説明

表示素子用基板およびその製造方法

【課題】ガスバリア性、柔軟性、耐熱性および透明性に優れ、かつ、寸法安定性、操作性および二次加工性に優れた表示素子用基板を提供すること。
【解決手段】本発明の表示素子用基板は、該無機ガラスの両側に配置された樹脂層とを備え、総厚が150μm以下であり、湾曲させた際の破断直径が30mm以下である、表示素子用基板であって、該樹脂層の合計厚みdrsumと該無機ガラスの厚みdとの比drsum/dが、0.5〜2.1であり、該無機ガラスの厚みdが25μm〜50μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示素子用基板およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、ガスバリア性、柔軟性、耐熱性および透明性に優れ、かつ、寸法安定性、操作性および二次加工性に優れた表示素子用基板およびその簡便な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、映像通信技術の発展により、液晶表示素子は据え置き型では大型化、携帯端末では軽量・薄型化が進んでいる。今後、高臨場感を求めた大型パネルの曲面表示や、携帯性および利便性を追求した巻き取り型携帯端末を実現するには、基板の薄型・軽量化に加え柔軟化が不可欠となる。
【0003】
従来、液晶表示素子の基板には、多くの場合ガラス基板が用いられている。ガラス基板は、透明性や耐溶剤性、ガスバリア性に優れるだけでなく、液晶表示素子の製造工程において、配向膜形成工程や電極形成工程におけるフォトエッチングプロセスやスパッタリング等に十分耐える高耐熱性を有する。しかし、ガラス基板を構成するガラス材の厚さを、湾曲可能となるよう薄型化を図ると、耐衝撃性が不十分となり、ハンドリングが困難となる問題が生じる。
【0004】
そこで、耐衝撃性に優れ、かつ、ガラス以上に軽量かつ柔軟性に優れる樹脂フィルムまたは樹脂シートを表示用基板の基材に用いる技術開発が進められている。しかし、従来の表示素子用樹脂基板は、ガラスのような無機材料に比べて耐熱性が低いので、特に高温プロセスを必要とする薄膜トランジスタ(TFTともいう)基板用途においては、電極に亀裂が生じ、抵抗値の増大や断線が生じるといった課題が指摘されている。
【0005】
耐熱性を向上させるため、主鎖に芳香環やヘテロ環を導入し、高共役構造を有する樹脂を用いると、必然的に基板が着色し、十分な表示性能が得られない。透明性を有し、かつ、耐熱性を考慮した樹脂基板として、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン等が検討されているが、このような樹脂基板は、依然として熱膨張性(線膨張係数:寸法安定性)が不十分である(具体的には、樹脂基板の線膨張係数は50ppm℃−1程度であり、ディスプレイ用無アルカリガラスの約10倍である)。さらに、樹脂基板を用いた場合、表面にガスバリア層を形成する必要があり、製造工数の増加に伴い、歩留まりの低下、コストの増加といった問題がある。
【0006】
一方、無機ガラス層とケイ素酸化物ポリマー層とを有する積層体基板が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1によれば、このような積層体基板は、ガスバリア性、柔軟性、耐熱性および透明性に優れるとされている。しかし、特許文献1の積層体基板は、熱膨張性がいまだ不十分であり、二次加工性および操作性も不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−50565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ガスバリア性、柔軟性、耐熱性および透明性に優れ、かつ、寸法安定性、操作性および二次加工性に優れた表示素子用基板およびその簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の表示素子用基板は、該無機ガラスの両側に配置された樹脂層とを備え、総厚が150μm以下であり、湾曲させた際の破断直径が30mm以下である、表示素子用基板であって、該樹脂層の合計厚みdrsumと該無機ガラスの厚みdとの比drsum/dが、0.5〜2.1であり、該無機ガラスの厚みdが25μm〜50μmである
