説明

表示装置の製造方法

【課題】特性の異なる薄膜を同一基板上にパターニング成膜する場合、薄膜材料液体がバンクを超えて流れ出るという事態を防止し、平坦且つ均一厚みの色むらなどの無い安定した特性の薄膜層を確実に高精度に比較的簡単に歩留まり良く形成でき、高精細な微細パターニングを可能とする。
【解決手段】無機材料の部分を有するバンク形成面に選択的に少なくとも有機材料を含むバンクを形成し、上記バンクで囲まれた領域に、薄膜材料液を充填して所定の厚さの薄膜層を形成する工程を含む表示装置の製造方法において、プラズマ処理を上記バンクおよび上記バンク形成面に対して施す表面処理工程と、上記バンクで囲まれる領域に上記薄膜材料液を吐出する材料液吐出工程と、上記薄膜材料液の溶媒成分を除去する乾燥工程と、を備え、上記薄膜層が所定の厚さとなるように上記材料液吐出工程と溶媒成分除去工程とを繰り返すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体膜を用いたEL(エレクトロルミネッセンス)素子やLED(発光ダイオード)素子などの薄膜発光素子、表示装置あるいはカラーフィルタの製造に適した薄膜形成技術に係わる。
【0002】
特に、フルカラー有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子、カラーフィルタなど、特性の異なる薄膜を同一基板上にパターニング成膜するための基板、薄膜形成方法、および薄膜素子に関する。また、インクジェット方式によって薄膜層を形成しやすく、かつ平坦な薄膜層が形成可能で、微細パターニングを必要とする薄膜形成方法に関する。さらに、基板上に形成したバンクで囲まれた順に薄膜材料液をインクジェット法あるいはスピンコート等で高精細にパターニング充填するための表面改質方法、及びこの表面改質方法を利用して薄膜を形成する方法、並びにこの薄膜を備えた薄膜発光素子、表示装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、同一基板に特性の異なる薄膜を塗布により所定のパターンで形成して、機能素子を得ようとする技術が開発されている。その有力な方法としてインクジェット方式により、同一基板上に異なる薄膜パターンの形成がなされている。しかしながら、インクジェット方式を用いる場合では、基板上で異なる薄膜材料が混合するといったプロセス面での問題が生じる。具体的には、インクジェット方式を利用してEL素子などの表示装置における有機半導体材料やカラーフィルタにおける着色樹脂等の薄膜材料を塗設する技術が用いられているが、インクジェット方式を利用して液体材料を充填し薄膜のパターンを形成する場合、吐出された液体材料が隣接する画素に流出する等の問題が生じている。
【0004】
このような問題に対して、通常、異なる薄膜領域を仕切る凸状の仕切部材(「バンク」または「凸部」とも呼ばれる)を設け、該仕切部材で囲まれた領域に異なる薄膜となる液体材料を充填する方法が採られている。上記表示素子の例では、各色素領域を仕切る仕切部材を設け、各仕切領域で囲まれた領域に画素を構成する材料を充填する方法が採られる。
【0005】
最近の機能素子、特に表示装置では一般に薄さが要求され、仕切部材の高さがそれに従い制限されるにもかかわらず、仕切部材で囲まれる領域には、製膜後の体積に比較してはるかに大量の液体材料が充填されている。
【0006】
このため、仕切部材に囲まれた領域に吐出される液滴の大きさと仕切部材表面やこれに囲まれる領域の面積とのバランスのまずさから問題が生じる。この問題を以下に説明する。
【0007】
仕切部材が、充填すべき薄膜材料である液体材料に対して親液性、或いは濡れ性を有すると場合、仕切り部材があっても仕切り部材に引っ張られ、最終的な薄膜では所望の膜厚を得ることができず、また、液体材料の量を多くすれば、液体材料は容易に隣接する領域に流出してしまう。
【0008】
一方、仕切り部材で囲まれた領域の表面は、液体材料がこれに均一に濡れ拡がるように、液体材料に対して高い親和性、濡れ性を有する必要がある。さもなくば、液体材料が仕切部材で囲まれた領域に濡れ拡がらず、特にEL素子のような表示素子では画素における色抜けや色むらが生じてしまう。このような問題に対して、例えば、特開平9−203803号公報、特開平9−230129号公報には、仕切部材の上部を撥液性にし、それ以外の部分が親液性となるように表面処理をする技術が提案されている。
【0009】
これらの従来例はともに、仕切部材の上面に撥液性の材料からなる層(フッ素化合物からなる層)を形成するもので、特開平9−203803号公報には、非親和性を示す層を仕切部材の上部に塗布し、仕切部材で囲まれた領域の表面を親水性基界面活性剤で処理する技術が記載されており、特開平9−230129号公報には、更に紫外線照射により仕切部材で囲まれた凹部を親和性にする技術が記載されている。その論理的考察については、International Display ResearchConference 1997,pp238-241に記載されている。
【0010】
しかしながら、上記従来技術におけるように、仕切部材上面の撥液性及び仕切部材で囲まれる領域の親液性がある程度実現されたとしても、例えば、インクジェット方式を用いて液体材料を塗布する場合は、吐出される液滴の大きさと、上記仕切部材表面やこれに囲まれる領域の面積に対して極端に大きいあるいは小さいなど、これらのバランスが著しく悪い場合は、液体材料が被塗布領域に正確に充填されず、精度の高いパターニングが不可能となることがわかった。例えば、上記液滴の大きさが仕切部材に囲まれる領域よりも大きく成り過ぎると液滴が仕切部材上に乗り上げ、更に仕明部材上部表面が狭い場合は液滴が目的とする被塗布領域に隣接する領域に溢れ出てしまう。
【0011】
このように、液滴の大きさと、仕切部材やこれに囲まれる領域の面積との関係が適正でない場合は、上記のような問題に起因して仕切部材で囲まれた領域間での薄膜材料液の混合や形成する薄膜毎に膜厚のばらつきを生じることとなる。
【0012】
また、仕切部材で区画された領域に薄膜材料を充填する際には仕切り部材の薄膜材料液に対する親和性に関して更に問題も生じる。仕切部材や仕切部材で囲まれた領域が、薄膜材料液に対してどのような濡れ性(親和性)を示すかで充填された薄膜材料液の挙動が異なる。既述したように、仕切部材の表面が薄膜材料液に対し親和性(親水性)を示すと、仕切部材の高さを超える量の材料を充填した場合に、仕切部材があっても薄膜材料液は容易に隣接する仕切部材で囲まれた領域に流出してしまう。逆に仕切部材の表面が薄膜材料液に対し適度に非親和性(撥水性)を示すと、仕切部材の高さを超える量の材料を充填しても材料の表面張力により隣の仕切部材で囲まれた領域に薄膜材料液が流れ出すことはない。
【0013】
そしてより具体的な基板表面の改質法として特定の性質を得るため当該表面のカラーフェルターの製造、例えば、既述した特開平9−203803号公報、特開平9−230129号公報、更には特開平9−230127号公報に記載されているもの、すなわち、バンク表面をフッ素系化合物で撥インク処理する方法であって、バンクで囲まれる領域を親水性基を有する界面活性剤等で処理する技術(特開平9−203803号公報)、エッチングにより処理する方法(特開平9−230127号公報)、あるいはエネルギー照射(特開平9−230129号公報)により親インク処理があげられる。
【0014】
しかしながら、特に、フッ素系化合物材料を用いて部材表面を撥インク性にする場合、あるいはフッ素系化合物材料を用いて部材を形成する場合、上記フッ素系材料と部材を形成する下地層あるいは下地基板との密着性が悪くなり基板上にバンクを形成する技術へ応用を考えると問題がある。また、部材、特にバンク自体を撥インク性のフッ素系化合物材料等で形成できたとしてもフォトリソグラフィーによるパターニング後、バンク領域に残さが生じバンク表面の親インク性が損なわれるおそれがある。
【0015】
また、上記公知技術では仕切部材上部を非親和性にするためだけに非親和性を示す材料の塗布、乾燥、除去等が必要となり、工程数が多くならざるを得なかった。また、紫外線照射を行う場合には多くの材料で親和性となる傾向がある。材料が非親和性材料であっても紫外線照射により若干親和性を生ずるようになり、折角の非親和性処理が無駄になる傾向があった。特に、特開平9−230129号公報には紫外線を表裏の両面から照射することで親和性の程度を制御する旨が規定されているが、非親和性と親和性との親和性の制御、例えば薄膜材料液に対する接触角をそれぞれどのように設定するかについては不明であった。
【0016】
また、仕切部材の撥液性が強い場合、仕切部材の側壁で薄膜材料の液がはじかれるため、成膜後の厚みが仕切部材で囲まれた領域の中央部で厚く周辺部で薄くなる。これでは、表示素子に画素での色むらが生じる。特に、EL素子においてはショートが生じ易く信頼性の低下につながる。
【0017】
仕切部材の表面に撥液処理を施して、その側面に親和性(親液性)を付与した場合には、薄膜材料を提供して成膜後の厚みが仕切部材で囲まれた領域の周辺で薄くなることはないが、薄膜材料の液の大部分が仕切部材の側面に引っ張られるため、薄膜の裾部分、即ち、基板と接する部分で膜厚がより大きくなるだけではなく、膜厚の制御が困難となることもない。
【0018】
有機物質の表面エネルギー(濡れ性)の改質方法として、プラズマ処理を行うことはよく知られている。このような表面改質方法としては、例えば、特開昭63−308920号公報に記載されているものがある。この公報に記載された表面改質方法は、フッ素系ガスと酸素ガスを含む混合ガスブラズマを用いて有機物質表面を処理し、上記混合ガスの混合比を変えることにより、上記有機物質の表面エネルギーを制御するものである。
【0019】
また、ガラスやITO(Indium Tin Oxide)などの無機物表面を親水化するためにUV照射や酸素プラズマ処理をする方法も良く知られた手法である。しかしながら、同一基板上に有機物或いは無機物からなる層のパターンを設ける場合、この基板においてプラズマ処理やUV照射により各々の材料の濡れ性を簡便かつ厳密に制御する技術は報告されていない。混合ガスプラズマ処理により有機物質表面あるいは有機物で形成される部材表面に撥インク性を付与する方法では、効率よく撥インク性を付与することができなかったり、表面の撥インク性が一過性であり、熱工程を経たり、時間が経過すると撥インク性が劣化するという問題がある。
【0020】
また、エネルギー照射により、親インク処理を行う場合、バンク表面の撥インク性を損なうおそれがあり、バンク表面の撥インク性とバンク表面の親インク性を同時に達成することは困難である。
【0021】
このように異なる薄膜材料を供給し、所定のパターンの薄膜を形成する方法、特に基板上に形成された仕切部材(バンク)で囲まれた領域に薄膜材料液を充填し、薄膜を形成する方法においては、バンク、凹部の濡れ性(撥インク性と親インク性)を滴切に制御することが重要である。バンクに撥インク性がなければ、バンク上にインク残さを生じるだけでなく、バンクを挟んで隣接する凹部に異なる薄膜材料液を充填する場合、該バンクを乗り越えて異なる薄膜材料液が互いに混合してしまうことになる。このような場合が生じると、所望の特性を有する薄膜を形成することができない。
【0022】
一方、バンクを挟んで隣接する凹部に異なる薄膜材料液を用いて薄膜を形成する例として、カラー有機EL素子や、液晶表示装置に用いられるカラーフィルターなどが挙げられるが、これらを製造する場合、バンクは撥インク性でありかつバンクで囲まれる領域つまりITOやガラス基板表面上は親インク性でなければならない。凹部に親インク性がなければ画素内での濡れ広がりが悪く色抜けや膜厚ムラの原因となる。
【0023】
さらに上記方法では撥インク処理に加え、さらに画素領域つまり凹部の親インク処理工程が必要となり、供給するインクの制御が困難であることや工程が多くなってしまうという難点を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明はこのような状況下で、成し逐げられたものである。本発明は、特性の異なる薄膜を同一基板上にパターニング成膜する場合、薄膜材料液体がバンクを超えて流れ出るという事態を防止し、平坦且つ均一厚みの色むらなどの無い安定した特性の薄膜層を確実に高精度に比較的簡単に歩留まり良く形成でき、高精細な微細パターニングを可能とすることを主要な目的とする。
【0025】
本発明の第1の目的は、有機半導体材料や着色樹脂等の薄膜をインクジェット方式やバブルジェット(登録商標)方式などの吐出方式により形成する際に、薄膜領域毎での混合が起こらず膜厚のばらつきが著しく少なく高精度にパターニングされた、有機EL素子、カラーフィルタ等の薄膜素子を提供することにある。また、この目的に付随して、本発明は、この薄膜素子を製造することに供される薄膜パターニング用基板、この薄膜素子を備えた表示装置、さらにこの薄膜素子を得るための薄膜形成方法を提供することも目的とする。
【0026】
さらに、本発明の第2の目的は、半導体素子、電子デバイスなどの配線などの導電薄膜をスピンコート法やディップ法で形成する際に、更に微細なパターニングを可能にする基板薄膜素子、薄膜形成方法、この方法で形成した薄膜素子、この薄膜素子を備えた表示装置、および、この表示装置を備えた電子機器をそれぞれ提供することにある。
【0027】
本発明の第3の目的は、簡便かつ適切な濡れ性の制御を目的としたバンクを形成した基板の表面改質方法、及びこの表面改質方法を利用して薄膜を形成する方法、並びにこの薄膜を備えた表示素子・表示装置及びこれらの製造方法を提供することである。
【0028】
本発明の第4の目的は、プラズマ処理を一定条件で管理することで、バンク自体はバンク形成面との高い密着性を保ちながら、親和性制御のために多数の工程を経ることなくバンクとバンク形成面との親和性を確実に制御することができる薄膜形成方法を提供することである。これにより、薄膜材料液がバンクを超えて流れ出ることを防止し、歩留まりを向上させ、製造コストを減少させることである。
【0029】
