説明

表示装置用の混合溶液及びそれを用いた表示装置の製造方法

【課題】
有機材料を均一に塗布することができる表示装置用の混合溶液及びそれを用いた表示装置の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の製造方法の一態様は、有機膜の少なくとも一部となる溶質が溶解された塗布溶液18をスプレー塗布する工程と、基板52を乾燥させ、スプレー塗布された塗布溶液に含まれる溶媒を蒸発させる乾燥工程とを備え、塗布溶液18が、溶質を1質量%以上溶解させることができる第1の溶媒と、基板52に塗布溶液が着滴するまでの間にすべてが揮発する揮発性溶媒とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示装置用の混合溶液及びそれを用いた表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL(Electro Luminescence)素子を使用した有機EL表示装置の開発が盛んに行われている。有機EL表示装置は、液晶表示装置と比較して視野角が広く、また、応答速度も速く、有機物が有する発光性の多様性から、次世代の表示装置として期待されている。有機EL表示装置に用いられる有機EL素子は、基板上に陽極が形成され、陽極の上に薄膜状の有機化合物が積層され有機発光層が形成される。その有機化合物の層の上に、基板上に形成された陽極と対向するように陰極が形成された構造である。有機EL素子は、陽極と陰極との間に配置された有機化合物の層に電流が供給されると自発光する電流駆動型の表示素子である。以下、積層される有機化合物の薄膜を有機薄膜層と記す。陽極、複数の有機薄膜層および陰極を重ねて配置した個所が表示画素となる。
【0003】
基板に設けられた電極上に有機化合物を積層する場合、有機材料を真空蒸着させて有機薄膜層を形成する場合がある。しかし、有機材料を蒸着させる場合、有機薄膜層の下地となる電極の表面に異物の付着や突起、窪みがあると、その影響により、有機薄膜層を所望の状態にできないことがある。
【0004】
この問題を解決する方法として、有機薄膜層となる有機材料を液体中に分散または溶解させ、溶液として塗布することで異物、突起、窪み等を被覆し、所望の有機薄膜層を形成する技術(湿式塗布方法、以下、単に塗布法と記す。)が知られている。例えば、特許文献1には、有機薄膜層のうち少なくとも一層を塗布法により形成することが記載されている。
【0005】
塗布法としては、例えば、オフセット印刷法、凸版印刷法、マスクスプレー法等がある。オフセット印刷法や凸版印刷法では、有機材料を溶媒中に分散または溶解させた溶液(以下、有機材料の溶液、あるいは単に溶液という)の層を所定の領域のみに形成する。また、マスクスプレー法では、所望の領域に合致するような開口部を有するガラス・マスクや金属マスク等を配置し、有機材料を分散または溶解させた溶液を噴出する。この場合、溶液を窒素等の気体媒体中に分散させ、または二流体ノズル等を用いて溶液を霧状にする。
【0006】
また、有機EL表示装置では、有機薄膜層の上に設けられる陰極配線が隔離配置されるように隔離構造体(以下、隔壁と記す。)が設けられる。このような構成は、例えば、特許文献1に記載されている。図7は、特許文献1に記載された隔壁の例を示す断面図である。基板111上には、陽極配線101が設けられ、その後、隔壁100が設けられる。隔壁100は、例えば、基板111から離れるにつれて断面が広がるように形成される。このような隔壁100の構造は、逆テーパ構造あるいはオーバハング構造と称されている。
【0007】
隔壁100を逆テーパ構造とすることで、陰極配線の分離をより確実なものとすることができる。隔壁100が設けられた状態で各有機薄膜層(ホール注入輸送層102、発光層103、電子注入輸送層104)を塗布法等により形成すると、隔壁100により有機薄膜層が分離され、この結果、各隔壁100の間に各有機薄膜層から構成される有機発光層が形成される。その後、陰極配線105が、蒸着法等によって形成される。陰極配線105も隔壁100により分離され、パターニングされた陰極配線105が形成される。
【0008】
また、開口部を有する絶縁膜を陽極配線上に形成し、表示画素となる位置を開口部の位置によって定める場合もある。図8は、特許文献1に記載された構成に、開口部を有する絶縁膜を設けた場合の構成例を示す説明図である。図8(a)は、電極が配置される側から基板を観察した状況を示す模式図であり、図8(b)は、図8(a)のA−A'における断面図である。図8(a)では、上層に設けられた陰極配線等によって隠れてしまう構成部も示している。
【0009】
図8に示す例において、基板111上には、まず陽極配線101と、陰極配線105に接続される陰極接続配線121とが形成される。続いて、開口部123を有する絶縁膜122が形成される。開口部123は、陽極配線101と陰極配線105とが交差することになる位置に設けられる。そして、陽極配線101と直交するように隔壁100が形成される。続いて、有機材料の溶液が塗布または蒸着され、有機薄膜層124が形成される。
【0010】
なお、有機薄膜層として複数の層が形成されるが、図8(b)では、複数の層をまとめて有機薄膜層124として示している。溶液は、有機薄膜層を形成すべき領域に一定の厚みで有機薄膜層が形成されるように、有機材料濃度等を調整される。有機薄膜層124形成後、陰極配線105が有機薄膜層上に蒸着される。隔壁100が有機薄膜層124や陰極配線105を分離することにより、隔壁間に有機薄膜層124が形成され、また、パターニングされた陰極配線105が形成される。
【0011】
陰極配線105を形成した後、有機EL素子を保護するために、ポリマー等で構成される有機薄膜層を陰極配線105上に形成する場合もある。この有機薄膜層(図示せず。)も、塗布法等によって形成される。また、基板111の電極等が配置された面には、もう一枚の基板(図示せず。)が対向するように配置される。この基板において、基板111の有機EL素子に対向する領域の外周にシール材(図示せず。)が塗布される。このシール材によって、基板111ともう一枚の基板とが接着される。有機EL素子は、基板およびシール材によって封止されることで、水分や酸素にさらされないように保たれる。
【0012】
このような塗布法では有機薄膜層を形成するための有機材料が溶質となり、この溶質を溶媒に分散または溶解させた状態で溶液を塗布する。そして、溶液を塗布した後、乾燥濃縮工程によって、溶液を蒸発させる。従って、有機材料が有機薄膜層となる。有機材料すなわち、溶質の材料によって、有機EL素子の発光特性が変化する。溶媒となる材料は、所望の発光特性を有する材料が用いられる。
【0013】
上述のように、塗布法により有機薄膜層124を形成する場合、溶質の材料が重要となる。この有機薄膜層を形成するための有機材料にはその発光特性に合わせて、さまざまなものが開発されている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2001−351779号公報(段落0012−0017、第1図および第2図)
