説明

術後疼痛管理のための極性オピオイドの投与スキーム

医療手術後の疼痛の治療用の薬剤を製造するための、鎮痛活性をもつオピオイドの極性代謝産物またはその塩の投与スキームであり、当該薬剤が、医療手術の終了前に少なくとも一回投与される。具体的な実施形態において、オピオイドの任意の鎮痛活性極性代謝産物が使用されうる。好適な代謝産物は、グルクロニド代謝産物、特にモルヒネ‐6‐グルクロニドである。さらに、コデイン、レボルファン、ヒドロモルホン、オキシモルホン、ナルブフィン、ブプレノルフィン、フェンタニル、スフェンタニル、ナロルフィン、ヒドロコドン、オキシコドンおよびブトルファノール等、他のオピオイド鎮痛薬のグルクロニド類も適切である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性モルヒネ代謝産物類、特にモルヒネ‐6‐グルクロニドによる術後疼痛の治療のための投与スキームに関する。
【背景技術】
【0002】
術後疼痛管理は、患者および医師にとっての課題である。あまりに大量の全身投薬、例えばオピオイドは、生命にかかわる呼吸抑制が生じうる可能性があるが、あまりに小量であると、耐え難い激痛を生じうる。さらに、術後疼痛の過小治療は、離床患者の可動化を遅らせ、患者の入院や機能的回復を延長し得、および/または術後欠勤による金銭的損失を増加させる。
【0003】
現代医学において、モルヒネはなお重度の術後疼痛治療における選択薬である。しかしながら、モルヒネにはいくつかの副作用があり、これによりその鎮痛効果および患者の安全/服薬遵守が著しく損なわれうる。
【0004】
これらの副作用の中で、一般的かつ悲惨な術後悪心嘔吐(PONV:post‐operative nausea and vomiting)は、医療手術後に生じる最も望ましくない合併症の一つとして患者に評価され、術後疼痛よりもさらにひどいものでありうる。これは、損傷裂開を含む術後合併症、退院の遅れおよび予定外の再入院を伴いうる。
【0005】
PONVの発生は、手術のタイプ、麻酔技術、性別、制吐予防法の使用および/または術後疼痛緩和のためのオピオイド類の使用等の様々な因子に応じて、17〜59%の範囲でありうる。この問題を減じる試みにおいて、オピオイド節約効果から非オピオイド鎮痛薬が使用されている。
【0006】
いくつかのオピオイド類も、例えばモルヒネ‐6‐グルクロニド(M6G)等のモルヒネ代謝産物類も、術後鎮痛のためのモルヒネの代用品として評価されている。モルヒネ‐6‐グルクロニド(WHO International一般名:モルヒネグルクロニド、CAS No.20290‐10‐2、M6G)は、特に腎臓障害患者および長期治療の間においてモルヒネの鎮痛に貢献する活性代謝産物である。
【0007】
過去の治験により、M6Gの治療効果は発現が遅めであることが明らかになったが、これはおそらく、脳血液関門のM6Gの通過が、その比較的高い親水性に関係してより遅いためであろう(非特許文献1)。
【0008】
したがって、周知の急性疼痛管理スキームの上述の欠点の少なくとも一つを克服する術後疼痛の治療方法を提供することが、本発明の目的である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hannaら、Anesthiology 2005;102(4):815‐821
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、オピオイドの鎮痛活性の極性代謝産物、特にモルヒネ代謝産物M6Gを、術後疼痛の治療のために医療手術の終了前に少なくとも一回患者に投与することにより解決される。
【0011】
本発明の根底にある中心的概念は、その薬理効果の発現の一切の遅れを克服するための、活性極性代謝産物の早期投与であり、この「早期投与」とは、手術終了前の任意の時または手術終了時を意味する。
【0012】
本発明によれば、オピオイドの任意の鎮痛活性極性代謝産物が使用されうる。好適な代謝産物は、グルクロニド代謝産物、特にモルヒネ‐6‐グルクロニドである。しかし、コデイン、レボルファン、ヒドロモルホン、オキシモルホン、ナルブフィン、ブプレノルフィン、フェンタニル、スフェンタニル、ナロルフィン、ヒドロコドン、オキシコドンおよびブトルファノール等、他のオピオイド鎮痛薬のグルクロニド類も適切である。
【0013】
さらに使用可能な極性代謝産物は、オピオイドの硫酸塩、特にモルヒネ‐6‐硫酸塩である。しかし、他のオピオイド鎮痛薬の硫酸塩も本発明により投与できる。
【0014】
モルヒネ‐6‐グルクロニドおよびモルヒネ‐6‐硫酸塩の構造が、以下に示される:
【0015】
【化1】

モルヒネ‐6‐グルクロニド((5α,6α)‐7,8‐ジデヒドロ‐4,5‐エポキシ‐3‐ヒドロキシ‐17‐メチルモルフィナン‐6‐イル‐β‐D‐グルコピラノシドウロン酸)
【0016】
【化2】

モルヒネ‐6‐硫酸塩((5α,6α)‐7,8‐ジデヒドロ‐4,5‐エポキシ‐3‐ヒドロキシ‐17‐メチルモルフィナン‐6‐イル‐硫酸塩)
M6Gの調製方法は、国際公開第93/03051号、第93/05057号、第99/58545号および第9938876号に記載されている。薬学的組成物に用いられるM6Gの適切な形は、特に欧州特許第1537132号および0873346B1号に、M6Gの製造に関するさらなる言及を伴って記載されている。これらの文書は全て、薬学的に受容可能な形のM6Gの製造の開示に関して、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0017】
本発明により投与されるオピオイド代謝産物類は、遊離塩基として、またはそれぞれの薬学的に受容可能な塩として適用されうる。考えられる薬学的に受容可能な塩類には、臭化物、塩化物および硫酸塩が含まれる。本発明の一実施形態においては、M6G臭化水素酸塩またはM6G硫酸塩が使用される。その長期安定性により、特にM6G臭化水素酸塩が好ましい。M6Gの薬学的に受容可能な塩類、特にM6G臭化水素酸塩が、欧州特許第1537132B1号に開示されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0018】