本発明の第5の目的は、プラズマ処理を一定条件で管理することでバンクとバンク形成面との親和性を確実に設定することにより、薄膜材料液がバンクを超えて流れ出ることが防止でき、かつ均一な厚みの薄膜層を有する表示装置を提供することである。これにより、明るさや色にむらが生じない画像表示が行え、信頼性を向上させることである。
【0030】
本発明者らは、上記第1目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、既述の吐出方式を用いた薄膜形成において、液体材料に対する上記仕切部材表面の撥液性及び仕切部材で囲まれる領域の親液性を調節するのみならず、更に、吐出される液体材料の液滴の大きさと、仕切部材及び該仕切部材で囲まれる領域の面積との関係を最適化することにより、上記本発明の第1の目的を達成しうることを見出したものである。
【0031】
また、スピンコート法やディップ法を用いた薄膜形成においては、液体材料に対する上記仕切り部材及び仕切り部材で囲まれる領域の濡れ性の制御に加え、この液体材料の表面張力を特定の値に調整することにより、上記本発明の第2の目的を達成しうることを見出したものである。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0032】
すなわち、本発明は上記第1目的を達成するために、基板上に、所定の高さのバンク、及び該バンクにより区切られた被塗布領域にインクジェット法により薄膜層のパターンを形成する薄膜パターニング基板或いはこのパターニング基板に形成された表示素子であって、上記バンクの幅をa(μm)、その高さをc(μm)とし、被塗布領域の幅をb(μm)とし、かつ、薄膜層を形成する液体材料の液滴径をd(μm)とするとき、上記バンクが、次の特性を持つことを特徴とするものである。
(1) バンクが、d/2<b<5dを満足するように基板上に形成されてなる。この特性範囲を満たすことによって、液体材料がバンクに乗り上げず、画素内の混色が防止される。さらに、次の特性の少なくとも一つがこの特性に付加される。
(2) a>d/4:bが小さい場合、a>d/4ならば、液体材料はバンクに乗り上げることがあるが、被塗布領域内の薄膜材料の混合が防止される。
(3) c>tO〔tO(μm)は薄膜層の膜厚〕
(4) c>d/(2b)
なお、ストライプまたは四角形の被塗布領域の場合、上記パラメータa,cは一定になるが、画素がサークルの場合、パラメータaは画素間最短距離であり、パラメータcは直径になる。
【0033】
上記第2目的を達成するための本発明は、基板上に形成された所定の高さのバンクと、このバンクによって区切られた被塗布領域と、この領域に、ディップ法又はスピンコート法により形成される薄膜層と、を有するように構成されてなる薄膜素子において、所定の表面処理(濡れ性の制御)がなされた基板を用い、上記薄膜層を、表面張力が30dyne/cm以下の液体材料を用いて、形成してなることを特徴とする。
【0034】
液体材料の表面張力をこの範囲にすることにより、数ミクロン以下の幅でパターニング薄膜の形成がスピンコート法やディップ法で可能になる。
【0035】
本発明では、これらの薄膜素子を得るための薄膜形成方法、この薄膜素子を表示素子として備える表示装置、さらに、この表示装置を備える電子機器が提案される。
【0036】
上記第3以降の目的を達成するものとして、本発明者がなし得た後述する発明に共通する発明概念は、基板においてバンクで囲まれた領域に薄膜形成材料を充填するための表面改質方法であって、バンクが形成された基板全表面に一連の表面改質処理を均一に行い、この一連の処理によりバンク部分表面の薄膜形成材料に対する非親和性を、バンク間部分の表面のそれに対して高める工程を有する表面改質技術、又はこの表面改質技術を利用した薄膜形成技術、又はこれを利用した薄膜パターニング基板、又はこれを利用したEL素子等の表示素子、又はこの素子を利用した表示装置である。
【0037】
基板においてバンクによって囲まれた領城に薄膜形成材料を充填する工程を含む表示装置の製造方法であって、上記バンクが形成された基板全表面に一律にプラズマ処理を行い、このプラズマ処理により上記バンク表面の上記薄膜形成材料に対する非親和性を、上記バンクによって囲まれた領域の表面のそれに対して高める工程を有する表示装置の製造方法。
【0038】
既述の従来例が、例えば、パターニングの前のフォトレジスト上全面に撥水処理を行った後パターニングして表面処理されたバンクパターンを得たり、バンク形成後マスクを施して表面処理を行うのに対して、この本発明によれば、予め形成されたバンクを有する基板表面のほぼ全面に一律に一連の処理を行い、プラズマ処理等表面処理の途中で表面処理とは異種の工程が関与しないようにして、一気に目的とする表面処理を行うことができる。ここで、一連の表面改質処理とは、後述のように、好適には、無機材料で構成されたバンク形成面に有機材料からなるバンクが形成された基板に後述のプラズマ処理を一気に適用する処理である。
【0039】
そこで、上記第3の目的を達成する発明は、基板においてバンクで囲まれた領域に薄膜形成材料を充填するための表面改質方法であって、無機材料で構成されるバンク形成面に有機材料でバンクを形成するバンク形成工程と、所定の表面処理を行った場合に、バンクがバンク形成面に比べて薄膜材料液に対する非親和性の程度がより高くなるような一定条件下でバンクおよびバンク形成面に対して表面処理を施す表面処理工程と、を備えることを特徴とする。
【0040】
さらに、この発明の他の形態は、バンクで囲まれた領域に薄膜材料液を充填して薄膜層を形成する薄膜形成方法であって、無機材料で構成されるバンク形成面に有機材料でバンクを形成するバンク形成工程と、所定の表面処理を行った場合に、バンクがバンク形成面に比べて薄膜材料液に対する非親和性の程度がより高くなるような一定条件下でバンクおよびバンク形成面に対して表面処理を施す表面処理工程と、表面処理がされたバンクで囲まれる領域に薄膜材料液を充填して薄膜層を形成する薄膜層形成工程と、を備えることを特徴とする。ここでバンクとは、既述のとおり、例えば有機半導体薄膜素子を利用した表示装置の画素を仕切るために設けたり、カラーフィルタの画素領域を仕切るために設けたりする仕切部材のことをいう。バンク形成面とはこのバンクを設ける面のことで、表示装置等の駆動基板であってもカラーフィルタ等の透明基板等であってもよい。
【0041】
表面処理としては、例えば導入ガスにフッ素またはフッ素化合物を含んだガスを使用し、減圧雰囲気下や大気圧雰囲気下でプラズマ照射をする減圧プラズマ処理や大気圧プラズマ処理を行う。一定条件としては、フッ素系化合物および酸素を含んだガス中でプラズマ処理が行われることが挙げられる。この条下では無機材料の表面にはプラズマ放電により未反応基が発生し、酸素により未反応基が酸化されてカルボニル基や水酸基等の極性基が発生する。極性基は水等の極性分子を含んだ流動体に対して親和性を示し、非極性分子を含んだ流動体に対し非親和性を示す。有機材料表面においても上記のような反応と並行してフッ素系化合物分子が有機材料表面に入り込む現象も生ずる。特にフッ素系化合物が酸素よりも多い場合、例えばフッ素系化合物および酸素の総量に対するフッ素系化合物の含有量が60%以上に設定されていると、フッ素系化合物の量が過多のガス雰囲気化では酸素による酸化反応よりも、フッ素系化合物の混入化現象の方が盛んになるため、酸化反応による影響よりも混入化現象により表面が非極性化される。
【0042】
したがって有機材料をフッ素系化合物が過多の条件でプラズマ処理すると、極性分子を含んだ流動体に対して非親和性を示し、非極性分子を含んだ流動体に対して親和性を示すようになる。
【0043】
フッ素またはフッ素化合物を含んだガスとしては、例えばCF4、SF6、CHF3等のハロゲンガスを用いる。この条件下で表面処理を施すと有機材料と無機材料との間で流動体に対する接触角が大きく異なるようにその表面の親和性が調整される。上記表面処理により薄膜材料液のバンク形成面に対する接触角が20度以下になるように表面処理の条件が設定される。また薄膜材料液のバンク形成面に対する接触角が50度以上になるように表面処理の条件が設定される。バンクが二層で形成される場合、表面処理により、バンク下層の薄膜材料液に対する親和性が画素電極のそれ以下であってバンク上層のそれ以上に設定される。例えばバンク上層の表面が薄膜材料液に対し接触角が50度以下になるように表面処理の条件が設定される。バンク下層の表面が薄膜材料液に対し接触角が20度乃至40度の範囲になるように表面処理の条件が設定される。
【0044】
ここで親和性であるか非親和性であるかは、充填する薄膜材料液がどのような性質を備えているかで決まる。例えば親水性のある薄膜材料液であれば、極性基を有する表面が親和性を示し、非極性基を有する表面が非親和性を示す。逆に親油性のある薄膜材料液であれば、極性基を有する表面が非親和性を示し、非極性基を有する表面が親和性を示す。薄膜材料を何にするかは、製造対象によって種々に変更して適用することになる。
【0045】
好ましくは、バンク形成工程は、バンクを上層および下層の二層で形成する。具体例としてこのバンク形成工程は、バンク形成面に下層膜を形成する下層膜形成工程と、下層膜上でバンクの形成領域に合わせて上層を形成する上層形成工程と、上層をマスクとして当該上層が設けられていない領域の下層膜をエッチングして除去する除去工程と、を備える。
【0046】
また別の具体例としてバンク形成工程は、バンク形成面に下層膜を形成する下層膜形成工程と、当該下層膜をバンク下層の形成領域に合わせて露光・現像する工程と、下層を覆って上層膜を形成する上層膜形成工程と、当該上層膜をバンク上層の形成領域に合わせて露光・現像する工程と、を備える。
【0047】
適用例としてバンクで囲まれる領域には画素電極が設けられ、薄膜材料液は薄膜発光素子を形成するための有機半導体材料である場合が挙げられる。これは有機半導体表示装置である。このとき例えば画素電極はITO電極膜である。具体的には、バンクはポリイミドなどの絶縁有機材料であることが好ましい。またバンク下層を設ける場合には、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜またはアモルファスシリコンを用いる。
【0048】
さらに上記第4の目的を達成する本発明は、基板上に形成されたバンクで囲まれた領域に薄膜材料液を充填するための表面改質方法であって、バンクが形成された基板に、酸素プラズマ処理を行う第一工程とこれに続けてフッ素系ガスプラズマ処理を行う第二工程とを備えた表面改質方法を提供するものである。この方法によれば、酸素ガスプラズマ処理により、まずガラス、ITOなどの無機物基板の表面を上記薄膜材料液に対して親液性(親和性)にすることができる。
【0049】
上記第一工程で行う酸素プラズマ処理は、基板上にバンクを有機物で形成した場合の残さをアッシングするだけでなく有機物表面を活性化することにより、続けて行われるフッ素系ガスプラズマ処理による撥液化を効率よく行うために有効である。
【0050】
上記第二工程でフッ素系ガスプラズマ処理を行うことにより有機物表面がフッ素化(テフロン(登録商標)化)され半永久的な撥液性を有機物に付与することができる。このフッ素系ガスプラズマ処理により基板上の親液性は損なわれることはなく、簡便な方法で同一基板上に選択的に親液性、撥液性の表面を形成することができる。
【0051】
また、少なくとも上記第一工程及び第二工程のいずれかのプラズマ処理は、大気圧下で処理される大気圧プラズマとすることができる。あるいは、少なくとも上記第一工程および第二工程のいずれかのプラズマ処理は、減圧下で処理される減圧プラズマとすることができる。
【0052】
また、基板上の汚染の程度が低ければ、フッ素プラズマ処理だけでもよい。特に、減圧プラズマでは、基板表面は洗浄され、バンクを形成する有機物をテフロン(登録商標)化することができる。上記基板は、無機物から構成することができる。この無機物からなる基板表面を親液化することもできる。
【0053】
上記基板上に形成されたバンクにおいて、少なくとも該バンクの上面を有機物で形成することができる。あるいは、上記基板上に形成されたバンクにおいて、該バンクの上面および側面を有機物で形成することもできる。さらにまた、 上記基板上に形成されたバンクにおいて、当該バンクを下層の無機物と上層の有機物の2層で形成することもできる。また、上記基板上に形成されたバンクにおいて、当該バンクを下層の無機物と上層の有機物の2層で形成し、当該無機物の少なくとも側面を該有機物で覆われていないようにすることもできる。
【0054】
また、上記バンクを形成する有機物表面は、撥液化(非親和性)にすることができる。そしてまた、上記バンクを形成する有機物表面は、テフロン(登録商標)化することもできる。さらにまた、上記バンクを形成する有機物表面を撥液化し、かつ上記無機物からなる基板表面を親液化することもできる。バンクを形成する有機材料にはもともと撥液性の材料を使う必要がないので材料選択の幅が広がる。
【0055】
また、処理時問、ガスの種類、ガス流量、プラズマ強度、プラズマ電極と基板距離等の条件により容易に表面エネルギー(親液性、撥液性)を制御できる。上記薄膜材料液の上記基板表面に対する接触角を30度以下に、上記バンク表面に対する接触角を50度以上にすることができる。
【0056】
上記薄膜材料液の基板表面に対する接触角が30度を超えると、薄膜材料液がバンクで囲まれた基板上に全面濡れ広がらない或いは均一に濡れ広がらず膜厚ムラを生じる。一方、上記薄膜材料液の上記バンク表面に対する接触角が50度より低いと、薄膜材料液がバンク上部にも付着したり、あるいはバンク側に引っ張られバンクを超えて隣接する基板内に流出してしまうことになる。つまり上記薄膜材料液の所望の場所へのパターニングができなくなってしまう。
【0057】
また、バンクを2層から形成し、下層に無機材料を用い、接触角で20度〜50度になるように制御することにより、バンク裾で膜がついてない或いは薄くなってしまう問題を解決することができる。
【0058】
よって、上記表面改質方法によりバンクで囲まれた領域にインクジェット法あるいはスピンコート等の塗膜方法により薄膜材料液を高精度にパターニングすることが可能となる。上記表面改質を行った基板とインクジェット法による薄膜形成法を用いれば簡便かつ低コストで高精細なカラーフィルターならびにフルカラー有機EL素子を製造することが可能となる。
