説明

表皮の圧着方法並びに圧着装置

【課題】表皮にテンションをかけながら圧着上下型の型締めにより、芯材の表面に表皮を圧着加工する際、圧着加工終了間際において、表皮に加わる過度のテンションで表皮の柄模様、絞模様等が伸ばされることを防止する。
【解決手段】圧着上下型50,60の型締めにより、芯材21の表面に表皮22を圧着加工し、圧着下型60外周のクランプ機構70により、表皮22にテンションをかけながら圧着加工を行なう際、クランプ機構70におけるセットピン71がある一定のポイントで表皮22のセット孔23から自動的に外れることで、圧着加工終了間際において、過度のテンションが表皮22に付加されることを防止する。例えば、セットピン71が一定のポイントに到達した時、ペンシリンダ75によりセットピン71を引き込み動作するか、あるいは、セットピン71がテンションにより引き込まれる際、傾斜状のLMガイド72に沿って下降しながらスライド動作させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ドアトリム、リヤサイドトリム、ラゲージサイドトリムのように、芯材と表皮とからなる自動車用内装部品の製作に好適な表皮の圧着方法並びに圧着装置に係り、特に、芯材の表面に表皮を圧着加工する際、シワが発生せず、かつ表皮に過度のテンションが加わることがないため、柄模様や絞模様の変形がなく、美麗な外観見栄えが期待できる表皮の圧着方法並びに圧着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図19は、自動車用内装部品の代表的なドアトリム1の構造を示すもので、ドアトリム1は、ドアトリムアッパー2とドアトリムロア3との上下二分割体を相互に接合して構成されている。また、ドアトリムアッパー2は、所要形状に成形された芯材2aの表面に感触並びに外観性能に優れた表皮2bを圧着一体化した積層構造体が使用される一方、ドアトリムロア3は、合成樹脂の射出成形体、モールドプレス成形体等の樹脂単体品が使用されている。
【0003】
次いで、ドアトリムアッパー2のように、芯材2aの表面に表皮2bを圧着一体化する従来方法並びにその装置について以下説明する。まず、図20に示すように、ドアトリムアッパー2における芯材2aに表皮2bを圧着する際に使用する圧着装置4は、芯材2aをセットする圧着上型5と表皮2bをセットする圧着下型6と、表皮2bの周縁の一部を保持して、表皮2bの圧着加工時において表皮2bに適度のテンションを加えるクランプ機構7とから構成されている。
【0004】
更に詳しくは、圧着上型5は、上側取付板5aに支持されており、この上側取付板5aに昇降シリンダ5bが連結され、この昇降シリンダ5bの動作により、圧着上型5は、所定ストローク上下動作を行なう。また、圧着下型6は、可動側下型6Aと固定側下型6Bとが下側取付板6aに支持されている。尚、可動側下型6Aは、バネ6bを介して下側取付板6aに取り付けられているが、固定側下型6Bは、下側取付板6aに直接取り付けられている。
【0005】
そして、圧着装置4の動作について簡単に説明すると、圧着上型5は、一段階プレス工程で圧着下型6の可動側下型6Aと接合し、例えば、ドアトリムアッパー2のフラット面部分での圧着加工が行なわれる。その後、二段階プレス工程で、圧着上型5が更に下降するのに追随して、可動側下型6Aがバネ6bを圧着させながら下降し、圧着上型5と固定側下型6Bとが型締めされてドアトリムアッパー2のウエスト部分での圧着加工が行なわれる。
【0006】
更に、従来の圧着装置4については、表皮2bを圧着加工する際、表皮2bに適切なテンションを加えるために、圧着下型6の周縁の一部に表皮2bを保持するクランプ機構7が設けられている。従来のクランプ機構7は、図21に示すように、表皮2b周縁のセット孔2cに挿通させて、表皮2bを支持するセットピン7aが設けられており、このセットピン7aを支持するスライダ7bがLMガイド7cにスライド自在に取り付けられており、このスライダ7bとフレーム7dとの間にバネ7eが設けられている。従って、バネ7eのバネ圧に抗して、表皮2bに加わるテンションに応じてセットピン7aがLMガイド7cに沿って矢印方向に可動するという構成である。
【0007】
