説明

衝撃吸収体

【課題】衝撃を受け付けた場合に、搭乗者の恥骨に対する荷重を低減させるとともに充分な衝撃吸収性能を発揮させることが可能な衝撃吸収体を提供する。
【解決手段】車のトリム(201)内に搭載され、搭乗者(P)の腰部(L)を保護する衝撃吸収体(100)であり、搭乗者(P)の恥骨(112)に対応する第1の部位(41)においては、衝撃吸収体(100)が衝撃を受け付けた時に発生する応力が所定の値(例えば、100cm2当り2.5kN)以下であり、搭乗者(P)の腸骨(113)に対応する第2の部位(42)においては、衝撃吸収体(100)が衝撃を受け付けた時に発生する応力が所定の値(例えば、100cm2当り7.0kN)以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車における衝突安全性能の向上のために、車体の高強度化やエアーバックの装備などが図られている。また、省資源、環境問題などの観点から、燃料消費量の低減が重要事項となっており、この問題解決のために、自動車の軽量化が強く求められており、それぞれの部品において、金属から樹脂への転換さらには樹脂材料の使用量の削減が急速に進んでいる。
【0003】
また、近年では、正面衝突時における安全性能に加えて、側面衝突時における安全性能の向上も要求されている。側面衝突時における安全性能を向上させるためには、ドアが最も重要な構成部品となる。このため、自動車の側面衝突による衝撃を緩和するために、ドアパネルとドアトリムとの間に衝撃吸収体が搭載されている。
【0004】
上記の衝撃吸収体としては、熱可塑性樹脂をブロー成形した中空壁構造の衝撃吸収体などがある。例えば、特許文献1(特許第3313999号公報)には、略中空立方体形状の本体と、その本体の互いに対向する当接面および支持面をそれぞれ他方へ向けて窪ませて形成された一方の凹状リブおよび他方の凹状リブと、両凹状リブの先端が当接した接合部と、を有して構成する衝撃吸収体について開示されている。
【0005】
なお、側面衝突時において搭乗者はドアトリムと衝突することになるが、そのドアトリム内に搭載される衝撃吸収体により搭乗者に対する衝撃を緩和し、搭乗者を保護することになる。
【0006】
しかし、衝撃速度が速い場合等で搭乗者の腰部がドアトリムと衝突した場合は、そのドアトリムを介して搭乗者の腰部に大荷重が負荷されることになる。この場合、負荷された大荷重が搭乗者に対して影響を及ぼすことがある。このようなことから、衝突時の搭乗者に対する荷重を低減させる必要がある。
【0007】
なお、本発明より先に出願された技術文献として、搭乗者の腹部にあたる部分では柔らかい腹部に対応した緩慢な衝撃吸収性を実現させ、比較的硬い腰部では衝撃吸収体の圧縮強度を強く設定し、高い衝撃吸収性を実現させた車両用ドアトリムの構造について開示された文献がある(例えば、特許文献2:特開2004-299632号公報参照)。
【0008】
上記特許文献2の車両用ドアトリムの構造では、衝撃吸収のための凹状リブ8を形成し、その凹状リブ8は、搭乗者の腹部に対応する部分aにおいては、外壁面5と凹状リブ8の先端部との間隔を20〜40mmとし、かつ、搭乗者の腰部bに対応する部分においては、外壁面5と凹状リブ8の先端部とを20mm未満の間隔に近接、当接または溶着した構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3313999号公報
【特許文献2】特開2004−299632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献2には、人体の部位に応じて衝撃吸収性能を異ならせた構造について開示されている。しかし、上記特許文献2は、ドアトリム自体の構造に関する発明であり、ドアトリムの内部に搭載される衝撃吸収体の構造に関する発明ではない。また、上記特許文献2では、腰部では強い衝撃吸収性を実現させることにしており、腰部を構成する恥骨に対する荷重を低減させる点についてまでは考慮していない。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、衝撃を受け付けた場合に、搭乗者の恥骨に対する荷重を低減させるとともに充分な衝撃吸収性能を発揮させることが可能な衝撃吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0013】
<衝撃吸収体>
本発明にかかる衝撃吸収体は、
車のトリム内に搭載され、搭乗者の腰部を保護する衝撃吸収体であって、
