説明

衛星再サーチ手段

【課題】
仰角を固定し、アンテナを360度回転しながら受信強度の測定を行い、最も強い受信波になる方位角をサーチする方法であると、衛星切り替えの際の再サーチ時間が無視できない長さになる。また、ブロッキング状態になると、最適な衛星方向への指向が失敗してしまうことにもなりかねない。
【解決手段】
車両や船舶等の移動体に搭載される移動体搭載用衛星自動追尾装置であって、衛星を切り替える必要が生じた場合の衛星再サーチ手段において、移動体が移動している場合に、GPSから移動体の緯度経度を測位して次に捕捉する衛星の緯度経度を取得する衛星位置算出手段と、前記衛星位置算出部が取得する衛星の方位からGPSによって得られるヘディング角を減算してベアリング角を計算するベアリング角算出手段からなり、アンテナを前記ベアリング角だけ回転させることを特徴とする衛星再サーチ手段である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衛星通信用アンテナの衛星自動追尾装置に関し、特に移動体(車両、船舶等)に搭載される衛星自動追尾装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の移動体(車両、船舶等)に搭載される衛星通信用アンテナの衛星自動追尾装置では、移動体自身の方位角と傾斜角を求めるセンサとして、傾斜計と磁気コンパスやジャイロコンパス等のセンサを組み合わせて用いている。
【0003】
また、通信衛星への目標角については、運用者が地図情報を基に緯度経度を求め、その値から目標角を算出し、回転雲台の制御部に入力するか、グローバルポジショニングシステム(以下GPS)受信信号を取り込み、自身の位置を認知し、目標角を演算する方法が取られている。尚、静止した状態で運用する際の衛星捕捉においては、受信信号のレベルを見ながら手でアンテナの向きを微調整することも少なくない。
【0004】
一例として、図1に傾斜計とジャイロコンパスを用いた移動体搭載用衛星自動追尾装置の構成図を示す。図1に記載の移動体搭載用衛星自動追尾装置においては、センサユニットとして、傾斜角と方位角を検出可能なジャイロコンパス6と、傾斜角の精度補正用として2軸傾斜計5を用いており、同様に検出値は制御部4へ出力する。
【0005】
同様に、GPS受信機7の信号も制御部4に取り込み、センサユニットの検出値と演算し、目標とする通信衛星への目標方位角と垂直迎え角を求め、回転雲台2を目標角まで制御・駆動し、アンテナ1を衛星方向へ向けて衛星電波を捕捉する。捕捉した衛星電波は変復調部3にて目的とする運用機材に適したI/F信号に処理される。
【0006】
このように、ジャイロコンパスを搭載した移動物においては、該ジャイロコンパスが船首方位を示しているため、この角度を用いてアンテナの方位を衛星に向けられるし、ジャイロコンパスを搭載していなければ、GPS測位値から衛星に対するアンテナの仰角を求め、この仰角に固定した上で、アンテナを回転しながら受信強度測定を行い、電波の強い方位をサーチするという方法が用いられる。
【0007】
その他の衛星追尾方法としては、例えば特許文献1では、どの衛星を用いるのが最適であるかを知るために、最大周波数オフセットを持つ衛星を探索する手段が述べられている。また、特許文献2では、衛星追尾を行うために、GPSと2軸傾斜計と3軸レートジャイロを用いる手段が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−59281号公報
【特許文献2】特開2005−300347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら前記手段のように、仰角を固定し、アンテナを360度回転しながら受信強度の測定を行い、最も強い受信波になる方位角をサーチする方法であると、衛星切り替えの際の再サーチ時間が無視できない長さになる。
【0010】
また、アンテナと衛星の間に、例えば移動体の一部が入ってしまうといったブロッキング状態になると、最適な衛星方向への指向が失敗してしまうことにもなりかねない。
【0011】
また、非大型移動体においてはジャイロコンパスを搭載していない場合も多く、前記従来技術によれば船首方向がわからないため、アンテナを衛星方向に指向するのが難しいという現状である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために本発明は、
車両や船舶等の移動体に搭載される移動体搭載用衛星自動追尾装置であって、衛星を切り替える必要が生じた場合の衛星再サーチ手段において、
移動体が移動している場合に、
GPSから移動体の緯度経度を測位して次に捕捉する衛星の緯度経度を取得する衛星位置算出手段と、
前記衛星位置算出手段が取得する衛星の方位からGPSによって得られるヘディング角を減算してベアリング角を計算するベアリング角算出手段からなり、