【特許文献2】特開2001−160493号公報
【特許文献3】特開2002−151272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような塗布溶液を例えば、スプレー塗布装置により湿式塗布する場合、濃度が濃く、粘度が高い溶液を塗布することが困難である。そのため、溶質を一定量以上の良溶媒に溶解させた状態で塗布する。しかしながら、溶媒に溶解させた状態で塗布すると粘性が低くなってしまう。従って、隔壁100を形成した後に、粘度の低い有機材料の溶液を塗布すると、塗布した溶液が隔壁100に沿って広がってしまうという問題が生じる。例えば、図8に示す例では、隔壁100の側面と絶縁膜122とが交差する部分に沿って、溶液が広がってしまう。これは、隔壁100の側面と絶縁膜122の表面の交差する部分の近傍空間により毛細管現象と同様の現象が生じているためである。特に、陰極配線105等を確実に分離するために逆テーパ構造を有するように隔壁100を形成すると、隔壁100の側面と絶縁膜122の表面の交差する部分の近傍空間は狭くなり、溶液がより広がりやすくなってしまう。
【0015】
このように従来は、溶液の粘性が低い場合は、塗布した溶液が広がってしまい、均一に有機材料を形成することができなかった。しかし、粘度の高い溶液を用いようとしても、一定量以上の溶質を溶解させることができない場合がある。また、塗布装置によっては粘度が高い溶液では均一に塗布することができない場合がある。さらに、濃縮乾燥工程において、基板の温度を上げると溶液の粘度が下がり、溶液が広がりやすくなってしまう。
【0016】
このように従来の有機EL表示装置では、有機層となる液状材料が表示領域から流出することによって、膜厚むらに起因する発光むらが生じてしまい、表示品質が劣化するという問題点があった。
【0017】
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであって、有機材料を均一に塗布することができ、膜厚ムラに起因する表示品質の劣化が低減することができる混合溶液及びそれを用いた表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様にかかる混合溶液は、表示装置用の有機膜を形成するための混合溶液であって、前記有機膜の少なくとも一部となる溶質と、前記溶質を1質量%以上溶解させることができる第1の溶媒と、前記第1の溶媒より粘度の高い第2の溶媒とを含有するものである。これにより、均一に有機膜を形成することができる。
【0019】
本発明の第2の態様にかかる混合溶液は、上述の表示装置用の混合溶液において、前記第2の溶媒の粘度が前記第1の溶媒の粘度の10倍以上のものである。これにより、塗布に好適な粘度を有する溶液を容易に得ることができる。
本発明の第3の態様にかかる混合溶液は、上述の表示装置用の混合溶液において、第2の溶媒の体積が第1の溶媒の体積の2/3〜7倍であるものである。これにより、均一に有機膜を塗布することができる。
【0020】
本発明の第4の態様にかかる混合溶液は、表示装置用の有機膜を形成するための混合溶液であって、前記有機膜の少なくとも一部となる溶質と、前記溶質を1質量%以上溶解させることができる第1の溶媒と、前記表示装置用の基板に混合溶液をスプレー塗布し、着滴するまでの間にすべてが揮発する揮発性溶媒とを含有するものである。これにより、均一に有機膜を形成することができる。
【0021】
本発明の第5の態様にかかる混合溶液は、上述の混合溶液において、前記揮発性溶媒の、沸点が120℃以下又は、25℃における蒸気圧が400Pa以上であるものである。これにより、均一に有機膜を形成することができる。
【0022】
本発明の第6の態様にかかる混合溶液は、上述の混合溶液において、前記第1の溶媒及び前記揮発性溶媒より粘度の高い第2の溶液をさらに備えたものである。これにより、より均一に有機膜を形成することができる。
【0023】
本発明の第7の態様にかかる表示装置の製造方法は、表示装置用の有機膜の少なくとも一部となる溶質が溶解された塗布溶液を湿式塗布により形成する表示装置の製造方法であって、前記塗布溶液を塗布する工程と、前記基板を乾燥させ、前記塗布された塗布溶液に含まれる溶媒を蒸発させる蒸発工程とを備え、前記塗布溶液が、前記溶質を1質量%以上溶解させることができる第1の溶媒と、前記第1の溶媒より粘度の高い第2の溶媒とを備えるものである。これにより、均一に有機膜を形成することができる。
【0024】
本発明の第8の態様にかかる製造方法は上述の表示装置用の製造方法において前記第2の溶媒の粘度が前記第1の溶媒の粘度の10倍以上のものである。これにより、塗布に好適な粘度を有する溶液を容易に得ることができる。
本発明の第9の態様にかかる製造方法は上述の表示装置用の製造方法において、第2の溶媒の体積が第1の溶媒の体積の2/3〜7倍であるものである。これにより、有機膜を均一に塗布することができる。
【0025】
本発明の第10の態様にかかる表示装置の製造方法は、表示装置用の有機膜の少なくとも一部となる溶質が溶解された塗布溶液をスプレー塗布により形成する表示装置の製造方法であって、前記塗布溶液をスプレー塗布するスプレー塗布工程と、前記基板を乾燥させ、前記スプレー塗布された塗布溶液に含まれる溶媒を蒸発させる乾燥工程とを備え、前記塗布溶液が、前記溶質を1質量%以上溶解させることができる第1の溶媒と、前記基板に塗布溶液が着滴するまでの間にすべてが揮発する揮発性溶媒とを備えるものである。これにより、均一に有機膜を形成することができる。
【0026】
本発明の第11の態様にかかる表示装置の製造方法は、上述の表示装置の製造方法において、前記揮発性溶媒は、沸点が120℃以下又は、25℃における蒸気圧が400Pa以上であるものである。これにより、より均一に有機膜を形成することができる。
【0027】
本発明の第12の態様にかかる表示装置の製造方法は、上述の表示装置の製造方法において、前記スプレー塗布工程では、前記第1の溶媒及び前記揮発性溶媒より粘度の高い第2の溶液をさらに備えた塗布溶液をスプレー塗布するものである。これにより、より均一に有機膜を形成することができる。
【0028】
本発明の第13の態様にかかる表示装置の製造方法は、上述の態様の表示装置の製造方法において、前記スプレー塗布工程の前に、前記揮発性溶媒のみを噴出し、確認用基板に前記揮発性溶媒が付着しないことを確認する確認工程を備え、前記確認工程と同じ条件で、前記塗布溶液をスプレー塗布するものである。これにより、基板に揮発性溶媒が着滴しないことを容易に確認することができる。
【0029】