次に、上述した従来の圧着装置4を使用して、ドアトリムアッパー2の製作、すなわち、芯材2aの表面に表皮2bを圧着加工する従来方法について説明する。まず、図22に示すように、圧着上下型5,6が型開き状態にある時、圧着上型5の型面に芯材2aをセットするとともに、圧着下型6の型面には、表皮2bをセットする。この時、表皮2bは、表皮2bの周縁に沿って開設されているセット孔2cにクランプ機構7のセットピン7aを挿入して、表皮2bの周縁部分をクランプ機構7により保持する。
【0008】
そして、芯材2aと表皮2bのセット工程が完了すれば、図23に示すように、圧着上型5が昇降シリンダ5bの駆動により所定ストローク下降して、まず一段階プレス工程で圧着上型5と可動側下型6Aとが型締めされて、ドアトリムアッパー2のフラット面部分において芯材2a表面に表皮2bを圧着一体化する。
【0009】
その後、圧着上型5を継続して下降動作させ、図24に示すように、二段階プレス工程を実施する。すなわち、圧着上型5の下降動作に伴ない、圧着下型6の可動側下型6Aは、バネ6bを圧縮しながら下降して、ドアトリムアッパー2のウエスト部分において圧着上型5と固定側下型6Bとの間で表皮2bの圧着加工が行なわれる。この二段階プレス工程時、特に表皮2bに加わるテンションにより、セットピン7aは、バネ7eのバネ圧に抗してLMガイド7cに沿って図24中矢印方向に移動するため、表皮2bに適切なテンションが付与され、シワが発生することなく、表皮2bの圧着加工が行なわれる。従来の芯材2aに対する表皮2bの圧着方法並びに圧着装置については、特許文献1に詳細に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−34454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、従来、芯材2aの表面に表皮2bを圧着加工するには、表皮2bをバネ付勢されたセットピン7aにセットして行なっており、この時、圧着上型5が下降するに連れて、表皮2bが圧着上下型5,6側に引き込まれるが、クランプ機構7のバネ7eの反発力により表皮2bにテンションをかけることで、表皮2bにシワが発生することがないように、表皮2bの圧着加工を行なっていた。しかしながら、従来方法では、圧着上型5が下降しきっても、表皮2bにはテンションが加わったままであるため、表皮2bの柄模様や絞模様が過度に伸ばされて、外観見栄えを低下させるという欠点が指摘されている。同様に、外観模様の変形だけでなく、過度にテンションが加わることで、部分的に薄肉不良や白化等が発生するという問題点も同時に指摘されている。
【0012】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、芯材表面に表皮を圧着加工する表皮の圧着方法並びに圧着装置に係り、バネ付勢されたセットピンを有するクランプ機構を使用して、表皮にテンションをかけてシワを防止しながら芯材表面に表皮を圧着する表皮の圧着方法並びに圧着装置において、圧着加工終了間際に表皮に過度のテンションが加わることを確実に防止することで、表皮の柄模様、絞模様の変形を解消して、外観見栄えを良好に維持するとともに、部分的な薄肉不良や白化等も解消するようにした表皮の圧着方法並びに圧着装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、圧着上型に芯材をセットするとともに、圧着下型に表皮をセットし、かつ圧着下型の外周に配設されたクランプ機構におけるバネ付勢されたセットピンに上記表皮の周縁に設けられたセット孔を挿入し、圧着上下型の型締め時、上記セットピンが内方に向け可動することで、適切なテンションを表皮に加えながら、芯材の表面に表皮を圧着する表皮の圧着方法において、前記圧着上下型の型締め操作により、芯材の表面に表皮を圧着加工する際、表皮に加わるテンションにより、セットピンが圧着下型と近接する方向に引き寄せられ、セットピンが一定のポイントに到達した時、セットピンが表皮のセット孔から自動的に外れ、芯材と表皮の圧着加工終了間際に、表皮に過度のテンションが加わることを回避したことを特徴とする。
【0014】
ここで、本発明に係る表皮の圧着方法の適用対象としては、芯材と表皮を備えた積層成形品全般に適用できる。例えば、ドアトリム、リヤサイドトリム、ラゲージサイドトリム等の自動車用内装部品に好適である。また、芯材としては、合成樹脂芯材の他に木質系芯材等を使用することができる。更に、表皮としては、合成樹脂シート、クロス等の単一シート、あるいは合成樹脂シート、クロス等の単一シートの裏面にクッション層を裏打ちした積層シート材料を使用することもできる。