アンテナを前記ベアリング角だけ回転させることを特徴とする衛星再サーチ手段である。
【0013】
本手段によれば、アンテナの回転角つまりベアリング角を直接計算することができるため、再サーチ時間を大幅に短縮でき、しかもブロッキング状態であっても処理を完了できる。
【0014】
また、本発明は、前記衛星再サーチ手段において、
移動体が停止あるいは低速移動している場合に、
前記衛星位置算出手段によって特定される次に捕捉すべき衛星の緯度経度と現在捕捉している衛星の緯度経度からアンテナの回転角を計算する手段と、
角速度センサの測量値の積分値が前記アンテナの回転角に達したらアンテナの回転を停止する制御手段からなり、
アンテナを前記回転角だけ回転させることを特徴とする衛星再サーチ手段である。
【0015】
本手段によれば、現在の衛星の位置と、次に捕捉する衛星の位置を用いることで、アンテナの回転量を決定することができるため、再サーチ時間を大幅に短縮でき、しかもブロッキング状態であっても処理を完了できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、仰角を固定してアンテナを方位方向に360度回転させながら、受信電波強度の強い方向を探す手間が省けるので、衛星再サーチ時間が短縮できる。また、このような受信信号の強度を計算する必要が無くなるため、装置の小型化、低消費電力化も可能になる。
【0017】
また、例えばアンテナと衛星の間に移動体の一部が入ってしまうといったブロッキング状態になっても、アンテナを衛星方向に指向することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の衛星サーチ手段
【図2】角度表記の用い方
【図3】本発明にかかる衛星サーチ手段
【図4】全体フローチャート
【図5】移動時のフローチャート
【図6】停止時のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0019】
本発明の好適な実施例について、図を参照して説明する。
【0020】
まず、図2を用いて角度表記における一般的な用語を、船舶を例に挙げて説明する。船舶11の船首方向14が同図の方向を向いており、衛星12が存在する。この時、船舶11の船首方向14と真北方向13の角度差をヘディング角、船首方向14と衛星12の角度差をベアリング角、真北方向と衛星方向の角度差をアジマス角と言う。
【0021】
次に、図3に本発明にかかる実施の形態を示す。アンテナ1は回転雲台2に設置される。アンテナ1を衛星方向へ向けて衛星電波を捕捉し、捕捉した衛星電波は変復調部3にて目的とする運用機材に適したI/F信号に処理され、該信号を利用するものである。
【0022】
回転雲台の回転を制御するのが制御部4である。GPS31はヘディング角及び緯度経度の測位値を出力する。
【0023】
移動体が移動している場合は、例えば船舶であれば、移動方向に船首が向いているため、ヘディング角を取得でき、該ヘディング角によりベアリング角算出部32でベアリング角を算出することができる。
【0024】
ここで、ベアリング角は、図2からも明らかなように、衛星の方位角(アジマス角)から前記ヘディング角を減じたものである。なお、計算結果がマイナスの値であった場合には、計算結果に360度をプラスするものとする。
【0025】
前記衛星の方位角は、衛星位置算出部33が、GPS31が出力する移動体の緯度経度の測位値と、捕捉したい衛星の緯度経度を元に、単純な三角関数によって算出するものである。
【0026】
制御部4は、算出されたベアリング角を元に、船首方向に対して該ベアリング角分だけ、回転雲台2を用いて、アンテナ1を衛星方向に指向させる。
【0027】
次に、移動体が、停止あるいは低速移動をしている場合について説明する。この時には、GPS31は緯度経度の変化による進行方向の取得、つまりヘディング角の取得が出来ない。しかしGPS31によって、衛星位置算出部33が捕捉すべき次の衛星の緯度経度を算出できるため、これを利用する。
【0028】
すなわち、本発明は衛星の再サーチに関するものであり、現在捕捉している衛星の緯度経度は既知であるため、次に捕捉すべき衛星の緯度経度が前記衛星位置算出部33によって判明すれば、その差分を取れば、回転雲台2の現時点からの新たな回転量Aが求まるのである。
【0029】
従って、回転雲台による回転量を測量するために、回転雲台2の回転軸上に角速度センサ34を設置し、該角速度センサ34の出力値の総和を積分値算出部35で計算し、該総和が前記回転量Aに到達した時点でアンテナ1が新たな衛星に指向することになる。制御部4は積分値算出部35の出力に応じて回転雲台2の回転を継続するか静止させるかを判断する。
【0030】