上記したように、本発明のオピオイド代謝産物類は、極性代謝産物類である。以下において理解されるところの、「極性」という用語は、非極性モルヒネと比較して高い極性を意味する。化合物の極性の性質は、水性バッファーとオクタノール等の有機溶媒の間のその分配係数を測定することにより測定されうる。対数(logP)として表される水性バッファーとオクタノールの間で分割したモルヒネの分配係数は、0.70〜1.03の範囲である(Hansch C.およびLeo A.“Substituent Constants for Correlation Analysis in Chemistry and Biology”Wiley,N.Y.,1979)。したがって、本発明の極性代謝産物類は、上に定義されるモルヒネのものより低いlogP値を有するものとして特徴づけられる。
【0019】
リン酸塩/n‐オクタノール系で測定したモルヒネ‐6‐グルクロニドの分配係数(Log P)は、−2.40と決定されている。これは、特定の系に依存する。文献において、異なる技術で測定されたLog P値の変動が見られる[例えば−2.95(Wu D,Kang YS,Bickel U,Pardridge WM;“Blood‐brain barrier permeability to morphine‐6‐glucuronide is markedly reduced compared with morphine”in Drug Metab Dispos,1997;25(6):768‐771.)、−1.3(Gaillard P,Carrupt P‐A,Testa B;The conformation‐dependent Lipophilicity of Morphine Glucuronides as calculated from their Lipohilicity Potential”in:BioOrganic and Medicinal Chemistry Letters,1994;4(5):737‐742)または−0.76(Avdeef A,Barrett DA, Shaw PN,Knaggs RD,Davis SS;“Octanol‐,chloroform‐,and propylene glycol dipelargonat‐water partitioning of morphine‐6‐glucuronide and other related opiates”,in:J Med Chem,1996;39(22):4377‐4381.)。しかし、これらの値は全体的に見て、M6Gが極性分子であり、モルヒネよりも著しく極性であることを示している。
【0020】
本明細書で使用されるところの「医療手術」という用語は、侵襲性または非侵襲性の、診断目的および/または治療目的での、生体内への全ての種類の医学的介入を意味する。「医療手術」は、特に、患者の術後疼痛を引き起こすと通常見込まれる医療を含む。したがってこの用語は、局所または全身麻酔を伴う任意の種類の手術を含む。麻酔なしで行われうる局所介入、例えば何らかの内視法または他のより診断的な介入、または例えば放射線療法も含む。
【0021】
上に概説されるように、本発明によれば、オピオイド代謝産物類は、医療手術の終了時または終了前に少なくとも一回患者に投与される」。最も好ましくは、投与は手術の終了前である。「医療手術の終了」は患者の身体の介入が終結される時点である。したがって、手術の場合には、患者の皮膚が閉鎖される時点である(「皮膚閉鎖」)。他の手技、例えば放射線においては、放射線源のスイッチが切られる時点である。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態においては、オピオイド代謝産物は、手術の終了の少なくとも10分、少なくとも20分、少なくとも30分、少なくとも45分または少なくとも60、90もしくは120分前に患者に投与される。極性オピオイド代謝産物類の投与の正確な時点は、医療手術の長さおよび程度に依存するのが好ましい。
【0023】
本発明のさらなるの実施形態においては、極性オピオイド代謝産物は、手術の開始よりもさらに前、すなわち術前に患者に投与される。これは、手術が小手術である場合に特に有利である。小手術は、本発明の目的上、麻酔の導入から手術の(予定)終了時までが一時間以下であるのが通常である手術として定義される。
【0024】
他の実施形態においては、投与は手術の間、すなわち術中に実行される。さらに、麻酔の導入と共に、例えば同時に、代謝産物を患者に投与することが可能である。
【0025】
本発明によれば、代謝産物は、手術の終了前に少なくとも一回投与されうる。しかし、一回より多く、少なくとも二回、三回またはそれ以上投与されてもよい。術前投与、術中投与および術後投与を組み合わせた様々な投与スキームが可能であり、各投与ステップは単一または複数でありうる。
【0026】
好適な投与スキームにおいては、極性代謝産物が、術前および/または術中に患者に投与され、一回以上の用量(「負荷用量」)が与えられた後、術後投与が行われる。術後には、代謝産物が一回以上の用量で投与された後、さらに一回以上の個別的用量が投与されうる。この投与スキームのための好適な代謝産物は、M6Gまたはその塩類、特にM6G臭化水素酸塩である。
【0027】
術後には、極性代謝産物類が患者管理鎮痛法(PCA)により投与されうる。PCAは、鎮痛を個別化するとともに最適化するための、周知の患者による鎮痛薬の自己投与方法である。患者により使用されるこの注入デバイスは、静脈、皮下、心室、硬膜外、またはクモ膜下カテーテルに接続しており、患者がポンプに取り付けられたボタンを押すことにより、麻薬性鎮痛薬が投与されうる。このデバイスは、患者の鎮痛薬の過量摂取または濫用を防ぐために、指定の用量の薬物を必要に応じて所定の時間的間隔で送達するようにプログラムされうる。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、極性代謝産物、好ましい実施形態ではM6Gまたはその臭化水素塩が、下記の少なくとも一つのステップaおよびbまたはcを含む以下の投与スキームにしたがって投与される。
【0029】
a.薬剤が、少なくとも一回術前および/または医療手術の終了前に与えられ、および/または
b.薬剤が、少なくとも一回術後回復期(post−operative recovery phase)(手術終了から約6時間後までの間の期間)の間に与えられ、および/または
c.薬剤が、後で(医療手術の終了からの最高48h)時間後まで)灌流として、好ましくはPCAとして与えられる。
【0030】
特定の実施形態においては、ステップ1〜3が組み合わせられる。
【0031】
本発明の一実施形態においては、上のステップaで、薬剤が一回または二回、すなわち手術終了の約10〜40、好ましくは約30分前、および/または手術終了の約40〜約80、特に約60分前に、投与される。好ましくは、各回に体重70kgあたり約5mg〜15mgの用量、特に体重70kgあたり10mgが、5分間にわたり注射として与えられる。