【0059】
またさらに第5の目的を達成する本発明は、基板上に形成されたバンクで囲まれた領域に薄膜材料液を充填し、薄膜を形成する方法であって、前述した表面改質が施された基板のバンクで囲まれた領域に、当該表面改質後直ちにインクジェット方式によって上記薄膜材料液を充填する工程を備えた薄膜形成方法を提供するものである。
【0060】
また、第5の目的を達成するため、本発明は、基板上に形成されたバンクで囲まれた領域に薄膜材料液を充填し、薄膜を形成する方法であって、前述した表面改質が施された基板のバンクで囲まれた領域に、当該表面改質後直ちにスピンコート法あるいはディップ法等によって上記薄膜材料液を充填する工程を備えた薄膜形成方法を提供するものである。
【0061】
さらにまた、第5の目的を達成するため、本発明は、前述した薄膜形成方法により形成した薄膜を備えた表示装置を提供するものである。この表示装置は、カラーフィルターや、有機EL素子からなることができる。また、本発明は、第5の目的を達成するため、前述した薄膜形成方法により薄膜を形成する表示装置の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下に、第1〜第3の実施例およびその変形例を説明する。
(1):第1の実施例(インタジェット法を用いる態様)
本発明の表示装置は、基板上に、所定の高さのバンク、及び該バンクにより区切られた基板表面にインクジェット法により形成される薄膜層を有する表示装置において、上記バンクの幅をa(μm)、その高さをc(μm)とし、上記バンクに区切られる被塗布領域の幅をb(μm)とし、かつ、薄膜層を形成する液体材料の液滴径をd(μm)とするとき、上記バンクが、a>d/4、d/2<b<5d、c>tO〔tO(μm)は薄膜層の膜厚〕、及びc>(l/2)×(d/b)の各々の式を満足するように基板上に形成されたものである。図1はインクジェット法により本発明の表示装置を形成する際の基板に設けられたバンクと液滴の関係を説明するための模式図である。
【0063】
(a)バンクの構成
本発明の表示装置に用いた基板上に設けられたバンク(凸部または仕切り部材とも呼ばれる)は、例えばフルカラー有機EL素子を利用した表示装置の画素、或いは、カラーフィルタの画素領域を仕切るために設けられる仕切部材をいう。
【0064】
図1に示すように、上記バンクの幅をa(μm)とすると、その値はインクジェット法における吐出液の液滴径d(μm)に対してa>d/4、すなわち、液滴径の4分の1より大きい値であることが、液体材料が隣接する画素領域に溢れることなく均一な塗布を行う上で必要である。
【0065】
バンクは基板上にその高さがc(μm)として設けられるが、その値は形成しようとする薄膜層の厚みtO(μm)より大きく、後述の被塗布領域の幅をb(μm)としたときに、c>(1/2)×(d/b)、すなわち、液滴径と被塗布領域の幅との比の2分の1より大きい値、となるように設けることが、本発明の目的を達成する上で好ましい。表面素子はなるべく薄い方が好ましいことを考慮すると、cは、2ミクロン以下である。
【0066】
本発明においては、インクジェット法における塗布に際して、例えば、赤,緑,青の3色の色素あるいは有機半導体発光材料を同時に塗布する場合に隣接する画素領域へ液体材料が溢れることにより、混色が生じるのを避けるためバンク表面に所定の液滴溜を設けることが好ましい。液滴溜は、例えば、バンクの上部表面の、好ましくは中央部分に溝状に設けることが好ましく、その形状としては、図2に示すようなものが例示される。すなわち、図2A〜2Cは、上記液滴溜を有するバンクの断面図であるが、図2Aはその断面がV字形状のものであり、図2Bは凹形状のものであり、図2CはU形状あるいは半球形状のものである。
【0067】
このような液滴溜を設けることにより、インクジェット法により塗布する際、液体材料が目的とする画素から溢れ出たとしても、液滴溜に捉えられ、また液滴がバンク上に乗り上げたとしても同様に液滴溜に捉えられる。この結果、表示素子の混色を避けることができる。
【0068】
バンクは、仕切部材として機能する部材であり、液体材料に対して撥液性を示す材料でも良いし、後述するように、プラズマ処理による撥液化(テフロン(登録商標)化)が可能で下地基板との密着性が良くフォトリソグラフィによるパターニングがし易いポリイミドなどの絶縁有機材料が好ましい。カラーフィルタ等では、仕切部材は遮蔽機能を兼用させてもよい。遮蔽部材として形成するためには、ブラックマトリックス用の材料はクロム等の金属や酸化物を用いる。
【0069】
バンクの形成はリソグラフィ法や印刷法等、任意の方法で行うことができる。例えば、リソグラフィ法を使用する場合は、スピンコート、スプレーコート、ロールコート、ダイコート、ディップコート等所定の方法でバンクの高さに合わせて有機材料を塗布し、その上にレジスト層を塗布する。そして、バンク形状に合わせてマスクを施しレジストを露光・現像することによりバンク形状に合わせたレジストを残す。最後にエッチングしてマスク以外の部分のバンク材料を除去する。また、下層が無機物で上層が有機物で構成された2層以上でバンク(凸部)を形成してもよい。
【0070】
(b)基板の構成
バンクは基板上に形成される。基板としては、表示装置に使用する薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)が形成された駆動基板であっても、カラーフィルタに使用する透明基板であってもよいが、その表面がバンクとの密着性の高い部材で形成されていることが好ましい。特に、無機材料で構成されていることが、後述の表面処理において好適な親和性を得る点で好ましい。このようなものとして、例えば、表示装置であれば透明電極であるITOなどが、カラーフィルタであればガラスや石英等でが挙げられる。
【0071】
(c)被塗布領域及び薄膜層の構成
本発明の表示装置は、上記バンクにより区切られた基板表面、すなわち被塗布領域にインクジェット法により液体材料を用いて形成された薄膜層を有する。上記被塗布領域を形成する基板については上述の通りである。本発明においては、薄膜層を形成する液体材料のインクジェット液滴径をd(μm)とするとき、被塗布領域の幅b(μm)をd/2<b<5dの範囲の値とすることが必要である。bの値がd/2(μm)以下であるときは液滴が被塗布領域に溢れ、バンクを介して隣接する画素領域に流出してしまったり、たとえバンクに撥液性があったとしても、液滴がバンクの上に乗り上げてしまう等の問題が生じる。また、bの値が5d(μm)以上であるときは液滴は被塗布領域に広がるが膜厚が薄くなり、所望の膜厚を得るためには複数回の重ね打ちが必要となり不経済である。また場合によっては、均一に濡れ広がらないこともある。
【0072】
本発明においては、上記被塗布領域は上記の大きさを有するものであれば、その形状については特に制限はなく、四角形(長方形,正方形,菱形を含む)、多角形(5角形、6角形等)、円形(真円形,楕円形を含む)等の環状形状、十字形、その他これに類する形状等いかなる形状も可能であるが、インクジェット法による塗布方式においては、液滴が濡れ易い形状であることが好ましいことから、特に、エッジ部(例えば、四角形における角部や頂点部)を有する形状のものにおいては、該エッジ部を曲面としたものが好ましい。このようにすることで、液体材料が被塗布領域に充填された時に、上記エッジ部分をぬれやすくすることができる。
【0073】
上記被塗布領域には液体材料が塗布され薄膜層が設けられるが、その適用例としては、有機EL表示装置があり、ここにおいては、薄膜層は画素電極であり、液体材料は薄膜発光素子を形成するための有機半導体材料である。この際、例えば、上記画素電極はITO電極膜である。
【0074】
(d)表面処理
本発明においては、バンク表面が被塗布領域に比べて液体材料に対する非親和性の程度がより高くなるように、バンク及び被塗布領域の基板材料に表面処理を施しておくことが好ましい。このような表面処理により液体材料のバンク表面に対する接触角を50度以上とし、また被塗布領域の基板材料に対する接触角を20度以下とすることが好ましい。このようにすることにより、薄膜層の厚さに比べて多量の液体材料を吐出しても、液体材料がバンクを乗り越え溢れでることもなく、所定の被塗布領域のみに充填される。
【0075】
上記表面処理としては、例えば導入ガスにフッ素またはフッ素化合物を含むガスを使用し、フッ素化合物及び酸素を含む減圧雰囲気下あるいは大気圧雰囲気下でプラズマ照射をする減圧プラズマ処理や大気圧プラズマ処理が挙げられる。フッ素またはフッ素化合物を含むガスとしては、CF4,SF6,CHF3等が挙げられる。
【0076】
(e)薄膜形成
本発明においては、上記バンクで仕切られた被塗布領域に、インクジェット法により液体材料を塗布し薄膜層を形成する。インクジェット法を用いることにより、任意の被塗布領域に任意の量で液体材料を充填することができ、また、家庭用プリンタに使用されるような小型の装置で充填が可能となる。本発明においては、吐出される液滴の径d(μm)に対して、バンク及び該バンクに仕切られる被塗布領域の形状,大きさを最適化することにより、隣の画素との混色が起こらず、各画素毎の膜厚のばらつきのない薄膜層が得られるのである。
【0077】
インクジェット法における吐出量は、塗布後の加熱処理により体積が減少した際に、所望の厚みになるような量とする。場合によっては所望の厚みになるように乾燥後の重ね合わせ処理をしても良い。インクジェット式記録ヘッドから吐出させるには通常粘度が数cPである。
【0078】
本発明においては、吐出された液滴の大きさに対し、バンクの大きさ及び被塗布領域の幅を規定することにより、薄膜層の厚さに比べて多量の液体材料を吐出しても、液体材料がバンクを乗り越え溢れでることなく、所定の被塗布領域に充填されることとなる。液体材料を充填した後、溶媒を含む材料の場合は加熱処理および/または減圧処理を行い溶媒成分を除去することにより、液体材料の体積が減少し、被塗布領域に薄膜層が形成される。この時、被塗布領域の表面、すなわち基板表面は前述のように親液性を示すように表面処理されているので薄膜層が好適に密着する。使用し得る液体材料としては、表示装置の場合は有機半導体材料が、またカラーフィルタの場合は着色材料等が使用できる。有機半導体材料としては、例えば、赤、緑、青より選択された発光を有する有機発光材料が用いられる。
【0079】
なお、インクジェット方式としては、ピエゾジェット方式であっても熱による気泡発生により吐出する方法のいずれも使用できるが、加熱による流動体の変質がない点でピエゾジェット方式が好ましい。
【0080】
(2):第2の実施例(ディップ法又はスピンコート法を用いる態様)
本発明者らは、基板上に、所定の高さのバンク、及び該バンクにより区切られ被塗布領域を設け、所望の表面処理を行い、ディップ法又はスピンコート法により形成される薄膜層を有する表示装置において、上記薄膜層が表面張力が30dyne/cmの液体材料を用いて形成されたことを特徴とする薄膜形成方法によっても、本発明の目的が達成されることを見出した。特に、上記表示装置は、インクジェット方式を用いた塗布の場合と異なり、バンクあるいは被塗布領域の形状あるいは大きさに何ら限定を加えることなく、バンク、基板の表面エネルギに加え、液体材料の表面エネルギを制御することにより、上記目的を達成し、上記インクジェット法に比較しても更に微細なパターニングを可能とするものである。特に、上記表面張力の範囲に制御することにより、金属配線等の微細パターニングに有効に用いられることとなり、数μm幅でのパターニングが可能となる。また、有機EL素子製造に用いられる正孔注入層がR,G,Bで共通の材料を用いる場合にも有効である。
【0081】
ここに用いる基板、バンク、被塗布領域材料については、その材質は上記インクジェット法を用いた塗布の場合と同様である。また、バンク表面及び被塗布領域にインクジェット法の場合と同様の表面処理を行うことが好ましい。従って、バンク及び被塗布領域である基板は、各々、液体材料に対して50度以上、30度以下の接触角を有するものであることが好ましい。ディップ法及びスピンコート法の各々は、通常当業界で行われる方法で行うことができる。
【0082】
(3):第3の実施例(表示装置の具体的実施形態)
本発明の表示装置の具体的構成について以下に説明する。
(構成)図3は本実施形態におけるアクティブマトリックス型表示装置の全体のレイアウトを模式的に示すブロック図である。図4は図3における画素の一つを示す平面図、図5A〜5Cはそれぞれ図4の切断面A−Aにおける断面図、切断面B−Bにおける断面図、切断面C−Cにおける断面図である。
【0083】
本実施形態のアクティブマトリックス型表示装置は、透明基板10の中央部分に表示部11を備えている。透明基板10の外周部分には、データ側駆動回路3および走査側駆動回路4が設けられており、データ側駆動回路3からはデータ線sigが表示部11に配線され、走査側駆動回路4からは走査線gateが配線されている。これらの駆動回路3、4では、図示しないN型のTFTとP型のTFTとによって相補型TFTが構成されている。この相補型TFTは、シフトレジスタ回路、レベルシフタ回路、アナログスイッチ回路などを構成しており、外部から供給されるデータ信号及び走査信号を電力増幅可能に構成している。
【0084】
表示部11には、液晶アクティブマトリックス型表示装置のアクティブマトリックス基板と同様、透明基板10上に複数の画素7が配置されている。駆動回路3及び4かちは、複数の走査線gateと複数のデータ線sigが交差して配線されており、各画素7には一組のデータ線sigと走査線gateが配されている。マトリックス状に交差しているデータ線sig及び走査線gat eの他に、共通給電線comが各画素の近傍を通って配線されている。
【0085】