【0010】
好ましい実施形態においては、本発明の表示素子用基板は、波長550nmにおける厚み方向の位相差Rthが、20nm以下である。
【0011】
好ましい実施形態においては、本発明の表示素子用基板は、波長550nmにおける面内位相差Reが、10nm以下である。好ましい実施形態においては、本発明の表示素子用基板は、総厚が、50μm以上である。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記表示素子用基板の170℃における平均線膨張係数は、20ppm℃−1以下である。
【0013】
好ましい実施形態においては、上記表示素子用基板の透過率は、85%以上である。
【0014】
好ましい実施形態においては、上記無機ガラスのアルカリ金属成分の含有量が、15重量%以下である。
【0015】
好ましい実施形態においては、上記無機ガラスの両側の樹脂層は、それぞれ、同一の材料で構成され、同一の厚みを有し、かつ、該それぞれの樹脂層の厚みは該無機ガラスの厚みと等しい。
【0016】
好ましい実施形態においては、上記樹脂層は、エポキシ系樹脂を主成分とする樹脂組成物から形成されている。
【0017】
好ましい実施形態においては、上記樹脂層の25℃におけるヤング率は1GPa以上である。
【0018】
好ましい実施形態においては、上記樹脂層は、上記無機ガラスに直接設けられている。
【0019】
好ましい実施形態においては、上記無機ガラスの厚みdは1μm〜50μmである。
【0020】
本発明の別の局面によれば、表示素子用基板の製造方法が提供される。この製造方法は、無機ガラスに半硬化状態の樹脂組成物を貼り合わせること、および、該無機ガラスに貼り合わせた該樹脂組成物を完全に硬化させることを含む。
好ましい実施形態においては、上記無機ガラスの厚みdは1μm〜50μmである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、無機ガラスの両側に樹脂層を有する表示素子用基板が提供される。このような基板は、中心部に配置された無機ガラスがガスバリア層として機能するため、付加的にガスバリア層を積層する必要がなく、該基板の薄型化に貢献できる。また、中心部に配置された無機ガラスは、本来、高い線膨張係数を有するはずの樹脂層の熱膨張を抑制し、積層体としては、線膨張係数の小さい基板を得ることができる。そのため、本発明の表示素子用基板は、高温プロセスを必要とするTFT用基板として、特に有効である。さらに、無機ガラス板の破断は、一般的に表面の微小欠陥への応力集中が原因とされており、厚みを薄くするほど破断が生じやすくなるので、無機ガラスの薄型化は困難である。一方、本実施形態の表示素子用基板は、両側に配置された樹脂層が、変形時の欠陥への引き裂き方向の応力を緩和するため、無機ガラスを薄くした場合でも、無機ガラスへのクラックや破断が生じ難くなり、さらなる薄型化、軽量化が可能となる。無機ガラスの両面に、樹脂層を積層することによって、このような効果が得られることは、本発明者等によって初めて見出された知見であり、予期せぬ優れた効果である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)は、本発明の1つの実施形態による表示素子用基板の概略断面図であり、(b)は、本発明の別の実施形態による表示素子用基板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
A.表示素子用基板の全体構成
図1(a)は、本発明の好ましい実施形態による表示素子用基板の概略断面図である。この表示素子用基板100は、無機ガラス10と、無機ガラス10の両側に配置された樹脂層11、11´とを備える。このような構成を有することにより、ガスバリア性、柔軟性、耐熱性および透明性に優れ、かつ、寸法安定性、操作性および二次加工性に優れた表示素子用基板が得られる。さらに好ましくは、当該両側の樹脂層11および11´は、同一の材料で構成され、かつ、同一の厚みを有する(すなわち、表示素子用基板は、いわゆる対称配置の構成を有する)。このような構成を有することにより、さらに線膨張係数が小さく、かつ、操作性および二次加工性にきわめて優れた基板を得ることができる。
【0024】