【0015】
更に、本発明方法は、表皮にテンションを加えながら芯材表面に表皮を圧着加工する際、一定のポイントでセットピンが表皮から抜けることで、圧着加工終了間際に表皮に過度のテンションが加わることを確実に防止できることが特徴である。
【0016】
ここで、セットピンが表皮から自動的に外れる方法としては、例えば、セットピンにペンシリンダを連結しておき、セットピンがある一定のポイントに到達した時、ペンシリンダが動作して、セットピンを表皮のセット孔から自動的に引き抜くようにした構成が好適である。その際、ペンシリンダを駆動させるタイミングとしては、圧着上下型のストローク量を検知するか、あるいはセットピンの移動量を検知する等の方法が考えられる。
【0017】
次いで、本発明方法を実施する際に使用する圧着装置における好ましい実施の形態としては、芯材の表面に表皮を圧着加工する際に使用する圧着装置であって、この圧着装置は、芯材をセットする圧着上型と、表皮をセットする圧着下型とが型締め、型開き可能に配置され、上記圧着下型の外周の少なくとも一部に配設され、表皮の周縁を保持して、表皮に適切なテンションを加えるクランプ機構とから構成される表皮の圧着装置において、前記クランプ機構は、表皮のセット孔内に挿入されるセットピンがバネ付勢されており、圧着上下型の型締め時、表皮に所定のテンションが加わり、セットピンがこのテンションにより圧着下型側に引き寄せられ、所定量移動し、一定のポイントに到達した時、表皮のセット孔からセットピンを自動的に引き抜くためのペンシリンダが上記セットピンに連結されていることを特徴とする。
【0018】
また、別の実施形態においては、ペンシリンダやそのスイッチ機構を使用せずに単に構造的にセットピンが自動的に表皮のセット孔から外れるような構成の圧着装置を採用することもできる。好ましい実施の形態においては、芯材の表面に表皮を圧着加工する際に使用する圧着装置であって、この圧着装置は、芯材をセットする圧着上型と、表皮をセットする圧着下型とが型締め、型開き可能に配置され、上記圧着下型の外周の少なくとも一部に配設され、表皮の周縁を保持して、表皮に適切なテンションを加えるクランプ機構とから構成される表皮の圧着装置において、前記クランプ機構は、表皮のセット孔内に挿入して、表皮を保持するセットピンがバネ付勢された状態で設けられ、このセットピンは、圧着下型側に向けて下り傾斜となる傾斜ブロックを介して設けたLMガイドに沿ってスライド自在に支持されており、圧着上下型の型締め時、表皮に所定のテンションが加わり、セットピンがこのテンションにより圧着下型側に引き寄せられ、所定量移動し、一定のポイントに到達した時、表皮のセット孔からセットピンが自動的に外れるようにしたことを特徴とする。
【0019】
以上説明した通り、本発明に係る表皮の圧着方法並びに圧着装置によれば、圧着上下型の型締めにより芯材表面に表皮を圧着する際、クランプ機構におけるバネ付勢されたセットピンで表皮周縁部を保持しながら圧着加工を施すため、表皮にシワが発生することがなく、表皮に適切なテンションを加えながら芯材表面に表皮を圧着加工することができる。加えて、表皮の圧着加工時に表皮に加わるテンションにより、表皮の端末部分は圧着下型方向に引き寄せられるが、表皮の端末を保持するセットピンもまた圧着下型と近接する方向に引き寄せられる。そして、セットピンが移動する移動量が所定量に達し、セットピンが所定のポイントに到達した時、自動的にセットピンが表皮のセット孔から外れるため、圧着加工終了間際において、表皮はフリー状態となり、表皮に過度のテンションが加わることがない。
【発明の効果】
【0020】
以上説明した通り、本発明に係る表皮の圧着方法並びに圧着装置によれば、圧着上下型の型締めにより、芯材の表面に表皮を圧着加工する際、圧着下型の外周に設けたクランプ機構におけるバネ付勢されたセットピンで表皮の周縁を保持して、表皮に適切なテンションを加えながら芯材表面に表皮を圧着するという圧着加工を行ない、特に、セットピンがある一定のポイントで表皮のセット孔から自動的に外れるようにしたため、表皮の圧着加工終了間際において、過度のテンションが表皮に加わることがない。従って、従来問題となっていた柄模様や絞模様の変形不良を有効に解決でき、外観性能を高めることができるとともに、薄肉不良や白化等も解決でき、シワ防止は勿論のこと、外観性能を良好に維持できるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る表皮の圧着方法を適用して製作したドアトリムを示す正面図である。