本発明の第14の態様にかかる表示装置の製造方法は、上述の表示装置の製造方法において、前記スプレー塗布工程の前に、前記塗布溶液をスプレー塗布するスプレーノズルと前記確認用基板との間の間隔を変えて、前記揮発性溶媒のみを噴出させる噴出工程と、前記確認用基板に噴出された前記揮発性溶媒が当該基板に着滴しているか否かを確認する工程をさらに備え、前記スプレー塗布工程では、前記確認用基板に前記揮発性溶媒が着滴しないことが確認された前記スプレーノズルと前記基板との間の間隔以上の間隔で、前記塗布溶液を前記基板にスプレー塗布するものである。これにより、基板に揮発性溶媒が着滴しない基板―スプレーノズル間距離を容易に求めることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば有機材料を均一に塗布することができる表示装置用の混合溶液及びそれを用いた表示装置の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に、本発明を適用可能な実施の形態が説明される。以下の説明は、本発明の実施形態を説明するものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0032】
本実施形態にかかる有機EL表示装置の有機EL発光素子が形成されている素子基板について図1を参照して説明する。図1は有機EL表示装置の素子基板110の構成を示す平面図である。1は陽極配線、5は陰極配線、10は隔壁、11は基板、21は陰極接続配線、22は絶縁膜、23は開口部、24は破線によって示される表示領域、25はコンタクトホールである。
【0033】
基板11上には、基板11の表面に接するように複数の陽極配線1と、陰極に接続される陰極接続配線21とが形成されている。複数の陽極配線1はそれぞれ平行に形成されている。陰極接続配線21は陰極配線5の本数に対応して形成され、それぞれの陽極配線1と垂直に形成されている。陽極配線1と陰極接続配線21は、例えばITO等などの透明導電膜により形成される。陽極配線1および陰極接続配線21が形成された基板上には、絶縁膜22が形成されている。絶縁膜22の膜厚は、例えば、0.7μmである。絶縁膜22には、陽極配線1と陰極配線5とが交差する位置(すなわち表示画素が形成される位置)に開口部23が設けられている。表示領域24は複数の表示画素から構成されており、各表示画素が駆動回路(不図示)からの駆動信号に従って有機発光層の発光量を制御することによって、表示領域24は画像表示を行う。
【0034】
絶縁膜22の上層には、複数の有機薄膜層(有機化合物層)から構成される有機発光層と、陰極配線5が順に積層される。従って、有機発光層は陰極配線5と陽極配線1に挟まれる構成となる。ただし、図1では有機発光層の図示を省略している。また、有機発光層を形成する前に、隣接する陰極配線5同士を区分する隔離構造体(以下、隔壁10と記す。)が設けられる。隔壁10は、陰極配線5を蒸着等により形成する前に、所望のパターンに形成される。例えば、図1に示すように、陽極配線1と直交する複数の陰極配線5を形成するため、陽極配線1と直交する複数の隔壁10が陽極配線1の上に形成される。隔壁10は、逆テーパ構造を有していることが好ましい。すなわち、基板11から離れるにつれて断面が広がるように形成されることが好ましい。これにより、隔壁10の側壁及び立ち上がり部分が蒸着の陰となり、陰極配線5を区分することができる。隔壁10は例えば、高さが3.4μmで、幅が10μmで形成することができる。
【0035】
有機発光層を形成する有機薄膜層の少なくとも一つは、有機材料の溶液である液状の有機発光層材料を塗布して形成される。有機材料の溶液の塗布については、後に詳述する。
【0036】
そして、有機薄膜材料を濃縮乾燥硬化して有機薄膜層を形成する。これにより、表示領域24において均一な膜厚の有機薄膜層を形成する。なお、有機薄膜層が複層からなる場合、塗布法に加え蒸着法を用いてもよい。すなわち、有機薄膜層が複層からなる場合、1層以上が塗布法により形成されれば、その他の層は蒸着法により形成されてもよい。この場合、塗布法により形成した層の後、その上の層を形成する前に、濃縮乾燥硬化を行う。また、有機薄膜層は各隔壁10によって分離される。
【0037】
この有機薄膜層は例えば、図2に示す多層構造により形成される。図2は有機薄膜層40の構成の一例を模式的に示す断面図である。有機薄膜層40は下からポリマーバッファ層41、ホール注入層42、ホール輸送層43、発光層44、電子輸送層45、電子注入層46の順に形成される。すなわち、開口部23において、ポリマーバッファ層41が陽極配線1と接触し、電子注入層46が陰極配線5と接触する。ここではポリマーバッファ層41を塗布法により形成し、ホール注入層42、ホール輸送層43、発光層44、電子輸送層45及び電子注入層46を蒸着法により形成する。このポリマーバッファ層41により、短絡を防止すること及び駆動電圧を低下することができる。この有機薄膜層40を形成する材料については後述する。もちろん有機薄膜層40は上述の構成に限るものではなく、少なくとも1層が塗布法により形成されていればよい。
【0038】
隔壁10を形成した後、有機薄膜層の上から陰極配線5となる金属材料等を蒸着する。逆テーパ構造の隔壁10により、陰極パターンが分離され複数の陰極配線5を形成することができる。隔壁10によって分断された陰極配線5は陽極配線1と垂直に形成される。これにより、陰極配線5と陽極配線1の交差点では陰極配線5と陽極配線1との間に有機発光層が配置される。
【0039】
表示領域24の外側には陰極接続配線21と陰極配線5とを接続するため、絶縁膜22にコンタクトホール25が形成されている。このコンタクトホール25は、陰極配線5と陰極接続配線21とが重なる箇所に形成される。これにより、開口部23において陽極配線1と陰極配線5に挟まれる有機薄膜層に電流を流すことができ、有機発光層が発光する。
【0040】
次に、上述の有機材料を塗布するためのスプレー塗布装置について図3を参照して説明する。図3はスプレー塗布装置の構成を模式的に示す概略図である。50はスプレー塗布装置、51はステージ、52は基板、53はマスク、54はスプレーノズル、55は塗布溶液、56はフィルタ、57はコントローラである。
【0041】
スプレー塗布装置50は基板52を載置するためのステージ51と塗布溶液55を基板52に塗布するためのスプレーノズル54とスプレーノズル54を制御するためのコントローラ57とを備えている。ここでは基板52に300mm×400mmの矩形状のものを用いている。ステージ51に載置された基板52の上には、マスク53が配置される。マスク53は基板52の上に直接、配置してもよく、隙間を設けて配置してもよい。マスク53は例えば、アルミニウム等の金属板であり、基板52と略同じ大きさである。そして、マスク53には図1の破線によって示される表示領域24に対応した開口部が形成されている。基板52は図1に示した有機EL素子を形成するための基板である。ここでは、一枚の基板52に図1の示す有機EL表示素子を複数形成するため、マスク53に複数の開口部が設けられている。