【0032】
特に本発明の一実施形態においては、ステップaが、ステップbおよびcを伴わずに実行されてもよい。
【0033】
大手術においては、神経ブロックにより麻酔が導入される場合には、神経ブロックの150分後から開始して、i.v.用量でゆっくりと代謝産物が投与されうる。
【0034】
本発明のさらなる実施形態においては、手術の終了時(「皮膚閉鎖」時)に、体重70kgあたり約5〜約50mg、好ましくは体重70kgあたり約10〜約30mgが投与された。
【0035】
上のステップbに関しては、体重70kgあたり約5〜20、特に約10、約15または約20mgで一回または二回、代謝産物が投与されうる。
【0036】
ステップcにおいては、好ましくは1〜3mg/mlの代謝産物、特に2mg/mlの注入を用いて、24mg/時間を最大量として、患者の必要に応じて代謝産物の投与が行われる。
【0037】
上記の具体的投薬に関する上記の全ての実施形態は、特に静脈内投与形態のM6Gまたはその塩類、特にM6G臭化水素酸塩をさす。
【0038】
「麻酔」という用語は、麻酔剤によりもたらされうる、通常の感覚、特に疼痛の認識の欠如として定義される。麻酔は通常、患者が切開、組織操作および縫合によるいかなる疼痛または不快も感じないように、手術前に利用される。麻酔は、手技に応じて局所麻酔、脊髄麻酔、または全身麻酔として提供されうる。全身麻酔は意識消失を生じ、鎮痛、催眠、記憶喪失、弛緩、および反射の鈍磨を含みうる。局所または部分麻酔は、指定の領域だけに感覚の喪失を引き起こす。
【0039】
一実施形態においては、本発明は、特に中程度または重度の術後疼痛を引き起こすと見込まれる医療手術に言及する。中程度または重度の疼痛は、本明細書において、VRS‐11スケールの少なくとも4の疼痛であると定義される。
【0040】
疼痛の強さは、口頭式評価スケール(Verbal Rating scale、VRS‐11)を用いて評価できる。VRS‐11スケールは、患者が自分の疼痛を0=疼痛がないおよび10=これ以上の疼痛は考えられないの範囲の数値で表すように求められる、11ポイントのスケールである。術後患者が視覚的アナログスケールを記入することは実際上困難であるため、数値スケールが選択された。VRS‐11は、「0=『疼痛がない』および10=『これ以上の疼痛は考えられない』として、現時点での疼痛を0〜10で評価してください」という質問を用いて自らの疼痛を評価するよう患者に求めることにより、患者および調査者(オブザーバ)により実施される。
【0041】
治療の間に提供される疼痛緩和の許容性の包括的評価が、次の質問の考えうる回答としての5ポイントのカテゴリー評価スケールを用いて行われうる。
【0042】
「手術の後に提供された疼痛緩和をどう評価しますか。」
5=大変良い
4=良い
3=ふつう
2=悪い
1=非常に悪い
包括的疼痛評価は、調査者および患者の両者により行われうる。
【0043】
鎮静の評価には、いくつかの診断法が当業者に知られている。鎮静は、はい・いいえ式質問および3ポイント順序スケールの組合せを用いて評価されうる。したがって、患者に以下の質問がなされる:
・「眠気を感じますか」
考えられる回答: 『はい』
『いいえ』
・「『はい』の場合、あなたの鎮静を評価してください」
考えられる回答: 『軽度』
『中程度』
『重度』 。
【0044】
悪心の評価には、いくつかの診断法が当業者に知られている。悪心は、4‐ポイント順序スケールを用いて評価できる。したがって、患者に「現在感じる悪心(気分の悪さ)を、ない、軽度、中程度、重度で表してもらえますか」という質問がなれる。
【0045】
嘔吐/レッチングの評価には、いくつかの診断法が当業者に知られている。嘔吐/レッチングの発生は、患者に次の質問することにより評価できる。
【0046】
・「前回の質問以来、レッチングまたは嘔吐しましたか。」
考えられる回答: 『はい』
『いいえ』 。
【0047】
・「『はい』の場合、前回の評価以来の回数を教えてください。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1Aは、研究手技の模式的概略である。図1Bは、M6G022研究の患者処理である。
【図2】図2は、モルヒネおよびモルヒネ‐6‐グルクロニド治療群における、疼痛スコアおよび合計PCA要求量である。図2Aは、24時間のPCA中の疼痛強度である(インセット0〜6時間)。疼痛強度は、11ポイント口頭式評価スケール(VRS‐11)で測定される。図2Bは、毎時のPCA要求回数である。値は、平均+/−SEMである。
【図3】図3は、モルヒネおよびモルヒネ‐6‐グルクロニド治療群における、悪心、レッチングおよび嘔吐である。図3Aは、PCAの最初の24時間中に4‐ポイント数値スケールを用いて測定された悪心の重症度である。図3Bは、PCAの最初の24時間および次の24時間の悪心、レッチング/嘔吐およびPONVのスコアの曲線下面積である。値は、平均+/−SEMである。
【図4】図4は、モルヒネおよびモルヒネ‐6‐グルクロニド治療群における、PCAの最初の12時間の、3ポイント数値スケールで測定された鎮静スコアである、p<0.01 **p<0.05。
【図5】図5は、M6G臨床研究のメタ分析における悪心の最悪評価である。
【図6】図6は、M6G臨床研究のメタ分析における嘔吐の最悪評価である。
【図7】図7Aは、M6G臨床研究のメタ分析における、0〜24時間の時間ウィンドウでの疼痛の最悪評価である。図7Bは、M6G臨床研究のメタ分析における、0〜6時間の時間ウィンドウでの疼痛の最悪評価である。図7Cは、M6G臨床研究のメタ分析における、6〜24時間の時間ウィンドウでの疼痛の最悪評価である。
【図8】図8は、M6Gの濃度と口頭式疼痛スコアとの関係である(被験体3043)。
【図9】図9は、M6Gおよび疼痛のPK/PDモデリングである(被験体3043)。
【図10】図10は、M6Gおよび悪心/嘔吐のPK/PDモデリングである。
【図11】図11は、M6Gの疼痛‐スコアモデルの性能である。重み付き残差(WRES)対被験体番号(M6GALLPD01)を示すフィット(fit)プロット
【図12】図12は、M6Gの疼痛‐スコアモデルの性能である。重み付き残差(WRES)対被験体番号(M6GPONV01)を示すフィットプロット
【図13】図13は、15mgのモルヒネ対30mgおよび45mgのM6Gの鎮痛効果のシミュレーションである。
【図14】図14は、15mgのモルヒネ対モルヒネより2時間早く与えられた45mgのM6Gの鎮痛効果のシミュレーションである。