【図2】図1中II−II線断面図である。
【図3】本発明に係る表皮の圧着装置の第1実施例の構成を示す概要図である。
【図4】図3に示す圧着装置におけるクランプ機構の構成を示す説明図である。
【図5】図3に示す圧着装置におけるクランプ機構の構成を示す平面図である。
【図6】本発明に係る表皮の圧着方法の第1実施例を示すもので、芯材と表皮のセット工程を示す説明図である。
【図7】本発明に係る表皮の圧着方法の第1実施例における一段階プレス工程を示す説明図である。
【図8】本発明に係る表皮の圧着方法の第1実施例において、セットピンが表皮から外れる前の状態を示す説明図である。
【図9】本発明に係る表皮の圧着方法の第1実施例において、ペンシリンダのスイッチ機構の構成を示す説明図である。
【図10】本発明に係る表皮の圧着方法の第1実施例において、セットピンが外れた後の表皮のフリー状態を示す説明図である。
【図11】本発明に係る表皮の圧着方法の第1実施例における二段階プレス工程を示す説明図である。
【図12】本発明に係る表皮の圧着装置の第2実施例の構成を示す概要図である。
【図13】図12に示す圧着装置におけるクランプ機構の構成を示す説明図である。
【図14】図12に示す圧着装置におけるクランプ機構の構成を示す平面図である。
【図15】本発明に係る表皮の圧着方法の第2実施例におけるクランプ機構の動作を示す側面図である。
【図16】本発明に係る表皮の圧着方法の第2実施例におけるクランプ機構の動作を示す平面図である。
【図17】本発明に係る表皮の圧着装置の第2実施例における別の実施態様を示す側面図である。
【図18】図17に示す実施態様において、セットピンが外れる状態を示す説明図である。
【図19】従来のドアトリムを示す断面図である。
【図20】従来の表皮の圧着装置の構成を示す説明図である。
【図21】従来の表皮の圧着装置におけるクランプ機構の構成を示す説明図である。
【図22】従来の表皮の圧着方法における芯材と表皮のセット工程を示す説明図である。
【図23】従来の表皮の圧着方法における一段階プレス工程を示す説明図である。
【図24】従来の表皮の圧着方法における二段階プレス工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る表皮の圧着方法並びに圧着装置の具体的な実施例について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、念のため付言すれば、本発明の要旨は特許請求の範囲に記載した通りであり、以下に説明する実施例の内容は、本発明の一例を単に示すものに過ぎない。
【実施例1】
【0023】
図1乃至図11は本発明の第1実施例を示すもので、図1は本発明方法を適用して製作したドアトリムを示す正面図、図2は同ドアトリムの構成を示す断面図、図3は本発明方法に使用する圧着装置の全体構成を示す説明図、図4,図5は同圧着装置におけるクランプ機構の構成を示す側面図並びに平面図、図6乃至図11は本発明方法の各工程を示すもので、図6は材料のセット工程、図7は一段階プレス工程をそれぞれ示す説明図、図8乃至図10は本発明方法における表皮のテンション印加状態、スイッチ動作状態、表皮フリー状態をそれぞれ示す説明図、図11は二段階プレス工程を示す説明図である。
【0024】
図1,図2において、本発明方法を適用して製作した自動車用ドアトリム10の構成について簡単に説明する。このドアトリム10は、図示しないドアパネルの室内面側にこれも図示しないクリップ等の固着手段を介して取り付けられており、このドアトリム10は、ドアトリムアッパー20とドアトリムロア30との上下二分割体から構成されている。ここで、ドアトリムアッパー20は、芯材21の表面に表皮22を貼着一体化した積層構造体から構成されており、ドアトリムロア30は、合成樹脂の射出成形体、モールドプレス成形体等の樹脂単体品から構成されている。尚、本発明の要部ではないので、ドアトリムアッパー20とドアトリムロア30との接合構造についてはここでは省略する。
