説明

衝突室中での減衰を伴うタンデム飛行時間型質量分析計およびその使用のための方法

【課題】衝突室中での減衰を伴うタンデム飛行時間型質量分析計およびその使用のための方法を提供すること。
【解決手段】第一の飛行時間型質量分析計の、衝突減衰を伴う衝突室の使用によって、直交加速を伴う時間飛行型質量分析計を含む、種々のタイプのいずれか1つの第2の質量分析計への有効な結合を提供する。本発明のタンデム質量分析計の一般的な好ましい実施態様は以下を備える:飛行時間型質量分析計に連結されたイオンのパルス発生器;時限式イオンセレクタ;投入されたイオンビームを衝突によって減衰させるため、そして飛行時間型質量分析計および時限式イオンセレクタと連絡してフラグメンテーションを誘起するために、十分に高圧の気体で充填された衝突室;ならびにフラグメントイオンを分析するための第二の質量分析計。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、1999年6月11日に提出した米国特許仮出願番号60/138,861号に対して優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、質量分析計に一般に関し、詳細にはそしてタンデム質量分析計に関する。より詳細には、本発明は、第一の飛行時間型質量分析計の、衝突減衰を伴う衝突室の使用によって、直交加速を伴う時間飛行型質量分析計を含む、種々のタイプのいずれか1つの第2の質量分析計への有効な結合を提供する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
質量分析計(MS)機器は、供給源において発生されたイオン化分子の質量の電荷に対する比(M/Z)を測定することによって、化合物およびそれらの混合物を分析する。飛行時間型(TOF)質量分析計は、ほぼ一定の電位差を横切るパルスイオンビームを加速し、イオン源における起点から検出器までの飛行時間を測定する。イオンの電荷当たりの運動エネルギーはほぼ一定であるので、より重いイオンはより緩慢に移動し、より軽いイオンより遅い時間で検出器に到達する。イオンの飛行時間を、公知のM/Z値と共に使用することで、TOF分析計が較正され、未知のイオンの飛行時間が、M/Z値に変換される。
【0004】
歴史的に、TOF質量分析計は、主にパルス化された供給源と共に使用され、それによってイオンの離散的バーストを発生する。パルス化された供給源を有する質量分析計の典型的な例には、プラズマ脱離質量分析計、および二次のイオン化質量分析計が挙げられる。近年、TOF質量分析計は、特に広い質量範囲ならびに高い速度、感度、分解能および質量精度を要求する、不安定な生体分子および他の応用の分析のために、広く受容されるようになった。マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)およびエレクトロスプレー(electrospray)イオン化(ESI)のような新しいイオン化法は、TOF質量分析の広く拡張された適用を有する。TOF質量分析計は、これらの新しいイオン化法の両方における、最も好ましい機器プラットホームの1つになっている。
【0005】
MALDIイオン源のパルス化特性は、飛行時間型分析器のパルス化操作を、自然に補足し、従って、このTOFは、MALDI法の最も早い適用から選択された質量分析計であった。しかし、初期のMALDI器具は、レーザーエネルギーに対する極端な感度を欠点として有した。近年、MALDI/TOF MS機器の分解能が、遅延イオン引き出し(DE)法(米国特許第5,625,184号;同第5,627,360号;および同第5,760,393号に記載されるような)を使用して、顕著に改善されてきた。この方法において、イオンおよび中性分子のプルーム(plume)が、レーザーショットによる脱離後、広がり得、次いで遅延電子パルスの適用後、加速される。その結果、イオンは、高い電場によって、濃縮プルームを通って、もはや引きずられない。この技術は、イオンのエネルギー拡散およびフラグメンテーションの量を減少する。遅延イオン引き出し法は、レーザーエネルギーにそれほど敏感ではなく、そして、非常により高い分解能および質量精度が、MALDI−TOF質量分析計で慣用的に有効となる。
【0006】
パルス化された供給源は、TOF質量分析計に容易に適合されるが、TOFをESIのような本質的に連続的な供給源に適用することは困難である。この問題は、直交引き出しスキーム(「Method of time−of−flight analysis of countious ion beam」と題する、ロシア特許SU1681340A1および対応する公開されたPCT出願WO91/03071に記載される)の導入によって解決された。直交TOF(o−TOF)MA機器において、連続的な、ゆっくり動くイオンビームは、パルス化された直交電場の手段によってイオンパルスに変換される。イオンパルスは、非常により高いエネルギーで、イオンビーム行程に直行する方向に加速され、そして中間の収束面上に収束され、この収束面は、反射TOF MSの対象面として作用する。この直交するパルサー/加速器は、o−TOF質量分析計において、高反復率(典型的に、10kHz)パルス化イオン供給源として作用する。「パルサーデューティサイクル(pulser duty cycle)」と参照される、変換効率は、通常10〜20%程度である。変換損失は、TOF質量分析計が所定のパルス中の全てイオンを検出する能力によって、十分に補充される。その結果、直交TOFスキームは、従来から使用される走査型機器(例えば、四重極型および扇形磁場型(magnet sector)質量分析計)と比較して感度における顕著な改善を提供し、これは、一度につき、イオンビームの1つの狭いM/Z成分のみを送達し、そして残りを放棄する。走査型機器の収集デューティーサイクル(acquisition duty cycle)(つまり、単一成分のみが一度に通過することを考慮する分析のために使用されるイオンビームの部分)は、質量分解能に逆比例し、そして、o−TOF MS機器における10%程度の収集デューティーサイクルに比較して、10-4〜10-3%程度である。高い感度に加えて、o−TOFスキームは、より広い質量範囲、例外的な速度、中から高分解能および高い質量精度を提供する。
【0007】
ESI−TOF MSおよびDE MALDI−TOF MSは、試料の分子量に対して、優れたデータを提供するが、これらの機器における1つの欠点は、それらは、分子構造に対する情報を殆ど提供しないということである。伝統的に、タンデム型質量分析計(MS−MS)は、構造情報を提供するために使用されてきた。MS−MS機器において、第一の質量分析計は、例えば、特定化合物の分子イオンのような目的の主イオン(またはイオン)を選択するために使用され、そしてこのイオンは、その内部エネルギーを増加させる(例えば、イオンを中性分子に衝突させることによって)ことによってフラグメントを生じる。次いで、第二の質量分析計は、フラグメントイオンのスペクトルを解析し、そして、しばしば主イオンの構造が、フラグメントイオンのマススペクトルを解釈することによって決定され得る。MS−MS技術は、フラグメンテーションの公知のパターンを用いて、公知の化合物の認識を改善し、そしてまた、複合体混合物における検出の特異性を改善し、ここで、異なる成分は、第一のMS機器において、重なったピークを与える。薬剤代謝研究およびプロテオーム研究におけるタンパク質認識などの応用の大部分において、その検出レベルは、化学的ノイズによって制限される。たびたび、MS−MS技術は、これらの応用における検出限界を改善する。
【0008】
MALDI−MSにおいて、ポスト−ソースディケイ(post−source decay)(PDS)として知られる技術は、分子構造に関する情報を提供するために、単一MS機器において使用され得る。主イオンは、線形TOF質量分析計中の空間において分離され、そして時限式イオンセレクタによって選択される。イオンは、イオン形成プロセスの間、励起され、そして電場のない領域で、部分的にフラグメンテーションされる(準安定フラグメンテーションといわれる)。フラグメントイオンはほぼ同一速度で、従って、それらの質量に比例するエネルギー(エネルギー分配効果として知られる)で、飛行し続ける。その結果、イオンフラグメントは、静電ミラー(反射板)において、時間的に分離(time separated)され得る。PSD法(これは、単一質量分析計に関係するのだけれども)は、準MS−MSスキームといわれる。フラグメンテーションスペクトルは、しばしば弱く、そして解釈することが困難である。イオンが衝突誘起解離(CID)を受け得る衝突室の追加は、フラグメンテーションの効率を向上する。さらに、PSDおよびCIDスペクトルの精度は、エネルギー分配によって、およびCIDの場合には、衝突の付加的なエネルギーの広がりによって強く影響される。親イオンおよびフラグメントイオンは、異なるエネルギーを有し、従って、静電イオンミラーを有する反射TOF質量分析計において、同時に収束され得ない。この問題を解決するために、ミラー電圧が段階的にされ、スペクトルは、針(stitch)、感度を損なう粒子、収集速度および質量精度から構成される。
【0009】