【図15】図15は、1〜3回の15mgM6Gの後続用量と組み合わせた45mgの開始用量の鎮痛効果のシミュレーションである。
【図16】図16は、15mgのモルヒネ対30mgおよび45mgのM6Gの副作用(PONV)のシミュレーションである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
実施例1
腹部大手術後の患者におけるモルヒネ‐6‐グルクロニドおよびモルヒネの鎮痛効力および忍容性の比較。
【0050】
背景:M6G022研究は、腹部大手術後の患者におけるモルヒネ‐6‐グルクロニド、M6Gおよびモルヒネの忍容性および鎮痛効力を調査する、ランダム化、プラセボ対照、二重盲検研究であった。研究デザインの模式的概略が、図1Aに与えられる。腹式子宮摘出術、腸または胃腸手術、または泌尿器科的大手術を受ける合計517人の患者をランダム化して、中程度から重度の術後疼痛緩和のためにM6Gまたはモルヒネを与えた。疼痛緩和、悪心および嘔吐を、患者管理鎮痛法の開始後24〜48時間記録した。
【0051】
方法:手術前に、患者をランダム化して、外部機関により準備されたスケジュールを用いて、M6Gまたはモルヒネを与えた。研究施設人員(薬局を除く)、後援会社代表、およびモニタリング、データ管理または研究のその他の側面に関与する組織は、研究治療に対して盲にした。ミダゾラム、テマゼパム、ゾピクロンまたは他の短時間作用性の術前不安緩解剤の使用は認めた。プロポフォル導入とイソフルランまたはセボフルランによる維持からなる標準全身麻酔を、全患者に与えた。これらの吸入剤は、PONVと同様のリスクを伴う。亜酸化窒素は、その催吐作用および使用の不均衡のリスクのため、認めなかった。1〜3μg/kgのフェンタニルまたは0.1〜0.3μg/kgのスフェンタニルの初回ボーラスと、必要に応じたさらなる用量を、術前および周術期鎮痛に用いた。研究薬により、術後鎮痛を提供した。負荷用量(標準の10mg/70kgのモルヒネまたは30mg/70kgのM6G)を5分にわたる静脈内注射として、手術終了の30〜60分前に投与した。M6Gの負荷用量は、モルヒネとM6Gが約3対1の効力比を有することを示し、大規模研究において確認されている、過去の実験的人体研究および臨床研究に基づく。麻酔後集中治療室における回復中に、0=疼痛がないおよび10=これ以上の疼痛は考えられないとして調査者により実施される11ポイント口頭式評価スケール(VRS‐11)で3以下のベースライン疼痛評価を達成するように、患者に、一回または二回のさらなる研究薬の投与(15mg/70kgのM6G、または5mg/70kgのモルヒネを5分間)を行うことができた。これを達成しなかった患者は、臨床的に有効であると分かっている疼痛鎮痛薬をそれ以上患者に与えないことは非倫理的であると感じられたため、この時点で試験から脱落させた。
【0052】
安楽が達成されている場合には、疼痛緩和を維持するために、患者に研究薬をPCA送達システム(Graseby 3300、Smiths Medical,Watford,UK)を介して必要に応じて自己投与させた。各有効な要求により、各投与の間に5分のロックアウト期間を伴って、2mg/mlのM6G溶液1mlまたは1mg/mlのモルヒネ溶液1mlが送達された。M6G対モルヒネの2:1の比は、薬の開発プログラムの以前の試験的研究の結果をもとに選択した。これらにおいては、負荷用量の投与により適切なレベルが達成された後には、脳からの薬剤除去がより遅いために、鎮痛を維持するための必要用量はより低いことが示唆された。患者が疼痛管理不良である場合には、調査者が、レスキュー薬物として各24時間の術後期間において二回以下、最高5mlのPCA研究薬を投与できた。加えて、モルヒネ節約薬剤として、6時間毎に1gのパラセタモールを経口または経直腸的に全患者に与えた。患者は、手術後最低24時間PCAを続けたが、臨床的に必要な場合には最高48時間継続できた。
【0053】
予防的制吐薬は与えなかったが、患者が重度の悪心を感じた場合、または嘔吐直後には、ivオンダンセトロン(4mg/2ml)を使用できた。これが無効な場合には、オンダンセトロン、またはシクリジン、プロクロルペラジンもしくはペルフェナジン等の他の薬剤のさらなる投与を認めた。
【0054】
安静時の疼痛強度を、PCAの開始後ベースライン、15、30および45分、ならびに1、2、4、6、9、12、15、18、21および24時間後に、VRS‐11スケールを用いて患者が評価した。術後患者が視覚的アナログスケールを記入することは実際上困難であるため、数値スケールが選択された。患者が24時間後にPCAを続けている場合には、8時間毎に48時間まで疼痛スコアを記録した。加えて、研究終了時に、患者およびオブザーバに、非常に悪い(1)から非常に良い(5)の範囲の5ポイント評価包括的スケールを用いて、調査全体を通しての疼痛緩和の許容性を評価するよう求めた。各患者が研究薬を受けるためにPCAボタンを押した回数を、「有効要求」(研究薬を受けられた場合)および「無効」(5分間のロックアウト期間につき研究薬を受けられなかった場合)の両方を含めて研究の全体を通してモニタした。研究薬の全消費量を計算した。
【0055】
女性の嘔吐リスク因子、乗物酔いまたはPONVの既往歴、または喫煙状況を、スクリーニング時に記録した。術後悪心を、患者が4ポイント順序スケール(ない、軽度、中程度、重度)を用いて評価し、嘔吐または乾嘔の発生を術前(1日目)、ベースライン、ならびに試験鎮痛薬の投与の1、2、4、6、9、12、15、18、21、24、32、40および48時間後に記録した(はい/いいえ、はいの場合には発生回数)。悪心および嘔吐は、単一の評価システム(術後悪心および嘔吐、PONV)にも組み合わせ、嘔吐または乾嘔の症状を悪心スケールで3(重度)のスコアとした。
【0056】
患者が鎮静された場合には、はい・いいえ式質問(眠気を感じる、はいまたはいいえ)と3ポイント順序スケール(軽度、中程度、重度)の組合せを用いて鎮静を評価した。制吐剤の使用に特に注意しながら、併用薬物とともに全ての有害事象を記録した。
【0057】
統計分析
治療意図(ITT:Intention to Treat)組の患者には、研究薬物に少なくとも一回曝露されている者全員を含んだ。この分析組が、主な効力ならびに全ての安全および人口統計学的分析の基礎となった。データは、CLINTRIALデータベースに相互検証を用いて二回入力し(Version 3.3.3,Phase Forward,Waltham,MA,USA)、SASを用いて分析した(version 8.2,SAS Institute Inc.,Cary,NC,USA)。