【0042】
ステージ51の上には水平方向に移動可能なスプレーノズル54が設けられている。スプレーノズル54は、例えば、塗布溶液を分散させた窒素等のガスを供給し、塗布溶液を霧状に噴出する流体ノズルである。従って、スプレーノズル54の先端から下方向に塗布溶液が噴出される。これにより、スプレーノズル54から塗布溶液55がマスク53を介して基板52に塗布される。ここではスプレーノズル54に供給する窒素ガスを0.5×10−3/min(=0.5l/min)とし、塗布溶液の流量(塗布液流量)を0.9×10−6/min(=0.9ml/min)として、基板52に有機EL素子を形成するための有機材料を塗布している。
【0043】
コントローラ57は例えば、パーソナルコンピュータ(PC)などの情報処理装置であり、スプレーノズル54及びステージ51を制御する。具体的にはスプレーノズル54のスキャンスピード、スキャンピッチ、塗布液流量及びスプレーノズル54と基板52との間の距離等の制御を行う。このコントローラ57からの信号によって、スプレーノズル54が水平方向に移動して、基板52全面に塗布溶液55を塗布する。また、コントローラ57により、スプレーノズル54あるいはステージ51を上下に移動させることにより、基板52とスプレーノズル54との間の距離を調整することができる。ここではスプレーノズル54の先端と基板52の表面との距離を80mmとしている。
【0044】
フィルタ56は例えば、HEPAフィルタなどエアフィルタである。このフィルタ56を介してスプレー塗布装置内にエアを供給することにより、スプレー塗布装置50内の空間を清浄な空間に保つことができる。これにより、塗布中に異物が基板52に付着するのを防ぐことができ、歩留まりを向上することができる。スプレー塗布は通常基板を常温にした状態で実施される。
【0045】
次にスプレーノズル54のスキャン工程について図4を用いて説明する。図4はマスク53の上面図であり、スプレーノズル54のスキャン経路を併せて示している。なお、図4ではマスク53に2つの開口部31が設けられている例を示している。図4における矢印はスプレーノズル54の先端の軌跡を示している。
【0046】
ここでは、図4に示すようにスプレーノズル54をラスタスキャンすることにより、基板全面に塗布溶液を塗布している。すなわち、基板52の外側から反対側の外側まで矢印の方向にスプレーノズル54を移動させている。具体的には、マスク53の外側から基板52を横切るよう、Y方向にスプレーノズル54を移動する。そして、マスク53の反対側の端までスプレーノズル54を移動させたら、X方向に所定の間隔(ピッチ)でスプレーノズル54を移動させる。そして、再度、スプレーノズル54をマスク53の端から端までY方向に移動した後、X方向に前回と同じ間隔(ピッチ)で移動させる。この時、Y方向の移動は前回と反対方向となるため、スプレーノズル54はY方向に基板上を往復する。スプレーノズル54がX方向に基板を横切るまで、これを繰り返し、基板全面に塗布溶液を塗布する。
【0047】
このように塗布された塗布溶液はマスク53の開口部31を通過して基板52に付着する。開口部31は図1に示す表示領域24と対応しており、所定の領域のみ塗布溶液が付着する。すなわち、開口部31を設けたマスク53を用いることにより、図1におけるコンタクトホール25や接続端子に塗布溶液が付着されないようにしている。図4においてはマスク53に2つの開口部31が設けられている。開口部31の数は基板52に形成されている有機EL表示素子の数に対応している。すなわち、1枚の基板52には図1に示す有機EL表示素子が2つ形成されている。もちろん、開口部31の数は2つに限るものではない。
【0048】
なお、基板全体に対して均一に塗布するためには、スプレーノズル54を一定の速度及び一定の塗布液流量で移動させることが好ましい。また、基板端と基板中央とで塗布量を略同じにするため、基板52の外側までスプレーノズル54を移動させることが好ましい。すなわち、スプレーノズル54を基板52の外側まではみ出すよう移動させる。これにより、基板52全体に均一に塗布溶液を塗布することができる。
【0049】
このスプレーノズル54のスキャンスピードは例えば、300mm/secである。また、基板表面におけるスプレーノズル54の塗布範囲は直径30mmの円状である。すなわち、スプレーノズル54を固定して塗布した場合、基板表面において直径30mmの円状の領域に塗布溶液55が塗布される。従って、Y方向にスプレーノズル54を移動させると、X方向に30mmの幅で塗布溶液が塗布される。
【0050】
スプレーノズル54のスキャンにおいて、塗布範囲の一部が重なるように塗布することが好ましい。すなわち、X方向に移動させる間隔(ピッチ)を塗布範囲である30mm以下とすることが好ましい。ここではX方向のスプレーノズルの移動ピッチを12mmとしている。
【0051】
基板52のサイズを300mm×400mmとした場合、具体的には、スプレーノズル54が基板52を横切るよう、Y方向に300mm以上移動させる。そしてスプレーノズル54をX方向に12mm移動させた後、再度Y方向に300mm以上移動させる。このとき、Y方向の移動は、前回の移動と向きが反対になる。さらに、スプレーノズル54をX方向に12mm、前回と同じ向きで移動させる。これを繰り返し、スプレーノズルがX方向に400mm以上移動させる。これにより、図4に示すようスプレーノズル54のジグザグにスキャンすることができ、面内に均一に塗布することができる。
【0052】
次に塗布溶液について説明する。本発明では塗布後、隔壁に沿って塗布溶液が流れ出すのを防ぐため、複数の溶媒を用いている。ここで、溶質には例えば、特開2001−160493号公報あるいは特開2002−151272号公報に示されているものを用いている。この溶質がポリマーバッファ層41の材料となる。
【0053】
本発明ではシクロヘキサノールと1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを体積比3:2で混合した良溶媒にポリマー材料を1重量%溶解させ、さらに上記良溶媒の2〜5倍の体積に当たる2−メチル−1−プロパノールを添加した。すなわち、シクロヘキサノールと1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンと2−メチル−1−プロパノールを6:4:20〜6:4:50の割合で混合したものを溶媒として用いている。なかでも、シクロヘキサノールと1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンと2−メチル−1−プロパノールを6:4:30の割合で混合した溶媒を用いることが好ましい。
【0054】