前記搭乗者の恥骨に対応する第1の部位においては、前記衝撃吸収体が衝撃を受け付けた時に発生する応力が所定の値以下であり、
前記搭乗者の腸骨に対応する第2の部位においては、前記応力が所定の値以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、衝撃を受け付けた場合に、搭乗者の恥骨に対する荷重を低減させるとともに充分な衝撃吸収性能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の衝撃吸収体100の全体構成例を示す図である。
【図2】本実施形態の衝撃吸収体100の表面構成例を示す図である。
【図3】本実施形態の衝撃吸収体100の裏面構成例を示す図である。
【図4】本実施形態の衝撃吸収体100の一部の断面構成例を示す図である。
【図5】本実施形態の衝撃吸収体100の配置例を示す図である。
【図6】本実施形態の衝撃吸収体100の第1壁4側の構成例を示す図である。
【図7】本実施形態の衝撃吸収体100を構成する第1の部位41と第2の部位42とにおける圧縮荷重に対する歪み(変位)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<衝撃吸収体100の概要>
まず、図5、図6(a)を参照しながら、本実施形態の衝撃吸収体100の概要について説明する。
【0017】
本実施形態の衝撃吸収体100は、車のドアトリム201内に搭載され、搭乗者Pの腰部Lを保護する衝撃吸収体100である。本実施形態の衝撃吸収体100は、搭乗者Pの恥骨112に対応する第1の部位41においては、衝撃吸収体100が搭乗者Pからの衝撃を受け付けた時に発生する応力が所定の値(例えば、100cm2当り2.5kN)以下であり、搭乗者Pの腸骨113に対応する第2の部位42においては、衝撃吸収体100が搭乗者Pからの衝撃を受け付けた時に発生する応力が所定の値(例えば、100cm2当り7.0kN)以上であることを特徴とする。これにより、本実施形態の衝撃吸収体100は、衝撃吸収体100が衝撃を受け付けた場合に、搭乗者Pの恥骨112に対する荷重を低減させるとともに充分な衝撃吸収性能を発揮させることができる。以下、添付図面を参照しながら、本実施形態の衝撃吸収体100について詳細に説明する。
【0018】
<衝撃吸収体100の構成例>
まず、図1〜図4を参照しながら、本実施形態の衝撃吸収体100の構成例について説明する。本実施形態の衝撃吸収体100は、側面衝撃時に搭乗者の腰部がドアトリムに当たる位置を想定してドアパネルとドアトリムとの間に搭載され、搭乗者の腰部を効果的に保護するものである。図1は、本実施形態の衝撃吸収体100の斜視図であり、図2は、衝撃吸収体100の第1壁4側の表面構成例を示し、図3は、衝撃吸収体100の第2壁5側の表面構成例を示し、図4は、衝撃吸収体100の断面構成例であり、図2に示す3A-3A線における断面構成例を示している。本実施形態の衝撃吸収体100は、搭乗者側(ドアトリム側)に位置する面を第1壁4とし、搭乗者と反対側(ドアパネル側)に位置する面を第2壁5としている。
【0019】
本実施形態の衝撃吸収体100は、熱可塑性樹脂をブロー成形して中空状に成形したものであり、中空部2を有する本体3の互いに対向する第1壁4及び第2壁5の両方をそれぞれ他方に向けて窪ませて形成された対をなす第1の凹状リブ6,7を複数有し、これらの第1の凹状リブ6,7の先端部が互いに当接して接合部8を構成している。
【0020】
第1の凹状リブ6,7の形状は様々な形状で構成する。また、第1の凹状リブ6,7は、図4に示すように、第1壁4または第2壁5の開口端12,13から中空部2方向に縮径しており、その縮径角γは、3〜30°であり、開口端12,13の直径A(図2参照)は、10〜40mmである。第1の凹状リブ6,7をこの数値の範囲で形成すると、衝撃吸収体100が搭乗者Pの衝突によって受けた荷重により、凹状リブ6,7の圧縮変形を伴って変形されることになり、衝撃吸収体100が変形されることによって搭乗者Pの衝突時のエネルギーが消費されるため、衝撃吸収体100が搭乗者Pに対して発生する応力が適度に調整され、本体3の緩衝効果が最も高くできることが実験上確かめられている。
【0021】
また、第1壁4及び第2壁5の両方をそれぞれ他方に向けて窪ませて形成された対をなす第2の凹状リブ9,10を複数有し、これらの第2の凹状リブ9,10の先端部が互いに当接して接合部11を構成している。
【0022】