【0058】
試験の主な目的は、与えられた用量による疼痛緩和の非劣性を確認後、M6Gおよびモルヒネによる悪心の発生率および重症度を比較することであった。主要評価項目は、(i)VRS‐11を用いた疼痛強度のAUC0‐24により評価される、24時間の術後期間にわたる疼痛緩和と、(ii)悪心口頭式評価スケールスコアのAUC6‐24を用いて決定される、ベースライン緩和を達成してから6〜24時間後の悪心の発生率および重症度であった。研究デザインにおいては、PONVへの全身麻酔レジメンの影響を最小限にし、オピオイドに関係する嘔吐の最も明確なイメージを提供するために、6〜24時間の期間が選択された。モルヒネ群において悪心を患う患者のパーセンテージの、M6G群における25%の減少を見込んで(オッズ比1.8)、Sanansilpによるデータを用いて研究の規模を計算した。410人の患者(各治療群205人)のサンプルサイズは、90%の帰無仮説を棄却する力を有しただろう。M6Gの疼痛スコアのAUC0‐24が、97.5%の信頼度(片側区間)で、毎時10mmを超えてモルヒネのものを上回らない場合に、非劣性が確立された。疼痛緩和における非劣性が確立されたら、悪心のレベルを比較した優越性を、5%のレベルで試験した。両評価項目の仮説を、治療期間、手術のタイプおよび施設を含むANCOVAモデルを用いて試験した。「前回の観測値を代入する(last observation carried forward)」技術を用いて、早期に研究から脱落した患者の疼痛データを分析に含めた。6時間より以前に脱落した患者はPONVの評価に貢献せず、特に早期段階での疼痛緩和の不十分により、M6Gおよびモルヒネの脱落者数に不均衡があった。これらの患者の分析への包含が主要結果に影響したかもしれない場合のために、感度分析を行った。ベースライン以前に脱落させた全ての患者、および脱落させなかったが欠損データのためにAUCが計算されていない患者につき、各時点の治療群の平均、中央値、修正平均、平均+1SDおよび平均−1SDの値を用いて、シミュレーションされた悪心プロフィールを導出した。そして、これらのシミュレーションの各々から導出したデータを用いて、脱落患者を含めて主要分析を再び行った。
【0059】
結果:
517人の患者が研究に登録し、268人をランダム化してM6Gを与え、249人にモルヒネを与えた。治療群を、年齢および手術のタイプ、ならびに悪心リスク因子に関してよくマッチさせた。患者個体群統計が表1に示される。研究の薬剤投与レジームの模式的概略が図1Aに与えられ、患者処理が図1Bにまとめられている。M6Gを与えた二百二十三人の患者(83.2%)およびモルヒネを与えた227人の患者(91.2%)が、PCAを48時間完了した(図1B)。
【0060】
非研究術中オピエート類の使用を二つの治療群の間でバランスし、M6G群のうち176/268人(65.7%)にフェンタニルを与え、91/268人(34.0%)にスフェンタニルを与えた。モルヒネ群における対応する数字は、それぞれ166/249人(66.7%)および83/249人(33.4%)であった。
【0061】
6時間〜24時間の時間ウィンドウにおいてM6Gにより良好な鎮痛傾向がみられる。
【0062】
24時間にわたるM6Gおよびモルヒネの疼痛強度AUCsの修正平均の差は、+3.318であり(95%CI:−4.017、10.653)、24時間の期間全体における疼痛強度に関して、M6Gがモルヒネに対して非劣性であることが示された。しかし、後の6〜24時間の期間中には、疼痛AUCの差は、M6Gがモルヒネより優れる傾向を示した(図2A)。
【0063】
4時間〜24時間の時間ウィンドウにおいて患者のM6G要求量はモルヒネと比較して少なかった。
【0064】
最初に安楽を達成するためには、患者はおよそ3:1の期待比でモルヒネ(14.4mg/70kg)より多くのM6G(45.0mg/70kg)を必要とした。しかし、PCAの最初の24時間の期間中の比は1.7:1であり、PCAの次の24時間の期間中は(この期間も継続した患者において)さらに低かった(1.3:1)。両研究群におけるPCA要求量は、早期の術後期間中(4時間まで)でより多かった(図2B)。M6G腕の患者は、この時にモルヒネの患者よりも高頻度でさらなる鎮痛を要求した(この期間の平均合計要求量はM6G33.5、モルヒネ28.8;p=0.227)が、研究の後の段階ではM6G群の患者は鎮痛要求頻度が低かった(4〜48時間の平均合計M6G 53.1、モルヒネ93.9;p=0.004)。
【0065】
M6Gを与えられる患者において組み合わせ測定PONVの発生率および重症度が有意に減少した。
【0066】
組み合わせ測定PONVの発生率および重症度は、評価した全期間でM6Gに24.3%〜28.5%の間の有利な減少が見られ(図3B、表2)、これらは24時間までの期間で統計学的に有意だった。感度分析の結果は、悪心スコアAUCのものと同様だった。
【0067】
M6Gを与えられる患者において組み合わせ測定PONVの発生率が有意に減少した。
【0068】
同様に、最初の24時間の嘔吐および乾嘔のAUC比較では、6〜24時間でM6Gに有利な34.2%の減少が見られ(p=0.047)、0〜24時間で32.3%の減少が見られた(p=0.044)(図3B)。
【0069】
M6Gを与えられる患者は制吐薬物の必要量が少なかった。
【0070】
M6G患者では制吐薬物の使用に有意な減少があり、モルヒネの44.2%と比較して、35.4%が制吐薬物を必要とした(p=0.043)。
【0071】
M6Gを与えられる患者のほうが弱い鎮静が見られた。
【0072】
患者にPCAボタンの制御を与えた時点で(ベースライン)、ほとんどの患者が鎮静されていた(M6G203/268人[75.7%];モルヒネ219/249人[88.0%]、p=0.016)。M6Gの56人(20.9%)およびモルヒネの71人(28.5%)の患者の鎮静スコアが、この時点で重度と記録された。M6Gの平均鎮静スコアはモルヒネのものより低く(図4)、ベースライン1、2および4時間で差が統計学的に有意だった。
【0073】
結論:
M6Gの投与後、ほとんどの患者に術後早期の期間に良好な鎮痛がもたらされ、ほとんどが自らの全体的な術後疼痛緩和を大変良いまたは良いと評価した。より極性でないオピエート(opate)モルヒネと比較して、術後一時間以内においてM6Gは発現時間がより遅く、鎮痛が比較的弱かった。この発現の遅さは、M6Gの負荷用量をより早期に投与することにより、完全な早期術後鎮痛を達成することで克服できる可能性がある。
【0074】