好ましくは、図1(a)に示すように、それぞれの樹脂層11、11´は、無機ガラス10に直接(すなわち、接着層を介することなく)設けられている。このような構成を有することにより、より薄型の基板が実現され得る。このような構成を有する表示素子用基板は、後述の製造方法により作製され得る。必要に応じて、図1(b)に示すように、それぞれの樹脂層11、11´は、接着層12、12´を介してガラス基板に固着されてもよい。接着層は、任意の適切な接着剤または粘着剤から構成される。
【0025】
上記樹脂層の合計厚みdrsumと上記無機ガラスの厚みdとの比drsum/dは、好ましくは0.5〜2.2であり、さらに好ましくは1.5〜2.1であり、特に好ましくは約2である。樹脂層の合計厚みと無機ガラスの厚みがこのような関係を有することにより、加熱処理における基板の反りやうねりが良好に抑制され得る。とりわけ好ましくは、基板は対称配置の構成であり、それぞれの樹脂層の厚みdと上記無機ガラスの厚みdとの差(d−d)は、好ましくは−45μm〜20μmであり、さらに好ましくは−35μm〜10μmであり、最も好ましくは、dはdと等しい。このような構成にすることによって、上記表示素子用基板は、加熱処理されても、無機ガラスの両面に熱応力が均等に掛かるため、反りやうねりがきわめて生じ難くなる。なお、本明細書において「等しい」とは、厳密に等しい場合のみならず実質的に等しい場合を包含する。
【0026】
上記表示素子用基板の総厚は、好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは50μm〜100μmである。本発明によれば、上記のような構成とすることによって、無機ガラスの厚みを、従来のガラス基板よりも格段に薄くすることができる。その結果、軽量・薄型で、かつ、優れた柔軟性を有する表示素子用基板が得られる。
【0027】
上記表示素子用基板の170℃における平均線膨張係数は、好ましくは20ppm℃−1以下であり、さらに好ましくは10ppm℃−1以下である。上記の範囲であれば、例えば、液晶表示素子に用いた場合に、複数の熱処理工程に供されても、画素のずれや配線の破断・亀裂が生じにくい。
【0028】
上記表示素子用基板を湾曲させた際の破断直径は、好ましくは30mm以下であり、さらに好ましくは10mm以下である。
【0029】
上記表示素子用基板の波長550nmにおける透過率は、好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。好ましくは、上記表示素子用基板は、180℃で2時間の加熱処理を施した後の光透過率の減少率が5%以内である。このような減少率であれば、例えば液晶表示素子の製造プロセスにおいて必要な加熱処理を施しても、実用上許容可能な光透過率を確保できるからである。樹脂層を採用しながらこのような特性を実現したことが、本発明の効果の1つである。
【0030】
上記表示素子用基板の表面粗度Ra(実質的には、基板の樹脂層の表面粗度Ra)は、好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。上記表示素子用基板のうねりは、好ましくは0.5μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以下である。このような特性の表示素子用基板であれば、品質に優れる。なお、このような特性は、例えば、後述する製法により実現され得る。
【0031】
上記表示素子用基板の波長550nmにおける面内位相差Re(550)は、好ましくは10nm以下であり、さらに好ましくは5nm以下である。上記表示素子用基板の波長550nmにおける厚み方向の位相差Rth(550)は、好ましくは20nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。光学特性が上記のような範囲であれば、例えば基板を液晶表示装置に用いた場合も、表示特性に悪影響を及ぼすことがない。樹脂層を採用しながらこのような特性を実現したことが、本発明の効果の1つである。なお、波長λにおける面内位相差Re(λ)および厚み方向位相差Rth(λ)は、それぞれ、下記の式から求められる。式中、nxは遅相軸方向の屈折率であり、nyは進相軸方向の屈折率であり、nzは厚み方向の屈折率であり、dは厚みである。遅相軸とは、面内で屈折率が最大になる方向をいい、進相軸とは、面内で遅相軸に直交する方向をいう。