第2の凹状リブ9,10の形状は、第1の凹状リブ6,7よりも大きな形状で構成する。また、第2の凹状リブ9,10も、図4に示すように、第1壁4または第2壁5の開口端14,15から中空部2方向に縮径しており、その縮径角γは、3〜30°であり、開口端14,15の直径B(図2参照)は、10〜80mmであり、第1の凹状リブ6,7の開口端12,13の開口領域よりも大きな開口領域で構成している。
【0023】
また、図2に示すように、第1壁4側の第1の凹状リブ6同士や第1の凹状リブ6と第2の凹状リブ9とを連結する連結リブ21を有している。連結リブ21の深さhは、3.0〜15.0mmで構成し、連結リブ21の幅Wは、2.0mm〜5.0mmで構成する。第1の凹状リブ6同士や第1の凹状リブ6と第2の凹状リブ9とを連結することで、第1の凹状リブ6や第2の凹状リブ9の姿勢を一定に保たせることができ適正な凹状リブの圧縮変形を実現することができる。
【0024】
本実施形態の衝撃吸収体100は、図4に示すように、本体3の総厚aが厚い第1の部位41,51と、本体3の総厚bが薄い第2の部位42,52と、があり、第1の部位41,51には、第1の凹状リブ6,7を形成せず、第2の部位42,52には、第1の凹状リブ6,7を形成し、第1の部位41,51と第2の部位42,52との間を構成する第3の部位43,53には、第2の凹状リブ9,10を形成するようにしている。総厚aは、50mm〜150mmで構成し、総厚bは、20mm〜100mmで構成する(但し、総厚a>総厚bの条件を満たすものとする)。
【0025】
本実施形態の衝撃吸収体100は、第1の部位41,51には、第1の凹状リブ6,7を形成せず、第2の部位42,52には、第1の凹状リブ6,7を形成し、第3の部位43,53には、第2の凹状リブ9,10を形成しているため、凹状リブ6,7,9,10の密度(以下、リブ密度と表記する)が異なる部位41,51、42,52、43,53が存在するように構成している。本実施形態の衝撃吸収体100は、第1の部位41,51は、リブ密度が低くなり、第2の部位42,52は、リブ密度が高くなり、第3の部位43,53は、第1の部位41,51と第2の部位42,52との間の範囲のリブ密度になる。
【0026】
リブ密度が各々異なる部位41,51、42,52、43,53が存在すると、各々の部位41,51、42,52、43,53の構造体としての圧縮強度、剛性及び歪み量が異なる。このため、本実施形態の衝撃吸収体100は、第1の部位41,51、第2の部位42,52、第3の部位43,53で各々異なる衝撃吸収性能を発揮することができる。
【0027】
なお、リブ密度を変更する方法としては、凹状リブ6,7,9,10の平均ピッチ間隔を変更する方法がある。また、凹状リブ6,7,9,10の大きさ(断面における径)を変更する方法がある。
【0028】
例えば、第1の凹状リブ6,7の平均ピッチ間隔を短くしたり、第1の凹状リブ6,7の大きさを小さくしたりして、第2の部位42,52に第1の凹状リブ6,7を多く設けるようにする(第1の凹状リブ6,7の配置密度を高くする)と、第2の部位42,52の剛性を高くすることができる。逆に、第1の凹状リブ6,7の平均ピッチ間隔を長くしたり、第1の凹状リブ6,7の大きさを大きくしたりして、第1の凹状リブ6,7を第2の部位42,52に少なく設けるようにする(第1の凹状リブ6,7の配置密度を低くする)と、第2の部位42,52の剛性を低くすることができる。なお、本実施形態において第2の部位42,52のリブ密度は、開口端12,13の合計表面積を第2の部位42,52を構成する第1壁4,第2壁5の表面積で割った値で示すことができる。なお、第1の部位41,51や第3の部位43,53においても第2の部位42,52と同様な算出式でリブ密度の値を求めることができる。
【0029】
また、本実施形態の衝撃吸収体100は、本体3の総厚aが厚い第1の部位41,51や第3の部位43,53は、肉厚が薄くなり、本体3の総厚bが薄い第2の部位42,52は、肉厚が厚くなっている。肉厚が各々異なる部位41,51、42,52、43,53が存在すると、各々の部位41,51、42,52、43,53の剛性及び歪み量が異なる。このため、本実施形態の衝撃吸収体100は、各々の部位41,51、42,52、43,53におけるリブ密度を変えるだけでなく、各々の部位41,51、42,52、43,53における肉厚を制御することで、各々の部位41,51、42,52、43,53における衝撃吸収性能の差を顕著に異ならせることができる。
【0030】