【0025】
次に、ドアトリム10におけるドアトリムアッパー20において、このドアトリムアッパー20を構成する芯材21及び表皮22の素材としては、芯材21は合成樹脂の射出成形体あるいはモールドプレス成形体から構成されており、合成樹脂材料としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等を使用することができる。また、表皮22としては、TPO(サーモプラスチックオレフィン)シート、塩ビシート等の合成樹脂シートや、織布シート等の単一シート素材、あるいは、これら単一シート素材の裏面にポリウレタンフォーム、ポリプロピレンフォーム、ポリエチレンフォーム等のクッション層を裏打ちした積層シート材料を使用することができる。
【0026】
ところで、本発明方法並びに本発明装置の特徴は、ドアトリム10におけるドアトリムアッパー20に代表される積層成形品において、芯材21の表面に表皮22をシワが発生することがなく円滑に圧着加工することができ、特に、柄模様、絞模様等が伸ばされることなく、外観見栄えを良好に維持したことが特徴である。そのために本発明方法に使用する装置としては、以下の構成が採用されている。すなわち、図3に示すように、圧着装置40は、芯材21をセットする圧着上型50と、表皮22をセットする圧着下型60と、芯材21に表皮22を圧着加工する際、表皮22にテンションを加えるためのクランプ機構70とから大略構成されている。
【0027】
更に詳しくは、圧着上型50は、上側取付板51に支持され、この上側取付板51には、昇降シリンダ52が連結されている。一方、圧着上型50に対して型締め、型開きされる圧着下型60は、可動側下型60Aと固定側下型60Bとの分割構造が採用されており、可動側下型60Aと固定側下型60Bとはドアトリムアッパー20におけるフラット面部分とウエスト部分とをそれぞれ良好に成形するために分割されている。そして、可動側下型60Aは、下側取付板61に対してバネ62を介して昇降可能に支持されており、固定側下型60Bは、下側取付板61に対して直接固定されている。
【0028】
次いで、表皮22にテンションを加えるために設けられるクランプ機構70は、図3乃至図5に示すように、表皮22の周縁に所定ピッチ間隔に設けられているセット孔23に挿入して、表皮22を位置決めするためのセットピン71を備えており、このセットピン71を支持する支持体71aにスライダ71bが取り付けられている。更に、このスライダ71bは、LMガイド72に沿って圧着下型60に向けて近接離間する方向に摺動動作を行ない、このセットピン71は、バネ73によりバネ付勢されている。すなわち、フレーム74とセットピン71の支持体71aとの間にバネ73が介挿されており、セットピン71を常に圧着下型60から離間する方向にバネ付勢している。尚、バネ73のバネ圧を調整するために、アジャスタ73aが設けられている。
【0029】
更に、本発明においては、このセットピン71が上下動作できるようにペンシリンダ75がセットピン71の下端末に連結されており、ペンシリンダ75が動作すれば、セットピン71の先端部分が支持体71aの上面よりも下側に位置するように引き込まれることになり、セットピン71は、表皮22のセット孔23から自動的に外れることになる。上記ペンシリンダ75の動作タイミングを制御するスイッチ機構としては、この第1実施例では図3に示すように、圧着下型60の下側取付板61にポスト80が立設され、このポスト80にリミットスイッチ81が取り付けられている。そして、圧着下型60における可動側下型60Aに操作片63が設けられており、可動側下型60Aの所定の下降ストローク量により、この操作片63がリミットスイッチ81をONするように構成されている。このリミットスイッチ81をON・OFFさせる操作片63は、可動側下型60Aの他に圧着上型50に設けても良い。
【0030】
従って、圧着上型50が下降して、表皮22にテンションを加えながら、芯材21の表面に表皮22を圧着加工する際、特に、二段階プレス工程において、圧着上型50と可動側下型60Aとが一体に下降する際、操作片63によりリミットスイッチ81がONして、セットピン71がペンシリンダ75により下方に引き込まれることにより、表皮22のセット孔23からセットピン71が自動的に外れることで、表皮22に過度のテンションが加わることがない。尚、上述したように、ペンシリンダ75の動作タイミングの制御方法として、圧着上下型50,60の下降ストローク量をリミットスイッチ81で検知する方法を採用したが、LMガイド72をスライドするスライダ71bのスライドストローク量を基にペンシリンダ75を制御するようにしても良い。