Re(λ)=(nx−ny)×d
Rth(λ)=(nx−nz)×d
【0032】
B.無機ガラス
本発明の表示素子用基板に用いられる無機ガラスは、板状のものであれば、任意の適切なものが採用され得る。上記無機ガラスは、組成による分類によれば、例えば、ソーダ石灰ガラス、ホウ酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、石英ガラス等が挙げられる。また、アルカリ成分による分類によれば、無アルカリガラス、低アルカリガラスが挙げられる。上記無機ガラスのアルカリ金属成分(例えば、NaO、KO、LiO)の含有量は、好ましくは15重量%以下であり、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0033】
上記無機ガラスの厚みは、好ましくは1μm〜100μmであり、さらに好ましくは10μm〜70μmであり、特に好ましくは25μm〜55μmである。本発明においては、無機ガラスの両側に樹脂層を配する構成とすることによって、無機ガラスの厚みを薄くすることができる。
【0034】
上記無機ガラスの波長550nmにおける透過率は、好ましくは90%以上である。上記無機ガラスの波長550nmにおける屈折率nは、好ましくは1.4〜1.6である。
【0035】
上記無機ガラスの平均熱膨張係数は、好ましくは10ppm℃−1〜0.5ppm℃−1あり、さらに好ましくは5ppm℃−1〜0.5ppm℃−1ある。上記範囲の無機ガラスであれば、高温又は低温環境下において、樹脂層の寸法変化を効果的に抑制し得る。
【0036】
上記無機ガラスの密度は、好ましくは2.3g/cm〜3.0g/cmあり、さらに好ましくは2.3g/cm〜2.7g/cmある。上記範囲の無機ガラスであれば、軽量の表示素子用基板が得られる。
【0037】
上記無機ガラスの成形方法は、任意の適切な方法が採用され得る。代表的には、上記無機ガラスは、シリカやアルミナ等の主原料と、芒硝や酸化アンチモン等の消泡剤と、カーボン等の還元剤とを含む混合物を、1400℃〜1600℃の温度で溶融し、薄板状に成形した後、冷却して作製される。上記無機ガラスの薄板成形方法としては、例えば、スロットダウンドロー法、フュージョン法、フロート法等が挙げられる。これらの方法によって板状に成形された無機ガラスは、薄板化したり、平滑性を高めたりするために、必要に応じて、フッ酸等の溶剤により化学研磨されてもよい。
【0038】
上記無機ガラスは、市販のものをそのまま用いてもよく、あるいは、市販の無機ガラスを所望の厚みになるように研磨して用いてもよい。市販の無機ガラスとしては、例えば、コーニング社製「7059」、「1737」または「EAGLE2000」、旭硝子社製「AN100」、NHテクノグラス社製「NA−35」、日本電気硝子社製「OA−10」等が挙げられる。
【0039】
C.樹脂層
本発明の表示素子用基板に用いられる樹脂層は、上記無機ガラスの両面に配置される。樹脂層の厚みdは、好ましくは1μm〜100μmであり、さらに好ましくは1μm〜50μmである。それぞれの樹脂層の厚みは、同一であってもよく異なっていてもよい。好ましくは、上記のように、それぞれの樹脂層の厚みは同一である。さらに、それぞれの樹脂層は、同一の材料で構成されてもよく、異なる材料で構成されてもよい。好ましくは、それぞれの樹脂層は、同一の材料で構成される。したがって、最も好ましくは、それぞれの樹脂層は、同一の材料で同一の厚みになるように構成される。上記樹脂層の合計厚みdrsumは、好ましくは2μm〜200μmであり、さらに好ましくは2μm〜100μmである。
【0040】
上記樹脂層の波長550nmにおける透過率は、好ましくは85%以上である。上記樹脂層の波長550nmにおける屈折率(n)は、好ましくは1.3〜1.7である。上記樹脂層の屈折率(n)と上記無機ガラスの屈折率(n)との差は、好ましくは0.2以下であり、さらに好ましくは0.1以下である。このような範囲であれば、無機ガラスと樹脂層との屈折率差に起因する表示特性への悪影響が防止され得る。
【0041】