なお、25℃におけるシクロヘキサノールの粘度は5.454×10−2Pa・s(=54.54cP)である。25℃における1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンの粘度は2.06×10−3Pa・s(=2.06cP)である。25℃における2−メチル−1−プロパノールの粘度は3.42×10−3Pa・s(=3.42cP)である。これら3種類の溶媒の粘度を上記の割合で混合した溶媒に対して1wt%の溶質を溶解させた溶液の25℃における粘度は4,4×10−3Pa・s(=4.4cp)となった。
【0055】
このように本発明では、2種類以上の溶媒を混合した混合溶媒にポリマー材料となる溶質を溶解させている。混合溶媒のうち、少なくとも一種類以上の溶媒は溶質に対して溶解度の大きい溶媒すなわち良溶媒を用いる。この良溶媒は溶質を1重量%以上の溶解させる能力があるものが好ましい。このような良溶媒を用いることにより、有機膜形成に十分な溶質を溶解させることができる。本実施の形態では1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが良溶媒となっている。
【0056】
また、混合溶媒のうち、少なくとも一種類以上の溶媒は上記の良溶媒よりも粘度の高い溶媒を用いることが好ましい。これにより、粘度の高い溶媒を用いた場合であっても、溶質を溶解させることができる。さらに高粘度の溶媒は常温(25℃)において良溶媒に対して10倍以上の粘度を持つ溶媒を用いることが好ましい。すなわち、良溶媒の粘度の10倍以上の粘度を持つ高粘度溶媒を粘度調整用溶媒として用いる。これにより、溶質を十分溶解でき、かつ塗布に好適な粘度を有する溶液を容易に用いることができる。本実施の形態では、粘度の高い溶媒の一例として、シクロヘキサノールを用いている。これらの混合比を調整することにより、塗布に好適な粘度を有する溶媒を得ることができる。よって、有機材料を均一に塗布することができ、膜厚ムラによる表示品質の劣化を防ぐことができる。
【0057】
このように、良溶媒と前記良溶媒よりも粘度の高い溶媒との混合溶媒を用いた塗布溶液を塗布することにより、溶液を任意の粘度に調整することができる。従って、塗布に好適な粘度の塗布溶液を塗布することができ、有機材料の膜厚ムラを低減することができる。なお、上記の2−メチル−1−プロパノールを用いない場合すなわち、シクロヘキサノールと1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンの2種類の溶媒のみを用いる場合は、上述の混合比と異なる混合比とすることが好ましい。
【0058】
さらに本発明では、上記2種類の溶媒に加えて、揮発性の高い2−メチル−1−プロパノールを溶媒として用いている。この揮発性の高い溶媒はスプレー塗布装置50でスプレー塗布する際、基板に着滴する間、全て揮発する。すなわち、溶質と上記の3種類の溶媒とを含む塗布溶液をスプレー塗布装置50により塗布すると、塗布溶液が基板に着滴するまでの間に、2−メチル−1−プロパノールが完全に揮発する。従って、基板に着滴する塗布溶液は溶質及びシクロヘキサノールと1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンとの2種類の溶媒からなる溶液である。
【0059】
基板に着滴したときの溶質濃度を3.5〜11.0wt%とすることが好ましい。この場合、良溶媒である1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンと高粘度溶媒であるシクロヘキサノールの2種類の混合溶媒に対する溶質濃度を3.5〜11.0wt%とする。これにより、揮発性溶媒である2−メチル−1−プロパノールは完全に揮発するため、着滴時の溶質濃度を3.5〜11.0wt%とすることができる。また、着滴後の溶液粘度が塗布前の溶液粘度の2倍以上となるように混合することが好ましい。
【0060】
具体的には、例えば、良溶媒と高粘度溶媒との2種類の混合溶媒に対して、溶質濃度が3.5wt%となるように溶質を溶解させる。さらにこれに、任意の量の揮発性溶媒を混合させる。このとき、全体の溶質濃度を1wt%以上とすることが好ましい。なお、混合する順番は良溶媒に溶質を溶解させてから、他の溶媒を混合することが好ましいが、特に限定されるものではない。この3種類の混合溶媒を含む溶液をスプレー塗布すると、塗布から着滴の間に揮発性溶媒が全て気化されて無くなる。このため、着滴時の溶質濃度は3.5wt%となる。したがって、基板上には3.5wt%の溶質濃度の溶液が付着している状態となる。もちろん、着滴したときの溶質濃度は上述の範囲であればよい。
【0061】
揮発性の高い溶媒が基板に着滴するまでの間、全て揮発するか否かは以下のようにして、確認することができる。2−メチル−1−プロパノールのみをスプレー塗布装置50で基板に噴出する。すなわち、スプレー塗布装置50に揮発性溶媒すなわち2−メチル−1−プロパノールのみを充填してスプレーノズル54から噴出する。このとき、実際に塗布する際の塗布条件と同じ条件で揮発性溶媒を噴出させる。なお、実際のプロセスの条件に近くするため、スプレーノズル54を走査しながら噴出することが好ましい。そして、基板に2−メチル−1−プロパノールが付着したか否かを目視にて確認することにより、全て揮発するか否かが確認される。すなわち、噴出直後、基板に2−メチル−1−プロパノールが付着していなければ、着滴するまでの間、2−メチル−1−プロパノールが完全に揮発したものとする。一方、噴出直後、基板に揮発性溶媒が付着していていれば、着滴するまでの間、2−メチル−1−プロパノールが完全に揮発しなかったものとする。この、2−メチル−1−プロパノールが付着しているか否かは基板表面に液体が付着しているか否かを見ればよいため、容易に確認することができる。
【0062】
上記の示すような方法で、揮発性溶媒が基板に着滴するまでの間に、完全に揮発することを確認できる。このとき、完全に揮発せず、基板に2−メチル−1−プロパノールが付着している場合は、例えば、ステージ51を鉛直方向に移動して、基板52とスプレーノズル54の距離を遠ざける。そして、再度、噴出して、2−メチル−1−プロパノールが基板52に付着するか否かを調べる。間隔を変えてこれを繰り返し、揮発性溶媒が基板52に着滴しない基板52とスプレーノズル54との間の間隔を求める。この間隔以上の距離で塗布溶液をスプレー塗布することにより、揮発性の高い溶媒が基板に着滴するのを防ぐことができる。
【0063】
なお、基板に揮発性溶媒が着滴するか否かを確認する場合、素子基板ではなく、表面に何も形成されていないガラス基板を確認用基板として用いることが好ましい。すなわち、基板表面に絶縁膜等の樹脂が形成されている場合、揮発性溶媒が着滴するか否かを確認することが困難な場合があるからである。このとき、スプレー塗布装置50にマスク53をセットしなくてもよい。
【0064】