現在、タンデム型質量分析計の最も一般的な様式は、3連四重極(Triple Q)であり、ここで、両方の質量分析計は、四重極、およびイオン輸送を高めるために高周波(RF)専用四重極を使用する衝突室である。その遅い走査速度のために、Triple Q機器は、ESIおよび大気圧化学イオン化(APCI)源のような連続イオン源を採用する。第二の質量分析計の走査は、さらなる損失を生じるために、Triple Q機器の最も有効な使用方法は、選択された反応をモニターすることである。薬剤代謝研究は、公知の薬剤化合物が、豊富な生物学的マトリックス(例えば、血液または尿)中で測定される良好な例である。これらの研究において、親イオンおよび娘フラグメントイオンの質量は公知であり、分析計は、これらの特定の質量を検出するように調節される。走査を必要とするさらなる遺伝子応用において、3連四重極機器は、その低い速度、感度、質量精度および分解能のために、あまり所望されない。
【0010】
3連四重極機器の発展において、衝突室の使用は完璧にされ、これによって、これらの機器が、有意な商業的成功を達成することを可能にする。低エネルギー衝突は、高度に制御されたフラグメンテーション度および重要な構造情報を提供する。RF専用四重極ガイドは、イオンフラグメントの完全な放射保持(radial retention)を提供する。米国特許第5,248,875号に記載のように、この室における衝突冷却は、室の軸上に、イオンを拘束し、軸方向へのエネルギーの広がりを強く減少する。
【0011】
近年、四重極を第一のMS機器として有する混成機器が記述されてきており、ここでは、第二の四重極質量分析計が、o−TOF質量分析計によって、取って代わられている。この機器は、一般に「Q−TOF」といわれる。o−TOFの背後末端は、目的の全てのフラグメントイオンを、一度に観測することを、そして高い分解能および質量精度で、第二のスペクトルの収集を可能にする。娘イオンの全質量範囲が要求される場合において(例えば、ペプチド配列に対して)、Q−TOF機器は、3連四重極機器を超えて、有意な作動利点を提供する。しかし、Q−TOF機器は、選択反応モニタリングモード(すなわち、単一のM/Z値をモニターする)において操作する単一四重極の使用と比較して、感度における10〜100の損失を示す。同じ理由によって、Q−TOFの感度は、第二のMS機器が単一のM/Z値をモニターするために使用される「親スキャン」のモードにおいてよりも低い。近年、Q−TOFプラットホームは、Standingら,Rapid Comm.Mass Spectrom.12,508−518(1998)によって出版されるように、MALDIイオン源との組み合わせで、適用されてきた。
【0012】
近年の別の変化において、線形イオントラップ(LIT)およびTOF質量分析計を組合わせることによって、MS−MS機器を構成することが提案されてきた。LITは、従来の四重極を静電「プラグ」で改変することによって形成され、そして長期間に渡って、イオンを捕獲することを可能にする。四重極電界構造は、以前に3−Dイオントラップ技術において発達した、種々の分離および励起方法の適用を可能にする。LITは、選択におけるイオンの損失を除外し、そしてポンピングシステムに対する要求量を減少する不十分な真空条件でまた、操作し得るが、それは、現在のところ、R<200であると実証されている、イオン選択の制限された分解能(R)を被る。
【0013】
最近、MALDIイオン源は、3次元(3−D)四重極イオントラップ質量分析計(IT MS)と結合させられてきた。このIT MSは、個々の質量分析工程の適切な性能を提供するが、多工程タンデム−MS分析の利点を有するタンデム質量分析解析のための慣用的な機器であり、通常MSn分析といわれる。このような分析において、主イオンのパルスは、イオントラップ室内に捕捉され、操作の時限式シーケンスを受ける。これらの操作は、主イオンの選択およびフラグメンテーション、所望されていない成分のその後の放出、続く次世代の単一フラグメントイオンの選択およびフラグメンテーションを含む。n段階の選択およびフラグメンテーション後、フラグメントが質量分析される。MALDI源を、IT MSに結合することは、この技術を用いる分析を導入することにおいて問題であった。真空でMALDI源中で生成されるイオンは、ゆっくり傾斜する振幅を有するRF場を使用して、静電レンズを介して輸送され、そしてIT MS室内に捕捉される。このような結合法は、主イオンの有意なディケイ(decay)を導入する。この方法は、いわゆる「ソフトな」マトリックス(「soft」matrices)と組合わされる場合にのみ、作用する。トラップが、マトリックスイオンを含む、全ての質量のイオンで満たされるので、弁別および質量シフトを含む空間電荷効果が明白となる。イオン貯蔵および質量分析のサイクルが遅くなり、レーザーの通常の反復率は、2Hzであり、そして試料は不十分に利用される。さらに、この方法は、レーザーエネルギーに敏感であり、マトリックス上に堆積された試料上の適切なスウィートスポットを選択することに依存する。
【0014】
高い感度、分解能および質量精度は、TOF質量分析計の重要な特性である。このことは、イオンビームが、短い継続時間を既に有し、また低い発散およびエネルギーの広がりを有する、真空中で操作するDE MALDI源に対して、特に正しい。TOF質量分析計の送達は、ほぼ均一である。従って、パルスイオン源の場合、各分析器に対して、タンデム質量分析計の一部を形成するTOF質量分析計を利用することが所望される。
【0015】
エネルギー分配効果および全てのフラグメントイオンを同時に収束させる不可能性に関連した従来のDE MALDI TOFにおいて使用される衝突室に直面する問題を克服するために(PSD法の上記説明を参照のこと)、「A tandem mass spectorometer with delayed extraction and method of use」と表題をつけられた、本出願に関して同一人に譲渡された、同時係属中の特許出願第09/233,703号に記載されるように、衝突室の後に第二のDE源を加えることが提案されてきている。
【0016】
この特許出願において、主イオンビームは、線形TOF質量分析計において分離され、そして、目的の特定質量のイオンが、時限式イオンセレクタによって選択される。この主イオンビームは、イオンセレクタの面上に時間収束され、その結果、選択性の分解能が向上される。選択されたイオンビームは、衝突室内に入り、ここで、イオンは、1回〜数回の高エネルギー衝突を経験する。目的のイオンは、それらが衝突する気体分子よりも非常に高い質量を有しているという事実に基づいて、イオンビームは、その本来の方向および時間パルス特性のほとんどをまだ保持している。フラグメントのエネルギーは、質量に依存するが、しかし初期ビームの中程度のエネルギー(1〜3keV)のエネルギーのために、エネルギーの広がりが制限される。衝突室からの脱離後、イオンは、適切な時間遅延後、DE MALDI内のように第二の電気パルスによって加速される。この第二の加速は、実質的にイオンエネルギーを増加させる;しかし、エネルギーの広がりは、分解能の損失無しに、約10%のエネルギーの広がりを処理すると知られる静電ミラーのエネルギー収束特性の範囲内である。
【0017】
本特許出願において記載されるスキームは、高エネルギーCIDに関係する固有の情報を提供すること、そしてMALDI MS−MS実験における可能な最大の感度を発生することが望まれるが、高エネルギー衝突は、励起の広いスペクトルを生成し、そして、より大量の少質量フラグメントを生成し得る。両方のTOF質量分析計の同期化の必要性によって、複雑さがこの機器の操作に加わる。また、第二の質量分析計の収束特性は、第一の質量分析計および時限式イオンセレクタの収束条件を考慮する。
【0018】
上記の質量分析計の性能を拡大するための活動にも関わらず、TOF質量分析計の高い感度、分解能、および質量精度を組み込こみ、そして十分に有用な固有のパルスイオン源(例えば、MALDI)を、最小の感度損失で利用し得る改良されたタンデム質量分析計に対する要求が、まだ存在する。第二の質量分析計の性能を改善するために、そして第一の質量分析計からその操作を分離するために、エネルギー調節電極を出るイオンビームのエネルギーおよび角度の広がりを改良すると同時に、フラグメンテーション度の制御するために、そして中程度の質量のフラグメントを含む情報の量を増加するために、最も感度の良いTOF質量分析計を低エネルギー衝突室と組合わせることがまた、所望される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
(発明の要旨)
本発明は、主イオンの飛行時間分離を利用した高性能質量分析計およびMS方法を提供することによって、従来技術の欠点および制限を克服し、これは、実用的に重要なパルスイオン源、とりわけMALDIイオン源のパルス性質(pulsed nature)に適合する。
【0020】