【0031】
次いで、図6乃至図11に沿って本発明方法について経時的に説明する。まず、図6に示すように、圧着上下型50,60が型開き状態にある時、圧着上型50に芯材21をセットするとともに、圧着下型60に表皮22をセットする。この時、圧着上型50にセットされる芯材21の表皮対向面には、接着剤aが予め塗布されている。また、圧着下型60にセットされる表皮22については、クランプ機構70のセットピン71に表皮22のセット孔23が挿入されている。
【0032】
このように、圧着上下型50,60に対して芯材21、表皮22のセット作業が完了すれば、図7に示すように、昇降シリンダ52が駆動して、圧着上型50が所定ストローク下降して、一段階プレス工程が実施される。すなわち、圧着上型50と圧着下型60における可動側下型60Aとが型締めされることにより、圧着上型50と、可動側下型60Aとの間で芯材21に対する表皮22の圧着加工が行なわれ、ドアトリムアッパー20におけるフラット面部分での成形が行なわれる。この時、図8に示すように、表皮22については、圧着上下型50,60側に引き寄せられるが、セットピン71に加わるバネ73のバネ圧により、表皮22には適切なテンションが加わっているため、圧着上型50と可動側下型60Aとの間での圧着加工時、表皮22にシワが発生することがない。
【0033】
以上のように、圧着上型50と可動側下型60Aとの間で芯材21に対する表皮22の圧着加工が実施されるが、更に、昇降シリンダ52の駆動により、圧着下型60は下降動作を継続する。この時、表皮22に加わるテンションにより、セットピン71は、圧着上下型50,60側にかなり近接しているが、セットピン71がバネ73のバネ圧に対して所定量移動した時、表皮22に加わるテンションと密接に関係するセットピン71の移動量と、圧着上型50、あるいは可動側下型60Aのストローク量とは相関関係にあるため、図9に示すように、可動側下型60Aに設けた操作片63がユニットスイッチ81を入れることで、図10に示すように、クランプ機構70のペンシリンダ75が駆動して、セットピン71を下方に引き込み、表皮22の周縁部分は、セットピン71が自動的に外れるため、表皮22がフリー状態となり、テンションがかからない。
【0034】
従って、二段階プレス工程においては、圧着上型50の下降に伴ない、可動側下型60Aについても、圧着上型50と一体にバネ62を圧縮させながら、所定ストローク下降し、圧着上型50と固定側下型60Bとが型締めされた状態で圧着上型50の下降動作が停止する。この二段階プレス工程時、ドアトリムアッパー20におけるウエスト部分において、芯材21と表皮22との圧着加工が行なわれる。そして、圧着加工終了間際において、図11に示すように、表皮22の周縁部分にテンションがかからないため、柄模様、絞模様等が過度に引き伸ばされることがなく、外観見栄えを低下させる恐れがない。よって、外観性能を良好に維持することができる。
【0035】
このように、本発明の第1実施例によれば、圧着上下型50,60の一段階プレス工程、二段階プレス工程において、表皮22に適切なテンションを加えながら、表皮22を芯材21の表面に圧着加工することができるため、製品表面にシワが発生することがない。更に、圧着加工終了間際に過度のテンションが表皮22に加わることがないように、予め設定した圧着上下型50,60の所定ストローク量により、リミットスイッチ81が入ることで表皮22を保持していたセットピン71が自動的に外れ、圧着加工終了間際で表皮22がフリー状態となるため、柄模様、絞模様が伸びきる恐れがなく、外観見栄えを良好に維持できるという作用効果が期待できる。
【実施例2】
【0036】
図12乃至図18は、本発明の第2実施例を示すもので、図12は本発明に係る圧着装置の第2実施例の構成を示す概要図、図13乃至図16は同圧着装置におけるクランプ機構の動作を示す説明図、図17,図18は第2実施例におけるクランプ機構の別の実施態様を示す各説明図である。
【0037】