上述のように基板―スプレーノズル間距離を導出することで、揮発性溶媒の材料を変えた場合でも容易に基板―スプレーノズル間距離を導出することができる。従って、溶質や他の溶媒によって、揮発性溶媒を変更することが容易にできる。ここで、揮発性溶媒に2−メチル−1−プロパノールを用いた場合、基板52とスプレーノズル54との間隔が例えば、80mmのとき、溶媒が基板に着滴しなかったことが確認できた。このようにして求めた基板52−スプレーノズル54との間の間隔により、上記の3種類の溶媒を用いた塗布溶液を塗布した。
【0065】
このように、揮発性が高く、塗布中に完全に揮発する溶媒を用いることによって、基板に着滴した溶液の濃度を高くすることができる。これにより、隔壁に沿って溶液が流れ出すことを防ぐことができる。また、塗布前は揮発していないため、スプレー塗布装置を用いて均一に塗布することができる。よって、膜厚ムラに起因する表示品質の劣化を低減することができる。
【0066】
上述のように基板とスプレーノズル54との間隔を求めることができる。しかしながら、一般に、スプレー塗布装置50には均一に塗布することができる基板―スプレーノズル間距離の範囲が決まっている。従って、着滴までの間に完全に溶媒を揮発させるため、基板52とスプレーノズル54の間隔を一定以上離してしまうと、基板に均一に塗布することができないおそれがある。例えば、ある一定距離以上基板―スプレーノズル間距離が離れてしまうと、基板に着滴した溶液が飛び跳ねたり、塗布装置内部の気流の影響で塗布に偏りが発生し、膜厚ムラになってしまうことがある。
【0067】
この場合、その距離以下でスプレー塗布する必要がある。従って、揮発性が高く着滴するまでの間に揮発する溶媒には、ある一定以上の揮発性を持つ溶媒を用いることが好ましい。基板に着滴するまでの間に全て揮発する溶媒は、例えば、沸点が120℃以下又は25℃における蒸気圧が約400Pa(=3mmHg)以上であるものが好適である。なお、基板に着滴するまでの間に完全に揮発する溶媒でなく、一部が揮発する溶媒を用いても均一に塗布することができる場合もある。
【0068】
このように、本発明では揮発性が高く着滴するまでの間に完全に揮発する溶媒を加えている。これにより、スプレー塗布装置での噴出時には粘度が低く、基板に着滴後は粘度の高い溶媒を得ることができる。これにより、濃縮乾燥工程で基板の温度を上げた場合でも、隔壁に沿って溶液が流れ出すことを防ぐことができる。よって、膜厚ムラに起因する表示品質の劣化を低減することができる。また、塗布前は揮発していないため、着滴時よりも粘度が低い状態となっている。よって、スプレー塗布装置を用いて均一に塗布することができる。このように、揮発性が高く、着滴するまでの間に揮発する溶媒を加えることによって、表示品質を向上することができる。
【0069】
なお、本発明では、3種類の溶媒を用いた好適な溶液をスプレー塗布させたがこれに限るものではない。例えば、良溶媒と、前記良溶媒よりも粘度の高い溶媒の2種類の溶媒でもよい。この場合、上述の例ではシクロヘキサノールと1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンとの混合溶媒を用いる。これにより、粘度の高い塗布溶液を用いることができる。1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンに換えてN,N−ジメチルアセトアミドを用いてもよい。
【0070】
良溶媒と良溶媒よりも粘度の高い溶媒との2種類の溶媒のみを用いる場合、体積分率で、例えば、溶質を1wt%以上溶解させることができる良溶媒を12.5〜60%とし、良溶媒より粘度の高い溶媒を40〜87.5%とすることが好ましい。すなわち、良溶媒と粘度の高い溶媒とを体積比で、1:7〜3:2とすることが好ましい。換言すれば、粘度の高い溶媒の体積が良溶媒の体積の2/3〜7倍となるよう混合することが好ましい。
【0071】
あるいは良溶媒と、前記良溶媒よりも揮発性が高く着滴するまでの間に完全に揮発する溶媒の2種類の溶媒でもよい。この場合、上述の例では、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンと2−メチル−1−プロパノールとの混合溶媒を用いる。なお、揮発性の高い溶媒は一般的に粘度が低いため、良溶媒と揮発性の高い溶媒だけでは、全体の粘度が低くなってしまうおそれがある。この場合、良溶媒と揮発性の高い溶媒と粘度の高い溶媒との3種類の溶媒を用いることが好ましい。さらには4種類以上の溶媒を用いてもよい。もちろん、上述の溶媒の材料は典型的な一例であり、上述に示した材料に限るものではない。
【0072】
溶質は良溶媒を含む溶媒に溶解させた後、全ての溶媒を混合させることが好ましい。上述の例では、溶質を1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン又は1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを含む溶媒に溶解させた後、3種類の溶媒を混合することが好ましい。これにより、溶質を均一に溶解させることができる。もちろん、全ての溶媒を混合した溶媒に溶質を溶解させてもよい。
【0073】
次に、図5を用いて、本実施形態にかかる有機EL表示装置の製造方法について説明する。図5は、本実施形態にかかる有機EL表示装置の製造方法の一例を示すフローチャートである。この図5に示す製造工程により、図1に示す素子基板が形成される。
【0074】
まず、基板11上に陽極配線1および陰極接続配線21を形成する(ステップS101)。基板11として、例えばガラス基板等の透明基板を用いる。陽極配線1および陰極接続配線21は、基板11上にITOを成膜して、そのITO膜にエッチングを施すことによって形成する。ITOはスパッタや蒸着によって、ガラス基板全面に均一性よく成膜することができる。フォトリソグラフィー及びエッチングによりITOパターンを形成する。このITOパターンが陽極となる。レジストとしてはフェノールノボラック樹脂を使用し、露光現像を行う。エッチングはウェットエッチングあるいはドライエッチングのいずれでもよいが、例えば、塩酸及び硝酸の混合水溶液を使用してITOをパターニングすることができる。レジスト剥離材としては例えば、モノエタノールアミンを使用することができる。
【0075】
また、陰極接続配線21にはAlあるいはAl合金などの低抵抗性の金属材料を用いることも可能である。例えば、陽極配線1となるITOをパターニングした後に、Al等をスパッタ又は蒸着により成膜する。あるいは陰極接続配線21を形成した後に陽極配線1を形成しても良い。そして、Al膜をフォトリソグラフィー及びエッチングによりパターニングして陰極接続配線21を形成することができる。これにより、陰極接続配線21の配線抵抗を低減することができる。
【0076】
さらには陰極接続配線21の構成をITOと金属材料との多層構成としてもよい。例えば、150nmのITO層の上に400〜500nmのMoやMo合金の金属薄膜を形成してもよい。これにより、配線抵抗及びコンタクト抵抗を低減することができる。