本発明の特徴には、飛行時間型質量分析計をエネルギー調節電極と、十分に高圧な気体で連結させることが挙げられ、この気体は、イオンと背景気体(back ground gas)との間に多重衝突を起こし、イオンビームの運動エネルギーが実質的に減衰する。本発明の別の特徴によると、RF多重極が衝突室に備えられ、空間的にビームを拘束する。さらに、この室に注入されたイオンの運動エネルギー(「注入エネルギー」とも以下では言及される)は、室内でのフラグメンテーション度を制御するために、静電圧(static voltage)を調節することによって、または電気パルス(以下では「力学的エネルギー補正(dynamic energy correction)」とも以下では言及される)を印加することによって調節され得る。特に低エネルギー注入の場合、主イオンはインタクト(intact)のままであり、そしてより高いエネルギー注入の場合には、イオンは衝突室内でフラグメント化する。この特徴によって、データ収集のための第二のMSの使用と同時に、MSとMS−MS分析との間での切替えが可能となる。主イオンビームのパルス性質が部分的に保存され、タンデムMSオペレーションの感度を高上させ得る。
【0021】
本発明のタンデム質量分析計の最も一般的な好ましい実施態様は以下を備える:飛行時間型質量分析計に連結されたイオンのパルス発生器;時限式イオンセレクタ;投入されたイオンビームを衝突によって減衰させるため、そして飛行時間型質量分析計および時限式イオンセレクタと連絡してフラグメンテーションを誘起するために、十分に高圧の気体で充填された衝突室;ならびにフラグメントイオンを分析するための第二の質量分析計。
【0022】
本発明の1つの好ましい実施態様によると、タンデム質量分析計は以下を備える:DE MALDIイオン源;時限式イオンセレクタ、エネルギー調節電極および差動ポンピングされる衝突室、上記衝突室内のRF−専用多重極を備える、線形TOF MS;ならびに第二のMSとしての直交TOF MS。エネルギー調節電極は電気パルスを利用して、サンプルプレートにおける所定の電位で注入エネルギーを調節する。この室は、約10〜100mtorrの圧力の気体で充填され、パルス化された中間エネルギービーム(medium nergy beam)を、低速準連続ビーム(quasi−continuous beam)に変換する。このビームは、室の軸の近くでRF場によって拘束される。生じた連続低速イオンビームは、第一のTOF質量分析計の作動とは同調せずに、高周波でパルスするo−TOF質量分析計において分析される。
【0023】
本発明は多数の特徴とともに具現化され得、これらの特徴が単一または組み合せて利用され、MS機器の性能および方法を向上させる。
【0024】
1つの特定の特徴によれば、MALDI源は、増加したレーザーエネルギーで作動する、高反復率レーザーを利用する。これはさらに高い感度を提供する。
【0025】
別の特定の特徴によれば、第一のTOF MSにおいて第二の補正減速電気パルス(corrective decelerating electric pulse)を導入して目的の選択されたイオン質量の周囲で飛行時間分解能(time−of−flight resolution)を高めることにより、高レーザーエネルギーでの運転に関して、TOF主イオン選択の分解能を向上させる。
【0026】
さらに、別の特定の特徴によれば、時限式セレクタは、目的のイオンのみを加速する同期パルス加速器(time−synchronized pulsed accelerator)である。これによって、予め決められたM/Z値のイオンのみを通過させることができ、イオン選択の分解能が向上する。
【0027】
さらに、別の特定の特徴によれば、時間測定イオンセレクタによって反射されたイオンビームを検出するために追加の環状検出器が使用され、親イオンのスペクトルを得る。
【0028】
さらに別の特定の特徴によれば、選択されたイオンのフラグメンテーションを誘発するための注入エネルギーは、時限式イオンセレクタおよび衝突室との間に通常の無電場領域(normally field free region)を含むことによって、第一のTOF質量分析計におけるパラメータから独立して調節される。目的のイオンが、検出されるイオンの運動エネルギーを制御する通常の無電場領域を通過し、その後衝突室に入るように、電圧パルスを目的のイオンに印加する。
【0029】
さらに、別の特定の特徴によれば、操作のMS専用モードから得られたスペクトルの質を、0.1と1torrとの間に衝突室内の圧力を増加させることによって向上させる。より高い気体の圧力は、イオン源で励起された後のイオンの冷却を向上する。
【0030】
さらに、別の特定の特徴によれば、感度は、衝突室をメタンのような軽い気体で満たすことによって向上される。これによって、イオンをより高いエネルギーで衝突室に注入することが可能となり、従って感度が向上する。
【0031】
さらに、別に特定の特徴によれば、衝突室に二重室(dual cell)を導入することによって感度を向上させる。この二重室は2つのセグメントから構成され、第一のセグメントは、比較的大きな内接半径を有する高次多重極であり、そして第二のセグメントはより小さな半径の四重極である。
【0032】
さらに、別の特定の特徴によれば、2つのTOF質量分析計の非同時操作が、衝突室の出口端部に僅かな遅延電位を導入することによるイオンビームの時間特性の平滑化(smoothing)によって改善される。
【0033】
質量分析計の他のタイプは、第二のMS分析器、例えば、3−Dイオントラップ質量分析計、フーリエ変換質量分析計、四重極型質量分析計または扇形磁場型質量分析計として使用され得る。この実施態様は、上記の時間特性の平滑化エンハンスメント(time characteristic smoothing enhancement)を利用し得る。
【0034】
別の好ましい実施態様によれば、より高い気体圧力で操作される短い衝突室によって、ある程度のエネルギー減衰が提供されると同時にビームのパルス性質をさらに保存する。操作の1つのモードにおいて、第二の質量分析計、すなわちo−TOF MSをイオン源および第一のTOF質量分析計を同調させて、デューティーサイクル損失(duty cycle loss)を排除する。
【0035】
別の実施態様によれば、連続イオン源、例えば、ESIまたはAPCI源は、パルスイオンパケットに変換され、パルスイオン発生器として機能する。このビームは空間的に収束され、その結果、衝突室の開口の大きさを減少させる。
【0036】
本発明はまた、タンデム質量分析計のための方法に関する。本方法は、飛行時間型質量分析計において目的のサンプルからイオンのパルスを発生させる工程を包含する。目的のイオンは、飛行時間型質量分析計においてイオンのパルスから選択される。この選択されたイオンを、選択されたイオンの運動エネルギーを実質的に減衰させるために十分に高い気体圧力を有する気体と衝突させ、そして選択されたイオンのフラグメンテーションを誘起する。選択されたイオンとそのフラグメントは、次いで、第二の質量分析計で分析される。
【0037】
1つの実施態様において、本発明は高性能タンデム質量分析計の方法に関する。この方法は以下を包含する:パルスイオン源からのイオンビームのパルス化加速を発生させる工程;このイオンを飛行時間型質量分析計に向ける工程;さらなる分析のために、所定のMS/Z値を有する親イオンのみを選択する工程;この選択されたイオンのビームを、制御されたエネルギーおよび圧力で、RF専用多重極を備えた衝突室に導入する工程であって、ここでこの圧力はイオンの運動エネルギーの完全な減衰を提供し、かつ所望のフラグメンテーション度を達成するように調節される、工程;ならびに、第二の質量分析計においてそのフラフラグメントイオンを分析する工程。タンデム質量分析計の本方法は、また、主イオンビームのパルス性質を保存して、第二のo−TOF質量分析計の感度を高める工程を包含する。
【0038】
上記方法の特徴の1つには、時限式イオンセレクタのスイッチの「オン」と「オフ」の切替えによって、そして、また、衝突室に注入されたイオンの運動エネルギーを制御することによって、MS専用とMS−MSモードとの間の切替えが挙げられる。第二の質量分析計を使用し、以下のようなそれぞれの工程の全てでスペクトルが得られる:親スペクトルの獲得、イオン選択の質のモニタリングおよびフラグメントイオンスペクトルの獲得。
【0039】
TOF質量分析計の低エネルギー衝突室との連結、その後の第二の分析器によるタンデム質量分析には、以下のような多数の技術的課題が挙げられる:増加する気体充填、室の入口でのイオンビーム収束、ならびに衝突室におけるイオンビームのパルス性質の保存またはビームの平滑化。結果として、本発明は、普通ではない方法または要素の普通ではない組み合わせでこれらの課題を解決することよって技術進歩を示す。個々のコンポーネントの多数のこれらの有用な改変は、以下の発明の詳細な説明および添付の実験の部においてより完全に議論される。
【0040】
特に、本発明の目的は、主TOF質量分析計および衝突室の、第二の質量分析計の性能および作動への影響を最小にすることであり、このとき、本発明には、タンデムMS分析が使用される。また、さらなる本発明の目的は、タンデム質量分析計におけるフラグメンテーションプロセスにおける微調節を可能とすることである。
本発明の好ましい実施形態では、例えば以下のタンデム質量分析計などが提供される:
(項目1) タンデム質量分析計であって、以下:
a.飛行時間型質量分析計であって以下:
i.パルスイオン発生器;
ii.該パルスイオン発生器によって発生されるイオンの飛行路に配置された時限式イオンセレクタであって、該時限式イオンセレクタは、目的のイオンを選択し、実質的にそれ以外の全てのイオンを拒絶する、時限式イオンセレクタ;を包含する、飛行時間型質量分析計、
b.該選択されたイオンの飛行路において、時限式イオンセレクタの後ろに配置された衝突室であって、該衝突室は、該衝突室に入る該選択されたイオンの運動エネルギーを実質的に減衰させるために十分高い気体圧力を有し、そして該選択されたイオンのフラグメンテーションを誘起する衝突室;および
c.該衝突室の出力に連結された第二の質量分析計であって、該第二の質量分析計は該飛行時間型質量分析計によって発生されたフラグメントイオンを分析する、第二の質量分析計、
を包含する、タンデム質量分析計。
(項目2) 前記第二の質量分析計が直交飛行時間型質量分析計を包含する、項目1に記載の質量分析計。
(項目3) 前記直交飛行時間型質量分析計がイオン反射質量分析計を包含する、項目2に記載の質量分析計。
(項目4) 前記第二の質量分析計が、飛行時間型質量分析計、四重極型質量分析計、イオントラップ質量分析計、フーリエ変換質量分析計または扇形磁場型質量分析計からなる群から選択される、項目1に記載の質量分析計。
(項目5) 前記イオンのパルス発生器が、遅延引き出しマトリックス支援レーザー脱離/イオン化イオン源(DE MALDI)を包含する、項目1に記載の質量分析計。
(項目6) 前記DE MALDI源が、イオン化閾値エネルギーよりも少なくとも2倍高いエネルギーを有するパルスを発生するレーザーを包含する、項目5に記載の質量分析計。
(項目7) 前記飛行時間型質量分析が、浮遊無電場領域および空間的収束レンズを有する線形飛行時間型質量分析計を包含する、計項目1に記載の質量分析計。
(項目8) 前記時限式イオンセレクタと前記衝突室との間に配置された電極をさらに包含し、該電極が前記選択されたイオンの運動エネルギーを調節する、項目1に記載の質量分析計。
(項目9) 前記電極が動電位によってバイアスされる、項目8に記載の質量分析計。
(項目10) 前記電極がパルス発生器によってバイアスされる、項目8に記載の質量分析計。
(項目11) 前記電極が少なくとも1つのデセレレータ電極およびエレベータ電極を包含する、項目8に記載の質量分析計。
(項目12) 前記電極が、動電位によってバイアスされるエレベータ電極および静電位によってバイアスされるデセレレータ電極を包含する、項目8に記載の質量分析計。
(項目13) 項目8に記載の質量分析計であって、前記電極が無電場領域の近位に配置され、前記発生したイオンの初期運動エネルギーと無関係に、前記選択されたイオンの運動エネルギーを制御する時間で、パルスが該電極に印加される、質量分析計。
(項目14) 前記時間が前記選択されたイオンが前記無電場領域に入る時間に対応する、項目13に記載の質量分析計。
(項目15) 項目5に記載の質量分析計であって、前記DE MALDI源がサンプルプレート、引き出しプレート、および加速メッシュを備え、該サンプルプレート、該引き出しプレート、および該加速メッシュの各々が少なくとも1つのパルス発生器に連結され、該パルス発生器が、該DE MALDI源によって形成されたイオンを加速する所定の時間において第一のパルスを生成し、前記選択されたイオンが前記引き出しプレートと該加速メッシュとの間の領域に入る時間に対応する時間において、該少なくとも1つのパルス発生器が、第二のパルスを生成する、質量分析計。
(項目16) 前記時限式イオンセレクタが3つのメッシュを備え、該3つのメッシュの中間のメッシュが、前記選択されたイオンの到着に対応する時間で同時にパルス化される、項目1に記載の質量分析計。
(項目17) 前記イオンセレクタが、パルス化された一対の偏向プレートを備え、該偏向プレートはパルス発生器に電気的に連結されたメッシュによって囲まれている、項目1に記載の質量分析計。
(項目18) 項目1に記載の質量分析計であって、前記衝突室が前記選択されたイオンの運動エネルギーを減衰させるために十分高い気体圧力を有し、該選択されたイオンは、該選択されたイオンの熱エネルギーの約10倍以下で該衝突室に入る、質量分析計。
(項目19) 項目1に記載の質量分析計であって、該衝突室がRF専用多重極を備え、ここで、該衝突室が遅れずにイオンビームを拡散し、それによって前記パルスイオン発生器からのイオンのパルスビームが、準連続ビームとなり、該準連続ビームが該衝突室の軸に沿って伝播する、質量分析計。
(項目20) 項目19に記載の質量分析計であって、前記RF多重極が、前記衝突室の長手軸に沿って放射状にイオンを拘束し、該拘束されたイオンが、該衝突室の出口開口に印加される電位の調節によって該衝突室からパルス放射される、質量分析計。
(項目21) 項目1に記載の質量分析計であって、前記衝突室が主イオンのパルスビームをフラグメントイオンの非同期パルスビームに変換し、これによって前記第二の質量分析計の感度を向上させる、質量分析計。
(項目22) 前記衝突室における前記圧力が約10mtorrと100mtorrとの間に維持される、項目1に記載の質量分析計。
(項目23) 前記衝突室における前記圧力が30mtorrより上に維持される、項目1に記載の質量分析計。
(項目24) 前記衝突室内の気体がメタンを含む、項目1に記載の質量分析計。
(項目25) 項目2に記載の質量分析計であって、前記衝突室の軸方向の長さが主イオンのビームのパルス保全性を向上するための大きさにされ、それによって前記直交飛行時間型質量分析計の感度を向上させる、項目2に記載の質量分析計。
(項目26) 前記衝突室が該室を通過するイオン送達を増加させるために、差動ポンピングされる、項目2に記載の質量分析計。
(項目27) 前記衝突室が開口を備え、該開口が該開口の断面を増加させるために軸方向に大きさが決められ、それによって所定のガス充填におけるイオンビームの送達を向上させる、項目1に記載の質量分析計。
(項目28) 項目8に記載の質量分析計であって、前記衝突室が開口によって分離された2つのセクションを備え、該2つのセクションの各々が内接直径を有する多重極を備え、該2つのセクションの一方にある該多重極は、該2つのセクションの他方にある該多重極の内接直径よりも大きい内接直径を有する、該電極の近位に配置されている、質量分析計。
(項目29) 項目1に記載の質量分析計であって、前記パルスイオン発生器が、直交加速電位によってパルス化される連続イオン源、ならびに得られたパルスイオンビームを空間的に収束させるレンズを備える、
質量分析計。
(項目30) 前記連続イオン源が、エレクトロスプレー(ESI)イオン源を包含する、項目29に記載の質量分析計。
(項目31) タンデム質量分析計であって、該質量分析計が以下:
a.遅延引き出しマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(DE MALDI)イオン源;
b.該DE MALDIイオン源によって発生されたイオンの飛行路に配置された時限式イオンセレクタであって、該時限式イオンセレクタは、目的のイオンを選択し、かつ実質的にそれ以外の全てのイオンを拒絶する、時限式イオンセレクタ;
c.該時限式イオンセレクタと前記衝突室との間に配置された電極であって、該電極が該選択されたイオンの運動エネルギーを調節する、電極;
d.該選択されたイオンの該飛行路において、該時限式イオンセレクタの後ろに配置された衝突室であって、該衝突室は、該衝突室に入る該選択されたイオンの運動エネルギーを実質的に減衰させるために十分高い気体圧力を有し、それによって該選択されたイオンのフラグメンテーションを誘起する、衝突室;および
e.該衝突室の出力に連結された直交飛行時間型質量分析計であって、第二の質量分析計が該飛行時間型質量分析計によって発生されるフラグメントイオンを分析する、直交飛行時間型質量分析計、
を備える、タンデム質量分析計。
(項目32) タンデム質量分析計のための方法であって、該方法は以下:
a.飛行時間型質量分析計において目的のサンプルからイオンのパルスを発生させる工程;
b.該飛行時間型質量分析計において、該イオンのパルスから目的のイオンを選択する工程;
c.該選択されたイオンの運動エネルギーを実質的に減衰させるために十分高い気体圧力を有する気体と該選択されたイオンを衝突させ、そして該選択されたイオンのフラグメンテーションを誘起する、工程;ならびに
d.第二の質量分析計を用いて該選択されたイオンおよびそのフラグメントを分析する工程、
を包含する、方法。
(項目33) 前記気体と衝突する該選択されたイオンの運動エネルギーを調節し、それによってイオンフラグメンテーション度を調節する工程をさらに包含する、項目32に記載の方法。
(項目34) 前記選択されたイオンの近位に電場を印加する工程をさらに包含する、項目32に記載の方法。
(項目35) 少なくとも1つの電極が動電位によりバイアスされる、項目34に記載の方法。
(項目36) 前記選択されたイオンを気体と衝突させる前に、該選択されたイオンを減速させる工程をさらに包含する、項目32に記載の方法。
(項目37) 前記フラグメントイオンのイオンビームがパルスイオンビームに変換され、それによって前記第二の質量分析計の感度を向上させる、項目32に記載の方法。