図12において、第2実施例の圧着装置40は、第1実施例に対してクランプ機構70の構成が変更されている。従って、圧着上下型50,60の構成は第1実施例と同一であるため、その説明はここでは割愛する。すなわち、第2実施例におけるクランプ機構70は、図13,図14に示すように、表皮22のセット孔23に挿入して表皮22を保持するセットピン71を支持する支持体71aは、スライダ71bに取り付けられているが、このスライダ71bは、フレーム74の水平プレート部74a上に傾斜ブロック76を介して取り付けられたLMガイド72に沿って矢印方向に摺動可能に支持されている。また、セットピン71の支持体71aとフレーム74との間には、バネ73が介挿されており、表皮抜けタイミング調整用ブラケット77が水平プレート部74aのフランジ74bに対して取付位置が上下方向に調整できるようになっている。上記表皮抜けタイミング調整用ブラケット77は、縦壁状の取付片77aがフレーム74のフランジ74bに対して取り付けられるが、上下に延びる調節長孔77b内でネジ77cをスライドさせることで取付位置を上下方向に任意に設定できる。また、この表皮抜けタイミング調整用ブラケット77における表皮22のセット面にセットピン71の移動を許容する凹溝77dが設けられている。
【0038】
従って、この第2実施例においても、圧着上型50に芯材21をセットするとともに、圧着下型60に表皮22をセットし、このクランプ機構70のセットピン71に表皮22のセット孔23をセットする(図13,図14参照)。その後、圧着上下型50,60を型締めして、特に、二段階プレス工程においては、図15,図16に示すように、圧着加工時に加わる表皮22からのテンションによりセットピン71は圧着上下型50,60側に引き寄せられるが、この第2実施例においては、LMガイド72は傾斜ブロック76により圧着上下型50,60に近接した時、所定角度下り傾斜状となっているため、セットピン71が圧着上下型50,60側に引き寄せられれば、セットピン71は除々にスライドストローク量に比例して所定寸法下降して、遂には表皮22のセット孔23からセットピン71が自動的に外れることになる。従って、第1実施例同様、第2実施例においても、圧着加工終了間際には、表皮22に過度のテンションが加わることがなく、表皮22がフリー状態となり、柄模様や絞模様の変形を未然に防止できるという作用効果が期待できる。
【0039】
次いで、図17,図18は、第2実施例の別の実施態様を示すもので、フレーム74のフランジ74bに対して、表皮抜けタイミング調整用ブラケット77の高さ位置を調整することで、セットピン71の突出寸法(図17中dで示す)を調整することができ、セットピン71が表皮22のセット孔23から自動的に抜けるタイミングを変更することができる。
【0040】
そして、この第2実施例においても、第1実施例同様、芯材21に対する表皮22の圧着加工終了間際には、表皮22に加わるテンションにより、セットピン71の移動量が所定量に達し、一定のポイントに到達した時、セットピン71は傾斜状に設定されたLMガイド72に沿ってスライド動作する際、所定ストローク下降するため、自動的に表皮22のセット孔23からセットピン71が外れ、表皮22はフリー状態となり、柄模様や絞模様等が変形することがなく、外観性能を良好に維持できる。尚、第2実施例では、LMガイド72に傾斜ブロック76を介して取り付けるという簡単な構造で対応でき、第1実施例のようなリミットスイッチ81やペンシリンダ75等の機構を不要としたため、廉価に対応することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上説明した第1実施例、第2実施例は共にドアトリムアッパー20における芯材21と表皮22の圧着加工に適用したが、芯材21の表面に表皮22を圧着加工してなる積層成形品であれば、その用途は問わない。また、セットピン71を駆動させるペンシリンダ75を操作するリミットスイッチ81は、本実施例では、可動側下型60Aに設けた操作片63でスイッチをON操作したが、圧着上型50の下降ストローク量やセットピン71の移動量でリミットスイッチ81がONするスイッチ機構を採用することもできる。
【符号の説明】
【0042】
10 自動車用ドアトリム
20 ドアトリムアッパー
21 芯材
22 表皮
23 セット孔
30 ドアトリムロア
