressure waves」(Cardiovascular Research、1979年、第13巻第10号、P.595〜600)を参照。参照により本明細書に援用される)。
【0059】
全体の大きさが調整された(scaled)入射血圧/時間波形の計算を可能にする方法をここで説明する。この方法は、負荷または重負荷がかけられた場合に、既定値である釣り合った状態Pff=Vffに設定するための、末梢部に対して実証された傾向に基づく(「Post Exercise Blood Velocity Patterns in Health and Disease」(Computer−aided biomedical imaging and graphics, physiological measurement and control、 Proceedings of the Biological Engineering Society 第6回北欧会議、アバディーン、第22〜25回、1984年7月、MM JordanとWJ Perkinsの編集)を参照)。本方法は、最高収縮期(suprasystolic)膨張血圧カフを用いて腕の動脈を上腕において5分間締め付け、続いて数回の心拍の期間、充血した(hyperaemic)上腕の動脈血流速度/時間波形を記録し、その後直ちにカフを解放することを含む。前腕筋と手の組織を含む末梢部の血管床は、カフによる締め付け期間中に進行してしまった酸素負債を回復させるために、最大限まで血管拡張する。そのため、血管拡張の最初の数秒間に記録された波形は、左心室から生じた入射血圧波形に近づく。また、もしも平均値が上述の方法により得られた平均動脈圧の値と等しく設定されているなら、その波形は、絶対血圧/時間と同等のもの(equivalent)に合わせて大きさを調整可能である。
【0060】
実施の形態によっては、本方法により得られたデータは、たとえば上述したように単純な上腕カフ測定を用いて得られたPffの推定値を確認および/または調整するために使用される。最大の血管拡張を実現するための代替的な方法には、(たとえば)上腕動脈の血流速度/時間波形をサンプリングする間に(前腕)下流の筋肉の血管床の反復運動を用いてもよい。または、橈骨(radial)動脈の血流速度/時間波形をサンプリングする間に反復圧迫作用を用いて(たとえば)上腕を運動させることによってもよい。これらの方法は、従来の聴診と比較してPffのより正確な推定を実現する目的で使用することができる。または、従来の聴診方法の正確性を確認するために使用することができる。
【0061】
侵襲的ではあるがさらなるオプションは、測定位置に上流血圧センサを有するバルーンカテーテルを挿入することにより、バルーンカテーテルを膨張させて完全閉塞とし、続いて上述した方法に進むことである。この方法は、血圧波が左心室から生じない場合、たとえば血圧波が右心室から生じる肺動脈にも使用することができる。
【0062】
同様に、上述した技術に代えて、他の任意の瞬間的な流量または速度測定技術も使用することができる。局所的で瞬間的な流量/時間または速度/時間波形を記録するための他の任意の検出技術も同様に使用することができる。
【0063】
上述した導出方法は、中心血圧の形状の指標となる測定値の比率と流量波形の局所的な血流速度を、標準的な血行動態の血圧分配(divider)方程式において、抵抗の比率を置き換えるために使用することができるという認識に基づく。上述した考察は、上述したように形状因子指標の特定の例に重点を置いてきた。しかし、当業者には明らかなように、説明した実施の形態で使用された形状因子に代えて、他の測定値も同様に使用されることが想定される。そのような測定値には、波形または波形の形状を規定する他の任意の測定値の、正規化されたフーリエ変換の第1成分であるフーリエ係数が含まれてもよい。他の任意の測定値としては、特に波形の交流および直流成分に関する相対的寄与率の指標となる測定値が考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の血管系の一部から血行動態のデータを導出するためのシステムであって、
血管系の一部における血流の速度波形または流量波形の代表値である信号を受信するための手段と、
速度波形または流量波形の形状の指標となる第1の測定値を導出するための手段と、
心臓に起因する血圧波形の形状を示す第2の測定値の代表値である信号を受信するための手段と、
第1の測定値および第2の測定値に基づくデータを導出するための手段と、
データを保存または表示するための手段と、を含むことを特徴とするシステム。
【請求項2】
第1の測定値は、速度波形または流量波形の最大値および最小値の差と、波形の平均値との比率を含むことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
第1の測定値と第2の測定値との比率に基づいてデータを導出するための手段をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
中心血圧波形を感知するための好ましくは非侵襲的な血圧センサと、感知された血圧波形から血圧波形の形状を示す第2の測定値を導出するための手段とを含むことを特徴とする請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
拡張期の中心血圧および収縮期の中心血圧を感知するための血圧センサと、感知された拡張期血圧および収縮期血圧に基づいて中心血圧波形の形状を示す第2の測定値を導出するための手段とを含むことを特徴とする請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
形状の1つ以上の測定値は、1つ以上の波形の平均的な(直流の)大きさに対する1つ以上の波形の交流成分の代表値であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のシステム。
【請求項7】
速度波形または流量波形を、好ましくは非侵襲的に感知するための手段を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のシステム。
【請求項8】