各々の画素7は、バンク(bank)層で囲まれた例えば直径50μmの円形の凹部に形成されている。画素を区切るバンク層はその幅aが10μmであり、高さが2μmであり、その材料は前述の通りである。また、液体材料(PPV前駆体溶液をDMF,グリセリン,ジエチレングリコールで希釈しインク化したもの)としては、ポリ(パラ−フェニレンビニレン)(PPV)前駆体溶液などの有機半導体材料溶液が用いられる。この液体材料をインクジェット法によりバンクで囲まれた被塗布領域に吐出し、加熱することにより有機半導体膜43が形成される。また、正孔注入輸送層として、ポリエチレンジオキシチオフェンなどの導電性材料をインクジェット法あるいはスピンコート法より形成した積層構造であってもよい。
【0086】
各画素7は導通制御回路50及び薄膜発光素子40を備える。導通制御回路50は、第1のTFT20、保持容量cap及び第2のTFT30を備えている。
【0087】
第1のTFT20は、そのゲート電極に走査線gateを介して走査信号が供給されている。保持容量capは、第1のTFT20を介してデータ線sigから供給される画像信号を保持可能に構成されている。第2のTFT30は、保持容量capによって保持された画像信号がゲート電極に供給されている。第2のTFT30と薄膜発光素子40とは対向電極opと共通給電線comとの間で直列接続されている。
【0088】
第1のTFT20及び第2のTFT30は、図4及び図5A〜5Cに示すように島状の半導体膜により形成されている。第1のTFT20はゲート電極21が走査線gateの一部として構成されている。第1のTFT20はそのソース・ドレイン領域の一方には第1層間絶縁膜51のコンタクトホールを介してデータ線sigが電気的に接続され、他方には、ドレイン電極22が電気的に接続されている。ドレイン電極22は第2のTFT30のゲート電極31が第1層間絶縁膜51のコンタクトホールを介して電気的に接続されている。第2のTFT30はそのソース・ドレイン領域の一方には第1層間絶縁膜51のコンタクトホールを介してデータ線sigと同時形成された中継電極35が電気的に接続されている。中継電極35には第2層間絶縁膜52のコンタクトホールを介して薄膜発光素子40の透明電極41が電気的に接続されている。透明電極としては例えばITOが用いられる。
【0089】
第2のTFT30はそのソース・ドレイン領域のもう一方に第1層間絶縁膜51のコンタクトホールを介して共通給電線comが電気的に接続されている。共通給電線comの延設部分39は、第2のTFT30のゲート電極31の延設部分36に対して、第1層間絶縁膜51を誘電体膜として挟んで対向し、保持容量capを構成している。なお、保持容量capについては共通給電線comとの間に形成した上記構造の他、走査線gateと並列に形成した容量線との間に形成してもよい。また、第1のTFT20のドレイン領域と第2のTFT30のゲート電極31とを利用して保持容量capを構成してもよい。
【0090】
バンク層で囲まれた薄膜発光素子40は、各画素7ごとに独立して形成されている。薄膜発光素子40は画素電極41の上層側に、発光薄膜として有機半導体膜43、及び対向電極opを順に積層して形成されている。有機半導体膜43としては、電界の印加により発光する材料、例えばポリ(パラーフェニレン)(PPV)が用いられる。なお、有機半導体膜43は画素毎に設けられる他、複数の画素7にまたがるストライプ形状に形成されていてもよい。対向電極opには光を反射する導電性材料、例えばリチウム含有アルミニウム、カルシウム等の金属膜が用いられる。対向電極opは表示部11全体及び少なくとも端子12が形成されている領域を除いた領域に形成されている。なお、上記薄膜発光素子40としては、上述のように正孔注入層を設けて発光効率(正孔注入効率)を高めた構造や、電子注入層を設けて発光効率(電子注入効率)を高めた構造、正孔注入層及び電子注入層の双方を形成した構造を採用してもよい。
【0091】
(表示装置の製造方法)
次に、上記構成のアクティブマトリックス型表示装置の製造方法について説明する。
【0092】
半導体層形成工程:まず、透明基板10に対して、必要に応じて、TEOS(テトラエトキシシラン)や酸素ガスなどを原料ガスとしてプラズマCVD法により厚さが約2000〜5000オングストロームのシリコン酸化膜からなる下地保護膜を形成したのち、下地保護膜の表面にプラズマCVD法により厚さが約300〜700オングストロームのアモルファスのシリコン膜からなる半導体膜を形成する。次に、アモルファスのシリコン膜からなる半導体膜に対して、レーザアニールまたは固定成長法などの結晶化工程を行い、半導体膜をポリシリコン膜に結晶化する。次に、半導体膜をパターニングして島状の半導体膜とし、その表面に対してTEOS(テトラエトキシシラン)や酸素ガスなどを原料ガスとしてプラズマCVD法により厚さが約600〜1500オングストロームのシリコン酸化膜または窒化膜からなるゲート絶縁膜37を形成する。次に、アルミニウム、タンタル、モリブデン、チタン、タングステンなどの金属膜からなる導電膜をスパッタ法により形成した後パターニングし、ゲート電極21、31及びゲート電極31の延設部分36を形成する。この工程においては走査線gateも形成する。
【0093】
この状態で、高濃度のリンイオンを打ち込んで、ゲート電極21、31に対して自己整合的にソース・ドレイン領域を形成する。なお不純物が導入されなかった部分がチャネル領域となる。次に、第1層間絶縁膜51を形成した後、各コンタクトホールを形成し、データ線sig、ドレイン電極22、共通給電線com、共通給電線comの延設部分39、及び中継電極35を形成する。その結果、第1のTFT20、第2のTFT30、及び保持容量capが形成される。
【0094】
次に、第2層間絶縁膜52を形成し、この層間絶縁膜に中継電極35に相当する部分にコンタクトホールを形成する。次に、第2層間絶縁膜52の表面全体にITO膜を形成した後パターニングし、コンタクトホールを介して第2のTFT30のソース・ドレイン領域に電気的に接続して画素電極42を画素7毎に形成する。
【0095】
絶縁膜形成工程:次に、走査線gate及びデータ線sigに沿って絶縁膜62を形成する。絶縁膜62は、上記のポリイミド等の有機絶縁材料で構成する。絶縁膜62は、その幅及び厚みとして、前述のように液体材料をインクジェット法で塗布する際の液滴径に対し、最適化した値を選択する。
【0096】
表面処理工程:次いで、画素電極41の表面を液体材料に対して親和性(液体材料が水分を含むときは親水性)、例えば接触角で20以下に、絶縁膜62を液体材料に対して非親和性、例えば接触角で50以上に設定すべくフッ素を含むガスを使用して前述のようにプラズマ処理を施す。
【0097】
有機半導体(有機EL素子)膜形成工程:上記表面処理後、バンクにより円形状に区画された被塗布領域内にインクジェット法を利用してR,G,Bに対応する各有機半導体膜43を形成する。すなわち、バンク層に囲まれた円形状の被塗布領域に対してインクジェット式記録ヘッドから、有機半導体膜43を構成するための材料である液体材料を吐出する。具体例として、赤色発光層材料としては、上記PPV前駆体をインク化したものにローダミン、ベリレンなどの色素をドープしたもの、あるいはPPV前駆体(MHE−PPV)をインク化したものを用いた。青色発光層のための材料としては、ポリフルオレン誘導体をキシレン等の芳香族系溶媒に溶解しインク化したものを用いた。その液滴径は30μmφであった。
【0098】
次いで、PPV前駆体溶液(PPV前駆体溶液をDMF希釈し、インク化したもの)の場合は、減圧下で溶媒を除去し、摂氏150度の加熱処理により共役化させ、被塗布領域に定着させて有機半導体膜43を形成する。ここで、バンク層及び被塗布領域の大きさ及び形状は吐出される液体材料の液滴径30μmφに対して最適化された値に設定されているため、有機半導体膜43の塗布領域はバンク層により確実に規定され、隣接する画素7にはみでることはない、しかも、バンク層は液体材料に対し非親和性を有し、被塗布領域が液体材料に対し親和性を有するため、液体材料がバンク側壁に付着することもない。この結果、熱処理後に形成される有機半導体膜43は、各画素電極毎及び画素電極上で均一な厚みを保持する。
【0099】
なお、有機半導体膜として、発光層、正孔注入層、電子注入層などを積層して形成する場合など多層構造素子を形成する場合には、インクジェット方式による液体材料の充填と乾燥を各層毎に繰り返せばよい。あるいは、正孔注入層、電子注入層がR,G、Bで共通の材料を使える場合には、スピンコート処理、ディップ処理においても液体材料の表面張力を30dyn/cm以下にして調整すれば画素領域にのみパターン形成することが可能である。具体例として有機EL素子に用いる正孔注入材料(例えば、ポリエチレンジオキシチオフェンなどのポリチオフェン誘導体)にポリスチレンスルフォン酸を添加したものの水分散液を表面張力の低い、セルソルブ系溶剤あるいはメタノールなどの表面張力の低いアルコール系あるいはその他の水溶系溶剤で希釈し、表面張力が30dyne/cm以下になるように調製した。
【0100】
かかるスピンコート用溶液は、表面処理(プラズマ処理)したバンクに対して60°以上、ITO表面では20°以上の接触角を示した。有機半導体膜43が形成されたら、透明基板10のほぼ全面に対向電極opを形成してアクティブマトリクス型表示装置が完成する。
【0101】
上記のような製造方法によれば、インクジェット法を利用して所定の領域にR,G,Bに対応する各有機半導体膜43を形成できるので、フルカラーのアクティブマトリクス型表示装置を高い生産性で製造できる。しかも有機半導体膜を各画素毎に均一な厚みで形成できるので、明るさにむらが生じない。また、有機半導体膜の厚みが均一なので、薄膜発光素子40の駆動電流が一部に集中することがなく、薄膜発光素子40の信頼性の低下を防止できる。
【0102】
なお、データ側駆動回路3や走査側駆動回路4にもTFTが形成されるが、これらのTFTは画素7にTFTを形成していく工程の全部あるいは一部を援用して行われる。それ故、駆動回路を構成するTFTも、画素7のTFTと同一の層間に形成されることになる。また、第1のTFT20、及び第2のTFT30については、双方がN型、双方がP型、一方がN型で他方がP型のいずれでもよいが、このようないずれの組合せであっても周知の方法でTFTを形成することができる。
【0103】
(その他の変形例)
なお、本発明は上記実施態様に限定されることなく、本発明の範囲内において、種々変更して実施することができる。例えば、本発明はカラーフィルタに適用することができる。図6は本発明に適用したカラーフィルタの一例の断面図である。この場合、基板にガラスや石英からなる透明基板300を、バンクとして樹脂等の黒色材料で形成した仕切部材301を、液体材料として着色樹脂302を使用する。仕切部材301としては、黒色顔料・染料や酸化クロム、クロム金属膜等を適用してブラックマトリクスを形成してもよい。透明基板300上に仕切部材301を形成した後、インクジェット法により仕切部材301に囲まれた凹部被塗布領域303に着色樹脂302を充填する。その他、仕切り状の部材に囲まれた凹部に任意の流動体を充填して得られたもの、及びその製造方法であれば、本発明の適用は可能である。
【0104】
具体例としてバンクの幅a及び被塗布領域の幅bを第1表に示すように変え、バンクの高さcを2μmとして図6に示すような表示装置を作製し、インクジェット法により液滴径dが30μmφの塗布液を用いて、被塗布領域に塗布した。
【0105】
結果を下記のような評価基準で評価し第1表に示す。但し、その他の条件は以下の通りであった。
バンク材料:ポリイミド(SiO2+ポリイミドの積層構造バンクでも良い。)
基板材料:ITOバンク表面接触角:60度(プラズマ処理)
被塗布領域接触角:10度(プラズマ処理)
液体材料:ポリパラフェニレンビニレン前駆体溶液(PPV前駆体をDMFを主成分とする溶液に溶かし、グリセリン、ジエチレングリコールを少量添加し、インク化したもの)
評価基準 ◎:バンク上に残渣が残ることなく液滴は完全に凹部に収まる(図7D)
R,G,Bの同時吐出が可能である。
○:液滴は凹部に収まるが、若干バンクに残渣が残る(図7C)
△:液滴がバンク上に乗り上げてしまう。(図7B)
乾燥後バンク上に材料が残る。R,G,Bの同時吐出は不可能である。
×:液体材料が隣接する凹部に溢れ出す(図7A)
ぬれが凹部に完全に広がらない(図7E)、ぬれが広がったとしても膜厚が薄いので数回の重ね打ちが必要となる。
【0106】
【表1】

以上、第1〜第3の実施例およびその変形例に詳細に述べたように、インクジェット法においては、液体材料の液滴径に対するバンク及び被塗布領域の大きさを適性化することにより、画素間での混色がなく、画素毎の膜厚のばらつきの極めて少ない表示装置が得られる。また、R,G,Bの同時パターニングも可能となる。
【0107】
また、スピンコート法やディッピング法においては、液体材料の表面張力を規定することにより、更に微細なパターニングが可能となる。なお、本発明は、表示装置や表示装置以外であっても、これらに用いられる配線を有する基板に電子デバイス、例えばTFT素子の形成においても有効であるし、有機EL素子、表示装置あるいはカラーフィルタなどに有効に適用される。
【0108】
続いて、第4〜第7の実施例およびその変形例を説明する。
(4):第4の実施例
本発明の第4の実施例は単一材料でバンクを形成した際の薄膜形成方法に関する。図8A〜8Dに本実施例の製造工程断面図を示す。本実施例はバンク形成面に任意の形状でバンクを設け、バンクで仕切られた領域に所定の流動体を充填するようなあらゆる用途に適用されるものである。例えば有機半導体薄膜素子を利用した表示素子で有機半導体材料を画素領域に充填する場合やカラーフィルタで着色樹脂を画素領域に充填する場合に適用可能である。
【0109】
バンク形成工程(図8A):バンク形成工程は、バンク形成面にバンクを形成する工程である。バンク形成面は、表示装置に使用する薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)が形成された駆動基板であってもカラーフィルタに使用する透明基板であってもよい。仕切部材たるバンクで囲まれる領域に流動体を充填して薄膜を形成する目的であればバンク形成面の構造に限定はない。ただしバンクとの密着性の高い部材でその表面が形成されていることが好ましい。特に無機材料で構成されていることが後の表面処理で好適な親和性を得るために好ましい。表示装置であれば透明電極であるITOなど、カラーフィルタであればガラスや石英等で構成される。