(項目38) 前記パルスイオンビームが、直交電場のパルスを印加することによって連続イオンビームから形成される、項目32に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1A】図1Aは、本発明の一般的な実施態様のブロック図である。
【図1B】図1Bは、本発明の1実施態様のブロック図である。
【図2】図2は、図1Bに示される本発明の実施態様の概略図である。
【図3】図3は、本発明の別の実施態様の概略図であって、この実施態様は、第一のTOF質量分析計において時限式イオンセレクタを備えるための代替の構成を有する。
【図4】図4は、本発明の実施態様の概略図であって、ここで、CID室におけるイオンパルス継続時間の部分的な保存が達成され、そして第二の質量分析計として同軸TOF(coaxial TOF)を備える。
【図5】図5は、連続イオン源に有用である、本発明の別の実施態様の概略図である。
【図6A】図6Aは、図1Bに示した実施態様を使用して発生させた種々の注入イオンエネルギーで得た、タンデム質量スペクトルである。
【図6B】図6Bは、図1Bに示した実施態様を使用して発生させた種々の注入イオンエネルギーで得た、タンデム質量スペクトルである。
【図6C】図6Cは、図1Bに示した実施態様を使用して発生させた種々の注入イオンエネルギーで得た、タンデム質量スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(発明の詳細な説明)
簡潔な概略図である図1Aを参照して、本発明のタンデム飛行時間型質量分析計11の最も一般的な実施態様は、パルスイオン発生器12、飛行時間型(TOF)質量分析計13、時限式イオンセレクタ14、衝突減衰を伴う衝突誘起解離室(CID)16および第二の質量分析計(MS2)17を含む。本発明の重要な局面に従って、室16における衝突減衰は、CID室内の気体との衝突を介してイオンの運動エネルギーを実質的に減少させ、そしてイオンを第二の質量分析計17へ有効に転送する。
作動中、パルスイオン発生器12は、サンプルをイオン化し、1〜10keV(電子ボルト)の中程度のエネルギー、および短い継続時間(ナノ秒範囲)を有するイオンパルスを形成する。このパルスイオンビームは、TOF質量分析計13に導入され、ここで、イオンはそれらのM/Z値に基づいて分離され、そして時限式イオンセレクタ14の近傍に時間収束される。所定のM/Z値を有する目的のイオンは、選択されたイオンの到着と同周波のパルス電圧を印加することによって、時限式イオンセレクタ14において選択される。この時限式イオンセレクタは、種々の形態を取り得、そしてこのようなイオンセレクタの例を以下に記述する。選択されたイオンのビーム(また本明細書中で主イオンともいう)は、10と30keVの間の中程度のエネルギーに減速され、そして室16内に注入され、ここで、イオンは、背景気体(background gas)分子との中程度のエネルギーの衝突を経験する。注入イオンの運動エネルギーは、所望のイオンフラグメンテーション度に達するように、パルスイオン発生器とCID室との間の電位を調節することによって変化される。室16は、約10mtorrより大きい圧力に、気体で満たされ、これは、イオンと気体との間に多重衝突を起すのに十分である。
【0043】
生じる多重衝突は、主イオン(CID室に低注入エネルギーで投入される場合)およびそのフラグメントイオンの運動エネルギーをほぼ熱速度に実質的に減衰させ、同時に、イオンの内部エネルギーを冷却する。イオンおよびそのフラグメントイオンの運動エネルギーを実質的に減衰することによって、発明者らは、運動エネルギーが、熱エネルギーの10倍であるか、またはそれより小さいことを意味する。安定イオンの低速ビームは、質量分析のために第二の質量分析計17内を通過する。タンデム質量分析計は、時限式イオンセレクタが作動中ではなく、そして注入エネルギーが、選択された主イオンのフラグメンテーション閾値より低く調節されている場合、MS専用モードにて作動し得る。続いて、さらに詳細に記載されるように、主イオンのスペクトルを観測する能力は、主イオンを選択し、その次のMS−MS分析におけるイオン選択の質をモニターするために役立つ。
【0044】
簡潔に図1Bを参照して、本発明の1つの好ましい実施態様は、質量分析計(MS)システム21であり、このシステムは、遅延イオン引き出しモードで作動するマトリックス支援レーザー脱離イオン源(DE MALDI)22、線形飛行時間型質量分析計(TOF1)23、時限式イオンセレクタ24、エネルギー調節電極25、減衰CID室26および直交飛行時間型(o−TOF)質量分析計27を含む。減衰CID室26は、高周波(RF)−専用多重極26aを含む。直交TOF分析において適切であるように、パルスイオンビームを低速の準連続ビームに変換するために、両方の質量分析計は、10-6 torrより低く減圧され、CID室26は、約10〜100mtorrに、気体で満たされる。第二の質量分析器は、o−TOF MSであることが好ましいが、四重極型質量分析計、イオントラップ質量分析計、フーリエ変換質量分析計または扇形磁場型質量分析計のような他の質量分析器が使用され得る。
【0045】
作動時、DE MALDI源22は、微小なフラグメンテーションおよび狭いエネルギーの拡散を伴うイオンのパルスを生成する。DE MALDIの従来の操作におけるように、遅延電圧パルスは、イオンのパルスを1〜10keVのエネルギーレベルに加速する。DE加速パルスおよび時間遅延はともに、時限式イオンセレクタ24の近傍にある収束面における前もって決定されたM/Z値の時間−収束イオンに調整され、従って、目的のイオンのみを送達する。選択されたイオンは、エネルギー調節電極25において減速され、CID室26内に導入される。イオンの運動エネルギーは、フラグメンテーション度を制御するために、10と300eVとの間に調節される。多重極26aの高周波(RF)場は、イオンを保持し、そしてイオンと背景気体との初期接触間の放射状の拡散から防ぎ、その結果、多重極の軸上にイオンを拘束する。パルスビームは、時間と共に拡散し、そしてほぼ熱速度(0.03eV)の準連続イオンビームを形成する。この室26を越えて、このビームは、約5〜10eVのエネルギーに加速され、フラグメントイオンの質量分析のために、o−TOF質量分析計26内に注入される。o−TOFは、TOF1内に発生したイオン源パルスと非同期的に操作され、そして、o−TOFの性能は、DE MALDIイオン源22およびTOF1における状態から、完全に無関係となる。
【0046】
より詳細には、図2をまた参照して、以下に示される実験データを出すために使用されるMSシステム21は、先に記述された要素を含む。さらに、2つの異なるポート28aおよび28bを有するスプリットフローターボポンプ28は、このシステムを引き払う。
【0047】
イオン源22は、レーザー30、サンプルプレート31、引き出しプレート32およびメッシュ33を含む。このサンプルプレートはパルス発生器34と連結され、そして引き出しプレートはパルス発生器35と連結される。線形TOF質量分析計33は、飛行管36、一組の操舵プレート37、アインツェルレンズ(einzel lens)38および環状検出器39を含む。メッシュ42によって、一方の端においてに囲まれる一組の偏向プレート41を含む時限式イオンセレクタ24は、パルス発生器43に連結される。パルス発生器45と連結したエレベータ44、均一電場の減速電極スタック46、突出するフロー制限管を有する電極47およびリバースカノードレンズ48を含むエネルギー調節電極25は、室26内に注入されたイオンの運動エネルギーを制御する。CID室26は、気体を供給するためのポート51、六重極イオンガイド52、四重極イオンガイド53および室の出口にイオン光学電極54を含む。開口50a、50b、および50cを有する内部チャンバー49は、CID室26を取り囲んでいる。開口50dは、o−TOF MS27へのイオン送達を提供する。直交TOF MSは、パルス発生器56に連結した直交加速ステージ55、自由飛行管57、イオンミラー58、検出器59およびこの検出器に連結される時間−デジタル変換器60を含む。
【0048】
CID室26内での衝突減衰は、増加した気体圧力(例えば、10mtorrを超す)で作動するが、各TOF MSは、真空中のみで作動し得る。従って、TOF1とo−TOF MSとの間のイオン送達を向上させるために、差動ポンピングの付加的層29bが室26を取り囲む。以下に記述される実験において、このシステムを、250L/sのポンピング速度の2つのポートを有するシングルスプリット−フローポンプ(Balzerz GmbH)によってポンピングした。気体の充填を減少させるために開口47は、突出した、内径3mmの長さ30mmのチャネルによって構成され、このチャネルは、収束イオンビームに対して、完全に透明である中性気体(neutral gas)の流れを制限する。開口50aおよび50cは、直径3mmであり、そして開口50dは直径2mmである。ポンピングシステムは、内部チャンバー49において30mtorrまでの気体圧力で、両方のTOF質量分析計中の十分な真空(10-6torr未満)を維持し得る。