プローブを対象上のある位置に配置することによって、速度波形または流量波形を非侵襲的に測定するための手段を含むことを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
速度波形または流量波形を測定するためのドップラー超音波システムを含むことを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
対象の少なくとも一部の画像を取り込むための画像取込装置と、前記画像を用いて対象上におけるプローブの位置を記録するための手段とを含むことを特徴とする請求項8または9に記載のシステム。
【請求項11】
プローブは、プローブの感知末端に隣接して、電磁標識または視覚標識を含むことを特徴とする請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記位置において取り込まれた画像上にデータの指標を表示するための手段を含むことを特徴とする請求項10または11に記載のシステム。
【請求項13】
磁気共鳴(MR)システムと、
速度/時間波形または流量/時間波形の代表値である信号を受信するための手段と連結され、MRデータから速度/時間波形または流量/時間波形を導出するための手段と、を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のシステム。
【請求項14】
MRシステムは、MR画像化(MRI)システムであり、
MRI画像の1つまたは一群のボクセルに対する速度/時間波形または流量/時間波形を取得し、取得したデータを1つまたは一群のボクセルと結びつけるための手段をさらに含むことを特徴とする請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記データは絶対平均血圧および/または平均血圧の低下の代表値を含むことを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載のシステム。
【請求項16】
前記データは抵抗の代表値を含み、
前記システムは血管の一部における平均流量を推定するための手段を含むことを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載のシステム。
【請求項17】
前記代表値は、心臓の左側と信号が測定された位置との間における値であることを特徴とする請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記代表値は、信号が測定された位置と心臓の右側との間における値であることを特徴とする請求項16または17に記載のシステム。
【請求項19】
複数の測定位置において得られた測定値から導出された数量に対する値を取得し、保存し、好ましくは表示するための手段を含み、前記データは位置間における数量の変化を含むことを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載のシステム。
【請求項20】
前記数量は、平均血圧、平均血圧の低下、動脈供給経路の血行動態の抵抗、血管床の抵抗、測定位置の上流と下流の抵抗の比率、血管の単位長さあたりの抵抗、および血液粘性の測定値のうちの1つ以上を含むことを特徴とする請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記数量は、第1の測定値と第2の測定値との比率を含むことを特徴とする請求項19に記載のシステム。
【請求項22】
前記データは、足関節の平均血圧と上腕の平均血圧との比率の代表値を含むことを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載のシステム。
【請求項23】
前記代表値は、第1の測定値と1との和に対する第2の測定値の比率の合計の逆数として計算されることを特徴とする請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記データは、測定位置の上流と下流の抵抗の比率、血管の単位長さあたりの抵抗、および血液粘性の測定値のうちの1つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載のシステム。
【請求項25】
対象の筋肉の最大エネルギー出力を好ましくは非侵襲的に推定するためのシステムであって、
筋肉を供給する動脈中において中心血圧波形の形状の測定値と、血流速度/時間または流量/時間の測定値とを導出するための手段と、
測定値を比較するための手段と、
測定値の比率が1に近づいているか実質的に1に等しいことを示す信号に反応する筋肉の活動に関係するエネルギー出力率を測定するための手段と、を含むことを特徴とするシステム。
【請求項26】
対象の血管の一部に病変が存在する場合に、好ましくは非侵襲的に情報を導出するための方法であって、
血管の一部における血流の速度波形または流量波形を代表する信号を受信するステップと、
速度波形または流量波形の形状の指標となる第1の測定値を導出するステップと、
心臓に起因する血圧波形の形状に関する第2の測定値を代表する信号を受信するステップと、
第1の測定値および第2の測定値に基づいて情報を導出するステップと、
導出された情報を保存または表示するステップと、を含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3(A)】
image rotate

【図3(B)】
image rotate

【図3(C)】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2012−520102(P2012−520102A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553511(P2011−553511)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000436
【国際公開番号】WO2010/103277
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(511223213)
【出願人】(511223224)
【Fターム(参考)】