【0110】
バンクは仕切部材として機能する部材であり、例えばポリイミド等の絶縁有機材料で構成されていることが好ましく、その材料が絶縁性、半導体としての性質、導電性のいずれを有していてもよい。特に有機材料で構成されていることが後の表面処理で好適な非親和性を得るために好ましい。カラーフィルタ等では仕切部材は遮蔽機能を兼用させてもよい。遮蔽部材として形成するためには、ブラックマトリクス用の材料はクロム等の金属や酸化物を用いる。バンクの形成は、リソグラフィ法や印刷法等、任意の方法を選択できる。リソグラフィ法を使用する場合は、スピンコート、スプレーコード、ロールコート、ダイコート、ディップコート等所定の方法でバンクの高さに合わせて有機材料を塗布し、その上にレジスト層を塗布する。そしてバンク形状に合わせてマスクを施しレジストを露光・現像することによりバンク形状に合わせたレジストを残す。最後にエッチングしてマスク以外の部分のバンク材料を除去する。印刷法を使用する場合は、凹版、平版、凸版等任意の方法でバンク形状に有機材料を直接塗布する。バンク110の高さは、バンクで囲まれる凹部101に薄膜材料液を充填しても表面張力により隣接する凹部に薄膜材料液があふれ出ない程度の高さに形成する。例えば、加熱処理後の薄膜層204を0.05μm〜0.2μmの厚みで形成するなら、バンク110を1μm〜2μm程度の高さに形成する。
【0111】
表面処理工程(図8B):表面処理工程は一定条件下でプラズマ処理を行ってバンク形成面100とバンク110との薄膜材料液に対する親和性を調整する工程である。本発明のプラズマ処理では、導入ガスとしてフッ素を含むガスを用いる。減圧雰囲気下での減圧プラズマ処理であっても大気圧雰囲気下での大気圧プラズマ処理であってもよい。反応ガス中に一定量の酸素が含まれることが好ましい。フッ素系化合物としてはCF4、SF6、CHF3等のハロゲンガスを用いる。
【0112】
薄膜材料液等の任意の流動体に対して表面が濡れ易いか濡れ難いか、すなわち親和性を示すか非親和性を示すかは、材料表面の流動体に対する接触角を測定することで知ることができる。図9に、有機材料と無機材料とをプラズマ処理した際に、フッ素化合物と酸素との混合比によって接触角がどのようにして変わるかを測定した図を示す。この測定は、ポリイミド、ITO、又はSiO2を一面に形成した基板の表面に既述のプラズマ処理を施し、下記インクについての接触角を測定することにより行った。
【0113】
ポリイミド膜を形成した基板については、PPV前駆体インク(前駆体溶液をDMFを主成分としグリセリン、ジエチレングリコールを少量添加し混合溶媒で希釈してインク化したもの)を用いた。
【0114】
ITO、又はSiO2を形成した基板については、正孔注入材料(ポリエチレンジオキシチオフェンにポリスチレンスルフォン酸を添加したもの)の水分散液にメタノール、グリセリン、エトキシエタノールを添加し、インク化したものを用いた。
【0115】
接触角はインク等の親水性のある流動体に対する接触角である。ここではフッ素系化合物としてCF4を使用し、有機材料としてポリイミド、無機材料としてSiO2とITO(Indium-Tin-Oxide)を使用している。図9に示すように酸素が過多の雰囲気下では、有機材料、無機材料とも接触角の程度に大きな差異がない。ところがフッ素系化合物が過多にすると有機材料の接触角が大きくなる(非親和性になる)。これに対し無機材料の接触角の変化は小さい。酸素が反応ガスに含まれると酸素による酸化作用により無機材料および有機材料ともに極性基が発生する。しかしフッ素系化合物が過多であると有機材料中にフッ素化合物分子が入り込むようになるため、極性基の影響が相対的に少なくなると考えられる。
【0116】
したがって、フッ素系化合物が酸素に比べ過多の条件で制御しながらプラズマ処理することにより、有機材料および無機材料それぞれを図9に従って所望の接触角(親和性)に設定することができる。特に図9の最良混合比(CF4/CF4+O2=75%)を使用したり大気圧中でCF4とHe混合ガスを導入したりすることは両者の接触角の差を最大とするために好ましい。
【0117】
以上の事実より、フッ素系化合物を導入ガスとし一定の割合で酸素が混合されるように減圧プラズマ処理または大気圧プラズマ処理を行う。例えば図8Bに示すように、容量結合型のプラズマ処理では上記ガスを反応室に流し一方の電極上にバンク形成面100を有する基板を載置し、他方の電極201との間に電源200から電界を加える。反応室へのエネルギーの加え方には公知の方法、例えば直流法、高周波法、誘導結合形、容量結合形、マイクロ波法、電界と磁界とを供に加える方法等を種々に適用可能である。プラズマ処理によりそのフッ素系化合物と酸素との混合比により図9に従って任意の接触角にする表面処理が行われる。
【0118】
当該表面処理により、バンク形成面100(凹部101の底面)とバンク110との薄膜材料液に対する親和度が、「バンク形成面>>バンク表面」という順番になるように表面処理される。
【0119】
薄膜形成工程(図8C、8D)):薄膜形成工程はバンク110で囲まれた凹部101に薄膜材料液203を充填して薄膜層を形成する工程である。薄膜材料液203の充填後は加熱処理等により溶媒成分を蒸発させて薄膜層204を形成する。薄膜材料液を充填する方法としてはインクジェット方式によることが好ましい。インクジェット方式によれば任意の位置に任意の量で流動体を充填することができ、家庭用プリンタに使用されるような小型の装置で充填が可能だからである。
【0120】
図8Cに示すように、インクジェット式記録ヘッド202から薄膜材料液203をバンク110で囲まれた凹部101に吐出する。吐出量は加熱処理により体積が減少した際に、所望の厚みになるような量とする。インクジェット式記録ヘッドから吐出させるには通常粘度が数pc以下である。表面処理によりバンク110の上面および側面は薄膜材料液203に対し適度な非親和性を示す。このため充填時には図8Dに示すように薄膜層204の厚さに比べて多量の薄膜材料液203を吐出しても、表面張力が作用して薄膜材料液203がバンク110を乗り越えることなく、S1の位置に盛り上がるほどに充填される。薄膜材料液を充填したら加熱処理等を行って溶媒成分を蒸発させる。溶媒成分が蒸発することにより、図8Dに示すように薄膜材料液203の体積が減少し、凹部101の底に薄膜層204が形成される。このときバンク形成面100である凹部101の底は親和性を示すように表面処理されているので薄膜層204が好適に密着する。
【0121】
またバンク110の接触角を図9において極端に接触角が大きくならないように条件を選択しておけば、薄膜材料液203がバンク110の側壁で極端にはじかれることなくほぼ均一な膜厚で薄膜層204を形成できる。吐出される薄膜材料液203の量は形成後の薄膜層204の厚みが例えば0.1μm〜2μm程度になるように調整される。
【0122】
なお、インクジェット方式としてはピエゾジェット方式でも熱による気泡発生による吐出する方法であってもよい。ピエゾジェット方式では圧力室にノズルと圧電体素子とが備えられて構成されている。圧力室に流動体が充填されている圧電体素子に電圧を印加すると圧力室に体積変化が生じノズルから流動体の液滴が吐出される。気泡発生により吐出する方式では、ノズルに通ずる圧力室に発熱体が設けられている。発熱体を発熱させてノズル近辺の流動体を沸勝させ気泡を発生させてその体積膨張により流動体を吐出するものである。加熱による流動体の変質が無い点でピエゾジェット方式が好ましい。
【0123】
上記したように本実施例によれば、フッ素系化合物に酸素が混入している条件でプラズマ処理を行うことにより、薄膜材料液に対しバンク表面を非親和性に、バンク形成面を親和性に一気に表面処理できる。しかも図9に示すような特性にしたがって親和性の度合いを示す接触角を容易に設定できる。すなわち、バンク自体はバンク形成面との高い密着性を保ちながら、親和性制御のために従来のように多数の工程を経ることなくバンクとバンク形成面との親和性を確実に制御することができる。これにより、薄膜材料液がバンクを超えて流れ出ることを防止し、歩留まりを向上させ、製造コストを減少させることができる。
【0124】
(5):第5の実施例
本発明の第5の実施例は二層構造でバンクを形成した際の薄膜形成方法に関する。特に無機材料で下層を有機材料で上層を形成する点に特徴がある。
【0125】
図10A〜10Fに本実施例の製造工程断面図を示す。本実施例は上記第4の実施例と同様に、バンク形成面に任意の形状でバンクを設け、バンクで仕切られた領域に所定の流動体を充填するようなあらゆる用途に適用されるものである。例えば有機半導体薄膜素子を利用した表示素子で有機半導体材料を画素領域に充填する場合やカラーフィルタで着色樹脂を画素領域に充填する場合に適用可能である。
【0126】
下層膜形成工程(図10A):下層膜形成工程は、バンク形成面100に下層膜120を形成する工程である。バンク形成面に関しては上記第4の実施例と同様である。下層膜の材料としては無機材料で構成されていることが後の表面処理で好適な非親和性を得るために好ましい。またバンク形成面100と密着性のよい材料であることが好ましい。例えばバンク形成面がITO等により形成されている場合、下層膜120に絶縁膜として一般的なシリコン酸化膜(SiO2)やシリコン窒化膜、アモルファスシリコンを利用することが可能である。このような材料を使用した場合、プラズマ処理により凹部101の底面の親和性とバンク上層121の親和性との間の親和性が得られる。この親和性は薄膜材料液を平坦に凹部101底面に定着させるために有効である。下層膜の形成は、上記無機材料を例えばスピンコート、スプレーコード、ロールコート、ダイコート、ディップコート等所定の方法で所望の高さに合わせて塗布することによって行われる。
【0127】
下層膜120の高さは薄膜層204の高さにほぼ等しい程度が好ましい。下層膜120は薄膜材料液203とある程度の親和性があるため、薄膜材料液203が加熱処理される過程で下層膜120の壁面と薄膜材料液203とが密着する。最終的な薄膜材料液203の厚みと下層膜120の高さとをほぼ等しくしておけば、下層膜120の壁面に薄膜材料液203が密着することにより生ずる薄膜層204の表面のゆがみをなくすることができるからである。
【0128】
上層形成工程(図10B):上層形成工程は下層膜120の上にバンク上層121を形成する工程である。バンク上層121の材料としては上記第4の実施例で挙げた有機材料を使用する。遮蔽部材と兼用することも可能である。バンク上層121はバンクを形成したい領域に選択的に形成する。印刷法やリソグラフィ法等、任意の方法を選択できる。印刷法を使用する場合は、凹版、平版、凸版等任意の方法でバンク形状に有機材料を直接塗布する。リソグラフィ法を使用する場合は、スピンコート、スプレーコード、ロールコート、ダイコート、ディップコート等所定の方法でバンク上層121の高さに合わせて有機材料を塗布し、その上にレジスト層を塗布する。そしてバンク形状に合わせてマスクを施しレジストを露光・現像することによりバンク形状に合わせたレジストを残す。最後にエッチングしてマスク以外の部分のバンク上層の材料を除去する。バンク110の高さは、バンクで囲まれる凹部101に薄膜材料液を充填しても表面張力により隣接する凹部に薄膜材料液があふれ出ない程度の高さに形成する。例えば、加熱処理後の薄膜層204を0.5μm〜0.2μmの厚みで形成するなら、下層膜120とバンク上層121との合わせた高さを1μm〜2μm程度に形成する。
【0129】
除去工程(図10C):除去工程はバンク上層121をマスクとして下層膜120をエッチングする工程である。バンク上層121は有機材料であってレジストとして作用可能である。したがってエッチング材料を選択することにより下層膜120のみを選択的にエッチングすることができる。例えばバンク上層121を予め予定の厚みより厚く形成し、下層膜と一緒に全体をドライエッチングしたり、下層膜120がSiO2で形成されている場合にはエッチング液にフッ酸を用いてウェットエッチングしたりする。この処理によりバンク上層121でマスクされているバンク形成領域以外の下層膜120が除去される。
【0130】
表面処理工程(図10D):表面処理工程は一定条件下でプラズマ処理を行ってバンク形成面100と下層膜120およびバンク上層121の薄膜材料液に対する親和性を調整する工程である。本発明のプラズマ処理も上記実施形態1と同様の条件とガスによって行われる。特にバンク形成面100と下層膜120とをそれぞれITOとSiO2に選ぶと、この表面処理により好適な親和性設定が行える。すなわち図9に示すように、ITOとSiO2はともに無機材料であるためフッ素系化合物と酸素の混合比による変化特性は類似するが、SiO2の方が親和性の程度が高い傾向にある。このため上記表面処理により、バンク形成面100、下層膜(バンク下層)120およびバンク上層121の親和性の程度を、「バンク形成面≧バンク下層表面>バンク上層表面」という順番になるように表面処理することができる。
【0131】
薄膜形成工程(図10E,10F):薄膜形成工程はバンク下層120および上層121で囲まれた凹部101に薄膜材料液203を充填して薄膜層を形成する工程である。その詳細は上記第4の実施例と同様である。薄膜材料液203の充填後は加熱処理等により溶媒成分を蒸発させて薄膜層204を形成する。
【0132】