上記樹脂層の弾性率(ヤング率)は、それぞれ、好ましくは1GPa以上であり、さらに好ましくは1.5GPa以上である。上記の範囲とすることによって、無機ガラスを薄くした場合でも、当該樹脂層が変形時の欠陥への引き裂き方向の応力を緩和するので、無機ガラスへのクラックや破断が生じ難くなる。
【0042】
上記樹脂層を構成する材料としては、任意の適切な樹脂(実質的には、当該樹脂を主成分とする樹脂組成物:以下、樹脂と樹脂組成物をまとめて「樹脂」と称することもある)が採用され得る。耐熱性に優れた樹脂が好ましい。さらに好ましくは、上記樹脂は、熱硬化型又は紫外線硬化型の樹脂である。このような樹脂としては、例えば、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。特に好ましくは、上記樹脂層は、エポキシ系樹脂を主成分とする樹脂組成物から形成される。表面平滑性に優れ、色相が良好な樹脂層が得られるからである。
【0043】
上記エポキシ系樹脂は、分子中にエポキシ基を持つものであれば、任意の適切なものが使用できる。上記エポキシ系樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型及びこれらの水添加物等のビスフェノール型;フェノールノボラック型やクレゾールノボラック型等のノボラック型;トリグリシジルイソシアヌレート型やヒダントイン型等の含窒素環型;脂環式型;脂肪族型;ナフタレン型、ビフェニル型等の芳香族型;グリシジルエーテル型、グリシジルアミン型、グリシジルエステル型等のグリシジル型;ジシクロペンタジエン型等のジシクロ型;エステル型;エーテルエステル型;およびこれらの変性型等が挙げられる。これらのエポキシ系樹脂は、単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0044】
好ましくは、上記エポキシ系樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ系樹脂、脂環式型エポキシ系樹脂、含窒素環型エポキシ系樹脂、又はグリシジル型エポキシ系樹脂である。上記エポキシ系樹脂が含窒素環型である場合、好ましくは、トリグリシジルイソシアヌレート型エポキシ系樹脂である。これらのエポキシ系樹脂は、変色防止性に優れる。
【0045】
好ましくは、上記樹脂層は、下記一般式(I)、(II)、(III)および(IV)からなる群から選択される少なくとも1種のエポキシ系プレポリマーの硬化層である。
【0046】
【化1】

【0047】
上記式(I)中、X及びXは、それぞれ独立して、共有結合、CH基、C(CH基、C(CF基、CO基、酸素原子、窒素原子、SO基、Si(CHCH基、又はN(CH)基を表す。Y〜Yは置換基であり、a〜dはその置換数を表す。Y〜Yは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4の置換アルキル基、ニトロ基、シアノ基、チオアルキル基、アルコキシ基、アリール基、置換アリール基、アルキルエステル基、又は置換アルキルエステル基を表す。a〜dは、0から4までの整数であり、lは2以上の整数である。
【0048】
【化2】

【0049】
上記式(II)中、X及びXは、それぞれ独立して、CH基、C(CH基、C(CF基、CO基、酸素原子、窒素原子、SO基、Si(CHCH基、又はN(CH)基を表す。Y〜Yは置換基であり、e〜gはその置換数を表す。Y〜Yは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4の置換アルキル基、ニトロ基、シアノ基、チオアルキル基、アルコキシ基、アリール基、置換アリール基、アルキルエステル基、又は置換アルキルエステル基を表す。e及びgは0から4までの整数であり、fは0から3までの整数であり、mは2以上の整数である。
【0050】
【化3】

【0051】
上記式(III)中、X〜Xは、それぞれ独立して、共有結合、CH基、C(CH基、C(CF基、CO基、酸素原子、窒素原子、SO基、Si(CHCH基、又はN(CH)基を表す。Yは、上記式(a)〜(d)のいずれかである。
【0052】
【化4】

【0053】
上記式(IV)中、nおよびmは、それぞれ、1〜6のいずれかの整数を表す。Yは、上記式(a)または(b)で表される部分である。
【0054】
上記エポキシ系樹脂のエポキシ当量(エポキシ基1個当りの質量)は、好ましくは100g/eqiv.〜1000g/eqiv.である。上記範囲であれば、得られる樹脂層の柔軟性や強度を高めることができる。