40 圧着装置
50 圧着上型
51 上側取付板
52 昇降シリンダ
60 圧着下型
60A 可動側下型
60B 固定側下型
61 下側取付板
62 バネ
63 操作片
70 クランプ機構
71 セットピン
71a 支持体
71b スライダ
72 LMガイド
73 バネ
73a アジャスタ
74 フレーム
75 ペンシリンダ
76 傾斜ブロック
77 表皮抜けタイミング調整用ブラケット
80 ポスト
81 リミットスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧着上型(50)に芯材(21)をセットするとともに、圧着下型(60)に表皮(22)をセットし、かつ圧着下型(60)の外周に配設されたクランプ機構(70)におけるバネ付勢されたセットピン(71)に上記表皮(22)の周縁に設けられたセット孔(23)を挿入し、圧着上下型(50,60)の型締め時、上記セットピン(71)が内方に向け可動することで、適切なテンションを表皮(22)に加えながら、芯材(21)の表面に表皮(22)を圧着する表皮(22)の圧着方法において、
前記圧着上下型(50,60)の型締め操作により、芯材(21)の表面に表皮(22)を圧着加工する際、表皮(22)に加わるテンションにより、セットピン(71)が圧着下型(60)と近接する方向に引き寄せられ、セットピン(71)が一定のポイントに到達した時、セットピン(71)が表皮(22)のセット孔(23)から自動的に外れ、芯材(21)と表皮(22)の圧着加工終了間際に、表皮(22)に過度のテンションが加わることを回避したことを特徴とする表皮の圧着方法。
【請求項2】
芯材(21)の表面に表皮(22)を圧着加工する際に使用する圧着装置(40)であって、この圧着装置(40)は、芯材(21)をセットする圧着上型(50)と、表皮(22)をセットする圧着下型(60)とが型締め、型開き可能に配置され、上記圧着下型(60)の外周の少なくとも一部に配設され、表皮(22)の周縁を保持して、表皮(22)に適切なテンションを加えるクランプ機構(70)とから構成される表皮(22)の圧着装置(40)において、
前記クランプ機構(70)は、表皮(22)のセット孔(23)内に挿入されるセットピン(71)がバネ付勢されており、圧着上下型(50,60)の型締め時、表皮(22)に所定のテンションが加わり、セットピン(71)がこのテンションにより圧着下型(60)側に引き寄せられ、所定量移動し、一定のポイントに到達した時、表皮(22)のセット孔(23)からセットピン(71)を自動的に引き抜くためのペンシリンダ(75)が上記セットピン(71)に連結されていることを特徴とする表皮の圧着装置。
【請求項3】
芯材(21)の表面に表皮(22)を圧着加工する際に使用する圧着装置(40)であって、この圧着装置(40)は、芯材(21)をセットする圧着上型(50)と、表皮(22)をセットする圧着下型(60)とが型締め、型開き可能に配置され、上記圧着下型(60)の外周の少なくとも一部に配設され、表皮(22)の周縁を保持して、表皮(22)に適切なテンションを加えるクランプ機構(70)とから構成される表皮(22)の圧着装置(40)において、
前記クランプ機構(70)は、表皮(22)のセット孔(23)内に挿入して、表皮(22)を保持するセットピン(71)がバネ付勢された状態で設けられ、このセットピン(71)は、圧着下型(60)側に向けて下り傾斜となる傾斜ブロック(76)を介して設けたLMガイド(72)に沿ってスライド自在に支持されており、圧着上下型(50,60)の型締め時、表皮(22)に所定のテンションが加わり、セットピン(71)がこのテンションにより圧着下型(60)側に引き寄せられ、所定量移動し、一定のポイントに到達した時、表皮(22)のセット孔(23)からセットピン(71)が自動的に外れるようにしたことを特徴とする表皮の圧着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate


【公開番号】特開2011−126178(P2011−126178A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287662(P2009−287662)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】