図10Eに示すように、インクジェット式記録ヘッド202から薄膜材料液203をバンクで囲まれた凹部101に吐出する。吐出量は加熱処理により体積が減少した際に、所望の厚みになるような量とする。この厚みは上記理由によりバンク下層120の厚みにほぼ等しいことが好ましい。充填時には図10Eに示すように薄膜層204の厚さに比べて多量の薄膜材料液203を吐出しても、バンク上層121の表面張力が作用して薄膜材料液203がバンクを乗り越えることなく、S3の位置に盛り上がるほどに充填される。薄膜材料液を充填したら加熱処理等を行って溶媒成分を蒸発させる。溶媒成分が蒸発することにより、図10Fに示すように薄膜材料液203の体積が減少し、凹部101の底の表面S4における厚みでバンク下層120と同程度の厚みの薄膜層204が形成される。このときバンク形成面100である凹部101の底は親和性を示すように表面処理されているので薄膜層204が好適に濡れる。またバンク下層120の接触角はバンク上層121より小さく、適度な親和性で薄膜材料液203と密着する。このため薄膜材料液203がバンク下層120の側壁ではじかれることがない。またバンク下層120と薄膜層204とがほぼ同一の厚みなので、薄膜材料液203がバンク下層120の側壁に引きずられることがない。このためほぼ均一な膜厚で薄膜層204を形成できる。吐出される薄膜材料液203の量は形成後の薄膜層204の厚みが例えば0.1μm〜2μm程度になるように調整される。
【0133】
上記したように本実施例によれば、無機材料と有機材料とを積層したバンクにフッ素系化合物に酸素が混入している条件でプラズマ処理を行うことにより、バンク上層、バンク下層およびバンク形成面の順で親和性が上がるように設定できる。すなわち、バンク自体はバンク形成面との高い密着性を保ちながら、親和性制御のために従来のように多数の工程を経ることなく簡単なプラズマ処理の制御により表面処理を一時に終了させることができる。これにより、薄膜材料液がバンクを超えて流れ出ることを防止し、歩留まりを向上させ、製造コストを減少させることができる。特に均一な薄膜層を形成できるという効果を奏する。
【0134】
(6):第6の実施例
本発明の第6の実施例は上記第5の実施例とは異なる方法で二層構造でバンクを形成するものである。図11A〜11Fおよび図12A〜12Cに本実施例の製造工程断面図を示す。本実施形態は上記第4の実施例と同様に、バンク形成面に任意の形状でバンクを設け、バンクで仕切られた領域に所定の流動体を充填するようなあらゆる用途に適用されるものである。例えば有機半導体薄膜素子を利用した表示素子で有機半導体材料を画素領域に充填する場合やカラーフィルタで着色樹脂を画素領域に充填する場合に適用可能である。バンク形成面、下層膜、バンク上層についての材料や厚みについては上記第4および第5の実施例と同様なので説明を省略する。
【0135】
下層膜形成工程(図11A):下層膜形成工程は、バンク形成面100に下層膜130を形成する工程である。上記第5の実施例と同様の方法により下層膜130を形成する。
【0136】
露光工程(図11B):露光工程は下層膜130をバンク形状に合わせて露光現像する工程である。下層膜130の上部にバンク形状に合わせてマスク132を設ける。下層膜130がエネルギー付与により硬化する材料の場合はバンク形成領域に光を透過させ、除去領域に光を透過させないようにマスクする。
【0137】
下層膜130がエネルギー付与により除去可能に変質する材料の場合はバンク形成領域の光を遮断し、除去領域に光を透過させるようにマスクする。本実施例ではバンク上層をマスクとして下層をエッチングするものではなく、下層と上層とを独立してエッチング可能なため、下層におけるバンク形状と上層におけるバンク形状とを異ならせることが可能である。このバンク下層の形状を適当なものに選ぶことにより、薄膜層を好適に設けることができるようになる。なお、露光はレーザ光等のエネルギー源により公知の方法を用いて行う。
【0138】
エッチング工程(図11C):エッチング工程は、露光して硬化した領域を残して下層膜130を除去する工程である。露光後、マスクおよび除去領域の下層膜130を溶剤を用いて除去する。エッチングは、下層膜130としてSiO2やポリシラザンを用いた場合には、エッチング液としてフッ酸を用いる。またドライエッチングを用いてもよい。
【0139】
上層膜形成工程(図11D):上層膜形成工程は、バンク下層130を覆って上層膜130を形成する工程である。上記下層膜130と同様の方法により上層膜131を形成する。
【0140】
露光工程(図11E):露光工程は上層膜131を上層のバンク形状に合わせて露光する工程である。上層膜131上にバンク上層の形状に合わせてマスク134を設ける。上層膜131がエネルギー付与により硬化する材料の場合はバンク形成領域に光を透過させ、除去領域に光を透過させないようにマスクする。上層膜131がエネルギー付与により除去可能に変質する材料の場合はバンク形成領域の光を遮断し、除去領域に光を透過させるようにマスクする。上述したように本実施形態ではバンク上層131の形状を下層と異ならせてもよい。なお露光はレーザ光等のエネルギー源により公知の方法を用いて行う。
【0141】
エッチング工程(図11F):エッチング工程は、露光して硬化した碩域を残して上層膜131を除去する工程である。露光後、マスクおよび除去領域の上層膜131を溶剤を用いて除去する。エッチングは、上層膜131としてポリイミドを用いた場合には、エッチング液としてフッ酸を用いる。またドライエッチングを用いてもよい。
【0142】
表面処理工程(図12A):表面処理工程については上記第5の実施例と同様なので説明を省略する。この表面処理により、バンク形成面100、バンク下層130およびバンク上層131の親和性の程度を、「バンク形成面≧バンク下層表面>バンク上層表面」という順番になるように表面処理することができる。
【0143】
薄膜形成工程(図12B,12C):薄膜形成工程はバンク下層130および上層131で囲まれた凹部101に薄膜材料液203を充填して薄膜層を形成する工程である。薄膜形成工程については上記第5の実施例と同様なので説明を省略する。
【0144】
上記したように本実施例によれば、無機材料と有機材料とを積層したバンクにフッ素系化合物に酸素が混入している条件でプラズマ処理を行うことにより、バンク上層、バンク下層およびバンク形成面の順で親和性が上がるように設定できる。すなわち、バンク自体はバンク形成面との高い密着性を保ちながら、親和性制御のために従来のように多数の工程を経ることなく簡単なプラズマ処理の制御により表面処理を一時に終了させることができる。これにより、薄膜材料液がバンクを超えて流れ出ることを防止し、歩留まりを向上させ、製造コストを減少させることができる。特に均一な薄膜層を形成でき、かつバンク下層と上層とを異なる形状に形成できるという効果を奏する。
【0145】
(7):第7の実施例
第7の実施例は、実際の表示装置に前述した第5の実施例を適用して製造された表示装置に関する。
(全体構成)
この表示装置は、アクティブマトリクス型表示装置で成り、その全体構成は、前述した図3で説明したのと同一である(このため、構成要素の符号は、図3と同一のものを用い、その重複部分の説明を省略する)。図13はそれに構成されている画素の1つを抜き出して示す平面図、図14A〜14Cはそれぞれ図13の切断面A−A'における断面図、切断面B−B'における断面図、および切断面C−C'における断面図である。
【0146】
このアクティブマトリクス型表示装置1は、その全体構成は前述した図3のものと同じまたは同等であるが、以下の点で相違する。
【0147】
すなわち、各々の画素7は、バンク層bankで囲まれた凹部に形成されている。このバンク層は、下層側絶縁膜61および上層側絶縁膜62を積層して構成されている。このバンク層bankの製造に実施形態3が適用される。その材料や高さ等の条件については実施形態3と同様である。薄膜材料液としては、有機半導体材料が用いられる。この材料をバンク層bankで囲まれた領域に吐出し加熱することにより有機半導体膜43が形成される。例えば、有機半導体膜43が0.05μm〜0.2μmであるなら、下層側絶縁膜61と上層側絶縁膜62とをそれぞれ0.2μm〜1.0μm程度、1μm〜2μm程度になるように形成される。
【0148】
また、第1のTFT20および第2のTFT30は、図7および図8に示すように、島状の半導体膜により形成されている。有機半導体膜43としては、電界の印加により発光する材料、例えばポリフェニレンビニレン(PPV)が用いられる。
【0149】
(バンク層の作用)
上記構成において、バンク層bankは有機半導体材料203をインクジェット方式により充填する前に、上記実施形態と同様にフッ素またはフッ素化合物を導入ガスとしたプラズマ処理がされる。このため画素電極41≧下層側絶縁層62>上層側絶縁層62という順番で有機半導体材料に対する親和性が形成される。このため有機半導体材料を含んだ薄膜材料液をバンク層bankで囲まれた画素領域一杯に充填しても、下層側絶縁層62の高さに有機半導体膜43が落ち着き、有機半導体膜43が凹字状に固化することを防止でき、平坦な有機半導体膜43を形成することができる。有機半導体膜43に膜厚の薄い部分があると、そこに薄膜発光素子40の駆動電流が集中し、薄膜発光素子40の信頼性が低下することになるが、そのような間題を排除することができる。
【0150】
また、本実施例では、画素電極41の形成領域のうち、導通制御回路50の中継電極35と重なる領域にもバンク層bankが形成され、中継電極35と重なる領域には有機半導体膜43が形成されていない。すなわち、画素電極41の形成領域のうち、平坦な部分のみに有機半導体膜43が形成される。これも有機半導体膜43を一定の膜厚に維持する要因になっている。
【0151】
さらに、中継電極35と重なる領域にバンク層bankがないと、この部分でも対向電極opとの間に駆動電流が流れて有機半導体膜43が発光する。しかしこの光は中継電極35と対向電極opとの間に挟まれて外に出射されず表示に寄与しない。かかる表示に寄与しない部分で流れる駆動電流は、表示という面からみて無効電流といえる。しかるに本形態では、従来ならこのような無効電流が流れるはずの部分にバンク層bankを形成した。このため、共通給電線comに無駄な電流が流れることが防止でき、共通給電線comの幅はその分狭くてよくなる。その結果として、発光面積を増すことができ、輝度、コントラスト比などの表示性能を向上させることができる。
【0152】
また、インクジェット方式を用いることにより原色ごとに打ち分けて有機半導体膜を形成可能であるため、フォトリソグラフィ法などの複雑な工程を用いることなくパターニングが可能になる。
【0153】
なお、バンク層bankを黒色のレジストによって形成してもよい。バンク層bankはブラックマトリクスとして機能し、コントラスト比などの表示品位が向上する。すなわち、本形態に係るアクティブマトリクス型表示装置1では、対向電極opが透明基板10の表面側において画素7の全面に形成されるため、対向電極opでの反射光がコントラスト比を低下させる。しかるに寄生容量を少なくする機能を担うパンク層bankを黒色のレジストで構成すれば、バンク層bankをブラックマトリクスとして機能させることができ、対向電極opからの反射光を遮るので、コントラスト比を向上させることができる。
【0154】
バンク層bankがデータ線sigおよび走査線gateに沿って、有機半導体膜41よりも厚く構成され、これに対向電極opが形成されている。したがってバンク層bankが存在することにより、データ線sigには大きな容量が寄生することが防止される。すなわち、データ線sigと対向電極opどの間にも、厚いバンク層bankが介在しているのでデータ線sigに寄生する容量が極めて小さい。それ故、駆動回路3、4の負荷を低減でき、低消費電力化および/または表示動作の高速化を図ることができる。
【0155】
またバンク層bankは無機材料および有機材料からなる二層構造で構成されている。無機材料のみで厚みの厚いバンク層を形成しようとすれば、長い時間をかけて無機材料からなる膜をPECVD法などで成膜する必要がある。これに対しレジストやポリイミド膜等の有機材料は比較的厚い膜を形成するのが容易である。本実施形態のバンク層bankは上層側絶縁膜62を厚膜化が容易な有機材料から構成しているので、バンク層形成が短時間で済むため生産性を高めることができる。
【0156】
またかかる二層構造であれば、有機半導体膜41は無機材料からなる下層側絶縁膜61とは接しているが、有機材料からなる上層側絶縁膜62とは接しない。
【0157】
それ故、有機半導体膜41は有機材料から構成されている上層側絶縁膜62の影響を受けて劣化することがないので、薄膜発光素子40では、発光効率の低下や信頼性の低下が起きない。また、本実施例によれば、透明基板10の周辺領域(表示部11の外側領域)にもバンク層bankが形成されているので、データ側駆動回路3および走査側駆動回路4もバンク層bankによって覆われている。対向電極opは、少なくとも表示部11に形成されていれば十分であり、駆動回路領域にまで形成する必要がない。しかし対向電極opをマスクスパッタ法で形成した場合は合わせ精度が悪いため、駆動回路領域にまで対向電極opが形成されることがある。本実施例ではこれらの駆動回路領域にまで対向電極opが形成されたとしても、駆動回路の配線層と対向電極opとの間にバンク層bankが介在することになる。このため駆動回路3、4に容量が寄生することを防止できるため、駆動回路3、4の負荷を低減でき、低消費電力化および/または表示動作の高速化を図ることができる。
【0158】
(表示装置の作用)
上記のように構成したアクティブマトリクス型表示装置1において、走査信号によって選択されて第1のTFT20がオン状態になると、データ線sigからの画像信号が第1のTFT20を介して第2のTFT30のゲート電極31に印加される。同時に画像信号が第1のTFT20を介して保持容量capに書き込まれる。その結果、第2のTFT30がオン状態になると、対向電極opおよび画素電極41をそれぞれ負極および正極として電圧が印加され、印加電圧がしきい値電圧を越えた領域で有機半導体膜43に流れる電流(駆動電流)が急激に増大する。従って発光素子40はエレクトロルミネッセンス素子あるいはLED素子として発光する。発光素子40の光は、対向電極opに反射されて透明な画素電極41および透明基板10を透過して射出される。このような発光を行うための駆動電流は、対向電極op、有機半導体膜43、画素電極41、第2のTFT30、および共通給電線comから構成される電流経路を流れるため、第2のTFT30がオフ状態になると流れなくなる。但し第2のTFT30のゲート電極は、第1のTFT20がオフ状態になっても、保持容量capによって画像信号に相当する電位に保持されるので、第2のTFT30はオン状態のままである。それ故、発光素子40には駆動電流が流れ続け、この画素は点灯状態のままである。この状態は、新たな画像データが保持容量capに書き込まれて、第2のTFT30がオフ状態になるまで維持される。