等鎮痛用量であることが分かっている用量では、PCA開始後の悪心および嘔吐の発生率および重症度は、重症患者は制吐剤をより多く使用したにもかかわらず、モルヒネを与えられる患者のほうがM6Gを与えられる患者よりも高かった。。悪心のリスクの減少は、周知の女性のリスク因子を伴う患者においてより大きく、他のリスク因子を有する患者で減少がより大きい傾向があった。研究には、悪心および嘔吐(PONV)の組み合わせ測定も含み、ここでもモルヒネと比較してM6G治療で統計学的に有意な減少が見られた(6〜24時間の間で28.5%、p=0.018)。約24〜29%の領域の、術後最初の24時間にわたるPONVの減少の大きさは、オンダンセトロンの効果10と類似している。
【0075】
研究の主目的はPONVを評価することであったが、モルヒネと比較してM6Gによる鎮静の減少が観察されたことは興味深かった。重度の鎮静は、呼吸抑制および低酸素血症を起こしやすくするため、術後管理において臨床的に重要である。M6Gは鎮静を生じる傾向が低いため、モルヒネより呼吸抑制を誘発する可能性が低いはずである。
【0076】
実施例2
手術後のM6G疼痛治療による臨床研究のメタ分析
背景及び方法:
このメタ分析は、769人の患者データを含む、CENESにより支援された四つのM6G研究に基づく(表3参照)。うち、446人の患者がM6Gを与えられ、323人の患者がモルヒネを与えられた。
【0077】
四つの研究M6G001、M6G012、M6G015およびM6G022を、以下に記載する。
【0078】
M6G001A:この概念実証研究の目的は、股関節置換手術後に術後鎮痛を必要とする患者において、モルヒネの標準用量と比較したときの、M6Gの治療用量を選択することであった(n=18)。これは、二重盲検ランダム化研究であった。三つの用量レベルのM6G(10、15および20mg/70kg)、または1つの用量レベルのモルヒネ(10mg/70kg)をIVボーラス注射として投与した後、M6GまたはモルヒネのPCAを24時間行った。
【0079】
大多数の患者が手術後早期にPCAを必要としたため、モルヒネに対するM6Gの治療的に同等の用量はこの研究において決定できなかった。全ての用量のM6Gが十分に耐容されるとわかった。
【0080】
M6G012:この研究の目的は、全身麻酔下での股関節置換手術後の急性疼痛に対するM6Gの二つの異なる用量レジメンの鎮痛効果をモルヒネの標準レジメンと比較することであった(n=68)。患者をランダム化して、三つのIV治療レジメン(麻酔導入時のプラセボ+皮膚閉鎖時の10mg/70kgのモルヒネ、麻酔導入時のプラセボ+皮膚閉鎖時の30mg/70kgのM6G、または麻酔導入時の20mg/70kgのM6G+皮膚閉鎖時のプラセボ)の一つを受けさせた。患者にモルヒネによる術後レスキューを認め、PCAデバイスを介して全治療群にモルヒネも術後投与した。
【0081】
VASを用いて疼痛を評価すると、4時間の術後期間にわたり、皮膚閉鎖時に投与した30mg/70kgのM6Gは、皮膚閉鎖時に投与した10mg/70kgのモルヒネに対して非劣性であった。24時間の術後期間にわたるモルヒネおよびM6G治療レジメンにより提供される全体的疼痛緩和の患者の評価は同様だった。
【0082】
M6G015:このランダム化、プラセボ対照、二重盲検、用量範囲探索研究の目的は、標準の脊髄神経ブロック下での膝関節全置換手術後の疼痛に苦しむ患者において、三つの異なる用量(10、20、および30mg/70kg)のうち一つのM6GまたはプラセボをゆっくりIV投与後12時間でのレスキューおよびPCA薬物としてのモルヒネの消費を比較することであった(n=170)。患者に、神経ブロックの実施から150分後に、単回用量の研究治療を与えた。その後、レスキュー薬物およびPCAとしてモルヒネを投与した。24時間の術後期間にわたりPCAデバイスを通して送達される術後レスキュー薬物(モルヒネ)の使用をモニタすることにより、100mmVASを用いた疼痛の評価により、および包括的疼痛評価により、効力を評価した。完全な研究が、Dahan等.(Eur J Pain,2008;12(4):403‐411)により最近報告されている。
【0083】
一般に、研究治療により提供された疼痛緩和についての患者の全体的意見の結果から、大多数の患者が研究治療により与えられた疼痛緩和を「良い」または「大変良い」と評価したことが分かった。研究治療により与えられた疼痛緩和についての患者の意見には、プラセボ治療群と比較してM6G治療群のいずれとの間にも統計学的に有意の差はなかったが、これは患者が必要に応じてPCAを使用できたことから、予想通りであった。
【0084】
M6G022:研究のデザインが、結果と合わせて本発明の実施例1として示される。
【0085】
メタ分析
以下の変数がメタ分析に含まれた。
【0086】
・ 悪心(ない、軽度、中程度、重度)
・ 嘔吐(はい/いいえ)
・ 鎮静(ない、軽度、中程度、重度)
・ 疼痛(ない、軽度、中程度、重度)
・ 呼吸速度
・ ICU/回復時間
・ 制吐薬物 。
【0087】
メタ分析の最初の結果から、悪心、鎮静および嘔吐につき、統計学的に有意な差が明らかになった(結果を参照)。したがって、治療による層別化(モルヒネのみ、M6Gのみ、モルヒネおよびM6Gの組み合わせ)に関して追加的下位分析を行い、鎮痛の評価を0〜6時間および6〜24時間で分けた。
【0088】
結果:
M6Gを与えられる患者において術後悪心の重症度が有意に減少した。
【0089】
M6Gで治療した患者の23.9%およびモルヒネで治療した患者の32.8%において、中程度から重度の悪心が観察された(図5)。この差は有意である(p<0.0248)。
【0090】
M6Gを与えられる患者において術後鎮静の発生率および重症度が有意に減少した。
【0091】
M6Gで治療した患者の63.5%およびモルヒネで治療した患者の81.4%において、中程度から重度の鎮静が観察された。この差は、非常に有意である(p<0.0001)。
【0092】
M6Gを与えられる患者において術後嘔吐の発生率が有意に減少した。
【0093】
M6Gで治療した患者の26.0%およびモルヒネで治療した患者の36.5%において、嘔吐が観察された(図6)。この差は、有意である(p<0.0102)。
【0094】
6〜24時間の時間ウィンドウにおいてM6Gの鎮痛効力はモルヒネより優れている。
【0095】