このように、本発明は、移動体が移動している時は、移動体のヘディング角と、次に捕捉すべき衛星の緯度経度から、ベアリング角を求めて回転雲台を制御するものである。また、移動体が停止あるいは低速移動している時は、現在捕捉している衛星の緯度経度と、次に捕捉すべき衛星の緯度経度から回転量Aを求め、角速度センサの測量値の積分値が回転量Aに到達するよう回転雲台を制御するものである。
【0031】
次に本発明にかかる処理をフローチャートを用いて説明する。
【0032】
図4は処理全体のフローチャートである。衛星の再サーチが必要になると、まず、移動体が一定速度以上で移動しているかどうかを判定する(S41)。一定速度以上で移動している場合は、ベアリング角を算出し(S42)、アンテナをベアリング角だけ回転させて衛星に指向する(S43)。
【0033】
この場合のさらに詳細なフローチャートを図5に示す。まず、物体が移動することによる緯度経度の変化から、GPSは方位データをヘディング角として出力できる(S51)。次にGPSから移動体の緯度経度を得て(S52)、さらに、次に捕捉すべき衛星の緯度経度を取得し(S53)、衛星のアジマス角を計算する(S54)。
【0034】
このアジマス角とヘディング角から、アンテナを向けるべき衛星のベアリング角を算出する(S55)。このベアリング角がマイナスであれば(S56)、ベアリング角に360度を加算する(S57)。そしてアンテナをベアリング角の分だけ回転し、衛星に指向する(S58)。
【0035】
次に、図4で移動体が停止もしくは低速で移動している場合には、アンテナシステムの方位軸の回転角を算出する(S44)。そして回転角の分だけ方位軸を回転させる(S45)。
【0036】
この場合のさらに詳細なフローチャートを図6に示す。まず、GPSから移動体の緯度経度を取得する(S61)。次に、現在捕捉している衛星の緯度経度を取得する(S62)。さらに、次に捕捉すべき衛星の緯度経度を取得する(S63)。
【0037】
そして、現在捕捉している衛星の緯度経度と、次に捕捉すべき衛星の緯度経度によって、回転雲台の回転量を算出する(S64)。そして、この算出量だけ回転雲台を回転させる(S65)。どのくらい回転したかは角速度センサで管理し、その測量値の積分量が総回転量であるから、角速度センサの測量値の積分値と、前記回転すべき回転量を比較する(S66)。
【0038】
比較した結果、算出した回転角に達していなければ、引き続き回転を続ける。この処理によって、アンテナを衛星に指向できる。
【0039】
本発明では、移動体の一例として船舶を用いたが、これに限定するものではなく、他の移動体に関しても同様である。
【0040】
本発明では、次に捕捉すべき衛星の特定方法は任意のものであり、その手段を特定するものではない。
【0041】
本発明では、ヘディング角を取得するため、及び緯度経度といった測位値を取得するためにGPSを用いているが、利用目的によって複数のGPSを装備するか、一つのGPSで複数の出力を用いるかは限定しない。
【符号の説明】
【0042】
1…アンテナ、 2…回転雲台、 3…変復調部、 4…制御部、
5…2軸傾斜計、 6…ジャイロコンパス、 7…GPS受信機、
11…船舶、 12…衛星、 13…真北方向、 14…船首方向、
31…ヘディング角と測位値を取得するGPS、 32…ベアリング角算出部、
33…衛星位置算出部、 34…角速度センサ、 35…積分値算出部。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両や船舶等の移動体に搭載される移動体搭載用衛星自動追尾装置であって、衛星を切り替える必要が生じた場合の衛星再サーチ手段において、
移動体が移動している場合に、
GPSから移動体の緯度経度を測位して次に捕捉する衛星の緯度経度を取得する衛星位置算出手段と、
前記衛星位置算出手段が取得する衛星の方位からGPSによって得られるヘディング角を減算してベアリング角を計算するベアリング角算出手段からなり、
アンテナを前記ベアリング角だけ回転させることを特徴とする衛星再サーチ手段。
【請求項2】
請求項1に記載の衛星再サーチ手段において、
移動体が停止あるいは低速移動している場合に、
前記衛星位置算出手段によって特定される次に捕捉すべき衛星の緯度経度と現在捕捉している衛星の緯度経度からアンテナの回転角を計算する手段と、
角速度センサの測量値の積分値が前記アンテナの回転角に達したらアンテナの回転を停止する制御手段からなり、
アンテナを前記回転角だけ回転させることを特徴とする衛星再サーチ手段。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−203027(P2011−203027A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69094(P2010−69094)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】