なお、上記実施形態では、衝撃吸収体100の衝突時に発生する応力の調整手段としてリブ密度及び肉厚について説明した。しかし、リブ密度および肉厚をともに前記のように調整する他、リブ密度を各部位で同等にしつつ肉厚のみによって発生応力の調整をすることも、また、肉厚を各部位で同等にしつつリブ密度のみによって発生応力の調整をすることも可能である。
【0031】
本体3を構成する熱可塑性樹脂としては、公知の樹脂が適用可能である。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタート等のポリエステル系樹脂、ポリアミドおよびこれらの混合物など、剛性等の機械的高度の大きい樹脂で構成することができる。
【0032】
また、機械的強度(耐衝撃性)を損なわない範囲において、例えば、シリカ等の充填剤、顔料、染料、熱安定剤、光安定剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、防炎剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防曇剤、滑剤など当該分野で使用されている添加剤の1種または2種以上を含有することもできる。
【0033】
なお、側面衝突時の安全性能を確認するためには、側面衝突試験を行うことになる。具体的には、ダミー人形を被評価車両に搭乗し、側面衝突時にダミー人形が検出する傷害値(腰部においては圧縮荷重の最大値)を基に、側面衝突時の安全性能を確認している。腰部の傷害値を計測するセンサーは、恥骨部分に搭載される。
【0034】
図5は、車両のシート110の座部110aにダミー人形の搭乗者Pが着座した状態における搭乗者Pの腰部Lを模式的に示している。図5(a)は、側面図を示し、図5(b)は、図5(a)に示す1b−1b線に沿った断面図を示す。
【0035】
図5(b)に示すように、座部110aの側方には、車室の側部を区画するドアトリム201が配置される。ドアトリム201は、シート110及び搭乗者Pと同様に、車両の前後方向に延びるように配置される。
【0036】
側面衝突時には、搭乗者Pは、車幅方向、即ち、ドアトリム201側に向かって慣性力を受ける。また、ドアパネル(ドアアウタパネル203)側から別の車両等が衝突するような場合は、ドアトリム201が搭乗者Pに向かって近づくように膨出する場合もある。このような場合、搭乗者Pの腰部Lは、ドアトリム201に当接する。
【0037】
搭乗者Pの腰部Lがドアトリム201と真横から当接した場合は、ドアトリム201から搭乗者Pの腰部Lに加わる荷重は、その腰部Lの骨格において特徴的な偏りのある分布を示すことになる。特に、腰部Lに加わる初期荷重が、骨盤111の前方(恥骨112)側にダイレクトに集中する傾向が見られる。脆弱な恥骨112に荷重が集中すると、その恥骨112に対して影響を及ぼすことになる。
【0038】
例えば、ある所定の荷重を骨盤111に加えた場合に、骨盤111の前部(恥骨112側)及び後部(腸骨113側)に加わる荷重がほぼ同じであるにも関わらず、骨盤111の前部(恥骨112側)における応力は、後部(腸骨113側)における応力よりも大きくなる。
【0039】
骨盤111の恥骨112側にかかる荷重を骨盤111の腸骨113側にかかる荷重よりも小さくするには、衝撃吸収体100の骨盤111の恥骨112に対応する部位において発生する応力を腸骨113に対応する部位において発生する応力よりも小さくする必要がある。また、側面衝突時における腰部Lの保護を図るためには、側面衝突時の初期段階で大きな衝撃が腰部Lに対して瞬く間に伝わることを回避する必要がある。しかも、側面衝突時の初期段階、中期段階、後期段階を通じて、十分に衝撃を吸収する必要がある。
【0040】
このため、本実施形態の図1〜図4に示す衝撃吸収体100は、図5に示すように、側面衝撃時に搭乗者Pの腰部Lがドアトリム201に当たる位置を想定してドアパネル(ドアインナパネル202,ドアアウタパネル203)とドアトリム201との間に衝撃吸収体100を搭載した状態において、図6(a)に示すように、搭乗者Pの恥骨112に対応する第1の部位41においては、衝撃吸収体100が衝撃を受け付けた時に発生する応力が所定の値(例えば、100cm2当り2.5kN)以下となるように構成し、搭乗者Pの腸骨113に対応する第2の部位42においては、衝撃吸収体100が衝撃を受け付けた時に発生する応力が所定の値(例えば、100cm2当り7.0kN)以上となるように構成している。
【0041】