PCAのスタート後0〜24時間の時間ウィンドウにおいては、モルヒネおよびM6Gの鎮痛効力の間に統計差はなかった(図7Aを参照)。しかし、6〜24時間の時間ウィンドウの鎮痛評価では、M6Gがモルヒネより優れていることが示された。この時間ウィンドウにおいては、M6Gで治療した患者の19.1%およびモルヒネで治療した患者の34.0%において、中程度から重度の疼痛が観察された(図7Cを参照)。0〜6時間の範囲の補完的時間ウィンドウにおいては、モルヒネ(54.2%)およびM6G(50.5%)の鎮痛効力の間に統計差はなかった(図7Bを参照)。このメタ分析は、M6Gは効力発現がより遅いことを示すM6G022研究の分析に合致する。
【0096】
M6Gを与えられる患者において最初の24時間の無疼痛の時間が延長された。
【0097】
モルヒネを与えられた患者では9.0〜10.9時間の無疼痛の時間が記録された一方で、M6Gで治療した患者には、11.6時間〜14.5の無疼痛の時間の延長が見られた。
【0098】
実施例3
単回および複数回鎮痛用量でのモルヒネ‐6‐グルクロニドの薬物動態
背景:
モルヒネ‐6‐グルクロニド(M6G)は、モルヒネの微量(10%)代謝産物であり、μ‐オピオイド受容体に対する同程度の親和性を有する。モルヒネよりはるかに極性であり、そのCNS浸透が比較的低いため、単回用量のモルヒネの活性に寄与しない。しかし、モルヒネの長期投与の間にはM6GがCNSに蓄積し、鎮痛を延長しうる。経口用量のM6Gは吸収されにくいが、30mgの静脈内用量は、激痛に対して10mgのモルヒネと同程度に有効な鎮痛薬である。低用量で静脈内投与された場合のPKと同様に、モルヒネの代謝産物としてのM6Gの薬物動態(PK)は度々研究されている。この実施例は、単回のおよび複数回の臨床的に意義のある用量で健常ボランティアに静脈内投与された場合の、化合物のPKについて記載する。
【0099】
材料および方法
健常な男性および女性の被験体を、各12人の二つの群(AおよびB)に分けた。群Aには24時間前に50mgのナロキソンを経口摂取させ、5分にわたりランダムな順序で15、30および45mg/70kgのレベルで3回のM6Gの単回静脈内注入を行った。各投与の間に7日間のウオッシュアウト期間を設けた。投与前、および注入開始の3、5、15、30分および1、2、3、4、6、12ならびに24時間後の時点で血液サンプルをとった。群Bには初回注入の24時間前に50mgのナロキソンを経口摂取させ、5回の15mg/70kgのM6Gの静脈内注入を各5分にわたり、6時間ごとの間隔で行った。5回の各投与の前、および1回目および5回目の注入開始の3、5、15、30分、ならびに1、2、3および4時間後、および5回目の投与の6時間後に血液サンプルをとった。バイタルサイン(臥位血圧、脈拍、呼吸数および口腔温)、呼吸速度、パルスオキシメトリおよび有害事象を研究の間モニタした。HPLC/ms/msを用いて、M6Gの血漿レベルを測定した。
【0100】
結果:
単回投与:M6Gの単回30mg静脈内投与後の、いくつかのPKパラメータが示されている(表4)。M6Gへの曝露の用量比例性を、群Aの三つの用量の比較により評価した。Cmax、AUC0‐tおよびAUC0‐∞として表される曝露は、M6Gの15、30および45mg(単回投与)の静脈内注入後に、直接用量に比例する形で増加した(表5)。
【0101】
複数回投与:群Bにおいて第1および第5投与後のAUC(0〜6時間)を比較することにより計算されるM6Gの蓄積は、およそ8%であった。5回目の投与により定常状態が達成され、M6Gのトラフ濃度は一貫していた(63.9 16.5ng/ml)。
【0102】
結論:
Cmax、AUC0‐tおよびAUC0‐∞として表される曝露は、M6Gの15、30および45mg(単回投与)の静脈内注入後に、直接用量に比例する形で増加した。第5投与後のAUC0‐6および第1投与後のAUC0‐∞の比較により、6時間の間隔で投与される15mgのM6Gの5回の6時間ごとの静脈内注入の中で定常状態が達成されたことが示された。M6Gの平均ピーク濃度は、第1投与よりも第5投与後におよそ25%高かった。各投与の6時間後に測定されるM6Gのトラフ濃度は一貫しており、平均63.9±16.5ng/mlだった。AUCに関してはほとんど蓄積がなく、AUC0‐6で8.1%、AUC0‐∞で2.9%であった。
【0103】
臨床的に有意な安全問題は確認されず、有害事象の性質は、モルヒネ療法で過去に報告されたものと同程度だった。
【0104】
実施例4
M6Gの薬物動態(Pharmacokineti)/薬力学(PK/PD)モデリング
背景及び方法:
PK/PDモデリングは、2545個の血漿中濃度を含む6つの研究における150人の被験体の母集団メタ分析からの、M6GのPKデータに基づく(表7)。
【0105】
モルヒネのPKデータは、193個の血漿中濃度を含む1つの研究の18人の被験体から導出される。加えて、二つの公表された母集団PK研究からのデータを含めた。
【0106】
「三コンパートメントモデル」を適用して、ソフトウェア「NONMEM」(バージョン6)を用いてM6GおよびモルヒネのPKパラメータをシミュレーションした。
【0107】
「モンテカルロシミュレーション」を適用して、ソフトウェア「ModelMaker」(バージョン4)を用いてM6Gおよびモルヒネの薬力学をシミュレーションした。
【0108】
結果:
PKデータの一般的分析:
分析により、腎機能からM6Gの全身クリアランスが予測でき、M6Gの全身クリアランスが麻酔された患者において約半分に減少し、体重が中心容積および末梢容積の良い予測因子であることが分かった。
【0109】
モルヒネについては、薬物動態パラメータの明確な予測因子は見つからなかった。
【0110】
PK/PDモデル性能の評価
モデルの適合度を評価するために、患者の値と予測値の間の差を示す重み付き残差(WRES:weighted residual)を分析した。正および負の値がほぼ等しい数でなければならず、任意の大きな数は異常値でありうる。このようなNONMEM重み付き残差では、+または−6の値は異常値を示唆する。
【0111】
フィットプロットの良好性により、大多数のWRES値が−2〜+2の範囲内であることが明らかになり、ほんの少数の過剰の正数が観察できた(図11および12)。つまり分析から、確立されたPK/PDモデルの良好性が確認された。結果として、PK/PDモデリングは、異なる用量のモルヒネおよびM6Gのi.v.投与後の鎮痛効力および副作用(特にPONV)のシミュレーションを可能にするはずである。
【0112】
シミュレーションはモルヒネに対するM6Gのより遅い発現を示す。
【0113】