【0049】
MS機器21中で使用されるシステムの要素に対する電圧分布の例を、以下に示す。
【0050】
レーザー30が発射する前、電圧はほぼ以下のような電位に維持される:
・ サンプルプレート31および引き出しプレート32は、各々約−500Vであり、この値は、時間収束を目的として調節され得る。
・ TOF1のメッシュ33および自由飛行管36は、各々−3000Vの加速電位である。
・ 操舵プレート37は、数百ボルトの加速電位に調節される。
・ レンズ38は、−3kV(非収束)〜−1.5kV(収束)に調節される。
・ 検出器39を取り囲むシールドおよびメッシュは、両方とも−3000Vの加速電位である。
・ 両方の偏向プレート41は作動され、すなわち、それらの電位は、各々−2000Vおよび−4000Vである。
・ エレベータ44は、加速電位(−3000V)である。
・ 減速スタック46は、−3000V〜−200Vの均一な分布の電位を有する。
・ カソード47は、−200Vである。
・ カソードレンズ48は、+30Vであり、この値は、CID室に投入されるイオンの所望の注入エネルギーに依存して調節され得る。
・ CID室の入口開口50aは、+8Vである。
・ 六重極52のDC電位は、+7Vであり、そしてRF電圧は、500Vの振幅および2.5MHzの周波数を有する。
・ 開口50bは、+6Vである。
・ 四重極53のDC電位は、+5Vであり、そしてRF電圧は、500Vの振幅および2.5MHzの周波数を有する。
・ 開口50cは、+4Vである。
・ レンズ54は、−15Vであり、この値は、イオンビーム収束に対して調節され得る。
・ 直交パルサー55の貯蔵領域は、大地電位(ground potential)である。
【0051】
レーザーの発射後、以下のパルスが適用される:
・ レーザーが発射後、サンプルプレート31は、約100nsの遅延を伴い、−500V〜+10Vにパルス化される。この遅延時間は、目的のイオンの時間収束を提供するために調節され得る。
・ 引き出しプレート32は、目的のイオンが、プレート32とメッシュ33との間の第二の加速ステージの中間に到達する時間で、−500V〜−600Vにパルス化される。
・ 目的のイオンがイオンセレクタを通って飛行している場合、時限式イオンセレクタ41の偏向プレートは、−3000Vの加速電位にパルス化される。
・ 目的のイオンがエレベータを通って飛行している場合、エレベータ44は、−3000Vから、−3100V〜−2800Vに変化する電位にパルス化される。パルス振幅は、室26に投入されるイオンの注入エネルギーを制御するために調節され得る。
・ 直交加速ステージ55のプッシュプレートは、約10kHzの反復率で、約+700Vにパルス化される。プッシュプレートのトリガリングは、TOF1におけるイオン源パルスの開始と同時ではない。
【0052】
DE MALDIイオン源22は、米国特許第5,625,184号;同第5,627,360号;および同第5,760,393号(これらは、本明細書中で参考として援用される)に記載の従来の様式で作動する。レーザー30のパルスレーザービームを、サンプルプレート31上に収束させる。MALDI適用(典型的には、約200μmサイズのビームの場合で1μJ/パルス)におけるイオン生成の閾値レベルより2〜3倍高いエネルギーで走行する、高反復率(1〜10kHz)レーザーが使用されるのが好ましい。レーザーを発射した後、および約100nsの遅延後、パルス発生器34からの電圧パルス(典型的には、500V)は、サンプルプレート31に適用され、これは、サンプルプレート31から引き出しプレート32(第一の加速領域)に向かって離れる方向にイオンを加速する。引き出しプレート32は、イオンビーム散乱を回避するために約1.5mmの小さな開口を有する。このイオンビームは、線形TOF質量分析計23の引き出しプレート32とメッシュ33(第二の加速領域)との間への、DC電圧(典型的には、3kV)の印加によって、さらに加速される。DE MALDI源のパルス遅延および電圧は、イオンセレクタ24の近傍で、ビームを時間収束するために、当業者に周知の技術に従って選択される。
【0053】
線形TOF MS23内で選択されるイオンの分解能を改良するために、第二の減速パルスが、パルス発生器35から引き出しプレート32に印加される。第二のパルスは、プレート32とメッシュ33との間の第二の加速領域の中央付近で、目的のイオンの到達によって同期されるが、この第二のパルスは、3kV加速パルスに重ねられて、これらの主イオンの分解能を改良するように機能する。時限式イオンセレクタ24の前方に設置された環状検出器39は、時間収束の質をモニターするために使用される。この検出器はまた、主イオンのスペクトルを獲得するために使用される。この場合、レンズ38は、ビームを空間的に焦点を合わさず、その結果、イオンビームの一部が、イオン軌道40bによって示されるように、検出器39に当たる。一旦、主イオンのスペクトルが獲得されると、目的のイオンが選択され、そしてタンデムMSモードで分析される。レンズ38および操縦プレート37は、イオン軌道40aによって示されるように、CID室26の入口に、空間的にビームを収束する。
【0054】
時限式イオンセレクタ24は、目的のイオンを通過させ、残りのイオンビームを拒絶するために使用される。環状検出器39を通過した後、高エネルギービームは、時限式セレクタ24内に導入される。このセレクタは、メッシュ42によって囲まれた一対の偏向プレート41からなる。パルス発生器43からの偏向パルスは、目的のタイムイオン(time ion)が時限式イオンセレクタのメッシュ間を移動する間、オフにされ、偏向なしにそれらのイオンを通過さ室。選択されたイオンとは異なるM/Z値のイオンは、異なる速度を有し、偏向パルスがオンのとき時限式イオンセレクタ24に達する(または通り過ぎる)。従って、これらのイオンは偏向されそして開口47の壁に当たり、機器システム21からなくなる。
【0055】
選択されたイオンのビームは、エネルギー調節電極25内で減速され、そして所望の程度のフラグメンテーションに依存して10〜300eVの間の運動エネルギーで室26内に注入される。サンプルプレート31と室26との間の電位差は、注入されたイオンの運動エネルギーを決定する。しかし、サンプルプレート電圧の制御に依存しない運動エネルギー制御を提供することは有利である。これは、時間、エネルギーおよびスペースについて、2つの質量分析計のデカップリングを提供する。イオンの運動エネルギーの調節からイオン選択の所望のデカップリングを提供するために、追加の要素が、時限式イオンセレクタ24とCID室26との間、すなわちエレベータ44に挿入される。このエレベータ44は、電圧パルス45をエレベータに供給するために追加のパルス発生器に結合された無電場管の短部分(short piece)である。このエレベータの電位は、目的のイオンがエレベータを通って飛行する際に段階パルス化される。結果として、追加の加速電位は、エレベータ44の出口メッシュと減速電極スタック46の入口メッシュとの間に導入される。イオンは、所望の運動エネルギーでCID室内に注入される。イオン損失(ion loss)を避けるために、開口47の電位は、サンプルプレート31の電位未満の約200Vに維持される。200eVエネルギーにおけるイオンビームは、低発散を有し、イオンの損失なしに、減速電極スタック46のチャネルを通過する。イオンビームの最終的な減速は、減速レンズ48の近傍で起こり、これは、リバースカソードレンズとして設計される。このレンズは、低速イオンビームを室26の入口および開口50a内に収束する。
【0056】
衝突減衰を伴うCID室26内へのエネルギーパルスビームの注入は、本発明の重要な局面である。パルス化した10〜300eVのイオンビームを高度に制限された低速イオンビームに変換するために、気体圧力とRF専用多重極の長さとの積は、一般に0.2torr・cmを超えなければならない。10cm長CID室内の代表的な圧力は、約30mtorrである。しかし、より高い気体圧力(約100mtorr)はイオンをインタクトに維持するのを助けることが見出され、これは、操作のMS専用モードにおいて所望される。低注入エネルギー(1kD質量あたり20eV未満)において、フラグメンテーションの大部分が、イオン注入エネルギーによるのではなく、MALDIイオン源の初期イオン励起によって規定される。CID室内の圧力が高くなればなるほど、より早い冷却がバックグラウンド気体との衝突によって達成され、その結果、より少ないイオンフラグメンテーションが起こる。高い気体圧力を使用する際の欠点は、より高い気体の充填が存在し、それによってMS分析器内の真空状態を達成するためにより強力なポンピングシステムを必要とすることである。メタンのようなより軽い多原子気体は、(窒素と比較して)約2倍高い注入エネルギーでの作動を可能にし、従ってイオンビーム発散によって引き起こされるイオン損失(低注入エネルギーにおいて代表的である)が減少する。
【0057】