【0077】
次に、陽極配線1及び陰極接続配線21を設けた基板11の面に絶縁膜22を成膜する(ステップS102)。例えば、感光性のポリイミドの溶液をスピンコーティングにより塗布する。この絶縁膜22の膜厚は、例えば、0.7μmになるようにすればよい。絶縁膜22の層をフォトリソグラフィー工程でパターニングした後、キュアし、表示画素となる位置の絶縁膜を除去し、開口部23を設ける。後述するステップS105で形成される陰極配線5と、陽極配線1との交差部分が、表示画素が形成される位置である。同時に陰極配線5と陰極接続配線21とのコンタクトホール25を形成する。例えば、開口部23は300μm×300μm程度で形成することができる
【0078】
続いて、絶縁膜(ポリイミドの層)22の表面において、陰極配線5を分離配置できるように隔壁10を形成する(ステップS103)。隔壁10は、絶縁膜22の上層にノボラック樹脂、アクリル樹脂膜等の感光性樹脂を塗布することにより形成する。例えば、感光性樹脂をスピンコートして、フォトリソグラフィー工程でパターニングした後、光反応させて隔壁10を形成する。隔壁10が逆テーパ構造を有するようネガタイプの感光性樹脂を用いることが望ましい。
【0079】
ネガタイプの感光性樹脂を用いると、上から光を照射した場合、深い場所ほど光反応が不十分となる。その結果、上から見た場合、硬化部分の断面積が上の方より下の方が狭い構造を有する。これが逆テーパ構造を有するという意味である。このような構造にすると、その後、陰極の蒸着時に蒸着源から見て陰になる部分は蒸着が及ばないため、陰極配線5同士を分離することが可能になる。さらに、開口部23のITO層の表面改質を行うために、酸素プラズマ又は紫外線を照射してもよい。例えば、隔壁10の高さは3.4μmとすることができる。
【0080】
その後、有機薄膜層を積層する(ステップS104)。上述の有機材料溶液の塗布方法によって、溶液を塗布する。例えば、マスクスプレー法を用いる場合、まず、開口部を有する金属マスクをガラス基板に取り付ける。このとき、マスクの開口部と有機薄膜層を設けるべき表示領域24が重なるように配置する。また、マスクとガラス基板との間に所定距離、例えば60μmの空間が空くように取り付ける。そして、上述の塗布溶液をマスクスプレー法によって塗布する。
【0081】
そして、この有機材料溶液を濃縮乾燥することによって硬化処理し、有機薄膜層であるポリマーバッファ層41を形成する。ポリマーバッファ層41は上記の説明のように形成する。濃縮乾燥工程では、基板温度180℃で5分間仮乾燥を行った後、本焼成を240℃で10分間行う。これにより、溶媒が蒸発し、溶質である有機材料のみが基板に付着した状態となる。
【0082】
そして、ポリマーバッファ層41の上に、正孔注入層42を40nm、正孔輸送層43を10nmで形成する。さらにその上に発光層44を60nmで形成する。続いて、電子輸送層を30nm、電子注入層45を0.5nmで形成する。これにより、図2に示す有機発光層を形成することができる。これらに用いられる材料は任意の材料を用いることができる。もちろん、上述の構成は、好適な一例であり、これ以外の構成でもよい。本発明では有機発光層40の少なくとも一部がスプレー塗布により形成されていれば良い。
【0083】
その後、アルミニウム等の金属材料を蒸着して、例えば膜厚100nmの陰極配線5を形成する(ステップS105)。この結果、隔壁10によってアルミニウム膜は分離され、それぞれの隔壁間に陽極配線1と交差する陰極配線5を形成することができる。
【0084】
有機発光層は絶縁膜22の上に形成され、開口部23を介して陽極配線1と接触する。有機発光層の上には陰極配線5が配置される。この開口部23を介して陽極配線1と接触した部分の有機発光層は陰極と陽極に流れる電流によって発光する。なお、本実施形態では陰極接続配線21はITO層と金属層の2層構成としている。表示領域24外の絶縁膜22に形成されたコンタクトホール25を介して、表示領域24に設けられている陰極配線5と表示領域24外に通じる陰極接続配線21が電気的に接続される。
【0085】
次に上述の工程により形成された有機EL発光素子を封止するため、封止用の対向基板を製造する工程について説明する。まず。素子基板とは別のガラス基板を用意する。このガラス基板を加工して捕水材を収納するための捕水材収納部を形成する。捕水材収納部はガラス基板にレジストを塗布し、露光、現像により基板の一部を露出させる。この露出部分をエッチングにより薄くすることにより捕水材収納部を形成する。
【0086】
図6に示すよう、この捕水材収納部66に酸化カルシウム等の捕水材62を配置した後、2枚の基板を重ね合わせて接着する(ステップS106)。なお、図6は有機EL表示装置の構成を模式的に示す断面図である。具体的には、対向基板63の捕水材収納部66が設けられた面に、ディスペンサを用いてシール材64を塗布する。シール材64として、例えば、エポキシ系紫外線硬化性樹脂を用いることができる。また、シール材64は、有機EL素子と対向する領域の外周全体に塗布する。二枚の基板を位置合わせして対向させた後、紫外線を照射してシール材を硬化させ、基板同士を接着する。この後、シール材の硬化をより促進させるために、例えば、80℃のクリーンオーブン中で1時間熱処理を施す。この結果、シール材および一対の基板によって、有機EL素子が存在する基板間と、基板の外部とが隔離される。捕水材62を配置することにより、封止された空間に残留または侵入してくる水分等による有機EL素子の劣化を防止することができる。
【0087】
有機薄膜層40からの発光が矢印の方向に出射される。基板11の有機EL素子が形成された面とは反対側の面すなわち、出射面に光学シート65を貼り付ける。光学シート65は偏光板と1/4波長板を有しており、反射防止膜として機能する。この光学シート65が設けられた面側に有機薄膜層からの光が取り出される。
【0088】
基板の外周付近の不要部分を切断除去し、陽極配線1に信号電極ドライバを接続し、陰極接続配線に走査電極ドライバを接続する。基板端部において各配線に接続される端子部が形成されている。この端子部に異方性導電フィルム(ACF)を貼付け、駆動回路が設けられたTCP(Tape Carrier Package)を接続する。具体的には端子部にACFを仮圧着する。ついで駆動回路が内蔵されたTCPを端子部に本圧着する。これにより駆動回路が実装される。この有機EL表示パネルが筐体に取り付けられ、有機EL表示装置が完成する。
【0089】
このような有機EL表示装置の製造方法によれば、有機EL素子となる有機材料の溶液をほぼ一定の膜厚で塗布することにより、有機薄膜層の膜厚のむらが軽減され、有機EL表示装置を駆動したときに各表示画素の発光むらを軽減することができる。また、本発明は、隔壁10を備える有機EL表示装置に限られるものではない。
【0090】