【0055】
上記エポキシ系樹脂の軟化点は、好ましくは120度以下である。また、上記エポキシ系樹脂は、好ましくは常温(例えば、5℃〜35℃)で液体である。さらに好ましくは、上記エポキシ系樹脂は、塗工温度以下で(特に常温で)液体の二液混合型エポキシ系樹脂である。樹脂層を形成する際の展開性や塗工性に優れるからである。
【0056】
上記樹脂組成物は、目的に応じて任意の適切な添加剤をさらに含有し得る。上記添加剤としては、例えば、硬化剤、硬化促進剤、希釈剤、老化防止剤、変成剤、界面活性剤、染料、顔料、変色防止剤、紫外線吸収剤、柔軟剤、安定剤、可塑剤、消泡剤等が挙げられる。樹脂組成物に含有される添加剤の種類、数および量は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0057】
上記樹脂組成物は、市販品をそのまま用いてもよく、市販品に任意の添加剤および/または樹脂を添加して用いてもよい。市販のエポキシ系樹脂(樹脂組成物)としては、例えば、ジャパンエポキシレジン社製のグレード827およびグレード828、アデカ社製のEPシリーズおよびKRシリーズが挙げられる。
【0058】
D.表示素子用基板の製造方法
本発明の表示素子用基板の製造方法は、無機ガラスに半硬化状態の樹脂組成物を貼り合わせること、および、該無機ガラスに貼り合わせた該樹脂組成物を完全に硬化させることを含む。このような製造方法によれば、接着層を介することなく、樹脂層を無機ガラスに直接固着させることができる。
【0059】
1つの実施形態においては、本発明の表示素子用基板の製造方法は、剥離フィルム上に樹脂組成物を塗工すること、当該樹脂組成物を半硬化させて半硬化層を形成すること、半硬化層を無機ガラスに貼り合わせること、無機ガラスの半硬化層を貼り合わせていない側に樹脂組成物を塗工すること、および、当該半硬化層および塗工樹脂組成物を完全に硬化させて無機ガラスの両側に樹脂層を形成すること、を含む。別の実施形態においては、本発明の表示素子用基板の製造方法は、剥離フィルム/半硬化層の積層体を2つ用意すること、それぞれの積層体の半硬化層を無機ガラスのそれぞれの側に貼り合わせること、および、無機ガラスの両側の半硬化層を完全に硬化させて樹脂層を形成すること、を含む。
【0060】
上記樹脂組成物は、C項で説明したとおりである。
【0061】
上記樹脂組成物の塗工方法としては、エアドクターコーティング、ブレードコーティング、ナイフコーティング、リバースコーティング、トランスファロールコーティング、グラビアロールコーティング、キスコーティング、キャストコーティング、スプレーコーティング、スロットオリフィスコーティング、カレンダーコーティング、電着コーティング、ディップコーティング、ダイコーティング等のコーティング法;フレキソ印刷等の凸版印刷法、ダイレクトグラビア印刷法、オフセットグラビア印刷法等の凹版印刷法、オフセット印刷法等の平版印刷法、スクリーン印刷法等の孔版印刷法等の印刷法が挙げられる。
【0062】
なお、塗工に際しては、シリコーンオイル等のレベリング剤や硬化剤等の添加剤を必要に応じて樹脂組成物に添加して、塗工液の塗工適性やインクの印刷適性を向上させることができる。さらに、無機ガラス表面にシラン処理を施すことにより、または、樹脂組成物にシランカップリング剤を混合することにより、無機ガラスと塗工樹脂組成物(最終的には、樹脂層)との密着性を高めることができる。
【0063】
上記シランカップリング剤の代表例としては、アミノシランが挙げられる。アミノシランの具体例としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−N−フェニルアミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。これらのアミノシランは単独または2種以上混合して使用することができる。さらに、アミノシラン以外のカップリング剤を併用しても差支えない。
【0064】
上記積層体(剥離フィルム/半硬化層)と無機ガラスとの貼り合わせは、任意の適切な手段により行われる。代表的には、ラミネーティングが行われる。例えば、無機ガラスの両側に積層体を貼り合わせる場合において、ロール状の積層体を無機ガラスに連続的に供給してラミネーティングすることにより、非常に優れた製造効率で表示素子用基板を製造することができる。