操作のMS−MSモードにおいて、より高い圧力は問題ではない。フラグメンテーションの所望される程度は、1kDのイオン質量あたり20〜100eVの主イオンの運動エネルギーを変化さ室ことによって制御される。上記のように、このような運動エネルギーにて気体と衝突するイオンは、内部エネルギーを獲得し、フラグメンテーションを起こす。続いて、バックグラウンド気体との衝突は、運動エネルギーの完全な減衰およびフラグメントイオンの内部エネルギーの衝突冷却を引き起こす。
【0058】
本発明の重要な特徴は、高周波場によってCID室26内のイオンの保持である。エネルギー衝突は、イオン散乱を引き起こす。イオンビームの初期トラッピングを高めるために、CID室の入口に配置される室26の第一のセクション内でより大きな直径(15mmの内接直径)の六重極52を使用することは、有利であることがわかった。出力ビームの質を改善するために、より小さなサイズ(7mmの内接直径)の四重極53が、室の第二の下流セクションで採用される。2つの多重極間の開口50bは、非適合RF電場(non−matching RF field)を終結し、そしてまた、2つのセクション間の気体流れを制限する。六重極52と四重極53の両方は、広い質量範囲のフラグメントイオンにわたって拘束および送達を提供する、2.5MHz周波数および約500Vの振幅のRFシグナルを採用する。六重極のDC電位は、2つのセクション間のイオン流れを促進するために、四重極のDC電位より数ボルト高い。四重極は、直交TOF MSへの注入に適したイオンビームの衝突冷却および空間的拘束を提供することが公知である。四重極53を超えて、イオンビームは、差動ポンピングの追加のステージ29bを介して輸送され、開口および追加のレンズ電極からなるレンズシステム54によって収束される。開口50cにわずかな遅延電位(retarding potential)を導入することが有利であることが見出された。一般に、遅延電位は、四重極53のDC電位より0.1〜0.3V高い。四重極出口のポテンシャル障壁は、それらのスペース電荷(space charge)がポテンシャル障壁を克服するまでイオンをトラップする。一旦これが起こると、イオンは、直交TOF MSの従来の差動に適したスムーズな連続ビームとして四重極53を出る。高反復率レーザーを使用する場合、このようなスムーズさを生成するための必要性は低い。例えば、1kHzにおけるレーザー速度は、ポテンシャル障壁を使用しない場合でさえ達成され、開口50cが分離開口を通したイオン送達を高めるレンズとして使用され得る。
【0059】
直交TOF MSが、フラグメントイオンの質量分析のために使用される。イオンビームが、四重極53のDC電位によって規定される約5〜10eVの運動エネルギーにてo−TOF27内に導入される。連続イオンビームを約10kHz反復にて直交イオンパルスに変換し得るパルス発生器56は、DE MALDI源22によって発生されるイオンパルスに非同期的に誘発され得る。直交TOFの作動は、先行技術文献に十分に記載され、当業者に周知である。加速器55は、大地電位付近で作動する。イオンは、浮遊自由飛行管(floated free flight tube)57内に加速され、イオンミラー58に反射され、そして検出器59上に指向される。スペクトルは、検出器出力を受容する時間−デジタル変換器(TDC)60を使用して計数モードで獲得される。
【0060】
o−TOF27の直交パルス発生器56の同調は、衝突室26のイオンパケットの時間広がりに依存して異なる様式で行われ得る。準連続イオンビームの場合に、パルス発生器56は、パルスイオン源発生器に対して非同期的に動作し得る。準連続ビームは、より長い四重極を使用して、そして開口50cにわずかな遅延軸方向電場を生成することによって、室26内の圧力を増加さ室ことによって得られ得る。連続ビームの生成は、高反復率でパルスイオン源発生器を操作することによってより容易になされ、これはまた、シグナル強度を向上させる。全ての電圧が中程度でありそして全てのパルスが1kV以内にあるため、数kHzの反復率でレーザーおよび全てのパルスを操作することはかなり通常のことである。衝突室26を出るイオンビームはまた、o−TOF27のデューティーサイクルを改良するために変調され得、ここでケース変調パルスがo−TOFパルサー56およびデータ収集システムを同調するために使用される。四重極開口50cに印加されたパルス反発電圧は、イオンビームを変調する。反発電位が印加されるとき、イオンはRF場による半径方向の圧縮、および開口50bおよび50c上の遅延DC電位による軸方向圧縮によって生成した線形とラップ内に保持される。開口50cの反復電圧が切られるとき、イオンの短いパケットはo−TOF27の直交パルサー内に注入される。このようなスキームは、o−TOFのデューティーサイクルを、限定した質量範囲内に改良することが公知である。
【0061】
図3を参照して、高分解能のイオン選択を提供するためにパルス加速器として作動する時限式イオンセレクタ65の代替の実施態様が示される。時限式イオンセレクタ65は、3つのメッシュ65a、65b、および65cからなり、減速電極スタック64と衝突室66との間に配置される。メッシュ65aはまた、イオン検出器63の遮蔽として作用する一方で、メッシュ65cはまた、減速スタック64の入口メッシュとして作用する。中間メッシュ65bは、パルス発生器65dに結合され、目的のイオンの到達と同時にパルス化する。
【0062】
パルス発生器65dからのパルスの印加前(太線)およびパルスが印加される時間(細線)の電圧分布が図3に模式図の下に示される。垂直方向の破線は、模式図の電圧と要素との間の対応を示す。減速電極スタック64の電位は、イオン源61のサンプルプレートの電圧よりも上に調節される。中間メッシュ65bに印加されるパルスなしで、全体のイオンビームが電位差67によって表されるエネルギー欠損を有し、減速電極スタック64を通って通過し得ない。イオンは反射され、環状検出器63に当たる。このインスタンスの減速スタック64は、反射TOF MS構成のイオンミラーとして作用する。所望される場合、主ビームイオンの全体のビームは、環状検出器63上に時間収束され得、主ビームイオンはMS専用分析を目的として分析され得る。
【0063】
目的のイオンを選択するために、加速パルスが、メッシュ65bへ印加され、これは目的のイオンのメッシュ65bへの到達と同時である。パルスの振幅68は、電位差67のわずかに上に調節される。加速パルスが印加される際、目的のイオンは中間メッシュ65bの近傍で飛行し、そして最大加速度を獲得し、その結果それらは減速電極スタック64を通過し得る。他のM/Z値のイオンは少ないエネルギーを獲得し、反射される。この減速電極スタックはまた、TOF1内に形成された準安定フラグメントを拒絶する。減速スタック64を通過した後、選択されたイオンのビームは、室66内のイオンフラグメンターションを誘起するために、衝突室66の前方で、所望のエネルギーに加速される。電位差69は、最小イオン注入エネルギーを制御する。パルス高さ68と電位67との間の差は、注入されたイオンのエネルギー拡散を制御する。
【0064】
上記の時限式イオンセレクタ内のイオン選択の分解能は、MALDIイオン源で代表的に得られる値、5〜10eVエネルギー拡散によって制限される。分解能(R)は、R〜(L*Ue)/(d*ΔE)/2として見積もられ得、ここでLは自由飛行管の長さであり、dはイオンセレクタのメッシュ間の距離であり、Uはセレクタパルスの高さである。L=30cm、d=3mm、U>600VおよびΔ<10eVの場合、分解能は1000を超える。
【0065】
図4は、衝突室を出るイオンビームの変調した性質を利用する本発明の実施態様を示す。この短い衝突室は、イオンのエネルギーの実質的減衰を提供し、一方でイオンビームのパルス性質およびイオンパケットの小さな長さをなお部分的に保存する。この実施態様は、DE MALDIイオン源71、およびTOF質量分析計75を備える。室74は、約1cm長であり、100mtorrを超える圧力にて気体で充填される。室74における軸方向の弱いDC電場は、室を通過するイオンの送達を加速する。室を出るイオンの短いかつスローなパケットは、TOF質量分析計75によって分析される。この実施態様において、TOF質量分析計75は、初期空間拡散のために補償するように調整されたパルス加速を伴う軸方向反射TOF MS(axial reflecting TOF−MS)である。この実施態様の別の好ましい特定の場合において、第二の質量分析計は、o−TOF機器である。この実施態様において、全てのパルス発生器77〜79は、室74を通るイオンの飛行時間および伝播に対応する遅延と共にレーザー76のトリガリングに対して同調される。
【0066】