(表示装置の製造方法)
次に上記構成のアクティブマトリクス型表示装置の製造方法について図15A〜15C乃至図20A〜20Cを参照しながら説明する。本製造方法は表示装置に第5の実施例の製造方法を適用したものである。
【0159】
半導体層形成工程(図15A〜15C):まず、透明基板10に対して、必要に応じて、TEOS(テトラエトキシシラン)や酸素ガスなどを原料ガスとしてプラズマCVD法により厚さが約2000〜5000オングストロームのシリコン酸化膜からなる下地保護膜(図示せず。)を形成した後、下地保護膜の表面にプラズマCVD法により厚さが約300〜700オングストロームのアモルファスのシリコン膜からなる半導体膜を形成する。次にアモルファスのシリコン膜からなる半導体膜に対して、レーザアニールまたは固相成長法などの結晶化工程を行い、半導体膜をポリシリコン膜に結晶化する。次に、半導体膜をパターニングして島状の半導体膜とし、その表面に対してTEOS(テトラエトキシシラン)や酸素ガスなどを原料ガスとしてプラズマCVD法により厚さが約600−1500オングストロームのシリコン酸化膜または窒化膜からなるゲート絶縁膜37を形成する。次に、アルミニウム、タンタル、モリブデン、チタン、タングステンなどの金属膜からなる導電膜をスパッタ法により形成した後パターニングし、ゲート電極21、31、およびゲート電極31の延設部分36を形成する。この工程では走査線gateも形成する。
【0160】
この状態で、高濃度のリンイオンを打ち込んで、ゲート電極21、31に対して自己整合的にソース・ドレイン領域を形成する。なお不鈍物が導入されなかった部分がチャネル領域となる。次に、第1層間絶縁膜51を形成した後、各コンタクトホールを形成し、データ線sig、ドレイン電極22、共通給電線com、共通給電線comの延設部分39、および中継電極35を形成する。その結果、第1のTFT20、第2のTFT30、および保持容量capが形成される。
【0161】
次に第2層間絶縁膜52を形成し、この層間絶縁膜に中継電極35に相当する部分にコンタクトホール形成する。次に第2層間絶縁膜52の表面全体にITO膜を形成した後パターニングし、コンタクトホールを介して第2のTFT30のソース・ドレイン領域に電気的に接続して画素電極41を画素7毎に形成する。
【0162】
下層側絶縁膜形成工程(図16A〜16C):次に、第2層間絶縁膜52の表面側にPECVD法などで無機材料からなる膜(下層側絶縁膜61を形成するための無機膜)を形成する。この膜は上記実施形態で説明した無機材料および厚みで形成する。膜の厚みは有機半導体膜41よりも厚く形成されている。例えば、有機半導体膜41を0.05μm〜0.2μmの厚みに形成するなら、無機材料の膜を0.2μm〜1.0pm程度の厚みに形成する。
【0163】
上層側絶縁膜形成工程(図17A〜17C):次いで走査線gateおよびデータ線sigに沿ってレジスト(上層側絶縁膜62)を形成する。上層側絶縁膜62は、上記実施形態の有機材料で構成する。上層側絶縁膜62の厚みは、画素領域に薄膜材料液料を充填しても隣接する画素領域に薄膜材料液があふれ出ない程度の防波堤になりうる高さに形成する。例えば、有機半導体膜41を0.05μm〜0.2μmの厚みで形成するなら、上層側絶縁膜62を1μm〜2μm程度の高さに形成する。
【0164】
除去工程(図18A〜18C):次に、上層側絶縁膜62をマスクとして無機材料から成る膜にパターニングを施す。その結果、無機材料からなる膜は走査線gateおよびデータ線sigに沿って残り、下層側絶縁膜61が形成される。
【0165】
このようにして下層側絶縁膜61と上層側絶縁膜62とからなる2層構造のバンク層bankが形成される。このときには、データ線sigに沿って残すレジスト部分は共通給電線comを覆うように幅広とする。その結果、発光素子40の有機半導体膜43を形成すべき領域はバンク層bankに囲まれる。
【0166】
表面処理工程(図19A〜19C):次に画素電極41の表面を薄膜材料液に対して親和性(薄膜材料液が水分を含むときは親水性)に、上層側絶縁膜62を薄膜材料液に対して非親和性に、下層側絶縁膜61をその間の親和性に設定するべくフッ素を使用してプラズマ処理を施す。具体的な方法は第4および第5の実施例と同様である。
【0167】
以上により、画素電極41、下層側絶縁膜61(無機材料)および上層側絶縁膜62(有機材料)の薄膜材料液に対する親和度が、「画素電極表面≧下層側絶縁膜表面>上層側絶縁膜表面」という順番になるように表面処理される。
【0168】
有機半導体膜形成工程(図20A〜20C):上記表面処理が終わったら、バンク層bankでマトリクス状に区画された領域内にインクジェット法を利用してR、G、Bに対応する各有機半導体膜43を形成していく。それには、バンク層bankの内側領域に対してインクジェット式記録ヘッド202から、有機半導体膜43を構成するための液状の材料(前駆体/吐出液)である薄膜材料液203を吐出する。次いで100℃〜150℃の熱処理を施して薄膜材料液中の溶剤成分を蒸発させバンク層bankの内側領域で定着させて有機半導体膜43を形成する。ここでバンク層bankは上記表面処理がされているため撥水性を示す。これに対して有機半導体膜43の前駆体である薄膜材料液は親水性の溶媒を用いているため、有機半導体膜43の塗布領域はバンク層bankによって確実に規定され、隣接する画素7にはみ出ることがない。しかもバンク層bankの側壁も撥水性があるため熱処理で薄膜材料液の溶媒成分が蒸発していって薄膜材料液の嵩が減っていっても、薄膜材料液が側壁に付着することなく、より親水性を示す画素電極41および無機材料の領域まで薄膜材料液と側壁との接触面が移動する。したがって熱処理後に形成される有機半導体膜43は、周囲が厚くなることなく、画素電極上で均一な厚みを保持する。なお多層構造素子を形成する場合には、インクジェット方式による薄膜材料液の充填と乾燥とを各層ごとに繰り返していけばよい。例えば有機半導体層として、発光膜、正孔注入層、電子注入層などを積層して形成する場合である。
【0169】
なお、上記工程において正孔輸送層をインクジェット方式で形成してもよい。例えば、正孔輸送層の元となる薄膜材料液をバンク層で囲まれた画素領域に3〜4μmの厚みで充填することができる。この薄膜材料液に熱処理を施すと、厚み0.05μm〜0.1μm程度の正孔輸送層を形成することができる。正孔輸送層が形成されたら、さらに再度インクジェット方式により上記した有機半導体材料を同様の厚みに充填する。
【0170】
有機半導体層43が形成されたら、透明基板10の略全面に対向電極opを形成してアクティブマトリクス型表示装置1が完成する(図14A〜14C参照)。
【0171】
上記のような製造方法によれば、インクジェット法を利用して所定の領域にR、G、Bに対応する各有機半導体膜43を形成していけるので、フルカラーのアクティブマトリクス型表示装置1を高い生産性で製造できる。しかも有機半導体層を均一な厚みで形成できるので、明るさにムラが生じない。また、有機半導体膜の厚みが均一なので、薄膜発光素子40の駆動電流が一部に集中することがないので、薄膜発光素子40の信頼性が低下することを防止できる。
【0172】
なお、図13に示すデータ側駆動回路3や走査側駆動回路4にもTFTが形成されるが、これらのTFTの画素7にTFTを形成していく工程の全部あるいは一部を援用して行われる。それ故、駆動回路を構成するTFTも、画素7のTFTと同一の層間に形成されることになる。また、第1のTFT20、および第2のTFT30については、双方がN型、双方がP型、一方がN型で他方がP型のいずれでもよいが、このようないずれの組合せであっても周知の方法でTFTを形成していけるので、その説明を省略する。
【0173】
(その他の変形例)
なお、上記第4〜第7実施例に限定されることはなく、発明の趣旨の範囲で種々に変更して適用することが可能である。
【0174】
例えば、第7の実施例は発明を表示装置に適用した具体例であったが、図21に示すようにカラーフィルタに適用してもよい。この場合、バンク形成面としてガラスや石英からなる透明基板300を、バンクとして樹脂等の黒色材料で形成した仕切部材301を、薄膜材料液として着色樹脂302を使用する。仕切部材301としては黒色顔料・染料や酸化クロム、クロム金属膜等を適用してブラックマトリクスを形成してもよい。透明基板300上に仕切部材301を形成してからインクジェット方式により仕切部材301によって囲まれた凹部303に着色樹脂302を充填する。その他、仕切り状の部材に囲まれた凹部に任意の流動体を充填する製造方法であれば、かかる発明を適用可能である。
【0175】
また、表面処理はプラズマ処理に限られるものではなく、図9に示すように同一の表面処理条件下で異なる親和性に加工できる表面処理方法であれば適用が可能である。かかる発明の主旨は一回の表面加工により複数の親和性を一時に設定できる点にあるからである。したがって親和性を設定する材料は無機材料と有機材料との間に限られるものではなく、特定の材料間において図9に示す親和性の特性を示すものであれば、その特定材料間において、かかる発明の表面処理を適用可能である。
【0176】
以上のように、第4〜第7の実施例およびその変形例によれば、プラズマ処理を一定条件で管理したので、バンク自体はバンク形成面との高い密着性を保ちながら、親和性制御のために多数の工程を経ることなくバンクとバンク形成面との親和性を確実に制御することができる。これにより、歩留まりを向上させ、製造コストを減少させることができる。
【0177】
また、表示装置によれば、プラズマ処理を一定条件で管理することでバンクとバンク形成面との親和性を確実に設定したので、薄膜材料液がバンクを超えて流れ出ることが防止でき、かつ均一な厚みの薄膜層を有する表示装置を提供できる。これにより、明るさや色にむらが生じない画像表示が行え、信頼性を向上させることができる。
【0178】
さらに、薄膜材料液の充填をインクジェット方式で行えば、色彩の別に応じて薄膜層を打ち分けて形成できるので、フォトリソグラフィ法等にくらべパターニングに要する工程が少なくて済むという効果を奏する。
【0179】
続いて、第8〜第11の実施例を図面に基づいて説明する。
(8):第8の実施例
本発明の実施の形態1に係わる表面改質法について図面を用いて説明する。
【0180】
図22は、酸素プラズマとCF4プラズマ処理を続けて行った場合の、水系インク(表面張力30mN/m)のITO基板表面およびポリイミド膜表面上での接触角変化を示したものである。この測定は、ポリイミド、ITOを一面に形成した基板の表面に既述のプラズマ処理を施し、下記インクについての接触角を測定することにより行った。
【0181】
ポリイミド膜、ITOを形成した基板については、正孔注入材料(ポリエチレンジオキシチオフェンにポリスチレンスルフォン酸を添加したもの)の水分散液にメタノール、グリセリン、エトキシエタノールを添加し、インク化したものを用いた。
【0182】
酸素プラズマ処理は、酸素ガス流量が、500SCCM、パワー1.0W/cm2、圧力1torrで、CF4プラズマ処理はCF4ガス流量が、900SCCM、パワー1.0W/cm2、圧力1torrという条件で行った。
【0183】
未処理の段階では、ITO表面、ポリイミド表面ともむしろ撥水性を示すが、酸素プラズマ処理によりともに親水化され、さらにCF4プラズマ処理によりITO表面の親水性は保持されたまま、ポリイミド表面は撥水化されることがわかる。またガラス基板にを同様な処理をした場合、CF4プラズマ処理後では20〜30度の接触角を示した。
【0184】
一般的に表面張力の低いキシレン等の有機溶剤系インクに対しても同様の連続プラズマ処理によりITO表面上で10度以下、ポリイミド表面上でも50度の接触角を示した。
【0185】
表2に、上記プラズマ処理を行ったポリイミド膜表面のESCA分析を行った結果を示す。
【0186】
【表2】

表2から、酸素プラズマ処理により酸素原子が増え、CF4プラズマ処理によりフッ素原子量が劇的に増加されフッ素化されることが明らかである。結合形態から、酸素プラズマ処理により一旦、−COOH,−COHが形成され、CF4プラズマ処理によりテフロン(登録商標)化(−CF2−)が起こっていることがわかった。
【0187】
上記プラズマ処理によるテフロン(登録商標)化はアクリル骨格からなるネガレジストを用いた場合でも確認しており、フォトリソグラフィーによりパターン形成が可能な有機物の表面改質に大変有効である。
【0188】
さらに大気圧下で、パワー300W、電極−基板間距離1mm、酸素ガスプラズマは酸素ガス流量80ccm、ヘリウムガス流量101/min、搬送速度10mm/sで、CF4プラズマはCF4ガス流量100ccm、ヘリウムガス流量101/min、搬送速度5mm/sの条件下で連続プラズマ処理を行った場合にも同様の結果を得ることができた。大気圧プラズマでは処理室内を真空にひく手間がなく簡便に同様の表面改質ができる点で大変有効である。また、フッ素系ガスプラズマ処理を行う際に、CF4ガスを用いた場合について説明したが、これに限らず、例えばNF3、SF6等のフッ素系ガスを用いることもできる。
【0189】
濡れ性(表面エネルギー)は処理時間だけでなく、ガス流量、パワー、電極−基板間距離等のパラメーターにより制御可能である。このように同じ酸素−CF4連続プラズマ処理により無機物表面は親液性に、有機物表面は撥液性に表面改質することが可能である。
【0190】
(9):第9の実施例
本発明の第9の実施例に係わる薄膜形成方法ならびに有機半導体薄膜を備えた有機EL素子の製造方法について図面を用いて説明する。図23A〜23Bは有機EL素子の製造方法を示す工程断面図である。
【0191】
図23Aに示す工程では、ITO基板301上にポリイミドからなるバンク302をフォトリソ法により形成する。パターンはストライプであっても良いし、円形に抜けたパターンでも良い。バンクを形成する材料はポリイミドに限らずフォトリソ法によるパターン加工が可能な有機材料が使える。