【0065】
上記樹脂組成物の硬化方法は、樹脂組成物に含有されるエポキシ系樹脂の種類に応じて適切に選択され得る。エポキシ系樹脂が熱硬化型である場合には、樹脂組成物は加熱により半硬化および完全硬化される。加熱条件は、エポキシ系樹脂の種類、樹脂組成物の組成等に応じて適切に選択され得る。1つの実施形態においては、塗工した樹脂組成物を半硬化させるための加熱条件は、温度が100℃〜150℃で、加熱時間が5分〜30分である。1つの実施形態においては、半硬化層を完全硬化させるための加熱条件は、温度が170℃〜200℃で、加熱時間が60分以上である。エポキシ系樹脂が紫外線硬化型である場合には、樹脂組成物は紫外線照射により半硬化および完全硬化される。照射条件は、エポキシ系樹脂の種類、樹脂組成物の組成等に応じて適切に選択され得る。1つの実施形態においては、塗工した樹脂組成物を半硬化させるための照射条件は、照射強度が40mW/cm〜60mW/cmで、照射時間が3秒〜15秒である。1つの実施形態においては、半硬化層を完全硬化させるための照射条件は、照射強度が40mW/cm〜60mW/cmで、照射時間が5分〜30分である。必要に応じて、半硬化層を完全硬化させるための紫外線照射の後に加熱処理を施してもよい。この場合の加熱処理の条件は、例えば、温度が130℃〜150℃で、加熱時間が10分〜60分である。
【0066】
なお、上記では半硬化状態の樹脂組成物を無機ガラスに貼り付ける実施形態を説明したが、本発明においては、完全に硬化した樹脂組成物(樹脂層)を無機ガラスに貼り付けてもよいことはいうまでもない。この場合、必要に応じて任意の適切な接着層が用いられ得る。
【0067】
E.用途
本発明の表示素子用基板は、任意の適切な表示素子に用いられ得る。表示素子としては、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等が挙げられる。これらの中でも、本発明の表示素子用基板は、液晶ディスプレイに好適である。
【0068】
液晶ディスプレイに用いられる場合、本発明の表示素子用基板は、従来のガラス基板に施すプロセスをそのまま利用して、セグメント方式、単純マトリクス方式、TFTを用いたアクティブマトリクス方式などすべての駆動方式に対応した電極形成に適応でき、透過型・反射型どちらの表示方式にも用いることが出来る。これらの表示装置は、小型・携帯情報端末用機器の表示装置、さらにはワードプロセッサ、パーソナルコンピュータ、ワークステーション等の情報機器、ビジネス機器、大型パネル等の表示装置としてこれらの機器に組み込まれる。
【0069】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。実施例の表示素子用基板の評価方法を以下に示す。
(1)厚み;
アンリツ製デジタルマイクロメーター「KC−351C型」を使用して測定した。
(2)平均線膨張係数;
TMA/SS150C(セイコーインスツルメンツ社製)を用い30℃〜170℃におけるTMA値(μm)を測定し、平均線膨張係数を算出した。
(3)光透過率;
高速分光光度計(CMS−500、村上色彩研究所社製、ハロゲンランプ使用)を用い、波長550nmにおける透過率を測定した。
(4)破断直径;
直径の異なる円柱へ基板(サイズ:10mm×50mm、サンプル数:5)を巻きつけ、無機ガラスの破断を目視により確認し、破断が確認された5サンプルについての円柱の直径の平均を破断直径とした。
(5)ヤング率;
50μm厚の樹脂フィルムから測定試料(25mm×50mm)を切り出し、オートグラフ(島津製作所社製)を用いて、測定試料に20Nまで引っ張り荷重を加えた際の応力−ひずみ曲線より算出した。
(6)面内位相差及び厚み方向位相差;
Axometrics社製 商品名「AxoScan」を用いて、23℃、波長550nmで測定した。なお、平均屈折率は、アッベ屈折率計(アタゴ(株)製 製品名「DR−M4」)を用いて測定した値を用いた。
【0070】
(実施例)