空間的減衰をいかにして達成するかを証明するために、衝突室74が1cm長であり、そして室内の気体圧力が100mtorrであると仮定すること。このような配置は、要求される衝突を支持するのに十分な気体の厚みを室に提供する。10-182断面および3×10-213気体密度を有する代表的なペプチドイオンの場合、イオン自由行程(ion free path)は0.3mmのオーダーである。RF場はイオン軌道に対するさらなる揺れ(swing)を与え、これは室長あたりの衝突の数を増加する。主イオンは、室内で少なくとも30の衝突を経験し、これは窒素分子の質量に対するイオン質量の比に近い。従って、1kDイオンは、実質的に減速される。速度の初期低下後、断面積が増加する。これは分極力(polarization force)および減衰がさらにより効率的となるからである。フラグメントイオンは、より小さな質量を有し、従ってそれらの親イオンよりもさらにより効率的に減速する。約100V/mの多重極ガイドの内部に、フリンジ電界によってまたはチルトロッドによってのいずれかで形成される僅かな軸方向電場は、ビームの完全な停止を可能としない。例えば、Mansooriらの「Analytic Performance of a High−Pressure RF−Only Quadrupole Collision Cell with an Axial Field Applied Using Conical Rods,Proceedings of the 46th ASMS Conference on Mass Spectrometry and Allied Topics、1251頁、1998」を参照のこと。イオンのドリフト速度(100m/s(熱速度)のオーダーにある)は、イオンの任意の追加の加熱およびフラグメンターションを引き起こさないが、パケットの制限された長さを保存しない。僅かな自由行程の長さ(すなわち1mm)未満のイオンビームの空間的拡散を考慮すると、パルスの継続時間は、約10μsのままであり、速度は約100m/sのままである。このようなビームは、パルス加速(pulsed accelation)を伴って軸方向TOF MSでの良好な収束のための限界特性(marginal property)を有する。しかし、第二のMSがo−TOF MSであり、従ってデューティーサイクル損失がo−TOF MSにおいて実質的に排除される場合、このようなビームは、高反復率レーザーおよび高反復率パルサー(約10kHz)と適合性がある。
【0067】
図5に示される別の実施態様において、本発明は、パルスイオンビームが直交パルス化によって連続イオンビームから生成される連続イオン源に適用される。連続イオン源には、エレクトロスプレー(ESI)、大気圧における化学イオン化(APCI)、電子衝撃イオン化(EI)、誘導結合プラズマ(ICP)イオン化などのような当該分野において公知のものが挙げられる。源80からの連続イオンビームは電極81によって通過され、これは、パルス発生器82からパルスを受容する。このパルスは、イオンのパケットの直交加速を提供し、これは次いで線形TOF質量分析計83内に注入される。以前の実施態様に関して同様に記載されるように、イオンビームは、適切な主イオン選択および減速後、CID室84に入り、フラグメント化し、次いで、さらなる分析のための第二の質量分析計(MS2)85に輸送される。CID室の入口上にイオンビームを収束するため、およびTOF質量分析計83の分解能を保存するために、多重の両面ストリップ87からなるレンズ86は、伸びたパルスビームを収束する。各個々のストリップは、一対の偏向プレートのように作用する。この偏向角度はストリップの位置と共に変化する。この配置は、初期において幅広のイオンビームの収束を可能にし、衝突室84の開口を通した効率的なイオン移動を可能にする。この多重セグメントレンズを作動する好ましい様式は、電圧パルスを印加することであり、一方で目的のイオンは収束時の時間拡散を最小にするようにレンズ内にある。ビームの変調のために上記の技術を採用する場合、このスキームはMS専用o−TOF機器として感受性であり得る。
【0068】
(実験結果)
第二の減速パルス35およびエレベータ44の使用なしに、図2を参照して示され記載されるTOF−o−TOF機器を使用して、本発明の原理および目的を試験した。10-6torr未満の真空中で、DEモードで、MALDIイオン源内にイオンを生成した。Nd−YAGレーザーを500Hzの反復率で採用した。100ns〜300ns遅延後、サンプルプレート31をプレート電圧(約500V)から10〜50Vの低電位までパルス化した。イオンを、−3000Vまで浮遊した自由飛行管を有する10インチ長の線形TOF内で時間分離(time−separated)され、室26の入口上に空間的に収束された。目的のイオンをパルス偏向プレートによって選択した。選択されたイオンを減速電極スタック46において減速し、そしてサンプルプレートと室チャンバー49との間の電位差によって制御される低エネルギー(10〜50eV)でCID室内に注入した。イオンを約30mtorrの中間の気体圧力で室内に衝突減衰した。室の第一のセグメントは15mmの内接直径を有するRF専用六重極52を備え、そして第二のセグメントは7mmの内接直径を有するRF専用四重極53を備える。両方の多重極を、2.5MHz、500V RF電源によって駆動した。RFシグナル上に重ねられた2V DCバイアスを、ステージ間でイオンを駆動するために使用した。六重極を7V DCに維持し、四重極を5V DCに維持した。パルスイオンビームをRF専用四重極に拘束された準連続ビームに変換し、次いで、質量分析のために直交TOF(MarinerTM MS機器、PE Biosystems,Framingham,MA)に注入した。Mariner機器の直交パルサーを10kHzの反復率でTOF1と非同期的に作動した。
【0069】
第一の実験作動において、マイクロ−チャネルプレート検出器を直交TOFの代わりに使用した。これらの実験において、TOF1の時間収束特性およびアインツェルレンズ(einzel lens)の空間的収束特性を変更した。この室を10-6torr未満にポンピングし、加速電位まで浮遊し、その結果高エネルギーイオンビームを室を通して送達できた。イオンビームが1kVまで下げた加速電圧で1/8インチの開口を通して完全に送達されることが見出された。次の作動において、室を僅かに正電位に設定し、1〜50mtorrの圧力まで窒素ガスで充填した。室内の気体衝突は、イオンビームを減速し、そしてイオンシグナルの時間拡散を引き起こした。真空の場合と比較して、全積分は低くあるようであり、これはイオンビームの10倍を超える損失を示す。六重極ガイド上のRFシグナルの導入およびCID室の前方の減速カソードレンズの使用によって、シグナル積分を回復した。これらの実験は、ペプチドイオンを分析する際に必要とされる低い運動エネルギー(すなわち、10eVまで下げる)でさえイオンビームが室内に完全に注入され得ることを確証した。これはまた、イオンの運動エネルギーの衝突減衰および結果としてCID室を通る完全送達を確証した。
【0070】
次の実験において、MS−MSスペクトルを獲得するために直交TOF MSシステム21を再設置した。衝突エネルギーをDEパルスの電圧を変えることによって調節した。例えば、+17VまでのDEパルスにおいて、衝突エネルギーを10eVまで調節した。なぜなら、六重極が+7Vまで浮遊されたためである。主イオンが低注入エネルギーにて、室内の高気体圧力で、インタクトのままであり得ることが見出された。フラグメンターションを誘発するために、注入エネルギーを1kDaペプチドあたり約30eVの範囲内に維持した。操作のMS専用モードにおいて、主イオンのスペクトル(時限式イオンセレクタをオフに切り替えて)を獲得し、次いで、イオン選択の質をモニターし、セレクタのタイミングを含むTOF1パラメータを調整することが可能である。従って、DEパルス電圧を調節することによって、MS専用とMS−MS分析モードとの間で切り替えることが可能であった。
【0071】
図6A、BおよびCを参照して、ペプチドアンジオテンシンIのスペクトルを種々の注入エネルギーおよび室内の30mtorr気体圧力で示す。10eVでのエネルギーレベルにおいて、主イオンは十分に保存される(図6A)。フラグメントイオンピークの強度は、分子ピーク強度の5%未満である。より高い注入エネルギー(50eV)において、「a」および「b」型のフラグメントを形成し、構造的情報を含み、ペプチド同定にとって十分である実質的なフラグメンテーションが起こる(図6Bを参照のこと)。予測されるように、イオンビームは気体衝突において完全に減衰し、従って第二の分析器の性能が注入エネルギーによって影響されなかった。フラグメントスペクトルは、線形較正曲線、5000を超す分解能(図6C)および全質量範囲にわたって均一な低いppm質量精度を明らかにする。
【0072】
組み合わさった有用な要素の好ましい実施態様および幾つかの実施例を記載しているため、ここで本発明の概念を包含する他の実施態様が使用され得ることは当業者に明らかである。従って、これらの実施態様は開示された実施態様に限定されるべきではなく、むしろ本発明は前出の特許請求の範囲の趣旨および範囲によってのみ制限されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公開番号】特開2010−232193(P2010−232193A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154368(P2010−154368)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【分割の表示】特願2001−503206(P2001−503206)の分割
【原出願日】平成12年6月9日(2000.6.9)
【出願人】(509130413)アプライド バイオシステムズ, エルエルシー (48)
【Fターム(参考)】