具体的には、第1の部位41は、リブ密度を低くすることで、衝撃吸収体100が衝撃を受け付けた時に発生する応力が所定の値(例えば、100cm2当り2.5kN)以下となるように構成している。また、第2の部位42は、リブ密度を高くすることで、衝撃吸収体100が衝撃を受け付けた時に発生する応力が所定の値(例えば、100cm2当り7.0kN)以上となるように構成している。これにより、衝撃吸収体100が衝撃を受け付けた場合に、骨盤111の前部(恥骨112側)に加わる荷重を後部(腸骨113側)に加わる荷重よりも小さくすることができる。その結果、恥骨112への荷重を低減することができる。なお、図6に示す300は、恥骨112部分に搭載されるセンサーを示す。また、301は、搭乗者Pの着座位置を示す。
【0042】
また、本実施形態の衝撃吸収体100は、恥骨112に対応する第1の部位41は、リブ密度を低くし、且つ、肉厚を薄くしており、腸骨113に対応する第2の部位42は、リブ密度を高くし、且つ、肉厚を厚くしているため、図7に示すように、第2の部位42は、衝撃が加わったときの歪み(変位)が20〜40%付近で初期極大応力(荷重が100cm2当り7.5kN)を示すのに対し、第1の部位41は、衝撃が加わったときの歪み(変位)が30〜50%付近まではなだらかに応力が増加してから初期極大応力(荷重が100cm2当り2.0kN)を示すことになる。このため、本実施形態の衝撃吸収体100は、側面衝突時の初期段階で第2の部位42により十分な荷重で衝撃を吸収することができると共に、第2の部位42に対応する腸骨113部分の腰部Lを車内側に押し出すことができる。また、側面衝突時の初期段階では第1の部位41において発生する応力を小さくしているため、恥骨112に対する荷重を低減することができる。そして、側面衝突時の中期段階、後期段階では第1の部位41と第2の部位42とにより十分な荷重で衝撃を吸収することができる。尚、図7は衝撃吸収体100を衝突試験機にかけた結果得られたグラフを示すものであり、第1の部位41においては70mm×70mmの負荷面積を有するインパクタを、第2の部位42においては200×140mmの負荷面積を有するインパクタを衝突させ、インパクタの受けた荷重を100cm2当りに換算して示したものである。
【0043】
また、本実施形態の衝撃吸収体100は、本体3の総厚aが厚い第1の部分41,51には第1の凹状リブ6,7を形成せず、本体3の総厚bが薄い第2の部分42,52のみに第1の凹状リブ6,7を形成することにしている。また、肉厚が厚く、且つ、凹み難い第2の部位52により十分な荷重で衝撃を吸収することができると共に、第2の部位42に対応する腸骨113部分の腰部Lを車内側に押し出すことができる。また、肉厚が薄く、凹み易い第1の部位41において発生する応力を小さくしているため、恥骨112に対する荷重を低減することができる。そして、第2の部分52に衝撃による応力が達した中期段階、後期段階では衝撃吸収体100の剛性を高くし、大きな衝撃吸収効果を発揮させ、第1の部位51と第2の部位52とにより十分な荷重で衝撃を吸収することができる。
【0044】
また、本実施形態の衝撃吸収体100は、第1の部位41,51と第2の部位42,52との間を構成する第3の部位43,53には、第2の凹状リブ9,10を形成している。このため、衝撃吸収体100の局部的な変形を防止することができ、第1の部位41,51と第2の部位42,52とにおける衝撃時の荷重カーブの変動を第3の部位43,53において効果的に抑制し、衝撃吸収効果を効果的に発揮することができる。
【0045】
なお、図1〜図4に示す衝撃吸収体100は、図6(a)に示すような部位41、42、43を構成することになるが、本実施形態の衝撃吸収体100は、搭乗者Pの恥骨112に対応する第1の部位41においては、衝撃吸収体100が衝撃を受け付けた時に発生する応力が所定の値(例えば、100cm2当り2.5kN)以下となり、搭乗者Pの腸骨113に対応する第2の部位42においては、衝撃吸収体100が衝撃を受け付けた時に発生する応力が所定の値(例えば、100cm2当り7.0kN)以上となり、その第1の部位41と第2の部位42との間を区画する第3の部位43と、を有する構成であれば、図6(a)に示す構成に限定するものではなく、例えば、図6(b)に示すような構成にすることも可能である。即ち、第1の部位41と第2の部位42との間を構成する第3の部位43の形状は、特に限定せず、第1の部位41と第2の部位42との間を区画することが可能であれば任意の形状で構成することが可能である。但し、第3の部位43は、第1の部位41における応力の値と、第2の部位42における応力の値と、の間の範囲の値(100cm2当り2.5kN〜7.0kN)となるように構成する。
【0046】
<本実施形態の衝撃吸収体100の作用・効果>