シリコーン処理の施された剥離フィルム間に、下記化学式で表されるエポキシ系樹脂((1):(2)=50:50(重量比))を主成分とする樹脂組成物を挟み込み、50μm間隔に固定された金属ロールの間に通して、厚み30μmのエポキシ系樹脂層を含む積層体を得た。次に、紫外線照射装置(コンベア速度:2.5m/分)を用いて、上記積層体の一方の側から、紫外線を照射(照射エネルギー:250mJ/cm)し、エポキシ系樹脂層を半硬化させて半硬化層を形成した。次に、一方の剥離フィルムを除去し、ラミネータを用いて、上記積層体の半硬化層を無機ガラス(松浪硝子社製 硼珪酸ガラス、厚み:30μm)の一方の側の表面に貼着した。無機ガラスのもう一方の側についても同様の操作を行い、半硬化層を貼着した。次いで、残っていた剥離フィルムを取り除いた後、紫外線を再照射(照射エネルギー:5000mJ/cm以上)した。その後、加熱処理(130℃以上、10分以上)を施し、無機ガラスの両面の半硬化層を完全硬化させた。このようにして、樹脂層(30μm)/無機ガラス(30μm)/樹脂層(30μm)の構成を有する表示素子用基板を得た。
【0071】
【化5】

【0072】
得られた表示素子用基板の線膨張係数、透過率および曲げ耐性、ならびに樹脂層のヤング率を、以下の表に示す。
【0073】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の表示素子用基板は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示素子に広く用いられ得る。特に、液晶ディスプレイに好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0075】
10 無機ガラス
11、11´ 樹脂層
12、12´ 接着層
100 表示素子用基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ガラスと、該無機ガラスの両側に配置された樹脂層とを備え、総厚が150μm以下であり、湾曲させた際の破断直径が30mm以下である、表示素子用基板であって、
該樹脂層の合計厚みdrsumと該無機ガラスの厚みdとの比drsum/dが、0.5〜2.1であり、
該無機ガラスの厚みdが25μm〜50μmである、
表示素子用基板。
【請求項2】
波長550nmにおける厚み方向の位相差Rthが、20nm以下である、請求項1に記載の表示素子用基板。
【請求項3】
波長550nmにおける面内位相差Reが、10nm以下である、請求項1に記載の表示素子用基板。
【請求項4】
総厚が、50μm以上である、請求項1から3のいずれかに記載の表示素子用基板。
【請求項5】
170℃における平均線膨張係数が、20ppm℃−1以下である、請求項1から3のいずれかに記載の表示素子用基板。
【請求項6】
透過率が、85%以上である、請求項1から5のいずれかに記載の表示素子用基板。
【請求項7】
前記無機ガラスのアルカリ金属成分の含有量が、15重量%以下である、請求項1から6のいずれかに記載の表示素子用基板。
【請求項8】
前記無機ガラスの両側の樹脂層が、それぞれ、同一の材料で構成され、同一の厚みを有し、かつ、該それぞれの樹脂層の厚みが該無機ガラスの厚みと等しい、請求項1から7のいずれかに記載の表示素子用基板。
【請求項9】
前記樹脂層が、エポキシ系樹脂を主成分とする樹脂組成物から形成されている、請求項1から8のいずれかに記載の表示素子用基板。
【請求項10】
前記樹脂層の25℃におけるヤング率が1GPa以上である、請求項1から9のいずれかに記載の表示素子用基板。
【請求項11】
前記樹脂層が、前記無機ガラスに直接設けられている、請求項1から10のいずれかに記載の表示素子用基板。
【請求項12】
無機ガラスに半硬化状態の樹脂組成物を貼り合わせること、および、該無機ガラスに貼り合わせた該樹脂組成物を完全に硬化させることを含む、表示素子用基板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−247785(P2012−247785A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−150563(P2012−150563)
【出願日】平成24年7月4日(2012.7.4)
【分割の表示】特願2006−289439(P2006−289439)の分割
【原出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】