15mgのモルヒネおよび30mgのM6Gのi.v.投与後のシミュレーションされた疼痛スコアの比較により、M6Gに鎮痛作用のより遅い発現が見られることが明らかになった(図13)。後の時点ではM6Gがモルヒネより優れている点に注意することが重要であり、これは臨床研究の結果とも一致する。
【0114】
さらに、このシミュレーションは、M6Gが臨床研究においても明らかであった長期にわたる鎮痛を生じることをうまく証明する。
【0115】
モルヒネより2時間早く与えたM6Gはモルヒネよりも全期間で優れている
モルヒネよりも優れたM6Gの用量および投与スキームを得るために、いくつかのシミュレーションを行った。その結果、15mgのモルヒネと比較して、45mgのM6Gのより早期の投与が、全期間でより優れた鎮痛作用をもたらすことが分かった(図14)。
【0116】
さらなる15mgのM6G投与により鎮痛作用を維持できた。
【0117】
さらなるシミュレーションにより、6、8および12時間の時間的間隔での、15mgの用量でのさらなるM6G投与の効果が示された。6または8時間の時間的間隔では、鎮痛作用はうまく維持されたが、12時間の時間的間隔でも、開始用量の鎮痛作用の消失が有意に減少した(図15)。これらの結果は、6時間の間隔での15mgの投与により血漿中の薬物の定常状態がもたらされたヒトPK研究(実施例3)の結果と良く一致する。
【0118】
様々な用量で与えられるM6Gはモルヒネと比較して副作用(PONV)が少ない。
【0119】
副作用(PONV)のシミュレーションにより、30mgおよび45mgの用量でのM&Gにより誘発される副作用が、15mgのモルヒネよりもかなり少ないことが分かった(図16)。
【0120】
M6Gにはモルヒネよりも大きな治療域が見られる
いくつかの用量のモルヒネおよびM6Gについてシミュレーションした疼痛スコアおよび副作用(PONV)の比較により、鎮痛作用および副作用についてのED50値を計算できた(表9、表8も参照)。疼痛関連ED50と副作用関連ED50との間の比により例証される治療域は、M6Gのほうがモルヒネよりも5倍大きい(M6G:7.5対モルヒネ:1.5;表9右欄を参照)。
【0121】
表のリスト
表1:M6G022研究の患者個体群統計
表2:M6G022研究において観察される術後悪心嘔吐
表3.メタ分析に使用されるM6G研究
表4:健常ボランティアに15、30および45mg/kgで5分注入後のM6GのPKパラメータ。
表5:M6Gを15、30および45mg/kgで単回5分注入後の用量比例性の統計分析。
表6.健常ボランティアへの15mg/kgのM6Gの1回目および5回目の投与後の、M6G複数回投与薬物動態パラメータのまとめ。
表7 PK/PDモデリングに使用されるデータの概要
表8 PK中央値を使用した、異なる用量のM6Gおよびモルヒネでの24時間の疼痛AACsおよびPONV AUCsの比較。
表9 治療限界の計算
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
【表3】

【0125】
【表4】

【0126】
【表5】

【0127】
【表6】

【0128】
【表7】

【0129】
【表8】

【0130】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療手術後の疼痛の治療用の薬剤の製造のための、鎮痛活性をもつオピオイドの極性代謝産物またはその塩の使用であり、前記薬剤が、前記医療手術の終了前に、少なくとも一回投与される、使用。
【請求項2】
前記薬剤が、術後少なくとも一回、好ましくは前記術後回復期に、さらに投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記薬剤が、前記手術の終了の、少なくとも約10分前、少なくとも約20分前、少なくとも約30分前、少なくとも約45分前または少なくとも約60分前、約90分前もしくは約120分前に、患者に投与される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記薬剤が、術前に投与される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項5】
前記薬剤が、麻酔の導入と併用して前記患者に投与される、請求項1〜3に記載の使用。
【請求項6】
前記回復期の後に、患者管理鎮痛法(PCA)の場面において、前記極性オピオイド代謝産物も投与される、上記の請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
前記極性オピオイド代謝産物が、モルヒネ‐6‐グルクロニド、モルヒネ‐3,6‐ジグルクロニド、モルヒネ‐6‐硫酸塩、6‐モノアセチルモルヒネ、ノルモルヒネおよびモルヒネ‐3‐エーテル性硫酸塩(morphine−3−ethereal sulphate)からなる群より選択される、上記の請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
前記薬剤が、次のステップaおよびbまたはcを含む以下の投与スキームにしたがって投与される、術後疼痛の治療用の薬剤の製造のための、上記の請求項のいずれか一つに記載の使用:
a.前記薬剤が、少なくとも一回術前におよび/または医療手術の終了前に投与される、および/または
b.前記薬剤が、少なくとも一回前記術後回復期の間に投与される、および/または
c.前記薬剤が、前記医療手術の終了後に最長約48時間、灌流として、好ましくはPCAとして投与される。
【請求項9】
前記活性代謝物が、M6Gまたはその塩類、特にM6G臭化水素酸塩であり、前記代謝産物が、前記手術の終了の少なくとも約10分前、少なくとも20分前、少なくとも30分前、少なくとも45分前または少なくとも60分前、少なくとも90分前もしくは少なくとも120分前に、体重70kgあたり約5mg〜15mg、特に体重70kgあたり10mgの用量で投与される、請求項1または2または8に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2012−505843(P2012−505843A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531359(P2011−531359)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008773
【国際公開番号】WO2010/043240
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(509011824)パイオン ユーケー リミテッド (5)
【Fターム(参考)】