このように、本実施形態の衝撃吸収体100は、搭乗者の恥骨に対応する第1の部位41においては、衝撃吸収体100が衝撃を受け付けた時に発生する応力が所定の値(例えば、100cm2当り2.5kN)以下となり、搭乗者の腸骨に対応する第2の部位42においては、発生する応力が所定の値(例えば、100cm2当り7.0kN)以上となるようにしている。これにより、衝撃吸収体100が衝撃を受け付けた場合に、骨盤111の前部(恥骨112側)に加わる荷重を後部(腸骨113側)に加わる荷重よりも小さくすることができる。その結果、恥骨112への荷重を低減するとともに充分な衝撃吸収性能を発揮させることができる。
【0047】
なお、上述する実施形態は、本発明の好適な実施形態であり、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【0048】
例えば、上述した実施形態の衝撃吸収体100は、第1の凹状リブ6,7や第2の凹状リブ9,10を中央で溶着し、接合部8,11を形成することにした。しかし、第1の凹状リブ6,7や第2の凹状リブ9,10を中央で溶着する必要はなく、例えば、第1壁4や第2壁5の壁面で溶着することも可能である。
【0049】
また、上述する実施形態では、ドアトリム201内に設けられる衝撃吸収体100を例に説明したが、本発明の技術思想は、ボディサイドトリム、フロアトリム等の車のトリム内に設けられる衝撃吸収体にも適用可能である。
【符号の説明】
【0050】
100 衝撃吸収体
2 中空部
3 本体
4 第1壁
5 第2壁
6、7 第1の凹状リブ
9、10 第2の凹状リブ
8、11 接合部
12、13、14、15 開口端
21 連結リブ
41、51 第1の部位
42、52 第2の部位
43、53 第3の部位
101 取付片
P 搭乗者
L 腰部
110 シート
201 ドアトリム
202 ドアインナパネル(ドアパネル)
203 ドアアウタパネル(ドアパネル)
111 骨盤
112 恥骨
113 腸骨

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車のトリム内に搭載され、搭乗者の腰部を保護する衝撃吸収体であって、
前記搭乗者の恥骨に対応する第1の部位においては、前記衝撃吸収体が衝撃を受け付けた時に発生する応力が所定の値以下であり、
前記搭乗者の腸骨に対応する第2の部位においては、前記応力が所定の値以上であることを特徴とする衝撃吸収体。
【請求項2】
前記第1の部位と前記第2の部位との間を構成する第3の部位における前記応力の値は、前記第1の部位における前記応力の値と、前記第2の部位における前記応力の値と、の間の範囲の値であることを特徴とする請求項1記載の衝撃吸収体。
【請求項3】
前記衝撃吸収体は、
中空部を有する本体と、前記本体の互いに対向する第1壁および第2壁をそれぞれ他方へ向けて窪ませて形成された凹状リブと、前記凹状リブの先端が当接した接合部と、を有し、前記第1壁は、前記搭乗者側に位置し、前記第1の部位と前記第2の部位とを少なくとも有し、
前記第2の部位は、単位面積当たりの前記凹状リブの配置密度が前記第1の部位よりも高いことを特徴とする請求項1または2記載の衝撃吸収体。
【請求項4】
前記第2の部位は、前記第1の部位よりも肉厚が厚いことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の衝撃吸収体。
【請求項5】
前記第1の部位は、前記凹状リブが配置されていないことを特徴とする請求項3または4記載の衝撃吸収体。
【請求項6】
前記凹状リブは、所定の開口領域で構成する第1の凹状リブと、前記第1の凹状リブよりも開口領域が大きい第2の凹状リブと、を有し、
前記第2の部位は、前記第1の凹状リブが配置されており、前記第3の部位は、前記第2の凹状リブが配置されていることを特徴とする請求項3から5の何れか1項に記載の衝撃吸収体。
【請求項7】
前記第1の凹状リブ同士、または、前記第1の凹状リブと前記第2の凹状リブとを連結する連結リブを有することを特徴とする請求項6記載の衝撃吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−76569(P2012−76569A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222838(P2010−222838)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(000104674)キョーラク株式会社 (292)
【Fターム(参考)】