【0192】
図23Bに示す工程では、酸素ガス流量が500SCCM、パワー1.0W/cm2、圧力1torrという条件で酸素プラズマ処理を1分行う。パワー300W、電極−基板間距離1mm、酸素ガス流量80ccm、ヘリウムガス流量101/min、搬送速度10mm/sで大気圧プラズマ処理を行っても良い。酸素プラズマ処理により親水性のITO表面3ならびに活性化された(親水化された)ポリイミド層304が形成される。酸素プラズマ処理はITO上のポリイミド残さをアッシングするという効果も有する。
【0193】
続いて図23Cに示す工程では、CF4ガス流量が900SCCM、パワー1.0W/cm2、圧力1torrという条件でCF4プラズマ処理を30分行う。パワー300W、電極−基板間距離1mm、CF4ガス流量100ccm、ヘリウムガス流量101/min、搬送速度5mm/sの条件下で大気圧プラズマ処理を行ってもよい。親水性のITO表面303を保持したままでポリイミド表面をテフロン(登録商標)化された撥液性表面305に改質することができる。
【0194】
基板表面の汚染の程度が軽い場合は、酸素プラズマ処理を行わず、CF4ガス流量が900SCCM、パワー1.0W/cm2、圧力1torrという条件でCF4プラズマ処理を30〜60分行っても同様の効果が得られた。
【0195】
図23Dに示す工程では、スピンコートにより正孔注入層306を形成する。正孔注入層材料液の表面張力を調節することによりITO画素内だけに正孔注入層材料をパターニングすることができる。ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルフォン酸の水分散液をエトキシエタノール及びメタノール(合計75パーセント)で希釈し、表面張力30dyne/cmとしたものをスピンコート溶液として用いた。正孔注入層材料液に対し、プラズマ処理ITO表面は、10度以下の接触角を示すため均一に塗膜される。また、プラズマ処理ポリイミド表面では、60度以上の接触角を示すためバンク上に塗膜されず、クロストークを起こすこともない。また、正孔注入層材料インクをインクジェット方式によりITO画素内にパターニング成膜しても良い。インクジェット方式の法が材料を格段に節約することができる。
【0196】
図23Eでは、赤色発光層材料インク307、緑色発光層材料インク308、青色発光層材料インク309をそれぞれ所定の画素にインクジェットヘッド310より吐出することによりR,G,B,3色の発光層を形成する。緑色発光層材料には、PPV前駆体用液をDMF、グリセリン、ジエチレングリコールの混合液で希釈してインク化したものを用いた。赤色発光層材料インクには、このPPVを用いた緑色インクに赤色色素ローダミン101をPPVに対して1.5wt%加えたインクを用いた。青色発光層材料インクには、ポリジオクチルスルフルオレンをキシレンに溶解したものをインクとして用いた。発光材料層インク307、308、309のプラズマ処理ポリイミド表面上での接触角は60度以上であるため、混色の生じない高精細なパターニングが可能となる。モノクロ有機EL素子を形成する場合にはスピンコート法により発光層を形成しても良い。
【0197】
また、上記プラズマ処理により正孔注入層材料液あるいは発光層インクとの接触角が20度〜30度になるようなガラス層を下層にした2層からなるバンクを形成した基板を用いてもよい。バンク裾で短絡する恐れを回避することができる。
【0198】
(10):第10の実施例
本発明の第10の実施例に係わる薄膜形成方法ならびに着色薄膜を備えたカラーフィルターの製造方法について図面を用いて説明する。
【0199】
図24A〜24Dはカラーフィルターの製造方法を示す工程断面図である。図24Aに示す工程では、ガラス基板311上に樹脂BM(ブラックマトリックス)312をフォトリソ法により形成する。パターンはストライプであっても良いし、円形に抜けたパターンでも良い。
【0200】
図24Bに示す工程では、酸素ガス流量が500SCCM、パワー1.0W/cm2、圧力1torrという条件で酸素プラズマ処理を1分行う。パワー300W、電極−基板間距離1mm、酸素ガス流量80ccm、ヘリウムガス流量101/min、搬送速度10mm/sで大気圧プラズマ処理を行っても良い。酸素プラズマ処理により親水性のガラス表面13ならびに活性化(親水化)された樹脂BM層314が形成される。酸素プラズマ処理はガラス上の樹脂残さをアッシングするという効果も有する。
【0201】
続いて図24Cに示す工程では、CF4ガス流量が900SCCM、パワー10W/cm2、圧力1torrという条件でCF4プラズマ処理を30分行う。パワー300W、電極−基板間距離1mm、CF4ガス流量100ccm、ヘリウムガス流量101/min、搬送速度5mm/sの条件下で大気圧プラズマ処理を行ってもよい。親水性のガラス表面313を保持したままで樹脂BM表面をテフロン(登録商標)化された撥インク性表面315に改質することができる。
【0202】
基板表面の汚染の程度が軽い場合は、酸素プラズマ処理を行わず、CF4ガス流量が900SCCM、パワー1.0W/cm2、圧力1torrという条件でCF4プラズマ処理を30〜60分行っても同様の効果が得られた。
【0203】
図24Dに示す工程では、赤色光透過顔料インク316、緑色光透過顔料インク317、青色光透過顔料インク318をそれぞれ所定の画素にインクジェットヘッド319より吐出することによりR,G,B,3色のフィルター層を形成する。顔料インク317、318、319のプラズマ処理樹脂BM表面上での接触角は60度以上であるため、混色のない高精細なパターニングが可能となる。
【0204】
また、上記プラズマ処理により顔料インクとの接触角が20度〜50度になるような材料を下層にした2層からなるバンクを形成した基板を用いてもよい。色抜け膜厚むらの恐れを回避することができる。
(11):第11の実施例
本発明の第11の実施例に係わる表面改質法ならびに薄膜形成法について図面を用いて説明する。
【0205】
図25A〜25Dは、バンクを無機物および有機物の2層で形成した場合の効果を示した図である。図25Aに示す工程では、ITO基板20上に下層がガラス321、上層がポリイミド322からなる積層バンクをフォトリソ法により形成する。
【0206】
図25Bに示す工程では、第8〜第10の実施例で示したような酸素プラズマ、フッ素プラズマ処理を連続しておこなう。ITO基板表面、バンク下層ガラス表面は親水化され、バンク上層ポリイミドは撥液化される。
【0207】
図25Cに示す工程では、インクジェットヘッド326より薄膜材料インクA;327および薄膜材料インクB;328を吐出することにより隣接する凹部に異なる特性の薄膜材料液を塗布する。プラズマ処理後、薄膜材料インクに対するITO表面323での接触角は20度以下、バンク下層ガラス表面324では30〜40度、バンク上層ポリイミド表面325では90度の接触角を示す。
【0208】
ベイク後、図25Dに示すように、薄膜A:329および薄膜B:330を得る。プラズマ処理ポリイミド表面325は強い撥インク性を示すため、図に示すようにポリイミドからなるバンク裾周辺では平坦に成膜されないことがある。しかし、ITO表面323およびガラス表面324はともに親インク性のため、ガラスで形成された下層バンク裾周辺も成膜されITO表面上では平坦な膜が形成される。有機EL素子などITOと電極で有機薄膜を挟む構造を有する素子の場合、ITO上に膜が形成されていないために起こる短絡を防ぐことができる。また、カラーフィルターの製造においては膜厚ムラによる色ムラを防ぐために大変有効である。
【0209】
以上のように、第8〜第11の実施例によれば、同一基板上に有機物で形成したバンクを有する基板に、酸素ガスプラズマ処理を行った後、これに続けてフッ素系ガスプラズマ処理を行うことで、基板表面の親液性を保持したままで、バンクに半永久的な撥液性を付与することができる。
【0210】
また、上記方法によれば、簡便な方法で、同一基板上に表面エネルギーが制御されたパターンを形成することができ、従来のスピンコート等の塗布法だけでなく、インクジェット方式による塗膜方法で、薄膜材料液を精密にパターニング成膜することが可能となる。よってカラーフィルターやフルカラー有機EL装置の製造を混色、色ムラ、クロストークなく、低コストかつ簡便に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0211】
【図1】図1は、本発明の表示装置と液滴の関係を示す概略説明図である。
【図2】図2A〜2Cは本発明の表示装置において、液滴溜を有するバンクの形状の例を示す断面図である。
【図3】本発明の表示装置に係るアクティブマトリクス型表示装置の一例の全体レイアウトを模式的に示すブロック図である。
【図4】図3に示すアクティブマトリクス型表示装置に構成される画素の一つを示す平面図である。
【図5】図5A〜5Cはそれぞれ図4のA−A断面図,B−B断面図,C−C断面図である。
【図6】図6は、本発明を適用したカラーフィルタの一例の断面図である。
【図7】図7A〜7E参考実施例における各評価を示す断面図である。
【図8】図8A〜8Dは、本発明の第4の実施例に係る薄膜形成方法の製造工程断面図である。
【図9】本発明の表面処理の原理に係るフッ素系化合物と酸素との混合比と接触角との関係を説明する特性図である。
【図10】図10A〜10Fは、本発明の第5の実施例に係る薄膜形成方法の製造工程断面図である。
【図11】図11A〜11Fは、本発明の第6の実施形に係る薄膜形成方法の製造工程断面図である。
【図12】図12A〜12Cは、本発明の第6の実施例に係る薄膜形成方法の製造工程断面図(続き)である。
【図13】図13は、本発明の第7の実施例に係るアクティブマトリクス型表示装置に構成されている画素の1つを抜き出して示す平面図である。
【図14】図14A〜14Cは、図13のA−A'断面図、B−B'断面図、およびC−C'断面図である。
【図15】図15A〜15Cは、半導体層形成工程を説明する、それぞれ図13のA−A'断面図、B−B'断面図、およびC−C'断面図である。
【図16】図16A〜16Cは、下層側絶縁層形成工程を説明する、それぞれ図13のA−A'断面図、B−B'断面図、およびC−C'断面図である。
【図17】図17A〜17Cは、上層側絶縁層形成工程を説明する、それぞれ図13のA−A'断面図、B−B'断面図、およびC−C'断面図である。
【図18】図18A〜18Cは、バンク層形成工程を説明する、それぞれ図13のA−A'断面図、B−B'断面図、およびC−C'断面図である。
【図19】図19A〜19Cは、表面処理工程を説明する、それぞれ図13のA−A'断面図、B−B'断面図、およびC−C'断面図である。
【図20】図20A〜20Cは、有機半導体膜形成工程を説明する、それぞれ図13のA−A'断面図、B−B'断面図、およびC−C'断面図である。
【図21】図21は、本発明を適用したカラーフィルタの断面図である。
【図22】図22は、本発明の第8の実施例に係るプラズマ処理によるITO基板表面およびポリイミド膜表面上での接触角変化を示す図である。
【図23】図23は、本発明の第9の実施例に係る有機EL素子の製造方法を示す工程断面図である。
【図24】図24は、本発明の第10の実施例に係るカラーフィルターの製造方法を示す工程断面図である。
【図25】図25は、本発明の第11の実施例に係るバンクを無機物および有機物の2層で形成する製造方法を示す工程断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料の部分を有するバンク形成面に選択的に少なくとも有機材料を含むバンクを形成し、前記バンクで囲まれた領域に、薄膜材料液を充填して所定の厚さの薄膜層を形成する工程を含む表示装置の製造方法であって、
プラズマ処理を前記バンクおよび前記バンク形成面に対して施す表面処理工程と、
前記バンクで囲まれる領域に前記薄膜材料液を吐出する材料液吐出工程と、
前記薄膜材料液の溶媒成分を除去する乾燥工程と、を備え、
前記薄膜層が所定の厚さとなるように前記材料液吐出工程と溶媒成分除去工程とを繰り返すことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程は、加熱処理または減圧処理の少なくとも一つを行うことを特徴とする請求項1に記載の表示装置の製造方法。
【請求項3】
前記材料液吐出工程は、インクジェット方式によって行われることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記薄膜層を形成する工程によってカラーフィルターが形成される請求項1乃至3のいずれか一項に記載の表示装置の製造方法。
【請求項5】
第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極の間に設けられた有機半導体膜とを有し、バンクによって囲まれた領城に薄膜材料液を充填し前記有機半導体膜を形成する工程を含む薄膜発光素子の製造方法であって、
基板上に、前記第1電極を無機材料から形成する工程と、
前記第1電極を仕切るように、前記バンクを有機材料により形成する工程と、
前記バンクで囲まれる領域に前記薄膜材料液を吐出する材料液吐出工程と、
前記薄膜材料液の溶媒成分を除去する乾燥工程と、を備え、
前記薄膜層が所定の厚さとなるように前記材料液吐出工程と溶媒成分除去工程とを繰り返すことを特徴とする薄膜発光素子の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate


【公開番号】特開2006−86128(P2006−86128A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286877(P2005−286877)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【分割の表示】特願2002−46904(P2002−46904)の分割
【原出願日】平成11年3月17日(1999.3.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】