なお、上述の溶媒は有機EL表示装置における有機発光層のポリマーバッファ層を形成する例で説明したが、これに限るものではない。すなわち、湿式塗布により形成される有機膜を有する表示装置に適用することができる。本発明は例えば、液晶表示装置における配向膜やプラズマディスプレイパネル(PDP)における隔壁に対しても用いることができる。
【0091】
上述のように揮発性溶媒を用いた塗布溶液により作成した素子基板と、揮発性溶媒を用いない塗布溶液により作成した素子基板とを比較した。2−メチル−1−プロパノールを添加しない溶液で塗布を行うと,塗布領域外への流出が起こり,塗布ムラも発生していた。一方、2−メチル−1−プロパノールを添加することで,基板着滴時には濃縮された状態になっており、それによって溶液の粘度が上昇している為,液の流動性が低くなり,塗布領域外への流出が抑制されていた。従って、塗布ムラの無い均一な成膜が実現できた。さらに、塗布装置のパラメータ範囲外により,従来の塗布溶液では得られなかった膜厚が、2−メチル−1−プロパノールを添加することにより,塗布装置のパラメータ範囲内で均一な膜厚が得られるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明にかかる有機EL表示装置の素子基板の概略構造を示す上面図である。
【図2】本発明にかかる有機EL発光層の構成の一例を示す断面図である。
【図3】本発明にかかる有機EL表示装置の製造に用いるスプレー塗布装置の構成を模式的に示す図である。
【図4】図3のスプレー塗布装置におけるスプレーノズルのスキャン経路を併せて示すマスクの上面図である。
【図5】本発明の有機EL表示装置の製造工程の一例を示すフローチャートである。
【図6】本発明にかかる有機EL表示素子の構成の一例を模式的に示す断面図である。
【図7】従来の有機EL表示装置の素子基板の構成を示す断面図である。
【図8】従来の有機EL表示装置の素子基板の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
1 陽極配線
5 陰極配線
10 隔壁
11 基板
21 陰極接続配線
22 絶縁膜
23 開口部
24 表示領域
25 コンタクトホール
31 開口部
40 有機発光層
41 ポリマーバッファ層
42 ホール注入層
43 ホール輸送層
44 発光層
45 電子輸送層
46 電子注入層
50 スプレー塗布装置
51 ステージ
52 基板
53 マスク
54 スプレーノズル
55 溶液
56 フィルタ
57 コントローラ
62 捕水材
63 対向基板
64 シール材
65 光学シート
66 捕水材収納部
100 隔壁
101 陽極配線
102 ホール注入輸送層
103 発光層
104 電子注入輸送層
105 陰極配線
110 表示基板
111 基板
121 陰極接続配線
123 開口部
124 有機薄膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置用の有機膜を形成するための混合溶液であって、
有機膜の少なくとも一部となる溶質と、
前記溶質を1質量%以上溶解させることができる第1の溶媒と、
第1の溶媒より粘度の高い第2の溶媒とを含有する混合溶液。
【請求項2】
第2の溶媒の粘度が第1の溶媒の粘度の10倍以上である請求項1に記載の混合溶液。
【請求項3】
第2の溶媒の体積が第1の溶媒の体積の2/3〜7倍である請求項1又は2に記載の混合溶液。
【請求項4】
表示装置用の有機膜を形成するための混合溶液であって、
有機膜の少なくとも一部となる溶質と、
前記溶質を1質量%以上溶解させることができる第1の溶媒と、
表示装置用の基板に混合溶液をスプレー塗布し、着滴するまでの間にすべてが揮発する揮発性溶媒とを含有する混合溶液。
【請求項5】
前記揮発性溶媒は、沸点が120℃以下又は、25℃における蒸気圧が400Pa以上である請求項4に記載の混合溶液。
【請求項6】
前記第1の溶媒及び前記揮発性溶媒より粘度の高い第2の溶液をさらに備えた請求項4又は5に記載の混合溶液。
【請求項7】
表示装置用の有機膜の少なくとも一部となる溶質が溶解された塗布溶液を湿式塗布により形成する表示装置の製造方法であって、
前記塗布溶液を基板に塗布する塗布工程と、
前記基板を乾燥させ、前記塗布された塗布溶液に含まれる溶媒を蒸発させる乾燥工程とを備え、
前記塗布溶液が、
前記溶質を1質量%以上溶解させることができる第1の溶媒と、
前記第1の溶媒より粘度の高い第2の溶媒とを備える表示装置の製造方法。
【請求項8】
前記第2の溶媒の粘度が前記第1の溶媒の粘度の10倍以上である請求項7に記載の表示装置の製造方法。
【請求項9】
第2の溶媒の体積が第1の溶媒の体積の2/3〜7倍である請求項7又は8に記載の表示装置の製造方法。
【請求項10】
表示装置用の有機膜の少なくとも一部となる溶質が溶解された塗布溶液をスプレー塗布により形成する表示装置の製造方法であって、
前記塗布溶液を基板にスプレー塗布するスプレー塗布工程と、
前記基板を乾燥させ、前記スプレー塗布された塗布溶液に含まれる溶媒を蒸発させる乾燥工程とを備え、
前記塗布溶液が、
前記溶質を1質量%以上溶解させることができる第1の溶媒と、
前記基板に塗布溶液が着滴するまでの間にすべてが揮発する揮発性溶媒とを備える表示装置の製造方法。
【請求項11】
前記揮発性溶媒は、沸点が120℃以下又は、25℃における蒸気圧が400Pa以上である請求項10に記載の表示装置の製造方法。
【請求項12】
前記スプレー塗布工程では、前記第1の溶媒及び前記揮発性溶媒より粘度の高い第2の溶液をさらに備えた塗布溶液をスプレー塗布する請求項10又は11に記載の表示装置の製造方法。
【請求項13】
前記スプレー塗布工程の前に、
前記揮発性溶媒のみを確認用基板に噴出して、前記確認用基板に前記揮発性溶媒が付着しないことを確認する確認工程を備え、
前記確認工程と同じ条件で、前記塗布溶液をスプレー塗布する請求項10、11又は12に記載の表示装置の製造方法。
【請求項14】
前記スプレー塗布工程の前に、
前記塗布溶液をスプレー塗布するスプレーノズルと前記確認用基板との間の間隔を変えて、前記揮発性溶媒のみを噴出させる噴出工程と、
前記基板に噴出された前記揮発性溶媒が当該基板に着滴しているか否かを確認する工程をさらに備え、
前記スプレー塗布工程では、前記確認用基板に前記揮発性溶媒が着滴しないことが確認された前記スプレーノズルと前記基板との間の間隔以上の間隔で、前記塗布溶液を前記基板にスプレー塗布する請求項10、11又は12記載の表示装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−54063(P2006−54063A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232781(P2004−232781)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】